特許無効審判
2022-800018
食肉製品製造方法
- 審判番号
- 2022-800018
- 法域
- 特許
- 審判種別
- 無効審判(無効の審決)
- 出願番号
- 特願2020-066961
- 登録番号
- 6987918
- 請求日
- 2022年02月28日
- 審決日
- 2023年02月27日
- 公報発行日
- 2023年07月28日
- 結論
- 請求不成立
- 当事者
- 【請求人】プリマハム 株式会社
- 【請求人代理人】弁理士法人雄渾
- 【被請求人】丸大食品 株式会社
- 【被請求人代理人】弁理士法人三枝国際特許事務所
- 審判長/審判官
- 審判長 平塚 政宏
- 審判官 大島 祥吾
- 審判官 関 美祝
- 分類
- P1113.113-YAA(A23L) / P1113.121-YAA(A23L) / P1113.537-YAA(A23L)
- 条文(本文から自動抽出・参考)
- 特許法第134条の2第9項、特許法第29条第2項、特許法第134条の2第1項、特許法第29条第1項第3号、特許法第36条第6項第2号、特許法第36条第6項第1号、特許法第134条の2第3項、特許法第169条第2項
- データ出所
- 審決公報(XML)
事件の表示
上記当事者間の特許第6987918号発明「食肉製品製造方法」の特許無効審判事件について、次のとおり審決する。
結論
結 論
特許第6987918号の特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1ないし3〕について訂正することを認める。
本件審判の請求は、成り立たない。
審判費用は、請求人の負担とする。
理由
理 由
第1 請求の趣旨及び答弁の趣旨
1 請求の趣旨
次を結論とする審決を求める。
(1)特許第6987918号の請求項1ないし3に係る発明についての特許を無効とする。
(2)審判費用は被請求人の負担とする。
2 答弁の趣旨
次を結論とする審決を求める。
(1)訂正を認める。
(2)本件審判請求は成り立たない。
(3)審判費用は請求人の負担とする。
第2 手続の経緯
特許第6987918号(以下、「本件特許」という。)の請求項1ないし3に係る発明についての出願は、令和2年4月2日を出願日とする特願2020-66961号に係る出願であって、令和3年12月3日に特許権の設定登録がされたものである。
そして、その後の主な経緯は次のとおりである。
令和 4年 2月28日:無効審判請求(請求人)
同年 7月28日:審判事件答弁書及び訂正請求書提出(被請求人)
同年 9月 6日:審判事件弁駁書提出(請求人)
同年10月24日付け:補正許否の決定
同年 同月 同日付け:審理事項通知書
同年12月 6日:口頭審理陳述要領書提出(請求人)
口頭審理陳述要領書提出(被請求人)
同年12月20日:第1回口頭審理
同年 同月 同日付け:補正許否の決定
第3 訂正請求について
1 訂正請求の趣旨
特許第6987918号の特許請求の範囲を本訂正請求書に添付した訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項1~3について訂正することを求める。
2 訂正の内容
(1)本件訂正前後の特許請求の範囲の記載
ア 本件訂正前の特許請求の範囲
「【請求項1】
有機酸又はその塩添加肉を高圧処理することを含む、
乳酸菌の増殖が抑制された食肉製品の製造方法であり、
高圧が、100~1000MPaであり、
有機酸又はその塩が、フマル酸及びその塩からなる群より選択される少なくとも1種であり、
食肉製品中、有機酸又はその塩の総量が、0.005~0.5質量%である、方法。
【請求項2】
有機酸又はその塩添加肉を高圧処理することを含む、
食肉製品における乳酸菌の増殖を抑制する方法であり、
高圧が、100~1000MPaであり、
有機酸又はその塩が、フマル酸及びその塩からなる群より選択される少なくとも1種であり、
食肉製品中、有機酸又はその塩の総量が、0.005~0.5質量%である、方法。
【請求項3】
有機酸又はその塩添加肉が、有機酸又はその塩として、さらに乳酸、ソルビン酸、酢酸、及びこれらの塩からなる群より選択される少なくとも1種が添加されている肉である、請求項1又は2に記載の方法。」
イ 本件訂正後の特許請求の範囲
「【請求項1】
有機酸又はその塩添加肉を高圧処理することを含む、
乳酸菌の増殖が抑制された食肉製品の製造方法であり、
高圧が、100~1000MPaであり、
高圧処理時の温度が4~35℃であり、
高圧処理時間が5分未満であり、
有機酸又はその塩が、フマル酸及びその塩からなる群より選択される少なくとも1種であり、
食肉製品中、有機酸又はその塩の総量が、0.005~0.5質量%である、方法。
【請求項2】
有機酸又はその塩添加肉を高圧処理することを含む、
食肉製品における乳酸菌の増殖を抑制する方法であり、
高圧が、100~1000MPaであり、
高圧処理時の温度が4~35℃であり、
高圧処理時間が5分未満であり、
有機酸又はその塩が、フマル酸及びその塩からなる群より選択される少なくとも1種であり、
食肉製品中、有機酸又はその塩の総量が、0.005~0.5質量%である、方法。
【請求項3】
有機酸又はその塩添加肉が、有機酸又はその塩として、さらに乳酸、ソルビン酸、酢酸、及びこれらの塩からなる群より選択される少なくとも1種が添加されている肉である、請求項1又は2に記載の方法。」
(2)本件訂正の内容
訂正請求書において、被請求人が求めた訂正(以下、「本件訂正」という。)の内容は、次のとおりである(なお、下線は訂正箇所を示す。)。
ア 訂正事項1
特許請求の範囲の請求項1に「高圧が、100~1000MPaであり、」とあるのを、「高圧が、100~1000MPaであり、高圧処理時の温度が4~35℃であり、高圧処理時間が5分未満であり、」に訂正する。
請求項1の記載を引用する請求項3も同様に訂正する。
イ 訂正事項2
特許請求の範囲の請求項2に「高圧が、100~1000MPaであり、」とあるのを、「高圧が、100~1000MPaであり、高圧処理時の温度が4~35℃であり、高圧処理時間が5分未満であり、」に訂正する。
請求項2の記載を引用する請求項3も同様に訂正する。
なお、訂正前の請求項3は訂正前の請求項1又は2を直接引用していることから、訂正前の請求項1及び3は一群の請求項であり、訂正前の請求項2及び3も一群の請求項であるから、本件訂正は、一群の請求項ごとにされており、特許法第134条の2第3項の規定に適合するものである。
3 訂正の目的の適否、願書に添付した明細書又は特許請求の範囲に記載した事項の範囲内のものか否か及び特許請求の範囲の拡張・変更の存否
(1)訂正事項1に係る訂正について
訂正事項1に係る請求項1の訂正について検討する。
訂正事項1は、訂正前の請求項1の「高圧処理」について、「高圧処理時の温度が4~35℃であり、高圧処理時間が5分未満であり、」との記載により、訂正前の高圧処理をより具体的に特定し、更に限定するものであるから、特許法第134条の2第1項ただし書第1号の特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。
また、上記訂正事項1は、本件特許の願書に添付した明細書の段落【0016】には、高圧処理について「温度としては、特に限定はされないが、例えば4℃以上が例示される。 ・・・例えば、当該範囲は4~35℃であってもよい。」との記載があり、また、段落【0016】には、「処理時間としても、特に限定はされないが、1分以上が好ましく例示される。例えば、処理時間は1~60分程度であってもよい。当該範囲の上限又は下限は、例えば2、3、4、5、・・・、又は59分であってもよい。例えば、処理時間は2~10分であってもよい。」との記載に基づくものであるから、本件特許の願書に添付した明細書又は特許請求の範囲に記載した事項の範囲内においてするものであり、特許法第134条の2第9項で準用する同法第126条第5項の規定に適合するものである。
さらに、上記訂正事項1は、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものには該当せず、特許法第134条の2第9項で準用する同法第126条第6項の規定に適合するものである。
そして、訂正事項1に係る請求項3の訂正も同様に判断される。
(2)訂正事項2に係る訂正について
訂正事項2に係る請求項2の訂正について検討する。
訂正事項2は、上記(1)での判断と同様であるから、特許法第134条の2第1項ただし書第1号の特許請求の範囲の減縮を目的とするものであり、本件特許の願書に添付した明細書又は特許請求の範囲に記載した事項の範囲内においてするもので、特許法第134条の2第9項で準用する同法第126条第5項の規定に適合し、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものには該当せず、特許法第134条の2第9項で準用する同法第126条第6項の規定に適合するものである。
そして、訂正事項2に係る請求項3の訂正も同様に判断される。
4 むすび
以上のとおり、上記訂正事項1及び2は、特許法第134条の2第1項ただし書第1号に掲げる事項を目的とするものであり、同条第9項で準用する同法第126条第5及び6項の規定に適合するものである。
したがって、結論のとおり、本件特許の特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1ないし3〕について訂正することを認める。
第4 本件発明
上記第3のとおり本件訂正の請求による請求項1ないし3の訂正は認められるから、本件特許の請求項1ないし3に係る発明(以下、順に、「本件発明1」のようにいう。また、総称して、「本件発明」という。)は、訂正請求書に添付した訂正特許請求の範囲の請求項1ないし3に記載された上記第3 2(1)イに記載されているとおりのものである。
第5 請求人の主張の概要及び証拠方法
1 請求人の主張の概要
請求人は、審判請求書、審判事件弁駁書及び口頭審理陳述要領書を提出し、証拠方法として、審判請求書とともに下記甲第1ないし13号証を提出し、口頭審理陳述要領書とともに下記甲第14ないし17号証を提出した。
そして、請求人は、「特許第6987918号発明の特許請求の範囲の請求項1乃至3に記載された発明についての特許を無効とする。審判費用は被請求人の負担とする。」との審決を求め、その理由として、おおむね次の無効理由を主張している。
(1)無効理由1 無効審判請求対象の請求項1及び2に係る発明に対する甲第1号証(特開平2-255068号公報)に基づく新規性(特許法第29条第1項第3号)
本件発明1及び2は、甲第1号証に記載された発明であるから、特許法第29条第1項第3号に該当し特許を受けることができないものであるから、その特許は同法第123条第1項第2号に該当し、無効とすべきである。
(2)無効理由2-1 無効審判請求対象の請求項1ないし3に係る発明に対する甲第1号証に基づく進歩性(特許法第29条第2項)
本件発明1ないし3は、甲第1号証に記載された発明に基づいて、出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者(以下、「当業者」という)が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであり、その特許は同法第123条第1項第2号に該当し、無効とすべきである。
(3)無効理由2-2 無効審判請求対象の請求項1ないし3に係る発明に対する甲第2号証(特開2007-129948号公報)に基づく進歩性(特許法第29条第2項)
本件発明1ないし3は、甲第2号証に記載された発明に基づいて、出願前に当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであり、その特許は同法第123条第1項第2号に該当し、無効とすべきである。
(4)無効理由3 無効審判請求対象の請求項1ないし3に係る発明に対する明確性要件(特許法第36条第6項第2号)
本件発明1ないし3は特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていないから、その特許は、同法第123条第1項第4号に該当し、無効とすべきである。
(5)無効理由4 無効審判請求対象の請求項1ないし3に係る発明に対するサポート要件(特許法第36条第6項第1号)
本件発明1ないし3は特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていないから、その特許は、同法第123条第1項第4号に該当し、無効とすべきである。
なお、無効理由3及び4は、令和4年9月6日提出の弁駁書において記載の新たな無効理由であるが、訂正請求により新たに生じた理由であって、審理を不当に遅延させるものではないことから、令和4年10月24日付けの補正許否の決定において当該理由を追加する補正を許可している。
2 証拠方法
甲第1号証 :特開平2-255068号公報
甲第2号証 :特開2007-129948号公報
甲第3号証 :特開2012-90624号公報
甲第4号証 :特開平5-336941号公報
甲第5号証 :特開2001-245644号公報
甲第6号証 :特開平9-70276号公報
甲第7号証 :特開平4-187066号公報
甲第8号証 :中里厚実、本間拓、竹田正久、「Rhizopus属の糸状菌培養液の腐造乳酸菌増殖抑制効果と速醸もとへの利用」、日本食品工業会誌、第35巻、第9号、634~639ページ、1988年9月
甲第9号証 :特開昭54-80439号公報
甲第10号証:特開平10-4941号公報
甲第11号証:特開平11-123070号公報
甲第12号証:「プリマハム株式会社2020年3月期上半期決算説明会資料」、令和元年11月13日
甲第13号証:(株)兼松KGKのホームページの写し (https://www.kgk-j.co.jp/business/ps/hpp.html)令和4年2月11日(印刷日) 甲第14号証:特開2006-42818号公報
甲第15号証:アサマNEWSパートナー2017-3 No.177(URL:https://www.asama-chemical.co.jp/PN/P177.PDF)
甲第16号証:特開平5-65178号公報
甲第17号証:「食肉加工品の知識」、公益社団法人日本食肉協議会発行、平成25年9月第2版
(以下、順に「甲1」のようにいう。)
第6 被請求人の主張の概要及び証拠方法
1 被請求人の主張の概要
被請求人は、審判事件答弁書及び口頭審理陳述要領書を提出し、証拠方法として、口頭審理陳述要領書に添付して下記乙第1号証を提出した。
そして、被請求人は、「本件無効審判の請求は成り立たない。審判費用は請求人の負担とする。」との審決を求め、その理由として、請求人が主張する上記無効理由1、無効理由2-1及び2-2、無効理由3並びに無効理由4はいずれも理由がない旨主張している。
2 証拠方法
乙第1号証 ;実験報告書 丸大食品株式会社従業員 古本真理作成、令和4年12月5日
(以下、「乙1」という。)
第7 当審の判断
1 無効理由1及び無効理由2-1(甲1に基づく新規性・進歩性)について
(1)甲1に記載された発明等
ア 甲1には、次の記載がある。なお、下線は当審で付したものである。
(1a)「2.特許請求の範囲
(1)食品を圧力500~10000kg/cm2及び温度60~110℃で処理することを特徴とする食品の処理方法。
・・・
(3)食品に抗菌剤を添加することを特徴とする請求項(1)又は(2)記載の食品の処理方法。」
(1b)「〔産業上の利用分野〕
本発明は、食品の処理方法に関するもので、本発明の食品の処理方法によれば、食品の品質や風味を損なうことなく食品を殺菌でき、また抗酸化剤や抗菌剤を添加した食品にあっては該抗酸化剤や抗菌剤の効果が高まり、本発明の方法による殺菌効果とあいまって食品の保存性を一層向上させることができる。」(第1頁左下欄第13行~第20行)
(1c)「本発明者らは、前記目的を達成すべく検討を重ねた結果、食品を特定の温度下で特定の圧力に加圧することにより、食品中の各種細菌をそれらが従来必要とされているよりも低い温度で殺菌でき、且つ食品の品質や風味を損なうことなく充分な殺菌効果が得られることを知見した。また、抗酸化剤や抗菌剤を添加した食品に上記殺菌法を適用することにより、抗酸化剤や抗菌剤の効果が高まり、上記殺菌法による殺菌効果とあいまって食品の保存性が一層向上することを知見した。
本発明は、上記知見に基づきなされたもので、食品を圧力500~10000kg/cm2及び温度60~110℃で処理することを特徴とする食品の処理方法を提供するものである。」(第2頁右上欄第3行~第16行)
(1d)「本発明の方法の対象となる食品には、抗酸化剤や抗菌剤を予め添加して置くことが好ましい。各種の抗酸化剤や抗菌剤を添加した食品は、上記温度下で上記圧力を負荷することにより、食品に添加した抗酸化剤及び抗菌剤の効果が増大し、本発明の方法による殺菌効果とあいまって保存性がより一層高まる。」(第2頁左下欄第15行~右下欄第1行)
(1e)「上記抗酸化剤としては、例えば、エンジュ抽出物、γ-オリザノール、カテキン、クローブ抽出物、ケルセチン、ゲンチジン酸、ゴシペチン、米糠油不ケン化物、セザモリン、セザモール、セージ抽出物、天然ビタミンE、ピメンタ抽出物、ペッパー抽出物、没食子酸、ユーカリ葉抽出物、ローズマリー抽出物、米糠油抽出物、生コーヒー豆抽出物、d-αトコフェロール、d-γトコフェロール、d-δトコフェロール、トコトリエノール類、ゴマ抽出物、テンペ抽出物、イソフラボン類等の天然抗酸化剤及び、BHA、BHT、合成ビタミンEなどの合成酸化剤があげられ、上記抗菌剤としては、例えば、安息香酸、カピリン、フィリリン、ベタイン、ペクチン分解物、マグノロール、等の抗菌剤の他、酢酸、乳酸、クエン酸、d,lリンゴ酸、d,l酒石酸、コハク酸、フマル酸、ソルビン酸、コーティングフマル酸、グリシン、フィチン酸、グルコノデルタラクトン等の有機酸類、エタノール、グリセリン等のアルコール類などがあげられ、対象となる食品の種類に応じて適宜選択される。また、これらの抗酸化剤及び抗菌剤の使用量は、対象となる食品の種類に応じて、それぞれ通常食品100重量部に対し0.001~10重量部の範囲で適宜選定される。」(第2頁右下欄第2行~第3頁左上欄第5行)
(1f)「また、本発明の方法の対象となる食品としては、特に制限はなく、その形態も固体、液体、ゾル状、ゲル状及びこれらが複合されたものでも良く、例えば、うどん、そば、米飯、サツマイモ、煮豆、魚肉、畜肉、貝、スープ、白酒、ジュース、シチュー、カレー、汁粉、ボルシチ、かまぼこ、ちくわ、ゼリー、ハンバーグ、果物、塩干品等があげられる。」(第3頁左上欄第12行~第19行)
(1g)「実施例1
サンプルとして魚肉ソーセージ、カラスミ、コンソメスープ、ビーフシチュー、焼鳥、レアステーキ、及びハンバーグを選択し、各サンプルを下記表1に示した処理条件(圧力、加圧保持時間、温度)の下でそれぞれ処理した。加圧装置としてはピストン式のものを用い、圧力媒体としては30%アルコール水溶液を用いた。また、上記各サンプルについては通常の真空包装を行い、本発明の方法の実施に供した。処理後、包装に異常のないことを確認し、各サンプルについて生菌数を測定した。その結果を処理前の生菌数とともに下記表1に併記した。
[図:0001399284000001.jpg]
上記表1に示す結果から、全サンプルについて、本発明の方法による処理によって顕著な殺菌効果が得られることが判る。また、処理後の各サンプルは、何れも、処理前と同様な、ソフトな好ましい食感を有していた。
また、加圧保持時間を1分間及び30分間とした場合についても上記と同様に実施したが、何れの場合も、加圧保持時間が5分間の場合と同様な結果が得られた。
尚、上記の何れの場合も加圧及び減圧に要した時間はそれぞれ1分間以内であった。」(第3頁右上欄第6行~右下欄第11行)
(1h)「実施例2
サンプルとして魚肉ソーセージを用い、これを圧力1000kg/cm2、加圧保持時間5分間、温度80℃の条件で処理した。ただし、用いた魚肉ソーセージには抗菌剤としてソルビン酸、フマル酸、d酒石酸、グリシンのうちの1種が添加されているもの(下記表2参照)と、抗菌剤を添加しないものを試作し、サンプルとした。生菌数は処理直後及び処理後1週間室温(20℃)に放置したものについて測定した。また、対照として、加圧しない以外は上記と同様に上記魚肉ソーセージを処理した試験をそれぞれ行い、それらの生菌数を同様に測定した。それらの結果を下記表2に示す。
[図:0001399284000002.jpg]
上記表2に示す結果から、次のことが判る。加圧処理を行わない場合、1週間後の生菌数の増加は抗菌剤無添加群と比較して抗菌剤使用群の方が少なく、抗菌剤の効果が示されている。また、抗菌剤と加圧処理を併用した場合は、1週間後でも生菌数の増加は全くみられず、従来抗菌剤のみでは得ることのできない優れた抗菌効果が得られる。また、抗菌剤を使用せず、加圧処理だけ行なった場合も、抗菌剤のみの場合より抗菌効果が優れている。」(第3頁右下欄第18行~第4頁左下欄第10行)
イ 甲1に記載された発明
上記アの(1a)、(1e)の記載から、甲1には、以下の発明(以下、「甲1発明A」という。)が記載されていると認める。
<甲1発明A>
「食品に抗菌剤を0.01~10重量%添加し、食品を圧力500~10000kg/cm2及び温度60~110℃で処理する、食品の処理方法。」
また、上記アの(1h)の実施例2の記載から、甲1には、以下の発明(以下、「甲1発明B」という。)が記載されていると認める。
<甲1発明B>
「サンプルとして魚肉ソーセージを用い、これを圧力1000kg/cm2、加圧保持時間5分間、温度80℃の条件で処理し、ただし、用いた魚肉ソーセージには抗菌剤としてフマル酸が0.17重量%添加されているものを試作しサンプルとした、魚肉ソーセージの処理方法。」
(2)本件発明1について
ア 甲1発明Aについて
(ア)甲1発明Aとの対比
本件発明1と甲1発明Aを対比する。
甲1発明Aにおける「食品」は、本件発明1の「食肉製品」と「添加剤含有の食品製品」の限りで一致する。
甲1発明Aの「圧力500~10000kg/cm2」「で処理する」ことは、「10kg/cm2」が「1MPa」であるので、本件発明1の圧力範囲と大部分が一致するから、本件発明1の「高圧処理することを含む」、「高圧が、100~1000MPaであり」に相当する。
甲1発明Aの「処理方法」は、実質的に食品を製造しているといえるから、本件発明1の「製造方法」に相当する。
そうすると、本件発明1と甲1発明Aとは、
「添加剤含有の食品製品を高圧処理することを含む、
食品製品の製造方法であり、
高圧が、100~1000MPaである、方法。」
で一致し、以下の点で相違する。
<相違点1-1A>
食品製品に関し、本件発明1は「食肉製品」であるのに対し、甲1発明Aは「食品」である点
<相違点1-2A>
製造方法に関し、本件発明1は「乳酸菌の増殖が抑制された」ものであるのに対し、甲1発明Aは、この点を特定しない点
<相違点1-3A>
添加剤及びその添加量に関し、本件発明1は、「有機酸又はその塩」であり、それらが「フマル酸及びその塩からなる群より選択される少なくとも1種であり、食肉製品中」の「総量が、0.005~0.5質量%である」のに対し、甲1発明Aは、「抗菌剤」を「0.01~10重量%添加し」ている点
<相違点1-4A>
高圧処理時の温度条件に関し、本件発明1は「4~35℃」であるのに対し、甲1発明Aは、「60~110℃」である点
<相違点1-5A>
高温処理時間に関し、本件発明1は「5分未満」であるのに対し、甲1発明Aは、処理時間を特定しない点
(イ)判断
事案に鑑み、相違点1-4Aから検討する。
まず、新規性から検討する。
高圧処理時の温度範囲について、本件発明1と甲1発明Aとが重複しないことは明らかであるから、相違点1-4Aは、実質的なものである。
そうすると、その余の相違点を検討するまでもなく、本件発明1は甲1発明Aであるとはいえない。
次に、進歩性について検討する。
甲1の請求項1の「食品を圧力500~10000kg/cm2及び温度60~110℃で処理することを特徴とする食品の処理方法。」及び発明の詳細な説明の「本発明者らは、前記目的を達成すべく検討を重ねた結果、食品を特定の温度下で特定の圧力に加圧することにより、食品中の各種細菌をそれらが従来必要とされているよりも低い温度で殺菌でき、且つ食品の品質や風味を損なうことなく充分な殺菌効果が得られることを知見した。」との記載から、甲1発明Aは特定の圧力と特定の温度で処理することが必要なこととされているといえ、そのような甲1発明Aにおいて、必要とされる温度範囲外の温度とすることに阻害要因がある。
そうすると、甲1発明Aにおいて、相違点1-4Aとすることは当業者といえども容易に想到し得たこととはいえない。
(ウ)請求人の主張の検討
相違点1-4Aに関し、請求人は、令和4年9月6日提出の弁駁書において「甲1発明は、従来必要とされているよりも低い温度で殺菌できることを見出したものであり、60℃よりもさらに低い温度で殺菌することを阻害するものではない。そして、甲第2号証には、6~20℃、500~625MPaの条件で抗菌効果が認められることから(段落【0028】、【0029】)、甲1発明において、甲第2号証に記載された発明を適用して、6~20℃、500~625MPaの処理条件に変更してみることは当業者が容易になし得たことである。」(弁駁書第3頁第17行~第23行)と主張し、令和4年12月6日提出の口頭審理陳述要領書において「甲第14号証には、上述したとおり、加工肉製品の抗菌処理における高圧処理の条件として、圧力は一般に約300から約900MPaであること(段落【0035】、【0036】)、温度は一般に約80℃未満であり、より好ましくは約20℃から約50℃であること(段落【0037】)、高圧加工時間は一般に約1から約20分であり、より典型的な場合は約3から約10分であること(段落【0038】)が記載されています。また、甲第14号証に記載の発明は、乳酸桿菌(ラクトバチルス)に対して効果的であることが記載されています(段落【0044】)。してみると、甲1発明Aにおいて、食肉製品に適用した際に、甲第14号証に記載の発明を参酌し、高圧処理の温度を約20℃から約50℃とすることは当業者が容易になし得ることであるといえます。」(口頭審理陳述要領書の第4頁第25行~第5頁第9行)と主張する。
しかしながら、甲2及び甲14に高圧処理条件として本件発明1の圧力範囲が記載されているとしても、甲1に記載された発明は、従来必要とされているよりも低い温度で殺菌できることを知見した発明であって、その温度として、60~110℃と特定したものであることを勘案すると、甲1発明Aが満たさなければならない処理の温度条件を逸脱することはできないから、請求人の上記主張は失当であって採用できない。
(エ)小括
よって、その余の相違点について検討するまでもなく、本件発明1は、甲1発明Aであるとはいえないし、甲1発明Aに基づいて当業者が容易に発明をすることができたものということもできない。
イ 甲1発明Bについて
(ア)甲1発明Bとの対比
本件発明1と甲1発明Bを対比する。
甲1発明Bにおける「サンプルとして魚肉ソーセージ」は、本件発明1の「食肉製品」に相当し、甲1発明Bは「用いた魚肉ソーセージには抗菌剤としてフマル酸が0.17重量%添加されている」から、甲1発明Bは、本件発明1の「有機酸又はその塩添加肉」であって「有機酸又はその塩が、フマル酸及びその塩からなる群より選択される少なくとも1種であり、食肉製品中、有機酸又はその塩の総量が、0.005~0.5質量%である」を満足している。
甲1発明Bの「圧力1000kg/cm2」「の条件で処理」することは、「10kg/cm2」が「1MPa」であるので、本件発明1の「高圧処理することを含む」、「高圧が、100~1000MPaであり」に相当する。
甲1発明Bの「処理方法」は、実質的に食品を製造しているといえるから、本件発明1の「製造方法」に相当する。
そうすると、本件発明1と甲1発明Bとは、
「有機酸又はその塩添加肉を高圧処理することを含む、
食肉製品の製造方法であり、
高圧が、100~1000MPaであり、
有機酸又はその塩が、フマル酸及びその塩からなる群より選択される少なくとも1種であり、
食肉製品中、有機酸又はその塩の総量が、0.005~0.5質量%である、方法。」
で一致し、以下の点で相違する。
<相違点1-1B>
製造方法に関し、本件発明1は「乳酸菌の増殖が抑制された」ものであるのに対し、甲1発明Bは、この点を特定しない点
<相違点1-2B>
高圧処理時の温度条件に関し、本件発明1は「4~35℃」であるのに対し、甲1発明Bは「80℃」である点
<相違点1-3B>
高温処理時間に関し、本件発明1は「5分未満」であるのに対し、甲1発明Bは「5分」である点
(イ)判断
事案に鑑み、相違点1-2Bから検討すると、相違点1-2Bは、上記アの相違点1-4Aと同様の相違点であるから、上記アの相違点1-4Aと同様に判断される。
よって、その余の相違点について検討するまでもなく、本件発明1は、甲1発明Bであるとはいえないし、甲1発明Bに基づいて当業者が容易に発明をすることができたものということもできない。
(3)本件発明2について
ア 甲1発明Aについて
(ア)甲1発明Aとの対比
本件発明2と甲1発明Aを対比する。
甲1発明Aにおける「食品」は、本件発明2の「食肉製品」と「添加剤含有の食品製品」の限りで一致する。
甲1発明Aの「圧力500~10000kg/cm2」「で処理する」ことは、本件発明2の圧力範囲と大部分が一致するから、本件発明2の「高圧処理することを含む」、「高圧が、100~1000MPaであり」に相当する。
甲1発明Aの「処理方法」は、本件発明2の「乳酸菌の増殖を抑制する方法」と「処理方法」の限りで一致する。
そうすると、本件発明2と甲1発明Aとは、
「添加剤含有の食品製品を高圧処理することを含む、
食品製品の処理方法であり、
高圧が、100~1000MPaである、方法。」
で一致し、以下の点で相違する。
<相違点1-6A>
食品製品に関し、本件発明2は、「食肉製品」であるのに対し、甲1発明Aは「食品」である点
<相違点1-7A>
処理方法に関し、本件発明2は「乳酸菌の増殖を抑制する」ものであるのに対し、甲1発明Aは、この点を特定しない点
<相違点1-8A>
添加剤及びその添加量に関し、本件発明2は、「有機酸又はその塩」であり、それらが「フマル酸及びその塩からなる群より選択される少なくとも1種であり、食肉製品中」の「総量が、0.005~0.5質量%である」のに対し、甲1発明Aは、「抗菌剤」を「0.01~10重量%添加し」ている点
<相違点1-9A>
高圧処理時の温度条件に関し、本件発明2は「4~35℃」であるのに対し、甲1発明Aは、「60~110℃」である点
<相違点1-10A>
高温処理時間に関し、本件発明2は「5分未満」であるのに対し、甲1発明Aは、処理時間を特定しない点
(イ)判断
事案に鑑み、相違点1-9Aから検討すると、相違点1-9Aは、上記(2)アの相違点1-4Aと同じであるから、上記(2)アの相違点1-4Aと同様に判断される。
よって、その余の相違点について検討するまでもなく、本件発明2は、甲1発明Aであるとはいえないし、甲1発明Aに基づいて当業者が容易に発明をすることができたものということもできない。
イ 甲1発明Bについて
(ア)甲1発明Bとの対比
本件発明2と甲1発明Bを対比する。
甲1発明Bにおける「サンプルとして魚肉ソーセージ」は、本件発明2の「食肉製品」に相当し、甲1発明Bは「用いた魚肉ソーセージには抗菌剤としてフマル酸が0.17重量%添加されている」から、甲1発明Bは、本件発明2の「有機酸又はその塩添加肉」であって「有機酸又はその塩が、フマル酸及びその塩からなる群より選択される少なくとも1種であり、食肉製品中、有機酸又はその塩の総量が、0.005~0.5質量%である」を満足している。
甲1発明Bの「圧力1000kg/cm2」「の条件で処理」することは、本件発明2の「高圧処理することを含む」、「高圧が、100~1000MPaであり」に相当する。
甲1発明Bの「処理方法」は、本件発明2の「乳酸菌の増殖を抑制する方法」と「処理方法」の限りで一致する。
そうすると、本件発明2と甲1発明Bとは、
「有機酸又はその塩添加肉を高圧処理することを含む、
食肉製品の処理方法であり、
高圧が、100~1000MPaであり、
有機酸又はその塩が、フマル酸及びその塩からなる群より選択される少なくとも1種であり、
食肉製品中、有機酸又はその塩の総量が、0.005~0.5質量%である、方法。」
で一致し、以下の点で相違する。
<相違点1-4B>
処理方法に関し、本件発明2は「乳酸菌の増殖を抑制する」ものであるのに対し、甲1発明Bは、この点を特定しない点
<相違点1-5B>
高圧処理時の温度条件に関し、本件発明2は「4~35℃」であるのに対し、甲1発明Bは「80℃」である点
<相違点1-6B>
高温処理時間に関し、本件発明2は「5分未満」であるのに対し、甲1発明Bは「5分」である点
(イ)判断
事案に鑑み、相違点1-5Bから検討すると、相違点1-5Bは、上記アの相違点1-9Aと同様の相違点であるから、上記アの相違点1-9Aと同様に判断される。
よって、その余の相違点について検討するまでもなく、本件発明2は、甲1発明Bであるとはいえないし、甲1発明Bに基づいて当業者が容易に発明をすることができたものということもできない。
(4)本件発明3について
本件発明3は、請求項1又は請求項2を引用し、本件発明1又は本件発明2の発明特定事項を全て有するものであるから、本件発明1又は本件発明2と同様に、甲1発明A又は甲1発明Bに基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。
(5)むすび
したがって、請求人の無効理由1及び無効理由2-1には理由がない。
2 無効理由2-2(甲2に基づく進歩性)について
(1)甲2に記載された発明等
ア 甲2には、次の記載がある。
(2a)「【特許請求の範囲】
【請求項1】
発色剤を含まない調味剤と共に漬け込みを行った原料肉を加熱し、および、加熱をした原料肉を密閉系内で加圧する、工程を含むことを特徴とする食肉の加工方法。
【請求項2】
前記原料肉が、5~15分間、500MPa~625MPaで加圧される請求項1に記載の方法。
・・・
【請求項7】
ハム、ベーコンまたはソーセージのいずれかの形態である請求項6に記載の食品。」
(2b)「【技術分野】
【0001】
本願発明は、改善された食肉の加工方法およびその加工産物に関する。」
(2c)「【0028】
次に、未包装または包装済の調理肉を、液状媒体を満たした加圧処理ユニット内で加圧処理する。 具体的には、当該技術分野で周知の高圧滅菌装置に包装済調理肉を投入し、閉蓋されて形成された密閉系内で液状媒体(例えば、水)に圧力を加えて、高圧滅菌処理を行う。 本願発明で使用する加圧条件は、最終製品に適度の保存性を与えながら、不快な食味の変化を招かないとの観点から、約500~約625MPa、好ましくは、約600MPa前後の圧力を、約5~約15分間、好ましくは、約5~約10分間にわたって加える。 これはすなわち、圧力が約500MPaに満たないと、満足のゆく殺菌効果や保存性が獲得できず、逆に、約625MPaを超えてしまうと、断熱圧縮作用に起因する密閉系内の温度上昇が顕著になって、一旦加熱した調理肉に改めて熱が加わってしまい、不快な食味の発現を招くなどの理由によるものである。 同様に、加圧時間が5分に満たないと、良好な殺菌効果や保存性の獲得が望めず、逆に、加圧時間が10分を超えてしまうと、製造効率が落ちてしまう上に、前述した断熱圧縮作用に起因する温度上昇を招いて、食味や食感などの最終製品の品質に好ましくない影響が出現してしまう。
【0029】
また、加圧時の密閉系内の温度は、約6~約20℃、好ましくは、約10℃未満の低温領域設定する。 これはすなわち、温度が約6℃に満たないと、加圧処理を終えて減圧する際に、液状媒体(特に、水)が凍結するおそれがあり、逆に、約20℃を超えてしまうと、圧力を増大する過程で加熱調理時の温度レベルにまで密閉系内の温度が上昇してしまい、調理肉のタンパク質変性を招いて、その品質低下を招くおそれがあるなどの理由によるものである。 また、圧力が約625MPaを超えてしまうと、前述した通り、断熱圧縮作用に起因する密閉系内の温度上昇が顕著になって、約20℃という密閉系内の温度上限値の維持管理が困難になってしまうので、密閉系内の温度のみならず、その圧力値にも留意することが肝要である。」
(2d)「【0032】
本明細書で使用する「食肉加工品」の語は、畜肉を原料肉として調製したハム、ベーコン、ソーセージを含むものである。 例えば、食肉加工品として、ロースハム、ボンレスハム、ショルダーハム、骨付ハム、ベリーハム、ラックスハムなどのハム;プレスハム、混合プレスハムなどのプレスハム;ロースベーコン、ショルダーベーコン、ミドルベーコン、サイドベーコンなどのベーコン;それに、ボロニアソーセージ、フランクフルトソーセージ、ウインナーソーセージ、リオナソーセージ、無塩せきソーセージ、セミドライソーセージ、ドライソーセージ、レバーソーセージ、レバーペースト、混合ソーセージ、生ソーセージなどのソーセージ;そして、焼豚、煮豚、蒸し豚、パストラミビーフ、チョップドハムなどがあるが、これらに限定されない。」
イ 甲2に記載された発明
甲2の上記アの記載から、甲2には、以下の発明(以下、「甲2発明」という。)が記載されていると認める。
<甲2発明>
「発色剤を含まない調味剤と共に漬け込みを行った原料肉を加熱し、および、加熱をした原料肉を、密閉系内で5~15分間、500MPa~625MPa、約6~20℃で加圧する、工程を含む食肉の加工方法。」
(2)本件発明1について
ア 対比
本件発明1と甲2発明を対比する。
甲2発明の「食肉の加工方法」は、本件発明1の「食肉製品の製造方法」に相当する。
甲2発明の「密閉系内で」「500MPa~625MPa、約6~20℃で加圧する、工程」は、本件発明1の高圧処理における「100~1000MPaであり、高圧処理時の温度が4~35℃であ」る高圧処理であることの限りで一致する。
そうすると、本件発明1と甲2発明とは、
「肉を高圧処理することを含む、
食肉製品の製造方法であり、
高圧が、100~1000MPaであり、
高圧処理時の温度が4~35℃である、
方法。」
で一致し、以下の点で相違する。
<相違点2-1>
高圧処理時間に関し、本件発明1は「5分未満」であるのに対し、甲2発明は「5~15分間」である点
<相違点2-2>
製造方法に関し、本件発明1は「乳酸菌の増殖が抑制された」ものであるのに対し、甲2発明はこの点を特定しない点
<相違点2-3>
食肉製品に関し、本件発明1は、肉に「有機酸又はその塩」を「添加」し、「有機酸又はその塩が、フマル酸及びその塩からなる群より選択される少なくとも1種であり、食肉製品中、有機酸又はその塩の総量が、0.005~0.5質量%である」のに対し、甲2発明は、「発色剤を含まない調味剤と共に漬け込みを行った原料肉」である点
イ 判断
事案に鑑み、まず、相違点2-2及び2-3について合わせて検討する。
確かに、甲7には、フマル酸抗菌剤について「本発明の抗菌剤の使用に当たつては、例えば食品等に直接添加することなどにより、バシルス属、スタフイロコツカス属などのグラム陽性菌、大腸菌群、サルモネラ属などのグラム陰性菌、サツカロマイセス属、アスペルギルス属などの真菌等の広範囲の微生物の発育を阻止することができる。この際、抗菌剤の最少発育阻止濃度は、添加する対象物質に対して1ppm以上であるが、添加量としては10~8000ppmであることが好ましい。」(第2頁左下欄下から第4行~右下欄第6行)と記載されており、グラム陽性菌に対する抗菌剤としてフマル酸を利用すること、及び、その添加量は、通常1ppm以上であり、10~8000ppm程度であることは周知の事項であるとしても、甲2発明の発色剤を含まない調味剤と共に漬け込みを行った原料肉に対して、多種多様に存在する抗菌剤の中から、フマル酸を総量が、0.005~0.5質量%であるように添加する動機付けはない。
また、請求人の提示する証拠には、フマル酸により乳酸菌の増殖が抑制されたことを示すものはない。
そして、本件発明1は、高圧処理及びフマル酸の添加により食肉製品の乳酸菌の増殖を効率よく抑制できるという格別の効果を奏するものである。
そうすると、相違点2-2及び2-3は、当業者が容易に想到し得たものということはできない。
よって、相違点2-1について検討するまでもなく、本件発明1は、甲2発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。
(3)請求人の主張の検討
ア 請求人の主張
請求人は、上記相違点2-2及び2-3に関し、令和4年12月6日提出の口頭審理陳述要領書において、「甲第14号証には、ソーセージやフランクフルトなどの加工肉製品の抗菌処理において、高圧加工(HPP)が使用されていること(段落【0007】、【0018】)、商用上実用的な圧力を用いながら、短時間高圧処理による微生物の不活性化の有効性及び程度を高めることが望ましいこと(段落【0008】、【0009】)、高圧処理の条件として、圧力は一般に約300から約900MPaであること(段落【0035】、【0036】)、温度は一般に約80℃未満であり、より好ましくは約20℃から約50℃であること(段落【0037】)、高圧加工時間は一般に約1から約20分であり、より典型的な場合は約3から約10分であること(段落【0038】)が記載されています。」(第9頁第7行~第16行)「さらには、甲第14号証に記載の発明は、リステア菌、乳酸桿菌(ラクトバチルス)等に対して効果的であることが記載されています(段落【0044】)。そして、甲2発明と甲第14号証に記載された発明は、いずれも食品の殺菌処理に関するものであるから、甲2発明においても、甲第14号証に記載された発明と同様に、リステア菌や乳酸桿菌等の増殖を抑制するという課題が存在するといえます。してみると、甲2発明において、甲第14号証に記載された発明を参酌して、乳酸菌の増殖を抑制することは当業者が容易に想到し得ることです。」(第11頁第8行~第14行)及び「相違点2-3について検討しますと、高圧処理において、抗菌剤を添加することにより相乗的に抗菌作用が向上することは本願出願日前に広く知られた技術であり(例えば、甲第1号証の特許請求の範囲を参照。)、また、抗菌剤としてフマル酸がグラム陽性菌(乳酸菌)に対して発育を阻止することも本願出願日前に広く知られた技術であることから(例えば、甲第7号証の第2頁左下欄第17行~右下欄第2行参照。)、甲2発明において、高圧処理との相乗作用を期待して、抗菌剤を添加することは当業者が容易になし得ることであり、その際に、抗菌剤としてフマル酸を選択することに格別な困難性もありません。また、本件特許発明の明細書を参酌しても、抗菌剤として、フマル酸を使用することが、他の抗菌剤を使用した場合と比較して特段優れた効果も認められません。」(第11頁第16行~第26行)と主張する。
イ 請求人の主張の検討
甲14には、「本発明の方法は、例えばリステリア菌(Listeria)、クロストリジウム菌(Clostridium)、バチルス菌(Bacillus)、乳酸桿菌(Lactobacillus)、連鎖球菌(Streptococcus)、ブドウ球菌(Staphylococcus)、ペジオコックス菌(Pediococcus)、およびミクロコッカス菌(Micrococcus)のそれぞれの種単独、または組合せを含めた、広く様々な微生物に対して効果的である。」(段落【0044】)と記載されているが、これは、「本発明」の方法、すなわち、甲14の特許請求の範囲の請求項1に記載されている「食品を処理して該食品中に存在する可能性のある微生物を不活性化する方法であって、食用フェノール系化合物を含む組成物で前記食品を処理すること、および前記処理した食品を少なくとも約300MPaの圧力にかけることを含むことを特徴とする方法」が、様々な微生物に対して効果的であることを述べているのであって、様々な微生物が存在するなかで、乳酸菌に特に着目しているものではない。
また、甲1においては、上記1(1)アに記載のように、抗菌剤として所定量のフマル酸を添加することは記載されているが、抗菌剤との記載にとどまり、甲1における抗菌剤が対象とする菌が、乳酸菌であることが記載されているものでもなく、乳酸菌であるという技術常識もない。
さらに、甲7には、「フマル酸を乳化剤により可溶化してなることを特徴とする抗菌剤。」(特許請求の範囲)、「本発明の抗菌剤の使用に当たつては、例えば食品等に直接添加することなどにより、バシルス属、スタフイロコツカス属などのグラム陽性菌、大腸菌群、サルモネラ属などのグラム陰性菌、サツカロマイセス属、アスペルギルス属などの真菌等の広範囲の微生物の発育を阻止することができる。」(第2頁左下欄第17行~右下欄第2行)との記載であり、「グラム陽性菌」との例示までであって、乳酸菌についての言及はない。
一方で、本件特許明細書の実施例及び比較例において、検討2における【表5】T-1bのなにも添加せず、高圧も付与しなかった時の乳酸菌の推移、高圧のみ付与したときの乳酸菌の推移、【表7】T-3bにおいてのフマル酸製剤を0.2質量%付与しただけの乳酸菌の推移とフマル酸製剤を0.2質量%付与すると共に高圧も付与したときの乳酸菌の推移を比較すると、高圧を付与すると共にフマル酸製剤を添加することによる乳酸菌増殖抑制に対しての相乗効果が確認できる。
そうすると、請求人の上記主張はいずれも失当であって採用できない。
(4)本件発明2について
ア 対比
本件発明2と甲2発明を対比する。
甲2発明の「加工方法」は、本件発明2の「乳酸菌の増殖を抑制する方法」と「方法」の限りで一致する。
甲2発明の「密閉系内で」「500MPa~625MPa、約6~20℃で加圧する、工程」は、本件発明2の高圧処理における「100~1000MPaであり、高圧処理時の温度が4~35℃であ」る高圧処理であることの限りで一致する。
そうすると、本件発明2と甲2発明とは、
「肉を高圧処理することを含む、
方法であり、
高圧が、100~1000MPaであり、
高圧処理時の温度が4~35℃である、
方法。」
で一致し、以下の点で相違する。
<相違点2-4>
高圧処理時間に関し、本件発明2は「5分未満」であるのに対し、甲2発明は「5~15分間」である点
<相違点2-5>
方法に関し、本件発明2は「乳酸菌の増殖を抑制する」ものであるのに対し、甲2発明はこの点を特定しない点
<相違点2-6>
食肉製品に関し、本件発明2は、肉に「有機酸又はその塩」を「添加」し、「有機酸又はその塩が、フマル酸及びその塩からなる群より選択される少なくとも1種であり、食肉製品中、有機酸又はその塩の総量が、0.005~0.5質量%である」のに対し、甲2発明は、「発色剤を含まない調味剤と共に漬け込みを行った原料肉」である点
イ 判断
事案に鑑み、まず、相違点2-5及び2-6について検討すると、相違点2-5及び2-6は上記(2)アにおける相違点2-2及び2-3と同様の相違点であるから、上記(2)イと同様に判断される。
よって、相違点2-4について検討するまでもなく、本件発明2は、甲2発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。
(5)本件発明3について
本件発明3は、請求項1又は請求項2を引用し、本件発明1又は本件発明2の発明特定事項を全て有するものであるから、本件発明1又は本件発明2と同様に、甲2発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。
(6)むすび
したがって、請求人の無効理由2-2には理由がない。
3 無効理由3(明確性要件)について
(1)明確性要件の判断基準
特許を受けようとする発明が明確であるか否かは、特許請求の範囲の記載だけではなく、願書に添付した明細書の記載及び図面を考慮し、また、当業者の出願時における技術常識を基礎として、特許請求の範囲の記載が、第三者の利益が不当に害されるほどに不明確であるか否かという観点から判断されるべきである。
そこで、検討する。
(2)明確性要件の判断
本件特許の特許請求の範囲の請求項1ないし3の記載は、上記第4のとおりである。
そして、本件特許の請求項1及び2の「高圧処理時間が5分未満」とは、特許請求の範囲の「高圧が、100~1000MPaであり、高圧処理温度が4~35℃であ」る高圧処理を行っている時間が5分未満であることはその記載から明らかであり、何ら不明確な記載はない。
したがって、本件発明1ないし3に関して、特許請求の範囲の記載が、第三者の利益が不当に害されるほどに不明確であるとはいえない。
(3)請求人の主張の検討
ア 請求人の主張
令和4年9月6日提出の審判事件弁駁書において、請求人は、「令和4年7月28日付け訂正請求書により、請求項1及び2に、「高圧処理時間が5分未満であり」という発明特定事項が追加された。しかしながら、「高圧処理時間」の定義が本件特許明細書に記載されていないことから、「高圧処理時間」がどのような時間を示すのか判然としない。高圧処理を行う場合には、所定の温度や圧力に上昇するまでに時間を要することは技術常識である。ここで、「高温処理時間」(当審注:「高圧処理時間」の誤記)とは、所定の温度や圧力に到達した後の時間を意味しているのか、「100~1000MPaかつ4~35℃」の状態における合計時間を意味するのか、明確ではない。」(第6頁第5行~第12行)と主張する。
また、令和4年12月6日提出の口頭審理陳述要領書において、「審判官殿のご認識とおりです。以下、補足しますと、本件特許訂正後の請求項1、2には「高圧が、100~1000MPaであり、高圧処理時の温度が4~35℃であり、高圧処理時間が5分未満であり、」と記載されています。この文言をそのまま解釈すれば、「100~1000MPa、4~35℃」となった状態が5分未満であるといえます。一方、本件特許明細書の実施例では、「菌を接種した製品及び菌未接種の製品を、600MPa、10℃、3分間の設定で高圧処理した。」(段落【0029】)と記載されています。この実施例の記載では、加圧や温度調整の過程において、100MPa以上かつ4℃以上となった時間が不明であるから、実質的には5分以上となる可能性があります。」(第2頁第15行~第24行)と主張する。
なお、上記請求人の主張においての「審判官のご認識とおり」とは、審理事項通知において、審判合議体からの「請求人は、令和4年9月6日提出の審判事件弁駁書において、明確性要件の無効理由を主張していますが、当該主張は、請求項1及び2の「高圧処理時間が5分未満」との記載において、「高圧処理時間」が、所定の温度及び圧力に到達した後の時間を意味しているのか、所定の温度に到達する前に「100~1000MPaかつ4~35℃」の状態になっていれば、「100~1000MPaかつ4~35℃」の範囲に包含されるすべての時間を意味しているのか、明確でないということでよろしいでしょうか。」に対する回答である。
イ 請求人の主張の検討
明確性の判断については、上記(2)での判断のとおりであり、この点は、請求人も上記口頭審理陳述要領書において「この文言をそのまま解釈すれば、「100~1000MPa、4~35℃」となった状態が5分未満であるといえます。」と、この判断を支持しているともいえる。
そして、後段の主張は、明確性の判断には無関係な主張であって採用できない。
4 無効理由4(サポート要件)について
(1)サポート要件の判断基準
特許請求の範囲の記載がサポート要件に適合するか否かは、特許請求の範囲の記載と発明の詳細な説明の記載とを対比し、特許請求の範囲に記載された発明が、発明の詳細な説明に記載された発明で、発明の詳細な説明の記載により当業者が当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否か、また、その記載や示唆がなくとも当業者が出願時の技術常識に照らし当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否かを検討して判断すべきものである。
そこで、検討する。
(2)サポート要件の判断
本件特許の特許請求の範囲の記載は上記第4のとおりである。
また、本件特許の発明の詳細な説明の【0002】ないし【0004】によると、本件発明の解決しようとする課題(以下、「発明の課題」という。)は「簡便且つ高効率な食肉製品における乳酸菌増殖抑制方法を見いだす」ことである。
そして、本件特許の発明の詳細な説明の【0005】ないし【0021】には、本件発明の各発明特定事項に対応する記載があり、また、同じく【0022】ないし【0048】には、実施例及び比較例が記載されている。
そうすると、当業者は、「有機酸又はその塩添加肉を高圧処理する」ことで、発明の課題を解決できると認識できる。
そして、本件発明は、上記発明の課題を解決できると認識できる「有機酸又はその塩」である「フマル酸」を所定量添加し、所定の「高圧処理」をしたものである。
したがって、本件発明は発明の詳細な説明に記載された発明で、発明の詳細な説明の記載により当業者が当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるといえる。
よって、本件発明に関して、特許請求の範囲の記載はサポート要件に適合する。
(3)請求人の主張の検討
ア 請求人の主張
令和4年9月6日提出の審判事件弁駁書において、請求人は、「令和4年7月28日付け訂正請求書により、請求項1及び2に、「高圧処理時間が5分未満であり」という発明特定事項が追加された。しかしながら、「高圧処理時間」の下限値が設定されていないことから、例えば、高圧処理時間が1秒間の場合も含んでいる。そして、高圧処理時間が不十分であれば、殺菌作用が低下することは例示するまでもなく技術常識である。ここで、本願明細書の実施例を参酌すると、高圧処理の条件が「600MPa、10℃、3分間」の場合の効果が確認されているに過ぎず、高圧処理時間が「3分間未満」の場合、例えば1秒間の場合であっても本願発明の効果を奏するとは認められない。」(第6頁第14行~第21行)と主張する。
イ 請求人の主張の検討
上記(2)での検討のとおり、当業者は、本件発明1又は2は、発明の課題を解決できると理解するので、高圧処理時間の下限が設定されていないことは、サポート要件の判断に関係がない。
なお、本件発明1は、「乳酸菌の増殖が抑制された食肉製品の製造方法」であるから、乳酸菌の増殖が抑制されていないものは本件発明1に包含されないし、本件発明2は「食肉製品における乳酸菌の増殖を抑制する方法」であるから、乳酸菌の増殖が抑制されない方法は本件発明2に包含されない。
また、処理時間が1秒であったとしても、処理されないものと比較すれば、乳酸菌の増殖が抑制されると当業者は理解するから、請求人の主張は失当である。
第8 結語
以上のとおり、無効理由1、無効理由2-1及び2-2、無効理由3並びに無効理由4は何れも理由がなく、請求人の主張及び証拠方法によっては、本件発明1ないし3についての特許を無効とすることはできない。
審判に関する費用については、特許法第169条第2項の規定で準用する民事訴訟法第61条の規定により、請求人の負担とすべきものとする。
よって、結論のとおり審決する。
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2022-800018