特許拒絶査定不服審判
2025-004390
車両用動力伝達装置
- 審判番号
- 2025-004390
- 法域
- 特許
- 審判種別
- 拒絶査定不服審判(拒絶査定不服の審決)
- 出願番号
- 特願2020-198768
- 請求日
- 2025年03月20日
- 審決日
- 2026年06月08日
- 公報発行日
- 2026年08月28日
- 結論
- 請求不成立
- 当事者
- 【請求人】株式会社SOKEN
- 【請求人代理人】弁理士法人あいち国際特許事務所
- 【請求人】株式会社デンソー
- 【請求人代理人】弁理士法人あいち国際特許事務所
- 審判長/審判官
- 審判長 中屋 裕一郎
- 審判官 尾形 元
- 審判官 石井 孝明
- 分類
- P18 .575-Z (F16C) / P18 .113-Z (F16C) / P18 .121-Z (F16C)
- 条文(本文から自動抽出・参考)
- 特許法第29条、特許法第17条の2第5項、特許法第29条第2項、特許法第17条の2第6項
- データ出所
- 審決公報(XML)
事件の表示
特願2020-198768「車両用動力伝達装置」拒絶査定不服審判事件〔令和4年6月9日出願公開、特開2022-86640〕について、次のとおり審決する。
結論
結 論
本件審判の請求は、成り立たない。
理由
理 由
第1 手続の経緯
本願は、令和2年11月30日の出願であって、その後の手続の概要は、以下のとおりである。
令和6年 7月 8日付け:拒絶理由通知
令和6年 9月10日 :意見書・手続補正書の提出
令和6年12月13日付け:拒絶査定
令和7年 3月20日 :審判請求書・手続補正書の提出
第2 令和7年3月20日にされた手続補正についての補正の却下の決定
[補正の却下の決定の結論]
令和7年3月20日にされた手続補正(以下、「本件補正」という。)を却下する。
[理由]
1 本件補正について
(1)本件補正後の特許請求の範囲
本件補正により、特許請求の範囲の請求項1の記載は、次のとおり補正された(下線は補正箇所である。)。
「 車両(1)の駆動輪(3)にインバータ(4)で制御される回転機(10)の駆動力を動力伝達経路(A)により伝達する車両用動力伝達装置(100,200,300,400,500)であって、
複数の回転軸(S1,S2,S3,S4)と、
上記複数の回転軸のそれぞれを回転可能に支持するベアリング(15,15A,15B,15C,15D,21,22,23)と、
上記複数の回転軸の間でそれぞれ動力伝達がなされる複数の動力伝達部(16,24,25)と、
を備え、
上記複数の回転軸には、上記複数の動力伝達部の中で静電容量を持つ動力伝達部(24,25)よりも上記動力伝達経路の上流側に位置する1または複数の上流側回転軸(S1,S2)が含まれており、
上記回転機は、ロータ(11)と、コイル(13)が巻き線されたステータ(12)と、上記ロータと一体回転するように設けられた上記上流側回転軸の一つである対象回転軸(S1)と、を備え、上記対象回転軸は上記動力伝達経路側を支持する上記ベアリングとしての導電性ベアリング(15,15A)及びコロベアリング(15B,15C,15D)の少なくとも一方を介して上記車両の車体(2)に電気的に接続されている、車両用動力伝達装置(100,200,300,400,500)。」
(2)本件補正前の特許請求の範囲
本件補正前の、特許請求の範囲の請求項1の記載は次のとおりである。
「 車両(1)の駆動輪(3)にインバータ(4)で制御される回転機(10)の駆動力を動力伝達経路(A)により伝達する車両用動力伝達装置(100,200,300,400,500)であって、
複数の回転軸(S1,S2,S3,S4)と、
上記複数の回転軸のそれぞれを回転可能に支持するベアリング(15,15A,15B,15C,15D,21,22,23)と、
上記複数の回転軸の間でそれぞれ動力伝達がなされる複数の動力伝達部(16,24,25)と、
を備え、
上記複数の回転軸には、上記複数の動力伝達部の中で静電容量を持つ動力伝達部(24,25)よりも上記動力伝達経路の上流側に位置する1または複数の上流側回転軸(S1,S2)が含まれており、上流側回転軸のうちの対象回転軸(S1)が上記ベアリングとしての導電性ベアリング(15,15A)及びコロベアリング(15B,15C,15D)の少なくとも一方を介して上記車両の車体(2)に電気的に接続されている、車両用動力伝達装置(100,200,300,400,500)。」
2 補正の適否
本件補正は、本件補正前の請求項1に記載された発明を特定するために必要な事項である「上流側回転軸のうちの対象回転軸(S1)」について、「上記ロータと一体回転するように設けられた」との事項により限定しつつ、本件補正前の請求項1に記載された発明を特定するために必要な事項である「回転機」について、「ロータ(11)と、コイル(13)が巻き線されたステータ(12)と、上記ロータと一体回転するように設けられた上記上流側回転軸の一つである対象回転軸(S1)と、を備え」との事項により限定するものであり、また、「上記車両の車体(2)に電気的に接続されている」「上記ベアリング」について、「上記動力伝達経路側を支持する」との事項により限定するものであり、補正前の請求項1に記載された発明と補正後の請求項1に記載される発明の産業上の利用分野及び解決しようとする課題が同一であるから、特許法17条の2第5項2号の特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。
そこで、本件補正後の請求項1に記載される発明(以下「本件補正発明」という。)が同条第6項において準用する同法第126条第7項の規定に適合するか(特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるか)について、以下、検討する。
(1)本件補正発明
本件補正発明は、上記1(1)に記載したとおりのものである。
(2)引用文献1の記載事項等
ア 引用文献1に記載された事項
原査定の拒絶の理由で引用された引用文献1(特開2000-310296号公報)には、次の記載がある(下線は当審で付したもの。以下同様。)。
「【技術分野】
【0001】
本発明は、車両用動力伝達装置に関する。
【0002】
【従来の技術】
電気自動車用駆動装置の一形式として、オンボード型の駆動装置がある。この駆動装置を用いた駆動形式では、車両のボディに搭載された駆動装置と、ボディにサスペンションを介して支持されたホイールとをドライブシャフトを介して連結する構成とされ、駆動装置は、例えば、モータの動力をリダクションギヤを兼ねるカウンタギヤ機構を経てディファレンシャル装置に伝達し、ドライブシャフトを経た動力で車輪を駆動すべく、モータ軸を第1軸、カウンタギヤ機構のカウンタ軸を第2軸、そしてディファレンシャル装置のデフ軸を第3軸とする3軸構成が採られる。
【0003】
【発明が解決しようとする課題】
ところで、上記のようなオンボード型の駆動装置を用いた電気自動車において、走行中に、車載ラジオに高周波のノイズが混入する現象が発見された。このノイズ源とその発生メカニズムについて探究したところ、このノイズは、モータを制御するインバータを発生源とし、次のような理由により放射されてラジオに受信されることが判明した。すなわち、電気自動車用駆動装置は、燃焼機関を原動機とする駆動装置が通常備えるようなクラッチやトルクコンバータ等の発進装置が不要のため、動力源としてのモータとドライブシャフトは直結されている。このため、図5に前記3軸構成の駆動装置の一例を模式化して示すように、インバータaで発生するインバータノイズ(図にノイズの伝導経路を太線矢印で示す)が、パワーケーブルbとモータコイルcを経てモータロータdに伝わり、更に、モータロータdからギヤ対eとドライブシャフトfを経てタイヤhにより絶縁されたサスペンションgに伝播する。このように、途中のどの部位からもボディアースされることがないため、インバータノイズは、ドライブシャフトfやサスペンションg付近からそれらをアンテナとして放射され、ラジオ受信に影響を与えるわけである。」
「【0005】そこで、本発明は、ドライブシャフトに至る軸のいずれかをケースを介してボディアースすることで、インバータノイズの駆動装置外への放射を防いだ電気自動車用駆動装置を提供することを目的とする。
【0006】
【課題を解決するための手段】
上記の目的を達成するため、本発明は、モータの動力をディファレンシャル装置を介してドライブシャフトに伝達する電気自動車用駆動装置であって、モータのロータ軸とドライブシャフトに連結されるディファレンシャル装置のヨーク軸とを含む各軸が、それぞれベアリングを介してケースに支持されたものにおいて、前記ベアリングのいずれかに、導電グリスが封入されたことを特徴とする。」
「【0014】
【発明の実施の形態】
以下、図面に沿い、本発明の実施形態を説明する。まず図1は、本発明が適用される電気自動車用駆動装置の第1実施形態を示す。この装置は、モータMの動力をディファレンシャル装置Dを介して図示しないドライブシャフトに伝達する構成とされており、モータMと、カウンタギヤ機構Gと、ディファレンシャル装置Dとを備えている。モータMは、駆動装置のケース10に固定されたステータ2と、ロータ軸30の両端を一対のベアリング51,52を介してケース10の隔壁及び外壁に支持されて、ステータ2内で回転するロータ3とからなる。
【0015】
ディファレンシャル装置Dは、周知のベベルギヤからなる差動ギヤと、それを収容するデフケース80と、デフケース80に固定されたデフリングギヤ81とから構成されており、デフケース80の両端は、ベアリング57,58を介してケース10の外壁及び隔壁に支持されている。そして、デフケース80内の差動ギヤはユニバーサルジョイントを介して、図示しない左右のドライブシャフトに連結すべく、デフケース80内に挿入支持されたヨーク軸(図にせず)にスプライン係合で連結され、一方の延長されたヨーク軸の他端部は、ケース10の外壁にベアリング59を介して支持されている。
【0016】
モータMとディファレンシャル装置Dは、減速機構を兼ねるカウンタギヤ機構Gを介して連結されている。カウンタギヤ機構Gは、一端をベアリング53を介してケース10の外壁に支持され、他端をベアリング54を介してケース10の隔壁に支持され、スプライン嵌合でロータ軸30に連結されたギヤ軸40と、同様にベアリング55,56を介してそれぞれの端部をケース10の外壁及び隔壁に支持され、ギヤ軸40に一体形成されたカウンタドライブギヤ41に噛み合う大径のカウンタドリブンギヤ71と、カウンタ軸70の他端側に一体に形成され、ディファレンシャル装置Dのデフリングギヤ81に噛み合う小径のデフドライブピニオンギヤ72とから構成されている。」
「【0018】
なお、図において、符号Cは、図示しないインバータとステータコイルとをつなぐ給電ケーブル、符号6はロータの回転位相を検出するレゾルバ、各符号91,92,93は潤滑油のケース10外への漏出しを防ぐオイルシールを示す。」
「【0021】
こうした構成によると、図示しないインバータから給電ケーブルCを経てステータコイル21に伝播し、更にロータ3に伝わったインバータノイズは、ロータ軸30からベアリング52を経てケース10に接地され、ケース10から車両のボディにアースされることになる。したがって、この経路によるケース10内でのノイズの遮断で、ドライブシャフトへのノイズの伝播は防止される。」
「【0025】
次に、図3は第3実施形態を示すもので、この形態では、ベアリング自体を利用したノイズ防止対策が成されている。具体的には、ベアリング52Aは、アウタレース52aとインナレース52bとの間を漏れ止めするシールプレート52cを備える密閉式のものとし、ベアリング52Aの中に導電グリス52dを詰めた構成とされている。
【0026】
こうした構成によっても、前記第1、第2実施形態の場合と同様の経路での接地が成され、しかも、駆動装置に既存のベアリングのみを用いた導通により軸をケースに接地することができるため、ベアリングを改変するのみで、他の部品や駆動装置の改変が不要なノイズ伝達経路のボディアースが可能となる。インバータノイズが遮断される。」
「【図1】
[図:0001437995000001.jpg]
」
「【図3】
[図:0001437995000002.jpg]
」
イ 引用文献1に記載された発明
上記アから、次のことがいえる。
(ア)電気自動車用駆動装置はモータMの動力をドライブシャフトに伝達する点(【0014】、図1)から、ドライブシャフトは車輪に接続されていることは自明であるので、車輪にモータMの動力を伝達するものといえる。また、インバータとステータコイルとが給電ケーブルでつながっている点(【0018】)、モータMがステータ2を有する点(【0014】、図1)から、モータはインバータで制御されるものといえる。そうすると、電気自動車用の駆動装置は、車輪にインバータで制御されるモータの動力を伝達するものといえる。
(イ)モータMが、ロータ軸30、該ロータ軸30の両端をケース10に支持する一対のベアリング51、52を有する(【0014】、図1)。
(ウ)カウンタギヤ機構Gが、ギヤ軸40と、該ギヤ軸40の一端をケース10の外壁に支持するベアリング53と、該ギヤ軸40の他端をケース10の隔壁に支持するベアリング54と、を有する(【0016】、図1)。
「ベアリング55,56を介してそれぞれの端部をケース10の外壁及び隔壁に支持され、ギヤ軸40に一体形成されたカウンタドライブギヤ41に噛み合う大径のカウンタドリブンギヤ71」(【0016】)との記載に関し、図1からは、カウンタドリブンギヤ71が直接的にベアリング55、56を介してそれぞれの端部をケース10の外壁及び隔壁に支持されるのでなく、カウンタ軸70がベアリング55,56を介してそれぞれの端部をケース10の外壁及び隔壁に支持されることにより、カウンタドリブンギヤ71がケース10の外壁及び隔壁に支持される点が看て取れる。そうすると、カウンタギヤ機構Gは、カウンタ軸70と、該カウンタ軸70のそれぞれの端部をケース10の外壁及び隔壁に支持するベアリング55、56を有するといえる。
カウンタギヤ機構Gのギヤ軸40が「スプライン嵌合でロータ軸30に連結され」る(【0016】)ことから、カウンタギヤ機構Gが、ギヤ軸40に設けたロータ軸30とスプライン嵌合する部分(以下「スプライン嵌合部」という。)を有するといえる。
さらに、カウンタギヤ機構Gは、ギヤ軸40に一体形成されたカウンタドライブギヤ41とそれに噛み合うカウンタ軸70上のカウンタドリブンギヤ71からなるギヤ対(【0016】、図1)を有するといえる。
(エ)上記(ア)~(ウ)及び、図1から看て取れる各モータM及びカウンタギヤ機構Gが有する各構成の配置及び相互接続関係から、モータMの動力は、ロータ軸30、ギヤ軸40に設けたスプライン嵌合部、ギヤ軸40、カウンタドライブギヤ41とカウンタドリブンギヤ71からなるギヤ対、カウンタ軸70によって、この順で構成された経路を介して車輪に伝達される、といえる。
(オ)モータMは、ロータ軸30を含み、ステータ2内で回転するロータ3と、ステータ2とからなる(【0014】)。このステータ2に関し、「なお、図において、符号Cは、図示しないインバータとステータコイルとをつなぐ給電ケーブル」との記載(【0018】)、「図示しないインバータから給電ケーブルCを経てステータコイル21に伝播し、更にロータ3に伝わったインバータノイズは 」との記載(【0021】)、図1から、ステータ2は、ステータコイル21を備えているといえる。
(カ)上記(イ)のロータ軸30の両端をケース10の隔壁及び外壁に支持する一対のベアリング51、52に関し、図3に示された第3実施形態を採用する場合(【0025】、図3)、その内のギヤ軸40とは反対側の端を支持するベアリング52(図3)を、中に導電グリス52dを詰めた構成とされたベアリング52Aとすることで、「ベアリング自体を利用したノイズ防止対策」が成される。
また、この「ベアリング自体を利用したノイズ防止対策」とは、ロータ3に伝わったインバータノイズを、ロータ軸からベアリング52Aを経てケース10に接地し、ケース10から車両のボディにアースすることである(【0025】)。
上記アの記載、及び上記(ア)~(カ)から、引用文献1には、第3実施形態を採用した電気自動車用駆動装置として、次の発明(以下、「引用発明」という。)が記載されているといえる。
[引用発明]
「車輪にインバータで制御されるモータMの動力を伝達する電気自動車用駆動装置であって、
モータMが、ロータ軸30、該ロータ軸30の両端をケース10に支持する一対のベアリング51、52を有し、
カウンタギヤ機構Gが、ギヤ軸40、該ギヤ軸40の一端をケース10の外壁に支持するベアリング53、該ギヤ軸40の他端をケース10の隔壁に支持するベアリング54、カウンタ軸70、該カウンタ軸70のそれぞれの端部をケース10の外壁及び隔壁に支持するベアリング55、56、前記ギヤ軸40に設けた前記ロータ軸30とのスプライン嵌合部、前記ギヤ軸40に一体形成されたカウンタドライブギヤ41とそれに噛み合う前記カウンタ軸70上のカウンタドリブンギヤ71からなるギヤ対を有し、
前記モータMの動力は、前記ロータ軸30、前記ギヤ軸40に設けた前記スプライン嵌合部、前記ギヤ軸40、前記カウンタドライブギヤ41と前記カウンタドリブンギヤ71からなる前記ギヤ対、前記カウンタ軸70によって、この順で構成された経路を介して車輪に伝達されており、
前記モータMは、前記ロータ軸30を含み、ステータ2内で回転するロータ3と、ステータコイル21を備えたステータ2とからなり、
前記ロータ軸30の前記ギヤ軸40とは反対側の端を支持するベアリング52を、中に導電グリス52dを詰めた構成とされたベアリング52Aとし、前記ロータ3に伝わったインバータノイズを、前記ロータ軸30から前記ベアリング52Aを経て前記ケース10に接地し、前記ケース10から車両のボディにアースする、電気自動車用駆動装置。」
(3)引用発明との対比
本件補正発明と引用発明とを対比する。
ア 後者の「車輪」、「モータM」、「動力」は、それぞれ前者の「車両の駆動輪」、「回転機」、「駆動力」に相当する。また、後者は、「モータMの動力を伝達する」ものであるが、より詳細には、「前記モータMの動力が、前記ロータ軸30、前記ギヤ軸40に設けた前記スプライン嵌合部、前記ギヤ軸40、前記カウンタドライブギヤ41と前記カウンタドリブンギヤ71からなる前記ギヤ対、前記カウンタ軸70によって、この順で構成された経路を介して車輪に伝達され」るものである。この後者の「前記ロータ軸30、前記ギヤ軸40に設けた前記スプライン嵌合部、前記ギヤ軸40、前記カウンタドライブギヤ41と前記カウンタドリブンギヤ71からなる前記ギヤ対、前記カウンタ軸70によって、この順で構成された経路」が前者の「動力伝達経路」に相当する。そして、後者の「電気自動車用駆動装置」は、前者の「車両用動力伝達装置」に相当する。
イ 後者のモータMが有する「ロータ軸30」並びにカウンタギヤ機構Gが有する「ギヤ軸40」及び「カウンタ軸70」が、前者の「複数の回転軸」に相当する。
後者のモータMが有する「該ロータ軸30の両端をケース10の隔壁及び外壁に支持する一対のベアリング51、52」並びにカウンタギヤ機構Gが有する「該ギヤ軸40の一端をケース10の外壁に支持するベアリング53、該ギヤ軸40の他端をケース10の隔壁に支持するベアリング54」及び「該カウンタ軸70のそれぞれの端部を前記ケース10の外壁及び隔壁に支持するベアリング55、56」が前者の「上記複数の回転軸のそれぞれを回転可能に支持するベアリング」に相当する。
後者のカウンタギヤ機構Gが有する「ギヤ軸40に設けた前記ロータ軸30とのスプライン嵌合部」はロータ軸30とギヤ軸40との間で動力を伝達し、「前記ギヤ軸40に一体形成されたカウンタドライブギヤ41とそれに噛み合う前記カウンタ軸70上のカウンタドリブンギヤ71からなるギヤ対」とはギヤ軸40とカウンタ軸70との間で動力を伝達するから、後者のカウンタギヤ機構Gが有する「ギヤ軸40に設けた前記ロータ軸30とのスプライン嵌合部」と「前記ギヤ軸40に一体形成されたカウンタドライブギヤ41とそれに噛み合う前記カウンタ軸70上のカウンタドリブンギヤ71からなるギヤ対」とは、前者の「上記複数の回転軸の間でそれぞれ動力伝達がなされる複数の動力伝達部」に相当する。
後者において、「電気自動車用駆動装置」の「前記モータM」が「一対のベアリング51、52を有」すること、及び「前記カウンタギヤ機構G」が「ギヤ軸40」、「ベアリング53」、「ベアリング54」、「カウンタ軸70」、「ベアリング55、56」、「スプライン嵌合部」、「ギヤ対を有」することは、前者において、「車両用動力伝達装置」が「複数の回転軸」、「上記複数の回転軸のそれぞれを回転可能に支持するベアリング」、「上記複数の回転軸の間でそれぞれ動力伝達がなされる複数の動力伝達部」を「備え」ることに相当する。
ウ 後者の「前記カウンタドライブギヤ41と前記カウンタドリブンギヤ71からなる前記ギヤ対」は、前者の「上記複数の動力伝達部の中で静電容量を持つ動力伝達部」に相当する。
後者の「前記ロータ軸30、前記ギヤ軸40に設けた前記スプライン嵌合部、前記ギヤ軸40、前記カウンタドライブギヤ41と前記カウンタドリブンギヤ71からなる前記ギヤ対、前記カウンタ軸70によって、この順で構成された経路」において、「前記ロータ軸30」、「前記ギヤ軸40」は、「前記カウンタドライブギヤ41と前記カウンタドリブンギヤ71からなる前記ギヤ対」よりも、動力源であるモータMに近い側にある。よって、後者の「前記ロータ軸30」、「前記ギヤ軸40」、「記カウンタ軸70」のうち、「前記ロータ軸30」及び「前記ギヤ軸40」が前者の「上記複数の動力伝達部の中で静電容量を持つ動力伝達部よりも上記動力伝達経路の上流側に位置する1または複数の上流側回転軸」に相当する。
そうすると、後者において、「前記モータMが、」「ロータ軸30」「を有し」、「前記カウンタギヤ機構Gが、ギヤ軸40、」「カウンタ軸70」「を有し」、「前記モータMの動力は、前記ロータ軸30、前記ギヤ軸40に設けた前記スプライン嵌合部、前記ギヤ軸40、前記カウンタドライブギヤ41と前記カウンタドリブンギヤ71からなる前記ギヤ対、前記カウンタ軸70によって、この順で構成された経路を介して車輪に伝達され」るという事項は、前者の「上記複数の回転軸には、上記複数の動力伝達部の中で静電容量を持つ動力伝達部よりも上記動力伝達経路の上流側に位置する1または複数の上流側回転軸が含まれて」いるという事項に相当する。
エ 後者の「ロータ3」は、前者の「ロータ」に相当する。また、後者の「ステータ2」は、前者の「ステータ」に相当するものであり、ステータコイル21が設けられる様態として、「巻き線された」態様であることは自明であるので、後者の「ステータコイル21を備えたステータ2」は、前者の「コイルが巻き線されたステータ」に相当する。そして、後者の「ロータ3」が「前記ロータ軸30を含み、ステータ2内で回転する」という事項は、前者の「上流側回転軸の一つである対象回転軸」が「ロータと一体回転するように設けられた」という事項に相当する。
オ 後者の「中に導電グリス52dを詰めた構成とされたベアリング52Aとし」た「前記ロータ軸30の前記ギヤ軸40とは反対側の端を支持するベアリング52」は、前者の「対象回転軸」「を支持する上記ベアリングとしての導電性ベアリング(15,15A)」に相当する。また、後者の「前記ロータ3に伝わったインバータノイズを、前記ロータ軸30から前記ベアリング52Aを経て前記ケース10に接地し、前記ケース10から車両のボディにアースする」という事項は、前者の「上記対象回転軸」が「支持するベアリングとしての導電性ベアリング」「を介して車両の車体に電気的に接続されている」という事項に相当する。
カ 以上のとおりであるから、本件補正発明と引用発明の一致点及び相違点は次のとおりとなる。
[一致点]
「車両の駆動輪にインバータで制御される回転機の駆動力を動力伝達経路により伝達する車両用動力伝達装置であって、
複数の回転軸と、
上記複数の回転軸のそれぞれを回転可能に支持するベアリングと、
上記複数の回転軸の間でそれぞれ動力伝達がなされる複数の動力伝達部と、
を備え、
上記複数の回転軸には、上記複数の動力伝達部の中で静電容量を持つ動力伝達部よりも上記動力伝達経路の上流側に位置する1または複数の上流側回転軸が含まれており、
上記回転機は、ロータと、コイルが巻き線されたステータと、上記ロータと一体回転するように設けられた上記上流側回転軸の一つである対象回転軸と、を備え、上記対象回転軸は支持する導電性ベアリングを介して上記車両の車体に電気的に接続されている、車両用動力伝達装置。」
[相違点1]
本件補正発明は、上記ロータと一体回転するように設けられた上記上流側回転軸の一つである対象回転軸を支持し、上記車両の車体に電気的に接続するベアリングが、「上記動力伝達経路側を支持」するのに対し、引用発明では、「前記ロータ軸30」を「支持」し、「前記ロータ3」に伝わったインバータノイズを、「前記ロータ軸30」から「前記ベアリング52Aを経て前記ケース10に接地し、前記ケース10から車両のボディにアースする」「ベアリング52A」が、「前記ロータ軸30の前記ギヤ軸40とは反対側の端を支持する」点。
(4)判断
以下、相違点1について検討する。
ア 相違点1について
引用文献1の段落【0025】及び【0026】の記載によれば、引用発明の「前記ギヤ軸40とは反対側の端を支持するベアリング52を、中に導電グリス52dを詰めた構成とされたベアリング52Aとし」たことは、「駆動装置に既存のベアリングのみを用いた導通により軸をケースに接地することができる」という効果を奏することを意図したものであるところ、引用発明には、既存のベアリングとして、「前記ギヤ軸40とは反対側の端を支持するベアリング52」の他に、「ベアリング51」が存在する。
そして、引用発明は「前記ベアリングのいずれかに、導電グリスが封入されたことを特徴とする」(段落【0006】)ことを前提とする発明であって、「ベアリング51」を「中に導電グリス52dを詰めた構成と」することを阻害する要因は存在しない。
そうすると、引用発明において、「ベアリング52」に替えて「ベアリング51」の中に導電グリスを詰めた構成とする、又は、「ベアリング52」に加えて「ベアリング51」の中にも導電グリスを詰めた構成とすることで、上記相違点に係る本願補正発明のように構成することは、当業者が引用発明を具体化するにあたり採用し得る設計変更であって、当業者の通常の創作能力の発揮に過ぎない。
よって、本件補正発明は、引用発明に基いて当業者が容易に発明することができたものである。
イ 請求人の主張について
(ア)上記相違点1に関連し、審判請求人(出願人)は、令和7年3月20日に提出した審判請求書において、「上記相違点について、本願請求項1に係る発明によれば、対象回転軸に適用する動力伝達経路側のベアリングを導電性ベアリングとコロベアリングの少なくとも一方で構成することによって、はじめて、動力伝達経路側のベアリングでの放電の発生を抑制して、動力伝達経路の下流まで伝播して放射されるラジオノイズを低減できるという有利な作用効果を得ることができます。 ところが、引用例1のように、ロータ30の反動力伝達経路側に導電グリス52dを詰めた構成を有するベアリング52Aを設けた場合、ロータ30反動力伝達経路側のベアリング51(引用例1の図1を参照)において放電の発生を抑制して動力伝達経路の下流まで伝播して放射されるラジオノイズを低減できるとはいえず、本願請求項1に係る発明のような上記作用効果が得られるものではありません。また、引用例1において上記f要件のように構成することは、当業者が実利的な効果測定を積み上げつつ設計変更を行う必要があり、相当の試行錯誤を要するものと判断されます。 よって、本願請求項1に係る発明は、たとえ当業者といえども容易に想到できるものではなく、引用例1の記載の発明に対して進歩性を有します。」と主張する。
(イ)そこで、ラジオノイズの低減という作用の機序に着目すると、本願の発明の詳細な説明において、段落【0038】に「相対的に大きい静電容量を持つ動力伝達部24,25に適用されるベアリング22,23で接地した場合、動力伝達経路Aにおいてそれよりも上流側に位置する回転軸S1まで接地効果がいきわたらず、回転軸S1で矩形波状の軸電圧が生じ得る。これにより、回転軸S1に適用するベアリング等で電気抵抗の急激な変化が発生する。このときの電気抵抗の急激な変化は、ベアリングの放電(絶縁破壊)やベアリングの機械的な接触、減速機20におけるギア同士の金属接触等によって発生する。この電気抵抗の急激な変化によって生じる大きなインバータノイズは、動力伝達経路の下流まで伝播して放射されるラジオノイズになる。」(下線は当審合議体が付したもの。以下、同様。)、段落【0039】に「ここで、回転軸S1とケース10a(図2を参照)がベアリング15を介して一定のインピーダンスをもって接続されている。回転軸S1とケース10aとの間のインピーダンスが回転軸S1と回転軸S2,S3或いは回転軸S4との間のインピーダンスを下回るようにすることで、インバータノイズが動力伝達経路の下流まで伝播するのを抑制できる。このために、ベアリング15のインピーダンスを下げるのが有効である。ベアリング15のインピーダンスを下げることで、回転軸S1とケース10aとの間のインピーダンスを低減できる。」、段落【0049】に「なお、上述の実施形態1,2では、回転軸S1に適用される2つのベアリングと、回転軸S2に適用される2つのベアリングと、の4つのベアリングのうちの少なくとも1つを、実施形態1,2での技術的特徴を有する導電性ベアリングとすることができる。」とそれぞれ記載されている。
以上の記載によれば、本願の発明の詳細な説明には、「ベアリング15のインピーダンスを下げることで、回転軸S1とケース10aとの間のインピーダンスを低減でき」、そうすることで「インバータノイズが動力伝達経路の下流まで伝播するのを抑制でき」、その結果「動力伝達経路の下流まで伝播して放射されるラジオノイズ」が低減され、また、「ベアリング15のインピーダンスを下げる」ための具体的構成として、「ベアリング15の」「うちの少なくとも1つを実施形態1、2での技術的特徴を有する導電性ベアリングとする」ことが記載されているといえる。
そうすると、原告が主張する「対象回転軸に適用する動力伝達経路側のベアリングを導電性ベアリングとコロベアリングの少なくとも一方で構成することによって、はじめて、動力伝達経路側のベアリングでの放電の発生を抑制して、動力伝達経路の下流まで伝播して放射されるラジオノイズを低減できる」ということは、上記本願の発明の詳細な説明の記載に反するものであるから、採用することはできない。
したがって、本件補正発明の奏する作用効果は、引用発明の技術的事項の奏する作用効果から予測される範囲内のものにすぎず、格別顕著なものということはできない。
(ウ)以上より、出願人の主張は採用できない。
ウ 小括
したがって、本件補正発明は、引用発明の技術的事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により、特許出願の際独立して特許を受けることができないものである。
3 本件補正についてのむすび
以上のとおりであるから、本件補正は、特許法17条の2第6項において準用する同法126条7項の規定に違反するので、同法159条1項の規定において読み替えて準用する同法53条1項の規定により却下すべきものである。
よって、上記補正の却下の決定の結論のとおり決定する。
第3 本願発明について
1 本願発明
令和7年3月20日にされた手続補正は、上記のとおり却下されたので、本願の請求項1~6に係る発明は、願書に最初に添付した特許請求の範囲の請求項1~6に記載された事項により特定されるものであるところ、その請求項1に係る発明(以下、「本願発明」という。)は、その請求項1に記載された事項により特定される、上記第2[理由]1(2)に記載のとおりのものである。
2 原査定の拒絶の理由
原査定の拒絶の理由は、この出願の請求項1に係る発明は、本願の出願日前に頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった下記の引用文献1に記載された発明であるから、特許法29条1項3号の規定により特許を受けることができない、及び、本願の出願日前に頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった下記の引用文献1に記載された発明に基づいて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法29条2項の規定により特許を受けることができない、というものである。
引用文献1:特開2000-310296号公報
3 引用文献1の記載事項
原査定の拒絶の理由で引用された引用文献1は、上記第2の[理由]2(2)の引用文献1と同じであり、引用文献1の記載は、上記第2の[理由]2(2)に記載したとおりである。
4 対比・判断
本願発明は、前記第2の[理由]2で検討した本件補正発明から、「回転機」に係る限定事項である「ロータ(11)と、コイル(13)が巻き線されたステータ(12)と、上記ロータと一体回転するように設けられた上記上流側回転軸の一つである対象回転軸(S1)と、を備え」る点、及び、「上流側回転軸のうちの対象回転軸(S1)」に係る限定事項である「電気的に接続されている」「ベアリング」が「上記動力伝達経路側を支持する」点を削除したものである。そして、この「上流側回転軸のうちの対象回転軸(S1)」に係る限定事項である「電気的に接続されている」「ベアリング」が「上記動力伝達経路側を支持する」点は、上記第2の[理由]2(3)の相違点1に係る本件補正発明の発明特定事項である。
そうすると、本願発明は、上記第2の2(3)の本願補正発明と引用発明との対比を踏まえれば、本願発明は引用発明である。
また、本件補正発明が、上記第2の[理由]2(4)に記載したとおり、引用発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものである以上、相違点1に係る発明特定事項が削除された本願発明が、引用発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであることも明らかである。
第4 むすび
以上のとおりであるから、本願発明は、特許法29条1項3号の規定により、特許を受けることができない。また、本願発明は、特許法29条2項の規定により、特許を受けることができない。
したがって、他の請求項に係る発明について検討するまでもなく、本願は拒絶すべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
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2025-004390