特許拒絶査定不服審判
2024-012374
医療用キャップ、医療用容器、医療用容器の製造方法及び医療用容器の製造装置
- 審判番号
- 2024-012374
- 法域
- 特許
- 審判種別
- 拒絶査定不服審判(拒絶査定不服の審決)
- 出願番号
- 特願2020-207384外部サイト(J-PlatPat)へ移動します
- 請求日
- 2024年07月29日
- 審決日
- 2026年04月23日
- 公報発行日
- 2026年06月26日
- 結論
- 請求不成立
- 当事者
- 【請求人】内外化成株式会社
- 【請求人代理人】弁理士法人OMNI国際特許事務所
- 【請求人代理人】小山 靖
- 分類
- P18 .121-WZ (A61J)
- 根拠条文(結論部分から自動抽出・参考)
- 特許法29条2項
- 条文(本文から自動抽出・参考)
- 特許法第29条第2項
- データ出所
- 審決公報(XML)
事件の表示
特願2020-207384「医療用キャップ、医療用容器、医療用容器の製造方法及び医療用容器の製造装置」拒絶査定不服審判事件〔令和 3年 7月26日出願公開、特開2021-104331〕について、次のとおり審決する。
結論
結 論
本件審判の請求は、成り立たない。
理由
理 由
第1 手続の経緯
本願は、令和 2年12月15日(優先権主張 令和 元年12月26日)を出願日とする出願であって、その手続の経緯は概略以下のとおりである。
令和 5年12月21日付け:拒絶理由通知書
令和 6年 3月15日 :意見書及び手続補正書の提出
令和 6年 4月25日付け:拒絶査定
令和 6年 7月29日 :審判請求書及び手続補正書の提出
令和 6年 9月18日 :手続補正書(方式)の提出
令和 6年12月11日 :上申書の提出
令和 7年10月16日付け:拒絶理由通知書
令和 8年 1月 8日 :意見書、手続補正書及び手続補足書
(実験成績証明書)の提出
第2 本願発明
本願の請求項1~4に係る発明は、令和 8年 1月 8日提出の手続補正書により補正された特許請求の範囲の請求項1~4に記載された事項により特定されるとおりのものであるところ、その請求項1に係る発明(以下「本願発明」という。)は、以下のとおりである。
「【請求項1】
穿刺針による刺通を可能にする針刺面を備えた弾性栓体と、
前記弾性栓体を内部に保持する外枠体とを少なくとも備える医療用キャップであって、
前記弾性栓体に於ける前記針刺面の少なくとも一部には、シリコーンオイルが含浸され、
前記シリコーンオイルが含浸されている領域は、前記穿刺針による刺通が予定されている領域を含んでおり、
前記シリコーンオイルが含浸されている領域には、表面にコーティング剤が塗布されていない前記穿刺針による刺通抵抗を低減させるための、前記シリコーンオイルの被覆膜が設けられている医療用キャップ。」
第3 当審の拒絶理由
令和 7年10月16日付けで当審が通知した拒絶理由は、以下の理由を含むものである。
本願発明は、その優先日前に日本国内又は外国において頒布された下記の引用文献に基いて、その優先日前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
1.特開2013-39292号公報
2.特開平8-12816号公報(周知技術を示す文献)
3.中国特許出願公開第109620720号明細書(周知技術を示す文献)
4.特開2019-188119号公報(周知技術を示す文献)
第4 当審の判断
1 引用文献の記載及び引用発明
(1) 引用文献1の記載
引用文献1には、以下の事項が記載されている(下線は、当審で付与した。以下同様。)。
ア「【0001】
本発明は、輸液容器、採血管、バイアル瓶等の容器の閉栓に用いられる弾性栓体、医療用キャップおよびその製造方法に関する。特に、医療用プラスチック針等の穿刺針を針刺しした際に液漏れがなく、また針抜けに対する保持力や復元力に優れ、密封性の保持に優れた弾性栓体、医療用キャップおよびその製造方法に関する。」
イ「【0010】
前記構成において、前記キャビティ部は、前記接液面とは反対側の針刺面側に向かって穴状、または前記弾性栓体の側周面において、前記針刺面側に向かって溝状に設けられていることが好ましい。ここで、前記「針刺面」とは、弾性栓体において、医療用キャップが薬液ボトルや点滴に用いられる輸液ボトル等に装着され、薬液等を取り出す際に、穿刺針により針刺しが行われる面をいう。」
ウ「【0021】
図1(a)に示すように、本実施の形態1に係る医療用キャップ10は、弾性栓体11と、当該弾性栓体11を内部に保持する外枠体12とを少なくとも備える。前記外枠体12は、弾性栓体11を針刺面14側から内壁で保持する上側枠部12aと、接液面15側から弾性栓体11を内壁で保持する下側枠部12bとからなる。」
エ「【0031】
弾性栓体11の針刺面14側には、図2(a)に示すように、穿刺針の針刺しを行うための凹部16が針刺面14の中央に1つ設けられている。さらに、前記針刺面14側には、複数の薬剤を混合調整する混注の際に、金属針による針刺しを行うための針刺部17が、凹部16とは別に設けられている。当該針刺部17は金属針による針刺しを行うものであり、プラスチック針等と比較して外径が小さく、針刺しが比較的容易であるため、断面形状が円錐状のものを用いることができる。各針刺部17は、弾性栓体11の中心に設けられている凹部16よりも外側の同心円上に位置している。また、各針刺部17は相互に等間隔になるように設けられている。」
オ「【0033】
前記弾性栓体11に用いる材料としては、例えば、ゴムや熱可塑性エラストマーが挙げられる。前記ゴムとしては特に限定されず、例えば、天然ゴム、イソプレンゴム、ブタジエンゴム、スチレン-ブタジエンゴム、イソプレン-イソブチレンゴム等が例示できる。また、熱可塑性エラストマーとしては特に限定されず、例えば、オレフィン系、スチレン系、ポリウレタン系、ポリエステル系、ポリ塩化ビニル系、ポリブタジエン系等が例示できる。中でも共役ジエン系の熱可塑性エラストマーに水素添加した熱可塑性エラストマー(SEBS、SEPS、HSBR、SEBR、CEBC)が好適である。
【0034】
また、熱可塑性エラストマー材料は、ゴム材料に比べて極めて衛生的な素材であるが、使用する薬液によっては、弾性栓体11の接液面15に、ラミネート加工を行ってもよい。ラミネート加工には、外枠体12又は取り付けるべき容器本体と同一種類の樹脂が一般に用いられる。これにより、弾性栓体11の接触面15を薬液が接触する容器内と同一又は類似した性質の材料とすることができる。
【0035】
以上のような本実施の形態に係る医療用キャップ10は、例えば、薬液を針で取り出すタイプの容器に取り付けて用いることができる。具体的には、薬液を収容する本体部と薬液を針で取り出す取出部とを有した医療用ボトルや医療用バッグ等において、前記医療用キャップをその取出部として用いることが可能である。これにより、液洩れの防止や、針抜けに対する保持力を維持しながら、穿刺針の針刺しの際における穿刺抵抗を低減して、従来の医療用キャップよりも針刺しの容易性を向上させることができる。」
カ 図1(a)「
[図:0001435650000001.jpg]
」
キ 図2(a)「
[図:0001435650000002.jpg]
」
ク 引用発明
上記ア~キから、引用文献1には次の発明(以下「引用発明」という。)が記載されている。
「穿刺針により針刺しが行われる針刺面14を備えた弾性栓体11と、
当該弾性栓体11を内部に保持する外枠体12とを備える医療用キャップ10であって、
穿刺針の針刺しを行うための凹部16が針刺面14の中央に1つ設けられ、
弾性栓体11の材料としてゴムや熱可塑性エラストマーが用いられ、
液洩れの防止や、針抜けに対する保持力を維持しながら、穿刺針の針刺しの際における穿刺抵抗を低減し、従来の医療用キャップよりも針刺しの容易性を向上させた医療用キャップ10。」
(2)引用文献2
引用文献2には、以下の事項が記載されている。
ア「【0004】今日患者の血液その他の体液と接触する作業者の健康上の不安を軽減することについての重大な関心事から考えて、患者に流体を注入する、あるいは患者から流体を抜き取る、装置の安全性を向上させる努力が健康管理産業で高まりつつある。針で貫通できる障壁は患者の点滴装置に流体を導入し、あるいは系から流体を抜き取るための最も便利な手段として機能する。この貫通できる障壁あるいは隔壁は点滴装置への連絡を許すと同時に患者を外部汚染から保護しかつ他の人達を患者の潜在的に危険な体液との接触から保護する。このような障壁は、系の密封を維持しながら装置の損傷または患者への障害の何れの危険も少なくするように最小の挿入力で流体を採る貫通を可能にすることが望ましい。現在、点滴装置は数日までの比較的短期の使用を意図した一人の患者に一回使用の使い捨て装置である。装置の隔壁の有用な寿命は繰り返し刺し通すことにより減少し、この繰り返される穿刺によって隔壁の孔あき、裂け、および摩耗を起こす。繰り返し使用した後の隔壁は漏れることがあり、系の安全性を傷つけ、また系の中に破片が入り込むことがある。点滴装置の有用な寿命は孔あき、裂け、および摩耗に対する抵抗性の向上した隔壁材料の使用により延長できる。
【0005】生物医学的応用に現在使われている隔壁は、典型的には天然ゴム、合成ポリイソプレンゴムまたはシリコーンゴムである。これら材料は一般に貫通困難で、血液試料採取および流体注入に使われる大ゲージ針(18および20ゲージ)で繰り返し孔をあけると急速な劣化を示す。
【0006】本発明者は、天然ゴムまたは合成ゴムのようなエラストマー材料中に隈なく潤滑油、例えばシリコーン油または鉱油を分散させることによって生物医学的応用に向けられる著しく改良されたエラストマー隔壁を製造できることを発見した。ここに得られる内部潤滑された隔壁は貫通に対する抵抗が劇的に低下すると共に、孔あけ時の劣化に対し驚く程抵抗性が向上し、再封止特性が向上し、そして引裂き抵抗および孔あけ抵抗が改善される。更にまた、これらの内部潤滑された隔壁は、望ましくない有機溶出物のレベルが驚く程低下するので、医用装置への応用に尚一層魅力的なものとなった。」
イ「【0022】第二の面においては、医用および治療用装置の応用面における使用と両立しうる内部潤滑されたエラストマー組成物が提供される。ここに提供されるエラストマー組成物は、エラストマー中に最初実質的にむらなく分散した約0.5%から50重量%の潤滑流体を包含する。この潤滑流体はエラストマーを内部的に潤滑することによって内部摩擦係数を減少させ、材料の針による貫通を容易にし、繰り返しの貫通に対する材料の耐久性を増すよう機能する。また、内部潤滑されたエラストマーから生理学的流体中に溶出する望ましくない有機物のレベルも減少させる。本発明に係る内部潤滑エラストマーは勝れたエラストマー特性を保有する。
【0023】本発明に係る内部潤滑されたエラストマーの好ましい製造法は溶媒浸漬によるものである。有機溶媒中潤滑流体、好ましくは約0.5%から20重量%の溶液をエラストマーと接触させることによって潤滑流体をエラストマー中に侵入させ、潤滑流体がエラストマー中に実質的にむらなく分散するようにする。エラストマーを溶液中に1時間から24時間の長時間、典型的には約4時間から8時間浸漬後、エラストマーを溶液から取り出し、エラストマーから溶媒を除く。処理後の含浸エラストマーは潤滑油0.5%から50%の各個濃度を含むが、これは油の型と用いたエラストマーによって左右される。この含浸法に使用できる溶媒の例として、塩化メチレン、ペルクロロエチレン、およびフレオン類があげられる。
【0024】本発明に係るエラストマーには天然および合成ゴム、ポリウレタン、ポリオレフィン、熱可塑性エラストマー、シリコーンゴム、およびフルオロカーボンエラストマーが包含されるが、これらに限定されない。有用な潤滑流体にはシリコーン油、鉱油、炭化水素油、芳香族油、植物油、およびフルオロカーボン油が包含されるが、これらに限定されない。好ましいエラストマー組成物はその中に分散されたシリコーン油を初期濃度約0.5%から50%で含有する天然または合成ゴムである。」
ウ「【0053】図1は本発明隔壁を含むヒト点滴装置のための流体連絡部位20の図である。該図は流体連絡部位の本体における隔壁1の配置を示す。連絡部位は基板3の上に装着されたハウジング2を有する。基板は、患者あるいは支持構造物へ該部位をストラップで結びつける(strapped)、あるいは取り付けることができるように、ストラップを通すためのスロット4を任意にもつ。ハウジングは本体8から伸びた二つの円筒状アーム5を有し、このものは連絡部位から流体を流すためのハウジングを通る通路を形づくる。この通路は該部位の内腔である。隔壁1は外部環境と内腔の間に貫通可能な障壁を与える。アーム5には柔軟性の医用チューブ材6、例えばルアー(luer)コネクター、に連結するための手段を備え、それにより連絡部位を、流体が一方のチューブから連絡部位の内腔を通って他のチューブに進むように、ヒト点滴装置につなぐことができる。
【0054】連絡部位ハウジングは二つの部分:即ち隔壁を支えるための下方本体部分8および隔壁を封止位置に保持するためのキャップ部分7を有する。キャップ部分はその上面に円形のあき(aperture)11を有する。いったんこのキャップ部分がハウジングの下方本体に取り付けられると、キャップ部分のあきは隔壁により完全に覆われる。キャップのあきの周囲はキャップの周囲より小さく、隔壁の外面は外部環境にさらされる一方隔壁の内面は内腔と接触状態となる。隔壁は内腔と外部環境との間に障壁を形成する。隔壁を本体部分に挿入した後、キャップ部分を隔壁の上にかぶせて下方の中空円筒下方本体部分に付ける。キャップ部分を定位置にパチンとはめる。あるいは適当な接着剤により下方本体に取り付けることもできる。下方本体部分8は隔壁を固定する手段、例えばぎざぎざのついたへり(indented lip)を有し、そしてこのものは隔壁をキャップのあきに対して適所に保持し、封止を形づくる隔壁内面の周辺と接する。いったんキャップ部分を下方本体部分に対し適所に取り付けると、二つの円筒状アーム6に連結する連絡部位の本体を通る流体通路が形成され、かつ外部環境から封止される。
【0055】図2は図1の流体連絡部位のハウジングのカッタウェイ図であり、隔壁1、キャップ7および本体8の相対位置を示す。下方本体は隔壁を保持するヘリ13を有する。キャップを本体上の適所に固定すると、隔壁は幾分圧縮され、内腔12と外部環境との間に封止を形成する。操作中、内腔12は流体で満され、次いでこの流体は隔壁を注射針で貫通することにより連絡できるようになる。」
エ「【0059】実施例
例1 シリコーン油によるイソプレンゴムの含浸
【0060】ポリイソプレンゴム隔壁(約85g、製品番号100-35、GardenaRubber Co.,ガーデナ、カリホルニア州)を、塩化メチレン中シリコーン油の10%(v/v)溶液約750mlの振盪させた中に入れた。変色し、混濁し、あるいは黒い破片粒子を含むシリコーン油溶液は使用に不向きであり、捨てるべきである。隔壁を少なくとも1時間、ただし24時間以下浸漬した。この浸漬時間は溶媒による隔壁材料の劣化を避けるために制限される。浸漬後、溶媒溶液から隔壁を取り出した。次に塩化メチレンを隔壁から除いた。隔壁を室温で少なくとも24時間乾燥するか、あるいは約60℃のオーブン中トレー上で約24時間乾燥させた。この溶媒含浸法を使用すると、用いたシリコーン油の分子量により、約0.5%から約15重量%のシリコーン油をポリイソプレン隔壁中に含浸させることができるであろう。」
オ 図1「
[図:0001435650000003.jpg]
」
カ 図2「
[図:0001435650000004.jpg]
」
(3)引用文献3
引用文献3には、以下の事項が記載されている。なお、訳は、当審で作成した。
ア「
[図:0001435650000005.jpg]
[図:0001435650000006.jpg]
」
(訳:[0087] 図7に示すように、本実施例の輸液包装蓋は、蓋体1(PP材質)を含み、蓋体1の内部には隔液膜2と熱塑性弾性体パッド7が設けられており、熱塑性弾性体パッド7は隔液膜2の上側に位置し、熱塑性弾性体パッド7と隔液膜2の間には隔離介質層3が設けられている。
[0088]所述の蓋体1の内腔は隔液膜2によって上腔体と下腔体に分けられ、熱塑性弾性体パッド7と隔離介質層3が上腔体内に配置されている。所述の隔離介質層3はシリコーンオイル層である。所述の隔離介質層3により、熱塑性弾性体パッド7の下表面は隔液膜2と接続されず、熱塑性弾性体パッド7の側面は蓋体1の上腔体の内側壁8に接着固定されているため、熱塑性弾性体パッド7は蓋体1から脱落しにくくなっている。
[0089] 熱塑性弾性体パッド7の上表面(C面)にはシリコーンオイルがスプレーされている。C面は熱塑性弾性体パッド1の作業面であり、C面には工業的にシリコーンオイルがスプレーされており、製品が乾燥することによって生じる見た目の悪さを改善し、相互に擦れ合うことによって発生する微粒子を防ぎ、鋼針の穿刺力を軽減し、鋼針の穿刺による削れの量を減少させる。C面にシリコーンオイルがスプレーされているため、鋼針が熱塑性弾性体パッド7を刺す際、C面のシリコーンオイルの作用により、熱塑性弾性体パッド7を容易に刺すことができ、穿刺力が軽減され、また戻り針現象も発生しない。シリコーンオイルは熱塑性弾性体パッド7のみにスプレーされ、蓋体1の上端面にはスプレーされないため、フィルムの貼り付けが容易になる。
[0090] 所述の蓋体1の上側にはフィルム11が設けられており、所述のフィルム11は蓋体1の上端面に貼り付けられている。これは、輸送中に灰塵や細菌などが熱塑性弾性体パッド7のC面を汚染するのを避けるためである(使用する際にはまずフィルム11を剥がす必要がある。)。)
イ 図7「
[図:0001435650000007.jpg]
」
(4)引用文献4
引用文献4には、以下の事項が記載されている。
ア「【0002】
患者への点滴注射(輸液)を行うに際しては、バイアル等の薬剤容器に収容された粉末製剤や凍結乾燥製剤等の薬剤を、生理食塩水、ブドウ糖液若しくは純水等の液体に溶解させ、又は当該液体で希釈させて薬液とすることが行われる。その際に、薬剤を収容するバイアル瓶と、液体を収容するバッグ等の容器とを連通させるための器具として、両頭針を備えた移注部材が用いられる。」
イ「【0045】
移注部材30は、第1容器10に収容される薬剤と第2容器20に収容される液体とを混合させる機能を有する。移注部材30は、図4に示すように、筒状体301と、当該筒状体301の内部に収容され、当該筒状体301の内側面に沿ってスライド移動可能な連通部302とを含む。
【0046】
筒状体301は、図5a)に示すように、全体形状が有底の筒状であり、側壁には全周にわたり段差部311が設けられている。段差部311の上方側(第1容器10側)には、上側筒状体312が設けられ、下方側(第2容器20側)には下側筒状体313が設けられている。尚、図5(a)は、本実施の形態の筒状体301の概略構成を表す断面模式図であり、同図(b)は後述する底部補完部を省略した筒状体301の概略構成を表す断面模式図である。」
ウ「【0054】
下側筒状体313の底部320には、図5(a)及び図5(b)に示すように、孔部319を外方から閉塞する底部補完部321が設けられている。この底部補完部321は、下側筒状体313の外部から底部320の接触部分と熱溶着により接合して設けられている。
【0055】
底部補完部321は、図7~図9に示すように、円形状の基台部322と、基台部322の中央部に設けられた補強部327と、補強部327の中心に設けられた第2穿刺針ガイド部325と、第2穿刺針ガイド部325の底面に設けられた薄肉部323とを備える。尚、図7は底部補完部321を説明するための概略図であって、同図(a)は底部補完部321が下側筒状体と熱溶着させる前の概略構成を表す斜視図であり、同図(b)は底部補完部321を表す側面図である。図8は底部補完部321を説明するための概略図であって、同図(a)は底部補完部321の垂直方向における断面図であり、同図(b)は底部補完部321の要部を表す断面図である。図9(a)は底部補完部321の概略構成を表す平面図であり、同図(b)は底部補完部321におけるアンカリング部の概略構成を表す平面図である。」
エ「【0059】
薄肉部323の内側面には、潤滑剤が塗布されていることが好ましい。これにより、第2穿刺針を薄肉部323に貫通させる際、第2穿刺針の外表面に潤滑剤が接触して付着する結果、刺通抵抗を低減させることができる。その結果、使用の際の取り扱い性に一層優れた移注部材30を提供することができる。潤滑剤としては特に限定されず、例えば、シリコーンオイル等が挙げられる。」
オ「【0098】
尚、本実施の形態に於いては、組立工程の前に、筒状体成形工程で成形した筒状体301における薄肉部323の内側面に、潤滑剤を塗布する塗布工程を行ってもよい。塗布方法としては特に限定されないが、例えば、予め潤滑剤を含浸させた円柱状の塗布具を用いて、第2穿刺針ガイド部325内に当該塗布具を挿入して塗布する方法が挙げられる。また、第2穿刺針ガイド部325内に潤滑剤を滴下して塗布する方法や、当該潤滑剤を噴霧して塗布する方法も挙げられる。尚、円柱状の塗布具を用いる場合、当該塗布具の直径は、第2穿刺針325の内径よりも小さい方が好ましい。これにより、塗布具が第2穿刺針ガイド部325の内部に挿入される際に、当該第2穿刺針ガイド部325の内側の側壁面に接触するのを防止することができる。」
カ 図4「
[図:0001435650000008.jpg]
」
キ 図8(a)「
[図:0001435650000009.jpg]
」
2 対比
本願発明と引用発明を対比する。
(1)引用発明の「穿刺針により針刺しが行われる針刺面14」は、その作用、構造から、本願発明の「穿刺針による刺通を可能にする針刺面」に相当し、以下同様に、引用発明の「穿刺針により針刺しが行われる針刺面14を備えた弾性栓体11」は、本願発明の「穿刺針による刺通を可能にする針刺面を備えた弾性栓体」に相当する。また、引用発明の「当該弾性栓体11を内部に保持する外枠体12」は、本願発明の「前記弾性栓体を内部に保持する外枠体」に相当する。
したがって、引用発明の「穿刺針により針刺しが行われる針刺面14を備えた弾性栓体11と、当該弾性栓体11を内部に保持する外枠体12とを備える医療用キャップ10」は、本願発明の「穿刺針による刺通を可能にする針刺面を備えた弾性栓体と、前記弾性栓体を内部に保持する外枠体とを少なくとも備える医療用キャップ」に相当する。
(2)引用発明の「針刺面14の中央」に設けられた「穿刺針の針刺しを行うための凹部16」は、本願発明の「前記弾性栓体に於ける前記針刺面の少なくとも一部」が含む「前記穿刺針による刺通が予定されている領域」に相当する。
したがって、引用発明の「穿刺針の針刺しを行うための凹部16が針刺面14の中央に1つ設けられ」ることと、本願発明の「前記弾性栓体に於ける前記針刺面の少なくとも一部には、シリコーンオイルが含浸され、前記シリコーンオイルが含浸されている領域は、前記穿刺針による刺通が予定されている領域を含んで」いることは、前記弾性栓体に於ける前記針刺面の少なくとも一部は、前記穿刺針による刺通が予定されている領域を含むことの限りにおいて一致する。
そうすると、本願発明と引用発明は、
「穿刺針による刺通を可能にする針刺面を備えた弾性栓体と、
前記弾性栓体を内部に保持する外枠体とを少なくとも備える医療用キャップであって、
前記弾性栓体に於ける前記針刺面の少なくとも一部は、前記穿刺針による刺通が予定されている領域を含む、
医療用キャップ。」
である点で一致し、次の点で相違する。
<相違点>
前記針刺面の少なくとも一部の穿刺針による刺通が予定されている領域について、本願発明は、「シリコーンオイルが含浸され、前記シリコーンオイルが含浸されている領域には、表面にコーティング剤が塗布されていない前記穿刺針による刺通抵抗を低減させるための、前記シリコーンオイルの被覆膜が設けられている」のに対し、引用発明は、そのように特定されていない点。
3 判断
(1)相違点について
以下、上記相違点について検討する。
引用発明は、「穿刺針の針刺しの際における穿刺抵抗を低減し、従来の医療用キャップよりも針刺しの容易性を向上させた医療用キャップ」である。
そして、針が穿刺される弾性部材にシリコーンオイルを含浸させたり、弾性部材の針が穿刺される面にシリコーンオイルをスプレーで塗布したりすることで、針の刺通抵抗を低減することは、引用文献2、3(上記1(2)、(3)を参照)に記載されるように、周知技術である。
してみると、引用発明において、上記周知技術を適用し、弾性栓体11にシリコーンオイルを含浸させたり、弾性栓体11の凹部16を含む針刺面14にシリコーンオイルを塗布したりすることで、針の刺通抵抗を低減することは当業者が容易に想到できたことである。
その際、弾性栓体11にシリコーンオイルを含浸させる場合、弾性栓体11を所定時間、シリコーンオイルの溶液中に浸漬させるから(上記1(2)イ、エを参照)、凹部16を含む弾性栓体11の表面にシリコーンオイルの被覆膜が形成されることは機能上明らかである。また、針刺面14にシリコーンオイルを塗布する場合も、表面に塗布する以上、表面に被覆膜が生じることは構成上自明である。
そして、シリコーンオイルの被覆膜が形成されていることで、針刺面14に穿刺針を穿刺する際に、穿刺針の外表面に被覆膜のシリコーンオイルが接触、付着し、穿刺針の表面のコーティングの有無に関わらず、刺通抵抗を低減できることも、引用文献4(上記1(4)エ、オを参照)に記載されるように技術常識である。
仮に、弾性栓体11にシリコーンオイルを含浸、塗布する際、弾性栓体11の表面に被覆膜が形成されることが自明とまではいえないとしても、上記技術常識を考慮すれば、引用発明に上記周知技術を適用する際、弾性栓体11の表面に被覆膜が形成することは、当業者が容易に想到できたことである。
(2)効果について
請求人は、令和 8年 1月 8日に提出された意見書において、本願発明の効果について、以下のように主張している(下線部は当審で付与)。
ア「本願発明は、弾性栓体の針刺面の少なくとも一部にシリコーンオイルを含浸させるだけでなく、含浸させた領域にシリコーンオイルの被覆膜も設けるものです。弾性栓体に穿刺した穿刺針を、さらに弾性栓体に刺通(貫通)させるために押圧する際、穿刺針における弾性栓体の内部に侵入しようとする部分では、継続的に弾性栓体から刺通抵抗を受けます。すなわち、弾性栓体を刺通しようとする穿刺針の先端部では、含浸されているシリコーンオイルの存在により刺通抵抗が低減されるものの、その後、穿刺針を弾性栓体に貫通させようとする際には、弾性栓体の針刺面が凹状に変形して窪む結果、穿刺針の側周面が窪んだ針刺面との摩擦により刺通抵抗を受け続けます。そのため、本願発明では、シリコーンオイルを含浸させることにより、先ず穿刺針を弾性栓体の針刺面に穿刺する際の刺通抵抗を低減させます。また、シリコーンオイルの被覆膜を設けることにより、穿刺後、穿刺針を弾性栓体に刺通(貫通)させる際にも、穿刺針の側周面と窪んだ針刺面との間での摩擦による刺通抵抗を低減させます。すなわち、本願発明では、単にシリコーンオイルを含浸させるだけの場合と比較して、穿刺針を弾性栓体に穿刺させる際だけでなく、その後、弾性栓体に穿刺針を刺通(貫通)させるまでの間も、持続的に刺通抵抗を低減させることを可能にします。」
イ「尚、本願発明の前記のような優れた効果を確認する実験データを、同日付けで提出の実験成績証明書において示します。
当該実験成績証明書によれば、シリコーンオイル含浸領域にシリコーンオイルの被覆膜が形成された実験例1においては、シリコーンオイル含浸領域のみが形成され、シリコーンオイルの被覆膜が形成されていない比較実験例1と比較して、刺通抵抗をさらに低減できることが示されています。また、シリコーンオイル含浸領域にシリコーンオイルの被覆膜が形成された実験例2においては、シリコーンオイル含浸領域のみが形成され、シリコーンオイルの被覆膜が形成されていない比較実験例2と比較して、静荷重の低下を抑制し、穿刺針に対する良好な係止力が保持されていることが示されています。
このように、本願発明では、針刺面に単にシリコーンオイル含浸領域を形成するだけでなく、当該シリコーンオイル含浸領域にシリコーンオイルの被覆膜を形成することで、穿刺針の針抜けに対する係止力(保持力)を良好に維持しながら、刺通抵抗をさらに低減することができるという、当業者が予期することのできない優れた効果を奏するものです。」
以下、上記ア、イの主張について検討する。
まず、上記アの主張について、本願明細書には、「尚、シリコーンオイル含浸領域115では、少なくともシリコーンオイルが含浸されていれば足りるが、さらに、シリコーンオイル含浸領域115の表面に、シリコーンオイルからなる被覆膜が設けられていてもよい。」(段落【0032】)、「尚、シリコーンオイルの塗布量が多く、弾性栓体11が塗布部41との接触領域に於いて許容し得るシリコーンオイルの含浸量を超える場合は、シリコーンオイル含浸領域115の表面にシリコーンオイルからなる被覆膜が形成されていてもよい。」(段落【0076】)とあるだけである。
そして、上記(1)のとおり、弾性栓体11にシリコーンオイルを含浸させたり、シリコーンオイルを塗布したりする場合、表面にシリコーンオイルの被覆膜が形成されることは自明である。そして、針刺面にシリコーンオイルの被覆膜が形成されていることで、針刺面に穿刺針を穿刺する際に、穿刺針の外表面に被覆膜のシリコーンオイルが接触、付着し、刺通抵抗を低減できることは、技術常識である。
次に、上記イの主張について、上記意見書と同日に提出された手続捕捉書により捕捉された実験成績証明書の内容を検討すると、シリコーンオイルの塗布量が7×10-4(g)の場合と1×10-4(g)の場合の2つの条件を比較し、シリコーンオイルの量による差異を示すのみで、被覆膜の有無による効果の違いを示すかどうかは不明である。また、「針刺面に単にシリコーンオイル含浸領域を形成するだけでなく、当該シリコーンオイル含浸領域にシリコーンオイルの被覆膜を形成した」場合一般についての効果を示すものでもない(例えば、本願明細書の段落【0097】~【0099】に記載される実施例7~9(4×10-4(g)~6×10-4(g))のような条件との比較結果は示されていない。また、実施例11(8×10-4(g))のように、塗布量を7×10-4(g)より増加させていくと、シリコーンオイルの被覆膜は形成されるものの、静荷重がさらに低減し、穿刺針の針抜けに対する係止力(保持力)を良好に維持することが困難になるほか、シリコーンオイルの粘度や針の太さ等の条件によって結果が変わることが予想されるが、そのような比較結果も示されていない。)。
このため、上記実験成績証明書は、請求人が上記イで主張する本願発明の効果を裏付けるものとはいえない。
よって、請求人の上記ア、イの主張はいずれも採用できない。そして、本願発明の奏する効果は、引用発明及び周知技術から当業者が予測し得る範囲のものである。
(3)小括
以上のとおりであるから、本願発明は、引用発明及び周知技術に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものでもある。
第5 むすび
以上のとおりであるから、本願発明は、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
したがって、他の請求項に係る発明について検討するまでもなく、本願は拒絶されるべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
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2024-012374