特許拒絶査定不服審判
2024-016484
センサモジュールおよび方法
- 審判番号
- 2024-016484
- 法域
- 特許
- 審判種別
- 拒絶査定不服審判(拒絶査定不服の審決)
- 出願番号
- 特願2020-219590外部サイト(J-PlatPat)へ移動します
- 請求日
- 2024年10月15日
- 審決日
- 2025年10月07日
- 公報発行日
- 2025年12月26日
- 結論
- 請求不成立
- 当事者
- 【請求人】新東工業株式会社
- 【請求人代理人】弁理士法人 HARAKENZO WORLD PATENT & TRADEMARK
- 分類
- P18 .113-Z (G01N) / P18 .121-Z (G01N) / P18 .575-Z (G01N)
- 根拠条文(結論部分から自動抽出・参考)
- 特許法29条1項3号
- 条文(本文から自動抽出・参考)
- 特許法第29条第1項第3号、特許法第29条第2項、特許法第17条の2第5項第2号、特許法第17条の2第6項、特許法第29条
- データ出所
- 審決公報(XML)
事件の表示
特願2020-219590「センサモジュールおよび方法」拒絶査定不服審判事件〔令和 4年 7月 8日出願公開、特開2022-104394〕について、次のとおり審決する。
結論
結 論
本件審判の請求は、成り立たない。
理由
理 由
第1 手続の経緯
本願は、令和2年12月28日を出願日とする出願であって、その手続の経緯の概要は以下のとおりである。
令和 6年 2月20日付け 拒絶理由通知書
同年 4月30日 意見書・手続補正書の提出
同年 7月 8日付け 拒絶査定
同年10月15日 審判請求書・手続補正書の提出
以下では、令和6年7月8日付け拒絶査定を「原査定」という。
第2 令和6年10月15日にされた手続補正についての補正の却下の決定
[補正の却下の決定の結論]
令和6年10月15日にされた手続補正(以下「本件補正」という。)を却下する。
[理由]
1 本件補正について
(1)本件補正後の特許請求の範囲の記載
本件補正は、特許請求の範囲の請求項1を補正する内容を含んでおり、本件補正により、特許請求の範囲の請求項1の記載は、次のとおり補正された(下線部は、補正箇所である。また、A~Hは、各構成単位毎に分説するために当審にて付した分説番号であり、以下、各構成単位について、該分説番号を用いて「構成A」などということがある。引用発明等についても同様である。)。
「 【請求項1】
A 対象者に装着されるセンサモジュールであって、
B 前記対象者の排泄物により発生するガスの濃度を検出するガスセンサ、温度を検出する温度センサおよび加速度を検出する加速度センサを含むセンサ群と、
C 前記センサ群の検出値を、通信部を備える情報処理装置であって当該通信部が受信する前記センサ群の検出値に基づき前記対象者の健康状態を推定する情報処理装置に対して、無線通信により送信する送信部と、
D 前記センサ群および前記送信部を収容する筐体と、
を備え、
E 前記筐体は、前記ガスを当該筐体の内部に流入させる開口部を有し、
F 前記ガスセンサは、前記送信部よりも前記開口部に近い位置に配置されており、
G 前記ガスセンサおよび前記温度センサは、前記加速度センサよりも前記開口部に近い位置に配置されている、
H センサモジュール。」
(2)本件補正前の特許請求の範囲の記載
本件補正前の、令和6年4月30日にされた手続補正により補正された特許請求の範囲の請求項1の記載は、次のとおりである。
「 【請求項1】
対象者に装着されるセンサモジュールであって、
前記対象者の排泄物により発生するガスの濃度を検出するガスセンサおよび温度を検出する温度センサを含むセンサ群と、
前記センサ群の検出値を、通信部を備える情報処理装置であって当該通信部が受信する前記センサ群の検出値に基づき前記対象者の健康状態を推定する情報処理装置に対して、無線通信により送信する送信部と、
前記センサ群および前記送信部を収容する筐体と、
を備えるセンサモジュール。」
2 補正の適否
上記補正は、本件補正前の請求項1に記載された発明を特定するために必要な事項である「センサ群」について、「加速度を検出する加速度センサ」を含むと限定し、本件補正前の請求項1に記載された発明を特定するために必要な事項である「筐体」について、「前記ガスを当該筐体の内部に流入させる開口部を有」すると限定するとともに、本件補正前の請求項1に記載された発明を特定するために必要な事項である「センサ群」および「送信部」について、
「前記ガスセンサは、前記送信部よりも前記開口部に近い位置に配置されており、
前記ガスセンサおよび前記温度センサは、前記加速度センサよりも前記開口部に近い位置に配置されている」
との、構成部材の位置関係を特定する限定事項を付加したものである。
そして、補正前の請求項1に記載された発明と補正後の請求項1に記載される発明の産業上の利用分野及び解決しようとする課題が同一であるから、本件補正は、特許法第17条の2第5項第2号の特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。
そこで、本件補正後の請求項1に記載される発明(以下「本件補正発明」という。)が同条第6項において準用する同法第126条第7項の規定に適合するか(特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるか)について、以下、検討する。
(1)本件補正発明
本件補正発明は、上記1(1)に記載したとおりのものである。
(2)引用文献
ア 引用文献1
(ア)原査定の拒絶の理由で引用文献1として引用された特開2019-72174号公報(以下「引用文献1」という。)には次の記載がある。(下線は当審において付与した。以下同様。)。
a 「【0017】
(第1実施形態)
図1は、第1実施形態に係る検出装置の外観の一例を概略的に示す分解斜視図である。図2は、図1に示される検出器を概略的に示す図である。図3は、図1に示される検出装置の装着例を示す図である。図4は、図3のIV-IV線に沿った断面図である。図1に示される検出装置1は、監視対象の生体3の排泄物を検出するための装置である。検出装置1は、排泄物から発生する検出対象のガス(におい)である対象ガスによって排泄物を検出する。生体3は、人間に限られず、他の動物であってもよい。検出装置1によって検出される排泄物としては、尿、及び便等が挙げられる。検出装置1は、可搬型の装置であり、生体3が着用する失禁対策衣類2に取り外し可能に構成されている。失禁対策衣類2は、例えば、パンツ型の衣類である。本実施形態では、失禁対策衣類2はおむつである。検出装置1は、検出器10と、循環器20と、を備えている。
【0018】
検出器10は、生体3の排泄物を検出する装置である。検出器10は、筐体11と、取付部材12と、ガスセンサ13と、温度センサ14と、処理部15と、通信装置16と、を備えている。
【0019】
筐体11は、扁平な中空の箱型形状を有しており、内部空間S1を規定している。筐体11は、例えば、生体3への安全性の高い材料によって形成されている。筐体11の材料としては、ポリエチレンテレフタレート、及びポリエチレン等が挙げられる。筐体11は、面11a、面11b、面11c、面11d、面11e、及び面11fを有している。面11aは、検出装置1が失禁対策衣類2に装着されている状態で、失禁対策衣類2の内面と対向する面である。面11bは、面11aと反対側の面であって、検出装置1が失禁対策衣類2に装着されている状態で、生体3と対向する面である。
【0020】
面11c,11d,11e,11fは、面11aと面11bとを接続する面である。面11cと面11dとは互いに反対側に位置し、面11eと面11fとは互いに反対側に位置する。検出装置1が失禁対策衣類2に装着されている状態で、面11cは生体3の上半身側(頭側)を向き、面11dは生体3の下半身側(足側)を向く。面11fは、循環器20の筐体21と接触を成す。面11fには、筐体11の内部空間S1にガスを導入するための複数の通気孔11hが設けられている。筐体11の内部空間S1内には、ガスセンサ13、温度センサ14、処理部15、通信装置16、不図示の回路基板、及び配線等が収容されている。ガスセンサ13は、通気孔11hの近傍に配置されている。
【0021】
取付部材12は、筐体11を失禁対策衣類2に取り付けるための部材である。取付部材12は、例えば、生体3への安全性の高い材料によって形成されている。取付部材12の材料としては、ポリエチレンテレフタレート、及びポリエチレン等が挙げられる。取付部材12は、筐体11の面11aに設けられている。取付部材12は、面11aとの間に失禁対策衣類2を挟み込むことによって、筐体11を失禁対策衣類2に取り付ける。本実施形態では、2つの取付部材12が設けられている。2つの取付部材12は、面11aと面11cとによって形成される端縁の近傍に設けられ、端縁が延びる方向に離間して配置されている。
【0022】
ガスセンサ13は、排泄物のにおい(対象ガス)を検出するためのセンサである。ガスセンサ13としては、半導体方式のガスセンサ、電気化学方式のガスセンサ、及び水晶振動子方式のガスセンサ等が用いられる。排泄物として尿を検出する場合の対象ガスとしては、例えば、アンモニアが挙げられる。排泄物として便を検出する場合の対象ガスとしては、例えば、硫化水素、及びメチルメルカプタンが挙げられる。ガスセンサ13は、対象ガスの濃度に応じたアナログ値である計測値を処理部15に出力する。
【0023】
温度センサ14は、温度を計測するためのセンサである。温度センサ14は、計測値として、計測した温度を処理部15に出力する。
【0024】
処理部15は、検出器10の全体を制御する。処理部15は、例えば、CPU(Central Processing Unit)等のプロセッサと、RAM(Random Access Memory)及びROM(Read Only Memory)等のメモリとを含むコントローラである。処理部15は、ガスセンサ13及び温度センサ14の動作を制御し、ガスセンサ13及び温度センサ14から所定のサンプリング間隔で計測値を取得する。ガスセンサ13及び温度センサ14からの計測値のサンプリング間隔は、例えば、1秒程度である。処理部15は、取得した計測値を通信装置16が送信可能な送信データに変換する。処理部15は、送信データに検出装置1(検出器10)を一意に識別可能な装置ID(Identification)を含めてもよい。処理部15は、送信データを通信装置16に出力する。
【0025】
通信装置16は、外部の処理装置(不図示)とデータの送受信を行うための装置である。本実施形態では、通信装置16は、無線でデータの送受信を行う。通信装置16は、処理部15から受け取ったデータを処理装置に送信し、処理装置から受け取ったデータを処理部15に出力する。」
b 「【0065】
温度センサ14によって計測された温度に基づいて、ガスセンサ13の計測値が補正されてもよい。これにより、検出精度を向上させることが可能となる。なお、検出器10は、温度センサ14を備えていなくてもよい。
【0066】
また、検出器10は、ガスセンサ13及び温度センサ14以外のセンサをさらに備えていてもよい。例えば、検出器10は、生体3の活動状況を検出するためのセンサをさらに備えていてもよい。生体3の活動状況を検出するためのセンサとしては、例えば、加速度センサ、角速度センサ、振動センサ、衝撃センサ、及び地磁気センサが挙げられる。検出器10は、検出装置1が失禁対策衣類2に装着されているか否かの装着状態を検出するためのセンサをさらに備えていてもよい。検出装置1の装着状態を検出するためのセンサとしては、例えば、接触センサ、光学式センサ、プッシュスイッチ、及び圧力センサが挙げられる。」
(イ)引用文献1に記載された発明
上記(ア)a、bの記載事項を総合すると、引用文献1には、次の発明(以下「引用発明」という。)が記載されていると認められる。
「a 生体3が着用する失禁対策衣類2に取り外し可能に構成されている検出装置1が備え、生体3の排泄物を検出する検出器10であって、(段落【0017】)
b 排泄物のにおい(対象ガス)を検出するための、対象ガスの濃度に応じた計測値を出力するガスセンサ13と、温度を計測するための温度センサ14と、加速度センサと、(段落【0018】、【0022】、【0023】、【0066】)
c ガスセンサ13及び温度センサ14から所定のサンプリング間隔で計測値を取得し、取得した計測値を通信装置16が送信可能な送信データに変換する処理部15と、無線で外部の処理装置とデータの送受信を行うための装置であって、処理部15から受け取ったデータを処理装置に送信する通信装置16と、(段落【0018】、【0024】、【0025】)
d 内部空間S1内には、ガスセンサ13、温度センサ14、処理部15、通信装置16、回路基板、及び配線等が収容されている筐体11と、(段落【0018】、【0020】)
を備え、
e 筐体11には、内部空間S1にガスを導入するための複数の通気孔11hが設けられており、(段落【0020】)
f ガスセンサ13は、通気孔11hの近傍に配置されており、(段落【0020】)
g 温度センサ14によって計測された温度に基づいて、ガスセンサ13の計測値が補正される、(段落【0065】)
h 検出器10。(段落【0017】)」
(3)対比
本件補正発明と引用発明とを対比する。
ア 構成Bについて
引用発明の「生体3」は、本件補正発明の「対象者」に相当し、また、引用発明の「排泄物」は、「生体3」の「排泄物」を意味することは、明らかである。引用発明の「排泄物のにおい(対象ガス)を検出するための、対象ガスの濃度に応じた計測値を出力するガスセンサ13」及び「温度を計測するための温度センサ14」は、それぞれ、本件補正発明の「前記対象者の排泄物により発生するガスの濃度を検出するガスセンサ」及び「温度を検出する温度センサ」に相当する。
引用発明の「加速度センサ」は、加速度を検出するものであることは自明であるから、本件補正発明の「加速度を検出する加速度センサ」に相当する。
また、引用発明において、「ガスセンサ13」、「温度センサ14」及び「加速度センサ」を合わせたものは、本件補正発明の「センサ群」に相当する。
以上より、引用発明の「排泄物のにおい(対象ガス)を検出するための、対象ガスの濃度に応じた計測値を出力するガスセンサ13と、温度を計測するための温度センサ14と、加速度センサ」は、本件補正発明の「前記対象者の排泄物により発生するガスの濃度を検出するガスセンサ、温度を検出する温度センサおよび加速度を検出する加速度センサを含むセンサ群」に相当する。
イ 構成Cについて
引用発明において、「処理部15」が「ガスセンサ13及び温度センサ14から所定のサンプリング間隔で計測値を取得し、取得した計測値を通信装置16が送信可能な送信データに変換」したものである「送信データ」は、「ガスセンサ13及び温度センサ14」の「計測値」を「送信可能な」ものに変換したものであるから、本件補正発明の「センサ群の検出値」に相当する。
そして、引用発明の「処理部15から受け取ったデータ」についても、「通信装置16が送信可能な送信データ」のことを指すことは明らかであるから、本件補正発明の「センサ群の検出値」に相当する。
引用発明において、「通信装置16」は、「無線で外部の処理装置とデータの送受信を行うための装置」であるから、本件補正発明の「無線通信により送信する送信部」に相当する。
引用発明の「処理装置」は、本件補正発明の「情報処理装置」に相当する。また、「処理装置」は、「通信装置16」が「無線で」「データの送受信を行う」対象であるから、データの送受信を行うための通信部を備えるものであることは、明らかである。
以上より、引用発明の「無線で外部の処理装置とデータの送受信を行うための装置であって、処理部15から受け取ったデータを処理装置に送信する通信装置16」は、本件補正発明の構成Cと、「前記センサ群の検出値を、通信部を備える情報処理装置」「に対して、無線通信により送信する送信部」である点で共通する。
ウ 構成Dについて
引用発明において、「筐体11」は、「内部空間S1内には、ガスセンサ13、温度センサ14、処理部15、通信装置16、回路基板、及び配線等が収容されている」ものである。また、段落【0066】には、「検出器10は、ガスセンサ13及び温度センサ14以外のセンサをさらに備えていてもよい。例えば、検出器10は、生体3の活動状況を検出するためのセンサをさらに備えていてもよい。生体3の活動状況を検出するためのセンサとしては、例えば、加速度センサ、角速度センサ、振動センサ、衝撃センサ、及び地磁気センサが挙げられる。」と記載されているように、「加速度センサ」は、ガスセンサ13及び温度センサ14に加えて追加的に用いられるものであるから、「加速度センサ」を設ける際には、「ガスセンサ13」、「温度センサ14」と同様に「筐体11」の「内部空間S1内」に収容されることは明らかである。
よって、引用発明の「内部空間S1内には、ガスセンサ13、温度センサ14、処理部15、通信装置16、回路基板、及び配線等が収容されている筐体11」は、本件補正発明の「前記センサ群および前記送信部を収容する筐体」に相当する。
エ 構成Eについて
引用発明の「内部空間S1」及び「通気孔11h」は、それぞれ、本件補正発明の「筐体の内部」及び「開口部」に相当する。
よって、引用発明において、「筐体11には、内部空間S1にガスを導入するための複数の通気孔11hが設けられて」いることは、本件補正発明において、「前記筐体は、前記ガスを当該筐体の内部に流入させる開口部を有」することに相当する。
オ 構成A、Hについて
上記ア~エより、引用発明の「検出器10」は、本件補正発明の「センサ群」、「送信部」及び「筐体」に相当する部材を有し、また、「筐体」内に各構成部材が配置されたモジュール状のものであるといえる。よって、引用発明の「検出器10」は、本件補正発明の「センサモジュール」に相当する。
引用発明の「検出器10」は、「生体3が着用する失禁対策衣類2に取り外し可能に構成されている検出装置1が備え」るものであるから、「生体3」に装着されるものといえる。
以上より、引用発明の「生体3が着用する失禁対策衣類2に取り外し可能に構成されている検出装置1が備え、生体3の排泄物を検出する検出器10」は、本件補正発明の「対象者に装着されるセンサモジュール」に相当する。
(4)一致点、相違点
上記(3)のとおりであるから、本件補正発明と引用発明とは、下記アの点で一致し、下記イ~ウの点で相違又は一応相違する。
ア 一致点
「A 対象者に装着されるセンサモジュールであって、
B 前記対象者の排泄物により発生するガスの濃度を検出するガスセンサ、温度を検出する温度センサおよび加速度を検出する加速度センサを含むセンサ群と、
C’前記センサ群の検出値を、通信部を備える情報処理装置に対して、無線通信により送信する送信部と、
D 前記センサ群および前記送信部を収容する筐体と、
を備え、
E 前記筐体は、前記ガスを当該筐体の内部に流入させる開口部を有する、
H センサモジュール。」
イ 相違点1(構成Cについて)
本件補正発明は、「情報処理装置」について、「当該通信部が受信する前記センサ群の検出値に基づき前記対象者の健康状態を推定する」と特定されているのに対し、引用発明の「情報処理装置」はそのように特定されていない点。
ウ 相違点2(構成F、Gについて)
本件補正発明は、「前記ガスセンサは、前記送信部よりも前記開口部に近い位置に配置されており」、「前記ガスセンサおよび前記温度センサは、前記加速度センサよりも前記開口部に近い位置に配置されている」と特定されているのに対して、引用発明はそのように特定されていない点。
(5)相違点について
ア 相違点1
(ア)本件補正発明は「センサモジュール」の発明であって、「センサモジュール」は「情報処理装置」を備えるものではないから、本件補正発明において「情報処理装置」が「当該通信部が受信する前記センサ群の検出値に基づき前記対象者の健康状態を推定する」ものと特定する事項は、「センサモジュール」自体の構造、機能を直接特定するものではない。
そして、引用発明の「検出器10」において、「通信装置16」が「送信」した「データ」を、センサ群の検出値に基づき対象者の健康状態を推定するような情報処理装置が受信することも可能であるといえるから、本件補正発明において、「情報処理装置」が「当該通信部が受信する前記センサ群の検出値に基づき前記対象者の健康状態を推定する」ものと特定されていることによって、本件補正発明の「センサモジュール」と引用発明の「検出器10」との間に差異が生じているとはいえない。
よって、相違点1は実質的な相違点ではない。
(イ)仮に、相違点1は実質的な相違点ではないとまではいえず、引用発明の「検出器10」は、本件補正発明における構成Cを充足することが明らかであるとはいえないと解釈した場合について検討する。
情報処理装置により、ガスセンサ等の検出値に基づき対象者の健康状態を推定することは、特開平9-43182号公報(原査定で引用文献4として引用された文献:段落【0010】、【0011】、【0014】等参照。)、特開2016-145808号公報(原査定で引用文献5として引用された文献:【請求項1】、段落【0055】等参照。)等に記載されているように周知技術にすぎず、引用発明において当該周知技術を適用し、「処理装置」をガスセンサ等の検出値に基づき対象者の健康状態を推定するものとし、「検出器10」の「通信装置16」は、そのような「処理装置」にデータを送信するものとし、上記相違点1に係る本件補正発明の構成とすることは、当業者が容易に想到し得たことである。
イ 相違点2
引用発明は、「温度センサ14によって計測された温度に基づいて、ガスセンサ13の計測値が補正される」ものであり、当該「補正」が、「ガスセンサ13」自体の温度に基づいて補正を行うことを意図しているのか、「ガスセンサ13」が計測するガスの温度に基づいて補正を行うことを意図しているのか不明であるが、いずれにしても、より正確な「ガスセンサ13」自体の温度、あるいは、「ガスセンサ13」が計測するガスの温度を得るために、「温度センサ14」を「通気孔11hの近傍に配置され」た「ガスセンサ13」の近くに設けることは、当業者が容易に想到し得たことである。
また、引用発明において、「生体3が着用する失禁対策衣類2に取り外し可能に構成されている」ものである「検出装置1」を小型化することは、当業者にとって自明の課題であり、小型化する「検出器10」の「筐体11」の内部のスペースに、適切に「検出器10」の構成部材を配設する必要があることも、当業者にとって自明である。
そうすると、「ガスセンサ13は、通気孔11hの近傍に配置されており」、「温度センサ14」がその近くに設けられている配置を前提に、「通気孔11h」との位置関係がその機能に影響しないことが明らかである「加速度センサ」及び「通信装置16」を、「検出器10」の「内部空間S1」内の適宜の空いたスペースに配置することで、「ガスセンサ13」は「通信装置16」よりも「通気孔11h」に近い位置に配置されており、「ガスセンサ13」および「温度センサ14」は、「加速度センサ」よりも「通気孔11h」に近い位置に配置されているとの、上記相違点2に係る本件補正発明の構成とすることは、当業者が容易に想到し得たことである。
(6)請求人の主張について
ア 請求人は、令和6年10月15日提出の審判請求書において、
「ガスセンサは対象者の排泄物から発生するガスの濃度を検知するためのセンサであり、開口部から近いほどガス濃度をより正確に検知可能である。また、温度センサは対象者の体温を検知するセンサであり、体温もガス濃度と同様に、開口部から近いほどより正確に検知可能である。一方、加速度センサは対象者の動きを検知するセンサであり、対象者の転倒といった事態を検知することができる。加速度センサは開口部からの距離により検出精度が変化しないため、加速度センサは開口部からある程度離れていても問題無い。本願の請求項1に係る発明は、上述の構成を採用したことにより、対象者の排泄だけでなく対象者の転倒等を検知することができるとともに、対象者の排泄をより精度よく検出できるという顕著な作用効果を奏するものである。」
との作用効果の主張をしているので、検討する。
引用発明において、「ガスセンサ13は、通気孔11hの近傍に配置されて」いるから、引用発明も上記主張における「開口部から近いほどガス濃度をより正確に検知可能」となるとの効果を有しているといえる。
また、上記主張における、「体温もガス濃度と同様に、開口部から近いほどより正確に検知可能」となるとの効果について、本願の発明の詳細な説明には、開口部の近くに温度センサを設けることで、体温を正確に検知可能とすることについての記載はないし、体温は、筐体を通した温度の伝播、及び、空気を通した温度の伝播により温度センサに伝わるものであり、筐体が一般的な材料の熱伝導率を有するのであれば、筐体を通した温度の伝播が主とした体温の伝播経路となるといえるから、そのような効果が、発明の詳細な説明の記載から当業者にとって自明であるとはいえない。
したがって、上記効果の主張は、発明の詳細な説明の記載に基づくものではなく採用できない。
さらに、上記(5)イで示したとおり、引用発明において「ガスセンサ13の計測値」を「補正」するために用いる「温度センサ14」を、「通気孔11hの近傍に配置され」た「ガスセンサ13」の近くに設けることは、当業者が容易に想到し得たことであり、その際に、少なくとも「通気孔11hの近傍」における位置の温度をより正確に検知可能となることは、当業者にとって自明であるから、仮に上記の「体温もガス濃度と同様に、開口部から近いほどより正確に検知可能」になるとの効果が本願の発明の詳細な説明の記載から自明であるとしても、当該効果は当業者の予測を超える顕著なものであるとはいえない。
さらに、引用発明の「検出器10」は、「加速度センサ」を有しているから、「対象者の排泄だけでなく対象者の転倒等を検知することができる」との効果を有しているといえる。
以上より、請求人の上記効果の主張により、本件補正発明が進歩性を有するとはいえない。
イ また、請求人は審判請求書において、
「このように、本願発明1の構成Aは引用文献1-5のいずれにも開示されていないから、引用発明1に引用文献2-5に記載の発明を組み合わせても、構成Aを有する本願発明1には到達しない。また、本願発明1の構成Aは引用文献1-5のいずれにも開示されていないから、引用発明2に引用文献1、3-5に記載の発明を組み合わせても、構成Aを有する本願発明1には到達しない。」
と主張しているが、上記(5)イで示したとおり、引用発明において、相違点2に係る本件補正発明の構成とすることは当業者が容易に想到し得たことであるから、請求人の上記主張は採用できない。
(7)効果について
本件補正発明により奏される効果は、上記(6)アでも示したとおり、引用発明、または、引用発明及び上記周知技術から当業者が予期し得るものであり、格別顕著なものではない。
(8)小括
以上より、本件補正発明は、引用発明、または、引用発明及び上記周知技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により、特許出願の際独立して特許を受けることができないものである。
3 補正の却下の決定についてのむすび
よって、本件補正は、特許法第17条の2第6項において準用する同法第126条第7項の規定に違反するものであるから、同法第159条第1項の規定において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。
よって、上記補正の却下の決定の結論のとおり決定する。
第3 本願発明について
1 本願発明
本件補正は、上記第2のとおり却下されたので、本願の請求項1~4に係る発明は、令和6年4月30日にされた手続補正により補正された特許請求の範囲の請求項1~4に記載された事項により特定されるものであるところ、その請求項1に係る発明(以下「本願発明」という。)は、上記第2の[理由]1(2)に示した請求項1の記載により特定されるとおりのものである。
2 原査定の拒絶の理由
原査定の拒絶の理由は、以下の理由を含むものである。
理由1(新規性)この出願の請求項1に係る発明は、その出願前に日本国内又は外国において、頒布された下記の刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明であるから、特許法第29条第1項第3号に該当し、特許を受けることができない。
理由2(進歩性)この出願の請求項1に係る発明は、その出願日前に日本国内又は外国において、頒布された下記の刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明に基いて、その優先日前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
引用文献1:特開2019-72174号公報
3 引用文献の記載事項
原査定の拒絶の理由で引用された引用文献1の記載事項及び引用文献1に記載された発明は、上記第2[理由]2(2)に記載したとおりである。
4 対比・判断
(1)本願発明は、上記第2の[理由]2で独立特許要件の検討をした本件補正発明から、「センサ群」について「加速度を検出する加速度センサ」を含むとの発明特定事項、「筐体」について「前記ガスを当該筐体の内部に流入させる開口部を有」するとする発明特定事項、及び、「センサ群」と「送信部」について、
「前記ガスセンサは、前記送信部よりも前記開口部に近い位置に配置されており、
前記ガスセンサおよび前記温度センサは、前記加速度センサよりも前記開口部に近い位置に配置されている」
との、構成部材の位置関係を特定する発明特定事項を削除し、拡張したものである。
(2)本願発明と引用発明との対比は、上記第2の[理由]2(3)で示したとおりである。
本願発明は、本件補正発明から上記(1)で示した発明特定事項を削除して拡張したものであって、上記第2の[理由]2(4)ウで示した相違点2に係る本件補正発明の発明特定事項は、当該削除した発明特定事項に含まれる事項であるから、本願発明と引用発明とは、上記第2の[理由]2(4)イで示した相違点1によってのみ相違又は一応相違し、その余の点で一致するといえる。
そして、上記第2の[理由]2(5)アで検討したのと同様の理由により、相違点1は実質的な相違点ではなく、仮に実質的な相違点であると解釈したとしても、引用発明において周知技術を適用し、相違点1に係る本願発明の構成とすることは、当業者が容易に想到し得たことである。
よって、本願発明は、引用発明であるか、引用発明及び周知技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。
以上より、本願発明は、特許法第29条第1項第3号に該当し、又は、同条第2項の規定により、特許を受けることができないものである。
第4 むすび
以上のとおり、本願発明は、特許法第29条第1項第3号に該当し、又は、特許法第29条2項の規定により特許を受けることができないものであるから、他の請求項に係る発明について検討するまでもなく、本願は拒絶されるべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
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2024-016484