2024-002299
熱電素子及びその製造方法
- 審判番号
- 2024-002299
- 法域
- 特許
- 審判種別
- 拒絶査定不服審判(拒絶査定不服の審決)
- 出願番号
- 特願2019-132509外部サイト(J-PlatPat)へ移動します
- 請求日
- 2024年02月08日
- 審決日
- 2025年04月16日
- 公報発行日
- 2025年07月25日
- 結論
- 請求不成立
- 当事者
- 【請求人】株式会社テックスイージー
- 【請求人代理人】藤野 義昭
- 【請求人】学校法人育英学院
- 【請求人代理人】藤野 義昭
- 分類
- P18 .113-WZ (H10N)
- 根拠条文(結論部分から自動抽出・参考)
- 特許法29条1項3号
- 条文(本文から自動抽出・参考)
- 特許法第29条第1項第3号
- データ出所
- 審決公報(XML)
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結論
理由
目次 ▾ 8項目
第1 手続の経緯
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本願は、令和1年7月18日の出願であって、その手続の経緯は以下のとおりである。
同年 8月 4日 :意見書、手続補正書の提出
同年11月 7日付け:拒絶査定(原査定)
同年 3月13日 :審判請求書を対象とする手続補正書(方式)の提出
第2 本願発明
本願の請求項1~12に係る発明は、令和6年12月20日に提出された手続補正書により補正された特許請求の範囲の請求項1~12に記載した事項により特定されるものであり、そのうち、請求項1に係る発明(以下「本願発明」という。)は、次のとおりのものである。
「第一の領域と、当該第一の領域に隣接する第二の領域とを備え、当該第二の領域のキャリア濃度は、前記第一の領域のキャリア濃度より高く、前記第一の領域は、前記第二の領域より熱流方向の長さが長いことを特徴とする熱電素子。」
第3 当審において通知した拒絶理由
当審において令和6年11月18日付けで通知した拒絶理由のうち、理由2(新規性)は次のとおりである。
(新規性)この出願の請求項1、4~6に係る発明は、その出願前に日本国内又は外国において、頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった以下の引用文献1に記載された発明であるから、特許法第29条第1項第3号に該当し、特許を受けることができない。
第4 当審の判断
1 引用文献1の記載と引用文献1に記載された発明
(1)引用文献1の記載
引用文献1には、以下の記載がある。(引用箇所を示すため、当審が下線を付した。)
ア 「2.特許請求の範囲1.内部の温度勾配により起電力が生じる熱電変換素子において、その電力を取り出すための電極との接合部のうち少なくとも一方の電極接合部の近傍に、不純物濃度が他の部分よりも高くしたドーピング層を形成したことを特徴とする熱電変換素子。」(1頁左下欄4~10行)
イ 「(産業上の利用分野)本発明は、熱エネルギーを電気エネルギーに変換する熱電発電装置及びこれに用いる熱電変換素子(以下、熱電素子と称する)に関する。」(2頁右上欄14~17行)
ウ 「第1図では、複数のn型熱電素子1とn型熱電素子2とを高温側電極11及び低温側電極12を介して直列に接続した例で、第2図に示すように、熱電素子の電極接合部近傍に他の部分よりも不純物濃度の高い領域(ドーピング層)3を形成している。」(4頁右下欄8~13行)
エ 「一般に、半導体と金属の接合部に一定の電圧が印加された場合、接合部を流れる電流(電流密度)は、半導体中のキャリア濃度に比例する。仮りに逆方向の整流性があったとしても、キャリア密度を高めておけば、接合部の電気抵抗は小さくできる。従って、第2図のように熱電素子の接合部近傍に不純物を添加し(n型熱電素子の場合には、ドナー,p型熱電素子の場合には、アクセプタ)、てその不純物濃度を他の部分より高めて、キャリア密度を高めることで、整流性に起因する高い電気抵抗を排除し、これによる電力損失を低減できる。第6図は、第2図の実施例の種々の態様を具現化したものである。第6図(1)~(4),(6)に示す実施例は、第4図(b)(1)~(3)、第5図(b)(4),(6)に対応して、電気的障壁が生じる接合部近傍の熱電素子に不純物を添加した例で、それぞれ電気的障壁が発生する熱電素子1又は2或いはその双方における高温側電極11の接合部近傍にドーピング層3を形成して、この接合部近傍の不純物濃度を他の部分よりも高めている。」(5頁左上欄下から2行目~右上欄最終行、当審注:丸数字を半角の括弧数字(「(1)」等)で示した。)
オ 「表1に本実施例を珪化鉄熱電素子を用いた際の解析定数を、表2にキャリア濃度の影響を解析した結果を示す。表2に示す結果は、珪化鉄熱電素子の不純物濃度~1020個/cm3では、電気的障壁のため、熱電素子本来の起電力の約4割しか負荷に供給できないが、キャリア濃度を1021/cm3とすることで、ほぼ完全に起電力を負荷に供給できることを意味している。珪化鉄の場合、Mn、Cr、Co等の不純物を1021/cm3程度、接合部近傍(数10Å~数1000Åの厚さ)に添加することで、この条件を満たせる。[図:0001424219000001.jpg]」(6頁左下欄14行~右下欄6行)
カ 「[図:0001424219000002.jpg]」
(2)引用文献1に記載された発明
上記(1)の記載によれば、引用文献1には以下の事項が記載されている。
ア 上記(1)ア、イによれば、引用文献1には、内部の温度勾配により起電力が生じる熱電素子の発明が記載されている。
イ 上記(1)ウによれば、熱電素子は、電極接合部近傍に他の部分よりも不純物濃度の高い領域であるドーピング層を形成したものであり、同エの「不純物濃度を他の部分より高めて、キャリア密度を高める」との記載によれば、他の部分よりも不純物濃度の高い領域は、他の部分よりもキャリア密度の高い領域である。
ウ 上記(1)カの第1図によれば、熱電素子は、高温側電極と低温側電極の間に配置され、同第2図及び上記(1)エによれば、ドーピング層は高温側電極の接合部近傍に形成されている。
エ 上記(1)オによれば、引用文献1には、熱電素子として珪化鉄熱電素子を用いる実施例が記載され、さらに、本実施例では、不純物を接合部近傍(数10Å~数1000Åの厚さ)に添加するから、ドーピング層の厚さは数10Å~数1000Åであるといえる。また、本実施例では、同オの表1によれば、熱電子寸法、すなわち熱電素子の寸法は10×10×10mmであるといえる。
オ 以上によれば、引用文献1には、次の発明(以下「引用発明」という。)が記載されている。
[引用発明]
「内部の温度勾配により起電力が生じる熱電素子であって、電極接合部近傍に他の部分よりもキャリア密度の高い領域であるドーピング層が形成され、熱電素子は高温側電極と低温側電極の間に配置され、ドーピング層は高温側電極の接合部近傍に形成され、さらに、熱電素子として珪化鉄熱電素子を用いる場合、ドーピング層の厚さは数10Å~数1000Åであり、熱電素子の寸法は10×10×10mmである、熱電素子。」
2 対比・判断
本願発明と引用発明を対比する。
(1)引用発明の「内部の温度勾配により起電力が生じる熱電素子」は、本願発明と同様の「熱電素子」である。
(2)引用発明の「熱電素子」は、「電極接合部近傍に他の部分よりもキャリア密度の高い領域であるドーピング層が形成され」たものであるところ、「他の部分」及び「他の部分よりもキャリア密度の高い領域であるドーピング層」は、キャリア密度により区別される領域であって、互いに隣接する領域であるといえる。さらに、引用発明の「キャリア密度」は本願発明の「キャリア濃度」に相当するから、引用発明の「他の部分」及び「他の部分よりもキャリア密度の高い領域であるドーピング層」は、それぞれ本願発明の「第一の領域」及び「第一の領域に隣接」し「第一の領域のキャリア濃度より高」い「キャリア濃度」の「第二の領域」に相当する。
(3)引用発明は、「熱電素子は高温側電極と低温側電極の間に配置され」たものであるから、高温側電極から低温側電極への方向が熱電素子における熱流の方向である。そうすると、引用発明の「ドーピング層」の厚さは、熱流の方向の長さであって、「ドーピング層の厚さは数10Å~数1000Å」であるから、ドーピング層の熱流方向の長さは数10Å~数1000Åである。また、引用発明の「熱電素子の寸法は10×10×10mmである」から、「他の部分」の熱流方向の長さは、10mmから、ドーピング層の長さである数10Å~数1000Åを除いた長さである。
したがって、引用発明の「ドーピング層の厚さは数10Å~数1000Åであり、熱電素子の寸法は10×10×10mmである」ことは、本願発明の「前記第一の領域は、前記第二の領域より熱流方向の長さが長い」ことに相当する。
(4)以上によれば、本願発明と引用発明とは、
「第一の領域と、当該第一の領域に隣接する第二の領域とを備え、当該第二の領域のキャリア濃度は、前記第一の領域のキャリア濃度より高く、前記第一の領域は、前記第二の領域より熱流方向の長さが長い熱電素子。」
で一致し、発明特定事項に差異はない。
したがって、本願発明は、引用発明である。
3 請求人の主張について
ア 請求人の主張概要
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請求人は、令和6年12月20日提出の意見書において、次の主張をした。
(ア)引用文献1においては、ドーピング層の厚みは、極めて薄くなっており、熱流方向の長さ10mmの熱電素子に、1000Åの厚みのドーピング層を形成した場合を考えると、「ドーピング層」と「ドーピング層以外の領域」とのサイズ比は、1:99999となる一方、本願発明においては、一つの熱電素子内に、ゼーベック係数が相対的に大きい低キャリア濃度領域(第一の領域)と、導電率が相対的に高い高キャリア濃度領域(第二の領域)とを設けることで、ゼーベック係数を大きくしつつ、導電率を高くすることを可能とし、その結果、熱電性能(PF)を向上させた熱電素子を提供することを可能とするものであって、第二の領域についてもそれなりの大きさが必要であり、厚みが極めて薄い引用文献1におけるドーピング層は、本願発明の第二の領域に相当するものとは言えないこと。(2頁23~36行)
(イ)引用文献1のドーピング層と本願発明の第二の領域とでは、その奏する作用効果が異なっており、この点からも、引用文献1におけるドーピング層は、本願発明の第二の領域に相当するものとは言えないこと。(2頁37~43行)
イ 請求人の主張についての判断
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上記アの主張について検討する。
請求項1に記載された第二の領域についての特定事項は、第一の領域に隣接すること、キャリア濃度が第一の領域より高いこと、及び熱流方向の長さが第一の領域より短いことであるところ、これらの特定事項がいずれも引用発明の熱電素子に形成された「ドーピング層」と一致する事項であることは、上記2で説示したとおりである。
一方、請求項1には、第二の領域の大きさの下限値や、第一の領域の大きさに対する第二の領域の大きさの比(サイズ比)の下限値は記載されておらず、さらに念のため本願明細書の発明の詳細な説明をみても、【0089】、【0091】、【0099】に、「低キャリア濃度領域(当審注:本願発明の「第1の領域」に対応)が大きいほど、ゼーベック係数αの絶対値が大きくな」り、逆に「高キャリア濃度領域(当審注:本願発明の「第2の領域」に対応)が大きいほど、比抵抗が大きくな」ることや、「低キャリア濃度領域(当審注:本願発明の「第1の領域」に対応)が大きいほど、大きな温度差が得られ」ることは記載されているが、第2の領域のサイズ比に下限値がある旨の記載はない。そうすると、上記ア(ア)の主張は、請求項1の記載に基づくものではなく、発明の詳細な説明の記載に基づくものでもないから、採用できない。
また、上記2で説示したとおり、本願発明は、引用発明であるから、奏する効果についての検討を要しない。なお、引用文献1には記載がないものの、引用発明の「ドーピング層」について、引用文献1の「珪化鉄の場合、Mn、Cr、Co等の不純物を1021/cm3程度、接合部近傍(数10Å~数1000Åの厚さ)に添加する」(上記1(1)オ)との記載によれば、ドーピング層は、熱電材料である珪化鉄に不純物を添加し、他の部分に対し相対的にキャリア濃度を高くしたものであり、結果的に導電率を高くしたものであるから、引用発明は、本願発明と同じ効果を奏するものといえる。
したがって、請求人の上記ア(イ)の主張は、採用できない。
第5 むすび
以上のとおり、本願の請求項1に係る発明は、引用文献1に記載された発明であるから、特許法第29条第1項第3号に該当し、特許を受けることができない。
したがって、他の請求項について検討するまでもなく、本願は拒絶されるべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
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