特許拒絶査定不服審判
2023-018715
緑化基礎工用具及び緑化基礎工の施工方法
- 審判番号
- 2023-018715
- 法域
- 特許
- 審判種別
- 拒絶査定不服審判(拒絶査定不服の審決)
- 出願番号
- 特願2022-120164
- 請求日
- 2023年11月06日
- 審決日
- 2024年12月17日
- 公報発行日
- 2025年03月28日
- 結論
- 請求不成立
- 当事者
- 【請求人】日本植生株式会社
- 【請求人代理人】藤本 英夫
- 審判長/審判官
- 審判長 有家 秀郎
- 審判官 道祖土 新吾
- 審判官 津熊 哲朗
- 分類
- P18 .121-WZ (E02D)
- 条文(本文から自動抽出・参考)
- 特許法第29条
- データ出所
- 審決公報(XML)
事件の表示
特願2022-120164「緑化基礎工用具及び緑化基礎工の施工方法」拒絶査定不服審判事件〔令和 4年 9月15日出願公開、特開2022-136251〕について、次のとおり審決する。
結論
結 論
本件審判の請求は、成り立たない。
理由
理 由
第1 手続の経緯
本願は、平成28年4月30日に出願された特願2016-92193号の一部を分割して、令和2年4月15日に新たな特許出願とした特願2020-72667号の一部を分割して、令和3年11月1日に新たな特許出願とした特願2021-178739号の一部を分割して、令和4年7月28日に新たな特許出願としたものであって、その手続の経緯は、概略、以下のとおりである。
令和 5年 4月 3日付け:拒絶理由通知
同年 5月29日 :意見書、手続補正書の提出
同年 8月 4日付け:拒絶査定(以下「原査定」という。)
同年 同月16日 :原査定の謄本の送達
同年11月 6日 :審判請求書、手続補正書の提出
令和 6年 9月12日付け:拒絶理由通知
同年11月 8日 :意見書(以下「意見書1」という。)の提出
第2 本願発明
令和6年9月12日付け拒絶理由通知(以下「当審拒絶理由通知」という。)の対象となった本願の請求項1に係る発明(以下「本願発明」という。)は、令和5年11月6日に提出の手続補正書により補正された特許請求の範囲の請求項1に記載された事項により特定されるとおりのものと認められるところ、請求項1の記載は、次のとおりである。
「 【請求項1】
基材を収容し両端が閉塞された細長い筒状を呈する袋状体と、固定部材と、略長方形状のラッセル編みされた樹脂製のネット状部材と、前記袋状体の長手方向に沿って配置された鉄線とを備えた緑化基礎工用具であって、
前記袋状体と前記鉄線とが前記ネット状部材の収容部の内部に保持され、
前記ネット状部材及び前記袋状体は、緑化対象地の法面の表面の凹凸に沿った状態で張設可能な程度の柔軟性を有し、
前記ネット状部材及び前記袋状体は、前記袋状体が前記法面の等高線に沿って配置されるように前記固定部材によって前記法面に固定されるとともに、前記鉄線によって前記ネット状部材及び前記袋状体が前記法面の表面の凹凸に沿って張設された状態が維持されることを特徴とする緑化基礎工用具。」
第3 当審拒絶理由通知の概要
当審拒絶理由通知で通知した拒絶理由の概要は、次のとおりである。
(進歩性)
本願発明は、本件出願前に日本国内又は外国において頒布された下記の刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法29条2項の規定により特許を受けることができない。
<引用文献等一覧>
・引用文献1 特開2007-56606号公報
・引用文献2 実願昭56-14075号(実開昭57-127628号)のマイクロフィルム
・引用文献3 登録実用新案第3006128号公報(周知技術を示す文献)
・引用文献4 特開2005-226224号公報
・引用文献5 特開平7-224427号公報
・引用文献6 特開2007-205027号公報
第4 当審拒絶理由で通知した理由(進歩性)について
1 引用文献
(1)引用文献1について
ア 引用文献1の記載事項
本願の出願日前である平成19年3月8日に頒布された刊行物である引用文献1(特開2007-56606号公報)には、次の事項が記載されている(下線は、当審合議体が付した。以下同様。)。
(ア)「【特許請求の範囲】
【請求項1】
基材を収容した袋状体を備え、基材および/または袋状体が吸水により硬化する硬化材料を含んでいることを特徴とする緑化用具。
・・・(中略)・・・
【請求項4】
前記袋状体が装着されるネット状またはマット状またはシート状の部材を備えている請求項1~3のいずれかに記載の緑化用具。
【請求項5】
請求項1~4のいずれかに記載の緑化用具を法面に敷設することを特徴とする緑化方法。」
(イ)「【技術分野】
【0001】
本発明は、法面の緑化を図るのに適した緑化用具および緑化方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、基材を植生種子( 緑化用植物の種子) とともに収容した袋状体と、この袋状体が複数装着されるネット状部材とで構成される緑化用具を法面に設置する緑化工が実施されている。
【0003】
そして、前記緑化工では、袋状体によって堰止められて堆積した流亡土砂、周囲からの木の葉等により、袋状体の山側に植生基盤が小段状に形成され、この小段において植物が生長し易くなるいわゆる小段効果によって、緑化が早期にかつ良好に実現することとなる。すなわち、ここでいう小段効果とは、土砂が堆積することにより法面よりも勾配が緩い生育基盤層が小段状に形成され、この小段において植物が生長し易くなる効果をいう。
・・・(中略)・・・
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、上記緑化工で用いる前記袋状体内の基材は、有機質やバーミキュライトを主体として配合され、肥料成分の溶出や摩擦等により消耗されるので、時間の経過とともに激しい目減りが生じる。そして、この目減りに伴って、法面とこの法面に設置した緑化用具の袋状体との間に生じた隙間や袋状体の上側から前記植生基盤が流亡・滑落し、袋状体の山側に植生基盤が形成されなくなり、その結果、前記小段効果が得られなくなるという問題があった。
【0006】
本発明は上述の事柄に留意してなされたもので、その目的は、袋状体内の基材の目減り等による影響を受けず、良好な早期緑化を図ることができる緑化用具および緑化方法を提供することである。」
(ウ)「【0019】
図1は、本発明の第1の実施の形態に係る緑化方法およびこの緑化方法に用いられる緑化用具1の構成を概略的に示す説明図、図2は、前記緑化用具1の構成を概略的に示す斜視図である。この実施の形態に係る緑化用具1は、図1に示すように、法面Nに敷設された状態で、前記法面Nにおいて緑化用植物を良好に生育させるように構成されている。
【0020】
そこで、まず、前記緑化用具1の構成について説明する。この緑化用具1は、図1および図2に示すように、基材2を収容する細長い袋状体3を備えている。前記基材2は、緑化用植物の種子(以下、植生種子という)、生育補助材(保水材、肥料等)または土壌改良材等から適宜に選択されたものを含む植生基材であってもよいし、その他の通常基材であってもよく、さらに、植生基材および通常基材を混合したものであってもよいが、基材2の構成材料の内少なくとも一種以上は目減りを生じる材料を選択し、その配合率が30%以上(より好ましくは50%以上)となる際に本発明は最も効果を発揮する。
・・・(中略)・・・
【0021】
この実施の形態では、前記植生基材2には、吸水により硬化する粒状または粉状の硬化材料4(図3参照)が含まれている。この硬化材料4としては、セメント系資材や石膏等が挙げられる。
・・・(中略)・・・
【0023】
そして、上記構成を有する袋状体3は、図1および図2に示すように、法面Nに敷設されるネット状部材5に設けられた収容部6に収容され、これにより、ネット状部材5に保持される。すなわち、前記収容部6は袋状体3を収容することができる程度の大きさを有する袋状あるいは筒状あるいはポケット状に形成され、袋状体3は収容部6の一端側からその内部に挿入される。そして、前記ネット状部材5には、適宜の間隔をおいて複数の収容部6が設けられている。
【0024】
なお、ネット状部材5は、耐久性に富む繊維(例えばナイロンやポリエステル、アラミド、カーボン、ガラス、ポリアセタール等の繊維)あるいは腐食性繊維(例えば椰子等の繊維)を用いて、目合い5~10mm程度の格子状に成形したものであるが、上記繊維による線条を用いて、上記と同様の目合いの網状体に編組したものにしてもよく、これら両者(格子状体と網状体)を重ね合わせてもよい。また、この実施形態のネット状部材5は、図1に示すように、法面Nに凹凸があってもそれに沿わせて張設することができる程度以上の柔軟性を有している。このことは、前記袋状体3についても同様である。
【0025】
そして、この実施形態の緑化方法は、図1に示すように、緑化用具1を法面Nに敷設するだけで完了する。なお、前記緑化用具1を敷設するには、例えばアンカーピン等の固定部材7の打設により緑化用具1を法面Nに固定すればよい。また、法面Nに対して、前記袋状体3が等高線に沿うように緑化用具1を敷設することが、袋状体3の山側に堆積した土にも植物が根付き、緑化をより早期にかつ良好に図ることができる前記小段効果が得られる点で望ましく、さらに、景観向上の点でも望ましい。
【0026】
図3(A)および(B)は、法面Nに敷設された前記緑化用具1の状態の変化を概略的に示す説明図、図4(A)および(B)は、前記緑化方法による緑化の経緯を概略的に示す説明図である。上記のように法面Nに敷設された緑化用具1の袋状体3内は、初期状態では、図3(A)に示すように、植生基材2に含まれる硬化材料4とその他の材料とが混在した状態となっている。また、袋状体3は、自重により法面Nに隙間無く沿った状態で配置される。
【0027】
そして、図3(B)および図4(A)に示すように、降雨等による袋状体3内への水分の供給に伴って前記硬化材料4は硬化する。このように硬化材料4が硬化した後は、植生基材2のうちの硬化材料4以外の材料が消耗されてもその形状を維持し、これにより、袋状体3の法面Nへの密接状態は保持されるので、図4(B)に示すように、この袋状体3の山側に流亡土砂が堆積するなどして植生基盤8が確実に形成され、上述の小段効果が得られる。また、前記硬化材料4は多孔質状に硬化するので、植生基材2中の植生種子からの幼芽、幼根は硬化材料4の空隙を縫って伸び、その生長が阻害されることはない。
【0028】
上記のように緑化用具1を法面Nに敷設する緑化方法を実施することにより、袋状体3内に収容された植生基材2中の植生種子が発芽・生長し、より積極的な緑化を行うことができる。また、袋状体3の山側に形成された植生基盤8においても植物が発芽・生長する。従って、法面Nの緑化被覆が全面において確実になされることとなる。」
(エ)「【0033】
また、前記緑化用具1を敷設することによって行う前記緑化方法は、緑化対象地にて実施されればよいのであって、前記法面Nはこの緑化対象地の一例として挙げたものに過ぎず、例えば平地等である緑化対象地において前記緑化方法を実施してもよいことは言うまでもない。ただし、前記小段効果が得られる等の点で、前記緑化方法は法面Nでの実施により適している。」
(オ)「【0042】
具体的には、まず、図6(A)に示すように、一面に硬化材料4が格子状に固着(プリント)されたシート状体3aを形成し、その後、図6(B)に示すように、この硬化材料が固着された面が内側となるようにシート状体3aを丸めて筒状とし、その縁を閉じて植生基材2を収容した袋状体3を形成してもよい。なお、前記シート状体3aに対する硬化材料4の固着は、例えば接着剤等を用いて行うことができる。」
(カ)【図1】「
[図:0001419923000001.jpg]
」
(キ)【図2】「
[図:0001419923000002.jpg]
」
(ク)【図3】「
[図:0001419923000003.jpg]
」
イ 引用発明について
上記アから、引用文献1には、次の発明(以下「引用発明」という。)が記載されているといえる。
[引用発明]
「 法面とこの法面に設置した緑化用具の袋状体との間に生じた隙間や袋状体の上側から前記植生基盤が流亡・滑落し、袋状体の山側に植生基盤が形成されなくなり、その結果、前記小段効果が得られなくなるという問題を解決することを課題とし(【0005】)、
緑化用具1は基材2を収容する細長い袋状体3を備え(【0020】)、
前記基材2には、吸水により硬化する硬化材料4が含まれ(【0021】)、
袋状体3はシート状体3aを丸めて筒状とし、その縁を閉じて植生基材2を収容したものであり(【0042】)、
前記袋状体3は法面Nに敷設されるネット状部材5に設けられた収容部6に収容され、これによりネット状部材5に保持され(【0023】)、
法面Nは緑化対象地の一例であり(【0033】)、
ネット状部材5は、法面Nに凹凸があってもそれに沿わせて張設することができる程度以上の柔軟性を有しており、このことは前記袋状体3についても同様であり(【0024】)、
前記緑化用具1を敷設するのに、アンカーピン等の固定部材7の打設により緑化用具1を法面Nに固定し(【0025】)、
法面Nに対して、前記袋状体3が等高線に沿うように緑化用具1を敷設し(【0025】)、
降雨等による袋状体3内への水分の供給に伴って前記硬化材料4は硬化し、袋状体3の法面Nへの密接状態は保持され、袋状体3の山側に流亡土砂が堆積するなどして植生基盤8が確実に形成される(【0027】)、
緑化用具1及び固定部材7」
(2)引用文献2について
ア 引用文献2の記載事項
本願の出願日前である昭和57年8月9日に頒布された刊行物である引用文献2(実願昭56-14075号(実開昭57-127628号)の願書に添付した明細書及び図面の内容を撮影したマイクロフィルム)には、次の事項が記載されている。
(ア)「2.実用新案登録請求の範囲
紙布類により袋体を形成し、該袋体内に可撓性を失わない程度肥料を充填(当審注:「填」は原文では旧字体。以下同様。)すると同時に、これ又可撓性を有する芯線を介在させてなる肥料袋。」
(イ)「本考案は、崩悪法面において、長期的に肥料分を供給すると同時に、吹付する植生基材の流亡防止効果を有する肥料袋の考案に係るものである。」(1頁9~12行)
(ウ)「この遅効性肥料を袋体にて法面に持ち込む場合、この袋体が吹付材料の係止効果を有していなければその効果は半減してしまうもので、その点従来の袋体では、法面の起伏に沿いづらいと同時に連続施工性に乏しくかつ強度も有していない為、せつかく吹き付けた吹付材料が流亡してしまう欠点がある。」(2頁4~10行)
(エ)「本考案は、この欠点を除去するもので、その目的とするところは、法面の起伏に沿い易いと同時に連続施工が可能でかつ強度を有する肥料袋を提供するにある。」(2頁11~14行)
(オ)「第1図は、本考案の芯線(2)を介在させた肥料袋の透視図であり、第2図は、芯線(2)の両端がフツク状(3)になつているものであり、第3図は芯線(2)の両端がリング状(4)になつているものを表わしている。」(2頁16~20行)
(カ)「筒状袋体(1)内に介在させる芯線は可撓性を有するものであるということから通常金属線を用いるが、その中でもなまし鉄線が最も良い。」(4頁5~7行)
(キ)「以上のように本考案は、紙布類により筒状袋体を形成し、該筒状袋体内に可撓性を失わない程度肥料を充填すると同時に、これ又可撓性を有する芯線を介在させてなる肥料袋であるから、これを法面に張設すれば、肥料効果を長期に継続できるのはもちろんのこと、合わせて充填した保水材、土壌改良材の効果も期待できる。」(4頁15行~5頁1行)
(ク)「さらに筒状袋体内には可撓性を有する芯線を介在させているので、法面の起伏に応じた張設が可能で、芯線の両端をフツク状あるいはリング状にしておけば、筒状袋体を極めて簡易に連続して張設することが可能である。
従つて、法面の起伏に沿つて筒状袋体が張設できているので、吹き付けられた基材の流亡防止効果が極めて顕著である。」(5頁2~9行)
(ケ)第1図
「
[図:0001419923000004.jpg]
」
イ 引用文献2の記載から把握できる事項
1頁8~11行には「本考案は、崩悪法面において、長期的に肥料分を供給すると同時に、吹付する植生基材の流亡防止効果を有する肥料袋の考案に係るもの」と記載され、5頁7~9行には「法面の起伏に沿つて筒状袋体が張設できているので、吹き付けられた基材の流亡防止効果が極めて顕著である。」と記載されているところ、前記「基材」が「植生基材」であることは明らかである。
したがって、引用文献2には、「法面の起伏に沿つて筒状袋体が張設できているので、吹き付けられた植生基材の流亡防止効果が極めて顕著である」ことが記載されているものといえる。
ウ 引用文献2の図面から看取できる事項
引用文献2の「芯線」としての「なまし鉄線」は、筒状袋体の長手方向に沿って配置されるものであることが第1図から看取できる。
エ 引用文献2記載の技術事項について
引用文献2には、次の技術的事項(以下「技術事項1」という。)が記載されている。
[技術事項1]
「 可撓性を有する芯線を介在させてなる肥料袋において(実用新案登録請求の範囲)、
芯線はなまし鉄線が最も良く(4項5~7行)、
筒状袋体内に可撓性を失わない程度肥料を充填すると同時に可撓性を有する芯線を介在させてなる肥料袋であり(4頁16~18行)、
前記芯線は筒状袋体の長手方向に沿って配置されており(第1図、ウ)、
筒状袋体内には可撓性を有する芯線を介在させているので、法面の起伏に応じた張設が可能となり、吹き付けられた植生基材の流亡防止効果が極めて顕著となること(5頁2~9行、イ)。」
2 対比・判断
(1)本願発明と引用発明の対比
ア 引用発明の「基材2」及び「植生基材2」、「袋状体3」、「ネット状部材5」、「収容部6」、「固定部材7」、「法面N」、「緑化対象地」はそれぞれ、本願発明の「基材」、「袋状体」、「ネット状部材」、「収容部」、「固定部材」、「法面」、「緑化対象地」に相当する。
また、引用発明の「緑化用具1」と「固定部材7」を合わせたものが、本願発明の「緑化基礎工用具」に相当するものと認められる。
イ 引用発明の「袋状体3」は「基材2を収容する細長い」ものであって「筒状」であるから、本願発明の「袋状体」とは「基材を収容し」「細長い筒状を呈する」点で一致している。他方、本願発明の「袋状体」は「両端が閉塞され」ているのに対し、引用発明の「袋状体3」は少なくとも一端は「閉じ」られている、すなわち「閉塞され」ているものの、「両端」が閉塞されているか不明である点で相違する。
ウ 引用発明の「袋状体3」は「ネット状部材5に設けられた収容部6に収容され、これによりネット状部材5に保持され」るのであるから、引用発明と本願発明とは、「袋状体」が「ネット状部材の収容部の内部に保持され」る点で一致する。
エ 引用発明の「法面N」は「緑化対象地」であって、かつ引用発明の「ネット状部材5」は「法面Nに凹凸があってもそれに沿わせて張設することができる程度以上の柔軟性を有しており」、「このことは前記袋状体3についても同様」なのであるから、引用発明の「ネット状部材5」及び「袋状体3」と本願発明の「ネット状部材」及び「袋状体」とは、「緑化対象地の法面の表面の凹凸に沿った状態で張設可能な程度の柔軟性を有」する点で一致する。
オ 引用発明では、「法面Nに対して、前記袋状体3が等高線に沿うように緑化用具1を敷設する」ものであって、かつ「前記緑化用具1を敷設するのに、アンカーピン等の固定部材7の打設により緑化用具1を法面Nに固定」するのであるから、引用発明の「ネット状部材」及び「袋状体」は、本願発明と同様に「前記袋状体が前記法面の等高線に沿って配置されるように前記固定部材によって前記法面に固定される」ことは明らかである。
カ よって、本願発明と引用発明は、次の一致点で一致し、相違点1~3で相違する。
<一致点>
「基材を収容し」少なくとも一端が「閉塞された細長い筒状を呈する袋状体と、固定部材と」、「ネット状部材と」、「を備えた緑化基礎工用具であって」、
「前記袋状体」「が前記ネット状部材の収容部の内部に保持され、
前記ネット状部材及び前記袋状体は、緑化対象地の法面の表面の凹凸に沿った状態で張設可能な程度の柔軟性を有し、
前記ネット状部材及び前記袋状体は、前記袋状体が前記法面の等高線に沿って配置されるように前記固定部材によって前記法面に固定され」た「緑化基礎工用具。」
<相違点1>
本願発明の「袋状体」は「両端が閉塞」されているのに対し、引用発明の「袋状体」は少なくともその一端は閉塞されているものの、「両端が閉塞」されているか不明である点。
<相違点2>
本願発明のネット状部材は「略長方形状のラッセル編みされた樹脂製」であるのに対し、引用発明のネット状部材は、その形状や素材、編み方が不明である点。
<相違点3>
本願発明は「前記袋状体の長手方向に沿って配置された鉄線」を備え、「前記鉄線」が「ネット状部材の収容部の内部に保持され」、「前記鉄線によって前記ネット状部材及び前記袋状体が前記法面の表面の凹凸に沿って張設された状態が維持される」のに対し、引用発明は鉄線を有しない点。
(2)判断
相違点について検討する
ア 相違点1について
引用発明の袋状体3からは基材2が流出すべきでないことは明らかであるところ、袋状体3の両端を閉塞させた方が確実に基材2を収容できることは明らかである。またそもそも、法面の緑化のために用いる植生基材を充填した袋状の部材において、両端を閉塞させたものは周知であるといえる(例えば、引用文献3(登録実用新案第3006128号公報)の段落【0014】「該各植生基材充填袋7は、例えば紙等の水溶解性シ-トを藁こも2の横幅と同じ長さの筒体に形成し、両端を閉塞すると共に・・・(後略)」を参照。)。
してみれば、引用発明の袋状体3の両端を閉塞することとして、相違点1に係る本願発明の構成とすることは、当業者が容易になし得たことである。
イ 相違点2について
ネット状部材の形状は、当業者が適宜設計できたものと認められる(緑化用の部材が長方形であるものの一例として、引用文献4(特開2005-226224号公報)の段落【0016】「植生マット1は、図1に示すように、種子2を下部に保持する薄綿3と、この薄綿3を下面に保持するネット4とを備えており、平面視ほぼ長方形状をしている。」を参照。)。
また、ネット状部材の素材や編み方もまた、当業者が適宜選択できたものと認められる(ラッセル編みされた樹脂製のネットの一例として、例えば引用文献5(特開平7-224427号公報)の段落【0021】「本実施例で用いるネット6は、従来から一般的に用いられているポリエチンやポリプロピレンあるいはナイロンといった合成繊維からなり、耐腐食性を有している化学性のもの以外に、植物性のものでもよいが、化学性の繊維糸によるモノヒラ(モノフィラメント)あるいはフラットヤーンと呼ばれる糸が最も使用に適している。」や段落【0022】「本実施例では、この糸を用いてラッセル編みという編み方にて適宜間隔毎に編み目(目合い)が疎密を繰り返すよう編みあげていくのである・・・(後略)」、引用文献6(特開2007-205027号公報)の段落【0026】「ポケット部7を形成するシート状部材3としては、例えばポリエステル繊維製のラッセル編みからなる網状のシート材料であって、目開きが約5mmのものを使用できる。この場合、ラッセル編みのため、平織りのシート材料よりも構造上、伸縮性が良好で、当該目開き部を更に押し広げることができるようになっており、貫通した茎が太く育つことが可能である。・・・(後略)」を参照。)。
してみれば、引用発明のネット状部材5の形状を「略長方形状」とし、かつ「ラッセル編みされた樹脂製」とすることとして、相違点2に係る本願発明の構成とすることは、当業者が容易になし得たことである。
ウ 相違点3について
(ア)本願発明の「鉄線」と技術事項1の「なまし鉄線」について
a 本願発明の「鉄線」の技術上の意義
本願発明の「鉄線」に関して、本願明細書の【0053】には以下の記載がある。
「【0053】
モルタル袋3の中には、鉄線や高強度繊維ロープなどの芯材を、ちょうちんスペーサーのようなスペーサーで中心を保ちつつ長手方向に配置してもよい(図示せず)。そうすることで、より強度の高いモルタル袋3とすることができ、法面Nに対する斜面保護用具1の敷設後、モルタル袋3のドライモルタル3bが硬化するまでの間や硬化後において、袋状体3aが法面Nに沿う状態を良好に維持することができるようにしてもよい。」
当該記載からも明らかなように、本願発明における「鉄線」は、「高強度繊維ロープ」などと同様に袋状体に対する「芯材」として機能するものである。そもそも袋状体は「法面Nに凹凸があってもそれに沿わせて張設することができる程度以上の柔軟性を有して」(【0027】)いるものであるところ、「芯材」である「鉄線」は、このような袋状体の柔軟性を損なわせない程度の強度であって、袋状体が固定部材で固定された際に、ドライモルタルが硬化するまでの間や硬化後において凹凸に沿った形状が維持できる(例えば、固定部材間において袋状体が自重でたるむ等して、凹凸に沿った形状が維持できなくなる等の不具合が生じない)ような芯材として機能するものと解するのが相当である。
そして、相違点3に係る本願発明の構成は、上述のような「鉄線」の機能を「前記鉄線によって前記ネット状部材及び前記袋状体が前記法面の表面の凹凸に沿って張設された状態が維持される」と特定するとともに、「鉄線」の配置を特定したものと認められる。
b 技術事項1における「なまし鉄線」の技術上の意義
技術事項1における「芯線」としての「なまし鉄線」は、「可撓性を失わない程度肥料を充填」した「筒状袋体内」に、「可撓性を有する芯線を介在させているので、法面の起伏に応じた張設が可能となる」ものであり、そのことで、「吹き付けられた基材の流亡防止効果が極めて顕著」となるものである。すなわち、技術事項1における「なまし鉄線」は、もともと可撓性を有している筒状袋体に対して、筒状袋体を「法面の起伏に沿」わせることが可能な程度の可撓性を有する芯線を筒状袋体内の長手方向に配置することで、法面の起伏に沿つて筒状袋体が張設された状態において、基材の流亡防止効果を顕著としているものと認められる。
c 上記a、bの検討を踏まえると、技術事項1の「なまし鉄線」は、本願発明の「鉄線」と同様に、筒状袋体が「前記法面の表面の凹凸に沿って張設された状態が維持される」ようにするものであるとともに、技術事項1の「なまし鉄線」の配置も、本願発明の「鉄線」の配置と同様であることは明らかである。したがって、技術事項1の「筒状袋体」及び「なまし鉄線」はそれぞれ、本願発明の「袋状体」及び「鉄線」に相当するものといえる。
(イ)引用発明に技術事項1を適用する動機について
a 技術分野の関連性
引用発明と技術事項1はいずれも法面に設置する袋状体に関するものであって、技術分野が関連しているといえる。
b 課題の共通性
技術事項1において「筒状袋体」内に「なまし鉄線」を介在させるのは、「筒状袋体」が「法面の起伏に沿い易い」状態を維持しつつ、植生基材(引用発明の「植生基盤」に相当するものと認められる)の流亡防止効果が生じるように、起伏に沿った張設を可能とするためである。一方、引用発明は「ネット状部材5は、法面Nに凹凸があってもそれに沿わせて張設することができる程度以上の柔軟性を有しており、このことは前記袋状体3についても同様」であって、かつ、引用発明は「袋状体の上側から前記植生基盤が流亡・滑落し、袋状体の山側に植生基盤が形成されなくなり、その結果、前記小段効果が得られなくなるという問題を解決することを課題」としている。
そうすると、引用発明と技術事項1とは、「法面の起伏に沿い易い」状態を維持しつつ、袋状体の上部にある植生基盤の流亡を防止するという点で、課題が共通しているものといえる。
なお引用発明は、袋状体3内の基材2に吸水により硬化する硬化材料4を含ませ、降雨等による袋状体3への水分供給に伴って硬化材料が硬化し、袋状体3の法面への密着状態を保持するようにしている。そうすると、引用発明は既に課題が解決しており、解決しようとする課題が存在していないようにもみえる。
しかし、引用発明においても、降雨等によって硬化材料が硬化する前の状態では解決しようとする課題は依然存在しているものといえる。さらにいえば、課題を解決するために、同様の機能を奏する手段を複数併用し、いわゆる冗長性を持たせることで確実に課題を解決することは、技術における常套手段であるともいえる。
してみれば、引用発明において「袋状体3」の法面の凹凸への沿い易い状態を維持しつつ、袋状体の上部にある植生基盤の流亡を防止するために、技術事項1における「なまし鉄線」を「袋状体3」内に介在させることとして、相違点3に係る本願発明の構成とすることは、当業者が容易になし得たことである。
エ 本願発明の奏する効果について
本願発明が奏する効果は、引用発明及び技術事項1から、当業者が予測し得た程度のものと認められる。
オ 請求人の主張について
(ア)審判請求書における主張
請求人は審判請求書において、上記相違点2に関し、「5)さらに、本願明細書には明記されておりませんが、ラッセル編みされたネット状部材を用いることにより、「ラッセル編み」という客観的構造から当然に生じる作用効果として、例えば平織りに比べて、伸縮性が良好であるため、ネット状部材を法面Nの凹凸に沿った状態でより密着して張設することができるという利点が挙げられます。また、同様に「ラッセル編み」という構造を有することにより伸縮性が良好であるため、ネット状部材の目開き部をさらに押し広げることができるようになっており、貫通した植物の茎が太く育つことが可能なこと(特開2007-205027の段落[0026])、一箇所の切断が伝播しにくいこと、編み物として厚み方向の凹凸が大きく、飛来種子を捕捉、定着させやすいという利点が挙げられます。本願発明では、こうしたラッセル編みの利点のうち、特に、伸縮性が良好で、目開き部をさらに押し広げることができる、といった利点により、法面上で成長する植物が目開き部を通過し易く、つまりは目開き部を通過できない植物によってネット状部材が持ち上げられ難くなるため、「袋状体等が法面に沿う状態を良好に維持することができる」(本願明細書[0011])という効果がより確実に得られることになります。」と主張している。
しかし、請求人が上記に主張する編み方と効果との関係は、本願明細書には記載されていないから、本願発明が上記相違点2に係る構成により奏する効果として推論できるのは、ラッセル編みという技術から客観的に当業者が推論し得る効果にとどまることとなる。
すなわち、請求人が主張する効果は「ラッセル編み」という技術から当業者が予測できる効果であるということができるから(請求人も、審判請求書において特開2007-205027号公報を引用し、請求人が主張する効果は、「ラッセル編み」という客観的構造から当然に生じる効果として当業者が予測できることを事実上説明しているものと認められる。)、請求人が主張する効果を参酌することによって、上記イに示した相違点2についての容易想到性の判断を変更すべき事情はない。
(イ)意見書1における主張
請求人は意見書1において、上記相違点3に関し、概略、下記a~cの点を主張しているので、それぞれ検討する。
a 技術事項1の「なまし鉄線」と本願発明の「鉄線」の違いについて
請求人は、以下のように主張する。
「 3)この点、引用文献2には、「筒状袋体」内に「なまし鉄線」を介在させる技術事項1が記載されていますが、この「なまし鉄線」は、「筒状袋体」を「法面の起伏に沿い易い」ものとするためのものであり、本願発明の「鉄線」のように、「ネット状部材」及び「袋状体」の張設状態(法面との密着状態)の維持、すなわち非変形性、保形力の向上を図るために採用されているものではありません。
4)ここで、「なまし鉄線」とは、一般に、柔らかい鉄線をいい、さらに錆びやすく引張強度が弱いため、本願発明の「鉄線」とは異なり、「ネット状部材」及び「袋状体」の張設状態(法面との密着状態)を、高い強度で維持するような保形力を備えていないのは明らかです。
5)したがって、引用文献2の「なまし鉄線」は、本願発明の「前記鉄線によって前記ネット状部材及び前記袋状体が前記法面の表面の凹凸に沿って張設された状態が維持される」(密着状態が維持される、保形効果、変形防止、固定される)という構成に係る「鉄線」に相当しないものと思料します。」
しかし、引用文献2に記載された技術事項1で「なまし鉄線」を用いる技術上の意義は、上記ウ(ア)bで検討したとおりであって、本願発明における「鉄線」が有する技術上の意義と同様であるから、請求人のいうように、引用文献2の「なまし鉄線」が、本願発明の「前記鉄線によって前記ネット状部材及び前記袋状体が前記法面の表面の凹凸に沿って張設された状態が維持される」という構成に係る「鉄線」に相当しないものとは認めることができない。
b 引用発明に技術事項1を適用する動機について
請求人は、以下のように主張する。
「 また、引用発明は、袋状体3が自重により法面Nに隙間無く沿った状態で配置されることを前提としています(引用文献1の[0026])。そうしますと、引用文献2において「筒状袋体」を「法面の起伏に沿い易い」ものとするために採用している「なまし鉄線」を、自重により法面Nに隙間無く沿った状態で配置することができている引用発明の袋状体3に適用するメリットがないといえ、つまりはかかる適用を行おうとする動機づけは得られないものと思料します。」
しかし、上記ウ(イ)で検討したように、引用発明に技術事項1を適用する動機はあるといえるから、当該請求人の主張は採用できない。
c 本願発明が奏する効果について
請求人は、以下のように主張する。
「本願発明は、「柔軟性」のみならず、「維持」力も併せ持っているために、その相乗効果として、袋状体と法面との密着性をより確実に保持することができ、堆積した土砂をより確実に堰き止めることができるため、より確実に小段効果を得ることができるという優れた作用効果を奏することが出来ます。」
しかしながら、「維持」力(堆積した土砂を確実に堰き止めることができる)についての効果は、上記ウ(ア)b、cで検討したことからみて、技術事項1が既に有しているものと認められる。してみれば、請求人の主張を採用することができない。
第5 むすび
以上のとおり、本願発明は、引用発明、技術事項1及び周知技術に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、他の請求項に係る発明について検討するまでもなく、特許法29条2項の規定により、特許を受けることができない。
よって、結論のとおり審決する。
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2023-018715