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特許異議申立

2024-700661

ポリテトラフルオロエチレンチューブ及びそれを使用した医療用チューブ

審判番号
2024-700661
法域
特許
審判種別
異議申立(異議の決定)
出願番号
特願2023-554308
登録番号
7414356
請求日
2024年07月16日
審決日
2024年10月18日
公報発行日
2024年11月29日
結論
維持
当事者
  • 【権利者】株式会社潤工社
  • 【異議申立人】田中 純子
審判長/審判官
  • 審判長 原田 隆興
  • 審判官 前田 佳与子
  • 審判官 井上 千弥子
分類
P1651.121-Y (A61L) / P1651.537-Y (A61L)
条文(本文から自動抽出・参考)
特許法第36条第6項第1号、特許法第36条第6項第2号、特許法第29条第2項
データ出所
審決公報(XML)

事件の表示

特許第7414356号発明「ポリテトラフルオロエチレンチューブ及びそれを使用した医療用チューブ」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。

結論

結 論 特許第7414356号の請求項1~9に係る特許を維持する。

理由

理 由 第1 手続の経緯 特許第7414356号(以下「本件特許」という。)に係る特願2023-554308号(以下「本願」という。)は、2023年5月16日(優先権主張 2022年5月17日、2023年1月18日、2023年3月6日、2023年5月14日、いずれも(JP)日本国)を国際出願日とする特許出願であって、令和6年1月5日にその特許権の設定登録(請求項の数 9)がなされ、同年1月16日に特許掲載公報が発行された。 その後、本件特許に対し、令和6年7月16日に、特許異議申立人 田中 純子(以下「申立人」という。)により、特許異議の申立てがなされた。 第2 本件発明 本件特許の請求項1~9に係る発明は、それぞれ、特許請求の範囲の請求項1~9に記載された事項により特定される、次のとおりのものである。以下、請求項の番号に従い、「本件発明1」~「本件発明9」といい、これらをまとめて「本件発明」ということもある。 「【請求項1】 肉厚が0.04mm以下であるポリテトラフルオロエチレンチューブであって、 該ポリテトラフルオロエチレンチューブの外面および内面のいずれか一方又は両方のぬれ張力が46mN/m以上であり、 200℃の雰囲気下で行う引張試験によって得られる応力‐ひずみ曲線において、該ポリテトラフルオロエチレンチューブの20%ひずみ引張応力σ20(N/mm2)と該ポリテトラフルオロエチレンチューブの50%ひずみ引張応力σ50(N/mm2)が、式(1)を満たすことを特徴とするポリテトラフルオロエチレンチューブ。 2.0 ≦ 0.1×σ20+0.3×σ50 <5.5 式(1) 【請求項2】 200℃の雰囲気下で行う引張試験において、200%以上の引張破断ひずみを有する、請求項1に記載のポリテトラフルオロエチレンチューブ。 【請求項3】 200℃の雰囲気下で行う引張試験において、前記ポリテトラフルオロエチレンチューブの20%ひずみ引張応力σ20が4.0(N/mm2)以上である請求項1に記載のポリテトラフルオロエチレンチューブ。 【請求項4】 請求項1~3のいずれか1項に記載のポリテトラフルオロエチレンチューブを使用した医療用チューブ。 【請求項5】 肉厚が0.04mm以下であるポリテトラフルオロエチレンチューブであって、 該ポリテトラフルオロエチレンチューブの内径が3.0mm以下であり、 200℃の雰囲気下で行う引張試験によって得られる応力‐ひずみ曲線において、該ポリテトラフルオロエチレンチューブの20%ひずみ引張応力σ20(N/mm2)と該ポリテトラフルオロエチレンチューブの50%ひずみ引張応力σ50(N/mm2)が、式(1)を満たすことを特徴とするポリテトラフルオロエチレンチューブ。 2.0 ≦ 0.1×σ20+0.3×σ50 <5.5 式(1) 【請求項6】 200℃の雰囲気下で行う引張試験において、200%以上の引張破断ひずみを有する、請求項5に記載のポリテトラフルオロエチレンチューブ。 【請求項7】 200℃の雰囲気下で行う引張試験において、前記ポリテトラフルオロエチレンチューブの20%ひずみ引張応力σ20が4.0(N/mm2)以上である請求項5に記載のポリテトラフルオロエチレンチューブ。 【請求項8】 請求項5~7のいずれか1項に記載のポリテトラフルオロエチレンチューブを使用した医療用チューブ。 【請求項9】 ポリテトラフルオロエチレンチューブを加工したポリテトラフルオロエチレンライナーを含む医療用チューブであって、該ポリテトラフルオロエチレンライナーの肉厚が0.04mm以下であるチューブであって、 該ポリテトラフルオロエチレンライナーの内径が3.0mm以下であり、 200℃の雰囲気下で行う引張試験によって得られる応力‐ひずみ曲線において、該ポリテトラフルオロエチレンライナーの20%ひずみ引張応力σ’20(N/mm2)と該ポリテトラフルオロエチレンライナーの50%ひずみ引張応力σ’50(N/mm2)が、式(2)を満たすことを特徴とする医療用チューブ。 2.4 ≦ 0.1×σ’20+0.3×σ’50 <6.6 式(2)」 第3 申立理由の概要 申立人は、特許異議申立書(以下「申立書」という。)において下記の申立理由1~4を主張し、証拠として下記の甲第1号証~甲第8号証(以下、それぞれを号証番号順に「甲1」~「甲8」という。)を提出して、請求項1~9に係る本件特許は取り消されるべきである旨を主張している。 <申立理由1>、<申立理由2> ・対象請求項:請求項1~9 ・根拠条文:特許法第29条第2項(同法第113条第1項第2号) ・証拠:甲1~甲7 <申立理由3> ・対象請求項:請求項1~9 ・根拠条文:特許法第36条第6項第1号(同法第113条第1項第4号) ・証拠:甲1、甲5~甲8 (当審注:申立書において、申立理由3の根拠条文として記載されていた「同法第113条第1項第2号」は誤記であり、正しくは「同法第113条第1項第4号」であると解釈して判断した。) <申立理由4> ・対象請求項:請求項1~9 ・根拠条文:特許法第36条第6項第2号(同法第113条第1項第4号) ・証拠:甲1 <甲号証一覧> ・甲1:特開2019-130880号公報 ・甲2:特開2019-176958号公報 ・甲3:特表2023-528361号公報 ・甲4:特表2022-542644号公報 ・甲5:米国特許出願公開第2023/0372591号明細書 ・甲6:Non-Final Rejection (当審注:甲6は、本件発明の米国出願において、米国特許庁が作成した拒絶理由通知書である。) ・甲7:Applicant Arguments Remarks Made in an Amendment (当審注:甲7は、本件発明の米国出願において、米国特許庁が作成した拒絶理由通知書に対して、本件特許の特許権者が、米国特許庁に提出した意見書である。) ・甲8:PTFEチューブ引張試験データ (当審注:「PTFE」は「ポリテトラフルオロエチレン」であり、甲8は 、本件特許の最先の優先日である2022年5月17日以前に市場で販売された2種類のPTFEチューブの、200℃環境下での引張試験データである。) 第4 申立理由1(進歩性)について 1 申立理由1の趣旨(申立書15~45頁) 申立理由1は、本件発明は、甲1に記載された発明(以下「甲1発明」という。)において、本件発明と甲1発明とに共通する課題の解決及び効果の達成を、甲1に記載されている「チューブの寸法と、引張応力の増加に応じた伸び率の対応関係」という点(以下「着眼点1」という。)及び「延伸時に急激な変位をおこさないことにより、延伸したときにも各種寸法のばらつきが少ないチューブとなる」という点(以下「着眼点2」という。)に基づき、甲1発明に、甲2~甲4に記載されている本件特許の最先の優先日(2022年5月17日)当時の周知技術(以下「周知技術」という。)を適用することによって実現するものであるから、当業者が容易に発明をすることができたものである、という趣旨であると解される。 2 甲1に記載された事項及び甲1発明 (1)甲1に記載された事項 甲1(特開2019-130880号公報)には、以下の事項が記載されている。なお、下線は当審合議体が付したものである。以下同様。 「【請求項1】 肉厚が0.1mm以下であり、昇温速度10℃の昇温過程で測定した示差走査熱量測定(DSC)において、370℃±7℃と326℃±5℃で観測される吸熱ピークから算出される融解エネルギーの比が、0.014以上であるポリテトラフルオロエチレンチューブ。 ・・・ 【請求項5】 肉厚が0.03mm以下である、請求項1乃至4に記載のポリテトラフルオロエチレンチューブ。 【請求項6】 200℃雰囲気下で0.1mm2単位面積当たり120gの荷重をかけて加熱した後のチューブ肉厚のばらつき(変動係数CV)が0.1以下である請求項1乃至5にポリテトラフルオロエチレンチューブ。」 「【0007】 ・・・そこで、本発明は、薄肉のPTFEチューブにおいて両立させることが困難な、引張伸び性と、引張強度が大きい、という2つの特性を両立させることを目的としている。また、本発明は、あらゆる部分で均一な引張伸び性を有するPTFEチューブを提供することを目的とするものである。」 「【発明の効果】 【0010】 本発明のチューブは、引張伸び性と引張強度が大きいという2つの特性を両立させ、あらゆる部分で均一な引張伸び性を有しているため、PTFEチューブを延伸または熱収縮により変形させて芯材へ被覆する場合に好適に用いることができ、被覆したPTFEチューブの寸法(内径、肉厚、長さ変化)のばらつきが小さく、高い寸法精度が要求される製品の部品として好適である。」 「【0013】 本発明の実施形態では、PTFEチューブの肉厚は、0.1mm以下である。具体的には0.005~0.1mmであり、好ましくは0.01~0.05mmであり、さらに好ましくは、0.01~0.03mmであり、最も好ましくは0.01~0.02mmである。または、肉厚が外径に対して5%以下のチューブであり、好ましくは肉厚が外径に対して4%以下のチューブである。カテーテルの層の一部として使用したときに、肉厚が薄いことで、カテーテルの機能を妨げることなくカテーテルの細径化に貢献できる。」 「【0016】 本発明のチューブは、チューブを引っ張る(延伸する)ときの応力が比較的小さい段階から、チューブが長手方向に変位し始める引張挙動を示す。従来のチューブは、チューブを引っ張る応力が比較的大きくなったときに、チューブが長手方向に急激に変位する引張挙動を示す。従来のチューブに対する、本発明のチューブの性質の違いから、本発明のチューブは、それを引っ張った(延伸した)ときにその各種寸法のばらつきが少ないのが特長であり、例えばカテーテル製造工程において本発明のチューブを好適に使用できる。」 「【0018】 本発明のPTFEチューブは、200℃雰囲気下で0.1mm2単位面積当たり120gの荷重をかけて加熱延伸した後のチューブ肉厚のばらつき(変動係数CV)が、0.1以下である。・・・寸法と引張伸び性が均一であるチューブとするためには、押出成形直後のチューブの冷却速度をできるだけ遅くすること、及びチューブに延伸されるような応力がかからないようにすることが有効である。金型から排出された直後の雰囲気を、ヒーターなどで加熱して60℃以上に保持することで、チューブ押出成形の歪を緩和し、チューブを加熱延伸したときの伸び性を均一にすることができる。」 「【0019】 ・・・さらに、本発明のPTFEチューブは、先述のように、チューブを引っ張る(延伸する)ときの応力が比較的小さい段階から、チューブが長手方向に変位し始めるようなチューブであり、延伸時に急激な変位をおこさないことにより、それを延伸したときにも各種寸法のばらつきが少ないチューブとなる。具体的には、本発明の熱収縮性を付与したPTFEチューブの引張試験を行ったとき、チューブの伸び率が10%のときの引張試験応力が30N/mm2以下であり、かつ引張試験応力が40N/mm2のときのチューブの伸び率が25%~50%の範囲である。・・・。」 「【0022】 本発明の実施形態で使用する上記PTFEは、テトラフルオロエチレン(以下、「TFE」と言う)のホモポリマーであっても良いし、変性PTFEであっても良い。変性PTFEは、TFEと少量のTFE以外の単量体とを重合させたものである。少量のTFE以外の単量体は、 たとえば、クロロトリフルオロエチレン(CTFE)、ヘキサフルオロプロピレン(HFP)、パーフルオロプロピルビニルエーテル(PPVE)などが挙げられる。・・・。」 「【実施例】 【0030】 <引張破断伸びおよび引張強度> 島津製作所製 オートグラフAGS‐1kNX型を用い、23℃±2℃の環境下において、チャック間距離20mm、チャックスピード500mm/minの条件で引張試験を実施した。・・・。」 「【0031】 実施例1 容器に、PTFEファインパウダー(ダイキン工業社製 ポリフロンPTFE F‐208)100質量部に対して、助剤(エクソンモービル社製 アイソパーH)18質量部を入れて混合し、#10のふるいで塊を取り除いたものを、予備成形機に投入し予備成形体を作成した。チューブの押出成形に用いる押出成形機は、シリンダー径20mm、マンドレル径10mmのものを用い、ダイ内径0.77mm、コアピン0.66mmとし、ダイ温度は140℃とした。予備成形体を押出成形機に投入し、ラム速度3mm/minで押出してチューブ形状に成形した。チューブを高温で押出すため、ダイから押出された直後のチューブの温度低下が急激に起こらないように、ダイ付近をヒーターを用いて温め、チューブ冷却温度を90℃とした。成形したチューブは、150℃に設定した第1の乾燥炉、220℃に設定した第2の乾燥炉、430℃に設定した焼成炉を通過させて乾燥、焼成した。チューブ乾燥、焼成時にはチューブに必要以上の張力がかからないように、引取機の速度を調節した。完成したチューブは、内径0.49mm、外径0.566mm、肉厚0.038mmであった。得られたチューブは、100mmにカットし、引張試験を行った。 また、得られたチューブの数か所からサンプルを採り、粉砕、混合した試料について、12.4mgを量りとり、DSC測定を行った。測定装置の解析ソフトを用いて、370℃±7℃と326℃±5℃で観測されるピーク面積からそれぞれの融解エネルギーを算出し、(370℃±7℃融解エネルギー)/(326℃±5℃融解エネルギー)を求めた。また、10個のサンプルについて加熱延伸試験を行い、試験後のチューブの肉厚を1サンプル5カ所ずつ測定してチューブ肉厚のばらつき(変動係数CV)を算出した。その結果を表1に示す。」 「【0033】 各実施例、比較例の結果を表1に示す。 【0034】 [図:0001416518000001.jpg] 」 「【0037】 各実施例の結果を表2に示す。 【0038】 [図:0001416518000002.jpg] 」 (2)甲1発明 甲1の請求項1、5及び6の記載から、甲1には、下記の甲1発明が記載されていると認められる。 <甲1発明> 「肉厚が0.03mm以下であり、 昇温速度10℃の昇温過程で測定した示差走査熱量測定(DSC)において、370℃±7℃と326℃±5℃で観測される吸熱ピークから算出される融解エネルギーの比が、0.014以上であって、 200℃雰囲気下で0.1mm2単位面積当たり120gの荷重をかけて加熱した後のチューブ肉厚のばらつき(変動係数CV)が0.1以下である、ポリテトラフルオロエチレンチューブ。」 3 甲2に記載された事項 甲2(特開2019-176958号公報)には、以下の事項が記載されている。 「【請求項1】 生体接触デバイス、生体埋込デバイス又は人工臓器に用いられる基材であり、 前記基材が、フッ素樹脂を含むフッ素樹脂層を有し、 前記フッ素樹脂層の200℃における切断時伸びが、20~400%である、基材。」 「【0001】 本発明は、生体接触デバイス、生体埋込デバイス又は人工臓器に用いられる基材及びプリント配線板、ならびに生体接触デバイス、生体埋込デバイス及び人工臓器に関する。」 「【0011】 本発明の基材は、フッ素樹脂層のみからなる単層基材であってもよく、フッ素樹脂層と、フッ素樹脂層以外の層とを有する積層基材であってもよい。 積層基材の層構成としては、フッ素樹脂層/金属層、金属層/フッ素樹脂層/金属層、フッ素樹脂層/耐熱性樹脂層又は繊維強化樹脂層、耐熱性樹脂層又は繊維強化樹脂層/フッ素樹脂層/金属層、金属層/フッ素樹脂層/耐熱性樹脂層又は繊維強化樹脂層/フッ素樹脂層/金属層等が挙げられる。「金属層/樹脂層」とは、金属層、樹脂層がこの順に積層されていることを示し、他の層構成も同様である。」 「【0022】 フッ素樹脂層の表面のぬれ張力は、30mN/m以上が好ましく、30~70mN/mがより好ましく、40~65mN/mがさらに好ましい。ぬれ張力前記範囲の下限値以上であれば、フッ素樹脂層と、金属層、耐熱性樹脂層又は繊維強化樹脂層との接着性に優れ、その結果、繰り返し伸縮や屈曲しても層間剥離しにくく、体の動きに対する耐久性がさらに優れる。 【0023】 フッ素樹脂層の表面の算術平均粗さRa、Ra(AFM)、ぬれ張力は、例えば、フッ素樹脂層の表面をプラズマ処理することによって調整できる。プラズマ処理については、後述する。 【0024】 フッ素樹脂としては、基材やプリント配線板を製造しやすい点から、溶融成形可能なフッ素樹脂が好ましい。 溶融成形可能なフッ素樹脂としては、・・・後述する含フッ素重合体A、変性ポリテトラフルオロエチレン等が挙げられる。また、溶融流動性を示すのであればポリテトラフルオロエチレンも挙げられる。 【0025】 変性ポリテトラフルオロエチレンとしては、(i)テトラフルオロエチレン(以下、「TFE」とも記す。)と極微量のCH2=CH(CF2)4F又はCF2=CFOCF3とを共重合したもの、(ii)前記(i)にさらに極微量の接着性官能基含有単量体を共重合したもの、(iii)TFEと極微量の接着性官能基含有単量体とを共重合したもの、(iv)ポリテトラフルオロエチレンにプラズマ処理等で接着性官能基を導入したもの、(v)前記(i)にプラズマ処理等で接着性官能基を導入したもの等が挙げられる。 溶融成形可能なフッ素樹脂の代わりに、溶融成形できないフッ素樹脂、例えば溶融流動性を示さない未変性のポリテトラフルオロエチレンを用いた場合、後述する樹脂パウダーを製造する際に、機械的粉砕処理によってポリテトラフルオロエチレンがフィブリル化するため、樹脂パウダーを得ることが困難である。」 「【0124】 ・・・ 人工臓器における本発明の基材及びプリント配線板の利用例としては、人工臓器を構成する部材(ボディ、チューブ、ポンプ等)の材料、人工臓器の制御装置やセンサにおけるプリント配線板、人工臓器を体内に固定するための部材等が挙げられる。」 4 甲3に記載された事項 甲3(特表2023-528361号公報)には、以下の事項が記載されている。 「【請求項1】 PTFE及び第2のポリマーを含むPTFE複合チューブであって、 前記第2のポリマーは、前記PTFE複合チューブの約50重量%未満の濃度で存在し、かつ、 前記PTFE複合チューブは、 23℃で試験した場合に同等のPTFEチューブと比較してより低い摩擦係数、及び、 同等のPTFEチューブと比較してより小さい約23℃~約40℃での摩擦係数の変化、 の一方又は両方を示す、PTFE複合チューブ。」 「【0001】 本出願は一般に、ポリ(テトラフルオロエチレン)(PTFE)ライナー及びそのようなPTFEライナーを備える製品の分野に関する。」 「【0029】 実施の形態18:実施の形態1~17のいずれかに記載のPTFE複合チューブを備える医療デバイス。 【0030】 実施の形態19:医療デバイスは、カテーテルである、実施の形態18に記載の医療デバイス。」 「【0055】 ・・・特に、(例えば、粒子の形の)第2のポリマーを含むPTFEチューブを押出しし、このようにしてPTFE複合チューブを得ることにより、カテーテル用のライナー又は、例えば約20℃~約40℃の温度範囲内で特に有利な特性を示す他の用途として使用されるPTFE複合チューブが提供され得ると考えられる。」 5 甲4に記載された事項 甲4(特表2022-542644号公報)には、以下の事項が記載されている。 「【請求項1】 カテーテルライナーとしての使用に適した改良ポリマーチューブであって、 約0.5mm以下の平均壁厚を有する壁を有するポリマーチューブ、及び 該ポリマーチューブの表面上に直接、又は該チューブの表面と直接接触している接着材料上に、該ポリマーチューブの長さ又は円周の少なくとも一部に沿って配置された1つ以上の導電性経路を有し、 該1つ以上の導電性経路は、導電性インクを含み、 該1つ以上の導電性経路は、該ポリマーチューブの表面上にあり、該ポリマーチューブの壁内に埋め込まれていない、改良ポリマーチューブ。」 「【0001】 本出願は、概して、ポリ(テトラフルオロエチレン)(PTFE)を有する薄壁カテーテルライナーを有するカテーテルの分野、ならびにそのようなカテーテルライナー及び対応するカテーテルの製造及び使用に関連する方法に関する。」 「【0032】 開示されたチューブの組成は特に限定されない。いくつかの実施態様において、チューブは、カテーテルライナーとして使用するのに適した材料を含む(得られたチューブが、そのような使用に適したインクベースの導電経路を含むようにする)。いくつかのチューブは、フルオロポリマー、ポリアミド、ポリイミド、オレフィン、ポリエステル、及び/又はエラストマーを含むことができる。・・・別の実施形態では、チューブはポリテトラフルオロエチレン(PTFE)を含む。1つの例示的な非限定的なPTFEチューブは、Zeus Inc.のStreamliner(商標)という製品である。チューブは均一の構造であっても不均一の構造であってもよい。いくつかの実施形態において、チューブは、その内側及び/又は外側表面上のコーティングを含むことができる。」 6 本件発明1について (1)本件発明1と甲1発明との対比 甲1発明(上記2(2))の「肉厚が0.03mm以下である」「ポリテトラフルオロエチレンチューブ」は、本件発明1の「肉厚が0.04mm以下であるポリテトラフルオロエチレンチューブ」に相当するから、本件発明1と甲1発明との一致点及び相違点は、それぞれ以下のとおりである。 <一致点> 「肉厚が0.04mm以下であるポリテトラフルオロエチレンチューブ。」 <相違点1> 本件発明1では、「ポリテトラフルオロエチレンチューブの外面および内面のいずれか一方又は両方のぬれ張力が46mN/m以上」であるのに対し、甲1発明ではぬれ張力が特定されていない点。 <相違点2> 本件発明1では、「200℃の雰囲気下で行う引張試験によって得られる応力‐ひずみ曲線において、該ポリテトラフルオロエチレンチューブの20%ひずみ引張応力σ20(N/mm2)と該ポリテトラフルオロエチレンチューブの50%ひずみ引張応力σ50(N/mm2)が、下記式(1)を満たすことが特定されているのに対し、 2.0 ≦ 0.1×σ20+0.3×σ50 <5.5 式(1) 甲1発明では、このような特定がされていない点。 (2)相違点1の検討 甲2には、甲1発明と同じくポリテトラフルオロエチレンチューブの技術分野において、「フッ素樹脂層の表面のぬれ張力は、30mN/m以上が好ましく、30~70mN/mがより好ましく、40~65mN/mがさらに好ましい。ぬれ張力前記範囲の下限値以上であれば、フッ素樹脂層と、金属層、耐熱性樹脂層又は繊維強化樹脂層との接着性に優れ、その結果、繰り返し伸縮や屈曲しても層間剥離しにくく、体の動きに対する耐久性がさらに優れる」こと(上記3の【0022】)が記載されており、「ポリテトラフルオロエチレンチューブ」は「フッ素樹脂層」を有するものであるから、甲1発明においても、繰り返し伸縮や屈曲しても層間剥離しにくく、体の動きに対する耐久性がさらに優れるようになることを期待して、「ポリテトラフルオロエチレンチューブの外面および内面のいずれか一方又は両方のぬれ張力が46mN/m以上」になるようにぬれ張力の下限値を設定することは、当業者が容易に想到し得た事項であるといえる。 なお、以下では「ポリテトラフルオロエチレンチューブ」を「PTFEチューブ」と記載することもある。 (3)相違点2の検討 ア 甲1発明が課題しようとする課題 甲1には、甲1発明が課題しようとする課題が、「薄肉のPTFEチューブ」において「引張伸び性」と「引張強度が大きい」という2つの特性を両立させ、「あらゆる部分で均一な引張伸び性を有するPTFEチューブを提供すること」であることが記載されている(【0007】)。 イ 着眼点1及び2 上記アの課題について、甲1における、 「本発明のチューブは、チューブを引っ張る(延伸する)ときの応力が比較的小さい段階から、チューブが長手方向に変位し始める引張挙動を示す。・・・従来のチューブに対する、本発明のチューブの性質の違いから、本発明のチューブは、それを引っ張った(延伸した)ときにその各種寸法のばらつきが少ないのが特長であり、例えばカテーテル製造工程において本発明のチューブを好適に使用できる。」(【0016】)、 「チューブを引っ張る(延伸する)ときの応力が比較的小さい段階から、チューブが長手方向に変位し始めるようなチューブであり、延伸時に急激な変位をおこさないことにより、それを延伸したときにも各種寸法のばらつきが少ないチューブとなる。具体的には、本発明の熱収縮性を付与したPTFEチューブの引張試験を行ったとき、チューブの伸び率が10%のときの引張試験応力が30N/mm2以下であり、かつ引張試験応力が40N/mm2のときのチューブの伸び率が25%~50%の範囲である。」(【0019】)、 及び「熱収縮性を付与したPTFEチューブの引張試験を行ったとき、チューブの伸び率が10%のときの引張試験応力が30N/mm2以下であり、かつ引張試験応力が40N/mm2のときのチューブの伸び率が25%~50%の範囲である。」という記載から、 甲1発明の構成は、上記アの課題を解決するために、「チューブの寸法と、引張応力の増加に応じた伸び率の対応関係」という点(「着眼点1」)、及び「延伸時に急激な変位をおこさないことにより、延伸したときにも各種寸法のばらつきが少ないチューブとなる」という点(「着眼点2」)に基づいて導き出されたと解される。 ウ しかし、甲1~甲4のいずれにも、上記イの着眼点1及び2に基づいて、上記アの課題を解決する手段として、「200℃の雰囲気下で行う引張試験によって得られる応力‐ひずみ曲線」における、「該ポリテトラフルオロエチレンチューブの20%ひずみ引張応力σ20(N/mm2)」及び「該ポリテトラフルオロエチレンチューブの50%ひずみ引張応力σ50(N/mm2)」に着目することは記載されていない。 そして、さらに本件特許の最先の優先日(2022年5月17日)当時の技術常識(以下「技術常識」という。)を参酌しても、上記アの課題を解決する手段として、上記σ20及びσ50に着目することが自明であるともいえない。 そうすると、甲1発明において、上記σ20及びσ50が「2.0 ≦ 0.1×σ20+0.3×σ50 <5.5」という式(1)を満たすようにして、甲1発明を相違点2に係る本件発明1の構成を備えたものにすることを、当業者が容易に想到し得たとはいえない。 (4)よって、甲1発明、及び甲1~甲4に記載された事項から、甲1発明を相違点1及び相違点2に係る本件発明1の構成を備えたものにすることを、当業者が容易に想到し得たとはいえない。 7 本件発明2~4について 本件発明2~4は、請求項1を引用しているため、甲1発明と対比すると、いずれも相違点1及び相違点2を含む点で相違している。 よって、上記6で説示した理由と同様の理由により、甲1発明、及び甲1~甲4に記載された事項から、甲1発明を本件発明2~4の構成を備えたものにすることを、当業者が容易に想到し得たとはいえない。 8 本件発明5について (1)本件発明5と甲1発明との対比 甲1発明(上記2(2))の「肉厚が0.03mm以下である」「ポリテトラフルオロエチレンチューブ」は、本件発明5の「肉厚が0.04mm以下であるポリテトラフルオロエチレンチューブ」に相当するから、本件発明5と甲1発明との一致点及び相違点は、それぞれ以下のとおりである。 <一致点> 「肉厚が0.04mm以下であるポリテトラフルオロエチレンチューブ。」 <相違点3> 本件発明5では、「該ポリテトラフルオロエチレンチューブの内径が3.0mm以下」である点が特定されているのに対し、甲1発明では上記内径の大きさが特定されていない点。 <相違点4> 本件発明5では、「200℃の雰囲気下で行う引張試験によって得られる応力‐ひずみ曲線において、該ポリテトラフルオロエチレンチューブの20%ひずみ引張応力σ20(N/mm2)と該ポリテトラフルオロエチレンチューブの50%ひずみ引張応力σ50(N/mm2)が、下記式(1)を満たすことが特定されているのに対し、 2.0 ≦ 0.1×σ20+0.3×σ50 <5.5 式(1) 甲1発明では、このような特定がされていない点。 (2)相違点3の検討 甲1における、「PTFEチューブの肉厚は、0.1mm以下である」及び「肉厚が外径に対して5%以下のチューブ」である(【0013】)という記載からは、外径は2.0mm以下(0.1×100÷5=2.0)であり、内径は1.8mm以下(2.0-0.1×2=1.8)であることが算出される。 そして、下記に示されるとおり、甲1の実施例で製造された「チューブ内径」(【0034】の【表1】、【0038】の【表2】)は、いずれも本件発明5の「内径が3.0mm以下」の範囲内であるから、相違点3は実質的な相違点ではない。 [図:0001416518000003.jpg] [図:0001416518000004.jpg] 仮に、相違点3が実質的な相違点であるとしても、甲1における、チューブの肉厚と外径に関する記載(【0013】)から、甲1発明の「ポリテトラフルオロエチレンチューブ」の内径を3.0mm以下の範囲内にして、甲1発明を相違点3に係る本件発明5の構成を備えたものすることは、当業者が容易に想到し得た事項であるといえる。 (3)相違点4の検討 相違点4は、相違点2と実質的に同一であるから、上記6(3)で説示した理由と同様の理由により、甲1発明を相違点4に係る本件発明5の構成を備えたものにすることを、当業者が容易に想到し得たとはいえない。 (4)よって、甲1発明、及び甲1~甲4に記載された事項から、甲1発明を相違点3及び相違点4に係る本件発明5の構成を備えたものにすることを、当業者が容易に想到し得たとはいえない。 9 本件発明6~8について 本件発明6~8は、請求項5を引用しているため、甲1発明と対比すると、いずれも相違点3及び相違点4を含む点で相違している。 よって、上記8で説示した理由と同様の理由により、甲1発明、及び甲1~甲4に記載された事項から、甲1発明を本件発明6~8の構成を備えたものにすることを、当業者が容易に想到し得たとはいえない。 10 本件発明9について (1)本件発明9と甲1発明との対比 本件発明9の医療用チューブは、ポリテトラフルオロエチレンチューブを加工したポリテトラフルオロエチレンライナーを含むものであるから、ポリテトラフルオロエチレンを含むチューブである。 そうすると、本件発明9と甲1発明との一致点及び相違点は、それぞれ以下のとおりである。 <一致点> 「ポリテトラフルオロエチレンを含むチューブ。」 <相違点5> 本件発明9は、「ポリテトラフルオロエチレンチューブを加工したポリテトラフルオロエチレンライナーを含む医療用チューブであって、該ポリテトラフルオロエチレンライナーの肉厚が0.04mm以下であるチューブ」であって、「該ポリテトラフルオロエチレンライナーの内径が3.0mm以下であり、200℃の雰囲気下で行う引張試験によって得られる応力‐ひずみ曲線において、該ポリテトラフルオロエチレンライナーの20%ひずみ引張応力σ’20(N/mm2)と該ポリテトラフルオロエチレンライナーの50%ひずみ引張応力σ’50(N/mm2)」が、下記式(2) 2.4 ≦ 0.1×σ’20+0.3×σ’50 <6.6 式(2) を満たすことを特徴とする「医療用チューブ」であるのに対し、 甲1発明は、「肉厚が0.03mm以下であり、昇温速度10℃の昇温過程で測定した示差走査熱量測定(DSC)において、370℃±7℃と326℃±5℃で観測される吸熱ピークから算出される融解エネルギーの比が、0.014以上であって、200℃雰囲気下で0.1mm2単位面積当たり120gの荷重をかけて加熱した後のチューブ肉厚のばらつき(変動係数CV)が0.1以下である、ポリテトラフルオロエチレンチューブ」である点。 (2)相違点5の検討 ポリテトラフルオロエチレンチューブを加工してポリテトラフルオロエチレンライナーを製造し、当該ライナーを含むカテーテルを製造することは、甲3及び甲4に記載されるように周知技術であり(上記4及び5)、カテーテルは「医療用チューブ」に相当するから、甲1発明の「ポリテトラフルオロエチレンチューブ」を加工した「ポリテトラフルオロエチレンライナーを含む医療用チューブ」を製造すること自体は、当業者が容易に想到し得たといえる。 しかし、相違点2の検討(上記6(3))で説示したとおり、甲1~甲4のいずれにも、「薄肉のPTFEチューブ」において「引張伸び性」と「引張強度が大きい」という2つの特性を両立させ、「あらゆる部分で均一な引張伸び性を有するPTFEチューブを提供すること」という甲1発明の課題を解決する手段として、「200℃の雰囲気下で行う引張試験によって得られる応力‐ひずみ曲線」における「該ポリテトラフルオロエチレンチューブの20%ひずみ引張応力σ20(N/mm2)」及び「該ポリテトラフルオロエチレンチューブの50%ひずみ引張応力σ50(N/mm2)」に着目することは記載されていない。 そして、さらに技術常識を参酌しても、上記課題を解決する手段として、上記σ20及びσ50に着目することが自明であるともいえない。 そうすると、甲1発明の「ポリテトラフルオロエチレンチューブ」を加工した「ポリテトラフルオロエチレンライナー」について、「200℃の雰囲気下で行う引張試験によって得られる応力‐ひずみ曲線」における「該ポリテトラフルオロエチレンライナーの20%ひずみ引張応力σ’20(N/mm2)」及び「該ポリテトラフルオロエチレンライナーの50%ひずみ引張応力σ’50(N/mm2)」に着目して、下記式(2) 2.4 ≦ 0.1×σ’20+0.3×σ’50 <6.6 式(2) を満たすようにすることを、当業者が容易に想到し得たとはいえない。 (3)よって、甲1発明、及び甲1~甲4に記載された事項から、甲1発明を相違点5に係る本件発明9の構成を備えたものにすることを、当業者が容易に想到し得たとはいえない。 11 本件発明の効果について (1)本件特許明細書には、実施例(【0027】~【0030】)において、肉厚及び内径が本件発明で特定される範囲であるとともに、σ20及びσ50が式(1)を満たす「ポリテトラフルオロエチレンチューブ」が製造されたこと(下記【表1】)が記載されている。 「 [図:0001416518000005.jpg] 」 さらに、本件特許明細書には、実施例で製造された「ポリテトラフルオロエチレンチューブ」について、式(1)の中辺の値と、外径のばらつき(外径の変動係数CV)をプロットした図(下記【図2】)から、芯線をこれらの「ポリテトラフルオロエチレンチューブ」で被覆した時に、均一な伸長性と高い相関性を有することが記載されている。 「 [図:0001416518000006.jpg] 」 (2)これらの記載から、本件特許明細書には、本件発明によって、強度と適度な伸長性を有しており、さらに延伸時の均一性が良好である、薄肉のPTFEチューブが得られたという効果、及び、芯線上に被覆された場合に、均一で寸法のばらつきが小さく、柔軟性と寸法精度に優れており、高い寸法精度が要求される医療用チューブのライナー等に好適に使用できる薄肉のPTFEチューブが得られたという効果が記載されているといえる。以下、これらの効果を「本件発明の効果」という。 (3)そして、上記6(3)ウで説示したとおり、甲1~甲4のいずれにも、甲1発明の課題を解決するための手段としてσ20及びσ50に着目することは記載されておらず、上記σ20及びσ50に着目することが、技術常識から自明であるともいえないのであるから、上記σ20及びσ50が式(1)、式(2)を満たす構成を含む本件発明による上記「本件発明の効果」が、甲1発明、及び甲1~甲4に記載された事項から当業者が予測し得えた効果であるとはいえない。 12 申立人の主張について (1)上記1で説示したとおり、申立人は、本件発明は、甲1発明において、本件発明と甲1発明とに共通する課題の解決及び効果の達成を、甲1に記載されている「チューブの寸法と、引張応力の増加に応じた伸び率の対応関係」という点(「着眼点1」)及び「延伸時に急激な変位をおこさないことにより、延伸したときにも各種寸法のばらつきが少ないチューブとなる」という点(「着眼点2」)に基づき、甲1~甲4に記載されている周知技術を適用することによって実現するものである、という主張をしている。 (2)そこで、上記主張について検討する。 本件発明が解決しようとする課題は、薄肉のPTFEチューブにおいて「適度な伸長性と十分な強度を有するとともに」、「芯線等の被覆に用いる場合に必要な、延伸時の均一性が良好な薄肉PTFEチューブを提供し、柔軟性および寸法精度に優れる医療用チューブを提供する」ことである(本件特許明細書の【0007】)。 これに対し、上記6(3)アで説示したとおり、甲1発明が課題しようとする課題は、「薄肉のPTFEチューブ」において「引張伸び性」と「引張強度が大きい」という2つの特性を両立させ、「あらゆる部分で均一な引張伸び性を有するPTFEチューブを提供すること」であるから、本件発明の上記課題と甲1発明の上記課題とは類似しているといえる。 しかし、上記6(3)及び上記10(2)で説示したとおり、甲1~甲4のいずれにも、上記課題を解決するための手段としてσ20及びσ50に着目することは記載されておらず、上記σ20及びσ50に着目することが技術常識から自明であるともいえないのであるから、上記σ20及びσ50が上記式(1)及び式(2)を満たすようにすることを、当業者が容易に想到し得たとはいえない。 さらに、上記11で説示したとおり、本件発明の効果は、甲1発明、及び甲1~甲4に記載された事項から当業者が予測し得えた効果であるとはいえない。 よって、申立人の上記主張を採用することはできない。 13 申立理由1の判断のまとめ 以上1~12のとおりであるから、本件発明1~9は、甲1発明、及び甲1~甲4に記載された事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。 よって、申立理由1には理由がない。 第5 申立理由2(進歩性)について 1 申立理由2の趣旨(申立書45~69頁) 申立理由2の趣旨は、甲5~甲7に記載された事項を参酌して、本件発明のPTFEチューブの製造方法と、甲1発明のPTFEチューブの製造方法との比較に基づいて、甲1発明に、甲2~甲4に記載されている周知技術を適用して本件発明の構成を得ることは、当業者が容易に想到し得たものである、というものである。 2 甲5~甲7に記載された事項 (1)甲5に記載された事項 甲5(米国特許出願公開第2023/0372591号明細書)は、本件発明の米国出願(以下、本件米国出願という)が公開された公知文献である。 なお、甲5の出願は、本件特許出願のファミリー出願であり、甲5の請求項の番号と内容は、本件発明の請求項の番号と内容に対応しているため、これらの摘記を省略する。 (2)甲6に記載された事項 甲6(Non-Final Rejection)は、本件米国出願の審査過程において米国特許庁が作成した拒絶理由通知書であり、甲6の本文の翻訳文である甲6-1には、以下の記載がある。 (当審注:甲6-1の記載中の「吉本」「稲本」「Wahab」は、それぞれ、米国特許庁が引用した以下の3つの発明における発明者である。 ・「吉本」は、US2004/0213936A1の発明者 ・「稲本」は、US2009/0234329A1の発明者 ・「Wahab」は、US10,744,231(WO2021/025814A1))の発明者) (摘記6a) 「吉本らは、請求項1および5の不等式の関係を教示していないが、実施例5および6で教示されるPTFEチューブの内径および壁厚は、本発明の範囲に含まれる。したがって、吉本らが教示するPTFEチューブは、請求項1および5の不等式(1)の関係、ならびに請求項2、3、6および7の不等式(1)の関係を満たすことが期待される。特に、不等式の関係は、出願人自身の方法に基づいており、200℃の雰囲気が利用される。」(甲6-1の2頁目の下から4行~3頁目の1行) (摘記6b) 「稲本らは、請求項1および5の不等式の即時記載関係を教示していないが、表2の例で教示されたPTFEチューブの内径および壁厚は、即時請求項の範囲内に含まれるであろう。したがって、稲本らが教示したPTFEチューブは、特に、記載された不等式の関係が200℃の雰囲気を利用する出願人自身の方法に基づいているという事実を考慮すると、請求項1および5の不等式(1)、請求項9の不等式(2)、ならびに請求項2、3、6、および7の不等式(1)を満たすことが期待される。」(甲6-1の3頁目の下から9行~4行) (摘記6c) 「Wahabらは、ここで述べた不等式の関係を教示していないが、実施例1および2で教示されたPTFEチューブの内径および壁厚は、本請求項の範囲内である。したがって、特に、ここで述べた不等式の関係が200℃の雰囲気を使用する出願人独自の方法に基づいているという事実を考慮すると、Wahabらが教示したPTFEチューブは、請求項1および5の不等式(1)の関係、および請求項9ならびに請求項2、3、6、7の不等式(1)の関係を満たすことが期待される。」(甲6-1の4頁目の下から10行~5行) (3)甲7に記載された事項 甲7(Applicant Arguments Remarks Made in an Amendment)は、甲6の拒絶理由通知書に対して、本件特許権者が米国特許庁に提出した意見書である。そして、甲7の本文の翻訳文である甲7-1には、以下の記載がある。 (摘記7a) 「吉本については、この特許に記載されたチューブは本発明のチューブと類似しているように見えるが、吉本のチューブの製造方法は本発明のチューブの製造方法とは異なる。後述するように、吉本のチューブの製造方法は、得られるチューブの特性に大きな影響を与える。」(甲7-1の3頁目の下から5行~2行) (摘記7b) 「添付の規則1.132宣言書にさらに記載されているように、稲本のチューブは本発明のチューブと類似しているように見えますが、稲本のチューブの製造方法は本発明のものとは異なります。以下に説明するように、稲本のチューブの製造方法は、結果として得られるチューブの特性に大きな影響を与えます。」(甲7-1の4頁目の下から10行~7行) (摘記7c) 「添付の規則1.132宣言書にさらに記載されているように、Wahabは稲本のものと類似の製造方法を開示しています。Wahabに記載されているチューブは本発明のチューブと似ているように見えますが、Wahabのチューブの製造方法は本発明のものとは異なります。以下に説明するように、Wahabのチューブの製造方法は、結果として得られるチューブの特性に大きく影響します。」(甲7-1の5頁目の下から10行~6行) 3 本件発明1について (1)本件発明1と甲1発明との対比 本件発明1と甲1発明との一致点及び相違点は、上記第4の6(1)で説示したとおりの<一致点>、<相違点1>及び<相違点2>である。 (2)相違点1の検討 上記第4の6(2)で説示したとおり、甲1発明において、「ポリテトラフルオロエチレンチューブの外面および内面のいずれか一方又は両方のぬれ張力が46mN/m以上」になるようにぬれ張力の下限値を設定することは、当業者が容易に想到し得た事項であるといえる。 (3)相違点2の検討 ア 甲5~甲7に記載された事項から看取できる事項 甲5~甲7に記載された事項(上記2)から、本件特許権者は、米国特許庁が引用した3つの発明(当審注:それぞれの発明者は「吉本」、「稲本」、「Wahab」である。)、のいずれも、本件米国出願(当審注:甲5の出願)とは製造方法が異なるため、製造されるチューブの性質に著しく影響を与えていることを主張していることが、看取できる。 イ 本件発明1のPTFEチューブの製造方法 本件特許明細書の実施例(【0028】)の記載から、本件発明1のPTFEチューブの製造方法は、おおむね以下のとおりである。 (工程A) 容器に、篩で塊を除去したPTFEファインパウダー100質量部と、助剤18質量部を入れて混合し、篩で塊を取り除いた後、その混合物を圧縮して予備成形体を作成した。 (工程B) 上記予備成形体を、シリンダー径20mm、マンドレル径10mmの押出成形機に投入し、金型温度100℃で押出してチューブ形状に成形した。金型出口からPTFEが吐出された後の金型周辺をヒーターで覆い、金型出口周辺の温度を90℃に調節した。 (工程C) 上記成形したチューブは、150℃に設定した第1乾燥炉、220℃に設定した第2乾燥炉、430℃に設定した焼成炉を通過させて、乾燥と焼成を行った。得られたチューブは、内径0.60mm、肉厚0.028mmであった。得られたチューブの表面にテトラエッチ(登録商標)を塗布し、アルコール、水で洗浄してエッチング処理を行い、本発明の実施形態のPTFEチューブを作成した。 ウ 甲1発明のPTFEチューブの製造方法 甲1の【0031】(実施例1)の記載から、甲1発明のPTFEチューブの製造方法は、おおむね以下のとおりである。 (工程a) 容器に、PTFEファインパウダー(ダイキン工業社製 ポリフロンPTFE F‐208)100質量部に対して、助剤(エクソンモービル社製 アイソパーH)18質量部を入れて混合し、#10のふるいで塊を取り除いたものを、予備成形機に投入し予備成形体を作成した。 (工程b) チューブの押出成形に用いる押出成形機は、シリンダー径20mm、マンドレル径10mmのものを用い、ダイ内径0.77mm、コアピン0.66mmとし、ダイ温度は140℃とした。 上記予備成形体を押出成形機に投入し、ラム速度3mm/minで押出してチューブ形状に成形した。チューブを高温で押出すため、ダイから押出された直後のチューブの温度低下が急激に起こらないように、ダイ付近をヒーターを用いて温め、チューブ冷却温度を90℃とした。 (工程c) 上記成形したチューブは、150℃に設定した第1の乾燥炉、220℃に設定した第2の乾燥炉、430℃に設定した焼成炉を通過させて乾燥、焼成した。チューブ乾燥、焼成時にはチューブに必要以上の張力がかからないように、引取機の速度を調節した。完成したチューブは、内径0.49mm、外径0.566mm、肉厚0.038mmであった。 エ 製造方法の違い 上記イ及びウを比較すると、予備成形体をチューブ形状に押出成形する工程における温度が、工程Bでは「金型温度100℃」であるのに対し、工程bでは「ダイ温度は140℃」であり、大きな差異がある。 また、工程Cには「エッチング処理」が含まれるが、工程cには「エッチング処理」が含まれていない。 このように、上記イの製造方法と、上記ウの製造方法とは、部分的に類似の工程が含まれているが、明らかに異なる工程が含まれているため、それぞれから得られるPTFEチューブの性質も異なるものと解される。 そして、本件特許明細書に記載されている実施例1以外の実施例、甲1に記載されている実施例1以外の実施例を参酌しても、それぞれの製造法の違いから、本件発明1のPTFEチューブと、甲1発明のPTFEチューブとの性質は異なるものと解される。 オ σ20及びσ50に着目することについて さらに、上記第4の6(3)ウで説示したとおり、甲1~甲4のいずれにも、甲1発明において、甲1発明が解決しようとする課題(上記第4の6(3)ア)を解決する手段として、「200℃の雰囲気下で行う引張試験によって得られる応力‐ひずみ曲線」における、「該ポリテトラフルオロエチレンチューブの20%ひずみ引張応力σ20(N/mm2)」及び「該ポリテトラフルオロエチレンチューブの50%ひずみ引張応力σ50(N/mm2)」に着目することは記載されておらず、上記σ20及びσ50に着目することが自明であるともいえない。 カ 上記ア~オから、本件発明1の製造方法と、甲1発明の製造方法とは異なるのであるから、甲1発明におけるσ20及びσ50が「2.0 ≦ 0.1×σ20+0.3×σ50 <5.5」という式(1)を満たすとはいえない。加えて、当業者が上記σ20及びσ50に着目するとはいえないのであるから、甲1発明において、上記σ20及びσ50が上記式(1)を満たすようにして、甲1発明を相違点2に係る本件発明1の構成を備えたものにすることを、当業者が容易に想到し得たとはいえない。 (4)よって、甲1発明、並びに甲5~甲7及び甲1~甲4に記載された事項から、甲1発明を相違点1及び相違点2に係る本件発明1の構成を備えたものにすることを、当業者が容易に想到し得たとはいえない。 4 本件発明2~4について 本件発明2~4は、請求項1を引用しているため、甲1発明と対比すると、いずれも相違点1及び相違点2を含む点で相違している。 よって、上記3で説示した理由と同様の理由により、甲1発明、並びに甲5~甲7及び甲1~甲4に記載された事項から、甲1発明を本件発明2~4の構成を備えたものにすることを、当業者が容易に想到し得たとはいえない。 5 本件発明5について 本件発明5と甲1発明との一致点及び相違点は、上記第4の8(1)で説示したとおりの<一致点>、<相違点3>及び<相違点4>である。 そして、上記3、並びに上記第4の8(2)~(4)で説示した理由と同様の理由により、甲1発明、並びに甲5~甲7及び甲1~甲4に記載された事項から、甲1発明を相違点3及び相違点4に係る本件発明5の構成を備えたものにすることを、当業者が容易に想到し得たとはいえない。 6 本件発明6~8について 本件発明6~8は、請求項5を引用しているため、甲1発明と対比すると、いずれも相違点3及び相違点4を含む点で相違している。 よって、上記5で説示した理由と同様の理由により、甲1発明、並びに甲5~甲7及び甲1~甲4に記載された事項から、甲1発明を本件発明6~8の構成を備えたものにすることを、当業者が容易に想到し得たとはいえない。 7 本件発明9について 本件発明9と甲1発明との一致点及び相違点は、上記第4の10(1)で説示したとおりの<一致点>及び<相違点5>である。 そして、上記3、並びに上記第4の10(2)~(4)で説示した理由と同様の理由により、甲1発明、並びに甲5~甲7及び甲1~甲4に記載された事項から、甲1発明を相違点5に係る本件発明9の構成を備えたものにすることを、当業者が容易に想到し得たとはいえない。 8 本件発明の効果について 上記第4の11で説示した理由と同様の理由により、本件発明の効果が、甲1発明、並びに甲5~甲7及び甲1~甲4に記載された事項から、当業者が予測し得えた効果であるとはいえない。 9 申立人の主張について (1)上記1で説示したとおり、申立人は、甲5~甲7に記載された事項を参酌して、本件発明のPTFEチューブの製造方法と、甲1発明のPTFEチューブの製造方法との比較に基づいて、甲1発明に、甲2~甲4に記載されている周知技術を適用して本件発明の構成を得ることは、当業者が容易に想到し得たものである、という趣旨の主張をしている。 (2)そこで、上記主張について検討する。 上記3~7で説示したとおり、本件発明1の製造方法と、甲1発明の製造方法とは異なるのであるから、甲1発明におけるσ20及びσ50が本件発明で特定されている式(1)及び式(2)を満たすとはいえない。加えて、当業者が上記σ20及びσ50に着目するとはいえないのであるから、甲1発明における上記σ20及びσ50が上記式(1)及び式(2)を満たすようにして、甲1発明を本件発明1~9の構成を備えたものにすることを、当業者が容易に想到し得たとはいえない。 さらに、上記8で説示したとおり、本件発明の効果は、甲1発明、並びに甲5~甲7及び甲1~甲4に記載された事項から、当業者が予測し得えた効果であるとはいえない。 よって、申立人の上記主張を採用することはできない。 10 申立理由2の判断のまとめ 以上1~9のとおりであるから、本件発明1~9は、甲1発明、並びに甲5~甲7及び甲1~甲4に記載された事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。 よって、申立理由2には理由がない。 第6 申立理由3(サポート要件)について 1 申立理由3の趣旨(申立書70~72頁) 証拠:甲1、甲5~甲8 申立理由3の趣旨は、以下のとおりである。 甲5~甲8に記載された事項から、本件特許権者は、PTFEチューブの内径や肉厚の値が一致するだけではなく、本件特許明細書において記載した特定の製造方法によらなければ、本件発明で特定されている式(1)、式(2)は達成されないということを、認めていることになる。 この点の裏付けとして、申立人は、本件特許の最先の優先日である2022年5月17日以前に市場で販売された2種類のPTFEチューブ(以下「2種類の市販PTFEチューブ」という。)に対して200℃環境下で引張試験を行った。甲8で示す検証結果から、「2種類の市販PTFEチューブ」は本件発明で特定されている肉厚、内径の値を満たすものであるが、σ20及びσ50については式(1)の範囲には入っておらず、「2種類の市販PTFEチューブ」の製造条件は、本件特許明細書に記載の製造条件と重複する部分はあるものの、完全に一致するものではないため、本件特許の明細書において記載したような特定の製造条件によらなければ、式(1)は達成されないことが看取できる。 これに対し、本件発明1~3、5~7、9には製造方法の記載がないから、本件発明1~3、5~7、9は、肉厚や内径の値を満たすものであれば、製造方法の限定なくPTFEチューブを権利範囲に含むことになる。 そうすると、本件発明1~3、5~7、9は、本件発明の課題を解決することができない構成を含むものであるから、サポート要件(特許法第36条第6項第1号)を満たしていない。 また、本件発明1~3を引用する本件発明4、本件発明5~7を引用する本件発明8も、同様にサポート要件(特許法第36条第6項第1号)を満たしていない。 2 サポート要件について 特許請求の範囲の記載が、特許法第36条第6項第1号に規定する要件(いわゆるサポート要件)に適合するか否かは、特許請求の範囲と発明の詳細な説明の記載とを対比し、特許請求の範囲に記載された発明が、発明の詳細な説明に記載された発明で、発明の詳細な説明の記載により当業者が当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否か、また、その記載や示唆がなくとも当業者が出願時の技術常識に照らし当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否かを検討して判断すべきものである。 3 本件発明が解決しようとする課題 上記第4の12で説示したとおり、本件発明が解決しようとする課題(以下「本件発明の課題」という。)は、薄肉のPTFEチューブにおいて「適度な伸長性と十分な強度を有するとともに」、「芯線等の被覆に用いる場合に必要な、延伸時の均一性が良好な薄肉PTFEチューブを提供し、柔軟性および寸法精度に優れる医療用チューブを提供する」ことである(本件特許明細書の【0007】)。 4 発明の詳細な説明に記載された事項 本件特許明細書の発明の詳細な説明(以下「発明の詳細な説明」という。)には、本件発明が「本件発明の課題」を解決できることについて、下記(1)及び(2)以下の内容が記載されている。 (1)段落【0008】~【0011】には、「本件発明の課題」を解決するための手段として、本件発明で特定されている「肉厚」、「内径」、「ぬれ張力」、式(1)を満たすPTFEチューブ、本件発明9で特定されている「肉厚」、「内径」、式(2)を満たすポリテトラフルオロエチレンライナーによって、「本件発明の課題」を解決できることについて説明する記載がある。 (2)実施例(【0027】~【0030】)には、肉厚及び内径が本件発明で特定される範囲であるとともに、σ20及びσ50が式(1)を満たすPTFEチューブが製造されたこと(下記【表1】)が記載されている。 「 [図:0001416518000007.jpg] 」 (3)さらに、実施例で製造されたPTFEチューブについて、式(1)の中辺の値と、外径のばらつき(外径の変動係数CV)をプロットした図(下記【図2】)から、芯線をこれらの「ポリテトラフルオロエチレンチューブ」で被覆した時に、均一な伸長性と高い相関性を有することが記載されている。 「 [図:0001416518000008.jpg] 」 5 サポート要件の判断 上記4(1)~(3)から、発明の詳細な説明の記載に接した当業者は、本件発明によって、適度な伸長性と十分な強度を有するとともに、延伸時の均一性が良好である薄肉のPTFEチューブ、及び、芯線上に被覆された場合に、均一で寸法のばらつきが小さく、柔軟性と寸法精度に優れており、高い寸法精度が要求される医療用チューブのライナー等に好適に使用できる薄肉のPTFEチューブが得られたこと、そして、このようなPTFEチューブが得られたことによって「本件発明の課題」を解決できることを、認識できるといえる。 6 申立人の主張について (1)上記1で説示したとおり、申立人は、甲8で示す検証結果から、本件特許明細書に記載の製造条件と完全には一致していない製造条件で得られた「2種類の市販PTFEチューブ」は、本件発明で特定されている肉厚、内径の値を満たすが、σ20及びσ50は式(1)の範囲には入っていないことを根拠として、製造方法が特定されていない本件発明は、本件発明の課題を解決することができない構成を含むものであるから、サポート要件(特許法第36条第6項第1号)を満たしていない旨を主張している (2)そこで、上記主張について検討する。 ア 甲8で示された、「2種類の市販PTFEチューブ」の検証結果は以下のとおりである。 甲8では「チューブ○1」、「チューブ○2」(当審注:「○1」、「○2」は、それぞれ「1」の○囲い、「2」の○囲いを意味する。)と記載されているが、以下では、それぞれ「市販PTFEチューブ(1)」、「市販PTFEチューブ(2)」と記載する。 <市販PTFEチューブ(1)> [図:0001416518000009.jpg] <市販PTFEチューブ(2)> [図:0001416518000010.jpg] これらの結果から、市販PTFEチューブ(1)の肉厚、内径、及び式(1)の値は、それぞれ0.025mm、0.560mm、及び1.6であり、市販PTFEチューブ(2)の肉厚、内径、及び式(1)の値は、それぞれ0.025mm、1.860mm、及び6.0であって、市販PTFEチューブ(1)及び(2)は、肉厚及び内径は本件発明で特定されている値の範囲内であるが、式(1)の値は本件発明で特定されている範囲外であることを、当業者は理解できるといえる。 イ そして、「2種類の市販PTFEチューブ」の製造条件は下記のとおりである(申立書71頁)。 [図:0001416518000011.jpg] 上記記載から、「2種類の市販PTFEチューブ」の製造条件は、本件特許明細書に記載の製造条件と完全には一致していないことを、当業者は理解できるといえる。 ウ ここで、上記ア及びイは、あくまでも、「2種類の市販PTFEチューブ」が、本件発明のPTFEチューブには該当しないことを示す記載に過ぎず、本件発明で特定されている「肉厚」、「内径」及び式(1)を満たすPTFEチューブが、本件発明の課題を解決できないことを示す記載ではない。 エ そして、上記4で説示したとおり、発明の詳細な説明から、実施例(【0027】~【0030】)において、本件発明で特定されている「肉厚」、「内径」及び式(1)を満たすPTFEチューブが、本件発明の課題を解決できることを当業者が理解できるといえるのであるから、本件発明において製造方法が特定されていないことを考慮しても、本件発明が本件発明の課題を解決することができない構成を含むものであるとはいえない。 オ よって、申立人による上記主張を採用することはできない。 7 申立理由3の判断のまとめ 以上1~5のとおり、本件発明1~9は、発明の詳細な説明に記載された発明であるから、本件特許の請求項1~9の記載は、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たすものである。 よって、申立理由3には理由がない。 第7 申立理由4(明確性)について 1 申立理由4の趣旨(申立書72~75頁) 証拠 甲第1号証 (1)本件発明では、本件発明の課題を解決するために、200℃の雰囲気下で行う引張試験における20%ひずみ引張応力、50%ひずみ引張応力、これらの数値を用いた式(1)、式(2)、引張破断ひずみの記載があるが、発明の内容として200℃という特定の温度を前提とすることや背景、目的等が明細書及び図面に記載されていない。 甲1には、甲1発明が解決しようとする課題(以下「甲1発明の課題」という。)を解決するための手段について、引張試験を23℃±2℃で行うことが記載されており(甲1の【0030】)、当該引張試験を23℃±2℃で行う背景については明記されていないが、甲1の【0018】には「本発明のPTFEチューブは、200℃雰囲気下で0.1mm2単位面積当たり120gの荷重をかけて加熱延伸した後のチューブ肉厚のばらつき(変動係数CV)が、0.1以下である。」という記載があり、200℃という温度とチューブ肉厚のばらつき(肉厚のばらつきが少なくなることで、外径のばらつきが少なくなり延伸時の均一性に繋がる)関連する内容はみられる。 そして、甲1発明を参照しても、本件発明において、引張試験を200℃という特定の温度で行うことを前提とする背景、目的等は明らかではない。 したがって、本件発明を特定するための事項がどのような技術的意味を有するのかが不明確であるため、当業者は理解することができないのであるから、本件発明は不明確である。 (2)本件特許明細書には、従来技術のPTFEチューブを、外径変動係数CVを用いて表現した比較例は記載されておらず、本件発明のPTFEチューブにおいても、式(1)、式(2)において伸び率である20%や50%という数値を別の数値に変えた場合の影響やデータが示されていない。 例えば、図2においてプロットされている例は式(1)を満たすとされている実施例のみであり、式(1)、式(2)を満たさない場合はどのようになるのが理解できない。図2においてはいずれも実施例の外径の変動係数CVが0.0020以下となっており、この水準を満たすことが本件特発明の本質的な部分ということなのか、比較対象がないため理解できない。 したがって、本件発明は、本件出願時の技術水準との関係が理解できないから、不明確である。 2 本件発明における発明特定事項について (1)本件発明の「肉厚」、「内径」についての説明は、本件特許明細書の【0015】及び【図1】等に記載されている。 (2)本件発明の「ぬれ張力」についての説明は、本件特許明細書の【0019】等に記載されており、その測定方法は実施例の「<ぬれ張力試験>」の項目(【0027】)に記載されている。 (3)本件発明の「200℃の雰囲気下で行う引張試験によって得られる応力‐ひずみ曲線」、PTFEチューブの「20%ひずみ引張応力σ20(N/mm2)と該ポリテトラフルオロエチレンチューブの50%ひずみ引張応力σ50(N/mm2)」及び「引張破断ひずみ」については、本件特許明細書の【0008】~【0011】で説明されており、これらの値の測定方法及び測定結果は、実施例の「<200℃の雰囲気下で行う引張試験>」の項目(【0027】)に記載されている。 3 明確性要件の判断 上記2(1)~(3)のとおりであるから、本件特許明細書の記載から、当業者は、本件発明における発明特定事項の意味を理解できるといえるので、本件発明は明確である。 4 申立人の主張について (1)上記1(1)で説示したとおり、申立人は、「発明の内容として200℃という特定の温度を前提とすることや背景、目的等が明細書及び図面に記載されていない」ことを根拠として、本件発明は明確ではないという趣旨の主張をしている。 しかし、上記2及び3で説示したとおり、当業者は、本件特許明細書の記載から、「200℃の雰囲気下で行う引張試験によって得られる応力‐ひずみ曲線」、「σ20」、「σ50」及び「引張破断ひずみ」の意味を理解でき、本件発明は明確である。 よって、申立人による上記主張を採用することはできない。 (2)上記1(2)で説示したとおり、申立人は、本件特許明細書には、従来技術のPTFEチューブを外径変動係数CVを用いて表現した「比較例」、及び、本件発明のPTFEチューブについて、式(1)、式(2)における伸び率である20%や50%という数値を別の数値に変えた「比較対象」が記載されていないことを根拠として、本件発明は明確ではないという趣旨の主張をしている。 しかし、上記2及び3、並びに上記(1)で説示したとおり、本件発明は明確であって、本件特許明細書に「比較例」や「比較対象」の記載がないからといって、本件発明が明確ではないとはいえない。 よって、申立人による上記主張を採用することはできない。 5 申立理由4の判断のまとめ 以上1~3のとおり、本件発明1~9は明確であるから、本件特許の請求項1~9の記載は、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たすものである。 よって、申立理由4には理由がない。 第8 むすび 以上のとおり、申立理由1~4にはいずれも理由がなく、特許異議の申立ての理由及び証拠によっては、本件特許の請求項1~9に係る特許を取り消すことはできない。 また、他に、本件特許の請求項1~9に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。 よって、結論のとおり決定する。

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2024-700661

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