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特許異議申立

2023-700697

樹脂製の容器の製造方法

審判番号
2023-700697
法域
特許
審判種別
異議申立(異議の決定)
出願番号
特願2019-206267外部サイト(J-PlatPat)へ移動します
登録番号
7202279
請求日
2023年07月07日
審決日
2024年08月19日
公報発行日
2024年11月29日
結論
訂正認容
当事者
審判長/審判官
分類
P1651.537-YAA(B29C) / P1651.113-YAA(B29C) / P1651.121-YAA(B29C)
条文(本文から自動抽出・参考)
特許法第36条、特許法第29条、特許法第120条の5第2項
データ出所
審決公報(XML)

事件の表示

特許第7202279号発明「樹脂製の容器の製造方法」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。

結論

結 論 特許第7202279号の特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1-6〕について訂正することを認める。 特許第7202279号の請求項1ないし6に係る特許を維持する。

理由

理 由 第1 手続の経緯 特許第7202279号(請求項の数6。以下「本件特許」という。)に係る出願(特願2019-206267号。)は、2018年(平成30年)10月19日(優先権主張 平成29年10月19日)を国際出願日とする特願2018-565072号の一部を平成31年3月26日に新たな特許出願(特願2019-58668号)とし、当該特願2019-58668号の一部を令和元年11月14日に新たな特許出願としたものであって、令和4年12月27日にその特許権の設定登録がされ、令和5年1月11日に特許掲載公報が発行された。 その後、特許掲載公報の発行の日から6月以内である同年7月7日に特許異議申立人(以下「申立人」という。)より本件特許の請求項1~6に係る特許に対して本件特許異議の申立てがされ、同年10月20日付けで取消理由が通知され、同年12月22日に特許権者から訂正請求書(以下、当該訂正請求書による訂正請求を「本件訂正請求」といい、本件訂正請求に係る訂正を「本件訂正」という。)及び意見書が提出され、令和6年4月18日に申立人から意見書が提出された。 第2 訂正請求について 1 訂正の内容 本件訂正請求の趣旨は、特許第7202279号の特許請求の範囲を、本訂正請求書に添付した訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項1~6について訂正することを求める、というものであって、本件訂正の内容は、次のとおりである(下線は訂正箇所を表す。)。 請求項1に 「高温の状態で離型する、 樹脂製の容器の製造方法。」 とあるのを、 「高温の状態で離型し、前記結晶化温度帯は、球晶生成による結晶化が促進される温度帯であり、 前記プリフォームが白化することを抑制するために、前記射出成形工程の終了時から前記ブロー成形工程の開始時までにおいて、前記プリフォームの前記内層部の温度が前記ブロー成形工程の開始時の前記プリフォームの前記内層部の温度を下回らないように、前記プリフォームを冷却する、 樹脂製の容器の製造方法。」 に訂正する。(請求項1の記載を引用する形式で記載された請求項2~6も同様に訂正する。) 本件訂正請求は、一群の請求項〔1-6〕に対して請求されたものである。 2 訂正の適否についての判断 (1)訂正の目的 本件訂正は、訂正前の請求項1~6に係る「結晶化温度帯」について、「球晶生成による結晶化が促進される温度帯」であることを特定するとともに、訂正前の請求項1~6において、射出成形工程の終了時からブロー成形工程の開始時までの期間におけるプリフォームの内層部の温度と、ブロー成形工程の開始時のプリフォームの内層部の温度を、「前記プリフォームが白化することを抑制するために、前記射出成形工程の終了時から前記ブロー成形工程の開始時までにおいて、前記プリフォームの前記内層部の温度が前記ブロー成形工程の開始時の前記プリフォームの前記内層部の温度を下回らないように、前記プリフォームを冷却する」ものに特定する訂正であるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。 (2)新規事項の追加の有無 「結晶化温度帯」が「球晶生成による結晶化が促進される温度帯」であることについては、本件特許明細書の【0030】に記載されている。 また、「前記プリフォームが白化することを抑制するために、前記射出成形工程の終了時から前記ブロー成形工程の開始時までにおいて、前記プリフォームの前記内層部の温度が前記ブロー成形工程の開始時の前記プリフォームの前記内層部の温度を下回らないように、前記プリフォームを冷却する」ことについては、本件特許明細書の【0023】、【0025】、【0027】の記載や図5(a)から把握できる事項である。 以上によれば、本件訂正は、本件特許の願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内においてしたものである。 (3)特許請求の範囲の実質拡張・変更の存否 前記1に示した訂正の内容からみて、本件訂正が、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもないことは明らかである。 3 小括 前記2のとおりであるから、本件訂正は、特許法120条の5第2項ただし書1号に掲げる事項を目的とするものであり、かつ、同条9項において準用する同法126条5項及び6項の規定に適合する。 よって、本件特許の特許請求の範囲を、訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1-6〕について訂正することを認める。 第3 本件特許の請求項1~6に係る発明 前記第2 3で述べたとおり、本件訂正は認められるから、本件特許の請求項1~6に係る発明(以下、それぞれを「本件訂正発明1」~「本件訂正発明6」といい、本件訂正発明1~6を総称して「本件訂正発明」ということがある。)は、本件訂正後の請求項1~6に記載されたとおりの次のものと認められる。 【請求項1】 射出成形用金型が型締めされることで形成されるプリフォームの形状の空間内に溶融し た樹脂材料を射出して有底のプリフォームを射出成形する射出成形工程と、 前記プリフォームをブロー成形して樹脂製の容器を製造するブロー成形工程と、 を少なくとも有し、 前記射出成形工程において、前記プリフォームの少なくとも内層部の温度が前記樹脂材料の結晶化温度帯よりも高いときに、前記射出成形用金型から前記プリフォームを高温の状態で離型し、前記結晶化温度帯は、球晶生成による結晶化が促進される温度帯であり、 前記プリフォームが白化することを抑制するために、前記射出成形工程の終了時から前記ブロー成形工程の開始時までにおいて、前記プリフォームの前記内層部の温度が前記ブロー成形工程の開始時の前記プリフォームの前記内層部の温度を下回らないように、前記プリフォームを冷却する、 樹脂製の容器の製造方法。 【請求項2】 高温の状態で離型した前記プリフォームの前記内層部から表面層部へ保有熱を移動させて、前記表面層部から外部へ前記保有熱を放出させて前記プリフォームを冷却して、前記ブロー成形工程を実施する、 請求項1に記載の樹脂製の容器の製造方法。 【請求項3】 前記射出成形工程で離型されて所定時間経過した前記プリフォームの前記表面層部の温度が、前記ブロー成形工程でブロー成形される直前の前記プリフォームの前記表面層部の温度より高くなるように、前記射出成形用金型から前記プリフォームを高温の状態で離型して前記ブロー成形工程を実施する、 請求項2に記載の樹脂製の容器の製造方法。 【請求項4】 高温の状態で離型した前記プリフォームの内側の空間側の第1の表面層部および/または外側の空間側の第2の表層面部からの保有熱の放出を促進することで、前記プリフォームを冷却して、前記ブロー成形工程を実施する、 請求項1~請求項3のいずれか一項に樹脂製の容器の製造方法。 【請求項5】 前記プリフォームの胴部の平均厚さを2.0mm以上10.0mm以下とする、 請求項1~請求項4のいずれか一項に記載の樹脂製の容器の製造方法。 【請求項6】 前記容器の縦軸中心線を含む断面の面積の、前記プリフォームの縦軸中心線を含む断面の面積に対する面積倍率が、1.2倍以上10.0倍以下である、 請求項1~請求項5のいずれか一項に記載の樹脂製の容器の製造方法。 第4 取消理由通知に記載された取消理由について 1 取消理由の概要 本件訂正前の請求項1~6に係る特許に対して、令和5年10月20日付けで特許権者に通知された取消理由は、概略次のとおりである。 取消理由1(サポート要件違反):本件特許の請求項1ないし6に係る発明は、発明の詳細な説明に記載したものでなく、当該請求項1ないし6に係る特許は、特許法36条6項1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであるから、同法113条4号に該当し、取り消すべきものである。 取消理由2(新規性・進歩性欠如):本件特許の請求項1、2、5、6に係る発明は、本件特許に係る優先権主張の基礎とした先の出願(以下「基礎出願」という。)の出願前に日本国内又は外国において、頒布された刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明であるから、当該請求項1、2、5、6に係る特許は、特許法29条1項の規定に違反してされたものであって、同法113条2号に該当し、取り消すべきものである。また、本件特許の請求項1~6に係る発明は、基礎出願前に日本国内又は外国において、頒布された刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明に基づいて、基礎出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者(以下「当業者」という。)が容易に発明をすることができたものであるから、当該請求項1~6に係る特許は、特許法29条2項の規定に違反してされたものであって、同法113条2号に該当し、取り消すべきものである。 取消理由2において、引用された引用例は、次のとおりである。 甲5:特開2002-172681号公報 2 引用例及び引用例に記載された発明 (1)甲5の記載 甲5は、基礎出願前に頒布された刊行物であって、そこには次の記載がある。 ア 「【特許請求の範囲】 ・・・(中略)・・・ 【請求項4】 有底のプリフォームを射出成形時に配向温度以下に急冷して、そのプリフォームの壁部内外の表層を冷却温度と時間との関連により半硬化皮層に形成し、その半硬化皮層により形態を維持してプリフォームを金型から離型したのち、プリフォームの壁部中央の温度が非結晶温度領域又はその近傍にあって、プリフォームの外側の表面温度が上昇中で半硬化皮層が引張抵抗を十分に有するうちに延伸ブロー成形し、壁部断面が結晶密度の上から高密度の内外側の表層と、その表層よりも低密度のコア層と、両層間に勾配した結晶密度をもって介在した中間層とからなる多層構造の容器に成形してなることを特徴とする延伸ブロー容器の成形方法。 【請求項5】請求項4に記載の成形方法において、上記プリフォームはポリエチレンテレフタレートからなり、そのプリフォームの外側の表面温度が上昇中で95°~1115℃(合議体注:誤記であり正しくは「115℃」と認められる。)、壁部中央の温度が125°~140℃の範囲にあって、30℃前後の温度差があるうちに、該プリフォームを延伸ブロー成形することを特徴とする延伸ブロー容器の成形方法。」 イ 「【0001】 【発明の属する技術分野】この発明は、射出成形した有底のプリフォームを縦方向と横方向とに延伸ブローして、主たる部分を薄肉に形成したプラスチックの延伸ブロー容器と、その成形方法とに関するものである。 【0002】 【発明が解決しようとする課題】ボトル等の細口容器や広口容器などの包装用プラスチック容器を、延伸ブロー成形により成形する手段としては、・・・(中略)・・・コールドパリソン法と、射出成形した柔らかな有底のプリフォームを、ガラス転移点よりも高い保有熱を有するうちに、直ちに容器に延伸ブローするホットパリソン法とがある。 ・・・(中略)・・・ 【0004】ホットパリソン法では、保有熱によりプリフォームが軟化しているうちに、延伸ブローを済ます必要があることから、プリフォーム温度が不均一となりやすく結晶密度もコールドパリソン法に比べて低密度であり、強度的には特に差はないが耐熱処理に難点があるとされている。 【0005】この発明は上記事情から考えられたものであって、その目的は、延伸ブロー容器の壁部断面を結晶密度の上から多層化して、表層の結晶密度を内部の結晶密度よりも著しく高密度となすとともに、中間層の介在により容器の更なる強度向上と耐熱処理の容易性とを図り得る新たな延伸ブロー容器と成形方法とを提供することにある。 【0006】 【課題を解決するための手段】上記目的によるこの発明の延伸ブロー容器は、・・・(中略)・・・ 【0008】この発明の成形方法は、有底のプリフォームを射出成形時に配向温度以下に急冷して、そのプリフォームの壁部内外の表層を冷却温度と時間との関連により半硬化皮層に形成し、その半硬化皮層により形態を維持してプリフォームを金型から離型したのち、プリフォームの壁部中央の温度が非結晶温度領域又はその近傍にあって、プリフォームの外側の表面温度が上昇中で半硬化皮層が引張抵抗を十分に有するうちに延伸ブロー成形し、壁部断面が結晶密度の上から高密度の内外側の表層と、その表層よりも低密度のコア層と、両層間に勾配した結晶密度をもって介在した中間層とからなる多層構造の容器に成形してなる、というものである。 【0009】また上記成形方法において、上記プリフォームはポリエチレンテレフタレートからなり、そのプリフォームの外側の表面温度が上昇中で95°~1115℃(合議体注:誤記であり正しくは「115℃」と認められる。)、壁部中央の温度が125°~140℃の範囲にあって、30℃前後の温度差があるうちに、該プリフォームを延伸ブロー成形する、というものである。」 ウ 「【0010】 【発明の実施の形態】図において、1は熱可塑性プラスチック、たとえばポリエチレンテレフタレート(PET)などによる有底のプリフォームで、口部11とそれに連なる胴部12及び底部13からなり、溶融したプラスチックを金型に射出充填して成形することができる。 【0011】2は上記プリフォーム1を延伸ブロー成形して作られた広口の容器で、プリフォーム1の口部11による口部21と、その口部下側から薄肉に延伸ブローされた胴部22及び底部23とからなり、その壁部断面は結晶密度が高密度の内外側の表層2a、2aと、その表層2a、2aよりも低密度のコア層2bと、両層間2a、2bに勾配した結晶密度をもって介在した中間層2cとによる多層構造の壁部断面からなる。 【0012】このような結晶密度の上から壁部断面を多層化した容器2は、ホットパリソン法による延伸ブロー形成により容易に製造することができる。しかし、内外側の表層2a、2aを結晶密度を高密度に、コア層2bを低密度に構成するには、プリフォーム1を射出成形時に配向温度以下に急冷して、そのプリフォーム1の壁部内外の表層を冷却温度と時間との関連により半硬化皮層1a、1bに形成する必要がある。 【0013】この半硬化皮層1aは、プリフォーム1aの射出成形時に、溶融プラスチックがキャビティ面と接触したときに生ずる皮層によるもので、半硬化皮層1aの厚みは冷却温度と時間との関連において制御することができる。溶融プラスチックは先に生じた皮層の上を流動してキャビティに充填され、その過程で皮層は厚みを増しながら流動する溶融プラスチックに引張られて、そこに流動配向が生ずるようになる。この流動配向は皮層が半硬化皮層1aとしてプリフォーム1の表面を形成している限り失われず、その流動配向が延伸による配向と相俟って表層2aの結晶化度が増すものと推測される。 【0014】成形材料がポリエチレンテレフタレートであるとき、そのプリフォーム1の射出成形に際する金型の冷却温度は15℃前後に設定することが好ましい。また冷却はプリフォーム1の内外側が、ガラス転移点以上の温度を有する半硬化皮層1a,1aにより形成され、その半硬化皮層1aによりプリフォーム1の形態が十分に維持できる時間に制限することを必要とする。 【0015】この冷却時間は、延伸ブローされる胴部11の壁部肉厚により異なり、傾向としては肉厚に比例して冷却時間(例えば5~10秒)が設定される。肉厚と比べて冷却時間が短いと表面の半硬化皮層1aが薄く生じて、延伸ブローに至る時間内に保有熱により著しく軟化して、半硬化皮層1aによるプリフォーム表層の引張抵抗が十分に得られず、また反対に長すぎると、半硬化皮層1aが必要以上に厚く生じて、延伸ブローに不都合が生ずる。 ・・・(中略)・・・ 【0017】射出成形されたプリフォーム1は、周知の手段により口部11を保持してキャビティ金型とコア型から離型され、そのまま中空の状態で直ちにブロー金型に移送されて型閉じによりブローキャビティ内に設置される。そして通常のごとく、口部11をブローコアにより閉塞したのち、その中央の延伸ロッドにより縦方向に、またブローエアにより横方向に延伸ブローすると、プリフォーム1の口部11がそのまま口部21となった胴部22が薄肉の容器2となる。 【0018】この延伸ブローにより、結晶密度が高密度の内外側の表層2a、2aと、低密度のコア層2bとの間に、結晶密度に勾配を有する中間層2c、2cを有する壁部断面の容器2を得るには、プリフォーム1の壁部中央の温度が非結晶温度領域又はその近傍にあって、プリフォーム1の外側の表面温度が上昇中で、少なくとも外側の半硬化皮層1aが引張抵抗を十分に有するうちに延伸ブロー成形することを必要とする。」 エ 「【0021】下記実施例の成形条件により成形した厚肉4.4mmのプリフォーム1から見ると、離型後の半硬化皮層1aの温度上昇による軟化は意外に速い。図2は25°~30℃の温度差があると推測される離型後6秒で、プリフォーム1の延伸ブローを行って成形した容器2の肉厚と結晶密度とを、図1に示す容器2のパネル部A、肩部B、胴部C、底部Dの各部位にて測定(ラマン分光法による)した結果を示すものである。 ・・・(中略)・・・ 【0024】しかし、図2の結晶密度の各曲線から、上記のように壁部に肉厚に差があっても、密度が上昇している表層2aの部分は、何れも0.2mm程度の厚さ範囲にあり、また密度に勾配を持つ中間層2cも0.2mm程度の厚さ範囲で介在し、そらを除く中央部がコア層2cを形成していることが判る。 【0025】また容器2のいずれの測定部位においても、表層2aは結晶密度1.4以上と高く、非結晶状態にあると思われたコア層2bでも結晶密度1.32以上の結晶化度を示しており、各測定部位の対比から、表層2aに比べて低密度のコア層2bは、壁部断面の肉厚の増減に比例的に変動するが、上記中間層2cはコア層2bの領域の大小にかかわらず或る範囲での勾配した結晶密度をもって介在している。 【0026】これらのことから、容器胴部の全体的な肉厚が上記容器2の一部をなす各部位のいずれかの肉厚と同様に延伸ブロー成形された容器でも、その各部位と同様な結晶密度分布による多層構造の容器となることが判る。 ・・・(中略)・・・ 【0032】図2において、表層2aの結晶密度1.4以上は、ポリエチレンテレフタレートによる容器としては超高密度といえるもので、それ自体により或る意味での耐熱性を有するものとなる。しかし、そのような表層2aには強制的な延伸による成形歪みが多く残存する。 【0033】これに対し、低密度のコア層2bは、延伸ブロー時に非結晶状態にあって引張抵抗が極めて小さなプリフォーム中央部が、容器2の表層2aとなる半硬化皮層1aの延伸に伴って延伸形成されものであり、その延伸の過程による温度低下により結晶化が生じたことから、容器2のコア層2cには延伸による成形歪みは殆どないに等しい状態にある。 【0034】このような結晶密度の異なる表層2aとコア層2bとの間に、中間層cが密度勾配を持って介在する多層構造の壁部断面を有する容器2では、成形歪みによる表層2aの衝撃力に対する脆さが、成形歪みのない或いは少ないコア層2bによる内部緩衝により強化され、また中間層2cの介在による両者の結び付きの一層の緊密性から、落下強度にもすぐれたものとなる。」 オ 「【図面の簡単な説明】 【図1】 この発明に係る延伸ブロー容器の形態及び部分断面とプリフォームを縦断面で示す説明図である。 【図2】 同上の延伸ブロー容器の各測定部位における肉厚と結晶密度との関連図である。 ・・・(中略)・・・ 【図1】 [図:0001416450000001.jpg] 【図2】 [図:0001416450000002.jpg] 」 (2)甲5発明 前記(1)によれば、甲5には、次の発明(以下「甲5発明」という。)が記載されていると認められる。 「ポリエチレンテレフタレートからなる有底のプリフォーム1を射出成形時に配向温度以下に急冷して、そのプリフォーム1の壁部内外の表層2aを冷却温度と時間との関連により半硬化皮層1aに形成し、その半硬化皮層1aにより形態を維持してプリフォーム1を金型から離型したのち、そのまま中空の状態で直ちにブロー金型に移送して型閉じによりブローキャビティ内に設置し、プリフォーム1の壁部中央の温度が非結晶温度領域又はその近傍であって、プリフォーム1の外側の表面温度が上昇中で半硬化皮層1aが引張抵抗を十分に有するうちに延伸ブロー成形し、壁部断面が結晶密度の上から高密度の内外側の表層2aと、その表層よりも低密度のコア層2bと、両層間に勾配した結晶密度をもって介在した中間層2cとからなる多層構造の容器2に成形してなる延伸ブロー容器の成形方法であって(請求項4、【0008】、【0017】)、 前記プリフォームはポリエチレンテレフタレートからなり、そのプリフォームの外側の表面温度が上昇中で95~115℃、壁部中央の温度が125°~140℃の範囲にあって、30℃前後の温度差があるうちに、該プリフォームを延伸ブロー成形するようにし(請求項5、【0009】)、 射出成形に際する金型の冷却温度は15℃前後に設定し、射出成形における冷却時間は、プリフォーム1の胴部11の壁部肉厚に比例して5秒ないし10秒の範囲で設定し(【0014】~【0015】)、 前記コア層2bは、延伸ブロー時に非結晶状態にあって引張抵抗が極めて小さなプリフォーム中央部が、容器2の表層2aとなる前記半硬化皮層1aの延伸に伴って延伸形成されたものであり、その延伸の過程による温度低下により結晶化が生じるものである(【0033】)、 延伸ブロー容器の成形方法。」 3 合議体の判断 (1)取消理由1(サポート要件違反)について ア 本件訂正発明が解決しようとする課題 本件特許明細書の【0002】~【0006】等の記載からみて、本件訂正発明が解決しようとする課題は、成形サイクルを短縮しつつ樹脂製の容器を良好に成形することが可能な樹脂製の容器の製造方法を提供することと認められる。ここで、【0030】ないし【0033】等の記載から、「樹脂製の容器を良好に成形する」とは、白化しておらず、容器の物性が低下してもいない容器を成形すること、を意味していると解される。 イ 課題を解決するための手段 そして、本件特許明細書の発明の詳細な説明における、上記アの課題に対応する記載(特に、【0030】、【0031】、【0050】、【0051】、図5、図10等)によれば、プリフォームを射出する射出成形工程と、前記プリフォームをブロー成形して樹脂製の容器を製造するブロー成形工程とを有する樹脂製の容器の製造方法において、射出成形工程S1においてプリフォーム11の冷却工程をほとんど無くして高温の状態で離型し、温調工程S2では、プリフォーム11を冷却してブロー成形に適した温度とし、ブロー成形工程S3でブロー成形をするという手段(以下「課題解決手段」という。)を採用すれば、射出成形工程においてブロー成形に適した温度よりも低い温度まで冷却し、温調工程においてブロー成形に適した温度まで昇温してブロー成形する従来の方法よりも成形サイクルを短縮するとともに、白化しておらず、物性が低下していない容器を成形することができること、すなわち、上記アの課題を解決できることを当業者は認識できるものといえる。 ウ 判断 上記ア及びイの検討結果を踏まえれば、本件訂正発明が、上記イの課題解決手段を実質的に備えていることは、本件訂正発明が、プリフォームの少なくとも内層部の温度が樹脂材料の結晶化温度帯よりも高いときに、射出成形用金型からプリフォームを高温の状態で離型することに加えて、プリフォームが白化することを抑制するために、射出成形工程の終了後からブロー成形工程の開始時までにおける冷却の態様が具体的に特定されていることからみて明らかである。 したがって、本件訂正発明は、発明の詳細な説明に記載された発明で、発明の詳細な説明の記載又はその示唆により当業者が当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものである。 エ 申立人の主張について 申立人は、令和6年4月18日に提出した意見書において、本件訂正発明は、依然として、[A]「離型後にどのような温度変化となるように制御するのか」及び[B]「結晶化温度帯でどのような冷却の仕方(徐冷か急冷か)をするのか」について特定するものではないから、発明の詳細な説明の記載や出願当時の技術常識からは、当業者が本件訂正発明の課題を解決できると認識できない旨主張する。 上記主張について、以下検討する。 [A]について、本件訂正発明においては「射出成形工程の終了時から前記ブロー成形工程の開始時までにおいて、前記プリフォームの前記内層部の温度が前記ブロー成形工程の開始時の前記プリフォームの前記内層部の温度を下回らないように、前記プリフォームを冷却する」ことが特定されているから、本件訂正発明が、プリフォームの内層部の温度を、ブロー成形工程の開始時の温度よりも低い温度からブロー成形工程の開始時の温度まで昇温するための時間が不要となって、従来の方法よりも成形サイクルを短縮できると言う効果を奏することは当業者に明らかである。 [B]について、本件訂正発明においては「結晶化温度帯でどのような冷却の仕方(徐冷か急冷か)をするのか」について、「プリフォームが白化することを抑制する」ために「プリフォームを冷却する」と特定されているから、本件訂正発明が、プリフォームの冷却の仕方として、少なくとも球晶生成による結晶化が促進される温度帯である結晶化温度帯でプリフォームに白化が生じることのないような急冷を採用していることは当業者に明らかである。 したがって、申立人の上記主張はいずれもその前提に誤りがあるから採用できない。 オ 小括 以上によれば、本件訂正発明は、発明の詳細な説明に記載したものであるから、取消理由1(サポート要件違反)によって、本件訂正発明に係る特許を取り消すことはできない。 (2)取消理由2(新規性・進歩性欠如)について ア 本件訂正発明1について (ア)対比 a 甲5発明の、「プリフォーム1」、「ポリエチレンテレフタレート」、「容器2」、「延伸ブロー成形」、「壁部中央」及び(ポリエチレンテレフタレートからなる有底のプリフォームを用いた)「延伸ブロー容器の成形方法」は、本件訂正発明1の、「プリフォーム」、「樹脂材料」、「容器」、「ブロー成形」、「内層部」及び「樹脂製の容器の製造方法」にそれぞれ相当する。 また、甲5発明の「プリフォーム1」は、「射出成形時に配向温度以下に急冷して、そのプリフォーム1の壁部内外の表層2aを冷却温度と時間との関連により半硬化皮層1aに形成し、その半硬化皮層1aにより形態を維持してプリフォーム1を金型から離型」することで得られるものである。 上記製造工程からみて、甲5発明の「金型」は、本件訂正発明1の「射出成形用金型」に相当する。 b 射出成形工程 甲5発明の「射出成形」する工程が、「金型」が型締めされることで、有底の「プリフォーム1」(プリフォーム)の形状の空間が形成され、当該空間内に溶融した「ポリエチレンテレフタレート」(樹脂材料)を射出して有底の「プリフォーム1」(プリフォーム)を射出成形する射出成形工程であることは、当業者に自明である。 したがって、本件訂正発明1と甲5発明は、「射出成形用金型が型締めされることで形成されるプリフォームの形状の空間内に溶融した樹脂材料を射出して有底のプリフォームを射出成形する射出成形工程」を有する点で一致する。 c ブロー成形工程 甲5発明において、「延伸ブロー成形」(ブロー成形)をする工程は、「プリフォーム1」(プリフォーム)を「延伸ブロー成形」(ブロー成形)して「ポリエチレンテレフタレート」(樹脂材料)からなる「容器2」(容器)に成形する工程であるから、本件訂正発明1と甲5発明は、「プリフォームをブロー成形して樹脂製の容器を製造するブロー成形工程」を有する点で一致する。 d プリフォームの内層部の温度 甲5発明では、「ポリエチレンテレフタレート」(樹脂材料)からなる有底のプリフォーム1を射出成形時に配向温度以下に急冷して、そのプリフォームの壁部内外の表層2aを冷却温度と時間との関連により半硬化皮層1aに形成し、その半硬化皮層により形態を維持してプリフォーム1を「金型」(射出成形用金型)から離型したのち、プリフォーム1の「壁部中央」(内層部)の温度が非結晶温度領域又はその近傍である125~140℃、プリフォーム1の外側の表面温度が上昇中で95~115℃の範囲にあって、30℃前後の温度差があり、半硬化皮層1aが引張抵抗を十分に有するうちに延伸ブロー成形するところ、射出成形における離型後から延伸ブロー成形をするまでの間にプリフォーム1を加熱する手段が設けられていない以上、射出成形における離型時のプリフォーム1の「壁部中央」(内層部)の温度が、延伸ブロー成形をする際のプリフォーム1の「壁部中央」(内層部)の温度よりも高いことは、自然法則から明らかである。また、コア層2bが、延伸ブロー成形時にプリフォーム中央部が容器2の表層2aとなる半硬化皮層1aの延伸に伴って延伸形成されたものであり、その延伸の過程による温度低下により結晶化が生じることから、延伸ブロー成形の開始時点におけるプリフォーム1の「壁部中央」(内層部)の温度とされる「非結晶温度領域又はその近傍」との温度領域が、「ポリエチレンテレフタレート」(樹脂材料)の延伸の過程による温度低下により結晶化が生じる温度帯より高温であることが明らかである。 そうすると、甲5発明において、射出成形における離型時のプリフォーム1の「壁部中央」(内層部)の温度は、「ポリエチレンテレフタレート」(樹脂材料)の延伸の過程による温度低下により結晶化が生じる温度帯より高温であると認められ、「金型」(射出成形用金型)から「プリフォーム1」(プリフォーム)を高温の状態で離型しているといえる。 また、甲5発明において、「射出成形」(射出成形)における離型後から「延伸ブロー成形」(ブロー成形)をするまでの間、プリフォーム1の「壁部中央」(内層部)の温度が単調減少することは、自然法則から明らかであるから、射出成形工程の終了時からブロー成形工程の開始時までにおいて、プリフォームの内層部の温度がブロー成形工程の開始時のプリフォームの内層部の温度を下回らないように、プリフォームは冷却されているといえる。 したがって、本件訂正発明1と甲5発明は、「前記射出成形工程において、前記プリフォームの少なくとも内層部の温度が所定の温度よりも高いときに、前記射出成形用金型から前記プリフォームを高温の状態で離型」する点、及び「前記射出成形工程の終了時から前記ブロー成形工程の開始時までにおいて、前記プリフォームの前記内層部の温度が前記ブロー成形工程の開始時の前記プリフォームの前記内層部の温度を下回らないように、前記プリフォームを冷却する、」点で一致する。 e 前記a~dの対比結果を総合すると、本件訂正発明1と甲5発明は、次の点で一致ないし相違する。 「射出成形用金型が型締めされることで形成されるプリフォームの形状の空間内に溶融した樹脂材料を射出して有底のプリフォームを射出成形する射出成形工程と、 前記プリフォームをブロー成形して樹脂製の容器を製造するブロー成形工程と、 を少なくとも有し、 前記射出成形工程において、前記プリフォームの少なくとも内層部の温度が所定の温度よりも高いときに、前記射出成形用金型から前記プリフォームを高温の状態で離型し、 前記射出成形工程の終了時から前記ブロー成形工程の開始時までにおいて、前記プリフォームの前記内層部の温度が前記ブロー成形工程の開始時の前記プリフォームの前記内層部の温度を下回らないように、前記プリフォームを冷却する、 樹脂製の容器の製造方法。」 で一致し、次の点で相違する。 相違点1-1: 射出成形工程においてプリフォームを離型する際の内層部の温度が、 本件訂正発明1では、樹脂材料の結晶化温度帯よりも高く、前記結晶化温度帯が、球晶生成による結晶化が促進される温度帯であるのに対して、 甲5発明では、ポリエチレンテレフタレートの延伸の過程による温度低下により結晶化が生じる温度帯よりは高いものの、球晶生成による結晶化が促進される温度帯より高いのか否か明らかでない点。 相違点1-2: 射出成形工程の終了時から前記ブロー成形工程の開始時までにおいて、前記プリフォームの前記内層部の温度が前記ブロー成形工程の開始時の前記プリフォームの前記内層部の温度を下回らないように、前記プリフォームを冷却する工程について、 本件訂正発明1では、プリフォームが白化することを抑制するためのものと特定されているのに対して 甲5発明では、そのように特定されていない点。 (イ)相違点についての判断 上記相違点1-1について検討する。 a 甲5には、プリフォームを射出成形時に配向温度以下に急冷して、そのプリフォームの壁部内外の表層を冷却温度と時間との関連により半硬化皮層に形成し、その半硬化皮層により形態を維持してプリフォームを金型から離型することが記載されているものの(特に、【0008】、【0012】、【0015】等を参照。)、離型時のプリフォームの内層部の温度が、球晶生成による結晶化が促進される温度帯である樹脂材料の結晶化温度帯よりも高いことについては、記載も示唆もない。 よって、本件訂正発明1は甲5発明ではなく、甲5発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものでもない。 b 申立人は、令和6年4月18日に提出した意見書(3ページ「(2)取消理由2について」の欄)において、参考資料1として特開平4-27520号公報を提示し、参考資料1に記載された実施例は、プリフォームの温度が、本件特許明細書に記載された例3における離型時のプリフォームの内層部の温度と推定されるシミュレーション値210.9℃よりも高いときに離型していると推認されると主張し、本件訂正発明1は、甲5発明に、参考資料1に記載された技術を適用して、容易に発明をすることができたものである旨主張する。 そこで検討するに、本件特許明細書に記載された例3と、参考資料1の実施例は、ともに樹脂材料としてポリエチレンテレフタレートを用いているが、参考資料1の実施例の成形条件は、プリフォームの肉厚が2.8~3.0mm、射出冷却時間が8.7秒、金型温度(冷却水)が13℃であるのに対して、本件特許明細書に記載された例3の成形条件は、プリフォーム肉厚(mm)が4.2、射出時間(sec)が9.2、冷却時間(sec)が1.8、チラー温度(℃)が15である。 ここで、成形条件のうちプリフォームの肉厚及びチラー温度(冷却水の温度)は、値が大きくなるほど離型時におけるプリフォームの内層部の温度は高くなり、射出冷却時間は、値が大きくなるほど離型時におけるプリフォームの内層部の温度は低くなることが自然法則から明らかであるところ、成形条件のうちプリフォームの肉厚は、本件特許明細書に記載された例3が、参考資料1の実施例よりも大幅に大きく(2.8~3.0mmと4.2mm)、チラー温度は、本件特許明細書に記載された例3が、参考資料1の実施例よりもわずかに大きく(13℃と15℃)、射出冷却時間は、本件特許明細書に記載された例3が、参考資料1の実施例よりも大幅に大きい(8.7秒と11秒)。 すなわち、本件特許明細書に記載された例3と、参考資料1の実施例を比較すると、成形条件のうち射出冷却時間については、参考資料1の実施例のほうが、離型時におけるプリフォームの内層部の温度が高くなるように働くが、プリフォームの肉厚及びチラー温度については、本件特許明細書に記載された例3のほうが、離型時におけるプリフォームの内層部の温度が高くなるように働くのであって、射出成形する樹脂の温度が同じであると仮定しても、最終的に、離型時のプリフォームの内層部の温度について、本件特許明細書に記載された例3と参考資料1の実施例とで、どちらのほうが高いのかは不明といわざるを得ない。 よって、申立人の上記主張を採用することはできない。 イ 本件訂正発明2~6について 本件訂正後の請求項2~6は、請求項1の記載を直接又は間接的に引用する形式で記載されており、本件訂正発明2~6は、本件訂正発明1の全発明特定事項を具備し、これに限定を加えたものに相当するところ、前記アで述べたのと同様の理由で、本件訂正発明2、5、6は甲5発明ではなく、かつ、本件訂正発明2~6は、甲5発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものではない。 ウ 小括 前記ア及びイのとおりであるから、取消理由2によって、本件訂正発明1~6に係る特許を取り消すことはできない。 第5 取消理由通知において採用しなかった申立理由について 1 申立理由の概要 取消理由通知において採用しなかった申立理由は、概略、次のとおりである。 (1)申立理由1(進歩性欠如):本件特許の請求項1~6に係る発明は、基礎出願前に日本国内又は外国において、頒布された刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、当該請求項1~6に係る特許は、特許法29条2項の規定に違反してされたものであって、同法113条2号に該当し、取り消すべきものである。 (2)申立理由2(明確性要件違反):本件特許の請求項1ないし6に係る発明は、明確でなく、当該請求項1ないし6に係る特許は、特許法36条6項1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであるから、同法113条4号に該当し、取り消すべきものである。 (3)申立理由3(サポート要件違反):本件特許の請求項1ないし6に係る発明は、発明の詳細な説明に記載したものでなく、当該請求項1ないし6に係る特許は、特許法36条6項1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであるから、同法113条4号に該当し、取り消すべきものである。 2 申立人が提出した証拠方法 申立人が提出した証拠方法は、次のとおりである。 甲1:特開平5-185493号公報(主引用例) 甲2:今泉賢,“冷却速度制御による精密射出成形法の開発”,平成25年度 博士論文 東京大学 甲3:特開2008-279611号公報 甲4:“示差走査熱量計(DSC)の原理と応用”,[online],一般社団法人 日本分析機器工業会,[令和5年7月6日検索],インターネット<URL:https://www.jaima.or.jp/jp/analytical/basic/cta/dsc/> 甲5:特開2002-172681号公報 3 申立理由1(進歩性欠如)について (1)本件訂正発明1について ア 甲1に記載された発明、及び本件訂正発明1との対比 甲1の請求項3の記載から、甲1には次の発明が記載されているものと認める。 「射出成形ステーションにて少なくとも射出キャビティ型及び射出コア型を用いて有底筒状プリフォームを射出成形し、射出成形時の熱を保有したプリフォームを温調ステーションで延伸適温に温調した後、吹込成形ステーションで二軸延伸吹込成形して中空体を成形するに際し、 前記射出成形ステーションでは、前記プリフォームとほぼ同一重量のプリフォームを射出成形した後に要求された公知の冷却時間より短い時間前記プリフォームを前記射出キャビティ型内で冷却して、前記プリフォームを前記延伸適温より高い温度の状態で前記射出キャビティ型及びコア型より離型させ、 前記温調ステーションでは、前記延伸適温より高い温度の前記プリフォームを冷却して前記延伸適温に温調する高速型二軸延伸吹込成形方法。」(以下「甲1発明」という。) そこで、本件訂正発明1と甲1発明を対比すると、両者は、少なくとも、次の点で相違する。 相違点2-1: 本件訂正発明1では、射出成形工程において、プリフォームの少なくとも内層部の温度が樹脂材料の結晶化温度帯よりも高いときに、射出成形用金型からプリフォームを離型し、前記結晶化温度帯は、球晶生成による結晶化が促進される温度帯であるのに対して、 甲1発明では、プリフォームを延伸適温より高い温度の状態で射出キャビティ型及びコア型より離型しているものの、プリフォームの内層部の温度が、球晶生成による結晶化が促進される温度帯である結晶化温度帯よりも高いときに離型しているのか否かは定かでない点。 イ 相違点2-1についての判断 (ア) プリフォームを射出成形した後に、プリフォームをブロー成形して、容器を製造する製造方法において、射出成形工程において、プリフォームの内層部の温度が、球晶生成による結晶化が促進される温度帯である結晶化温度帯よりも高いときに、射出成形用金型からプリフォームを離型することは、申立人が提出した甲2~甲6のいずれにも記載されていない。 したがって、甲1発明において、相違点2-1に係る本件訂正発明1の発明特定事項に相当する構成を採用することは、当業者といえども、容易に想到し得たとはいえない。 よって、本件訂正発明1は、甲1発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものではない。 (イ) 特許異議申立書(8~9ページ「(ア)本件特許発明1について」の欄)において、申立人は、甲2、甲3及び甲5に、プリフォームの内層部の温度が、結晶化温度帯より高いときに、射出成形用金型からプリフォームを離型することが記載されていると主張する。 そこで、各甲号証の記載内容について確認する。 a 甲2について 甲2には、PPの結晶化及び収縮特性に及ぼす“TM”の影響と“急速冷却開始時間”の影響を明らかにすることを目的として、ホモPP、インパクトPP及びランダムPPを用いて、成形条件として、冷却時間tcを60sに設定し、初期金型温度TMを変化させて、厚さ3mmの円筒形状試験片を射出成形した時の内径収縮率を測定する実験と、ホモPPを用いて、厚さ3mmの円筒形状試験片を射出成形し、120℃の初期金型温度TMのまま0~180秒間保持し、この間に結晶化を促進させ、所定の急速冷却開始時間が経過した後、その時の成形工程の状態に関係なくコアピンを10℃の水で急速冷却し、50秒経過した後に金型を開き離型して、収縮率を比較する実験を行うこと等が記載されている(102~104ページ)。 しかしながら、甲2には、プリフォームの内層部の温度が、球晶生成による結晶化が促進される温度帯である結晶化温度帯よりも高いときに、射出成形用金型からプリフォームを離型することは記載されていないし、仮に記載されていたとしても、前記実験における射出成形での条件(離型時のプリフォームの内層部の温度)を、甲1発明の射出成形における条件として採用する動機付けは存在しない。 b 甲3について 甲3(特に、請求項1,【0020】~【0025】、図9等を参照。)には、プリフォーム10を射出成形した後、延伸ブロー成形して耐熱ボトルを製造する射出延伸ブロー成形方法において、射出成形では、射出キャビティ型1、射出コア16、ネック型13によりプリフォーム成形用のキャビティ11を形成し、当該キャビティ内に設定温度260~270℃で溶融したポリエチレンテレフタレートを射出充填し、キャビティ型lとネック型13及び射出コア16とにより所定の冷却時間急冷した後、プリフォーム10をキャビティ11から離型するよう構成され、前記所定の冷却時間は、胴部内の冷却が未完で高温状態にあり、内外表面に半硬化状態に生じた表層(スキン層)によりプリフォーム形態が保たれて離型が可能となる時間(3~7秒)であり、離型後のプリフォーム10をネック型13により保持して中空状態で1秒放置した時の中央部温度が約155℃であることは記載されている。 しかしながら、プリフォームの内層部の温度が、球晶生成による結晶化が促進される温度帯である結晶化温度帯よりも高いときに、射出成形用金型からプリフォームを離型することは記載されていない。 c 甲5について 甲5には、プリフォーム1の射出整形後、プリフォーム1の壁部中央の温度が非結晶温度領域又はその近傍であって、プリフォーム1の外側の表面温度が上昇中で半硬化皮層1aが引張抵抗を十分に有するうちに延伸ブロー成形することが記載されている。(特に、請求項1等を参照。) しかしながら、プリフォームの内層部の温度が、球晶生成による結晶化が促進される温度帯である結晶化温度帯よりも高いときに、射出成形用金型からプリフォームを離型することは記載されていない(前記第4 3(2)ア(イ)を参照。)。 d 以上のとおり、甲2、甲3及び甲5のいずれにも、プリフォームの内層部の温度が、球晶生成による結晶化が促進される温度帯である結晶化温度帯よりも高いときに、射出成形用金型からプリフォームを離型することは記載されていないから、甲1発明に、甲2、甲3及び甲5のいずれかに記載された事項を適用しても、相違点2-1に係る本件訂正発明1の発明特定事項には到らない。 よって、申立人の上記主張は採用できない。 ウ 小括 以上のとおりであるから、申立理由1(進歩性欠如)によって、本件訂正発明1に係る特許を取り消すことはできない。 (2)本件訂正発明2~6について 本件訂正発明2~6と甲1発明を対比すると、両者は、少なくとも、相違点2-1で相違するから、前記(1)で述べたのと同様の理由で、申立理由1(進歩性欠如)によって、本件訂正発明2~6に係る特許を取り消すことはできない。 4 申立理由2(明確性要件違反)について 申立人は、申立理由2に関して、異議申立書において、本件特許の請求項1~6に記載された樹脂材料の結晶化温度帯は、樹脂材料の種類によって一様に定まっているものではなく、甲2の図4.9~図4.11に示されるとおり、冷却速度等の条件によって変化するものであるから、本件特許の請求項1~6に係る発明は明確でない旨主張する。 上記主張について検討する。 (1)判断基準 特許を受けようとする発明が明確であるかは、特許請求の範囲の記載だけではなく、願書に添付した明細書の記載及び図面を考慮し、また、当業者の出願時における技術常識を基礎として、特許請求の範囲の記載が、第三者の利益が不当に害されるほどに不明確であるか否かという観点から判断されるべきものである。 (2)検討 上記(1)の判断基準に基づいて、以下検討する。 本件訂正発明1~6は、「前記射出成形工程において、前記プリフォームの少なくとも内層部の温度が前記樹脂材料の結晶化温度帯よりも高いときに、前記射出成形用金型から前記プリフォームを高温の状態で離型し」なる発明特定事項を具備している。 ここで、仮に、申立人が主張するように、樹脂材料の結晶化温度が冷却速度等の条件に応じて変化するのだとしても、離型直前のプリフォームにおける「樹脂材料の結晶化温度帯」は、当該プリフォームに与えられた冷却速度等の条件に応じて、一つの温度範囲に定まるのであるから、離型直前のプリフォームの内層部の温度と、当該プリフォームにおける樹脂材料の結晶化温度帯との高低関係は明確に定まるといえる。 (3)小括 したがって、上記「結晶化温度帯」の範囲が、第三者の利益が不当に害されるほどに不明確であるか否かを検討するまでもなく、本件訂正発明は明確であって、申立理由2(明確性要件違反)によって、本件訂正発明に係る特許を取り消すことはできない。 5 申立理由3(サポート要件違反)について サポート要件の判断については、上記第4の3(1)に示したとおりである。 なお、申立人は、異議申立書において、本件特許の請求項1~6に記載された樹脂材料について、発明の詳細な説明には、PET(ポリエチレンテレフタレート)の例しか記載がないため、これをPET以外の樹脂材料を包含する請求項の範囲にまで拡張ないし一般化することはできない旨主張するが、発明の課題を解決できないとする具体的な証拠を提示するものではなく、上記第4 3(1)の判断を左右しない。 したがって、申立理由3(サポート要件違反)によって、本件訂正発明に係る特許を取り消すことはできない。 第6 むすび 以上のとおりであるから、取消理由通知に記載された取消理由及び特許異議申立書に記載された特許異議申立理由によっては、請求項1~6に係る特許を取り消すことはできない。さらに、他に請求項1~6に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。 よって、結論のとおり決定する。

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2023-700697

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