特許拒絶査定不服審判
2023-002541
筋肉内注射器
- 審判番号
- 2023-002541
- 法域
- 特許
- 審判種別
- 拒絶査定不服審判(拒絶査定不服の審決)
- 出願番号
- 特願2021-074613外部サイト(J-PlatPat)へ移動します
- 請求日
- 2023年02月14日
- 審決日
- 2024年03月06日
- 公報発行日
- 2024年05月31日
- 結論
- 請求不成立
- 当事者
- 【請求人】土佐エンタープライズ株式会社
- 【請求人代理人】坂口 信昭
- 【請求人代理人】坂口 吉之助
- 分類
- P18 .121-ZB (A61M)
- 根拠条文(結論部分から自動抽出・参考)
- 特許法29条2項
- 条文(本文から自動抽出・参考)
- 特許法第17条の2第5項第4号、特許法第17条の2第5項、特許法第29条第2項、特許法第17条の2第5項第2号、特許法第17条の2第5項第1号、特許法第17条の2第5項第3号、特許法第17条の2第6項
- データ出所
- 審決公報(XML)
事件の表示
特願2021- 74613号「筋肉内注射器」拒絶査定不服審判事件〔令和 4年11月 9日出願公開、特開2022-168921号〕について、次のとおり審決する。
結論
結 論
本件審判の請求は、成り立たない。
理由
理 由
第1 手続の経緯
本願は、令和 3年 4月27日の出願であって、その手続の経緯は概ね以下のとおりである。
令和 3年 5月13日提出:手続補正書
令和 4年 2月28日付け:拒絶理由通知
令和 4年 3月17日提出:意見書、手続補正書
令和 4年 5月20日付け:拒絶理由通知(最後)
令和 4年 8月 2日提出:意見書、手続補正書
令和 4年11月 8日付け:拒絶査定、補正の却下の決定
令和 5年 2月14日提出:審判請求書、手続補正書
第2 令和5年2月14日提出の手続補正書による補正の却下の決定
[補正の却下の決定の結論]
令和5年2月14日提出の手続補正書による補正(以下、「本件補正」という。)を却下する。
[理由]
1 補正の内容
(1)本件補正後の特許請求の範囲
本件補正により、特許請求の範囲の請求項1の記載は、次のとおり補正された。(下線は、補正箇所を示すため、当審で付与した。)
「円筒状のシリンジと、可動式のプランジャーと、針と、を有して成り、針を皮膚に対して略90度の角度で筋肉に到達するまで刺入して薬液を注射する筋肉内注射に用いられる筋肉内注射器であって、
プランジャーの後端の押部に指先を挿通又は差込が可能な指掛け部が一体成形又は別体構成により設けられており、該指掛け部に指先を挿通又は差込し前後動作させることによってプランジャーの押し操作と戻し操作の両操作を注射器の片手持ちで可能な構成である筋肉内注射器において、
指掛け部に挿通又は差込した以外の指によって保持するシリンジの外周面に、保持した指の位置ズレや滑りを抑制乃至は防止する保持安定部が設けられており、
前記保持安定部が、シリンジの外周面の少なくとも一部に設けられた粗面であること(但し、シリンジ外周面の目盛表示部を挟んで対向する両側面部分にのみ保持安定部が設けられる構成を除く。)であり、
前記指掛け部に挿通又は差込した以外の指によって保持するシリンジの外周面に、保持した指の位置ズレや滑りを抑制乃至は防止する保持安定部が設けられており、前記保持安定部が、シリンジの外周面の少なくとも一部に設けられた粗面であること(但し、シリンジ外周面の目盛表示部を挟んで対向する両側面部分にのみ保持安定部が設けられる構成を除く。)により、前記保持安定部は前記目盛表示部によって束縛されない構成であり、
かつ前記指掛け部に挿通又は差込した以外の指によって保持するシリンジの外周面に、保持した指の位置ズレや滑りを抑制乃至は防止する保持安定部が設けられており、前記保持安定部が、シリンジの外周面の少なくとも一部に設けられた粗面であること(但し、シリンジ外周面の目盛表示部を挟んで対向する両側面部分にのみ保持安定部が設けられる構成を除く。)により、プランジャーの押し操作と戻し操作のいずれの操作の際にも、シリンダーを保持する指の位置ズレや滑りを効果的に抑制乃至は防止する構成であること、
を特徴とする筋肉内注射器。」
(2)本件補正前の特許請求の範囲
本件補正前の令和 4年 3月17日提出の手続補正書により補正された特許請求の範囲の請求項1の記載は次のとおりである。
なお、令和 4年 8月 2日提出の手続補正書による補正は、令和 4年11月 8日付け補正の却下の決定で却下された。
「円筒状のシリンジと、可動式のプランジャーと、針と、を有して成り、針を皮膚に対して略90度の角度で筋肉に到達するまで刺入して薬液を注射する筋肉内注射に用いられる筋肉内注射器であって、
プランジャーの後端の押部に指先を挿通又は差込が可能な指掛け部が一体成形又は別体構成により設けられており、該指掛け部に指先を挿通又は差込し前後動作させることによってプランジャーの押し操作と戻し操作の両操作を注射器の片手持ちで可能な構成である筋肉内注射器において、
指掛け部に挿通又は差込した以外の指によって保持するシリンジの外周面に、保持した指の位置ズレや滑りを抑制乃至は防止する保持安定部が設けられており、
前記保持安定部が、シリンジの外周面の少なくとも一部に設けられた粗面であること(但し、シリンジ外周面の目盛表示部を挟んで対向する両側面部分にのみ保持安定部が設けられる構成を除く。)により、前記保持安定部は前記目盛表示部によって束縛されない構成であること、
を特徴とする筋肉内注射器。」
2 補正の適否
本件補正により請求項1の、筋肉注射器の「前記保持安定部は前記目盛表示部によって束縛されない構成」が、「前記指掛け部に挿通又は差込した以外の指によって保持するシリンジの外周面に、保持した指の位置ズレや滑りを抑制乃至は防止する保持安定部が設けられており、前記保持安定部が、シリンジの外周面の少なくとも一部に設けられた粗面であること(但し、シリンジ外周面の目盛表示部を挟んで対向する両側面部分にのみ保持安定部が設けられる構成を除く。)」(以下、「構成A」という。)による点が加入されると共に、当該構成Aにより、「プランジャーの押し操作と戻し操作のいずれの操作の際にも、シリンダーを保持する指の位置ズレや滑りを効果的に抑制乃至は防止する構成」である点が加入された。
しかし、補正前の請求項1には、構成Aにより、「前記保持安定部は前記目盛表示部によって束縛されない構成である」ことは実質的に特定されている。
また、本件補正により加入された、「プランジャーの押し操作と戻し操作のいずれの操作の際にも、シリンダーを保持する指の位置ズレや滑りを効果的に抑制乃至は防止する構成」は、構成Aを採用することによる作用効果を記載したにすぎない。
してみれば、本件補正は補正前の請求項1に実質的に特定されていた構成Aを作用効果との関係で明示したにすぎず、本件補正により請求項1記載の筋肉注射器の構成が減縮するものではないから、特許請求の範囲の減縮(特許法第17条の2第5項第2号)に該当しない。
また、本件補正が請求項の削除(特許法第17条の2第5項第1号)や誤記の訂正(特許法第17条の2第5項第3号)にあたらないことは明らかである
また、出願人は審判請求書において、特に「かつ前記指掛け部に挿通又は差込した以外の指によって保持するシリンジの外周面に、保持した指の位置ズレや滑りを抑制乃至は防止する保持安定部が設けられており、前記保持安定部が、シリンジの外周面の少なくとも一部に設けられた粗面であること(但し、シリンジ外周面の目盛表示部を挟んで対向する両側面部分にのみ保持安定部が設けられる構成を除く。)により、プランジャーの押し操作と戻し操作のいずれの操作の際にも、シリンダーを保持する指の位置ズレや滑りを効果的に抑制乃至は防止する構成であること、」について、「本発明の構成を明瞭化するためのものです。」と主張している(審判請求書7頁下から8行~8頁10行)が、「明りょうでない記載の釈明」(特許法第17条の2第5項第4号)は、「(拒絶理由通知に係る拒絶の理由に示す事項についてするものに限る。)」ところ、本件においては拒絶理由通知で、明瞭でない旨の指摘はしていないから、本件補正は特許法第17条の2第5項第4号に合致しない。
よって、本件補正は、特許法第17条の2第5項各号に掲げる事項を目的とする補正ではない。
なお、仮に本件補正が、特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当するとした場合の、本件補正後の請求項1に記載された発明(以下、「本件補正発明」という。)が特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるか(特許法第17条の2第6項において準用する同法第126条第7項の規定に適合するか)について、予備的に以下に検討する。
(1)本件補正発明
本件補正発明は、上記1(1)に記載したとおりのものである。
(2)引用文献の記載及び引用発明
ア 引用文献1の記載
原査定の拒絶の理由で引用された本願の出願日前に頒布された又は電気通信回路を通じて公衆に利用可能となった引用文献である、米国特許第5902278号明細書(以下、「引用文献1」という。)には、次の記載がある(下線は当審で付与。以下同様。)
(ア)「The present invention provides an improved hypodermic syringe for the intramuscular, subcutaneous or intradermal injection of vaccines, antibiotics, anesthetics and other medicaments, and for the catheterization of blood vessels. The improvements are designed to encourage the practitioner, when inserting medicaments not intended for intravenous delivery, to perform the aspiration test by making it easy and convenient to operate the syringe on the backward (plunger-withdrawing) stroke with a single hand, thereby to observe whether or not blood is aspirated into the syringe, indicating that a blood vessel has been perforated and that the needle should be withdrawn and the injection procedure started over. The improvements also make the syringe of the present invention more easily usable in procedures involving the catheterization of blood vessels.」(4欄51~65行)
(訳:本発明は、ワクチン、抗生物質、麻酔薬、その他の医薬品の筋肉内、皮下、または皮内注射用、および血管のカテーテル留置用の改良された皮下注射器を提供する。この改良は、静脈注射用でない医薬品を注入する際に、片手で注射器を後方(プランジャーが引き込まれる方向)に操作して、それによって、血液が注射器内に吸引されているかどうかを観察し、血管を穿孔したことや、注射針を引き抜いて注射手順をやり直すべきことを示すことにより、施術者が容易かつ便利に吸引テストを行えるように設計されている。この改良により、本発明の注射器は、血管へのカテーテル挿入を含む処置をより簡単にする。)
(イ)「The syringe of the present invention, a preferred embodiment of which is illustrated in FIG. 1, includes a body 10 having a barrel portion 1 which outwardly is generally configured as a right circular cylinder for most of its length and has a frusto-conical portion 2 near the distal end, where the body diameter reduces down to the diameter of a conventional hub 3, upon which is mounted (preferably detachably) a conventional hollow needle 4. The body 10 includes a hollow bore (shown in phantom) which is open at the proximal end to receive a plunger member 20. The bore within the barrel portion of the syringe body is generally configured, according to convention, as a right circular cylinder so dimensioned that the plunger shaft 23, with the piston 21 at its distal end, fits closely but slidably therein. The syringe body 10 is preferably made of moldable plastic in a single piece, but any of a number of other materials would also be suitable, including for example glass or metal, and the body could be made in multiple pieces which could then be fused, cemented or otherwise joined together by conventional means.
On the barrel portion 1 of the syringe body 10, at diametrically opposed positions, is a pair of finger-stop structures 5, 5. In the preferred embodiment shown in FIGS. 1 and 9, each of the finger-stop structures has a distal barrier 6 and a proximal barrier 7 which define a region 8 therebetween, which region 8 is sufficiently wide and deep to accommodate an adult finger or thumb, so that the syringe barrel can easily be grasped in region 8 between the index and middle fingers (if the practitioner chooses to operate the plunger with the thumb as shown in FIG. 10) or between the middle finger and thumb (if the practitioner chooses to operate the plunger with the index finger as shown in FIG. 11). When the syringe barrel is grasped in region 8 between said fingers (or between said finger and thumb), slippage of the fingers down the barrel in a distal direction is blocked by the distal barrier 6, while slippage up the barrel in a proximal direction is blocked by the proximal barrier 7. Thus the finger-stops are dual-directional: They impede slippage of the barrel-grasping fingers in both the distal and the proximal direction. In this they differ from the flange often seen at the proximal end of a conventional molded syringe barrel, which flange is designed to block slippage of the fingers in the proximal direction only.」(7欄8~52行)
(訳:本発明の注射器は、その好ましい実施形態が図1に示されており、外見上、その長さの大部分にわたって、一般に直円柱として構成され、遠位端の近くに錐体部2を有するバレルを有する本体10を含み、ここで本体の直径は、従来のハブ3の直径まで減少し、その上に従来の中空針4が(好ましくは着脱可能に)取り付けられる。本体10は、プランジャー部材20を受け入れるために近位端で開口している中空のボア(鎖線で示されている)を含む。注射器本体のバレル部分内のボアは、一般に、慣例に従って、ピストン21を遠位端に有するプランジャシャフト23がその中に密接に、しかし摺動可能に嵌合するような寸法の直円柱として構成される。注射器本体10は、好ましくは、成型可能なプラスチックで、一体に作られるが、例えばガラスや金属等の多くの材料のいずれも適しており、本体は、融着、セメント、又は他の従来の手段によって一体に接合される複数の部材から作られ得る。
注射器本体10のバレル部分1には、直径方向の対向する位置に、一対の指止め構造5,5が設けられている。図1及び図9に示す好ましい実施形態では、各指止め構造は、その間に領域8を画定する遠位バリア6及び近位バリア7を有し、この領域8は、成人の指又は親指を収容するのに充分な幅及び深さを有するので、注射器バレルは、領域8において、人差し指と中指との間(図10に示すように、施術者が親指でプランジャーを操作することを選択する場合)または中指と親指との間(図11に示すように、施術者が人差し指でプランジャーを操作することを選択する場合)で容易に把持することができる。注射器バレルが前記指の間(または前記指と親指の間)の領域8で把持されると、遠位方向へのバレルを下げる指の滑りは遠位バリア6によって阻止され、一方、近位方向へのバレルを上げる滑りは近位バリア7によって阻止される。このように、指止め構造は二方向性である:遠位方向と近位方向の両方で、バレルを把持する指の滑りを防げる。この点で、従来の成型注射器バレルの近位端によく見られる、近位方向のみに指の滑りを阻止するように設計されている従来のフランジとは異なる。」
(ウ)「As is most clearly seen in FIGS. 1, 2, 9 and 11, the finger-stop structures 5, 5 do not occupy the entire circumference of the barrel in the longitudinal region thereof at which they are placed. Instead they leave part of that circumference unobstructed, so that a calibration scale 11 can be inscribed longitudinally along the barrel continuously without hindrance or interruption, and without compromise to its legibility where the calibration scale passes into or through the longitudinal region of the barrel at which the finger-stop structures are placed. As is best seen in FIGS. 1 and 9, the calibration scale does enter the longitudinal region where the finger-stop structures are, but the calibration scale occupies a different radial position than do the finger-stop structures, thus avoiding interference. This arrangement affords the practical advantage of avoiding unduly lengthening the barrel, as would be necessary if the entirety of the calibration scale had to be located distally of the finger-stop structures. Unnecessary barrel length is undesirable for several reasons, including these: It compromises the goal of compactness of packaging, storage and shipping of the syringes, a consideration particularly important in disposable syringes, which are typically sold and used in large quantities and as to which the costs associated with packaging, shipping and storage are typically a more important consideration than with syringes designed to be reused; it requires more material to manufacture a longer syringe barrel (and a longer plunger assembly to cooperate with the longer barrel), thus increasing cost and waste; and a longer barrel requires greater length of travel of the plunger during the stroke, making the syringe less easily controllable and the plunger member ergonomically harder to operate in both directions with one hand.
It will be appreciated that finger-stop structures much different from those shown in FIGS. 1, 2 and 9 may be used instead. Any pair of structures formed upon, attached to or impressed into diametrically opposed places on the barrel may serve the purpose of dual-directional finger-stops as long as those structures serve to inhibit slippage of the syringe-holding fingers in both the proximal and the distal direction along the barrel. Among the alternative structures that could be employed as finger-stops at diametrically opposed places on the barrel are, for example, the following: Patches of knurled, scored or otherwise roughened surface upon the exterior of the barrel; dimples or depressions or other concavities in the exterior surface of the barrel; or a pair of parallel, interrupted rings occupying a portion of the circumference of the barrel. Even a single such interrupted ring, if located at a suitable longitudinal position intermediate between the proximal and distal ends of the barrel (such as at region 8 indicated in FIGS. 1 and 9), would serve as an adequate dual-directional finger-stop, although some convenience would be sacrificed by the operator's need to perform a grip-shifting maneuver in transitioning from the upward (aspiration) stroke to the downward (injection) stroke; that is, the syringe-grasping fingers would have to be positioned above (i.e., proximally from) the single interrupted ring so that it would serve as a barrier against slippage in the distal direction during the upward (aspiration) stroke but then shifted to a position below ((i.e., distally from) the ring so that it would serve as a barrier against slippage in the proximal direction during the downward (injection) stroke of the plunger.」(7欄64行~8欄58行)
(訳:図1,2,9及び11に最もよくわかるように、指止め構造5、5は、それらが置かれる長手方向領域でバレルの円周全体を占有しない。その代わりに、その円周の一部を遮ることなく残すので、校正スケール11を妨害又は中断なしに連続的にバレルに沿って長手方向に刻むことができ、校正スケールが、指止め構造が配置されたバレルと異なる半径方向の位置にあるため、その可読性が損なわれることはない。図1及び9で最もよくわかるように、校正スケールは、指止め構造がある長手方向領域内にあるが、校正スケールは、指止め構造とは異なる半径方向位置を占めるので、干渉を避けることができる。この配置は、校正スケールの全体が指止め構造の遠位に位置しなければならない場合に必要となり、バレルを過度に長くすることを避けるという実質的な利点をもたらす。不必要なバレルの長さは、以下のようないくつかの理由から望ましくない:一般的に大量に販売され、使用される使い捨て注射器では、包装、輸送、保管に関連するコストは、再使用を目的とする注射器では、より重要な考慮事項である。長いシリンジバレル(および長いバレルと協働する長いプランジャアセンブリ)を製造するためには、より多くの材料が必要となり、したがって、コストおよび廃棄物が増加する。
図1,2及び9に示したものとは大きく異なる指止め構造を代わりに使用してもよいことが理解されよう。バレル上の直径方向に対向する場所に形成され、それに取り付けられ、又は刻印された任意の一対の構造は、それら構造がバレルに沿った近位方向及び遠位方向の両方における注射器保持指の滑りを抑制するのに役立つ構造である限り、二方向指止めの目的を果たすことができる。バレル上の直径方向の正反対に位置する指止め構造として採用可能な代替構造としては、例えば以下のものが挙げられる:バレルの外面に刻み目を付ける、またはその他の方法で粗面化した表面;バレル外面の表面にディンプル、窪み、またはその他の凹み;またはバレルの円周の一部を占める一対の平行な中断リング。このような単一の中断リングであっても、バレルの近位端と遠位端との中間の適切な長手方向位置(例えば、図1及び9に示される領域8)に配置される場合、適切な二方向指止めとして機能する。しかしながら、上方(吸引)ストロークから下方(注射)ストロークに移行する際に、操作者がグリップシフト操作を行う必要がある場合、利便性がいくらか犠牲になるであろう;すなわち、注射器を把持する指は,プランジャの上方(吸引)ストローク中は遠位方向への滑りに対する障壁として機能するが、その後、下方(すなわち、遠位)へシフトする場合に、単一の中断リングは指の上方(すなわち、近位)に配置されなければならない。注射器を把持する指は、プランジャーの上向き(吸引)ストロークの間、遠位方向の滑りに対するバリアとして機能するように、単一の中断リングの上方(すなわち、近位)に指が位置しなければならないが、その後、プランジャーの下向き(注入)ストロークの間、近位方向の滑りに対する障壁として機能するように、リングの下方(すなわち、遠位)の位置に指をシフトしなければならない。)
(エ)「Another alternative adjustable plunger loop structure is illustrated in FIG. 1, where loop members 30 and 31, preferably formed integrally with plunger button 24, are generally configured as overlapping arcs of a circle when in their resting state. Loop members 30 and 31 are made of a resilient material, biased to return to their resting state after a load is withdrawn. In their resting state, loop members 30 and 31 define an aperture that is preferably no larger than a small adult index finger. When an index finger or thumb that is larger than the aperture is attempted to be inserted therein, loop members 30 and 31 are displaced sufficiently to accommodate the finger or thumb; but because they are biased to return to their resting state, they exert a springing force upon the finger or thumb, embracing it snugly. When the thumb or finger so embraced is then lifted to exert a withdrawing force upon the plunger, loop members 30 and 31 retain it, enabling the accomplishment of the aspiration test. After that test, or the injection procedure, is complete, the thumb or finger may be withdrawn. Loop members 30 and 31 in the embodiment shown in FIG. 1 thus act similarly to loop members 40 and 41 in the embodiment shown in FIG. 5, a difference, however, being that loop members 40, 41 overlap in an "over-and-under" fashion while loop members 30 and 31 overlap in a "side-by-side" fashion.」(10欄54行~11欄10行)
(訳:別の代替的な調節可能なプランジャーループ構造が図1に示されており、好ましくはプランジャーボタン24と一体的に形成されたループ部材30及び31は、一般に、静止状態にあるときに円の重なり合う円弧として構成されている。ループ部材30及び31は、弾力性のある材料で作られており、荷重が引き出された後に静止状態に戻るように偏っている。静止状態では、大人の人差し指より小さい空間を画定しており、より大きな指または親指が挿入されるとき、ループ部材30及び31は、指または親指を収容するために十分に変位するが、ループ部材30及び31は、静止状態に戻るように偏っているので、指又は親指にばね力を及ぼし、それをぴったりと抱き込む、このように収容された指又は親指を持ち上げてプランジャーに引き抜く力を加えると、ループ部材30及び31がこれを保持し、吸引試験の実施を可能にする。その試験、または注入手順が完了した後、指又は親指を引き抜くことができる。図1に示す実施形態におけるループ部材30及び31は、このように、図5に示す実施形態におけるループ部材40及び41と同様に作用するが、ループ部材40及び41が「オーバー・アンド・アンダー」方式で重なっているのに対し、ループ部材30及び31は「サイド・バイ・サイド」方式で重なっている点が異なる。)
(オ)「図1
[図:0001409817000001.jpg]
」
(カ)「図10及び11
[図:0001409817000002.jpg]
」
(キ)上記(オ)~(カ)の記載からすれば、指の滑りを抑制する指止め構造5は、ループ部材30及び31に収容された指又は親指以外の指によって把持されることが看取できる。
イ 引用発明
上記(ア)~(エ)の特に下線部の記載、(オ)~(カ)の図面の記載及び(キ)の認定からすれば、引用文献1には次の発明(以下、「引用発明」という。)が記載されている。
「バレル部分1と、プランジャー部材20と、中空針4と、を有して成り、医薬品の筋肉内注射用の皮下注射器であって、
プランジャーボタン24と一体的に形成されたループ部材30及び31が設けられており、該ループ部材30及び31は指又は親指を収容し、収容された指又は親指を持ち上げてプランジャーに引き抜く力を加える吸引試験または注入手順を可能とする注射器において、
バレルの外面に、バレル上の直径方向に対向する場所に形成された、ループ部材30及び31に収容された指又は親指以外の指によって把持される指の滑りを抑制する指止め構造5が設けられており、
前記指止め構造5が、校正スケール11が配置されたバレルと異なる半径方向の位置である、バレル上の直径方向に対向する場所に形成された、バレル外面のディンプル、窪み、またはその他の凹みである注射器。」
ウ 引用文献2の記載
原査定の拒絶の理由で引用された本願の出願日前に頒布された又は電気通信回路を通じて公衆に利用可能となった引用文献である、米国特許出願公開第2016/0175532号明細書(以下、「引用文献2」という。)には、次の記載がある。
(ア)「[0013] As best illustrated in FIGS. 1 through 6, the non-slip syringe assembly 10 generally comprises a syringe 12 that has an outer wall 14 extending between each of a first end 16 and a second end 18 of the syringe 12. Each of the first 16 and second ends 18 of the syringe 12 is open. The syringe 12 is substantially hollow. Additionally, the outer wall 14 of the syringe 12 tapers toward the second end 18 of the syringe 12. The first end 16 of the syringe 12 has a diameter that is less than a diameter of the second end 18 of the syringe 12.
[0014] As shown in FIGS. 1 through 5, a gripping layer 20 is provided. The gripping layer 20 is coupled to an outer surface 22 of the outer wall 14 of the syringe 12. The gripping layer 20 may be gripped. As shown in FIGS. 4 and 5, the gripping layer 20 extends along a barrel section 66 of the outer wall 14 between the first 16 and second 18 ends of the syringe 12. Alternatively, as shown in FIGS. 1 through 3, the gripping layer 20 may be coextensive with the outer wall 14 covering an entirety of the outer wall 14 of the syringe 12.
[0015] An exposed surface 24 of the gripping layer 20 comprises a rough texture. Additionally, the gripping layer 20 may be comprised of a translucent material. The gripping layer 20 allows a material 26 contained within the syringe 12 to be visible to a user 28. The material 26 contained within the syringe 12 may be a liquid medication of any conventional design. As shown in FIG. 6, the gripping layer 20 may be integrally formed with the outer wall 14 by indentations, or the like, providing roughness to an exterior surface 68 of the outer wall 14.
[0016] Indicia 30 are printed on the exposed surface 24 of the gripping layer 20. The
[0017] Indicia 30 comprise graduated volume marks 32. The graduated volume marks 32 extend between the first 16 and second 18 ends of the syringe 12. The graduated volume marks 32 indicate a volume of the material 26 contained within the syringe 12 .」
(訳:[0013]図1~図6に最もよく示されているように、滑り止め注射器アセンブリ10は、一般に、注射器12の第1の端部16と第2の端部18のそれぞれの間に延びる外壁14を有する注射器12からなる。注射器12の第1の端部16と第2の端部18の各々は開口している。注射器12は実質的に中空である。さらに、注射器12の外壁14は、注射器12の第2の端部18に向かって先細りになっている。注射器12の第1の端部16は、注射器12の第2の端部18の直径よりも小さい直径を有する。
[0014]図1~図5に示すように、把持層20が設けられている。把持層20は、注射器12の外壁14の外面22に結合されている。把持層20は把持することができる。図4及び図5に示すように、把持層20は、注射器12の第1端部16と第2端部18との間の外壁14のバレル部66に沿って延びている。あるいは、図1~図3に示すように、把持層20は、注射器12の外壁14の全体を覆うように外壁14と同軸に延びていてもよい。
[0015]把持層20の露出表面24は、粗いテクスチャからなる。さらに、把持層20を半透明の材料で構成することもできる。把持層20は、注射器12内に収容された材料26が使用者28に見えるようにする。注射器12内に収容される材料26は、任意の従来設計の液体薬剤であってよい。図6に示すように、把持層20は、くぼみ等によって外壁14と一体的に形成され、外壁14の外面68に粗さを与えてもよい。
[0016]インジケータ30は、把持層20の露出面24に印刷される。[0017]インジケータ30は目盛マーク32で構成されている。目盛マーク32は、注射器12の第1端部16と第2端部18の間に延びている。目盛マーク32は、シリンジ12内に含まれる材料26の容積を示す。)
(イ)「図1
[図:0001409817000003.jpg]
」
(ウ)「図6
[図:0001409817000004.jpg]
」
(3)本件補正発明と引用発明の対比
以下、本件補正発明と引用発明を対比する。
ア 引用発明の「バレル部分1」、「プランジャー部材20」及び「中空針4」は、機能及び構造上、本件補正発明の「円筒状のシリンジ」、「可動式のプランジャー」及び「針」に相当する。そして、筋肉内注射用の皮下注射器は、通常、針を皮膚に対して略90度の角度で筋肉に到達するまで刺入して薬液を注射するものである。
してみれば、引用発明の「バレル部分1と、プランジャー部材20と、中空針4と、を有して成り、医薬品の筋肉内注射用の皮下注射器」は、本件補正発明の「円筒状のシリンジと、可動式のプランジャーと、針と、を有して成り、針を皮膚に対して略90度の角度で筋肉に到達するまで刺入して薬液を注射する筋肉内注射に用いられる筋肉内注射器」に相当する。
イ 引用発明の「プランジャーボタン24」及び「ループ部材30及び31」は、機能及び構造上、本件補正発明の「プランジャーの後端の押部」及び「指掛け部」に相当する。そして、引用発明は、吸引試験または注入手順を行うに際して、ループ部材30及び31に指又は親指を収容して操作するから、ループ部材30及び31に指先を挿通又は差込し前後動作させることによってプランジャー部材20の押し操作及び戻し操作を皮下注射器の片手持ちで可能であることは自明である。
してみれば、引用発明の「プランジャーボタン24と一体的に形成されたループ部材30及び31が設けられており、該ループ部材30及び31は指又は親指を収容し、収容された指又は親指を持ち上げてプランジャーに引き抜く力を加える吸引試験と注入手順を可能とする」点は、本件補正発明の「プランジャーの後端の押部に指先を挿通又は差込が可能な指掛け部が一体成形又は別体構成により設けられており、該指掛け部に指先を挿通又は差込し前後動作させることによってプランジャーの押し操作と戻し操作の両操作を注射器の片手持ちで可能な構成である」点に相当する。
ウ 引用発明の「バレル」及び「指止め構造」は、機能及び構造上、本件補正発明の「シリンジ」及び「保持安定部」に相当する。
そして、指止め構造5は、「把持される指の滑りを抑制」するものであって、バレルの外面のディンプル、窪み、またはその他の凹みは、保持した指の位置ズレや滑りを抑制乃至は防止することは自明である。
してみれば、引用発明の「バレルの外面に、バレル上の直径方向に対向する場所に形成された、ループ部材30及び31に収容された指又は親指以外の指によって把持される指の滑りを抑制する指止め構造5が設けられており、前記指止め構造5が、校正スケール11が配置されたバレルと異なる半径方向の位置に、バレル上の直径方向に対向する場所に形成された、バレル外面のディンプル、窪み、またはその他の凹みである」点と本件補正発明の「指掛け部に挿通又は差込した以外の指によって保持するシリンジの外周面に、保持した指の位置ズレや滑りを抑制乃至は防止する保持安定部が設けられており、前記保持安定部が、シリンジの外周面の少なくとも一部に設けられた粗面であること(但し、シリンジ外周面の目盛表示部を挟んで対向する両側面部分にのみ保持安定部が設けられる構成を除く。)であり、前記指掛け部に挿通又は差込した以外の指によって保持するシリンジの外周面に、保持した指の位置ズレや滑りを抑制乃至は防止する保持安定部が設けられており、前記保持安定部が、シリンジの外周面の少なくとも一部に設けられた粗面であること(但し、シリンジ外周面の目盛表示部を挟んで対向する両側面部分にのみ保持安定部が設けられる構成を除く。)により、前記保持安定部は前記目盛表示部によって束縛されない構成であり、かつ前記指掛け部に挿通又は差込した以外の指によって保持するシリンジの外周面に、保持した指の位置ズレや滑りを抑制乃至は防止する保持安定部が設けられており、前記保持安定部が、シリンジの外周面の少なくとも一部に設けられた粗面であること(但し、シリンジ外周面の目盛表示部を挟んで対向する両側面部分にのみ保持安定部が設けられる構成を除く。)により、プランジャーの押し操作と戻し操作のいずれの操作の際にも、シリンダーを保持する指の位置ズレや滑りを効果的に抑制乃至は防止する構成である」点は、「指掛け部に挿通又は差込した以外の指によって保持するシリンジの外周面に、保持した指の位置ズレや滑りを抑制乃至は防止する保持安定部が設けられており、前記保持安定部が、シリンジの外周面の少なくとも一部に設けられた粗面である」点及び当該点により「プランジャーの押し操作と戻し操作のいずれの操作の際にも、シリンダーを保持する指の位置ズレや滑りを効果的に抑制乃至は防止する構成である」点の限りで一致する。
以上のことからすると、本件補正発明と引用発明の一致点及び相違点は、次のとおりである。
【一致点】
円筒状のシリンジと、可動式のプランジャーと、針と、を有して成り、針を皮膚に対して略90度の角度で筋肉に到達するまで刺入して薬液を注射する筋肉内注射に用いられる筋肉内注射器であって、
プランジャーの後端の押部に指先を挿通又は差込が可能な指掛け部が一体成形又は別体構成により設けられており、該指掛け部に指先を挿通又は差込し前後動作させることによってプランジャーの押し操作と戻し操作の両操作を注射器の片手持ちで可能な構成である筋肉内注射器において、
指掛け部に挿通又は差込した以外の指によって保持するシリンジの外周面に、保持した指の位置ズレや滑りを抑制乃至は防止する保持安定部が設けられており、
かつ前記指掛け部に挿通又は差込した以外の指によって保持するシリンジの外周面に、保持した指の位置ズレや滑りを抑制乃至は防止する保持安定部が設けられており、前記保持安定部が、シリンジの外周面の少なくとも一部に設けられた粗面であることにより、プランジャーの押し操作と戻し操作のいずれの操作の際にも、シリンダーを保持する指の位置ズレや滑りを効果的に抑制乃至は防止する構成である、筋肉内注射器。
【相違点】
本件補正発明は、「但し、シリンジ外周面の目盛表示部を挟んで対向する両側面部分にのみ保持安定部が設けられる構成を除く。」ものであって、これにより「保持安定部は前記目盛表示部によって束縛されない構成である」のに対し、引用発明は、「指止め構造5」が、「校正スケール11が配置されたバレルと異なる半径方向の位置である、バレル上の直径方向に対向する場所」(すなわち、シリンジ外周面の目盛表示部を挟んで対向する両側面部分)に形成されている点。
(4)判断
シリンジ表面全体を粗面で構成して把持層20(すなわち、保持安定部)とし、その上に目盛マーク32(目盛表示部)を設ける事項は、引用文献2(上記(2)ウ参照。)に記載されており、引用発明の指止め構造5に、シリンジを把持した指のスリップ抑制機能を持たせたことにおいて共通する上記引用文献2記載の事項を採用して上記相違点にかかる本件補正発明とすることは当業者にとって容易である。
そして、上記引用文献2記載の事項を採用すれば、粗面からなる把持層20(すなわち、保持安定部)はその上に目盛マーク32(目盛表示部)を設けることとなるから、保持安定部は目盛表示部によって束縛されないこととなる。
してみれば、本件補正発明の奏する作用効果は、引用発明及び引用文献2記載の事項の奏する作用効果から予測される範囲内のものにすぎず、格別顕著なものということはできない。
よって、引用発明において、引用文献2記載の事項を採用することで、上記相違点に係る本件補正発明の事項とすることは、当業者が容易になし得たことであり、本件補正発明は、引用発明及び引用文献2記載の事項に基いて、当業者が容易に発明できたものである。
(5)小括
したがって、本件補正発明は、特許法第29条第2項の規定により、特許出願の際独立して特許を受けることができたものではない。
3 本件補正についてのむすび
以上のとおりであるから、本件補正は、特許法第17条の2第5項又は同条第6項において準用する同法第126条第7項の規定に違反してなされたものであり、同法第159条第1項において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。
よって、上記補正の却下の決定の結論のとおり決定する。
第3 本願発明について
1 本願発明
本件補正は、上記のとおり却下されたので、本願の請求項1に係る発明は、令和4年3月17日提出の手続補正書により補正された特許請求の範囲の請求項1に記載された事項により特定される上記第2[理由]1(2)に記載されたとおりのものである。
2 引用文献等
原査定の拒絶の理由で引用された引用文献1及び2並びにその記載事項は、上記第2[理由]2(2)に記載したとおりである。
3 対比
以下、本願発明と引用発明を対比する。
ア 上記第2[理由]2(3)ア及びイで検討したのと同様に、引用発明の「バレル部分1と、プランジャー部材20と、中空針4と、を有して成り、医薬品の筋肉内注射用の皮下注射器であって、プランジャーボタン24と一体的に形成されたループ部材30及び31が設けられており、該ループ部材30及び31は指又は親指を収容し、収容された指又は親指を持ち上げてプランジャーに引き抜く力を加える吸引試験または注入手順を可能とする注射器」である点は、本願発明の「円筒状のシリンジと、可動式のプランジャーと、針と、を有して成り、針を皮膚に対して略90度の角度で筋肉に到達するまで刺入して薬液を注射する筋肉内注射に用いられる筋肉内注射器であって、プランジャーの後端の押部に指先を挿通又は差込が可能な指掛け部が一体成形又は別体構成により設けられており、該指掛け部に指先を挿通又は差込し前後動作させることによってプランジャーの押し操作と戻し操作の両操作を注射器の片手持ちで可能な構成である筋肉内注射器」である点に相当する。
イ 引用発明の「バレル」及び「指止め構造」は、機能及び構造上、本願発明の「シリンジ」及び「保持安定部」に相当する。
そして、指止め構造5は、「把持される指の滑りを抑制」するものであって、バレルの外面にディンプル、窪み、またはその他の凹みが設けられていれば、保持した指の位置ズレや滑りを抑制乃至は防止できることは自明である。
してみれば、引用発明の「バレルの外面に、バレル上の直径方向に対向する場所に形成された、ループ部材30及び31に収容された指又は親指以外の指によって把持される指の滑りを抑制する指止め構造が設けられており、前記指止め構造5が、校正スケール11が配置されたバレルと異なる半径方向の位置に、バレル上の直径方向に対向する場所に形成された、バレル外面のディンプル、窪み、またはその他の凹みである」点と本願発明の「指掛け部に挿通又は差込した以外の指によって保持するシリンジの外周面に、保持した指の位置ズレや滑りを抑制乃至は防止する保持安定部が設けられており、前記保持安定部が、シリンジの外周面の少なくとも一部に設けられた粗面であること(但し、シリンジ外周面の目盛表示部を挟んで対向する両側面部分にのみ保持安定部が設けられる構成を除く。)により、前記保持安定部は前記目盛表示部によって束縛されない構成である」点は、「指掛け部に挿通又は差込した以外の指によって保持するシリンジの外周面に、保持した指の位置ズレや滑りを抑制乃至は防止する保持安定部が設けられており、前記保持安定部が、シリンジの外周面の少なくとも一部に設けられた粗面である」点で一致する。
以上のことからすると、本願発明と引用発明の一致点及び相違点は、次のとおりである。
【一致点】
円筒状のシリンジと、可動式のプランジャーと、針と、を有して成り、針を皮膚に対して略90度の角度で筋肉に到達するまで刺入して薬液を注射する筋肉内注射に用いられる筋肉内注射器であって、
プランジャーの後端の押部に指先を挿通又は差込が可能な指掛け部が一体成形又は別体構成により設けられており、該指掛け部に指先を挿通又は差込し前後動作させることによってプランジャーの押し操作と戻し操作の両操作を注射器の片手持ちで可能な構成である筋肉内注射器において、
指掛け部に挿通又は差込した以外の指によって保持するシリンジの外周面に、保持した指の位置ズレや滑りを抑制乃至は防止する保持安定部が設けられており、
前記保持安定部が、シリンジの外周面の少なくとも一部に設けられた粗面である、筋肉内注射器。
【相違点】
本願発明は、「但し、シリンジ外周面の目盛表示部を挟んで対向する両側面部分にのみ保持安定部が設けられる構成を除く。」ものであって、これにより「保持安定部は前記目盛表示部によって束縛されない構成である」のに対し、引用発明は、「指止め構造」が、「校正スケールが配置されたバレルと異なる半径方向の位置である、バレル上の直径方向に対向する場所」(すなわち、シリンジ外周面の目盛表示部を挟んで対向する両側面部分)に形成されている点。
4 判断
上記本願発明と引用発明の相違点は、上記第2[理由]2(3)で検討した本件補正発明と引用発明の相違点と同じである。
よって、上記第2[理由]2(4)と同じ理由により、本願発明は、引用発明及び引用文献2記載の事項に基いて、当業者が容易に発明できたものである。
5 むすび
以上のとおり、本願発明は、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないから、本願は拒絶されるべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
審決本文(J-PlatPat)
J-PlatPatの審決検索トップを開きます。番号入力で「審判番号」を選び、下の番号を貼り付けて検索してください。
J-PlatPat 審決検索を開く
2023-002541