審決検索MVP
← 検索一覧に戻る
特許拒絶査定不服審判

2023-007142

結合部位制御可能なPEG化生体分子の製造方法

審判番号
2023-007142
法域
特許
審判種別
拒絶査定不服審判(拒絶査定不服の審決)
出願番号
特願2021-556649外部サイト(J-PlatPat)へ移動します
請求日
2023年04月29日
審決日
2025年08月21日
公報発行日
2026年02月27日
結論
請求不成立
当事者
審判長/審判官
分類
P18 .537-WZ (C07K)
根拠条文(結論部分から自動抽出・参考)
特許法36条6項1号
条文(本文から自動抽出・参考)
特許法第36条第6項第1号、特許法第29条第2項
データ出所
審決公報(XML)

事件の表示

特願2021-556649「結合部位制御可能なPEG化生体分子の製造方法」拒絶査定不服審判事件〔令和 2年 7月 2日国際公開、WO2020/135683、令和 4年 2月17日国内公表、特表2022-515298〕について、次のとおり審決する。

結論

結 論
本件審判の請求は、成り立たない。

理由

目次 ▾ 7項目
理 由

1 手続の経緯

本願は、令和1年12月27日(パリ条約による優先権主張2018年12月27日 中国)を国際出願日とする出願であって、令和5年1月19日付けで拒絶査定がされた。これに対して、令和5年4月29日に拒絶査定不服審判請求がなされるとともに手続補正がなされ、令和7年2月13日付けで当審拒絶理由通知がなされ、令和7年5月12日に意見書及び手続補正書が提出されたものである。

2 本願発明

本願の請求項1~4に係る発明は、令和7年5月12日に提出された手続補正書の特許請求の範囲の請求項1~4に記載された事項により特定されるとおりのものと認めるところ、その請求項1に係る発明(以下、「本願発明」という。)は、次のとおりのものである。

「【請求項1】
結合部位制御可能なPEG化IL-2であって、以下の式Xで表される構造を有し、
[図:0001431435000001.jpg]
(X)
続きを表示(全14行)
nが2であり、
Xは、PEGとIL-2との間の結合基であり、-(CH2)aCO-であり、aが、0~3の整数であり、
前記PEGは直鎖型モノメトキシポリエチレングリコール残基であり、
PEGの分子量が、20KDaであり、
前記結合部位制御可能とは、前記PEG化IL-2が選択的にIL-2Rβγ受容体に結合することであり、
前記PEG化IL-2は、
IL-2α受容体親和カラムを調製する工程(1)と、
IL-2を親和カラムにてIL-2α受容体に結合する工程(2)と、
PEG化し、すなわちPEGをIL-2に結合する工程(3)と、
IL-2をグラジエント溶離によりIL-2α受容体から単離する工程(4)とを含む方法によって調製される結合部位制御可能なPEG化IL-2。」

3 当審の拒絶理由

当審が通知した拒絶理由のうちの理由1(サポート要件違反)は、概略、次のとおりものを含む。

(1)請求項1に記載されたPEG化IL-2の調製方法の観点から、IL-2Rαβγ系受容体よりもIL-2Rβγ系受容体に選択的に結合するPEG化IL-2が得られると推認することはできないこと

請求項1における「IL-2α受容体親和カラムを調製する工程(1)と、IL-2を親和カラムにてIL-2α受容体に結合する工程(2)と、PEG化し、すなわちPEGをIL-2に結合する工程(3)と、IL-2をグラジエント溶離によりIL-2α受容体から単離する工程(4)とを含む方法によって調製される」との記載に基づくと、工程(3)でPEG化する際には、IL-2受容体αサブユニット(IL-2Rα)により、IL-2上のIL-2Rαとの結合部位が閉鎖されていることから、本願発明である「PEG化IL-2」について、PEGはIL-2Rαとの結合部位には結合しておらず、当該「PEG化IL-2」はIL-2Rαに対する結合性を維持している、つまり、IL-2Rαを有するIL-2受容体に対する選択性が向上していると認められる。そうすると、調製方法の観点から、IL-2Rβγ系受容体に選択的に結合するPEG化IL-2が得られていると推認することはできない。

(2)発明の詳細な説明の実施例4の結果に基づいて、調製されたPEG化IL-2とIL-2受容体βサブユニット(IL-2Rβ)との結合力が強いことが明らかにされているとはいえないこと

発明の詳細な説明の実施例4は、タイトルが「受容体親和性テスト」であって、後記4(1)ウに記載した表とともに「上表の結果が、本発明に係る方法により調製されたPEG-IL-2とIL-2β受容体との結合力が強いことを明らかにした。」と記載されている。

これに関して、審判請求書において、請求人は、実施例4に示すように、本出願で製造されたPEG化IL-2は、IL-2Rβに対する結合力が、IL-2(100%換算)に対して約1141%であり、10倍以上向上したと主張している。実施例4において、表に記載された数値がどのようなものであるのかについて説明されていないものの、「SPR解析装置を介して親和性テストを行った。」との記載、及び単位として「(uM)」と記載されていることを参酌すると、解離定数(KD)であると解される。そして、解離定数は数値が小さいほど親和性が高いことを意味するから、表に記載された数値が増加したことをもって、結合力が向上したと解することはできない。そうすると、IL-2Rβに対する結合力が10倍以上向上したとする請求人の主張の根拠が見いだせず、実施例4において、IL-2Rβγ系受容体に選択的に結合するPEG化IL-2が得られていると解することはできない。

(3)サブユニット単量体であるIL-2Rα又はIL-2Rβに対する結果が、IL-2RβとIL-2受容体γサブユニット(IL-2Rγ)のヘテロ二量体であるIL-2Rβγ系受容体に対する親和性にどのように反映されるのかが明らかでないこと

仮に、実施例4において得られたPEG化IL-2について、IL-2RαよりもIL-2Rβに対する親和性が向上していることが示されているとした場合であっても、サブユニット単独であるIL-2Rα又はIL-2Rβに対する結果が、IL-2RβとIL-2Rγのヘテロ二量体であるIL-2Rβγ系受容体に対する親和性にどのように反映されるのかが明らかでなく、実施例4において、IL-2Rβγ系受容体に選択的に結合するPEG化IL-2が得られていると解することはできない。

(1)~(3)より、本願発明は、発明の詳細な説明に記載したものでなく、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない。

4 当審の判断

(1)発明の詳細な説明の記載内容

発明の詳細な説明には、次の事項が記載されている(下線は当審にて付記したものである。以下同様。)。

ア 背景技術

「【0005】
IL-2の作用機序は、以下のとおりである:
IL-2は、主に抗原で刺激されたCD4+T細胞から産生され、CD8+T細胞、NK細胞とDC細胞も分泌できる。高用量のIL-2はCD4+T細胞の分化、CD8+T細胞とNK細胞の増殖を促進し、これらの細胞の殺傷力を増加させることで、生体の免疫反応を発揮させることができる。逆に、低用量のIL-2は制御性T細胞の増殖を促進し、免疫系を抑制する作用があるため、低用量のIL-2も自己免疫疾患の治療に用いられることも多い。
【0006】
このような違いがあるのは、主に免疫細胞表面のIL-2受容体の分布が異なり、IL-2受容体においては、合わせて3つのサブユニットを有してα、β、γサブユニットを構成するからである。CD8陽性T細胞とNK細胞などのキラー細胞表面受容体は、主にβとγサブユニット(IL-2Rβγ)から構成され、該受容体のIL-2に対する親和力が比較的に低く、高用量のIL-2により活性化させる必要があるが、制御性T細胞表面の多くは、α、β、γという3つのサブユニットからなる高親和性の抗体(IL-2Rαβγ)であり、低用量のIL-2のほうがこれらを活性化しやすく、それにより免疫抑制の役割を果たす。」
「【0008】
近年、正常のIL-2分子上に化学修飾を加えることにより、IL-2の効果を維持するとともに、その使用濃度を低下させ、副作用を軽減させることができることが明らかになった。したがって、NKTR-214が誕生した。NKTR-214は神秘的なものではなく、本質的に20年以上前に発売された従来の薬品IL-2のアップグレード版であり、副作用が更に低く、特異性が更に良く(Treg細胞ではなくCD8を活性化しやすくなる)、免疫系をより効率的に活性化することができる。具体的には、IL-2分子上に、6つのポリエチレングリコール(PEG)修飾を加えて不活性薬物が形成され、不思議なことに、腫瘍患者に注射すると、これら6つのPEG修飾は徐々に脱落し、活性のある2-PEGと1-PEGの形式が形成された。
【0009】
NKTR-214はPEG化のIL-2であり、その原薬の活性が非常に低い。6つのPEG鎖をIL-2におけるIL-2Rαβγ高親和性抗体αサブユニットを結合可能な部位に巧みに連結されることにより、PEG化後のIL-2をキラー免疫細胞におけるIL-2Rβγ系受容体に結合する傾向がより高まるようになる。PEGが1つずつ分解されるにつれて、薬物の活性が緩やかに放出される。NKTR-214により、PEGダウングレードを通じて薬物の徐放効果を達成し、それによって耐性を大幅に高めることと、キラー免疫細胞に対する選択性を高め、微小環境における免疫細胞PD-1の発現量を増加させるというIL-2の腫瘍治療における2つの課題を解決した。」
「【0012】
しかしながら、実際の製造過程では、正常のIL-2分子上に化学修飾により6つのPEGを加えてNKTR-214を形成することで、IL-2のIL-2Rβγ系受容体への選択的な結合を実現した。本発明においては、出願人は、インビトロで生体分子の結合部位を人間の介入により、暴露させたまま、PEG化していない状態で、生体分子の体内への標的性をより強くし、治療効果をより迅速に発揮させる結合部位制御可能なPEG化生体分子の製造方法を提案しており、具体的には、IL-2を修飾する際に、IL-2の結合部位を調整しコントロールすることにより、PEG化のときに、1つまたは2つのPEGのみを加えて、IL-2をIL-2Rβγ系受容体に選択的に結合させる。」

イ 発明が解決しようとする課題

「【0013】
本発明は、結合部位制御可能なPEG化生体分子の製造方法を提供し、具体的には、結合部位制御可能なPEG化IL-2の製造方法を提供することを目的とする。」

ウ 発明を実施するための形態

「【0123】
実施例1:IL-2α受容体親和カラムの調製
S1:CNBr活性化アガロースゲル(sepharose CNBr)0.8gを秤量し、12mlの1mMHClを加え、均一になるまで人工でゆっくり混合し、4℃の冷蔵庫で15min反応させた。
S2:カップリングbufferを調製し、すなわち、0.1M NaHCO3 pH8.3と0.5M NaClとを十分に混合し、12mlのカップリングbufferを取って、前のステップで膨潤した充填剤を洗浄した。
続きを表示(全35行)
S3:IL-2α受容体4mgを4ボトル取り、2mlのカップリングbufferに溶解し、ステップ2で溶解した充填剤に加えた。
S4:室温下で2時間ゆっくり揺動した。
S5:5倍カラム体積のカップリングbufferで余分な受容体を洗い落とした。
S6:0.1M pH8.0のトリス(ヒドロキシメチル)アミノメタン(Tris-HCl)を加え、室温2時間放置し、Tris-HClを捨てた。
S7:0.5M NaClを含む5倍カラム体積の0.1M pH4.0酢酸/酢酸ナトリウム緩衝液で洗浄し、0.5M NaClを含む5倍カラム体積の0.1M pH8.0のTris-HCl緩衝液で洗浄した。
S8:ステップ6及びステップ7を3回繰り返した。
S9:0.1M pH8.0のTris-HCをl0.5ml加えた。
S10:sepharose樹脂を5mlの空カラムに注入し、4℃の冷蔵庫で保管した。
【0124】
実施例2:IL-2の受容体親和カラム上でのPEG化
S1:5ml受容体親和カラムをタンパク精製用クロマトグラフィーシステム(AKTA Purifier)に装着した。
S2:移動相を調製し、すなわち、A相:5mM PBS、pH7.0;B相:0.2M NaClを含む0.2M酢酸溶液。
S3:移動相の流量を0.45ml/minに設定した。
S4:A相をUV曲線安定まで平衡化した。
S5:IL-2サンプルをサンプルループでサンプリングし、IL-2上のα受容体結合部位をIL-2α受容体に結合した。
S6:適量の分子量が20 KDaであるメトキシポリエチレングリコール-プロピオン酸スクシンイミド(M-SPA-20K)をpH8.0、2.5 mMPBに溶解し、その最終濃度を40mg/mlとし、2mlのM-SPA-20Kを抽出してサンプルループでサンプリングし、UV曲線が安定するまで平衡化した。
S7:ステップ6を3回繰り返した。
S8:グラジエント溶離を行い、クロマトグラムは、図1に示すとおりである。溶出ピークを収集し、限外ろ過濃縮を経て、ドデシル硫酸ナトリウム-ポリアクリルアミドゲル電気泳動(SDS-PAGE)により検出した。
【0125】
実施例3:PEG-IL-2ゲルろ過クロマトグラフィー単離
ゲルろ過クロマトグラフィーの条件:移動相:5mM PBS、流量:0.75 ml/min、カラム:superdex 200 increase 10/300 GLとした。
単離手順は以下のとおりである:
S1:クロマトグラフィーシステムをUV曲線安定まで平衡化した。
S2:サンプリング後、溶出ピークを収集した。
S3:収集成分限外ろ過濃縮後、SDS-PAGE測定を行い、その結果が図3と図4に示されている。
検出結果:SDS-PAGEにより、図4のピーク1はPEG-IL-2で、ピーク2はIL-2であることが認められた。
【0126】
実施例4:受容体親和性テスト
図4のピーク1(PEG-IL-2)とピーク2(IL-2)サンプルをそれぞれ収集し、濃縮後、SPR解析装置を介して親和性テストを行った。受容体タンパクは、それぞれIL-2α受容体、IL-2β受容体であり、試験の結果は以下の通りである。
[図:0001431435000002.jpg]
上表の結果が、本発明に係る方法により調製されたPEG-IL-2とIL-2β受容体との結合力が強いことを明らかにした。」

(2)令和7年5月12日に提出された意見書で引用された文献PLoS One,2017年,Vol.12,No.7、e0179431(以下、「証明文献1」という。)の記載内容(当該文献は英語で記載されているので、当審による翻訳文で示す。)

ア 表題

「癌免疫治療に対する、動力学的に制御されたインターロイキン-2(IL-2)受容体アゴニストであるNKTR-214の受容体薬理学、薬物動態学及び薬物力学のモデリング」

イ 要約

「サイトカインは、強力な免疫調節剤であるが、その短い半減期及び多面的な全身効果があるので、その天然形態は理想的な薬剤ではない。NKTR-214は、複数の放出可能なポリエチレングリコール(PEG)鎖に結合したインターロイキン-2(IL2)タンパク質を含む臨床段階の生物学的製剤である。この高度なPEG結合形態では、IL2が不活性であるため、NKTR-214は、生体学的プロドラッグである。インビボ投与すると、PEG鎖は、ゆっくりと放出され、より少ないPEG鎖に結合したIL2タンパク質複合体の活性がますます高くなるカスケード反応を形成する。NKTR-214由来の1-PEG-IL2及び2-PEG-IL2種は、活性が最も高い複合体化IL2種である。遊離IL2タンパク質は、形成速度よりも除去速度が速いため、インビボで検出できない。NKTR-214におけるPEG鎖は、IL2のヘテロ三量体IL2受容体複合体IL2Rαβγのアルファ(α)サブユニットと接触する領域に位置し、ヘテロ三量体に結合して活性化させる能力を低下させる。IL2Rαβγ複合体は、制御性T細胞(Treg)上に恒常的に発現している。したがって、突然変異を用いない場合、CD8 T細胞に支配的な受容体複合体であるIL2RβγよりもIL2Raβγに対する親和性の方が大きく低下する。インビボでのNKTR-214治療は、腫瘍の微小環境においてTregではなくCD8 T細胞の活性化に有利であるため、複数の同系モデルにおいて抗腫瘍効果が得られる。インビトロおよびインビボでの動的データに基づくメカニズムモデリングは、NKTR-214の薬理作用メカニズムに関する洞察に寄与する。当該モデルにより、遊離IL2タンパク質と比較して、NKTR-214由来の複合体化IL2タンパク質がIL-2Rβγを占有する割合が高いことを示している。当該モデルは、NKTR-214の単回投与後に観察される持続的なインビボシグナル伝達を正確に記述し、NKTR-214の特性が独特の動態制御された免疫作用メカニズムをどのように付与するかを説明する。」

ウ 受容体相互作用の特性評価

「これまでの研究により、NKTR-214のプロドラッグ設計を確認した。NKTR-214は、SPR及びマウスCTLL2細胞の細胞シグナル伝達により決定されたとおり、任意のIL2受容体成分を結合又は活性化できない[16]。3本以上のPEG鎖に結合した複合体化IL2は、同様に不活性であった。NKTR-214由来の活性が最も高い複合体化IL2種は、PEG放出カスケードの末端に形成された1-PEG-IL2及び2-PEG-IL2である。IL2Rαβγ受容体とIL2Rβγ受容体とへの結合における動態的差異をより十分に理解するために、遊離IL2、1-PEG-IL2及び2-PEG-IL2の結合速度及び解離速度を、改良及び最適化されたSPR法を用いて詳細に比較した(表1)。この方法では、受容体サブユニットをチップ表面に結合させ、細胞表面受容体を簡素化された制御システムにおいてモデル化する。シグナル強度を失わずに第3の受容体サブユニットIL2Rγをチップに添加することができなかったため[26、27]、IL2RαとIL2Rβとの1:1混合物を使用して細胞IL2Rαβγを模擬したことに対し、高密度のIL2Rβのみをチップ上で使用して細胞IL-Rβγを模擬した。細胞表面でIL2Rαと結合すると、IL2は、IL2Rβγサブユニットを高親和性でリクルートできるように構造変化を起こす[25、28]。従って、IL2Rα単独への結合も特徴付けた。IL2Rα、IL2Rβ及びIL2RαとIL2Rβとの混合物へのIL2の親和性は、文献中の前に報告された値と同様であった[23、27、29]。1-PEG-IL2及び2-PEG-IL2の結果は、全く異なった。PEG複合体化の程度は、結合速度(kon)に影響を与えるので、PEG鎖の存在によりIL2Rαβの結合速度を著しく低下させた。これに対し、IL2Rβの結合速度は、PEG複合体化による影響が著しく少なく、これはPEG複合体化がIL2とIL2Rαとの相互作用部位の遠位部位に位置することと一致した。解離速度(koff)は、PEGの存在による影響が比較的に小さかった。したがって、1-PEG-IL2の平衡解離定数Kdは、IL2に比べて、IL2Rβで7.4倍、IL2Rαβで約3200倍増加した。当該効果は、図4に示す代表的な応答プロットによってさらに可視化することができる。IL2種及びNKTR-214由来の活性な複合体化IL2種の結合及び解離動態プロファイルは、示された受容体におけるIL2のKd値付近の単一濃度で示される(IL2応答を100%に正規化された)。アルファ含有受容体では、結合段階の緩やかな傾き及び解離段階の急激な低下は、PEGがIL2に対して結合速度を遅くし、解離速度を速めることを示している。これに対して、IL2Rβでは、結合速度は、全ての分析物について傾きが類似するため、PEGによる影響が小さい。これらの原始動態プロファイルを説明するために用いられる分析物の濃度は、必ずしも表1に示すKdの値を最適に導出するために用いられるものではないことを注意されたい。」(第9頁下から3行~第10頁下から4行)

エ 表1

表1 PEG化の効果はSPRチップに結合したIL2Rαβにおいて最も高い

ヒトIL2Rα、IL2Rβ又はIL2RαβでのIL-2及びNKTR-214に由来する活性化複合体化IL2種に関する結合反応速度の要約。IL2Rαβはヘテロ三量体IL2Rαβγを模倣し、一方、IL2Rβはヘテロ二量体IL2Rβγを模倣する。

[図:0001431435000003.jpg]

(3)理由1(サポート要件違反)について

本願発明が解決しようとする課題は、請求項1及び段落【0012】、【0013】の記載から、選択的にIL-2Rβγ受容体に結合するPEG化IL-2を提供することである。ここで、IL-2受容体にはα、β、γサブユニットが様々に組み合わさった多くの種類の受容体が含まれるところ(例えば、段落【0006】)、ある特定のPEG化IL-2が「選択的にIL-2Rβγ受容体に結合する」とは、当該ある特定のPEG化IL-2が、IL-2Rβγ受容体に、他の種類のIL-2受容体よりも強く結合することを意味すると解される。特に、本願においては、請求項1を引用する請求項4に、腫瘍、ウイルス性疾患または細菌性疾患の治療および/または予防のための薬物の製造に前記PEG化IL-2を使用する方法が記載されていること、及びIL-2Rβγ受容体が免疫系を増強するCD8+T細胞とNK細胞などのキラー細胞表面受容体であるのに対し、免疫系を抑制する制御性T細胞表面受容体の多くがIL-2Rαβγ受容体であること(段落【0006】)を考慮すると、少なくともIL-2Rαβγ受容体よりもIL-2Rβγ受容体に強く結合するPEG化IL-2を提供することを課題としていると認められる。

したがって、本願がサポート要件を満たすためには、発明の詳細な説明に、請求項1の工程(1)~(4)を含む方法によって調製されたPEG化IL-2が、少なくともIL-2Rαβγ受容体よりもIL-2Rβγ受容体に強く結合し、上記課題を解決できるものであることを、当業者が認識できるように記載されている必要がある。

しかし、当審の拒絶理由で指摘した上記3(1)~(3)の点から、当該拒絶理由への応答後もなお、発明の詳細な説明に、上記課題を解決できることを当業者が認識できるように記載されているとはいえず、本願発明が発明の詳細な説明に記載したものであると認めることはできない。

ア 請求項1に記載されたPEG化IL-2の調製方法の観点から、IL-2Rαβγ系受容体よりもIL-2Rβγ系受容体に選択的に結合するPEG化IL-2が得られると推認することはできないこと(上記3(1))

請求項1における「IL-2α受容体親和カラムを調製する工程(1)と、IL-2を親和カラムにてIL-2α受容体に結合する工程(2)と、PEG化し、すなわちPEGをIL-2に結合する工程(3)と、IL-2をグラジエント溶離によりIL-2α受容体から単離する工程(4)とを含む方法によって調製される」との記載に基づくと、工程(3)でIL-2をPEG化する際には、IL-2Rαにより、IL-2上のIL-2Rαとの結合部位が閉鎖されていることから、工程(4)でIL-2αが除去された本願発明であるPEG化IL-2について、PEGはIL-2上のIL-2Rαとの結合部位には結合しておらず、前記PEG化IL-2はIL-2Rαに対する結合性を維持している、つまり、IL-2Rαを有するIL-2受容体に対する選択性が向上していると認められる。したがって、調製方法の観点から、請求項1の工程(1)~(4)によりIL-2Rαβγ系受容体よりもIL-2Rβγ系受容体に選択的に結合するPEG化IL-2が得られると推認することはできない。

イ 上記3(1)に対する、請求人の同意見書における主張について

同意見書において、請求人は、上記3(1)の点について、直接反論していないものの、「五 進歩性(日本特許法第29条第2項)」の項で、引用文献3の教示に基づくと、本願発明の調製方法によればIL-2Rα受容体との結合能力が保持されると理解すべきであるが、事実は正反対であると述べている。事実が正反対とする根拠は、本願の実施例4のみであり、予測に反する結果が得られた機序等についてはなんら推測されていない。後記ウ~キの通り、実施例4について、選択的にIL-2Rβγ受容体に結合するPEG化IL-2が得られたことが示されていると解することはできないから、請求人の主張は採用できない。

ウ 発明の詳細な説明の実施例4の結果に基づいて、調製されたPEG化IL-2とIL-2Rβとの結合力が強いことが明らかにされているとはいえないこと(上記3(2))

本願の実施例4には、「上表の結果が、本発明に係る方法により調製されたPEG-IL-2とIL-2β受容体との結合力が強いことを明らかにした。」と記載されているものの(段落【0126】)、前記「上表(以下、「実施例4の表」という。)の結果」が、「本発明に係る方法により調製されたPEG-IL-2とIL-2β受容体との結合力が強いこと」の根拠となる理由は説明されていない。

ここで、実施例4の表に記載された数値がどのようなものであるのかについては、何ら説明されていないものの、「SPR解析装置を介して親和性テストを行った。」との記載、及び単位として「(uM)」と記載されていることを参酌すると、「u」を「μ」の代用と解して、単位をμMとする解離定数(KD)であると解することもできる。そして、解離定数は数値が小さいほど親和性が高いことを意味するから、実施例4の表の数値が解離定数であるならば、請求項1の工程(1)~(4)を含む方法によって調製されたと認められる「PEG化IL-2」は、IL-2RβよりもIL-2Rαに94倍(31.96÷0.34)強く結合すると解される。したがって、実施例4の結果から、請求項1の工程(1)~(4)を含む方法によって調製されたと認められる「PEG化IL-2」が、IL-2Rαを有するIL-2Rαβγ受容体よりも、IL-2Rαを有さないIL-2Rβγ受容体に強く結合するとは認められない。このことは、上記アで、請求項1に記載されたPEG化IL-2の調製方法の観点から検討した結果と一致する。

エ 上記3(2)に対する、請求人の審判請求書における主張について

審判請求書において、請求人は、実施例4に示すように、本出願で製造されたPEG化IL-2は、IL-2Rβに対する結合力が、IL-2(100%換算)に対して約1141%であり、10倍以上向上したと主張しており、その根拠は明らかにされていないが、表に記載された数値を鑑みると、1141%とは、31.96÷2.80=11.414…により算出されたと解される。

上記イで述べたとおり、解離定数は数値が小さいほど親和性が高いことを意味するのに対し、請求人は31.96のほうが2.80よりも結合力が高いことを意味するとしており、実施例4の表に記載された数値をどのようなものであると解しているのかを明らかにしないまま論じる請求人の主張は、失当なものである。

オ 上記3(2)に対する、請求人の同意見書における主張について

同意見書において、請求人は、受容体に対する分子の選択的結合能力は、解離定数の絶対値の大きさを比較するだけでなく、解離定数の相対的な大きさを比較することによっても評価する必要があるとして、証明文献1を提示し、証明文献1の表1に示される結果について、1-PEG-IL-2は、IL-2と比較して、IL-2Rβγ、IL-2Rαβγ及びIL-2Rα受容体との結合力はすべて低下したものの、IL-2Rβγ受容体に対する結合力はわずか7.4倍低下したが、IL-2Rαβγ受容体に対する結合力は3200倍低下し、IL-2Rα受容体に対する結合力は22.1倍低下したことから、1-PEG-IL2とIL-2Rαβγ及びIL-2Rα受容体との結合力の低下幅はより大きく、その偏向性はIL-2Rα-2Rβγ受容体が優先的に結合すると説明している。そして、本願の実施例4において、製造されたPEG-IL-2の解離定数KD値はIL-2と比較して、IL-2Rα受容体について14.8倍増加し、IL-2Rβ受容体について11.4倍増加した、つまり、IL-2がPEG修飾されることにより、IL-2Rα及びIL-2Rβ受容体との結合力はいずれも低下したものの、IL-2Rβ受容体に対する結合力は11.4倍減少しただけであり、IL-2Rα受容体に対する結合力は14.8倍減少したことから、製造されたPEG化IL-2とIL-2Rα受容体の結合力の低下幅はより大きく、その偏向性をIL-2Rβ受容体と優先的に結合させ、当業者は、製造されたPEG化IL-2はIL-2Rα受容体ではなくIL-2Rβγ受容体に選択的に結合することが期待できると主張している。

つまり、請求人は、審判請求書における主張(上記エ)とは異なって、結合力の低下幅という概念を持ち出して、IL-2がPEG化されることによる、受容体に対する偏向性の変化について論じているといえる。

しかし、請求項1には、特許を受けようとする発明として「結合部位制御可能なPEG化IL-2」が記載され、前記「結合部位制御可能とは、前記PEG化IL-2が選択的にIL-2Rβγ受容体に結合することであり」と記載されているから、本願発明は、「選択的にIL-2Rβγ受容体に結合するPEG化IL-2」である。

そして、上記(3)の冒頭でも指摘したとおり、IL-2受容体にはα、β、γサブユニットが様々に組み合わさった多くの種類の受容体が含まれるところ(例えば、段落【0006】)、ある特定のPEG化IL-2が「選択的にIL-2Rβγ受容体に結合する」とは、単に、当該ある特定のPEG化IL-2が、IL-2Rβγ受容体に、他の種類のIL-2受容体よりも強く結合することを意味し、PEG化されていないIL-2の結合性との比較は必要とされないものである。

そうすると、PEG化IL-2の選択的結合性をPEG化されていないIL-2の選択的結合性と比較して論じる請求人の主張は、請求項1の記載に基づかない、失当なものである。

なお、本願発明が解決しようとする課題を、PEG化されていないIL-2の選択的結合性と比較して、IL-2Rβγ受容体に対する選択的結合性が強いPEG化IL-2を得ることとする上記主張についても、念のため、検討する。

そもそも実施例4には、表の数値が解離定数であるとの記載はなく、どのように受容体の選択性を評価するかについても具体的に説明されていない。審判請求書においては、実施例4の表の数値が何を意味しているかについて補足することなく、直接的な比較、つまり2.80から31.96への増加に基づいて、IL-2Rβに対する結合力が10倍以上向上したと主張しており、相対的な減少の程度を比較することについては何ら言及されていない。しかも、実施例4の表の数値が解離定数なのであれば、IL-2のPEG化により、IL-2Rβへの結合力は10倍以上低下している(向上ではなく)と解すべきであるから、審判請求時において、請求人が、実施例4の表の数値を解離定数とみなしていたのかどうかも判然としない。また、本願の段落【0126】における「上表の結果が、本発明に係る方法により調製されたPEG-IL-2とIL-2β受容体との結合力が強いことを明らかにした。」との記載について、結合力そのものの比較でなく、結合力の低下幅の比較に基づく選択性について論じていると解すべき理由も見いだせない。そうすると、PEG化IL-2の受容体の選択性について、解離定数の相対的な大きさ、つまりPEG化されていないIL-2を基準とする結合力の低下幅を比較して評価することが、本願優先日前に公知であった証明文献1に記載されていたとしても、本願の実施例4に記載された結果を証明文献1の表1と同様に解すべきとする根拠が見いだせず、請求人の主張は採用できない。

そして、実施例4の表の数値について、結合力の低下幅で評価した場合であっても、IL-2Rαについての0.023から0.34への14.8倍と、IL-2Rβについての2.80から31.96への11.4倍に有意差があることが示されていないから、依然として、選択的にIL-2Rβγ受容体に結合するPEG化IL-2が得られたことが示されていると解することはできない。

カ サブユニット単量体であるIL-2Rα又はIL-2Rβに対する結果が、IL-2RβとIL-2Rγのヘテロ二量体であるIL-2Rβγ系受容体に対する親和性にどのように反映されるのかが明らかでないこと(上記3(3))

上記イで述べたとおり、実施例4の表の数値が解離定数であるならば、請求項1の工程(1)~(4)を含む方法によって調製されたと認められる「PEG化IL-2」は、IL-2RβよりもIL-2Rαに94倍(31.96÷0.34)強く結合すると解される。仮に、実施例4において得られた「PEG化IL-2」について、PEG化されていないIL-2を基準とすることでIL-2RαよりもIL-2Rβに対する親和性が向上していることが示されているとした場合であっても、サブユニット単量体であるIL-2Rα又はIL-2Rβに対する結果が、IL-2RβとIL-2Rγのヘテロ二量体であるIL-2Rβγ系受容体に対する親和性にどのように反映されるのかについて、発明の詳細な説明にんは何ら記載されておらず、本願出願日の技術常識から、説明するまでもなく明らかであるとも認められず、実施例4において、IL-2Rβγ系受容体に選択的に結合するPEG化IL-2が得られていると解することはできない。

キ 上記3(3)に対する、請求人の同意見書における主張について

同意見書において、請求人は、証明文献1には、PEG化IL-2との結合能力を評価するにあたり、細胞表面のIL-2Rβγをシミュレートするために高密度のIL-2Rβを使用することが記載されているから(上記(2)ウ、エ)、本願の実施例4におけるIL-2Rβに対する結果に基づいて、IL-2Rβγ受容体との結合を評価することができると主張している。

しかし、証明文献1とは異なり、本願の実施例4においてはIL-2Rαβについて親和性がテストされておらず、IL-2Rαβγ受容体に対応するモデルは用いられていないから、IL-2Rαβγ系受容体よりもIL-2Rβγ系受容体に選択的に結合することが推認できるとはいえない。また、IL-2αが、IL-2Rαβγ受容体に対応するモデルになり得るとする根拠も見いだせない。仮に、IL-2RβがIL-2Rβγのモデルとなるのと同様に、IL-2αがIL-2Rαγのモデルとなるとした場合、上述のとおり、IL-2Rαについての14.8倍と、IL-2Rβについての11.4倍に有意差があることが示されていないし、仮に、有意差があるとしても、PEG化されていないIL-2に対して低親和性であるIL-2Rαγ系受容体よりも、PEG化されていないIL-2に対して中等親和性であるIL-2Rβγ系受容体に選択的であるPEG化IL-2は、PEG化されていないIL-2と比較して選択性が変化しているとはいえない。

以上のとおりであるから、発明の詳細な説明に、請求項1の工程(1)~(4)を含む方法によって調製されたPEG化IL-2が、少なくともIL-2Rαβγ受容体よりもIL-2Rβγ受容体に強く結合し、上記課題を解決できるものであることを、当業者が認識できるように記載されていると認めることができず、本願はサポート要件を満たしていない。

よって、本願発明は、発明の詳細な説明に記載したものでない。

5 むすび

以上のとおり、本願は、特許請求の範囲の記載が特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていないから、拒絶すべきものである。

よって、結論のとおり審決する。

審決本文(J-PlatPat)

J-PlatPatの審決検索トップを開きます。番号入力で「審判番号」を選び、下の番号を貼り付けて検索してください。

J-PlatPat 審決検索を開く
2023-007142

番号・当事者・条文・審決分類・商標の称呼が一致(または近い)審決を機械的に集めた候補です。判断内容は各審決の本文でご確認ください。

同じ根拠条文の審決955件(特許法36条6項1号)
  • 2023-008844拒絶査定不服審判 / 2026-02-17 / 請求不成立BTN1A1又はBTN1A1リガンドに結合する抗体及び分子を用いて癌を治療する方…
    共通の条文: 特許法36条6項1号
  • 2023-016441拒絶査定不服審判 / 2026-01-27 / 請求不成立繭糸
    共通の条文: 特許法36条6項1号
  • 2023-019479拒絶査定不服審判 / 2025-11-26 / 請求不成立疼痛を治療し、疼痛感受性を増大させるためのペプチド及び他の薬剤
    共通の条文: 特許法36条6項1号
  • 2023-015065拒絶査定不服審判 / 2025-08-26 / 請求不成立治療的低密度リポタンパク質関連タンパク質6(LRP6)多価抗体の組成物および使用…
    共通の条文: 特許法36条6項1号
  • 2023-017320拒絶査定不服審判 / 2025-07-29 / 請求不成立新規な免疫原性CD1d結合ペプチド
    共通の条文: 特許法36条6項1号
検索でもっと見る →
同じ論点・分野の審決(審決分類)510件(537・C07K)
  • 2023-019283拒絶査定不服審判 / 2026-09-01 / 原査定取消(特許/登録すべき)多量体二環式ペプチドリガンド
    共通の審決分類: 537・C07K
  • 2024-000023拒絶査定不服審判 / 2026-08-26 / 原査定取消(特許/登録すべき)機能性および製造可能性を改善するための普遍的なまたは正規化された抗体フレームワー…
    共通の審決分類: 537・C07K
  • 2024-008494拒絶査定不服審判 / 2026-07-29 / 原査定取消(特許/登録すべき)IL-17A、IL-17Fおよび/またはIL17-A/Fに対するアミノ酸配列およ…
    共通の審決分類: 537・C07K
  • 2023-002024拒絶査定不服審判 / 2026-07-23 / 原査定取消(特許/登録すべき)システイン操作抗体及びコンジュゲート
    共通の審決分類: 537・C07K
  • 2024-010831拒絶査定不服審判 / 2026-07-23 / 原査定取消(特許/登録すべき)二重受容体アゴニスト作用を有するポリペプチド誘導体及びその用途
    共通の審決分類: 537・C07K

メモ・タグ(非公開)

あなただけに表示されます。審決本文の公開範囲は変わりません。

メモとタグは Pro の機能です。ログイン/Proでメモを保存