特許無効審判
2023-800024
コークス炉ガス精製におけるタール汚れの抑制方法及びそのための組成物
- 審判番号
- 2023-800024
- 法域
- 特許
- 審判種別
- 無効審判(無効の審決)
- 出願番号
- 特願2014-210248
- 登録番号
- 6543829
- 請求日
- 2023年04月20日
- 審決日
- 2024年05月16日
- 公報発行日
- 2024年12月27日
- 結論
- 請求不成立
- 当事者
- 【請求人】ビーエル テクノロジーズ、インコーポレイテッド
- 【請求人代理人】小倉 博
- 【請求人代理人】黒川 俊久
- 【請求人代理人】澤木 亮一
- 【被請求人】ナルコジャパン 合同会社
- 【被請求人代理人】弁理士法人池内アンドパートナーズ
- 【被請求人】株式会社 片山化学工業研究所
- 【被請求人代理人】弁理士法人池内アンドパートナーズ
- 審判長/審判官
- 審判長 関根 裕
- 審判官 安積 高靖
- 審判官 菊地 則義
- 分類
- P1123.121-YAA(C10K) / P1123.113-YAA(C10K) / P1123.536-YAA(C10K) / P1123.537-YAA(C10K)
- 条文(本文から自動抽出・参考)
- 特許法第134条の2第9項、特許法第134条の2第1項、特許法第36条第4項第1号、特許法第29条第2項、特許法第36条第6項第2号、特許法第36条第6項第1号、特許法第134条の2第3項、特許法第123条第1項第2号、特許法第29条第1項第3号、特許法第29条第1項、特許法第36条、特許法第169条第2項
- データ出所
- 審決公報(XML)
事件の表示
上記当事者間の特許第6543829号発明「コークス炉ガス精製におけるタール汚れの抑制方法及びそのための組成物」の特許無効審判事件について、次のとおり審決する。
結論
結 論
特許第6543829号の特許請求の範囲を令和6年1月19日付け訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1-10〕について訂正することを認める。
本件審判の請求は、成り立たない。
審判費用は、請求人の負担とする。
理由
理 由
第1 請求の趣旨及び答弁の趣旨
1 請求の趣旨
特許第6343829号の請求項1、3、4及び8についての特許を無効とする、審判費用は被請求人の負担とする、との審決を求める。
2 答弁の趣旨
訂正を認める、本件無効審判の請求は成り立たない、審判費用は請求人の負担とする、との審決を求める。
第2 手続の経緯
1 登録までの手続の経緯
本件特許に係る特許出願は、平成26年10月14日の特許出願であって、平成30年11月26付けで拒絶理由が通知され、平成31年1月24日に意見書及び手続補正書の提出がされ、同年3月5日付けで拒絶査定がされ、同年4月12日に審判請求書及び手続補正書の提出がされ、令和元年6月28日に特許権の設定登録(請求項の数11)がされ、同年7月17日に特許掲載公報が発行された。
2 別件異議事件の手続の経緯
令和2年1月16日に請求項1、3、4及び8に係る特許に対して、特許異議の申立て(異議2020-700024号、以下「別件異議事件」ともいう。)がされ、同年4月22日付けで取消理由が通知され、同年6月29日に意見書及び訂正請求書が提出され、同年10月6日付けで、「特許第6543829号の特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1~10〕について訂正することを認める。特許第6543829号の請求項1、3、4及び8に係る特許を維持する。」を結論とする異議決定がされ、その後、同年10月15日に当該異議決定は確定した。
3 別件無効審判事件の手続の経緯
令和3年10月26日に前記2の別件異議事件において訂正が認められた訂正後の本件請求項1、3、4及び8に係る特許に対して、本件と同一の審判請求人であるビーエル テクノロジーズ、インコーポレイテッド(以下「請求人」という。)により「特許第6543829号の特許請求の範囲の請求項1、3、4及び8に記載された発明についての特許を無効とする。審判費用は被請求人の負担とする、との審決を求める。」を請求の趣旨とする無効審判(無効2021-800090号)が請求され、令和4年9月5日付けで、「本件審判の請求は、成り立たない。審判費用は、請求人の負担とする。」を結論とする審決がなされ、その後、令和5年1月20日に当該審決は確定した。
4 本件審判の手続の経緯
前記2の別件異議事件において訂正が認められた訂正後の本件請求項1、3、4及び8に係る特許に対して、令和5年4月20日に本件審判請求がされ、同年8月4日に被請求人から審判事件答弁書が提出されたものである。
その後の手続は以下のとおりである。
令和5年 9月27日付 当審から審理事項通知
令和5年11月13日 請求人から口頭審理陳述要領書
令和5年11月14日 被請求人から口頭審理陳述要領書
令和5年11月28日 請求人から上申書
令和5年11月28日 被請求人から上申書
令和5年11月28日 口頭審理
令和5年12月14日付 当審から職権による無効理由通知、職権審理結果通知
令和6年 1月19日 被請求人から訂正請求書及び意見書
令和6年 2月 5日 請求人から意見書
令和6年 3月21日 請求人から弁駁書
第3 訂正請求について
令和6年1月19日にされた訂正の請求(以下「本件訂正請求」といい、訂正の内容を「本件訂正」という。)について検討する。
1 請求の趣旨
本件訂正請求に係る請求の趣旨は、「特許第6543829号の特許請求の範囲を、本訂正請求書に添付した訂正特許請求範囲のとおり、訂正後の請求項1~10について訂正することを求める」というものである。
2 訂正事項
本件訂正は、以下の訂正事項1~2からなるものである。
(1)訂正事項1
特許請求の範囲の請求項1に「コークス炉ガス精製に使用するスクラバー水に添加して該スクラバー水が接する部分におけるタール汚れの付着を抑制するための組成物であって、」とあるのを、「コークス炉ガス精製に使用するスクラバー水(但し、スクラバー水の循環系内に粉末硫黄が存置され、かつ、前記粉末硫黄が循環せず置かれた循環系内に存在するものを除く)に添加して該スクラバー水が接する部分におけるタール汚れの付着を抑制するための組成物であって、」と訂正する。
(2)訂正事項2
特許請求の範囲の請求項8に「コークス炉ガス精製設備で使用されるスクラバー水が接触する部分におけるタール汚れの付着を抑制する方法であって、」とあるのを、「コークス炉ガス精製設備で使用されるスクラバー水(但し、スクラバー水の循環系内に粉末硫黄が存置され、かつ、前記粉末硫黄が循環せず置かれた循環系内に存在するものを除く)が接触する部分におけるタール汚れの付着を抑制する方法であって、」と訂正する。
3 一群の請求項について
訂正前の請求項2~7、9、10は、請求項1を直接又は間接的に引用する関係にあり、訂正前の請求項1を訂正すると、訂正前の請求項2~7、9、10もこれと連動して訂正されるから、本件訂正前の請求項1~7、9、10は、一群の請求項である。
本件訂正前の請求項9、10は、本件訂正前の請求項8を直接的に引用する関係にあり、訂正前の請求項8を訂正すると、訂正前の請求項9、10もこれと連動して訂正されるから、本件訂正前の請求項8~10は、一群の請求項である。
そして、一群の請求項である本件訂正前の請求項1~7、9、10と本件訂正前の請求項8~10は、共通する請求項9、10を有するから、本件訂正前の請求項1~10は、特許法第134条の2第3項に規定する一群の請求項であって、本件訂正に係る訂正請求は、当該一群の請求項ごとにされたものである。
4 訂正の適否について
(1)訂正事項1
ア 訂正の目的について
訂正事項1は、請求項1の記載を「コークス炉ガス精製に使用するスクラバー水(但し、スクラバー水の循環系内に粉末硫黄が存置され、かつ、前記粉末硫黄が循環せず置かれた循環系内に存在するものを除く)」として「コークス炉ガス精製に使用するスクラバー水」から特定の態様を除くものであるから、その範囲が減縮されるものである。
したがって、訂正事項1は、特許法第134条の2第1項ただし書第1号に掲げる「特許請求の範囲の減縮」を目的とするものであるといえる。
イ 願書に添付した明細書及び特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の訂正であるかの判断
訂正事項1は、スクラバー水から特定の態様を除くものであるから、新たな技術的事項を導入するものではなく、願書に添付した明細書及び特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内においてするものであり、特許法第134条の2第9項で準用する同法第126条第5項に規定する要件に適合するといえる。
ウ 実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更する訂正でないかの判断
訂正事項1は、前記アにおいて述べたとおり、特許請求の範囲の減縮を目的とするものであるから、特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものには該当せず、特許法第134条の2第9項で準用する同法第126条第6項に規定する要件に適合するといえる。
(2)訂正事項2
ア 訂正の目的について
訂正事項2は、請求項8の記載を「コークス炉ガス精製設備で使用されるスクラバー水(但し、スクラバー水の循環系内に粉末硫黄が存置され、かつ、前記粉末硫黄が循環せず置かれた循環系内に存在するものを除く)」としてスクラバー水から特定の態様を除くものであるから、その範囲が減縮されるものである。
したがって、訂正事項2は、特許法第134条の2第1項ただし書第1号に掲げる「特許請求の範囲の減縮」を目的とするものであるといえる。
イ 願書に添付した明細書及び特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の訂正であるかの判断
訂正事項2は、スクラバー水から特定の態様を除くものであるから、新たな技術的事項を導入するものではなく、願書に添付した明細書及び特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内においてするものであり、特許法第134条の2第9項で準用する同法第126条第5項に規定する要件に適合するといえる。
ウ 実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更する訂正でないかの判断
訂正事項2は、前記アにおいて述べたとおり、特許請求の範囲の減縮を目的とするものであるから、特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものには該当せず、特許法第134条の2第9項で準用する同法第126条第6項に規定する要件に適合するといえる。
(3)独立特許要件について
訂正前の請求項1、3、4、8には、無効審判の請求がされているから、特許法第134条の2第9項で読み替えて準用する同法第126条第7項の規定は適用されない。
また、請求項2、5~7、9、10については、訂正後の請求項1又は8を直接又は間接的に引用するものであり、発明特定事項を限定するものであるところ、後記第9のとおり、特許要件の適否について見直すべき新たな事情は存在せず、また、この訂正により特許法第36条第4項第1号又は第6項(第4号を除く)に規定する要件を満たさなくなるものでもない。
したがって、訂正後の請求項2、5~7、9、10に係る発明は、特許出願の際独立して特許を受けることができるものであり、特許法第134条の2第9項で読み替えて準用する同法第126条第7項に規定する要件に適合するといえる。
5 訂正請求についての結論
本件訂正は、特許法第134条の2第1項ただし書第1号を目的とするものに該当し、同条第3項の規定に適合するとともに、同条第9項で準用する同法第126条第5項ないし第7項の規定に適合するので、訂正後の請求項〔1~10〕について、訂正を認める。
第4 本件発明
前記第3のとおり、本件訂正は認められるから、本件特許の請求項1、3、4及び8に係る発明(以下「本件発明1」などといい、まとめて「本件発明」ということもある。)は、以下のとおりの発明である。
「【請求項1】
コークス炉ガス精製に使用するスクラバー水(但し、スクラバー水の循環系内に粉末硫黄が存置され、かつ、前記粉末硫黄が循環せず置かれた循環系内に存在するものを除く)に添加して該スクラバー水が接する部分におけるタール汚れの付着を抑制するための組成物であって、
水溶性の非イオン界面活性剤及びアニオン界面活性剤からなる群から選択される少なくとも一つの界面活性剤を含む、組成物。」
「【請求項3】
前記水溶性の非イオン界面活性剤が、エチレンオキサイド(EO)基又はエチレンオキサイドプロピレンオキサイド(EOPO)基付加物である、請求項1又は2に記載の組成物。
【請求項4】
前記水溶性の非イオン界面活性剤が、エチレンオキサイド(EO)基の平均付加モル数が5モル以上のEO付加物である、請求項1から3のいずれかに記載の組成物。」
「【請求項8】
コークス炉ガス精製設備で使用されるスクラバー水(但し、スクラバー水の循環系内に粉末硫黄が存置され、かつ、前記粉末硫黄が循環せず置かれた循環系内に存在するものを除く)が接触する部分におけるタール汚れの付着を抑制する方法であって、前記スクラバー水に水溶性の非イオン界面活性剤及びアニオン界面活性剤からなる群から選択される少なくとも一つを含有させることを含む、方法。」
第5 請求人の主張及び証拠方法
1 請求人の主張の概要
(1)無効理由1(進歩性欠如)
本件発明1、3、4及び8は、甲第1号証に記載された発明及び甲2~3に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明することができたものであるか、甲4号証に記載された発明及び甲2~3に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明することができたものであるか、甲5号証に記載された発明及び甲2~3に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明することができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許が受けることができない発明であるから、本件発明1、3、4及び8に係る特許は、特許法第123条第1項第2号の規定により無効とされるべきものである。
(2)無効理由2(明確性要件違反)
本件発明1、3、4及び8は、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていないから、同法第123条第1項第4号に該当し、無効とすべきである。
(3)無効理由3(実施可能要件違反)
本件特許の発明の詳細な説明の記載は、本件発明1、3、4及び8を実施することができる程度に明確かつ十分に記載されておらず、特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていないから、同法第123条第1項第4号に該当し、無効とすべきである。
(4)無効理由4(サポート要件違反)
本件発明1、3、4及び8は、発明の詳細な説明に記載したものではなく、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていないから、同法第123条第1項第4号に該当し、無効とすべきである。
2 証拠の一覧
請求人が提示した証拠は以下のとおり。以下、甲第1号証を「甲1」などという。
(1)審判請求書と共に提出された証拠
甲1:特開昭56-88824号公報
甲2:特開2004-74032号公報
甲3:特開昭57-49699号公報
甲4:特開昭53-81482号公報
甲5:特開昭51-148866号公報
甲6:特開2009-57415号公報
甲7:特許第6543829号の登録原簿
(2)請求人の口頭審理陳述要領書と共に提出された証拠
甲8:平成31年1月24日作成の意見書
(3)請求人の上申書と共に提出された証拠
甲9:特開昭47-39106号公報
第6 被請求人の主張及び証拠方法
1 被請求人の主張の概要
本件発明1、3、4及び8について、無効理由1~4はいずれも理由がない。
2 証拠の一覧
被請求人が提示した証拠は以下のとおり。以下、乙第1号証を「乙1」などという。
(1)答弁書と共に提出された証拠
乙1:無効2021-800090号の特許審決公報
(2)被請求人の上申書と共に提出された証拠
乙2:新日鉄エンジニアリング株式会社、「コークス炉ガスの冷却技術」、新日鉄エンジニアリング技報、Vol.2、第77~78頁、日鉄エンジニアリング株式会社、2011年発行
第7 職権無効理由
合議体が職権により通知した無効理由の内容は、以下のとおりである。
理由1)本件特許の請求項1及び8に係る発明は、本件出願前に日本国内において頒布された下記の引用文献に記載された発明であって、特許法第29条第1項第3号に該当するから、特許法第29条第1項の規定に違反してされたものである。
理由2)本件特許の請求項3及び4に係る発明は、本件特許出願前に日本国内において頒布された下記の引用文献に記載された発明に基いて、本件特許出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものである。
引用文献1:特開昭56-88824号公報(甲第1号証)
第8 甲号証の記載事項
1 甲1には、次の記載がある。
(1)第1頁左下欄 2.特許請求の範囲
「シアン化水素と硫化水素およびアンモニアを含むガスに多硫化物を含有する吸収液を循環接触せしめることにより、シアン化水素を吸収除去し、チオシアン酸アンモニヤとして固定するシアン化水素除去方法において、界面活性剤を含有した吸収液を、粉末硫黄を存在させた循環系内に循環させることを特徴とするチオシアン酸アンモニウムの製造方法」
(2)第1頁左下欄下から2行~第2頁左下欄7行
「チオシアン酸アンモニウムの最大の用途は、チオシアン酸ソーダの原料、除草剤、合成樹脂向けであり、これかため工業的には二硫化炭素とアンモニアとの加圧加熱下の反応によつて製造せられている。ところが、粗コークス炉ガスのように、シアン化水素、硫化水素およびアンモニアを同時に含有しているガスからシアン化水素を除去する方法として、該ガス精製の後段をなす湿式脱硫工程において排出されるコロイド状の硫黄を、水に県濁せしめた状態で、これを前段の吸収液として上記ガスと向流接触させることにより、シアン化水素をチオシアン酸アンモニウムとして固定する方法が知られている。この方法は下式(1)~(3)の如く多硫化物を吸収液としたシアン化水素の吸収反応である。
[図:0001417436000001.jpg]
この方法における前記コロイド硫黄の給源たる湿式脱硫法は、現時主としてピクリン酸、ニトロフエノール、フエナンスレンないしはそれらの水溶性誘導体であるレドツクス系有機化合物を触媒とした脱硫液を用いている関係上、必要とされる硫黄はチオ硫酸や如上レドツクス系有機化合物を多量に含有したケーキ状としてしか入手できない。このケーキ状で得られるコロイド硫黄を硫黄源として使用し、被処理ガスと接触せしめても、そこに得られるチオシアン酸アンモニウム含有吸収液は極めて精製困難で、それから取得するチオシアン酸アンモニアも亦、極めて粗悪であり、活性炭や活性白土などを用いても殆ど脱色できない。これが為に天然硫黄を用いる方法も提案されている。この方法では、粗コークス炉ガス中のシアン化水素を、既出(1)~(3)式の反応に基いて吸収除去するに必要な多硫化物含有吸収液を製造するのに、硫化物とアンモニヤとを含む液中に天然硫黄を加えて加熱攪拌を行つているのであるか、この方法では殊更に加熱攪拌装置が必要であるからむろん工業採算的に有利ではない。
本発明は、原料源として粗コークス炉ガスのように、シアン化水素、硫化水素およびアンモニアを同時に含有するガスを用い、既述の多硫化物含有吸収液と循環接触させるに当り、硫黄源としては、これを粉末硫黄とし、これを界面活性剤を含有した吸収液の循環系内に存置させることによって、二硫化炭素を原料とした加熱加圧法製品に劣らないチオシアン酸アンモニウムを製造するようにしたものである。こゝに粉末硫黄というのは、市販硫黄か固形硫黄、粉末硫黄、コロイド硫黄ならびに昇華硫黄の4種類に分類されていることに由来して、その中の1つである粉末硫黄を意味し、その粒度は通常200メツシユ以下75μ程度の粒度のものを意味し、コロイド硫黄の粒度が通常0.5~1μであるものと明確に区別しうる。粉末硫黄は水にぬれ難いので、シアン吸収用に使用するに際してはこれに界面活性剤を添加し、吸収液へよく馴染ましめることが必要とされる。そのような界面活性剤としては、陰イオン界面活性剤、陽イオン界面活性剤、非イオン活性剤のいずれでもよい。具体的に2~3の好適例を挙げれば、ポリオキシエチレンアルキルサルフアートNa塩、アルキルトリメチルアンモニウムクロライド、ポリオキンエチレンノニルフエノールエーテルなどである。その使用量は、粉末硫黄量に対し0.01~0.2%程度で十分である。これら活性剤は、むろん吸収液と共に循環系内を循環するか、前記粉末硫黄は実施例に示す通り循環せず、その置かれた循環系内に存在する。」
(3)第2頁左下欄8行~第3頁右上欄2行
「実施例
市販粉末硫黄(純度99.9%、粒度200メツシユパス)1200gに対し、界面活性剤ポリオキシエチレンアルキルサルフエートソーダ塩0.1gおよび水2lを加えてスラリー状となして、これを第1図中間タンク(8)に移し、更に水10lを加えて、これを吸収液とし、管路(9)-ポンプ(10)-管路(11)-流量計(12’)-管路(6)-吸収塔(4)-管路(7)-中間タンク(8)へと、吸収液流量0.15m3/時の割合で循環した。なお吸収塔としては10mmφ×12mmのガラスラツシヒリング充填塔を用いた。
他方、粗コークス炉ガス(G1)を管路(1)-ブロワー(2)-管路(3)-流量計(12)-管路(3’)-吸収塔(4)へ導入し、前記吸収液と5m3/時の割合で向流接触させたのち、管路(5)を経て精製コークス炉ガス(G2)として導出した。
該接触前後のコークス炉ガスの組成は第1表の通りであつた。
[図:0001417436000002.jpg]
150時間向流接触運転を継続したが、その間、粉末硫黄は中間タンク(8)の下底に沈積したまゝの状態にあつて、吸収液に分散した状態で循環しているとは認められなかつた。そこで管路(7)の端末から吸収液を採取し、濾過したところ濾紙上に硫黄粉末の存在は検出できなかつた。
前記運転終了後、循環吸収液を採取分析したところ、その組成は第2表の通りであつた。
[図:0001417436000003.jpg]
また、中間タンク内に残存している粉末硫黄を濾取水洗乾燥せしめたところ300gであつた。
つぎに第2表組成の吸収液を常圧で約半量になるまで濃縮したところ、硫黄粒子か発生析出して来た。それはチオ硫酸の分解に基くものと認められた。そこで、これを濾去し、ついでその濾液をカラム法により活性炭で脱色したのち、80℃でシラツプ状になるまで減圧濃縮し、ついでシヤーレ上で蒸発乾固に至らしめた。
このものゝNH4SCN純度は93.8%、(NH4)2S2O35.20%で白色であった。
これを水に溶解して冷却し、再結晶せしめたところNH4SCN純度は98.5%であった。」
(4)第3頁左下欄第16行~右下欄第4行
「以上の通り、本発明方法によれば、殊更に加熱を用いることなく吸収液中に多硫化物を生成させることができ、また循環する吸収液には粉末硫黄が粒子として分散同伴しないので、吸収塔の閉塞などの心配がない。粉末硫黄は、実施例に示すように、むろん循環液中に可溶性な硫黄化合物として逐次溶出して行くので、循環液の抜取りと共にその減少分だけ、中間タンクなどの中へ補給するだけで長期連続運転ができる。」
(5)第1図
「
[図:0001417436000004.jpg]
」
2 甲2には、次の記載がある。
「【請求項1】
炭化水素及び金属化合物を含有する付着物を除去する方法において、比誘電率が12以上50以下であり、かつ双極子モーメントが2.5Debye以上である有機化合物を主成分とする洗浄剤にて洗浄し、次いで水にて洗浄することを特徴とする付着物除去方法。
【請求項2】
炭化水素及び金属化合物を含有する付着物を除去する方法において、比誘電率が12以上50以下であり、かつ双極子モーメントが2.5Debye以上である有機化合物を50重量%以上含み、水を5重量%以上50重量%未満含有する有機洗浄溶剤にて洗浄することを特徴とする付着物除去方法。
【請求項3】
石炭・石油及びそれらを原料として生成する炭化水素を、輸送及び/又は処理する装置における付着物の除去である請求項1又は2に記載の付着物除去方法。」
「【請求項9】
装置が、コークス炉ガス精製工程にあるナフタレン吸収塔である請求項3~8のいずれかに記載の付着物除去方法。」
「【0003】
特に、コークス炉ガス精製プラントにおいてガスを精製する工程において、ナフタリン吸収塔の汚れ付着物は大きな問題となっている。このナフタリン吸収塔内には、例えば吸収油とコークスガスとの接触を良くするための木格子等の充填物がありナフタリンの吸収効率を上げているが、ガス中の炭塵やタール分、無機物等と循環する吸収油から汚れが発生して充填物に付着堆積し、ガスの抵抗増大による操業上の問題が発生したり、抵抗増大に起因する吸収液の飛沫同伴が増加したりする。これにより後工程の熱交換器等の汚れによる熱効率の低下や抵抗増大を抑制するためにスチーミング実施等によるエネルギーロスが発生する。塔を開放して汚れを除去する事も可能ではあるが、臭気が強く、人が入って作業するには環境上好ましくない。また予備系列がない場合は簡単に止められないケースもある。
【0004】
このような汚れの洗浄方法としては、酸、アルカリ等の水系洗浄液や、界面活性剤を有効成分とする洗浄液を循環させて行う方法や、ウオータージェット等により物理的に剥離する方法が一般的である。しかしながら、酸、アルカリ等の水系洗浄液や界面活性剤を有効成分とする洗浄液では取り扱いに危険が伴うとともに、腐食性や廃水、廃液処理等の問題がある。また、ウオータージェット洗浄はジェット水が当たっても付着物がただ単に移動するだけで剥離できなかったり、作業そのものが危険であったりするため、必ずしも満足できるものではなかった。」
「【0020】
本発明における付着物としては、石炭・石油及びそれらを原料として生成する炭化水素を、輸送及び/又は処理する装置における付着物が挙げられる。具体的には、コークス炉から発生したコークスガスを原料とした炭化水素を輸送及び/又は処理する装置における付着物が挙げられ、更に具体的には、コークス炉ガス精製工程にあるナフタレン吸収塔内における付着物が挙げられる。」
「【0037】
該水含有有機洗浄溶剤は、上述の条件を満たす有機化合物と水以外の成分を含んでいてもよく、例えばアセトン等のケトン、エタノール等のアルコール、トリエチレングリコールジメチルエーテル等のエーテル等が挙げられる。
本発明の洗浄用剤(有機化合物を主成分とする洗浄剤、水を主成分とする洗浄剤、水含有有機洗浄溶剤 )には、ノニオン系界面活性剤、アニオン系界面活性剤、カチオン系界面活性剤等の界面活性剤や防錆剤等の添加物を必要に応じ併用することもできる。」
3 甲3の記載
甲3には次の記載がある。
(1)特許請求の範囲
「(1) 木炭、石炭およびピッチ類を乾留してえられる乾留ガスの精製プロセスにおいて使用される装置および部品に付着蓄積したタール状物質の洗浄に使用される洗浄用組成物として、下記A成分およびB成分とを含有することを特徴とするタール状物質洗浄用組成物。
A:炭素数8~20の鎖状第2級アルコールの1種または2種以上の混合物に酸化エチレンを3~20モル付加してえられた非イオン系界面活性剤のうちの少なくとも1種、
B:アルカリ金属の硫酸塩、炭酸塩、重炭酸塩、オルトケイ酸塩、メタケイ酸塩、ケイ酸塩、トリポリリン酸塩、ピロリン酸塩および炭素数3~4を有する不飽和カルボン酸のホモポリマーないしコポリマーで平均分子量300~15.000の塩よりなる群から選ばれた少くとも1種。」
(2)第1頁右下欄第9行~第4頁
「 本発明はタール状物質洗浄用組成物およびその使用法に関する。詳しく述べると本発明は、木炭、石炭またはピッチなどの乾留によってえられる乾留ガスの精製プロセスにおける、充填塔その他の装置に付着蓄積するタール状物質の洗浄除去に使用される洗浄用組成物およびその有効な使用方法に関する。
乾留ガスとくに石炭を乾留してえられる石炭ガスなどには、種々の炭化水素化合物、水素、窒素、一酸化炭素、硫化水素、アンモニア、シアンなどが含まれ、またタールを分離したのちも、微量のタール物質が混入し、ガス精製プロセスにおける充填塔その他の装置内に該残留タールが強固に付着し、蓄積しこれら装置を閉塞しその除去には多大の費用が必要となっている。
たとえば、コークス炉ガス中の硫化水素を湿式処理して脱硫するプロセスとして、タカハツクス法、フマツクス法、ストレツトフオード法などが知られ、これらは、ガス中の硫化水素をアルカリ性脱硫液に吸収させ、レドックス触媒の存在下分子状酸素で吸収された水硫化イオン(HS-)を元素状イオウとかチオ硫酸イオンなどの水溶性硫黄化合物にまで酸化しもってコークス炉ガスを脱硫精製するプロセスであるが、吸収塔での吸収操作を通常は充填塔で行なっている。充填材としては、一般にプラスチック製の充填材(たとえば「テラレット」として知られるものなど)あるいは磁製の充填材(たとえばラシヒリングなど)さらに木製またはプラスチック製の格子などが使用されている。
コークス炉ガス中のタール状物質は通常は電気集塵機などにより大部分は除去され、50~200mg/Nm3程度の含有量に減少されてはいるが、吸収操作としてこのような充填材部にコークス炉ガスが吸収液とともに長期に接触することにより、タール状物質が固着し、次第に蓄積していく傾向があり、ついには閉塞を起し、吸収操作を不能にしてしまうほどの弊害をひき起こすことになる。
同様のことが、上述の乾留ガスの精製プロセスにおいて観察されいずれも固着したタール状物質の除去に多大のコストを消費しているのが現状である。したがって、このようにして生成したタール状物質付着充填材は、充填塔より取り出し、温水洗浄やら水蒸気洗浄などあるいはタール状物質を溶解する溶剤による洗浄などの方策がとられる。しかしながら、これらの方策は洗浄方法としてあるものは決して十分に洗浄除去しうるものでもなく、あるいは設備およびその運転操作が危険であったりして、コストはきわめて高くつくことを避けえないものである。
本発明はしたがって、タール状物質の洗浄力にすぐれた洗浄剤組成物を提供することを目的とするものである。さらに上述の如く強固に付着蓄積したタール状物質を工業的に有利に洗浄除去する洗浄方法をも提供するものである。そのほか本発明の目的とするところは以下の記述によって明らかにされる。本発明は、下記A成分およびB成分を含有してなるタール状物質洗浄組成物である。
A:炭素数8~20の鎖状第2級アルコールの1種または2種以上の混合物に酸化エチレンを3~20モル付加してえられた非イオン系界面活性剤のうちの少なくとも1種、
B:アルカリ金属の硫酸塩、炭酸塩、重炭酸塩、オルトケイ酸塩、メタケイ酸塩、ケイ酸塩、トリポリリン酸塩、ピロリン酸塩および炭素数3~4を有する不飽和カルボン酸のホモポリマーないしコポリマーで平均分子量300~15,000の塩よりなる群から選ばれた少くとも1種。
上記組成物中A成分は、非イオン系界面活性剤として従来から知られていたものであるが、タール状物質を湿潤し、ケン化したり、乳化したり、分散させるためには、特定された範囲の物性であることが必要であることが判明した。またB成分は、A成分の洗浄作用を促進するのに有用なもので、一般にビルダーとして公知のものの中から選ばれたものであるが、とくに炭素数3~4の不飽和カルボン酸のホモポリマーまたはコポリマーで平均分子量300~15,000のアルカリ金属塩のものが分散能、キレート化能の点ですぐれた性能を有し有用である。
本発明は、また上記洗浄用組成物の有効な使用方法、すなわちタール状物質の洗浄除去方法を提供する。洗浄用組成物は、好適には水溶液の形で使用される。除去されるべきタール状物質量をあらかじめ想定し、その量に対して上述A成分は、0.03~5重量%、好ましくは0.1~2重量%、B成分は0.05~5重量%、好ましくは0.05~2重量%の範囲で含まれるよう水溶液として調製される。そして洗浄液は、洗浄時にそのPHが10以上、とくに好ましくは12以上のアルカリ性とする必要がある。洗浄液のPH調整用には苛性ソーダや苛性カリなどのアルカリ金属水酸化物が有利に使用される。洗浄液中のA成分は0.1~10重量%、B成分は(0.05~10重量%の濃度で使用されるとよい。洗浄液は、30~100℃、好ましくは50~70℃に加温されて用いられる。加熱により充填材に強固に付着したタール状物質の湿潤、ケン化、乳化、分散作用が高まり、洗浄効果が高められるからである。洗浄方法としては、タール状物質の固着した充填材を塔内よりとり出し、加温された洗浄液中に1~10時間液循環下浸漬処理することによって洗浄してもよいし、塔内に充填したまま必要量の洗浄液を供給循環してタール状物質の洗浄除去操作を遂行してもよい。
以下、実施例および比較例を示し、本発明をさらに詳しく説明する。
実施例 1
ポリプロピレン製テラレット(商品名)を吸収塔の充填材として使用し、硫化水素、シアン化水素、アンモニアなどのほかタール状物質約60mg/m3を含むコークス炉ガスのタカハツクス法脱硫プロセスを運転したところ、次第に塔内ガス圧損失の増大が生起し、吸収操作が困難になったので、停止し検査したところ充填材にタール状物質の固着蓄積が認められた。
固着したタール状物質は、テラレット表面を覆いテラレット充填層の空隙部の閉塞も起していた。このテラレットを吸収塔よりとり出し洗浄処理に供した。
加熱器を備えた20l容量ビーカーにタール付着したテラレット(外径95mmで清浄なものは平均25gであった)を入れ、攪拌下洗浄液1.0lにて60分間洗浄しついで水洗処理した。洗浄条件および結果を第1表に示す。洗浄処理により除去されたタール状物質の量および、洗浄処理したテラレットの浄化度は、目視により判断し、第1表に示した。また、比較のための洗浄処理の結果も同じく第1表に示す。
[図:0001417436000005.jpg]
」
4 甲4の記載
甲4には次の記載がある。
(1)特許請求の範囲
「(14) 0.3乃至0.6の開口比Fcを有する漏れ棚を少くとも1段以上装填して成る気液接触装置の上部より処理液を被処理ガスの流量G(kg/m2・hr)に対する該処理液の流量L(kg/m2・hr)の比L/Gが1.5以上であり、しかも処理液の流量Lが6×104乃至11×104kg/m2・hrであるような割合で供給すると共に該接触装置の下部より前記被処理ガスを装置内に於けるガス空塔速度Ugが以下に定義するUgmの関数である、750.9L-0.57Ugm(m/sec)から10(m/sec)の範囲となるように導入することによって、被処理ガスと処理液とを向流的に気液接触させることを特徴とする、ガス中に含有する特定成分の湿式除去法。」
「(21) 前記の処理液がガス中に含有する特定成分を化学的に吸収するための吸収液であることを特徴とする特許請求の範囲第14項記載のガス中に含有する特定成分の湿式除去法。」
「(24)前記の吸収液がコークス炉ガス中に含有するアンモニアの吸収に用いられる、硫酸、リン酸、石炭酸、酢酸、蓚酸及び酸性リン酸アンモニウムの群から選ばれた吸収剤の水溶液であることを特徴とする特許請求の範囲第21項記載のガス中に含有する特定成分の除去法。
(25) 前記の処理液がガス中に含有する特定成分を物理的に除去するための洗浄液であることを特徴とする特許請求の範囲第14項記載のガス中に含有する特定成分の除去法。
(26) 前記の洗浄液が排ガス中に含有する煤塵などの固形成分を洗浄するための水もしくは界面活性剤を含む水であることを特徴とする特許請求の範囲第25項記載のガス中に含有する特定成分の除去法。」
(2)第5頁左下欄第2~8行
「本発明はガス中に含有する特定成分の湿式除去法に係り、更に拝しくは堰及び溢流部などを有していない、多孔板もしくは格子板から成る漏れ棚を少くとも1段以上、装置内に装填した気液接触装置を用いることによつて、ガス中に含有する特定成分、即ちガス中に含有する特定ガス成分や特定固形成分等を湿式的に除去する方法に関する。」
(3)第8頁右上欄第3~16行
「又、コークス炉ガス中に含有する硫化水素等の酸性ガス成分を除去する場合にはアンモニア水が用いられ、更に該ガス中に含有するアンモニアを除去する場合には硫酸、リン酸、石炭酸、酢酸、蓚酸及び酸性リン酸アンモニウムの群から選ばれた吸収剤の水溶液等が吸収液として用いられる。一方、排ガス中に含有する煤塵などの固形成分を除去する場合には水もしくは界面活性剤を含む水が洗浄液として用いられるが該ガス中に含有する硫黄酸化物及び/又は窒素酸化物を除去するために用いられた前記の如き吸収液も所謂洗浄液として作用するのでかかる特定成分を同時に除去するような場合は洗浄液として前記の水を必らずしも使用しなければならないと云うことではない。」
5 甲5の記載
甲5には次の記載がある。
(1)特許請求の範囲
「 煙室天井を横切ってパイプを並設し、上記パイプより鎖状体を煙室に千鳥型に垂下連設し、且上記パイプの鎖状体取付部に小孔を設けて、パイプ小孔より鎖状体に水又は界面活性剤水溶液を供給流下せしめ、煙室ガス中の煤塵を流下する水又は界面活性剤水溶液に吸収除去せしめる事を特徴とする煤塵除去装置。」
(2)第1頁左下欄第12~14行
「 本発明はボイラー、コークス炉等より排出される煤煙に含まれる煤塵の一次的除去装置に係るものである。」
(3)第2頁左上欄第1~8行
「 即ち、鎖状体を流下する水又は界面活性剤水溶液(以下水という。)は鎖状体の1個1個に水膜を形成しつつ流下せしめる事が出来る。特に界面活性剤水溶液を用いた場合には煙室内ガスは通常約5~20m/秒程度の流速を持ち、煙室通過中に静圧の低下が生じ、此の微小の圧力差によって、水膜体は泡を形成し、更によく粉塵の除去を行なう事が出来る。」
(4)第1~3図
「
[図:0001417436000006.jpg]
」
6 甲6には、次の記載がある。
「【0018】
クーラー6で冷却されたガスは、次いで脱軽油塔7にかけられ、主に粗製ベンゼン、脱ナフタリン塔3で除去しきれなかったナフタリンが吸収除去される。脱軽油塔としては、充填塔や空塔を用い、吸収液を塔上部から降らせ、ガスは下から上に流し、向流接触させる。経済性の面から、吸収液はリサイクルして使用することが好ましく、具体的には、図3に示す様に、脱軽油塔の塔頂部から降らせ、塔底部に溜まった吸収液を脱軽油塔側部から抜き出し、塔下段部へ循環させることにより吸収液を吸収塔吸収部に循環させればよい。
【0019】
吸収液としては、粗製ベンゼン、ナフタリンを吸収しうる液体であればよく、具体的にはタール蒸留で得られた吸収油(洗浄油)が挙げられる。
脱軽油塔7におけるガスの流量は設備能力によって異なるが、通常5万~25万Nm3/hrである。また、吸収液装入量(脱軽油塔へ流入してくる軽油吸収液の量)とガスの流量比としては、通常1kg/Nm3以上、好ましくは2kg/Nm3以上である。」
7 甲9には、次の記載がある。
(1)第1頁左下欄第13行~右下欄第9行
「コークス炉ガス中のナフタリン除去方法としては海水による直接冷却、または、ナフタリンラバーを用いて吸収油により溶解する方法が従来知られている。しかしながら、前者の方法では海水中に析出するナフタリンの処理に費用がかかり、またシアン、フエノール等の有害物質が排水中に含有されそのまま海へ廃棄されるため公害の原因となる。これを防ぐために後者の方法を用いる場合ベンゾール回収設備のスリッパーからサイドカットとしてナフタリンを抜き出すが、略々同量の吸収油が抜き出されるため吸収油の補給を必要とし、ベンゾール回収を中止した場合もスリッパーの運転を必要とし非常に不経済であるばかりか、吸収油で除去されないナフタリンが冷却水中に析出し、循環用ポンプ冷却塔の閉塞による効率低下をきたす他設備の腐食が激しい塔の欠点があった。」
(2)第2頁左上欄第2~18行
「次にこの発明方法によるナフタリン除去工程を第2図及び実施例を参照して更に詳細に説明する。図において、(1)は洗浄冷却器であって、該冷却器(1)の下部より導入されたコークス炉ガスは冷却器(1)内を上昇する。この上昇ガスは冷却器(1)内上部からの冷却水によって冷却され、同時にガス中のナフタリンが析出されて冷却水とともに洗浄冷却器(1)底部よりシールポット(2)へ排水される。なお、洗浄されたコークス炉ガスは冷却器(1)の上部より次の処理工程へと送られる。
シールポット(2)に溜ったナフタリンを含有する排水は排水圧送ポンプ(8)にてコールタールまたは重油等の高沸点炭化水素を充たした分離槽(7)へ導入される。分離槽(7)の底部から導入された含ナフタリン排水は必要によって攪拌され、ナフタリンはコールタールに溶解する。」
第9 当審の判断
1 無効理由1(進歩性欠如)についての判断
(1)甲1を主たる引用文献とする場合
ア 甲1に記載された発明
甲1の特許請求の範囲の記載を参酌しつつ、実施例に着目すると、甲1には、以下の発明が記載されていると認められる。
(甲1A発明)
「シアン化水素と硫化水素およびアンモニアを含むガスに多硫化物を含有する吸収液を循環接触せしめることにより、シアン化水素を吸収除去し、チオシアン酸アンモニヤとして固定するシアン化水素除去方法において、界面活性剤を含有した吸収液を、粉末硫黄を存置させた循環系内に循環させる、チオシアン酸アンモニウムの製造方法に使用するスラリー状物であって、
前記シアン化水素と硫化水素およびアンモニアを含むガスは、粗コークス炉ガスであり、粗コークス炉ガスは、吸収塔へ導入され、吸収液と向流接触されたのち、精製コークス炉ガスとして導出されるものであり、
前記吸収液は、市販粉末硫黄(純度99.9%、粒度200メツシユパス)1200gに対し、界面活性剤ポリオキシエチレンアルキルサルフエートソーダ塩0.1gおよび水2lを加えたスラリー状物に、更に水10lを加えたものであるスラリー状物。」
(甲1B発明)
「シアン化水素と硫化水素およびアンモニアを含むガスに多硫化物を含有する吸収液を循環接触せしめることにより、シアン化水素を吸収除去し、チオシアン酸アンモニヤとして固定するシアン化水素除去方法において、界面活性剤を含有した吸収液を、粉末硫黄を存置させた循環系内に循環させるチオシアン酸アンモニウムの製造方法であって、
前記シアン化水素と硫化水素およびアンモニアを含むガスは、粗コークス炉ガスであり、粗コークス炉ガスは、吸収塔へ導入され、吸収液と向流接触されたのち、精製コークス炉ガスとして導出されるものであり、
前記吸収液は、市販粉末硫黄(純度99.9%、粒度200メツシユパス)1200gに対し、界面活性剤ポリオキシエチレンアルキルサルフエートソーダ塩0.1gおよび水2lを加えてスラリー状となして、更に水10lを加えたものである、方法」
イ 対比・判断
(ア)本件発明1について
a 対比
甲1A発明と本件発明1を対比する。
甲1A発明において、「吸収液」は、「市販粉末硫黄(純度99.9%、粒度200メツシユパス)1200gに対し、界面活性剤ポリオキシエチレンアルキルサルフエートソーダ塩0.1gおよび水2lを加えたスラリー状物に、更に水10lを加えたもの」であり、「粗コークス炉ガス」は、「吸収塔へ導入され、吸収液と向流接触されたのち、精製コークス炉ガスとして導出されるもの」であるから、甲1A発明の「水10l」は、本件発明1の「コークス炉ガス精製に使用するスクラバー水」に相当する。
また、甲1A発明の「界面活性剤ポリオキシエチレンアルキルサルフエートソーダ塩」は、水溶性のアニオン界面活性剤であるから、本件発明1の「水溶性の非イオン界面活性剤及びアニオン界面活性剤からなる群から選択される少なくとも一つの界面活性剤」に相当する。
また、甲1A発明の「スラリー状物」は、「市販粉末硫黄(純度99.9%、粒度200メツシユパス)1200gに対し、界面活性剤ポリオキシエチレンアルキルサルフエートソーダ塩0.1gおよび水2lを加えた」ものであり、「水10l」を加えて、全体として「吸収液」を構成するものであるから、本件発明1の「コークス炉ガス精製に使用するスクラバー水に添加」する「組成物」に相当する。
そうすると、本件発明1と甲1A発明は、以下の一致点及び相違点を有する。
<一致点>
「コークス炉ガス精製に使用するスクラバー水に添加する組成物であって、
水溶性の非イオン界面活性剤及びアニオン界面活性剤からなる群から選択される少なくとも一つの界面活性剤を含む、組成物。」
<相違点1A-1>
スクラバー水について、本件発明1は、「スクラバー水(但し、スクラバー水の循環系内に粉末硫黄が存置され、かつ、前記粉末硫黄が循環せず置かれた循環系内に存在するものを除く)」と所定の態様を除くと特定するのに対し、甲1A発明は、そのような特定がされていない点。
<相違点1A-2>
組成物について、本件発明1は、「該スクラバー水が接する部分におけるタール汚れの付着を抑制するための」組成物であると特定するのに対し、甲1A発明は、そのような特定がされていない点。
b 判断
<相違点1A-1>について検討する。
甲1A発明は、「チオシアン酸アンモニウムの製造」のために、「界面活性剤を含有した吸収液を、粉末硫黄を存置させた循環系内に循環させる」ことを特定するものである。
この特定について、甲1の第2頁左上欄第19行~右上欄第7行に「本発明は、原料源として粗コークス炉ガスのように、シアン化水素、硫化水素およびアンモニアを同時に含有するガスを用い、既述の多硫化物含有吸収液と循環接触させるに当り、硫黄源としては、これを粉末硫黄とし、これを界面活性剤を含有した吸収液の循環系内に存置させることによって、二硫化炭素を原料とした加熱加圧法製品に劣らないチオシアン酸アンモニウムを製造するようにしたものである。」と記載されており、粉末硫黄を界面活性剤を含有した吸収液の循環系内に存置させることにより、従来の方法に劣らない品質であるチオシアン酸アンモニウムを製造するものである。
同様に、甲1の第2頁左下欄第4~7行に「これら活性剤は、むろん吸収液と共に循環系内を循環するか、前記粉末硫黄は実施例に示す通り循環せず、その置かれた循環系内に存在する。」、第2頁右下欄下から第3~8行に「150時間向流接触運転を継続したが、その間、粉末硫黄は中間タンク(8)の下底に沈積したまゝの状態にあつて、吸収液に分散した状態で循環しているとは認められなかつた。そこで管路(7)の端末から吸収液を採取し、濾過したところ濾紙上に硫黄粉末の存在は検出できなかつた。」と記載されており、粉末硫黄は循環系内を循環するものではなく、また第3頁左下欄第16~20行に「以上の通り、本発明方法によれば、殊更に加熱を用いることなく吸収液中に多硫化物を生成させることができ、また循環する吸収液には粉末硫黄が粒子として分散同伴しないので、吸収塔の閉塞などの心配がない。」と記載されており、粉末硫黄が循環系内を循環しないことにより吸収塔の閉塞などの心配がないものである。
そうすると、甲1A発明において、循環系内に粉末硫黄が存置しないようにすることは、従来の方法に劣らない品質であるチオシアン酸アンモニウムを製造することを不可能にするものであり、また粉末硫黄を循環系内に循環させることは、吸収塔の閉塞の恐れを生じさせるものであるから、甲1A発明において、「スクラバー水の循環系内に粉末硫黄が存置され、かつ、前記粉末硫黄が循環せず置かれた循環系内に存在するもの」ではない構成を採用することには阻害要因があるといえる。
してみると、当該「スクラバー水の循環系内に粉末硫黄が存置され、かつ、前記粉末硫黄が循環せず置かれた循環系内に存在するもの」が除かれた本件発明1は、もはや甲1A発明から当業者が容易になし得たものとはいえない。
よって、相違点1A-2について検討するまでもなく、本件発明1は、甲1に記載された発明と甲1~3に記載された事項に基づいて、当業者が容易になし得たものであるとはいえない。
c 請求人の主張
請求人は、弁駁書において、甲1の第2頁左下欄第9行目~下から4行目に、「市販粉末硫黄(純度99.9%、粒度200メッシュパス)1200gに対し、ポリオキシエチレンアルキルサルフェートソーダ塩0.1gおよび水2lを加えてスラリー状となして、これを第1図中間タンク(8)に移し、更に水10lを加えて、これを吸収液とし、管路(9)-ポンプ(10)-管路(11)-流量計(12’)-管路(6)-吸収塔(4)-管路(7)-中間タンク(8)へと、吸収液流量0.15m3/時の割合で循環した。」との記載があることから、「粉末硫黄は吸収液に分散した状態で循環系内を循環しているので、甲第1号証には、「スクラバー水(粉末硫黄が循環する循環系内に存在するもの)」が記載されているといえる」と主張している。
しかしながら、甲1の第2頁右下欄下から8~3行には、「150時間向流接触運転を継続したが、その間、粉末硫黄は中間タンク(8)の下底に沈積したまゝの状態にあつて、吸収液に分散した状態で循環しているとは認められなかつた。そこで管路(7)の端末から吸収液を採取し、濾過したところ濾紙上に硫黄粉末の存在は検出できなかつた。」と記載されているから、粉末硫黄は吸収液に分散した状態で循環系内を循環しているとは認められない。よって、請求人の前記主張は採用できない。
(イ)本件発明3、4について
本件発明3、4は、本件発明1をさらに限定した発明であり、本件発明1は、甲1に記載された発明と甲1~3に記載された事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものでないのであるから、本件発明3、4も、甲1に記載された発明と甲1~3に記載された事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものでないことは明らかである。
(ウ)本件発明8について
a 対比
甲1B発明と本件発明8を対比する。
甲1B発明の「吸収液」は、「市販粉末硫黄(純度99.9%、粒度200メツシユパス)1200gに対し、界面活性剤ポリオキシエチレンアルキルサルフエートソーダ塩0.1gおよび水2lを加えてスラリー状物となし」たものに、「水10lを加えた」ものである。また「粗コークス炉ガス」は、「吸収液」と向流接触した後に「精製コークス炉ガス」として導出されることが記載されている(第2頁左下欄第19行~右上欄第3行)。よって、甲1B発明の「吸収液」は、本件発明8の「コークス炉ガス精製設備で使用されるスクラバー水」に相当する。
また、甲1B発明の「界面活性剤ポリオキシエチレンアルキルサルフエートソーダ塩」は、水溶性のアニオン界面活性剤であるから、本件発明8の「水溶性の非イオン界面活性剤及びアニオン界面活性剤からなる群から選択される少なくとも一つ」に相当する。
そうすると、本件発明8と甲1B発明は、以下の点で一致する。
<一致点>
「コークス炉ガス精製設備で使用されるスクラバー水を用いる方法であって、前記スクラバー水に水溶性の非イオン界面活性剤及びアニオン界面活性剤からなる群から選択される少なくとも一つを含有させることを含む、方法。」
<相違点1B-1>
スクラバー水について、本件発明8は、「スクラバー水(但し、スクラバー水の循環系内に粉末硫黄が存置され、かつ、前記粉末硫黄が循環せず置かれた循環系内に存在するものを除く)」と所定の態様を除くと特定するのに対し、甲1B発明は、そのような特定がされていない点。
<相違点1B-2>
方法について、本件発明8は、スクラバー水が接触する部分における「タール汚れの付着を抑制する」方法であると特定するのに対し、甲1B発明は、そのような特定がされていない点。
b 判断
<相違点1B-1>について
前記「<相違点1A-1>について」において述べた理由と同様の理由により、相違点1B-1についても、当業者が容易になし得たものとはいえない。
c 請求人の主張
請求人は、弁駁書において、甲第1号証には、「スクラバー水(粉末硫黄が循環する循環系内に存在するもの)」が記載されているといえる」と主張しているが、前記(ア)cで検討したとおり、請求人の主張は採用できない。
ウ 小括
以上のとおり、本件発明1、3、4及び8は、甲1に記載された発明と甲1~3に記載された事項に基づいて、当業者が容易になし得たものであるとはいえない。
(2)甲4を主たる引用文献とする場合
ア 甲4に記載された発明
甲4の請求項14を引用する請求項21を引用する請求項24に着目すると、甲4には、以下の発明が記載されていると認められる。
(甲4A発明)
「0.3乃至0.6の開口比Fcを有する漏れ棚を少くとも1段以上装填して成る気液接触装置の上部より処理液を被処理ガスの流量G(kg/m2・hr)に対する該処理液の流量L(kg/m2・hr)の比L/Gが1.5以上であり、しかも処理液の流量Lが6×104乃至11×104kg/m2・hrであるような割合で供給すると共に該接触装置の下部より前記被処理ガスを装置内に於けるガス空塔速度Ugが以下に定義するUgmの関数である、750.9L-0.57Ugm(m/sec)から10(m/sec)の範囲となるように導入することによつて、被処理ガスと処理液とを向流的に気液接触させる、ガス中に含有する特定成分の湿式除去法に用いられる吸収剤であって、前記の処理液がガス中に含有する特定成分を化学的に吸収するための吸収液であり、前記の吸収液がコークス炉ガス中に含有するアンモニアの吸収に用いられる、硫酸、リン酸、石炭酸、酢酸、蓚酸及び酸性リン酸アンモニウムの群から選ばれた吸収剤の水溶液である、ガス中に含有する特定成分の除去法に用いられる吸収剤。」
(甲4B発明)
「0.3乃至0.6の開口比Fcを有する漏れ棚を少くとも1段以上装填して成る気液接触装置の上部より処理液を被処理ガスの流量G(kg/m2・hr)に対する該処理液の流量L(kg/m2・hr)の比L/Gが1.5以上であり、しかも処理液の流量Lが6×104乃至11×104kg/m2・hrであるような割合で供給すると共に該接触装置の下部より前記被処理ガスを装置内に於けるガス空塔速度Ugが以下に定義するUgmの関数である、750.9L-0.57Ugm(m/sec)から10(m/sec)の範囲となるように導入することによつて、被処理ガスと処理液とを向流的に気液接触させる、ガス中に含有する特定成分の湿式除去法において、前記の処理液がガス中に含有する特定成分を化学的に吸収するための吸収液であり、前記の吸収液がコークス炉ガス中に含有するアンモニアの吸収に用いられる、硫酸、リン酸、石炭酸、酢酸、蓚酸及び酸性リン酸アンモニウムの群から選ばれた吸収剤の水溶液である、ガス中に含有する特定成分の除去法。」
イ 対比・判断
(ア)本件発明1について
a 対比
甲4A発明と本件発明1を対比する。
甲4A発明の「処理液」は、「被処理ガスと処理液とを向流的に気液接触させる、ガス中に含有する特定成分の湿式除去法」において使用される、「コークス炉ガス中に含有するアンモニアの吸収に用いられる」「吸収剤の水溶液」であり、粉末硫黄を含むものではないから、処理液における「水」は、本件発明1の「コークス炉ガス精製に使用するスクラバー水(但し、スクラバー水の循環系内に粉末硫黄が存置され、かつ、前記粉末硫黄が循環せず置かれた循環系内に存在するものを除く)」に相当し、甲4A発明の「吸収剤」は、本件発明1の「組成物」に相当する。
そうすると、本件発明1と甲4A発明は、以下の一致点及び相違点を有する。
<一致点>
「コークス炉ガス精製に使用するスクラバー水(但し、スクラバー水の循環系内に粉末硫黄が存置され、かつ、前記粉末硫黄が循環せず置かれた循環系内に存在するものを除く)に添加する組成物。」
<相違点4A-1>
組成物について、本件発明1は、「該スクラバー水が接する部分におけるタール汚れの付着を抑制するための」組成物であると特定するのに対し、甲4A発明は、そのような特定がされていない点。
<相違点4A-2>
組成物について、本件発明1は、「水溶性の非イオン界面活性剤及びアニオン界面活性剤からなる群から選択される少なくとも一つの界面活性剤を含む」と特定するのに対し、甲4A発明は、そのような特定がされていない点。
b 判断
<相違点4A-1>及び<相違点4A-2>について検討する。
甲4の第8頁右上欄第3~16行には、「又、コークス炉ガス中に含有する硫化水素等の酸性ガス成分を除去する場合にはアンモニア水が用いられ、更に該ガス中に含有するアンモニアを除去する場合には硫酸、リン酸、石炭酸、酢酸、蓚酸及び酸性リン酸アンモニウムの群から選ばれた吸収剤の水溶液等が吸収液として用いられる。一方、排ガス中に含有する煤塵などの固形成分を除去する場合には水もしくは界面活性剤を含む水が洗浄液として用いられるが該ガス中に含有する硫黄酸化物及び/又は窒素酸化物を除去するために用いられた前記の如き吸収液も所謂洗浄液として作用するのでかかる特定成分を同時に除去するような場合は洗浄液として前記の水を必らずしも使用しなければならないと云うことではない。」と記載されているが、「コークス炉ガス」の吸収液として「タール汚れの付着を抑制するため」に「界面活性剤を含む水」を用いることは記載されておらず、さらに界面活性剤の種類についても記載されていない。
この界面活性剤を用いる点について、甲2の【0003】、【0020】、【0032】、【0037】には、「タール分」等の「コークスガスを原料とした炭化水素を輸送及び/又は処理する装置における付着物」を洗浄するための特定の洗浄溶剤に、「ノニオン系界面活性剤、アニオン系界面活性剤カチオン系界面活性剤等の界面活性剤や防錆剤等の添加物を必要に応じ併用することもできる。」ことが記載されている。
また、甲3の請求項1、第2頁左上欄第5行~第3頁左上欄第14行には、コークス炉ガス中のタール状物質が吸収塔内の充填材に固着した際の洗浄液として、「A:炭素数8~20の鎖状第2級アルコールの1種または2種以上の混合物に酸化エチレンを3~20モル付加してえられた非イオン系界面活性剤のうちの少なくとも1種」及び「B:アルカリ金属の硫酸塩、炭酸塩、重炭酸塩、オルトケイ酸塩、メタケイ酸塩、ケイ酸塩、トリポリリン酸塩、ピロリン酸塩および炭素数3~4を有する不飽和カルボン酸のホモポリマーないしコポリマーで平均分子量300~15.000の塩よりなる群から選ばれた少くとも1種」を含む水溶液を用いることが記載されている。
しかしながら、甲2、3に記載の技術は、いずれもコークス炉ガス中のタール状物質が装置に固着した際に用いる洗浄液に界面活性剤を含ませるものであり、コークス炉ガスのスクラバー水に界面活性剤を添加するものではなく、タール汚れの付着を抑制するためのものでもないから、甲4A発明において、甲2、3記載の技術を考慮しても、タール汚れの付着を抑制するため、吸収液中に甲2、3記載の界面活性剤を添加する動機付けがあるとはいえない。
そして、本件発明1は、「コークス炉ガス精製に使用するスクラバー水」に「水溶性の非イオン界面活性剤及びアニオン界面活性剤からなる群から選択される少なくとも一つの界面活性剤」を添加することで、「スクラバー水が接する部分におけるタール汚れの付着を抑制する」効果を奏するものであり、当該効果は甲2~4のいずれにも記載されておらず、当業者が予測し得たものとはいえない。
したがって、甲4A発明において、吸収液が接する部分における「タール汚れの付着を抑制するため」、吸収液に「水溶性の非イオン界面活性剤及びアニオン界面活性剤からなる群から選択される少なくとも一つの界面活性剤」を含ませることは、当業者が容易になし得たこととはいえない。
c 請求人の主張
請求人は審判請求書(第28~29頁)において、甲第4号証記載の発明において、界面活性剤として、甲第2号証に記載の付着物除去効果の優れた界面活性剤又は甲第3号証に記載のタール状物質の洗浄力に優れた界面活性剤を採用することに困難性はない旨を主張している。
しかしながら、前記bで検討したとおり、甲2、3に記載の技術は、いずれもコークス炉ガスのスクラバー水に界面活性剤を添加するものではないから、甲4記載の発明において、コークス炉ガスの処理液に、甲2、3記載の界面活性剤を採用する動機付けがあるとはいえない。そして、本件発明1は、「コークス炉ガス精製に使用するスクラバー水」に「水溶性の非イオン界面活性剤及びアニオン界面活性剤からなる群から選択される少なくとも一つの界面活性剤」を添加することで、「スクラバー水が接する部分におけるタール汚れの付着を抑制する」という顕著な効果を奏するものである。よって、前記請求人の主張は採用できない。
また請求人は口頭審理陳述要領書(第2頁)において、甲1、4、5発明に界面活性剤の種類の限定がないという被請求人の主張に対する反論として、少なくとも甲1には本件発明1の特定種類の界面活性剤が開示されているため、被請求人の主張は誤りである旨を主張している。
しかしながら、当該主張は、甲1を主たる引用文献とする場合についての主張であり、甲4を主たる引用文献とする場合の主張としては採用できない。
(イ)本件発明3、4について
本件発明3、4は、本件発明1をさらに限定した発明であり、本件発明1は、甲4に記載された発明と甲2~4に記載された事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものでないのであるから、本件発明3、4も、甲4に記載された発明と甲2~4に記載された事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものでないことは明らかである。
(ウ)本件発明8について
a 対比
甲4B発明と本件発明8を対比する。
甲4B発明の「処理液」は、「被処理ガスと処理液とを向流的に気液接触させる、ガス中に含有する特定成分の湿式除去法」において使用される、「コークス炉ガス中に含有するアンモニアの吸収に用いられる」「吸収剤の水溶液」であり、粉末硫黄を含むものではないから、本件発明8の「コークス炉ガス精製設備で使用されるスクラバー水(但し、スクラバー水の循環系内に粉末硫黄が存置され、かつ、前記粉末硫黄が循環せず置かれた循環系内に存在するものを除く)」に相当する。
そうすると、本件発明8と甲4B発明は、以下の一致点及び相違点を有する。
<一致点>
「コークス炉ガス精製設備で使用されるスクラバー水(但し、スクラバー水の循環系内に粉末硫黄が存置され、かつ、前記粉末硫黄が循環せず置かれた循環系内に存在するものを除く)が接触する部分を有する方法」
<相違点4B-1>
方法について、本件発明8は、スクラバー水が接触する部分における「タール汚れの付着を抑制する」方法であると特定するのに対し、甲4B発明は、そのような特定がされていない点。
<相違点4B-2>
スクラバー水について、本件発明8は、「前記スクラバー水に水溶性の非イオン界面活性剤及びアニオン界面活性剤からなる群から選択される少なくとも一つを含有させることを含む」と特定するのに対し、甲4B発明は、そのような特定がされていない点。
b 判断
<相違点4B-1>及び<相違点4B-2>について
前記「<相違点4A-1>及び<相違点4A-2>について」において述べた理由と同様の理由により、<相違点4B-1>及び<相違点4B-2>についても、当業者が容易になし得たものとはいえない。
c 請求人の主張
前記「(ア)本件発明1について」の「c 請求人の主張」において述べた理由と同様の理由により、請求人の主張は採用できない。
ウ 小括
以上のとおり、本件発明1、3、4、8は、甲4に記載された発明と甲2~4に記載された事項に基づいて、当業者が容易になし得たものであるとはいえない。
(3)甲5を主たる引用文献とする場合
ア 甲5に記載された発明
甲5の第1頁左下欄第12~14行を参照して、特許請求の範囲に着目すると、甲5には、以下の発明が記載されていると認められる。
(甲5A発明)
「煙室天井を横切ってパイプを並設し、上記パイプより鎖状体を煙室に千鳥型に垂下連設し、且上記パイプの鎖状体取付部に小孔を設けて、パイプ小孔より鎖状体に水又は界面活性剤水溶液を供給流下せしめ、煙室ガス中の煤塵を流下する水又は界面活性剤水溶液に吸収除去せしめる、煤塵除去方法に用いられる界面活性剤であって、ボイラー、コークス炉等より排出される煤煙に含まれる煤塵の一次的除去方法に用いられる、界面活性剤。」
(甲5B発明)
「煙室天井を横切ってパイプを並設し、上記パイプより鎖状体を煙室に千鳥型に垂下連設し、且上記パイプの鎖状体取付部に小孔を設けて、パイプ小孔より鎖状体に水又は界面活性剤水溶液を供給流下せしめ、煙室ガス中の煤塵を流下する水又は界面活性剤水溶液に吸収除去せしめる、煤塵除去方法であって、ボイラー、コークス炉等より排出される煤煙に含まれる煤塵の一次的除去方法。」
イ 対比・判断
(ア)本件発明1について
a 対比
甲5A発明と本件発明1を対比する。
甲5A発明の「界面活性剤水溶液」は、「コークス炉等より排出される煤煙に含まれる煤塵の一次的除去方法に用いられる」ものであり、粉末硫黄を含むものではないから、甲5A発明の「界面活性剤水溶液」における「水」は、本件発明1の「コークス炉ガス精製に使用するスクラバー水(但し、スクラバー水の循環系内に粉末硫黄が存置され、かつ、前記粉末硫黄が循環せず置かれた循環系内に存在するものを除く)」に相当し、甲5A発明の「界面活性剤」は、本件発明1の「少なくとも一つの界面活性剤を含む、組成物」に相当する。
そうすると、本件発明1と甲5A発明は、以下の一致点及び相違点を有する。
<一致点>
「コークス炉ガス精製に使用するスクラバー水(但し、スクラバー水の循環系内に粉末硫黄が存置され、かつ、前記粉末硫黄が循環せず置かれた循環系内に存在するものを除く)に添加する組成物であって、
少なくとも一つの界面活性剤を含む、組成物。」
<相違点5A-1>
組成物について、本件発明1は、「該スクラバー水が接する部分におけるタール汚れの付着を抑制するための」組成物であると特定するのに対し、甲5A発明は、そのような特定がされていない点。
<相違点5A-2>
界面活性剤について、本件発明1は、「水溶性の非イオン界面活性剤及びアニオン界面活性剤からなる群から選択される」少なくとも一つの界面活性剤を含むと特定するのに対し、甲5A発明は、そのような特定がされていない点。
b 判断
<相違点5A-1>及び<5A-2>について検討する。
甲5の第2頁左上欄第3~8行には、「特に界面活性剤水溶液を用いた場合には煙室内ガスは通常約5~20m/秒程度の流速を持ち、煙室通過中に静圧の低下が生じ、此の微小の圧力差によって、水膜体は泡を形成し、更によく粉塵の除去を行なう事が出来る。」と記載されているが、「タール汚れの付着を抑制するため」に「界面活性剤」を用いることは記載されておらず、界面活性剤の種類についても何ら記載されていない。
そして、前記<相違点4A-1>及び<相違点4A-2>の検討で示したとおり、甲2、3に記載の技術は、いずれもコークス炉ガス中のタール状物質が装置に固着した際に用いる洗浄液に界面活性剤を含ませるものであり、コークス炉ガスのスクラバー水に界面活性剤を添加するものではなく、タール汚れの付着を抑制するためのものでもないから、甲5A発明において、甲2、3記載の技術を考慮しても、タール汚れの付着を抑制するため、吸収液中に甲2、3記載の界面活性剤を添加する動機付けがあるとはいえない。
また、本件発明1は、「コークス炉ガス精製に使用するスクラバー水」に「水溶性の非イオン界面活性剤及びアニオン界面活性剤からなる群から選択される少なくとも一つの界面活性剤」を添加することで、「スクラバー水が接する部分におけるタール汚れの付着を抑制する」効果を奏するものであり、当該効果は甲2、3、5のいずれにも記載されておらず、当業者が予測し得たものとはいえない。
したがって、甲5A発明において、吸収液が接する部分における「タール汚れの付着を抑制するため」、吸収液に「水溶性の非イオン界面活性剤及びアニオン界面活性剤からなる群から選択される少なくとも一つの界面活性剤」を含ませることは、当業者が容易になし得たこととはいえない。
c 請求人の主張
請求人は審判請求書(第30~31頁)において、甲第5号証記載の発明において、界面活性剤として、甲第2号証に記載の付着物除去効果の優れた界面活性剤又は甲第3号証に記載のタール状物質の洗浄力に優れた界面活性剤を採用することに困難性はない旨を主張している。
しかしながら、前記bで検討したとおり、甲2、3に記載の技術は、いずれもコークス炉ガスのスクラバー水に界面活性剤を添加するものではないから、甲5記載の発明において、コークス炉ガスを処理する界面活性水溶液として、甲2、3記載の界面活性剤を採用する動機付けがあるとはいえない。そして、本件発明1は、「コークス炉ガス精製に使用するスクラバー水」に「水溶性の非イオン界面活性剤及びアニオン界面活性剤からなる群から選択される少なくとも一つの界面活性剤」を添加することで、「スクラバー水が接する部分におけるタール汚れの付着を抑制する」という顕著な効果を奏するものである。よって、前記請求人の主張は採用できない。
また請求人は口頭審理陳述要領書(第2頁)において、甲1、4、5発明に界面活性剤の種類の限定がないという被請求人の主張に対する反論として、少なくとも甲1には本件発明1の特定種類の界面活性剤が開示されているため、被請求人の主張は誤りである旨を主張している。
しかしながら、当該主張は、甲1を主たる引用文献とする場合についての主張であり、甲5を主たる引用文献とする場合の主張としては採用できない。
(イ)本件発明3、4について
本件発明3、4は、本件発明1をさらに限定した発明であり、本件発明1は、甲5に記載された発明と甲2、3、5に記載された事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものでないのであるから、本件発明3、4も、甲5に記載された発明と甲2、3、5に記載された事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものでないことは明らかである。
(ウ)本件発明8について
a 対比
甲5B発明と本件発明8を対比する。
甲5B発明の「界面活性剤水溶液」は、「コークス炉等より排出される煤煙に含まれる煤塵の一次的除去方法」に用いられるものであり、粉末硫黄を含むものではないから、甲5B発明の「界面活性剤水溶液」は、本件発明1の「コークス炉ガス精製に使用するスクラバー水(但し、スクラバー水の循環系内に粉末硫黄が存置され、かつ、前記粉末硫黄が循環せず置かれた循環系内に存在するものを除く)」に相当する。
そうすると、本件発明8と甲5B発明は、以下の一致点及び相違点を有する。
<一致点>
「コークス炉ガス精製設備で使用されるスクラバー水(但し、スクラバー水の循環系内に粉末硫黄が存置され、かつ、前記粉末硫黄が循環せず置かれた循環系内に存在するものを除く)が接触する部分を有する方法であって、前記スクラバー水に界面活性剤を含有させることを含む、方法。」
<相違点5B-1>
方法について、本件発明8は、スクラバー水が接する部分における「タール汚れの付着を抑制する」方法であると特定するのに対し、甲5B発明は、そのような特定がされていない点。
<相違点5B-2>
界面活性剤について、本件発明8は、「水溶性の非イオン界面活性剤及びアニオン界面活性剤からなる群から選択される」少なくとも一つの界面活性剤を含むと特定するのに対し、甲5B発明は、そのような特定がされていない点。
b 判断
<相違点5B-1>及び<5B-2>について
前記「<相違点5A-1>及び<相違点5A-2>について」において述べた理由と同様の理由により、<相違点5B-1>及び<相違点5B-2>についても、当業者が容易になし得たものとはいえない。
c 請求人の主張
前記「(ア)本件発明1について」の「c 請求人の主張」において述べた理由と同様の理由により、請求人の主張は採用できない。
ウ 小括
以上のとおり、本件発明1、3、4及び8は、甲5に記載された発明と甲2、3、5に記載された事項に基づいて、当業者が容易になし得たものであるとはいえない。
2 無効理由2(明確性要件違反)についての判断
(1)判断の枠組み
特許を受けようとする発明が明確であるか否かは、特許請求の範囲の記載だけではなく、願書に添付した明細書の記載及び図面を考慮し、また、当業者の出願当時における技術常識を基礎として、特許請求の範囲の記載が、第三者に不測の不利益を及ぼすほどに不明確であるか否かという観点から判断されるべきであるとされている。
(2)本件への当てはめ
ア 請求項1、3、4及び8には、「コークス炉ガス精製に使用するスクラバー水」、「コークス炉ガス精製設備で使用されるスクラバー水」、「スクラバー水に添加」といった記載があるが、いずれの記載も明確である。
イ 請求項1、3、4及び8に記載される「スクラバー水」について、【0016】に記載の定義を参照しても、「水」であることは明らかであり、油である「タール蒸留で得られた吸収油」が「スクラバー水」に該当しないことは明確である。
ウ よって、本件発明1、3、4及び8が、第三者に不測の不利益を及ぼすほどに不明確であるとはいえない。
(3)請求人の主張について
ア 請求人は審判請求書(第32頁)において、本件発明1と8で、「コークス炉ガス精製に使用するスクラバー水」、「コークス炉ガス精製設備で使用されるスクラバー水」と異なる表現が用いられており、どのような差異があるか明確ではない旨を主張している。
しかしながら、本件発明1と8で異なる表現が用いられていても、それぞれの発明自体は明確であり、異なる表現であるからといって本件発明1及び8が不明確であるとはいえない。
イ 請求人は審判請求書(第32~33頁)において、本件発明1は、「スクラバー水に添加」との記載を含むが、本件発明8は同様の記載を含んでいないため、「組成物がスクラバー水に添加」されるべきか否か明確ではない旨を主張している。
しかしながら、本件発明8は、「組成物」を含むものではないため、「組成物がスクラバー水に添加」されるものではないことは明確である。なお、本件発明8は、「前記スクラバー水に水溶性の非イオン界面活性剤及びアニオン界面活性剤からなる群から選択される少なくとも一つを含有させることを含む」と特定されるものであり、前記界面活性剤がスクラバー水に含まれることは明確である。
ウ 請求人は審判請求書(第33頁)において、ナフタリンスクラバーで循環し吸収油として使用される「タール蒸留で得られた吸収油」が「スクラバー水」に該当するか明確でない旨を主張している。しかしながら、「スクラバー水」は「水」であり、「吸収油」を含まないことは明確である。
エ よって、本件発明1、3、4及び8が、第三者に不測の不利益を及ぼすほどに不明確であるとはいえない。
(4)小括
以上のとおりであるから、本件発明1、3、4及び8に係る記載は、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていないとはいえない。
3 無効理由3(実施可能要件違反)についての判断
(1)判断の枠組み
特許法36条4項1号は、明細書の発明の詳細な説明の記載は、「その発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者がその実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載したもの」でなければならないと定める。そして、物の発明について実施可能要件を充足するためには、当業者が、明細書の発明の詳細な説明の記載及び出願当時の技術常識に基づいて、過度の試行錯誤を要することなく、その物を製造し、使用することができる程度の記載があることを要するとされ、また、方法の発明について実施可能要件を充足するためには、当業者が、明細書の発明の詳細な説明の記載及び出願当時の技術常識に基づいて、過度の試行錯誤を要することなく、その方法の使用をすることができる程度の記載があることを要するとされている。
(2)本件への当てはめ
ア 前記(1)の考え方を本件発明についてみると、本件発明1、3及び4は、「組成物」であるから、物の発明であり、実施可能であるというためには、本件明細書の記載並びに本件出願当時の技術常識に基づき、当業者が、本件発明1、3及び4に係る「組成物」を製造することができ、かつ、当該「組成物」を使用できる必要があるとともに、それで足りるというべきである。また、本件発明8は、「方法」の発明であり、実施可能であるというためには、本件明細書の記載並びに本件出願当時の技術常識に基づき、当業者が、本件発明8に係る「方法」を実施できる必要があるとともに、それで足りるというべきである。
イ 「組成物」を製造することができるかについて
(ア) 本件明細書の【0042】~【0061】には、実施例1~39として、本件発明1、3及び4の発明特定事項を充足する組成物の具体例が記載されており、組成物を構成する成分及び組成物の製造方法が具体的に記載されている。
(イ) そうすると、当業者であれば、実施例の記載や前記本件明細書の記載を参考に、本件発明の発明特定事項を充足する組成物を実際に製造することができるというべきである。
ウ 「組成物」を使用できるかについて
本件発明1、3及び4は、「組成物」を「コークス炉ガス精製に使用するスクラバー水に添加して」、「該スクラバー水が接する部分におけるタール汚れの付着を抑制する」ものであるが、本件明細書の【0042】~【0061】には、実施例1~39として、タール汚れの付着を抑制することができたことを確認しているから、当業者であれば、本件発明の組成物を使用できるといえる。
エ 「方法」を実施できるかについて
本件発明8は、「コークス炉ガス精製設備で使用されるスクラバー水が接触する部分におけるタール汚れの付着を抑制する」方法であるが、本件明細書の【0042】~【0061】には、実施例1~39として、タール汚れの付着を抑制することができたことを確認しているから、当業者であれば、本件発明の方法を実施できるといえる。
(3)請求人の主張について
請求人は審判請求書(第33~34頁)において、「ナフタリンスクラバー」では、「スクラバー水」を循環させても、粗製ベンゼンとナフタリンを十分吸収できないので、「冷却装置の下流に配置されるナフタリンスクラバー」として機能しないため、ナフタリンスクラバーにおいては本件発明1、3、4及び8を実施できない旨を主張している。しかしながら、本件発明1、3、4及び8は、「スクラバー水」を含むものであり、「スクラバー水」を使用できない場合は、本件発明1、3、4及び8に係る発明ではなく、実施できる必要はない。また粗製ベンゼンとナフタリンの吸収が十分でないとしても、ナフタリンスクラバーで「スクラバー水」を用いるのであれば、本件発明を実施できるものといえる。
したがって、請求人の主張は採用できない。
(4)小括
以上のとおりであるから、明細書の発明の詳細な説明は、本件発明1、3、4及び8に係る記載は、特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていないとはいえない。
4 無効理由4(サポート要件違反)についての判断
(1)判断の枠組み
特許請求の範囲の記載がサポート要件を満たすか否かは、特許請求の範囲の記載と発明の詳細な説明の記載とを対比し、特許請求の範囲に記載された発明が、発明の詳細な説明に記載された発明で、発明の詳細な説明の記載により当業者が当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否か、また、その記載や示唆がなくとも当業者が出願時の技術常識に照らして当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否かを検討して判断すべきものとされている。
(2)本件への当てはめ
ア 本件発明が解決しようとする課題は、本件明細書の【0006】の記載から、「コークス炉ガス精製に使用するスクラバー水が接する部分におけるタール汚れを抑制する方法、又は、そのための組成物を提供する。」ことであると認められる。
イ 本件明細書の【0014】には、「本開示は、コークス炉ガス精製におけるスクラバー水が通過する設備や流路におけるタール汚れが、該スクラバー水に界面活性剤を存在させることに抑制される、という知見に基づく。」と記載され、【0042】~【0061】の実施例1~39には、「水溶性の非イオン界面活性剤」又は「水溶性のアニオン界面活性剤」を用いることにより、水が接する部分におけるタール汚れを抑制できることが実験例で確認されている。よって、本件発明1、3、4及び8に係る発明は、発明の詳細な説明に記載された発明で、発明の詳細な説明の記載により当業者が当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであると認められる。
(3)請求人の主張について
請求人は審判請求書(第34頁)において、「ナフタリンスクラバー」では、「スクラバー水」を循環させても、粗製ベンゼンとナフタリンを十分吸収できないので、「冷却装置の下流に配置されるナフタリンスクラバー」として機能しないため、本件発明1、3、4及び8は、「冷却装置の下流に配置されるナフタリンスクラバー」を機能させるための構成要素を欠いている旨を主張している。
しかしながら、本件発明1、3、4及び8は、「スクラバー水」を含むものであり、「スクラバー水」を使用できない場合は、本件発明1、3、4及び8に係る発明ではない。また粗製ベンゼンとナフタリンの吸収が十分でないとしても、ナフタリンスクラバーで「スクラバー水」を用いるのであれば、本件発明1、3、4及び8に係る発明であるといえるが、その場合でも、「水溶性の非イオン界面活性剤」又は「水溶性のアニオン界面活性剤」を用いることにより、スクラバー水が接する部分におけるタール汚れを抑制でき、前記課題を解決できるものといえる。
したがって、請求人の主張は採用できない。
(4)小括
以上のとおりであるから、本件発明1、3、4及び8に係る記載は、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていないとはいえない。
5 職権で通知した無効理由(新規性欠如及び進歩性欠如)について
本件訂正により、本件発明1、3、4及び8におけるスクラバー水から、「スクラバー水の循環系内に粉末硫黄が存置され、かつ、前記粉末硫黄が循環せず置かれた循環系内に存在するものを除く」ことが特定された。
そして、前記「1 無効理由1(進歩性欠如)についての判断」で示したとおり、本件訂正後の本件発明1、3、4及び8は、甲1に記載された発明ではなく、甲1に記載された発明及び甲1に記載された事項に基づいて当業者が容易になし得たものともいえないから、無効理由通知の理由によって無効とすべきものではない。
第10 むすび
1 特許第6543829号の特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1-10〕について訂正することを認める。
2 特許第6543829号の請求項1、3、4及び8に係る特許についての審判請求は成り立たない。
3 審判に関する費用については、特許法第169条第2項の規定で準用する民事訴訟法第61条の規定により、請求人の負担とする。
4 よって、結論のとおり審決する。
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2023-800024