特許異議申立
2023-700408
メチルメルカプタン臭抑制剤
- 審判番号
- 2023-700408
- 法域
- 特許
- 審判種別
- 異議申立(異議の決定)
- 出願番号
- 特願2018-134183
- 登録番号
- 7158192
- 請求日
- 2023年04月21日
- 審決日
- 2024年01月10日
- 公報発行日
- 2024年04月26日
- 結論
- 訂正認容
- 当事者
- 【権利者】花王株式会社
- 【権利者代理人】弁理士法人アルガ特許事務所
- 【異議申立人】川口 結生
- 審判長/審判官
- 審判長 三崎 仁
- 審判官 原 賢一
- 審判官 松井 裕典
- 分類
- P1651.537-YAA(A61L) / P1651.121-YAA(A61L) / P1651.536-YAA(A61L)
- 根拠条文(結論部分から自動抽出・参考)
- 特許法29条2項特許法36条4項1号特許法36条6項1号特許法36条6項2号特許法113条2号特許法113条4号
- 条文(本文から自動抽出・参考)
- 特許法第29条第2項、特許法第36条第6項第1号、特許法第36条、特許法第120条の5第4項、特許法第120条の5第2項、特許法第36条第6項第2号、特許法第36条第4項第1号
- データ出所
- 審決公報(XML)
事件の表示
特許第7158192号発明「メチルメルカプタン臭抑制剤」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。
結論
結 論
特許第7158192号の特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1-3〕について訂正することを認める。
特許第7158192号の請求項1-3に係る特許を維持する。
理由
理 由
第1 手続の経緯
特許第7158192号の請求項1~3に係る特許についての出願は、平成30年7月17日を出願日とする出願であり、令和4年10月13日にその特許権の設定登録がされ、同年同月21日に特許掲載公報が発行され、その後、令和5年4月21日に、その請求項1~3に係る特許を対象として特許異議申立人川口結生(以下、「異議申立人」という。)により、特許異議の申立てがなされ、同年8月18日付けで取消理由が通知され、その指定期間内である同年9月20日に特許権者より意見書の提出及び訂正の請求があり、これに対し、同年11月7日に異議申立人から意見書及び意見書に添付された参考資料1~4が提出されたものである。
第2 訂正の適否
1 訂正事項
上記令和5年9月20日にされた訂正の請求(以下、その訂正を「本件訂正」という。)は、特許請求の範囲を、訂正請求書に添付した訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項1~3について訂正することを求めるものであって、その具体的な訂正事項は次のとおりである。
特許請求の範囲の請求項1に「メチルメルカプタン臭抑制剤」とあるのを、「においの交差順応に基づくメチルメルカプタン臭抑制剤」に訂正する。
(請求項1を引用する請求項2、3についても同様に訂正する。)
2 訂正の目的の適否、新規事項の有無及び特許請求の範囲の拡張・変更の存否
(1)上記訂正事項は、「メチルメルカプタン臭抑制剤」が、「においの交差順応に基づく」ものであることを限定するものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものであると共に、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。
(2)上記訂正事項は、本件明細書の【0017】、【0018】の「本発明において、OR4S2アゴニストとは、アセトフェノン、p-メンテン-8-チオール、p-メンタン-8-チオール-3-オン及びフルフリルメルカプタンからなる群より選択される少なくとも1種を意味する。・・・上述したOR4S2アゴニストは、メチルメルカプタン臭抑制のために使用される。より詳細には、該OR4S2アゴニストは、嗅覚受容体アゴニズムによるにおいの交差順応に基づくメチルメルカプタン臭の抑制のために使用される。」との記載に基づくものであるから、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の訂正である。
3 小括
本件訂正は、特許法第120条の5第4項の規定に従い、一群の請求項を構成する請求項〔1~3〕について訂正することを求めるものであるところ、上記2のとおり、本件訂正は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に掲げる事項を目的とするものに該当し、かつ、同条第9項において準用する同法第126条第5項及び第6項の規定に適合するものであるから、訂正後の請求項〔1~3〕について訂正することを認める。
第3 本件発明
上記第2のとおり、本件訂正は認容し得るものであるから、本件訂正後の請求項1ないし3に係る発明(以下、各請求項に係る発明及び特許を項番に対応させて「本件発明1」、「本件特許1」などといい、併せて「本件発明」、「本件特許」ということがある。)は、次のとおり特定されるものである。
「【請求項1】
p-メンテン-8-チオール、及びp-メンタン-8-チオール-3-オンからなる群より選択される少なくとも1種の物質を有効成分とする、においの交差順応に基づくメチルメルカプタン臭抑制剤。
【請求項2】
メチルメルカプタン臭に曝される前の対象者に適用される、請求項1記載のメチルメルカプタン臭抑制剤。
【請求項3】
メチルメルカプタン臭を発生する可能性のある環境に適用されるか、又はメチルメルカプタン臭を発生する可能性のある物質に添加される、請求項1記載のメチルメルカプタン臭抑制剤。」
第4 令和5年8月18日付けで通知した取消理由及びこの取消理由において採用しなかった異議申立人による特許異議の申立理由の概要
1 令和5年8月18日付けで通知した取消理由の概要
(1)特許法第36条第6項第2号所定の規定違反(明確性要件違反)(以下、「取消理由1」という。)
本件訂正前の請求項1~3に係る特許は、特許請求の範囲の記載が後記第5の1(1)の点で不備のため、特許法第36条6項第2号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものである。
(2)特許法第36条第6項第1号所定の規定違反(サポート要件違反)(以下、「取消理由2」という。)
本件訂正前の請求項1~3に係る特許は、「メチルメルカプタン臭抑制剤」に関して、特許請求の範囲の記載が不備のため、特許法第36条6項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものである。
2 取消理由において採用しなかった異議申立人による特許異議の申立理由の概要
(1)特許法第29条第2項所定の規定違反(進歩性欠如)(以下、「申立理由1」という。)
ア 訂正前の請求項1~3に係る発明は、下記甲第1号証に記載された発明及び下記甲第2号証、甲第3号証、甲第5号証に記載された事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、その特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものである(以下、「申立理由1-1」とする。)。
イ 訂正前の請求項1~3に係る発明は、下記甲第4号証に記載された発明及び甲第2号証、甲第5号証に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、その特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものである(以下、「申立理由1-2」とする。)。
記
甲第1号証:特開2007-99782号公報
甲第2号証:Mamiko Yoshimura,et al.,「3-Chloro-DL-alanine resistance by L-methionine-α-deamino-γ-mercaptomethane-lyase activity」,FEBS Letters 523(2002),p119-122
甲第3号証:印藤元一、「<増補改訂版>合成原料 化学と商品知識」、化学工業日報社、2005年3月22日、742、743頁
甲第4号証:特表2018-508634号公報
甲第5号証:石川正夫 他、「口臭に関する研究 第二報 洗口吐出液のメチルメルカプタン発生能を指標とする口臭測定法」、口腔衛生学会雑誌 第34巻 第2号、昭和59年4月、54~60頁
以下、甲第1号証を「甲1」などという。
(2)特許法第36条第6項第1号及び同法第4項第1号所定の規定違反(サポート要件違反及び実施可能要件違反)(以下、「申立理由2」という。)
本件請求項1、3に係る特許は、特許請求の範囲及び明細書の記載が後記第5の4(1)の点で不備のため、特許法第36条第6項第1号及び同法第4項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものである。
第5 当審の判断
当審は、上記取消理由1、2及び申立理由1、2のいずれにも理由がないと判断する。
以下、その理由について詳述する。
1 取消理由1(明確性要件違反)について
(1)取消理由1の内容
訂正前の請求項1には、「メチルメルカプタン臭抑制剤」との記載がある。ここで、本件明細書には、「抑制剤」に関する直接的な定義は見当たらない。
そして、においを「抑制」する「剤」として考えた場合、この(においの)「抑制」には、例えば、本件明細書の【0018】の記載によれば、「交差順応に基づく」(においの)抑制の意味や、同段落の「従来の消臭剤または芳香剤を用いる消臭方法において生じていた芳香剤の強いにおいに基づく不快感等や、他のにおいをも抑えてしまうという問題を生じることがなく、メチルメルカプタン臭を消臭することができる。」との記載によれば、従来の消臭剤または芳香剤で行われていた消臭も、においの抑制ととらえられていたということができ、この意味でのにおいの「抑制」の意味も含まれるなど、「抑制剤」の記載は、多義的に解釈され得る。
そうすると、訂正前の請求項1の「メチルメルカプタン臭抑制剤」の記載の意味が一義的に定まらず、その技術的な範囲が定まらないことになるから、訂正前の請求項1の記載は、不明確である。
訂正前の請求項1を引用する請求項2、3の記載も、同様に不明確である。
(2)取消理由1に対する当審の判断
本件訂正により、「メチルメルカプタン臭抑制剤」が「においの交差順応に基づくメチルメルカプタン臭抑制剤」に訂正されることにより、請求項1において、「メチルメルカプタン臭抑制剤」が「においの交差順応に基づく」ものであることが明らかになり、「メチルメルカプタン臭抑制剤」の記載の意味が一義的に定まるものとなった。
そうすると、「においの交差順応に基づくメチルメルカプタン臭抑制剤」の記載の技術的な範囲が定まらないということはないから、この記載を含む請求項1の記載、及び請求項1を引用する請求項2、3の記載も、明確である。
(3)小括
上記(2)で述べたとおり、請求項1~3の記載は、明確であるから、取消理由1には、理由がない。
2 取消理由2(サポート要件違反)について
(1)サポート要件判断の規範に沿った判断
ア サポート要件判断の規範と本件発明の課題
特許請求の範囲の記載が明細書のサポート要件に適合するか否かは、特許請求の範囲の記載と発明の詳細な説明の記載とを対比し、特許請求の範囲に記載された発明が、発明の詳細な説明に記載された発明で、発明の詳細な説明の記載又はその示唆により当業者が当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否か、また、その記載や示唆がなくとも当業者が出願時の技術常識に照らし当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否かを検討して判断すべきである。
そして、発明の課題とは、本件発明で解決しようとする従来技術の問題点であるといえるところ、従来技術の問題点が記載されているのは、本件明細書の【0018】の「該OR4S2アゴニストによれば、従来の消臭剤または芳香剤を用いる消臭方法において生じていた芳香剤の強いにおいに基づく不快感等や、他のにおいをも抑えてしまうという問題を生じることがなく、メチルメルカプタン臭を消臭することができる。」との記載であるから、本件発明の課題は、従来の消臭剤または芳香剤を用いる消臭方法において生じていた芳香剤の強いにおいに基づく不快感等や、他のにおいをも抑えてしまうという問題を生じることがなく、メチルメルカプタン臭を消臭することにあるといえる。
なお、本件明細書の【発明が解決しようとする課題】の後の【0006】に「本発明はメチルメルカプタン臭抑制剤に関する。」との記載があるが、【技術分野】の後の【0001】の「本発明はメチルメルカプタン臭抑制剤に関する。」との記載の繰り返しであって、本件発明の課題を記載したものとはいえない。
イ 本件発明の課題に対応する本件明細書の記載
上記アの発明の課題に対応して、本件明細書の【0007】の「本発明者は、メチルメルカプタンに応答する嗅覚受容体を新たに同定することに成功した。また本発明者は、該メチルメルカプタンに応答する嗅覚受容体を別の物質を用いて活性化し、脱感作を引き起こすことで、交差順応に基づいてメチルメルカプタン臭を抑制する物質を見出した。」との記載によれば、メチルメルカプタン臭の消臭は、メチルメルカプタンに応答する嗅覚受容体を別の物質を用いて活性化し、脱感作を引き起こす、交差順応に基づいてメチルメルカプタン臭を抑制するという作用機序に基づくこと、同【0008】には、この別の物質として、p-メンテン-8-チオール、p-メンタン-8-チオール-3-オン等が記載されている。
同様の記載は、同【0015】及び【0016】にもあり、ここでは、「本発明者の研究により」、「生きた動物の嗅上皮に存在するOR4S2は、メチルメルカプタン臭の認識に関与すること」(【0016】)、さらに「p-メンテン-8-チオール、p-メンタン-8-チオール-3-オン」等が、「金属イオン存在下でのOR4S2の応答を増強するOR4S2アゴニストであ」り、「これらのOR4S2アゴニストは、動物におけるOR4S2のメチルメルカプタン臭応答に変化を生じさせることで、嗅覚受容体アゴニズムによるにおいの交差順応に基づいてメチルメルカプタン臭を選択的に抑制することができる」ことが記載されている。
ここで、「においの交差順応」については、同【0013】に、「「においの交差順応」においては、標的においの原因物質に対する嗅覚受容体が、該標的においの原因物質への応答に先だって異なるにおいの原因物質に応答し、次いで脱感作することにより、後から該標的においの原因物質に曝されても低い応答しかできず、その結果、個体に認識される標的においの強度の低下又は変質が生じる。」と記載されている。
さらに、同【0034】~【0054】に記載される実施例では、同【0045】~【0047】に記載される実施例1で、「メチルメルカプタンに対して最も高い応答性をもたらした受容体としてOR4S2が同定」され、同【0048】~【0050】に記載される実施例2で、「OR4S2の応答を活性化させる物質として、」「p-Menthene-8-thiol、p-Menthane-8-thiol-3-one」等を見いだすと共に、「これらの物質は、OR4S2アゴニストであり、嗅覚受容体アゴニズムによるにおいの交差順応に基づくメチルメルカプタン臭抑制剤として機能すると考えられた。すなわち、これらの物質を嗅ぎ続けることで、鼻でOR4S2の脱感作が引き起こされ、メチルメルカプタンを認識できない状況が生じると期待された」(【0050】)としている。
そして、【0051】~【0054】に記載される実施例3では、「実施例2で見出されたOR4S2アゴニストによるメチルメルカプタン臭抑制効果を、官能試験により評価」すると共に「官能試験では、該アゴニストの交差順応によるにおい抑制作用を評価した」(【0051】)とされ、その結果は、「試験されたOR4S2アゴニストは、いずれも、嗅覚受容体アゴニズムによるにおいの交差順応に基づくメチルメルカプタン臭抑制効果を示した。本実施例の結果から、これらの物質がメチルメルカプタン臭の抑制に有効であることが示された。」(【0054】)とされている。
本件明細書の以上の記載によれば、上記アの発明の課題を解決するには、メチルメルカプタンに応答する嗅覚受容体を別の物質を用いて活性化し、脱感作を引き起こす、交差順応に基づいてメチルメルカプタン臭を抑制するという作用機序に基づき、この別の物質として、p-メンテン-8-チオール、p-メンタン-8-チオール-3-オンを用いる必要があり、p-メンテン-8-チオール、p-メンタン-8-チオール-3-オンに着目すれば、これらの物質を用いた、においの交差順応に基づくメチルメルカプタン臭抑制剤であることが肝要であるといえる。
ウ 特許請求の範囲の記載と本件明細書の発明の詳細な説明の記載との対比
上記イで述べたように、本件明細書の発明の詳細な説明の記載に照らすと、上記アの発明の課題を解決するには、p-メンテン-8-チオール、p-メンタン-8-チオール-3-オンを用いた、においの交差順応に基づくメチルメルカプタン臭抑制剤であることが肝要であると理解されるところ、本件訂正後の請求項1では、「メチルメルカプタン臭抑制剤」が「においの交差順応に基づく」ものであることが特定されている。
そうすると、本件発明は、上記アで述べた本件発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるということができる。
(2)令和5年11月7日提出の意見書で異議申立人が主張するサポート要件違反の理由について
上記(1)で述べたように、サポート要件判断の規範に沿った判断で、本件発明における特許請求の範囲の記載は、サポート要件を満たしているのであるから、異議申立人が令和5年11月7日提出の意見書で主張するサポート要件違反の理由は、サポート要件の判断を左右するものではない。また、上記意見書で主張するサポート要件違反の理由は、本件訂正に起因して生じた理由ではなく、新たに主張される理由であって、時期を逸した理由であるから、本来考慮する必要のないものではあるものの、念のため以下検討する。
ア 異議申立人の主張する理由の内容
(ア)本件発明の課題は、従来の消臭剤または芳香剤を用いる消臭方法において生じていた芳香剤の強いにおいに基づく不快感等や、他のにおいをも抑えてしまうという問題を生じることがなく、メチルメルカプタン臭を消臭することにあるといえる。
これに対し、甲4には、「p-メンタン-8-チオール-3-オンを有効成分とする、フレッシュニング組成物」の記載があり、さらに、フレッシュニング組成物とは「空気を処理し(例えば、悪臭を排除する、若しくは低減する/ 最小限に抑える)」用途に用い得る組成物であることが記載されている。ここでの「悪臭」は「メチルメルカプタン」のみに基づく臭いであることは考え難いから、甲4には、p-メンタン-8-チオール-3-オンは「メチルメルカプタン」に基づかない臭いについても抑え得ることが記載されているといえる。
また、甲4の他、参考資料1(特開2011-69039号公報)、参考資料2(特開平7-291809号公報)、参考資料3(特開2015-17236号公報)及び参考資料4(特開2006-225643号公報)に記載されるように、p-メンテン-8-チオール及びp-メンタン-8-チオール-3-オンが、種々のにおいを抑制し得るということは、本件特許出願時には周知であった。
そうすると、本件発明1~3が、どのようにして、他のにおいをも抑えてしまうという問題を生じることがなく、メチルメルカプタン臭を消臭するという課題を解決できるのか、当業者であっても理解できない。
(イ)本件発明3は、「p-メンテン-8-チオール、及びp-メンタン-8-チオール-3-オンからなる群より選択される少なくとも1種の物質を有効成分」とする「においの交差順応に基づくメチルメルカプタン臭抑制剤」を「メチルメルカプタン臭を発生する可能性のある環境に適用」すること、又は「メチルメルカプタン臭を発生する可能性のある物質に添加」するものであるところ、「環境に適用」したり、「物質に添加」する場合、上記メチルメルカプタン臭抑制剤は、「メチルメルカプタン臭」以外の臭いも抑制してしまう。
そうすると、本件発明3でも、どのようにして、他のにおいをも抑えてしまうという問題を生じることがなく、メチルメルカプタン臭を消臭するという課題を解決できるのか、当業者であっても理解できない。
(ウ)本件発明2は、「p-メンテン-8-チオール、及びp-メンタン-8-チオール-3-オンからなる群より選択される少なくとも1種の物質を有効成分」とする「においの交差順応に基づくメチルメルカプタン臭抑制剤」を「メチルメルカプタン臭に曝される前の対象者に適用」するものであるところ、この対象者に適用する態様が、例えば対象者に剤を噴霧するなどした場合には、結局臭いのある環境に適用していることになる。
そうすると、本件発明2でも、どのようにして、他のにおいをも抑えてしまうという問題を生じることがなく、メチルメルカプタン臭を消臭するという課題を解決できるのか、当業者であっても理解できない。
イ 上記アの理由に対する当審の判断
(ア)上記ア(ア)の理由に対して
まず、異議申立人は、「p-メンテン-8-チオール、及びp-メンタン-8-チオール-3-オン」が他のにおいをも抑えてしまう例として、甲4、参考資料1~4を提示しているが、これらの証拠において、「p-メンテン-8-チオール、及びp-メンタン-8-チオール-3-オン」が抑えているのは、悪臭(甲4(【0010】))、硫黄由来の火薬臭い臭気(参考資料1(【0004】))、過酢酸系刺激臭(参考資料2(【請求項1】))、不快なアミン臭及び高級脂肪酸臭(参考資料3(【0013】))等であり、これらの悪臭といえる臭いが、抑えられて何らかの不都合が生じるとは考えがたく、本件発明の課題における抑えてしまうと問題になる「他のにおい」に該当するものとまではいえない。
そうすると、異議申立人の主張及び提出された証拠では、本件発明は、メチルメルカプタン臭以外のにおいをも抑えてしまうため本件発明の課題を解決することができないとの理由は採用できない。
さらに、検討すると、本件明細書の【0017】、【0018】の「本発明において、OR4S2アゴニストとは、アセトフェノン、p-メンテン-8-チオール、p-メンタン-8-チオール-3-オン及びフルフリルメルカプタンからなる群より選択される少なくとも1種を意味する。・・・これらの物質は、これまで香料素材として知られていたが、OR4S2アゴニストとしての機能や、メチルメルカプタン臭を選択的に抑制する機能を有することは知られていなかった。・・・該OR4S2アゴニストは、嗅覚受容体アゴニズムによるにおいの交差順応に基づくメチルメルカプタン臭の抑制のために使用される。該OR4S2アゴニストによれば、従来の消臭剤または芳香剤を用いる消臭方法において生じていた芳香剤の強いにおいに基づく不快感等や、他のにおいをも抑えてしまうという問題を生じることがなく、メチルメルカプタン臭を消臭することができる。」との記載によれば、本件発明の課題での「他のにおいをも抑えてしまう」とは、嗅覚受容体アゴニズムによるにおいの交差順応に基づくものではない、従来の消臭剤または芳香剤を用いる消臭方法での芳香剤の強いにおいを用いた場合に生じる他のにおいの抑制であることが理解できる。
これに対し、本件発明の嗅覚受容体アゴニズムによるにおいの交差順応に基づくメチルメルカプタン臭の抑制では、上記の記載によれば、従来のように強いにおいを用いることなく、すなわち従来の消臭方法に比べて低い濃度でメチルメルカプタン臭の抑制を行うことができることが理解できる。
そして、提出された甲4、参考資料1~4には、「p-メンテン-8-チオール、及びp-メンタン-8-チオール-3-オン」が、嗅覚受容体アゴニズムによるにおいの交差順応に基づき各においを抑えるものであることは記載されておらず、むしろ従来の消臭方法によるものであるといえるから、それぞれのにおいを抑えるには、「p-メンテン-8-チオール、及びp-メンタン-8-チオール-3-オン」の強いにおいが必要であったといえる。
そうすると、本件発明における嗅覚受容体アゴニズムによるにおいの交差順応に基づくメチルメルカプタン臭抑制剤によって、メチルメルカプタン臭を抑制しようとする際に、仮に他のにおいが共存していたとしても、他のにおいに対してはにおいの交差順応が生じるとはいえないため、他のにおいまでが抑制されるとまではいえない。
以上によれば、異議申立人の上記ア(ア)の主張及び提出された証拠では、本件発明は、メチルメルカプタン臭以外のにおいをも抑えてしまうため本件発明の課題を解決することができないとの理由は採用できない。
(イ)上記ア(イ)及び(ウ)の理由に対して
「p-メンテン-8-チオール、及びp-メンタン-8-チオール-3-オンからなる群より選択される少なくとも1種の物質を有効成分」とする「においの交差順応に基づくメチルメルカプタン臭抑制剤」を、本件発明3におけるように、「環境に適用」したり、「物質に添加」したりする場合、又は、本件発明3におけるように、「メチルメルカプタン臭に曝される前の対象者に適用」する際に、仮に、対象者に剤を噴霧するなどした場合であっても、「においの交差順応に基づくメチルメルカプタン臭抑制剤」が、対象者の嗅覚受容体に届きさえすれば、においの交差順応に基づくメチルメルカプタン臭抑制が生じる。そして、メチルメルカプタン臭に他のにおいが加わったとしても、本件発明では、他のにおいをも抑えてしまうという問題を生じることがないことは、上記(ア)で述べたとおりであり、本件発明2、3においても、他のにおいをも抑えてしまうという問題を生じることはないから、他のにおいを抑えることなくメチルメルカプタン臭を消臭するという課題を解決できないということはない。
(ウ)上記(ア)及び(イ)で述べたとおりであるから、異議申立人の令和5年11月7日提出の意見書で主張するサポート要件違反の理由は採用することができない。
(3)小括
上記(1)及び(2)で述べたとおり、請求項1~3の記載は、発明の詳細な説明に記載されたものであるから、取消理由2には、理由がない。
3 申立理由1について
(1)各甲号証に記載された事項
ア 甲1に記載された事項
(ア)「【請求項1】
ヘキシルアルデヒド、カリオフィレンアルコール、シンナミックアルデヒド、ジヒドロオイゲノール、ファルネソール、ジヒドロファルネソール、ヒノキチオール、イソオイゲノール、γ-ウンデカラクトン、d-リモネン、o-メトキシシンナミックアルデヒド、β-ピネン、γ-テルピネン、テルピノーレン、オレンジオイル、ナツメグオイル、グレープフルーツオイル、ディルウィードオイル、パインニードルオイル、スペアミントオイル、タンジェリンオイル、スィーティオイル、レモンオイル、ライムオイル、ハッカオイル、マンダリンオイルから選ばれた少なくとも一種を含有することを特徴とする口腔用組成物に添加するための抗菌香料組成物。
【請求項2】
請求項1記載の抗菌香料組成物を含有することを特徴とする口腔用組成物。」
(イ)「【技術分野】
【0001】
本発明は安全性に優れた歯周病原因菌に有効に抑制作用を示す抗菌香料組成物に関する。また、本発明は上記抗菌香料組成物を含有する口腔用組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
口腔内には数百種類にもおよぶ好気性、嫌気性の細菌、真菌等の微生物類が棲息しており口腔内疾患と密接に関わっている。これらの病原性微生物の増殖はなんらかの要因により引き起こされ、う蝕(虫歯)、歯周病、口内炎、口臭などの各種疾患を誘発する。特にう蝕と歯周病は口腔内の二大疾患であり、これらの予防と治療には重大な関心が持たれている。歯周病の原因菌としてはフソバクテリウム・ヌクレアタム(Fusobacterium nucleatum)、ポルフィロモナス・ジンジバリス(Porphyromonas gingivalis)、プリボテラ・インターメディア(Prevotella intermedia)などが知られている。」
(ウ)「【発明が解決しようとする課題】
【0009】
従って、本発明の目的は、上記の要望を満足する抗菌活性を有する抗菌香料組成物及それを含有する口腔用組成物を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者等は上記課題を解決すべく鋭意研究した結果、長年の使用経験より安全性が確認されている食品用の香料成分と天然香料の中に、抗菌活性に優れた物質として有効なものがあることを見いだした。さらに食品に多く用いられている香料成分と天然香料の中に、対象菌と接触する時間が短い場合にも抗菌活性に優れた物質があることを見いだし、本発明を完成した。
【0011】
すなわち、本発明は以下の各発明を包含する。
(1)ヘキシルアルデヒド、カリオフィレンアルコール、シンナミックアルデヒド、ジヒドロオイゲノール、ファルネソール、ジヒドロファルネソール、ヒノキチオール、イソオイゲノール、γ-ウンデカラクトン、d-リモネン、o-メトキシシンナミックアルデヒド、β-ピネン、γ-テルピネン、テルピノーレン、オレンジオイル、ナツメグオイル、グレープフルーツオイル、ディルウィードオイル、パインニードルオイル、スペアミントオイル、タンジェリンオイル、スィーティオイル、レモンオイル、ライムオイル、ハッカオイル、マンダリンオイルから選ばれた少なくとも一種以上を含有することを特徴とする口腔用組成物に添加するための抗菌香料組成物。
【0012】
(2)前記1項に記載の抗菌香料組成物を含有することを特徴とする口腔用組成物。
【発明の効果】
【0013】
本発明の抗菌性香料組成物は長い使用経験があり、安全な食品用香料から選ばれた少なくとも一種を含むものであり、口腔用組成物に添加されて殺菌活性を示すものである。さらにはこれらを適宜組みあわせて用いることでより強い口腔内細菌の殺菌効果を発揮する香料組成物を提供することができる。またこれら香料組成物を含有する口腔用組成物は、抗菌効果に優れた歯磨き剤、洗口剤および食品を提供することができる。」
(エ)「【0026】
[実施例1] 殺菌活性の測定
本発明の殺菌活性の測定はQuantitative Suspension Test (British Standard EN 1276、1997)を準用した方法による。
殺菌活性試験に用いた菌株は歯周病の病原菌としてまた揮発性硫化物を生産する菌としても知られているもので理化学研究所より入手した。
略号(以下本文中では略号で記載する)と菌株名を下記に示す。
【0027】
試験菌株
略号菌株名
Fn-1 Fusobacterium nucleatum JCM 6328
【0028】
Fn-1をGAM培地(日水製薬株式会社)スラント上で生育させ、生育した菌を生理食塩水で懸濁液として用いた。嫌気条件(BBLガスパック嫌気システム使用)下で37℃、1日培養のスラントに、一本あたり2mlの生理食塩水を加えトランスファーループで表面を良くこすり菌の懸濁液とする。これを2回繰り返し、合わせた懸濁液を遠心分離し、半量の生理食塩水を加えてまた懸濁液とする。これを滅菌したガーゼ2枚で濾過し寒天片や繊維状の菌体を除く。再度遠心分離を行い、生理食塩水で懸濁液としてテストに用いた。5本のスラントから5mlの懸濁液として1×107~108CFU(Colony Forming Unit)/mlのほぼ均一な菌液が得られる。
【0029】
サンプル(香料液)は50%DMF(重量/重量)で調製したストックサンプルをエタノールで必要な濃度に希釈(容量/容量%)して用いた。
サンプル溶液30μlを3mlの滅菌蒸留水に加え、撹拌する。サンプルが溶けていないか、きれいな懸濁液にならないときは超音波処理を30分行う。
【0030】
上記サンプルを加えた滅菌蒸留水に前述したFn-1の試験菌液333μlを加え、撹拌する。30秒後と1分後に333μlをサンプリングし、3mlのD/E Neutralization broth(Difco)に加え(10倍希釈)、以下同様にして100倍希釈、1000倍希釈を行う。30秒後と1分後の各希釈液50μlをTrypticase soy寒天培地(BBL)15mlを固めたプレートにAutoplate 4000 (Spiral Biotec社、MD, USA)を用いて展開し、37℃、40時間嫌気培養する。培養後生育したコロニーをQ-Count (Spiral Biotec社、MD, USA)でカウントしCFU/mlを求める。本測定法をQuantitative Suspension Test (British Standard EN 1276、1997)によるCFU測定法と称する。
【0031】
コントロールとしては3mlの水に試験菌液333μlを加えたもの、また比較用に3mlの水に30μl(1%)のエタノールを加えてものに試験菌液333μlを加えたものを用い、これらのCFU/mlを求めた。
【0032】
結果の判定はコントロールのCFU/mlに対して30秒、1分間の香料との接触後にどれだけ菌が減少したかをLog単位で表す。各希釈段階でコロニーの生育が全くみられないときは100以下の生菌数と考えてコントロールで得られたLog値より低い値に>印をつけて表記した。判定結果が1.00のときCFUは1/10に、3.00のときはCFUが1/1000に減少したことを示している。
【0033】
殺菌活性試験の結果を表1に示す。30秒、1分間はサンプリングした時間を示し、Log inc.はコントロールのLog数値である。この値を記載したのは実験ごとにコントロールのLog数に違いが見られたためである。
【0034】
【表1】
[図:0001409114000001.jpg]
【0035】
表1に見られるとおりこれらの香料は30秒あるいは1分間の試験菌との接触において初めに混和した菌数の1/10以下に試験菌を減らすことができ、充分な殺菌効果を示していることが判る。」
イ 甲2に記載された事項(訳文は、異議申立人による。)
(ア)「Abstract The antibacterial agent 3-chloro-DL-alanine(3CA) is an inhibitor of peptidoglycan synthesis. Fusobacterium nucleatum and Porphyromonas gingivalis, the bacteria responsible for oral malodor, are shown to be resistant to 1 mM 3CA, whereas Streptococcus mutans and Escherichia coli are sensitive to this antibacterial agent at the same concentration. We isolated the 3CA resistance gene from F. nucleatum and showed that the gene encodes an L-methionine-α-deamino-γ-mercaptomethanelyase that catalyzes the α,γ-elimination of L-methionine to produce methyl mercaptan. The enzyme also exhibits 3CA chloridelyase (deaminating) activity. This antibacterial agent is expected to be useful for specific selection of malodorous oral bacteria producing high amounts of methyl mercaptan.」(119頁「Abstract」)
(Abstract
抗菌剤3-chloro-DL-alanine(3CA)は、ペプチドグリカンの合成を阻害する。口腔内悪臭の原因菌であるFusobacterium nucleatum とPorphyromonas gingivalisはlmM 3CAに耐性を示すが、Streptococcus mutansとEscherichia coliは同濃度でこの抗菌剤に感受性を示すことが分かっている。・・・中略・・・。本抗菌剤は、メチルメルカプタンを多量に生成する悪臭を放つ口腔内細園を特異的に選択するのに有用であると期待される。)
(イ)「Previously, we tested the ability of several bacteria to form methyl mercaptan from L-methionine. We found that Fusobacterium nucleatum, a Gram-negative, anaerobic, rod-shaped bacterium that is frequently recovered from infections in humans, produces large amounts of methyl mercaptan [2].」(119頁左欄「1.Introduction」の項の8~13行)
(以前、我々はいくつかの細菌がL-メチオニンからメチルメルカプタンを生成する能力をテストした。その結果、ヒトの感染症から頻繁に回収されるグラム陰性嫌気性桿状細菌であるFusobacterium nucleatumが、メチルメルカプタンを大量に生成することを発見した。)
ウ 甲3に記載された事項
(ア)「
[図:0001409114000002.jpg]
」(742頁)
(イ)「
[図:0001409114000003.jpg]
」(743頁)
エ 甲4に記載された事項
(ア)「【請求項1】
香料配合物を含むフレッシュニング組成物であって、前記香料配合物は、前記香料配合物の約0.0000001重量%~約10重量%の硫黄アコードを含み、前記硫黄アコードは、
(a)前記硫黄アコードの約1重量%~約99重量%の1-ブチルスルファニルブタンと、
(b)前記硫黄アコードの約1重量%~約99重量%の、2-(4-メチル-1,3-チアゾール-5-イル)エタノール;2-メチルチオ-3-メチルスルファニルピラジン;5-メルカプト-5-メチル-3-ヘキサノン;4,7,7-トリメチル-6-チアビシクロ[3.2.1]オクタン;2-イソブチルチアゾール;2-イソプロピル-4-メチルチアゾール;5-メチル-2-(2-スルファニルプロパン-2-イル)シクロヘキサン-1-オン;リモネンチオール;4-メチル-4-メルカプトペンタン-2-オン1ppm TEC;2-アセチルチアゾール;オキサン;4-メトキシ-2-メチル-2-ブタンチオール;4,7,7-トリメチル-6-チアビシクロ[3.2.1]オクタン、及びこれらの混合物からなる群から選択される硫黄含有香料原材料と、を含み、 前記組成物は、前記フレッシュニング組成物に対する消費者の芳香馴化に抗するものである、フレッシュニング組成物。
・・・
【請求項3】
前記(b)硫黄含有香料原材料が、
(i)5-メルカプト-5-メチル-3-ヘキサノン又は4,7,7-トリメチル-6-チアビシクロ[3.2.1]オクタンと、
(ii)2-(4-メチル-1,3-チアゾール-5-イル)エタノール;2-(2-メチルプロピル)-1,3-チアゾール;4-メチル-2-プロパン-2-イル-1,3-チアゾール;5-メチル-2-(2-スルファニルプロパン-2-イル)シクロヘキサン-1-オン;6-チアビシクロ[3.2.1]オクタン;4-メチル-4-スルファニルペンタン-2-オン;8-メルカプトメントン;(2R,4S)-2-メチル-4-プロピル-1,3-オキサチアン、及びこれらの混合物からなる群から選択される硫黄含有原材料と、を含む、請求項1又は2に記載の組成物。」
(イ)「【背景技術】
【0002】
空気ケア製品は、そのような製品及び/若しくはそのような製品と接触する部位に対して所望の香りを提供し、かつ/又は望ましくない匂いをマスキングすることができる1種以上の香料原材料(複数又は単独の「PRM」)を有するフレッシュニング組成物を含み得る。現行のPRMは望ましい匂いを提供しているが、消費者は、持続性がより高くてよく、かつそれぞれの個人的要求に応じた製品を求め続けている。残念なことに、消費者は、提供される香りに馴化されてしまうが、PRM及び香料配合物は、空気ケア製品から揮発され続ける。結果として、同じ程度の効果が得られるように、そのようなPRM及び/又は香料配合物の量を更に増やす必要があるか、あるいは、そのような馴化が解消されるように、消費者はかなりの期間にわたって異なる製品及び/又は香料に切り替えなければならない。
【0003】
馴化に対処するために、香料製造業者は、抗馴化効果を提供すると考えられるPRMを含んだ香料配合物を調合してきた。驚くべきことに、出願人らは、特定の硫黄を含有するPRMは、フレッシュニング組成物中に使用された場合に、優れた抗馴化効果を有することを発見した。したがって、出願人らは、そのようなPRMを含むフレッシュニング組成物、香料配合物、及び/又はそのような香料送達系、並びにそれほど馴化の影響を受けないそのようなフレッシュニング組成物の製造及び使用プロセスを同定された。
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0004】
本出願は、香料配合物と香り馴化に抗する硫黄含有PRMとを含むフレッシュニング組成物、そのようなフレッシュニング組成物を含む空気ケア製品、並びにそのようなフレッシュニング組成物及び空気ケア製品の製造及び使用プロセスに関する。」
(ウ)「【0010】
本明細書で使用するとき、「フレッシュニング組成物」とは、空気を処理し(例えば、悪臭を排除する、若しくは低減する/最小限に抑える)、空気に芳香を付与し、かつ/又は空気を新鮮にすることを意図した、1種以上の香料原材料を含む組成物を意味する。本フレッシュニング組成物は、空気ケア製品有り又は無しで使用することができる。本発明のフレッシュニング組成物は、PRMを含み、かつ水、可溶化剤、界面活性剤、希釈剤、悪臭低減用の活性物質、及び香料物質を付加的に含み得る。」
(エ)「【0066】
【表5】
[図:0001409114000004.jpg]
【0067】
【表6】
[図:0001409114000005.jpg]
【0068】
【表7】
[図:0001409114000006.jpg]
【0069】
組成物1~4に準ずるフレッシュニング組成物を割り当てられた4つの研究群は、4週間の研究期間にわたって現用の空気ケア製品を通常使用するようにして、それぞれの組成物(1、2、3又は4)を有するFebreze NOTICEables空気ケア製品を使用し、本研究の期間全体を通じて他の空気ケア製品は一切使用しないことを指示された。これら研究群のODTは、4週間の使用後に測定した。平均ODTは、使用群ごとに算出した。結果は、表8に示してある。加えて、全ての被験者は、製品を使用してから2週間後及び4週間後に、標準の使用後アンケートに記入し、フィードバックを得てから、重要な製品属性を評価した。
【0070】
【表8】
[図:0001409114000007.jpg]
*値が大きいほど馴化度が高い
【0071】
表8に結果を示すように、1-ブチルスルファニルブタンを硫黄アコード(すなわち、組成物2)に封入することにより、1-ブチルスルファニルブタンを含まない対照と比較して、抗馴化効果を奏した(すなわち、4週間後の時点で、組成物2の総合評価スコアが(60及び54に対して73と)上昇した)。」
オ 甲5に記載された事項
(ア)「概要:新しい口臭測定法として,ヒト口腔内洗口後の吐出液(以下洗口吐出液と略す)のメチルメルカプタン発生能を口臭の強さの指標とする方法を検討した。
洗口吐出液のメチルメルカプタン発生能は,L-メチオニンを基質として洗口吐出液に添加し,37℃,嫌気条件下で2時間反応したときに発生したメチルメルカプタン量を炎光光度検出器を用いたガスクロマトグラフで測定した。洗口吐出液のメチルメルカプタン発生能と官能評価による口臭の強さの間には,正の相関があり(相関係数r=0.70),メチルメルカプタン発生能が口臭の強さの指標として用いうることが示唆された。」(54頁「概要」1~7行)
(イ)「特に,口腔より発生する臭気成分についてTonzetichらは,VSC中の硫化水素,メチルメルカプタン(以下CH3SHで示す),ジメチルサルファイドなどが主成分であることを明らかにしており11),口腔内の微生物が有機物(食物残留物,剥離上皮細胞,白血球,浸出液中のタンパク・脂質・糖類)を代謝する際に発生するものと考えられている16-18)。また,海津19),角田20)は,口臭中のCH3SH濃度が口臭の強さと正の相関を示すことを報告しており,口臭に及ぼすVSC特にCH3SHの影響が強く示唆される。」(54頁右欄5~14行)
(2)甲1、甲4に記載された発明
ア 甲1に記載された発明
上記(1)ア(ア)の【請求項1】には、「ヘキシルアルデヒド、カリオフィレンアルコール、シンナミックアルデヒド、ジヒドロオイゲノール、ファルネソール、ジヒドロファルネソール、ヒノキチオール、イソオイゲノール、γ-ウンデカラクトン、d-リモネン、o-メトキシシンナミックアルデヒド、β-ピネン、γ-テルピネン、テルピノーレン、オレンジオイル、ナツメグオイル、グレープフルーツオイル、ディルウィードオイル、パインニードルオイル、スペアミントオイル、タンジェリンオイル、スィーティオイル、レモンオイル、ライムオイル、ハッカオイル、マンダリンオイルから選ばれた少なくとも一種を含有することを特徴とする口腔用組成物に添加するための抗菌香料組成物。」が記載されているところ、これらの抗菌香料組成物の殺菌活性の測定を行っている同(エ)の[実施例1]の記載によれば、対象とする菌株として、歯周病の病原菌としてまた揮発性硫化物を生産する菌として知られている、Fusobacterium nucleatum(フソバクテリウム・ヌクレアタム)対象とし(【0026】、【0027】)、サンプルとして、グレープフルーツオイルを用い(【0034】【表1】)試験菌との接触において、菌数を1/10以下に減らし、充分な殺菌効果を示すことを確認している(【0035】)。
そうすると、甲1には、以下の発明(以下、「甲1発明」という。)が記載されているといえる。
「グレープフルーツオイルを含有する口腔用組成物に添加するための抗菌香料組成物であって、歯周病の病原菌としてまた揮発性硫化物を生産する菌として知られている、Fusobacterium nucleatum(フソバクテリウム・ヌクレアタム)を対象とする抗菌香料組成物」
イ 甲4に記載された発明
甲4の上記(1)エ(ア)の【請求項1】には、「香料配合物を含むフレッシュニング組成物であって、前記香料配合物は、前記香料配合物の約0.0000001重量%~約10重量%の硫黄アコードを含み、前記硫黄アコードは、
(a)前記硫黄アコードの約1重量%~約99重量%の1-ブチルスルファニルブタンと、
(b)前記硫黄アコードの約1重量%~約99重量%の、2-(4-メチル-1,3-チアゾール-5-イル)エタノール;2-メチルチオ-3-メチルスルファニルピラジン;5-メルカプト-5-メチル-3-ヘキサノン;4,7,7-トリメチル-6-チアビシクロ[3.2.1]オクタン;2-イソブチルチアゾール;2-イソプロピル-4-メチルチアゾール;5-メチル-2-(2-スルファニルプロパン-2-イル)シクロヘキサン-1-オン;リモネンチオール;4-メチル-4-メルカプトペンタン-2-オン1ppm TEC;2-アセチルチアゾール;オキサン;4-メトキシ-2-メチル-2-ブタンチオール;4,7,7-トリメチル-6-チアビシクロ[3.2.1]オクタン、及びこれらの混合物からなる群から選択される硫黄含有香料原材料と、を含み、
前記組成物は、前記フレッシュニング組成物に対する消費者の芳香馴化に抗するものである、フレッシュニング組成物。」が記載されているところ、同(ア)の【請求項3】には、【請求項1】の(b)の硫黄含有香料原材料が、「(i)5-メルカプト-5-メチル-3-ヘキサノン又は4,7,7-トリメチル-6-チアビシクロ[3.2.1]オクタンと、
(ii)2-(4-メチル-1,3-チアゾール-5-イル)エタノール;2-(2-メチルプロピル)-1,3-チアゾール;4-メチル-2-プロパン-2-イル-1,3-チアゾール;5-メチル-2-(2-スルファニルプロパン-2-イル)シクロヘキサン-1-オン;6-チアビシクロ[3.2.1]オクタン;4-メチル-4-スルファニルペンタン-2-オン;8-メルカプトメントン;(2R,4S)-2-メチル-4-プロピル-1,3-オキサチアン、及びこれらの混合物からなる群から選択される硫黄含有原材料」である場合が記載されている。
そして、同(ウ)の【0010】には、本件明細書においては「「フレッシュニング組成物」とは、空気を処理し(例えば、悪臭を排除する、若しくは低減する/最小限に抑える)、空気に芳香を付与し、かつ/又は空気を新鮮にすることを意図した、1種以上の香料原材料を含む組成物を意味する。」ことが記載されている。
そうすると、甲4には、以下の発明(以下、「甲4発明」という。)が記載されているといえる。
「香料配合物を含むフレッシュニング組成物であって、前記香料配合物は、前記香料配合物の約0.0000001重量%~約10重量%の硫黄アコードを含み、前記硫黄アコードは、
(a)前記硫黄アコードの約1重量%~約99重量%の1-ブチルスルファニルブタンと、
(b)前記硫黄アコードの約1重量%~約99重量%の、
(i)5-メルカプト-5-メチル-3-ヘキサノン又は4,7,7-トリメチル-6-チアビシクロ[3.2.1]オクタンと、
(ii)2-(4-メチル-1,3-チアゾール-5-イル)エタノール;2-(2-メチルプロピル)-1,3-チアゾール;4-メチル-2-プロパン-2-イル-1,3-チアゾール;5-メチル-2-(2-スルファニルプロパン-2-イル)シクロヘキサン-1-オン;6-チアビシクロ[3.2.1]オクタン;4-メチル-4-スルファニルペンタン-2-オン;8-メルカプトメントン;(2R,4S)-2-メチル-4-プロピル-1,3-オキサチアン、及びこれらの混合物からなる群から選択される硫黄含有原材料と、を含み、
前記組成物は、前記フレッシュニング組成物に対する消費者の芳香馴化に抗するものである、空気を処理し(例えば、悪臭を排除する、若しくは低減する/最小限に抑える)、空気に芳香を付与し、かつ/又は空気を新鮮にすることを意図した、1種以上の香料原材料を含む組成物。」
(3)申立理由1-1について
ア 本件発明1について
(ア)対比
本件発明1と甲1発明を対比する。
本件発明1と甲1発明を対比すると、甲1発明の「抗菌香料組成物」は、「抗菌香料剤」ともいえるものであるところ、本件発明1と甲1発明は、両者が「剤」である程度でしか一致しておらず、以下の点で相違しているといえる。
<相違点1>
本件発明1は、「p-メンテン-8-チオール、及びp-メンタン-8-チオール-3-オンからなる群より選択される少なくとも1種の物質を有効成分とする、においの交差順応に基づくメチルメルカプタン臭抑制剤」であるのに対し、甲1発明は、このようなものであるのか明らかでない点。
(イ)上記相違点に対する判断
上記相違点1について、以下検討する。
a 甲1には、甲1発明のグレープフルーツオイル等の抗菌香料組成物が、揮発性硫化物を生産する菌として知られている、フソバクテリウム・ヌクレアタムに対して抗菌効果を有していることが記載されているが、p-メンテン-8-チオール、及びp-メンタン-8-チオール-3-オンに関する何の記載もないし、また、フソバクテリウム・ヌクレアタムが揮発性硫化物を生産する菌として知られていることは記載されているが、その揮発性硫化物臭を抑制することに関しても何の記載もないから、上記相違点1は実質的な相違点である。
b そして、本件発明1における「においの交差順応に基づくメチルメルカプタン臭抑制剤」とは、本件明細書の【0013】の「「においの交差順応」においては、標的においの原因物質に対する嗅覚受容体が、該標的においの原因物質への応答に先だって異なるにおいの原因物質に応答し、次いで脱感作することにより、後から該標的においの原因物質に曝されても低い応答しかできず、その結果、個体に認識される標的においの強度の低下又は変質が生じる。こうした嗅覚受容体の挙動により引き起こされるにおいの交差順応の仕組みを、本明細書において「嗅覚受容体アゴニズムによるにおいの交差順応」とも呼ぶ」との記載によれば、嗅覚受容体がメチルメルカプタン臭にさらされることを前提としたうえで、「標的においの原因物質への応答に先だって異なるにおいの原因物質に応答し、次いで脱感作することにより、後から該標的においの原因物質に曝されても低い応答しかでき」ないという「交差順応の仕組み」によって、「メチルメルカプタン臭」を「抑制」するものである。
これに対し、甲1発明は、グレープフルーツオイルである抗菌香料組成物の抗菌作用で、揮発性硫化物を生産する菌として知られている、フソバクテリウム・ヌクレアタムを殺菌するものであるから、そもそも揮発性硫化物臭は発生することがなく、甲1発明には、発生している揮発性硫化物臭を抑制しようとする動機付けが存在しない。
ましてや、甲1に何らの記載も示唆もない上述の「交差順応の仕組み」によってメチルメルカプタン臭を抑制することの動機付けが存在しないことはもちろんのことである。
c ここで、甲2の上記(1)イには、Fusobacterium nucleatum(フソバクテリウム・ヌクレアタム)がメチルメルカプタンを大量に生成すること、甲3の上記(1)ウ(ア)には、リモネンチオール(1-p-メンテン-8-チオール)がグレープフルーツジュースから微量成分として見いだされるものであること、甲5の上記(1)オには、口臭中のメチルメルカプタン濃度が口臭の強さと正の相関があることが記載されているが、仮に、甲1発明のグレープフルーツオイルに、リモネンチオール(1-p-メンテン-8-チオール)が含まれていたとしても、上記bで述べたように、甲1発明は、発生している揮発性硫化物臭を抑制しようとするものではないから、リモネンチオール(1-p-メンテン-8-チオール)を、Fusobacterium nucleatum(フソバクテリウム・ヌクレアタム)から発生する揮発性硫化物臭と関連付け、メチルメルカプタン臭抑制剤として認識することはない。
d そうすると、甲2、甲3、甲5に記載された事項を考慮したとしても、上記相違点1に係る本件発明1の構成を当業者が容易に相当し得るとはいえない。
(ウ)小括
上記(イ)で述べたように、上記相違点1に係る本件発明1の構成は、当業者が容易に想到し得るものであるとはいえないから、本件発明1は、甲1発明及び甲2、甲3、甲5に記載の事項に基づいて当業者が容易に発明できたものであるとはいえない。
イ 本件発明2、3について
本件発明2、3は、少なくとも本件発明1の構成をすべて具備するものであるから、本件発明1と同様に、本件発明2、3は、甲1発明及び甲2、甲3、甲5に記載の事項に基づいて当業者が容易に発明できたものではない。
(4)申立理由1-2について
ア 本件発明1について
(ア)対比
本件発明1と甲4発明を対比する。
a 甲4発明の硫黄アコードの(b)(ii)にある「8-メルカプトメントン」は、甲3の上記(1)ウ(イ)によれば、「p-メンタン-8-チオール-3-オン」(p-Mentha-8-thiol-3-one)の別名であるから、甲4発明の「8-メルカプトメントン」は、本件発明1の「p-メンテン-8-チオール、及びp-メンタン-8-チオール-3-オンからなる群より選択される少なくとも1種の物質」に相当する。また、甲4発明の「硫黄アコード」及び本件発明1の「p-メンテン-8-チオール、及びp-メンタン-8-チオール-3-オンからなる群より選択される少なくとも1種の物質」は、共に硫黄原子を含有する物質であるから、両者は、「硫黄含有物質」である点で共通する。そして、甲4発明の「硫黄アコード」は、「組成物」に対して、「有効成分」として含まれているといえる。
b 甲4発明の「組成物」は、「空気を処理し(例えば、悪臭を排除する、若しくは低減する/最小限に抑える)、空気に芳香を付与し、かつ/又は空気を新鮮にすることを意図した」ものであるところ、「悪臭を排除する、若しくは低減する/最小限に抑える」とは、悪臭を「抑制」しているといえる。
また、本件明細書の【0007】の「嗅覚受容体の応答はにおい物質に選択的である。したがって、アンタゴニストによる嗅覚受容体抑制又はアゴニストによる交差順応に基づく悪臭抑制のためには、最初に標的の悪臭に選択性を有する嗅覚受容体を見つけ出すことが肝要である。本発明者は、メチルメルカプタンに応答する嗅覚受容体を新たに同定することに成功した。」との記載によれば、本件発明1において、メチルメルカプタン臭は、「悪臭」と認識されるものであるといえるから、甲4発明の「空気を処理し(例えば、悪臭を排除する、若しくは低減する/最小限に抑える)、空気に芳香を付与し、かつ/又は空気を新鮮にすることを意図した、1種以上の香料原材料を含む組成物」は、本件発明1の「においの交差順応に基づくメチルメルカプタン臭抑制剤」と、「悪臭抑制剤」である点で共通する。
c そうすると、本件発明1と甲4発明は、「硫黄含有物質を有効成分とする、悪臭抑制剤」である点で一致し、以下の点で相違しているといえる。
<相違点2>
硫黄含有物質が、本件発明1では、「p-メンテン-8-チオール、及びp-メンタン-8-チオール-3-オンからなる群より選択される少なくとも1種の物質」であるのに対し、甲4発明では、硫黄アコードの内、(b)の(ii)として「2-(4-メチル-1,3-チアゾール-5-イル)エタノール;2-(2-メチルプロピル)-1,3-チアゾール;4-メチル-2-プロパン-2-イル-1,3-チアゾール;5-メチル-2-(2-スルファニルプロパン-2-イル)シクロヘキサン-1-オン;6-チアビシクロ[3.2.1]オクタン;4-メチル-4-スルファニルペンタン-2-オン;8-メルカプトメントン;(2R,4S)-2-メチル-4-プロピル-1,3-オキサチアン、及びこれらの混合物からなる群から選択される」ものである点。
<相違点3>
悪臭抑制剤が、本件発明1では、においの交差順応に基づくメチルメルカプタン臭抑制剤であるのに対し、甲4発明では、そのようなものであるのか明らかでない点。
(イ)相違点に対する判断
事案に鑑み、上記相違点3について、以下検討する。
a まず、甲4には、悪臭がどのような物質によるものであるのかに関する何らの記載もないし、また、それに関する示唆もなく、ましてや、メチルメルカプタン臭を、においの交差順応に基づいて抑制することについても、記載も何らの示唆もない。
b ここで、本件発明1のように、においの交差順応に基づいてメチルメルカプタン臭を抑制するには、本件明細書の【0007】の「嗅覚受容体の応答はにおい物質に選択的である。したがって、アンタゴニストによる嗅覚受容体抑制又はアゴニストによる交差順応に基づく悪臭抑制のためには、最初に標的の悪臭に選択性を有する嗅覚受容体を見つけ出すことが肝要である。本発明者は、メチルメルカプタンに応答する嗅覚受容体を新たに同定することに成功した。また本発明者は、該メチルメルカプタンに応答する嗅覚受容体を別の物質を用いて活性化し、脱感作を引き起こすことで、交差順応に基づいてメチルメルカプタン臭を抑制する物質を見出した。」との記載によれば、「標的の悪臭に選択性を有する嗅覚受容体を見つけ出すことが肝要である」とあるとおり、メチルメルカプタン臭に対する嗅覚受容体を同定した上で、この嗅覚受容体を活性化する物質を探索しなければならない。そうすると、甲4発明から、本件発明1におけるにおいの交差順応に基づくメチルメルカプタン臭抑制剤を容易に想到し得るというには、悪臭抑制剤において、少なくとも、抑制しようとする悪臭が、メチルメルカプタン臭であること、そして、そのメチルメルカプタン臭と、それを抑制する物質としての「p-メンテン-8-チオール、及びp-メンタン-8-チオール-3-オンからなる群より選択される少なくとも1種の物質」との組み合わせが明らかであることが、まずは前提であり、その上で、メチルメルカプタン臭の抑制の形態を、「においの交差順応に基づく」ものとすることが容易に想到し得るといえる必要がある。
これに対し、甲4の上記(1)エ(イ)の【0002】の「残念なことに、消費者は、提供される香りに馴化されてしまうが、PRM及び香料配合物は、空気ケア製品から揮発され続ける。結果として、同じ程度の効果が得られるように、そのようなPRM及び/又は香料配合物の量を更に増やす必要があるか、あるいは、そのような馴化が解消されるように、消費者はかなりの期間にわたって異なる製品及び/又は香料に切り替えなければならない。」との記載、同【0003】の「出願人らは、特定の硫黄を含有するPRMは、フレッシュニング組成物中に使用された場合に、優れた抗馴化効果を有することを発見した。」との記載等によれば、甲4発明は、フレッシュニング組成物における香料原材料(複数又は単独の「PRM」)に対して、消費者が、その香りに馴化されてしまうという課題に対し、フレッシュニング組成物中に使用された場合に、優れた抗馴化効果を有する特定の硫黄を含有するPRMを提供するものである。
そうすると、甲4の同(ウ)の【0010】に、単に「悪臭」としか記載されていないように、甲4発明は、メチルメルカプタン臭という特定の悪臭に着目するものではないし、そもそも悪臭の抑制の点に関しさらに改良を加えることに着目するものもない。
また、仮に、甲2の上記(1)イの記載、甲5の上記(1)オの記載から、メチルメルカプタン臭が悪臭として一般的であるとしても、例えば、異議申立人が、令和5年11月7日に意見書に添付して提出した参考資料2(特開平7-291809号)の【0003】の「・・・このような過酢酸水溶液には特有の刺激的な過酢酸臭、酢酸臭(本明細書において、過酢酸系刺激臭と称する)があり、その臭気は容易に除去されない。」との記載、参考資料3(特開2015-17236号)の【0013】の「そこで本発明は、特定の環状アミン誘導体と有機過酸類と過酸化水素とを含有する酸素系漂白剤の使用時に生じる不快なアミン臭及び高級脂肪酸臭が抑制され、かつ保存安定性に優れた酸素系漂白剤を提供することを課題とする。」との記載によれば、悪臭(刺激臭や不快な臭い)には、メチルメルカプタン臭以外の多様な物質による臭いがあるといえることから、甲4発明における悪臭には、当然メチルメルカプタン臭が含まれているということはできない。
そうすると、甲4発明には、悪臭としてメチルメルカプタン臭を対象とすること、さらには、においの交差順応に基づくメチルメルカプタン臭抑制剤として特定の物質を探索しようとする動機付けはないから、甲2及び甲5に記載の事項を考慮したとしても、甲4発明において、上記相違点3に係る本件発明1の構成とすることは、当業者が容易に想到し得るとはいえない。
(ウ)小括
上記(イ)で述べたように、上記相違点3に係る本件発明1の構成は、当業者が容易に想到し得るものであるとはいえないから、上記相違点2を検討するまでもなく、本件発明1は、甲4発明及び甲2、甲5に記載の事項に基づいて当業者が容易に発明できたものであるとはいえない。
イ 本件発明2、3について
本件発明2、3は、少なくとも本件発明1の構成をすべて具備するものであるから、本件発明1と同様に、本件発明2、3は、甲4発明及び甲2、甲5に記載の事項に基づいて当業者が容易に発明できたものではない。
(5)申立理由1に関するまとめ
上記(3)及び(4)で述べたとおり、本件特許1~3は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものではないから、申立理由1には、理由がない。
4 申立理由2(サポート要件違反及び実施可能要件違反)について
(1)申立理由2の内容
本件発明のメチルメルカプタン臭抑制剤の有効成分である「p-メンテン-8-チオール、p-メンタン-8-チオール-3-オン」は、鼻に存在する嗅覚受容体に結合することにより働くものといえるところ、本件発明3では、有効成分化合物である「p-メンテン-8-チオール、p-メンタン-8-チオール-3-オン」は「メチルメルカプタン臭を発生する可能性のある環境に適用されるか、又はメチルメルカプタン臭を発生する可能性のある物質に添加され」ており、これでは、鼻に存在する嗅覚受容体に結合することはできない。「メチルメルカプタン臭を発生する可能性のある環境」が空気中などであった場合には、当該環境に適用した当該有効成分化合物がその後対象の鼻に存在する嗅覚受容体に結合することはあり得ると考えることができるかもしれないが、その効果は格段に弱まってしまう。また、当該有効成分化合物が「メチルメルカプタン臭を発生する可能性のある物質に添加され」た場合には、当該有効成分化合物が鼻に存在する嗅覚受容体に結合することを想定できず、メチルメルカプタン臭を抑制できるとは認識できない。
そうすると、当業者は、本件発明3(及び本件発明3を包含する本件発明1)の実施に当たり、「メチルメルカプタン臭を発生する可能性のある環境に適用」するか、又は「メチルメルカプタン臭を発生する可能性のある物質に添加」することで、メチルメルカプタン臭を抑制することができないし、また、メチルメルカプタン臭を抑制するという発明の課題を解決できると認識することもできない。
以上によれば、本件発明3(及び本件発明3を包含する本件発明1)は、実施可能要件及びサポート要件を充足しない。
(2)上記(1)の理由に対する当審の判断
本件発明は、上記2(1)アで述べたように、従来の消臭剤または芳香剤を用いる消臭方法において生じていた芳香剤の強いにおいに基づく不快感等や、他のにおいをも抑えてしまうという問題を生じることがなく、メチルメルカプタン臭を消臭すること(本件明細書の【0018】)を課題とし、「標的においの原因物質に対する嗅覚受容体が、該標的においの原因物質への応答に先だって異なるにおいの原因物質に応答し、次いで脱感作することにより、後から該標的においの原因物質に曝されても低い応答しかできず、その結果、個体に認識される標的においの強度の低下又は変質が生じる」「嗅覚受容体アゴニズムによるにおいの交差順応」に基づく(同【0013】)メチルメルカプタン臭抑制剤にて解決するものであるから、本件発明は、対象者にメチルメルカプタン臭抑制剤が適用された後か、又は、メチルメルカプタン臭抑制剤が適用されるのと同時に、対象者がメチルメルカプタン臭にさらされる可能性があることを前提としているといえる。
その前提を踏まえて、本件発明3を見れば、「メチルメルカプタン臭を発生する可能性のある環境に適用される」とは、大気が存在し、対象者が立ち入る、メチルメルカプタン臭を発生し対象者がそれにさらされる可能性のある環境に、メチルメルカプタン臭抑制剤を適用するということであり、また、「メチルメルカプタン臭を発生する可能性のある物質に添加される」とは、メチルメルカプタン臭を発生し対象者がそれにさらされる可能性のある物質に、大気を介して対象者の嗅覚受容体に到達するメチルメルカプタン臭抑制剤を添加しておくということが理解できる。
そして、メチルメルカプタン臭抑制剤の対象者に対する適用が大気を介したものであるとしても、本件明細書の【0027】に記載されるように、対象者へのメチルメルカプタン臭抑制剤の適用の形態が、環境中への噴霧や揮発(噴霧ではない場合)であることを考慮すると、その効果が格段に弱まるということはない。
そうすると、本件発明3及び本件発明3を包含する本件発明1において、メチルメルカプタン臭を抑制することができず、また、メチルメルカプタン臭を抑制するという発明の課題を解決できると認識することもできないということはないから、上記(1)の理由は採用することができない。
(3)小括
上記(2)で述べたように、本件発明1、3について、申立理由2には理由がない。
第6 むすび
上記第5で検討したとおり、本件特許1~3は、特許法第36条第4項第1号並びに同条第6項第1号及び第2号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであるということはできないし、同法第29条第2項の規定に違反してされたものであるということもできず、同法第113条第2号又は第4号に該当するものではないから、上記取消理由1、2及び上記申立理由1、2では、本件特許1~3を取り消すことはできない。
また、他に本件特許1~3を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
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2023-700408