特許拒絶査定不服審判
2021-008460
エタノール製剤
- 審判番号
- 2021-008460
- 法域
- 特許
- 審判種別
- 拒絶査定不服審判(拒絶査定不服の審決)
- 出願番号
- 特願2017-101404外部サイト(J-PlatPat)へ移動します
- 請求日
- 2021年06月28日
- 審決日
- 2022年12月22日
- 公報発行日
- 2023年03月31日
- 結論
- 請求不成立
- 当事者
- 【請求人】株式会社セハージャパン
- 【請求人代理人】前島 大吾
- 【請求人代理人】宇高 克己
- 分類
- P18 .121-Z (A01N)
- 根拠条文(結論部分から自動抽出・参考)
- 特許法29条2項
- 条文(本文から自動抽出・参考)
- 特許法第29条第2項、特許法第29条第1項第3号
- データ出所
- 審決公報(XML)
事件の表示
特願2017-101404「エタノール製剤」拒絶査定不服審判事件〔平成30年12月13日出願公開、特開2018-197195〕について、次のとおり審決する。
結論
結 論
本件審判の請求は、成り立たない。
理由
理 由
第1 手続の経緯
本願は、平成29年5月23日の出願であって、令和2年9月11日付けで拒絶理由が通知され、同年10月26日に意見書及び手続補正書が提出され、令和3年4月28日付けで拒絶査定がされ、同年6月28日(受付日)に拒絶査定不服審判請求がなされ、同年7月2日に手続補足書が提出されたものである。
なお、本件には、令和2年6月2日、同年7月14日、同年11月29日及び令和3年3月6日に、刊行物等提出書が提出されている。
第2 本願発明について
1 本願発明の認定
この出願の請求項1~11に係る発明は、令和2年10月26日受付けの手続補正書により補正された特許請求の範囲の記載からみて、請求項1~11に記載された事項により特定されるとおりのものであり、そのうち、請求項1に係る発明は、以下のとおりである。
「 【請求項1】
ブドウ球菌抑制のエタノール製剤であって、
前記エタノール製剤はpHが2~4であり、
前記エタノール製剤は着色物質を含有しておらず無色であり、
前記エタノール製剤は、
エタノールと、
グリセリン脂肪酸(脂肪酸は炭素数が10の飽和脂肪酸)エステルと、
クエン酸と、
水
とを含有してなり、
前記エタノールの濃度は50質量%以上で60質量%未満であり、
前記エタノール50質量部に対して、前記グリセリン脂肪酸エステルが0.01~0.4質量部、前記クエン酸が0.9~3質量部である
エタノール製剤。」(以下「本願発明」という。)
第3 原査定の拒絶の理由
原査定の拒絶の理由は、令和2年9月11日付け拒絶理由通知書において通知された以下のものを含むと認める。
「1.(新規性)この出願の下記の請求項に係る発明は、その出願前に日本国内又は外国において、頒布された下記の刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明であるから、特許法第29条第1項第3号に該当し、特許を受けることができない。
2.(進歩性)この出願の下記の請求項に係る発明は、その出願前に日本国内又は外国において、頒布された下記の刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
・・・
記 (引用文献等については引用文献等一覧参照)
・・・
●理由1(新規性)、理由2(進歩性)について
・請求項 1~12
・引用文献等 1~6
・・・
<引用文献等一覧>
1.特開2014-129372号公報
・・・」
そして、拒絶査定において、以下のとおり理由が示されている。
「この出願については、令和2年9月11日付け拒絶理由通知書に記載した理由2によって拒絶すべきものです。
・・・
備考
●理由2(特許法第29条第2項)について
・請求項1~11
・引用文献等1~8
・・・
<引用文献等一覧>
1. 特開2014-129372号公報
・・・
7. 洗浄雑菌の科学と技術、株式会社サイエンスフォーラム、2000年6月29日、p.88-89(周知技術を示す文献;新たに引用された文献)
8. 環境汚染、1998年、Vol.13、No.2、p.108-112(周知技術を示す文献;新たに引用された文献)」
第4 当審合議体の判断
当審合議体は、原査定の拒絶の理由のとおり、本願発明は、引用文献1に記載された発明並びに引用文献7及び引用文献8に記載された本願出願時の技術常識(周知技術)に基いて当業者が容易に発明することができたものであるから、特許法29条第2項の規定により特許を受けることができないと考える。
理由は、以下のとおりである。
1 引用文献及びその記載事項
(1)引用文献1:特開2014-129372号公報(原査定の拒絶査定の理由における引用文献1)
原査定で引用された本願出願前に頒布された刊行物にあたるといえる上記「引用文献1」には、次の記載がある。
(1a)「【請求項1】
カリシウイルスの存在が疑われ、かつタンパク質を含有する物に、有効成分としてエタノールと酸を含み、pHが2.5~5.0の範囲にある水溶液からなる組成物を接触させることを含む、タンパク質共存下のカリシウイルスを不活化する方法。
・・・
【請求項7】
前記組成物におけるエタノールの濃度が、40~85%(w/w)の範囲である請求項1~6のいずれかに記載の方法。
【請求項8】
前記酸が有機酸または無機酸である請求項1~7のいずれかに記載の方法。
【請求項9】
前記酸の濃度が1~10%の範囲である請求項1~8のいずれかに記載の方法。
【請求項10】
前記酸は、1~10%の濃度において、前記水溶液のpHが2.5~5.0の範囲を示す酸である請求項1~9のいずれかに記載の方法。
【請求項11】
前記酸は、クエン酸、乳酸またはリン酸である請求項8に記載の方法。
・・・」
(1b)
「【0016】
本発明者らは、エタノール水に対して特定の範囲のpHを示すように酸を共存させたエタノール製剤(組成物)を用いることで、タンパク質を主成分とする有機物が共存するカリシウイルスを不活化できることを見出して、本発明を完成させた。尚、本明細書において、カリシウイルスの不活化と失活化は同義で使用し、カリシウイルスが不活化または失活化した状態とは、ウイルスの感染力が実質的に失われ、無毒化された状態を意味し、具体的にはウイルスの感染価がコントロールに比べ10-4以下になった場合を意味する。
・・・
【0018】
本発明によれば、エタノール製剤(組成物)を用いて、タンパク質と共存するカリシウイルスを不活化できる方法を提供でき、特にノロウイルスの蔓延抑制に有効である。さらに、本発明によれば、医療や介護の現場において必要とされている、ノロウイルスなどのノンエンベロープウイルスを含む吐瀉物や糞尿等に対するウイルスの有効かつ安全な不活化方法を提供することができる。」
(1c)
「【0021】
本発明に用いる組成物におけるエタノール濃度は、組成物の使用方法(原液のままで使用するのか、あるいは適当に希釈したものを使用するのか等)によって適宜選択できるが、例えば、40~85%(w/w)の範囲であることが、カリシウイルスの不活化が確実に得られるという観点からは適当である。エタノール濃度がこの範囲であれば、細菌への効果も同時に期待されることが多く、一般的にこの濃度が細菌の殺菌に効果が高いと言われている。また、エタノール濃度が低いと噴霧等の適用後の乾燥が遅くなり、次の作業に移るまでに時間がかかってしまうため、一定以上の濃度とすることが適当である。エタノールのさらに好ましい濃度は、40~59%(w/w)である。60%を超えると消防法上の危険物となり、取り扱いに制限が生じるからである。また、エタノール濃度が高くなると、酸および塩として、クエン酸、クエン酸塩等の溶解性が低くなるため、製造面、製品の安定性の面で扱いにくい場合がある。
【0022】
エタノールに併用する酸は、例えば、有機酸または無機酸であることができ、有機酸として、酢酸、酒石酸、コハク酸、リンゴ酸、フマル酸、フィチン酸、無機酸として硫酸、塩酸、硝酸、リン酸等を挙げることができる。酸の濃度は、組成物のpHを考慮して適宜決定できるが、例えば、1~10%の範囲であることができる。酸の濃度は、低すぎると吐瀉物等の使用対象に含まれるタンパク質の緩衝能により、不活化効果が低下する可能性があり、他方、高すぎると、エタノール製剤の使用後、水やエタノールが揮発した後に固形分が残存して洗浄等で除去が必要な場合が出てくるので、上記範囲が好ましい。また、酸の種類によっては、酸が濃縮されて金属腐食を促進する恐れが生じる場合もある。酸の好ましい濃度は、1%~5%程度である。5%より濃い場合には、組成物の使用後、水やエタノールが揮発した後に固形分が残存し易く、見た目に目立つこともあるからである。酸のより好ましい濃度は、1%~3%程度である。
【0023】
上記組成物は、pHを2.5~5.0の範囲に設定する。pHが2.5未満となり、低くなりすぎると、金属腐食等の悪影響がより大きくなるためpH2.5以上が好ましい。pHのより好ましい範囲は、カリシウイルスの不活化効果が確実に得られるという観点から、2.5~4.5の範囲であり、さらに好ましくは2.8~4.0、より好ましくは3.0~3.5の範囲である。この範囲であればほぼ確実にウイルスを不活化できるが、3.5を超えると使用条件により不活化効果が低下することがある。例えば、吐瀉物等、使用対象が緩衝能をもつ場合、不活化効果が低下する傾向がある。但し、pH4.0以下であれば、多くの場合ウイルス不活化効果は発揮される。
【0024】
酸としては、上記1~10%の濃度範囲において、組成物である水溶液のpHが2.5~5.0の範囲を示す酸であることが適当である。そのような酸の具体例として、上記のクエン酸、乳酸およびリン酸を挙げることができる。尚、酸は、単独で使用しても、複数の酸を併用しても、組成物のpH範囲が上記範囲であれば良い。また、上記酸の少なくとも一部は、塩であってもよく、塩とすることで緩衝作用も働いてpHの調整が容易になる場合もある。塩としては、例えば、乳酸、クエン酸等の有機酸、またはリン酸等の無機酸のアルカリ金属(リチウム、ナトリウム、カリウム)塩を挙げることができる。
【0025】
上記組成物は、水溶性である酸や酸の金属塩を水に溶解させ、その後エタノールを加えることにより調製することができる。」
(1d)「【0069】
例9(実施例)
材料
1.ウイルス:ネコカリシウイルス F9株
2.細胞:CrFK細胞
3.ブイヨン液:10倍濃度 160mg/ml
4.ウイルス希釈液:MEM培地(FCS-)
【0070】
【表11】
[図:0001394437000001.jpg]
【0071】
方法:
1.表11に示すサンプルとタンパク質量20mg/ml,10mg/ml,0mg/mlを含むネコカリシウイルス原液を100μlずつ等量混合し、室温で60秒間反応させた。
2.反応後直ちにサンプル・ウイルス混合液100μlを80mg/ml濃度のブイヨン液900μlに加え反応を止めた。これをMEM培地で10-2から10-5まで10倍階段希釈を行った。
3.培養3日目の6穴プレートに10倍階段希釈を行ったウイルス・サンプル液を100μl接種し、90分のウイルス吸着操作を行った後、0.7%寒天培地で重層し5%CO2インキュベーター内で34℃、60時間培養した。
4.培養終了後10%ホルマリン固定、メチレンブルー染色により形成されたプラーク数を数え、感染価を判定した。
5.ウイルスコントロールは、サンプルの代わりにMEMを用い、方法はサンプルに準じた。
【0072】
【表12】
[図:0001394437000002.jpg]
【0073】
まとめ
1.サンプル1?6についてはウイルス不活化効果を認め、タンパク質量20mg/mlの共存下に於いても、ウイルス感染性を完全に不活化した。
2.サンプル7については、タンパク質量20mg/mlを含むウイルス液中のウイルスに対しては不活化効果が低い成績であったが10mg/mlより低濃度のタンパク質を含むウイルス液中のウイルスに対しては不活化効果を認めた。」
(1e)「
【0074】
例10(実施例)
材料
ウイルス:ネコカリシウイルス F9株
普通ブイヨン10倍濃度:160mg/ml
次亜塩素酸ナトリウム:有効塩素濃度 4%
【0075】
【表13】
[図:0001394437000003.jpg]
」
(1f)「
【0079】
例11(実施例)
材料
1. ウイルス:ネコカリシウイルス F9株
2. 細胞:CrFK細胞
3. ブイヨン液:10倍濃度 160mg/ml
4. ウイルス希釈液:MEM培地(FCS-)
【0080】
【表15】
[図:0001394437000004.jpg]
」
(2)引用文献7:高野光男 外2名編、洗浄雑菌の科学と技術、株式会社サイエンスフォーラム、2000年6月29日、p.88~89(原査定の拒絶査定の理由における引用文献7)
(2a)「第3節 食品製造環境分野におけるアルコール利用とその殺菌メカニズム
はじめに
アルコール(エタノール)は食品業界において,防腐・保存剤として食品に添加したり,浸漬や噴霧による食品そのものや,機械・器具などの製造環境の殺菌剤として広く利用されている。また,食品取り扱い者の手指の消毒剤としても有効であり,せっけんなどとの併用の形で利用されることも多い。このように,アルコールが食品衛生分野における殺菌目的に広く利用されるようになった最大の要因は,アルコールが食品そのものでありながら,優れた殺菌効果を発揮する点にあると思われる。また,多種多様なアルコー製剤が市販されるようになり,そう菜用や食品衛生用除菌剤,食品器具洗浄用など使用範囲も拡大の一途をたどり,ユーザーはそれらのなかから適切なものを選択できるようになったことも要因として見逃せない。
ここでは,アルコールの殺菌剤としての特性と環境殺菌剤・手指消毒剤としてのアルコールの応用事例を紹介し,食品製造環境分野の殺菌剤としてアルコールを位置付けたいと思う。
1.アルコールの抗菌性物質としての特性
アルコールの抗菌活性については、古くから数多くの報告があり,それについての解説・総説も多い1)~8)。アルコールの抗菌作用特性について、山本2)は文献調査をおこない,以下の事項を取り挙げている。
・・・
・エタノールの殺菌力は50~80%が最も強い。・・・
2.エタノールの殺菌特性
ウイルスや食中毒菌を含めた各種微生物に対するエタノールの殺菌力を短時間に殺菌・不活化するのに必要な濃度を基準にして表-1にまとめた。30~40%以上の濃度で,大部分の栄養型細菌は短時間の作用で死滅する。医療分野で常用されるSpauldingの殺菌剤の段階的評価では中度の消毒剤に分類されている9)。すなわち,芽胞を除く細菌(抗酸菌を含む),真菌およびウイルスに対して有効である。
ここではエタノールの殺菌作用の本質と考えられる疎水性との関係と濃度依存性(最大活性濃度の存在)について簡単に紹介する。
表-1 食中毒菌および各種微生物に対するエタノールの殺菌力の強さ
感受性 食中毒菌 その他の微生物
大 腸炎ビブリオ,大腸菌 親油性ウイルス(HIV,ヘルペス,
(30)a サルモネラ,カンピロ 種痘など)
バクター グラム陰性菌(緑膿菌など)
やや大 黄色ブドウ球菌 グラム陽性菌(リステリア、乳酸
(40) 菌など),酵母,藻類
中 アデノウイルス,ロタウイルス,
(50) カビ胞子 小 親水性ウイルス,ピコナウイルス
(>70) (ポリオ、ライノ),パルボウイルス
無効 芽胞(セレウス菌, ウイロイド,プリオン
ボツリヌス菌,ウエル
シュ菌)b
a:短時間殺菌に必要なエタノール濃度(%)の目安
b:栄養型(増殖)細胞にはエタノールは有効」(88頁の項目名、左欄1行~89頁表-1)
(3)引用文献8:環境汚染、1998年、Vol.13、No.2、p.108~112(原査定の拒絶査定の理由における引用文献8)
(3a)「エタノール,イソプロパノール,メタノール変性アルコール製剤に関する殺菌効力の検討
・・・
序文
アルコールの殺菌効果は古くから知られており,生体および環境消毒剤として現在でも繁用されている.皮膚消毒を目的に注射部位に使用されているアルコール類としては,消毒用エタノール,イソプロパノール,メタノール変性アルコールがあり、消毒用エタノールおよびイソプロパノールの殺菌効果について,日本薬局方1)ではエタノールに比しイソプロパノールは2倍の殺菌力を有すると記載されているが,毒性も2倍程度あることも報告されている2).
・・・
方法
1.基礎的検討
各被験菌はトリプトソイブイヨン(SCDブイヨン;栄研化学)で37℃,24時間培養後,生理食塩液に懸濁し,3×108CFU/mLに調製後,これを試験菌液として使用した.
各消毒剤の未希釈液および1.5倍,2倍,3倍に注射用蒸留水で希釈した各1mLへ菌液0.01mLを加え,15および30秒間,菌液と接触後,その0.05mLをSCDブイヨン5mLに加えた.これを37℃で48時間培養後,培養液の濁度から殺菌効果を判定した.
なお,各消毒剤の0.05mLは,SCDブイヨン5mLで希釈中和され,殺菌力が消失ることをあらかじめ確認した.
・・・
成績
1.基礎的検討の結果
いずれの消毒剤も未希釈液および1.5倍希釈液は全被験菌に対し15秒の接触で殺菌した.」(タイトル、108頁左欄1行~109頁右欄18行)
(3b)「被験菌:山形大学医学部において入院患者から分離したMethicillin resistant Staphyloccous aureus(MRSA),Methicillin sensitive S. aureus(MSSA),Staphylococcus epidemidis,Enterococcus faecalis,Serratia marcescens,Eschewrichia coli,Pseudomonas aeruginosaの各2株,合計14株を使用した.」(108頁右欄下から3行~109頁左欄3行、合議体注:MRSA:メリシチン耐性黄色ブドウ球菌、MSSA:メリシチン感受性黄色ブドウ球菌)
(3c)
109頁右欄の「表1 消毒用エタノールの殺菌効果」には、その他の被験菌も含めて、MRSA215、MRSA233、MSSA30、MSSA3114において、未希釈77.9vol%、1.5倍希釈液51.9vol%の濃度で接触時間15秒、30秒でいずれも殺菌効果のあったことが示されている。
2 引用発明
引用文献1には、請求項1及び請求項1を引用する請求項7~11をに記載の発明(摘記(1a))に係る方法に使用するエタノール製剤(組成物)(摘記(1b))に対応したものとして、例9(実施例)の表11のサンプル1が記載され(摘記(1d))、該サンプル1が、「エタノール55%(w/w)、クエン酸2.5%(w/w)、クエン酸Na0.08%(w/w)、モノカプリン酸モノグリセリド0.22%(w/w)、モノラウリン酸ペンタグリセリド0.03%(w/w)、残り水」の成分組成を有し、「pH3.2」であること(表11)、及びネコカリシウイルスに対する不活化効果を有することが記載されている(表12及び【0073】)。
そうすると、引用文献1には、以下の発明が記載されているといえる(以下「引用発明」という。)。
「エタノール55%(w/w)、クエン酸2.5%(w/w)、クエン酸Na0.08%(w/w)、モノカプリン酸モノグリセリド0.22%(w/w)、モノラウリン酸ペンタグリセリド0.03%(w/w)、残部水である、pH3.2のネコカリシウイルスに対する不活化効果を有するエタノール製剤(組成物)」
3 対比・判断
(1)対比
本願発明と引用発明とを対比すると、
まず、引用発明の「モノカプリン酸モノグリセリド」は、カプリン酸が炭素数10の飽和脂肪酸であるから、本願発明の「グリセリン脂肪酸(脂肪酸は炭素数が10の飽和脂肪酸)エステルに相当する。
また、引用発明の「エタノール55%(w/w)」は、エタノール製剤(組成物)中のエタノールの濃度が55質量%であることを意味するから、引用発明の「エタノール55%(w/w)、・・・水残りである、pH3.2の・・・エタノール製剤(組成物)」は、本願発明の「エタノール製剤であって、前記エタノール製剤はpHが2~4であり、」「前記エタノール製剤は、エタノールと、・・・水とを含有してなり、前記エタノールの濃度は50質量%以上で60質量%未満であ」る「エタノール製剤」に相当する。
そして、引用発明の「エタノール55%(w/w)、クエン酸2.5%(w/w)」であることは、クエン酸に関する比率計算から2.5%×50/55=2.3%であり、本願発明の「前記エタノール50質量部に対して、」「前記クエン酸が0.9~3質量部である」に相当する。また、引用発明の「エタノール55%(w/w)、」「モノカプリン酸モノグリセリド0.22%(w/w)」であることは、モノカプリン酸モノグリセリドに関する比率計算から0.22%×50/55=0.2%であり、本願発明の「前記エタノール50質量部に対して、前記グリセリン脂肪酸エステルが0.01~0.4質量部」に相当する。
さらに、「エタノール55%(w/w)、クエン酸2.5%(w/w)、クエン酸Na0.08%(w/w)、モノカプリン酸モノグリセリド0.22%(w/w)、モノラウリン酸ペンタグリセリド0.03%(w/w)、残部水である、pH3.2のネコカリシウイルスに対する不活化効果を有するエタノール製剤(組成物)」である引用発明には、着色物質を含有しておらず無色であることは明らかである。
したがって、本願発明と引用発明とは、「エタノール製剤であって、
前記エタノール製剤はpHが2~4であり、
前記エタノール製剤は着色物質を含有しておらず無色であり、
前記エタノール製剤は、
エタノールと、
グリセリン脂肪酸(脂肪酸は炭素数が10の飽和脂肪酸)エステルと、
クエン酸と、
水
とを含有してなり、
前記エタノールの濃度は50質量%以上で60質量%未満であり、
前記エタノール50質量部に対して、前記グリセリン脂肪酸エステルが0.01~0.4質量部、前記クエン酸が0.9~3質量部である
エタノール製剤。」である点で一致し、以下の点で相違している。
相違点:エタノール製剤が、本願発明においては、「ブドウ球菌抑制の」との特定がされているのに対して、引用発明においては、「ネコカリシウイルスに対する不活化効果を有する」との特定がされている点
(2)相違点の判断
上記相違点について検討する。
ア 引用文献1には、摘記(1c)には、「【0021】
本発明に用いる組成物におけるエタノール濃度は、組成物の使用方法(原液のままで使用するのか、あるいは適当に希釈したものを使用するのか等)によって適宜選択できるが、例えば、40~85%(w/w)の範囲であることが、カリシウイルスの不活化が確実に得られるという観点からは適当である。エタノール濃度がこの範囲であれば、細菌への効果も同時に期待されることが多く、一般的にこの濃度が細菌の殺菌に効果が高いと言われている。また、エタノール濃度が低いと噴霧等の適用後の乾燥が遅くなり、次の作業に移るまでに時間がかかってしまうため、一定以上の濃度とすることが適当である。エタノールのさらに好ましい濃度は、40~59%(w/w)である。60%を超えると消防法上の危険物となり、取り扱いに制限が生じるからである。また、エタノール濃度が高くなると、酸および塩として、クエン酸、クエン酸塩等の溶解性が低くなるため、製造面、製品の安定性の面で扱いにくい場合がある。」(下線は、当審合議体にて追加。)との記載があり、引用発明の該当するエタノールの濃度範囲であれば、細菌への効果も同時に期待されることが多く、一般的にこの濃度が細菌の殺菌に効果が高いと言われていることが記載されている。
イ また、本願出願時の技術常識として示した引用文献7には、エタノールは食品業界において、防腐・保存剤として食品に添加したり、浸漬や噴霧による食品そのものや、機械・器具などの製造環境の殺菌剤として広く利用され、食品取り扱い者の手指の消毒剤としても有効であり、食品衛生分野における殺菌目的に広く利用されていること、アルコールの抗菌活性については、古くから数多くの解説・総説を含めた多くの報告があり、エタノールの殺菌力は50~80%が最も強いことが知られていること、エタノールの殺菌特性として、ウイルスや食中毒菌を含めた各種微生物に対するエタノールの殺菌力を短時間に殺菌・不活化するのに必要な濃度に関して、30~40%以上の濃度で、大部分の栄養型.細菌は短時間の作用で死滅し、芽胞を除く細菌(抗酸菌を含む)、真菌およびウイルスに対して有効であり、黄色ブドウ球菌に対する感受性も、短時間殺菌に必要なエタノール濃度(%)の目安で40%とやや大であることが知られている(摘記(2a))。
また、本願出願時の技術常識として示した引用文献8にも、アルコールの殺菌効果は古くから知られており、生体および環境消毒剤として繁用され、アルコール類として消毒用エタノール殺菌効果について、すでに報告されており、基礎的検討の結果として、1.5倍希釈液である51.9vol%の濃度で黄色ブドウ球菌に相当するMRSAやMSSAを含めて全被験菌で、接触時間15秒、30秒でいずれも殺菌効果のあったことが示されている(摘記(3a)(3c))。
ウ したがって、ネコカリシウイルスに対する不活化効果を有することが特定された引用発明に関して、引用文献1自体には、エタノール濃度が40~85%(w/w)の範囲であることが、カリシウイルスの不活化が確実に得られるという観点からは適当で、この範囲であれば、細菌への効果も同時に期待されることが多く、一般的にこの濃度が細菌の殺菌に効果が高いとの記載があり、引用文献1には、エタノールが55%(w/w)含まれる引用発明がネコカリシウイルスに対する不活化効果を有するだけでなく、細菌に対しての殺菌効果が高いことが示唆されているといえる。また、エタノールの殺菌効果は、多くの報告があり(引用文献7及び8)、エタノールが殺菌のために古くから利用され、エタノールの殺菌力は50~80%が最も強いことが知られていること、エタノールの殺菌特性として、ウイルスや食中毒菌を含めた各種微生物に対するエタノールの殺菌力を短時間に殺菌・不活化するのに必要な濃度に関して、30~40%以上の濃度で、大部分の栄養型細菌は短時間の作用で死滅し、芽胞を除く細菌(抗酸菌を含む)、真菌およびウイルスに対して有効であり、黄色ブドウ球菌に対する感受性も短時間殺菌に必要なエタノール濃度(%)の目安で40%で十分であり、51.9vol%の濃度で黄色ブドウ球菌に相当するMRSAを含めて全被験菌で、接触時間15秒、30秒でいずれも殺菌効果のあるという結果も示された引用文献7及び引用文献8の技術常識を考慮すれば、エタノールが55%(w/w)の引用発明において、ネコカリシウイルスに対する不活化効果だけでなく、「ブドウ球菌抑制の」という細菌に関する上記相違点の特定事項を加えて、本願発明の構成をなす程度のことは、当業者が容易になし得る技術的事項にすぎない。
エ 本願発明の効果として、本願明細書には、【0022】~【0025】の生体安全性、消毒効果、着色物質を含有していないことに関する効果や【0034】や【0050】の記載に基づく黄色ブドウ球菌に対する効果について記載しているが、着色物質を含まない引用発明の構成に引用文献7及び8のような本願出願時の技術常識を考慮して効果を検討すれば、エタノール濃度50%以上のエタノールの殺菌効果や生体安定性、黄色ブドウ球菌をはじめとする各種細菌やウイルスに対する効果は広く知られたものであり、当業者の予測を超える顕著な効果とはいえない。
オ したがって、本願発明は、引用発明並びに引用文献7及び引用文献8に記載された本願出願時の技術常識に基づき当業者が容易に発明することができたものである。
カ なお、引用文献1の【表11】のサンプル3~5、【表13】のサンプル1~6並びに【表15】のサンプルA、D及びEに記載されたエタノール製剤は、引用発明とは成分組成に違いはあるものの、これらのいずれを引用文献1記載の発明として認定した場合であっても、上記(1)と同様に本願発明との対比ができ、上記ア~オで述べたように、相違点について同様の判断ができる。それゆえ、上記の場合であっても、本願発明は、引用文献1に記載の発明並びに引用文献7及び引用文献8に記載された本願出願時の技術常識に基づき当業者が容易に発明することができたものである。
4 審判請求人の主張の検討
審判請求人は、令和2年10月26日受付けの意見書3~4頁において、引用文献1記載の剤には、ブドウ球菌抑制剤等としても有効であることの開示はなく、カリシウイルスに効くエタノール製剤が常にかならずブドウ球菌にも効くということは聴いたことがないので、ブドウ球菌等を抑制する方法のヒントを得ることが不可能である旨主張している。
また、審判請求書において、令和3年7月2日提出の手続補足書により、甲第1~5号証を提出して、細菌とウイルスの構造が異なること、細菌とウイルスに対する薬剤とが異なることからウイルスに対して効く薬剤が細菌に対しても効く薬剤であると考えないこと(審判請求書6~10頁)、及び引用文献1の【0021】の細菌への効果の記載は願望等に過ぎない(審判請求書10~11頁)旨主張している。
しかしながら、上記3で述べたとおり、引用文献1には、エタノールが55%(w/w)含まれる引用発明がネコカリシウイルスに対する不活化効果を有するだけでなく、細菌に対しての殺菌効果が高いことが示唆されており、エタノール製剤が広く古くから黄色ブドウ球菌をはじめとした様々な細菌やウイルスに有効であったことは本願出願時の技術常識であるから、ネコカリシウイルスに不活性効果を有する引用発明を、ブドウ球菌等の抑制剤としても用いることは、当業者が容易に想到し得たことといえる。また、上記技術常識によれば、引用文献1の【0021】における、エタノール濃度が40~80%(w/w)の範囲では、細菌への殺菌効果が高いとの記載は、本願出願時の技術常識に沿ったものといえ、「願望等に過ぎない」とはいえない。
したがって、上記審判請求人の主張はいずれも採用できない。
5 まとめ
以上のとおり、本願発明は、本願出願時点の技術常識を考慮すると、引用文献1に記載された発明及び引用文献1に記載された技術的事項及び本願出願時点の技術常識に基いて、本願出願前に当業者が容易に発明することができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
第5 むすび
請求項1に係る発明は、本願の出願前に日本国内又は外国において、頒布された引用文献1に記載された発明、引用文献1に記載された技術的事項及び本願出願時点の技術常識に基いて、本願出願前に当業者が容易に発明することができたものであるから、その余の請求項について検討するまでもなく、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
よって、結論のとおり審決する。
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2021-008460