特許拒絶査定不服審判
2023-002901
害虫防除用定量噴射型エアゾール製品および害虫防除方法
- 審判番号
- 2023-002901
- 法域
- 特許
- 審判種別
- 拒絶査定不服審判(拒絶査定不服の審決)
- 出願番号
- 特願2018-225556外部サイト(J-PlatPat)へ移動します
- 請求日
- 2023年02月20日
- 審決日
- 2024年09月30日
- 公報発行日
- 2024年12月27日
- 結論
- 請求不成立
- 当事者
- 【請求人】アース製薬株式会社
- 【請求人代理人】弁理士法人朝日奈特許事務所
- 分類
- P18 .121-Z (A01N) / P18 .575-Z (A01N)
- 根拠条文(結論部分から自動抽出・参考)
- 特許法29条2項
- 条文(本文から自動抽出・参考)
- 特許法第17条の2第6項、特許法第29条第2項、特許法第17条の2第5項第2号
- データ出所
- 審決公報(XML)
事件の表示
特願2018-225556「害虫防除用定量噴射型エアゾール製品および害虫防除方法」拒絶査定不服審判事件〔令和元年6月24日出願公開、特開2019-99575〕について、次のとおり審決する。
結論
結 論
本件審判の請求は、成り立たない。
理由
理 由
第1 手続の経緯
本願は、平成30年11月30日(優先権主張 平成29年12月1日、以下「本願優先日」という。)の出願であって、その主な手続の経緯は、次のとおりである。
令和4年 3月28日付け 拒絶理由通知
同年 8月 2日 意見書及び手続補正書の提出
同年12月 5日付け 拒絶査定(以下「原査定」という。)
令和5年 2月20日 審判請求書及び手続補正書の受付
第2 令和5年2月20日受付の手続補正書による手続補正についての補正
の却下の決定
[補正の却下の決定の結論]
令和5年2月20日受付の手続補正書による手続補正(以下「本件補正」という。)を却下する。
[理由]
1 本件補正の内容
(1)本件補正後の請求項1の記載
本件補正により、特許請求の範囲の請求項1の記載は、次のとおりに補正された(下線部は補正箇所である。)。
「【請求項1】
蒸気圧が1×10-5mmHg(25℃)未満であり、フェノトリンまたはペルメトリンを含む難揮散性殺虫化合物を含む原液と噴射剤とからなり、前記原液が40容量%以下となるよう含まれるエアゾール組成物を、衣類の収容された、容積が50L~18000Lの半密閉または密閉空間である狭小空間に対して、1回あたりの噴射量が0.1~1.0mLとなり、水平方向から斜め上方向に0~75度に、噴口から30cm離れた位置における噴射力が25℃において2.0~14.0gfとなるよう噴射する、害虫防除方法。」
(2)本件補正前の請求項1の記載
本件補正前の、令和4年8月2日提出の手続補正書による手続補正により補正された特許請求の範囲の請求項1の記載は、次のとおりである。
「【請求項1】
蒸気圧が1×10-5mmHg(25℃)未満の難揮散性殺虫化合物を含む原液と噴射剤とからなり、前記原液が40容量%以下となるよう含まれるエアゾール組成物を、衣類の収容される狭小空間に対して、1回あたりの噴射量が0.1~1.0mLとなり、水平方向から斜め上方向に0~75度に、噴口から30cm離れた位置における噴射力が25℃において2.0~14.0gfとなるよう噴射する、害虫防除方法。」
2 本件補正の適否
(1)本件補正の目的について
本件補正のうち請求項1についての補正は、上記1に示したように、本件補正前の請求項1に記載された発明を特定するために必要な事項である「難揮散性殺虫化合物」及び「狭小空間」について、前者を「フェノトリンまたはペルメトリンを含む」ものに限定し、後者を「衣類の収容された、容積が50L~18000Lの半密閉または密閉空間である」ものに限定するものであって、本件補正前の請求項1に記載された発明と補正後の請求項1に記載された発明の産業上の利用分野及び解決しようとする課題が同一であるから、特許法第17条の2第5項第2号に掲げる「特許請求の範囲の減縮」を目的とするものに該当する。
(2)独立特許要件について
そこで、本件補正後の請求項1に記載されている事項により特定される発明(以下「本件補正発明」という。)が、特許法第17条の2第6項において準用する同法第126条第7項の規定に適合するか(特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるか)について、以下、検討する。
ア 本件補正発明
本件補正発明は、上記1(1)に記載したとおりのものである。
イ 引用文献及び引用文献の記載事項
(ア)引用文献
引用文献1:特開2011-63576号公報
(原査定における引用文献1と同じ。公開日:平成23年3月31日。)
引用文献3:特開2017-186292号公報
(当審において新たに引用する周知の技術的事項を示す文献。公開日:
平成29年10月12日。)
引用文献4:特開2015-224214号公報
(当審において新たに引用する周知の技術的事項を示す文献。公開日:
平成27年12月14日。)
(イ)引用文献の記載事項
a 引用文献1の記載事項
引用文献1には、以下の事項が記載されている。なお、引用箇所に付した下線は、特に注釈がない限り、当審合議体によるものであり、「・・・」は摘記の省略を示す。以下、他の引用文献等の引用箇所についても同じ。
(摘記1a)
「【請求項1】
害虫、ダニ防除成分として、(a)30℃における蒸気圧が2×10-4~1×10-2mmHgである常温揮散性ピレスロイド化合物から選ばれた1種又は2種以上、(b)30℃における蒸気圧が1×10-4mmHg未満である難揮散性化合物から選ばれた1種又は2種以上、並びに溶剤として(c)炭素数が2~3の低級アルコールを含むエアゾール原液と(d)噴射剤とからなり、(a)/(b)の配合比率が0.008/1~0.2/1で、且つ、エアゾール原液/噴射剤比率が20~50/50~80(容量比)であり、しかも定量噴霧用エアゾールバルブを備えた害虫、ダニ防除用エアゾールを用いて、屋内で一定量空間噴霧処理することを特徴とする害虫、ダニ防除方法。」
(摘記1b)
「【背景技術】
【0002】
・・・
【0004】
このように、従来、空間処理でありながら医薬部外品に該当する匍匐害虫や屋内塵性ダニ類用防除剤の開発は困難と考えられ、未だ実用化されたものはない。
ところで、特許文献1(特開2009-143868)は、殺虫成分および溶剤を含む殺虫液を室内空間、収納空間等の空間内に蒸散させて匍匐害虫を駆除する方法であって、前記溶剤として特定の構造を有する化合物を用い、前記空間に粒子径の小さい殺虫液微粒子が浮遊し続けるべく、ピエゾ式噴霧器により前記殺虫液を少量ずつ時間をかけて蒸散させる匍匐害虫駆除方法を開示する。この特許文献1の方法は、液体電気蚊取りのように、微量の薬剤を継続して長時間にわたり空間に放散し、ゴキブリを駆除することを提案したものであるが、蚊に較べて数十倍薬剤に強いゴキブリを対象とする以上、強力な殺虫成分を使用せざるを得ず、人体に対する安全性の懸念が避けられない。
【0005】
本発明者らは、かかる状況を鑑み、空間処理剤であって、医薬部外品に該当する匍匐害虫や屋内塵性ダニ類用防除剤を開発するにあたり、(1)燻煙剤や(2)全量噴射型エアゾールのような2~4週間に一度の頻度で使用される製剤ではなく、1回処理すれば実用条件下で数日間駆除効果が持続する、即ち基本的に1~2日に1回使用する製剤であって、人が居る状況下でも使用可能な安全性の高い製剤を目指すことを基本とした。そのうえで鋭意種々検討を行い、特定の処方のエアゾールを採用することによって、匍匐害虫や屋内塵性ダニ類のみならず、噴霧当日は飛翔害虫にも有効な本発明を完成するに至ったものである。
・・・
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明の目的は、特定の処方のエアゾールを屋内で一定量空間噴霧処理し、その処理区域において匍匐害虫や屋内塵性ダニ類に対する駆除効果を数日間持続させる一方、噴霧当日はその処理空間を飛翔害虫に対して防除可能な雰囲気とする害虫、ダニ防除方法を提供することにある。」
(摘記1c)
「【0011】
(a)常温揮散性害虫防除成分としては、例えば、メトフルトリン、プロフルトリン、トランスフルトリン、エムペントリン、テラレスリン、フラメトリン等があげられるが、蒸気圧や安定性、基礎殺虫効力等を考慮すると、メトフルトリン、プロフルトリン及びトランスフルトリンが好ましい。・・・
【0012】
本発明では、匍匐害虫及び/又は屋内塵性ダニ類に対する効率的な防除方法の提供を重視して、(a)常温揮散性害虫防除成分と共に、(b)30℃における蒸気圧が1×10-4mmHg未満である難揮散性化合物から選ばれた1種又は2種以上の害虫防除成分及び/又はダニ防除成分を併用する。
ゴキブリに代表される匍匐害虫駆除用の害虫防除成分としては、フェノトリン、シフェノトリン、ぺルメトリン、シペルメトリン、シフルトリン、ビフェントリン、トラロメトリン、イミプロトリン、エトフェンプロックス等のピレスロイド系化合物・・・等があげられるが、これらの中では、フェノトリン、シフェノトリン、シフルトリン、ジノテフランが好ましい。
・・・
【0013】
本発明の害虫、ダニ防除方法は、害虫、ダニ防除成分が高濃度の害虫、ダニ防除用エアゾールを少量一定量空間噴霧するので、エアゾール原液中の害虫、ダニ防除成分含有量も、1.0~70w/v%程度と高濃度となる。
そのうえで、本発明は、害虫、ダニ防除成分として、(a)常温揮散性害虫防除成分と(b)難揮散性害虫防除成分及び/又はダニ防除成分を、(a)/(b)=0.008/1~0.2/1、好ましくは、0.01/1~0.2/1の比率で配合したことに特徴を有する。
即ち、(a)常温揮散性害虫防除成分と(b)難揮散性化合物を、特定の比率で組み合せて配合することによって、人が居る状況下でも使用可能な安全性の高い製剤となし、匍匐害虫及び/又は屋内塵性ダニ類に対する駆除効果を数日間持続させることが可能となったものである。
・・・
【0014】
本発明で用いる害虫、ダニ防除用エアゾールの調製用の溶剤としては、(a)常温揮散性害虫防除成分の蒸気圧を考慮して炭素数が2~3の低級アルコールに特定され、エタノールやイソプロパノール(IPA)が一般的である。・・・
・・・
【0015】
・・・
また、害虫、ダニ防除用エアゾールの噴射力については、床や壁に付着する噴霧粒子が十分量となるように、噴射距離20cmにおける噴射力を3.0~8.0g・fに設計するのが好ましい。」
(摘記1d)
「【実施例1】
【0024】
メトフルトリン1.1w/v%とフェノトリン44.4w/v%をエタノールに溶解してエアゾール原液を調製した。このエアゾール原液9mLと液化石油ガス21mL[エアゾール原液/噴射剤比率:30/70(容量比)]を定量噴霧用エアゾールバルブ付きエアゾール容器に加圧充填して、本発明で用いる害虫、ダニ防除用エアゾールを得た。
このエアゾール原液におけるメトフルトリン/フェノトリンの配合比率は0.025/1であり、また、このエアゾールの噴射距離20cmにおける噴射力は6.4g・fで、10~50μmの噴霧粒子が全体の80%を占めた。
【0025】
ほぼ密閉した6畳の部屋中央で、前記エアゾールを1ショット当り0.4mLずつ、やや斜め上方4隅に向けて4ショット噴霧した。このエアゾールは、全体の噴霧粒子のうちの65%が噴霧処理1時間後までに床面に沈降するか、もしくは壁面に付着し、数日間、ゴキブリ類、アリ類やシバンムシ等の匍匐害虫に対して優れた防除効果を発揮するとともに、屋内塵性ダニ類を寄せ付けなかった。また、噴霧当日は7時間以上にわたり蚊等の飛翔害虫を防除することができ、非常に実用性の高いものであった。・・・」
b 引用文献3の記載事項
引用文献3には、以下の事項が記載されている。
(摘記3a)
「【請求項1】
(A)成分:害虫防除成分、
(B)成分:4-イソプロピル-3-メチルフェノール、
(C)成分:アスコルビン酸系化合物、
並びに、(D)成分:ヒドロキシエチルセルロース、ヒドロキシエチルメチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、ヒプロメロース、カルメロース及びそれらの塩、カルボキシビニルポリマー、ビニルピロリドン・酢酸ビニル共重合体、ポビドン、ポリビニルアルコール、デンプンからなる群から選ばれる少なくとも1種、を含有する、燻煙剤組成物。」
(摘記3b)
「【0011】
[(A)成分]
(A)成分は、害虫防除成分である。
(A)成分としては、特に限定されず、従来の燻煙剤組成物に配合されている成分を使用でき、防除対象の有害害虫の種類等を考慮して適宜選択できる。(A)成分の具体例としては、例えば、ピレスロイド系、カーバメイト系、オキサジアゾール系、ネオニコチノイド系等の化合物が挙げられる。(A)成分としては、フェノトリン、ペルメトリン、ピレトリン、メトキサジアゾン、エトフェンプロックス、d・d-T-シフェノトリン、プロポクスル、ジノテフランが好ましい。」
(摘記3c)
「【0035】
・・・
これらのことから、本発明の燻煙剤組成物は、密閉状態での可燃性ガスの発生や、粉塵による汚れの発生等を抑制すること、及び予防的な害虫防除効果の付与の要望がより高い、押し入れ、クローゼット等の6畳未満の小空間への適用に特に有効である。」
c 引用文献4の記載事項
引用文献4には、以下の事項が記載されている。
(摘記4a)
「【請求項1】
炭素数が12~14のノルマルパラフィンを含有することを特徴とする、エムペントリン及び/又はプロフルトリンの屋内ダニ忌避効力増強剤。
・・・
【請求項5】
請求項1ないし4のいずれか1項に記載の屋内ダニ忌避効力増強剤を配合した屋内ダニ忌避組成物を屋内で施用することを特徴とする屋内ダニ忌避方法。
【請求項6】
前記屋内ダニ忌避組成物を、タンス、引出し、クローゼット、及び衣装箱で施用することを特徴とする請求項5に記載の屋内ダニ忌避方法。」
(摘記4b)
「【0015】
本発明では、本発明の趣旨に支障を来たさない限りにおいて、他の屋内ダニ忌避成分や屋内ダニ駆除成分を配合してもよい。かかる成分としては、例えば、・・・、フェノトリン、アミドフルメト、及びイソボルニルチオシアノアセテート等の屋内ダニ駆除成分があげられる。」
ウ 引用文献1に記載された発明
引用文献1には、請求項1に、
「害虫、ダニ防除成分として、(a)30℃における蒸気圧が2×10-4~1×10-2mmHgである常温揮散性ピレスロイド化合物から選ばれた1種又は2種以上、(b)30℃における蒸気圧が1×10-4mmHg未満である難揮散性化合物から選ばれた1種又は2種以上、並びに溶剤として(c)炭素数が2~3の低級アルコールを含むエアゾール原液と(d)噴射剤とからなり、(a)/(b)の配合比率が0.008/1~0.2/1で、且つ、エアゾール原液/噴射剤比率が20~50/50~80(容量比)であり、しかも定量噴霧用エアゾールバルブを備えた害虫、ダニ防除用エアゾールを用いて、屋内で一定量空間噴霧処理することを特徴とする害虫、ダニ防除方法」(摘記1a)
が記載されており、当該「害虫、ダニ防除方法」の具体的態様である「実施例1」(摘記1d)において、
「メトフルトリン1.1w/v%とフェノトリン44.4w/v%をエタノールに溶解してエアゾール原液を調製した。このエアゾール原液9mLと液化石油ガス21mL[エアゾール原液/噴射剤比率:30/70(容量比)]を定量噴霧用エアゾールバルブ付きエアゾール容器に加圧充填して、本発明で用いる害虫、ダニ防除用エアゾールを得た」こと(摘記1d【0024】)、
「このエアゾールの噴射距離20cmにおける噴射力は6.4g・f」であったこと(摘記1d【0024】)、
「ほぼ密閉した6畳の部屋中央で、前記エアゾールを1ショット当り0.4mLずつ、やや斜め上方4隅に向けて4ショット噴霧した」こと(摘記1d【0025】)、
及び
「このエアゾールは、全体の噴霧粒子のうちの65%が噴霧処理1時間後までに床面に沈降するか、もしくは壁面に付着し、数日間、ゴキブリ類、アリ類やシバンムシ等の匍匐害虫に対して優れた防除効果を発揮するとともに、屋内塵性ダニ類を寄せ付けなかった。また、噴霧当日は7時間以上にわたり蚊等の飛翔害虫を防除することができ、非常に実用性の高いものであった」こと(摘記1d【0025】)、
が記載されている。
そうすると、引用文献1には、請求項1に記載された「害虫、ダニ防除方法」の具体的態様である実施例1として、次の発明(以下「引用発明1」という。)が記載されていると認められる。
≪引用発明1≫
「メトフルトリン1.1w/v%とフェノトリン44.4w/v%をエタノールに溶解してエアゾール原液を調製し、このエアゾール原液9mLと液化石油ガス21mL[エアゾール原液/噴射剤比率:30/70(容量比)]を定量噴霧用エアゾールバルブ付きエアゾール容器に加圧充填して、害虫、ダニ防除用エアゾールを得、このエアゾールの噴射距離20cmにおける噴射力が6.4g・fであり、ほぼ密閉した6畳の部屋中央で、前記エアゾールを1ショット当り0.4mLずつ、やや斜め上方4隅に向けて4ショット噴霧する、害虫、ダニ防除方法。」
エ 本件補正発明と引用発明1との対比
(ア)
本願明細書における次の記載:
「【0015】
・・・。難揮散性殺虫化合物としては、例えば、ピレスロイド系化合物、・・・等の殺虫化合物が挙げられる。・・・
【0016】
・・・。ピレスロイド系化合物としては、例えば、フェノトリン(蒸気圧:1.43×10-7mmHg(21℃))・・・等が挙げられる。・・・。なお、フェノトリン・・・の蒸気圧は、25℃において1×10-5mmHg未満である。」
からみて、「フェノトリン」は、蒸気圧が25℃において1×10-5mmHg未満である、難揮散性殺虫化合物に該当するものと認められる。
そうすると、引用発明1における「フェノトリン」は、本件補正発明における「蒸気圧が1×10-5mmHg(25℃)未満であり、フェノトリンまたはペルメトリンを含む難揮散性殺虫化合物」に相当する。
(イ)
引用文献1には「エタノール」が「害虫、ダニ防除用エアゾールの調製用の溶剤」(摘記1c【0014】)であることが記載されており、本件補正発明は「難揮散性殺虫化合物を含む原液」が「フェノトリンまたはペルメトリン」以外の「メトフルトリン」等の殺虫化合物を含むことも除外していないから、上記(ア)の対比も踏まえると、引用発明1における「メトフルトリン1.1w/v%とフェノトリン44.4w/v%をエタノールに溶解」して調製した「エアゾール原液」は、本件補正発明における「蒸気圧が1×10-5mmHg(25℃)未満であり、フェノトリンまたはペルメトリンを含む難揮散性殺虫化合物を含む原液」に相当する。
(ウ)
引用発明1における「このエアゾール原液9mLと液化石油ガス21mL[エアゾール原液/噴射剤比率:30/70(容量比)]」という事項からみて、引用発明1における「液化石油ガス」は、本件補正発明における「噴射剤」に相当する。
(エ)
引用発明1における「このエアゾール原液9mLと液化石油ガス21mL[エアゾール原液/噴射剤比率:30/70(容量比)]を定量噴霧用エアゾールバルブ付きエアゾール容器に加圧充填」して得た「害虫、ダニ防除用エアゾール」は、「エアゾール原液」と「噴射剤」とからなる「エアゾール組成物」といえる。
さらに、「エアゾール原液/噴射剤比率:30/70(容量比)」であるとは、「エアゾール原液」が「30容量%」となることであるから、引用発明1における「害虫、ダニ防除用エアゾール」は、「エアゾール原液」が「40容量%以下」となるように含まれているものといえる。
そうすると、引用発明1における「このエアゾール原液9mLと液化石油ガス21mL[エアゾール原液/噴射剤比率:30/70(容量比)]を定量噴霧用エアゾールバルブ付きエアゾール容器に加圧充填」して得た「害虫、ダニ防除用エアゾール」は、本件補正発明における「原液と噴射剤とからなり、前記原液が40容量%以下となるよう含まれるエアゾール組成物」に相当する。
(オ)
引用発明1における「ほぼ密閉した6畳の部屋」は、「ほぼ密閉した」が「半密閉または密閉した」状態といえるから、本件補正発明における「衣類の収容された、容積が50L~18000Lの半密閉または密閉空間である狭小空間」と、「半密閉または密閉空間」である限りにおいて、共通する。
(カ)
引用発明1における「前記エアゾールを1ショット当り0.4mLずつ、やや斜め上方4隅に向けて4ショット噴霧する」ことについて、「4ショット噴霧」は「4回」の「噴射」であるといえ、「1ショット当り0.4mLずつ」とは、1回当たりの噴射量が0.4mLということであるから、1回あたりの噴射量が0.1~1.0mLの範囲内であるといえる。
さらに、「やや斜め上方4隅に向けて・・・噴霧する」とは、噴射する際の上下の方向が「やや斜め上方」ということであり、「やや斜め上方」は、垂直方向よりも水平方向に近い斜め上方の方向であるから、「水平方向から斜め上方向に0~75度」の範囲内にあるといえる。
そうすると、引用発明1における「前記エアゾールを1ショット当り0.4mLずつ、やや斜め上方4隅に向けて4ショット噴霧する」ことは、本件補正発明における「1回あたりの噴射量が0.1~1.0mLとなり、水平方向から斜め上方向に0~75度」に「噴射する」ことに相当する。
(キ)
引用発明1における「害虫、ダニ防除方法」は、本件補正発明における「害虫防除方法」に相当する。
(ク)
そうすると、本件補正発明と引用発明1とは、
「蒸気圧が1×10-5mmHg(25℃)未満であり、フェノトリンまたはペルメトリンを含む難揮散性殺虫化合物を含む原液と噴射剤とからなり、前記原液が40容量%以下となるよう含まれるエアゾール組成物を、半密閉または密閉空間に対して、1回あたりの噴射量が0.1~1.0mLとなり、水平方向から斜め上方向に0~75度に、特定の噴射力となるよう噴射する、害虫防除方法。」
である点で一致し、以下の点で相違する。
<相違点1>:
「半密閉または密閉空間」が、本件補正発明では、「衣類の収容された、容積が50L~18000L」である「狭小空間」であるのに対し、引用発明1では、「6畳の部屋」である点。
<相違点2>:
「噴射力」について、本件補正発明では、「噴口から30cm離れた位置における噴射力が25℃において2.0~14.0gf」とされているのに対し、引用発明1では、「エアゾールの噴射距離20cmにおける噴射力が6.4g・f」とされている点。
オ 相違点についての判断
(ア)相違点1について
a
引用文献1には、背景技術として、殺虫成分および溶剤を含む殺虫液を、「室内空間」や「収納空間」等の空間内に蒸散させ、微量の薬剤を継続して長時間にわたり空間に放散し、ゴキブリ等の匍匐害虫を駆除する方法が存在したが、この方法は、強力な殺虫成分を使用せざるを得ず、人体に対する安全性の懸念が避けられなかったことが記載され(摘記1b【0004】)、かかる状況を鑑み、空間処理剤として、1回処理すれば実用条件下で数日間は駆除効果が持続する、人が居る状況下でも使用可能な安全性の高い製剤を目指すことを基本として、鋭意種々検討を行い、特定の処方のエアゾールを採用したことが記載されている(摘記1b【0005】)。
このような引用文献1の記載によれば、引用文献1に記載の「害虫、ダニ防除用エアゾール」を噴霧する「空間」としては、「室内空間」とともに、「収納空間」も想定されていると解されるところ、一般に害虫防除剤を適用する「収納空間」としては、「衣類の収納された空間」であるクローゼットや押し入れ等が主な例として挙げられる。
b
また、引用文献3には、燻煙剤組成物(害虫防除成分としてフェノトリンが好ましい例として挙げられている(摘記3b))を、予防的な害虫防除効果の付与の要望がより高い、押し入れやクローゼット等の6畳未満の小空間に適用することが記載されており(摘記3c)、引用文献4には、屋内ダニ忌避組成物(フェノトリン等の屋内ダニ駆除成分を配合してもよいとされている(摘記4b))を、屋内で施用する屋内ダニ忌避方法において、タンスや引出し、クローゼット、衣装箱のような衣類収納空間、もしくはウォークインクローゼットのような空間で施用することが記載されている(摘記4a)。
このような引用文献3及び4の記載によれば、フェノトリン等の害虫防除成分を含む組成物を適用する空間として、衣類の収容されたクローゼットや押し入れのような6畳未満の小空間があることは、本願優先日前に当業者にとって周知の技術的事項であったと認められる。
c
ここで、本願明細書の【0045】には、「狭小空間とは、容積が50L~18000L(約4.5畳)程度の半密閉または密閉空間をいう。」と記載されていることから、本件補正発明における「容積が50L~18000L」の「狭小空間」とは、約4.5畳程度までの空間であるといえる。
d
そうすると、引用発明1の「害虫、ダニ防除方法」において、「害虫、ダニ防除用エアゾール」を噴霧する「半密閉または密閉空間」として、「6畳の部屋」に代えて、衣類の収容されたクローゼットや押し入れのような6畳未満の小空間とすることは、当業者が容易になし得たことであり、そのような6畳未満の小空間には、約4.5畳程度までの空間が当然に含まれるから、結果として、引用発明1において、「害虫、ダニ防除用エアゾール」を、「衣類の収容された、容積が50L~18000L」の「狭小空間」に噴射するものとすることに、格別の困難性はない。
(イ)相違点2について
a
引用発明1の「害虫、ダニ防除方法」において、エアゾールの噴射力は、「エアゾールの噴射距離20cmにおける噴射力が6.4g・f」とされているところ、これは、噴口から20cm離れた位置における噴射力が6.4g・fということであり、当該噴射力の測定時の温度は不明であるが、引用文献1においては、「常温」で揮散散性のピレスロイド化合物を「30℃」における蒸気圧の範囲で規定していることから(摘記1a)、当該噴射力は「30℃」での測定値を示したものとも解される。
そして、体積が一定なら、温度が高いほど気体の圧力は大きくなるから、仮に引用発明1における噴射力が「30℃」での測定値であったとすると、噴口から「20cm」離れた位置における噴射力が「6.4g・f」であるということは、「30℃」よりも低い「25℃」において、同じ態様で噴霧した場合、噴口からさらに10cm遠い「30cm」離れた位置における噴射力は、「6.4g・f」よりも小さい値になると推定される。
そうすると、引用発明1におけるエアゾールの噴射力は、本件補正発明における「噴口から30cm離れた位置における噴射力が25℃において2.0~14.0gf」との条件のうち、「~14.0gf」の上限値を満たしているといえる。
b
また、引用文献1には、害虫、ダニ防除用エアゾールの噴射力について、「床や壁に付着する噴霧粒子が十分量となるように、噴射距離20cmにおける噴射力を3.0~8.0g・fに設計するのが好ましい」(摘記1c【0015】)と記載されていることから、引用発明1の「害虫、ダニ防除方法」における「エアゾールの噴射距離20cmにおける噴射力」である「6.4g・f」は、エアゾールの噴霧粒子が、ほぼ密閉した6畳の部屋の中央から4隅の方向の床面や壁面に付着する十分量が拡散される程度の噴射力であると解される。
c
ここで、本願明細書には、
「【0041】
本実施形態のエアゾール製品によって噴射されるエアゾール組成物は、噴口から30cm離れた位置における噴射力が、25℃において、2.0gf以上であることが好ましく、・・・。噴射力が2.0gf未満である場合、噴射されたエアゾール組成物は、広範囲に拡散されにくい。・・・」
と記載されており、噴口から30cm離れた位置における噴射力が、25℃において2.0gf未満では、噴射されたエアゾール組成物が広範囲に拡散されにくいとされていることを踏まえると、引用発明1におけるエアゾールの噴射距離20cmで「6.4g・f」となる噴射力は、上記bで説示したとおり、エアゾールの噴霧粒子が、ほぼ密閉した6畳の部屋の中央から4隅の方向の床面や壁面に付着する十分量が拡散される程度の噴射力であると解されるから、本件補正発明における「噴口から30cm離れた位置における噴射力が25℃において2.0gf~14.0gf」との条件のうち、「2.0~・・・gf」の下限値も満たすものと推定される。
d
そして、上記(ア)で説示したように、引用発明1における「害虫、ダニ防除用エアゾール」を噴霧する「半密閉または密閉空間」について、「6畳の部屋」に代えて、「衣類の収容された、容積が50L~18000L」の「狭小空間」とすることは、当業者が容易になし得たことであるところ、その場合の害虫、ダニ防除用エアゾールの噴射力については、噴霧する空間の広さに応じて、「床や壁に付着する噴霧粒子が十分量となるように、噴射距離20cmにおける噴射力を3.0~8.0g・fに設計」(摘記1c【0015】)することは、当業者ならば容易になし得ることであるから、結果として、本件補正発明における「噴口から30cm離れた位置における噴射力が25℃において2.0~14.0gf」との条件を満たすものとすることも、特に困難なことではない。
カ 本件補正発明の効果について
本願明細書における【0011】の記載、及び、実施例(【0051】~【0083】)の記載からみて、本件補正発明は、
(i)刺激感が少なく、
(ii)難揮散性殺虫化合物を広範囲に均一に拡散でき、
(iii)噴霧対象物に対して均一に難揮散性殺虫化合物を付着させることにより局所的な汚染を起こしにくく、
(iv)優れた害虫防除効果を示す、
害虫防除方法を提供することができるという効果を奏するものであると認められる。
また、本願明細書の【0006】の記載によれば、これらの効果は、「所定の蒸気圧を示す難揮散性殺虫化合物を含む所定量の原液と噴射剤とからなるエアゾール組成物を、1回の噴射量を特定量に調整して噴射すること」によって、得られるとされていると認められる。
これらの本件補正発明の効果について、以下、検討する。
(ア)「(i)刺激感が少ない」効果について
a
本件補正発明の効果における「刺激感が少ない」ことの意味について検討すると、本願明細書の【0004】に、
「トランスフルトリンなどの揮散性殺虫化合物を用いると、噴霧時に揮散性殺虫化合物が揮散して舞い上がることで使用者がこれを吸引する可能性がある。この場合、使用者は、刺激感を感じることがある。」
と記載されていることから、使用者が噴霧された殺虫化合物を吸引する程度が小さければ、刺激感が少なくなるものと解される。
b
これに対し、引用文献1には、上記オ(ア)aで述べたように、背景技術の匍匐害虫を駆除する方法では、人体に対する安全性の懸念があったところ(摘記1b【0004】)、空間処理剤として、1回処理すれば実用条件下で数日間は駆除効果が持続する、人が居る状況下でも使用可能な安全性の高い製剤を目指すことを基本として、鋭意種々検討を行い、特定の処方のエアゾールを採用したことが記載されており(摘記1b【0005】)、引用発明1は、本件訂正発明と、エアゾールに含まれる成分・組成も、1回あたりの噴射量が0.1~1.0mLであることも、一致していて、使用者が噴霧された殺虫化合物を吸引する程度が小さいものといえるから、本件補正発明が「(i)刺激感が少ない」との効果を奏することは、当業者が予測し得る範囲内のことである。
(イ)「(ii)難揮散性殺虫化合物を広範囲に均一に拡散できる」効果、
及び、「(iv)優れた害虫防除効果」について
a
引用文献1には、引用発明1を認定する根拠とした実施例1の害虫、ダニ防除用エアゾールを使用した効果として、エアゾールを噴霧後、全体の噴霧粒子のうちの65%が噴霧処理1時間後までに床面に沈降するか、もしくは壁面に付着したこと、そして、数日間、ゴキブリ類、アリ類やシバンムシ等の匍匐害虫に対して優れた防除効果を発揮するとともに、屋内塵性ダニ類を寄せ付けなかったこと、が記載されている(摘記1d【0025】)。
b
上記オ(イ)bで説示したように、引用発明1における「エアゾールの噴射距離20cmにおける噴射力」である「6.4g・f」は、エアゾールの噴霧粒子が、ほぼ密閉した6畳の部屋の中央から4隅の方向の床面や壁面に付着する十分量が拡散される程度の噴射力であると解される。
そして、引用発明1における「害虫、ダニ防除用エアゾール」に含まれる「フェノトリン」は、「難揮散性化合物」であり、「匍匐害虫駆除用の害虫防除成分」であるから(摘記1c【0012】)、当該エアゾールを噴霧することにより、「難揮散性殺虫化合物」が、ほぼ密閉した6畳の部屋の全体にわたって床面や壁面に広範囲に均一に拡散し、その結果、優れた害虫防除効果を奏したものと認められる。
c
そうすると、上記(ア)でも述べたとおり、引用発明1は、本件訂正発明と、エアゾールに含まれる成分・組成も、1回あたりの噴射量が0.1~1.0mLであることも、一致しているから、エアゾールの噴射の対象である「半密閉または密閉空間」を、「衣類の収容された、容積が50L~18000L」である「狭小空間」とし、当該空間の広さに応じて「噴口から30cm離れた位置における噴射力が25℃において2.0~14.0gf」とした、本件補正発明においても、「(ii)難揮散性殺虫化合物を広範囲に均一に拡散できる」効果、及び、「(iv)優れた害虫防除効果」を奏することは、当業者が予測し得る範囲内のことである。
(ウ)「(iii)噴霧対象物に対して均一に難揮散性殺虫化合物を付着させ ることにより局所的な汚染を起こしにくい」効果について
a 「局所的な汚染」の原因について
本願明細書の【0004】には、従来技術の害虫防除方法における問題の一つとして、
「噴霧量を多く(たとえば1回あたり1mLより多く)した場合、噴霧した近傍では、床や衣類等が汚染(液シミ等)されることもある」
ことが記載されている。
この点について、引用発明1においては、噴霧量が「1ショット当り0.4mLずつ」であり、1回あたり1mLよりも少量であるから、従来技術の噴射力程度の噴霧であれば、床や衣類等の汚染(液シミ等の局所的な汚染)が生じるものとは解されない。
b 本願明細書における実施例等の記載に基づく判断
(a)
上記「(iii)の効果」の評価方法、評価基準及び評価結果について、本願明細書には、以下の記載がある。
「【0063】
<衣類への液シミ>
ステンレス製タンスA(寸法:横幅64cm、奥行き60cm、高さ130cm、容積:約500L)の中央に絹布(JIS L 0803準拠品、6匁付、5cm×5cm片)を1枚吊るし、布から20cm離れたところから実施例1~5、比較例1~3のエアゾール製品を1回噴射し、布の液シミ(汚染)度合を以下の評価基準にそって評価した。
(評価基準)
○:液シミ(汚染)が生じなかった。
△:ほとんど液シミ(汚染)が生じなかった。
×:液シミ(汚染)が生じた。」
「【0065】
【表1】
[図:0001417062000001.jpg]
【0066】
表1に示されるように、実施例1~5のエアゾール製品は、いずれも優れた拡散性を有していた。このことから、優れた害虫防除効果が期待できる。これらのエアゾール製品は、たとえば、タンス等の収容空間に収容された衣類に対し、イガ卵等の孵化を阻害し得る。また、これらのエアゾール製品は、刺激感がなく、かつ、噴霧対象物(ステンレス製タンス内の布)に液シミがほとんど生じなかった。また、実施例4のエアゾール製品は、ステンレス製タンスB(容積:約2159L)を用いた拡散性試験においても、優れた拡散性を有していた。これにより、優れた害虫防除効果が期待できる。
【0067】
一方、1回あたりの噴射量が1.0mLを超えた比較例1のエアゾール製品は、ステンレス製タンスのような狭小空間に噴霧されると、噴霧対象物である布に液シミが生じた。なお、比較例1のエアゾール製品は、狭小空間ではなく、より容積の大きな空間に噴霧された場合には、布に液シミを生じることがなかったことを確認した。また、蒸気圧が1×10-5mmHg(25℃)を超えるトランスフルトリンを配合した比較例2のエアゾール製品は、刺激が感じられた。さらに、原液を40容量%を超えて配合した比較例3のエアゾール製品は、拡散性が劣り、かつ、噴霧対象物である布に液シミが生じた。」
(b)
本願明細書の【0063】に記載の衣類への液シミの評価方法は、容積が「約500L」であるタンスの中央に布を吊るし、「布から20cm離れたところ」という近傍から、実施例1~5、比較例1~3のエアゾール製品を1回噴射し、布の液シミ(汚染)度合を評価したものである。
そして、評価結果のうち、「比較例1」の結果をみると、「1回あたりの噴射量が1.0mLを超えた比較例1のエアゾール製品は、ステンレス製タンスのような狭小空間に噴霧されると、噴霧対象物である布に液シミが生じた」とされているが、「比較例1のエアゾール製品は、狭小空間ではなく、より容積の大きな空間に噴霧された場合には、布に液シミを生じることがなかったことを確認した」と記載されている。
この比較例1の評価結果は、1回あたりの噴射量が1.0mLを超えており(2.2mL)、かつ、30cm離れた位置における噴射力が14.0gfを超えている(16.6gf)場合に、タンス(容積:約500L)のような空間に噴霧されると、噴口から20cm離れた布に液シミが生じるのに対して、1回あたりの噴射量及び噴射力が同じであっても、「約500L」であるタンスよりも、より容積の大きな空間に噴霧された場合には、液シミを生じなかったことが確認されたというものである。
さらに、「比較例3」の評価結果をみると、「原液を40容量%を超えて配合した」(75容量%)場合には、1回あたりの噴射量が0.1~1.0mLの範囲内(0.2mL)であっても、30cm離れた位置における噴射力が2.0gfを下回って(1.0gf)、タンス(容積:約500L)のような空間に噴霧されると、噴口から20cm離れた布に液シミが生じたとされている。
(c)
上記(a)及び(b)で確認した評価方法及び評価結果を踏まえて、上記「(iii)の効果」について更に検討する。
引用発明1においては、噴霧量が「1ショット当り0.4mLずつ」であるから、1回あたりの噴射量は1.0mLよりも少量であって、エアゾール原液の容積%も、「30容量%」であるから、40容量%以下であり、上記オ(イ)a~cで述べたように、引用発明1におけるエアゾールの噴射距離20cmで「6.4g・f」となる噴射力は、本件補正発明における「噴口から30cm離れた位置における噴射力が25℃において2.0gf~14.0gf」との条件を満たすものと推定される。
そうすると、上記aで説示した事項、並びに、上記(b)で説示した比較例1及び3の評価結果を併せ考慮すれば、引用発明1においては、そもそも床や衣類等の汚染(液シミ等の局所的な汚染)は生じ得ないものであったといえるところ、上記オ(ア)及び(イ)で説示したとおり、引用発明1において、エアゾールの噴射の対象である「半密閉または密閉空間」を、「衣類の収容された、容積が50L~18000L」である「狭小空間」とし、当該空間の広さに応じて「噴口から30cm離れた位置における噴射力が25℃において2.0~14.0gf」とすることは、当業者が容易になし得たことであり、そのような本件補正発明において、液シミ等の局所的な汚染が生じないことが確認できたとしても、そのことに格別の技術的な意義は見だせない。
c 「(iii)の効果」についてのまとめ
したがって、本件補正発明における「(iii)噴霧対象物に対して均一に難揮散性殺虫化合物を付着させることにより局所的な汚染を起こしにくい」効果は、当業者が予測し得ない格別顕著な効果であるとはいえない。
(エ)本件補正発明の効果についてのまとめ
以上のとおり、本願補正発明の効果については、いずれも当業者が予測し得ない格別顕著なものであるとは認められない。
キ 請求人の主張について
(ア)請求人の主張の概要
請求人は、審判請求書の「(3)本願発明が特許されるべき理由」において、概略、以下のa~eの主張をしているものと認められる。なお、下線は請求人が付したとおりであり、ここでいう「本願発明」は「本件補正発明」のことである。
主張a
本願発明は、
「刺激感が少なく、難揮散性殺虫化合物を広範囲に均一に拡散でき、噴霧対象物に対して均一に難揮散性殺虫化合物を付着させることにより局所的な汚染を起こしにくく、優れた害虫防除効果を示す害虫防除用定量噴射型エアゾール製品および害虫防除方法を提供することができる」(本願明細書【0011】)
との効果を奏し、また、
「狭小空間に用いられる場合に、噴霧対象物への液シミが小さく、かつ、空間における拡散性が優れる。適応場所の容積が50L未満である場合、そのような空間における薬剤濃度が高くなり、噴霧対象物への液シミが生じ易くなる傾向がある。一方、適応場所の容積が18000Lを超える場合、噴霧による気流の対流が起こりにくく、薬剤が噴霧対象物に均一に噴霧されにくい。また、均一に塗布させるために薬剤を過剰に噴霧すると、液シミが生じ易くなる傾向がある」(本願明細書【0045】)
との効果を奏する。
主張b
引用文献1には、「密閉された6畳の部屋」という「狭小ではない空間」に適用する一例が記載されているに過ぎず、本願発明でいう狭小空間(50L~18000L)に適用することは、開示も示唆もない。
もし仮に、引用文献1に記載の噴霧量(0.4mL×4ショット=1.6mL)にて、6畳空間(25m3)ではなく、本願発明の狭小空間(最大でも18000L、18m3)に適用した場合、本願発明の課題である均一に塗布することや、液シミを防ぐことは、より達成困難となることは明らかである。
主張c
引用文献1では、「斜め上方4隅に向けて4ショット噴霧すると、全体の噴霧粒子のうちの65%が噴霧処理1時間後までに床面に沈降するか、もしくは壁面に付着する」(当審注:【0025】)と開示されているように、容易に壁面に付着するように「広い6畳の部屋の四隅」に噴霧することが記載されているに過ぎず、かつ、噴霧粒子は、「落下するか又は壁面に付着する」のであり、本願発明のように、「狭小空間に用いられる場合に、・・・空間における拡散性が優れる」(本願明細書【0045】)、という効果を奏するものでもない。
主張d
本願発明が、実際に衣類が収容された状態の狭小空間に対して使用された場合であっても、液シミを生じることなく拡散させる得ることは、実施例で証明しており、このような効果は、単なる何もない6畳空間に例示がある引用文献1に記載の発明からは、容易に予期し得る効果ではない。
主張e
本願発明は、【0062】や表1等に示されているように、「刺激感を解消できること」についても同時に解決することができ、このような刺激感に関する課題も解決し得る点(効果を奏する点)は、当業者であっても容易に予期することはできない。
(イ)請求人の主張についての判断
a 主張bについて
請求人の主張bは、要するに、引用発明1において、上記エ(ク)で認定した<相違点1>の構成を採用する動機付けがなく、むしろ阻害要因があるというものであると認められる。
しかし、引用文献1に記載された「害虫、ダニ防除用エアゾール」を噴霧する「空間」としては、「室内空間」とともに、「収納空間」も想定されていると解されるところ、一般に害虫防除剤を適用する「収納空間」として、「衣類の収納された空間」であるクローゼットや押し入れ等が主な例として挙げられるし、フェノトリン等の害虫防除成分を含む組成物を適用する空間には、衣類の収容されたクローゼットや押し入れのような6畳未満の小空間があることが、本願優先日前に当業者に周知の技術的事項であったと認められるから、引用発明1において、エアゾールを噴霧する「半密閉または密閉空間」を、「6畳の部屋」に代えて、衣類の収容された6畳未満の小空間とすることは、当業者が容易になし得たことであって、引用発明1において、エアゾールを「衣類の収容された、容積が50L~18000L」の「狭小空間」に噴射するものとすることに、格別の困難性はない、ということは、上記オ(ア)で説示したとおりである。
また、引用発明1の噴霧量(0.4mL×4ショット=1.6mL)で、本願発明の狭小空間(最大でも18000L、18m3)に適用した場合、本願発明の課題である均一に塗布することや液シミを防ぐことが、より達成困難となることについて、そのことを裏付けるような客観的な試験データ等は何ら提示されていないし、本件補正発明においては、「1回あたりの噴射量が0.1~1.0mL」であることは特定されているものの、噴射回数については特に規定はなく、むしろ本願明細書の【0050】には、「噴射回数が1回であっても所望の効果が得られるが、空間の広さに応じて、噴射回数が2回以上であってもよい。」と記載されているから、請求人の主張は、特許請求の範囲の記載及び明細書の記載に基づくものではない。
したがって、請求人の上記主張bは、採用できない。
b 主張a、c~eについて
請求人の主張a、c~eは、要するに、本件補正発明の効果は、当業者が予測し得ない格別顕著なものであるということであると認められる。
しかしながら、本件補正発明の効果である、
(i)刺激感が少なく、
(ii)難揮散性殺虫化合物を広範囲に均一に拡散でき、
(iii)噴霧対象物に対して均一に難揮散性殺虫化合物を付着させることにより局所的な汚染を起こしにくく、
(iv)優れた害虫防除効果を示す、
害虫防除方法を提供することができるという効果は、いずれも当業者が予測し得ない格別顕著なものであるとは認められないことは、上記カで詳述したとおりである。特に、上記「(iii)の効果」については、上記カ(ウ)で説示したとおり、引用発明1においては、そもそも床や衣類等の汚染(液シミ等の局所的な汚染)は生じ得ないものであったといえるから、本件補正発明において液シミ等の局所的な汚染が生じないことが確認されたとしても、そのことに格別の技術的な意義は見だせない。
したがって、請求人の上記主張a、c~eも、採用できない。
ク 独立特許要件の判断のまとめ
したがって、本件補正発明は、本願優先日前に日本国内又は外国において、頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった引用文献1に記載された発明に基いて、本願優先日前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
よって、本件補正発明は、特許出願の際独立して特許を受けることができるものではないから、本件補正のうち、請求項1についての補正は、特許法第17条の2第6項において準用する同法第126条第7項の規定に適合しないものである。
3 補正の却下の決定のむすび
以上のとおり、本件補正のうち、請求項1についての補正は、特許法第17条の2第6項において準用する同法第126条第7項の規定に適合しないものであるから、本件補正は、同法第159条第1項において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。
よって、上記補正の却下の決定の結論のとおり決定する。
第3 本願発明について
1 本願発明
令和5年2月20日受付の手続補正書による手続補正は、上記第2のとおり却下されたので、本願に係る発明は、令和4年8月2日提出の手続補正により補正された特許請求の範囲に記載された事項により特定されるとおりのものであるところ、その請求項1に係る発明(以下「本願発明」という。)は、前記第2の[理由]1(2)に記載したとおりのものである。
2 原査定の拒絶の理由の概要
本願発明についての原査定の拒絶の理由は、本願発明は、本願優先日前に日本国内又は外国において、頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった引用文献1に記載された発明に基いて、本願優先日前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない、という理由を含むものである。
3 当審の判断
(1)引用文献及びその記載事項等
ア 引用文献
引用文献1:特開2011-63576号公報
(第2 の[理由]2(2)イ(ア)に示した引用文献1と同じ。)
イ 引用文献の記載事項
前記第2の[理由]2(2)イ(イ)aにおいて摘記したとおりである。
ウ 引用文献1に記載された発明
前記第2の[理由]2(2)ウにおいて認定したとおりである。
(2)対比・判断
上記第2の[理由]2(1)で認定したとおり、本件補正は特許法第17条の2第5項第2号に掲げる「特許請求の範囲の減縮」を目的とするものに該当するから、本件補正前の請求項1に記載された発明である本願発明は、上記第2の[理由]2(2)で検討した本件補正発明を包含する発明であって、「難揮散性殺虫化合物」についての「フェノトリンまたはペルメトリンを含む」との限定、及び、「狭小空間」についての「容積が50L~18000Lの半密閉または密閉空間である」との限定を有しないものである。
そうすると、本願発明の発明特定事項を全て備え、さらに上記の「難揮散性殺虫化合物」及び「狭小空間」の発明特定事項を限定したものに相当する本件補正発明が、上記第2の[理由]2(2)で説示したとおり、引用文献1に記載された発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、上記の各限定を有しない、本件補正発明を包含する関係にある本願発明も、引用文献1に記載された発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものである。
第4 むすび
以上のとおり、本願発明は、引用文献1に記載された発明に基いて、本願優先日前に当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものである。
したがって、その余の点について検討するまでもなく、本願は拒絶すべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
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2023-002901