特許拒絶査定不服審判
2023-010325
有機光電変換素子
- 審判番号
- 2023-010325
- 法域
- 特許
- 審判種別
- 拒絶査定不服審判(拒絶査定不服の審決)
- 出願番号
- 特願2022-068689
- 請求日
- 2023年06月21日
- 審決日
- 2024年09月20日
- 公報発行日
- 2024年12月27日
- 結論
- 請求不成立
- 当事者
- 【請求人】ソニーグループ株式会社
- 【請求人代理人】丸島 敏一
- 【請求人】ソニーセミコンダクタソリューションズ株式会社
- 【請求人代理人】丸島 敏一
- 審判長/審判官
- 審判長 波多江 進
- 審判官 吉野 三寛
- 審判官 後藤 孝平
- 分類
- P18 .121-Z (H01L)
- 根拠条文(結論部分から自動抽出・参考)
- 特許法29条2項
- 条文(本文から自動抽出・参考)
- 特許法第29条第2項
- データ出所
- 審決公報(XML)
事件の表示
特願2022- 68689「有機光電変換素子」拒絶査定不服審判事件〔令和 4年 7月 6日出願公開、特開2022-101621〕について、次のとおり審決する。
結論
結 論
本件審判の請求は、成り立たない。
理由
理 由
1 手続の経緯
本願は、2018年(平成30年)5月7日(優先権主張2018年2月13日 日本国、2017年5月8日 日本国。以下、最先の優先権主張の日を「優先日」という。)を国際出願日とする特願2019-517605号の一部を令和4年4月19日に新たな特許出願としたものであって、その手続の経緯の概略は次のとおりである。
令和4年 4月19日 :上申書
令和5年 3月 3日付け:拒絶理由通知書
同月20日 :意見書、手続補正書の提出
同年 6月 2日付け:拒絶査定(以下「原査定」という。)
(同月 6日 :原査定の謄本の送達)
同月21日 :審判請求書の提出
2 本願発明
本願の請求項1に係る発明(以下「本願発明」という。)は、令和5年3月20日に提出された手続補正書による補正後の請求項1に記載された事項により特定されるとおりのものであると認められるところ、その請求項1の記載は、次のとおりである。
<本願発明>
「
[図:0001417192000001.jpg]
前記式21におけるdに示すp型分子を備える光電変換層を具備する有機光電変換素子。」
3 原査定の拒絶の理由
原査定の拒絶の理由は、以下の内容を含むものである。
本願発明は、その優先日前に日本国内又は外国において、頒布された刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明である引用文献1に記載された発明及び引用文献2に記載された技術事項に基いて、その優先日前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
1.国際公開第2017/014146号
2.特開2009-267134号公報
4 各引用文献に記載された事項及び引用発明等の認定
(1) 引用文献1に記載された事項及び引用発明の認定
ア 引用文献1に記載された事項
原査定で引用された国際公開第2017/014146号(以下「引用文献1」という。)には、次の記載がある。下線は当審が付した、以下同じ。
「[0011] 上記の目的を達成するための本開示の第2の態様に係る撮像素子あるいは本開示の第2の態様に係る光電変換素子は、少なくとも、第1電極、有機光電変換層、第2電極が、順次、積層されて成り、有機光電変換層は、下記の構造式(2)を有する第1有機半導体材料から成る。
[0012]
[図:0001417192000002.jpg]
」
「[0015] 本開示の第1の態様~第2の態様に係る撮像素子、本開示の第1の態様~第2の態様に係る光電変換素子、本開示の積層型撮像素子を構成する撮像素子、本開示の第1の態様~第2の態様に係る固体撮像装置を構成する撮像素子(以下、これらを総称して、『本開示の撮像素子等』と呼ぶ場合がある)にあっては、有機光電変換層において、高いホール(正孔)移動度を有する構造式(1)あるいは構造式(2)の材料を用いることで、光電変換効率、キャリア移動度を大幅に向上させることができる。尚、本明細書に記載された効果はあくまで例示であって限定されるものでは無く、また、付加的な効果があってもよい。」
「[0018]〈本開示の第1の態様~第2の態様に係る撮像素子、本開示の第1の態様~第2の態様に係る光電変換素子、本開示の積層型撮像素子、本開示の第1の態様~第2の態様に係る固体撮像装置、全般に関する説明〉
本開示の撮像素子等において、
有機光電変換層は、更に、第2有機半導体材料を含み、
第2有機半導体材料は、フラーレン(例えば、C60や、C70,C74等の高次フラーレン、内包フラーレン等)又はフラーレン誘導体(例えば、フラーレンフッ化物等の修飾フラーレン化合物、フラーレン多量体等)から成る形態とすることができる。…(後略)…。
[0019] あるいは又、本開示の撮像素子等において、
有機光電変換層は、更に、第2有機半導体材料及び第3有機半導体材料を含み、
第2有機半導体材料は、フラーレン又はフラーレン誘導体から成り、
第3有機半導体材料の可視光領域の極大光吸収波長における線吸収係数の値μ3は、第1有機半導体材料の可視光領域の極大光吸収波長における線吸収係数の値μ1よりも大きく、且つ、第2有機半導体材料の可視光領域の極大光吸収波長における線吸収係数の値μ2よりも大きい構成とすることができる。これによって、有機光電変換層に入射する光(フォトン)を、線吸光係数が大きい第3有機半導体材料によって選択的に吸収することができる。…(中略)…。更には、これらの構成において、
有機光電変換層は、更に、第4有機半導体材料を含み、
第4有機半導体材料は、第1有機半導体材料と類似の母骨格を備えている構成、又は、第2有機半導体材料若しくは第3有機半導体材料と同じ母骨格を有すると共に、異なる置換基を備えている構成とすることができる。このような構成を採用することで、可視領域の分光特性を一層容易に所望の特性とすることができる。但し、第4有機半導体材料は、第1有機半導体材料が有するホール輸送能、第2有機半導体材料が有する高い電子輸送能、第3有機半導体材料が有する大きな線吸収係数のいずれかを有していれば、分子構造を特に限定するものではない。
[0020] 第1有機半導体材料と類似の母骨格を備えている第4有機半導体材料として、以下の構造式(101)~構造式(102)を挙げることができ、構造式(101)~構造式(102)の具体例として、構造式(103)~構造式(115)を挙げることができる。
…(中略)…。
[0023]
[図:0001417192000003.jpg]
…(中略)…。
[0025] ここで、構造式(103)~構造式(111)中、Yは、酸素原子、硫黄原子又はセレン原子を表す。」
イ 引用発明の認定
前記アによれば、引用文献1には、第2の態様に係る光電変換素子について、次の発明(以下「引用発明」という。)が記載されているものと認められる。なお、参考までに、引用発明の認定に用いた引用文献1の記載に係る段落番号等を括弧内に付してある。
<引用発明>
「少なくとも、第1電極、有機光電変換層、第2電極が、順次、積層されて成り、有機光電変換層は、下記の構造式(2)を有する第1有機半導体材料から成る、光電変換素子であって、([0011])
[図:0001417192000004.jpg]
([0012])
有機光電変換層は、更に、第2有機半導体材料及び第3有機半導体材料を含み、
第2有機半導体材料は、フラーレン又はフラーレン誘導体から成り、
第3有機半導体材料の可視光領域の極大光吸収波長における線吸収係数の値μ3は、第1有機半導体材料の可視光領域の極大光吸収波長における線吸収係数の値μ1よりも大きく、且つ、第2有機半導体材料の可視光領域の極大光吸収波長における線吸収係数の値μ2よりも大きい構成とすることができ、
有機光電変換層は、更に、第4有機半導体材料を含み、
第4有機半導体材料は、第1有機半導体材料と類似の母骨格を備えている構成とすることができ、第1有機半導体材料が有するホール輸送能を有していれば、分子構造を特に限定するものではなく、([0019])
第1有機半導体材料と類似の母骨格を備えている第4有機半導体材料として、以下の構造式(105)を挙げることができ、([0020])
[図:0001417192000005.jpg]
([0023])
ここで、構造式(105)中、Yは、酸素原子、硫黄原子又はセレン原子を表す、([0025])
光電変換素子。」
(2) 引用文献2に記載された事項及び引用文献2技術事項の認定
ア 引用文献2に記載された事項
原査定で引用された特開2009-267134号公報(以下「引用文献2」という。)には、次の記載がある。
「【0016】
本発明者は、前記課題を解決するため、鋭意検討した結果、一般式(1)で表される化合物を有機半導体層に含有してなる有機トランジスタは、電荷移動度が高く、大きな電流オン/オフ比を有し、かつ保存安定性に優れていることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0017】
すなわち、本発明は、
有機半導体層を有する有機トランジスタにおいて、該有機半導体層に一般式(1)で表される化合物を少なくとも1種含有してなる有機トランジスタである。
【0018】
【化1】
[図:0001417192000006.jpg]
【0019】
(式中、X1~X4はそれぞれ独立に、水素原子、ハロゲン原子、直鎖、分岐または環状のアルキル基、直鎖、分岐または環状のアルコキシ基、直鎖、分岐または環状のアルコキシアルキル基、あるいは置換または未置換のアリール基を表し、環Aおよび環Bはそれぞれ独立に、置換または未置換のチオフェン環、あるいは置換または未置換のベンゾ[b]チオフェン環を表す)」
「【0037】
本発明に係る一般式(1)で表される化合物の具体例としては、例えば、以下の化合物を挙げることができるが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0038】
【化3】
[図:0001417192000007.jpg]
[図:0001417192000008.jpg]
[図:0001417192000009.jpg]
[図:0001417192000010.jpg]
…(中略)…。
【0040】
【化5】
[図:0001417192000011.jpg]
[図:0001417192000012.jpg]
[図:0001417192000013.jpg]
[図:0001417192000014.jpg]
」
イ 引用文献2技術事項の認定
(ア) 下記(イ)のとおりであるから、引用文献2には、次の技術事項(以下「引用文献2技術事項」という。)が記載されていると認められる。
<引用文献2技術事項>
「下記例示化合物番号11の化合物を有機半導体層に含有してなる有機トランジスタは、電荷移動度が高いこと。
[図:0001417192000015.jpg]
」
(イ) 前記アの【0016】に、「一般式(1)で表される化合物を有機半導体層に含有してなる有機トランジスタは、電荷移動度が高く」と記載されているところ、同【0037】には、「一般式(1)で表される化合物の具体例としては、例えば、以下の化合物を挙げることができる」とされ、同【0040】に、化合物の具体例として、例示化合物番号11が挙げられている。
5 本願発明と引用発明の対比及び判断
(1) 対比
本願発明と引用発明を対比すると、以下のとおりである。
ア 引用発明の「有機光電変換層」及び「光電変換素子」は、それぞれ本願発明の「光電変換層」及び「有機光電変換素子」に相当する。
そして、引用発明の「光電変換素子」は、「第1電極、有機光電変換層、第2電極」が「積層されて成[る]」ものであるから、「有機光電変換層」を備えるものと理解できる。
したがって、本願発明と引用発明は、「光電変換層を具備する有機光電変換素子」である点で一致する。
イ 引用発明の「有機光電変換層」は、「更に、第4有機半導体材料を含み」、当該「第4有機半導体材料」は、「構造式(105)」であるところ、当該「構造式(105)」が有機分子であることは明らかである。
また、当該「第4有機半導体材料」は、「第1有機半導体材料が有するホール輸送能を有し」ているから、p型の材料と理解できる。
したがって、本願発明と引用発明は、「光電変換層」が「p型分子を備える」点で共通する。
ウ 以上によれば、本願発明と引用発明の一致点及び相違点は、次のとおりである。
<一致点>
「p型分子を備える光電変換層を具備する有機光電変換素子。」
<相違点>
「p型分子」について、本願発明は、「式21におけるdに示す」ものであるのに対し、
[図:0001417192000016.jpg]
引用発明は、「構造式105」のものである点。
[図:0001417192000017.jpg]
ここで、構造式(105)中、Yは、酸素原子、硫黄原子又はセレン原子を表す。
(2) 判断
ア 引用発明の「第4有機半導体材料」は、「第1有機半導体材料と類似の母骨格を備えている構成とすることができ、第1有機半導体材料が有するホール輸送能を有していれば、分子構造を特に限定するものではな」いものでもある。そうすると、引用発明の「第4有機半導体材料」は、構造式(105)の有機材料に限らず、第1有機半導体材料と類似の母骨格を備え、ホール輸送能を有する半導体材料であればよいことを、当業者であれば理解できる。
イ 他方、前記4(2)イ(ア)に示した引用文献2技術事項のとおり、引用文献2には、下記例示化合物番号11の化合物を有機半導体層に含有してなる有機トランジスタが記載されており、当該例示化合物番号11の化合物を含有した有機半導体層は、電荷移動度が高いものであるところ、引用文献2の【0038】には、当該例示化合物番号11の化合物と同様に電荷移動度が高い化合物として、下記例示化合物番号1の化合物が記載されており、例示化合物番号1の化合物は、引用発明のYが硫黄原子である構造式(105)と同一の化合物である。
[図:0001417192000018.jpg]
[図:0001417192000019.jpg]
ウ 以上のとおり、引用発明の「第4有機半導体材料」である「構造式(105)」の有機材料は、第1有機半導体材料と類似の母骨格を備え、ホール輸送能を有していればよいところ(前記ア)、引用文献2技術事項のとおり、例示化合物番号11の化合物を含有してなる有機半導体層は、電荷移動度が高いものであって、当該例示化合物番号11の化合物は、例示化合物番号1の化合物と同様に電荷移動度が高い化合物として記載されたものである(前記イ)。そうすると、引用発明において、引用文献2技術事項を参酌し、その「第4有機半導体材料」として挙げられる「構造式(105)」に代えて、引用文献2において「構造式(105)」と同一の化合物である例示化合物番号1の化合物と同様に電荷移動度が高い化合物として開示されている例示化合物番号11の化合物を採用することは、当業者であれば容易になし得たことといえ、引用発明において例示化合物番号11の化合物を採用すれば、例示化合物番号11の化合物はp型分子となるから、この結果、前記相違点に係る本願発明の特定事項は満たされることとなる。
エ 本願発明の効果について
本願の明細書の【0118】~【0124】に示された、式21におけるdに示すp型分子を備える光電変換層を具備する光電変換素子の量子効率と応答速度を向上させることができるという作用効果は、バルクへテロ構造である光電変換層が結晶性を有することによるものと理解されるところ(【0121】~【0122】)、本願の明細書【0118】~【0120】によれば、バルクへテロ構造ではない、単層正孔移動度については、式21におけるdに示すp型分子を備える実施例1よりも、当該p型分子と比べ、両端のフェニル置換基がそれぞれ一つ少ない化合物である比較例1の方が高くなっている。これに対して、本願発明は、光電変換層がバルクへテロ構造を持つことが特定されておらず、p型化合物が単層構造である光電変換層をも含むものであるから、前記作用効果は、本願発明の構成が奏するものということはできない。
オ 審判請求人の主張について
審判請求人は、引用文献2の例示化合物番号11の化合物は、高い移動度が測定された結果が示されていないから、その電荷移動度が高いか否かが不明であり、引用発明に適用することには困難がある旨を主張している。しかしながら、例示化合物番号11の化合物は、当該化合物を含有してなる有機半導体層の電荷移動度が高くなるものとして引用文献2に記載されているし、同じ母骨格を有する例示化合物番号3の化合物及び例示化合物番号9の化合物の測定結果(表1の実施例1及び実施例2)からみれば、その電荷移動度は同程度と推測できるから、審判請求人の前記主張は採用し得ないものである。
(3) まとめ
以上より、本願発明は、引用発明及び引用文献2技術事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものである。
6 むすび
以上のとおりであるから、本願発明は、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。したがって、他の請求項に係る発明について検討するまでもなく、本願は拒絶されるべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
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