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特許拒絶査定不服審判

2023-018545

電動機システム

審判番号
2023-018545
法域
特許
審判種別
拒絶査定不服審判(拒絶査定不服の審決)
出願番号
特願2019-125389
請求日
2023年11月01日
審決日
2024年06月25日
公報発行日
2024年09月27日
結論
請求不成立
当事者
  • 【請求人】株式会社デンソー
  • 【請求人代理人】久保 貴則
  • 【請求人代理人】矢作 和行
  • 【請求人代理人】野々部 泰平
審判長/審判官
  • 審判長 須田 勝巳
  • 審判官 山崎 慎一
  • 審判官 吉田 美彦
分類
P18 .575-Z (H02P) / P18 .121-Z (H02P)
条文(本文から自動抽出・参考)
特許法第29条、特許法第164条、特許法第17条の2第5項、特許法第17条の2第6項
データ出所
審決公報(XML)

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特願2019-125389「電動機システム」拒絶査定不服審判事件〔令和 3年 2月 4日出願公開、特開2021- 13220〕について、次のとおり審決する。

結論

結 論 本件審判の請求は、成り立たない。

理由

理 由 第1 手続の経緯 本願は、令和元年7月4日の出願であって、令和5年2月27日付けで拒絶の理由が通知され、同年4月27日に意見書が提出され、同年8月18日付けで拒絶査定(謄本送達日同年8月22日。以下、「原査定」という。)がなされ、これに対して同年11月1日に拒絶査定不服審判の請求がなされるとともに手続補正がなされ、同年11月24日付けで審査官により特許法164条3項の規定に基づく報告がなされたものである。 第2 令和5年11月1日にされた手続補正についての補正の却下の決定 [補正の却下の決定の結論] 令和5年11月1日にされた手続補正(以下、「本件補正」という。)を却下する。 [理由] 1 本件補正について (1)本件補正後の特許請求の範囲 本件補正により、特許請求の範囲の請求項1の記載は、次のとおり補正された。(下線部は、補正箇所である。) 「回転自在に支持されている回転子(20)と、前記回転子と同軸に配置され、多相の固定子巻線(35)が固定子コア(31)に巻装されている固定子(30)と、前記固定子を密着固定しているハウジング(11)とを有する電動機(10)と、 前記固定子巻線に電流を供給するインバータ(60)と、 前記インバータの出力を制御する制御部(90)とを備え、 前記制御部は、多相のそれぞれにおいて、前記固定子の温度を上昇させるための電流が前記固定子巻線の全体に流れるように前記固定子巻線に電流を通電することで、通電に伴う発熱を利用して前記固定子の温度を上昇させる予熱通電モードを実行可能である電動機システム。」 (2)本件補正前の特許請求の範囲 本件補正前の、本件出願時の特許請求の範囲の請求項1の記載は次のとおりである。 「回転自在に支持されている回転子(20)と、前記回転子と同軸に配置され、多相の固定子巻線(35)が固定子コア(31)に巻装されている固定子(30)と、前記固定子を密着固定しているハウジング(11)とを有する電動機(10)と、 前記固定子巻線に電流を供給するインバータ(60)と、 前記インバータの出力を制御する制御部(90)とを備え、 前記制御部は、前記固定子巻線に電流を通電することで、通電に伴う発熱を利用して前記固定子の温度を上昇させる予熱通電モードを実行可能である電動機システム。」 2 補正の適否 本件補正は、本件補正前の請求項1に記載された発明を特定するために必要な事項である「前記固定子巻線に電流を通電すること」について、上記のとおり限定事項を付加するものであって、本件補正前の請求項1に記載された発明と本件補正後の請求項1に記載される発明の産業上の利用分野及び解決しようとする課題が同一であるから、特許法17条の2第5項2号の特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。 また、上記限定事項は、願書に最初に添付された特許請求の範囲、明細書及び図面(以下、「当初明細書等」という。)のうち、明細書段落【0018】、【0036】及び【0050】並びに図3及び5に記載された事項、及び、当初明細書等のすべての記載を総合することにより導かれる技術的事項との関係において、新たな技術的事項を導入するものではない。 そこで、本件補正後の請求項1に記載される発明(以下、「本件補正発明」という。)が同条6項において準用する同法126条7項の規定に適合するか(特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるか)について、以下、検討する。 3 補正後の本願発明 本件補正発明は、上記1(1)に記載されたとおりのものと認める。 4 引用例 (1)引用例1に記載された事項 原査定の拒絶の理由において引用した、本願の出願前に既に公知である、特開2008-283809号公報(平成20年11月20日公開。以下、これを「引用例1」という。)には、関連する図面と共に、次の事項が記載されている。(下線は当審で付加。以下同様。) ア 「【0007】 -第1の実施の形態- 以下、図1~図4を参照して本発明による電動機装置の第1の実施の形態について説明する。 図1は、第1の実施の形態に係る電動機装置を構成する3相交流モータ100の内部構成を示す断面図である。このモータ100は例えば電気自動車に搭載され、車両走行に用いられる。モータ100は、ハウジング1内に収容された略円筒形状のステータ10と、ステータ10の内側に回転可能に設けられたロータ20とを備える。ロータは20は(当審注:「ロータ20は」の誤記と認める。」)ロータ軸21とロータコア22とマグネット23とを有する。ロータコア22の外周には極数に応じた枚数のマグネット23が周方向均等に取り付けられ、ロータコア22はロータ軸21に一体に設けられている。ロータ軸21は、ハウジング1に取り付けられた軸受け3とカバー2に取り付けられた軸受け4とにより、略水平方向に回転可能に支持されている。ロータ軸21の一端はカバー2から突出しており、この突出部を介してモータ100の出力が外部に伝達される。 …中略… 【0009】 ハウジング1内には、主に軸受け3、4の潤滑およびロータ20とステータ10の冷却を目的としてオイルが封入され、ハウジング内のオイルはオイルシール6により封止されている。ハウジング内にはロータ20の回転中心付近Lvまでオイルが溜まっており、ステータ10のコイルの下側約半分がオイルに浸っている。ハウジング内のオイルの温度は油温センサ34(図3)により検出される。 …中略… 【0011】 図2は、ステータ10のコイルの結線を概略的に示す図である。ここでは、ステータコア11に形成されたスロット12にコイル13を配設し、いわゆる分布巻構造のステータとして構成している。ステータコア11の内周面には周方向等間隔にスロット12が計36カ所設けられ、各スロット12にU相用、V相用、W相用のコイル13が交互に挿入されている。」 イ 「【0015】 第1電力供給装置31および第2電力供給装置32は、モータ100に電力供給を行うための装置である。これら電力供給装置31、32はインバータなどで構成され、バッテリ33に互いに並列に接続されている。電力供給装置31、32をインバータとした場合、コントローラ30からの3相交流電圧指令値に基づいて、バッテリ33からの直流電力をIGBTなどのパワー素子によりスイッチングし、3相交流電力に変換してモータ100に印加する。これによりロータ20の周囲に回転磁界が発生し、ロータ20が回転する。 【0016】 この際、第1電力供給装置31のみ作動(通電)すると、下側半分のコイル(暖機運転用コイル310)に電流が流れ、第1電力供給装置31と第2電力供給装置32の双方を作動(通電)すると、全体のコイル(暖機運転用コイル310と通常運転用コイル320)に電流が流れる。したがって、第1電力供給装置31のみ作動する場合は、第1電力供給装置31と第2電力供給装置32とを作動する場合に比べ、暖機運転用コイル310に約2倍の電流を流すことができる。本実施の形態では、暖機運転を効率よく行うために、回転検出器5と油温センサ34からの信号に基づきコントローラ30が以下のように電力供給装置31、32の作動を制御する。 …中略… 【0020】 以上の動作をまとめると次のようになる。寒冷地等で車両を走行する場合、キースイッチのオン直後は油温が低く、油温が所定温度T0以下のことがある。この場合は、暖機運転が行われ、ステータ10の中心よりも下側に配置された暖機運転用コイル310に約2倍の電流が流れる。これによりモータ100を駆動しつつ、油温を早期に上昇することができる。油温が所定温度T0まで上昇すると、ステータ10の中心よりも上側に配置された通常運転用コイル320への通電が開始され、暖機運転用コイル310の電流値が下がる。これにより暖機運転が終了し、通常運転によりモータ100が駆動される。」 ウ 「【0032】 -第4の実施の形態- 図9~図11を参照して本発明による電動機装置の第4の実施の形態について説明する。 以下では第1の実施の形態との相違点を主に説明する。第1の実施の形態では、一対の電力供給装置31、32により暖機運転用コイル310と通常運転用コイル320への通電を制御するようにしたが、第2の実施の形態では、一の電力供給装置31と電力開閉器35とによりコイル310、320への通電を制御する。図9は、第4の実施の形態に係る電動機装置のコイルの結線を概略的に示す図であり、図10は、コイル結線の電気回路図である。なお、図2、3と同一の箇所には同一の符号を付している。 【0033】 図9、10に示すようにステータ10の中心よりも下側に配置された暖機運転用のU相用コイル131U、V相用コイル131V、W相用コイル131Wはそれぞれ第1電力供給装置31に直列に接続されている。一方、上側に配置された通常運転用のU相用コイル132U、V相用コイル132V、W相用コイル132Wはそれぞれ電力開閉器35を介して第1電力供給装置31に直列に接続されている。電力開閉器35はコントローラ30からの信号により開閉し、第1電力供給装置31から通常運転用コイル320への通電を許可または禁止する。」 エ 「【0045】 上記実施の形態では、電力供給装置31、32または電力供給装置31と電力開閉器35を制御して暖機運転時に暖機運転用コイル310のみに電力供給するようにしたが、少なくとも暖機運転時に、通常運転用コイル320よりも暖機運転用コイル310に優先的に電力供給するのであれば、電力供給手段の構成はこれに限らない。例えば暖機運転時に通常運転用コイル320に少量の電力を供給するようにしてもよい。」 オ 「図1 [図:0001414027000001.jpg] 」 カ 「図2 [図:0001414027000002.jpg] 」 キ 「図9 [図:0001414027000003.jpg] 」 (2)引用発明 ア 上記記載事項(1)アの「図1は、第1の実施の形態に係る電動機装置を構成する3相交流モータ100の内部構成を示す断面図である」との記載、及び上記記載事項(1)オ(図1)から、引用例1には、“電動機装置を構成する3相交流モータ100”が記載されているといえる。 同じく上記記載事項(1)アの「モータ100は、ハウジング1内に収容された略円筒形状のステータ10と、ステータ10の内側に回転可能に設けられたロータ20とを備える。ロータ20はロータ軸21とロータコア22とマグネット23とを有する…中略…ロータ軸21は、ハウジング1に取り付けられた軸受け3とカバー2に取り付けられた軸受け4とにより、略水平方向に回転可能に支持されている」との記載から、引用例1には、“モータ100は、ハウジング1内に収容された略円筒形状のステータ10と、ステータ10の内側に回転可能に設けられたロータ20とを備え、ロータ20はロータ軸21とロータコア22とマグネット23とを有し、ロータ軸21は、ハウジング1に取り付けられた軸受け3とカバー2に取り付けられた軸受け4とにより、略水平方向に回転可能に支持され”ることが記載されているといえる。 イ 上記記載事項(1)アの「ステータコア11に形成されたスロット12にコイル13を配設し、いわゆる分布巻構造のステータとして構成している」(【0011】)との記載から、引用例1には、“ステータ10は、ステータコア11に形成されたスロット12にコイル13を配設”することが記載されているといえる。 ウ 上記記載事項(1)アの「ハウジング1内には…中略…オイルが封入され…中略…ステータ10のコイルの下側約半分がオイルに浸っている」(【0009】)との記載から、引用例1には、“ハウジング1内にはオイルが封入され、ステータ10のコイルの下側約半分がオイルに浸って”いることが記載されているといえる。 エ 上記記載事項(1)アの「図1~図4を参照して本発明による電動機装置の第1の実施の形態について説明する(【0007】)…中略…図2は、ステータ10のコイルの結線を概略的に示す図である(【0011】)」との記載及び上記記載事項(1)カ(図2)、並びに、上記記載事項(1)ウの「図9~図11を参照して本発明による電動機装置の第4の実施の形態について説明する。…中略…第1の実施の形態では、一対の電力供給装置31、32により暖機運転用コイル310と通常運転用コイル320への通電を制御するようにしたが(【0032】)…中略…図9に示すように暖機運転用のU相用コイル131U、V相用コイル131V、W相用コイル131Wはそれぞれ第1電力供給装置31に直列に接続されている一方、上側に配置された通常運転用のU相用コイル132U、V相用コイル132V、W相用コイル132Wはそれぞれ電力開閉器35を介して第1電力供給装置31に直列に接続されている」との記載及び上記記載事項(1)キ(図9)の記載から、引用例1の「第1の実施の形態」で有していた「第1電力供給装置31および第2電力供給装置32」は、「第4の実施の形態」では、「電力供給装置31」に置き換えられることを読取ることができる。 オ 上記記載事項(1)イの「第1電力供給装置31および第2電力供給装置32は、モータ100に電力供給を行うための装置である。これら電力供給装置31、32はインバータなどで構成され」(【0015】)との記載、及び、上記エの“電力供給装置”に関する認定を踏まえると、引用例1には、第4の実施の形態として、“モータ100に電力供給を行うための装置である電力供給装置は、インバータなどで構成され”ることが記載されているといえる。 カ 上記記載事項(1)イの「油温が所定温度T0以下の…場合は、暖機運転が行われ、…中略…暖機運転用コイル310に約2倍の電流が流れる…これによりモータ100を駆動しつつ、油温を早期に上昇することができる」(【0020】)との記載から、引用例1には、“油温が所定温度T0以下の場合暖機運転が行われ、暖機運転用コイル310に約2倍の電流が流れることによりモータ100を駆動しつつ、油温を早期に上昇することができ”ることが記載されているといえる。 キ 上記記載事項(1)イの「コントローラ30からの3相交流電圧指令値に基づいて、バッテリ33からの直流電力をIGBTなどのパワー素子によりスイッチングし、3相交流電力に変換してモータ100に印加する」(【0015】)との記載から、引用例1には、“コントローラ30からの3相交流電圧指令値に基づいて、バッテリ33からの直流電力をIGBTなどのパワー素子によりスイッチングし、3相交流電力に変換してモータ100に印加”することが記載されているといえる。 ク 上記記載事項(1)エの「暖機運転時に、通常運転用コイル320よりも暖機運転用コイル310に優先的に電力供給するのであれば、電力供給手段の構成はこれに限らない…暖機運転時に通常運転用コイル320に少量の電力を供給するようにしてもよい」との記載から、引用例1には、“暖機運転時に、通常運転用コイル320よりも暖機運転用コイル310に優先的に電力供給するのであれば、電力供給手段の構成はこれに限らず、暖機運転時に通常運転用コイル320に少量の電力を供給するようにしてもよい”ことが記載されているといえる。 ケ 以上、上記ア~クより、引用例1には、次の発明(以下、「引用発明」という。)が記載されているといえる。 「電動機装置を構成する3相交流モータ100であって、 モータ100は、ハウジング1内に収容された略円筒形状のステータ10と、ステータ10の内側に回転可能に設けられたロータ20とを備え、ロータ20はロータ軸21とロータコア22とマグネット23とを有し、ロータ軸21は、ハウジング1に取り付けられた軸受け3とカバー2に取り付けられた軸受け4とにより、略水平方向に回転可能に支持され、 ステータ10は、ステータコア11に形成されたスロット12にコイル13を配設し、 ハウジング1内にはオイルが封入され、ステータ10のコイルの下側約半分がオイルに浸っており、 モータ100に電力供給を行うための装置である電力供給装置は、インバータなどで構成され、 油温が所定温度T0以下の場合暖機運転が行われ、暖機運転用コイル310に約2倍の電流が流れることによりモータ100を駆動しつつ、油温を早期に上昇することができ、 コントローラ30からの3相交流電圧指令値に基づいて、バッテリ33からの直流電力をIGBTなどのパワー素子によりスイッチングし、3相交流電力に変換してモータ100に印加し、 暖機運転時に、通常運転用コイル320よりも暖機運転用コイル310に優先的に電力供給するのであれば、電力供給手段の構成はこれに限らず、暖機運転時に通常運転用コイル320に少量の電力を供給するようにしてもよい 3相交流モータ100。」 5 対比 本件補正発明と引用発明とを対比する。 (1)引用発明の「3相交流モータ100」は、本件補正発明の「電動機」に相当する。 引用発明の「ロータ20」、「ステータ10」及び「ハウジング1」は、それぞれ本願発明発明の「回転子」、「固定子」及び「ハウジング」に相当する。 引用発明の「ロータ20」は、「ロータ軸21とロータコア22とマグネット23とを有」すると共に、「ロータ軸21は、ハウジング1に取り付けられた軸受け3とカバー2に取り付けられた軸受け4とにより、略水平方向に回転可能に支持され」るものであるところ、“回転自在に支持されている回転子”といえる。 引用発明の「ステータコア11」及び当該「ステータコア11に形成されたスロット12」に「配設」される「コイル13」は、それぞれ本件補正発明の「固定子コア」及び「多相の固定子巻線」に相当するといえ、「ロータ20」と「ステータ10」との関係は、「ロータ軸21」が「略水平方向に回転可能に支持され」ることを踏まえれば、「同軸に配置され」ているといえる。 また、引用発明の「ハウジング1内に収容された略円筒形状のステータ10」は、図1を参照しても明らかなように、引用発明の「ステータ10」は、「ハウジング1」に少なくとも“固定”されているといえる。 以上の対比を踏まえると、引用発明と本件補正発明とは、下記の点(相違点1)で相違するものの、“回転自在に支持されている回転子と、前記回転子と同軸に配置され、多相の固定子巻線が固定子コアに巻装されている固定子と、前記固定子を固定しているハウジングとを有する電動機”を備える点で一致する。 (2)引用発明の「インバータなどで構成され」る「電力供給装置」は、本件補正発明の「インバータ」に相当する。 引用発明の「電力供給装置」は、「モータ100に電力供給を行うための装置である」ところ、「モータ100に電力供給を行う」ことは、“モータの固定子巻線に電流を供給する”ことにほかならないから、引用発明は、本件補正発明の「前記固定子巻線に電流を供給するインバータ(60)」を備えるとの構成を有する。 (3)引用発明の「コントローラ30」は、本件補正発明の「制御部」に相当する。 引用発明の「コントローラ30」は、「3相交流電圧指令値に基づいて、バッテリ33からの直流電力をIGBTなどのパワー素子によりスイッチングし、3相交流電力に変換してモータ100に印加」するものであるところ、当該「3相交流電圧指令値」に応じて、「IGBTなどのパワー素子によりスイッチング」して、「電力供給装置」の出力を制御しているといえるから、引用発明は、本件補正発明の「前記インバータの出力を制御する制御部(90)」を備えるとの構成を有する。 (4)引用発明の「暖機運転」が実行されるモードは、本件補正発明の「予熱通電モード」に相当する。 引用発明の「コントローラ30」は、「3相交流電圧指令値に基づいて、バッテリ33からの直流電力をIGBTなどのパワー素子によりスイッチングし、3相交流電力に変換してモータ100に印加」するところ、「暖機運転用コイル310に約2倍の電流」を流すことによって、「油温を早期に上昇することができ」ることから、引用発明の「暖機運転」が実行されるモードは、“通電に伴う発熱を利用して温度を上昇させる予熱通電モード”であるといえる。 そして、引用発明の「コントローラ30」が、「バッテリ33からの直流電力をIGBTなどのパワー素子によりスイッチングし、3相交流電力に変換してモータ100に印加」することはすなわち、上記(3)の「制御部」に関する認定を踏まえると、制御部が、“固定子巻線に電流を通電することで”上記“予熱通電モード”が実行可能にされているといえ、また、「3相交流モータ100」、「電力供給装置」及び「コントローラ30」を合わせたものは、“電動機システム”であるといえるから、引用発明と本件補正発明とは、下記の点(相違点2)で相違するものの、“前記制御部は、前記固定子巻線に電流を通電することで、通電に伴う発熱を利用して温度を上昇させる予熱通電モードを実行可能である電動機システム”の点で一致する。 (5)以上、(1)~(4)の検討から、引用発明と本件補正発明とは、次の一致点及び相違点を有する。 〈一致点〉 回転自在に支持されている回転子と、前記回転子と同軸に配置され、多相の固定子巻線が固定子コアに巻装されている固定子と、前記固定子を固定しているハウジングとを有する電動機と、 前記固定子巻線に電流を供給するインバータと、 前記インバータの出力を制御する制御部とを備え、 前記制御部は、前記固定子巻線に電流を通電することで、通電に伴う発熱を利用して温度を上昇させる予熱通電モードを実行可能である電動機システム。 〈相違点1〉 本件補正発明の「ハウジング」は、「固定子」を「密着固定」するものであるのに対し、引用発明の「ハウジング1」が、「ステータ10」と密着固定することが特定されていない点。 〈相違点2〉 本件補正発明の「制御部」は、「多相のそれぞれにおいて、前記固定子の温度を上昇させるための電流が前記固定子巻線の全体に流れるように前記固定子巻線に電流を通電することで」「固定子」の温度を上昇させるのに対し、引用発明は、「油温を早期に上昇することができ」るものであるが、「ステータ10」の温度を上昇させることが特定されていない点。 6 判断 上記相違点につき検討する。 (1)相違点1について 引用例1には、「ハウジング1」と当該「ハウジング1内に収容された略円筒形状のステータ10」とは、どのような状態で固定されているかの詳細については記載が認められないものの、一般に、モータのハウジングと固定子との間は、何らかの方法で固定されなければ、例えば回転子の回転が固定子に対しても作用することによって、モータとしての機能を果たさなくなることは自明である。 また、図1の態様をみる限り、「ハウジング1」と「ステータ10」とは、密着して固定されているものと解するほかないから、引用発明においても、「ハウジング1」と「ステータ10」とは“密着固定”されているといい得ることから、相違点1は格別なものとはいえない。 (2)相違点2について 引用発明は、「暖機運転時に、通常運転用コイル320よりも暖機運転用コイル310に優先的に電力供給するのであれば、電力供給手段の構成はこれに限らず、暖機運転時に通常運転用コイル320に少量の電力を供給するようにしてもよい」ものでもあり、また、「暖機運転用コイル310」と「通常運転用コイル320」に電力を供給することはすなわち、「3相交流モータ100」の多相のそれぞれにおいて、固定子巻線の全体に油温を上昇させるための電流を通電することができるものといえる。 そして、「ステータ10」は、当該「ステータ10」の「コイルの下側約半分がオイルに浸って」いるものであって、当該「オイル」の「油温」が「上昇」することによって、「ステータ10」の温度が上昇することは自明であるから、引用発明において、「多相のそれぞれにおいて、前記固定子の温度を上昇させるための電流が前記固定子巻線の全体に流れるように前記固定子巻線に電流を通電することで」「固定子」の温度を上昇させるよう構成することは当業者にとって容易というほかない。 (3)むすび 以上検討したとおり、相違点1~2はいずれも格別なものではなく、またそのことによる効果も、当業者であれば普通に想起し得る程度のことに過ぎない。 したがって、本件補正発明は、引用発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法29条2項の規定により、特許出願の際独立して特許を受けることができないものである。 7 本件補正についてのむすび 以上のとおり、本件補正は特許法17条の2第6項において準用する同法126条7項の規定に違反するので、同法159条1項において読み替えて準用する同法53条1項の規定により却下すべきものである。 よって、上記補正の却下の決定の結論のとおり決定する。 第3 本願発明について 1 本願発明 令和5年11月1日にされた手続補正(本件補正)は、上記のとおり却下されたので、本願の請求項に係る発明は、願書に最初に添付された特許請求の範囲に記載された事項により特定されるものであるところ、その請求項1に係る発明(以下、「本願発明」という。)は、特許請求の範囲の請求項1に記載された事項により特定される、上記第2[理由]1(2)に記載のとおりのものである。 2 原査定の拒絶の理由 原査定の拒絶の理由は、この出願の請求項1~18に係る発明は、本願の出願日前に頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった下記の引用例1に記載された発明に基づいて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法29条2項の規定により特許を受けることができない、というものである。 引用例1:特開2008-283809号公報 3 引用例 原査定の拒絶の理由で引用された引用例1の記載事項は、前記第2の[理由]4に記載したとおりである。 4 対比・判断 本願発明は、前記第2の[理由]3で検討した本件補正発明から、「前記固定子巻線に電流を通電すること」に係る限定事項を削除したものである。 そうすると、本願発明の発明特定事項を全て含み、さらに他の事項を付加したものに相当する本件補正発明が、前記第2の[理由]5、6に示したとおり、引用発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、本願発明も、同様の理由により、引用発明に基づいて、当業者が容易に発明することができたものである。 第4 むすび 以上のとおり、本願発明は、本願出願前に頒布された引用例1に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法29条2項の規定により特許を受けることができない。 したがって、その余の請求項に係る発明について論及するまでもなく、本願は拒絶すべきものである。 よって、結論のとおり審決する。

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2023-018545

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