特許拒絶査定不服審判
2024-010408
ポリエステルフィルムとその用途
- 審判番号
- 2024-010408
- 法域
- 特許
- 審判種別
- 拒絶査定不服審判(拒絶査定不服の審決)
- 出願番号
- 特願2023-005324
- 請求日
- 2024年06月24日
- 審決日
- 2025年11月14日
- 公報発行日
- 2026年01月30日
- 結論
- 請求不成立
- 当事者
- 【請求人】東洋紡株式会社
- 審判長/審判官
- 審判長 道祖土 新吾
- 審判官 喜々津 徳胤
- 審判官 井海田 隆
- 分類
- P18 .575-Z (G09F) / P18 .121-Z (G09F)
- 条文(本文から自動抽出・参考)
- 特許法第29条、特許法第17条の2第5項、特許法第50条の2、特許法第17条の2第6項
- データ出所
- 審決公報(XML)
事件の表示
特願2023- 5324「ポリエステルフィルムとその用途」拒絶査定不服審判事件〔令和 5年 5月 2日出願公開、特開2023- 61931〕について、次のとおり審決する。
結論
結 論
本件審判の請求は、成り立たない。
理由
理 由
第1 手続の経緯
本願は、令和2年1月20日(優先権主張 平成31年2月8日、同年4月25日、令和元年7月12日)に出願した特願2020- 6599号の一部を令和5年1月17日に新たな特許出願としたものであって、その手続の経緯の概略は、次のとおりである。
令和5年11月30日付け:拒絶理由通知書
(特許法第50条の2の通知を伴う。)
同年 2月 9日 :意見書、手続補正書の提出
令和6年 4月12日付け:補正の却下の決定
同日付け:拒絶査定(以下「原査定」という。)
( 同月23日 :原査定の謄本の送達)
同年 6月24日 :審判請求書、手続補正書の提出
同年 8月 9日付け:前置報告書
同年 9月 4日 :上申書の提出
以下、2019年(平成31年)2月8日を「優先日」という。
第2 令和6年6月24日にされた手続補正についての補正の却下の決定
[補正の却下の決定の結論]
令和6年6月24日にされた手続補正を却下する。
[補正の却下の決定の理由]
1 補正の内容
令和6年6月24日にされた手続補正(以下「本件補正」という。)は、特許請求の範囲の補正をするものであり、本件補正により、次の(1)に示す本件補正前(出願時のものをいう。以下同じ。)の特許請求の範囲の請求項1の記載は、後記(2)に示す本件補正後の特許請求の範囲の請求項1の記載に補正された。下線は補正箇所を示す。
(1) 本件補正前
「【請求項1】
下記条件を満足する折りたたみ型ディスプレイの保護フィルム用ポリエステルフィルム。
(1)屈曲方向の屈折率が1.590~1.620
(2)折りたたみ部の方向の屈折率が1.670~1.700
(3)厚み方向の屈折率が1.520以下
(4)密度が1.380g/cm3以上
(ここで、屈曲方向とは、ポリエステルフィルムを折りたたむ際の折りたたみ部と直交する方向をいう。)」
(2) 本件補正後
「【請求項1】
下記条件を満足する折りたたみ型ディスプレイの表面保護フィルム用ポリエステルフィルム。
(1)屈曲方向の屈折率が1.590~1.606
(2)折りたたみ部の方向の屈折率が1.670~1.700
(3)厚み方向の屈折率が1.520以下
(4)密度が1.380g/cm3以上
(5)ポリエステルフィルムが二軸延伸ポリエチレンテレフタレートフィルム
(6)全光線透過率が85%以上
(ここで、屈曲方向とは、ポリエステルフィルムを折りたたむ際の折りたたみ部と直交する方向をいう。)」
2 補正の目的
(1) 本件補正のうち請求項1についてする補正は、本件補正前の請求項1に記載された発明を特定するために必要な事項について、次のアからウの限定をするものである。
ア 「屈曲方向の屈折率」の範囲について、「1.590~1.620」から「1.590~1.606」に限定すること。
イ 「ポリエステルフィルム」について、「二軸延伸ポリエチレンテレフタレートフィルム」である点を限定すること。
ウ 「全光線透過率が85%以上」である点を限定すること。
(2) そして、本件補正前の請求項1に記載された発明と本件補正後の請求項1に記載される発明は、産業上の利用分野及び解決しようとする課題が同一である。
(3) したがって、本件補正は、特許法17条の2第5項2号に掲げる特許請求の範囲の減縮を目的とする補正を含むものである。
3 独立特許要件の判断
本件補正は、前記2のとおり、特許法17条の2第5項2号に掲げる特許請求の範囲の減縮を目的とする補正を含むことから、本件補正後の請求項1に記載されている事項により特定される発明(以下「本件補正発明」という。)が、同法17条の2第6項において準用する同法126条7項の規定に適合するか、すなわち、特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるかについて、以下検討する。
(1) 本件補正発明
ア 本件補正発明の認定と分説
本件補正発明は、前記1(2)に摘記した本件補正後の請求項1に記載された事項により特定されるとおりのものと認める。
ここで、検討の便宜上、本件補正発明の構成を次のとおり構成Xと構成Aから構成Fまでに分説する。また、参考図として、本願の【図2】に部材名を記入したものを掲載する。
<本件補正発明の分説>
X 下記条件を満足する折りたたみ型ディスプレイの表面保護フィルム用ポリエステルフィルム。
A1 (1)屈曲方向の屈折率が1.590~1.606
B (2)折りたたみ部の方向の屈折率が1.670~1.700
C (3)厚み方向の屈折率が1.520以下
D (4)密度が1.380g/cm3以上
E (5)ポリエステルフィルムが二軸延伸ポリエチレンテレフタレートフィルム
F (6)全光線透過率が85%以上
A2 (ここで、屈曲方向とは、ポリエステルフィルムを折りたたむ際の折りたたみ部と直交する方向をいう。)
<参考図>
【図2】
[図:0001430686000001.jpg]
イ 課題・作用効果等に関連する明細書の発明の詳細な説明の記載
本願明細書の発明の詳細な説明の記載のうち、発明が解決しようとする課題及び作用効果等に関連する記載を抜粋すると、次の記載がある。
「【0001】
本発明は折りたたみ型ディスプレイ用ポリエステルフィルム、折りたたみ型ディスプレイ用ハードコートフィルム、折りたたみ型ディスプレイ、及び携帯端末機器に関し、繰り返し折りたたんでも、フィルムの変形による画像の乱れの起こり難い折りたたみ型ディスプレイ及び携帯端末機器、及び前記の折りたたみ型ディスプレイ用ポリエステルフィルム及びハードコートフィルムに関する。
【背景技術】
【0002】
携帯端末機器の薄膜軽量化が進み、スマートフォンに代表される携帯端末機器が広く普及している。携帯端末機器には様々な機能が求められている反面、利便性も求められている。そのため普及している携帯端末機器は、簡単な操作は片手ででき、さらに衣服のポケットなどに収納することが前提であるため6インチ程度の小さな画面サイズとする必要がある。
【0003】
一方、7インチ~10インチの画面サイズであるタブレット端末では、映像コンテンツや音楽のみならず、ビジネス用途、描画用途、読書などが想定され、機能性の高さを有している。しかし、片手での操作はできず、携帯性も劣り、利便性に課題を有する。
【0004】
これらを達成するため、複数のディスプレイをつなぎ合わせることでコンパクトにする手法が提案されているが(特許文献1参照)、ベゼルの部分が残るため、映像が切れたものとなり、視認性の低下が問題となり普及していない。
【0005】
そこで近年、フレキシブルディスプレイ、折りたたみ型ディスプレイを組み込んだ携帯端末が提案されている。この方式であれば、画像が途切れることなく、大画面のディスプレイを搭載した携帯端末機器として利便性よく携帯できる。
【0006】
ここで、従来の折りたたみ構造を有しないディスプレイや携帯端末機器については、そのディスプレイの表面はガラスなど可撓性を有しない素材で保護することができたが、折りたたみ型ディスプレイにおいて、折りたたみ部分を介して一面のディスプレイとする場合には、可撓性があり、かつ、表面を保護できるハードコートフィルムなどを使用する必要がある。しかしながら、折りたたみ型ディスプレイでは、一定の折りたたみ部分に当たる箇所が繰り返し折り曲げられるため、当該箇所のフィルムが経時的に変形し、ディスプレイに表示される画像を歪める等の問題があった。また、表面保護フィルムだけでなく、折りたたみ型ディスプレイには、偏光板、位相差板、タッチパネル基材、有機ELなどの表示セルの基材、背面の保護部材など、様々な部位にフィルムが用いられ、これらのフィルムに対しても繰り返し折りたたみに対する耐久性が求められていた。
【0007】
そこで、部分的に膜厚を変える手法も提案されているが(特許文献2参照)、量産性に乏しい問題がある。
【0008】
また、ポリエステルフィルムの屈曲方向の屈折率を調整する手法も提案されているが(特許文献3参照)、屈曲方向の屈折率を下げるに従ってハードコート塗布時の鉛筆硬度が低下し、ディスプレイの表面保護機能の低下する問題があった。また、一方向の屈折率を下げていくと折れたたみ時の変形は改善していくが、折りたたみ方向の一軸配向性が高まり、折りたたみ部にクラックが発生する、または破断する問題があった。
…(中略)…
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明は上記のような従来のディスプレイの部材が有する課題を解決しようとするものであって、量産性に優れており、繰り返し折り曲げた後に折りたたみ部分で表示される画像に乱れを生じるおそれがない折りたたみ型ディスプレイと、そのような折りたたみ型ディスプレイを搭載した携帯端末機器を提供できるようにするため、折りたたみ部に折り跡やクラックが発生することのない、折りたたみ型ディスプレイ用ポリエステルフィルムを提供しようとするものである。」
「【0012】
本発明の折りたたみ型ディスプレイ用ポリエステルフィルムやハードコートフィルムを用いた折りたたみ型ディスプレイは、量産性を維持しながら、そのポリエステルフィルムが、折りたたみ部にクラックが発生することがなく、繰り返し折りたたんだ後の変形を起こさず、ディスプレイの折りたたみ部分での画像の乱れを生じないものである。前記のようなポリエステルフィルムやハードコートフィルムを用いた折りたたみ型ディスプレイを搭載した携帯端末機器は、美しい画像を提供し、機能性に富み、携帯性等の利便性に優れたものである。」
「【0047】
(屈曲方向の屈折率について)
本発明において、ポリエステルフィルムの長手方向(機械流れ方向)及び幅方向の少なくともいずれか一方向の屈折率は1.590~1.620であることが好ましく、更に好ましくは、1.591~1.600である。そして、ポリエステルフィルムの屈曲方向の屈折率が1.590~1.620であることが好ましく、1.591~1.600であることがより好ましい。ここで、屈曲方向とは、図2のポリエステルフィルム(符号2)上の符号22に示すように、折りたたみ型ディスプレイの用途において想定される折りたたみ部(符号21)と直交する方向を指している。長手方向及び幅方向の少なくともいずれか一方向の屈折率が1.590~1.620であると、繰り返し折りたたんだ際の変形が少なく、折りたたみ型ディスプレイの画質を低下させるおそれがなく好ましい。屈折率は1.591~1.600であることがより好ましい。もちろん、その方向は前記の屈曲方向であることが好ましい。1.590以上であると後述の屈曲試験後に折りたたみ部方向にクラックが入るおそれがなく、もちろん破断も起こらないため、ディスプレイの視認性を良好に保つことができる。ポリエステルフィルムの屈折率は、延伸倍率、延伸温度を調節することで効果的に調節することができる。また、屈折率の調整のために延伸方向の緩和工程、多段延伸を用いても良い。多段延伸を行う場合には、1段目の延伸倍率よりも2段目以降の延伸倍率を高くすることが好ましい。」
「【図2】
[図:0001430686000002.jpg]
」
「【0048】
ポリエステルフィルムの長手方向(機械流れ方向)及び幅方向の少なくともいずれか一方向の屈折率を上記範囲で制御すること、より好ましくは、屈曲方向の屈折率を上記範囲で制御することで、折りたたみ時に折りたたみの内側にかかる圧縮応力による疲労を低減することができる。圧縮応力による疲労は主に結晶部において起こると考えられており、屈曲方向に結晶が少ないほうが疲労しにくい。したがって、屈折率を下げることにより屈曲方向の配向結晶量が低減され、圧縮疲労を抑制されていると考えられる。
【0049】
また、折りたたみ時に折りたたみの外側にかかる引張応力によって生じるクリープ現象を屈折率の低減で抑えることができる。引張応力による疲労は主に非晶部において起こると考えられており、繰り返しかかる応力による分子鎖の引き揃えが発生し変形が生じる。屈曲方向に並んでいる分子鎖が少ないほうが引き揃えによる変形が少ないと推測できる。また、非晶部が少ない方が引張による疲労は抑制できるため、結晶化度すなわち密度が高い方が好ましい。
【0050】
本発明においては、未延伸ポリエステルシートを長手方向(機械流れ方向)及び幅方向の少なくともいずれか一方向の延伸倍率を1.2~2.0倍とすることが好ましく、1.7~2.0倍がさらに好ましい。そして、当該延伸方向は前記の屈曲方向であることが好ましい。延伸倍率が1.2倍以上であるとハードコート塗工時などの後加工での変形が無いため好ましく、延伸倍率が2.0倍以下であるとフィルムの厚みムラが生じないため好ましい。延伸温度としては、75~120℃が好ましく、75~105℃が更に好ましい。なお延伸時の加熱方法は、熱風加熱方式、ロール加熱方式、赤外加熱方式など従来公知の手段を採用することができる。延伸温度を75~120℃にすることで、上記延伸倍率での延伸による大きな厚みムラを防ぐことができる。また、前記のように大きな厚みムラを生じない範囲でなるべく低温で延伸することで、厚み方向の屈折率を低下させることができる。
【0051】
(折りたたみ部の方向の屈折率について)
上記のポリエステルフィルムの屈折率が1.590~1.620である方向と直交する方向の屈折率は、1.670~1.700であることが好ましい。即ち、屈曲方向と直交する方向(折りたたみ部の方向)の屈折率が1.670~1.700であることが好ましい。1.670~1.700にすることで屈曲方向に折りたたんだ際の変形を少なくすることができる。1.700以下にすることで折りたたみ部の方向にクラックが入ったり、破断することを抑制することができる。1.670以上にすることで屈曲方向の屈曲性を向上させること、表面硬度を向上させることができる。1.680~1.695がより好ましい。屈曲方向と直交する方向の屈折率を調整する方法として、延伸倍率、延伸予熱温度、延伸温度、多段延伸、フィルム弛緩が挙げられる。延伸倍率は4.0~6.0倍であることが好ましく、より好ましくは、4.4~6.0である。また、屈曲方向と直交する方向の延伸予熱温度は70~110℃であることが好ましい。屈曲方向と直交する方向に多段延伸する場合、1段目より2段目以降の延伸倍率を高くする方が好ましい。フィルム弛緩は機械流れ方向(長手方向)、垂直方向(幅方向)に何れにおいても1~10%行っても良い。
【0052】
(厚みの方向の屈折率について)
厚み方向の屈折率は1.520以下であることが好ましい。1.520以下にすることで、屈曲方向の屈折率を低く設計しても、フィルム表面の硬度の低下を抑制することができ、屈曲性と表面硬度の両立を実現することができるためである。1.520以下にすることで厚み方向の試験力除荷後の押し込み深さが低減し、フィルム表面の硬度、特にハードコート層積層後のハードコートフィルムの鉛筆硬度を向上することができる。より好ましくは1.515以下、更に好ましくは1.510以下、特に好ましくは1.505以下、最も好ましくは1.500以下である。厚み方向の屈折率は低いことが好ましいが、安定した生産の面で1.3以上が好ましく、さらには1.4以上であってもよい。特に好ましくは1.410以上である。上記範囲は屈曲方向と折りたたみ方向に延伸倍率を両方に増加させていくことで達成できると言えるが、屈曲方向と幅方向の屈折率を好ましい範囲に制御した上で、厚み方向の屈折率を制御するためには、製膜工程の各工程条件のバランスを確認しながら条件設定することが好ましい。
【0053】
厚み方向の屈折率を前記範囲に制御する方法は、屈曲方向の延伸予熱温度、延伸温度、延伸倍率、折りたたみ部の方向の延伸予熱温度、延伸温度、多段延伸、高倍率延伸、または熱固定の温度設定がある。屈曲方向の延伸予熱温度は70℃~110℃が好ましい。屈曲方向の延伸温度は75~120℃が好ましい。屈曲方向の延伸倍率は1.2~2.0倍が好ましく、更に好ましくは1.7~2.0倍である。延伸温度を低くし、低延伸倍率で延伸することで屈曲方向の屈曲性を維持したまま、厚み方向の屈折率を効果的に下げることができる。折りたたみ部方向の延伸予熱温度も75℃~110℃が好ましい。延伸温度は75~120℃が好ましい。折りたたみ部の延伸倍率は4.0~6.0倍が好ましく、4.4~6.0倍がより好ましい。屈曲方向の屈折率を維持または低減しながら、厚み方向の屈折率を効果的に低減することができる。高倍率延伸する方法として、多段延伸を用いても良い。その場合には、1段目の延伸倍率より、2段目の延伸倍率を高くすることが効果的に屈折率を制御でき好ましい。また、結晶化工程後に再度延伸する方式を用いても良い。延伸初期から後半にかけて延伸速度を早くする加速延伸を用いても良い。
熱固定温度は180~240℃が好ましい。熱固定を行うことで延伸方向への配向結晶化が進み、厚み方向の屈折率を下げることができる。
厚み方向の屈折率を下げることでフィルム表面の硬度が向上する理由は必ずしも明確ではないが、分子鎖内のベンゼン環等の芳香族が面方向に配向し、厚み方向にかかる応力による変形を抑制する効果があると考えられる。
【0054】
(ポリエステルフィルムの密度について)
ポリエステルフィルムの密度は1.380g/cm3以上であることが好ましい。1.383g/cm3以上であることがより好ましい。1.380g/cm3以上にすることで屈曲性を向上させること、フィルム表面硬度、特に、ハードコート層を積層した後のハードコートフィルムの鉛筆硬度を向上させることができる。密度は高いほど好ましく、フィルム中の粒子の有無等によっても多少左右されるが、1.40g/cm3以下であることが好ましく、さらには1.395g/cm3以下がより好ましい。製膜時の熱固定温度を180~240℃に設定することで結晶化を進行させ密度を効果的に増大させることができる。1.380g/cm3以下にすると、結晶化が十分でなく、屈曲による変形が起きやすくなってしまう。また、熱収縮率が高くなってしまい、ハードコート塗布時の加工性が悪くなる。
【0055】
ポリエステルフィルムの屈曲方向は、長手方向(機械流れ方向)に対応させることが好ましい。こうすることで、2軸延伸目で屈曲方向の屈折率を下げやすく屈曲性を向上させやすい。即ち、未延伸ポリエステルシートを長手方向に1.2~2.0倍、より好ましくは1.7~2.0倍の延伸倍率で延伸することが好ましいポリエステルフィルムを得られる。そして、幅方向には、4.0~6.0倍、より好ましくは4.4~6.0倍の延伸倍率で延伸することが好ましい態様であると言える。
【0056】
また、本発明においては、ポリエステルフィルムに
(1)屈曲方向の屈折率が1.590~1.620
(2)折りたたみ部の方向の屈折率が1.670~1.700
(3)厚み方向の屈折率が1.520以下
(4)密度が1.380g/cm3以上
の4つの特性を同時に具備させることが特に好ましい態様と言えるが、上述の好ましい製造条件の範囲内での組合せであっても、例えば、屈曲方向の延伸倍率が1.4倍以下、折りたたみ部の方向の延伸倍率が4.4倍未満であり、かつ、熱固定温度が220℃以下の組合せであるような、各々の好ましい製造条件範囲の中において最善とは言えない条件の組合せの場合、必ずしも上記の4つの特性を同時に満足するものが得られない場合が起こり得る。この場合には、屈曲方向の延伸倍率延伸倍率を1.7倍以上に高めたり、折りたたみ部の方向の延伸倍率が4.4倍以上に高めたり、熱固定温度を230℃程度に高めたり、あるいは屈曲方向及び/又は折りたたみ部の方向の延伸温度を低くするなど、いずれかの条件の微調整またはそれらの組合せによって、上記の4つの特性を同時に満足させることができる。」
「【0098】
(実施例1)
ポリエチレンテレフタレートのペレット(a)を押出機に供給し、285℃で融解した。このポリマーを、ステンレス焼結体の濾材(公称濾過精度10μm粒子95%カット)で濾過し、口金よりシート状にして押し出した後、静電印加キャスト法を用いて表面温度30℃のキャスティングドラムに接触させ冷却固化し、未延伸フィルムを作った。この未延伸フィルムを加熱ロールを用いて75℃に均一加熱し、非接触ヒーターで85℃に加熱して1.4倍のロール延伸(縦延伸)を行った。得られた一軸延伸フィルムに上記の易接着層形成用塗布液をロールコート法で両面に塗布した後、80℃で20秒間乾燥した。なお、最終(二軸延伸後)の乾燥後の塗布量が0.06g/m2になるように調整した。その後、テンターに導き105℃で予熱後、95℃で4.0倍に横延伸し、幅固定して230℃で5秒間の熱固定を施し、さらに180℃で幅方向に4%緩和させることにより、厚み50μmポリエチレンテレフタレートフィルムを得た。評価結果を表1に示す。」
「【0116】
(比較例3~7)
熱固定温度を220℃に変更し、表1記載のPETペレット、厚みとした他は実施例1と同様にしてポリエステルフィルムを得た。
比較例3~7は、前記の通り実施例1よりも熱固定温度が低く、長手方向、幅方向の延伸倍率が好ましい条件範囲の中では最善とは言えない各条件水準の組合せであり、表1に記載したように厚み方向の屈折率が増加し、試験力除荷後の押し込み深さが大きく、ハードコート層積層後の鉛筆硬度が各実施例に比較して小さくなった。」
「【0125】
【表1】
[図:0001430686000003.jpg]
」
(2) 引用文献1の記載事項及び引用発明の認定
ア 引用文献1に記載された事項
原査定の拒絶の理由において引用された、本願の優先日前に発行された文献である国際公開第2018/150940号(以下「引用文献1」という。)には、次の記載がある(なお、当合議体により、後記ウの引用発明の認定に直接用いる記載に下線を付した。)。
(ア) [請求項1]~[請求項4]
「[請求項1] 厚みが10~75μmのポリエステルフィルムであって、長手方向及び幅方向の少なくともいずれか一方向の屈折率が1.57~1.64であることを特徴とする折りたたみ型ディスプレイの表面保護フィルム用ポリエステルフィルム。
[請求項2] 屈曲方向の屈折率が1.57~1.64であることを特徴とする請求項1に記載の折りたたみ型ディスプレイの表面保護フィルム用ポリエステルフィルム。
(ここで、屈曲方向とは、ポリエステルフィルムを折りたたむ際の折りたたみ部と直交する方向をいう。)
[請求項3] 屈曲方向が、ポリエステルフィルムの長手方向に対応していることを特徴とする請求項2に記載の折りたたみ型ディスプレイの表面保護フィルム用ポリエステルフィルム。
[請求項4] 請求項1~3のいずれかに記載の折りたたみ型ディスプレイの表面保護フィルム用ポリエステルフィルムの少なくとも片面に、厚みが1~40μmのハードコート層を有することを特徴とする折りたたみ型ディスプレイの表面保護フィルム用ハードコートフィルム。」
(イ) [0001]~[0011]
「[0001] 本発明は折りたたみ型ディスプレイの表面保護フィルム用ポリエステルフィルム、折りたたみ型ディスプレイの表面保護フィルム用ハードコートフィルム、折りたたみ型ディスプレイ、及び携帯端末機器に関し、繰り返し折りたたんでも、表面に位置しているフィルムの変形による画像の乱れの起こり難い折りたたみ型ディスプレイ及び携帯端末機器、及び前記の折りたたみ型ディスプレイの表面保護フィルム用ポリエステルフィルム及びハードコートフィルムに関する。
背景技術
[0002] 携帯端末機器の薄膜軽量化が進み、スマートフォンに代表される携帯端末機器が広く普及している。携帯端末機器には様々な機能が求められている反面、利便性も求められている。そのため普及している携帯端末機器は、簡単な操作は片手ででき、さらに衣服のポケットなどに収納することが前提であるため6インチ程度の小さな画面サイズとする必要がある。
[0003] 一方、7インチ~10インチの画面サイズであるタブレット端末では、映像コンテンツや音楽のみならず、ビジネス用途、描画用途、読書などが想定され、機能性の高さを有している。しかし、片手での操作はできず、携帯性も劣り、利便性に課題を有する。
[0004] これらを達成するため、特許文献1の複数のディスプレイをつなぎ合わせることでコンパクトにする手法が提案されているが(特許文献1参照)、ベゼルの部分が残るため、映像が切れたものとなり、視認性の低下が問題となり普及していない。
[0005] そこで近年、フレキシブルディスプレイ、折りたたみ型ディスプレイを組み込んだ携帯端末が提案されている。この方式であれば、画像が途切れることなく、大画面のディスプレイを搭載した携帯端末機器として利便性よく携帯できる。
[0006] ここで、従来の折りたたみ構造を有しないディスプレイや携帯端末機器については、そのディスプレイの表面はガラスなど可撓性を有しない素材で保護することができたが、折りたたみ型ディスプレイにおいて、折りたたみ部分を介して一面のディスプレイとする場合には、可撓性があり、かつ、表面を保護できるハードコートフィルムなどを使用する必要がある。しかしながら、折りたたみ型ディスプレイでは、一定の折りたたみ部分に当たる箇所が繰り返し折り曲げられるため、当該箇所のフィルムが経時的に変形し、ディスプレイに表示される画像を歪める等の問題があった。
[0007] そこで、部分的に膜厚を変える手法も提案されているが(特許文献2参照)、量産性に乏しい問題がある。
…(中略)…
[0009] 本発明は上記のような従来のディスプレイの表面保護部材が有する課題を解決しようとするものであって、量産性に優れており、繰り返し折り曲げた後に折りたたみ部分で表示される画像に乱れを生じるおそれがない折りたたみ型ディスプレイと、そのような折りたたみ型ディスプレイを搭載した携帯端末機器を提供できるようにするため、折りたたみ型ディスプレイの表面保護フィルム用ポリエステルフィルムや表面保護フィルム用ハードコートフィルムを提供しようとするものである。
…(中略)…
[0011] 本発明の折りたたみ型ディスプレイの表面保護フィルム用ポリエステルフィルムやハードコートフィルムを用いた折りたたみ型ディスプレイは、量産性を維持しながら、そのポリエステルフィルムやハードコートフィルムが、繰り返し折りたたんだ後の変形を起こさないため、ディスプレイの折りたたみ部分での画像の乱れを生じないものである。前記のような折りたたみ型ディスプレイを搭載した携帯端末機器は、美しい画像を提供し、機能性に富み、携帯性等の利便性に優れたものである。」
(ウ) [0017]~[0019]
「[0017](折りたたみ型ディスプレイの表面保護フィルム)
表面保護フィルムとしては、ポリイミドフィルム、ポリエステルフィルム、ポリカーボネートフィルム、アクリルフィルム、トリアセチルセルロースフィルム、シクロオレフィンポリマーフィルムなど光線透過性が高く、ヘイズが低いフィルムであれば使用することができるが、その中でも耐衝撃性が高く、十分な鉛筆硬度を有するポリイミドフィルム、ポリエステルフィルムが好ましく、安価で製造できるポリエステルフィルムが特に好ましい。
[0018] 本発明において、ポリエステルフィルムは、1種類以上のポリエステル樹脂からなる単層構成のフィルムでもよいし、2種類以上のポリエステルを使用する場合、多層構造フィルムでも良いし、繰り返し構造の超多層積層フィルムでもよい。
[0019] ポリエステルフィルムに使用されるポリエステル樹脂としては、例えば、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリエチレン-2,6-ナフタレート、またはこれらの樹脂の構成成分を主成分とする共重合体からなるポリエステルフィルムが挙げられる。なかでも、力学的性質、耐熱性、透明性、価格などの点から、延伸されたポリエチレンテレフタレートフィルムが特に好ましい。」
(エ) [0029]
「ポリエステルフィルムの全光線透過率は、85%以上が好ましく、87%以上がさらに好ましい。85%以上の透過率があれば、視認性を十分に確保することができる。ポリエステルフィルムの全光線透過率は高いほどよいと言えるが、99%以下でも構わず、97%以下でも構わない。」
(オ) [0034]~[0041]
「[0034] 次に、2軸延伸ポリエステルフィルムの製造方法について、ポリエチレンテレフタレート(以下、PETと記す)のペレットを基材フィルムの原料とした例について詳しく説明するが、これらに限定されるものではない。また、単層構成、多層構成など層数を限定するものではない。
[0035] PETのペレットを所定の割合で混合、乾燥した後、公知の溶融積層用押出機に供給し、スリット状のダイからシート状に押し出し、キャスティングロール上で冷却固化させて、未延伸フィルムを形成する。単層の場合は1台の押し出し機でよいが、多層構成のフィルムを製造する場合には、2台以上の押出機、2層以上のマニホールドまたは合流ブロック(例えば、角型合流部を有する合流ブロック)を用いて、各最外層を構成する複数のフィルム層を積層し、口金から2層以上のシートを押し出し、キャスティングロールで冷却して未延伸フィルムを形成することができる。
…(中略)…
[0038] ポリエステルフィルムの長手方向(機械流れ方向)及び幅方向の少なくともいずれか一方向の屈折率は1.57~1.64であることが好ましい。そして、ポリエステルフィルムの屈曲方向の屈折率が1.57~1.64であることがより好ましい。ここで、屈曲方向とは、図2のポリエステルフィルム(符号2)上の符号22に示すように、折りたたみ型ディスプレイの表面保護フィルムの用途において想定される折りたたみ部(符号21)と直交する方向を指している。長手方向及び幅方向の少なくともいずれか一方向の屈折率は1.57~1.64であると、繰り返し折りたたんだ際の変型が少なく、折りたたみ型ディスプレイの画質を低下させるおそれがなく好ましい。屈折率は1.575~1.634であることがより好ましい。もちろん、その方向は前記の屈曲方向であることが好ましい。ポリエステルフィルムの屈折率は、延伸倍率を調節することで効果的に調節することができる。未延伸ポリエステルシートを長手方向(機械流れ方向)及び幅方向の少なくともいずれか一方向の延伸倍率を1.0~3.0倍とすることが好ましく、1.0~2.5倍がさらに好ましい。そして、当該延伸方向は前記の屈曲方向であることが好ましい。延伸温度としては、80~140℃が好ましく、90~130℃が更に好ましい。なお延伸時の加熱方法は、熱風加熱方式、ロール加熱方式、赤外加熱方式など従来公知の手段を採用することができる。延伸温度を80~140℃にすることで、上記延伸倍率での延伸による厚みムラを防ぐことができる。
[0039] 屈曲方向と直交する方向(折りたたみ部の方向)の屈折率は屈曲方向より大きいことがフィルムの力学的特性から好ましく、屈曲方向と直交する方向の延伸倍率としては2.5~5.0倍を例示でき、屈曲方向の延伸倍率より大きいことが好ましい。延伸倍率を2.5倍以上にすることで安定した生産性が得られ、延伸倍率を5倍以下にすることで良好な耐衝撃性が得られる。
[0040] また、ポリエステルフィルムの屈曲方向は、長手方向(機械流れ方向)に対応させることが好ましい。こうすることで、安定した生産性を得ることができる。即ち、未延伸ポリエステルシートを長手方向に1.0~3.0倍、より好ましくは1.0~2.5倍の延伸倍率で延伸することが好ましいポリエステルフィルムを得られることである。そして、幅方向には、2.5~5.0倍の延伸倍率で延伸することが好ましい態様であると言える。
[0041] 具体的には、例えば、PETのペレットを十分に真空乾燥した後、押出し機に供給し、約280℃でシート状に溶融押し出し、冷却固化させて、未延伸PETシートを形成する。得られた未延伸シートを80~120℃に加熱したロールで長手方向に1.0~3.0倍延伸して、一軸配向PETフィルムを得る。さらに、フィルムの端部をクリップで把持して、80~180℃に加熱された熱風ゾーンに導き、乾燥後、幅方向に2.5~5.0倍に延伸する。引き続き、160~240℃の熱処理ゾーンに導き、1~60秒間の熱処理を行うことができる。この熱処理工程中で、必要に応じて、幅方向または長手方向に1~12%の弛緩処理を施してもよい。」
(カ) [0054]~[0059]
「[0054] 次に、本発明の効果を実施例および比較例を用いて説明する。まず、本発明で実施した特性値の評価方法を下記に示す。
[0055](1)極限粘度
フィルムまたはポリエステル樹脂を粉砕して乾燥した後、フェノール/テトラクロロエタン=60/40(質量比)の混合溶媒に溶解した。この溶液に遠心分離処理を施して無機粒子を取り除いた後に、ウベローデ粘度計を用いて、30℃で0.4(g/dl)の濃度の溶液の流下時間及び溶媒のみの流下時間を測定し、それらの時間比率から、Hugginsの式を用い、Hugginsの定数が0.38であると仮定して極限粘度を算出した。
[0056](2)耐屈曲性
幅方向50mm×流れ方向100mmの大きさのハードコートフィルムサンプルを用意する。無負荷U字伸縮試験機(ユアサシステム機器社製、DLDMLH-FS)を用いて、屈曲半径2mmを設定し、1回/秒の速度で、20万回屈曲させた。その際、サンプルは長辺側両端部10mmの位置を固定して、屈曲する部位は50mm×80mmとした。屈曲処理終了後、サンプルの屈曲内側を下にして平面に置き、目視検査を行った。
◎ :サンプルの変形を確認できない。
○ :サンプルの変形があるが、水平に置いた際、浮き上がり最大高さが5mm未満。
× :サンプルに折跡があり、水平に置いた際、浮き上がり最大高さが5mm以上。
[0057](3)屈折率
JIS K 7142-2008「プラスチックの屈折率測定方法(A法)」に準拠して、アッベ屈折率計(アタゴ社製、NAR-4T、測定波長589nm)を用いて、長手方向の屈折率、幅方向の屈折率を求めた。
[0058](4)鉛筆硬度
ハードコートフィルムの鉛筆硬度をサンプルとして、JIS K 5600-5-4:1999に準拠し、荷重750g、速度1.0mm/sで測定した。
[0059](5)全光線透過率、ヘイズ
ハードコートフィルムをサンプルとして、ヘイズメーター(日本電色工業社製、NDH5000)を用いて測定した。」
(キ) [0060]~[0066]
「[0060](ポリエチレンテレフタレートペレット(a)の調製)
エステル化反応装置として、攪拌装置、分縮器、原料仕込口および生成物取り出し口を有する3段の完全混合槽よりなる連続エステル化反応装置を用い、TPAを2トン/hrとし、EGをTPA1モルに対して2モルとし、三酸化アンチモンを生成PETに対してSb原子が160ppmとなる量とし、これらのスラリーをエステル化反応装置の第1エステル化反応缶に連続供給し、常圧にて平均滞留時間4時間で、255℃で反応させた。次いで、上記第1エステル化反応缶内の反応生成物を連続的に系外に取り出して第2エステル化反応缶に供給し、第2エステル化反応缶内に第1エステル化反応缶から留去されるEGを生成ポリマー(生成PET)に対し8質量%供給し、さらに、生成PETに対してMg原子が65ppmとなる量の酢酸マグネシウムを含むEG溶液と、生成PETに対してP原子が20ppmのとなる量のTMPAを含むEG溶液を添加し、常圧にて平均滞留時間1.5時間で、260℃で反応させた。次いで、上記第2エステル化反応缶内の反応生成物を連続的に系外に取り出して第3エステル化反応缶に供給し、さらに生成PETに対してP原子が20ppmとなる量のTMPAを含むEG溶液を添加し、常圧にて平均滞留時間0.5時間で、260℃で反応させた。上記第3エステル化反応缶内で生成したエステル化反応生成物を3段の連続重縮合反応装置に連続的に供給して重縮合を行い、さらに、ステンレス焼結体の濾材(公称濾過精度5μm粒子90%カット)で濾過し、極限粘度0.62dl/gのポリエチレンテレフタレートペレット(a)を得た。
…(中略)…
[0066] 上記のポリエチレンテレフタレートマスターペレット(a)を180℃で8時間減圧乾燥(3Torr)した後、押出機に、ポリエチレンテレフタレートのペレット(a)を押出機にそれぞれ供給し、285℃で融解した。このポリマーを、ステンレス焼結体の濾材(公称濾過精度10μm粒子95%カット)で濾過し、口金よりシート状にして押し出した後、静電印加キャスト法を用いて表面温度30℃のキャスティングドラムに接触させ冷却固化し、未延伸フィルムを作った。この未延伸フィルムを長手方向には延伸せず(延伸する場合は、85℃で延伸)、前記塗布液をロールコート法でPETフィルムの片面に塗布した後、80℃で20秒間乾燥した。なお、最終(二軸延伸後)の乾燥後の塗布量が0.06g/m2になるように調整した。その後、このフィルムをテンターを用いて幅方向に95℃で4.0延伸し、220℃にて5秒間熱処理し、表1のNo.1のポリエチレンテレフタレートフィルムを得た。若干の条件調整を行った他は上記とほぼ同様の工程に、ポリエチレンテレフタレートマスターペレット(b)~(c)を供給し、表1のNo.2~9のポリエチレンテレフタレートフィルムを得た。」
(ク) [0069]~[0073]
[0069](実施例1)
ポリエチレンテレフタレートフィルムNo.3の一方の面にマイヤーバーを用いて、ハードコート塗布液aを乾燥後の膜厚が5.0μmになるように塗布し、80℃で1分間乾燥させた後、紫外線を照射し(高圧水銀ランプ、積算光量200mJ/cm2)、ハードコートフィルムを得た。
[0070](実施例2~8、比較例1~2)
実施例1と同様の方法にて、表2中の条件でハードコートフィルムを作成した。
[0071] 作成したフィルムを、25μm厚の粘着層を介して有機ELモジュールに貼合し、図1における屈曲半径の相当する半径が3mmの全体の中央部で二つ折りにできるスマートフォンタイプの折りたたみ型ディスプレイを作成した。ハードコートフィルムは折りたたみ部分を介して連続した1枚のディスプレイの表面に配され、ハードコート層をそのディスプレイの表面に位置するように配されている。各実施例のハードコートフィルムを用いたものは、中央部で二つ折りに折りたたんで携帯できるスマートフォンとして動作及び視認性を満足するものであった。一方、各比較例のハードコートフィルムを使用した折りたたみ型ディスプレイは、使用頻度が増えるに従って、ディスプレイの折りたたみ部で画像の歪を生じてきたように感じ、あまり好ましいものではなかった。
[0072][表1]
[図:0001430686000004.jpg]
[0073][表2]
[図:0001430686000005.jpg]
」
イ 引用文献1の記載から読み取れる事項の認定
前記アの摘記事項(ク)の表1から、引用文献1には、実施例5(フィルムNo.2)に関して次の技術事項が記載されていると認められる(以下「認定事項1」という。)。
「ポリエチレンテレフタレートフィルムの長手方向(屈曲方向)の屈折率が1.601、幅方向(折りたたみ部の方向)の屈折率が1.684であること。」
ウ 引用発明の認定
前記イにおいて認定した事項及び前記アに摘記した引用文献1の記載事項を総合すると、引用文献1には、実施例5に係る次の発明(以下「引用発明」という。)が記載されていると認められる。なお、認定の根拠となる記載箇所等を括弧内に示した。
<引用発明>
「厚みが10~75μmのポリエステルフィルムであって、長手方向及び幅方向の少なくともいずれか一方向の屈折率が1.57~1.64である折りたたみ型ディスプレイの表面保護フィルム用ポリエステルフィルムであって、([請求項1])
屈曲方向の屈折率が1.57~1.64であり、([請求項1])
ここで、屈曲方向とは、ポリエステルフィルムを折りたたむ際の折りたたみ部と直交する方向をいい、([請求項1])
ポリエステルフィルムの全光線透過率は、85%以上であり、([0029])
2軸延伸ポリエステルフィルムであり、([0034])
ポリエステルフィルムに使用されるポリエステル樹脂は、ポリエチレンテレフタレートであり、([0019])
ポリエチレンテレフタレートフィルムの長手方向(屈曲方向)の屈折率が1.601、幅方向(折りたたみ部の方向)の屈折率が1.684である、(認定事項1)
折りたたみ型ディスプレイの表面保護フィルム用ポリエステルフィルム。([請求項1])」
(3) 引用文献2、4の記載事項等及び周知技術1の認定
ア 引用文献2に記載された事項等
(ア) 引用文献2に記載された事項
原査定の拒絶の理由において引用された、本願の優先日前に発行された文献である特開2014-065887号公報(以下「引用文献2」という。)には、次の記載がある。なお、下線は当合議体が付したものであり、以下同様である。
a 【0065】~【0072】
「【0065】
(光学用易接着性ポリエステルフィルムの製造)
本発明の光学用易接着性ポリエステルフィルムは、一般的なポリエステルフィルムの製造方法に従って製造することができる。例えば、ポリエステル樹脂を溶融し、シート状に押出し成形された無配向ポリエステルをガラス転移温度以上の温度において、ロールの速度差を利用して縦方向に延伸した後、テンターにより横方向に延伸し、熱処理を施す方法が挙げられる。
【0066】
本発明のポリエステルフィルムは一軸延伸フィルムであっても、二軸延伸フィルムであってもかまわないが、二軸延伸フィルムを液晶パネル前面の保護フィルムとして用いた場合、フィルム面の真上から観察しても虹状の色斑が見られないが、斜め方向から観察した時に虹状の色斑が観察される場合があるので注意が必要である。
【0067】
この現象は、二軸延伸フィルムが、走行方向、幅方向、厚さ方向で異なる屈折率を有する屈折率楕円体からなり、フィルム内部での光の透過方向によりリタデーションがゼロになる(屈折率楕円体が真円に見える)方向が存在するためである。従って、液晶表示画面を斜め方向の特定の方向から観察すると、リタデーションがゼロになる点を生じる場合があり、その点を中心として虹状の色斑が同心円状に生じることとなる。そして、フィルム面の真上(法線方向)から虹状の色斑が見える位置までの角度をθとすると、この角度θは、フィルム面内の複屈折が大きいほど大きくなり、虹状の色斑は見え難くなる。二軸延伸フィルムでは角度θが小さくなる傾向があるため、一軸延伸フィルムのほうが虹状の色斑は見え難くなり好ましい。
【0068】
しかしながら、完全な1軸性(1軸対称)フィルムでは配向方向と直行する方向の機械的強度が著しく低下するので好ましくない。本発明は、実質的に虹状の色斑を生じない範囲、または液晶表示画面に求められる視野角範囲において虹状の色斑を生じない範囲で、2軸性(2軸対象性)を有していることが好ましい。
【0069】
本発明者等は、光学用易接着性ポリエステルフィルムの機械的強度を保持しつつ、虹状の色斑の発生を抑制する手段として、光学用易接着性ポリエステルフィルムのリタデーション(面内リタデーション)と厚さ方向のリタデーション(Rth)との比が特定の範囲に収まるように制御することを見出した。厚さ方向位相差は、フィルムを厚さ方向断面から見たときの2つの複屈折△Nxz、△Nyzにそれぞれフィルム厚さdを掛けて得られる位相差の平均を意味する。面内リタデーションと厚さ方向リタデーションの差が小さいほど、観察角度による複屈折の作用は等方性を増すため、観察角度によるリタデーションの変化が小さくなる。そのため、観察角度による虹状の色斑が発生し難くなると考えられる。
【0070】
本発明のポリエステルフィルムのリタデーションと厚さ方向リタデーションの比(Re/Rth)は、好ましくは0.200以上、より好ましくは0.500以上、さらに好ましくは0.600以上である。上記リタデーションと厚さ方向リタデーションの比(Re/Rth)が大きいほど、複屈折の作用は等方性を増し、観察角度による虹状の色斑の発生が生じ難くなる。そして、完全な1軸性(1軸対称)フィルムでは上記リタデーションと厚さ方向リタデーションの比(Re/Rth)は2.0となる。しかし、前述のように完全な1軸性(1軸対称)フィルムに近づくにつれ配向方向と直行する方向の機械的強度が著しく低下する。
【0071】
一方、本発明のポリエステルフィルムのリタデーションと厚さ方向リタデーションの比(Re/Rth)は、好ましくは1.2以下、より好ましくは1.0以下である。観察角度による虹状の色斑発生を完全に抑制するためには、上記リタデーションと厚さ方向位相差の比(Re/Rth)が2.0である必要は無く、1.2以下で十分である。また、上記比率が1.0以下であっても、液晶表示画面に求められる視野角特性(左右180°、上下120°程度)を満足することは十分可能である。
【0072】
本発明のポリエステルフィルムの製膜条件を具体的に説明すると、縦延伸温度、横延伸温度は80~130℃が好ましく、特に好ましくは90~120℃である。縦延伸倍率は1.0~3.5倍が好ましく、特に好ましくは1.0倍~3.0倍である。また、横延伸倍率は2.5~6.0倍が好ましく、特に好ましくは3.0~5.5倍である。リタデーションを上記範囲に制御するためには、縦延伸倍率と横延伸倍率の比率を制御することが好ましい。縦横の延伸倍率の差が小さすぎるとリタデーション高くすることが難しくなり好ましくない。また、延伸温度を低く設定することもリタデーションを高くする上では好ましい対応である。続く熱処理においては、処理温度は100~250℃が好ましく、特に好ましくは180~245℃である。」
b 【0133】~【0138】
「【0133】
(実施例1)
粒子を含有しないPET(A)樹脂ペレットを135℃で6時間減圧乾燥(1Torr)した後、押出機に供給し、285℃で溶解した。ステンレス焼結体の濾材(公称濾過精度10μm粒子95%カット)で濾過し、単層ブロックにて、口金よりシート状にして押し出した後、静電印加キャスト法を用いて表面温度30℃のキャスティングドラムに巻きつけて冷却固化し、未延伸フィルムを作った。
…(中略)…
【0138】
(実施例3)
実施例1と同様の方法により作製された未延伸フィルムを、加熱されたロール群及び赤外線ヒーターを用いて105℃に加熱し、その後周速差のあるロール群で走行方向に1.5倍延伸した後、実施例1と同様の方法で幅方向に4.0倍延伸して、フィルム厚み約50μmの二軸配向ポリエステルフィルムである光学用易接着性ポリエステルフィルムを得た。得られた光学用易接着性ポリエステルフィルムに実施例1と同様の方法でハードコート層を設け、光学用積層ポリエステルフィルムを得た。」
c 【0188】~【0189】
「【0188】
以上の実施例及び比較例について測定した結果を以下の表2、表3に示す。
【0189】
【表2】
[図:0001430686000006.jpg]
」
(イ) 引用文献2の記載から読み取れる事項
前記(ア)において示した摘記事項bの【0133】、【0137】の記載及び摘記事項cの【表2】から、引用文献2には、実施例3に関して次の技術事項が記載されていると認められる。
「厚みが50μm、縦方向の延伸倍率が1.5、横方向の延伸倍率が4.0である二軸配向ポリエチレンテレフタレートフィルムの屈折率について、Nxが1.608であり、Nyが1.686であり、Nzが1.508であること。」
イ 引用文献4に記載された事項
当審において新たに引用する、本願の優先日前に発行された文献である国際公開第2012/114988号(以下「引用文献4」という。)には、次の記載がある。
(ア) [0001]~[0008]
「[0001] 本発明は、熱寸法安定性に優れた二軸配向ポリエチレンテレフタレートフィルムに関するものである。本発明の二軸配向ポリエチレンテレフタレートフィルムは、フレキシブルデバイス用基材フィルムなどに好適に用いることができる。本発明の二軸配向ポリエチレンテレフタレートフィルムは、それらの中でも、特に有機EL(ELはエレクトロルミネッセンスの略。)ディスプレイ、電子ペーパー、有機EL照明、有機太陽電池および色素増感型太陽電池の基材フィルムとして用いた際に、各種工程での寸法変化が小さく(熱寸法安定性がよく)、カールが小さく加工適性の優れた基材フィルムを得ることができる。
背景技術
[0002] 近年、各種エレクトロデバイスは、軽量化・薄膜化や形状の自由度などが求められる用途があり、フレキシブル化が注目されている。エレクトロデバイスのフレキシブル化に対しては、従来基材として用いられていたガラスに代わり、プラスチックフィルムが用いられているが、熱膨張や熱収縮が原因となる熱寸法安定性やカール性が大きな課題となっている。
[0003] 二軸配向ポリエチレンテレフタレートフィルムは、その優れた熱特性、寸法安定性、機械特性、電気特性、耐熱性および表面特性を利用して、磁気記録材料、包装材料、電気絶縁材料、各種写真材料、グラフィックアート材料あるいは光学表示材料などの多くの用途の基材として広く使用されている。しかしながら、フレキシブルデバイス用の基材フィルムにはさらなる物性の向上が必要と考えられ、過去にもポリエチレンテレフタレートフィルムの特性を高めるために、ポリエチレンテレフタレートに他の熱可塑性樹脂をブレンドするなどの方法が検討されている。(特許文献1参照)また、高濃度に粒子を添加して低熱膨張化を向上させる方法が検討されている。(特許文献2参照)また、熱収縮率を低減するために弛緩してアニール処理をする方法が開示されている。(特許文献3参照)また、寸法安定性を向上させるためには、例えば、フィルム構造中の剛直非晶鎖の割合を増加させることが提案されている。(特許文献4、特許文献5参照)
…(中略)…
発明が解決しようとする課題
[0005] しかしながら、特許文献1に記載の技術に関しては、熱可塑性樹脂をブレンドしても、ポリエチレンテレフタレートが配向しにくく低熱膨張化(これは熱寸法安定性のことを指す。)が十分に向上できないという問題がある。また、特許文献2に記載の技術に関しては、粒子を高濃度に添加すると延伸性が悪化し、低熱膨張化は十分に向上しないという問題がある。また、特許文献3に記載の技術は、熱収縮率の低減が目的であり、高配向化による低熱膨張化は得られない。また、特許文献4および5の技術に関しては、具体的な手段(製造方法)として、二軸延伸後に段階的に冷却する工程やフィルム製膜後に加圧処理を行う工程が記載されているが、どちらも熱結晶化あるいはエージング処理によって剛直非晶鎖を増加させて安定化するため、高配向化されておらず低熱膨張化は得られない。以上のように低熱膨張化と低熱収縮率とを両立することは困難であった。
[0006] そこで本発明の目的は、上記の問題を解決し、熱寸法安定性に優れた二軸配向ポリエチレンテレフタレートフィルムを得ることにあり、特に、フレキシブルデバイス用基材フィルムとして使用した際に各種工程での寸法変化を小さくすることができ、カールが小さく加工適性の優れた二軸配向ポリエチレンテレフタレートフィルムを提供することにある。
課題を解決するための手段
[0007] 本発明は、上記目的を達成せんとするものであって、次の特徴を有するものである。
[0008] 本発明の二軸配向ポリエチレンテレフタレートフィルムは、少なくともポリエチレンテレフタレート樹脂を用いてなる二軸配向フィルムであって、フィルム長手方向(MDということがある。)の屈折率nMDとフィルム幅方向(TDということがある。)の屈折率nTDの平均((nMD+nTD)/2)が1.655~1.70であり、フィルム厚み方向(ZDということがある。)の屈折率nZDが1.490~1.520である。」
(イ) [0017]~[0022]
「[0017] 本発明の二軸配向ポリエチレンテレフタレートフィルムは、特に優れた生産性、機械特性、熱寸法安定性、電気特性、表面特性および耐熱性を付与できるという観点から、結晶性ポリエステルであるポリエチレンテレフタレート(以下、PETということがある。)が主成分である必要がある。ここで、主成分とはフィルム組成中80質量%以上を言う。
[0018] 本発明の二軸配向PETフィルムは、フィルム長手方向の屈折率nMDと幅方向の屈折率nTDの平均((nMD+nTD)/2)が1.655~1.70であることが必要である。屈折率はPETフィルム内の分子配向を示すパラメータとして使われ、屈折率が高いほどその方向に分子が配向していることを表す。
[0019] 上記フィルム長手方向の屈折率nMDとフィルム幅方向の屈折率nTDの平均((nMD+nTD)/2)が1.655より小さいとPETフィルムの配向が小さく、熱膨張係数が大きくなり熱寸法安定性やカール性が悪化する。屈折率の平均を1.70より大きくするためにはフィルムの延伸倍率を極度に高める必要がある。その結果、フィルム製膜時に延伸破れが頻発して生産性が低下する。また、得られた二軸配向PETフィルムは、破断伸度が非常に小さいため破断しやすくなり、ハンドリング性が低下し加工性が低化する。フィルム長手方向の屈折率nMDと幅方向の屈折率nTDの平均((nMD+nTD)/2)は製膜条件で制御することが可能であるが、特に延伸倍率と熱処理工程と弛緩アニール処理工程(弛緩させながらアニール処理する工程のこと)の条件が大きく影響する。例えば、延伸倍率を高める、熱処理工程の温度を下げる、弛緩アニールの弛緩率を下げることにより((nMD+nTD)/2)は増加する。((nMD+nTD)/2)はより好ましくは1.657~1.680、さらに好ましくは1.662~1.665である。
[0020] 本発明の二軸配向PETフィルムは、フィルム厚み方向の屈折率nZDが1.490~1.520であることが必要である。上記屈折率が1.490より小さいとPETフィルムの分子鎖の歪みが大きく、熱収縮率が大きくなり熱寸法安定性やカール性が悪化する。屈折率の平均が1.520より大きいと配向緩和が起こっており、熱膨張係数が大きくなり熱寸法安定性やカール性が悪化する。nZDは製膜条件で制御することが可能であるが、特に熱処理工程と弛緩アニール処理工程の条件が大きく影響する。nZDを高めるためには熱処理温度を高くする方法もあるが、熱処理温度を大きくすると配向緩和が進み、((nMD+nTD)/2)が小さくなり範囲外になりやすい。nZDを高めるためには弛緩アニール処理を施すことが好ましい。nZDは、特に、弛緩アニール温度と弛緩率が影響する。弛緩アニール温度が高くなるとnZDは大きくなる。また、弛緩率を大きくするとnZDは大きくなる。nZDはより好ましくは1.495~1.515、さらに好ましくは1.498~1.505である。
[0021] 本発明の二軸配向PETフィルムは、下記の式を満たすことが好ましい。
式1 nZD≧-0.8×((nMD+nTD)/2)+2.826。
[0022] この数式は厚み方向の屈折率であるnMDと面方向の屈折率であるnMD,nTDの関係を示したものであり、通常は延伸により面方向の屈折率を高めると厚み方向のnZDは小さくなる。しかし面配向を高めて、nZDが小さくなった場合、分子鎖の歪みが大きいことを示しており、熱収縮が起こりやすくカールの問題などが発生する。逆にnZDを高めるには、通常は厚み方向に延伸することは難しく、熱による結晶成長させる方法となる。工夫なく熱処理を行い結晶成長させると面配向が緩和され、その分子鎖が結晶に取り込まれる。その結果、上記数式において、nZDが増加した分、面配向が低下し、熱寸法安定性が悪化することになる。本発明フィルムでは、下記に記載されるような熱処理・弛緩アニール処理を行うことで、面配向を低下させずにnZDを高めるプロセスを見出し、それにより熱寸法安定性とカール性を両立するフィルムを得ることが可能となった。熱寸法安定性とは、フレキシブルデバイスの製造工程などの熱による寸法の変形しにくさを示しており、変形量が小さいほど良好である。二軸配向PETフィルムの熱膨張係数が大きすぎると、フィルム上に形成されるフレキシブルデバイス層との熱膨張の差が大きくなり、フレキシブルデバイス層のクラックやピンホールの原因となり好ましくない。また熱収縮率が大きすぎても、フレキシブルデバイス層がフィルム上に正確に形成できず、フレキシブルデバイス層の機能低下がおこり好ましくない。カール性とは、フレキシブルデバイスの製造工程などの熱によりフィルムが反るまたは大きくうねるなどを示しており、熱膨張係数と熱収が小さいほど反りやうねりが低減される。これは熱膨張や熱収縮が大きいと大きな変形が局所的に起こりやすくなるためカール性が悪化する。熱膨張係数と熱収のどちらかが小さくても、一方が大きいとその大きい膨張・収縮の変形の影響でカール性は悪化する。カール性の悪い二軸配向PETは工程での搬送やフレキシブルデバイス層の形成が困難となり加工適性が劣ることになる。」
(ウ) [0058]~[0063]
「[0058] 本発明の実施形態を、実施例に基づいて説明する。
[0059] (参考例1)
テレフタル酸ジメチル194質量部とエチレングリコール124質量部とをエステル交換反応装置に仕込み、内容物を140℃の温度に加熱して溶解した。その後、内容物を撹拌しながら、酢酸マグネシウム四水和物0.3質量部および三酸化アンチモン0.05質量部を加え、これに140~230℃の温度でメタノールを留出しつつエステル交換反応を行った。次いで、リン酸トリメチルの5質量%エチレングリコール溶液を、1質量部(リン酸トリメチルとして0.05質量部)添加した。リン酸トリメチルのエチレングリコール溶液を添加すると、反応内容物の温度が低下する。そこで、余剰のエチレングリコールを留出させながら反応内容物の温度が230℃の温度に復帰するまで撹拌を継続した。このようにして、エステル交換反応装置内の反応内容物の温度が230℃の温度に達した後、反応内容物を重合装置へ移行した。移行後、反応系を230℃の温度から290℃の温度まで徐々に昇温するとともに、圧力を0.1kPaまで下げた。最終温度、最終圧力到達までの時間はともに60分とした。最終温度、最終圧力に到達した後、2時間(重合を始めて3時間)反応させたところ、重合装置の撹拌トルクが所定の値(重合装置の仕様によって具体的な値は異なるが、本重合装置において固有粘度0.65のポリエチレンテレフタレートが示す値を所定の値とした)を示した。そこで、反応系を窒素パージし常圧に戻して重縮合反応を停止し、冷水にストランド状に吐出し、直ちにカッティングして、固有粘度0.65のポリエチレンテレフタレートのPETペレットX0.65を得た。
[0060] (実施例1)
280℃の温度に加熱された押出機に、参考例1で得られた固有粘度0.65のPETペレットX0.65を180℃の温度で3時間減圧乾燥した後に供給し、窒素雰囲気下Tダイ口金に導入した。次いで、Tダイ口金内から、シート状に押出して溶融単層シートとし、表面温度25℃に保たれたドラム上に静電印加法で密着冷却固化させて未延伸単層フィルムを得た。
[0061] 続いて、得られた未延伸単層フィルムを加熱したロール群で予熱した後、88℃の温度で4.3倍MD延伸を行い、25℃の温度のロール群で冷却して一軸延伸フィルムを得た。得られた一軸延伸フィルムの両端をクリップで把持しながらテンター内の95℃の温度の予熱ゾーンに導き、引き続き連続的に90℃の温度の加熱ゾーンで長手方向に直角な幅方向(TD方向)に4.3倍延伸した。さらに引き続いて、テンター内の熱処理ゾーンで190℃の温度で5秒間の熱処理を施し、さらに190℃の温度で2%幅方向に弛緩処理を行った。次いで、25℃に均一に冷却後、フィルムエッジを除去し、コア上に巻き取って厚さ100μmの二軸延伸フィルムを得た。
[0062] そして、温度180℃でフィルム速度30m/minで30秒間、搬送しながら弛緩率1%で弛緩アニール処理し二軸延伸ポリエチレンテレフタレートフィルムを得た。
[0063] 得られた二軸配向ポリエチレンテレフタレートフィルムを評価したところ、表に示すように、熱寸法安定性、カール性がかなり優れる特性を有していた。」
(エ) [0097]~[0098]
「[0097] 上記実施例1~19と比較例1~13の製膜条件、フィルム物性、評価を、表1にまとめた。
[0098]
[表1-1]
[図:0001430686000007.jpg]
」
ウ 周知技術1の認定
前記ア、イに示した引用文献2、引用文献4に例示されるように、次の技術事項は、当業者にとって周知技術であったと認められる(以下「周知技術1」という。)。
<周知技術1>
「機械的強度や加工適正等を向上するため、ポリエチレンテレフタレートフィルムの厚み方向の屈折率を1.520以下に設計すること。」
(4) 引用文献3に記載された事項等及び周知技術2の認定
ア 引用文献3に記載された事項
前置審査において引用され、本願の優先日前に発行された文献である国際公開第2018/159285号(以下「引用文献3」という。)には、次の記載がある。
(ア) [0001]
「[0001] 本発明は折りたたみ型ディスプレイの表面保護フィルム用ポリエステルフィルム、折りたたみ型ディスプレイの表面保護フィルム用ハードコートフィルム、折りたたみ型ディスプレイ、及び携帯端末機器に関し、繰り返し折りたたんでも、表面に位置しているフィルムの変形による画像の乱れの起こり難い折りたたみ型ディスプレイ及び携帯端末機器、及び前記の折りたたみ型ディスプレイの表面保護フィルム用ポリエステルフィルム及びハードコートフィルムに関する。」
(イ) [0044]
「[0044] また、ポリエステルフィルムの結晶化度は35~54%が好ましく、43~54%が更に好ましい。結晶化度を高くすることで0.2%耐力点ひずみと耐衝撃性を向上させることができる。結晶化度を効果的に高めるためには、二軸延伸後に180~250℃の熱処理を施すことが好ましい。180℃以上であれば、効果的に結晶化度を高めることができ、250℃以下であれば、ポリエステルフィルム表面が溶融するおそれがなく、外観が良好に保たれて好ましい。」
(ウ) [0052]~[0055]
「[0052] 次に、本発明の効果を実施例および比較例を用いて説明する。まず、本発明で使用した特性値の評価方法を下記に示す。
…(中略)…
[0055](3)結晶化度
フィルムサンプルの密度を3点測定した。その平均値を結晶化度とした。樹脂成分は完全非晶と完全結晶の混合物であり、その密度が後述のとおりであり、サンプルの密度はサンプルを構成する各成分の質量の総和を各成分の体積の総和で除した値となる、との仮定に基づき、各樹脂の結晶化度(重量比)を推算した。なお、サンプルの密度JISK-7112-1980準拠の方法(密度勾配管法)に従って行った。また、各成分単独の密度は下記の値を用いた(単位:g/cm3)
ポリエチレンテレフタレート樹脂:完全非晶1.34、完全結晶1.46
ポリエチレンナフタレート樹脂:完全非晶1.32、完全結晶1.41」
(エ) [0061]~[0068]
「[0061](ポリエチレンテレフタレートペレットAの調製)
エステル化反応装置として、攪拌装置、分縮器、原料仕込口および生成物取り出し口を有する3段の完全混合槽よりなる連続エステル化反応装置を用い、TPAを2トン/hrとし、EGをTPA1モルに対して2モルとし、三酸化アンチモンを生成PETに対してSb原子が160ppmとなる量とし、これらのスラリーをエステル化反応装置の第1エステル化反応缶に連続供給し、常圧にて平均滞留時間4時間で、255℃で反応させた。次いで、上記第1エステル化反応缶内の反応生成物を連続的に系外に取り出して第2エステル化反応缶に供給し、第2エステル化反応缶内に第1エステル化反応缶から留去されるEGを生成ポリマー(生成PET)に対し8質量%供給し、さらに、生成PETに対してMg原子が65ppmとなる量の酢酸マグネシウムを含むEG溶液と、生成PETに対してP原子が20ppmのとなる量のTMPAを含むEG溶液を添加し、常圧にて平均滞留時間1.5時間で、260℃で反応させた。次いで、上記第2エステル化反応缶内の反応生成物を連続的に系外に取り出して第3エステル化反応缶に供給し、さらに生成PETに対してP原子が20ppmとなる量のTMPAを含むEG溶液を添加し、常圧にて平均滞留時間0.5時間で、260℃で反応させた。上記第3エステル化反応缶内で生成したエステル化反応生成物を3段の連続重縮合反応装置に連続的に供給して重縮合を行い、さらに、ステンレス焼結体の濾材(公称濾過精度5μm粒子90%カット)で濾過し、極限粘度0.62dl/gのポリエチレンテレフタレートペレットAを得た。
[0062](ポリエチレンテレフタレートペレットBの調製)
ポリエチレンテレフタレートペレットAを、回転型真空重合装置を用い、0.5mmHgの減圧下、220℃で時間を変えて固相重合を行い、極限粘度0.72dL/gのポリエチレンテレフタレートペレットBを作成した。
[0063](ポリエチレン-2,6-ナフタレートペレットCの調整)
2,6-ナフタレンジカルボン酸ジメチル100部、エチレングリコール60部をエステル交換触媒として酢酸マンガン四水塩0.03部を使用し、常法に従ってエステル交換反応をさせた後、トリエチルホスホノアセテート0.042部を添加し実質的にエステル交換反応を終了させた。ついで、三酸化アンチモン0.024部を添加し、引き続き高温、高真空下で常法にて重合反応を行い、固有粘度0.60dl/gのポリエチレン-2,6-ナフタレート(PEN)を得た。その後、150~160℃で3時間予備乾燥した後、210℃、13kPa、窒素ガス雰囲気下で固相重合を行い、固有粘度が0.72dl/gのポリエチレン-2,6-ナフタレートペレットCを得た。
[0064](実施例1)
上記のポリエチレンテレフタレートマスターペレットBを150℃で8時間減圧乾燥(3Torr)した後、押出機に、ポリエチレンテレフタレートのペレットBを押出機にそれぞれ供給し、285℃で融解した。このポリマーを、ステンレス焼結体の濾材(公称濾過精度10μm粒子95%カット)で濾過し、口金よりシート状にして押し出した後、静電印加キャスト法を用いて表面温度30℃のキャスティングドラムに接触させ冷却固化し、未延伸フィルムを作った。この未延伸フィルムを加熱ロールを用いて75℃に均一加熱し、非接触ヒーターで100℃に加熱して3.4倍のロール延伸(縦延伸)を行った。得られた一軸延伸フィルムをテンターに導き、140℃に加熱して4.0倍に横延伸し、幅固定して240℃で5秒間の熱処理を施し、さらに210℃で幅方向に4%緩和させることにより、厚み50μmポリエチレンテレフタレートフィルムを得た。
[0065](実施例2~6)
表1に記載した延伸倍率と熱処理温度に変更したこと以外は上記実施例1と同様にしてポリエステルフィルムを得た。
[0066](実施例7、8)
表1に記載した厚みに変更したこと以外は、上記実施例1と同様にしてポリエステルフィルムを得た。
[0067](実施例9)
表1のようにポリエチレン-2,6-ナフタレートペレットCを用い、温度調整を実施したこと以外は上記実施例1と同様にしてポリエステルフィルムを得た。
[0068](実施例10)
ポリエチレンテレフタレートマスターペレットAに変更したこと以外は実施例1と同様にしてポリエステルフィルムを得た。」
(オ) [0073]
「[0073]
[表1]
[図:0001430686000008.jpg]
」
イ 引用文献3の記載から読み取れる事項
(ア) 前記アの摘記事項(ウ)の[0055]には「樹脂の結晶化度」が記載されているところ、結晶化度は材料中に存在する結晶部分の割合を示すことから、結晶部分の割合と非晶部分の割合の和は1となる。そうすると、前記アの摘記事項(オ)の[表1]において、例えば実施例1の「結晶化度」は35%であるところ、非晶部分の割合は65%であることが理解できる。
(イ) また、前記アの摘記事項(エ)の[0064]~[0065]の記載から、実施例3は「ポリエチレンテレフタレートフィルム」であること、及び、上記[0055]の記載から、「ポリエチレンテレフタレート樹脂」について、「完全結晶」の密度が「1.46」であり、「完全非晶」の密度が「1.34」であることが分かる。
(ウ) そして、前記(ア)、(イ)に基づけば、実施例1の密度は1.382g/cm3(=0.35×1.46+0.65×1.34)と計算される。また、実施例2~6についても同様に計算すると、これらの「結晶化度」は35%よりも高いことから、その密度は1.382g/cm3以上であることが読み取れる。
ウ 周知技術2の認定
前記ア、イに示した引用文献3に例示されるように、次の技術事項は、当業者にとって周知技術であったと認められる(以下「周知技術2」という。)。
<周知技術2>
「耐力や耐衝撃性等を向上するため、ポリエチレンテレフタレートフィルムの密度を1.380g/cm3以上に設計すること。」
(5) 本件補正発明と引用発明の対比
ア 対比分析
本件補正発明と引用発明を対比する。
(ア) 構成Xの観点(表面保護フィルム用ポリエステルフィルム)
a 構成Xは、「折りたたみ型ディスプレイの表面保護フィルム用ポリエステルフィルム」の発明であることを特定するものである。
b 引用発明における「折りたたみ型ディスプレイの表面保護フィルム用ポリエステルフィルム」は、本件補正発明における「折りたたみ型ディスプレイの表面保護フィルム用ポリエステルフィルム」に相当する。
c したがって、本件補正発明と引用発明は、「折りたたみ型ディスプレイの表面保護フィルム用ポリエステルフィルム」の発明である点において一致する。
(イ) 構成A1、A2の観点(屈曲方向の屈折率)
a 構成A1は「屈曲方向の屈折率が1.590~1.606」であり、構成A2は「(ここで、屈曲方向とは、ポリエステルフィルムを折りたたむ際の折りたたみ部と直交する方向をいう。)」であることである。
b 引用発明において「長手方向(屈曲方向)の屈折率が1.601」であることは、本件補正発明において「屈曲方向の屈折率が1.590~1.606」であることに相当する。
c したがって、本件補正発明と引用発明は、次の点において一致する。
「屈曲方向の屈折率が1.590~1.606」である点。
(ウ) 構成Bの観点(折りたたみ部の方向の屈折率)
a 構成Bは、「折りたたみ部の方向の屈折率が1.670~1.700」であることである。
b 引用発明において「幅方向(折りたたみ部の方向)の屈折率が1.684」であることは、本件補正発明において「折りたたみ部の方向の屈折率が1.670~1.700」であることに相当する。
c したがって、本件補正発明と引用発明は、次の点において一致する。
「折りたたみ部の方向の屈折率が1.670~1.700」である点。
(エ) 構成Cの観点(厚み方向の屈折率)
a 構成Cは、「厚み方向の屈折率が1.520以下」であることである。
b 引用発明は、本件補正発明の構成Cに相当する構成を備えているか明らかでないから、本件補正発明と引用発明は、次の点において相違する。
本件補正発明においては「厚み方向の屈折率が1.520以下」であるのに対して、
引用発明においてはこの点が明らかでない点。
(オ) 構成Dの観点(密度)
a 構成Dは、「密度が1.380g/cm3以上」であることである。
b 引用発明は、本件補正発明の構成Dに相当する構成を備えているか明らかでないから、本件補正発明と引用発明は、次の点において相違する。
本件補正発明においては「密度が1.380g/cm3以上」であるのに対して、
引用発明においてはこの点が明らかでない点。
(カ) 構成Eの観点(二軸延伸ポリエチレンテレフタレートフィルム)
a 構成Eは、「ポリエステルフィルムが二軸延伸ポリエチレンテレフタレートフィルム」であることである。
b 引用発明において「折りたたみ型ディスプレイの表面保護フィルム用ポリエステルフィルム」が「2軸延伸ポリエステルフィルム」であることは、本件補正発明において「ポリエステルフィルムが二軸延伸ポリエチレンテレフタレートフィルム」であることに相当する。
c したがって、本件補正発明と引用発明は、次の点において一致する。
「ポリエステルフィルムが二軸延伸ポリエチレンテレフタレートフィルム」である点。
(キ) 構成Fの観点(全光線透過率)
a 構成Fは、「全光線透過率が85%以上」であることである。
b 引用発明において「全光線透過率」が「85%以上」であることは、本件補正発明において「全光線透過率が85%以上」であることに相当する。
c したがって、本件補正発明と引用発明は、次の点において一致する。
「全光線透過率が85%以上」である点。
イ 一致点及び相違点
前記アの対比分析の結果をまとめると、本件補正発明と引用発明は、次の(ア)に示す一致点において一致し、後記(イ)に示す相違点において相違すると認められる。
(ア) 一致点
「下記条件を満足する折りたたみ型ディスプレイの表面保護フィルム用ポリエステルフィルム。
(1)屈曲方向の屈折率が1.590~1.606
(2)折りたたみ部の方向の屈折率が1.670~1.700
(5)ポリエステルフィルムが二軸延伸ポリエチレンテレフタレートフィルム
(6)全光線透過率が85%以上
(ここで、屈曲方向とは、ポリエステルフィルムを折りたたむ際の折りたたみ部と直交する方向をいう。)」
である点。
(イ) 相違点
a 相違点1
本件補正発明においては「厚み方向の屈折率が1.520以下」であるのに対して、
引用発明においてはこの点が明らかでない点。
b 相違点2
本件補正発明においては「密度が1.380g/cm3以上」であるのに対して、
引用発明においてはこの点が明らかでない点。
(6) 判断
ア 相違点1について
(ア) 前記(3)ウにおいて周知技術1として認定したとおり、「機械的強度や加工適正等を向上するため、ポリエチレンテレフタレートフィルムの厚み方向の屈折率を1.520以下に設計すること」は、当業者にとって周知技術である。
(イ) そして、引用発明において、機械的強度や加工適正を向上することは自明な課題である。
(ウ) そうすると、引用発明において前記周知技術1を適用し、前記相違点1に係る本件補正発明の構成を備えるようにすることは、当業者が容易に想到し得たことである。
イ 相違点2について
(ア) 前記(4)ウにおいて周知技術2として認定したとおり、「耐力や耐衝撃性等を向上するため、ポリエチレンテレフタレートフィルムの密度を1.380g/cm3以上に設計すること」は、当業者にとって周知技術である。
(イ) そして、引用発明において、耐力や耐衝撃性を向上することは自明な課題である。
(ウ) そうすると、引用発明において前記周知技術2を適用し、前記相違点2に係る本件補正発明の構成を備えるようにすることは、当業者が容易に想到し得たことである。
ウ 総合評価
前記ア及びイにおいて検討したとおり、引用発明において、前記相違点に係る本件補正発明の構成を備えるようにすることは、引用発明及び周知技術1、2に基づいて当業者が容易に想到し得たことである。
そして、相違点1、2を総合的に勘案しても、本件補正発明が奏する効果としては、当該構成のものとして当業者が予測・発見困難であり、かつ、格別顕著な効果を認めることはできない。
したがって、本件補正発明は、引用発明及び周知技術1、2に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。
エ 上申書における請求人の主張について
(ア) 上申書における請求人の主張の内容
請求人は、上申書において、次のように主張している。
a 本願明細書の【0056】には、「各々の好ましい製造条件範囲の中において最善とは言えない条件の組合せ」の場合に「屈曲方向の延伸倍率延伸倍率を1.7倍以上に高めたり、折りたたみ部の方向の延伸倍率が4.4倍以上に高めたり、熱固定温度を230℃程度に高めたり、あるいは屈曲方向及び/又は折りたたみ部の方向の延伸温度を低くするなど、いずれかの条件の微調整またはそれらの組合せによって、上記の4つの特性を同時に満足させることができる」ことが記載されている。
b 前置報告書に記載された引用文献1の「実施例5」は、本願の比較例3に対応しており、本願の比較例3は「各々の好ましい製造条件範囲の中において最善とは言えない条件の組合せ」で製造されていることから、「(1)屈曲方向の屈折率が1.590~1.620」、「(2)折りたたみ部の方向の屈折率が1.670~1.700」、「(3)厚み方向の屈折率が1.520以下」、「(4)密度が1.380g/cm3以上」の4つの特性を同時に満足しない。
c 本件補正発明は、「屈曲方向の延伸倍率延伸倍率を1.7倍以上に高めたり、折りたたみ部の方向の延伸倍率が4.4倍以上に高めたり、熱固定温度を230℃程度に高めたり、あるいは屈曲方向及び/又は折りたたみ部の方向の延伸温度を低くしたりする」ことを達成手段としており、本願の実施例は、この達成手段により上記の4つの特性を同時に満足する。
(イ) 上申書における請求人の主張についての検討
a 本件補正発明は、「折りたたみ型ディスプレイの表面保護フィルム用ポリエステルフィルム」なる物の発明であって、物の製造方法の発明ではないことから、請求人の主張は特許請求の範囲の記載に基づくものではなく、失当である。
b そして、本件補正発明が物の発明である以上、当業者が引用発明に基づいて当該物の構成を容易に着想することができる場合に進歩性は否定されるべきところ、前記ア~ウに説示した理由によって、本件補正発明に進歩性は認められない。
c また、製造方法の観点から念のため検討すると、所望のフィルムが得られるよう予熱温度、固定温度等を適宜調整することは技術常識であり、また、引用文献1の[0038]、[0041]等には、予熱温度、固定温度等の数値範囲が開示されていることから、引用発明において、これらの製造パラメータを適宜調整することに格別の困難性を有しないことは明らかである。
d したがって、請求人の主張は採用できない。
オ 審判請求書における請求人の主張について
請求人は、審判請求書において、次のように主張している。請求人の主張を「請求人の主張1」~「請求人の主張3」として、順次検討する。
(ア) 請求人の主張1
a 請求人の主張1の内容(相違点について)
(a) 本願明細書の【0098】には「・・・105℃で予熱後、95℃で4.0倍に横延伸し、幅固定して230℃で5秒間の熱固定を施し、さらに180℃で幅方向に4%緩和させることにより、厚み50μmポリエチレンテレフタレートフィルムを得た」ことが記載されている。
(b) 一方、引用文献1の[0066]には「・・・幅方向に95℃で4.0延伸し、220℃にて5秒間熱処理し、表1のNo.1のポリエチレンテレフタレートフィルムを得た」ことが記載されている。
(c) また、引用文献1の実施例2、5、7、8は、屈曲方向の延伸倍率が1.4倍以下、折りたたみ部の方向の延伸倍率が4.4倍未満であり、かつ、熱固定温度が220℃以下の組合せによって製造されており、引用文献1の全実施例は、「(1)屈曲方向の屈折率が1.590~1.620」、「(2)折りたたみ部の方向の屈折率が1.670~1.700」、「(3)厚み方向の屈折率が1.520以下」、「(4)密度が1.380g/cm3以上」の4つの特性を同時に具備しない。
(d) したがって、本件補正発明は、引用発明に基づいて当業者が容易になし得るものではない。
b 請求人の主張1についての検討
(a) 請求人の主張は、要するに前記エ(ア)の製造方法に関するものであるところ、前記エ(イ)において述べた理由から、採用することができない。
(b) また、前記a(a)における本願明細書の【0091】に基づく主張が特許請求の範囲に基づくものでないことはすでに述べたとおりであるが、念のために検討すると、引用文献1の[0041]には、「・・・幅方向に2.5~5.0倍に延伸する。引き続き、160~240℃の熱処理ゾーンに導き、1~60秒間の熱処理を行うことができる。この熱処理工程中で、必要に応じて、幅方向または長手方向に1~12%の弛緩処理を施してもよい」と記載されており、熱固定の温度として「230℃」を選択することや、弛緩率として「4%」を選択することに格別の困難性は認められない。
(イ) 請求人の主張2(連続屈曲試験等について)
a 請求人の主張2の内容
(a) 引用文献1の実施例に記載された積層フィルムの耐屈曲性試験における曲率半径は2mmであるのに対して(引用文献1の[0056])、本願実施例のPETフィルムは、屈曲半径が0.5mm及び1.5mmである連続屈曲試験において評価が「〇」である。この試験は、引用文献1の耐屈曲性試験(曲率半径が2mm)よりもはるかに厳しい試験であることから、本件補正発明のフィルムが上記連続屈曲試験において優れた結果を示すことは引用文献1から予測できない効果である。
(b) 本件補正発明は屈曲方向及び折りたたみ部の方向と屈折率との関係が肝であるところ、引用文献2は、フィルムを折り曲げることに関して何ら記載・示唆されていない。
b 請求人の主張2についての検討
(a) 本件補正発明の構成に至ることが当業者にとって容易なし得たものであることは、前記ア、イにおいて既に検討したとおりである。一般に、発明の構成に至ることが容易であるにもかかわらず、当該発明の進歩性が認められるためには、当該構成の奏する効果としては、当該構成のものとして予測あるいは発見することの困難なものであり、かつ、当該構成のものとして予測あるいは発見される効果と比較して、よほど顕著なものである必要があるというべきである。したがって、請求人の主張する、本件補正発明の構成が奏するとされる連続屈曲試験に関する効果も、このような観点から検討されるべきものである。
(b) しかしながら、引用発明においても、その屈曲半径が異なるといえども屈曲試験は行われており、また、優れた結果を示しているのであって(引用文献1の[0056]、[表1]等を参照)、本件補正発明の奏する効果が予測あるいは発見が困難であったとは認めがたく、また格別顕著なものであったとも認められない。
(ウ) 請求人の主張3(屈曲方向の屈折率について)
a 請求人の主張3の内容
本件補正発明のフィルムは、屈折率を1.590~1.606の範囲内に制御することによって、屈曲方向の配向結晶量が低減され、圧縮疲労が抑制される。さらに、本発明のフィルムは、屈折率をこの範囲内に制御することによって、折りたたみ時に折りたたみの外側にかかる引張応力によって生じるクリープ現象を抑えることができる。本件補正発明のフィルムは密度が1.380g/cm3以上であるから非晶部が少ないので、引張による疲労が抑制できる。
このような圧縮疲労及び引張疲労が抑制される効果は、引用発明等から予測できない効果である。
b 請求人の主張3についての検討
(a) 前記(イ)b(a)においても検討したのと同様に、請求人が前記aにおいて主張する効果は、当該構成のものとして予測あるいは発見することの困難なものであり、かつ、当該構成のものとして予測あるいは発見される効果と比較して、よほど顕著なものであるといえるか否か、という観点から検討されるべきものである。
(b) 請求人が前記aにおいて主張する効果は、結局のところ、フィルムを屈曲させた際に問題が生じないことを主張するものであるといえる。そして、本件補正発明が奏する屈曲に関する効果については、本件補正発明の構成の容易想到性の推論を覆してまで進歩性を認めるほどに格別顕著なものといえないことは、前記(イ)b(b)で検討したとおりである。
カ 独立特許要件の判断のまとめ
以上検討のとおり、本件補正発明は、引用発明及び周知技術1、2に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法29条2項の規定により、特許出願の際独立して特許を受けることができないものである。
したがって、本件補正により請求項1についてする補正は、特許法17条の2第6項において準用する同法126条7項の規定に適合しない。
4 本件補正の却下の決定の理由のむすび
前記3(6)カのとおり、本件補正は、同法17条の2第6項において準用する同法126条7項の規定に違反するから、同法159条1項において読み替えて準用する同法53条1項の規定により却下すべきものである。
よって、前記補正の却下の決定の結論のとおり決定する。
第3 本願発明について
1 本願発明について
本件補正は、前記第2のとおり却下したので、本願の請求項1に係る発明(以下「本願発明」という。)は、本件補正前の特許請求の範囲の請求項1(前記第2の1(1)参照)に記載された事項により特定されるとおりのものである。
2 原査定における拒絶の理由の概要
原査定の本願発明に対する拒絶の理由である理由2(進歩性の欠如)の概要は、次のとおりである。
理由2(進歩性の欠如) 本願発明は、その優先日前に発行された下記の引用文献に記載された発明に基いて、その優先日前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法29条2項の規定により特許を受けることができない。
記
引用文献1.国際公開第2018/150940号(主たる引用文献)
引用文献2.特開2014-065887号公報
3 各引用文献に記載された事項及び引用発明の認定等
前記引用文献1には、前記第2の3(2)ウにおいて認定したとおりの引用発明が記載されていると認められる。
また、前記周知技術1、2は、前記第2の3(3)ウ及び(4)ウにおいて認定したとおりである。
4 対比・判断
本願発明は、本件補正発明から、前記第2の2(1)のアからウに示した限定を省いたものである。
そうすると、本願発明の発明特定事項を全て含み、その発明特定事項の一部を限定したものに相当する本件補正発明が、前記第2の3(6)において説示したとおり、引用発明及び周知技術1、2に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、本願発明も、同様の理由により引用発明及び周知技術1、2に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。
第4 むすび
以上検討のとおり、本願発明は、特許法29条2項の規定により、特許を受けることができない。
したがって、他の請求項に係る発明について検討するまでもなく、本願は拒絶すべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
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2024-010408