2023-700309
建物の被災度判定方法及び建物の被災度判定システム
- 審判番号
- 2023-700309
- 法域
- 特許
- 審判種別
- 異議申立(異議の決定)
- 出願番号
- 特願2018-097162外部サイト(J-PlatPat)へ移動します
- 登録番号
- 7145646
- 請求日
- 2023年03月24日
- 審決日
- 2023年11月15日
- 公報発行日
- 2023年12月28日
- 結論
- 維持
- 当事者
- 【権利者】清水建設株式会社
- 【権利者代理人】弁理士法人酒井国際特許事務所
- 【異議申立人】冨田 圭太郎
- 分類
- P1651.121-Y (G01M) / P1651.113-Y (G01M)
- 条文(本文から自動抽出・参考)
- 特許法第29条第2項
- データ出所
- 審決公報(XML)
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結論
理由
目次 ▾ 12項目
第1 手続の経緯
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特許第7145646号の請求項1~4に係る特許についての出願は、平成30年5月21日に出願され、令和4年9月22日にその特許権の設定登録がされ、令和4年10月3日に特許掲載公報が発行された。その後、その特許について、令和5年3月24日に特許異議申立人冨田圭太郎により特許異議の申立てがされ、当審は、令和5年7月31日付けで取消理由を通知した。それに対し、特許権者は、令和5年9月29日に意見書を提出した。
なお、特許権者から訂正の請求はなされていない。
第2 本件発明
本件の請求項1~4に係る発明(以下、それぞれ請求項の番号を用いて「本件発明1」等という。)は、特許請求の範囲の請求項1~4に記載された次の事項により特定されるとおりのものである。
【請求項 1】
建物の各階の柱脚に加速度センサーを配置し、水平方向の加速度の大きさを鉛直下向きの3軸の合成加速度の大きさで除算した値に対する逆正弦関数の角度を、地震発生前後に対する鉛直方向の傾斜角変化である層間変形角 として直接モニタリングして前記建物の被災度を判定することを特徴とする建物の被災度判定方法。
【請求項 2】
前記加速度センサーは、MEMSデバイスであることを特徴とする請求項1に記載の建物の被災度判定方法。
【請求項 3】
建物の各階の柱脚に加速度センサーを配置し、水平方向の加速度の大きさを鉛直下向きの3軸の合成加速度の大きさで除算した値に対する逆正弦関数の角度を、地震発生前後に対する鉛直方向の傾斜角変化である層間変形角として直接モニタリングして前記建物の被災度を判定することを特徴とする建物の被災度判定システム。
【請求項 4】
前記加速度センサーは、MEMSデバイスであることを特徴とする請求項3に記載の建物の被災度判定システム。
第3 取消理由の概要
当審において、令和5年7月31日付けで本件発明1~4に対して通知した取消理由の要旨は、次のとおりである。
本件発明1~4は、下記の甲第1号証及び甲第2号証に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、本件発明1~4に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものである。
引用文献等一覧
甲第1号証(甲1):杉崎光一他、「構造ヘルスモニタリングのための慣性センシングによる傾斜・振動計測法」、土木学会論文集A1(構造・地震工学)、2012年、Vol.68、No.1、p216-225
甲第2号証(甲2):杉本浩一他、「鉄骨造高層建物の大型振動台実験へのシステム適用:実験概要 -建物の健全度モニタリング(上部構造)に関する研究開発(その4)-」、日本建築学会大会学術講演梗概集(近畿)、2014年、p63―64
第4 当審の判断
1 甲2
(1)甲2の記載
甲2には以下の記載がある。なお、下線は合議体が付与した。
「2.実験概要2.1 試験体へのシステム設置図1にシステムの全体構成を示し、図2の(a)に試験体写真を(b)~(d)にL1センサとL2センサの設置位置と設置状況の写真を示す。試験体は1980~90年頃の設計・施工を想定した鉄骨造18層建物の1/3スケールであり、振動台実験の試験体としては世界最大規模(1×3スパン、平面5m×6m、高さ25.3m、重量約420トン)のものである。L1センサは試験体の全19フロア(1FL~RFL)のX1Y2通りに1台ずつ配置するのを基本に、5フロア(1FL、5FL、10FL、15FL、RFL)についてはX4Y1通りにも1台ずつ、さらに振動台テーブル上のX1通りY1-Y2間にも1台配置し、計25台を設置した。試験体上に設置するセンサは、スラブ上に接着剤で固定した(図2(c))。L2センサは試験体の全柱梁接合部に各1台ずつの計152台を設置した。設置方法は、裏面にマグネットが付いた専用の設置治具にビスでセンサを固定し、マグネットの磁力により試験体の鉄骨柱に貼りつけた(図2(d))。設置位置は各梁柱接合部の柱脚部(最上階のみ柱頭部)とした。L1、L2システムともに計測装置は専用のものを利用し、E-ディフェンス装備のものは利用していない。またL2システムは分散型の計測装置(サブコントローラ)を試験体に設置する必要があり、概ね等間隔の5フロア(2FL、7FL、10FL,14FL、18FL)に各1台を配置した。」(p63右欄第1行~p64左欄第10行)
「2.2 実験結果とデータ収録状況実験経過と主な損傷状況を表2に示す。実験では、まずランダム波入力による特性把握加振(ケースp01-r、p02-r)と建築基準法で要求される告示稀、極稀地震動レベル相当の波(ケース20~81)による加振が行われ、試験体の振動特性と設計入力レベルにおける応答確認を行った。その後、三連動平均レベルの地震動(ケース110)を基準として、入力を徐々に増大させた加振が行われた。最終的に、ケース110を3.8倍に増大させ、継続時間を半分に短縮した地震動(ケース420)を3回入力した時点で、試験体が防護フレームに接触し実験を終了した。ケース420-1、2、3を除くすべての地震波加振後に、特性把握加振(ケースp02-rと同じ加振)がおこなわれた。実験時、ケース340-2まではL1、L2両システムにおける全センサのデータが正常に収録されたことを確認している。図3(a)、(b)にケース110-1-rと110-1のデータにおける全層のX1Y2通りのL1、L2センサの最大加速度分布を重ね描いたものを示す。別系統のL1、L2システムが概ね同じ最大値分布を示し、正常にデータが収録されたことが確認できる。」(p64左欄第11行~右欄第12行)
また、表1、表2、図1、図2、図3は以下のとおりである。
表1
[図:0001404809000001.jpg]
表2
[図:0001404809000002.jpg]
図1
[図:0001404809000003.jpg]
図2
[図:0001404809000004.jpg]
図3
[図:0001404809000005.jpg]
(2)甲2発明
上記(1)より、甲2には以下の発明(以下、「甲2発明」という。)が記載されていると認められる。なお、参考のため、認定の根拠となった箇所を括弧内に示す。
(甲2発明)
1980~90年頃の設計・施工を想定した鉄骨造18層建物の1/3スケールである試験体の全フロアに1台ずつL1センサを配置し、(2.1)
L1センサはサーボ型加速度計であり、加速度3成分を測定するものであって(表1のレベル1(L1)システムの使用センサ欄)
L1センサは、スラブ上に固定され、(2.1、図2(b)(c))
試験体を振動台に載せた状態で加振し、(2.2、図1)
加振状態ケースごとに最大層間変形角をL1システムによる観測値から算出し、(表2「最大層間変形角」欄 ※4)
加振状態ケースごとに試験体の損傷状況を確認する、(表2「試験体の損傷状況」欄)
方法。
2 甲1
甲1には、以下の記載がある。
「慣性計測用の加速度センサでは、重力以外の外乱による加速度が生じていない場合では、図-1のようにセンサを傾斜させたときに検出する加速度をaとし、重力加速度をgとすれば、θ=arcsin(a/g)(1)により、重力加速度を利用して傾斜を求めることができる。」(第217頁左欄第29行~右欄第3行)
また、甲1には以下の発明が記載されていると認められる。なお、参考のため、認定に使用した箇所を括弧内に示した。
「抗基礎橋脚の天端に加速度センサを配置し、(第220頁右欄下から11行、第221頁左欄第6行~右欄第4行、図-6)橋脚の振動を検知する構造物モニタリング方法。(第216頁左欄第2行~第27行、第221頁右欄第5行~右欄第7行)」
3 本件発明1について
(1)対比
本件発明1と甲2発明とを対比する。
甲2発明の「サーボ型加速度計」である「L1センサ」は、本件発明1の「加速度センサー」に相当する。
甲2発明の試験体の「損傷状況を確認」することは、本件発明1の建物の「被災度を判定」することに相当する。
甲2発明の「1980~90年頃の設計・施工を想定した鉄骨造18層建物の1/3スケールである試験体」は、本件発明1の「建物」と、被災度を判定する対象体である点で共通する。
甲2発明の「1980~90年頃の設計・施工を想定した鉄骨造18層建物の1/3スケールである試験体」の「全フロアに1台ずつL1センサを配置」することは、本件発明1の対象体の「各階」に「加速度センサーを配置」する点で本件発明1と共通する。
甲2発明の「試験体を振動台に載せた状態で加振」することは、本件発明1の「地震発生」と、対象体に振動を与える点で共通する。
甲2発明の「層間変形角」は、本件発明1の「地震発生前後に対する鉛直方向の傾斜角変化である層間変形角」と、振動発生前後に対する鉛直方向の傾斜角変化である層間変形角の点で共通する。
以上より、本件発明1と甲2発明とは、以下の点で一致し、また相違する。
(一致点)
対象体の各階に加速度センサーを配置し、振動発生前後に対する鉛直方向の傾斜角変化である層間変形角をモニタリングする、対象体の被災度判定方法。
(相違点1)
被災度判定の対象体が、本件発明1では「建物」であり、対象体の振動が「地震発生」であるのに対し、甲2発明では「1980~90年頃の設計・施工を想定した鉄骨造18層建物の1/3スケールである試験体」であり、対象体の振動が「試験体を振動台に載せた状態で加振」される点。
(相違点2)
加速度センサーの設置が、本件発明1では建物の各階の「柱脚」であるのに対し、甲2発明では試験体の各階の「スラブ上」である点。
(相違点3)
層間変形角をモニタリングすることついて、本件発明1では「水平方向の加速度の大きさを鉛直下向きの3軸の合成加速度の大きさで除算した値に対する逆正弦関数の角度を、地震発生前後に対する鉛直方向の傾斜角変化である層間変形角として直接モニタリング」するのに対し、甲2発明では「L1システムによる観測値から算出」するものの、「水平方向の加速度の大きさを鉛直下向きの3軸の合成加速度の大きさで除算した値に対する逆正弦関数の角度を、地震発生前後に対する鉛直方向の傾斜角変化である層間変形角として直接モニタリング」しているとの特定はない点。
(相違点4)
対象物の被災度が、本件発明1では「層間変形角として直接モニタリングして前記建物の被災度を判定する」のに対し、甲2発明では「層間変形角」と「試験体の損傷状況」を確認しているものの、層間変形角から「試験体の損傷状況」すなわち「対象体の被災度」を判定はしていない点。
(2)判断
事案に鑑み、相違点3から検討する。甲1には、センサを傾斜させたときに検出する加速度をaとし、重力加速度をgとすれば、θ=arcsin(a/g)により、重力加速度を利用して傾斜を求めることが記載されており、当該θ=arcsin(a/g)は、本件発明1の「水平方向の加速度の大きさを鉛直下向きの3軸の合成加速度の大きさで除算した値に対する逆正弦関数の角度」に相当するといえる。
一方、甲2発明では層間変形角を「L1システムによる観測値から算出」するものの、その算出方法は明らかにされていない。そして、本件特許明細書の【0026】に「ところで、上記の層間変形角θは、定義によっては、地震発生時における建物の水平変位を階高で割った値として定義される。この定義によれば、層間変形角θは、tanθである。したがって、層間変形角θを求めた後、tanθを層間変形角として算出するようにしてもよい。・・・」とあるように、層間変形角とは建造物の水平変位を階高で割った値である、というのが当該技術分野における技術常識である。このため、当該技術常識に鑑みれば、甲2発明に接した当業者であれば、甲2発明の層間変形角の算出方法が明らかにされていない状況においては、甲2発明の層間変形角は技術常識どおりに建物の水平変位を階高で割った値として算出されていると考えるのが自然である。また、地震により柱に変形が生じない場合、甲1のθは技術常識のtanθのθと一致するが、地震の程度によっては柱に変形が生じることが予測され、柱に加速度計を配置する場合、柱に変形が生じた場合には、得られるθの値は、加速度計を配置する位置(高さ)により異なり、技術常識のtanθのθと一致しない可能性が高いことから、地震による変形を調査する甲2発明において、層間変形角として甲1の傾斜θを採用する動機は見あたらない。とすると、たとえ甲1に「水平方向の加速度の大きさを鉛直下向きの3軸の合成加速度の大きさで除算した値に対する逆正弦関数の角度」に相当する「θ=arcsin(a/g)」が記載されていたとしても、甲2発明の層間変形角の算出方法として甲1に記載されたものを当業者が採用する動機は見あたらず、甲2発明に甲1の記載を組み合わせることを当業者が容易に想到し得たということはできない。
したがって、他の相違点について検討するまでもなく、本件発明1は、甲1、甲2に基づき、当業者が容易に発明をすることができたとはいえない。
4 本件発明2~4について
本件発明2は、本件発明1を引用しており本件発明1と同一の構成を有するものであるから、本件発明1に対する上記説示と同様の理由により、甲2、甲1に基づき当業者が容易に発明をすることができたとはいえない。
本件発明3は、本件発明1とカテゴリー違いの発明であって実質的に本件発明1と同様の構成を有するものであるから、本件発明1に対する上記説示と同様の理由により、甲2、甲1に基づき当業者が容易に発明をすることができたとはいえない。
本件発明4は、本件発明3を引用しており本件発明3と同一の構成を有するものであるから、本件発明3に対する上記説示と同様の理由により、甲2、甲1に基づき当業者が容易に発明をすることができたとはいえない。
第5 取消理由通知において採用しなかった特許異議申立理由について
1 取消理由通知において採用しなかった特許異議申立理由
特許異議申立人は特許異議申立書において、以下の旨主張している。
(1)本件発明1~4は、甲第1号証に記載された発明と実質的に同一である。(甲第1号証に基づく新規性違反)
(2)本件発明1~4は、甲第2号証に記載された発明と実質的に同一である。(甲第2号証に基づく新規性違反)
2 判断
(1)甲第1号証に基づく新規性違反
甲第1号証には、甲第1号証に記載された発明に加え、センサを傾斜させたときに検出する加速度をaとし、重力加速度をgとすれば、θ=arcsin(a/g)により、重力加速度を利用して傾斜を求めることが記載されており、当該θ=arcsin(a/g)は、本件発明1の「水平方向の加速度の大きさを鉛直下向きの3軸の合成加速度の大きさで除算した値に対する逆正弦関数の角度」に相当するといえる。
しかしながら、「水平方向の加速度の大きさを鉛直下向きの3軸の合成加速度の大きさで除算した値に対する逆正弦関数の角度を、地震発生前後に対する鉛直方向の傾斜角変化である層間変形角として直接モニタリング」することについての記載が甲第1号証にはなく、本件発明1と甲第1号証に記載された発明とを対比すると、少なくとも上記第4 3(1)で述べた相違点3と同様の相違点が存在する。そして、相違点3に係る構成は、上記4 3(2)で述べたとおり、当業者が容易に想到し得たともいえないものであるから、当然本件発明1と甲第1号証に記載された発明とが実質的に同一ともいえない。本件発明2~4についても同様に甲第1号証に記載された発明と同一でない。
(2)甲第2号証に基づく新規性違反
本件発明1と甲2発明との間には、上記4 3(1)で述べたとおり、相違点が存在し、その内相違点3に係る構成は、上記4 3(2)で述べたとおり、当業者が容易に想到し得たともいえないものであるから、当然本件発明1と甲2発明は実質的に同一ともいえない。本件発明2~4についても同様に甲2発明と実質的に同一でない。
第6 むすび
したがって、請求項1~4に係る特許は、取消理由通知に記載した取消理由及び特許異議申立書に記載された特許異議申立理由によっては、取り消すことができない。
また、他に請求項1~4に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
審決本文(J-PlatPat)
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2023-700309