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特許異議申立

2023-700582

選択的にウイルスに影響を及ぼすかおよび/またはそれを死滅させるための装置、方法およびシステム

審判番号
2023-700582
法域
特許
審判種別
異議申立(異議の決定)
出願番号
特願2021-031538
登録番号
7183321
請求日
2023年06月05日
審決日
2024年12月24日
公報発行日
2025年05月30日
結論
訂正認容
当事者
  • 【権利者】ザ トラスティーズ オブ コロンビア ユニバーシティ イン ザ シティ オブ ニューヨーク
  • 【権利者代理人】林 一好
  • 【権利者代理人】芝 哲央
  • 【権利者代理人】齋藤 拓也
  • 【権利者代理人】岩池 満
  • 【権利者代理人】小菅 一弘
  • 【異議申立人】伊藤 晃子
審判長/審判官
  • 審判長 関根 裕
  • 審判官 村守 宏文
  • 審判官 門前 浩一
分類
P1651.121-YAA(A61L) / P1651.537-YAA(A61L)
条文(本文から自動抽出・参考)
特許法第120条の5第9項、特許法第29条第2項、特許法第120条の5第4項、特許法第120条の5第2項、特許法第126条第6項、特許法第126条第5項、特許法第126条第7項、特許法第36条第6項第2号
データ出所
審決公報(XML)

事件の表示

特許第7183321号発明「選択的にウイルスに影響を及ぼすかおよび/またはそれを死滅させるための装置、方法およびシステム」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。

結論

結 論 特許第7183321号の特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1~13〕、〔14~22〕、〔23~31〕について訂正することを認める。 特許第7183321号の請求項1~31に係る特許を維持する。

理由

理 由 第1 手続の経緯 1 本件特許に係る出願は、2016年6月3日(パリ条約による優先権主張 2015年6月3日 米国)を国際出願日とする特願2017-561799号(以下「原出願」という。)の一部を、令和3年3月1日に新たな特許出願としたものであって、令和4年11月25日に特許権の設定登録(請求項の数31)がされ、同年12月5日に特許掲載公報が発行された。その後、令和5年6月5日に特許異議申立人である伊藤 晃子(以下「申立人」という。)により、請求項1~31に係る特許について異議申立てがなされたものである。 2 その後の手続は、次のとおりである。 令和5年 9月28日付け 当審から取消理由の通知 令和5年12月27日 特許権者による意見書の提出 令和6年 4月30日付け 当審から取消理由(決定の予告)の通知 令和6年 8月 5日 特許権者による意見書の提出及び訂正請求 令和6年 9月20日 申立人による意見書の提出 第2 訂正請求についての判断 1 訂正請求の趣旨 令和6年8月5日にされた訂正請求(以下、この訂正請求による訂正を「本件訂正」という。)の趣旨は、「特許第7183321号の特許請求の範囲を、本訂正請求書に添付した訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項1~31について訂正することを求める。」というものである。 2 訂正事項 本件訂正は次の訂正事項からなる。下線は訂正箇所を示す。 (1)訂正事項1 特許請求の範囲の請求項1の「200nm~230nmの波長範囲の内側の1つ以上の波長を有する前記少なくとも1つの放射を発生させるように構成された放射源の第1の機器であって、エアロゾルを照射するように、さらに、前記エアロゾル中の少なくとも1つのウイルスを選択的に害するかまたは損傷するように構成された放射源の第1の機器と、」を、「200nm~230nmの波長範囲の内側の1つ以上の波長を有する前記少なくとも1つの放射を発生させるように構成された放射源の第1の機器であって、200nm~230nmの波長範囲の1つ以上の波長を有する少なくとも1つの放射を用いて、人の呼気または咳からのエアロゾルを照射するように、前記人の呼気または咳からのエアロゾル中の少なくとも1つのウイルスを選択的に害するかまたは損傷するように構成された放射源の第1の機器と、」に訂正する。(請求項1の記載を直接又は間接的に引用する請求項2~13も同様に訂正する。) (2)訂正事項2 特許請求の範囲の請求項14の「エアロゾルを照射するように、そして前記エアロゾル中のうちの少なくとも1つにおいて前記少なくとも1つのウイルスを選択的に害するかまたは損傷するように構成された200nm~230nmの波長範囲の内側の1つ以上の波長を有する少なくとも1つの放射を提供するステップと、」を、「200nm~230nmの波長範囲の1つ以上の波長を有する少なくとも1つの放射を用いて、人の呼気または咳からのエアロゾルを照射するように、そして前記人の呼気または咳からのエアロゾル中のうちの少なくとも1つにおいて前記少なくとも1つのウイルスを選択的に害するかまたは損傷するように構成された200nm~230nmの波長範囲の内側の1つ以上の波長を有する少なくとも1つの放射を提供するステップと、」に訂正する。(請求項14の記載を直接又は間接的に引用する請求項15~22も同様に訂正する。) (3)訂正事項3 特許請求の範囲の請求項23の「200nm~230nmの波長範囲の内側にある少なくとも1つの波長を有する少なくとも1つの放射を用いて、少なくとも1つの細菌または少なくとも1つのウイルスを有するエアロゾルを照射するステップと、」を、「人々が存在しうるシナリオで、200nm~230nmの波長範囲の内側にある少なくとも1つの波長を有する少なくとも1つの放射を用いて、少なくとも1つの細菌または少なくとも1つのウイルスを有する人の呼気または咳からのエアロゾルを照射するステップと、」に訂正する。(請求項23の記載を直接又は間接的に引用する請求項24~31も同様に訂正する。) 3 一群の請求項について 本件訂正前の請求項1~13について、請求項2~13は、請求項1を直接又は間接的に引用しているものであって、訂正事項1によって記載が訂正される請求項1に連動して訂正されるものである。したがって、本件訂正前の請求項1~13に対応する訂正後の請求項1~13は、特許法第120条の5第4項に規定する「一群の請求項」である。 本件訂正前の請求項14~22について、請求項15~22は、請求項14を直接的又は間接的に引用しているものであって、訂正事項2によって記載が訂正される請求項14に連動して訂正されるものである。したがって、本件訂正前の請求項14~22に対応する訂正後の請求項14~22は、特許法第120条の5第4項に規定する「一群の請求項」である。 本件訂正前の請求項23~31について、請求項24~31は、請求項23を直接的又は間接的に引用しているものであって、訂正事項3によって記載が訂正される請求項23に連動して訂正されるものである。したがって、本件訂正前の請求項23~31に対応する訂正後の請求項23~31は、特許法第120条の5第4項に規定する「一群の請求項」である。 4 訂正の適否についての当審の判断 (1)訂正事項1について ア 訂正の目的について 訂正事項1は、「エアロゾルを照射する」ことについて、「200nm~230nmの波長範囲の1つ以上の波長を有する少なくとも1つの放射を用いて、人の呼気または咳からのエアロゾルを照射する」というように、訂正後の請求項1に係る発明を限定するものであるから、当該訂正事項1は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に規定する「特許請求の範囲の減縮」を目的とするものである。 イ 実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更する訂正ではないこと 訂正事項1は、前記アの理由から明らかなように、「エアロゾルを照射する」という発明特定事項を概念的により下位のものにするものであり、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものには該当せず、特許法第120条の5第9項で準用する特許法第126条第6項に適合するものである。 ウ 願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の訂正であること 訂正事項1は、詳細な説明の段落0065の「エアロゾルは、86.9%が0.3と0.5μmとの間、10.9%が0.5と0.7μmとの間、1.9%が0.7と1.0μmとの間、ならびに0.3%が1μm超のサイズであった。(例えば、37.9%の相対湿度および24.6Cにおける)これらのサイズ分布を相対湿度を変えることによって変化させることができて、ヒト呼気および咳からの適切なエアロゾル・サイズの範囲を表すことができる。」との記載に基づいて導き出される構成であるから、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の訂正であり、特許法第120条の5第9項で準用する特許法第126条第5項に適合するものである。 (2)訂正事項2について ア 訂正の目的 訂正事項2は、「エアロゾルを照射する」ことについて、「200nm~230nmの波長範囲の1つ以上の波長を有する少なくとも1つの放射を用いて、人の呼気または咳からのエアロゾルを照射する」というように、訂正後の請求項14に係る発明を限定するものであるから、当該訂正事項2は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に規定する「特許請求の範囲の減縮」を目的とするものである。 イ 実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更する訂正ではないこと 訂正事項2は、前記アの理由から明らかなように、「エアロゾルを照射する」という発明特定事項を概念的により下位のものにするものであり、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものには該当せず、特許法第120条の5第9項で準用する特許法第126条第6項に適合するものである。 ウ 願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の訂正であること 訂正事項2は、詳細な説明の段落0065の「エアロゾルは、86.9%が0.3と0.5μmとの間、10.9%が0.5と0.7μmとの間、1.9%が0.7と1.0μmとの間、ならびに0.3%が1μm超のサイズであった。(例えば、37.9%の相対湿度および24.6Cにおける)これらのサイズ分布を相対湿度を変えることによって変化させることができて、ヒト呼気および咳からの適切なエアロゾル・サイズの範囲を表すことができる。」との記載に基づいて導き出される構成であるから、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の訂正であり、特許法第120条の5第9項で準用する特許法第126条第5項に適合するものである。 (3)訂正事項3について ア 訂正の目的 訂正事項3は、「エアロゾルを照射するステップ」について、「人々が存在しうるシナリオで、200nm~230nmの波長範囲の内側にある少なくとも1つの波長を有する少なくとも1つの放射を用いて、少なくとも1つの細菌または少なくとも1つのウイルスを有する人の呼気または咳からのエアロゾルを照射するステップと、」というように、訂正後の請求項23に係る発明を限定するものであるから、当該訂正事項3は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に規定する「特許請求の範囲の減縮」を目的とするものである。 イ 実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更する訂正ではないこと 訂正事項3は、前記アの理由から明らかなように、「エアロゾルを照射するステップ」という発明特定事項を概念的により下位のものにするものであり、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものには該当せず、特許法第120条の5第9項で準用する特許法第126条第6項に適合するものである。 ウ 願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の訂正であること 訂正事項3は、詳細な説明の段落0065の「エアロゾルは、86.9%が0.3と0.5μmとの間、10.9%が0.5と0.7μmとの間、1.9%が0.7と1.0μmとの間、ならびに0.3%が1μm超のサイズであった。(例えば、37.9%の相対湿度および24.6Cにおける)これらのサイズ分布を相対湿度を変えることによって変化させることができて、ヒト呼気および咳からの適切なエアロゾル・サイズの範囲を表すことができる。」との記載、及び詳細な説明の段落0036の「UV放射は、細菌およびウイルスの両方に対して効果的な、確立された高効率の抗菌モダリティである。しかしながら、発癌性でも白内障誘発性でもあり、ヒト健康上危険な可能性があるため、人々が存在しうるシナリオでUV滅菌を用いることは、一般に実用的でない。」との記載に基づいて導き出される構成であるから、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の訂正であり、特許法第120条の5第9項で準用する特許法第126条第5項に適合するものである。 5 独立特許要件について 前記第1のとおり、本件特許異議の申立ては、本件請求項1~31に係る特許のうち請求項1~31(全請求項)に係る特許に対してなされているので、特許法第120条の5第9項で読み替えて準用する特許法第126条第7項に規定される独立特許要件が課される請求項はない。 6 小括 以上のとおりであるから、本件特許請求の範囲を、本件訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1~13〕、〔14~22〕、〔23~31〕について訂正することを認める。 第3 本件発明及び本件明細書の記載 1 本件発明 前記第2のとおりであるから、本件特許の請求項1~31に係る発明は、訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲の請求項1~31に記載された事項により特定される、次のとおりのものである(請求項1~31に係る発明を、それぞれ「本件発明1」~「本件発明31」といい、まとめて「本件発明」ともいう。)。 「【請求項1】 少なくとも1つの放射を発生させるための装置であって、前記装置は、 200nm~230nmの波長範囲の内側の1つ以上の波長を有する前記少なくとも1つの放射を発生させるように構成された放射源の第1の機器であって、200nm~230nmの波長範囲の1つ以上の波長を有する少なくとも1つの放射を用いて、人の呼気または咳からのエアロゾルを照射するように、前記人の呼気または咳からのエアロゾル中の少なくとも1つのウイルスを選択的に害するかまたは損傷するように構成された放射源の第1の機器と、 前記少なくとも1つの放射が、身体範囲の細胞に有害であり、そして前記波長範囲の外側にある、UVC波長範囲内の任意の波長を有することを防止するように構成された少なくとも1つのフィルタの第2の機器と、 を備える装置。 【請求項2】 前記少なくとも1つの放射は、前記エアロゾル中の少なくとも1つの細菌に選択的に影響を及ぼすかまたはそれを破壊するようにさらに構成された、請求項1に記載の装置。 【請求項3】 前記放射源は、エキシランプを含む、請求項1に記載の装置。 【請求項4】 前記エキシランプは、クリプトン-臭素ランプまたはクリプトン-塩素ランプのうちの少なくとも1つを含む、請求項3に記載の装置。 【請求項5】 前記放射源の第1の機器は、単一波長を有する前記少なくとも1つの放射を発生させるようにさらに構成され、前記少なくとも1つの第2の機器は、前記少なくとも1つの放射が前記単一波長以外の前記UVC波長範囲内の任意の波長を有することを防止するようにさらに構成された、請求項1に記載の装置。 【請求項6】 前記単一波長は、207nmである、請求項5に記載の装置。 【請求項7】 前記単一波長は、222nmである、請求項5に記載の装置。 【請求項8】 前記少なくとも1つの第2の機器は、ケミカルフィルタまたは誘電体のうちの少なくとも1つを含む、請求項1に記載の装置。 【請求項9】 前記1つ以上の波長は、207nm~222nmの範囲を有する、請求項1に記載の装置。 【請求項10】 前記1つ以上の波長は、(i)200~204nm、(ii)205~209nm、(iii)210~214nm、(iv)215~218nm、(v)219nm~223nm、または(vi)224~230nmの範囲を有する、請求項1に記載の装置。 【請求項11】 前記単一波長は、(i)201nm、(ii)202nm、(iii)203nm、(iv)204nm、(v)205nm、(vi)206nm、(vii)208nm、(viii)209nm、(ix)210nm、(x)211nm、(xi)212nm、(xii)213nm、または(xiii)214nmのうちの少なくとも1つである、請求項5に記載の装置。 【請求項12】 前記単一波長は、(i)215nm、(ii)216nm、(iii)217nm、(iv)218nm、(v)219nm、(vi)220nm、(vii)221nm、(viii)223nm、(ix)224nm、(x)225nm、(xi)226nm、(xii)227nm、(xiii)228nm、(xiv)229nm、または(xv)230nmのうちの少なくとも1つである、請求項5に記載の装置。 【請求項13】 前記ウイルスは、Z=0.42m2/Jの感受性パラメータを有する、請求項1に記載の装置。 【請求項14】 少なくとも1つのウイルスを選択的に死滅させるかまたはそれに影響を及ぼすための方法であって、前記方法は、 200nm~230nmの波長範囲の1つ以上の波長を有する少なくとも1つの放射を用いて、人の呼気または咳からのエアロゾルを照射するように、そして前記人の呼気または咳からのエアロゾル中のうちの少なくとも1つにおいて前記少なくとも1つのウイルスを選択的に害するかまたは損傷するように構成された200nm~230nmの波長範囲の内側の1つ以上の波長を有する少なくとも1つの放射を提供するステップと、 前記少なくとも1つの放射が、身体範囲の細胞に有害であり、そして前記波長範囲の外側にある、UVC波長範囲内の任意の波長を有することの実質的な防止をもたらすステップと、を含む方法。 【請求項15】 前記少なくとも1つの放射は、前記エアロゾル中の少なくとも1つの細菌に選択的に影響を及ぼすかまたはそれを破壊するようにさらに構成された、請求項14に記載の方法。 【請求項16】 前記少なくとも1つの放射は、エキシランプによって向けられる、請求項14に記載の方法。 【請求項17】 前記エキシランプは、クリプトン-臭素ランプまたはクリプトン-塩素ランプのうちの少なくとも1つを含む、請求項16に記載の方法。 【請求項18】 単一波長を有する前記少なくとも1つの放射が提供され、前記防止は、前記少なくとも1つの放射が前記単一波長以外の前記UVC波長範囲内の任意の波長を有することを防止する、請求項14に記載の方法。 【請求項19】 前記単一波長は、207nmである、請求項18に記載の方法。 【請求項20】 前記単一波長は、222nmである、請求項18に記載の方法。 【請求項21】 前記もたらす手順は、ケミカルフィルタまたは誘電体のうちの少なくとも1つを利用するステップを含む、請求項14に記載の方法。 【請求項22】 前記ウイルスは、Z=0.42m2/Jの感受性パラメータを有する、請求項14に記載の方法。 【請求項23】 人々が存在しうるシナリオで、200nm~230nmの波長範囲の内側にある少なくとも1つの波長を有する少なくとも1つの放射を用いて、少なくとも1つの細菌または少なくとも1つのウイルスを有する人の呼気または咳からのエアロゾルを照射するステップと、 前記少なくとも1つの放射が前記波長範囲の外側にある、UVC波長範囲内の任意の波長を有することの実質的な防止をもたらすステップと、 を含む方法。 【請求項24】 単一波長を有する前記少なくとも1つの放射が提供され、前記防止は、前記少なくとも1つの放射が前記単一波長以外の前記UVC波長範囲内の任意の波長を有することを防止する、請求項23に記載の方法。 【請求項25】 前記単一波長は、207nmである、請求項24に記載の方法。 【請求項26】 前記単一波長は、222nmである、請求項24に記載の方法。 【請求項27】 前記エアロゾル中の少なくとも1つの細菌または少なくとも1つのウイルスに選択的に影響を及ぼすか、またはそれを破壊するステップをさらに含む、請求項23に記載の方法。 【請求項28】 前記照射手順は、エキシランプによって行われる、請求項23に記載の方法。 【請求項29】 前記エキシランプは、クリプトン-臭素ランプまたはクリプトン-塩素ランプのうちの少なくとも1つを含む、請求項28に記載の方法。 【請求項30】 前記もたらす手順は、ケミカルフィルタまたは誘電体のうちの少なくとも1つを利用するステップを含む、請求項23に記載の方法。 【請求項31】 前記ウイルスは、Z=0.42m2/Jの感受性パラメータを有する、請求項23に記載の方法。」 2 本件明細書の記載 本件明細書には次の記載がある。 「【0007】 例示的なエキシランプ創傷照射は、空気伝搬または表面接触を通じてのウイルス伝播を著しく低減するための実用的で安価なアプローチを容易にすることができる。本開示のある例示的な実施形態によれば、例えば、ヒト細胞と比べて、差別的にメチシリン耐性黄色ブドウ球菌(「MRSA:Methicillin-resistant Staphylococcus aureus)を損傷するかおよび/または死滅させることができる、およそ207nm~約222nmのUV放射を提供できる。従来型殺菌UVランプは、MRSAおよびヒト細胞をほぼ等しく効率的に死滅させることができるが、対照的に、エキシランプからの例示的な207~222nmのUV波長は、ヒト細胞を死滅させるのと比べてMRSAをおよそ5000倍より効率的に死滅させることができる。 【0008】 本開示のある例示的な実施形態によれば、放射(単数または複数)を発生させるための装置および方法を提供できる。ある例示的な実施形態によれば、本例示的な装置および/または方法は、選択的に表面上またはエアロゾル中の細菌および/またはウイルス(単数または複数)を死滅させるかおよび/またはそれらに影響を及ぼすことができる。例えば、約190ナノメートル(「nm」)~約230nmの範囲内に提供された1つ以上の波長を有する放射(単数または複数)を発生させるように構成された放射源の第1の機器と、放射(単数または複数)がその範囲外にありうる任意の波長を有することを実質的に防止するように構成された第2の機器(単数または複数)とを設けることができる。選択的に表面上またはエアロゾル中の細菌および/またはウイルス(単数または複数)に影響を及ぼすかまたはそれらを破壊して、一方では体の細胞への害を実質的に回避するように放射を構成できる。放射源は、例えば、クリプトン-臭素ランプまたはクリプトン-塩素ランプのような、エキシランプを含むことができる。加えて、放射源の第1の機器をその範囲内に提供された単一波長を有する放射(単数または複数)を発生させるようにさらに構成できて、第2の機器(単数または複数)を放射がその単一波長以外の任意の波長を有することを防止するようにさらに構成できる。単一波長は、約207nm、および/または約222nmとすることができる。さらにまた、第2の機器(単数または複数)は、ケミカルフィルタまたは誘電体フィルタを含むことができる。」 「【0017】 異なる波長の紫外(「UV:Ultra violet」)放射は、細胞中へ侵入する異なる能力を有しうる。典型的に、高波長なほど放射が侵入しやすく、低波長なほど放射が侵入しにくい。例えば、約200nmの低波長をもつUV放射は、かなり効率的に水を通過することが可能であるが、ヒト細胞の外側部分(例えば、細胞質、例として図2中の例示的な線図を参照)で強く吸収できて、生物学的に感受性の高い細胞核へ到達するのに十分なエネルギーを有しえない。図1は、典型的な水銀UVランプによって発生したUV波長の例示的なスペクトルのグラフを示す。 【0018】 細菌またはウイルスは、典型的にヒト細胞より物理的にはるかにより小さいため、図2の例示的な線図に示すように、およそ200nmのUV放射の限られた侵入能力を細菌またはウイルスを死滅させるために用いることができる。具体的には、典型的な細菌細胞が直径約1マイクロメートル(「μm」)未満であり、典型的なウイルスが約20nm~約400nmに変動しうるのに対して、ヒト細胞は、細胞のタイプおよび部位に依存して、典型的に直径が約10~30μmである。従って、ヒト細胞を害することなく、H1N1、SARS-CoVおよびMERS-CoVのような一般的なウイルス、ならびにデング熱およびエボラを含む極めて危険なウイルスの空気伝搬および表面に基づく伝播を最小限に抑えるために、本開示の例示的な実施形態による、例示的なシステム、方法およびコンピュータアクセス可能媒体を用いることができる。 【0019】 特に、図2は、球状ジオメトリー202または扁平ジオメトリー204を有する典型的なヒト細胞核の線図を示し、およそ200nmの波長をもつUV放射のヒト細胞中への侵入を説明する。図2に示すように、この波長のUV放射は、放射感受性の高いDNAを含む細胞核202および204に好んで到達することは実質的にない。このため、この波長のUV放射は、典型的にヒト細胞またはヒトにとって有害ではないであろう。加えて、およそ200nmの波長をもつUVが典型的にヒトにとって有害にはならない生物学的理由がありうる。約185nm以下では、UV放射は、オゾンおよび酸化的損傷を生じさせながら、酸素によって非常に効率的に吸収されうる。約240nm超では、UV放射は、酸化的DNA塩基損傷を生じさせるのに非常に効率的でありうる。(例えば、参照文献96および97を参照)。従って、200nm波長のUV放射は、狭いUV「安全窓」内にありうる。対照的に、ウイルスは、典型的にヒト細胞よりサイズが物理的にずっとより小さいため、およそ200nmの波長をもつUV放射がウイルスを貫通して、それゆえにそれらを死滅させることができる。」 「【0023】 本開示の例示的な実施形態は、隣接するヒト細胞をとっておく一方で細菌を差別的に死滅させるために、約207nmまたは約222nmの単一波長のUV放射を放出する、エキシランプを供給できる。さらにまた、本開示のさらなる例示的な実施形態によれば、UV放射の波長(単数または複数)を約190nm~約230nmの範囲内、または約200nm~約230nmの範囲内とすることができる。本開示の実施形態を実装する例示的な実験は、インビトロ(例えば、実験室)3Dヒト皮膚システム(例えば、参考文献49および98を参照)、インビボ安全基準に関するヌードマウスモデル、および/またはインビトロ創傷感染モデルを含むことができる。(例えば、参考文献99を参照)。」 「【0063】 インフルエンザウイルス不活化に関する例示的な効力最適化研究 標準的なプラークアッセイを最適化して、UV曝露後のH1N1インフルエンザウイルスの生存率を測定するために用いた。ウイルスの表面上を照射した後に、例示的な生存率(「S」)結果を、207nmのUV放射曝露および従来型殺菌ランプ曝露の両方について、標準的な(例えば、参考文献29を参照)指数関数モデルS=exp(-Z)にフィッティングした、ここではUVフルエンスがありえ、Zは、いわゆる「感受性」パラメータとすることができる。従来型殺菌ランプのプラーク形成単位(「PFU:plaque forming unit」)データから、先に用いられた範囲のZ=0.32m2/Jの感受性パラメータ値を導出した。(例えば、参考文献29を参照)。207nmのデータから、H1N1インフルエンザウイルスを不活化するために207nmのUV放射が従来型殺菌ランプよりさらにいっそう効果的でありうることを示唆する、Z=0.42m2/Jの感受性パラメータ値を導出した。」 「【0064】 ベンチトップ・エアロゾルUV曝露チャンバの例示的な設計、構築および使用 図14中の画像に示す、ベンチトップ・エアロゾル曝露チャンバを設計し、構築した。エアロゾル発生モジュール1405は、飽和/乾燥空気および衝突-ネブライザー入力部を有し、液滴分散用の一連の内部バッフルを有する。エアロゾル発生チャンバ内の状態を温度および湿度計がモニタでき、その後にエアロゾルをUV曝露モジュールを通して流すことができて、UV曝露モジュールは、UV照射器側に300×275mmのシリカ石英窓1410を有し、向こう側にはUVC放射計によってUV放射照度をモニタするための石英ポートを有する。エアロゾルは、流速に依存する時間にわたってUVフィールド中に存在でき、その時間が次にはUV放射線量を決定できて、ランプを窓に近付けるか、または窓から遠ざけることによってその時間を調整することもできる。パーティクルサイザー(particle sizer)がUV照射体積中のエアロゾルのサイズ分布を測定できる。エアロゾルをアウトプット・ポートを通してサンプリング・モジュール1415中の2つのBioSamplerへ引き込むことができる。」 「【0105】 図18は、本開示の例示的な実施形態による選択的にウイルスを死滅させるかまたはそれに影響を及ぼすための例示的な方法の例示的なフロー図を示す。例えば、手順1805では、選択的に表面上またはエアロゾル中のウイルスを害するかまたは損傷するように構成できる1つ以上の波長を有する放射を提供できる。代わりに、または加えて、手順1805では、約200nmと約230nmとの間の範囲内にありうる1つ以上の波長を有する放射を用いて、ウイルスをその中に有する特定のサイズの空気量を照射することができる。手順1810では、放射が体の細胞にとって実質的に有害でありうる任意の波長(例えば、約200nmと約230nmとの間の範囲外にある波長)を有することを、手順1815において、実質的に防止できるようにフィルタを設けることができる。」 第4 特許異議の申立ての理由及び取消理由の概要等 1 申立理由 (1)申立理由1(甲第1号証を主たる引用例とした進歩性欠如) 本件発明1~31は、甲第1号証に記載された発明及び甲第1号証~甲第4号証に記載された技術事項に基いて、その発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者(以下「当業者」という。)が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない発明であり、それらの発明に係る特許は特許法第29条第2項の規定に違反して特許されたものであるから、同法第113条第2号に該当し、取り消されるべきものである。 (2)申立理由2(明確性要件違反) 本件発明1、14及び23の「エアロゾルを照射する」を実現する構成が明確でない点、本件発明1及び14の「前記エアロゾル中の少なくとも1つのウイルスを選択的に害するかまたは損傷するように構成」が明確でない点、本件発明1及び14の「身体範囲の細胞に有害」である波長範囲が明確でない点、並びに本件発明13、22及び31の「ウイルス」をターゲットとした場合の構成が明確でない点で特許請求の範囲の記載が不備のため、特許法第36条第6項第2号に適合するものでないから、それらの発明に係る特許は、同法第36条第6項の規定を満たしていない出願に対してされたものであり、同法第113条第4号の規定により取り消されるべきものである。 2 当審が通知した取消理由の概要 令和5年9月28日付けの取消理由通知及び令和6年4月30日付けの取消理由通知(決定の予告)の概要は次のとおりである。 取消理由(甲1を主たる引用例とした進歩性欠如) 本件発明1~31は、甲第1号証に記載された発明、甲第1号証に記載された技術事項及び周知技術に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない発明であり、それらの発明に係る特許は特許法第29条第2項の規定に違反して特許されたものであるから、同法第113条第2号に該当し、取り消されるべきものである。 第5 証拠方法及びその記載事項 1 証拠方法 (1)特許異議申立書と共に申立人が提示した証拠(以下、申立人が提示した甲第1号証~甲第4号証を「甲1」~「甲4」という。) 甲1:米国特許出願第2015/0073396号明細書 甲2:中村宏(外1名)、“微生物エアロゾルの挙動と不活性化”、エアロゾル研究、日本エアロゾル学会、1986年、第1巻、第3号、p.169-178 甲3:平山秀樹(外2名)、“AlGaN系深紫外LEDの進展”、電気学会論文誌C(電子・情報・システム部門誌)、一般社団法人電気学会、2013年、第133巻、第8号、p.1443-1448 甲4:常喜貴法(外6名)、“紫外線消毒によるウイルス不活性化の波長依存性”、光技術情報誌「ライトエッジ」、ウシオ電機株式会社、2012年10月、第38号 (2)当審が職権で追加した証拠 文献A:D. Sliney, “Balancing the Risk of Eye Irritation from UV-C with Infection from Bioaerosols”, Photochemistry and Photobiology, 2013年、Vol.89, p.770-776 文献B:JJ. McDevitt, et al., “Aerosol Susceptibility of Influenza Virus to UV-C Light. Applied and Environmental Microbiology”, 2012年、Vol.78, p.1666-1669(技術常識を示すために新たに追加した文献) 文献C:“結核菌検査に関するバイオセ-フティマニュアル”,第2版,日本結核病学会・日本臨床微生物学会・日本臨床衛生検査技師会,(「結核」Vol.80 No.6 June 2005 付録を改訂:2007.8.10),<URL:https://www.kekkaku.gr.jp/manual/manual.html>(技術常識を示すために新たに追加した文献) (3)特許権者が意見書と共に提示した証拠(以下、特許権者が提示した乙第1号証~乙第3号証を「乙1」~「乙3」という。) 乙1:「シリーズ 判決紹介」、特技懇2010.1.29. no.256、p113-116 乙2:「バイオエアロゾルのメタゲノム解析」、Earozoru Kenkyu, 25(1), 29-34(2010) 乙3:Buonanno, M. et al. Far-UVC light (222 nm) efficiently and safely inactivates airborne human coronaviruses. Scientific Reports, 10:10285 (2020) 2 証拠方法の記載事項 甲1~甲4、文献A~Cの記載は次のとおりである。なお、乙1~乙3の摘記は省略する。 (1)甲1には、次の記載がある。なお、摘記事項の後ろに当審の仮訳を掲載した。 「 [図:0001422376000001.jpg] [図:0001422376000002.jpg] [図:0001422376000003.jpg] [図:0001422376000004.jpg] (特許請求の範囲 1.少なくとも1つの放射線を発生させるための装置であって、約190nmから約230nmの波長範囲の内側の1つ以上の波長を有する前記少なくとも1つの放射を発生させるように構成された放射源の第1の機器と、少なくとも1つの放射が前記波長範囲の外側にある任意の波長を有することを実質的に防止するように構成された第2の機器と、を備える装置。 2.前記少なくとも1つの放射は、身体の細胞への損傷を実質的に回避しながら、身体上または身体内の少なくとも1つの細菌に選択的に影響を及ぼすか又はそれを破壊するように構成された、請求項1に記載の装置。 3.前記放射源は、エキシランプを含む、請求項1に記載の装置。 4.前記エキシランプは、クリプトン-臭素ランプまたはクリプトン-塩素ランプのうち少なくとも1つを含む、請求項3に記載の装置。 5.前記放射源の第1の機器は、前記波長範囲の単一波長を有する前記少なくとも1つの放射線を発生させるようにさらに構成され、前記少なくとも1つの第2の機器は、前記少なくとも1つの放射が前記単一波長以外の任意の波長を有することを防止するようにさらに構成された、請求項1に記載の装置。 6.前記単一波長は、約207nmである、請求項5に記載の装置。 7.前記単一波長は、約222nmである、請求項5に記載の装置。 8.前記少なくとも1つの第2の機器は、ケミカルフィルタまたは誘電体のうちの少なくとも1つを含む、請求項1に記載の装置。 9.少なくとも1つの細菌を選択的に死滅させるかまたはそれに影響を及ぼすための方法であって、前記方法は、約190nmから約230nmの波長範囲の内側の1つ以上の波長を有する少なくとも1つの放射を提供し、前記少なくとも1つの放射が前記波長範囲の外側にある任意の波長を有することの実質的な防止をもたらす、ことを含む方法。 10.前記少なくとも1つの放射は、身体の細胞への損傷を実質的に回避しながら、身体上または身体内の少なくとも1つの細菌に選択的に影響を及ぼすかまたはそれを破壊するように構成された、請求項9に記載の方法。 11.前記少なくとも1つの放射は、エキシランプによって向けられる、請求項9に記載の方法。 12.前記エキシランプは、クリプトン-臭素またはクリプトン-塩素ランプのうちの少なくとも1つを含む、請求項11に記載の方法。 13.前記少なくとも1つの放射は、前記波長範囲の単一波長を有するように提供され、前記防止は、前記少なくとも1つの放射が前記単一波長以外の任意の波長を有することを防止する、請求項9に記載の方法。 14.前記単一波長は、約207nmである、請求項13に記載の方法。 15.前記単一波長は、約222nmである、請求項13に記載の方法。 16.前記もたらす手順は、ケミカルフィルタまたは誘電体のうちの少なくとも1つを利用することを含む、請求項0に記載の方法。(当審注:「請求項0」は「請求項9」の誤記であると理解した。) 17.少なくとも1つの放射を発生させるための装置であって、(i)約190nmから約230nmの波長範囲の内側の1つ以上の波長を有する前記少なくとも1つの放射を提供し、(ii)前記波長範囲の外側である任意の波長を有することを実質的に防止する、方法。)」 「 [図:0001422376000005.jpg] ([0029]異なる波長の紫外線は、細胞中に侵入する能力を異にしうる。典型的に、高波長なほど紫外線が侵入しやすく、低波長なほど紫外線が侵入しにくい。例えば、約200nmの低波長をもつ紫外線は、かなり効率的に水を通過することが可能であるが、ヒト細胞の外側部分(例えば、細胞質、例として図2を参照)で強く吸収できて、生物学的に感受性の高い細胞核へ到達するのに十分なエネルギーを有しえない。)」 「 [図:0001422376000006.jpg] [図:0001422376000007.jpg] [図:0001422376000008.jpg] ([0031]特に、図2は、球状ジオメトリー202または扁平ジオメトリー204を有する典型的なヒト細胞核の線図を示し、およそ200nmの波長をもつ紫外線のヒト細胞中への侵入を説明する。図2に示すように、この波長のUVは、放射感受性の高いDNAを含む細胞核202および204に好適にも到達することは実質的にない。このため、この波長の紫外線は、典型的にヒト細胞またはヒトにとって有害ではないであろう。加えて、およそ200nmの波長をもつUVが典型的にヒトにとって有害にはならない生物学的理由がありうる。約185nm以下では、UVは、酸素によって非常に効率的に吸収されて、オゾンおよび酸化的損傷を生じさせうる。約240nm超では、UVは、酸化的DNA塩基損傷を生じさせるのに非常に効率的でありうる(例えば、・・・参照。)。従って、200nm波長のUVは、狭いUV「安全窓」内にありうる。対照的に、細菌は、典型的にヒト細胞よりサイズが物理的にずっとより小さいため、およそ200nmの波長をもつ紫外線が細菌を貫通して、それゆえにそれらを死滅させることができる。 [0032]本開示の例示的な実施形態によれば、1つ以上のUVエキシランプを利用することが可能であり、これらの光源は、標準的なUVランプとは対照的に、特定の波長、例えば、およそ200nmにおいて紫外線を生成できる。かかる例示的な波長近くの(例えば、本明細書に記載するような単一波長またはある波長の範囲内の)紫外線は、細菌に侵入してそれらを死滅させることができるが、ヒト細胞の核中へ好ましくは侵入せず、従って、患者およびスタッフの両方に対して安全であると期待できる。 例示的なエキシランプUV照射器 [0033]例示的なエキシランプ技術は、シベリアのトムスクにある高電流電子研究所(IHCE)で開発された特定の例示的な概念を利用することができる・・・上記の考察に基づいて、本開示の例示的な実施形態は、例えば、約207nmのUVを生成できるクリプトン-臭素ランプ(例えば、エキシランプ)、または約222nmのUVを生成できるクリプトン-塩素臭素ランプ(図3)を用いることができる。別の例示的なエキシランプは約206nmのUVを生成することができる。・・・)」 「 [図:0001422376000009.jpg] ([0036]本開示のある例示的な実施形態を実装する例示的な実験では、例えば、例示的なUV光源から例示的な予備滅菌結果を集めるために例示的なテストベンチを開発した。例えば、例示的なテストベンチは、a)遮光ボックス、b)シャッタ制御、c)フィルタホルダ、および、d)時間、距離および波長(例、207nm KrBrエキシランプ、222nm KrClエキシランプ、および254nm標準殺菌ランプ)について調製可能な曝露パラメータを含むことができる。加えて、最適な単一波長曝露を提供すべくエキシランプ放出スペクトル中の高い方の波長成分を除去するために、例示的なカスタムフィルタを設計できる。UV分光計および重水素ランプ(例、装置キャリブレーション用)を用いて、例えば、KrBrおよびKrClエキシランプの両方についてエキシランプ放出(赤-602aおよび602b)をフィルタありのエキシランプ放出(青-要素604aおよび604b)と比較した正規化スペクトルが図示された、図6(a)および図6(b)に示されるように、フィルタの有効性を確認することができる。この例示的なテストベンチは、例えば、以下に記載する、細菌および健康なヒト細胞の両方へのフィルタありのエキシランプ曝露の生物学的知見の発生を容易にした。次に、例示的な生物学的試験の経験がフィルタありのKrBrおよびKrClエキシランプを臨床応用に最適のデバイスへ発展させるための例示的なパラメータについて詳細を提供した。)」 「 [図:0001422376000010.jpg] ([0042]例示的な207nm光は、ヒトの細胞を殺すよりもはるかに効率的にMRSAを死滅させることができる。たとえば、約207nmのフルエンスでは、その光は4logのMRSA細胞死滅を生じさせることができ、ヒト細胞における細胞死滅の10年よりはるかに少ない。207nm光の結果とは対照的に、従来の殺菌ランプ910はMRSAを効率的に殺すことができるが、従来の殺菌ランプはヒトの細胞を殺すのにもほぼ同じ効率がある。定量的に言えば、4logレベルのMRSA死滅の場合、207nmUV光は従来の殺菌UVCランプよりもヒト細胞の死滅を約1000分の1に抑えることができる。)」 「 [図:0001422376000011.jpg] [図:0001422376000012.jpg] ([0048]手術環境における直接的な殺菌用途に加えて、例示的な207nmのUV光は、空気型病原体感染(例えば、結核またはパンデミックインフルエンザ)の可能性が高い、いかなる空気環境をも継続的に処置するために用いることができる。室内上部UV照射システムは、従来型の広域スペクトルUVランプに基づいて、長年検討されてきた(例、・・・参照)、そして、ある程度の有望性を示している(例、・・・参照)。しかしながら、潜在的な低レベルの広域スペクトルUV露光に関する安全性の懸念から、その使用は部分的であり、広く使用されていない(例、・・・Sliney D (2013) Balancing the risk of eye irritation from UV-C with infection from bioaerosols.(UV-Cによる目の炎症のリスクと、バイオエアロゾルによる感染のバランス) Photochem Photobiol 89: 770-776(当審注:前記文献Aである。)参照)。」 (2)甲2には、次の記載がある。 「 [図:0001422376000013.jpg] [図:0001422376000014.jpg] 」(第169頁左欄第1行~右欄第6行) 「 [図:0001422376000015.jpg] [図:0001422376000016.jpg] 」(第173頁右欄第11行~第174頁左欄第12行) (3)甲3には、次の記載がある。 「 [図:0001422376000017.jpg] 」(1.はじめに 第1443頁左欄第1~11行) 「 [図:0001422376000018.jpg] [図:0001422376000019.jpg] 」(4.220-350nm帯DUV-LEDの実現 第1445頁右欄第14~27行、図7 第1446頁) (4)甲4には、次の記載がある。 「 [図:0001422376000020.jpg] 」(1.背景~2.実験方法) 「 [図:0001422376000021.jpg] 」(4.考察~5.結論) (5)文献Aには、次の記載がある。なお、摘記事項の後ろに当審の仮訳を掲載した。 「 [図:0001422376000022.jpg] (短波長の紫外線(UV)放射線を効率的な殺菌剤にするまさにその側面(光毒性)が、紅斑(皮膚の赤い斑点)や光線角膜炎(「溶接工のフラッシュ」または「雪目」)といった望ましくない副作用の原因にもなります。この短波長の紫外線に過剰にさらされると、皮膚や目の非常に軽い刺激からかなり痛みを伴う光角膜炎まで、望ましくない副作用が生じる可能性があります。幸いなことに、これらの影響は一時的なもので、目の表面の細胞(角膜上皮)と皮膚の最も表面の層(表皮)のみが大きな影響を受けます。これらの細胞の正常な代謝回転により、これらの影響の兆候や症状はすぐに消去されます。UV-Cバンドの放射エネルギーは浸透深さが非常に浅いため、過度の曝露による皮膚や眼への損傷は非常に表面的であり、遅延効果のリスクが最小限に抑えられ、同時にバイオエアロゾルによる強力な吸収が行われる。人間のUV-C曝露に関するガイドラインは、部屋の上部の紫外線殺菌照射における殺菌効果を制限しないように賢明に適用されなければならない。)」(要旨) (6)文献Bには、次の記載がある。なお、摘記事項の後ろに当審の仮約を掲載した。 「 [図:0001422376000023.jpg] (現代科学はインフルエンザウイルスが人から人へ拡散する様式について継続的に研究し、理解してきている。インフルエンザウイルスは、空気中の微細なエアロゾルを介して感染するのか、大きな飛沫にさらされて感染するのか、媒介物と接触して感染するのかについては議論がある(3,29)。感染経路を理解することは、最善の対策を実施する上で非常に重要である。微細なエアロゾルを介したインフルエンザの空気感染を示す証拠は数多くある。インフルエンザのエアロゾルは、実験室での実験で感染力を維持することが示されている。また、動物やヒトボランティアの研究でも、インフルエンザのエアロゾル感染が起こることが示されている(1,17)。インフルエンザ核酸は、インフルエンザウイルスに感染した人の呼気中の微粒子と関連付けられており (2,7,15,16)、ヒト疫学研究では、インフルエンザの感染が空気感染経路と関連付けられている (20,23)。そのため、インフルエンザの感染を防ぐための対策は、咳エチケット、手指衛生、社会的距離の確保といった従来の常識を超える必要がある。感染性微粒子は終末沈降速度が非常に低いため、気流に乗って漂い、何時間も空中に留まることが予想される。効果的であると提案されている対策の1つは、天井近くに設置された特殊なランプから放射されるUV-C光とも呼ばれる紫外線である。)」(1666頁左欄第16~36行) 「 [図:0001422376000024.jpg] (私たちの研究でインフルエンザエアロゾルについて決定されたZ値は、インフルエンザが室内上部UV-Cシステムの曝露中に効果的に不活化されることを示唆している。インフルエンザウイルスについて報告されたZ値は、結核菌について報告されたZ値の範囲内である。室内上部UV-Cシステムは、実験室での研究で非常に効果的であることが示されており、結核への曝露を制御するために用いることが提案されている(6,12,21,24,27)。インフルエンザのZ値は、炭疽菌などの丈夫な胞子について報告された値よりもはるかに高いものであった(すなわち、インフルエンザはUV-Cに高感受性である)(表2)(4,14)。」(第1667頁、RESULTS) (7)文献Cには次の記載がある。 「7.紫外線灯の殺菌効果 (1)紫外線の性質と作用 紫外線の殺菌作用は260nm付近の短波長が最も強い。市販の殺菌灯は,253.7nm付近の波長を照射できる。殺菌灯の構造は蛍光灯と類似しているが,灯管には石英ガラスを使用している。殺菌線量は放射照度(μW/cm2)に照射時間(分,秒)を乗じて表す。 殺菌灯と被照射体の距離が離れたり,低温下では照射エネルギーが低下する。紫外線は直進作用があり,物体の内部には透過しない。したがって,紫外線は表面殺菌の効果しかない。安全キャビネット(クラスII)に殺菌灯を用いるときは,放射照度40μW/cm2が必要とされている(NSF基準)。紫外線灯の殺菌効果は十分信頼しうるものと考えられるが「効果は照射距離の2乗に反比例する」ので,なるべく対象に近づける必要がある7)。 殺菌灯は室温20℃で無風時にランプ表面が約40℃となり,殺菌効果が良く,相対湿度が60~70%RH(relative humidity)になると殺菌効果が低下する。これ以下では変動は少ないとされている8)。 紫外線の殺菌作用は,分子の励起によって不平衡状態ないしは反応性増大の状態になり,微生物の核タンパク質構造が変化し死滅すると考えられている。同時に,紫外線は微生物細胞の染色体上で“不可逆性のcyclobutane型・thymine2量体”を形成させて,遺伝的変異を惹起することにより殺菌作用を示すことも知られている。 (2)結核菌と非結核性抗酸菌に対する紫外線灯の殺菌効果 結核菌も他の細菌と同じく,太陽光線中の紫外線に対しては比較的抵抗力が弱い。しかし,紫外線は水やガラスに吸収されるので,菌浮遊液による実験の場合は液層や液量,濃度が問題となる。 喀痰中の結核菌については古くから多くの成績があるが,喀痰をできるだけ薄く塗りつけた場合,2~3時間から7時間の直射日光曝露で死滅するとされている。したがって,衣類や寝具の滅菌は日光消毒によるのが最も簡便確実である(患者の用いたものは表裏を半日ずつ強い直射日光に当てれば十分滅菌の目的は果たしうる15))。 室内の消毒を目的として紫外線灯を殺菌灯として用いるのは効果的であり,できれば近接移動照射が可能であれば効果はより確実である。ただし,遮蔽物の陰になる部分では効果がないので,その点に留意する必要がある。 市販の殺菌灯は10W50cmの距離で,液層5mmの0.1mg/mlの結核菌は3分で培養不能となり,同じく10W75cmの距離で,ガラス管中の1mg/mlの結核菌は10分で全く集落の形成が認められず,1分ごとに培養してみると対数直線で生菌単位数が減少したとの報告がある。他方,紫外線の抗酸菌に対する殺菌効果は,結核菌ないし哺乳動物の抗酸菌種に強く,自然界由来の抗酸菌では弱いことが知られている15)。 ・・・ 19.結核菌の感染菌量・感染経路 (1)感染菌量 感染を起こすのに,どのくらいの数の病原体が必要であるかは感染を考えるうえで大切な因子であり,病原体の種類によって非常に異なる。顕性感染を起こすのに必要な病原体の数を「感染量」といい,実験動物では,被検動物の半数を発症させる病原体の数(50%感染量,ID50)が定量的表現として用いられる。ヒトの場合,感染量を正確に決定することはほとんどできないので,一部の病原体についておよその目安になる数値があるにすぎない。結核菌の場合「10個以下」であることが知られている1)。 (2)感染経路 第一に,結核菌の感染は病原体を含んだ空気中を漂う微粒子(直径5μm以下,飛沫核と呼ぶ)や塵埃を吸い込んで呼吸器から感染する「空気感染(飛沫核感染)」である。感染対策の中で,飛沫感染や空気感染により呼吸器を侵入門戸として感染する病原体に対する対策が最も困難であるとされている9)。自然感染において空気感染する結核菌が検査室でエアロゾル感染を起こしやすいのは当然である。完全な防御には気密性の防護服と高性能マスクの使用等が感染防止対策で重要な点である1)。 第二に,エアロゾルが器具や実験台の表面に付着した後,手指を汚染し,これが経口感染や結膜経由の感染につながる可能性も考えておく必要がある。これに対しては,手洗いの励行が最も有効な手段である。 過去に起こった実験室感染の大半の例では,特別なアクシデントもなく,「ただ病原体を扱っていた」,あるいは「病原体を扱う研究室で働いていた」というだけで感染が起こっている。このような場合には,実験操作により病原体を含む液体微粒子(エアロゾル)が発生し,それを吸い込むことにより呼吸器から感染したと考えられている。したがって,エアロゾル対策は検査室感染防止で特に重視されるが,エアロゾル感染は自然条件下での飛沫感染および空気感染と同様に防止が最も困難であり,検査室感染が根絶できない最大の原因となっている1)11)22)~25)。これまで,事故の報告例は顕性感染,すなわち発病例にほぼ限られており,感染したが発病には至らない不顕性感染の頻度を系統的に調べるなどの試みもほとんどなされていない。そして,臨床検査技師が検査室内感染を起こす例が少なくないという事実は,慣れからくる油断や手抜きがあることを示唆する1)11)22)~25)(参考資料1,参考資料2)。 一見して平凡で当然なことに見える事柄を,きちんと遵守することが大切である。手馴れた手法に固執しないことである。」 第6 当審の判断 1 取消理由通知(決定の予告)に記載した取消理由(甲1を主たる引用例とした進歩性欠如)について (1)甲1に記載された発明 ア 甲1(前記第5の2(1)参照。)の請求項1を引用する請求項5には、「少なくとも1つの放射を発生させるための装置であって、約190nmから約230nmの波長範囲の内側の1つ以上の波長を有する前記少なくとも1つの放射を発生させるように構成された放射源の第1の機器と、少なくとも1つの放射が前記波長範囲の外側にある任意の波長を有することを実質的に防止するように構成された第2の機器と、を備える装置」であって、「前記放射源の第1の機器は、前記波長範囲の内側の単一波長を有する前記少なくとも1つの放射を発生させるようにさらに構成され、前記少なくとも1つの第2の機器は、前記少なくとも1つの放射が前記単一波長以外の任意の波長を有することを防止するようにさらに構成された、装置」が記載されている。 また、甲1の請求項1を引用する請求項5を引用する請求項6または請求項7には、「前記単一波長は約207nm」または「前記単一波長は約222nm」である装置が記載されている。 すると、甲1には次の発明(以下「甲1A発明」、「甲1B発明」という。)が記載されているものと認められる。 (甲1A発明) 「少なくとも1つの放射線を発生させるための装置であって、前記装置は、約190nmから約230nmの波長範囲の内側の約207nmの単一波長を有する少なくとも1つの放射を生成するように構成された放射源の第1の機器と、前記少なくとも1つの放射が前記単一波長以外の任意の波長を有することを実質的に防止するように構成されている少なくとも1つの第2の機器と、を備える装置」 (甲1B発明) 「少なくとも1つの放射線を発生させるための装置であって、前記装置は、約190nmから約230nmの波長範囲の内側の約222nmの単一波長を有する少なくとも1つの放射を生成するように構成された放射源の第1の機器と、前記少なくとも1つの放射が前記単一波長以外の任意の波長を有することを実質的に防止するように構成されている少なくとも1つの第2の機器と、を備える装置」 イ 甲1の請求項9を引用する請求項13には、「少なくとも1つの細菌を選択的に死滅させるかまたはそれに影響を及ぼすための方法であって、前記方法は、約190nmから約230nmの波長範囲の内側の1つ以上の波長を有する少なくとも1つの放射を提供し、前記少なくとも1つの放射が前記波長範囲の外側にある任意の波長を有することの実質的な防止をもたらす、ことを含む方法」であって、「前記少なくとも1つの放射は、前記波長範囲の内側の単一波長を有するように提供され、前記防止は、前記少なくとも1つの放射が前記単一波長以外の任意の波長を有することを防止する、方法」が記載されている。 また、甲1の請求項9を引用する請求項13を引用する請求項14または請求項15には、「前記単一波長は約207nm」または「前記単一波長は約222nm」である方法が記載されている。 すると、甲1には次の発明(以下「甲1C発明」、「甲1D発明」という。)が記載されているものと認められる。 (甲1C発明) 「少なくとも1つの細菌を選択的に死滅させるかまたはそれに影響を及ぼすための方法であって、前記方法は、約190nmから約230nmの波長範囲の内側の約207nmの単一波長を有する少なくとも1つの放射を提供し、前記少なくとも1つの放射が前記単一波長以外の任意の波長を有することの実質的な防止をもたらす、方法」 (甲1D発明) 「少なくとも1つの細菌を選択的に死滅させるかまたはそれに影響を及ぼすための方法であって、前記方法は、約190nmから約230nmの波長範囲の内側の約222nmの単一波長を有する少なくとも1つの放射を提供し、前記少なくとも1つの放射が前記単一波長以外の任意の波長を有することの実質的な防止をもたらす、方法」 (2)対比・判断 ア 本件発明1 (ア)対比 本件発明1と甲1A発明、甲1B発明を対比すると、甲1A発明における「約207nmの単一波長」、甲1B発明における「約222nmの単一波長」は、いずれも本件発明1における「200~230nmの波長範囲の内側の1つ以上の波長」に相当する。また、甲1A発明、甲1B発明における「前記単一波長以外の任意の波長」は、それぞれ、甲1A発明における約207nm、甲1B発明における約222nm以外の任意の波長であり、200nm~230nmの波長範囲の外側にあるUVC波長範囲内の任意の波長を含むことが明らかであるから、甲1A発明、甲1B発明における「前記単一波長以外の任意の波長を有することを実質的に防止するように構成されている少なくとも1つの第2の機器」は、本件発明1における「身体範囲の細胞に有害であり、そして前記波長範囲の外側にあるUVC波長範囲内の任意の波長を有することを防止するように構成された第2の機器」に相当する。 すると、本件発明1と甲1A発明または甲1B発明の一致点及び相違点は、次のとおりである。 <一致点> 「少なくとも1つの放射を発生させるための装置であって、前記装置は、 200nm~230nmの波長範囲の内側の1つ以上の波長を有する前記少なくとも1つの放射を発生させるように構成された放射源の第1の機器と、 前記少なくとも1つの放射が、身体範囲の細胞に有害であり、そして前記波長範囲の外側にある、UVC波長範囲内の任意の波長を有することを防止するように構成された第2の機器と、 を備える装置。」 <相違点1> 本件発明1では、第1の機器の放射源が「200nm~230nmの波長範囲の1つ以上の波長を有する少なくとも1つの放射を用いて、人の呼気または咳からのエアロゾルを照射するように、前記人の呼気または咳からのエアロゾル中の少なくとも1つのウイルスを選択的に害するかまたは損傷するように」構成されたものであるのに対し、甲1A発明又は甲1B発明では、「約190nmから約230nmの波長範囲の内側の約207nm又は約222nmの単一波長を有する少なくとも1つの放射」を用いるように構成されたものである点 <相違点2> 本件発明1では、第2の機器における任意の波長の防止手段が「少なくとも1つのフィルタ」であるのに対し、甲1A発明又は甲1B発明ではそのように特定されていない点 (イ)相違点1についての検討 A 甲1(前記第5の2(1)参照)の段落0048には、「手術環境における直接的な殺菌用途に加えて、例示的な207nmのUV光は、空気型病原体感染(例えば、結核またはパンデミックインフルエンザ)の可能性が高い、いかなる空気環境をも継続的に処置するために用いることができる」及び「室内上部UV照射システムは、従来型の広域スペクトルUVランプに基づいて、長年検討されてきた」と記載されており、当該記載からすると、空気型病原体感染の病原体を標的として、その感染の可能性が高い空気環境を波長207nmの放射で継続的に処理することが示唆されているといえる。また、標的とする空気型病原体感染の病原体として、パンデミックインフルエンザの病原体、すなわち、インフルエンザウイルスが例示されている。 B また、インフルエンザの空気感染について、例えば文献B(前記第5の2(6)参照)において、「微細なエアロゾルを介したインフルエンザの空気感染を示す証拠は数多く・・・動物やヒトボランティアの研究でも、インフルエンザのエアロゾル感染が起こることが示され・・・インフルエンザ核酸は、インフルエンザウイルスに感染した人の呼気中の微粒子と関連付けられ・・・ヒト疫学研究では、インフルエンザの感染が空気感染経路と関連付けられている・・・効果的であると提案されている対策の1つは、天井近くに設置された特殊なランプから放射されるUV-C光とも呼ばれる紫外線である」(1666頁左欄第16~36行)と記載されているように、空気感染(airborne transmission)するインフルエンザウイルスは、微細なエアロゾルや人の呼気中の微粒子として存在し、そのように存在する環境を室内上部UV照射システム等で照射し、処理する標的としうることは、原出願の優先日当時の当該技術分野における技術常識であると認められる。 C しかしながら、甲1の記載全般を参酌すると、甲1に記載された事項は、もっぱらMRSA等の細菌、特に人体に存在する細菌を選択的に死滅させることを意図しており、前記甲1の段落0048の記載は、単なる一つの可能性として空気型病原体感染の病原体への適用を示唆したものに過ぎず、パンデミックインフルエンザはその病原体の一つとして例示されるものに過ぎない。まして、微細なエアロゾルや人の呼気中の微粒子として存在するインフルエンザウイルスに対する波長207nmの放射の影響を実証したものではない。また、前記甲1の段落0048には、従来の室内上部UV照射システムへの言及はあるものの、人の呼気又は咳からのエアロゾルを、人々が存在する状態か否かによらず照射処理することを想定した実施形態については何ら示されていない。 D そうすると、前記Bで示した技術常識を有する当業者が、前記甲1の段落0048の記載から207nmの波長の照射によりインフルエンザウイルス等の空気型病原体感染の病原体を処理することを想起したとしても、そのことをもって直ちに、甲1A発明又は甲1B発明の装置を、約207nm又は約222nmの単一波長の放射で、人の呼気または咳からのエアロゾル中の少なくとも1つのウイルスを選択的に害するかまたは損傷するように構成できたとはいえない。 (ウ)効果について 令和6年4月30日付け取消理由通知(決定の予告)の第4の3(1)エで示したとおり、身体範囲の細胞を害することなくウイルスを殺菌するという本願発明1の効果は甲1に記載されており、当業者が予測し得る範囲内のものであるといえるところ、200nm~230nmの波長範囲の波長を有する放射を用いた場合に、人の呼気または咳からのエアロゾル中のウイルスを選択的に害するかまたは損傷することができるという本願発明1の効果について更に検討する。 インフルエンザウイルスがUV-C(特に254nm)に高感受性であることは、文献B(前記第5の2(6)参照)の記載からも明らかであり、原出願の優先日当時の当該技術分野における技術常識であるものの、令和6年8月6日付け意見書の5(3-2)に記載のとおり、「特に200nm~230nmの波長帯域は、従来殺菌線として知られる254nmとは明らかに異なる特性を有するものであると当該技術分野における当業者に認識されて」いたことをも併せて考えると、200nm~230nmの波長範囲の波長を有する放射を用いた場合に、人の呼気または咳からのエアロゾル中のウイルスを選択的に害するかまたは損傷することができるという本願発明1の効果が予測できたと直ちに認められるものではない。甲1の段落0042には、「定量的に言えば、4logレベルのMRSA死滅の場合、207nmUV光は従来の殺菌UVCランプよりもヒト細胞の死滅を約1000分の1に抑えることができる」と記載されているものの、前記(イ)Cで述べたとおり、波長207nmの放射による微細なエアロゾルや人の呼気中の微粒子として存在するインフルエンザウイルスへの影響を実証したものではなく、MRSAの場合と同等の効果が予測できるとは直ちに認められるものではない。また、令和6年4月30日付け取消理由通知(決定の予告)の第4の3(1)イでは、甲2(前記第5の2(2)参照)には、「浮遊微生物を直接不活性化する安全な装置の必要性が生じてきている」ことから、「実験的にネブライザーの噴霧により発生させた細菌エアロゾル」に対し「紫外線を用いた微生物エアロゾルの不活化」の効果を確認したこと、甲4(前記第5の2(4)参照)には、ウイルスである「大腸菌ファージ」を対処微生物として、「単一波長を照射可能なエキシマUVランプなど、数種類のUVランプを用いて、ウイルスに対する不活性効果を調べ」、「短波長且つ単一波長であるほど不活性化効率が良かった」ことも示しているが、これらの記載をもってしても、前記本願発明1の効果が予測できたと直ちに認められるものではない。 (エ)申立人の主張について 申立人は令和6年9月20日提出の意見書において、本件発明1について、「例えば、甲第1号証の段落0048には、「手術環境における・・・、例示的な207nmのUV光は、空気源病原体感染(例えば、・・・パンデミックインフルエンザ)の可能性が高い、いかなる空気環境をも継続的に処置するために用いることができる」、ことが記載され・・・そして、空気中のインフルエンザ等のウイルスの少なくとも一部は、人の呼気または咳に由来され、かつエアロゾルの状態で空気中に存在することは一般的に知られていることである・・・ため、手術環境などの閉じた空気環境(空間)などにおいて、照射対象を、人の呼気または咳から排出された、空気中のインフルエンザ等のウイルスを選択的に害するかまたは損傷するように構成することは、当業者が容易に想到しうることである」と主張しているところ、当該主張について検討する。 確かに、空気感染(airborne transmission)するインフルエンザウイルスが、微細なエアロゾルや人の呼気中の微粒子として存在し、そのように存在する環境を室内上部UV照射システム等で照射し、処理する標的としうることは、原出願の優先日当時の当該技術分野における技術常識であったといえる。しかしながら、前記甲1の段落0048の記載は、単なる一つの可能性として空気型病原体感染の病原体への適用を示唆したに過ぎないものであって、前記技術常識を有する当業者が、甲1A発明又は甲1B発明の装置を、約207nm又は約222nmの単一波長の放射で、前記人の呼気または咳からのエアロゾル中の少なくとも1つのウイルスを選択的に害するかまたは損傷するように構成できたとはいえないことは、前記(イ)で述べたとおりである。加えて、本願発明1の効果が予測できたと直ちに認められるものではないことも、前記(ウ)で述べたとおりである。 よって、前記申立人の主張は採用できない。 (オ)本件発明1についてのまとめ 以上のとおりであるから、相違点2について検討するまでもなく、本件発明1は、甲1に記載された発明、甲1に記載された技術事項及び周知技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものではない。 イ 本件発明2~13 本件発明2~13は、本件発明1を包含し、さらに特定事項を追加したものであるから、前記アで検討したのと同様の理由により、甲1に記載された発明、甲1に記載された技術事項及び周知技術に基づいて、当業者が容易に発明できたものではない。 ウ 本件発明14 (ア)対比 本件発明14と甲1C発明、甲1D発明を対比すると、甲1C発明における「約207nmの単一波長」、甲1D発明における「約222nmの単一波長」は、いずれも本件発明14における「200~230nmの波長範囲の内側の1つ以上の波長」に相当する。また、甲1C発明、甲1D発明における「前記単一波長以外の任意の波長」は、それぞれ、甲1C発明における約207nm、甲1D発明における約222nm以外の任意の波長であり、200nm~230nmの波長範囲の外側にあるUVC波長範囲内の任意の波長を含むことが明らかであるから、甲1C発明、甲1D発明における「前記単一波長以外の任意の波長を有することの実質的な防止をもたらす、方法」は、本件発明14における「身体範囲の細胞に有害であり、そして前記波長範囲の外側にあるUVC波長範囲内の任意の波長を有することの実質的な防止をもたらすステップ」に相当する。 すると、本件発明14と甲1C発明または甲1D発明の一致点及び相違点は、次のとおりである。 <一致点> 「200nm~230nmの波長範囲の内側の1つ以上の波長を有する前記少なくとも1つの放射を提供するステップと、 前記少なくとも1つの放射が、身体範囲の細胞に有害であり、そして前記波長範囲の外側にある、UVC波長範囲内の任意の波長を有することの実質的な防止をもたらすステップと、を含む方法。」 <相違点3> 本件発明14では、「少なくとも1つのウイルスを選択的に死滅させるかまたはそれに影響を及ぼすための方法」であるのに対し、甲1C発明又は甲1D発明では「少なくとも1つの細菌を選択的に死滅させるかまたはそれに影響を及ぼすための方法」である点 <相違点4> 本件発明14では、少なくとも1つの放射を提供するステップが「200nm~230nmの波長範囲の1つ以上の波長を有する少なくとも1つの放射を用いて、人の呼気または咳からのエアロゾルを照射するように、前記人の呼気または咳からのエアロゾル中の少なくとも1つのウイルスを選択的に害するかまたは損傷するように構成された」ものであるのに対し、甲1C発明又は甲1D発明では、「約190nmから約230nmの波長範囲の内側の約207nm又は約222nmの単一波長を有する少なくとも1つの放射」を用いるように構成されたものである点 (イ)相違点4についての検討 事案の性質に鑑みて相違点4から検討すると、相違点4は前記ア(ア)で示した相違点1と同様のものであるから、前記ア(イ)で検討したとおり、当該技術分野における当業者が、甲1(前記第5の2(1)参照)の段落0048の記載から直ちに、約207nm又は約222nmの単一波長の放射を用いて、人の呼気または咳からのエアロゾル中の少なくとも1つのウイルスを選択的に害するかまたは損傷するように構成できたとはいえない。 (ウ)効果について 前記ア(ウ)で検討したとおり、甲1、甲2及び甲4の記載や原出願の優先日当時の当該技術分野におけるその他技術常識を勘案しても、200nm~230nmの波長範囲の波長を有する放射を用いた場合に、人の呼気または咳からのエアロゾル中のウイルスを選択的に害するかまたは損傷することができるという本願発明14の効果が予測できたと直ちに認められるものではない。 (エ)申立人の主張について 申立人は令和6年9月20日提出の意見書において、本件発明14について、「本件発明1に対する理由と同様の理由から、照射対象を、人の呼気または咳から排出された、空気中のインフルエンザ等のウイルスを有するエアロゾルとすることは、当業者が容易に想到しうることである」と主張しているものの、本件発明1についての主張が採用できないことは前記ア(エ)で述べたとおりであるから、前記申立人の主張は採用できない。 (オ)小括 以上のとおりであるから、相違点3について検討するまでもなく、本件発明14は、甲1に記載された発明、甲1に記載された技術事項及び周知技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものではない。 エ 本件発明15~22 本件発明15~22は、本件発明14を包含し、さらに特定事項を追加したものであるから、前記ウで検討したのと同様の理由により、甲1に記載された発明、甲1に記載された技術事項及び周知技術に基づいて、当業者が容易に発明できたものではない。 オ 本件発明23 (ア)対比 本件発明23と甲1C発明、甲1D発明を対比すると、甲1C発明における「約207nmの単一波長」、甲1D発明における「約222nmの単一波長」は、いずれも本件発明23における「200~230nmの波長範囲の内側の1つ以上の波長」に相当する。また、甲1C発明、甲1D発明における「前記単一波長以外の任意の波長」は、それぞれ、甲1C発明における約207nm、甲1D発明における約222nm以外の任意の波長であり、200nm~230nmの波長範囲の外側にあるUVC波長範囲内の任意の波長を含むことが明らかであるから、甲1C発明、甲1D発明における「前記単一波長以外の任意の波長を有することの実質的な防止をもたらす、方法」は本件発明23における「前記波長範囲の外側にある、UVC波長範囲内の任意の波長を有することの実質的な防止をもたらすステップ」に相当する。 すると、本件発明23と甲1C発明または甲1D発明の一致点及び相違点は、次のとおりである。 <一致点> 「200nm~230nmの波長範囲の内側にある少なくとも1つの波長を有する少なくとも1つの放射を用いて、照射するステップと、 前記少なくとも1つの放射が前記波長範囲の外側にある、UVC波長範囲内の任意の波長を有することの実質的な防止をもたらすステップと、 を含む方法。」 <相違点5> 本件発明23では、照射するステップが「人々が存在しうるシナリオで、200nm~230nmの波長範囲の内側にある少なくとも1つの波長を有する少なくとも1つの放射を用いて、少なくとも1つの細菌または少なくとも1つのウイルスを有する人の呼気または咳からのエアロゾルを照射する」のに対し、甲1C発明又は甲1D発明では「少なくとも1つの細菌を選択的に死滅させるかまたはそれに影響を及ぼすための方法」であるが、前記特定の波長の放射を用いて、前記特定の対象を照射することまでは特定されていない点 (イ)相違点5についての検討 A 前記ア(ア)で検討したとおり、甲1(前記第5の2(1)参照)の段落0048の記載からすると、空気型病原体感染の病原体を標的として、その感染の可能性が高い空気環境を波長207nmの放射で継続的に処理することが示唆されているといえる。また、標的とする空気型病原体感染の病原体として、結核とパンデミックインフルエンザの病原体、すなわち、結核菌とインフルエンザウイルスが例示されている。 B また、結核菌の空気感染について、例えば文献C(前記第5の2(7)参照)において、「(2)感染経路 第一に,結核菌の感染は病原体を含んだ空気中を漂う微粒子(直径5μm以下,飛沫核と呼ぶ)や塵埃を吸い込んで呼吸器から感染する「空気感染(飛沫核感染)」である。・・・自然感染において空気感染する結核菌が検査室でエアロゾル感染を起こしやすいのは当然である」、「紫外線の殺菌作用は260nm付近の短波長が最も強い。市販の殺菌灯は,253.7nm付近の波長を照射できる。・・・結核菌も他の細菌と同じく,太陽光線中の紫外線に対しては比較的抵抗力が弱い。・・・室内の消毒を目的として紫外線灯を殺菌灯として用いるのは効果的であり,できれば近接移動照射が可能であれば効果はより確実である。」と記載されているように、結核菌が呼気等からの空気感染(飛沫核感染)やエアロゾル感染すること、殺菌灯で約254nmの波長を照射し、処理する標的としうることは、原出願の優先日当時の当該技術分野における技術常識であると認められる。 C さらに、インフルエンザの空気感染について、例えば文献B(前記第5の2(6)参照)において、「微細なエアロゾルを介したインフルエンザの空気感染を示す証拠は数多く・・・動物やヒトボランティアの研究でも、インフルエンザのエアロゾル感染が起こることが示され・・・インフルエンザ核酸は、インフルエンザウイルスに感染した人の呼気中の微粒子と関連付けられ・・・ヒト疫学研究では、インフルエンザの感染が空気感染経路と関連付けられている・・・効果的であると提案されている対策の1つは、天井近くに設置された特殊なランプから放射されるUV-C光とも呼ばれる紫外線である」(1666頁左欄第16~36行)と記載されているように、空気感染(airborne transmission)するインフルエンザウイルスは、微細なエアロゾルや人の呼気中の微粒子として存在し、そのように存在する環境を室内上部UV照射システム等で照射し、処理する標的としうることは、原出願の優先日当時の当該技術分野における技術常識であると認められる。 D しかしながら、甲1の記載全般を参酌すると、甲1に記載された事項は、もっぱらMRSA等の細菌、特に人体に存在する細菌を選択的に死滅させることを意図しており、前記甲1の段落0048の記載は、単なる一つの可能性として空気型病原体感染の病原体への適用を示唆したものに過ぎず、結核やパンデミックインフルエンザはその病原体の一つとして例示されるものに過ぎない。まして、波長207nmの放射による微細なエアロゾルや人の呼気中の微粒子として存在するインフルエンザウイルスへの影響を実証したものではない。 E 加えて、前記甲1の段落0048には、従来の室内上部UV照射システムへの言及はあるものの、これは人々が存在しうるシナリオにおける適用とは異なるものであり、人々が存在する状態でインフルエンザウイルスを照射処理することを想定した実施形態については何ら示されていない。 F そうすると、前記B及びCで示した技術常識を有する当業者が、前記甲1の段落0048の記載から直ちに、人々が存在しうるシナリオで、約207nm又は約222nmの単一波長の放射を用いて、少なくとも1つの細菌または少なくとも1つのウイルスを有する人の呼気または咳からのエアロゾルを照射するように構成できたとはいえない。 (ウ)効果について 200nm~230nmの波長範囲の波長を有する放射を用いた場合に、人の呼気または咳からのエアロゾル中の細菌またはウイルスを選択的に害するかまたは損傷することができるという本願発明23の効果について検討する。 結核菌やインフルエンザウイルスがUV-C(特に254nm)に高感受性であることは、文献C(前記第5の2(7)参照)や文献B(前記第5の2(6)参照)の記載からも明らかであり、原出願の優先日当時の当該技術分野における技術常識であるものの、令和6年8月6日付け意見書の5(3-2)に記載のとおり、「特に200nm~230nmの波長帯域は、従来殺菌線として知られる254nmとは明らかに異なる特性を有するものであると当該技術分野における当業者に認識されて」いたことをも併せて考えると、200nm~230nmの波長範囲の波長を有する放射を用いた場合に、人の呼気または咳からのエアロゾル中の細菌またはウイルスを選択的に害するかまたは損傷することができるという本願発明23の効果が予測できたと直ちに認められるものではない。甲1(前記第5の2(1)参照)の段落0042には、「定量的に言えば、4logレベルのMRSA死滅の場合、207nmUV光は従来の殺菌UVCランプよりもヒト細胞の死滅を約1000分の1に抑えることができる」と記載されているものの、これはMRSAの207nmUV光に対する感受性を示したものに過ぎず、波長207nmの放射による人の呼気または咳からのエアロゾル中の細菌またはウイルスへの影響を実証したものではなく、エアロゾル中の細菌またはウイルスに対しても同等の効果が予測できるとは直ちに認められるものではない。また、令和6年4月30日付け取消理由通知(決定の予告)の第4の3(1)イでは、甲2(前記第5の2(2)参照)には、「浮遊微生物を直接不活性化する安全な装置の必要性が生じてきている」ことから、「実験的にネブライザーの噴霧により発生させた細菌エアロゾル」に対し「紫外線を用いた微生物エアロゾルの不活化」の効果を確認したこと、甲4(前記第5の2(4)参照)には、ウイルスである「大腸菌ファージ」を対処微生物として、「単一波長を照射可能なエキシマUVランプなど、数種類のUVランプを用いて、ウイルスに対する不活性効果を調べ」、「短波長且つ単一波長であるほど不活性化効率が良かった」ことも示しているが、これらの記載をもってしても、前記本願発明23の効果が予測できたと直ちに認められるものではない。 (エ)申立人の主張について 申立人は令和6年9月20日提出の意見書において、本件発明23について、「訂正により新たに生じた相違点は・・・ a:「人々が存在しうるシナリオ」でエアロゾルを照射すること b:照射対象とするエアロゾルを、「ウイルスを有する人の呼気または咳からのエアロゾル」に限定したこと ・・・この相違点aを「複数の人が存在する空気環境(空間)で」と解釈すると・・・上述の甲第1号証の段落0048には、手術環境の閉じた空気環境(空間)において、手術のために複数の人がいる状態で、207nmのUV光を照射することが記載されており、人々が存在しうる空間でUV光を照射することは、公知なことである。またそもそも、複数の人の存在する空間で、ウイルスの感染を阻止する処置を施すことは、通常行われることである・・・ため、相違点aのシナリオは、周知技術に過ぎず、当業者が容易に想到するものである。 ・・・ 相違点bは、「ウイルスを有する人の」であるから、「(呼気などに)ウイルスを有する人を検出し、その検出したウイルスを有する人からの呼気または咳からのエアロゾルを照射する、」と解釈でき・・・「ウイルスを有する人を検出」する構成については、特に限定がないため、周知な技術を用いて当業者が容易に行うことが出来る構成である。また、・・・照射対象を、ウイルスを有すると特定した人の呼気または咳から排出された、空気中のインフルエンザ等のウイルスを有するエアロゾルとすることは、当業者が容易に想到しうることである。 また、本件発明1に対する理由と同様な理由から、照射対象を、ウイルスを有すると特定した人の呼気または咳から排出された、空気中のインフルエンザ等のウイルスを有するエアロゾルとすることは、当業者が容易に想到しうることである」と主張しているところ、当該主張について検討する。 まず、本件発明1についての主張が採用できないことは前記ア(エ)で述べたとおりである。 相違点aに関し、「上述の甲第1号証の段落0048には、手術環境の閉じた空気環境(空間)において、手術のために複数の人がいる状態で、207nmのUV光を照射することが記載されており、人々が存在しうる空間でUV光を照射することは、公知なことである」と述べていることについて、甲1の段落0048における「手術環境における直接的な殺菌用途に加えて・・・」との記載について述べるものと理解するが、これは手術環境における直接的な殺菌用途、すなわち、人体への直接的な殺菌用途を意図した記載であると認められ、207nmのUV光を用いて人の呼気または咳からのエアロゾルを照射することを想定した記載とはいえない。また、「そもそも、複数の人の存在する空間で、ウイルス感染を阻止する処置を施すことは、通常行われることである」との主張は、UV光の照射によるウイルス感染を阻止する処置を意図したものであるのか判然としないものの、UV光の照射によるウイルス感染を阻止する処置が通常行われることであったとしても、人々が存在しうるシナリオで、約207nm又は約222nmの単一波長の放射を用いて、少なくとも1つの細菌または少なくとも1つのウイルスを有する人の呼気または咳からのエアロゾルを照射するように構成できたとはいえないことは、前記(イ)で検討したとおりである。 相違点bに関し、「照射対象を、ウイルスを有すると特定した人の呼気または咳から排出された、空気中のインフルエンザ等のウイルスを有するエアロゾルとすることは、当業者が容易に想到しうることである」と述べているものの、人々が存在しうるシナリオで、約207nm又は約222nmの単一波長の放射を用いて、少なくとも1つの細菌または少なくとも1つのウイルスを有する人の呼気または咳からのエアロゾルを照射するように構成できたとはいえないことは、前述のとおりである。 よって、前記申立人の主張は採用できない。 (オ)小括 以上のとおりであるから、本件発明23は、甲1に記載された発明、甲1に記載された技術事項及び周知技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものではない。 カ 本件発明24~31 本件発明24~31は、本件発明23を包含し、さらに特定事項を追加したものであるから、前記オで検討したのと同様の理由により、甲1に記載された発明、甲1に記載された技術事項及び周知技術に基づいて、当業者が容易に発明できたものではない。 2 取消理由通知(決定の予告)に採用しなかった申立理由2(明確性要件違反)について (1)本件発明1、14、23について、本件発明1、14及び23の「エアロゾルを照射する」を実現する構成が明確でない点 本件発明1、14及び23は、令和6年8月5日の訂正請求により、照射対象のエアロゾルについて「人の呼気または咳から」であることが特定された。また、本件明細書の段落0105には、「約200nmと約230nmとの間の範囲内にありうる1つ以上の波長を有する放射を用いて、ウイルスをその中に有する特定のサイズの空気量を照射することができる」と記載されている。そうすると、本件発明1、14及び23の「エアロゾルを照射」は、エアロゾルを生じる人の呼気または咳、それを含む空気環境(空間)、もしくは、エアロゾルを生じる人の呼気または咳を含む一定量の空気を対象として照射を行うように構成するものであることは明らかである。 申立人は特許異議申立書(3-4(4-1))において、「第1に、本件特許公報において、「エアロゾルを照射するように」を実現する具体的な構成については、段落0064に記載のエアロゾル発生モジュールを用いた例しか記載されていない・・・が、「エアロゾルを照射するように」を実現する具体的な構成として、その他の具体的な構成を含むものかどうか不明である」、「第2に、「エアロゾルを照射するように、」との構成は、第1の機器の一部の構成と思料される。しかし、本件特許公報において・・・具体的な装置構成について記載がない・・・例えば、室内に漂うエアロゾルに効果的に照射できるように、装置の照射面とは逆側の面に、壁や天井に簡易に固定できる構造を備えるというような、装置発明の構成要件として適したもの・・・そのような開示は本件特許の請求項、明細書、図面のどこにも存在しない」と主張しているものの、本件発明1、14及び23の「エアロゾルを照射」は、前記のとおりのものであることは明らかであり、エアロゾル発生モジュールや装置の照射面とは逆側の面に、壁や天井に簡易に固定できる構造を必ずしも要するものではない。 よって、本件発明1、14、23は、第三者に不測の不利益を及ぼすほどに不明確であるとはいえない。 (2)本件発明1及び14の「前記エアロゾル中の少なくとも1つのウイルスを選択的に害するかまたは損傷するように構成」が明確でない点 本件明細書の段落0007には、「従来型殺菌UVランプは、MRSAおよびヒト細胞をほぼ等しく効率的に死滅させることができるが、対照的に、エキシランプからの例示的な207~222nmのUV波長は、ヒト細胞を死滅させるのと比べてMRSAをおよそ5000倍より効率的に死滅させることができる」と記載され、段落0008には、「例えば、約190・・・~約230nmの範囲内に提供された1つ以上の波長を有する放射(単数または複数)を発生させ・・・エアロゾル中の・・・ウイルス(単数または複数)に影響を及ぼすかまたはそれらを破壊して、一方では体の細胞への害を実質的に回避するように放射を構成できる」、段落0023には、「隣接するヒト細胞をとっておく一方で細菌を差別的に死滅させるために、約207nmまたは約222nmの単一波長のUV放射を放出する、エキシマランプを供給できる。さらにまた・・・UV放射の波長(単数または複数)を約190nm~約230nmの範囲内、または約200nm~約230nmの範囲内とすることができる」と記載されている。そうすると、本件発明1及び14の「前記エアロゾル中の少なくとも1つのウイルスを選択的に害するかまたは損傷するように構成」とは、照射範囲に存在する対象のうち、ヒト細胞には影響を及ぼさず、もっぱらエアロゾル中のウイルス(単数または複数)を害するかまたは損傷するように、「200nm~230nmの波長範囲の1つ以上の波長を有する少なくとも1つの放射」を用いる構成であることは明らかである。 申立人は特許異議申立書(3-4(4-1))において、「「ウイルスを選択的に害するかまたは損傷するように構成」するためには、200nm~230nmの波長範囲から特定の波長を選択する必要がある。更に、ウイルスを害するためには、その選択した放射線を、例えば、所定の強度で且つ所定の時間を掛けて照射する必要があると推定される。しかし、本件特許発明1には、そのような点について何ら規定がない。例えば、甲第4号証の記載事項(イ)に「波長が短くなるほど紫外線で不活化出来ている」と記載されているように、選択した波長をどの程度の強度でどの程度の時間当てる必要があるかは、ウイルスを害する上で重要な発明特定事項であるが、本件特許発明1には、その点が明確になっていない」と主張しているものの、本件発明1及び14の「前記エアロゾル中の少なくとも1つのウイルスを選択的に害するかまたは損傷するように構成」が前記のとおりの構成であることは明らかである。さらに言えば、申立人は、より具体的な波長や、その波長の放射線の強度や時間といった技術事項が発明特定事項に不足している旨主張するものと解されるが、発明特定事項が不足していることによって、発明特定事項の技術的意味を理解できない等の特段の事項があるともいえないところ、ある技術的事項が発明特定事項として不足していると述べるだけでは、明確性違反の主張として当を得たものではない。 よって、本件発明1及び14は、第三者に不測の不利益を及ぼすほどに不明確であるとはいえない。 (3)本件発明1及び14の「身体範囲の細胞に有害」である波長範囲が明確でない点 UVC波長範囲の波長の放射が「身体範囲の細胞に有害」であることについて、例えば文献A(前記第5の2(5)参照)において、「短波長の紫外線(UV)放射線を効率的な殺菌剤にするまさにその側面(光毒性)が、紅斑(皮膚の赤い斑点)や光線角膜炎(「溶接工のフラッシュ」または「雪目」)といった望ましくない副作用の原因にもなり・・・この短波長の紫外線に過剰にさらされると、皮膚や目の非常に軽い刺激からかなり痛みを伴う光角膜炎まで、望ましくない副作用が生じる可能性があり・・・幸いなことに、これらの影響は一時的なもので、目の表面の細胞(角膜上皮)と皮膚の最も表面の層(表皮)のみが大きな影響を受け・・・これらの細胞の正常な代謝回転により、これらの影響の兆候や症状はすぐに消去され・・・UV-Cバンドの放射エネルギーは浸透深さが非常に浅いため、過度の曝露による皮膚や眼への損傷は非常に表面的であり、遅延効果のリスクが最小限に抑えられ・・・る」(要旨)と記載されているように、UVC波長範囲の波長の放射が、目の表面の細胞や皮膚の最も表面の層(表皮)に対して、少なくとも非常に軽い刺激、場合によって紅斑や光角膜炎のような症状までの悪い影響を与えることは、原出願の優先日当時の当該技術分野における技術常識であると認められる。そうすると、本件発明1及び14の「身体範囲の細胞に有害」である波長範囲とは、目の表面の細胞や表皮に対して、少なくとも非常に軽い刺激のような悪い影響を与えるUVCの波長範囲を意味することは当業者に明らかである。 また、仮に前記技術常識では「身体範囲の細胞に有害」である波長範囲が具体的な値として明らかでないことをもって、本件発明1及び14は明確でないといえるとしても、本件明細書の段落0017~0019には、「異なる波長の紫外(「UV:Ultra violet」)放射は、細胞中へ進入する異なる能力を有し・・・典型的に、高波長なほど放射が侵入しやすく、低波長なほど放射が侵入しにくい・・・細胞またはウイルスは、典型的にヒト細胞より物理的にはるかに小さいため・・・およそ200nmのUV放射の限られた侵入能力を細菌またはウイルスを死滅させるために用いることができる・・・およそ200nmの波長・・・のUV放射は・・・典型的にヒト細胞またはヒトにとって有害ではない・・・約240nm超では、UV放射は、酸化的DNA塩基損傷を生じさせるのに非常に効率的でありうる」と記載されており、本件発明1及び14の「身体範囲の細胞に有害」である波長範囲は具体的な値としても明らかである。 申立人は特許異議申立書(3-4(4-1))において、「「身体範囲の細胞に有害であり、」とは「身体範囲の細胞に有害である波長を有することを防止するように構成する」との意味と推定されるが、その波長が不明瞭である・・・「身体範囲の細胞に有害である」という文言に触れた当業者は、特定波長のUVCの強度がどの程度であると有害であるのか、そのUVCをどの程度の時間受けていると有害であるのか、若しくはその両方を知ることができれば、有害であるという判断を行うことができ、本件特許発明を実施することも可能になるかも知れないが、本件特許明細書にはかかる開示はない」と主張しているものの、「身体範囲の細胞に有害」である波長範囲が意味するところは明らかである よって、本件発明1及び14は、第三者に不測の不利益を及ぼすほどに不明確であるとはいえない。 (4)本件発明13、22、31の「ウイルス」をターゲットとした場合の構成が明確でない点 本件明細書の段落0063には、「UV曝露後のH1N1インフルエンザウイルスの生存率を測定するため・・・ウイルスの表面上を照射した後に、例示的な生存率(「S」)結果を、207nmのUV放射曝露および従来型殺菌ランプ曝露の両方について、標準的な(例えば、参考文献29を参照)指数関数モデルS=exp(-Z)にフィッティングし・・・従来型殺菌ランプのプラーク形成単位・・・データから、先に用いたれた範囲のZ=0.32m2/Jの感受性パラメータ値を導出し・・・207nmのデータから、H1N1インフルエンザウイルスを不活化するために207nmのUV放射が従来型殺菌ランプよりさらにいっそう効果的でありうることを示唆する、Z=0.42m2/Jの感受性パラメータ値を導出した」と記載されている。そうすると、本件発明13、22及び31の「前記ウイルスは、Z=0.42m2/Jの感受性パラメータを有する」は、207nmのUV放射曝露において標準的な指数関数モデルにフィッティングした場合に、Z=0.42m2/Jの感受性パラメータ値が得られるウイルス(H1N1インフルエンザウイルス)を意味し、当該ウイルスを害するかまたは損傷するという用途を特定するものであることは明らかである。 申立人は特許異議申立書(3-4(4-4))において、「「前記ウイルスは、Z=0.42m2/Jの感受性パラメータを有する」と記載されている。しかし、ウイルス自体は、本件特許発明13、22、31の各発明の構成要件ではない。更に、このウイルスをターゲットとした場合の構成が具体的に規定されていないため、本件特許発明13、22、31の各発明は明確でない。例えば、甲第4号証の記載事項(エ)に記載のように「ウイルスの不活性化は波長に異存している」のであるから、ターゲットとするウイルスによって適用する波長は異なるはずであるが、その波長について明確でない」と主張しているものの、前記のとおり、207nmのUV放射曝露において標準的な指数関数モデルにフィッティングした場合に、Z=0.42m2/Jの感受性パラメータ値が得られるウイルス(H1N1インフルエンザウイルス)を害するかまたは損傷するという用途を特定するものであることは明らかである。 よって、本件発明13、22及び31は、第三者に不測の不利益を及ぼすほどに不明確であるとはいえない。 第7 むすび 以上のとおりであるから、取消理由通知に記載した取消理由及び特許異議申立書に記載された特許異議申立ての理由によっては、本件訂正後の請求項1~31に係る特許を取り消すことはできない。 また、他にこれらの特許を取り消すべき理由を発見しない。 よって、結論のとおり決定する。

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2023-700582

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