特許異議申立
2023-700066
制振建物
- 審判番号
- 2023-700066
- 法域
- 特許
- 審判種別
- 異議申立(異議の決定)
- 出願番号
- 特願2021-018880外部サイト(J-PlatPat)へ移動します
- 登録番号
- 7154328
- 請求日
- 2023年01月20日
- 審決日
- 2024年02月27日
- 公報発行日
- 2024年07月26日
- 結論
- 請求成立(取消)
- 分類
- P1651.537-ZAA(E04H) / P1651.55 -ZAA(E04H)
- 条文(本文から自動抽出・参考)
- 特許法第120条の5第2項、特許法第120条の5第9項、特許法第17条の2第3項、特許法第36条、特許法第36条第6項第1号
- データ出所
- 審決公報(XML)
事件の表示
特許第7154328号発明「制振建物」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。
結論
結 論
特許第7154328号の明細書及び特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正明細書及び特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項1、2、3について」)訂正することを認める。
特許第7154328号の請求項1、2、3に係る特許を取り消す。
理由
理 由
第1 手続の経緯
特許第7154328号(以下「本件特許」という。)の請求項1~3に係る特許についての出願は、平成29年2月21日に出願した特願2017-29536の一部を令和3年2月9日に新たな特許出願(特願2021-18880)としたものであって、令和4年10月6日にその特許権の設定登録がされ、同月17日にその特許掲載公報が発行された。
本件特許の特許異議の申立ての経緯は次のとおりである。
令和 5年 1月20日 :特許異議申立人中川賢治による本件特
許に対する特許異議の申立て
6月15日付け:取消理由通知書
7月26日 :特許権者大成建設株式会社(以下「特
許権者」という。)による訂正の請求
(以下「第1訂正請求」という。)と
意見書の提出
9月 7日付け:訂正拒絶理由通知書
10月10日 :特許権者による訂正の請求(以下「第
2訂正請求」という。)と意見書の提
出
同月19日付け:第2訂正請求に係る手続に対する却下
理由通知書
11月30日付け:第2訂正請求に係る手続の却下の決定
令和 6年 1月 4日付け 取消理由通知(決定の予告)
同月30日 特許権者による訂正の請求(以下「本
件訂正請求」という。)と意見書の提
出
第2 訂正の適否
本件訂正請求に係る訂正(以下「本件訂正」という。)の適否について検討する。
1 訂正の内容
本件訂正請求の趣旨は、本件特許の明細書、特許請求の範囲を本訂正請求書に添付した訂正明細書、訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項1、2、3に訂正することを求める、というものである。
本件訂正の内容は、以下のとおりである。なお、下線は訂正箇所を示す。
(1) 訂正事項1
特許請求の範囲の請求項1に、
「 前記連結部材は、前記柱梁架構の梁の下面、または上面に、梁の材軸方向に沿って突出させた一対をなす鋼板状のスライドガイド同士の間に設けられ、当該連結部材が前記スライドガイドによって当該柱梁架構の面外方向への移動が拘束されていることを特徴とする制振建物。」
と記載されているのを、
「 前記連結部材は、前記柱梁架構の梁の下面、または上面に、梁の材軸方向に沿って突出させた一対をなす鋼板状のスライドガイド同士の間に設けられ、当該連結部材が前記スライドガイドによって当該柱梁架構の面外方向への移動が拘束されているものであって、
前記連結部材が前記スライドガイドによって当該柱梁架構の面外方向への移動が拘束される構成は、当該連結部材の上面又は下面に前記スライドガイドを挟むように設けられたブラケットによって、連結部材が面外方向への移動が拘束される構成であることを特徴とする制振建物。」
に訂正する。
(2) 訂正事項2
特許請求の範囲の請求項2に
「 前記連結部材は、前記柱梁架構の梁の下面、または上面に、梁の材軸方向に沿って突出させた一対をなす鋼板状のスライドガイド同士の間に設けられ、当該連結部材が前記スライドガイドによって当該柱梁架構の面外方向への移動が拘束されていることを特徴とする制振建物。」
と記載されているのを、
「 前記連結部材は、前記柱梁架構の梁の下面、または上面に、梁の材軸方向に沿って突出させた一対をなす鋼板状のスライドガイド同士の間に設けられ、当該連結部材が前記スライドガイドによって当該柱梁架構の面外方向への移動が拘束されているものであって、
前記連結部材が前記スライドガイドによって当該柱梁架構の面外方向への移動が拘束される構成は、当該連結部材の上面又は下面に前記スライドガイドを挟むように設けられたブラケットによって、連結部材が面外方向への移動が拘束される構成であることを特徴とする制振建物。」
に訂正する。
(3) 訂正事項3
特許請求の範囲の請求項3に
「 前記連結部材は、前記柱梁架構の梁の下面、または上面に、梁の材軸方向に沿って突出させた一対をなす鋼板状のスライドガイド同士の間に設けられ、当該連結部材が前記スライドガイドによって当該柱梁架構の面外方向への移動が拘束されていることを特徴とする制振建物。」
と記載されているのを、
「 前記連結部材は、前記柱梁架構の梁の下面、または上面に、梁の材軸方向に沿って突出させた一対をなす鋼板状のスライドガイド同士の間に設けられ、当該連結部材が前記スライドガイドによって当該柱梁架構の面外方向への移動が拘束されているものであって、
前記連結部材が前記スライドガイドによって当該柱梁架構の面外方向への移動が拘束される構成は、当該連結部材の上面又は下面に前記スライドガイドを挟むように設けられたブラケットによって、連結部材が面外方向への移動が拘束される構成であることを特徴とする制振建物。」
に訂正する。
(4) 訂正事項4
願書に添付した明細書の段落【0008】に
「 本発明の一態様においては、本発明の制振建物では、前記制振装置は、前記ブレース上部または下部の両側に鉛直方向に複数列配設され、当該制振装置は、2本のブレースが交差する上端部、または下端部に設けられるブロック状の連結部材と、前記柱梁架構の柱から離れ、かつ梁端から下方、または上方に延びる支持ブロックとに連結されており、前記連結部材は、前記柱梁架構の梁の下面、または上面、梁の材軸方向に沿って突出させた一対をなす鋼板状のスライドガイド同士の間に設けられ、当該連結部材が前記スライドガイドによって当該柱梁架構の面外方向への移動が拘束されていることを特徴とする。」
と記載されているのを、
「 本発明の一態様においては、本発明の制振建物では、前記制振装置は、前記ブレース上部または下部の両側に鉛直方向に複数列配設され、当該制振装置は、2本のブレースが交差する上端部、または下端部に設けられるブロック状の連結部材と、前記柱梁架構の柱から離れ、かつ梁端から下方、または上方に延びる支持ブロックとに連結されており、前記連結部材は、前記柱梁架構の梁の下面、または上面、梁の材軸方向に沿って突出させた一対をなす鋼板状のスライドガイド同士の間に設けられ、当該連結部材が前記スライドガイドによって当該柱梁架構の面外方向への移動が拘束されているものであって、
前記連結部材が前記スライドガイドによって当該柱梁架構の面外方向への移動が拘束される構成は、当該連結部材の上面又は下面に前記スライドガイドを挟むように設けられたブラケットによって、連結部材が面外方向への移動が拘束される構成であることを特徴とする。」
に訂正する。
2 訂正の目的の適否、新規事項の追加の有無、特許請求の範囲の拡張・変更の存否
(1) 訂正事項1
ア 訂正の目的について
訂正事項1に係る訂正は、訂正前の請求項1における「連結部材」と「スライドガイド」の構造的関係について、「前記連結部材が前記スライドガイドによって当該柱梁架構の面外方向への移動が拘束される構成は、当該連結部材の上面又は下面に前記スライドガイドを挟むように設けられたブラケットによって、連結部材が面外方向への移動が拘束される構成である」ことを限定するものであるから、特許法120条の5第2項ただし書1号に規定する特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。
イ 新規事項の追加について
(ア) 訂正事項1に係る訂正について、本件特許の明細書の【0015】には、「図3には、柱梁架構25内に設ける制振機構30Aを示す。制振機構30Aは、複数階に跨るブレース31と、そのブレース31上部の両側に設けるダンパー(制振装置)32とを備える。ブレース31,31は、例えば逆V字状に設けられ、図1に示されるように、下層階部20Lの複数階にわたって上下方向に連続して延びている。また、各ブレース31は、鉄骨製で、その下端部31aが、柱梁架構25の下方に位置する柱21及び梁22に結合されている。これら2本のブレース31,31の上端部31b,31bは、ブロック状の連結部材33に連結されている。この連結部材33は、柱梁架構25の上側に位置する梁22の直下に設置され、梁22の下面に突設された鋼板状のスライドガイド34を挟むように当該連結部材33の上面には対向する位置にブラケットが設けられている。よって、連結部材33は、スライドガイド34によって面外方向への移動が拘束されている。ダンパー32は、ブレース31,31の上部の連結部材33の両側に、鉛直方向に複数列、例えば2本ずつに配設されている。柱梁架構25において、上方に位置する梁22には、下方に向かって延びる支持ブロック35が設けられている。」と記載されており、同じく【0030】には、「また、上記実施形態において、制振機構30A、外周制振機構30B、制振機構30Cとして、ブレース31,31とダンパー32とを備える構成を例に挙げたが、上記した以外の構成を備えてもよい。例えば、ブレース31,31を逆V字状に設けたが、これを、図7に示されるように、V字状とし、ダンパー32を柱梁架構25Cの下部に設けてもよい。」と記載されている(下線は当審合議体が付した。)。
(イ) 上記(ア)に摘記した【0015】の記載から、訂正事項1に係る訂正のうち、「前記連結部材が前記スライドガイドによって当該柱梁架構の面外方向への移動が拘束される構成は、当該連結部材の上面に前記スライドガイドを挟むように設けられたブラケットによって、連結部材が面外方向への移動が拘束される構成である」ことは、本件特許の願書に添付した明細書、特許請求の範囲または図面(以下「本件明細書等」という。)に記載されていたということができる。
また、同じく【0030】に記載されるように、「ブレース31,31」を「V字状とし」、「ダンパー32を柱梁架構25Cの下部に設け」た場合には、「連結部材33」及び「ブラケット」並びに「梁」及び「スライドガイド34」の上下の位置関係を、上記【0015】に記載されたものと逆にして、「連結部材33」の「面外方向への移動が拘束され」るようにしていることが明らかであるから、訂正事項1に係る訂正のうち、「前記連結部材が前記スライドガイドによって当該柱梁架構の面外方向への移動が拘束される構成」を、「当該連結部材の上面に前記スライドガイドを挟むように設けられたブラケット」と同様に、「当該連結部材の下面に前記スライドガイドを挟むように設けられたブラケット」による構成とすることは、本件明細書等に記載されていたということができる。
(ウ) さらに、訂正事項1に係る訂正のうち、「ものであって、」を追加する訂正は、文章を接続する必要から語句を追加するものであって、新たな技術的事項を導入しないことが明らかである。
(エ) そうすると、訂正事項1に係る訂正は、本件明細書等のすべての記載を総合することにより導かれる技術的事項との関係において、新たな技術的事項を導入するものではないから、本件明細書等に記載した事項の範囲内の訂正である。
したがって、訂正事項1に係る訂正は、特許法120条の5第9項で準用する同法126条5項の規定に適合する。
ウ 特許請求の範囲の拡張・変更について
前記アのとおり、訂正事項1に係る訂正は、訂正前の請求項1に記載されていた事項を限定することによる特許請求の範囲の減縮を目的とするものであるから、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。
したがって、訂正事項1に係る訂正は、特許法120条の5第9項で準用する同法126条6項の規定に適合する。
(2) 訂正事項2及び3
ア 訂正の目的について
訂正事項2及び3に係る訂正は、いずれも、訂正前の請求項2及び3における「連結部材」と「スライドガイド」の構造的関係について、訂正事項1における「連結部材」と「スライドガイド」の構造的関係と同様に、「前記連結部材が前記スライドガイドによって当該柱梁架構の面外方向への移動が拘束される構成は、当該連結部材の上面又は下面に前記スライドガイドを挟むように設けられたブラケットによって、連結部材が面外方向への移動が拘束される構成である」ことを限定するものであるから、特許法120条の5第2項ただし書1号に規定する特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。
イ 新規事項の追加及び特許請求の範囲の拡張・変更について
訂正事項2及び3に係る訂正は、訂正事項1に係る訂正と同様に、本件明細書等に記載した事項の範囲内においてするものであり、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもない。
したがって、訂正事項2及び3に係る訂正は、特許法120条の5第9項で準用する同法126条5項及び6項の規定に適合する。
(3) 訂正事項4
ア 訂正の目的について
訂正事項4に係る訂正は、訂正事項1~3によって特許請求の範囲が訂正されたことに伴い、特許請求の範囲と明細書の記載とを整合させるための訂正であるから、特許法120条の5第2項ただし書3号に掲げる明瞭でない記載の釈明を目的とするものである。
イ 新規事項の追加及び特許請求の範囲の拡張・変更について
訂正事項4に係る訂正は、訂正事項1~3に係る訂正について前記(1)~(2)で検討したのと同様の理由により、本件明細書等に記載した事項の範囲内においてするものであり、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもない。
したがって、訂正事項4に係る訂正は、特許法120条の5第9項で準用する同法126条5項及び6項の規定に適合する。
(4) 小括
以上のとおりであるから、本件訂正請求による訂正は、特許法120条の5第2項ただし書1号及び3号に掲げる事項を目的とするものであり、かつ、同条9項において準用する同法126条5項及び6項の規定に適合する。
3 まとめ
したがって、本件特許の明細書、特許請求の範囲を、本訂正請求書に添付された訂正明細書及び訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項1、2、3について訂正することを認める。
第3 訂正後の本件発明
本件訂正請求により訂正された本件特許の請求項1~3に係る発明(以下「本件訂正発明1」等という。)は、訂正特許請求の範囲の請求項1~3に記載された事項により特定される次のとおりのものである。
「【請求項1】
梁架構内に制振装置が設けられた制振建物であって、
前記制振装置は、ブレースの上部または下部の両側に鉛直方向に複数列配設され、
当該制振装置は、2本のブレースが交差する上端部、または下端部に設けられるブロック状の連結部材と、前記柱梁架構の柱から離れ、かつ梁端から下方、または上方に延びる支持ブロックとに連結されており、
前記連結部材は、前記柱梁架構の梁の下面、または上面に、梁の材軸方向に沿って突出させた一対をなす鋼板状のスライドガイド同士の間に設けられ、当該連結部材が前記スライドガイドによって当該柱梁架構の面外方向への移動が拘束されているものであって、
前記連結部材が前記スライドガイドによって当該柱梁架構の面外方向への移動が拘束される構成は、当該連結部材の上面又は下面に前記スライドガイドを挟むように設けられたブラケットによって、連結部材が面外方向への移動が拘束される構成であることを特徴とする制振建物。
【請求項2】
吹き抜け部に接する一部の柱梁架構内に制振装置が設けられた制振建物であって、
前記吹き抜け部は、複数階にわたって形成され、
前記制振装置は、前記複数階まで延びるブレースの上部または下部の両側に鉛直方向に複数列配設され、
当該制振装置は、2本のブレースが交差する上端部、または下端部に設けられるブロック状の連結部材と、前記柱梁架構の柱から離れ、かつ梁端から下方、または上方に延びる支持ブロックとに連結されており、
前記連結部材は、前記柱梁架構の梁の下面、または上面に、梁の材軸方向に沿って突出させた一対をなす鋼板状のスライドガイド同士の間に設けられ、当該連結部材が前記スライドガイドによって当該柱梁架構の面外方向への移動が拘束されているものであって、
前記連結部材が前記スライドガイドによって当該柱梁架構の面外方向への移動が拘束される構成は、当該連結部材の上面又は下面に前記スライドガイドを挟むように設けられたブラケットによって、連結部材が面外方向への移動が拘束される構成であることを特徴とする制振建物。
【請求項3】
吹き抜け部が設けられた建物当該階の外周柱梁架構内に制振装置が設けられた制振建物であって、
前記吹き抜け部は、複数階にわたって形成され、
前記制振装置は、前記複数階まで延びるブレースの上部または下部の両側に鉛直方向に複数列配設され、
当該制振装置は、2本のブレースが交差する上端部、または下端部に設けられるブロック状の連結部材と、前記柱梁架構の柱から離れ、かつ梁端から下方、または上方に延びる支持ブロックとに連結されており、
前記連結部材は、前記柱梁架構の梁の下面、または上面に、梁の材軸方向に沿って突出させた一対をなす鋼板状のスライドガイド同士の間に設けられ、当該連結部材が前記スライドガイドによって当該柱梁架構の面外方向への移動が拘束されているものであって、
前記連結部材が前記スライドガイドによって当該柱梁架構の面外方向への移動が拘束される構成は、当該連結部材の上面又は下面に前記スライドガイドを挟むように設けられたブラケットによって、連結部材が面外方向への移動が拘束される構成であることを特徴とする制振建物。」
第4 取消理由(決定の予告)の概要
令和6年1月4日付け取消理由(決定の予告)において、令和5年7月26日提出の訂正請求書(第1訂正請求)により訂正された本件特許の請求項1~3に係る発明に対して通知した取消理由の概要は、次のとおりである。
本件特許の明細書、特許請求の範囲を、令和5年7月26日提出の訂正請求書(第1訂正請求)に添付した訂正明細書、訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項1~3について訂正することを認めない。
本件特許は、特許請求の範囲の請求項1~3の記載が、特許法36条6項1号に規定する要件を満たしていないから、本件特許の請求項1~3に係る発明は、同法113条4号に該当し、取り消されるべきものである。
また、本件特許は、令和4年6月7日に提出した手続補正書及び同年9月6日に提出した手続補正書でした補正が、願書に最初に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内においてしたものでなく、特許法17条の2第3項に規定する要件を満たしていないから、本件特許の請求項1~3に係る発明は、同法113条1号に該当し、取り消されるべきものである。
第5 当審の判断
1 取消理由1(サポート要件)について
(1) 本件訂正発明1~3は、いずれも、「前記連結部材は、前記柱梁架構の梁の下面、または上面に、梁の材軸方向に沿って突出させた一対をなす鋼板状のスライドガイド同士の間に設けられ、当該連結部材が前記スライドガイドによって当該柱梁架構の面外方向への移動が拘束されている」事項(以下「特定事項1」という。)を特定したものである。
(2) 本件明細書等には以下の記載がある(下線は当審合議体が付した。)。
ア 明細書
「【0015】
図3には、柱梁架構25内に設ける制振機構30Aを示す。制振機構30Aは、複数階に跨るブレース31と、そのブレース31上部の両側に設けるダンパー(制振装置)32とを備える。
ブレース31,31は、例えば逆V字状に設けられ、図1に示されるように、下層階部20Lの複数階にわたって上下方向に連続して延びている。また、各ブレース31は、鉄骨製で、その下端部31aが、柱梁架構25の下方に位置する柱21及び梁22に結合されている。これら2本のブレース31,31の上端部31b,31bは、ブロック状の連結部材33に連結されている。この連結部材33は、柱梁架構25の上側に位置する梁22の直下に設置され、梁22の下面に突設された鋼板状のスライドガイド34を挟むように当該連結部材33の上面には対向する位置にブラケットが設けられている。よって、連結部材33は、スライドガイド34によって面外方向への移動が拘束されている。
ダンパー32は、ブレース31,31の上部の連結部材33の両側に、鉛直方向に複数列、例えば2本ずつに配設されている。柱梁架構25において、上方に位置する梁22には、下方に向かって延びる支持ブロック35が設けられている。ダンパー32は、例えば油圧シリンダー等からなり、その両端部が、ブレース31,31の連結部材33と、支持ブロック35とに連結されている。このダンパー32には、連結部材33と支持ブロック35との水平方向の相対変位が入力変位量として作用し、地震エネルギーが吸収される。」
イ 図面
【図3】「
[図:0001412275000001.jpg]
」
(3) 本件訂正発明1~3における上記特定事項1によれば、「連結部材」は、「梁の材軸方向に沿って」突出させた「一対をなす鋼板状のスライドガイド同士」の「間」に設けられたものであるところ、「連結部材」と「スライドガイド」との位置関係について、上記(2)アに摘記した【0015】に、「図3には、柱梁架構25内に設ける制振機構30Aを示す。・・・この連結部材33は、柱梁架構25の上側に位置する梁22の直下に設置され、梁22の下面に突設された鋼板状のスライドガイド34を挟むように当該連結部材33の上面には対向する位置にブラケットが設けられている。よって、連結部材33は、スライドガイド34によって面外方向への移動が拘束されている。」として、「連結部材33」に設けられた「ブラケット」が、梁22に突設された「スライドガイド34」を「挟む」ようにしたものが記載されるのみであって、「連結部材」を「梁の材軸方向に沿って突出させた一対をなす鋼板状のスライドガイド同士」の「間」に設けることは記載されていない。
一方、上記(2)に示した【図3】には、「連結部材」と「梁の材軸方向に沿って突出させた一対をなすスライドガイド」が記載されているものの、「連結部材」は、「梁の材軸方向に沿って突出させた一対をなすスライドガイド」の下側に位置しており、「一対をなすスライドガイド同士」の「間」に設けられているとはいえない。
そして、本件明細書等には、上記【0015】及び【図3】の他にも、本件訂正で訂正事項4として訂正された【0008】を除いて、「連結部材」が「梁の材軸方向に沿って突出させた一対をなす鋼板状のスライドガイド同士」の「間」に設けられたものが記載されていない。
また、前記第2に記載した本件訂正の訂正事項1~3で、本件訂正発明1~3において特定されることになった「前記連結部材が前記スライドガイドによって当該柱梁架構の面外方向への移動が拘束される構成は、当該連結部材の上面又は下面に前記スライドガイドを挟むように設けられたブラケットによって、連結部材が面外方向への移動が拘束される構成である」ことから、「連結部材」が「梁の材軸方向に沿って突出させた一対をなす鋼板状のスライドガイド同士」の「間」に設けられていることを導くこともできない。
そうすると、上記特定事項1を特定した本件訂正発明1~3は、発明の詳細な説明に記載した範囲を超えることとなる。
よって、本件訂正発明1~3は、いずれも、発明の詳細な説明に記載したものでない。
2 取消理由2(新規事項)について
(1) 手続の経緯
本件特許の出願後の手続の経緯(特許掲載公報の発行まで)の概略は、次のとおりである。
令和 4年 1月19日付け:拒絶理由通知書
同年 3月22日 :意見書、手続補正書の提出
同年 4月 6日付け:拒絶理由通知書
同年 6月 7日 :意見書、手続補正書の提出
同年 8月25日付け:拒絶理由通知書
同年 9月 6日 :意見書、手続補正書の提出
同月14日付け:特許査定
同年10月 6日 :特許権の設定登録
同月17日 :特許掲載公報の発行
(2) 本件訂正発明1~3
本件訂正発明1~3は、前記第3に記載したとおりのものである。
(3) 令和4年9月6日提出の手続補正書による請求項1~3の補正
令和4年9月6日提出の手続補正書により、本願の請求項1~3は次のとおりに補正された(下線は補正箇所を示す。)。
「【請求項1】
柱梁架構内に制振装置が設けられた制振建物であって、
前記制振装置は、ブレースの上部または下部の両側に鉛直方向に複数列配設され、
当該制振装置は、2本のブレースが交差する上端部、または下端部に設けられるブロック状の連結部材と、前記柱梁架構の柱から離れ、かつ梁端から下方、または上方に延びる支持ブロックとに連結されており、
前記連結部材は、前記柱梁架構の梁の下面、または上面に、梁の材軸方向に沿って突出させた一対をなす鋼板状のスライドガイド同士の間に設けられ、当該連結部材が前記スライドガイドによって当該柱梁架構の面外方向への移動が拘束されていることを特徴とする制振建物。
【請求項2】
吹き抜け部に接する一部の柱梁架構内に制振装置が設けられた制振建物であって、
前記吹き抜け部は、複数階にわたって形成され、
前記制振装置は、前記複数階まで延びるブレースの上部または下部の両側に鉛直方向に複数列配設され、
当該制振装置は、2本のブレースが交差する上端部、または下端部に設けられるブロック状の連結部材と、前記柱梁架構の柱から離れ、かつ梁端から下方、または上方に延びる支持ブロックとに連結されており、
前記連結部材は、前記柱梁架構の梁の下面、または上面に、梁の材軸方向に沿って突出させた一対をなす鋼板状のスライドガイド同士の間に設けられ、当該連結部材が前記スライドガイドによって当該柱梁架構の面外方向への移動が拘束されていることを特徴とする制振建物。
【請求項3】
吹き抜け部が設けられた建物当該階の外周柱梁架構内に制振装置が設けられた制振建物であって、
前記吹き抜け部は、複数階にわたって形成され、
前記制振装置は、前記複数階まで延びるブレースの上部または下部の両側に鉛直方向に複数列配設され、
当該制振装置は、2本のブレースが交差する上端部、または下端部に設けられるブロック状の連結部材と、前記柱梁架構の柱から離れ、かつ梁端から下方、または上方に延びる支持ブロックとに連結されており、
前記連結部材は、前記柱梁架構の梁の下面、または上面に、梁の材軸方向に沿って突出させた一対をなす鋼板状のスライドガイド同士の間に設けられ、当該連結部材が前記スライドガイドによって当該柱梁架構の面外方向への移動が拘束されていることを特徴とする制振建物。」
(4) 令和4年6月7日提出の手続補正書による請求項1~3の補正
令和4年6月7日提出の手続補正書により、本願の請求項1~3は次のとおりに補正された(下線は補正箇所を示す。)。
「【請求項1】
柱梁架構内に制振装置が設けられた制振建物であって、
前記制振装置は、ブレースの上部または下部の両側に鉛直方向に複数列配設され、
当該制振装置は、2本のブレースが交差する上端部、または下端部に設けられるブロック状の連結部材と、前記柱梁架構の柱から離れ、かつ梁端から下方、または上方に延びる支持ブロックとに連結されており、
前記連結部材は、前記柱梁架構の梁の下面、または上面に突出させた鋼板状のスライドガイド同士の間に設けられることを特徴とする制振建物。
【請求項2】
吹き抜け部に接する一部の柱梁架構内に制振装置が設けられた制振建物であって、
前記吹き抜け部は、複数階にわたって形成され、
前記制振装置は、前記複数階まで延びるブレースの上部または下部の両側に鉛直方向に複数列配設され、
当該制振装置は、2本のブレースが交差する上端部、または下端部に設けられるブロック状の連結部材と、前記柱梁架構の柱から離れ、かつ梁端から下方、または上方に延びる支持ブロックとに連結されており、
前記連結部材は、前記柱梁架構の梁の下面、または上面に突出させた鋼板状のスライドガイド同士の間に設けられることを特徴とする制振建物。
【請求項3】
吹き抜け部が設けられた建物当該階の外周柱梁架構内に制振装置が設けられた制振建物であって、
前記吹き抜け部は、複数階にわたって形成され、
前記制振装置は、前記複数階まで延びるブレースの上部または下部の両側に鉛直方向に複数列配設され、
当該制振装置は、2本のブレースが交差する上端部、または下端部に設けられるブロック状の連結部材と、前記柱梁架構の柱から離れ、かつ梁端から下方、または上方に延びる支持ブロックとに連結されており、
前記連結部材は、前記柱梁架構の梁の下面、または上面に突出させた鋼板状のスライドガイド同士の間に設けられることを特徴とする制振建物。」
(5) 新規事項追加について
上記(4)に記載したように、令和4年6月7日提出の手続補正書による補正により、本願の請求項1~3のいずれにおいても、「前記連結部材は、前記柱梁架構の梁の下面、または上面に突出させた鋼板状のスライドガイド同士の間に設けられる」ことが追加された。
また、上記(3)に記載したように、同年9月6日提出の手続補正書による補正により、本願の請求項1~3のいずれにおいても、「スライドガイド」が、「梁の材軸方向に沿って」おり、「一対をなす」ものであることが追加された。
そして、前記第3に記載されるように、本件訂正発明1~3は、上記したそれぞれの補正により追加された「前記連結部材は、前記柱梁架構の梁の下面、または上面に、梁の材軸方向に沿って突出させた一対をなす鋼板状のスライドガイド同士の間に設けられ」ることを特定事項として含むものである。
ここで、「連結部材」を「梁の材軸方向に沿って」突出させた「一対をなす鋼板状のスライドガイド同士」の「間」に設けることが、本件明細書等の【0015】や【図3】に記載されていないことは、前記1の「取消理由1(サポート要件)について」で述べたとおりであり、「連結部材」を「梁の材軸方向に沿って」突出させた「一対をなす鋼板状のスライドガイド同士」の「間」に設けることが、願書に最初に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面(以下「当初明細書等」という。)に記載されていたということもできない。
したがって、「連結部材」が「梁の材軸方向に沿って」突出させた「一対をなす鋼板状のスライドガイド同士」の「間」に設けられることを特定した補正は、当初明細書等のすべての記載を総合することにより導かれる技術的事項との関係において、新たな技術的事項を導入するものであるから、令和4年6月7日提出の手続補正書による補正及び同年9月6日提出の手続補正書による補正は、新規事項を追加する補正である。
よって、令和4年6月7日提出の手続補正書による補正及び同年9月6日提出の手続補正書による補正は、当初明細書等に記載した事項の範囲内においてしたものでない。
3 小括
よって、本件訂正発明1~3は、いずれも、発明の詳細な説明に記載したものでなく、また、令和4年6月7日提出の手続補正書による補正及び同年9月6日提出の手続補正書による補正は、当初明細書等に記載した事項の範囲内においてしたものでない。
4 特許権者の主張について
(1) 特許権者は、令和6年1月30日提出の意見書において、概ね次のとおり主張している(下線は当審合議体が付した。)。
ア 「(4)理由1(サポート要件)(特許法第36条第6項第1号)について
(中略)
(b)図3の図示について
(中略)
そして、間隔をあけて設けられたスライドガイド34、34の下側に連結部材33が位置していることが看取される。この関係から、連結部材33はスライドガイド34、34の下側ではあるが、左右に二つあるスライドガイド34、34の間に連結部材33が設けられていると表現することができる。
この図3の図示と技術常識から、符号を補って記載すると「連結部材33は、柱梁架構の梁22の下面、梁22の材軸方向に沿って突出させた一対をなす鋼板条のスライドガイド34、34同士の間に設けられている」ことがわかる。そして、梁は細長い棒状の部材であるから材軸方向にスライドガイド34を設けるのが自然であり、材軸方向に対して斜めや直角に設けられる必要もないので、スライドガイド34、34は、梁22の材軸方向に沿って突出していることは、明らかである。
(c)したがって、請求項1の記載「前記連結部材は、前記柱梁架構の梁の下面、または上面に、梁の材軸方向に沿って突出させた一対をなす鋼板状のスライドガイド同士の間に設けられ」は、【0015】の記載及び図3の図示から、明細書及び図面に記載された範囲であるといえる。」(2ページ下から4行~7ページ16行)
イ 「(5)理由2 (新規事項)(特許法第17条の2第3項)について
段落【0015】の記載及び図3の図示は、補正されておらず出願当初明細書及び図面のままであるので、指摘された新規事項の追加の補正は、上記(4)に記載したとおり、新規事項の追加に該当しない。」(9ページ下から1行~10ページ3行)
(2) しかしながら、「間隔をあけて設けられたスライドガイド34、34の下側に連結部材33が位置している」としても、部材の下側に位置することと、左右の部材の間に位置することは異なるから、特許権者が主張するように、「この関係から、連結部材33はスライドガイド34、34の下側ではあるが、左右に二つあるスライドガイド34、34の間に連結部材33が設けられていると表現することができる」ということはできず、特許権者の上記主張は採用することができない。
第6 むすび
以上のとおり、特許請求の範囲の請求項1~3の記載が、特許法36条6項1号に規定する要件を満たしていないから、本件特許の請求項1~3に係る発明は、同法113条4号に該当し、取り消されるべきものである。
また、令和4年6月7日に提出した手続補正書及び同年9月6日に提出した手続補正書でした補正が、願書に最初に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内においてしたものでなく、特許法17条の2第3項に規定する要件を満たしていないから、これらの補正により追加された事項を含む本件特許の請求項1~3に係る発明は、同法113条1号に該当し、取り消されるべきものである。
よって、結論のとおり決定する。
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2023-700066