特許拒絶査定不服審判
2021-008509
負荷駆動装置
- 審判番号
- 2021-008509
- 法域
- 特許
- 審判種別
- 拒絶査定不服審判(拒絶査定不服の審決)
- 出願番号
- 特願2017-229058
- 請求日
- 2021年06月29日
- 審決日
- 2022年01月19日
- 公報発行日
- 2022年04月28日
- 結論
- 請求不成立
- 当事者
- 【請求人】株式会社IHIインフラシステム
- 【請求人代理人】長門 侃二
- 審判長/審判官
- 審判長 小川 恭司
- 審判官 柿崎 拓
- 審判官 熊谷 健治
- 分類
- P18 .572-Z (H02P) / P18 .575-Z (H02P) / P18 .121-Z (H02P)
- 根拠条文(結論部分から自動抽出・参考)
- 特許法29条2項
- 条文(本文から自動抽出・参考)
- 特許法第29条第2項、特許法第17条の2第5項第2号、特許法第17条の2第6項
- データ出所
- 審決公報(XML)
事件の表示
特願2017-229058「負荷駆動装置」拒絶査定不服審判事件〔令和元年6月24日出願公開、特開2019-103177〕について、次のとおり審決する。
結論
結 論
本件審判の請求は、成り立たない。
理由
理 由
第1 手続の経緯
この出願は、平成29年11月29日の出願であって、令和3年1月29日付けの拒絶理由の通知に対し、令和3年3月23日に意見書が提出されたが、令和3年5月6日付けで拒絶査定がされ、これに対して令和3年6月29日に拒絶査定不服審判の請求がされると同時に手続補正がされたものである。
第2 令和3年6月29日にされた手続補正についての補正の却下の決定
[補正の却下の決定の結論]
令和3年6月29日にされた手続補正(以下、「本件補正」という。)を却下する。
[理由]
1.本件補正について(補正の内容)
(1)本件補正後の特許請求の範囲の記載
本件補正により、特許請求の範囲の記載は、次のとおり補正された(下線部は、補正箇所である。)。
「【請求項1】
慣性負荷を往復移動させる電動機と、
入力交流電力を変換して直流電力エネルギーを得るPWMコンバータと、
前記コンバータを介して得られた直流電力エネルギーを蓄積するリチウムイオン電池と、
前記コンバータを介して得られた直流電力エネルギー、又は前記リチウムイオン電池に蓄積された直流電力エネルギーの少なくとも一つを用いて、前記電動機を駆動するインバータと、
前記インバータの作動を制御する制振制御部と、
を具備する負荷駆動装置。
【請求項2】
前記インバータは、前記電動機が力行状態にある場合、前記PWMコンバータを介して得られた直流電力エネルギー、及び前記リチウムイオン電池に蓄積された直流電力エネルギーを用いて前記電動機を駆動する、請求項1に記載の負荷駆動装置。
【請求項3】
前記インバータは、前記リチウムイオン電池に蓄積された直流電力エネルギーを優先して用いる、請求項2に記載の負荷駆動装置。
【請求項4】
前記リチウムイオン電池は、前記電動機が回生状態にある場合、前記電動機において発生する回生電力エネルギーを蓄積する、請求項1から請求項3のいずれか一項に記載の負荷駆動装置。
【請求項5】
前記リチウムイオン電池は、停電時において、前記インバータを介して前記電動機を一定時間駆動させる容量の分だけ、前記直流電力エネルギーを蓄積する、請求項1から請求項4のいずれか一項に記載の負荷駆動装置。
【請求項6】
前記リチウムイオン電池における直流電力エネルギーの最大蓄積量は、地殻変動、及び気象を考慮して設定する、請求項1から請求項5のいずれか一項に記載の負荷駆動装置。
【請求項7】
前記リチウムイオン電池における直流電力エネルギーの最大蓄積量は、前記電動機の使用率を考慮して設定する、請求項1から請求項6のいずれか一項に記載の負荷駆動装置。」
(2)本件補正前の特許請求の範囲の記載
本件補正前の、この出願の願書に最初に添付された特許請求の範囲の記載は、次のとおりである。
「【請求項1】
慣性負荷を往復移動させる電動機と、
入力交流電力を変換して直流電力エネルギーを得るコンバータと、
前記コンバータを介して得られた直流電力エネルギーを蓄積するリチウムイオン電池と、
前記コンバータを介して得られた直流電力エネルギー、又は前記リチウムイオン電池に蓄積された直流電力エネルギーの少なくとも一つを用いて、前記電動機を駆動するインバータと、
前記インバータの作動を制御する制振制御部と、
を具備する負荷駆動装置。
【請求項2】
前記インバータは、前記電動機が力行状態にある場合、前記コンバータを介して得られた直流電力エネルギー、及び前記リチウムイオン電池に蓄積された直流電力エネルギーを用いて前記電動機を駆動する、請求項1に記載の負荷駆動装置。
【請求項3】
前記インバータは、前記リチウムイオン電池に蓄積された直流電力エネルギーを優先して用いる、請求項2に記載の負荷駆動装置。
【請求項4】
前記リチウムイオン電池は、前記電動機が回生状態にある場合、前記電動機において発生する回生電力エネルギーを蓄積する、請求項1から請求項3のいずれか一項に記載の負荷駆動装置。
【請求項5】
前記リチウムイオン電池は、停電時において、前記インバータを介して前記電動機を一定時間駆動させる容量の分だけ、前記直流電力エネルギーを蓄積する、請求項1から請求項4のいずれか一項に記載の負荷駆動装置。
【請求項6】
前記リチウムイオン電池における直流電力エネルギーの最大蓄積量は、地殻変動、及び気象を考慮して設定する、請求項1から請求項5のいずれか一項に記載の負荷駆動装置。
【請求項7】
前記リチウムイオン電池における直流電力エネルギーの最大蓄積量は、前記電動機の使用率を考慮して設定する、請求項1から請求項6のいずれか一項に記載の負荷駆動装置。」
2.補正の適否
本件補正は、本件補正前の請求項1に記載された発明を特定するために必要な事項である「コンバータ」について、「PWMコンバータ」と限定し、本件補正後の請求項1の記載とする補正を含むものであって、本件補正前の請求項1に記載された発明と本件補正後の請求項1に記載される発明の産業上の利用分野及び解決しようとする課題が同一であるから、この補正は、特許法第17条の2第5項第2号に規定する特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。
そこで、本件補正後の請求項1に記載される発明(以下、「本件補正発明」という。)が、同条第6項において準用する同法第126条第7項の規定に適合するか(特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるか)について、以下、検討する。
(1)本件補正発明
本件補正発明は、前記1.(1)の請求項1に記載したとおりのものである。
(2)引用文献の記載及び引用発明
ア.引用文献1の記載
(ア)原査定(令和3年5月6日付け拒絶査定)の拒絶の理由で引用された、この出願の出願前に頒布された刊行物である、特開2007-325342号公報(以下、「引用文献1」という。)には、図面とともに、次の記載がある(下線は、当審で付与した。以下、同様である。)。
a.「【0009】
以下、図面を参照しながら本発明の一実施形態に係る慣性負荷駆動装置について、構造物等の揺れを抑える制振装置を例に説明する。
図1は、この実施形態に係る制振装置の概略構成を示す図であって、1は船舶や建造物(建物)等の制振(減揺)対象物Aに設けられた慣性負荷としての可動マスである。この可動マス(慣性負荷)1は、例えばリニアガイドにより支持されて水平に直線移動可能に設けられた重量物からなり、モータ(電動機)2により駆動される回転/直線変換機構(例えば、ボールねじ機構)3を介して往復移動されるようになっている。この可動マス1は、振子型の慣性負荷であってもよいし、図示しないバネを用いて可動マス1を弾性的に支持することで、その移動力に対して制動力を付与する慣性負荷であってもかまわない。このような可動マス(慣性負荷)1は、制振対象物Aの揺れに同期してその揺れを起こす外力と逆向きの慣性力を発生するように移動駆動されることで上記制振対象物Aの揺れを抑制(制振)する役割を担う。」
b.「【0010】
またモータ2を駆動する電源部は、充電抵抗器4を介して供給される入力交流電源5を直流変換して直流電力エネルギーを得るPWMコンバータ等の交流・直流変換器(コンバータ)6と、このコンバータ6を介して得られた直流電力エネルギーを蓄積するコンデンサ7と、このコンデンサ7に蓄えられた直流電力エネルギーおよび/または前記コンバータ6を介して得られた直流電力エネルギーを用いて前記モータ2を駆動するインバータ(駆動器)8とを備えて構成される。特にこのインバータ8は、前記可動マス1の減速時に前記モータ2を介して得られる回生電力エネルギーを回収して前記コンデンサ7に蓄積するエネルギー回収機能を備えて構成される。また前記コンデンサ7は、例えば小形小型で充電容量の大きい電気二重層コンデンサや蓄電池等の充放電可能なデバイスが用いられる。」
c.「【0011】
一方、上記コンバータ6の作動を制御する電源制御部10は、コンデンサ7に加わる電圧を検出する電圧検出部11と、この電圧検出部11が検出した電圧値から前記慣性負荷(制振対象物A)における固有振動数の2倍の周波数成分を除去するフィルタ12を有している。このフィルタ12は、例えばノッチフィルタが適用される。
ところでモータ2が力行状態であるか、或いは回生状態であるかによってコンデンサ7に加わる電圧は変化する。つまりモータ2が力行状態にあるときは、コンデンサ7に蓄えられた回生電力エネルギーが放出されてモータ2に与えられるためコンデンサ7の電圧が低下する一方、モータ2が回生状態にあるときは、モータ2からコンデンサ7へ回生電力エネルギーが供給されてコンデンサ7の電圧が上昇する。
【0012】
このモータ2による回生電力エネルギーの放出および供給は、制振対象物の固有周期Tの1/2倍の周期で変化する。換言すれば制振対象物の固有振動数f(=1/T)の2倍に周波数(2f)で変化する。したがって、モータ2に供給される電力エネルギーは、固有振動数fの2倍の周波数(T/2の周期)で変化するともに、モータ2から回生される回生電力エネルギーも同様に固有振動数fの2倍の周波数(T/2の周期)で変化することになる。
【0013】
このようなことからコンデンサ7の電圧は、コンバータ6から出力される直流電圧に制振対象物Aの固有振動数fの2倍の周波数で変化する成分が重畳された脈流となる。したがって、モータ2の力行に要する電力エネルギーと、回生される回生電力エネルギーがバランスするようにコンデンサ7の電圧(直流平均電圧)を設定すれば、コンバータ6から供給される電力エネルギーを最小に抑えることができる。
【0014】
電源制御部10は、上述の直流平均電圧を設定する直流平均電圧設定部13を備えている。そして実質的にモータ2を駆動する電力エネルギーをコンバータ6から供給すべく直流平均電圧設定部13に設定された電圧値とノッチフィルタ12を介して制振対象物Aの振動抑制に伴うコンデンサ7の電圧変動分を除去した電圧値との差分を比較器14で求める。次いで、比較器14の出力をコンバータ6の出力電流を制御する調節計15を介してコンバータ6に電源電流制限値として与えるサーボ系を形成している。尚、調節計15は、例えばサーボ系に一般に用いられるPI制御系が適用されるが、これに限定されるものではない。
【0015】
また、電源制御部10には、モータ2の力行動作および回生動作によって変動するコンデンサ7に加わる最大電圧を保持し、コンバータ6の出力電圧が過大にならないよう制限する最大電圧設定部16が設けられている。
このように構成された本発明の一実施形態に係る慣性負荷駆動装置は、モータ2の力行動作および回生動作による電圧変動分(回生電力エネルギーの授受)をコンデンサ7の充放電によって行い、実質的に電動機を駆動するための電力エネルギーをコンバータ6から供給するように構成されている。したがってモータ2の駆動中であってもコンバータ6から出力される電力エネルギーの平滑化がはかられ、供給電流を抑えることが可能となる。」
d.「【0016】
一方、モータ2を駆動するインバータ8の作動を制御する制振制御部20は、具体的には図2にその概略的な機能ブロック構成を示すように、制振対象物A(例えば、船舶)に設けられた図示しない角度センサによって検出される横揺れ角速度情報と、前記モータ2の回転角の情報とに従ってモータ2の駆動を制御するフィードバック制御系を構築するもので、モータ2の回転角情報を微分することによりその角速度(モータ速度)を求める微分器21を備える。また前記横揺れ角速度情報を積分することでその横揺れ角度を求める積分器22を備える。制御演算器23は、これらの情報に従って前記制振対象物Aの横揺れを打ち消し得る前記可動マス(慣性負荷)1の変位量をモータ2の回転角指令として求めており、差分器24にて上記回転角指令と前記モータ2の現在の回転角との差を、モータ2を加減速制御するに必要な制御量(モータ2に対する速度指令)として求めている。そして係数器25にて上記制御量に、その制御系に固有な係数を乗じることで前記モータ2を駆動するに必要な速度指令を求めるものとなっている。」
e.前記aによると、可動マス1は、モータ2により駆動される回転/直線変換機構3を介して往復移動されるようになっているから、モータ2は、可動マス1を往復移動させているといえる。
f.前記bによると、コンデンサ7は、コンバータ6を介して得られた直流電力エネルギーと、モータ2を介して得られる回生電力エネルギーを蓄積しているといえる。
(イ)引用発明
前記a~f及び図面の図示内容を総合すると、引用文献1には、次の発明(以下、「引用発明」という。)が記載されていると認められる。
「可動マス1を往復移動させるモータ2と、
入力交流電源5を直流変換して直流電力エネルギーを得るコンバータ6と、
前記コンバータ6を介して得られた直流電力エネルギーと、前記モータ2を介して得られる回生電力エネルギーを蓄積するコンデンサ7と、
前記コンバータ6を介して得られた直流電力エネルギーおよび/または前記コンデンサ7に蓄えられた直流電力エネルギーを用いて、前記モータ2を駆動するインバータ8と、
前記インバータ8の作動を制御する制振制御部20と、
を備えて構成される慣性負荷駆動装置。」
イ.引用文献2の記載
(ア)原査定の拒絶の理由で引用された、この出願の出願前に頒布された刊行物である、特開2013-203513号公報(以下、「引用文献2」という。)には、図面とともに、次の記載がある。
a.「【0013】
駆動装置21は商用交流電源20から三相交流電圧を生成しこの三相交流電圧によりシーブ19を回転駆動する。
【0014】
図2は駆動装置21を含むエレベータ11の電力制御系のブロック図である。既述の符号はそれらと同じ要素を表す。駆動装置21は三相交流電圧を直流電圧に変換し、この直流電圧をラインP、N間に印加するコンバータ31と、直流電圧に含まれるリップル電圧を吸収するキャパシタ32とを備えている。更に駆動装置21は、キャパシタ32の端子電圧に等しいラインP、N間の直流電圧を他の三相交流電圧に変換するインバータ33と、このインバータ33によって回転駆動される巻上モータ34とを備えている。巻上モータ34はインダクションモータであり、この巻上モータ34及びシーブ19は巻上機35を構成する。駆動装置21は、蓄電装置13に対する充電及び放電を切替えるための充放電回路37を備えており、この充放電回路37を介して駆動装置21は蓄電装置13に接続されている。
【0015】
この蓄電装置13は停電時着床運転に必要な電力を蓄える蓄電容量を有する。蓄電装置13は電力を、停電時におけるかご16の昇降のための駆動電源として、及び駆動装置21の電源として蓄えている。蓄電装置13は、例えばニッケル水素電池や、リチウムイオン電池、リチウムポリマー電池や、電気二重層キャパシタを用いる。蓄電装置13はエレベータ制御部27との給電ライン38によって接続されている。エレベータ11は給電ライン38上にこの給電ライン38を開閉するためのスイッチ39を有する。」
b.「【0026】
<平常運転時>
エレベータ11は平常運転時、商用交流電源20から蓄電装置13を充電する。エレベータ11は回生運転で得られた電力により、蓄電装置13を充電しておく。停電時に最寄階へかご16を着床可能な量の電力が蓄えられる。一方、各階フロアのエスカレータ12は下り方向の回生運転で得られた電力により、各蓄電装置14を充電しておく。
【0027】
図2の駆動装置21においてコンバータ31はエレベータ制御部27から出力されるパルス幅変調信号により三相交流を直流に全波整流する。キャパシタ32はラインP、N間の直流電圧を平滑化する。インバータ33はエレベータ制御部27からのパルス幅変調信号によって巻上モータ34を駆動制御する。巻上機35はかご16を昇降路15内で巻上げ及び巻戻しする。巻上モータ34にはエンコーダ36が設けられており、パルス信号をエレベータ制御部27へ出力する。
【0028】
エレベータ制御部27は検出部24から正常状態を示す信号を受信している間、平常運転を行う。かご16が釣合い重り17よりも重い積載荷重状態で上昇する場合、及びかご16が釣合い重り17よりも軽い積載荷重状態で下降する場合、エレベータ11は力行運転を実行する。この力行運転では、駆動装置21は、商用交流電源20→コンバータ31→キャパシタ32→インバータ33の順序で生成される電力を巻上モータ34に供給する。
【0029】
逆にかご16が釣合い重り17よりも重い積載荷重状態で下降する場合、及びかご16が釣合い重り17よりも軽い積載荷重状態で上昇する場合、エレベータ11は回生運転を実行する。回生運転では、駆動装置21は、巻上モータ34→インバータ33→キャパシタ32の順序で電力を発電する。この回生運転時、巻上モータ34からインバータ33に戻る電力を、コンバータ31はこのコンバータ31内部に設けた整流回路によってブロックする。ラインP、N間の電圧が上昇して素子破壊が生じないようにするため、エレベータ制御部27は放電回路49内のスイッチング素子49aをオンし、余剰電力を抵抗器49bにより消費させる。
【0030】
また、平常運転時、充放電回路37はスイッチ39をオフにしており、蓄電装置13及びエレベータ制御部27間は切り離されている。蓄電装置13はラインP、N間に生じる電力を蓄える。
【0031】
<停電自動着床運転時>
エレベータ11の運転中に商用交流電源20の停電が発生する。停電検出部24aは停電の検出により、停電検出信号を充放電回路37及び停電時救出運転実行部25に送る。図2において蓄電装置13から直流電圧がインバータ33に供給される。インバータ33は供給された直流電圧を駆動電圧信号に変換し、巻上モータ34を起動する。」
(イ)引用文献2に記載された事項
前記a、b及び図面の図示内容を総合すると、引用文献2には、次の事項が記載されていると認められる。
「平常運転時に、商用交流電源20からの電力、及び回生運転で得られる巻上モータ34から戻る電力を充電し、停電時に、該充電された電力を巻上モータ34に供給する蓄電装置13として、例えばニッケル水素電池、リチウムイオン電池、リチウムポリマー電池、電気二重層キャパシタを用いること。」
(3)対比
以下、本件補正発明と引用発明とを対比する。
引用発明の「可動マス1」及び「モータ2」は、それぞれ本件補正発明の「慣性負荷」及び「電動機」に相当する。
引用発明の「入力交流電源5を直流変換して直流電力エネルギーを得る」という事項は、入力交流電源5からの交流電力を直流に変換して直流電力エネルギーを得るものであるから、本件補正発明の「入力交流電力を変換して直流電力エネルギーを得る」という事項に相当し、引用発明の「コンバータ6」は、前記(2)ア(ア)bの記載によると、PWMコンバータ等から構成されるものであり、本件補正発明の「PWMコンバータ」あるいは「コンバータ」に相当する。
引用発明の「コンデンサ7」と、本件補正発明の「リチウムイオン電池」とは、「蓄電体」である点において共通し、引用発明の「前記コンバータ6を介して得られた直流電力エネルギーと、前記モータ2を介して得られる回生電力エネルギーを蓄積するコンデンサ7」と、本件補正発明の「前記コンバータを介して得られた直流電力エネルギーを蓄積するリチウム電池イオン」とは、「前記コンバータを介して得られた直流電力エネルギーを蓄積する蓄電体」である点において共通する。
引用発明の「前記コンバータ6を介して得られた直流電力エネルギーおよび/または前記コンデンサ7に蓄えられた直流電力エネルギーを用い」るという事項は、「および/または」という記載により、コンバータ6を介して得られた直流電力エネルギーと、コンデンサ7に蓄えられた直流電力エネルギーとの少なくとも一つを用いるものといえるから、本件補正発明の「前記コンバータを介して得られた直流電力エネルギー、又は前記リチウムイオン電池に蓄積された直流電力エネルギーの少なくとも一つを用い」るという事項と、「前記コンバータを介して得られた直流電力エネルギー、又は前記蓄電体に蓄積された直流電力エネルギーの少なくとも一つを用い」る点において共通する。そして、引用発明の「インバータ8」及び「制振制御部20」は、それぞれ本件補正発明の「インバータ」及び「制振制御部」に相当する。
引用発明の「備えて構成される」という事項、及び「慣性負荷駆動装置」は、それぞれ本件補正発明の「具備する」という事項、及び「負荷駆動装置」に相当する。
したがって、本件補正発明と引用発明とは、
「慣性負荷を往復移動させる電動機と、
入力交流電力を変換して直流電力エネルギーを得るPWMコンバータと、
前記コンバータを介して得られた直流電力エネルギーを蓄積する蓄電体と、
前記コンバータを介して得られた直流電力エネルギー、又は前記蓄電体に蓄積された直流電力エネルギーの少なくとも一つを用いて、前記電動機を駆動するインバータと、
前記インバータの作動を制御する制振制御部と、
を具備する負荷駆動装置。」
である点で一致し、以下の点で相違する。
[相違点]
蓄電体について、本件補正発明は、「リチウムイオン電池」であるのに対し、引用発明は、「コンデンサ7」である点。
(4)判断
ア.相違点について
以下、前記[相違点]について検討する。
前記(2)ア(ア)bによると、引用文献1には、「コンデンサ7は、例えば小形小型で充電容量の大きい電気二重層コンデンサや蓄電池等の充放電可能なデバイスが用いられる。」と記載されており、引用発明の「コンデンサ7」として、電気二重層コンデンサや蓄電池を選択的に用いることが示唆されている他、例えば、特開2008-161002号公報(段落【0019】、【0025】、【0026】等参照。)に記載されているように、モータ駆動用の電源装置において、交流電源からの電力や、モータからの回生電力を充電するとともに、該電力をモータに供給する蓄電体として、種々のコンデンサや種々の蓄電池を選択的に用いることは、この出願の出願前から周知の事項である。
すると、引用発明の「コンデンサ7」を、引用文献1における前記示唆や、前記周知の事項にならい、蓄電池とすることに格別の困難性はなく、その具体的な種別を選定するにあたり、引用発明の「コンデンサ7」と、交流電源からの電力及びモータからの回生電力を充電し、該充電された電力をモータに供給する点で作用機能が共通する引用文献2に記載された蓄電装置13の例示であるリチウムイオン電池を採用することは、当業者が容易に想到し得たものである。
イ.請求人の主張について
審判請求人は、令和3年6月29日に提出された審判請求書の「3.本願発明が特許されるべき理由(4)本願発明及び引用文献の対比」において、「ここで、D1及びD2の組み合わせは、上記コンデンサ7をリチウムイオン電池に置き換えた上で、上記コンバータ6に対する電源制御部10による制御を実行することになります。具体的には、D1及びD2の組み合わせは、電源制御部10により、上記コンバータ6に対して、「モータ2の力行に要する電力エネルギーと、回生される回生電力エネルギーがバランスするように“リチウムイオン電池”の電圧(直流平均電圧)を設定して、コンバータ6から供給される電力エネルギーを最小に抑える」、「比較器14の出力をコンバータ6の出力電流を制御する調節計15を介して電源電流制限値として与える」及び「モータ2の力行動作および回生動作によって変動する“リチウムイオン電池”に加わる最大電圧を保持し、出力電圧が過大にならないよう制限する」制御を行っています(D1の段落0011から段落0015を参照)。すなわち、D1及びD2の組み合わせは、リチウムイオン電池の蓄電容量がコンデンサの蓄電容量よりも圧倒的に多いにもかかわらず、コンデンサ7をリチウムイオン電池に置き換えても、上記電源制御部10により、コンバータ6に対して上記制御を実行することになります。一方、リチウムイオン電池を採用した本願発明は、「リチウムイオン電池7の充放電電圧はコンデンサより安定しているため、モータ2を駆動させるための直流電力エネルギーの出力が安定している。このため、本実施形態に係る負荷駆動装置は、直流電力エネルギーの出力を安定させるための回路を新たに設ける必要がない(本願明細書の段落0034を参照)」と記載されるように、そもそもPWMコンバータに対して上記電源制御部10が実行しているような制御(中期間的な負荷変動(数十秒程度)に追従する制御)を実行する必要がありません。むしろ、本願発明において、リチウムイオン電池の蓄電容量がコンデンサの蓄電容量よりも圧倒的に多いにもかかわらず、PWMコンバータに対して上記電源制御部10が実行しているような制御を実行した場合、電源側に要求される最大電流値を上げてしまうこととなり、要求する性能を悪化させることに繋がると思料致します。」と主張している。
ここで、引用文献1に記載された電源制御部10による制御は、前記(2)ア(ア)cによると、制御対象物A(可動マス1)の固有振動数fの2倍の周波数で変化する成分が重畳された脈流となるコンデンサ7の電圧から、該固有振動数fの2倍の周波数成分を除去した電圧値を比較器14に入力することにより、コンバータ6の出力電流を制御する調節計15の出力の変動を抑制し、コンバータ6から出力される電力エネルギーの平滑化を図り、コンバータ6からの供給電流を抑えるものと解される。そして、コンデンサ7として、「リチウムイオン電池」を用いたものに、引用文献1に記載された電源制御部10による制御を実行したとすると、「リチウムイオン電池」も充放電を行うものである以上、その電圧は充放電により変動するが、該変動する電圧から制御対象物A(可動マス1)の固有振動数fの2倍の周波数で変化する成分が除去され、調節計15の出力の変動は抑制され、コンバータ6から出力される電力エネルギーが平滑化され、コンバータ6からの供給電流が抑えられることに違いはないといえる(このことは、前記したように引用文献1において、引用発明の「コンデンサ7」として、蓄電池を用いることが示唆されていることからも裏付けられている。)。すると、引用発明の「コンデンサ7」として、「リチウムイオン電池」を採用した場合であっても、請求人が主張するような「電源側に要求される最大電流値を上げてしまうこととなり、要求する性能を悪化させることに繋がる」ことはないものと解される。
そうすると、引用文献1に、電源制御部10で実行する前記した制御が記載されていることをもって、引用発明の「コンデンサ7」として、「リチウムイオン電池」を採用することができないとはいえない。
さらに、審判請求人は、同じく審判請求書の「3.本願発明が特許されるべき理由(4)本願発明及び引用文献の対比」において、「また、本願発明のコンバータは、PWM制御を行って出力を制御する「PWMコンバータ」であります。一般に、PWMコンバータとは、「パルス幅のデュ-ティ・サイクル(パルス幅のHとLの比)を変えながら、出力される電力を制御可能なコンバータ」であり、D1及びD2の電源制御部10が実行しているような制御は実行していないと思料致します。」と主張しているが、引用発明の「コンバータ6」は、前記(2)ア(ア)bの記載によると、PWMコンバータ等から構成されるものであり、PWM制御が行われることが示唆されているから、本件特許発明の「入力交流電力を変換して直流電力エネルギーを得るPWMコンバータ」と何ら相違しないものである。
よって、審判請求人の主張は採用することができない。
ウ.本件補正発明の作用効果について
本件補正発明の作用効果については、引用発明及び引用文献2に記載された事項から当業者が予測できる範囲のものである。
(5)まとめ
以上のとおり、本件補正発明は、引用発明及び引用文献2に記載された事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により、特許出願の際独立して特許を受けることができないものである。
3.本件補正についてのむすび
よって、本件補正は、特許法第17条の2第6項において準用する同法第126条第7項の規定に違反するので、同法第159条第1項の規定において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により、却下すべきものである。
よって、前記補正の却下の決定の結論のとおり決定する。
第3 本願発明について
1.本願発明
令和3年6月29日にされた手続補正は、前記のとおり却下されたので、この出願の各請求項に係る発明は、この出願の願書に最初に添付された特許請求の範囲の請求項1ないし7に記載された事項により特定されるものであるところ、その請求項1に係る発明(以下、「本願発明」という。)は、明細書及び図面の記載からみて、前記「第2[理由]1.(2)」の請求項1に記載された事項により特定されるとおりのものである。
2.原査定の拒絶の理由
原査定の拒絶の理由は、この出願の請求項1ないし7に係る発明は、この出願の出願前に日本国内又は外国において、頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった下記の引用文献1に記載された発明及び引用文献2に記載された事項に基いて、その出願前に当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない、というものである。
引用文献1.特開2007-325342号公報(本審決における「引用文献1」。)
引用文献2.特開2013-203513号公報(本審決における「引用文献2」。)
3.引用文献の記載及び引用発明
原査定の拒絶の理由で引用された引用文献1及び引用文献2の記載事項、並びに引用発明は、前記「第2[理由]2.(2)」に記載したとおりである。
4.対比・判断
本願発明は、前記「第2[理由]2.」で検討した本件補正発明の発明特定事項である「PWMコンバータ」から、「PWM」という限定を削除するものであり、その余の発明特定事項は本件補正発明と同じである。
そうすると、本願発明の発明特定事項を全て含み、さらに限定したものに相当する本件補正発明が、前記「第2[理由]2.(5)」に記載したとおり、引用発明及び引用文献2に記載された事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、本願発明も、引用発明及び引用文献2に記載された事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものである。
5.むすび
以上のとおり、本願発明は、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
そうすると、このような特許を受けることができない発明を包含するこの出願は、この出願の他の請求項に係る発明について検討するまでもなく、拒絶されるべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
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2021-008509