特許異議申立
2023-700511
リチウム含有塩化物及びその製造方法、並びに固体電解質及び電池
- 審判番号
- 2023-700511
- 法域
- 特許
- 審判種別
- 異議申立(異議の決定)
- 出願番号
- 特願2022-060357
- 登録番号
- 7174181
- 請求日
- 2023年05月17日
- 審決日
- 2024年11月08日
- 公報発行日
- 2025年02月28日
- 結論
- 訂正認容
- 当事者
- 【権利者】住友化学株式会社
- 【権利者代理人】長谷川 芳樹
- 【権利者代理人】清水 義憲
- 【権利者代理人】吉住 和之
- 【権利者代理人】三上 敬史
- 【権利者代理人】佐々木 善紀
- 【権利者】国立大学法人京都大学
- 【権利者代理人】長谷川 芳樹
- 【権利者代理人】清水 義憲
- 【権利者代理人】吉住 和之
- 【権利者代理人】三上 敬史
- 【権利者代理人】佐々木 善紀
- 【異議申立人】中川 賢治
- 審判長/審判官
- 審判長 深草 祐一
- 審判官 原 賢一
- 審判官 金 公彦
- 分類
- P1651.537-YAA(C01G) / P1651.113-YAA(C01G)
- 根拠条文(結論部分から自動抽出・参考)
- 特許法29条1項特許法36条6項1号特許法113条2号特許法113条4号特許法120条の8第1項特許法135条
- 条文(本文から自動抽出・参考)
- 特許法第36条第6項第1号、特許法第29条第1項第3号、特許法第29条第1項、特許法第120条の5第7項、特許法第120条の5第4項、特許法第120条の5第2項、特許法第120条の8第1項
- データ出所
- 審決公報(XML)
事件の表示
特許第7174181号発明「リチウム含有塩化物及びその製造方法、並びに固体電解質及び電池」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。
結論
結 論
特許第7174181号の特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1~11〕について訂正することを認める。
特許第7174181号の請求項1~8、10、11に係る特許を維持する。
特許第7174181号の請求項9に係る特許についての特許異議の申立てを却下する。
理由
理 由
第1 手続の経緯
特許第7174181号の請求項1~11に係る特許についての出願は、令和4年3月31日(優先権主張 令和3年7月21日)を出願日とする出願であり、同年11月8日にその特許権の設定登録がされ、同年同月17日に特許掲載公報が発行され、その後、令和5年5月17日に、その請求項1~11に係る特許を対象として特許異議申立人中川賢治(以下、「異議申立人」という。)により特許異議の申立てがなされたものである。以降の手続きは以下のとおりである。
令和5年 9月 5日付け 取消理由通知
同年11月 9日 意見書の提出及び訂正請求(特許権者)
同年12月 5日 手続補正書の提出(特許権者、同年11月9日に提出された訂正請求書を補正するもの)
令和6年 1月22日 意見書の提出(異議申立人)
同年 4月 1日付け 取消理由通知(決定の予告)
同年 6月 4日 意見書の提出及び訂正請求(特許権者)(以下、この訂正を「本件訂正」という。)
同年 6月28日 手続補正書の提出(特許権者、同年6月4日に提出された訂正請求書を補正するもの)
同年 8月14日 意見書の提出(異議申立人)
なお、令和5年11月9日にされた訂正の請求(以下、その訂正を「先の訂正」ということがある。)は、特許法第120条の5第7項の規定により、取り下げられたものとみなす。
第2 訂正の適否
1 訂正事項
本件訂正は、特許請求の範囲を、訂正請求書に添付した訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1~11〕について訂正することを求めるものであって、その具体的な訂正事項は次のとおりである。
(1)訂正事項1
特許請求の範囲の請求項1に「含み、」とあるのを、「含み、
前記金属元素Mは、Al、Ga、In、Sc及びLaからなる群から選択される少なくとも一つの元素であり、」に訂正する。
(請求項1を直接又は間接的に引用する請求項3~8、10、11も同様に訂正する。)
(2)訂正事項2
特許請求の範囲の請求項1に「化合物。」とあるのを、「化合物を用いた固体電解質。」に訂正する。
(3)訂正事項3
特許請求の範囲の請求項2に「含み、」とあるのを、「含み、
前記金属元素Mは、Al、Ga、In、Sc及びLaからなる群から選択される少なくとも一つの元素であり、」に訂正する。
(請求項2を直接又は間接的に引用する請求項3~8、10、11も同様に訂正する。)
(4)訂正事項4
特許請求の範囲の請求項2に「化合物。」とあるのを、「化合物を用いた固体電解質。」に訂正する。
(5)訂正事項5
特許請求の範囲の請求項3に「化合物。」とあるのを、「化合物を用いた固体電解質。」に訂正する。
(6)訂正事項6
特許請求の範囲の請求項4に「である」とあるのを、「であり、
前記金属元素Mは、Al、Ga、及びInからなる群から選択される少なくとも一つの元素である」に訂正する。
(請求項4を直接又は間接的に引用する請求項5~8、10、11も同様に訂正する。)
(7)訂正事項7
特許請求の範囲の請求項4に「化合物。」とあるのを、「化合物を用いた固体電解質。」に訂正する。
(8)訂正事項8
特許請求の範囲の請求項5に「化合物。」とあるのを、「化合物を用いた固体電解質。」に訂正する。
(9)訂正事項9
特許請求の範囲の請求項6に「化合物。」とあるのを、「化合物を用いた固体電解質。」に訂正する。
(10)訂正事項10
特許請求の範囲の請求項7に「化合物。」とあるのを、「化合物を用いた固体電解質。」に訂正する。
(11)訂正事項11
特許請求の範囲の請求項8に「化合物。」とあるのを、「化合物を用いた固体電解質。」に訂正する。
(12)訂正事項12
特許請求の範囲の請求項9を削除する。
(13)訂正事項13
特許請求の範囲の請求項10に「化合物」とあるのを、「化合物を用いた固体電解質」に訂正する。
(14)訂正事項14
特許請求の範囲の請求項11に「化合物」とあるのを、「化合物を用いた固体電解質」に訂正する。
2 訂正の目的の適否、特許請求の範囲の拡張・変更の存否、及び新規事項の有無
(1)訂正事項1、3
ア 上記訂正事項1、3は、「リチウム、リチウム以外の金属元素M、塩素及びドーパント元素Xを含」む「化合物」における「金属元素M」が、「Al、Ga、In、Sc及びLaからなる群から選択される少なくとも一つの元素であ」ることを限定するものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。
また、上記訂正事項1、3は、「化合物」の組成をさらに限定するものであるから、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。
イ 上記訂正事項1、3において、「前記金属元素Mは、Al、Ga、In、Sc及びLaからなる群から選択される少なくとも一つの元素であ」ることは、本件明細書の【0029】の「リチウム含有塩化物に含まれる金属元素Mとしては、遷移金属、希土類元素、p-ブロックの金属元素等が挙げられ、具体的には、Al、Ga、In、Sc及びLaからなる群から選択される少なくとも一つの元素であってよく、Inが好ましい。リチウム含有塩化物に含まれる金属元素Mは、価数が3価となる元素であると好ましい。」との記載に基づくものであるから、上記訂正事項1、3は、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の訂正である。
(2)訂正事項2、4、5、7~11、13、14
ア 上記訂正事項2、4、5、7~11、13、14は、実質的に、本件訂正前の請求項1~8、10、11に記載される「化合物」の用途を、固体電解質に限定するものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。
また、上記訂正事項2、4、5、7~11、13、14は、実質的に、「化合物」の用途を、固体電解質に限定するものであるから、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。
イ 設定登録時の本件特許の請求の範囲の請求項9には、「請求項1~8のいずれか一項に記載の化合物を含む固体電解質。」との記載があり、訂正前の本件特許請求の範囲に記載される「化合物」が固体電解質に用いられるものであることが理解できるから、上記訂正事項2、4、5、7~11、13、14は、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の訂正である。
(3)訂正事項6
ア 上記訂正事項6は、設定登録時の請求項4の「3価の金属元素である」「金属元素M」が、3価の金属元素である「Al、Ga、及びInからなる群から選択される少なくとも一つの元素である」ことに限定するものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。
また、上記訂正事項6は、「化合物」の組成をさらに限定するものであるから、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。
イ 上記訂正事項6において、「前記金属元素Mは、Al、Ga、及びInからなる群から選択される少なくとも一つの元素である」ことは、本件明細書の【0029】の「リチウム含有塩化物に含まれる金属元素Mとしては、遷移金属、希土類元素、p-ブロックの金属元素等が挙げられ、具体的には、Al、Ga、In、Sc及びLaからなる群から選択される少なくとも一つの元素であってよく、Inが好ましい。リチウム含有塩化物に含まれる金属元素Mは、価数が3価となる元素であると好ましい。」との記載に基づくものであるから、上記訂正事項6は、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の訂正である。
(4)訂正事項12
訂正事項12は、請求項を削除するものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものであり、願書に添付した明細書又は特許請求の範囲に記載した事項の範囲内の訂正であり、かつ実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。
3 令和6年8月14日に提出された意見書における本件訂正に対する異議申立人の主張について
(1)異議申立人の主張の内容
本件発明の具体的態様である実施例1ないし11やその他の記載によると、「金属元素M」の具体例が「Inのみ」の例こそ記載されているものの「Al、Ga、In、Sc及びLaからなる群から選択される少なくとも一つの元素」や「Al、Ga、及びIn(当審注:異議申立人は「La」と記載しているが、「In」の誤記と認められる。)からなる群から選択される少なくとも一つの元素」とする例は記載されておらず、本件明細書の記載をもってしても、上記各構成が必須であることに関する技術的事項が明らかにされているものということはできない。
そうすると、訂正事項1、3及び6により、「金属元素M」を「Al、Ga、In、Sc及びLaからなる群から選択される少なくとも一つの元素」、又は、「Al、Ga、及びLaからなる群から選択される少なくとも一つの元素」を必須のものとして含むように本件発明を訂正することは、本件明細書の実施例1ないし11を上位概念化した新たな技術的事項を導入するものというべきであり、許されるものではない。
(2)上記(1)の主張に対する判断
上記(1)の主張は、訂正事項1、3及び6が訂正前の事項を本件訂正によって上位概念化するものであることを前提としているが、実際は、訂正事項1、3及び6は、「Al、Ga、In、Sc及びLa」以外の金属元素を含む「金属元素M」を「Al、Ga、In、Sc及びLaからなる群から選択される少なくとも一つの元素」、又は、「Al、Ga、及びInからなる群から選択される少なくとも一つの元素」に限定するという下位概念化を行う訂正であるから、上記(1)の主張は、前提に誤りがある。
そして、上記2(1)イ及び同(3)イで述べたように訂正事項1、3及び6は、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の訂正であって、新たな技術的事項を導入するものではない。
そうすると、異議申立人の上記(1)の主張は、採用できない。
4 訂正についてのまとめ
本件訂正の請求は、特許法第120条の5第4項の規定に従い、一群の請求項を構成する請求項〔1~11〕について訂正することを求めるものであるところ、上記2のとおり、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に掲げる事項を目的とするものに該当し、かつ、同条第9項において準用する同法第126条第5項及び第6項の規定に適合するものであるから、訂正後の請求項〔1~11〕について訂正することを認める。
第3 本件発明
上記第2のとおり、本件訂正は認容し得るものであるから、本件訂正後の請求項1~11に係る発明(以下、各請求項に係る発明及び特許を項番に対応させて「本件発明1」、「本件特許1」などといい、併せて「本件発明」、「本件特許」ということがある。)は、次のとおり特定されるものである。
「【請求項1】
単斜晶の結晶構造を有し、
25℃においてCuKα線を用いて測定したX線回折チャートにおいて、2θ角が10~18°の範囲における最も大きいピーク高さを有する反射ピークの半値幅が0.05~0.35°であり、
リチウム、リチウム以外の金属元素M、塩素及びドーパント元素Xを含み、
前記金属元素Mは、Al、Ga、In、Sc及びLaからなる群から選択される少なくとも一つの元素であり、
リチウムのモル含有率が20~40モル%であり、
塩素のモル含有率が50~70モル%であり、
活性化エネルギーが0.380eV以下である、化合物を用いた固体電解質。
【請求項2】
単斜晶の結晶構造を有し、
25℃においてCuKα線を用いて測定したX線回折チャートにおいて、2θ角が10~18°の範囲における最も大きいピーク高さを有する反射ピークの半値幅が0.05~0.35°であり、
リチウム、リチウム以外の金属元素M、塩素及びドーパント元素Xを含み、
前記金属元素Mは、Al、Ga、In、Sc及びLaからなる群から選択される少なくとも一つの元素であり、
リチウムのモル含有率が20~40モル%であり、
塩素のモル含有率が50~70モル%であり、
6Li核の共鳴周波数が44.1MHzであり、無回転の条件下で室温において固体6Li-NMRスペクトルを測定した際に、1mol/LのLiCl水溶液の化学シフトを1.19ppmとして、-50~+50ppmの化学シフトの範囲内に存在するピークの半値幅が1~7ppmである、化合物を用いた固体電解質。
【請求項3】
空間群C2/mに属する結晶構造を有する、請求項1又は2に記載の化合物を用いた固体電解質。
【請求項4】
前記金属元素Mが3価の金属元素であり、
前記金属元素Mは、Al、Ga、及びInからなる群から選択される少なくとも一つの元素である、請求項1~3のいずれか1項に記載の化合物を用いた固体電解質。
【請求項5】
前記金属元素Mがインジウムである、請求項1~4のいずれか1項に記載の化合物を用いた固体電解質。
【請求項6】
式:LiαMβCl6-δXεで表され、2≦α≦3.5、0.5≦β≦1.1、0≦δ≦1、0<ε≦0.7である、請求項1~5のいずれか一項に記載の化合物を用いた固体電解質。
【請求項7】
式:LiαInβCl6-δXεで表され、2≦α≦3.5、0.5≦β≦1.1、0≦δ≦1、0<ε≦0.7である、請求項1~6のいずれか一項に記載の化合物を用いた固体電解質。
【請求項8】
式:LiαMβCl6-δX1ε1X2ε2で表され、2≦α≦3.5、0.5≦β≦1.1、0≦δ≦1、0<ε1≦0.7、0<ε2≦0.7である、請求項6に記載の化合物を用いた固体電解質。
【請求項9】
(削除)
【請求項10】
請求項1~8のいずれか一項に記載の化合物を用いた固体電解質を含む電池。
【請求項11】
請求項1~8のいずれか一項に記載の化合物を用いた固体電解質の製造方法であって、下記の工程(1)及び(2)を含む、製造方法。
(1)原料に対してボールミルを行って粗生成物を得る第一の工程。
(2)第一の工程によって得られた前記粗生成物に100℃以上の温度でアニーリングを行う第二の工程。」
第4 令和6年4月1日付けで通知した取消理由(決定の予告)、令和5年9月5日付けで通知した取消理由、及び異議申立人による特許異議の申立理由の概要
1 令和6年4月1日付けで通知した取消理由(決定の予告)の概要
・特許法第36条第6項第1号所定の規定違反(サポート要件違反)
本件特許は、先の訂正後の請求項1~4、6~8、10、11の記載が下記の点で不備のため、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものである(以下、「取消理由1」とする。)。
記
本件発明の課題は、「イオン伝導性の高い固体電解質として用いられるリチウム含有塩化物を提供すること」にあるといえるところ、本件明細書の記載によれば、本件発明の課題を解決するには、金属元素Mについていえば、金属元素MがInであることが肝要であるといえる。
しかしながら、先の訂正後の請求項1~4、6~8、10、11に係る発明では、金属元素MがInであることが特定されていないから、先の訂正後の請求項1~4、6~8、10、11に係る発明は、発明の詳細な説明の記載又はその示唆により当業者が本件発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるということはできないし、また、その記載や示唆がなくとも当業者が出願時の技術常識に照らし本件発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるということはできない。
そうすると、先の訂正後の請求項1~4、6~8、10、11に係る発明は、サポート要件を満たしていない。
2 令和5年9月5日付けで通知した取消理由の概要
・特許法第36条第6項第1号所定の規定違反(サポート要件違反)
本件特許は、設定登録時の請求項1~11の記載が下記の点で不備のため、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものである(以下、「取消理由2」とする。)。
記
本件発明の課題は、上記1で述べたとおりのものであるところ、本件明細書の記載によれば、本件発明の課題を解決するには、金属元素Mについていえば、金属元素MがInであること、また、化合物が固体電解質に用いられるものであることが肝要であるといえる。
しかしながら、設定登録時の1~11に係る発明では、金属元素MがInであること、化合物が固体電解質に用いられるものであることが特定されていないから、設定登録時の1~11に係る発明は、発明の詳細な説明の記載又はその示唆により当業者が本件発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるということはできないし、また、その記載や示唆がなくとも当業者が出願時の技術常識に照らし本件発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるということはできない。
そうすると、設定登録時の1~11に係る発明は、サポート要件を満たしていない。
3 異議申立人による特許異議の申立理由の概要
(1)特許法第29条第1項第3号所定の規定違反(新規性欠如)
設定登録時の請求項1~7、9~11に係る発明は、下記に記載の甲第1号証に記載された発明であって、特許法第29条第1項第3号の規定に該当するから、それらの特許は、特許法第29条第1項の規定に違反してされたものである(以下、「申立理由1」とする。)。
記
甲第1号証:Bianca Helmら、Exploring Aliovalent Substitutions in the Lithium Halide Superionic Conductor Li3-xln1-xZrxCl6(0<x<0.5)、American Chemical Society 、Chemistry of Materials 2021 33、4773-4782(Supporting Information Sl-S11)、Published:June 8,2021
<URL:https://pubs.acs.org/doi/10.1021/acs.chemmater.lcO1348>
(以下、甲第1号証を、「甲1」などという。)
(2)特許法第36条第6項第1号所定の規定違反(サポート要件違反)
本件特許は、設定登録時の請求項1~11の記載が下記の点で不備のため、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものである(以下、「申立理由2」とする。)。
記
本件明細書の実施例1~11では、金属元素MがInである化合物についての検証結果を示すのみである。したがって、In以外の金属元素Mを含む化合物も含む設定登録時の請求項1に係る発明の範囲まで、発明の詳細な説明に開示された内容を拡張ないし一般化することはできない。
よって、設定登録時の請求項1に係る発明及び請求項1を引用する請求項3~11に係る発明は、発明の詳細な説明に記載された化合物以外の化合物を含んでおり、サポート要件に違反している。
同様に、In以外の金属元素Mを含む化合物も含む設定登録時の請求項2に係る発明の範囲まで、発明の詳細な説明に開示された内容を拡張ないし一般化することはできない。
よって、設定登録時の請求項2に係る発明及び請求項2を引用する請求項3~11に係る発明は、発明の詳細な説明に記載された化合物以外の化合物を含んでおり、サポート要件に違反している。
第5 当審の判断
当審は、上記取消理由1、2及び申立理由1、2のいずれにも理由がないと判断する。
以下、その理由について詳述する。
1 取消理由1、2及び申立理由2(サポート要件違反)について
取消理由1、2及び申立理由2は、いずれも、サポート要件違反に関する理由であるところ、サポート要件の判断は、下記(1)の規範で判断すべきものとされているので、下記(1)において示した規範に従って、改めて各理由をまとめて判断する。
(1)サポート要件判断の規範と本件発明の課題
特許請求の範囲の記載が明細書のサポート要件に適合するか否かは、特許請求の範囲の記載と発明の詳細な説明の記載とを対比し、特許請求の範囲に記載された発明が、発明の詳細な説明に記載された発明で、発明の詳細な説明の記載又はその示唆により当業者が当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否か、また、その記載や示唆がなくとも当業者が出願時の技術常識に照らし当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否かを検討して判断すべきである。
本件明細書の発明の詳細な説明の記載によれば、【0003】で「リチウムを含む固体電解質としては、Li7La3Zr2O12(LLZO)等の酸化物、Li3InCl6、LiYBr6等のハロゲン化物、Li10GeP2S12等の硫化物が知られている。」とした上で、【発明が解決しようとする課題】の記載に続く、【0006】には「ハロゲン化物は、酸化物と比較して柔軟性が高く、有害なH2Sを放出し得る硫化物と比較して安全性が高いという利点があるものの、硫化物よりもイオン伝導性(リチウムイオン伝導性)が低いという課題がある。」、及び【0007】には「本発明は、上述の事情に鑑みてなされたものであり、イオン伝導性の高いリチウム含有塩化物を提供することを目的とする。」と記載されている。
ここで、【0006】の「ハロゲン化物」、「酸化物」及び「硫化物」とは、それぞれ、【0003】の固体電解質である「Li3InCl6、LiYBr6等のハロゲン化物」、「Li7La3Zr2O12(LLZO)等の酸化物」及び「Li10GeP2S12等の硫化物」であることを考慮すると、【0007】の「リチウム含有塩化物」とは、固体電解質として用いられることを前提とするものであるといえるから、本件発明の課題は、「イオン伝導性の高い固体電解質として用いられるリチウム含有塩化物を提供すること」にあるといえる。
(2)本件発明の課題に対応する本件明細書の発明の詳細な説明の記載
上記(1)の発明の課題に対応して、【課題を解決するための手段】が、【0008】では、「単斜晶の結晶構造を有し、25℃においてCuKα線を用いて測定したX線回折チャートにおいて2θ角が10~18°の範囲における最も大きいピーク高さを有する反射ピークの半値幅(当審注:以下、単に「X線回折ピークの半値幅」ということがある。)が0.05~0.35°であり、リチウム、リチウム以外の金属元素M、塩素及びドーパント元素Xを含み、リチウムのモル含有率が20~40モル%であり、塩素のモル含有率が50~70モル%であり、活性化エネルギーが0.380eV以下である」化合物であるとされ、【0009】では、上記【0008】に記載される化合物において、「活性化エネルギーが0.380eV以下である」ことに代えて、「6Li核の共鳴周波数が44.1MHzであり、無回転の条件下で室温において固体6Li-NMRスペクトルを測定した際に、1mol/LのLiCl水溶液の化学シフトを1.19ppmとして、-50~+50ppmの化学シフトの範囲内に存在するピークの半値幅が1~7ppmであ」る化合物であるとされている。
そして、【0022】では、「単斜晶の結晶構造を有するリチウム含有塩化物のイオン伝導度とX線回折チャートの特定の反射ピーク(2θ角が10~18°の範囲における最も大きいピーク高さを有する反射ピーク)の半値幅との間に相関関係がある」とされ、上記【0008】及び【0009】に記載される化合物は、この反射ピークの半値幅が0.05~0.35°であり、従来のリチウム含有塩化物(例えば、比較例1)に比べて非常に狭く、「このようなリチウム含有塩化物は、従来のリチウム含有塩化物と比較してイオン伝導度が高い」とされている。
また、【0029】では、化合物に含まれる「金属元素Mとしては、遷移金属、希土類元素、p-ブロックの金属元素等が挙げられ、具体的には、Al、Ga、In、Sc及びLaからなる群から選択される少なくとも一つの元素であってよく、Inが好ましい。リチウム含有塩化物に含まれる金属元素Mは、価数が3価となる元素であると好ましい。」とされている。
さらに、【0030】~【0032】では、化合物に含まれる「ドーパント元素Xとしては、Li、金属元素M及びCl以外の元素の中から選択されてよく、X1:金属元素M以外の金属元素、X2:臭素、ヨウ素及びリンからなる群から選択される少なくとも1種の元素等が挙げられる。リチウム含有塩化物におけるドーパント元素Xのモル含有率は、10モル%以下であってよく、5モル%以下であってよく、0.1~3モル%であってよい。・・・リチウム含有塩化物は、ドーパント元素X1及びドーパント元素X2のいずれか一方又は両方を含んでいてよい。」(【0030】)、「ドーパント元素X1は、金属元素Mとは異なる価数を有する元素であってよく、金属元素Mよりも価数の大きい元素であると好ましい。このような組み合わせとしては、金属元素MがInであり、ドーパント元素X1がZr、Sn、Nb及びTaからなる群から選択される少なくとも一種である場合が挙げられる。ドーパント元素X1の酸化数が金属元素Mの酸化数よりも大きいと、結晶構造内にリチウム席の空隙を作りやすく、よりイオン伝導性が高まる傾向にある。・・・」(【0031】)、「ドーパント元素X2は、臭素が好ましい。ドーパント元素X2は、塩素と同様に結晶構造内においてアニオン席を占めるが、塩素よりも原子半径が大きいため、結晶格子が広がることによりリチウムイオンの移動経路が拡がるため、よりイオン伝導性が高まる傾向にある。・・・」(【0032】)とされている。
そして、【0044】~【0070】に記載される実施例では、【0054】の【表2】に記載される、Li2.89In0.91Zr0.096Cl6(実施例1)、Li3InCl5.8Br0.2(実施例2)、Li2.84In0.92Zr0.098Cl6(実施例3)、Li2.75In0.82Zr0.20Cl6(実施例4)、Li2.95In0.975Nb0.025Cl6(実施例5)、Li2.9In0.95Nb0.05Cl6(実施例6)、Li2.8In0.9Nb0.1Cl6(実施例7)、Li2.95In0.975Nb0.025Cl5.95In0.05(実施例8)、Li2.95In0.975Ta0.025Cl6(実施例9)、Li2.9In0.95Ta0.05Cl6(実施例10)、Li2.9In0.9Sn0.1Cl6(実施例11)の化合物、及び比較例1~4の化合物について、「X線回折ピークの半値幅」等の測定と、イオン伝導度の評価を行い、「X線回折ピークの半値幅」が0.12(実施例5)~0.29(実施例4)の範囲の場合、「X線回折ピークの半値幅」が0.19である比較例2(Li3InCl6)等でのイオン伝導度(mS/cm)0.707に比べて十分に高い0.979(実施例11)~2.27(実施例5)が得られるとされている。
以上の本件明細書の発明の詳細な説明の記載によれば、上記(1)の発明の課題を解決するには、上記【0008】及び【0009】の記載より、少なくとも、「単斜晶の結晶構造を有し、「X線回折ピークの半値幅」が0.05~0.35°であり、リチウム、リチウム以外の金属元素M、塩素及びドーパント元素Xを含み、リチウムのモル含有率が20~40モル%であり、塩素のモル含有率が50~70モル%」である化合物((2)の項目の中では、以下、単に「化合物」という。)であることが重要であることは理解できるが、この記載や本件明細書の他の記載を見ても、この「化合物」であれば、すなわち、単斜晶の結晶構造を有し、「X線回折ピークの半値幅」の範囲を満たしさえすれば、リチウム、塩素、以外、金属元素Mには制限なく、また「ドーパント元素」とされるだけの元素をからなる「化合物」で、上記(1)の発明の課題を解決することを客観的に理解できるような作用機序に関する記載はないから、実際に、この「化合物」が、上記(1)の発明の課題を解決するものであることを直ちに理解することができない。そうであれば、さらに、客観的な事実である実施例の記載を参照することが必要となる。
まず、実施例1~11の化合物は、上記「化合物」に含まれるものであるところ、イオン伝導度(mS/cm)として、十分に高い0.979(実施例11)~2.27(実施例5)が得られていることから、上記(1)の発明の課題を解決するものである。
そして、実施例1~11の化合物は、上述のように、リチウム以外の金属元素MがInであり、Zr、Nb、Ta、Sn等のカチオン席を占めるドーパント元素、Br、I等のアニオン席を占めるドーパント元素を含むものであるが、ドーパント元素については、カチオン席を占めるドーパント元素に関する上記【0031】の「ドーパント元素X1の酸化数が金属元素Mの酸化数よりも大きいと、結晶構造内にリチウム席の空隙を作りやすく、よりイオン伝導性が高まる傾向にある。」及びアニオン席を占めるドーパント元素に関する上記【0032】の「ドーパント元素X2は、塩素と同様に結晶構造内においてアニオン席を占めるが、塩素よりも原子半径が大きいため、結晶格子が広がることによりリチウムイオンの移動経路が拡がるため、よりイオン伝導性が高まる傾向にある。」との記載によれば、「化合物」におけるイオン伝導性を高めるものであることが理解できること、実施例において各種の元素で検討されていることから、上記「化合物」における「ドーパント元素」は、実施例の記載によって、十分に技術的な裏付けがなされているといえる。
一方で、上記「化合物」の「金属元素M」について検討されているのは、「In」のみである。そして、このInは、結晶構造の骨格を構成するものであるから、化合物のイオン伝導度等の特性に一定の影響を与えるものと考えるのが妥当であるが、本件明細書では、化合物のイオン伝導度の向上は、上述のように、ドーパント元素の存在により主になされることを考慮すると、「金属元素M」は、実施例におけるInのみに限定されることなく、Inと同じ価数でInと同様に結晶構造の骨格を形成できるものまでは、実施例の化合物と同様のイオン伝導性を持つことが期待でき、実際、同【0029】には、金属元素Mとして、Inと同様の特性を有することが期待されるInを含む選択肢として、「Al、Ga、In、Sc及びLaからなる群から選択される少なくとも一つの元素」との記載がなされている。
そうすると、本件明細書における実施例、及び同【0029】の記載を考慮すると、上記「化合物」における金属元素Mとしては、Inの他、Al、Ga、Sc及びLaであっても、上記(1)の発明の課題を解決できることが理解できるし、In以外のAl、Ga、Sc及びLaの場合には、上記「化合物」が、上記(1)の発明の課題を解決できないことを示す証拠は提出されていない。
なお、本件発明における「X線回折ピークの半値幅」の条件である0.05~0.35°の範囲は、リチウム以外の金属元素MがInである実施例の結果を示した【0054】【表2】によって裏付けがなされているものといえるところ、金属元素MがIn以外のAl、Ga、Sc及びLaの場合には、最適な「X線回折ピークの半値幅」が、金属元素MがInの場合とは多少異なる可能性もある。
しかしながら、同【0022】の「反射ピークの半値幅が0.05~0.35°であり、従来のリチウム含有塩化物(例えば、比較例1)に比べて当該反射ピークの幅が非常に狭い。」との記載によれば、「X線回折ピークの半値幅」の条件である0.05~0.35°は、ピークの幅が非常に狭いことを特定するものであり、ピークの幅自体は、金属元素がMがInである場合とIn以外のAl、Ga、Sc及びLaである場合とで大きく変わるものとはいえず、金属元素MがInの場合に「0.05~0.35°」の範囲が、ピークの幅が非常に狭いことを意味するのであれば、金属元素MがIn以外のAl、Ga、Sc及びLaの場合にも同様にピークの幅が非常に狭いことを意味するといえるから、金属元素MがIn以外のAl、Ga、Sc及びLaの場合に、「反射ピークの半値幅が0.05~0.35°」の「化合物」では、上記(1)の発明の課題を解決できないものであるとまではいえない。
以上によれば、上記(1)の発明の課題を解決するには、上記【課題を解決するための手段】として記載される【0008】及び【0009】に記載される化合物であるだけでは足りず、金属元素Mが、「Al、Ga、In、Sc及びLaからなる群から選択される少なくとも一つの元素」であることが肝要であるといえる。
また、上記(1)の発明の課題は、「イオン伝導性の高い固体電解質として用いられるリチウム含有塩化物を提供すること」とあるとおり、固体電解質を特徴付けるイオン伝導性を問題にするものであり、化合物が固体電解質として用いられるものでなければ、そもそもイオン伝導性を高くするという課題も生じない。
加えて、上述した実施例においても【0050】に記載されるように、イオン伝導度は、インピーダンス測定における固体電解質材料の抵抗値等から求められるものであることから、固体電解質であることを前提とした特性であるといえる。
そうすると、上記(1)の発明の課題を解決するには、少なくとも、化合物が固体電解質に用いられるものであることも肝要であるといえる。
(3)特許請求の範囲の記載と本件明細書の発明の詳細な説明の記載との対比
上記(2)で述べたように、本件明細書の発明の詳細な説明の記載に照らすと、上記(1)の発明の課題を解決するには、上記【課題を解決するための手段】として記載される【0008】及び【0009】に記載される化合物であることに加え、金属元素Mが、「Al、Ga、In、Sc及びLaからなる群から選択される少なくとも一つの元素」であること、及び化合物が固体電解質として用いられるものであることが肝要であると理解される。
これに対し、上記第2の1(1)~(4)における訂正事項1~4によって、本件発明1、2において、「金属元素M」は、「Al、Ga、In、Sc及びLaからなる群から選択される少なくとも一つの元素」に特定され、「化合物」は、「化合物を用いた固体電解質」に特定されることにより、本件発明1、2及び本件発明1、2を直接又は間接的に引用する本件発明3~8、10、11は、発明の詳細な説明の記載又はその示唆により当業者が本件発明の課題を解決できると認識できる範囲のものとなった。
(4)小括
上記(3)について、上記(1)のサポート要件判断の規範への当てはめを行うと、本件発明1~8、10、11は、サポート要件を満たしているといえる。
(5)令和6年8月14日に提出された意見書におけるサポート要件に対する異議申立人の主張について
ア 異議申立人の主張の内容
異議申立人は、特許権者が令和6年6月4日に提出した意見書に対する反論を行っているところ、特許権者が提出した上記意見書での上記(1)~(4)でのサポート要件の判断に影響しない主張に対する異議申立人の主張(反論)の判断は省略する。
(ア)金属元素Mがその種類によらずに、“イオン伝導性(リチウムイオン伝導性)を高くするものではない(イオン伝導度と当該反射ピークとの間の相関関係におよそ影響を及ぼさない(およそ無関係である))”との認識は、金属元素Mが複数の場合で検証されたときに当業者がそのような認識に至るのが通常であって、金属元素MがInであるもののみで検証されたに過ぎない本件の場合にそのような認識に至ることはない(5頁16行~末行)。
(イ)取消理由通知(予告)の“しかしながら、MがIn以外の場合に、この半値幅の範囲で、上記1の発明の課題を解決できない態様を排除することができるのか明らかでなく、金属元素MがIn以外の金属元素の場合も、金属元素MがInの場合と同様に、上記半値幅の範囲で発明の課題を解決できる態様と解決できない態様を画定できると認めるに足りる証拠(本件明細書の発明の詳細な説明の記載や出願当時の技術常識)があるとはいえない。”との認定は、通常行われるサポート要件の検討及びそれに基づく認定である(6頁1行~7頁2行)。
(ウ)本件発明5について
X線回折チャートにおいて、結晶子サイズはScherrerの式から、反射ピークの半値幅と逆比例関係にあることが知られている。つまりピークが狭ければ狭いほど、結晶子サイズは大きいということになる(カリティ. X線回折要論.第14刷 アグネ承風社,1999,94p.)。
すなわち、特許権者は「リチウム、金属元素M、塩素及びドーパント元素X」のある特定の組み合わせにおいて、結晶子サイズが大きくなることを開示していることになる。
ここで、結晶子サイズは、組成とプロセス条件によって、異なるという一般的な技術常識に基づくと、発明の詳細な説明に記載された実施例1~11の例に記載された「金属元素Mがインジウムである」仕込み組成において、実施例1記載のプロセス条件(遊星ボールミル処理+230℃加熱処理)で処理した場合、「25℃においてCuKα線を用いて測定したX線回折チャートにおいて、2θ角が10~18°の範囲における最も大きいピーク高さを有する反射ピークの半値幅が0.05~0.35°」であったことを開示しているにすぎない。
また、実施例1~11の例に記載された仕込み組成のリチウムや塩素のモル比率も離散的であり、連続的ではないことから「リチウムのモル含有率が20~40モル%」や「塩素のモル含有率が50~70モル%」といった範囲を開示しているともいえない。
そのため、請求項5に記載された発明は,当業者が出願時の結晶子サイズは、組成とプロセス条件によって、異なるという技術常識に照らすと、当該発明の課題を解決できると認識することはできないから、いわゆるサポート要件に違反している為、請求項5に係る特許も取り消されるべきである(7頁6行~末行)。
イ 上記アの異議申立人の主張に対する判断
(ア)上記ア(ア)及び同(イ)について
金属元素Mとして、Inの他、Al、Ga、Sc及びLaであっても、本件発明がサポート要件を満足するものであること、さらには、金属元素MがIn以外のAl、Ga、Sc及びLaの場合に、「反射ピークの半値幅が0.05~0.35°」では、本件発明は、本件発明の課題を解決できないものである、とまではいえないことは、上記(2)で述べたとおりである。
(イ)上記ア(ウ)について
「X線回折ピークの半値幅」が結晶子サイズに相関し、この結晶子サイズが、組成とプロセス条件によって異なると共に、発明の詳細な説明に記載された実施例1~11の例が、「金属元素Mがインジウムである」仕込み組成のものを、実施例1記載のプロセス条件(遊星ボールミル処理+230℃加熱処理)で処理した場合、「半値幅が0.05~0.35°」の範囲にあるものであるとしても、本件発明の課題を解決するには、少なくとも、X線回折ピークの半値幅が「0.05~0.35°」であるように非常に狭いことが必要であることは、上記実施例、本件明細書におけるその他の記載から、当業者であれば理解できることである。
そして、この「X線回折ピークの半値幅」が、達成されるのであれば、「金属元素Mがインジウムである」仕込み組成において、実施例1記載のプロセス条件(遊星ボールミル処理+230℃加熱処理)で処理されたものに限定されないことも、当業者であれば理解できることである。
仮に、「リチウムのモル含有率が20~40モル%」や「塩素のル含有率が50~70モル%」といった範囲で、上記の半値幅を達成できない場合があるとしても、その範囲は、本件発明の範囲から除外されることになるのであるから、本件発明で特定される「リチウムのモル含有率」及び「塩素のモル含有率」の範囲では、本件発明がサポート要件を満たしていないということにはならない。
(ウ)上記(ア)及び(イ)によれば、上記アの異議申立人の主張は、採用できない。
(6)小括
上記(1)~(5)で述べたとおり、本件発明に係る特許請求の範囲の記載は、サポート要件を満たしているのであるから、取消理由1、2及び申立理由2には、理由がない。
2 申立理由1(新規性欠如)について
(1)甲1に記載された事項
甲1における引用は、図面以外原文の記載は省略し、原文の引用箇所と対応する訳文の記載のみとする。訳文は、異議申立人が提出したものである。
ア 「4773頁ABSTRACTの1行~7行」
(近年、三元ハロゲン化物Li3MX6(M=Y、Er、In; X=Cl、Br、I)が広い電気化学的安定窓と好ましい室温伝導度から固体電解質として注目されている。この研究では、中性子回折、核磁気共鳴、およびインピーダンス分光法を組み合わせて使用して、Li3InCl6(Li3-xIn1-xZrxCl6 with 0 < x < 0.5)の構造とイオン伝導率に対するZr置換の影響を調べる。)
イ 「4773頁左欄1~11行」
(全固体電池は、剛性が高く、エネルギー密度が高く、可燃性のリスクが低い安全で安定したエネルギー貯蔵システムの有望な候補であると考えられている。さらに、全固体電池の体積エネルギー密度は、Li金属を負極として使用すると約70%向上する。固体電解質を使用することで、液体電解質に比べて燃焼の危険性が低減されるだけでなく、より広い温度範囲で使用でき、動作時の電流密度も高くなるため、電池の性能が向上する。)
ウ 「4774頁左欄3~5行」
(Li3InCl6は単斜晶構造(空間群:C2/m)に当てはまり、最初にシュミットらによって単結晶X線回折を用いて解析された。)
エ 「4774頁右欄下から3行~4775頁左欄1行」
(すべての合成工程はAr雰囲気下で行った。Li3-xIn1-xZrxCl6(0 < x < 0.5)を遊星ミルでのメカノケミカル合成とそれに続くアニーリング段階を経て調製した。)
オ 「4775頁左欄14~18行」
(PIXcel 3D検出器を備えたBragg-Brentanoθ-θ幾何学のPANalytical Empyrean回折計でX線回折を行った。CuKα放射(λ=1.54Å)を10-90°の2θ範囲内で1°の散乱防止スリットと0.026°のステップサイズで使用した。)
カ 「4775頁右欄下から14行~4776頁左欄下から6行」
(Li3InCl6へのジルコニウム取り込みの影響を調べるために、メカノケミカル合成を用いて一連の固溶体Li3-xIn1-xZrxCl6(0 < x < 0.5)を調製した。実験室のX線回折パターン(図S1)は、LiClが系列に沿ったほぼすべての組成に微量の不純物として存在することを示している。回折パターンの強度が小さく、InとZrに関連している小さな副相を観察できるが、特定の化合物に特定することはできない。ジルコニウム含有量x(Zr)=0.5までは結晶相が得られる。それにもかかわらず、図S1に示すように、x(Zr)=0.6での反射の強い広がりは結晶性の低下を示しており、この材料は使用された合成条件内で短距離秩序のみを示すものである。そこで、本研究ではx(Zr)≦0.5のLi3-xIn1-xZrxCl6の組成のみを構造と輸送特性についてさらに分析した。)
キ 「4776頁左欄下から3行~右欄1行」
(図2aは代表的なリートベルト精密化を示し、図2bは収集されたすべての中性子回折データをまとめたものである。すべての他の精密化と対応する構造は、サポート情報に示す。)
ク 「4779頁右欄8~11行」
(インピーダンス分光法で求めた活性化エネルギーはLi2.6In0.6Zr0.4Cl6で最小値に達し、これはここで見出された伝導度の最適値と一致する。)
ケ 「4779頁右欄12~24行」
(インピーダンス分光法から観測されたこの最小値を裏付けるために、図S6に示すように、活性化エネルギーはスピン-格子緩和7Li NMRによっても決定される。修正ブルームバーゲン-パーセル-パウンド (BPP) モデルを用いて、同様の傾向に従う活性化エネルギー(図7d参照)を計算したが、インピーダンス分光法で得られた活性化エネルギーと比較すると、一般にわずかに小さい。さらに、スピン-格子7Li 緩和データ(図S6)は、高温での2つの異なる動的モードを示し、それぞれがLi+ジャンププロセスに対応している。)
コ 「
[図:0001419309000001.jpg]
」(4780頁Figure 7.(d))
サ 「
[図:0001419309000002.jpg]
」(Supporting Information S2 Figure S1)
シ 「
[図:0001419309000003.jpg]
」(Supporting Information S11 Figure S6)
(2)甲1に記載された発明
甲1の上記(1)アの「近年、三元ハロゲン化物Li3MX6(M=Y、Er、In; X=Cl、Br、I)が広い電気化学的安定窓と好ましい室温伝導度から固体電解質として注目されている。この研究では、中性子回折、核磁気共鳴、およびインピーダンス分光法を組み合わせて使用して、Li3InCl6(Li3-xIn1-xZrxCl6 with 0 < x < 0.5)の構造とイオン伝導率に対するZr置換の影響を調べる。」との記載によれば、「Li3-xIn1-xZrxCl6(0 < x < 0.5)」は、固体電解質として注目されているものであるから、甲1には、「Li3-xIn1-xZrxCl6(0 < x < 0.5)を用いた固体電解質。」が記載されているといえる。
そして、同ウの「Li3InCl6は単斜晶構造(空間群:C2/m)に当てはまり、最初にシュミットらによって単結晶X線回折を用いて解析された。」との記載によれば、Li3InCl6は単斜晶構造(空間群:C2/m)であるところ、同サの図S1のX線回折の回折パターンを参照すると、Li3-xIn1-xZrxCl6のxが0.1~0.5の範囲でも、Li3InCl6(x=0)と同じ回折パターンを有していることから、「Li3-xIn1-xZrxCl6(0 < x < 0.5)」は、単斜晶構造(空間群:C2/m)であるといえる。
また、同クの「インピーダンス分光法で求めた活性化エネルギーはLi2.6In0.6Zr0.4Cl6で最小値に達し、これはここで見出された伝導度の最適値と一致する。」との記載によれば、「Li3-xIn1-xZrxCl6(0 < x < 0.5)」に対して、インピーダンス分光法で求めた活性化エネルギーを測定していること、及び同ケの「インピーダンス分光法から観測されたこの最小値を裏付けるために、図S6に示すように、活性化エネルギーはスピン-格子緩和7Li NMRによっても決定される。」との記載によれば、「Li3-xIn1-xZrxCl6(0 < x < 0.5)」に対して、スピン-格子緩和7Li NMRで求めた活性化エネルギーも測定していることが理解できると共に、それらの測定の結果を示している同コの図7(d)によれば、x=0.1~0.5の範囲で、インピーダンス分光法で求めた活性化エネルギーの範囲が、約0.39(x=0.1)~約0.346(x=0.4)eV、スピン-格子緩和7Li NMRで求めた活性化エネルギーの範囲が、約0.20(x=0.1)~約0.116(x=0.3、0.4)eVであることが見て取れる。
さらに、同オの「PIXcel 3D検出器を備えたBragg-Brentanoθ-θ幾何学のPANalytical Empyrean回折計でX線回折を行った。CuKα放射(λ=1.54Å)を10-90°の2θ範囲内で1°の散乱防止スリットと0.026°のステップサイズで使用した。」との記載によれば、CuKα放射(λ=1.54Å)を用いたX線回折パターンが、同サの図S1に表され、X線回折パターンによれば、2θ角が10~18°の範囲における最も大きいピーク高さを有する反射ピークが存在することが見てとれる。
以上によれば、甲1には、xの範囲を0.1~0.5とした「Li3-xIn1-xZrxCl6」について、以下の発明(以下、「甲1発明」という。)が記載されているといえる。
「単斜晶構造(空間群:C2/m)であり、
CuKα放射(λ=1.54Å)を用いたX線回折パターンにおいて、2θ角が10~18°の範囲における最も大きいピーク高さを有する反射ピークが存在し、
インピーダンス分光法で求めた活性化エネルギーの範囲が、約0.39~約0.346eV、スピン-格子緩和7LiNMRで求めた活性化エネルギーの範囲が、約0.20~約0.116eVである、
Li3-xIn1-xZrxCl6(0.1 < x < 0.5)を用いた固体電解質。」
(3)本件発明1について
ア 対比
甲1発明の本件発明1と甲1発明を対比する。
(ア)甲1のLi3-xIn1-xZrxCl6(0.1 < x < 0.5)は、「化合物」といえるものであるところ、化合物が「単斜晶構造(空間群:C2/m)であ」ることは、本件発明1の「単斜晶の結晶構造を有」することに相当する。
(イ)甲1発明において、「CuKα放射(λ=1.54Å)を用いたX線回折パターンにおいて、2θ角が10~18°の範囲における最も大きいピーク高さを有する反射ピークが存在」することは、本件発明1の「25℃においてCuKα線を用いて測定したX線回折チャートにおいて、2θ角が10~18°の範囲における最も大きいピーク高さを有する反射ピークの半値幅が0.05~0.35°であ」ることと、「CuKα線を用いて測定したX線回折チャートにおいて、2θ角が10~18°の範囲における最も大きいピーク高さを有する反射ピークが存在」することで共通する。
(ウ)甲1発明の「Li3-xIn1-xZrxCl6(0.1 < x < 0.5)」におけるInは、本件発明1の「Al、Ga、In、Sc及びLaからなる群から選択される少なくとも一つの元素であ」る「金属元素M」に相当する。
そして、本件明細書のドーパント元素Xに関する【0030】の「ドーパント元素Xとしては、Li、金属元素M及びCl以外の元素の中から選択されてよく、X1:金属元素M以外の金属元素・・・等が挙げられる。リチウム含有塩化物におけるドーパント元素Xのモル含有率は、10モル%以下であってよく、5モル%以下であってよく、0.1~3モル%であってよい。」との記載、及び【0031】の「ドーパント元素X1は、金属元素Mとは異なる価数を有する元素であってよく、金属元素Mよりも価数の大きい元素であると好ましい。このような組み合わせとしては、金属元素MがInであり、ドーパント元素X1がZr、Sn、Nb及びTaからなる群から選択される少なくとも一種である場合が挙げられる。」との記載によれば、甲1発明の「Li3-xIn1-xZrxCl6(0.1 < x < 0.5)」におけるZrは、少なくともxが0.1程度では、本件発明1の「ドーパント元素」に相当するといえる。
また、甲1発明の「Li3-xIn1-xZrxCl6(0.1 < x < 0.5)」は、xが0.1、及び0.5の場合のLiのモル含有量が、それぞれ約29.3%((2.9/9.9)×100)、約26.3%((2.5/9.5)×100)、また、xが0.1、及び0.5の場合のClのモル含有量が、それぞれ約60.6%((6/9.9)×100)、約63.2%((6/9.5)×100)であることを考慮すると、本件発明1の「リチウムのモル含有率が20~40モル%であり、塩素のモル含有率が50~70モル%であり」との条件を満たすものである。
そうすると、甲1発明の「Li3-xIn1-xZrxCl6(0.1 < x < 0.5)」は、本件発明1の「リチウム、リチウム以外の金属元素M、塩素及びドーパント元素Xを含み、前記金属元素Mは、Al、Ga、In、Sc及びLaからなる群から選択される少なくとも一つの元素であり、リチウムのモル含有率が20~40モル%であり、塩素のモル含有率が50~70モル%であ」る「化合物」に相当する。
(エ)甲1発明及び本件発明1は、共に「活性化エネルギー」の範囲が特定されるものであるところ、本件発明1の「活性化エネルギー」は、本件明細書の【0026】の「活性化エネルギーは、温度Tを変化させながら、リチウム含有塩化物の伝導率を測定して得られたグラフについて、以下の計算式を基にしてカーブフィッティングを行って(すなわち、アレーニウスプロットから)求めることができる。
式:σT=Aexp(-Ea/kbT)
ここで、σはイオン伝導度(S/cm)、Tは絶対温度(K)、Aは頻度因子、Eaは活性化エネルギー、kbはボルツマン定数を表す。」との記載によれば、甲1発明の「インピーダンス分光法で求めた活性化エネルギー」及び「スピン-格子緩和7Li NMRで求めた活性化エネルギー」と異なるものではあるが、甲1発明及び本件発明1は、共に、所定の活性化エネルギーの範囲を有するものである点では共通している。
(オ)以上によれば、本件発明1と甲1発明は、「単斜晶の結晶構造を有し、
CuKα線を用いて測定したX線回折チャートにおいて、2θ角が10~18°の範囲における最も大きいピーク高さを有する反射ピークが存在し、
リチウム、リチウム以外の金属元素M、塩素及びドーパント元素Xを含み、
前記金属元素Mは、Al、Ga、In、Sc及びLaからなる群から選択される少なくとも一つの元素であり、
リチウムのモル含有率が20~40モル%であり、
塩素のモル含有率が50~70モル%であり、
活性化エネルギーが所定の範囲である、化合物を用いた固体電解質。」の点で一致し、以下の点で相違しているといえる。
<相違点1>
CuKα線を用いて測定したX線回折チャートにおいて、2θ角が10~18°の範囲における最も大きいピーク高さを有する反射ピークについて、本件発明1では、測定が「25℃において」行われたものであると共に、当該反射ピークの「半値幅が0.05~0.35°であ」るのに対し、甲1発明では、測定の際の温度が不明であると共に、当該反射ピークの半値幅が不明である点。
<相違点2>
活性化エネルギーについて、本件発明1では、(リチウム含有塩化物の伝導率を測定して得られたグラフについて、σT=Aexp(-Ea/kbT)の計算式を基にしたアレーニウスプロットから求めたものが)0.380eV以下であるのに対し、甲1発明では、インピーダンス分光法で求めた活性化エネルギーの範囲が、約0.39~約0.346eV、スピン-格子緩和7Li NMRで求めた活性化エネルギーの範囲が、約0.20~約0.116eVである点。
イ 相違点に対する判断
上記相違点1について、以下検討する。
(ア)甲1に記載される上記(1)サのCuKα線を用いて測定したX線回折チャートは、それに関する説明である同カの記載によれば、Li3InCl6へのジルコニウム取り込みの影響を調べるためのもので、メカノケミカル合成を用いて調製した一連の固溶体Li3-xIn1-xZrxCl6(0 < x < 0.5)において、LiClが系列に沿ったほぼすべての組成に微量の不純物として存在することや、ジルコニウム含有量x(Zr)=0.5までは結晶相が得られるがx(Zr)=0.6では結晶性が低下することを定性的に示しているものであって、X線回折ピークの半値幅、特に、「2θ角が10~18°の範囲における最も大きいピーク高さを有する反射ピークの半値幅」の値の測定に供することを意図したものではない。
これに起因して、上記のX線回折チャートでは、「2θ角が10~18°の範囲における最も大きいピーク高さを有する反射ピーク」の存在は認識できるものの、X線回折チャートは小さく、該当のピークも微小であるがゆえに、ピークの幅に対してチャートの線も太く、ピークはチャートの線によりつぶれた状態であって、そもそもこのような状態の「2θ角が10~18°の範囲における最も大きいピーク高さを有する反射ピーク」からでは、半値幅を測定する高さの決定、幅の測定における誤差が大きく、正確な半値幅が測定できるとはいえない。
そうすると、甲1発明の「2θ角が10~18°の範囲における最も大きいピーク高さを有する反射ピーク」の半値幅が、本件発明1の範囲にあるということはできない。
(イ)特許異議申立書では、上記相違点1に関して、以下のように記載されている。
「さらに下の図は、上の図のx=0、x=0.1、x=0.2、x=0.3、x=0.4、x=0.5のそれぞれのX線回折チャートにおいて枠で囲んだ反射ピークを拡大して半値幅を計測した図である。
[図:0001419309000004.jpg]
図中のFWHMは計測した各反射ピークの半値幅である。半値幅の計測にあたっては、各X線回折チャートをデジタル化して行った。各X線回折チャートを描いている線は、当然太さを有している。半値を取る立ち上がりの線の太さの中心と半値を取る立ち下がりの線の太さの中心を結ぶ線分を半価幅とした。
なお、参考として、x=0.6の反射ピークも示した。
x=0.1、x=0.2、x=0.3、x=0.4、x=0.5の各反射ピークの半値幅はそれぞれ、0.302°、0.278°、0.311°、0.311°、0.234°とすべて0.05~0.35°である。」(15頁1行~16頁8行)
上記の理由では、甲1に記載される上記(1)サのCuKα線を用いて測定したX線回折チャートにおける該当の反射ピークを拡大し、チャートをデジタル化し、半値を取る立ち上がりの線の太さの中心と半値を取る立ち下がりの線の太さの中心を結ぶ線分を半価幅として、値を導いているが、上記(ア)で述べたように、そもそも、X線回折チャートにおける「2θ角が10~18°の範囲における最も大きいピーク高さを有する反射ピーク」が、半値幅を求めるには不鮮明なものであるから、たとえ、当該ピークを拡大し、デジタル化して半値幅を求めたとしても、求められた数値が正確であるとはいえない。
実際に、特許異議申立書に記載される拡大されたピークを見ても、ピークの高さのどの位置を半値幅の位置とするかによって半値幅の値は変化するところ、不鮮明なピークを拡大したピークも不鮮明であって、xの値に応じた各ピークにおいて半値幅とするピークの高さの位置が、正確であるのか不明であるし、ピークに対してチャートの線が太すぎて、線の太さ方向のどの位置を半値幅の端とするかによって、半値幅の値は相当変化するといえる。
そうすると、上記の特許異議申立書に記載の理由を採用することはできない。
ウ 小括
上記イで述べたように、上記相違点1は、実質的な相違点であるから、上記相違点2を検討するまでもなく、本件発明1は、甲1発明であるとはいえない。
(4)本件発明2について
本件発明2は、本件発明1における「活性化エネルギーが0.380eV以下である」を「6Li核の共鳴周波数が44.1MHzであり、無回転の条件下で室温において固体6Li-NMRスペクトルを測定した際に、1mol/LのLiCl水溶液の化学シフトを1.19ppmとして、-50~+50ppmの化学シフトの範囲内に存在するピークの半値幅が1~7ppmである」とした以外、本件発明1と同じ特定を有するものである。
そうすると、本件発明2と甲1発明を対比すると、少なくとも、本件発明2と甲1発明は、上記(3)ア(オ)で述べた相違点1で相違することになる。
そして、相違点1は、本件発明1と甲1発明との間で実質的な相違点となるものであることは、上記(3)イで述べたとおりであるから、本件発明2も、本件発明1と同様に、少なくとも相違点1の点で、甲1発明と相違している。
以上によれば、本件発明2は、甲1発明であるとはいえない。
(5)本件発明3~8、10、11について
本件発明3~8、10、11は、本件発明1又は2の構成をさらに限定したものであるか、少なくとも本件発明1又は2の構成をすべて具備するものであるから、本件発明1及び2と同様に、本件発明3~8、10、11は、甲1発明であるとはいえない。
(6)申立理由1に関するまとめ
上記(3)~(5)で述べたとおり、本件特許1~8、10、11は、特許法第29条第1項の規定に違反してされたものではないから、申立理由1には、理由がない。
第6 むすび
上記第5で検討したとおり、本件特許1~8、10、11は、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであるとも、同法第29条第1項の規定に違反してされたものであるということもできず、同法第113条第2号又は第4号に該当するものではないから、上記取消理由1、2及び上記申立理由1、2では、本件特許1~8、10、11を取り消すことはできない。
また、他に本件特許1~8、10、11を取り消すべき理由を発見しない。
そして、本件特許9は、本件訂正により削除され、本件特許9に対する特許異議の申立ては、申立ての対象が存在しないものとなったため、特許法第120条の8第1項で準用する同法第135条の規定により却下する。
よって、結論のとおり決定する。
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2023-700511