特許拒絶査定不服審判
2024-016157
スライド上にプリントされたバイオマーカーおよびロマノフスキー型染色サンプルを調製するための自動化プラットフォームの使用
- 審判番号
- 2024-016157
- 法域
- 特許
- 審判種別
- 拒絶査定不服審判(拒絶査定不服の審決)
- 出願番号
- 特願2022-570667
- 請求日
- 2024年10月08日
- 審決日
- 2025年10月20日
- 公報発行日
- 2026年04月24日
- 結論
- 請求不成立
- 当事者
- 【請求人】ロシュ・ダイアグノスティクス・ヘマトロジー・インコーポレイテッド
- 【請求人代理人】弁理士法人深見特許事務所
- 【請求人】エフ. ホフマン-ラ ロシュ アーゲー
- 【請求人代理人】弁理士法人深見特許事務所
- 審判長/審判官
- 審判長 南 宏輔
- 審判官 松本 隆彦
- 審判官 宮澤 浩
- 分類
- P18 .121-Z (G01N) / P18 .572-Z (G01N) / P18 .575-Z (G01N)
- 根拠条文(結論部分から自動抽出・参考)
- 特許法29条2項
- 条文(本文から自動抽出・参考)
- 特許法第29条第2項、特許法第17条の2第5項、特許法第17条の2第6項
- データ出所
- 審決公報(XML)
事件の表示
特願2022-570667「スライド上にプリントされたバイオマーカーおよびロマノフスキー型染色サンプルを調製するための自動化プラットフォームの使用」拒絶査定不服審判事件〔令和 3年11月25日国際公開、WO2021/236829、令和 5年 6月21日国内公表、特表2023-526468〕について、次のとおり審決する。
結論
結 論
本件審判の請求は、成り立たない。
理由
理 由
第1 手続の経緯
本願は、2021年(令和3年)5月19日(パリ条約による優先権主張外国庁受理2020年5月20日、米国)を国際出願日とする出願であって、令和5年11月9日付けの拒絶理由の通知に対し、令和6年5月14日に意見書が提出されるとともに手続補正がなされたが、同年6月10日付けで拒絶査定がなされ、これに対して同年10月8日に審判の請求がなされると同時に手続補正(以下「本件補正」という。)がなされたものである。
第2 令和6年10月8日付けの手続補正についての補正の却下の決定
[補正の却下の決定の結論]
令和6年10月8日付けの手続補正を却下する。
[理由]
1 本件補正について(補正の内容)
(1)本件補正前の請求項1に係る発明
本件補正前の特許請求の範囲の請求項1に係る発明は、次のとおりである。
「 細胞サンプル中のバイオマーカーおよび形態を検出するための方法であって、
細胞サンプルを、前記細胞サンプル中のバイオマーカーに特異的に結合する1種以上のバイオマーカー特異的試薬と接触させることと、
バイオマーカー染色細胞サンプルを固体支持体上に堆積させることと、
1種以上のバイオマーカーについて前記バイオマーカー染色細胞サンプルを分析することと、
前記バイオマーカー染色細胞サンプルをロマノフスキー型染色剤で染色して、ロマノフスキー型染色細胞サンプルを得ることと、
前記ロマノフスキー型染色細胞サンプルを分析して、前記ロマノフスキー型染色細胞サンプル中の少なくとも1つの細胞の形態を決定することと
を含み、
前記細胞サンプルが、前記細胞サンプルを前記固体支持体上にプリントすることによって、前記固体支持体上に堆積され、
自動化染色プラットフォームで実施される、方法。」
(2)本件補正後の請求項1に係る発明
本件補正後の特許請求の範囲の請求項1に係る発明は、次のとおりである(下線部は補正箇所を示す。)。
「 細胞サンプル中のバイオマーカーおよび形態を検出するための方法であって、
細胞サンプルを、前記細胞サンプル中のバイオマーカーに特異的に結合する1種以上のバイオマーカー特異的試薬と接触させることと、
バイオマーカー染色細胞サンプルを固体支持体上に堆積させることと、
1種以上のバイオマーカーについて前記バイオマーカー染色細胞サンプルを分析することと、
前記バイオマーカー染色細胞サンプルをロマノフスキー型染色剤で染色して、ロマノフスキー型染色細胞サンプルを得ることと、
前記ロマノフスキー型染色細胞サンプルを分析して、前記ロマノフスキー型染色細胞サンプル中の少なくとも1つの白血球の形態を決定することと
を含み、
前記細胞サンプルが、前記細胞サンプルを前記固体支持体上にプリントすることによって、前記固体支持体上に堆積され、
自動化染色プラットフォームで実施される、方法。」
2 補正の適否
本件補正は、本件補正前の請求項1に記載された発明を特定するために必要な事項である「前記ロマノフスキー型染色細胞サンプルを分析して、前記ロマノフスキー型染色細胞サンプル中の少なくとも1つの細胞の形態を決定する」工程について、形態を決定する対象を「細胞」から「白血球」に限定するものである。そして、補正前の請求項1に記載された発明と補正後の請求項1に記載される発明の産業上の利用分野及び解決しようとする課題が同一であるから、特許法17条の2第5項2号の特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。
そこで、本件補正後の請求項1に記載される発明(以下「本件補正発明」という。)が同条第6項において準用する同法第126条第7項の規定に適合するか(特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるか)について、以下、検討する。
3 本件補正発明
本件補正発明は、前記1(2)に記載したとおりのものである。
4 引用文献
(1)引用文献1
ア 引用文献1の記載事項
原査定の拒絶の理由において、主引用発明が記載された文献として引用され、本願の優先権主張の日前の平成21年7月9日に頒布された引用文献である、特表2009-525468号公報(以下「引用文献1」という。)には、以下の記載事項がある。
(ア)特許請求の範囲
「【請求項1】
細胞集団を含む試験サンプルを、対象の血液から得ること、
試験サンプルを支持体上に載せること、
試験サンプル中の、循環腫瘍細胞と選択的に結合する第1のマーカーの存在または不存在を検出すること、
試験サンプル中の、細胞集団または細胞集団の小集団と結合する第2のマーカーの存在または不存在を検出すること、および
第1のマーカーおよび第2のマーカーによって検出された細胞集団を分析して、循環腫瘍細胞を同定しおよび特徴づけること
を含む、癌を有することが疑われる哺乳類対象において循環腫瘍細胞を検出する方法。」
(イ)技術分野
「【0001】
本発明は、一般に、哺乳類対象における循環腫瘍細胞を検出する方法および哺乳類対象における癌を診断する方法に関する。これらの検出または診断の方法は、転移癌または初期癌の存在を示す。」
(ウ)発明が解決しようとする課題
「【0007】
現在、CTCは、主にCKのような免疫細胞化学的マーカーおよびDAPIによる核染色の使用を通して検出され分析される。これらのアプローチは、CTCを列挙し区別することに成功しているにもかかわらず、これらのアプローチは、診断病理学が依存している標準の形態学的染色との相互関係を省いているので、標準の細胞病理学的なアプローチとならない。・・・従来の診断病理学染色法および明視野における顕微鏡観察によるCTCの詳細な高分解能画像化を利用して、循環癌腫の標準の細胞病理学的診断を作るために可能性を与えることおよび病院においてCTCを使用する診断の採用を進めることの必要性が当分野で存在する。」
(エ)課題を解決するための手段
「【0008】
発明の要旨
本発明は、一般に、哺乳類の対象における循環腫瘍細胞(CTC)を検出する方法または哺乳類の対象において癌を診断する方法に関する。本発明は、さらに、癌の治療として哺乳類の対象において候補薬化合物を選別する方法を提供する。癌は、転移癌または初期癌であり得る。本発明は、さらに、転移癌または初期癌の配慮時点の患者の選別、監視および管理を提供するために、循環腫瘍細胞を検出する方法において使用するための装置を提供する。
【0009】
癌を有することが疑われる哺乳類の対象において循環腫瘍細胞を検出する方法が提供される。この方法は、細胞集団を含む試験サンプルを哺乳類の対象の血液から得ること、試験サンプルを支持体上に載せること、試験サンプル中の循環腫瘍細胞と選択的に結合する第1のマーカーを検出すること、試験サンプル中の細胞集団または細胞集団の小集団と結合する第2のマーカーを検出すること、ならびに、第1のマーカーおよび第2マーカーによって検出された細胞集団を分析して、循環腫瘍細胞を同定しおよび特徴づけすること、を含む。・・・
【0010】
この方法の1つの態様において、平らな支持体の上に試験サンプルを載せることは生物学的単層を形成する。第1のマーカーまたは第2のマーカーは、蛍光マーカーであり得る。別の態様において、第1のマーカーは、選択的に上皮細胞と結合する。詳細な態様において、第1のマーカーは、サイトケラチン・マーカーである。第2のマーカーは、形態、寸法または核対細胞質の比によって循環腫瘍細胞を同定する細胞学的染料であり得る。細胞学的な染料は、ライト・ギムザ(Wright-Giemsa)染料であり得る。第1のマーカーまたは第2のマーカーは、細胞特異的なマーカーであり得る。詳細な態様において、細胞特異的なマーカーは、サイトケラチン、CD45、M30、ケモカイン・レセプター、CXCRl、CXCR4、CD44、CD24、VEGF、EGFRまたはHuRである。・・・
【0011】
哺乳類の対象における循環腫瘍細胞を検出するためのこの方法は、さらに、核目、核輪郭、核小体の存在または不存在、細胞質の品質または細胞質の量によって細胞集団を分析することを含む。・・・詳細な態様において、試料中の循環腫瘍細胞の存在は、限定されないが、リンパ腫、骨髄腫、神経芽細胞腫、乳癌、卵巣癌、肺癌、横紋筋肉腫、小細胞型肺腫瘍、原発性脳腫瘍、胃癌、大腸癌、膵臓癌、尿膀胱癌、精巣癌、リンパ腫、甲状腺癌、神経芽細胞腫、食道癌、尿生殖路癌、子宮頸癌、子宮体癌、副腎皮質性の癌または前立腺癌を含む癌の存在を示す。」
(オ)詳細な説明
「【0020】
本方法は、癌患者における血中のCTCを検出するための、ファイバーアレイ走査技術(FAST)と組み合わせた、血液サンプル中の、上皮由来の細胞を同定する細胞付着プロトコールを提供する。このプロトコールにおいて、生きている白血球(WBC)(例えばロイコサイト)および血液中の他の細胞を、例えば生物学的単層として、スライド上に単離する。白血球として、Tリンパ球;貪食作用に関係する、単球、好酸球および好中球;炎症反応に関係する好塩基球が挙げられる(これらに限定されない。)。本発明の方法において、WBCおよびCTCは、特別に被覆された接着性スライドとの上に付着させられ、固定化および透過化処理の後、スライド面上にてサイトケラチン(CK)抗体カクテルにて免疫蛍光により標識される。血液および骨髄の正常細胞は起源において間葉系であり、CKタンパク質を発現しなく、播種性上皮細胞を正常な血液細胞から容易に識別可能にする。スライドをFASTによって分析し、各々のスライドの希少細胞の配置を得る。
【0021】
FASTおよび細胞付着プロトコールを利用する方法は、転移性乳癌および肺癌患者のCTC罹患率を調査するのに用いることができる。病理学者の病理学的確認および特徴づけのために、目的の細胞を再配置しおよび試験することを可能にすることがこの方法の追加の長所である。本発明において、このプロトコールは、カバースライドを除去することおよび/またはそれぞれ蛍光で染色されたスライド上で水溶性充填媒体を可溶化することおよび第2の細胞マーカー(例えば標準のライト・ギムザ染色)を用いて同じ細胞を再染色することにより、CTCの形態、寸法および異質性についての追加の洞察を提供することをさらに含む。FASTおよび細胞付着プロトコールによって位置決めをされた公知のCK+の個々の希少細胞および希少細胞クラスタを、形態学的に評価することができる。CTCの蛍光イメージはこれらの検証された同定を助成するが、ライト・ギムザ染色は、CTCに関する追加の細胞学的な情報を提供する。本発明の更なる態様において、この方法は、疾患、疾患状態、細胞型または細胞状態のいずれかに特異的である異なる細胞マーカーを評価するために使用できる。
・・・
【0024】
自動化デジタル顕微鏡観察および光ファイバーアレイ
走査技術
癌患者において超低濃度にて末梢血中を循環している上皮由来の腫瘍細胞を検出する方法が提供される。光ファイバーアレイ走査技術(FAST)を利用して循環している希少細胞の迅速で正確な検出ができる機器が開発された。FAST血球計数器は、従来の自動化デジタル顕微鏡観察より500倍速い走査速度でガラス支持体上の免疫蛍光で標識された希少細胞の位置決めをすることができる。これらの高い走査速度は、大きい(50mm)視野でファイバー束を使用して蛍光発光を収集することによって、成し遂げられる。非常に高い走査速度は、富化ステップの必要条件なしで希少事象を検出する能力を可能にする。FAST血球計数器が、乳癌患者の末梢血中のCTCを検出し、画像処理しおよび再画像するために使用された。この技術は、臨床的に有用な治療場所診断のおよび癌臨床医のための予後の道具として役割を果たす可能性を有する。固定された支持体の使用は、細胞の再同定および再染色を可能にし、追加の形態学および生物学的な情報を前に収集されて同定された細胞から得ることを可能にする。
・・・
【0026】
光ファイバーアレイ走査技術(FAST)と組み合わせた自動化デジタル顕微鏡観察(ADM)は、血中の癌細胞の検出のための信頼性が高い方法であり、初期段階にある固形腫瘍の診断および監視のための重要な道具である。検出の好ましい方法、ADMは、遅すぎるため大きな支持体面積を走査できない。FASTを使用するアプローチは、レーザー印刷技術を希少細胞検出問題に適用する。FAST血球計算と共に、レーザー印刷レンズが用いられ、1秒につき300,000セルが励起されおよび発光が非常に広い視野で収集される。これは、匹敵する感度および優れた特異性を有しつつADMに対し500倍のスピードアップを可能にする。FAST富化およびADM画像処理の組合せは、血中における初期癌の信頼性が高い検出のために必要とされる性能を有する。Krivacicら、Proc.Natl.Acad.Sci.USA 101:10501-10504,2004。
・・・
【0028】
自動化デジタル顕微鏡観察
FAST血球計数器によって同定された見込みある細胞の座標は、完全に自動化された走査デジタル顕微鏡観察システムである希少事象の画像処理システム(REIS)に送られた。REISのハードウェア構成要素および所有権がある走査ソフトウェアは、いたる所で記述されている。Krivacicら、Proc.Natl.Acad.Sci.USA 101:10501-10504,2004;Kraeftら、Clin.Cancer Res.6:434-442,2000;Kraeftら、Clin.Cancer Res.10:3020-3028,2004。
・・・
【0033】
測定
検出蛍光対象は、希少細胞を偽陽性と区別するために、ソフトウェア・フィルタ操作により分析される。細胞はレーザー点解像度(20μm)より一般に小型であるので、第1のフィルターは寸法閾値(20μm)以下である全ての対象を通過させる。第2のフィルターは、免疫蛍光染色の一般の人為産物である均一な染料凝集体を排除するために、異なるチャネルからの蛍光の強度の間の比を分析する。
・・・
【0035】
サンプルは、対象からの血液または血液の部分(これらに限定されない。)を含めた生物学流動体のサンプルを抜き取ることによって、生物学的単層として作製できる。1つの態様において、サンプルは細胞の単層である。流体サンプルは、マーカー染料(これに限定されない。)のような、異なる種類の生体分子(細胞の表面上にまたは細胞内部に存在し得る、タンパク質、核酸または他の分子など)に選択的に結合する蛍光材料で処理される。適切なマーカーは、選択された癌細胞型、胎児細胞または他の適切な考慮されるべき細胞を含む、多数の、臨床目的の異なる細胞型のマーカー付けのために、当分野において知られている。とりわけ、脳細胞、肝細胞、加えて細菌細胞のような、多数の他の細胞のためのマーカーを開発することができる。この材料は、光の選択された波長またはスペクトルによる照射、X線照射、電子ビーム照射などの選択された励起照射に応答する蛍光またはリン光のような特徴的出力を発する。特徴的発光は、一般に特徴的波長または波長のスペクトル範囲を有する。染料が特色あるタグ付けプロセスである場合、量子ドットおよびDNAナノ粒子プローブとして公知のマーカーの使用を含む他の技術が存在する。
・・・
【0038】
一旦希少細胞またはCTCが配置されると、生物学的単層上のカバーガラスは取り除くことができる、または、水溶性充填媒体を、各々の蛍光で染色されたスライドの上にて可溶化することができる。この同じ細胞は、第2の細胞マーカー、例えばCTCの形態、寸法および異質性に対する洞察を提供する標準のライト・ギムザ染色、を使用して再染色することができる。既知のサイトケラチン陽性(CK+)の個々の希少細胞および希少細胞クラスタを位置決めし、形態学的に評価できる。CTCの蛍光イメージがこれらの検証された同定を促進するが、ライト・ギムザ染料は、CTCに関するさらなる情報を提供する。
【0039】
更なる態様において、このプロセスは、疾患、疾患状態または細胞型、細胞状態のいずれかに特異的である異なる細胞マーカーを評価するために使用できる。本発明の方法は、CTCの特徴づけを促進する。この方法は、富化することなく癌患者から得られた血液からCTCの高品質な検証を可能にし、CTCの形態および特徴に対する洞察を提供する。
・・・
【0041】
本発明は、特定の方法、試薬、化合物、組成物または生体系に限定されるものではなく、当然変形できるものであることを理解されたい。ここで使用された用語は、特定の実施形態を記載する目的のためだけであって、限定的であることを意図しないことも理解されたい。本明細書および添付の請求の範囲で使用される場合、単数形の定冠詞および不定冠詞は、内容が明確に指示されないかぎり、複数の指示物も含む。従って、例えば、「細胞」は、2つ以上の細胞の組合せなどを含む。
・・・
【0046】
「支持体(substrate)」は、試験サンプル、例えば検出および分析のために載せられた細胞を含有する血液サンプル、を保持する。1つの態様において、支持体は平らであり得る。別の態様において、支持体はかなりの湾曲を有し得る。支持体は、FASTシステムにより走査されることができ、デジタル顕微鏡観察により循環腫瘍細胞が位置決めされ得ることができる。
【0047】
「対象」、「哺乳類対象」または「患者」は本発明の方法が適用できるあらゆる哺乳類の患者または対象を指す。「哺乳類」または「哺乳類の」は、ヒト患者および非ヒトの霊長類並びにウサギ、ラットおよびマウスのような実験動物および他の動物を指す。本発明の例示的な実施形態において、本発明の方法による治療のための対象患者を特定するために、認められた選別法が、標的とされたもしくは疑わしい疾患または症状(例えば癌)に伴う危機因子を決定するために、または対象における既存の疾患または症状の状態を決定するために、使用される。これらの選別法は、例えば、標的にされたまたは疑わしい疾患または症状を伴う可能性がある危機因子を決定する従来の精密検査を含む。これらおよび他の通常の方法によって、臨床医は本発明の方法および製剤を使用する治療を必要とする患者を選択することができる。
【0048】
「癌」、「悪性」、「固形腫瘍」または「過増殖障害」は、同義の用語として使われ、細胞の調節されていない異常な増殖、局所的にまたは体の他の部分への血流およびリンパ系を通して広がる影響を受けた細胞の能力並びに特徴的な多数の構造および/または分子的特徴のいずれかによって特徴づけられる多数の疾患のいずれかを指す。「癌」または「悪性細胞」または「固形腫瘍細胞」は、特異的な構造的性質を有し、分化が欠如しており、浸潤および転移ができる細胞として理解される。「癌」は、癌腫および肉腫を含む、哺乳類において見られる全ての種類の癌または新生物または悪性腫瘍を指す。例は、乳癌、肺癌、非小型細胞肺癌、胃癌、脳癌、頭および頚の癌、髄芽細胞腫癌、骨癌、肝臓癌、大腸癌、尿生殖器癌、膀胱癌、尿癌、腎臓癌、精巣癌、子宮癌、卵巣癌、頸部癌、前立腺癌、黒色腫癌、中皮腫癌、肉腫癌である。(DeVitaら(編集)2001、Cancer Principles and Practice of Oncology,6版,Lippincott Williams & Wilkins,Philadelphia,PAを参照(この文献は、全ての目的のために全体が参照によりここに組み込まれる。)。「過増殖疾患」は、細胞が正常組織成長より迅速に増殖するあらゆる疾患または障害を指す。従って、過増殖性の細胞は、正常な細胞より迅速に増殖している細胞である。
・・・
【0056】
「第1のマーカー」および「第2のマーカー」は、細胞学的な染料によってまたは細胞特異的なマーカーによって循環腫瘍細胞を同定する。細胞学的な染料は、ライト・ギムザ染料または当分野で公知の他の細胞学的な染料(これらに限定されない。)を含む。例えば、B.F.Atkinson,Atlas of Diagnostic Cytopathology、第2版、W.B.Saunders Company編、2003を参照(これは全体が参照によりここに組み込まれる。)。細胞特異的なマーカーは、サイトケラチン、CD45、M30、ケモカイン・レセプター、CXCRl、CXCR4、CD44、CD24、血管内皮の成長因子(VEGF)、上皮成長因子レセプター(EGFR)またはmRNA安定性因子HuRについてのマーカー(これらに限定されない。)を含む。これらのマーカーは、造血性を起源とする細胞、上皮細胞でのサイトケラチン、乳癌細胞、前立腺の癌細胞、CD44、ヒアルロン酸を識別する細胞表面レセプター、CXCRlまたはCXCR4のようなケモカイン・レセプターの細胞を含む種々の細胞型を同定する。
・・・
【0060】
癌治療
「固形腫瘍」は、肉腫、黒色腫、癌腫または他の充実性腫瘍癌を含むが、これに限定されるものではない。
【0061】
「肉腫」は、胎児結合組織のような物質から作成され、原繊維中にまたは均一な物質中に封埋された密接に詰められた細胞から一般に構成される腫瘍を指す。肉腫としては、軟骨肉腫、線維肉腫、リンパ肉腫、黒色肉腫、粘液肉腫、骨肉腫、アベメシーの肉腫、脂肪肉腫、脂肪肉腫、蜂窩性軟部肉腫、エナメル芽細胞の肉腫、ブドウ状肉腫、緑色腫肉腫、コリオ(chorio)癌腫、胎児性肉腫、ウィルムス腫瘍肉腫、子宮内膜肉腫、間質性肉腫、ユーイング肉腫、筋膜肉腫、線維形成肉腫、巨細胞肉腫、顆粒球性肉腫、ホジキン肉腫、特発性多発性色素性出血肉腫、B細胞の免疫芽球性肉腫、リンパ腫、T細胞の免疫芽球性肉腫、イェンセン肉腫、カポジ肉腫、クッパー細胞肉腫、血管肉腫、白血肉腫、悪性間葉腫肉腫、傍骨性骨肉腫、網状赤血球肉腫、ラウス肉腫、漿液嚢胞性肉腫、滑膜肉腫および末梢血管拡張の肉腫が挙げられる(これらに限定されない。)。
・・・
【0063】
「癌腫」は周囲の組織を浸潤して、転移を生じる傾向がある上皮細胞から新たに育成される悪性腫瘍を指す。典型的な癌腫は、例えば、小葉癌、小葉癌、腺嚢癌腫、腺様嚢胞癌、腺癌、副腎皮質癌、細気管支肺胞上皮癌、細気管支肺胞上皮癌、基底細胞癌、基底細胞癌、類基底細胞癌、基底有棘細胞癌、肺胞上皮癌、細気管支癌、気管支癌、大脳様癌、胆管セル肺門癌、絨毛癌、膠様癌、面皰癌、子宮体部癌、篩状癌、鎧状癌、皮膚癌、円筒状癌、円柱細胞癌、腺管癌、癌デューラム、胎児性癌、髄様癌、エピエルモイド(類表皮、epiermoid)癌、上皮細胞癌アデノイド、外向発育癌、潰瘍性癌、線維癌、膠様癌、コロイド腺癌、巨細胞癌、巨大細胞癌、腺癌、顆粒膜細胞癌、毛母癌、血様癌、肝細胞癌、ヒュルトレ細胞癌、硝子質の癌、ハイペモフロイド(hypemephroid)癌、小児胎児性癌、上皮内癌、表皮内癌、上皮内癌腫、クロンペシャー(Krompecher)の癌、キルキスキー(Kulchitzky)-細胞癌、大細胞型癌、レンズ状癌、レンチキュラー(lenticulare)癌、脂肪腫様癌、リンパ上皮癌、メデラレ(medullare)癌、髄様癌、黒色癌、モレ(molle)癌、粘液癌、粘液分泌癌、ムコセルラー(mucocellulare)癌、ムコエピデルノイド(mucoepidernoid)癌、粘液癌、粘液性癌、粘液腫様癌、ナスファリンゲル(上咽頭、naspharyngeal)癌、燕麦細胞癌、骨化性癌、類骨の癌、乳頭状癌、門脈周囲癌、上皮内癌、有棘細胞癌、軟性癌、腎臓の腎細胞癌、補充細胞癌、サルコマトドス(sarcomatodes)癌、シュネイデリアン(schneiderian)癌、硬癌、陰嚢癌、印環細胞癌、単純癌、小細胞型癌、ソラノイド(solanoid)癌、回転楕円面細胞癌腫、紡錘体細胞癌、海綿様癌、扁平上皮癌、有棘細胞癌、ストリング癌、血管拡張癌、毛細血管拡張癌、移行上皮癌、結節癌、結節癌、疣状癌およびビフロスム(viflosum)癌が挙げられる。
【0064】
「白血病」は造血臓器の進行性の悪性疾患を指し、血液と骨髄での白血球とそれらの前駆体の歪んだ増殖および発症によって一般に特徴づけられる。白血病は、(1)この疾患の期間および急性または慢性の性質、(2)関与した細胞の型;骨髄性である(骨髄性)か、リンパ様である(リンパ向性の)か、単球であるか;および(3)血中白血性であるまたは無白血性(亜白血性)である異常細胞の数における増大または非増大らに基づいて、一般に臨床的に分別される。白血病としては、例えば、急性非リンパ性白血病、慢性リンパ性白血病、急性顆粒球性白血病、慢性顆粒球性白血病、急性前骨髄球性白血病、成人T細胞白血病、非白血球増加性白血症、ロイコ細胞血液白血病、好塩基性白血病、芽球白血病、ウシ白血病、慢性骨髄性白血病、皮膚白血病、幹細胞性白血病、好酸球性白血病、グロースの白血病、ヘアリーセル白血病、血芽細胞性白血病、血細胞芽細胞性の白血病、組織球性白血病、幹細胞性白血病、急性単球白血病、白血球減少症白血病、リンパ性白血病、リンパ芽球性白血病、リンパ球性白血病、リンパ性白血病、リンパ性白血病、リンパ肉腫細胞白血病、肥満細胞白血病、巨核球性白血病、小骨髄芽球性白血病、単球白血病、ミエロブラスト白血病、骨髄性白血病、骨髄性の顆粒球性白血病、骨髄単球性白血病、ネーゲリ白血病、形質細胞白血病、プラズマ細胞性白血病、前骨髄球性白血病、リーダー球性白血病、シリング白血病、幹細胞性白血病、亜白血性白血病および未分化細胞白血病が挙げられる。」
(カ)例示的な実施態様
「【実施例1】
【0075】
FASTシステム、自動化デジタル顕微鏡観察と循環腫瘍細胞の同定
サンプル調製:患者サンプルの細胞付着および免疫蛍光標識化
血液サンプルは、前述したプロトコールの修正された変形を使用して、大きい支持体(9.5×4.5cmの活性領域を有する10.8×7.6cm)の上で処理される。Kraeftら、Methods Mol Med 75:423-30、2003。簡潔に説明すると、エチレンジアミン四酢酸(EDTA)で血液凝固を阻止された血液を、室温で5分間等張性塩化アンモニウム緩衝液(NH4Cl155mM、KHCO310mM、0.1mMEDTA、pH7.4)で溶解させる。遠心の後、残留する単核細胞ペレットを洗浄し、リン酸緩衝食塩水(PBS)に再懸濁させ、生きている末梢血単核細胞の総数を、あつらえ設計された接着性支持体(Paul Marienfeld GmbH & Co.、KG、バートメルゲントハイム、ドイツ)に付着させる。細胞を、PBSの中37℃40分間温置し、血清タンパク質(10%のウシ胎児血清)を含有する培養培地(45%のダルベッコの修飾イーグル培地(DMEM)45%RPMI)を添加して、付着を促進し、温置をさらに20分間続ける。沈着した細胞を20分間、2%のパラホルムアルデヒド(pH7.2-7.4)中で固定し、PBSで二回洗浄し、さらに、固定し、5分間氷冷メタノールで透過性にし、PBSで洗浄し、37℃にて20分間PBS中で20%ヒトAB血清(ナビ・ダイアグノスティックス(Nabi Diagnostics)、フロリダ州ボカラトン(Boca Raton,FL))により遮断する。次いで、支持体を、ヒトサイトケラチン1、4、5、6、8、10、13、18および19を認識する単一クローン系抗パン・サイトケラチン抗体(H-1388、Sigma、セントルイス、ミズーリ州)と、1時間37℃で温置する。その後、支持体を、PBS中にて洗浄し、Alexaフルオロ488およびAlexaフルオロ555連合ヤギ抗マウス抗体(A-21121およびA-21425、Molecular Probes、オレゴン州ユージン)の混合物と、30分間37℃で温置する。核対比染色を、PBS中の0.5μg/ml 4’,6-ジアミジノ-2-フェニルインドール(DAPl)(D-21490、Molecular Probes)を用いて20分間室温で行う。支持体を、水性充填剤(20mMトリス(pH8.0)、0.5%のn-プロピル没食子酸塩および90%のグリセロール)中に充填し、充填剤が乾燥するまで一夜暗所に置いた後、先端をマニキュア液で封着する。
【0076】
FASTシステム
FASTスキャナは、98%の感度および10-5の特異性により25M細胞/分の速度にてサンプルを走査する。(Krivacicら、Proc Natl Acad Sci USA 101:10501-10504,2004。走査速度(100本のライン/秒)は、高速レーザーラスタからもたらせられる。10mWアルゴンイオンレーザーは、標識された細胞中の傾向を励起し、大きい(50mm)視野で光が収集される。この視野は、図1に示すように非対称の末端を有する光ファイバー束によって可能になる。ファイバー束は、0.66の開口数を有する。走査システム(12μm)の解像度は、走査レーザーの点寸法で決定される。蛍光プローブからの発光を、光電子増倍管で検出の前に、標準の二色性フィルターを使用してフィルターにかける。l0m/秒のレーザー走査速度は、検流計により制御された走査鏡により達成される。サンプルを、1秒当たり3mmの速度で、顕微鏡ステージ上をレーザー走査経路を直角に横切って移動させる。蛍光で標識された細胞の位置および発光時点でのステージ位置を+/-70μmの精度にて走査により測定する。FAST光学系の発光検知閾値は、FASTにて同定された対象を画像処理するADMに匹敵し、後述される。細胞系モデルサンプルを用いるFAST感度および特異性の決定、ならびにFAST光学システムの細目は、いたるところで記載されている。Kraeftら、Clin Cancer Res 10:3020-8,2004。
【0077】
顕微鏡
自動化デジタル顕微鏡(ADM)は、Nikon(ニューヨーク州メルヴィル)TE2000U蛍光倒立顕微鏡である。20X Plan Fluor(追加の長い作業長(NA=0.45))顕微鏡対物レンズを最初の画像獲得のために使用し、40X Plan Fluor(追加の長い作業長(NA=0.6))対物レンズを細胞分析のために画像を得るために使用する。20Xと40X対物レンズのための作業長は、それぞれ7.4mmおよび2.7-3.7mm(修正カラー)である。これらの対物レンズを通しての視野直径は1.1mmおよび0.55mmであるが、実像寸法は画像処理CCDによって制限される。この顕微鏡は、DAPI、フルオレッセン・イソチオシアナート(FITC)およびテトラメチル・ロダミン・イソチオシアナート(TRITC)(61000V2、Chroma Technology、ロッキンガム、バーモント州)について三重バンドフィルターセットを有する自動化励起および発光フィルタホイール(Lamda 10-2、Sutter Instrument、カリフォルニア州ノバルト(Novalto、CA))を有する。デジタル画像は、Retiga EXi Fast 1394単色デジタル・カメラ(Qimaging、バーナビー、BC、カナダ)によって得られる。このカメラは、6.45μm平方ピクセルの1392×1040を有する。このように20X対物レンズを通して、実際の撮像領域は、448μm×335μmである。このカメラは側面のポートの上に取り付けられ、収集された光の80%を受けとる。アナログ・ビデオ・オートフォーカス・アルゴリズムによるX-Y-Z段階(MS-2000、Applied Scientific Instrumentation、オレゴン州ユージン(Eugene、OR))を使用して、サンプルを所定のX,Y位置の方へ移動させ、ニコン顕微鏡の微細な焦点軸に装着したZ-駆動装置を使用して最高の焦点面を得る。自動焦点調整のフィードバックは、三眼頭部を通してDAPI信号の20%を感知し、コントラスト比較のためにMS-2000コントローラに、信号強度を供給するモノクロ・ビデオ・カメラ(CCD100、DAGE-MTI Inc.、インディアナ州ミシガンシティ(Michigan City,IN))によって可能になる。フィルタ・チェンジャー、シャッターおよびデジタル・カメラの全ては、市販ソフトウェアパッケージ(SimplePCI+AIC、Compix Inc.、ペンシルベニア州クランベリー・タウンシップ(Cranberry Township、PA))によって制御され、ステージが新しい位置の方へ動かされるたびに、自動焦点調整を起動する。
【0078】
CTC同定
CTCは、40X、2つのサイトケラチン(CK)二次抗体およびDAPI核染色法から蛍光を示す3色蛍光画像から同定される。CTC同定は、対象の状態を知らされていない少なくとも1人の病理学者によって独立に行われる。CTC同定判定基準は、DAPI蛍光と組み合わされたAlexa 555およびAlexa 488の両方における適切なCK典型的染色パターンを示すCK陽性蛍光からなる。典型的な形態的特徴としては、拡大円形細胞および核、高い核対細胞質の比ならびに基礎をなす細胞骨格に似ている横紋サイトケラチン蛍光を含む。無傷の、明瞭な細胞だけを、本研究においてCTCとして計算に入れる(図2)。偽陽性は、主に抗体凝集体の結果である。
・・・
【0080】
ライト・ギムザ染色
カバーガラスを蛍光で染色されたスライドから除去し、PBSで洗浄する。このスライドは、次いで3分間ライト・ギムザ染色(Fisher Scientific、ミシガン州カラマズー(Kalamazoo,MI))で浸漬される。リン酸塩緩衝液(pH 6.8)(Fisher Scientific、ミシガン州カラマズー(Kalamazoo,MI))1.5mlを、染料で被覆されたスライドに加え、染料および緩衝液を、1分の間穏やかに揺動させることによって共に混合する。その後、この混合物を、さらに2分間スライド上に置き、次にこのスライドを脱イオン水で洗浄し、空気で乾燥させる。
【実施例2】
【0081】
FAST技術によって循環腫瘍細胞を配置すること
FAST技術は、CTCをIV期乳癌患者からの血液サンプル中にて迅速に位置づけるのに用いられてきた。FAST走査で同定される蛍光観察対象は、次に蛍光顕微鏡の上で自動化段階で再配置されて、デジタルカメラで画像処理される。観察対象の高分解画像を、続いてCTCに関して分析する。FAST位置精度は、+/-70のμmであり、これは、20X顕微鏡での画像化視野(448μm×335μm)における自動再配置についてより、より適切である。FAST同定された観察対象のADM再配置を、完全に自動化する。線列マーク(FASTに見える20μm基準の十字線および明視野顕微鏡観察)を、FAST同定された観察対象位置を顕微鏡座標系に変換するのに用いる。自動焦点調整が、白血球細胞のDAPI染色を独立に使用して各画像に焦点を合わせるのに用いられる。
【0082】
ADMにおける、FASTで同定された観察対象を再配置および画像処理するための時間は、対象当たり約8秒である。これは、暴露およびフィルター交換のための2.5秒、ステージ移動および定着のための1.5秒、オートフォーカスのための3秒、加えて他の中間段階およびネットワーク化された取付ストレージにデータを書き込むための1秒を含む。10-5秒の特異性での、60M-細胞サンプル(これは、通常10mlサンプルである)の分析は、600の観察対象について画像取得を必要とし、約80分かかる。
・・・
【実施例3】
【0088】
循環腫瘍の検出およびFAST画像分析の最適化
自動化デジタル顕微鏡観察画像処理は、FASTによって位置決めされた蛍光対象につき約8秒必要であり、これは、現在の特異性での患者画像取得時間について80分になる。この取得時間は調査には適切であるが、臨床検査室での適用のためにはより早い取得が有益であろう。CTC検出の速度を上昇させるために、データ取得時間を減らすために2つのアプローチを探査し、特異性を改良して、顕微鏡走査時間を減らす。
・・・
【0097】
最後に、患者における癌の臨床診断は、標準の組織学上の染色を使用している悪性細胞の病理学的評価を実行する能力によって、実質的に利益を得る。ライト・ゲムザ染色は臨床末梢血試料の上で最も一般的に用いられる染料であるので、ライト・ギムザ染色は現在の代表的な実施形態において使われている。細胞をFASTにより再訪問および再染色する能力は、この技術を、末梢血液サンプルからの癌の形態学的診断のための可能な機構とする。免疫蛍光の画像に単独で癌の診断をさせることを信頼する臨床医はほとんどいないので、CTCの分析が、検出可能な転移性疾患を有することが他の点ではわかっていない患者集団に適用されることになっている場合、この能力は必須である。補助的評価技術を組み込む病理学者による無傷の細胞の慎重な細胞形態の評価は、限定数の悪性細胞からの癌の診断のための貴重な基準であり続ける。血中の乳癌細胞がこれらの希少性のために形態学的に広範囲に研究されておらず、他の身体部位に比べて異なる形態学上の特徴を有する可能性があるので、乳癌患者の広いアレイからのCTCの画像ギャラリーまたは「地図帳」は、診断進化の一部として獲得される必要がある。FASTは、このような画像の「地図帳」を作成するための理想的な道具である。
・・・
【実施例5】
【0104】
CTCの形態学上特性:4つの認識できるサブタイプ
ライト・ギムザ染色された細胞によって提供される形態学の細目により、形態学の基準が、以前に報告されたことより拡張された。Fehmらによって報告された蛍光分析を補足して、ライト・ギムザ染色、続いて光学顕微鏡分析は、詳細な核と細胞質の情報を生み出し、癌の形態学上の細胞病理学的診断のために必要とされる特徴を強調する。Fehmら、Cytotherapy 7:171-185,2005。加えて、これは、原発性および転移性の腫瘍組織で見られるものに類似する可変の核対細胞質の比によるCTCの同定を可能にし、これらは、CTC集団の一部とみなされることを示唆している。CTCの蛍光および光学顕微鏡分析は、CTCの患者の間およびこの患者の小集団の患者内の両方の全血調製において高度な多形性を示した。下で詳説されるとおり、ライト・ギムザで染色されたCTCの分析は、いくつかの形態学のサブタイプでCTCを分別するのに用いられた。
【0105】
患者のCTCを、以下の4つの形態学上のタイプに分別した:1)高いN/C(核対細胞質)比を示す無傷の細胞、2)低から中等度のN/C比を示す無傷の細胞、3)初期アポトーシスの形態学上の特徴を示す細胞、および、4)後期アポトーシスの形態学上の特徴を示す細胞。これらのカテゴリーのCTC例は図6に示され、この分別を使用する患者AからFに見られるCTCの比率は表2に示される。分別法カテゴリーは、さらに詳細に述べられる。
・・・
【実施例7】
【0118】
患者からの循環腫瘍細胞の画像は、異なった細胞集団の形態を示す
希少性のために、乳癌CTCは、大規模に形態学的調査され始めたばかりである。本発明のプロトコールおよび技術により、種々の患者から、標準の病理学染料により染色されたCTC画像のギャラリーを作り出すことができ、CTCの形態を新たに利用できる組織区画における異なる細胞集団として記述することが始まる。
【0119】
標準の病理学慣習において使われているように、ライト・ギムザのような染料は、核細目、核輪郭、核小体の存在または不存在、細胞質の品質および細胞質の量に関する情報をもたらし、組織サンプル中の悪性腫瘍細胞と良性のバックグラウンド細胞との間の区別を可能にする。ライト・ギムザ染色の使用は、他の腫瘍部位から回収された腫瘍細胞とCTCとの形態学上の比較を可能にすることへの助けとなった。
【0120】
蛍光およびライト・ギムザ染色を使用するCTCの最新の分別は、一般にCTCの形態学的観察の他の報告と一致するが、循環集団の中のより小型の低いN/C比細胞の亜集団の存在を提案することによって、以前のCTC分別カテゴリーを拡張する。Fehmら、Cytotherapy 7:171-185,2005。さらに、先の研究者によって報告されたように、アポトーシス細胞の存在が形態学的に確認され、この集団は、初期および後期の変化を示す細胞にさらに下位分別された。Larsonら、Cytometry A 62:46-53,2004;Mehesら、Am J Pathol 159:17-20,2001。
・・・
【0124】
FAST走査と縦に並んだ細胞付着プロトコールは、臨床医または病理学者が高感度で特異的な検出方法を続いてのCTC分析と組み合わせることを可能にし、重要なことであるが、細胞形態上の診断を含む更なる研究のために、目的の細胞をこれらの定位置に再配置する方法を提供する。この分析にライト・ギムザ染色を含めることにより、転移性乳癌患者の末梢血において見られるCTCの型の分別における標準的な細胞病理学的方法を含めることを可能にした。患者間および患者内のCTC異質性が示された。この研究は、個人における転移の広がりのパターンを予測し得る既存のおよび新しく開発される細胞生物マーカーにより拡張されよう。また、この研究は、特に癌が診断されなかった個人において、検出された循環上皮細胞の起源の組織を同定することに役立ち得る。追加のタンパク質マーカーを用いてCTCを調べる能力は、末梢血サンプルからの上皮悪性病変の選別および診断を可能にしよう。
・・・
【0127】
当業者は、本発明の実施態様に多数の変更及び修飾をなすことが可能であることおよびこのような変更および修飾はこの発明の趣旨から逸脱することなく行うことができることを理解する。従って、添付の特許請求の範囲は、全てのこのような均等な変形を、本発明の真の趣旨および範囲に入るように、網羅していることが意図されている。」
イ 引用文献1に記載された発明
記載事項(エ)の「本発明は、一般に、哺乳類の対象における循環腫瘍細胞(CTC)を検出する方法または哺乳類の対象において癌を診断する方法に関する。」(段落【0008】)との記載に基づけば、「CTC」は「循環腫瘍細胞」の略称である。また、「試料中の循環腫瘍細胞の存在は、限定されないが、リンパ腫、骨髄腫、神経芽細胞腫、乳癌、卵巣癌、肺癌、横紋筋肉腫、小細胞型肺腫瘍、原発性脳腫瘍、胃癌、大腸癌、膵臓癌、尿膀胱癌、精巣癌、リンパ腫、甲状腺癌、神経芽細胞腫、食道癌、尿生殖路癌、子宮頸癌、子宮体癌、副腎皮質性の癌または前立腺癌を含む癌の存在を示す。」(段落【0011】)との記載に基づけば、「循環腫瘍細胞」を検出することにより、リンパ腫等を含む様々な癌の存在が示されると理解できる。
また、記載事項(オ)の「FAST血球計数器は、従来の自動化デジタル顕微鏡観察より500倍速い走査速度でガラス支持体上の免疫蛍光で標識された希少細胞の位置決めをすることができる。」(段落【0024】)との記載に基づけば、「希少細胞」は「免疫蛍光で標識された」細胞であり、「FAST血球計数器」の「ガラス支持体」上で位置決めされるものと理解できる。
上記検討事項と、記載事項(オ)の特に段落【0020】及び段落【0038】の記載に基づけば、引用文献1には、次の発明(以下「引用発明」という。)が記載されていると認められる。
「癌患者における血中の循環腫瘍細胞(CTC)を検出するための、ファイバーアレイ走査技術(FAST)と組み合わせた、血液サンプル中の、上皮由来の細胞を同定する細胞付着プロトコールであって、
生きている白血球(WBC)および血液中の他の細胞を、生物学的単層としてスライド上に単離し、白血球(WBC)および循環腫瘍細胞(CTC)を、接着性スライドの上に付着させ、
固定化および透過化処理の後、
スライド面上にてサイトケラチン(CK)抗体カクテルにて免疫蛍光により標識し、
スライドをFASTによって分析し、各々のスライドの免疫蛍光で標識された希少細胞を、FAST血球計数器のガラス支持体上で位置決めすることでその配置を得て、
この同じ細胞を、循環腫瘍細胞(CTC)の形態、寸法および異質性に対する洞察を提供する標準のライト・ギムザ染色を使用して再染色する、
プロトコール。」
(2)引用文献2
ア 引用文献2の記載事項
原査定の拒絶の理由で引用され、本願の優先権主張の日前の2014年11月20日に電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった引用文献である、国際公開第2014/185151号(以下「引用文献2」という。)には、以下の記載事項がある。
(ア)技術分野
「[0001] 本発明は、細胞の染色方法及びその方法に使用する検体採取管に関する。更に詳しくは、細胞染色における細胞の細胞固定化、浸透化及び/又は標識化の方法、並びに、その細胞の固定化、浸透化及び/又は標識化の方法に使用する検体採取管に関する。」
(イ)発明が解決しようとする課題
「[0009] 本発明は、液体検体中の検出対象細胞に発現している特定の物質を特異的に染色する場合において、採取した検体中の細胞の損傷及び損失(流出)を防ぎ、かつ、液体検体中の細胞の染色手順において、時間が短縮された簡便な細胞染色方法を提供することを課題とする。更に、本発明は、上記の細胞染色方法に用いるのに適した検体採取管を提供することを課題とする。」
(ウ)課題を解決するための手段
「[0010] 本発明者らは、液体検体中の細胞の染色手順を検討したところ、細胞の固定化処理の後に、固定化処理剤を除かなくても、その後の細胞の浸透化処理や細胞が有する特定の物質の標識処理に問題がないことを発見し、細胞の固定化処理工程及び細胞の浸透化処理工程を一つの工程で行うことができることを見出した。その結果、細胞の遠心分離及び洗浄の回数が減少し、検体中の細胞の損傷及び損失(流出)が防止され、また、細胞染色手順における時間短縮及び簡便化を図ることができ、本発明を完成させるに至った。更に、本発明者らは、上記工程に加えて細胞が有する特定の物質の標識処理工程を一つの工程で実施することにより、より簡便に細胞染色手順を実施することができることを見出し、本発明を完成させるに至った。」
(エ)発明の効果
「[0013] 本発明の方法によれば、液体検体中の検出対象細胞に発現している特定の物質を特異的に染色する場合において、細胞の洗浄回数を低減させて採取した検体中の細胞の損傷及び損失(流出)を防ぎ、その結果、細胞診の検査精度が向上させることができる。更に、本発明の方法によれば、液体検体中の細胞の染色手順において、時間が短縮された簡便な細胞染色方法を提供することができる。」
(オ)発明を実施するための形態
「[0016] 1.本発明の細胞染色方法
本発明の細胞染色方法は、
『検体中の細胞が有する特定の物質を特異的に染色する方法であって、
(A)前記細胞の固定化処理をする工程、及び
(B)前記細胞の浸透化処理をする工程を
一つの工程で実施する方法。』
である。
[0017] (検体)
本発明が対象とする検体は、ヒトや動物から採取された、細胞を含む検体である。本発明の効果の点から、本発明が対象とする好ましい検体は、液状の検体である。このような検体の例として代表的なものは、血液(血清、血漿を含む)及び尿である。また、生体から剥離した細胞を対象とする場合も、所定の方法に従って細胞懸濁液を作製して、液状の検体とすることもできる。
・・・
[0019] (細胞が有する特定の物質)
本発明の染色方法は、検出対象細胞が有する特定の物質を特異的に染色する方法であり、例えば、検体に検出対象細胞が含まれているかの判定や検体に含まれている細胞を観察するために実施することができる。この場合、染色する特定の物質は、通常行われているように、検出対象細胞に応じて合目的的に選定すればよい。例えば、前立腺癌細胞を検出するためには前立腺特異抗原(prostate specific antigen、PSA)を特異的に染色することができ、また、癌細胞を対象として観察するためにはその癌細胞での発現に応じて選定した特定のサイトケラチンを特異的に染色することができる。
[0020] (細胞染色方法)
本発明における、検体中の細胞が有する特定の物質を特異的に染色する方法(以下、単に細胞染色方法という)は、採取した検体中の細胞の固定化処理と浸透化処理を一つの工程で実施する。具体的には、例えば検体が血液である場合、まず該血液の固定化処理と浸透化処理を一つの工程で行い、次いで、前記特定の物質を特異的に標識処理する工程を行い、好ましくは、その後洗浄し、顕微鏡等で観察することができる。この場合、検体採取後、最初に、血液の抗凝固処理を実施した上で、次に、上記の固定化処理と浸透化処理を一つの工程で行うこともでき、また、この場合の血液の抗凝固化処理、細胞の固定化処理及び細胞の浸透化処理を一つの工程で行うこともできる。更に、本発明の好ましい態様の一つとして、前記細胞の固定化処理、前記細胞の浸透化処理及び前記特定の物質を特異的に標識処理する工程を一つの工程で行うこともできる(更に、前記の血液の抗凝固化処理も一つの工程で行うこともできる)。
[0021] ここで、「一つの工程で行う」とは、「添加した固定化剤を除く洗浄を行うことなく、その工程内の一連の処理を実施すること」、又は、「添加した固定化剤及び浸透化剤を除く洗浄を行うことなく、その工程内の一連の処理を実施すること」を意味する。通常、細胞の染色においては、細胞の固定化処理を行った後に洗浄(固定化剤を除くための洗浄)を行い、続いて、細胞の浸透化処理へと進み、更に、必要に応じて洗浄(浸透化剤を除くための洗浄)を行った後、標識処理へと進む。そして、この場合の洗浄方法は、細胞を含む検体にリン酸緩衝食塩水その他の洗浄液を加えて遠心分離処理を行い、上清を取り除くことによるものである。しかし、本発明では、細胞の固定化処理及び細胞の浸透化処理を一つの工程で実施する態様の場合には、これらの処理の間で、上記のような固定化剤を除く洗浄は行わない。また、本発明では、細胞の固定化処理、細胞の浸透化処理及び特定の物質の標識処理を一つの工程で実施する態様の場合には、これらの処理の間で上記のような固定化剤及び浸透化剤を除く洗浄は行わない。なお、前記の検出対象細胞画分の取得操作は、必要に応じて、上記の一つの工程内、例えば、細胞の固定化処理と細胞の浸透化処理の間に実施してもよいことは、前記の通りである。
[0022] なお、本発明の好ましい態様の一つとして、細胞の固定化処理及び細胞の浸透化処理に加えて、特定物質の標識処理や血液の抗凝固化処理も同じ一つの工程で実施できることは前記の通りであるが、この場合、好ましくは、特定物質の標識処理後に、特定物質と結合していない未反応の標識体を除くための洗浄を行った後、顕微鏡等で観察すれば、バックグランドのノイズを低減できる。
上記の細胞の固定化処理及び細胞の浸透化処理は、検体に固定化剤及び浸透化剤を添加して、通常は10分~1時間室温で放置することにより行う。この場合、特定の物質の標識化処理及び血液の抗凝固化処理も合せて一つの工程で行う場合には、更に、特定の物質を特異的に捕捉する物質と標識体(例えば、標識体が結合した抗体)及び抗凝固剤も合せて添加することができ、この場合の処理も、通常は10分~1時間室温で放置することにより行う。
[0024] (抗凝固剤)
血液は体外に出すと液体がゲル状に変わり、血液凝固する。従って、検体が血液の場合は、検査の目的によって血液凝固を防ぐ必要がある場合は、検体採取後、抗凝固剤を検体に添加する。検体が血液である場合に本発明で使用する抗凝固剤は、特に制限はなく、通常用いられているもの、例えば、エチレンジアミン四酢酸(EDTA)、ジエチレントリアミン五酢酸(DTPA)、1,2-ジアミノシクロヘキサン四酢酸(DCTA)、エチレンビス(オキシエチレンニトリロ)四酢酸(EGTA)やヘパリン、ヘパリン硫酸、低分子ヘパリン等のヘパリン種、クエン酸、シュウ酸等が挙げられる。これらの血液凝固剤の添加濃度も通常行われている通りでよい。
[0025] (固定化剤)
細胞の固定化処理とは、細胞の自己分解や腐敗を遅延させるとともに、形態及び抗原性を保持する目的で行われる処理である。本発明で用いる固定化剤は、特に制限はなく、通常用いられている、例えば、アルデヒド類(例えば、ホルムアルデヒド、グルタルアルデヒド、グリオキサール等)やアルコール類(例えば、エタノール、メタノール等)を用いることができる。また、それ自体が固定化剤として直接作用するものではないが、それ自体が加水分解等を受けることによって、例えばホルムアルデヒド等の固定化剤を遊離するような、例えばホルムアルデヒド供与体(ホルムアルデヒドドナー又はFAドナーともいう。)等も固定化剤として使用可能である。
・・・
[0028] (浸透化剤)
細胞の浸透化処理とは、例えば、細胞が有する特定の物質(例えば、細胞内の抗原)とこの特定の物質を捕捉する物質(例えば、抗体)とを接触させるために、細胞膜の透過性を上げる処理である。本発明で使用する浸透化剤は、特に制限はない。通常用いられているTritonX-100、Tween20、Saponin、Digitoni、Leucoperm、NP-40等の界面活性剤を、通常行われている濃度で、例えば、検体の容量に対して0.01~0.5容量%となるように、検体に添加して、浸透化処理を行うことができる。
[0029] (標識処理)
本発明における細胞が有する特定の物質の標識処理の方法は、細胞及び標識する特定の物質に応じた合目的的な方法であれば特に制限はなく、通常、特定の物質を特異的に捕捉する物質と標識体を用いて行う。この場合の特定物質の捕捉方法としては、例えば、細胞が有する特定の物質を抗原として、これと特異的に結合する抗体を用いる抗原抗体法や、特定の物質が糖鎖を有する物質の場合、その糖鎖と特異的に結合するレクチンを用いる方法等が挙げられる。」
(カ)実施例
「[0043] 以下、本発明について実施例を挙げて更に詳細に説明するが、本発明はこれらに限定されない。
・・・
[0045] [実施例1]
(抗凝固化処理、固定化処理、浸透化処理及び標識化処理を一工程で行う細胞染色法)
抗凝固剤(EDTA)と細胞固定化剤(分析結果から、ジアゾリジニル尿素やイミダゾリジニル尿素等のホルムアルデヒド供与体と推定される)を含む採血管としてCyto-chex採血管(Streck製)を用い、採取した血液にMCF-7細胞(乳癌細胞)を添加し、血液循環がん細胞のモデルとした。その一部200μLに対し0.1%となるようにTween20を加え、続いて、FITC標識抗サイトケラチン抗体、PE標識抗CD45抗体、及びHoechstを加えて30分間反応させた。その一部を血球計算盤にて顕微鏡下で蛍光観察を行った。
・・・
[0047] [実施例2]
(密度勾配遠心法を組み合わせた実施例)
抗凝固剤としてEDTAを含む採血管(テルモ製)を用いた。採取した血液にMCF-7細胞(乳癌細胞)を添加し、血液循環がん細胞のモデルとし、20%中性緩衝ホルマリン液(和光純薬)を用いて固定化を行った。20%中性緩衝ホルマリン液はPBSにて希釈を行い、血液3mLに対し、ホルムアルデヒドの終濃度が0.08%になるように加え、10回転倒して混和させた。この血液を、0.5%BSAを含むPBSで2倍に希釈し、そのうち4mLをあらかじめ密度勾配遠心用分離媒体(Ficoll、比重1.077)3mLを入れたチューブに重層し、室温にて400gで40分遠心分離を行った。遠心後、赤血球層以外の全層を採取し、その一部に0.1%となるようにTween20を加え、続いて、FITC標識抗サイトケラチン抗体、PE標識抗CD45抗体、及びHoechstを加えて20分間反応させ、一部を血球計算盤にて顕微鏡下で蛍光観察を行った。」
イ 引用文献に記載された技術的事項
上記記載事項に基づけば、引用文献2には、次の技術的事項が記載されているものと認められる。
「血液等の検体中の細胞が有する特定の物質を特異的に染色する方法において、細胞染色手順を実施した後に、血球計算板上にて顕微鏡下で蛍光観察を行うこと。」
(3)周知技術
ア 引用文献3の記載事項
原査定の拒絶の理由において周知技術を示す文献として引用され、本願の優先権主張の日前の平成24年10月22日に頒布された引用文献である、特表2012-525592号公報(以下「引用文献3」という。)には、以下の記載事項がある。
(ア)技術分野
「【0002】
発明の分野
本発明は、流体の組成および成分を判定するためのシステムおよびプロセスに関する。具体的には、本発明は、細胞の形態を観察し、体液の一部分における特定の種類の細胞の数を判定するための改良された技術を提供する。」
(イ)背景技術
「【0003】
発明の背景
病理学は、採集され、固定または空気乾燥され、次いで核および細胞質の両方の特徴を強調する染色剤によって視覚化された個々の細胞の形態の検査を含む方法によって、医療専門家が疾病の有無を判定する医学の分野である。細胞の採集は、人間の体液の一部分を取得し、体液をスライド上に配置し、顕微鏡を使用してスライド上の流体を観察することを伴うことが多い。
・・・
【0013】
形態を変形させず、かつ均一で定量可能な数の細胞がスライド上に配置されることになる細胞学試料の調製法は、現在の調製法の制約を克服するであろう。
【0014】
体液に関する他の例は、末梢血中を循環しているかもしれない細胞または細胞成分の検出を含む。たとえば、非血液腫瘍からの細胞が血液中で発見され得、スライドの目視検査または自動化された検査によって検出されることができる。抗体などの特殊なマーカがこれらの細胞をタグ付けするために使用され得る。特定のタンパク質などの他の細胞成分も血液中の細胞内または細胞外において存在し得、典型的にこれらのスライドをタグ付けするためにあるマーカを使用することによって、スライド上で評価されることができる。血球中のある混入物、たとえば寄生生物も検出可能である。」
(ウ)課題を解決するための手段
「【0015】
本発明は、体液からの細胞を調製しスライド上に塗布するための改良されたシステムおよび方法を提供する。また、細胞を撮像するためのシステムおよび方法が提供される。画像は、画像ベースの算定および細胞の形態の評価を含む試験を行なうために、後で使用され得る。本発明は、血液、骨髄、尿、膣組織、上皮組織、腫瘍、精液、唾液、および他の流体を含む体液からの種々の細胞に対して使用され得る。
・・・
【0018】
本発明の局面は、体液からの細胞のスライドへの塗布に関連し、場合によっては体液に含有される細胞を希釈剤と混合することと、溶液から既知の量の小口試料(一定分量)を採集することと、次いで投与装置またはアプリケータを使用してスライドなどの基層上に一定分量を堆積させることとを含み得る。細胞は、予期される検査に依存して、大気乾燥されるか、(固定液を使用して)固定されるか、またはその両方であり得る。細胞は染色もされ得る。基層上の染色された細胞は、コンピュータを利用した自動撮像システムによって算定され検査され得るか、または手作業による顕微鏡検査によって観察され得る。手作業による顕微鏡検査の必要性を低減するため、コンピュータディスプレイにデジタル画像が示され得る。」
(エ)発明を実施するための形態
「【0030】
アプリケータ400
ある実施例では、アプリケータ400は、チューブによってアプリケータチップ405に取付けられた注射器、手動もしくは電動ピペッタ、またはモータ制御ポンプを含み得る。多くの異なる種類のピペットまたは注射器を使用することができるが、向上した結果を示した試験結果は、2%よりも良い精度を有するアプリケータ400を使用することによって得ることができる。ポンプは、細胞を含有する小量の流体試料をオリフィスを介して吸引し投与することを可能にする蠕動ポンプ、シリンジポンプ、または他の同様の装置であり得る。典型的に、このようなオリフィスは、外径2~5ミリメートル、内径0.5ミリメートルのチップ405に含まれる。チップ405は使い捨てまたは洗浄可能であり得る。チップ405は、チップの挿入および洗浄を容易にするために丸められ得る。チップを通る流体の流れは、細胞を含有する体液の薄層をスライド上に堆積させることができるように制御される。チップを通る流量および相対速度、ならびにスライド上のチップの高さを最適化することによって、適切な密度の細胞をスライド上に堆積させることができる。これらの要因の各々は他に影響を及ぼし、したがって高さと、チップを通る流量と、スライド上での速度との適切な組合せを決定しなければならない。一実施例では、チップが約70ミクロンの高さでスライド表面上を毎秒30ミリメートルの速度で移動している間にチップを通る流量は、毎秒0.1マイクロリットルである。別の実施例では、たとえば体液が希釈されていない血液を含む場合、チップがスライド上の点に対して毎秒50ミリメートルの速度でスライド表面上約10ミクロンの高さで移動している間にチップを通る流量は、毎秒およそ0.04マイクロリットルである。特定の体液検体の粘度および軟度は、適切な密度の細胞が検査のためにスライド上に堆積されることを確実にするために必要とされるチップを通る流量と、スライド上のチップの相対速度および高さとに影響を及ぼすことになる。」
イ 追加文献1の記載事項
本願の優先権主張の日前の2013年に電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった引用文献である、Andre Grossら, “Single-Cell Printer: Automated, On Demand, and Label Free”, Journal of Laboratory Automation, vol.18, no.6, p.504-518, DOI: 10.1177/2211068213497204 (以下「追加文献1」という。)には、以下の記載事項がある。なお、括弧内に合議体による翻訳文を記載した。
(ア)表題
「Single-Cell Printer: Automated, On Demand, and Label Free」
(単一細胞プリンター:自動化、オンデマンド、ラベルフリー)
(イ)要約
「Within the past years, single-cell analysis has developed into a key topic in cell biology to study cellular functions that are not accessible by investigation of larger cell populations. Engineering approaches aiming to access single cells to extract information about their physiology, phenotype, and genotype at the single-cell level are going manifold ways, meanwhile allowing separation, sorting, culturing, and analysis of individual cells. Based on our earlier research toward inkjet-like printing of single cells, this article presents further characterization results obtained with a fully automated prototype instrument for printing of single living cells in a noncontact inkjet-like manner. The presented technology is based on a transparent microfluidic drop-on-demand dispenser chip coupled with a camera-assisted automatic detection system. Cells inside the chip are detected and classified with this detection system before they are expelled from the nozzle confined in microdroplets, thus enabling a “one cell per droplet” printing mode. To demonstrate the prototype instrument’s suitability for biological and biomedical applications, basic experiments such as printing of single-bead and cell arrays as well as deposition and culture of single cells in microwell plates are presented. Printing efficiencies greater than 80% and viability rates about 90% were achieved.」
(近年、単一細胞解析は細胞生物学において重要な研究テーマへと発展し、大規模な細胞集団の調査では到達できない細胞機能を研究する場となっている。単一細胞にアクセスし、その生理機能、表現型、遺伝子型に関する情報を単一細胞レベルで抽出することを目的とした工学的アプローチは多岐にわたり、個々の細胞の分離、選別、培養、分析を可能にしている。本稿では、インクジェットのような単一細胞印刷に関するこれまでの研究に基づき、非接触インクジェット方式で単一生細胞を印刷するための完全自動プロトタイプ装置を用いて得られた特性評価結果を紹介する。本技術は、透明なマイクロ流体ドロップオンデマンドディスペンサーチップと、カメラ支援型自動検出システムを組み合わせたものである。チップ内の細胞は、この検出システムによって検出・分類された後、微小液滴に閉じ込められてノズルから吐出される。これにより、「1液滴あたり1細胞」の印刷モードが可能となる。プロトタイプ装置の生物学および生物医学用途への適合性を実証するため、単一ビーズおよび細胞アレイの印刷、マイクロウェルプレートにおける単一細胞の堆積および培養といった基礎実験を実施した。印刷効率は80%を超え、生存率は約90%に達した。)
ウ 引用文献6
原査定の拒絶の理由において周知技術を示す文献として引用され、本願の優先権主張の日前の2016年に電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった引用文献である、Priya Gogoiら, “Development of an Automated and Sensitive Microfluidic for Capturing and Characterizing Circulating Tumor Cells (CTCs) from Clinical Blood Samples”, PLOS ONE DOI:10.1371/jounal.pone.0147400(以下「引用文献6」という。)には、以下の記載事項がある。なお、括弧内に合議体による翻訳文を記載した。
(ア)表題
「Development of an Automated and Sensitive Microfluidic for Capturing and Characterizing Circulating Tumor Cells (CTCs) from Clinical Blood Samples」
(臨床血液サンプルから循環腫瘍細胞(CTC)を捕捉し、特性評価するための自動化された高感度マイクロ流体の開発)
(イ)要約
「Current analysis of circulating tumor cells (CTCs) is hindered by sub-optimal sensitivity and .specificity of devices or assays as well as lack of capability of characterization of CTCs with clinical biomarkers. Here, we validate a novel technology to enrich and characterize CTCs from blood samples of patients with metastatic breast, prostate and colorectal cancers using a microfluidic chip which is processed by using an automated staining and scanning system from sample preparation to image processing. The Celsee system allowed for the detection of CTCs with apparent high sensitivity and specificity (94% sensitivity and 100% specificity). Moreover, the system facilitated rapid capture of CTCs from blood samples and also allowed for downstream characterization of the captured cells by immunohistochemistry, DNA and mRNA fluorescence in-situ hybridization (FISH). In a subset of patients with prostate cancer we compared the technology with a FDA-approved CTC device, CellSearch and found a higher degree of sensitivity with the Celsee instrument. In conclusion, the integrated Celsee system represents a promising CTC technology for enumeration and molecular characterization.」
(循環腫瘍細胞(CTC)の現在の分析は、デバイスやアッセイの感度と特異性が最適ではないこと、そして臨床バイオマーカーを用いたCTCの特性評価能力の欠如によって妨げられている。本研究では、サンプル調製から画像処理まで自動化された染色・スキャンシステムを用いて処理されるマイクロ流体チップを用いて、転移性乳がん、前立腺がん、および大腸がん患者の血液サンプルからCTCを濃縮し、特性評価する新しい技術を検証した。Celseeシステムは、明らかに高い感度と特異性(94%の感度と100%の特異性)でCTCを検出することを可能にした。さらに、このシステムは血液サンプルからのCTCの迅速な捕捉を容易にし、捕捉された細胞を免疫組織化学、DNAおよびmRNA蛍光in-situハイブリダイゼーション(FISH)によって下流で特性評価することも可能にした。前立腺がん患者のサブセットにおいて、この技術をFDA承認のCTCデバイスであるCellSearchと比較し、Celsee機器の方が感度が高いことを発見した。結論として、統合されたCelseeシステムは、列挙と分子特性評価のための有望なCTC技術である。」
エ 追加文献2
本願の優先権主張の日前の2018年に電気通信回線を通じて公衆に利用可能となったパンフレットである、「Roche Diagnostics International Ltd, cobas t 511 and cobas t 711 coagulation analyzers, https://diagnostics.roche.com/content/dam/diagnostics/Blueprint/en/pdf/cps/cobas-t-511-and-cobas-t-711-instruments.pdf」(以下「追加文献2」という。)には、以下の記載事項がある。なお、括弧内に合議体による翻訳文を記載した。
(ア)2頁左下欄1~10行
「The high-throughput cobas t 711 coagulation analyzer and the mid-throughput cobas t 511 coagulation analyzer are both fully automated, continuous random-access, software-controlled systems for clotting, chromogenic and immunoturbidimetric analysis, intended for qualitative and quantitative in-vitro coagulation determinations using a wide variety of coagulation tests. The results of these tests aid in the diagnosis of coagula tion abnormalities and in monitoring anticoagulant therapy.」
(ハイスループットのcobas t711凝固分析装置とミッドスループットのcobas t511凝固分析装置は、いずれも全自動、連続ランダムアクセス、ソフトウェア制御のシステムで、凝固、発色分析、免疫比濁分析を行える。様々な凝固試薬を用いて、体外凝固能の定性及び定量測定が可能である。これらの検査結果は、凝固異常の診断と抗凝固療法のモニタリングに役立つ。)
(イ)3頁1~3行
「With their High Processing Power and extensive menu, the cobas t coagulation analyzers are the ideal solution for mid-to-high-volume and reference laboratories performing routine coagulation parameters and specialty assays.」
(高い処理能力と豊富なメニューを備えたCobas t凝固分析装置は、日常的な凝固パラメータや特殊なアッセイを実行する中規模から大規模の検査室や基準検査室に最適なソリューションである。)
オ 周知技術1
引用文献3の記載事項(ウ)及び追加文献1の記載事項(イ)に基づけば、本願の優先権主張の日前において、以下の周知技術(以下「周知技術1」という。)が知られていたといえる。
「細胞の一定分量を、吐出装置を使用して堆積又は印刷すること。」
カ 周知技術2
引用文献6の記載事項(イ)及び追加文献2の記載事項(ア)に基づけば、本願の優先権主張の日前において、以下の周知技術(以下「周知技術2」という。)が知られていたといえる。
「自動化された染色システムを使用すること。」
5 対比
本件補正発明と引用発明とを対比する。
(1)接触させること
引用発明の「サイトケラチン(CK)抗体カクテルにて免疫蛍光により標識」することは、白血球(WBC)及び循環腫瘍細胞(CTC)に、サイトケラチン(CK)抗体カクテルを接触させているといえる。また、「免疫蛍光」による標識は、循環腫瘍細胞(CTC)に対して特異的に結合する試薬を用いるものといえる。
したがって、引用発明の「サイトケラチン(CK)抗体カクテルにて免疫蛍光により標識」することは、本件補正発明の「細胞サンプルを、前記細胞サンプル中のバイオマーカーに特異的に結合する1種以上のバイオマーカー特異的試薬と接触させること」に相当する。
(2)堆積させること
引用発明の「生きている白血球(WBC)および血液中の他の細胞を、生物学的単層としてスライド上に単離し、白血球(WBC)および循環腫瘍細胞(CTC)を、接着性スライドの上に付着させ」ることは、「血液サンプル中」の白血球(WBC)及び循環腫瘍細胞(CTC)を、「接着性スライド」に堆積させることであるといえる。また、引用発明の「接着性スライド」は、本件補正発明の「固体支持体」に相当する。
したがって、本件補正発明の「バイオマーカー染色細胞サンプルを固体支持体上に堆積させること」と、引用発明の「生きている白血球(WBC)および血液中の他の細胞を、生物学的単層としてスライド上に単離し、WBCおよびCTCを、接着性スライドの上に付着させ」ることとは、「細胞サンプルを固体支持体上に堆積させること」である点で共通する。
(3)分析すること
引用発明の「スライドをFASTによって分析し、各々のスライドの免疫蛍光で標識された希少細胞を、FAST血球計数器のガラス支持体上で位置決めすることでその配置を得」ることは、接着性スライドの上に付着させた細胞を、免疫蛍光による標識の有無に基づいて、「希少細胞」であるか否かを分析することを含んでいる。
したがって、引用発明の「スライドをFASTによって分析し、各々のスライドの免疫蛍光で標識された希少細胞を、FAST血球計数器のガラス支持体上で位置決めすることでその配置を得」ることは、本件補正発明の「1種以上のバイオマーカーについて前記バイオマーカー染色細胞サンプルを分析すること」に相当する。
(4)染色すること及び決定すること
引用発明の「同じ細胞を、循環腫瘍細胞(CTC)の形態、寸法および異質性に対する洞察を提供する標準のライト・ギムザ染色を使用して再染色する」ことは、接着性スライドの上に付着させ、免疫蛍光で標識された細胞を、「ライト・ギムザ染色を使用して再染色」する工程と、再染色された細胞の「循環腫瘍細胞(CTC)の形態、寸法および異質性」について、決定する工程を含むものである。そして、引用発明の「ライト・ギムザ染色」に使用される試薬は、技術的にみて、「ロマノフスキー型染色剤」に包含されるものである(例えば、特開平11-295304号公報の段落【0044】には、「細胞の染色は従来の方法、例えばロマノスキー染色(ギムザ染色、ライトギムザ染色、メイギムザ染色等)を用いて行えばよい。」と記載されている。)。
したがって、引用発明の「同じ細胞を、・・・標準のライト・ギムザ染色を使用して再染色する」ことは、本件補正発明の「前記バイオマーカー染色細胞サンプルをロマノフスキー型染色剤で染色して、ロマノフスキー型染色細胞サンプルを得ること」に相当する。また、本件補正発明の「前記ロマノフスキー型染色細胞サンプルを分析して、前記ロマノフスキー型染色細胞サンプル中の少なくとも1つの白血球の形態を決定すること」と引用発明の「循環腫瘍細胞(CTC)の形態、寸法および異質性に対する洞察を提供する」こととは、「前記ロマノフスキー型染色細胞サンプルを分析して、前記ロマノフスキー型染色細胞サンプル中の少なくとも1つの細胞の形態を決定すること」である点で共通する。
(5)細胞サンプル中のバイオマーカー及び形態を検出する方法
引用発明の「プロトコール」は、「癌患者における血中の循環腫瘍細胞(CTC)を検出するため」に「血液サンプル中の、上皮由来の細胞を同定する」プロトコールであって、上記(1)~(4)において検討した工程を含むものである。そうすると、引用発明の「プロトコール」は、血液サンプル中の細胞が有するサイトケラチンの有無及び形態等を検出するための方法であるといえる。
したがって、引用発明の「プロトコール」は、本件補正発明の「細胞サンプル中のバイオマーカーおよび形態を検出するための方法」であるといえる。
(6)一致点及び相違点
以上より、本件補正発明と引用発明とは、
「 細胞サンプル中のバイオマーカーおよび形態を検出するための方法であって、
細胞サンプルを、前記細胞サンプル中のバイオマーカーに特異的に結合する1種以上のバイオマーカー特異的試薬と接触させることと、
細胞サンプルを固体支持体上に堆積させることと、
1種以上のバイオマーカーについて前記バイオマーカー染色細胞サンプルを分析することと、
前記バイオマーカー染色細胞サンプルをロマノフスキー型染色剤で染色して、ロマノフスキー型染色細胞サンプルを得ることと、
前記ロマノフスキー型染色細胞サンプルを分析して、前記ロマノフスキー型染色細胞サンプル中の少なくとも1つの細胞の形態を決定することと
を含む、方法。」
である点で一致し、以下の点で相違する。
[相違点1]
堆積させることが、本件補正発明は、細胞サンプルを、バイオマーカー特異的試薬と接触させることにより得られた「バイオマーカー染色細胞サンプル」を堆積させるのに対し、引用発明は、サイトケラチン(CK)抗体カクテルにて免疫蛍光により標識される前の「生きている白血球(WBC)および血液中の他の細胞」を付着させている点。
[相違点2]
堆積させることが、本件補正発明は「前記細胞サンプルを前記固体支持体上にプリントすること」によって行われるのに対し、引用発明は、プリントによって付着させていない点。
[相違点3]
決定することが、本件補正発明は「白血球」の形態を決定するのに対し、引用発明は「循環腫瘍細胞(CTC)」の形態等を決定している点。
[相違点4]
本件補正発明は「自動化染色プラットフォームで実施される」のに対し、引用発明は、自動化染色プラットフォームで実施されていない点。
6 判断
(1)[相違点1]について
前記4(2)イに記載したとおり、引用文献2に記載された「血液等の検体中の細胞が有する特定の物質を特異的に染色する方法において、細胞染色手順を実施した後に、血球計算板上にて顕微鏡下で蛍光観察を行うこと。」という技術的事項は、本願の優先権主張の日前に、知られていたことである。
引用発明と、上記技術的事項とは、血液サンプル中の細胞が有する特定の物質を特異的に染色する方法である点で共通し、血球を計数するための支持体の上で染色された細胞を分析する点でも共通する。そうすると、引用発明においても、細胞染色手順を実施した後に、接着性スライドの上に付着させることにより、「バイオマーカー染色細胞サンプル」を堆積させることは、当業者が適宜なし得たことである。また、細胞染色及び接着性スライドの上への付着を、このような順序で行うことにより、当業者が予測し得ない効果の差異が生じるということもできない。
(2)[相違点2]について
引用発明は、「白血球(WBC)および循環腫瘍細胞(CTC)を、接着性スライドの上に付着」させる工程を含むところ、細胞をスライド上に付着させるにあたり、どのような手法を用いるかは、当業者が適宜選択し得ることである。そして、前記4(3)オに記載したとおり、「細胞の一定分量を、吐出装置を使用して堆積又は印刷すること。」(周知技術1)は、本願の優先権主張の日前において周知技術であったといえる。そうすると、循環腫瘍細胞等を接着性スライドの上に付着させるにあたり、プリントすることにより行うことは、当業者が適宜選択し得ることである。
(3)[相違点3]について
引用文献1の記載事項(エ)には、「試料中の循環腫瘍細胞の存在は、限定されないが、リンパ腫、骨髄腫、神経芽細胞腫、乳癌、卵巣癌、肺癌、横紋筋肉腫、小細胞型肺腫瘍、原発性脳腫瘍、胃癌、大腸癌、膵臓癌、尿膀胱癌、精巣癌、リンパ腫、甲状腺癌、神経芽細胞腫、食道癌、尿生殖路癌、子宮頸癌、子宮体癌、副腎皮質性の癌または前立腺癌を含む癌の存在を示す。」(段落【0011】)と記載されている。また、引用文献1の記載事項(オ)には、対象となる癌腫として、「T細胞の免疫芽球性肉腫」(段落【0061】)や「白血病」(段落【0064】)が挙げられている。また、引用文献1の記載事項(エ)には「細胞特異的なマーカーは、サイトケラチン、CD45、M30、ケモカイン・レセプター、CXCRl、CXCR4、CD44、CD24、VEGF、EGFRまたはHuRである。」(段落【0010】)との記載もある。ここで、「CD45」は、白血球共通抗原として知られている(例えば、一迫玲,“悪性リンパ腫:診断と治療の進歩”,日本内科学会雑誌,第97巻,第7号第41~48頁の表1参照)。
これらの記載に基づけば、引用文献1には、循環腫瘍細胞として、血液中の癌化した白血球を対象とすることが示唆されているといえる。
そうすると、引用発明において、血中の循環腫瘍細胞(CTC)として、癌化した白血球を検出することとし、ライト・ギムザ染色をしようして、癌化した白血球の形態、寸法および異質性に対する洞察を提供することとは、当業者が容易に想到し得ることである。
なお、仮に、癌化した白血球が、本件補正発明における「白血球」に当たらないとした場合であっても、引用文献1の記載事項(カ)には、「標準の病理学慣習において使われているように、ライト・ギムザのような染料は、核細目、核輪郭、核小体の存在または不存在、細胞質の品質および細胞質の量に関する情報をもたらし、組織サンプル中の悪性腫瘍細胞と良性のバックグラウンド細胞との間の区別を可能にする。」(段落【0119】)と記載されている。そうすると、引用文献1には、引用発明において、決定された循環腫瘍細胞(CTC)の形態等を、良性のバックグランド細胞である白血球(WBC)の形態等との区別に用いることが示唆されているといえる。ここで、組織サンプル中の悪性腫瘍細胞と良性のバックグラウンド細胞との間の区別を行うにあたり、「循環腫瘍細胞(CTC)」の形態等だけでなく、バックグラウンド細胞である「白血球(WBC)」の形態等を決定することを要することは自明である。
そうすると、引用発明において、決定された循環腫瘍細胞(CTC)の形態等を、良性のバックグランド細胞である白血球(WBC)の形態等との区別に用いるために、「白血球(WBC)」の形態等を決定することは、当業者が容易に想到し得ることである。
(4)[相違点4]について
引用文献1の記載事項(オ)には、「FAST血球計数器によって同定された見込みある細胞の座標は、完全に自動化された走査デジタル顕微鏡観察システムである希少事象の画像処理システム(REIS)に送られた。」(段落【0028】)と記載されている。当該記載に基づけば、引用文献1には、引用発明の「プロトコール」を自動化しようとするものといえる。
そして、前記4(3)カに記載したとおり、「自動化された染色システムを使用すること。」(周知技術2)は、本願の優先権主張の日前において周知技術である。そうすると、引用発明において、免疫蛍光及びライト・ギムザ染色を、自動化された染色システム、つまり、自動化染色プラットフォームを利用して実施することは、当業者が容易に想到し得ることである。
(5)効果について
本件補正発明の効果は、引用文献1の記載及び周知技術から、当業者が予測できる範囲のものである。
(6)審判請求人の主張について
ア 審判請求人は、審判請求書の請求の理由において、「引用文献1、2、5、6のいずれにも、血液学の分野で適用される典型的な染色プロトコルであるロマノフスキー染色について言及されていません。・・・引用文献1、2、5、6は全て異なる技術分野に関連しており、当業者は、本願発明が解決する技術的問題に直面したときにこれらの引用文献のいずれも考慮しないでしょう。」と主張している。
しかし、引用発明は、前記4(1)イに記載したとおり、「血液サンプル」に対して「標準のライト・ギムザ染色」を行うものである。引用発明は、本件補正発明と同じ技術分野に属するものであるから、上記前提に基づく審判請求人の主張を採用できない。
イ 審判請求人は、審判請求書の請求の理由において、「引用文献4は2020年11月18日に公開されましたが、これは本願の優先日(2020年5月20日)より後の日付です。」と主張している。
しかし、前記4(3)オに記載した周知技術は、引用文献4のみならず、前記4(3)ア及びイに記載した、本願の優先権主張の日前に公開された文献にも記載された技術である。そうすると、前記4(3)オに記載した周知技術が、本願の優先権主張の日前に知られていたことは明らかである。
ウ 審判請求人は、審判請求書の請求の理由において、「引用文献3は・・・、蛍光ラベルとロマノフスキー染色の組み合わせについては言及されていません。引用文献1には、引用文献3に記載されている血液分析装置の使用に関するヒントがないため、当業者がこれら2つの文献を組み合わせる可能性は低いものと思量します(これらは異なる技術分野のものであるという事実も理由として挙げられます)。当業者がこれらを組み合わせたとしても、分析対象のサンプルに蛍光ラベル付けプロトコルを実装することを示唆する技術的な教示は引用文献3にはありません。」と主張している。
しかし、既に検討したとおり、引用発明のプロトコールは、免疫蛍光による標識と、ライト・ギムザ染色を組み合わせて使用するものである。なお、引用文献3は、周知技術1「細胞の一定分量を、吐出装置を使用して堆積又は印刷すること。」を示す文献として提示されたものであり、免疫蛍光による標識と、ライト・ギムザ染色を組み合わせることを提示するものではない。
したがって、審判請求人の上記主張も採用できない。
エ また、審判請求人は、意見書において、「(i)細胞サンプルが、前記細胞サンプルを前記固体支持体上にプリントすることによって、前記固体支持体上に堆積される、かつ、(ii)自動化染色プラットフォームで実施される、との特徴を同時に兼ね備える補正後の本願発明について、引用文献1~6のいずれも何ら開示、教示、示唆するものではありません。」と主張すると共に、本願明細書の段落【0044】の記載を引用し、「このような補正後の本願発明により奏される効果は引用文献1~6の記載から当業者が予測し得る範囲を超えるものです。」と主張している。
しかし、「(i)細胞サンプルが、前記細胞サンプルを前記固体支持体上にプリントすることによって、前記固体支持体上に堆積される」ことは、前記(2)に記載したとおり、周知技術に基づいて当業者が適宜選択し得ることであり、「(ii)自動化染色プラットフォームで実施される」ことは、前記(4)に記載したとおり、周知技術に基づいて当業者が容易に想到し得ることである。また、これらの周知技術を組み合わせたことにより、格別な効果を奏するということもできない。
したがって、審判請求人の上記主張も採用できない。
7 むすび
以上のとおり、いずれの相違点も、当業者が容易に想到し得ること、或いは、適宜選択し得ることであり、その効果も当業者が予測できる範囲のものであるから、本件補正発明は、引用発明、引用文献1及び引用文献2に記載された技術及び周知技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により独立して特許を受けることができない。
したがって、本件補正は、特許法17条の2第6項で準用する同法126条7項の規定に違反するものであり、同法159条1項で読み替えて準用する同法53条1項の規定により却下されるべきものである。
よって、上記補正の却下の決定の結論のとおり決定する。
第3 本件発明
1 本件発明
本件補正は、前記第2にとおり却下されることになったので、本願の請求項1~27に係る発明は、令和6年5月14日になされた手続補正により補正された特許請求の範囲の請求項1~27に記載された事項により特定されるものと認められるところ、その請求項1に係る発明(以下「本件発明」という。)は、前記第2の1(1)に記載のとおりのものである。
2 原査定の拒絶の理由
原査定の拒絶の理由の概要は、この出願の請求項1~27に係る発明は、本願の優先権主張の日前に日本国内又は外国において、頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった以下の引用文献1に記載された発明、引用文献2の記載事項及び周知技術に基づいて、その優先日前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない、というものである。
引用文献1:特表2009-525468号公報
引用文献2:国際公開第2014/185151号
3 引用文献
原査定の拒絶の理由で引用された引用文献1、引用文献2及びその記載事項は、前記第2の4に記載したとおりである。
4 対比・判断
本件発明は、前記第2の2で検討した本件補正発明から、形態を決定する対象を「白血球」とした限定を、「細胞」に戻すものである。
そうすると、本件発明の発明特定事項を全て含み、さらに他の事項を付加したものに相当する本件補正発明が、前記第2の5~7に記載したとおり、引用発明、引用文献1及び引用文献2に記載された技術及び周知技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、本件発明も、引用発明、引用文献1及び引用文献2に記載された技術及び周知技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものである。
第4 むすび
以上のとおり、本件発明は、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないから、他の請求項に係る発明について検討するまでもなく、本願は拒絶されるべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
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2024-016157