特許拒絶査定不服審判
2024-001008
CAMデータセットを作成する方法
- 審判番号
- 2024-001008
- 法域
- 特許
- 審判種別
- 拒絶査定不服審判(拒絶査定不服の審決)
- 出願番号
- 特願2021-136230
- 請求日
- 2024年01月20日
- 審決日
- 2025年11月19日
- 公報発行日
- 2026年05月29日
- 結論
- 請求不成立
- 当事者
- 【請求人】イボクラール ビバデント アクチェンゲゼルシャフト
- 【請求人代理人】浜田 治雄
- 審判長/審判官
- 審判長 井上 哲男
- 審判官 安井 寿儀
- 審判官 立花 啓
- 分類
- P18 .121-WZ (A61C) / P18 .536-WZ (A61C) / P18 .537-WZ (A61C)
- 根拠条文(結論部分から自動抽出・参考)
- 特許法29条2項特許法36条4項1号特許法36条6項2号
- 条文(本文から自動抽出・参考)
- 特許法第36条第4項第1号、特許法第29条第2項、特許法第36条第6項第2号
- データ出所
- 審決公報(XML)
事件の表示
特願2021-136230「CAMデータセットを作成する方法」拒絶査定不服審判事件〔令和 4年 3月29日出願公開、特開2022- 49672〕について、次のとおり審決する。
結論
結 論
本件審判の請求は、成り立たない。
理由
理 由
第1 手続の経緯
本願は、令和 3年 8月24日(パリ条約による優先権主張 2020年 9月16日 (EP)欧州特許庁)の出願であって、その後の手続の概要は、以下のとおりである。
令和 3年12月 1日提出:翻訳文
令和 5年 1月27日付け:拒絶理由通知
同年 7月 7日提出:意見書及び手続補正書
同年 9月15日付け:拒絶査定
令和 6年 1月20日提出:審判請求書及び手続補正書
令和 7年 2月26日付け:拒絶理由通知
同年 5月13日提出:意見書
同年 5月21日提出:意見書
第2 本願発明
本願の各請求項に係る発明は、令和 6年 1月20日提出の手続補正書により補正された特許請求の範囲の請求項1~9に記載された事項により特定されるとおりのものと認められるところ、その請求項1、4、6及び7に係る発明は、次のとおりである。
「【請求項1】
第1の空間的な基準ジオメトリ(150-1)のための第1の基準データを有する歯科補綴物(103)のデジタルCADデータセット(CAD)を作成し(S201);
第2の空間的な基準ジオメトリ(150-2)のための第2の基準データを有するデジタルCAMデータセット(CAM)を作成し(S202);
前記CADデータセット(CAD)の第1の空間的な基準ジオメトリ(150-1)を前記CAMデータセット(CAM)の第2の空間的な基準ジオメトリ(150-2)に対して整列させることによって前記CADデータセット(CAD)を前記CAMデータセット(CAM)に統合する(S203)、
ステップを有し、空間軸がブランク(101)の一表面に対して直角に方向付けられ、CAMデータセット(CAM)が複数の予め記憶されたCAMデータセットの中から選択可能であり、前記CAMデータセット(CAM)が歯科補綴物(103)を製造するためのブランク(101)のデータを含むことを特徴とするCAMデータセット(CAM)の作成方法。」
「【請求項4】
不均一構造が波形によって形成される請求項4に記載の方法。」
「【請求項6】
CAMデータセット(CAM)に基づいて歯科補綴物(103)が自動的に製造される請求項1ないし5のいずれかに記載の方法。」
「【請求項7】
CAMデータセット(CAM)が歯科補綴物をフライス加工するためのフライス加工データに変換される請求項1ないし6のいずれかに記載の方法。」
第3 拒絶の理由
令和 7年 2月26日付けで当審が通知した拒絶理由は、概略、次の理由を含むものである。
理由1(実施可能要件) 本願は、発明の詳細な説明の記載について下記の点で、特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていない。
理由2(明確性) 本願は、特許請求の範囲の記載が下記の点で、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない。
記
1 理由1について
請求項1に記載される「前記CADデータセット(CAD)の第1の空間的な基準ジオメトリ(150-1)を前記CAMデータセット(CAM)の第2の空間的な基準ジオメトリ(150-2)に対して整列させることによって前記CADデータセット(CAD)を前記CAMデータセット(CAM)に統合する(S203)」ことについて、以下のとおり、発明の詳細な説明には、当業者が実施できる程度に明確かつ十分に記載されていない。
(1)発明の詳細な説明には、「第1の空間的な基準ジオメトリ」及び「第2の空間的な基準ジオメトリ」についての定義や意味、両者の関係等が明確に記載されておらず、両者を「整列」させるとは、どのような態様を意図しているのかを理解することができない。
(2)発明の詳細な説明には、両基準ジオメトリを整列させることで、どのようにしてCADデータセット(CAD)がCAMデータセット(CAM)に「統合」されるのか、その具体的説明がなく、基準ジオメトリの「整列」とデータセットの「統合」との関係を理解することができない。
2 理由2について
(1)請求項1に記載される「第1の空間的な基準ジオメトリ」及び「第2の空間的な基準ジオメトリ」は、その定義や意味等を発明の詳細な説明を参酌しても理解できないため、具体的にどのようなものを意図しているのかが明確でない。
してみると、請求項1の「第1の空間的な基準ジオメトリ(150-1)のための第1の基準データを有する歯科補綴物(103)のデジタルCADデータセット(CAD)」及び「第2の空間的な基準ジオメトリ(150-2)のための第2の基準データを有するデジタルCAMデータセット(CAM)」とは、それぞれどのようなデータセットであるのかが明確でない。
(2)請求項1の「前記CADデータセット(CAD)の第1の空間的な基準ジオメトリ(150-1)を前記CAMデータセット(CAM)の第2の空間的な基準ジオメトリ(150-2)に対して整列させることによって前記CADデータセット(CAD)を前記CAMデータセット(CAM)に統合する」との記載は、以下の点で明確でない。
a)「第1の空間的な基準ジオメトリ」と「第2の空間的な基準ジオメトリ」との関係が不明確であり、第1の空間的な基準ジオメトリを第2の空間的な基準ジオメトリに「整列」させるとは、具体的にどのような態様を意図しているのかが不明確である。
b)CADデータセットをCAMデータセットに「統合」されるとは、具体的にどのような態様を意図しているのかが不明である。また、第1の空間的な基準ジオメトリを第2の空間的な基準ジオメトリに「整列」させることで、どのようにしてCADデータセットがCAMデータセットに「統合」されるのかが発明の詳細な説明を参酌しても理解できない。また、「統合」とは、どのような態様を意図しているのかが明確でない。
(3)請求項1の「空間軸がブランク(101)の一表面に対して直角に方向付けられ」との記載について、「空間軸」とは、どのような軸であるのかが発明の詳細な説明を参酌しても明確でなく、また、当該記載と請求項1における他の記載事項との関係が不明確である。
(4)請求項4は、自請求項を引用しているため、発明を明確に把握することができない。
(5)請求項6は、「請求項1ないし5のいずれかに記載の方法」の発明であるから、「CAMデータセット(CAM)の作成方法」に関する発明である。
しかしながら、請求項6に記載される「CAMデータセット(CAM)に基づいて歯科補綴物(103)が自動的に製造される」ことは、請求項1~5の作成方法によって作成されたCAMデータセットを使用して歯科補綴物を製造することであるので、「CAMデータセット(CAM)の作成方法」ということはできない。
したがって、請求項6は、どのような発明であるのかが明確でない。
(6)請求項7は、「請求項1ないし6のいずれかに記載の方法」の発明であるから、「CAMデータセット(CAM)の作成方法」に関する発明である。
しかしながら、請求項7に記載される「CAMデータセット(CAM)が歯科補綴物をフライス加工するためのフライス加工データに変換される」ことは、請求項1~6の作成方法によって作成されたCAMデータセットを使用して歯科補綴物を製造するためのデータ変換に関することであるので、「CAMデータセット(CAM)の作成方法」ということはできない。
したがって、請求項7は、どのような発明であるのかが明確でない。
第4 当審の判断
1 理由1(特許法第36条第4項第1号違反)について
(1)請求項1に係る発明における「第1の空間的な基準ジオメトリ」及び「第2の空間的な基準ジオメトリ」に関し、本願の発明の詳細な説明には、以下の記載がある。
「基準ジオメトリは、例えば基準交差部等の基準ジオメトリによって定義することができる。」(段落【0005】)
「第1および/または第2の空間的な基準ジオメトリが空間軸および/または基準交差部を定義する。」(段落【0010】)
「ステップS102において、例えばプレート中、すなわちCAMデータセット中において補綴物を整列させるよう作用する基準交差部等の基準ジオメトリが定義される。その際基準ジオメトリは、歯科補綴物の空間的な領域の外側に存在することができる。基準ジオメトリは、同様にCADデータセット内に取り込まれる独立したデータセット内に予め定義することができる。一般的に、基準ジオメトリとしてその他の幾何学的形態あるいは構造を使用することもできる。すなわちステップS103においては、基準ジオメトリを補綴物の設計に最良に適応させる。」(段落【0020】)
「CADデータセットCADは、例えば基準交差部あるいは基準点等の基準ジオメトリ105-1に関するデータを含む。同様にCAMデータセットCAMも、例えば基準交差部あるいは基準点等の基準ジオメトリ105-2に関する所与のデータを含む。」(段落【0028】)
「第1のステップS201において歯科補綴物のためのデジタルCADデータセットが作成され、それが第1の空間的な基準ジオメトリのための基準データを含む。基準データは、例えばCADデータセット内の特定の空間位置を定義するデータである。空間位置は、例えば基準交差部等の基準ジオメトリによって定義することができる。」(段落【0031】)
「ステップS202において、第2の空間的な基準ジオメトリのための第2の基準データを有するデジタルCAMデータセットが作成される。」(段落【0032】)
(2)また、請求項1に係る発明における「前記CADデータセット(CAD)の第1の空間的な基準ジオメトリ」を「前記CAMデータセット(CAM)の第2の空間的な基準ジオメトリ」「に対して整列させることによって前記CADデータセット(CAD)を前記CAMデータセット(CAM)に統合する」ことに関し、本願の発明の詳細な説明には、以下の記載がある。
「ステップS106において、取り込まれたジオメトリとの交差に沿って基準交差が整列させられ、義歯床に算入される。」(段落【0022】)
「ステップS108において、歯科補綴物のためのCADデータセットがブランクのためのCAMデータセット内に統合される。」(段落【0023】)
「ステップS109においてZ軸方向における歯科補綴物の整列が基準交差を使用して実行され、ステップS110においては基準交差を使用して歯科補綴物がX軸およびY軸方向において整列させられる。前記の整列は歯科補綴物のCADデータセットの回転および移動によって達成される。・・・整列は、CADデータセットの空間的な基準ジオメトリをCAMデータセットの第2の基準ジオメトリに対して移動および/または回転させるような方式で実行することができる。」(段落【0024】)
「両方の基準ジオメトリ105-1と105-2は、CADデータセットCADをCAMデータセット内において整列させ、従って歯科補綴物の設計を最適に整列させることができるように作用する。そのことは、例えばCADデータセットを基準ジオメトリ105-1および105-2の周りあるいはそれらに沿って回転あるいは移動させることによって実行される。」(段落【0028】)
「ステップS203において、CADデータセットの第1の空間的な基準ジオメトリをCAMデータセットの第2の空間的な基準ジオメトリに対して整列させることによって、CADデータセットがCAMデータセットに統合される。」(段落【0032】)
(3)以上の記載事項から、請求項1に係る発明における「基準ジオメトリ」とは、デジタルCADデータセット(CAD)又はデジタルCAMデータセット(CAM)における基準点や基準交差部等、それぞれのデータセットにおける何らかの基準となる点や交差部を意味し、発明の詳細な説明では、それぞれのデータセットにおける該基準点等を整列させることでCADデータセットをCAMデータセットに統合することが記載されている。
しかしながら、図2には、符号105-1及び105-2で指し示される部分が、CADデータセット(CAD)及びCAMデータセット(CAM)が含む基準交差部あるいは基準点等の基準ジオメトリであることが示されているものの、「デジタルCADデータセット(CAD)」に含まれる歯科補綴物の空間的形状や「デジタルCAMデータセット(CAM)」に含まれるブランクの形状・構造に対して、どの位置を基準点又は基準交差部すなわち「基準ジオメトリ」として設定するのかについては、発明の詳細な説明に具体的な記載も示唆もされていない。
また、第1の空間的な基準ジオメトリを第2の空間的な基準ジオメトリに対して「整列」することに関し、「整列」が具体的にどのような態様であるのかが、発明の詳細な説明に何ら記載されていない。
してみると、デジタルCADデータセット(CAD)の基準ジオメトリ及びデジタルCAMデータセット(CAM)の基準ジオメトリを、それぞれどの位置に設定するのかが不明であり、その結果、基準ジオメトリ同士をどのように整列させることで、CADデータセットとCAMデータセットを統合するのかを理解することができない。
よって、請求項1に係る発明における「前記CADデータセット(CAD)の第1の空間的な基準ジオメトリ(150-1)を前記CAMデータセット(CAM)の第2の空間的な基準ジオメトリ(150-2)に対して整列させることによって前記CADデータセット(CAD)を前記CAMデータセット(CAM)に統合する(S203)」ことについて、発明の詳細な説明に、当業者が実施できる程度に明確かつ十分に記載されているとはいえない。
2 理由2(特許法第36条第6項第2号違反)について
(1)請求項1に記載される「第1の空間的な基準ジオメトリ」及び「第2の空間的な基準ジオメトリ」は、デジタルCADデータセット(CAD)又はデジタルCAMデータセット(CAM)における基準点や基準交差部等、それぞれのデータセットにおける何らかの基準となる点や交差部を意味すると解しても、上記1で説示したとおり、各「基準ジオメトリ」が、デジタルCADデータセット(CAD)及びデジタルCAMデータセット(CAM)のそれぞれにおいて、どの位置に設定されるものなのか、及び、相互の関係がどのようなものなのか、発明の詳細な説明に記載も示唆もされていないため、各「基準ジオメトリ」は、発明の詳細な説明を参酌してもその構造や技術的意味等が理解できず、具体的にどのようなものであるのかが明確でない。そのため、各基準ジオメトリのための「基準データ」がどのようなものであるか明確でなく、そのような基準データを有する「デジタルCADデータセット」及び「デジタルCAMデータセット」がどのようなものであるかも明確でない。
したがって、請求項1の「第1の空間的な基準ジオメトリ(150-1)のための第1の基準データを有する歯科補綴物(103)のデジタルCADデータセット(CAD)」及び「第2の空間的な基準ジオメトリ(150-2)のための第2の基準データを有するデジタルCAMデータセット(CAM)」とは、それぞれどのようなデータセットであるのかが明確でない。
(2)請求項1の「前記CADデータセット(CAD)の第1の空間的な基準ジオメトリ(150-1)を前記CAMデータセット(CAM)の第2の空間的な基準ジオメトリ(150-2)に対して整列させることによって前記CADデータセット(CAD)を前記CAMデータセット(CAM)に統合する」との記載は、上記1で説示したとおり、第1の空間的な基準ジオメトリを第2の空間的な基準ジオメトリに対して「整列」すること、及び、該「整列」によって、どのようにしてCAMデータセット(CAD)がCAMデータセット(CAM)に「統合」されるのかが、発明の詳細な説明に何ら記載されていないため、具体的にどのような態様を意図しているのかが明確でない。
(3)請求項1には、「空間軸がブランク(101)の一表面に対して直角に方向付けられ」と記載されている。
当該記載の「空間軸」に関して、発明の詳細な説明には、「第1および/または第2の空間的な基準ジオメトリが空間軸および/または基準交差部を定義する」(段落【0010】)及び「空間軸がブランクの一表面に対して直角に方向付けられる。それによって例えば、歯科補綴物をより良好に可視化できるという技術的な利点が達成される」(段落【0011】)と記載されており、「空間軸」とは、基準ジオメトリの一種であると類推されるものの、具体的にどのような軸であるのか明確でない。また、上記(1)で説示したとおり、「基準ジオメトリ」は明確でないため、該基準ジオメトリの一つである「空間軸」も具体的にどのような軸であるのかを明確に把握することができない。
また、「空間軸がブランク(101)の一表面に対して直角に方向付けられ」ることと請求項1における他の記載事項との関係が不明確である。
したがって、請求項1の上記記載は明確でない。
(4)請求項4は、他の請求項を引用する形式で記載されているが、自請求項を引用しているため、どのような構成を特定しているのかが明確でない。
(5)請求項6には、「請求項1ないし5のいずれかに記載の方法。」と記載され、請求項7は、「請求項1ないし6のいずれかに記載の方法。」と記載されており、請求項1は「CAMデータセット(CAM)の作成方法」の発明であるから、請求項6及び7は、いずれも「CAMデータセット(CAM)の作成方法」に関する発明である。
しかしながら、請求項6に記載される「CAMデータセット(CAM)に基づいて歯科補綴物(103)が自動的に製造される」こと、及び請求項7に記載される「CAMデータセット(CAM)が歯科補綴物をフライス加工するためのフライス加工データに変換される」ことは、いずれも請求項1の発明である「CAMデータセット(CAM)の作成方法」によって作成されたCAMデータセット(CAM)を使用して歯科補綴物を製造すること、又は歯科補綴物を製造するためのデータ変換に関することであるので、「CAMデータセット(CAM)の作成方法」を特定する事項ではない。
したがって、請求項6及び7に係る発明は、明確でない。
3 小括
以上のとおり、本願は、発明の詳細な説明の記載が特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしておらず、特許請求の範囲の記載が同条第6項第2号に規定する要件を満たしていないから、拒絶すべきものである。
第5 原査定の拒絶の理由
上記第4のとおり、本願は、特許法第36条第4項第1号及び同条第6項第2号に規定する要件を満たしていないから、拒絶すべきものであるが、令和 7年 2月26日付け拒絶理由通知で判断を留保した原査定の進歩性に係る拒絶の理由についても以下検討する。
原査定の進歩性に係る拒絶の理由は、概略、次の理由を含むものである。
本願の請求項1に係る発明(以下「本願発明」という。)は、本願の優先権主張の日(以下「優先日」という。)前に日本国内又は外国において、頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった以下の引用文献に記載された発明に基いて、その優先日前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
引用文献:特開2020-58648号公報
第6 原査定の拒絶の理由に対する当審の判断
1 引用文献の記載事項及び引用発明
(1)引用文献には、図面とともに以下の事項が記載されている(なお、下線は当審で付与したものである。)。
「【0002】
従来、歯科補綴物を作製するための、種々の技術が検討されている。例えば、歯科補綴物は、NC(Numerical Control machining)加工機を含む歯科用CAD/CAMシステムによって、作製される。
【0003】
一従来例では、歯科用CAD/CAMシステムは、スキャナ、CAD装置、CAM装置及びNC加工機を備える。スキャナは、模型又は口腔内の構造を計測する。これにより、3次元形状データが取得される。CAD装置は、3次元形状データから、補綴物を設計する。これにより、補綴物データが作成される。CAM装置は、補綴物データに基づいて、NCデータを計算する。NC加工機は、NCデータに基づいて、材料を加工する。これにより、歯科補綴物が得られる。」
「【0067】
ミルブランクは歯科用途に使用され、例えば、歯科用CAD/CAMシステムでの切削加工による、インレー、アンレー、ベニア、クラウン、ブリッジ、支台歯、歯科用ポスト、義歯、義歯床、インプラント部材(フィクスチャー、アバットメント)等の歯科用補綴物の作製などに好適に用いることができる。」
「【0073】
図8に示すシステム(100)は、設計装置(40)と、装置(50)と、加工機(60)と、を備える。設計装置(40)は、例えば、CAD装置である。加工機(60)は、例えば、ミリング装置である。装置(50)は、コンピュータ(51)と、ディスプレイ(52)と、を備える。コンピュータ(51)は、プロセッサと、メモリと、を含む。」
「【0076】
方法は、図7のフローチャートに従って実行される。」
「【0081】
ステップS2において、ワークデータ(31)が作成される。
【0082】
ワークデータ(31)は、加工に供されるミルブランク部を表すデータである。ワークデータ(31)は、エナメル層(1)を表す外層(32)と外層(32)の内側に存在する内層(33)とを有する。ワークデータ(31)の各層間には境界が形成されている。典型的には、ワークデータ(31)は、3次元すなわち立体的なデータである。
【0083】
この例では、ワークデータ(31)は、図1のミルブランク部を表すデータである。つまり、外層(32)はエナメル層(1)を表し、内層(33)はボディ層(3)を表す。外層(32)と内層(33)との間には、境界(35)が形成されている。ワークデータ(31)は、支持部を表す支持部データ(39)と関連づけられていてもよい。
【0084】
ワークデータ(31)は、第1座標系で作成される。第1座標系として、直交座標系、回転座標系などの任意の座標系を用いることができる。第1座標系の原点は、例えば、ワークデータ(31)の中心点である。
【0085】
この例では、ミルブランクの候補が複数存在する。このことは、ミルブランク部の候補が複数存在することを意味する。それらの候補の中から、1つの候補が選択される。この選択は、コンピュータ(51)の操作者によって、形状情報及び色調情報に基づいて行われる。具体的には、操作者は、形状情報に基づいて作製するべき補綴物のサイズを予想し、そのサイズをカバーできるのはどの候補なのかについて、検討をつける。また、操作者は、色彩情報に基づいて、上記予想上の補綴物の表面色調をその周囲の歯牙などの表面色調に調和させるのに適しているのはどの候補なのかについて、検討をつける。操作者は、これらの検討結果に基づいて、複数の候補の中から1つの候補を選択する。そのようにして選択されたミルブランク部を表すワークデータ(31)が作成される。複数のミルブランク部の候補に対応するワークデータ(31)の候補を予め準備しておき、選択したミルブランク部に対応するワークデータ(31)をその候補の中から選択してもよい。本明細書では、このようなワークデータ(31)の選択も、ワークデータ(31)の作成に該当することとする。
【0086】
ただし、コンピュータ(51)は、形状情報及び色調情報に基づいてワークデータ(31)を自動的に作成するように構成されていてもよい。
【0087】
この例では、図8に示すように、ワークデータ(31)の作成は、コンピュータ(51)において行われる。ただし、ワークデータ(31)の作成は、他の機器において行われてもよい。」
「【0090】
ステップS3において、補綴物形状データ(20)が作成される。
【0091】
補綴物形状データ(20)は、ミルブランク部から得られる補綴物の形状を表す。典型的には、補綴物形状データ(20)は、3次元すなわち立体的なデータである。
【0092】
補綴物形状データ(20)は、第2座標系で作成される。第2座標系として、直交座標系、回転座標系などの任意の座標系を用いることができる。」
「【0098】
この例では、図8に示す設計装置(40)あるいはその操作者に、形状情報が与えられる。そして、操作者が、設計装置(40)を用いて、形状情報に基づいて補綴物形状データ(20)を作成する。ただし、設計装置(40)は、形状情報に基づいて補綴物形状データ(20)を自動的に作成するように構成されていてもよい。変形例では、コンピュータ(51)に、形状情報が与えられる。そして、操作者がコンピュータ(51)を用いて、あるいはコンピュータ(51)が自動的に、形状情報に基づいて補綴物形状データ(20)を作成する。
【0099】
図7に戻って、ステップS4において、第1座標系と第2座標系とが一元化される。
【0100】
図13及び14に、一元化された座標系を示す。この座標系には、ワークデータ(31)と、補綴物形状データ(20)と、が共存している。なお、図13の例と図14の例とでは、補綴物形状データ(20)、外層(32)及び内層(33)の形状が異なる。」
「【0104】
図7に戻って、ステップS5において、補綴物形状データ(20)の外側表面(25)及び内側表面(21)が定義される。」
「【0110】
図7に戻って、ステップS6において、ワークデータ(31)と補綴物形状データ(20)との相対位置が仮決定される。
【0111】
具体的には、補綴物形状データ(20)の内側表面(21)と、外層(32)と内層(33)との境界(35)と、補綴物形状データ(20)の外側表面(26)と、がこの順に並ぶように、相対位置が調整される。そして、これらの要素の位置が、この調整がなされた位置に仮決定される。」
「【0138】
具体的には、ステップS11では、直近のステップS6で仮設定された相対位置が、適切な相対位置として、本決定される。そして、本決定された相対位置に基づく仮想補綴物が反映された加工データが作成される。別の言い方をすると、加工データは、そのような仮想補綴物が反映された情報を含む。加工データは、補綴物を得るためのミルブランク部の加工に用いられる。この加工データは、加工機(60)によって認識可能である。」
「【図7】
[図:0001434552000001.jpg]
」
「【図8】
[図:0001434552000002.jpg]
」
「【図18】
[図:0001434552000003.jpg]
」
(2)上記(1)の事項を総合すると、引用文献には次の発明(以下「引用発明」という。)が記載されていると認められる。
「ステップS2において、加工に供されるミルブランク部を表す立体的なデータであるワークデータ(31)が第1座標系で作成され、
ステップS3において、補綴物の形状を表す立体的なデータである補綴物形状データ(20)が第2座標系で作成され、
ステップS4において、第1座標系と第2座標系とが一元化され、一元化された座標系には、ワークデータ(31)と、補綴物形状データ(20)と、が共存しており、
複数のミルブランク部の候補に対応するワークデータ(31)の候補を予め準備しておき、選択したミルブランク部に対応するワークデータ(31)をその候補の中から選択する方法。」
2 対比・判断
(1)対比
本願発明と引用発明とを対比する。
ア 引用発明の「補綴物の形状を表す立体的なデータである補綴物形状データ(20)」は、引用文献の段落【0073】及び【0098】の記載から、CAD装置で作成されるものであるから、本願発明の「歯科補綴物(103)のデジタルCADデータセット(CAD)」に相当する。
そして、引用発明の「補綴物の形状を表す立体的なデータである補綴物形状データ(20)が第2座標系で作成され」ることと、本願発明の「第1の空間的な基準ジオメトリ(150-1)のための第1の基準データを有する歯科補綴物(103)のデジタルCADデータセット(CAD)を作成」することとは、歯科補綴物のデジタルCADデータセットを作成することの限りで一致する。
イ 引用発明の「加工に供されるミルブランク部を表す立体的なデータであるワークデータ(31)」は、装置(50)が備えるコンピュータ(51)で作成されるものであり(引用文献の段落【0073】及び【0087】を参照。)、引用文献の段落【0002】及び【0003】の記載に照らせば、該コンピュータ(51)を備える装置(50)はCAM装置であるから、本願発明の「デジタルCAMデータセット(CAM)」に相当する。
そして、引用発明の「加工に供されるミルブランク部を表す立体的なデータであるワークデータ(31)が第1座標系で作成され」ることと、本願発明の「第2の空間的な基準ジオメトリ(150-2)のための第2の基準データを有するデジタルCAMデータセット(CAM)を作成」することとは、デジタルCAMデータセットを作成することの限りで一致する。
また、引用発明の該「ワークデータ(31)」は、引用文献の段落【0067】の記載事項を踏まえれば、本願発明の「歯科補綴物(103)を製造するためのブランク(101)のデータを含む」ものである。
ウ 引用発明の「第1座標系と第2座標系とが一元化され、一元化された座標系には、ワークデータ(31)と、補綴物形状データ(20)と、が共存して」いることと、本願発明の「前記CADデータセット(CAD)の第1の空間的な基準ジオメトリ(150-1)を前記CAMデータセット(CAM)の第2の空間的な基準ジオメトリ(150-2)に対して整列させることによって前記CADデータセット(CAD)を前記CAMデータセット(CAM)に統合する」こととは、前記CADデータセットを前記CAMデータセットに統合することの限りで一致する。
エ 上記ア~ウより、引用発明の「ステップS2において、加工に供されるミルブランク部を表す立体的なデータであるワークデータ(31)が第1座標系で作成され、ステップS3において、補綴物の形状を表す立体的なデータである補綴物形状データ(20)が第2座標系で作成され、ステップS4において、第1座標系と第2座標系とが一元化され、一元化された座標系には、ワークデータ(31)と、補綴物形状データ(20)と、が共存して」いることと、本願発明の「第1の空間的な基準ジオメトリ(150-1)のための第1の基準データを有する歯科補綴物(103)のデジタルCADデータセット(CAD)を作成し(S201);第2の空間的な基準ジオメトリ(150-2)のための第2の基準データを有するデジタルCAMデータセット(CAM)を作成し(S202);前記CADデータセット(CAD)の第1の空間的な基準ジオメトリ(150-1)を前記CAMデータセット(CAM)の第2の空間的な基準ジオメトリ(150-2)に対して整列させることによって前記CADデータセット(CAD)を前記CAMデータセット(CAM)に統合する(S203)、ステップを有」することとは、歯科補綴物のデジタルCADデータセットを作成し;デジタルCAMデータセットを作成し;前記CADデータセットを前記CAMデータセットに統合する、ステップを有することの限りで一致する。
オ 引用発明の「複数のミルブランク部の候補に対応するワークデータ(31)の候補を予め準備しておき、選択したミルブランク部に対応するワークデータ(31)をその候補の中から選択する」ことは、本願発明の「CAMデータセット(CAM)が複数の予め記憶されたCAMデータセットの中から選択可能であ」ることに相当する。
カ 引用発明の「方法」は、引用発明全体からみて、本願発明の「CAMデータセット(CAM)の作成方法」に相当する。
キ したがって、本願発明と引用発明とは、
「歯科補綴物のデジタルCADデータセットを作成し;
デジタルCAMデータセットを作成し;
前記CADデータセットを前記CAMデータセットに統合する、
ステップを有し、
CAMデータセットが複数の予め記憶されたCAMデータセットの中から選択可能であり、前記CAMデータセットが歯科補綴物を製造するためのブランクのデータを含むCAMデータセットの作成方法。」
である点で一致し、以下の点で相違する。
<相違点1>
歯科補綴物のデジタルCADデータセットに関し、本願発明は、「第1の空間的な基準ジオメトリ(150-1)のための第1の基準データを有する」のに対し、引用発明は、そのような特定がされていない点。
<相違点2>
デジタルCAMデータセットに関し、本願発明は、「第2の空間的な基準ジオメトリ(150-2)のための第2の基準データを有する」のに対し、引用発明は、そのような特定がされていない点。
<相違点3>
CADデータセットをCAMデータセットに統合することに関し、本願発明は、「前記CADデータセット(CAD)の第1の空間的な基準ジオメトリ(150-1)を前記CAMデータセット(CAM)の第2の空間的な基準ジオメトリ(150-2)に対して整列させることによって」統合しているのに対し、引用発明は、そのような特定がされていない点。
<相違点4>
本願発明は、「空間軸がブランク(101)の一表面に対して直角に方向付けられ」るのに対し、引用発明は、そのような空間軸を有するかどうか不明である点。
(2)判断
ア 上記各相違点について以下検討する。
<相違点1~3について>
CAD/CAMシステムによって製品を作成する場合、CADで設計したデータをCAMのデータに統合する際、それぞれのデータに基準となる点や線等を設定し、該基準に基づいて位置決め等を行うことは、一般的に行われることであるので(必要であれば、引用文献の段落【0104】、【0110】~【0111】、【0138】の記載及び図18の図示内容を参照。)、引用発明においても、補綴物形状データ(20)及びワークデータ(31)のそれぞれに基準となる点や線等を設定し、該基準となる点や線等に対して整列させることにより両データを統合することは、当業者であれば容易になし得る事項にすぎない。
<相違点4について>
上記第4の2(3)で説示したとおり、相違点4に係る請求項1の記載は明確でないが、引用発明における「ミルブランク部」は、その一表面に対して直角に方向付けられた空間軸を当然に有しているから、上記相違点4は実質的な相違点ではない。
仮に実質的な相違点であったとしても、そのような空間軸を設定することは当業者が適宜なし得る事項にすぎない。
イ 本願発明の効果についても、引用発明から当業者が予測し得る程度のものであり、格別顕著なものではない。
3 小括
したがって、本願発明は、引用発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
第7 むすび
以上のとおり、本願は、特許法第36条第4項第1号及び同条第6項第2号に規定する要件を満たしていないから、拒絶すべきものである。
また本願発明は、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないから、他の請求項に係る発明について検討するまでもなく、本願は拒絶すべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
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2024-001008