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特許拒絶査定不服審判

2024-013307

不妊治療成功の予測のための子宮内膜液

審判番号
2024-013307
法域
特許
審判種別
拒絶査定不服審判(拒絶査定不服の審決)
出願番号
特願2021-541072
請求日
2024年08月19日
審決日
2025年10月21日
公報発行日
2026年04月24日
結論
請求不成立
当事者
  • 【請求人】ファーティリティ ラボ サイエンシーズ, エルエルシー
  • 【請求人代理人】山本 秀策
  • 【請求人代理人】森下 夏樹
  • 【請求人代理人】飯田 貴敏
  • 【請求人代理人】石川 大輔
  • 【請求人代理人】山本 健策
審判長/審判官
  • 審判長 宮澤 浩
  • 審判官 南 宏輔
  • 審判官 加々美 一恵
分類
P18 .121-Z (G01N) / P18 .572-Z (G01N) / P18 .574-Z (G01N) / P18 .575-Z (G01N)
根拠条文(結論部分から自動抽出・参考)
特許法29条2項
条文(本文から自動抽出・参考)
特許法第29条第2項、特許法第17条の2第5項第2号、特許法第17条の2第6項、特許法第17条の2第5項第4号
データ出所
審決公報(XML)

事件の表示

特願2021-541072「不妊治療成功の予測のための子宮内膜液」拒絶査定不服審判事件〔令和 2年 7月30日国際公開、WO2020/154706、令和 4年 3月14日国内公表、特表2022-518223〕について、次のとおり審決する。

結論

結 論 本件審判の請求は、成り立たない。

理由

理 由 第1 手続の経緯 本願は、2020年(令和2年)1月24日(パリ条約による優先権主張 2019年1月25日 (US)アメリカ合衆国、2019年4月30日 (US)アメリカ合衆国)を国際出願日とする出願であって、その手続の概要は次のとおりである。 令和5年 1月18日 :手続補正書、上申書の提出 令和5年11月27日付け:拒絶理由通知 令和6年 2月15日 :意見書、手続補正書の提出 令和6年 4月 9日付け:拒絶査定 令和6年 8月19日 :審判請求書、手続補正書提出 令和7年 1月28日 :上申書提出 第2 令和6年 8月19日にされた手続補正についての補正の却下の決定 [補正の却下の決定の結論] 令和6年 8月19日にされた手続補正(以下「本件補正」という。)を却下する。 [理由] 1 本件補正について 本件補正は、次に示す本件補正前の請求項1を、本件補正後の請求項1に補正するものを含む。(下線は、補正に関する箇所を示す。) (補正前) 「 【請求項1】 不妊治療の不良な妊娠転帰を予測するための指標として患者の子宮内膜分泌物のセクレトームプロファイルを取得する方法であって、 前記患者の子宮内膜分泌物を、タンパク質、代謝物、またはmiRNAからなる群から選択される適さない子宮内膜の環境と関連付けられた一つ以上または少なくとも二つのマーカーを定量化するように機能化された固体基質を含むキットと接触させることであって、前記マーカーの1つがIL-6である、接触させることと、 適さない子宮内膜の環境と関連付けられたマーカーの存在の増加または減少を確認するために、前記子宮内膜分泌物のセクレトームプロファイルを決定することと、を含み、 成功した妊娠転帰の子宮内膜分泌物のセクレトームプロファイルと比較した、IL-6の存在の前記増加が、適さない子宮内膜の環境と関連付けられ、不良な妊娠転帰を予測する、方法。」 (補正後) 「 【請求項1】 不妊治療の不良な妊娠転帰を予測するための指標として患者の子宮内膜分泌物のセクレトームプロファイルを取得する方法であって、 前記患者の子宮内膜分泌物を、タンパク質、代謝物、またはmiRNAからなる群から選択される適さない子宮内膜の環境と関連付けられた一つ以上または少なくとも二つのマーカーを定量化するためのキットと接触させることであって、前記マーカーの1つがIL -6である、接触させることと、 凍結胚移植または子宮腔内授精の少なくとも24時間前に、適さない子宮内膜の環境と関連付けられたマーカーの存在の増加または減少を確認するために、前記子宮内膜分泌物のセクレトームプロファイルを決定することと、を含み、 成功した妊娠転帰の子宮内膜分泌物のセクレトームプロファイルと比較した、IL-6の存在の前記増加が、適さない子宮内膜の環境と関連付けられ、不良な妊娠転帰を予測する、方法。」 2 補正の適否 (1)本件補正は、請求項1において、「適さない子宮内膜の環境と関連付けられたマーカーの存在の増加または減少を確認するために、前記子宮内膜分泌物のセクレトームプロファイルを決定する」工程について、当該工程が「凍結胚移植または子宮腔内授精の少なくとも24時間前に」行われることを限定するものであって、本件補正前の請求項1に記載された発明と、本件補正後の請求項1に記載された発明の産業上の利用分野及び解決しようとする課題は同一である。このため、本件補正は、特許法第17条の2第5項第2号に掲げる特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。 (2)また、本件補正は、請求項1において、「タンパク質、代謝物、またはmiRNAからなる群から選択される適さない子宮内膜の環境と関連付けられた一つ以上または少なくとも二つのマーカーを定量化するように機能化された固体基質を含むキット」を「タンパク質、代謝物、またはmiRNAからなる群から選択される適さない子宮内膜の環境と関連付けられた一つ以上または少なくとも二つのマーカーを定量化するためのキット」に補正するものである。当該補正は、令和5年11月27日付け拒絶理由通知書の理由2(1)や令和6年4月9日付け拒絶査定の理由2で指摘された「『固体基質』における「『基質』が、酵素によって化学反応を触媒される物質を意味するのか、単なる『基体』ないし『基板』を意味するのか、いずれであるか不明瞭である。」や「『固体基質』の意味内容をどう理解すればよいのか不明瞭である」との拒絶理由に対応して、当該「固体基質」という表現を削除したものであるから、特許法第17条の2第5項第4号に掲げる明りようでない記載の釈明(拒絶理由通知に係る拒絶の理由に示す事項についてするものに限る。)を目的とするものに該当する。 (3)上記(1)のとおり、本件補正は特許法第17条の2第5項第2号に掲げる特許請求の範囲の減縮を目的とするものを含むため、本件補正後の請求項1に係る発明(以下、「本件補正発明1」という。)が、特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるか(特許法第17条の2第6項において準用する同法第126条第7項の規定に適合するか)について以下に検討する。 3 独立特許要件 (1)引用文献、引用発明、引用文献から導き出される技術的事項 ア 引用文献1 (ア) 記載事項 原査定で引用され、本願の最先の優先日前に頒布された引用文献1(J.C. PARKS et al.,The molecular profile of uterine secretions is predictive of endometrial receptivity,Fertility and Sterility,2013年9月,Vol.100,No.3,p.S391,DOI: 10.1016/j.fertnstert.2013.07.712)には、次の事項が記載されている。なお、下線は当審において付与したものである。 「The molecular profile of uterine secretions is predictive of endometrial receptivity J.C. Parks S. McReynolds B.R. McCallie A. Strieby W.B. Schoolcraft M.G. Katz-Jaffe Objective: Endometrial receptivity, including adequate secretory activity, is crucial for embryo implantation and could explain why up to 30% of patients fail to establish a clinical pregnancy following the transfer of chromosomally normal blastocysts. This study investigated the molecular profile of uterine secretions relative to endometrial receptivity and IVF outcome. Design: IRB approved research study. Materials and Methods: Infertile patients (n=24) undergoing an estradiol/progesterone replacement cycle in preparation for a frozen embryo transfer donated uterine secretions. Samples were collected by gentle aspiration, a minimally invasive technique, just prior to the transfer of chromosomally normal blastocysts. Uterine secretome analysis was performed blinded of IVF outcome using the Luminex Human Cytokine 30-Plex Panel and the TaqMan Low Density human miRNA Array. Samples were unblinded and analyzed by Student's t-test and REST software respectively, following ultrasound confirmation of fetal cardiac activity. Results: Uterine secretome analysis revealed expression profiles of 29 cytokines and 229 miRNAs. Statistical analysis based on IVF outcome revealed increased expression of 6 cytokines and 17 miRNAs that significantly differentiated between positive and negative implantation (P<0.05). Of particular interest are IL-6,VEGF and IL-8, which are known to be involved in embryo-endometrial communication.Functional analysis of differential miRNAs and their target genes revealed significant biological pathways that are associated with positive implantation including TGFβ signaling, SMAD signaling, STAT3 signaling, p53 signaling and adherens junction regulation (P<0.05). Conclusion: This study has shown that a combination of cytokine and miRNA expression profiles define endometrial receptivity and differentiate between viable clinical pregnancy and negative implantation. Molecular assessment of uterine receptivity may assist clinicians in fine tuning the timing of embryo transfer to further improve ART success.」 (下線部の当審訳: タイトル:子宮分泌液の分子プロファイルは子宮内膜の受容能を予測する指標となる。 目的:・・・本研究では、子宮分泌液の分子プロファイルを子宮内膜の受容性および体外受精(IVF)の結果と関連付けて調査した。 材料と方法:凍結胚移植の準備のためにエストラジオール/プロゲステロン補充周期を行っている不妊症患者(n=24)から子宮分泌液を提供してもらった。サンプルは、染色体的に正常な胚盤胞移植直前に、穏やかな吸引という低侵襲な手法で採取した。子宮分泌液のセクレトーム解析は、IVFの結果を知らされない状態で、Luminex Human Cytokine 30-Plex PanelおよびTaqMan Low Density human miRNA Arrayを用いて実施した。超音波による胎児心拍の確認後、サンプルの結果を開示し、Student’s t検定およびRESTソフトウェアで解析した。 結果:子宮分泌液のセクレトーム解析により、29種類のサイトカインと229種類のmiRNAの発現プロファイルが明らかになった。IVFの結果に基づく統計解析では、陽性着床と陰性着床を有意に区別する6種類のサイトカインと17種類のmiRNAの発現増加が認められた(P<0.05)。特にIL-6、VEGF、IL-8は、胚と子宮内膜のコミュニケーションに関与することが知られている。) (イ) 引用発明 上記(ア)より、引用文献1には以下の発明(以下、「引用発明」という。)が記載されていると認められる。なお、参考のため、認定の主な根拠となった箇所を括弧内に示す。 (引用発明) 「子宮分泌液の分子プロファイルを子宮内膜の受容性および体外受精(IVF)の結果と関連付けて調査する目的で行う方法であって、(「目的」) 当該方法は、凍結胚移植の準備のためにエストラジオール/プロゲステロン補充周期を行っている不妊症患者から子宮分泌液を提供してもらい、サンプルは、染色体的に正常な胚盤胞移植直前に、穏やかな吸引という低侵襲な手法で採取し、 子宮分泌液のセクレトーム解析は、IVFの結果を知らされない状態で、Luminex Human Cytokine 30-Plex PanelおよびTaqMan Low Density human miRNA Arrayを用いて実施し、超音波による胎児心拍の確認後、サンプルの結果を開示し、Student’s t検定およびRESTソフトウェアで解析する方法であって、(「材料と方法」) 当該方法を実施した結果、子宮分泌液のセクレトーム解析により、29種類のサイトカインと229種類のmiRNAの発現プロファイルが明らかになり、IVFの結果に基づく統計解析では、陽性着床と陰性着床を有意に区別する6種類のサイトカインが認められ、特にIL-6は胚と子宮内膜のコミュニケーションに関与することが知られている、(「結果」) 子宮分泌液の分子プロファイルは子宮内膜の受容性を予測する指標となることが判明した、(「タイトル」) 方法。」 イ 引用文献2 引用文献2として提示する、本願の最先の優先日前に頒布された特表2013-518244号公報(前置報告書にて引用文献2として引用されたもの)には、次の事項が記載されている。なお、下線は当審において付与したものである。 「【技術分野】 【0001】 本発明は、胚着床に対する子宮内膜受容性を検出するための非侵襲的な方法に関する。本方法は、哺乳動物の雌、好ましくは女性の妊娠の状況(status fertility)を決定するために特に適用可能である。本発明はさらに、前記方法を実行するためのキットに関する。 ・・・ 【0062】 特定の態様において、前記哺乳動物の雌は、女性であり、好ましくは体外受精(IVF)プロセスの対象となった女性である。その場合には、PGE2および/またはPGF2αレベルは、受容する女性の、胚を受容し着床する条件および受胎の可能性が関連づけられる。前記女性からの子宮内膜液の試料は、胚の着床前であればいつでも得ることができ、例えば、胚移行の数分(例えば、15分)から数時間(例えば、4~6時間)前、またはさらには数日(例えば、1、7、14またはそれ以上)前である。特定の態様において、本方法は、胚移行の5~6時間前に、非破壊的な形式で得られた子宮内膜液について行うものとして計画される。」 ウ 引用文献3 引用文献3として新たに提示する、本願の最先の優先日前に頒布されたFertility and Sterlity, ARSM Abstructs, O-393, e134, Vol.102, No.3, Supplement, September 2014には、次の事項が記載されている。なお、下線は当審において付与したものである。 「Title: Non-invasive omics analysis of endometrial secretions 24 hours prior to frozen embryo transfer is predictive of implantation outcome. ・・・ Materials and Methods: Infertile patients (n=30) were recruited with IRB consent prior to an estradiol/progesterone replacement frozen embryo transfer (FET) with euploid blastocysts. Uterine secretions were collected by gentle aspiration, either 24h ahead or at FET.Uterine secretome analysis was performed blinded of implantation outcome using TaqMan Low Density human miRNA Array (Thermo Fisher) and tandem liquid chromatography mass spectrometry (LC-MS/MS) (Thermo/Finnigan). Analysis of miRNA profiles was performed with REST statistical software. MS/MS spectra was analyzed using MascotTM (version 2.2) and Scaffold (version 2.06) software. P value of <0.05 was considered significant. Results:The maternal expression of 29 miRNAs was associated with positive implantation 24h ahead of FET (P<0.05). Notably, 3 miRNAs, miR-891a, miR-522, miR-198, were completely absent from the aspirated uterine fluid of failed implantation. Using the LC-MS/MS proteomic strategy, 469 uterine fluid proteins were reliably identified. Relative quantification revealed significantly reduced expression with positive implantation for the MUC protein family (P<0.05). MUCIN proteins are epithelial cell surface proteins that have considerable effect on endometrial function creating a barrier to implantation. Specifically, MUC1 removal is essential for successful implantation, and was observed at increased protein levels with implantation failure.」 (下線部の当審訳: タイトル: 胚移植の24時間前の子宮内膜分泌物の非侵襲的オミクス分析は、着床結果の予測因子である。 材料と方法: 不妊患者(n=30)は、IRBの同意を得た上で、正常染色体の胚盤胞を用いたエストラジオール/プロゲステロン置換凍結胚移植(FET)前に募集された。子宮内分泌物は、FETの24時間前またはFET時に優しく吸引して収集された。子宮分泌物の分析は、着床結果を盲検化して行われ、TaqMan Low DensityヒトmiRNAアレイ(Thermo Fisher)およびタンデム液体クロマトグラフィー質量分析(LC-MS/MS)(Thermo/Finnigan)を使用した。miRNAプロファイルの分析は、REST統計ソフトウェアを用いて行った。MS/MSスペクトルは、MascotTM(バージョン2.2)およびScaffold(バージョン2.06)ソフトウェアを使用して分析した。P値が<0.05の場合は有意と見なされた。 結果:FETの24時間前における母体の29種類のmiRNAの発現は、着床の成功と関連していた(P<0.05)。)・・・LC-MS/MSプロテオミクス戦略を使用して、469種類の子宮液タンパク質が信頼性高く同定された。相対定量分析により、着床が成功した場合にMUCタンパク質ファミリーの発現が有意に減少していることが明らかになった(P<0.05)。) エ 引用文献2、3から導き出される技術的事項 上記イ、ウより、以下の技術的事項が導かれる。 (引用文献2、3から導き出される技術的事項) 妊娠転帰を予測するために、胚移植の24時間前に試料を得て子宮のセクレトームプロファイルの決定を行うこと。 (2)対比 本件補正発明1と引用発明とを対比する。 ア 「不妊治療の不良な妊娠転帰を予測するための指標として患者の子宮内膜分泌物のセクレトームプロファイルを取得する方法であって、」の構成について 引用発明の「不妊症患者から」「提供」された「子宮分泌液」は、本件補正発明の「患者の子宮内膜分泌物」に相当する。また、引用発明の「子宮分泌液の分子プロファイル」と、引用発明において明らかになる「セクレトーム解析」の「発現プロファイル」とは、いずれも本件補正発明において取得される「セクレトームプロファイル」に相当する。 引用発明の「体外受精」は本件補正発明の「不妊治療」に相当し、引用発明の「陽性着床」と「陰性着床」はそれぞれ本件補正発明の「成功した妊娠転帰」と「不良な妊娠転帰」に相当する。そうすると、引用発明は「IVFの結果に基づく統計解析では、陽性着床と陰性着床を有意に区別する」「サイトカイン」を見いだしたものであるから、本件補正発明と「不妊治療の妊娠転帰を予測するため」のものである点で共通する。 以上より、引用発明の「子宮分泌液の分子プロファイルを子宮内膜の受容性および体外受精(IVF)の結果と関連付けて調査する目的で行う方法」は、本件補正発明の「不妊治療の」「妊娠転帰を予測するための指標として患者の子宮内膜分泌物のセクレトームプロファイルを取得する方法」に相当する。 一方、本件補正発明は不妊治療の「不良な」妊娠転帰を予測するためのものであるのに対し、引用発明はそのような特定はない。 イ 「前記患者の子宮内膜分泌物を、タンパク質、代謝物、またはmiRNAからなる群から選択される適さない子宮内膜の環境と関連付けられた一つ以上または少なくとも二つのマーカーを定量化するためのキットと接触させることであって、前記マーカーの1つがIL -6である、接触させることと」の構成について 引用発明は、「子宮分泌液のセクレトーム解析」を、「Luminex Human Cytokine 30-Plex Panel」を用いて実施している。引用発明の「Luminex Human Cytokine 30-Plex Panel」は子宮分泌液サンプル中のサイトカインを検出するためのパネルであって、キット化された製品であることは明らかであるから、本件補正発明の「タンパク質、代謝物、またはmiRNAからなる群から選択される」「子宮内膜の環境と関連付けられた一つ以上または少なくとも二つのマーカーを定量化するためのキット」に相当する。そして、引用発明は、「Luminex Human Cytokine 30-Plex Panel」を用いて実施するにあたり、「子宮分泌液」を「Luminex Human Cytokine 30-Plex Panel」に接触させていることは明らかである。また、引用発明は、その方法を実施した結果、「IL-6」を含む「陽性着床と陰性着床を有意に区別する6種類のサイトカインが認められ」たのであるから、マーカーの1つがIL-6であることも明らかである。 一方、本件補正発明ではキットが「適さない子宮内膜の環境と関連付けられた」「マーカーを定量化するためのキット」であるのに対し、引用発明のキットは「適さない」子宮内膜の環境と関連付けられたという特定はない。 ウ 「凍結胚移植または子宮腔内授精の少なくとも24時間前に、適さない子宮内膜の環境と関連付けられたマーカーの存在の増加または減少を確認するために、前記子宮内膜分泌物のセクレトームプロファイルを決定することと、を含み、」の構成について 引用発明は「子宮分泌液の分子プロファイルを子宮内膜の受容性および体外受精(IVF)の結果と関連付けて調査する目的で行う方法」であって、「当該方法を実施した結果、子宮分泌液のセクレトーム解析により、29種類のサイトカインと229種類のmiRNAの発現プロファイルが明らかになり、IVFの結果に基づく統計解析では、陽性着床と陰性着床を有意に区別する6種類のサイトカインが認められ」たものであり、このことは陽性着床と陰性着床で当該サイトカインの量に差異(すなわち一方を基準とした際の基準からの増加または減少)が見られたことを示している。そうすると、引用発明の「IL-6」を含む「6種類のサイトカイン」は、本件補正発明の「子宮内膜の環境と関連付けられたマーカー」に相当し、引用発明は本件補正発明と、「子宮内膜の環境と関連付けられたマーカーの存在の増加または減少を確認するために、前記子宮内膜分泌物のセクレトームプロファイルを決定する」点で共通する。 一方、本件補正発明は「適さない」子宮内膜の環境と関連付けられたマーカーの存在を確認するものであるのに対し、引用発明はそのような特定はない。 また、本件補正発明は、プロファイルの決定について、凍結胚移植または子宮腔内授精の「少なくとも24時間前に」行われるのに対し、引用発明は凍結胚移植の「移植直前」に行われる点で両者は相違する。 エ 「成功した妊娠転帰の子宮内膜分泌物のセクレトームプロファイルと比較した、IL-6の存在の前記増加が、適さない子宮内膜の環境と関連付けられ、不良な妊娠転帰を予測する、方法。」の構成について 上記ウで述べたように、引用発明は、陽性着床と陰性着床で「IL-6」の量に差異(すなわち一方を基準とした際の基準からの増加または減少)が見られたものである。このため、本件補正発明と引用発明は「確定した妊娠転帰の子宮内膜分泌物のセクレトームプロファイルと比較した、IL-6の存在の差異が、子宮内膜の環境と関連付けられ、妊娠転帰を予測する、方法。」である点で共通する。 オ 対比のまとめ 上記ア~エより、本件補正発明と引用発明との一致点、相違点はそれぞれ以下のとおりである。 (一致点) 不妊治療の妊娠転帰を予測するための指標として患者の子宮内膜分泌物のセクレトームプロファイルを取得する方法であって、 前記患者の子宮内膜分泌物を、タンパク質、代謝物、またはmiRNAからなる群から選択される子宮内膜の環境と関連付けられた一つ以上または少なくとも二つのマーカーを定量化するためのキットと接触させることであって、前記マーカーの1つがIL -6である、接触させることと、 子宮内膜の環境と関連付けられたマーカーの存在の増加または減少を確認するために、前記子宮内膜分泌物のセクレトームプロファイルを決定することと、を含み、 確定した妊娠転帰の子宮内膜分泌物のセクレトームプロファイルと比較した、IL-6の存在の差異が、子宮内膜の環境と関連付けられ、妊娠転帰を予測する、方法。 (相違点1) 本件補正発明は、予測する不妊治療の妊娠転帰が「不良な妊娠転帰」であって、それに伴って使用するマーカーが「適さない子宮内膜の環境と関連付けられた」マーカーであり、また、「成功した妊娠転帰の子宮内膜分泌物のセクレトームプロファイル」と比較した際に「IL-6の存在」が「増加」した場合に「不良な妊娠転帰」と予測するものであるに対し、引用発明では予測する不妊治療の妊娠転帰が「不良」であるという特定がなく、それに伴って使用するマーカーが「適さない」子宮内膜の環境と関連付けられたという特定がなく、また、「IL-6」の量が「陽性着床」(すなわち「成功した妊娠転帰」)と「陰性着床」(すなわち「不良な妊娠転帰」)のどちらを基準として相対量関係を確認しているかが特定されていない点。 (相違点2) 本件補正発明は、プロファイルの決定は、凍結胚移植または子宮腔内授精の「少なくとも24時間前に」行われるのに対し、引用発明は凍結胚移植の「移植直前」に行われる点。 (3) 判断 ア 相違点1について検討する。 引用発明は「子宮分泌液の分子プロファイルを子宮内膜の受容性および体外受精(IVF)の結果と関連付けて調査する目的で行う方法」であって、当該方法を実施した結果「IVFの結果に基づく統計解析では、陽性着床と陰性着床を有意に区別する」「サイトカイン」である「IL-6」を見いだしたものである。そして、各サイトカインが「陰性着床を有意に区別するもの」(「適さない」子宮内膜の環境)と関連付けられるものであるか、及び陽性着床と陰性着床のそれぞれの際に当該マーカーの相対量関係がどうなるかは、当業者であれば、そのサンプルの提供者が着床に成功した際に当該マーカー量が相対的に増加するのか減少するのか、同様にそのサンプルの提供者が着床不良だった際に当該マーカー量が相対的に増加するのか減少するのかを確認すれば、何ら困難性なく確認できる事項に過ぎない。 したがって、引用発明において、予測する不妊治療の妊娠転帰を「不良な妊娠転帰」とし、それに伴って使用するマーカーを「適さない子宮内膜の環境と関連付けられた」マーカーとすること、また、「成功した妊娠転帰の子宮内膜分泌物のセクレトームプロファイル」と比較した際に「IL-6の存在」が「増加」した場合に「不良な妊娠転帰」と予測するような構成とすることは、当業者が容易になし得たものである。 イ 相違点2について検討する。 引用発明は「子宮内膜の受容性を予測する指標」に係る方法であって、予測は当然に「体外受精」に先立って行われるものであり、また、凍結胚移植または子宮腔内授精を実施するに際し、母体の準備や胚の準備などの事前準備が必要である。そして、妊娠転帰を「体外受精」に一定時間先立って予め予測できれば、不良な妊娠転帰が予測される場合は凍結胚移植または子宮腔内授精を延期または中止するなどして不必要な事前準備を排除でき、臨床上有利であることは明らかであるし、その際、どの程度先立って予測を行うかは、当該事前準備の都合に合わせて適宜設定すべき事項である。 このような予測のタイミングについては、上記第2の3(1)エで述べたように、「妊娠転帰を予測するために、胚移植の24時間前に試料を得て子宮のセクレトームプロファイルの決定を行うこと。」は、既によく行われていることであるから、引用発明において、妊娠転帰予測に関わるプロファイル決定を行うタイミングを、凍結胚移植の「移植直前」に換えて、凍結胚移植または子宮腔内授精の「少なくとも24時間前」にすることは、当業者が容易になし得たものである。 また、本件補正発明に関する発明の詳細な説明の記載を参酌するに、実施例1において、プロファイル決定を胚移植の24時間前と胚移植時に行った際、【0069】に「結論:異常な母体の子宮miRNAおよび分子分泌物は、FETの24時間前、およびFET時点の両方で、着床不全の特徴付けを可能にする。」とあり、プロファイル決定を胚移植の24時間前とする場合と胚移植時とする場合とで、奏する効果は同程度であることが読み取れるし、少なくとも胚移植の24時間前とすることでよりよい効果を得られることを示すものは見当たらない。このため、プロファイル決定のタイミングを本件補正発明のように「凍結胚移植または子宮腔内授精の少なくとも24時間前」とすることに格別の効果を見いだすことはできない。 ウ したがって、本件補正発明は、引用発明から当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により、特許出願の際独立して特許を受けることができないものである。 (4) 審判請求書での主張、令和7年1月28日提出の上申書での主張について ア 審判請求人の主張 (ア) 審判請求書での主張 本件補正発明の進歩性について、審判請求書の第6.2.(2)で以下のような主張がなされている。 「本願発明に係る方法においては、凍結胚移植または子宮腔内授精の少なくとも24時間前に、適さない子宮内膜の環境と関連付けられたマーカーの存在の増加または減少を確認するために、前記子宮内膜分泌物のセクレトームプロファイルを決定するものであり、引用文献1のようにセクレトームプロファイルの決定が胚移植の直前に行われる場合に比べて、胚と子宮環境とを並行して準備する際に有益となります。 引用文献1には、凍結胚移植または子宮腔内授精の少なくとも24時間前に、子宮内膜分泌物のセクレトームプロファイルを決定することについては、何ら開示も示唆もされておりません。よって、仮に当業者が文献1に接したとしても、その当業者が、本願発明のようなタイミングを選択する動機付けはなく、そのため、本願発明に容易に想到することはできないものと思量いたします。」 (イ) 令和7年1月28日提出の上申書での主張1 上記上申書の3.(2)では以下のような主張がなされている。 「引用文献2には、子宮内膜液の試料を胚着床前であればいつでも得ることができることが記載されておりますが、引用文献1および2のいずれにも、本願発明のような「凍結胚移植または子宮腔内授精の少なくとも24時間前」という特定のタイミングによって得られる効果については何ら開示も示唆もされていません。・・・引用文献2では、好ましい実施形態として、胚移植の数時間前、具体的には5~6時間前での子宮内膜液の取得ないしプロファイリングを教示しています。 したがって、仮に当業者が引用文献1および2に接したとしても、本願発明のように「凍結胚移植または子宮腔内授精の少なくとも24時間前」に、セクレトームプロファイルを決定することの動機付けを得ることはできないものと思量いたします。」 (ウ) 令和7年1月28日提出の上申書での主張2 上記上申書の3.(2)では以下のような主張もなされている。 「引用文献2では、胚を移植するための子宮内膜受容性のバイオマーカーとして、プロスタグランジンE2(PGE2)および/またはプロスタグランジンF2α(PGF2α)を使用しているのみであり、他のバイオマーカーを用いて着床や妊娠転帰を予測することについては何ら開示も示唆もされていません。PGE2は脂質抽出物に可溶な生理活性脂質であるため、引用文献2の実施例1では、脂質サンプルを子宮内膜液から抽出し、PGE2を分析しています。これに対して、本願発明で使用するIL-6は水溶性分子であるため、引用文献2のような脂質サンプルを分析してもIL-6はまったく検出されません。」 イ 合議体の判断 (ア)上記ア(ア)(イ)についての判断 上記(3)イで説示したとおり、妊娠転帰を予測するために、胚移植の24時間前に試料を得て子宮のセクレトームプロファイルを決定することは、既によく行われていることに過ぎず、特に引用文献3においては、特定の当該具体的なタイミングが実施例としても記載されており具体的な先行事例も存在すると言える。そして、上記(3)イで説示したとおり、「凍結胚移植または子宮腔内授精の少なくとも24時間前」とすることに格別の効果を見いだすことはできないから、本願発明に容易に想到する。したがって請求人の主張は採用されない。 (イ)上記ア(ウ)についての判断 上記3(1)イ、ウに示したとおり、引用文献2にはPGE2および/またはPGF2αの量を胚移植実施24時間前に決定することが記載されており、引用文献3には29種類のmiRNAやMUCタンパク質ファミリーの量を実施24時間前に決定することが記載されているなど、数多くのマーカーにおいて実施の24時間前にプロファイル決定がなされている。このため、PGE2および/またはPGF2αでないマーカーであるIL-6においても、実施の24時間前にプロファイル決定し妊娠転帰を予測できるだろうことは、当業者が困難なく着想できるものである。 また、サンプルの抽出は、抽出される物質の物性に基づいて行うことは技術常識であり、脂溶性物質を抽出するにはそれに適した溶媒を、水溶性物質を抽出するにはそれに適した溶媒を、それぞれ選択することは、当業者にとって困難性なくなし得ることにすぎないし、IL-6をサンプル中から検出することは、既に引用発明で実現している。 4 本件補正についてのむすび 本件補正は、特許法第17条の2第6項において準用する同法第126条第7項の規定に違反するので、本件補正における他の補正部分について検討するまでもなく、本件補正は、同法第159条第1項の規定において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。 よって、上記補正の却下の決定の結論のとおり決定する。 第3 本願発明について 本件補正は上記第2のとおり却下されたので、本願の請求項1~30に係る発明は、令和6年2月15日にされた手続補正により補正された特許請求の範囲の請求項1~30に記載された事項により特定されるものであるところ、その請求項1に係る発明(以下、「本願発明」という。)は、その請求項1に記載された事項により特定される、上記第2の1の(補正前)に記載されたとおりのものである。 第4 原査定の理由 原査定の拒絶の理由は、この出願の請求項1に係る発明は、本願の最先の優先日前に頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった下記の引用文献1に記載された事項に基づいて、その最先の優先日前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない、というものを含む。 引用文献1:J.C. PARKS et al.,The molecular profile of uterine secretions is predictive of endometrial receptivity,Fertility and Sterility,2013年9月,Vol.100,No.3,p.S391,DOI: 10.1016/j.fertnstert.2013.07.712 第5 判断 1 引用文献 引用文献1の記載事項は、上記第2の3(1)アに記載したとおりである。 2 対比、判断 本願発明は、上記第2の2で検討したとおり、本件補正発明の「適さない子宮内膜の環境と関連付けられたマーカーの存在の増加または減少を確認するために、前記子宮内膜分泌物のセクレトームプロファイルを決定する」工程において、当該工程が「凍結胚移植または子宮腔内授精の少なくとも24時間前に」行われるという限定を省き、また、「タンパク質、代謝物、またはmiRNAからなる群から選択される適さない子宮内膜の環境と関連付けられた一つ以上または少なくとも二つのマーカーを定量化するためのキット」に「固体基質を有する」という構成を付加するものである。 ここで、上記第2の2(2)で記載したように、「基質」が、酵素によって化学反応を触媒される物質を意味するのか、単なる「基体」ないし「基板」を意味するのか、一見不明確ではあるものの、セクレトームプロファイルを決定する際に使用するマーカーを定量化するためのキットであることに鑑みるに、ここでの「固体基質」は単なる「基体」ないし「基板」を意味することは明らかであって、本件補正発明に付加された「固体基質を有する」構成は、当該技術分野のキットが当然に有している構成に過ぎない。 そうすると、本願発明の発明特定事項を全て含み、その発明特定事項の一部を限定したものに実質的に相当する本件補正発明が、前記第2の3で説示したとおり、引用発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、本願発明も、同様の理由により引用発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。 第6 むすび 以上のとおり、本願発明は、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないので、他の請求項に係る発明について検討するまでもなく、本願は拒絶されるべきものである。 よって、結論のとおり審決する。

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2024-013307

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