特許拒絶査定不服審判
2024-013757
睡眠促進用組成物及び組成物を含む食品、医薬品、飼料
- 審判番号
- 2024-013757
- 法域
- 特許
- 審判種別
- 拒絶査定不服審判(拒絶査定不服の審決)
- 出願番号
- 特願2020-018143
- 請求日
- 2024年08月27日
- 審決日
- 2026年02月25日
- 公報発行日
- 2026年05月29日
- 結論
- 請求不成立
- 当事者
- 【請求人】雪印メグミルク株式会社
- 【請求人代理人】弁理士法人 もえぎ特許事務所
- 審判長/審判官
- 審判長 瀬下 浩一
- 審判官 渡辺 陽子
- 審判官 光本 美奈子
- 分類
- P18 .121-Z (A61K) / P18 .575-Z (A61K)
- 根拠条文(結論部分から自動抽出・参考)
- 特許法29条2項
- 条文(本文から自動抽出・参考)
- 特許法第29条、特許法第17条の2第5項第2号、特許法第17条の2第6項、特許法第29条第2項
- データ出所
- 審決公報(XML)
事件の表示
特願2020- 18143「睡眠促進用組成物及び組成物を含む食品、医薬品、飼料」拒絶査定不服審判事件〔令和 3年 8月30日出願公開、特開2021-123562〕について、次のとおり審決する。
結論
結 論
本件審判の請求は、成り立たない。
理由
理 由
第1 手続の経緯
本願は、令和2年2月5日を出願日とする出願であって、その主な手続の経緯は以下のとおりである。
令和5年12月 5日付け:拒絶理由通知
令和6年 2月 9日 :意見書及び手続補正書の提出
令和6年 5月21日付け:拒絶査定
令和6年 8月27日 :審判請求書及び手続補正書の提出
第2 令和6年8月27日にされた手続補正についての補正の却下の決定
[補正の却下の決定の結論]
令和6年8月27日にされた手続補正(以下「本件補正」という。)を却下する。
[理由]
1 本件補正について(補正の内容)
(1)本件補正後の特許請求の範囲の記載
本件補正後の、特許請求の範囲の請求項1~3の記載は、以下のとおりである(下線部は、補正箇所である。)。
「【請求項1】
産生する乳酸の旋光性がL型以外に分類される乳酸菌1つ以上を有効成分として含む睡眠促進用組成物:ここで、前記乳酸菌はラクトバチルス属から選択される1つ以上であり、前記ラクトバチルス属は、ラクトバチルス・ヘルベティカス(Lactobacillus helveticus)種、ラクトバチルス・ムコーサエ(Lactobacillus mucosae)種から選択される1つ以上である。
【請求項2】
前記睡眠促進作用組成物が、睡眠導入促進用組成物である請求項1に記載の睡眠促進用組成物。
【請求項3】
請求項1又は2に記載の睡眠促進用組成物を含む睡眠促進用食品、睡眠促進用医薬品又は睡眠促進用飼料。」
(2)本件補正前の特許請求の範囲
本件補正前の、令和6年2月9日にされた手続補正により補正された特許請求の範囲の請求項1~3の記載は次のとおりである。
「【請求項1】
産生する乳酸の旋光性がL型以外に分類される乳酸菌1つ以上を有効成分として含む睡眠促進用組成物:ここで、
前記乳酸菌はラクトバチルス属、ロイコノストック属、ペディオコッカス属、ワイセラ属から選択される1つ以上であり、
前記ラクトバチルス属は、ラクトバチルス・デルブレッキイ 亜種 ブルガリカス(Lactobacillus delbrueckii subsp. bulgaricus)種、ラクトバチルス・ヘルベティカス(Lactobacillus helveticus)種、ラクトバチルス・アシドフィラス(Lactobacillus acidophilus)種、ラクトバチルス・パラブフネリー(Lactobacillus parabuchneri)種、ラクトバチルス・バギナリス(Lactobacillus vaginalis)種、ラクトバチルス・ブレビス(Lactobacillus brevis)種、ラクトバチルス・ムコーサエ(Lactobacillus mucosae)種、ラクトバチルス・クリスパータス(Lactobacillus crispatus)種、ラクトバチルス・オリス(Lactobacillus oris)種、ラクトバチルス・アミロボラス(Lactobacillus amylovorus)種、ラクトバチルス・ファーメンタム(Lactobacillus fermentum)種、ラクトバチルス・ジョンソニイ(Lactobacillus johnsonii)種、ラクトバチルス・サケイ(Lactobacillus sakei)種、から選択される1つ以上であり、
前記ロイコノストック属は、ロイコノストック・シトレウム(Leuconostoc citreum)種、ロイコノストック・ラクティス(Leuconostoc lactis)種、ロイコノストック・メセンテロイデス 亜種 デキストラニカム(Leuconostoc mesenteroides subsp. dextranicum)種、ロイコノストック・シュードメセンテロイデス(Leuconostoc pseudomesenteroides)種から選択される1つ以上であり、
前記ペディオコッカス属は、ペディオコッカス・アシディラクティシ(Pediococcus acidilactici)種、ペディオコッカス・ペントサセウス(Pediococcus pentosaceus)種、ペディオコッカス・スティレシィイ(Pediococcus stilesii)種から選択される1つ以上であり、
前記ワイセラ属は、ワイセラ・シバリア(Weissella cibaria)種、ワイセラ・コンフューザ(Weissella confusa)種、ワイセラ・パラメセンテロイデス(Weissella paramesenteroides)種から選択される1つ以上である。
【請求項2】
前記睡眠促進作用組成物が、睡眠導入促進用組成物である請求項1に記載の睡眠促進用組成物。
【請求項3】
請求項1又は2に記載の睡眠促進用組成物を含む睡眠促進用食品、睡眠促進用医薬品又は睡眠促進用飼料。」
2 補正の適否
以下、下線は合議体による。
本件補正は、本件補正前の請求項1及びその従属形式で記載される請求項3に記載された発明を特定するために必要な事項である「乳酸菌」について、上記のとおり限定するものであって、補正前の請求項1及び3に記載された発明と補正後の請求項1及び3に記載された発明の産業上の利用分野及び解決しようとする課題が同一であるから、特許法第17条の2第5項第2号の特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。
そこで、本件補正後の請求項1及び3に記載される発明(以下、「本件補正発明1」及び「本件補正発明3」という。)が同条第6項において準用する同法第126条第7項の規定に適合するか(特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるか)について、以下、検討する。
(1)本件補正発明3
本件補正発明3は、上記1(1)に記載したとおりのものであり、請求項1の引用形式で記載される本件補正発明3を独立請求項の形式に改めて記載すると、以下のとおりとなる。
「産生する乳酸の旋光性がL型以外に分類される乳酸菌1つ以上を有効成分として含む睡眠促進用組成物:ここで、前記乳酸菌はラクトバチルス属から選択される1つ以上であり、前記ラクトバチルス属は、ラクトバチルス・ヘルベティカス(Lactobacillus helveticus)種、ラクトバチルス・ムコーサエ(Lactobacillus mucosae)種から選択される1つ以上である。
を含む睡眠促進用食品、睡眠促進用医薬品又は睡眠促進用飼料。」
(2)引用文献の記載事項
ア 引用文献1
原査定の拒絶の理由で引用された本願の出願日前に頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった引用文献である、特開2012-17282号公報(以下「引用文献1」という。)には、次の記載がある。
「【請求項1】
迷走神経活性化作用を有する乳酸菌の菌体及び/又は乳酸菌の処理物を有効成分として含有する迷走神経活性化剤。
【請求項2】
乳酸菌が、ラクトバチルス属、ビフィドバクテリウム属、エンテロコッカス属、ロイコノストック属、ストレプトコッカス属、ラクトコッカス属、ペディオコッカス属、及びワイセラ属からなる群より選択される属に属する少なくとも1種の細菌である、請求項1に記載の迷走神経活性化剤。
【請求項6】
迷走神経が胃及び/又は腸の迷走神経の求心枝である、請求項1~5のいずれか1項に記載の迷走神経活性化剤。」
「【0002】
迷走神経とは胸腹部の内臓を支配する副交感性の神経の総称であり、特に迷走神経の求心性神経は、腹部内臓で感知した外部情報を延髄孤束核や中枢神経に伝達する役割を担っている。
【0003】
迷走神経性の脳血流変化は医学的に知られるところであり、脳血流の変化によって脳機能を改善することができると考えられる。また、迷走神経の求心枝活性化は、血圧低下に作用し脳血流を部分的に低下させ、不眠症や睡眠の質改善に関与すると考えられる。さらに迷走神経の求心枝活性化は、胃内容排出の抑制、PYY、CCK、レプチンの分泌制御に関与し、満腹の感情、及び摂食行動と代謝を抑制することが知られている(非特許文献1~3)。従って、迷走神経の求心枝の活性化により、脳血流改善、脳機能改善、睡眠改善、摂食抑制などが期待できる。」
「【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明の目的は、迷走神経の求心枝を活性化するための有効な手段及び方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者は、上記課題を解決するため鋭意検討を行った結果、乳酸菌の菌体及び発酵乳が、胃及び腸の迷走神経求心枝の活動を亢進することを見出した。また、乳酸菌菌体の摂取により脳血流が変化すること、及び睡眠が改善することを確認した。これらの知見から、本発明者は、乳酸菌の菌体及び処理物を迷走神経の活性化において使用できると考え、本発明を完成するに至った。」
「【0015】
(2)睡眠改善への関与
迷走神経の求心枝活性化は、血圧低下に作用し、脳血流を部分的に低下させ、不眠症や睡眠の質改善に関与すると考えられる。実際に、ヒト摂取試験の質問票解析において、睡眠の質、寝付き、睡眠障害の緩和が示され、睡眠を改善していることが示された(実施例3)。
・・・
【0017】
以上の当技術分野における技術常識及び本明細書に示す実験結果から、乳酸菌は、迷走神経求心枝を活性化することで、脳血流改善及び脳機能改善をベースとして、睡眠改善、摂食抑制、ストレス緩和、リラックス作用に関しての用途が考えられる。
【0018】
従って、本発明は、乳酸菌の菌体及び/又は処理物を含有する迷走神経活性化剤、並びにその医薬及び食品用途に関する。
【0019】
本発明において使用する乳酸菌とは、発酵によって糖類から乳酸を産生する細菌であり、例えばラクトバチルス(Lactobacillus)属、ロイコノストック(Leuconostoc)属、ラクトコッカス(Lactococcus)属、ペディオコッカス(Pediococcus)属、エンテロコッカス(Enterococcus)属、ビフィドバクテリウム(Bifidobacterium)属、ストレプトコッカス(Streptococcus)属、ワイセラ(Weissella)属などに属する細菌が含まれる。本発明においては、乳酸菌の菌体又はその処理物が迷走神経活性化作用を示すものであれば、当技術分野で公知の乳酸菌株を使用することができる。なお、動物への投与・摂取を考慮して、動物において安全性が確認されている菌株であることが好ましい。
【0020】
乳酸菌のより具体的な種としては、ラクトバチルス属に属する細菌として、ラクトバチルス・ガセリ、ラクトバチルス・アミロボラス、ラクトバチルス・カゼイ、ラクトバチルス・パラカゼイ、ラクトバチルス・ゼアエ、ラクトバチルス・ラムノーサス、ラクトバチルス・ロイテリ、ラクトバチルス・アシドフィルス、ラクトバチルス・クリスパタス、ラクトバチルス・ガリナーラム、ラクトバチルス・ブレビス、ラクトバチルス・ファーメンタム、ラクトバチルス・プランタラム、ラクトバチルス・デルブルッキ サブスピーシーズ ブルガリカス、及びラクトバチルス・ジョンソニーなどがある。
【0021】
また乳酸菌の具体的な別の種としては、ビフィドバクテリウム属に属する細菌として、ビフィドバクテリウム・ブレーベ、ビフィドバクテリウム・ロンガム、ビフィドバクテリウム・シュードロンガム、ビフィドバクテリウム・アニマリス、ビフィドバクテリウム・アドレッセンティス、ビフィドバクテリウム・ビフィダム、ビフィドバクテリウム・ラクティス、ビフィドバクテリウム・カテニュラータム、ビフィドバクテリウム・シュードカテニュラータム、及びビフィドバクテリウム・マグナムが挙げられる。エンテロコッカス属に属する細菌としては、エンテロコッカス・フェカリス、エンテロコッカス・ヒラエ、及びエンテロコッカス・フェシウムが挙げられる。ストレプトコッカス属に属する細菌としては、ストレプトコッカス・サーモフィルスが挙げられる。ロイコノストック属に属する細菌としては、ロイコノストック・メセンテロイデス、及びロイコノストック・ラクティスが挙げられる。ラクトコッカス属に属する細菌としては、ラクトコッカス・ラクティス、ラクトコッカス・プランタラム、及びラクトコッカス・ラフィノラクティスが挙げられる。ペディオコッカス属に属する細菌としては、ペディオコッカス・ペントサセウス、及びペディオコッカス・ダムノサスが挙げられる。ワイセラ属に属する細菌としては、ワイセラ・チバリア、ワイセラ・コンフューザ、ワイセラ・ハロトレランス、ワイセラ・ヘレニカ、ワイセラ・カンドレリ、ワイセラ・キムチイ、ワイセラ・コレエンシス、ワイセラ・ミノール、ワイセラ・パラメセンテロイデス、ワイセラ・ソリ、ワイセラ・タイランデンシス、及びワイセラ・ビリデスセンスが挙げられる。」
「【実施例】
【0064】
以下、実施例に基づいて本発明をさらに具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0065】
[参考例1]
乳酸菌ラクトバチルス・ガセリCP2305株は、MRS液体培地で培養後、凍結乾燥粉末化し、107cfu/mlに調製した。
【0066】
乳酸菌発酵乳は、ラクトバチルス・ガセリCP2305株を用いて、脱脂粉乳、酵母エキスを含む液体培地で培養後、凍結乾燥粉末化し、107cfu/mlに調製した。
【0067】
乳酸菌粉末は、ラクトバチルス・ガセリCP2305株を用いて、糖源、肉エキス、タンパク質加水分解物、酵母エキス、塩類等を含む液体培地で培養後、凍結乾燥粉末化し調製した。
【0068】
殺菌乳酸菌飲料は、乳酸菌CP2305株を用いて、脱脂粉乳、酵母エキスを含む液体培地で培養後、糖、塩類、フレーバー等を配合することにより調製した。
【0069】
[実施例1]
本実施例では、乳酸菌による胃及び腸迷走神経求心枝活動への影響を調べた。
【0070】
Wistar系雄ラット(約9週齢)を麻酔し、腸迷走神経求心枝若しくは胃迷走神経求心枝を電極で吊り上げ、その電気活動を測定した。
【0071】
参考例1に記載のように調製した乳酸菌CP2305株又はその発酵乳1ml(107cfu)を経口投与して、腸迷走神経求心枝若しくは胃迷走神経求心枝の電気活動の変化を電気生理学的に測定した。対照として、水を経口投与したラットにおいて同様に測定を行った。
【0072】
上記の実験結果を図1~3に示す。図1及び2は、それぞれ乳酸菌生菌体及び乳酸菌発酵乳による腸迷走神経求心枝活動(intestinal vagal afferent nerve activity;IVNA)の変化を示す。また図3は、乳酸菌発酵乳による胃迷走神経求心枝活動(gastric vagal afferent nerve activity;GVNA)の変化を示す。この結果から、乳酸菌の生菌及び発酵乳が、胃及び腸迷走神経求心枝を活性化することが示された。
【0073】
[実施例2]
本実施例では、乳酸菌による脳機能への影響を調べた。
【0074】
健常人8名に、参考例1に記載のように調製した乳酸菌CP2305株生菌体粉末0.2gを1日1回3週間摂取させた。その摂取前後に単一光子放射断層撮影(SPECT)を行い、脳血流画像を取得した。
【0075】
代表的な脳血流画像を図4~6に示す。図4は大脳皮質の血流(白矢印)を示し、図5は基底核の血流(白矢印)を示し、図6は後頭葉第8領域の血流(白丸)を示す。CP2305株摂取により、大脳皮質の血流が増加し(図4)、基底核の血流が抑制され(図5)、後頭葉第8領域の血流が抑制された(図6)。この結果から、乳酸菌による脳血流改善及び脳機能改善の可能性が示された。
【0076】
[実施例3]
本実施例では、乳酸菌による睡眠への影響を調べた。
【0077】
ストレス下にある健常人32名を2群に分け、乳酸菌CP2305株から製造された乳酸菌飲料(加熱殺菌)200ml又はプラセボ飲料(乳酸にて改変調整した未発酵乳)を35日間連続して摂取させ、摂取前後の健康状態に関して評価を実施した。摂取前後で睡眠の質に関する質問票を回答させ、スコアの比較を実施した。また、糞便中細菌叢の解析を実施し、腸内有害菌の1種であるバクテロイデス・ブルガタスの構成比を調べた。
【0078】
その結果を図7~9に示す。図7は睡眠の質についてのスコア変化を示し、図8は寝付きについてのスコア変化を示し、図9は糞便中のバクテロイデス・ブルガタスの構成比変化を示す。これらの結果では、CP2305株摂取は、睡眠の質及び睡眠導入に関して改善が認められ(図7及び8)、腸内バクテロイデス・ブルガタスの構成比に関しても抑制が認められた(図9)。従って、乳酸菌摂取による睡眠改善の効果が示された。
[図:0001434750000001.jpg]
イ 引用文献1に記載された発明
引用文献1の請求項2の引用形式で記載される請求項6には、「胃及び/又は腸の迷走神経の求心枝である迷走神経活性化作用を有する、ラクトバチルス属、ビフィドバクテリウム属、エンテロコッカス属、ロイコノストック属、ストレプトコッカス属、ラクトコッカス属、ペディオコッカス属、及びワイセラ属からなる群より選択される属に属する少なくとも1種の細菌である乳酸菌の菌体及び/又は乳酸菌の処理物を有効成分として含有する迷走神経活性化剤」の発明(以下「引用発明1」という。)が記載されている。
その上で、実施例3として、「MRS液体培地で培養後、凍結乾燥粉末化した」「乳酸菌ラクトバチルス・ガセリ」「CP2305株を用いて、脱脂粉乳、酵母エキスを含む液体培地で培養後、糖、塩類、フレーバー等を配合することにより調製した」「乳酸菌飲料」(【0065】、【0068】)について、当該乳酸菌飲料を摂取した被験者では、睡眠の質及び寝付きについてのスコアがプラセボ飲料を摂取した対照者と比較して改善が認められ、CP2305株摂取により、「睡眠の質及び睡眠導入に関して改善が認められ」「乳酸菌摂取による睡眠効果の改善が示された」こと(【0077】【0078】【図7】【図8】)が記載されている。
これらの記載から、引用文献1には、「睡眠の質及び睡眠導入を改善するための、乳酸菌ラクトバチルス・ガセリCP2305株を用いて、脱脂粉乳、酵母エキスを含む液体培地で培養後、糖、塩類、フレーバー等を配合することにより調製した乳酸菌飲料」の発明(以下「引用発明3」という。)が記載されていると認められる。
(3)引用発明3との対比
本件補正発明3と引用発明3を対比する。
引用発明3の「睡眠の質及び睡眠導入を改善するための」「乳酸菌飲料」は、本件補正発明3の「睡眠促進用食品」に相当する。
また、前記(2)イのとおり、引用文献1には、ラクトバチルス・ガセリCP2305株摂取により、睡眠の質及び睡眠導入に関して改善が認められ、睡眠効果の改善が示されたことが記載されているから、引用発明3の「乳酸菌ラクトバチルス・ガセリCP2305株を用いて、脱脂粉乳、酵母エキスを含む液体培地で培養後、糖、塩類、フレーバー等を配合することにより調製した乳酸菌飲料」は、本件補正発明3の「乳酸菌1つ以上を有効成分として含む睡眠促進用組成物:ここで、前記乳酸菌はラクトバチルス属から選択される1つ以上であ」る「を含む」「食品」という点で、本件補正発明3と共通するものである。
したがって、本件補正発明3と引用発明3は、
「乳酸菌1つ以上を有効成分として含む睡眠促進用組成物:ここで、前記乳酸菌はラクトバチルス属から選択される1つ以上である。
を含む睡眠促進用食品、睡眠促進用医薬品又は睡眠促進用飼料。」の点で一致し、以下の点(以下<相違点3>という。)で相違する。
<相違点3>
ラクトバチルス属の乳酸菌が、本件補正発明3は、「産生する乳酸の旋光性がL型以外に分類される乳酸菌」であり、「ラクトバチルス・ヘルベティカス(Lactobacillus helveticus)種、ラクトバチルス・ムコーサエ(Lactobacillus mucosae)種から選択される1つ以上である」のに対し、引用発明3は、「ラクトバチルス・ガセリCP2305株」である点。
(4)引用発明3との相違点についての判断
ア 相違点3について
ラクトバチルス・ヘルベティカスは、ラクトバチルス・ガセリと同様にラクトバチルス属の乳酸菌として周知の菌種であり、種々の乳酸菌で同様の活性が奏されるかを確認しようとうすることは、当該分野において広く行われてたものである(要すれば、特開2014-24776号公報の【0011】、特開2016-144453号公報の【0020】、国際公開第2014/167995号の[0020]、国際公開第2019/230957号の[0012]、特表2003-517828号公報の【0007】等参照)。ここで、本願明細書の【表1】及び【表2】によれば、ラクトバチルス・ヘルベティカスは「産生する乳酸の旋光性がL型以外に分類される乳酸菌」であると認められる。
前記(2)アのとおり、引用文献1には、迷走神経の求心枝活性化は、不眠や睡眠の改善に関与すると考えられること(【0015】【0017】)が記載され、乳酸菌の菌体及び/又は処理物を含有する迷走神経活性化剤、並びにその医薬及び食品用途につき(【0018】)、当該乳酸菌には、例えばラクトバチルス属・・・などに属する細菌が含まれる(【0019】)ことが記載されている。
そうすると、引用発明3において、乳酸菌ラクトバチルス・ガセリCP2305株にかえて、ラクトバチルス・ヘルベティカス等の種々の周知のラクトバチルス属の乳酸菌の菌種について、睡眠の質及び睡眠導入に関する改善作用を確認することは、当業者が容易に想到し得るものである。
イ 効果について
本願明細書には、ラクトバチルス属の21菌株、ラクトコッカス属2菌株、ロイコノストック属4菌株、ペディオコッカス属3菌株、ストレプトコッカス属4菌株、ワイセラ属3菌株を含有する飼料を与えたショウジョウバエの3日間行動を測定し、不動期間(動かない期間)が5分以上の場合を“睡眠”と定義し、測定3日目の夜間の最初の3時間の睡眠量について、試験群とコントロール群を比較してウイルコクソンの順位和検定後にホルム法で補正し、p<0.05で有意差ありと判定したところ、ラクトコッカス属2菌株、ロイコノストック属4菌株、ペディオコッカス属3菌株及びワイセラ属3菌株、並びに、ラクトバチルス・ガセリMSN8、ラクトバチルス・ヘルベティカスMSN9及びラクトバチルス・ムコーサエMSN12を含むラクトバチルス属の19菌株が、コントロール群と比較して有意差ありと判定されたことが記載されている。
しかしながら、当該記載から、ラクトバチルス・ヘルベティカスMSN9の睡眠量の中央値が、ラクトバチルス・ガセリMSN8等と比較して予測しえない程顕著に高いことが明らかとはいえず、さらに、乳酸菌の種々の活性について、株毎に異なることが広く知られていることをふまえると(要すれば、特開2004-277381号公報の【0010】等参照。なお、本願出願後に公開された文献であるが、Genes Cells, (2023), vol.28, p.433-446(439頁右欄1~4行等)には、ビフィドバクテリウム・アドレセンティス種に属するBA2786は睡眠を促進したのに対し、BA003は促進しなかったことが記載されている。)、MSN9株に関する記載をもって、ラクトバチルス・ヘルベティカス種であれば、MSN9株と同様の睡眠量の中央値となることが明らかともいえない。
したがって、本件補正発明3により、本件補正発明3の構成から予測しえない顕著な効果が奏されたとはいえない。
なお、本願明細書の【表2】の産生する乳酸の旋光性がL型である微生物の睡眠量の中央値は、ストレプトコッカス属微生物(MSN31~34)では相対的に低いものの、ラクトコッカス属微生物(MSN22~23)では、産生する乳酸の旋光性がDL型であるラクトバチルス・ヘルベティカスと同程度の値である等、産生する乳酸の旋光性がL型であることにより、予測しえない顕著な効果が奏されたということもできない。
(5)引用発明1との対比
本件補正発明1と引用発明1を対比する。
引用発明1の「ラクトバチルス属、ビフィドバクテリウム属、エンテロコッカス属、ロイコノストック属、ストレプトコッカス属、ラクトコッカス属、ペディオコッカス属、及びワイセラ属からなる群より選択される属に属する少なくとも1種の細菌である乳酸菌の菌体及び/又は乳酸菌の処理物」及び「剤」は、それぞれ、本件補正発明1の「ラクトバチルス属から選択される1つ以上であ」る「乳酸菌」及び「組成物」に相当する。
したがって、両者は、「乳酸菌1つ以上を有効成分として含む組成物:ここで、前記乳酸菌はラクトバチルス属から選択される1つ以上である。」の発明である点で一致し、以下の点(以下<相違点1>及び<相違点2>という。)で相違する。
<相違点1>
「組成物」が、本件補正発明1は「睡眠促進用」と特定されているのに対し、引用発明1は「迷走神経活性化」と特定されている点。
<相違点2>
「ラクトバチルス属から選択される1つ以上である」「乳酸菌」が、本件補正発明1は、「産生する乳酸の旋光性がL型以外に分類される乳酸菌」であり、「ラクトバチルス属は、ラクトバチルス・ヘルベティカス(Lactobacillus helveticus)種、ラクトバチルス・ムコーサエ(Lactobacillus mucosae)種から選択される1つ以上である。」と特定されているのに対し、引用発明1は、このような特定がない点。
(6)引用発明1との相違点についての判断
ア 相違点1について
前記(2)のとおり、引用文献1には、「迷走神経の求心枝活性化は、血圧低下に作用し、脳血流を部分的に低下させ、不眠症や睡眠の質改善に関与すると考えられる」(【0015】)と記載されると共に、実施例1として、ラクトバチルス属の微生物であるラクトバチルス・ガセリCP2305の生菌及び発酵乳が、胃及び腸迷走神経求心枝を活性化することが、また、実施例3として、ラクトバチルス・ガセリCP2305から製造された乳酸菌飲料の摂取により睡眠の質及び睡眠導入に関して改善が認められたことが記載されていることから、引用発明1の「迷走神経活性化」との記載を「睡眠促進用」とすることは、当業者が容易に想到し得るものである。
イ 相違点2について
前記(2)アのとおり、引用文献1には、迷走神経の求心枝活性化は、不眠や睡眠の改善に関与すると考えられること(【0015】【0017】)が記載され、乳酸菌の菌体及び/又は処理物を含有する迷走神経活性化剤、並びにその医薬及び食品用途につき(【0018】)、当該乳酸菌には、例えばラクトバチルス属・・・などに属する細菌が含まれる(【0019】)ことが記載されている。
ラクトバチルス・ヘルベティカスは、ラクトバチルス・ガセリと同様にラクトバチルス属の乳酸菌として周知の菌種であり、種々の乳酸菌で同様の活性が奏されるかを確認しようとうすることは、当該分野において広く行われてたものである(要すれば、特開2014-24776号公報の【0011】、特開2016-144453号公報の【0020】、国際公開第2014/167995号の[0020]、国際公開第2019/230957号の[0012]、特表2003-517828号公報の【0007】等参照)。ここで、本願明細書の【表1】及び【表2】によれば、ラクトバチルス・ヘルベティカスは「産生する乳酸の旋光性がL型以外に分類される乳酸菌」であると認められる。
そうすると、引用文献1の請求項2、【0015】、【0017】~【0019】及び実施例1及び3の記載に基づき、ラクトバチルス・ヘルベティカス等のラクトバチルス属の菌種について、不眠や睡眠の改善等の作用を確認することは、当業者が容易に想到し得るものである。
ウ 効果について
前記(4)イと同様の理由から、本件補正発明1により、本件補正発明1の構成から予測しえない顕著な効果が奏されたとはいえない。
(7) 請求人の主張について
ア 請求人の主張
請求人は、審判請求書において、引用文献1において、睡眠への影響を調べた実施例3で使用した乳酸菌は、ラクトバチルス・ガセリCP2305株のみであり、他の乳酸菌について睡眠への影響や胃及び腸迷走神経求心枝活動への影響や脳機能は調べられておらず、他の乳酸菌株については単に列挙されるにすぎないこと(以下「主張1」という。)、並びに、本願実施例(表2)には、ラクトバチルス・ヘルベティカス(MSN9)及びラクトバチルス・ムコーサエ(MSN12)は、乳酸菌を含まないコントロール群に対して有意な睡眠促進効果があり、その程度は、ラクトバチルス・ガセリ(MSN8)よりも大きいことが記載され、一般に、同じ属であっても種が異なればその機能が同じかどうかは不明である(以下「主張2」という。)旨主張する。
イ 検討
(ア)主張1について
前記(4)アで検討したとおり、引用文献1の請求項2及び【0017】~【0019】及び実施例の記載から、ラクトバチルス・ガセリと同様に周知のラクトバチルス属の菌種について、睡眠の質及び導入に対する効果を調べようとすることは、当業者が容易に想到し得たものである。引用文献1の段落【0020】の「乳酸菌のより具体的な種としては、ラクトバチルス属に属する細菌として、ラクトバチルス・ガセリ・・・などがある。」との記載は、迷走神経活性化作用を有するラクトバチルス属の乳酸菌がこれらの種に限られることを記載するものではないから、引用文献1の【0020】の記載は、同欄に記載のないラクトバチルス属の周知の細菌について、睡眠の質及び導入に対する効果を調べることを何ら阻害するものではない。
(イ)主張2について
前記(4)イで検討したとおり、MSN9菌株の結果をもって、ラクトバチルス・ヘルベティカス等により、予測しえない顕著な睡眠の質及び導入に対する効果が奏されたとはいえない。本願明細書に記載されるコントロール群と試験群を比較してウイルコクソンの順位和検定を行った結果(【表2】)は、そもそもラクトバチルス・ガセリMSN8とラクトバチルス・ヘルベティカスMSN9の有意差を直接示すものではないが、前記(4)イで検討したとおり、乳酸菌の種々の活性について、株毎に異なることが広く知られており、文献1の【0004】にも「乳酸菌の睡眠改善に関しての報告はある(特許文献1)が、この報告では、ラクトバチルス・ガセリには睡眠改善効果はないと考えられていた。」と記載されるように、仮に、MSN8とMSN9という特定菌株同士の間で有意差が確認されたとしても、当該結果をもって、ラクトバチルス・ヘルベティカス種により、予測しえない顕著な効果が奏されることが本願明細書の記載及び本願出願時の技術常識から明らかともいえない。
(8) 小括
したがって、本件補正発明1及び3は、引用文献1に記載された発明、引用文献1に記載の事項及び周知技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法29条2項の規定により、特許出願の際独立して特許を受けることができないものである。
3 本件補正についてのむすび
以上のとおりであるから、本件補正は、特許法17条の2第6項において準用する同法126条7項の規定に違反するので、同法159条1項の規定において読み替えて準用する同法53条1項の規定により却下すべきものである。
よって、上記補正の却下の決定の結論のとおり決定する。
第3 本願発明について
1 本願発明
令和6年8月27日にされた手続補正は、上記のとおり却下されたので、本願の請求項1~3に係る発明は、令和6年2月9日にされた手続補正により補正された特許請求の範囲の請求項1~3に記載された事項により特定されるものであるところ、その請求項1及び3に係る発明(以下「本願発明1」及び「本願発明3」という。)は、その請求項1及び3に記載された事項により特定される、前記第2の1(2)に記載のとおりのものである。
2 原査定の拒絶の理由
原査定の拒絶の理由は、以下の理由を含むものである。
本願の請求項1~3に記載された発明は、その出願前に日本国内又は外国において、頒布された刊行物又は電気通信回線を通じて公衆に可能となった下記の引用文献に記載された発明に基づいて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法29条2項の規定により特許を受けることができない。
引用文献等一覧
引用文献1:特開2012-17282号公報
3 引用文献
原査定の拒絶の理由で引用された引用文献1の記載事項は、前記第2の2(2)に記載したとおりである。
4 対比・判断
本願発明1及び3は、前記第2の2の冒頭で検討したとおり、本件補正発明1及び3をそのままの態様で包含するものであるから、本件補正発明1及び3が、前記第2の2(4)及び(6)に記載したとおり、引用文献1に記載された発明、並びに、引用文献1に記載の事項及び周知技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、本願発明1及び3も、引用文献1に記載された発明,並びに、引用文献1に記載された事項及び周知技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものである。
第4 結び
以上のとおり、本願発明1及び3は、特許法第29条第2項の規定により、特許を受けることができないから、本願は拒絶されるべきものである。
よって結論のとおり審決する。
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2024-013757