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特許異議申立

2023-700481

金属部材

審判番号
2023-700481
法域
特許
審判種別
異議申立(異議の決定)
出願番号
特願2019-526972外部サイト(J-PlatPat)へ移動します
登録番号
7175477
請求日
2023年05月09日
審決日
2024年03月18日
公報発行日
2024年06月28日
結論
訂正認容
当事者
審判長/審判官
分類
P1651.113-YAA(C22C) / P1651.121-YAA(C22C)
条文(本文から自動抽出・参考)
特許法第120条の5第9項、特許法第120条の5第2項、特許法第29条第2項、特許法第29条第1項第3号、特許法第126条、特許法第120条の5第4項、特許法第126条第7項、特許法第36条、特許法第29条
データ出所
審決公報(XML)

事件の表示

特許第7175477号発明「金属部材」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。

結論

結 論
特許第7175477号の特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔2、3〕について訂正することを認める。
特許第7175477号の請求項1~3に係る特許を維持する。

理由

目次 ▾ 14項目
理 由

第1 手続の経緯

折りたたみ中(クリックで表示)

特許第7175477号の請求項1~3に係る特許(以下、「本件特許」という。)についての出願(以下、「本願」という。)は、2018年(平成30年) 6月27日(パリ条約による優先権主張 平成29年 6月27日、日本国(JP)、平成30年 5月29日、日本国(JP))を国際出願日とする出願であって、令和 4年11月11日にその特許権の設定登録がされ、同年11月21日に特許掲載公報が発行され、その後、その請求項1~3(全請求項)に係る特許について、令和 5年 5月 9日に特許異議申立人 片川 典子(以下、「申立人」という。)により特許異議の申立てがされたものであり、その後の経緯は以下のとおりである。

令和 5年 8月 7日付け 取消理由通知

同年10月 6日 特許権者による訂正請求書及び意見書の提出

同年12月 1日 申立人による意見書の提出

第2 本件訂正請求について

1 訂正請求の趣旨、及び訂正の内容

令和 5年10月 6日提出の訂正請求書により特許権者が行った訂正請求(以下、「本件訂正請求」という。)の趣旨は、本件特許の特許請求の範囲を、訂正請求書に添付した訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項2、3について訂正することを求めるものであり、本件訂正請求に係る訂正(以下、「本件訂正」という。)の内容は、以下のとおりである。なお、訂正箇所には、当審が下線を付した。

(1)訂正事項1

訂正前の特許請求の範囲の請求項2に「0≦γ≦0.2」と記載されているのを、「0<γ≦0.2」に訂正する。

(2)訂正事項2

訂正前の特許請求の範囲の請求項3に

「 請求項2記載の金属部材において、
多結晶とされた前記金属の結晶粒は、アスペクト比が1.2以上とされ、複数の前記結晶粒は、長軸の方向を同一の方向に向けて配列され、
前記結晶粒の長軸の方向の断面における前記結晶粒の数が0.1mm2あたりに246個以下とされている
ことを特徴とする金属部材。」

と記載されているのを、

「 Ruを最大比率で含む合金からなる金属から構成され、
組成は化学式RuαM1βM2γM3δM4εで表され、
M1は、Rh、Pd、Os、Ir、Ptのいずれかであり、
M2は、Ta、W、Mo、Nb、Reのいずれかであり、
続きを表示(全11行)
M3はCr,Mn,Fe,Co,Ni,Vのいずれかであり、
M4はTi,Zr,Hf,Al,Scのいずれかであり、
0.7<α<0.95、0.05≦β≦0.3、0≦γ≦0.2、0≦δ≦0.2、0≦ε≦0.03かつ0.05≦β+γ+δ+ε≦0.3、α+β+γ+δ+ε=1とされ、
前記金属は、ビッカース硬度が160Hv以上400Hv未満とされ、
多結晶とされた前記金属の結晶粒は、アスペクト比が1.2以上とされ、複数の前記結晶粒は、長軸の方向を同一の方向に向けて配列され、
前記結晶粒の長軸の方向の断面における前記結晶粒の数が0.1mm2あたりに246個以下とされている
ことを特徴とする金属部材。」

に訂正する。

2 訂正の適否についての当審の判断

(1)訂正の目的、特許請求の範囲の実質上の拡張又は変更の存否、及び新規事項追加の有無

ア 訂正事項1について

(ア)訂正の目的について

訂正事項1に係る訂正は、訂正前の請求項2の「γ」の数値範囲を、「0≦γ≦0.2」から「0<γ≦0.2」へと限定するものであるから、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に掲げる「特許請求の範囲の減縮」を目的とするものに該当する。

(イ)特許請求の範囲の実質上の拡張又は変更の存否、及び新規事項追加の有無について

訂正事項1に係る訂正は、上記(ア)のとおり、特許請求の範囲の減縮を目的とするものであり、カテゴリーや対象、目的を変更するものではないから、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものには該当せず、特許法第120条の5第9項で準用する同法第126条第6項に適合するものである。

また、訂正事項1に係る訂正は、訂正前の請求項2において、元素M2を含まないか、又は0.2以下の含有量でM2を含むものと択一的に記載されていた態様の一方に限定するものであると認められるから、本願の願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内のものであり、特許法第120条の5第9項で準用する同法第126条第5項に適合するものである。

イ 訂正事項2について

(ア)訂正の目的について

訂正事項2に係る訂正は、訂正前の請求項3が請求項2を引用する記載であったものを、請求項間の引用関係を解消し、独立形式請求項へ改めるための訂正であるから、特許法第120条の5第2項ただし書第4号に掲げる「他の請求項の記載を引用する請求項の記載を当該請求項の記載を引用しないものとすること」を目的とするものに該当する。

(イ)特許請求の範囲の実質上の拡張又は変更の存否、及び新規事項追加の有無について

訂正事項2に係る訂正は、上記(ア)のとおり、他の請求項の記載を引用する請求項の記載を当該請求項の記載を引用しないものとすることを目的とするものであるから、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものに該当しないことは、明らかであり、また、本願の願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内のものである。

したがって、訂正事項2に係る訂正は、特許法第120条の5第9項で準用する同法第126条第5項及び第6項に適合するものである。

(2)一群の請求項について

本件訂正前の請求項2~3について、訂正前の請求項3は訂正前の請求項2を引用するものであって、請求項2の訂正に連動して訂正されるものであるので、本件訂正前の請求項2~3は、一群の請求項である。

そして、本件訂正請求は、上記一群の請求項ごとに訂正の請求をするものであるから、特許法第120条の5第4項の規定に適合するものである。

また、特定の請求項に係る訂正事項について別の訂正単位とする求めはないから、本件訂正請求は、訂正後の請求項〔2、3〕を訂正単位とする訂正を請求するものである。

(3)独立特許要件について

本件は、訂正前の全請求項について特許異議の申立てがされているので、訂正事項1、2について、特許法第120条の5第9項で読み替えて準用する特許法第126条第7項の独立特許要件は課されない。

3 本件訂正請求についてのむすび

以上のとおりであるから、本件訂正請求による訂正は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号及び第4号に掲げる事項を目的とするものであり、かつ、同条第9項において準用する同法第126条第5項及び第6項に適合するものである。

したがって、本件特許の特許請求の範囲を、訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔2、3〕について訂正することを認める。

第3 本件特許発明

上記第2の3のとおり、本件訂正請求による訂正は認められるから、本件訂正請求によって訂正された特許請求の範囲の請求項1~3に係る発明は、その訂正特許請求の範囲の請求項1~3に記載された事項により特定される次のとおりのものである。

なお、以下において、本件訂正後の請求項1~3に係る発明を順に「本件特許発明1」~「本件特許発明3」といい、総称して「本件特許発明」ということがある。

「【請求項1】
RuまたはRuを最大比率で含む合金からなる金属の多結晶から構成され、
結晶粒は、アスペクト比が1.5以上とされ、複数の前記結晶粒は、長軸の方向を同一の方向に向けて配列され、
前記結晶粒の長軸の方向の断面における前記結晶粒の数が0.25mm2あたりに83個以下とされ、
続きを表示(全33行)
前記金属は、ビッカース硬度が200Hv以上400Hv未満とされ、
前記Ruを最大比率で含む合金は、化学式RuαM1βM2γM3ζで表され、
M1は、Rh、Pd、Os、Ir、Ptのいずれかであり、
M2は、Ta、W、Reのいずれかであり、
M3は、Ruと安定化合物を形成してより耐食性を向上させる元素、もしくはRuに固溶してより耐食性を向上させる元素であり、
0.7<α<0.95、0.05≦β≦0.3、0≦γ≦0.1、0≦ζ≦0.2、かつ0.05≦β+γ+ζ≦0.3、α+β+γ+ζ=1とされている
ことを特徴とする金属部材。
【請求項2】
Ruを最大比率で含む合金からなる金属から構成され、
組成は化学式RuαM1βM2γM3δM4εで表され、
M1は、Rh、Pd、Os、Ir、Ptのいずれかであり、
M2は、Ta、W、Mo、Nb、Reのいずれかであり、
M3はCr,Mn,Fe,Co,Ni,Vのいずれかであり、
M4はTi,Zr,Hf,Al,Scのいずれかであり、
0.7<α<0.95、0.05≦β≦0.3、0<γ≦0.2、0≦δ≦0.2、0≦ε≦0.03かつ0.05≦β+γ+δ+ε≦0.3、α+β+γ+δ+ε=1とされ、
前記金属は、ビッカース硬度が160Hv以上400Hv未満とされている
ことを特徴とする金属部材。
【請求項3】
Ruを最大比率で含む合金からなる金属から構成され、
組成は化学式RuαM1βM2γM3δM4εで表され、
M1は、Rh、Pd、Os、Ir、Ptのいずれかであり、
M2は、Ta、W、Mo、Nb、Reのいずれかであり、
M3はCr,Mn,Fe,Co,Ni,Vのいずれかであり、
M4はTi,Zr,Hf,Al,Scのいずれかであり、
0.7<α<0.95、0.05≦β≦0.3、0≦γ≦0.2、0≦δ≦0.2、0≦ε≦0.03かつ0.05≦β+γ+δ+ε≦0.3、α+β+γ+δ+ε=1とされ、
前記金属は、ビッカース硬度が160Hv以上400Hv未満とされ、
多結晶とされた前記金属の結晶粒は、アスペクト比が1.2以上とされ、複数の前記結晶粒は、長軸の方向を同一の方向に向けて配列され、
前記結晶粒の長軸の方向の断面における前記結晶粒の数が0.1mm2あたりに246個以下とされている
ことを特徴とする金属部材。」

第4 申立理由の概要

申立人は、証拠方法として、後記する甲第1号証~甲第5号証(以下、「甲1」~「甲5」という。)を提出し、以下の申立理由1及び2により、本件訂正前の請求項1~3に係る特許は取り消されるべきものである旨主張している。

1 申立理由1(進歩性、取消理由として不採用)

本件訂正前の請求項1、3に係る発明は、甲1に記載された発明及び甲5に記載された発明に基いて、その発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者(以下「当業者」という。)が容易に発明をすることができたものであり、同法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、本件訂正前の請求項1、3に係る特許は、同法第113条第2号に該当し、取り消されるべきものである。

2 申立理由2(新規性、条文を変更して取消理由として採用)

本件訂正前の請求項2に係る発明は、甲第1号証に記載された発明であり、特許法第29条第1項第3号に該当し、特許を受けることができないものであるから、同発明に係る特許は、同法第113条第2号に該当し、取り消されるべきものである。

<証拠方法>

・甲第1号証:Nicholas Richard Towle,”ORDER HARDENING OF PLATINUM ALLOYS”,University of Cape Town,March 1999,p.9-10
・甲第1の2号証:ORDER HARDENING OF PLATINUM ALLOYSの抄訳
・甲第2号証:CERTIFICATE OF AUTHENTICATION、2023年1月30日、Safeera Ally
・甲第2の2号証:AFFIDAVIT、2023年1月30日、Amanda Hazel Noble
・甲第2の3号証:Bibliographic Record - OCLC Number: 44134319、2023年1月23日、Online Computer Library Center
・甲第2の4号証:Title Order hardening of platinum alloys / by Nicholas Richard Towle.、2023年1月23日、Ex Libris社
・甲第2の5号証:Showing list of versions

・甲第2の6号証:CERTIFICATE OF AUTHENTICATION,AFFIDAVIT,Annexure A (Bibliographic Record - OCLC Number: 44134319,Title Order hardening of platinum alloys / by Nicholas Richard Towle.,Showing list of versions)の抄訳

・甲第3号証:OCLCのサービス概要|教育と研究の未来、2020年7月14日、紀伊國屋書店OCLC事業部
・甲第4号証:NDL書誌情報ニュースレター 2015年3号(通号34号)、国立国会図書館収集書誌部、p.1~23
・甲第5号証:特開2015-190012号公報

第5 令和 5年 8月 7日付けで通知した取消理由の概要

当審が令和 5年 8月 7日付けで通知した取消理由は以下のとおりである。

1 取消理由1(進歩性)

本件訂正前の請求項2に係る発明は、甲1に記載された発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、同発明に係る特許は、同法第113条第2号に該当し、取り消されるべきものである。

第6 当審の判断

当審は、以下に述べるとおり、令和 5年 8月 7日付けで通知した取消理由及び特許異議申立ての理由のいずれによっても、本件訂正後の請求項1~3に係る特許を取り消すことはできないと判断する。

1 取消理由1(進歩性)、申立理由1(進歩性)、申立理由2(新規性)

(1)甲1の記載事項

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甲1には、以下の記載がある(日本語訳は当審で作成したものである。)。

なお、甲1の表紙左下の記載(University of Cape Town March 1999)、及び、表紙裏の記載(Published by the University of Cape Town (UTC) in terms of the non-exclusive license granted to UCT by the author.(当審訳:著者によって UCT に付与された非独占的ライセンスに基づき、ケープタウン大学 (UTC) によって発行された。))に基づき、甲1は1999年3月に公表されたものと認める。

ア「(9ページ)

[図:0001411290000001.jpg]

」

(当審訳:ルテニウム中の白金の溶解度は温度とともに非常にゆっくりと増加し、急冷時にこれらの溶液からはほとんど析出が生じない14。一方、白金中のルテニウムの溶解度は、温度の上昇とともに急速に増加する。その結果、飽和白金溶液の高温構造は急冷しても完全に保持できないことが判明した。したがって、析出がかなり多く発生し、保持相の組成に影響を及ぼし、急冷二相合金の硬度の値が高くなった。Figure 2.1.4 の硬度曲線は、二相領域全体にわたる析出に関連する、明確な硬度ピークを示している。ルテニウム含有量が低いときの(硬度の)緩やかな上昇は、通常の溶体化硬化の結果である。)

イ「(10ページ)

[図:0001411290000002.jpg]

」

(当審訳:Figure 2.1.4 1800℃から急冷した白金ルテニウム合金の硬度と組成(Hutchinson14より))

(2)甲1に記載された発明

甲1のFigure 2.1.4の説明には「1800℃から急冷した白金ルテニウム合金の硬度と組成」と記載されているので、同図は、さまざまな組成のPt、Ru及び不可避的不純物からなる試料を作製し、それぞれの硬度を計測した結果を表したものと認められる。

具体的には、横軸に「ATOMIC PERCENT RUTHENIUM」、縦軸に「HARDNESS HV」と記載されているので、試料中の原子量比でのRu含有量と、各試料のビッカース硬度(単位:Hv)の測定結果を表していると認められる。

図中、白丸が打たれている点を測定データとして採用し、各点においてRuが80%と90%の点にそれぞれ着目すると、原子量比でRuを80%含有し、残部がPt及び不可避的不純物からなる試料のビッカース硬度は概ね360Hvであること、原子量比でRuを90%含有し、残部がPt及び不可避的不純物からなる試料のビッカース硬度は概ね295Hvであることを見て取ることができる。

そうすると、甲1には以下の発明(以下、「甲1-1発明」、「甲1-2発明」という。)が記載されていると認められる。

<甲1-1発明>

原子量比でRuを80%含有し、残部がPtを含む白金ルテニウム合金の試料であって、ビッカース硬度が概ね360Hvである試料。

<甲1-2発明>

原子量比でRuを90%含有し、残部がPtを含む白金ルテニウム合金の試料であって、ビッカース硬度が概ね295Hvである試料。

(3)甲5の記載事項

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本願の優先日前に公知となった甲5には、「イリジウム又はイリジウム合金からなる金属線材」(発明の名称)に関して、以下の記載がある。

ア「【0001】

本発明は、点火プラグ電極、センサー電極等の用途で使用され、高温雰囲気中で使用されるイリジウム又はイリジウム合金からなる金属線材に関する。」

イ「【発明が解決しようとする課題】

【0005】

材料組織の制御による金属線材の高温特性の改良は、未だ完成したものとは考えられていない。本願出願人による上記のイリジウム線材も、従来の線材加工により製造されたイリジウム線材に比べると高温酸化雰囲気中における酸化消耗量の低減が観測されており一応の効果が確認されている。しかし、高温特性の更なる改善が要求されていることもあり、より高温特性に優れたイリジウム線材が要求されている。例えば、点火プラグ電極では、耐久寿命の長期化の要求や、エンジン性能の向上に応じた耐久性の更なる改善が要求されている。そして、本発明者等によれば、上記従来のイリジウム線材にも改良の余地があるとしている。

【0006】

そこで本発明は、イリジウム又はイリジウム合金からなる金属線材について、高温雰囲気下での耐酸化消耗性、機械的特性等の諸特性に優れたもの、及び、その製造方法を提供することを目的とするものである。」

ウ「【0015】

本発明に係るイリジウム線材は、イリジウム又はイリジウム合金からなる。ここで、イリジウム合金としては、白金、ルテニウム、ロジウム、ニッケルの少なくともいずれかを合計で1~50質量%含有するイリジウム合金が好ましい。これらの添加元素は、適宜に添加することでイリジウムの高温酸化特性や機械的特性を更に改善することができることがある。

【0016】

本発明に係るイリジウム線材は、長手方向における任意断面について、断面積0.25mm2当たりの結晶数が2個以上20個以下であることを要する。結晶数規定の理由は上記の通りであるが、20個を越える場合高温での劣化の起点となる粒界の面積が増大し、酸化消耗量の増加や材料破断のおそれが高くなることから20個を上限とした。また、結晶数を1個とすることは単結晶の状態を示すことあり、これが望ましいことはいうまでもないが、イリジウム線材の工業的製造を要求すると単結晶を条件とすることは現実的ではない。尚、「長手方向」とは、線材の中心軸と平行な方向である。また、本発明では長手方向における断面の結晶粒数は規定されるが、径方向の断面における結晶粒数には制限はない。

【0017】

本発明において、結晶粒の好ましい形状は、長手方向に延伸する柱状結晶であり、任意断面で柱状結晶が束になった材料組織を挺したものが好ましい。そして、等軸晶の少ない材料組織が好ましい。具体的には、任意の断面積0.25mm2において、長手方向(x)とこれに垂直な方向(y)に基づくアスペクト比(y/x)が1.5以上となる結晶粒数が20以下であることが好ましい。等軸晶の割合を制限するのは、粒界面積の増大に起因する機械的強度低下を抑制するためである。」

エ「【0032】

実施例1~実施例10:図1に本実施形態で適用したμ-PD法に基づくイリジウム線材の製造装置を示す。図1の通り、イリジウム線材製造装置では、坩堝内に溶融状態でのイリジウム原料を収容する。坩堝の底部には貫通孔を有するダイが埋め込まれている。μ-PD法による線材製造にあたっては、まず、育成結晶を底部から坩堝内の原料に接触させ、その後一定速度で育成結晶を引き下げ(下方向に移動)させる。

【0033】

本実施形態では、予め用意したイリジウム又はイリジウム合金(いずれも純度99%以上)をジルコニア製の坩堝(容器寸法40×30×50)に入れた。その一方で、坩堝底部に設置されたノズル(寸法:内径1mm、長さ5mm)の下方から育成結晶(φ0.8mmの種結晶)を挿入した。そして、原料を高周波誘導加熱して溶解させた。その後、引き下げ速度5mm/minで引き下げを行った。このとき、坩堝上部から下部方向へ窒素ガス(1L/min)をフローしている。本実施形態では、ノズル出口から30mmの区間において、冷却速度を50℃/secとして線材温度が1200℃以下になるまで徐冷している。そして、線径1mmの線材150mmを製造した。」

オ「【0036】

以上で製造したイリジウム線材について、まず、材料組織の観察により結晶粒数の測定、硬度測定を行った。これらの測定は、製造した線材を1mmの長さに切断し、更に、長手方向に切断して半割りにした。そして、顕微鏡観察を行い面積0.25mm2の観察視野を任意に設定して結晶粒数の測定を行った。また、アスペクト比1.5以上の等軸晶の有無・数を測定した。その後、ビッカース硬度計によりビッカース硬度を測定した。この結果を表1に示す。

【0037】

【表1】

[図:0001411290000003.jpg]

」

(4)甲5に記載された発明

上記(3)に摘記した記載の、特に表1の実施例6に着目すると、甲5には、以下の発明(以下、「甲5発明」という。)が記載されていると認められる。なお、表1は組成が重量比か原子量比か不明であるが、【0015】の記載から質量%であると認める。

<甲5発明>

「質量%でルテニウムを20%含有し、残部がイリジウムからなる金属線材であって、
長手方向の任意断面における結晶粒数が0.25mm2当たり3個であり、
ビッカース硬度が326Hvである金属線材。」(以下「甲5発明」という。)

(5)本件特許発明1について

ア 本件特許発明1と甲1-1発明との対比・判断

(ア)対比

a 甲1-1発明は、Ruを最大比率で含む合金からなる金属から構成されることは明らかであるから、甲1-1発明と本件特許発明1は、「Ruを最大比率で含む合金からなる金属から構成され」る限りにおいて共通する。

b 甲1-1発明における金属のビッカース硬度は概ね360Hvであり、本件特許発明1のビッカース硬度(200Hv以上400Hv未満)に包含される。

c 原審における令和 3年 3月 9日提出の意見書から、本件特許発明1のα、β、γ及びζの各値は、原子量比を示している。よって、甲1-1発明におけるRuの含有量80%は、本件特許発明1におけるRuの含有量α(0.7<α<0.95)に包含される。

d 本件特許発明1における元素M1は、Rh、Pd、Os、Ir、Ptのいずれかであるため、甲1-1発明に含有される元素Ptと一致する。また、甲1-1発明におけるPtの含有量は、Ruの含有量を除いた残部20%から不可避的不純物の含有量をさらに除いた値となる。

甲1-1発明には不可避的不純物として、Rh、Pd、Os、Irが含まれる可能性があるが、Ptと併せて20%を超えて含まれることはないから、本件特許発明1と甲1-1発明とは、M1の含有量βが0.05≦β≦0.3を満たしている点で共通している。

e 審判段階の令和 4年 8月 3日に提出された意見書において、特許権者は、本件特許発明1の「M3の具体的な元素名は、NiとAl」であると述べている。

本件特許発明1における元素M2及びM3の含有量γ及びζは、それぞれ、0≦γ≦0.1及び0≦ζ≦0.2であって、その下限値が「0」と規定されたものであり、M2及びM3が「存在しない」ことを包含すると解される。

そうすると、甲1-1発明の成分組成において、Ru及びPt以外の元素含有量が明示されていないことは、甲1-1発明に、これらの元素が含有しないか、含有するとしても不純物量で含有するものと解されるから、これらの元素の含有量は、本件特許発明1で規定されているM2及びM3の各含有量と、下限値が0%である点で共通する。

f 上記d及びeの検討結果から、甲1-1発明において、0.05≦β+γ+ζ≦0.3、α+β+γ+ζ=1となることも明らかである。

g 甲1のFigure 2.1.4に各試料のビッカース硬度が測定されていることからすると、甲1-1発明に係る試料は、何らかの測定装置を用いてビッカース硬度が測定できるように、白金ルテニウム合金を成形したものであると解される。してみれば、甲1-1発明に係る白金ルテニウム合金の試料は、所定の形状を有し、測定に用いるための「金属部材」であるといえる。

h そうすると、本件特許発明1と甲1-1発明とは、以下の一致点1-1において一致するとともに、以下の相違点1-1-1~1-1-3において相違する。

<一致点1-1>

Ruを最大比率で含む合金からなる金属から構成され、

前記金属は、ビッカース硬度が200Hv以上400Hv未満とされ、

前記Ruを最大比率で含む合金は、化学式RuαM1βM2γM3ζで表され、

M1は、Rh、Pd、Os、Ir、Ptのいずれかであり、

M2は、Ta、W、Reのいずれかであり、

M3は、Ruと安定化合物を形成してより耐食性を向上させる元素、もしくはRuに固溶してより耐食性を向上させる元素であり、

0.7<α<0.95、0.05≦β≦0.3、0≦γ、0≦ζ、かつ0.05≦β+γ+ζ≦0.3、α+β+γ+ζ=1とされている、金属部材。」

<相違点1-1-1>

本件特許発明1は、「RuまたはRuを最大比率で含む合金からなる金属の多結晶から構成され」るのに対し、甲1-1発明は、金属の多結晶から構成されるのか明らかでない点。

<相違点1-1-2>

本件特許発明1は、「結晶粒は、アスペクト比が1.5以上とされ、複数の前記結晶粒は、長軸の方向を同一の方向に向けて配列され」、「前記結晶粒の長軸の方向の断面における前記結晶粒の数が0.25mm2あたりに83個以下とされ」るのに対し、甲1-1発明は、結晶粒のアスペクト比、配列、数が明らかでない点。

<相違点1-1-3>

本件特許発明1では、M2及びM3の各含有量γ及びζの上限が、それぞれγ≦0.1及びζ≦0.2と規定されているのに対し、甲1-1発明は、これらの元素の含有量の上限が不明である点。

(イ)判断

事案に鑑みて、上記相違点1-1-2について検討する。

a 甲1には、結晶粒について直接的な記載や、これを示唆するような記載は見当たらないから、相違点1-1-2は実質的な相違点である。

b つぎに相違点1-1-2の容易相当性について検討すると、甲1に結晶粒を制御することについての直接的な記載や、これを示唆するような記載は見当たらないから、甲1発明において、結晶粒のアスペクト比や配列する方向、結晶粒の単位面積当たりの個数を所定の範囲に制御する動機付けがあるとはいえない。

c そうすると、甲1-1発明において、上記相違点1-1-2に係る発明特定事項を備えようとすることは、当業者が容易に想到し得たこととはいえない。

d よって、他の相違点、及び本件特許発明1によって奏される効果について検討するまでもなく、本件特許発明1は、甲1-1発明及び甲5に記載された発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。

イ 本件特許発明1と甲1-2発明との対比・判断

(ア)対比

a 甲1-2発明は、Ruを最大比率で含む合金からなる金属から構成されることは明らかであるから、甲1-2発明と本件特許発明1は、「Ruを最大比率で含む合金からなる金属から構成され」る限りにおいて共通する。

b 甲1-2発明における金属のビッカース硬度は概ね295Hvであり、本件特許発明1のビッカース硬度(200Hv以上400Hv未満)に包含される。

c 原審における令和 3年 3月 9日提出の意見書から、本件特許発明1のα、β、γ及びζの各値は、原子量比を示している。よって、甲1-2発明におけるRuの含有量90%は、本件特許発明1におけるRuの含有量α(0.7<α<0.95)に包含される。

d 本件特許発明1における元素M1は、Rh、Pd、Os、Ir、Ptのいずれかであるため、甲1-2発明に含有される元素Ptと一致する。また、甲1-2発明におけるPtの含有量は、Ruの含有量を除いた残部10%から不可避的不純物の含有量をさらに除いた値となる。

甲1-2発明には不可避的不純物として、Rh、Pd、Os、Irが含まれる可能性があるが、Ptと併せて10%を超えて含まれることはないから、本件特許発明1と甲1-2発明とは、M1の含有量βが0.05≦β≦0.3を満たしている点で共通している。

e 審判段階の令和 4年 8月 3日に提出された意見書において、特許権者は、本件特許発明1の「M3の具体的な元素名は、NiとAl」であると述べている。

本件特許発明1における元素M2及びM3の含有量γ及びζは、それぞれ、0≦γ≦0.1及び0≦ζ≦0.2であって、その下限値が「0」と規定されたものであり、M2及びM3が「存在しない」ことを包含すると解される。

そうすると、甲1-2発明の成分組成において、Ru及びPt以外の元素含有量が明示されていないことは、甲1-2発明に、これらの元素が含有しないか、含有するとしても不純物量で含有するものと解されるから、これらの元素の含有量は、本件特許発明1で規定されているM2及びM3の各含有量と、下限値が0%である点で共通する。

f 上記d及びeの検討結果から、甲1-2発明において、0.05≦β+γ+ζ≦0.3、α+β+γ+ζ=1となることも明らかである。

g 甲1のFigure 2.1.4に各試料のビッカース硬度が測定されていることからすると、甲1-2発明に係る試料は、何らかの測定装置を用いてビッカース硬度が測定できるように、白金ルテニウム合金を成形したものであると解される。してみれば、甲1-2発明に係る白金ルテニウム合金の試料は、所定の形状を有し、測定に用いるための「金属部材」であるといえる。

h そうすると、本件特許発明1と甲1-2発明とは、以下の一致点1-2において一致するとともに、以下の相違点1-2-1~1-2-3において相違する。

<一致点1-2>

Ruを最大比率で含む合金からなる金属から構成され、

前記金属は、ビッカース硬度が200Hv以上400Hv未満とされ、

前記Ruを最大比率で含む合金は、化学式RuαM1βM2γM3ζで表され、

M1は、Rh、Pd、Os、Ir、Ptのいずれかであり、

M2は、Ta、W、Reのいずれかであり、

M3は、Ruと安定化合物を形成してより耐食性を向上させる元素、もしくはRuに固溶してより耐食性を向上させる元素であり、

0.7<α<0.95、0.05≦β≦0.3、0≦γ、0≦ζ、かつ0.05≦β+γ+ζ≦0.3、α+β+γ+ζ=1とされている、金属部材。」

<相違点1-2-1>

本件特許発明1は、「RuまたはRuを最大比率で含む合金からなる金属の多結晶から構成され」るのに対し、甲1-2発明は、金属の多結晶から構成されるのか明らかでない点。

<相違点1-2-2>

本件特許発明1は、「結晶粒は、アスペクト比が1.5以上とされ、複数の前記結晶粒は、長軸の方向を同一の方向に向けて配列され」、「前記結晶粒の長軸の方向の断面における前記結晶粒の数が0.25mm2あたりに83個以下とされ」るのに対し、甲1-2発明は、結晶粒のアスペクト比、配列、数が明らかでない点。

<相違点1-2-3>

本件特許発明1では、M2及びM3の各含有量γ及びζの上限が、それぞれγ≦0.1及びζ≦0.2と規定されているのに対し、甲1-2発明は、これらの元素の含有量の上限が不明である点。

(イ)判断

上記ア(イ)において検討したのと同様、上記相違点1-2-2は実質的な相違点であり、また、甲1-2発明において、上記相違点1-2-2に係る発明特定事項を備えようすることは、当業者が容易に想到し得たこととはいえない。

よって、本件特許発明1は、甲1-2発明及び甲5に記載された発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。

ウ 小括

以上のとおり、本件特許発明1は、甲1に記載された発明及び甲5に記載された発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえず、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものとはいえない。

(6)本件特許発明2について

ア 本件特許発明2と甲1-1発明との対比・判断

(ア)対比

a 甲1-1発明におけるRuの含有量80%は、本件特許発明2におけるRuの含有量α(0.7<α<0.95)に包含される。

また、甲1-1発明は、Ruを最大比率で含む合金からなる金属から構成されることも明らかである。

b 本件特許発明2における元素M1は、Rh、Pd、Os、Ir、Ptのいずれかであるため、甲1-1発明に含有される元素Ptと一致する。また、甲1-1発明におけるPtの含有量は、Ruの含有量を除いた残部20%から不可避的不純物の含有量をさらに除いた値となる。

甲1-1発明には不可避的不純物として、Rh、Pd、Os、Irが含まれる可能性があるが、Ptと併せて20%を超えて含まれることはないから、本件発明2と甲1-1発明とは、M1の含有量βが0.05≦β≦0.3を満たしている点で共通している。

c 本件特許発明2における元素M3及びM4の含有量δ及びεは、それぞれ、0≦δ≦0.2及び0≦ε≦0.03であって、その下限値が「0」と規定されたものであり、M3及びM4が「存在しない」ことを包含すると解される。

そうすると、甲1-1発明の成分組成において、Ru及びPt以外の元素含有量が明示されていないことは、甲1-1発明に、これらの元素が含有しないか、含有するとしても不純物量で含有するものと解されるから、これらの元素の含有量は、本件特許発明2で規定されているM3及びM4の各含有量と、下限値が0%である点で共通する。

d 甲1-1発明における金属のビッカース硬度は概ね360Hvであり、本件特許発明2のビッカース硬度(160Hv以上400Hv未満)に包含される。

e 甲1のFigure 2.1.4に各試料のビッカース硬度が測定されていることからすると、甲1-1発明に係る試料は、何らかの測定装置を用いてビッカース硬度が測定できるように、白金ルテニウム合金を成形したものであると解される。してみれば、甲1-1発明に係る白金ルテニウム合金の試料は、所定の形状を有し、測定に用いるための「金属部材」であるといえる。

f そうすると、本件特許発明2と甲1-1発明とは、以下の一致点2-1において一致するとともに、以下の相違点2-1-1、2-1-2において相違する。

<一致点2-1>

「Ruを最大比率で含む合金からなる金属から構成され、
M1は、Rh、Pd、Os、Ir、Ptのいずれかであり、
M3はCr,Mn,Fe,Co,Ni,Vのいずれかであり、
M4はTi,Zr,Hf,Al,Scのいずれかであり、
0.7<α<0.95、0.05≦β≦0.3、0≦δ、0≦εとされ、
前記金属は、ビッカース硬度が160Hv以上400Hv未満とされている、金属部材。」

<相違点2-1-1>

本件特許発明2は、「組成は化学式RuαM1βM2γM3δM4εで表され」、「M2は、Ta、W、Mo、Nb、Reのいずれかであり」、「0<γ≦0.2」「かつ0.05≦β+γ+δ+ε≦0.3、α+β+γ+δ+ε=1」とされているところ、甲1-1発明は、Ta、W、Mo、Nb、Reのいずれかを含むか不明である点。

<相違点2-1-2>

本件特許発明2では、M3及びM4の各含有量δ及びεの上限が、それぞれδ≦0.2、ε≦0.03と規定されているのに対し、甲1-1発明は、これらの元素の含有量の上限が不明である点。

(イ)判断

a 甲1において、Ta、W、Mo、Nb、Reのいずれかを含むことについての直接的な記載や、これを示唆するような記載は見当たらず、また、技術常識を参酌しても、白金ルテニウム合金の試料を作製するにあたり、Ta、W、Mo、Nb、Reのいずれかが不可避的不純物として必ず含まれるとは断定できないから、上記相違点2-1-1は実質的な相違点である。

b よって、本件特許発明2は、甲1-1発明であるとはいえない。

c 上記相違点2-1-1の容易想到性についてさらに検討する。甲1-1発明は白金ルテニウム合金の硬度測定用試料として作製されたものであるから、これに敢えてTa、W、Mo、Nb、Reのいずれかを含有させる動機付けを見出すことはできない。

d そうすると、甲1-1発明において、上記相違点2-1-1に係る発明特定事項を備えようとすることは、当業者が容易に想到し得たこととはいえない。

e よって、他の相違点、及び本件特許発明2によって奏される効果について検討するまでもなく、本件特許発明2は、甲1-1発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。

ア 本件特許発明2と甲1-2発明との対比・判断

(ア)対比

a 甲1-2発明におけるRuの含有量90%は、本件特許発明2におけるRuの含有量α(0.7<α<0.95)に包含される。

また、甲1-2発明は、Ruを最大比率で含む合金からなる金属から構成されることも明らかである。

b 本件特許発明2における元素M1は、Rh、Pd、Os、Ir、Ptのいずれかであるため、甲1-2発明に含有される元素Ptと一致する。また、甲1-2発明におけるPtの含有量は、Ruの含有量を除いた残部10%から不可避的不純物の含有量をさらに除いた値となる。

甲1-2発明には不可避的不純物として、Rh、Pd、Os、Irが含まれる可能性があるが、Ptと併せて20%を超えて含まれることはないから、本件発明2と甲1-2発明とは、M1の含有量βが0.05≦β≦0.3を満たしている点で共通している。

c 本件特許発明2における元素M3及びM4の含有量δ及びεは、それぞれ、0≦δ≦0.2及び0≦ε≦0.03であって、その下限値が「0」と規定されたものであり、M3及びM4が「存在しない」ことを包含すると解される。

そうすると、甲1-2発明の成分組成において、Ru及びPt以外の元素含有量が明示されていないことは、甲1-2発明に、これらの元素が含有しないか、含有するとしても不純物量で含有するものと解されるから、これらの元素の含有量は、本件特許発明2で規定されているM3及びM4の各含有量と、下限値が0%である点で共通する。

d 甲1-2発明における金属のビッカース硬度は概ね295Hvであり、本件特許発明2のビッカース硬度(160Hv以上400Hv未満)に包含される。

e 甲1のFigure 2.1.4に各試料のビッカース硬度が測定されていることからすると、甲1-2発明に係る試料は、何らかの測定装置を用いてビッカース硬度が測定できるように、白金ルテニウム合金を成形したものであると解される。してみれば、甲1-2発明に係る白金ルテニウム合金の試料は、所定の形状を有し、測定に用いるための「金属部材」であるといえる。

f そうすると、本件特許発明2と甲1-2発明とは、以下の一致点2-2において一致するとともに、以下の相違点2-2-1、2-2-2において相違する。

<一致点2-2>

「Ruを最大比率で含む合金からなる金属から構成され、
M1は、Rh、Pd、Os、Ir、Ptのいずれかであり、
M3はCr,Mn,Fe,Co,Ni,Vのいずれかであり、
M4はTi,Zr,Hf,Al,Scのいずれかであり、
0.7<α<0.95、0.05≦β≦0.3、0≦δ、0≦εとされ、
前記金属は、ビッカース硬度が160Hv以上400Hv未満とされている、金属部材。」

<相違点2-2-1>

本件特許発明2は、「組成は化学式RuαM1βM2γM3δM4εで表され」、「M2は、Ta、W、Mo、Nb、Reのいずれかであり」、「0<γ≦0.2」「かつ0.05≦β+γ+δ+ε≦0.3、α+β+γ+δ+ε=1」とされているところ、甲1-2発明は、Ta、W、Mo、Nb、Reのいずれかを含むか不明である点。

<相違点2-2-2>

本件特許発明2では、M3及びM4の各含有量δ及びεの上限が、それぞれδ≦0.2、ε≦0.03と規定されているのに対し、甲1-2発明は、これらの元素の含有量の上限が不明である点。

(イ)判断

上記ア(イ)において検討したのと同様、上記相違点2-2-1は実質的な相違点であり、また、甲1-2発明において、上記相違点2-2-1に係る発明特定事項を備えようすることは、当業者が容易に想到し得たこととはいえない。

よって、本件特許発明2は、甲1-2発明であるとはいえないし、甲1-2発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。

ウ 小括

以上のとおり、本件特許発明2は、甲1に記載された発明であるとはいえず、甲1に記載された発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえないから、特許法第29条第1項第3号又は第2項の規定により特許を受けることができないものとはいえない。

(7)本件特許発明3について

ア 本件特許発明3と甲1-1発明との対比・判断

(ア)対比

a 甲1-1発明におけるRuの含有量80%は、本件特許発明3におけるRuの含有量α(0.7<α<0.95)に包含される。

また、甲1-1発明は、Ruを最大比率で含む合金からなる金属から構成されることも明らかである。

b 本件特許発明3における元素M1は、Rh、Pd、Os、Ir、Ptのいずれかであるため、甲1-1発明に含有される元素Ptと一致する。また、甲1-1発明におけるPtの含有量は、Ruの含有量を除いた残部20%から不可避的不純物の含有量をさらに除いた値となる。

甲1-1発明には不可避的不純物として、Rh、Pd、Os、Irが含まれる可能性があるが、Ptと併せて20%を超えて含まれることはないから、本件特許発明3と甲1-1発明とは、M1の含有量βが0.05≦β≦0.3を満たしている点で共通している。

c 本件特許発明3における元素M2、M3及びM4の含有量γ、δ及びεは、それぞれ、0≦γ≦0.2、0≦δ≦0.2及び0≦ε≦0.03であって、その下限値が「0」と規定されたものであり、M2、M3及びM4が「存在しない」ことを包含すると解される。

そうすると、甲1-1発明の成分組成において、Ru及びPt以外の元素含有量が明示されていないことは、甲1-1発明に、これらの元素が含有しないか、含有するとしても不純物量で含有するものと解されるから、これらの元素の含有量は、本件特許発明3で規定されているM2、M3及びM4の各含有量と、下限値が0%である点で共通する。

d 上記b及びcの検討結果から、甲1-1発明において、0.05≦β+γ+δ+ε≦0.3、α+β+γ+δ+ε=1となることも明らかである。

e 甲1-1発明における金属のビッカース硬度は概ね360Hvであり、本件特許発明3のビッカース硬度(160Hv以上400Hv未満)に包含される。

f 甲1のFigure 2.1.4に各試料のビッカース硬度が測定されていることからすると、甲1-1発明に係る試料は、何らかの測定装置を用いてビッカース硬度が測定できるように、白金ルテニウム合金を成形したものであると解される。してみれば、甲1-1発明に係る白金ルテニウム合金の試料は、所定の形状を有し、測定に用いるための「金属部材」であるといえる。

g そうすると、本件特許発明3と甲1-1発明とは、以下の一致点3-1において一致するとともに、以下の相違点3-1-1~3-1-3において相違する。

<一致点3-1>

「Ruを最大比率で含む合金からなる金属から構成され、
組成は化学式RuαM1βM2γM3δM4εで表され、
M1は、Rh、Pd、Os、Ir、Ptのいずれかであり、
M2は、Ta、W、Mo、Nb、Reのいずれかであり、
M3はCr,Mn,Fe,Co,Ni,Vのいずれかであり、
M4はTi,Zr,Hf,Al,Scのいずれかであり、
0.7<α<0.95、0.05≦β≦0.3、0≦γ、0≦δ、0≦εかつ0.05≦β+γ+δ+ε≦0.3、α+β+γ+δ+ε=1とされ、
前記金属は、ビッカース硬度が160Hv以上400Hv未満とされている、金属部材。」

<相違点3-1-1>

本件特許発明3では、M2、M3及びM4の各含有量γ、δ及びεの上限が、それぞれγ≦0.2、δ≦0.2、ε≦0.03と規定されているのに対し、甲1-1発明は、これらの元素の含有量が不明である点。

<相違点3-1-2>

本件特許発明3においては、「前記金属」は「多結晶とされ」ているのに対して、甲1-1発明は、金属の多結晶から構成されるのか明らかでない点。

<相違点3-1-3>

本件特許発明3は、「結晶粒は、アスペクト比が1.2以上とされ、複数の前記結晶粒は、長軸の方向を同一の方向に向けて配列され」、「前記結晶粒の長軸の方向の断面における前記結晶粒の数が0.1mm2あたりに246個以下とされている」のに対し、甲1-1発明は、結晶粒のアスペクト比、配列、数が明らかでない点。

(イ)判断

事案に鑑みて、上記相違点3-1-3について検討する。

a 甲1には、結晶粒について直接的な記載や、これを示唆するような記載は見当たらないから、相違点3-1-3は実質的な相違点である。

b つぎに相違点3-1-3の容易相当性について検討すると、甲1に結晶粒を制御することについての直接的な記載や、これを示唆するような記載は見当たらないから、甲1発明において、結晶粒のアスペクト比や配列する方向、結晶粒の単位面積当たりの個数を所定の範囲に制御する動機付けがあるとはいえない。

c そうすると、甲1-1発明において、上記相違点3-1-3に係る発明特定事項を備えようとすることは、当業者が容易に想到し得たこととはいえない。

d よって、他の相違点、及び本件特許発明3によって奏される効果について検討するまでもなく、本件特許発明3は、甲1-1発明及び甲5に記載された発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。

イ 本件特許発明3と甲1-2発明との対比・判断

(ア)対比

a 甲1-2発明におけるRuの含有量90%は、本件特許発明3におけるRuの含有量α(0.7<α<0.95)に包含される。

また、甲1-2発明は、Ruを最大比率で含む合金からなる金属から構成されることも明らかである。

b 本件特許発明3における元素M1は、Rh、Pd、Os、Ir、Ptのいずれかであるため、甲1-2発明に含有される元素Ptと一致する。また、甲1-2発明におけるPtの含有量は、Ruの含有量を除いた残部10%から不可避的不純物の含有量をさらに除いた値となる。

甲1-2発明には不可避的不純物として、Rh、Pd、Os、Irが含まれる可能性があるが、Ptと併せて10%を超えて含まれることはないから、本件特許発明3と甲1-2発明とは、M1の含有量βが0.05≦β≦0.3を満たしている点で共通している。

c 本件特許発明3における元素M2、M3及びM4の含有量γ、δ及びεは、それぞれ、0≦γ≦0.2、0≦δ≦0.2及び0≦ε≦0.03であって、その下限値が「0」と規定されたものであり、M2、M3及びM4が「存在しない」ことを包含すると解される。

そうすると、甲1-2発明の成分組成において、Ru及びPt以外の元素含有量が明示されていないことは、甲1-2発明に、これらの元素が含有しないか、含有するとしても不純物量で含有するものと解されるから、これらの元素の含有量は、本件特許発明3で規定されているM2、M3及びM4の各含有量と、下限値が0%である点で共通する。

d 上記b及びcの検討結果から、甲1-2発明において、0.05≦β+γ+δ+ε≦0.3、α+β+γ+δ+ε=1となることも明らかである。

e 甲1-2発明における金属のビッカース硬度は概ね295Hvであり、本件特許発明3のビッカース硬度(160Hv以上400Hv未満)に包含される。

f 甲1のFigure 2.1.4に各試料のビッカース硬度が測定されていることからすると、甲1-2発明に係る試料は、何らかの測定装置を用いてビッカース硬度が測定できるように、白金ルテニウム合金を成形したものであると解される。してみれば、甲1-2発明に係る白金ルテニウム合金の試料は、所定の形状を有し、測定に用いるための「金属部材」であるといえる。

g そうすると、本件特許発明3と甲1-2発明とは、以下の一致点3-2において一致するとともに、以下の相違点3-2-1~3-2-3において相違する。

<一致点3-2>

「Ruを最大比率で含む合金からなる金属から構成され、
組成は化学式RuαM1βM2γM3δM4εで表され、
M1は、Rh、Pd、Os、Ir、Ptのいずれかであり、
M2は、Ta、W、Mo、Nb、Reのいずれかであり、
M3はCr,Mn,Fe,Co,Ni,Vのいずれかであり、
M4はTi,Zr,Hf,Al,Scのいずれかであり、
0.7<α<0.95、0.05≦β≦0.3、0≦γ、0≦δ、0≦εかつ0.05≦β+γ+δ+ε≦0.3、α+β+γ+δ+ε=1とされ、
前記金属は、ビッカース硬度が160Hv以上400Hv未満とされている、金属部材。」

<相違点3-2-1>

本件特許発明3では、M2、M3及びM4の各含有量γ、δ及びεの上限が、それぞれγ≦0.2、δ≦0.2、ε≦0.03と規定されているのに対し、甲1-2発明は、これらの元素の含有量の上限が不明である点。

<相違点3-2-2>

本件特許発明3においては、「前記金属」は「多結晶とされ」ているのに対して、甲1-2発明は、金属の多結晶から構成されるのか明らかでない点。

<相違点3-2-3>

本件特許発明3は、「結晶粒は、アスペクト比が1.2以上とされ、複数の前記結晶粒は、長軸の方向を同一の方向に向けて配列され」、「前記結晶粒の長軸の方向の断面における前記結晶粒の数が0.1mm2あたりに246個以下とされている」のに対し、甲1-2発明は、結晶粒のアスペクト比、配列、数が明らかでない点。

(イ)判断

上記ア(イ)において検討したのと同様、上記相違点3-2-3は実質的な相違点であり、また、甲1-2発明において、上記相違点3-2-3に係る発明特定事項を備えようすることは、当業者が容易に想到し得たこととはいえない。

よって、本件特許発明3は、甲1-2発明及び甲5に記載された発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。

ウ 小括

以上のとおり、本件特許発明3は、甲1に記載された発明及び甲5に記載された発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえず、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものとはいえない。

(8)取消理由1、申立理由1、2のまとめ

以上のとおり、取消理由1、申立理由1、2によっては、本件訂正後の請求項1~3に係る特許を取り消すことはできない。

2 令和 5年12月 1日に申立人により提出された意見書について

(1)特許法第126条5項違背(新規事項)について

a 申立人は、上記意見書の2ページにおいて、以下のとおり主張している。

「0≦γ≦0.2という数値範囲からγ=0だけを除いた「0<γ≦0.2」という数値範囲は明細書または図面(以下「明細書等」と称す)に記載されていない。さらに、M2が合金の必須元素であることも明細書等に記載されていない。
従って「0≦γ≦0.2」を「0<γ≦0.2」とする請求項2の訂正は、任意の添加元素であったM2を合金の必須元素にするという新たな技術的事項を導入するものであり、明細書等に記載した事項の範囲内においてされたものではない。訂正は120条の5第9項で準用する126条5項の要件に適合しない。」

b そこで、上記aの主張について検討するに、上記第2 2(1)ア(イ)で示したとおり、訂正事項1に係る訂正は、訂正前の請求項2において、元素M2を含まないか、又は0.2以下の含有量でM2を含むものと択一的に記載されていた態様の一方に限定するものであると認められるから、本件訂正により新規事項が追加されたとはいえない。

c 以上のとおりであるから、特許法126条5項違背(新規事項)に係る申立人の主張は、採用することができない。

(2)その他の主張について

a 申立人は、上記意見書の2~4ページにおいて、訂正後の請求項2の記載は、特許法第36条6項1号(サポート要件)に規定する要件を満たしていない旨を主張している。

b 上記(1)のとおり0.2以下の含有量でM2を含む態様は、本件訂正前の請求項2に含まれる内容であるから、サポート要件違背に係る申立人の主張は、訂正により追加された事項についての見解など訂正の請求の内容に付随して生じる理由に該当するものとはいえない。また、適切な取消理由を構成することが一見して明らかな場合に該当するものでもないから、実質的に新たな理由を主張するものといえるため、採用しない。

c また、申立人は、上記意見書の4~5ページにおいて、訂正後の請求項2に係る発明について特許法第29条2項(進歩性)違背である旨を主張しているが、進歩性については上記1(6)で判断したとおりであるから採用しない。

第7 まとめ

以上のとおりであるから、特許異議申立書の申立理由及び当審から通知した取消理由によっては、本件訂正後の請求項1~3に係る特許を取り消すことはできない。

また、他に本件訂正後の請求項1~3に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。

よって、結論のとおり決定する。

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2023-700481

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