特許無効審判
2015-800005
乾麺およびその製造方法
- 審判番号
- 2015-800005
- 法域
- 特許
- 審判種別
- 無効審判(無効の審決)
- 出願番号
- 特願2012-522717
- 登録番号
- 特許第5153964号(P5153964)
- 請求日
- 2015年01月05日
- 審決日
- 2016年12月07日
- 公報発行日
- 2018年09月28日
- 結論
- 請求不成立
- 当事者
- 【請求人】日清食品ホールディングス 株式会社
- 【請求人代理人】辻丸 光一郎
- 【請求人代理人】松縄 正登
- 【請求人代理人】中山 ゆみ
- 【請求人代理人】伊佐治 創
- 【請求人代理人】南野 研人
- 【被請求人】東洋水産 株式会社
- 【被請求人代理人】蔵田 昌俊
- 【被請求人代理人】峰 隆司
- 【被請求人代理人】河野 直樹
- 【被請求人代理人】鵜飼 健
- 【被請求人代理人】堀内 美保子
- 審判長/審判官
- 審判長 鳥居 稔
- 審判官 千壽 哲郎
- 審判官 佐々木 正章
- 分類
- P1113.113-ZE (A23L) / P1113.121-ZE (A23L) / P1113.537-ZE (A23L) / P1113.4 -ZE (A23L)
- 条文(本文から自動抽出・参考)
- 特許法第29条、特許法第36条、特許法第123条、特許法第134条の2第9項、特許法第39条、特許法第134条の2第1項、特許法第126条、特許法第131条の2第2項、特許法第169条
- データ出所
- 審決公報(SGML)
事件の表示
上記当事者間の特許第5153964号発明「乾麺およびその製造方法」の特許無効審判事件について、次のとおり審決する。
結論
【結 論】
特許第5153964号の請求項1に係る発明についての特許を無効とする。
特許第5153964号の請求項2ないし10に係る発明についての審判請求は、成り立たない。
審判費用は、その10分の9を請求人の負担とし、10分の1を被請求人の負担とする。
理由
【理 由】
第1 手続の経緯
本件無効審判の請求に係る特許第5153946号(以下「本件特許」という。)の手続の経緯の概要は、以下のとおりである。
平成22年 7月 1日 優先権主張基礎出願
(特願2010-151360号)
平成23年 7月 1日 国際出願
(PCT/JP2011/065199)
(特願2012-522717号)
平成24年12月14日 設定登録(特許第5153964号)
平成26年12月26日 本件無効審判請求
平成27年 4月27日 答弁書
同年 5月28日 手続補正書(方式)(被請求人)
同年10月 6日 審理事項通知書
同年10月23日 口頭審理陳述要領書(請求人)
同年11月16日 口頭審理陳述要領書(被請求人)
同年11月30日 第1回口頭審理
同年12月14日 上申書(請求人)
同年12月28日 上申書(被請求人)
平成28年 5月16日 審決の予告
同年 7月25日 訂正請求書、訂正明細書、訂正特許請求の範囲
同年 7月25日 上申書(被請求人)
同年 8月31日 弁駁書
同年10月21日 答弁書
以下、本審決において、記載箇所を行により特定する場合、行数は空行を含まない。また、「・・・」は記載の省略を意味し、証拠は、例えば甲第1号証を甲1のように略記する。丸数字は、例えば「○1」のように表記する。
第2 訂正の請求について
1 訂正の内容
平成28年7月25日付け訂正請求書による訂正は、「特許第5153964号の明細書、特許請求の範囲を、本件請求書に添付した訂正明細書、特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項1について訂正する」ことを求めるものであり、その訂正(以下「本件訂正」という。)の内容は、本件特許に係る願書に添付した明細書及び特許請求の範囲を、次のように訂正しようとするものである(下線は、訂正箇所を示す)。
(1) 訂正事項1
特許請求の範囲の請求項1の「麺の断面積の空隙率が0.1%以上15%以下であり、麺の断面積の単位空隙率が0.01%以上1%以下であり、30%~75%の糊化度と多孔質構造とを有した乾麺。」と記載されているのを、「麺の断面積の空隙率が0.1%以上5.92%以下であり、麺の断面積の単位空隙率が0.01%以上0.28%以下であり、30%~75%の糊化度と多孔質構造とを有し、油脂を麺の断面全体に含み、主原料はトウモロコシ粉ではない乾麺。」に訂正する。
(2) 訂正事項2
願書に添付した明細書の段落【0004】に記載された「(1)麺の断面積の空隙率が0.1%以上15%以下であり、麺の断面積の単位空隙率が0.01%以上1%以下であり、30%~75%の糊化度と多孔質構造とを有した乾麺;」を「麺の断面積の空隙率が0.1%以上5.92%以下であり、麺の断面積の単位空隙率が0.01%以上0.28%以下であり、30%~75%の糊化度と多孔質構造とを有し、油脂を麺の断面全体に含み、主原料はトウモロコシ粉ではない乾麺;」に訂正する。
(3) 訂正事項3
願書に添付した明細書の段落【0007】に記載された「本発明の1態様に従う乾麺は、麺の断面積の空隙率が0.1%以上15%以下であり、麺の断面積の単位空隙率が0.01%以上1%以下であり、30%~75%の糊化度と多孔質構造とを有する。」を「本発明の1態様に従う乾麺は、麺の断面積の空隙率が0.1%以上5.92%以下であり、麺の断面積の単位空隙率が0.01%以上0.28%以下であり、30%~75%の糊化度と多孔質構造とを有し、油脂を麺の断面全体に含み、主原料はトウモロコシ粉ではない乾麺である。」と訂正する。
(4) 訂正事項4
願書に添付した明細書の段落【0009】に記載された「当該乾麺において空隙率は、麺を何れの位置で切断した場合でも0.1%以上15%以下である。」を「当該乾麺において空隙率は、麺を何れの位置で切断した場合でも0.1%以上5.92%以下である。」に訂正し、同時に同段落の【数1】における「0.1≦P≦15%」を「0.1≦P≦5.92%」に訂正する。
(5) 訂正事項5
願書に添付した明細書の段落【0010】に記載された「当該乾麺において単位空隙率は、麺を何れの位置で切断した場合でも0.01%以上1%以下である。」を「当該乾麺において単位空隙率は、麺を何れの位置で切断した場合でも0.01%以上0.28%以下である。」に訂正し、同時に同段落の【数2】における「0.01%≦M≦1%」を「0.01%≦M≦0.28%」に訂正する。
2 訂正の適否
(1) 訂正事項1について
ア 訂正の目的について
訂正後の請求項1は、「麺の断面積の空隙率」の数値範囲について、訂正前の「0.1%以上15%以下」から訂正後の「0.1%以上5.92%以下」へと、その範囲を狭めるものであり、かつ、「麺の断面積の単位空隙率」の数値範囲についても、訂正前の「0.01%以上1%以下」から訂正後の「0.01%以上0.28%以下」へと、その範囲を狭めるものである。
また、訂正事項1は、「乾麺」について、「油脂を麺の断面全体に含み」との特定により、乾麺の性状を限定するものである。
さらに、訂正事項1は、「乾麺」について、「主原料はトウモロコシ粉ではない」との特定により、乾麺の主原料を限定するものである。
よって、訂正事項1は、特許法134条の2第1項ただし書き第1号に規定する「特許請求の範囲の減縮」を目的とするものに該当する。
イ 願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の訂正であることについて
(ア) 「麺の断面積の空隙率が0.1以上5.92%以下であり、麺の断面積の単位空隙率が0.01以上0.28%以下」とした点について
訂正事項1において、麺の断面積の空隙率及び単位空隙率の数値範囲の上限範囲の特定は、訂正請求書では本件特許明細書【0072】の【表1】の実施例12における「粉末油脂0.6%及び乾燥温度130℃」の場合の「空隙率(%)10例の平均」の欄の「5.92」及び「単位空隙率(%)10例の平均」の欄の「0.28」という数値に基づくものとしている。しかし、当該数値は、本件特許明細書に「ここで、「空隙率」において「10例の平均」の欄は、10の断面についてそれぞれ空隙率を求めて、それらの値から得た平均値を示した。」(【0073】)、「「単位空隙率」において「10例の平均」の欄は、10の断面についてそれぞれ単位空隙率を求めて、それらの値から得た平均値を示した。」(【0074】)と記載されるとおり、上記実施例の乾麺の10の断面についての測定値の平均値にすぎない。そして、上記【表1】にあるとおり、上記実施例の乾麺は、その10の断面の測定値が、「空隙率」について最小値4.22%、最大値9.85%の範囲のものであり、かつ、「単位空隙率」について最小値0.17%、最大値0.93%の範囲のものである。
ここで、訂正事項1に合わせてされた訂正事項4及び5において、「当該乾麺において空隙率は、麺を何れの位置で切断した場合でも0.1%以上5.92%以下である。」(【0009】)、「当該乾麺において単位空隙率は、麺を何れの位置で切断した場合でも0.01%以上0.28%以下である。」【0010】)という訂正がされたものであることも踏まえると(下線は当審が付与。)、上記【表1】の実施例12における「粉末油脂0.6%及び乾燥温度130℃」とした実施例は、訂正事項1の「麺の断面積の空隙率が、0.1%以上5.92%以下であり、麺の断面積の単位空隙率が0.01%以上0.28%以下」という範囲を逸脱するものであって、訂正事項1を裏づける実施例であるとすることはできない。
また、上記【表1】の実施例12における他の実施例についてみても、(a)「粉末油脂配合率0.6%、乾燥温度90℃」とした実施例の10の断面は、空隙率0.26~1.64%、単位空隙率0.08~0.33%の範囲であり、(b)「粉末油脂5%、乾燥温度130℃」とした実施例の10の断面は、空隙率2.00~5.05%、単位空隙率0.09~0.34%の範囲であり、(c)「粉末油脂5%、乾燥温度90℃」とした実施例の10の断面は、空隙率0.42~3.86%、単位空隙率0.06~0.64%の範囲であり、いずれも訂正事項1の「麺の断面積の空隙率が、0.1%以上5.92%以下であり、麺の断面積の単位空隙率が0.01%以上0.28%以下」という範囲を逸脱するものであって、訂正事項1を裏づける実施例であるとすることはできない。
また、他に訂正事項1を裏づける記載は本件特許明細書中には見当たらない。
よって、訂正事項1における「麺の断面積の空隙率0.1以上5.92%以下であり、麺の断面積の単位空隙率が0.01以上0.28%以下」とした点は、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内のおいてしたものとは認められない。
(イ) 「乾麺」が「油脂を麺の断面全体に含」むものであるとした点について
「乾麺」が「油脂を麺の断面全体に含」むものであるとの特定に関して、本件特許明細書には直接的な記載はない。ただし、「粉末油脂」について、以下の記載がある。
「【0042】
<製造例>
(実施例1)
主原料としての小麦粉1000gと、最大で分布する粒子の平均粒径が150μm~250μmの球状の粉末油脂20g(小麦粉に対して2%)とをミキサーに投入した。300g(小麦粉に対して30%)の水を別に用意し、これに食塩20g、かんすい5gを加えて撹拌溶解した後に、前記ミキサー内に投入し、混練して麺生地とした。次いで、前記麺生地を常法に従ってロール圧延して1.20mmの厚さとし、20番角刃で切り出して幅1.5mmの生麺線とした。
【0043】
この生麺線を定量にカットし、リテーナーに収納して温度130℃、風速10m/s、5分間、熱風乾燥して実施例1の乾麺を得た。製造例において記載する温度は、何れも乾燥用の庫内温度として設定された温度である。
【0044】
得られた実施例1の乾麺の糊化度は71.7%であった。実施例1の乾麺の断面の拡大図を図1aに示す。当該断面は、その全面に渡り複数の小さい空胞が存在する多孔質構造をしていた(図1a)。」
上記「主原料としての小麦粉1000gと、・・・粉末油脂20g・・・とをミキサーに投入した。300g・・・の水を別に用意し、これに食塩20g、かんすい5gを加えて撹拌溶解した後に、前記ミキサー内に投入し、混練して麺生地とした。」という記載によれば、粉末油脂は小麦粉等との混練により麺生地全体に均質に分散することまでは当業者にとって自明な事項であると理解できる。しかしながら、その後の「温度130℃、風速10m/s、5分間、熱風乾燥」工程を経て得られた乾麺については、糊化度71.7%、断面全面に渡り複数の小さい空胞が存在する多孔質構造であることが記載されるのみであって、麺生地中の粉末油脂が上記乾燥工程にどのような状態となり、最終的に乾麺となった状態において、その断面に油脂がどのような状態で存在しているかは何ら明らかにされていない。そして、最終的に乾麺となった状態において、油脂を麺の断面全体に含むものとなることが、当業者にとって自明な事項であるとはいえない。
そうすると、上記記載は、主原料に対して粉末油脂を必要量含ませた上で、所要の乾燥工程を行うことにより、所望の糊化度の多孔質構造の乾麺が得られることを示すに留まり、粉末油脂由来の油脂を乾麺の断面にどのように存在させるかという点についてまで明らかにするものではなく、乾麺の断面全体に油脂を含むようにするという技術的思想を開示するものとはいえない。
よって、上記記載は、「乾麺」が「油脂を麺の断面全体に含」むものであるとした点を裏づけるものとはいえない。
また、他に、「乾麺」が「油脂を麺の断面全体に含」むものであるとした点を裏づける記載は本件特許明細書中には見当たらない。
よって、訂正事項1における「乾麺」が「油脂を麺の断面全体に含」むものであるとした点は、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内においてしたものとは認められない。
ウ 小括
以上のとおり、訂正事項1は、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内においてしたものとは認められず、特許法134条の2第9項で準用する特許法126条5項に適合しない。
(2) 訂正事項2~5について
ア 訂正の目的について
訂正事項2~5は、訂正事項1に係る訂正に伴って、特許請求の範囲の記載と発明の詳細な説明の記載との整合を図るための訂正であるから、特許法134条の2第1項ただし書き第3号に規定する「明瞭でない記載の釈明」を目的とするものに該当する。
イ 願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の訂正であることについて
上記「(1)イ」に示したとおり、訂正事項1に係る「麺の断面積の空隙率が0.1以上5.92%以下であり、麺の断面積の単位空隙率が0.01以上0.28%以下」とした点、及び、「乾麺」が「油脂を麺の断面全体に含」むものであるとした点は、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内においてしたものとは認められない。
よって、訂正事項1との整合を図るものである訂正事項2~5についても、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内においてしたものとは認められない。
ウ 小括
以上のとおり、訂正事項2~5は、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内においてしたものとは認められず、特許法134条の2第9項で準用する特許法126条5項に適合しない。
(3) 被請求人の主張について
ア 被請求人は、「本件訂正事項における「麺の断面積の空隙率が、0.1%以上5.92%以下であり、麺の断面積の単位空隙率が0.01%以上0.28%以下」との空隙率、単位空隙率の数値は、10の断面についての空隙率、単位空隙率の平均値であり、この点は、前記実施例12に裏付けられている。」(平成28年10月21日付け答弁書3頁29~32行)と主張する。
しかし、請求項1中には、「空隙率」及び「単位空隙率」が、それぞれ「10の断面についての平均値」である旨の特定はなく、本件特許明細書中の記載を参酌しても、「「空隙率」とは、麺を長手方向と直交する方向で切断したときの断面積に占める全空隙面積の割合である。以下の式により表すことができる。この空隙率は、「1本の麺の1つの断面における面積、即ち、断面積」に対する、「前記1つの断面に存在する全ての空隙の面積を足し合わせた面積」の割合である。」(【0009】)、「空隙率(P)=全空隙面積(mm2)/断面積(mm2)×100」(【数1】)、「ここで「単位空隙率」とは、麺を長手方向と直交する方向で切断したときの断面積に占める1つの空隙の面積の割合である。「単位空隙率」は、「1本の麺の1つの断面における面積、即ち、断面積」に対する、最小単位としての「1つの空隙の面積」の割合である。」(【0010】)、「単位空隙率(M)=(全空隙面積(mm2)/空隙個数)/断面積(mm2)×100」(【数2】)とされるものであって、「10の断面についての平均値」と解する余地はない。
そして、本件特許明細書の実施例12における4つの実施例(【0072】【表1】)が、いずれも訂正事項1の「麺の断面積の空隙率が0.1%以上5.92%以下であり、麺の断面積の単位空隙率が0.01%以上0.28%以下」という範囲を逸脱するものであって、訂正事項1を裏づける実施例であるとすることはできないことは、上記「(1)イ(ア)」に述べたとおりである。
よって、被請求人の上記主張は、失当である。
イ また、被請求人は、「「油脂を麺の断面全体に含み」とは、油脂が麺の表面のみに存在する場合を除外するために記載した事項であり、油脂が断面全体にもれなく存在することを意味するわけではない。すなわち、油脂が麺の断面全体に「点在する」ことを意味するものである。この点は、本件特許明細書に記載の本件発明1の乾麺の製造法から、当業者であれば当然に理解することであり、訂正後の「油脂を麺の断面全体に含み」とはそのような意味であると解すると考えられる。
なお、仮に、訂正後の請求項1の油脂が「油脂を麺の断面全体に含み」との記載が、油脂が断面全体にもれなく存在することを意味すると解された場合には、熱風乾燥により粉末油脂が融解すると、その流動性のため油脂は麺の断面全体に浸透するから、その濃度の差は別として、油脂が「麺の断面全体に含まれる」状態となることを予備的に主張する。
したがって、油脂が麺の断面全体に含まれることの本件訂正による限定は、・・・願書に添付した明細書、特許請求の範囲及び図面に記載した事項の範囲内のものである。」(平成28年10月21日付け答弁書4頁最終行~5頁12行)と主張する。
しかし、上記「(1)イ(イ)」に述べたとおり、本件特許明細書(【0042】~【0044】)には、麺生地中の粉末油脂が乾燥工程を経て最終的に乾麺となった状態において、その断面に油脂がどのような状態で存在しているかは何ら明らかにされておらず、最終的に乾麺となった状態において、油脂を麺の断面全体に含むものとなることが、当業者にとって自明な事項ともいえず、結局、本件特許明細書には、乾麺の断面全体に油脂を含むようにするという技術的思想が開示されているとはいえない以上、「油脂を麺の断面全体に含み」という文言が、被請求人の主張するように「油脂が麺の断面全体に点在すること」又は「油脂が断面全体にもれなく存在すること」のいずれかを意味するものであるとしても、訂正事項1において「乾麺」が「油脂を麺の断面全体に含」むものであるとした点は、本件特許明細書の記載に裏づけられたものとはいえない。
よって、被請求人の上記主張は、失当である。
3 まとめ
以上のとおり、本件訂正は、特許法134条の2第9項の規定によって準用する同法126条5項の規定に適合しないから、本件訂正は認められない。
第3 本件特許に係る発明
上記のとおり本件訂正は認められなかったので、本件特許の請求項1~10に係る発明(以下「本件発明1~10」という。)は、本件特許明細書の特許請求の範囲の請求項1~10に記載された次のとおりのものである。
「【請求項1】
麺の断面積の空隙率が0.1%以上15%以下であり、麺の断面積の単位空隙率が0.01%以上1%以下であり、30%~75%の糊化度と多孔質構造とを有した乾麺。
【請求項2】
主原料と、前記主原料の総重量に対して0.5重量%よりも大きく6重量%未満の100%油由来の粉末油脂とを含む麺生地から形成した生麺体を90℃~150℃で発泡化および乾燥することを具備し、最終糊化度が30%~75%の糊化度を有する乾麺の製造方法。
【請求項3】
前記発泡化および乾燥することが、90℃~130℃で行われることを特徴とする請求項2に記載の乾麺の製造方法。
【請求項4】
前記発泡化および乾燥することが、120℃~150℃の第1の処理と、それに続く50℃~120℃での第2の処理により行われることを特徴とする請求項2に記載の乾麺の製造方法。
【請求項5】
前記生麺体が生麺線であり、前記発泡化および乾燥することが3分~20分間行われることを特徴とする請求項2~4の何れか1項に記載の乾麺の製造方法。
【請求項6】
前記粉末油脂の添加量が主原料の総重量に対して0.75重量%~5重量%である請求項2~5の何れか1項に記載の乾麺の製造方法。
【請求項7】
請求項2~6の何れか1項に記載の製造方法により得られた乾麺。
【請求項8】
主原料と、前記主原料の総重量に対して0.5重量%よりも大きく6重量%未満の100%油由来の粉末油脂とを含む麺生地から形成した生麺体を90℃~150℃で発泡化および乾燥することを具備し、麺の断面積の空隙率が0.1%以上15%以下であり、麺の断面積の単位空隙率が0.01%以上1%以下であり、30%~75%の糊化度と多孔質構造とを有した乾麺を得ることを特徴とする乾麺の製造方法。
【請求項9】
前記生麺体が生麺線であり、前記発泡化および乾燥することが3分~20分間行われることを特徴とする請求項8に記載の乾麺の製造方法。
【請求項10】
前記粉末油脂の添加量が主原料の総量に対して0.75重量%~5重量%である請求項8または9に記載の乾麺の製造方法。」
第4 請求人の主張及び証拠方法
請求人は、「特許第5153964号の特許請求の範囲の請求項1ないし10に記載された発明についての特許を無効とする。審判費用は披請求人の負担とする。」との審決を求め、以下の証拠方法及び参考資料を提出し、次の無効理由を主張する。
1 無効理由
(1) 無効理由1[特許法29条1項3号]
ア 本件発明1及び本件発明7
本件発明1及び本件発明7は、甲25に示すように、甲1~甲4に記載された発明であるから、特許法29条1項3号により特許を受けることができないものであり、その特許は同法123条1項2号に該当し、無効とすべきである。
(2) 無効理由2[特許法29条2項]
ア 本件発明1
本件発明1は、多孔質構造の制御に係る常套手段(甲1~甲9、甲19、甲23、甲24)を考慮すると、糊化度に係る甲10~甲13に記載された各発明並びに空隙率及び単位空隙率に係る甲14~甲18に記載された各発明に基いて容易に発明をすることができたものといえる(以下「無効理由2-ア-1」という。)。
また、本件発明1は、高温乾燥による部分糊化に係る周知技術(甲11)を考慮すると、生麺を高温熱風乾燥する甲1~甲3に記載された各発明に基いて容易に発明をすることができたものといえる(以下「「無効理由2-ア-2」という。)。
よって、本件発明1は、特許法29条2項の規定により特許を受けることができないものであり、その特許は同法123条1項2号に該当し、無効とすべきである。
イ 本件発明2
イ-1(甲1を主引例)
本件発明2は、高温熱風乾燥における「ひびわれ、過発泡」という周知課題(甲19、甲23)、粉末油脂による麺線割れ防止効果(甲19)、粉末油脂の使用に係る周知技術(甲4、甲19~甲21)及び糊化度に係る周知技術(甲10~甲13)を考慮すると、甲1に記載された発明に粉末油脂を使用した乾麺の製造に係る周知技術(甲4)を組み合わせることにより容易に発明をすることができたものといえる(以下「無効理由2-イ-1」という。)。
イ-2(甲4を主引例)
本件発明2は、糊化度に係る周知技術(甲10~甲13)を考慮すると、甲4に記載された発明に高温熱風乾燥による乾麺の製造に係る周知技術(甲1~甲3)を組み合わせることにより容易に発明をすることができたものといえる(以下「無効理由2-イ-2」という。)。
イ-3(甲19を主引例)
本件発明2は、高温熱風乾燥の対象物として生麺を採用するか蒸麺を採用するかは選択事項であることに係る周知技術(甲1、甲22、甲23)、生麺における粉末油脂の過発泡抑制効果に係る周知技術(甲19、甲23、甲24)及び糊化度に係る周知技術(甲10~甲13)を考慮すると、甲19に記載された発明において蒸煮工程を行わない生麺を選択することにより容易に発明をすることができたものといえる(以下「無効理由2-イ-3」という。)。
よって、本件発明2は、特許法29条2項の規定により特許を受けることができないものであり、その特許は同法123条1項2号に該当し、無効とすべきである。
ウ 本件発明3
90℃~130℃で熱風乾燥することに格別の効果はなく、その温度範囲は甲1、甲2及び甲19に記載され、当業者にとって単なる設計事項であることから、本件発明3は、本件発明2の甲1、甲4及び甲19を主引例とした場合と同様の理由により無効とすべきである。
エ 本件発明4
甲3には、本件発明4と同様の二段階乾燥が記載されており、かつ、甲3の温度範囲は、甲4と重複することから、甲34、甲35に記載されているように生麺、蒸煮麺に関わらず、高温熱風乾燥の後のひび割れを防止する技術として高温乾燥処理を施した後に50~100℃で第二処理を行うことが周知技術であることを考慮すれば、本件発明4は、本件発明2の甲4を主引例とした場合と同様の理由により無効とすべきである。
オ 本件発明5
本件発明5の乾燥時間については、甲2及び甲19に記載されており、当業者にとって単なる設計事項にすぎないことから、本件発明5は、本件発明2の甲4及び甲19を主引例とした場合と同様の理由により無効とすべきである。
カ 本件発明6
甲4、甲19~甲21に記載されているように麺に粉末油脂を使用することは周知技術であり、粉末油脂の使用量は、甲4、甲19、甲20に記載されている一般的な範囲であり、当業者にとって単なる設計事項にすぎないことから、本件発明6は、本件発明2の甲1、甲4及び甲19を主引例とした場合と同様の理由により無効とすべきである。
キ 本件発明7
本件発明1の乾麺は本件発明2の方法により製造できることから、本件発明7は、本件発明1と同様の理由により無効とすべきである。
ク 本件発明8~本件発明10
本件発明1の乾麺は本件発明2の方法により製造できることから、本件発明8は、本件発明2と同様の理由により無効とすべきである。また、本件発明9は本件発明5と、本件発明10は本件発明6と同様の理由により無効とすべきである。
(3) 無効理由3[特許法36条6項1号]
ア 本件発明1及び本件発明7
本件発明1及び本件発明7は、独自のパラメ-タを規定することによって本件発明2によって得られるものを表現したにすぎず、本件発明2以外の方法で本件発明1及び本件発明7が得られると記載する文献はないが、甲25で示すように甲1~甲4の公知技術によっても得られるものであり、公知技術並びに公知技術によって当然得られうるものまでも技術的範囲とする点で、本件特許明細書の記載の範囲を超えたものであり、特許法36条6項1号に規定する要件を満たしていないものであるから、特許法123条1項4号に該当し、無効とすべきである。
イ 本件発明2~本件発明6、及び本件発明8~本件発明10
本件発明2、本件発明4~本件発明6、及び本件発明8~本件発明10は、比較例15~20の記載からすると効果のない比較例をも技術的範囲に含む点で、本件特許明細書の範囲の記載を超えたものであり、特許法36条6項1号に規定する要件を満たしていないものであるから、特許法123条1項4号に該当し、無効とすべきである。
また、本件発明2~本件発明6、及び本件発明8~本件発明10は、甲29及び本件特許明細書の記載態様に基づくと、本件特許明細書においては蒸煮工程を除外している一方で、本件特許の孫特許にあたる甲27の記載によれば、「生麺体」が文言上蒸煮工程を含む点で、本件特許明細書の範囲の記載を超えたものであり、特許法36条6項1号に規定する要件を満たしていないものであるから、特許法123条1項4号に該当し、無効とすべきである。
(4) 無効理由4[特許法39条1項]
本件発明2及び本件発明8は、本件発明1の先願である甲30の請求項1と同一の発明であるから、特許法39条1項の規定に違反して特許されたものであり、その特許は同法123条1項2号に該当し、無効とすべきである。
(5) なお、平成27年10月23日付け口頭審理陳述要領書において、請求人が請求の理由の補正として許可を求めた下記の無効理由5及び6は、特許法第131条の2第2項の規定に基づき許可しないものとされた。
ア 無効理由5[特許法36条6項2号]
本件発明7は、PBPクレームであって、不明確である(口頭審理陳述要領書10~11、27頁、理由の要点(3)○1)。
イ 無効理由6[特許法36条4項1号]
本件発明の特許請求の範囲を確定する空隙率・単位空隙率の分析方法及び糊化度の分析法は不明確であり、実施可能要件違反である(口頭審理陳述要領書36~37頁)。
2 証拠方法
審判請求書に添付して甲1~甲31、口頭審理陳述要領書に添付して甲25の3並びに甲32~甲46、上申書に添付して参考資料1~8が提出された。
甲1:特公昭54-44731号公報
甲2:特公昭48-5027号公報
甲3:特開昭52-128251号公報
甲4:特開昭59-63152号公報
甲5:明星食品ホームページ(http://www.myojyofoods.co.jp/index2.html、2004年6月28日更新)
甲6:特開平11-196799号公報
甲7:特開2003-102413号公報
甲8:特開平10-117715号公報
甲9:国際公開2010/055860号
甲10:特開昭62-158467号公報
甲11:特公昭52-45776号公報
甲12:特開昭60-105466号公報
甲13:特公昭56-39614号公報
甲14:「手延べうどんの製造法に関する研究(1)」、研究報告=Report of the Food Research Institue and the Fermentation & Food Experimental Station,Kawaga Prefectural Government 88号、p.32-34、1996年11月発行
甲15:日本食品科学工学会誌、第53巻、第2号、p.91-95、2006年2月発行
甲16:日本食品科学工学会誌、第49巻、第8号、p.547-550、2002年8月発行
甲17:「乾めんの電子顕微鏡による断面観察」、秋田県総合食品研究所報告書、p.58-60、2003年発行
甲18:特開2007-49952号公報
甲19:特開2006-122020号公報
甲20:特開2000-93106号公報
甲21:特開2000-32935号公報
甲22:「日本が生んだ世界食!インスタントラーメンのすべて」、株式会社日本食糧新聞社、平成16年12月20日初版発行
甲23:特開昭59-173060号公報
甲24:特開昭58-81749号公報
甲25:実験成績証明書
甲25の2:別紙(空隙部の指定画像)
甲25の3:別紙(甲25の糊化度の分析結果及び甲25の2の図と空隙率、単位空隙率との対応)
甲26:高橋禮治「でん粉製品の知識」p.64-65、幸書房、2006年6月25日初版第4刷発行
甲27:特願2014-129618号の上申書
甲28:PCT/JP2011/065199の、国際調査機関の見解書
甲29:本件特許の早期審査事情説明書
甲30:特許第5172027号公報
甲31:甲30に関する上申書
甲32:実験成績証明書
甲33:実験成績証明書
甲34:特開昭58-216655号公報
甲35:特開昭59-95854号公報
甲36:特許第5190148号公報
甲37:実験成績証明書
甲38:J-GLOBAL科学技術総合リンクセンターウェブサイト文献情報「乾めんの電子顕微鏡による断面観察(大久長範・大能俊久著、2003年6月13日発行)」
甲39:小田聞多「新訂めんの本」p.30-37、p.47-67、p.92-93、食品産業新聞社、2003年12月25日(改定版)発行
甲40:特開2004-337156号公報
甲41:特開2006-246773号公報
甲42:特公平8-41号公報
甲43:飼料分析基準(平成20年4月1日・19消安第14729号 農林水産省消費・安全局長通知)「第3節その他 3 糊化(α化)度」p.649-652、農林水産消費安全技術センタ-(FAMIC)のホ-ムペ-ジ、https://www.famic.go.jp/ffis/feed/bunseki/bunsekikijun/16_18_20_microb.pdf#page=19
甲44:グルコ-スCII-テストワコ-(ムロタ-ゼ・GOD法)添付文書、和光純薬工業、2007年9月作成、2008年3月改訂
甲45:特許第5153964号公報
甲46:特開2014-204731号公報
参考資料1:安藤剛久「乾めん入門」(改訂版)p.78-79、平成11年9月30日、株式会社日本食糧新聞社
参考資料2:創立50周年記念誌編纂委員会(即席めん食育推進委員会)編「競争と協調の50年」p.98-117、一般社団法人日本即席食品工業協会
参考資料3:乾めん類の日本農林規格(最終改正平成26年(2014)5月15日農林水産書告示第653号)http://www.maff.go.jp/j/jas/jas_kikaku/pdf/kikaku_kanmen_140515_2.pdf#search=%27%E8%BE%B2%E6%9E%97%E6%BO%B4%E7%94%A3%E7%9C%81%E5%91%8A%E7%A4%BA%E7%AC%AC%EF%BC%96%EF%BC%95%EF%BC%93%E5%8F%B7%27
参考資料4:被請求人の販売する商品「マルちゃん正麺」の実物写真(1)
参考資料5:被請求人の販売する商品「マルちゃん正麺」の実物写真(2)
参考資料6:2013年3月29日付け東洋経済オンラインの「マルちゃん正麺」に関するインターネット記事p.1-4、http://toyokeizai.net/articles/print/13455(2015年12月11日確認)
参考資料7:PRESIDENT Online「発売1年で2億食!『マルちゃん正麺』の秘密」p.1-5、http://president.jp/articles/-/9360?pages=5(2015年12月11日確認)
参考資料8:東洋水産「マルちゃん正麺」JAPAN QUALITY REVIEW、http://jqrmag.com/quality-review-jpn/quality-review-%E6%9D%Bl%E6%B4%8B%E6%B0%B4%E7%94%A3%E3%80%8C%E3%83%9E%E3%83%AB%E3%81%A1%E3%82%83%E3%82%93%E6%AD%A3%E9%BA%BA%E3%80%8D/(2015年12月11日確認)
第5 被請求人の主張
被請求人は、「本件審判請求は成り立たない。審判費用は請求人の負担とする。」との審決を求め、以下の証拠方法及び参考資料を提出し、請求人が主張する無効理由はいずれも理由がないものであると主張する。
1 証拠方法
答弁書に添付して乙1~乙14、口頭審理陳述要領書に添付して乙15、上申書に添付して参考資料1が提出された。
乙1:実験成績証明書
乙2:小田聞多著「新めんの本」第4版、食品産業新聞社、p.78-85、1994年9月15日発行
乙3:日本食品工学会誌、Vol.4、No.4、p.115-121、2003年12月発行
乙4:日本食品科学工学会誌、第43巻、第10号、p.1098-1104、1996年10月発行
乙5:農業機械学会雑誌、第10巻、第4号、p.113-125、1948年発行
乙6:戸田義郎他2名編著「食品用乳化剤一基礎と応用-」株式会社光琳、p.15-21、平成9年4月1日発行
乙7:「特許・実用新案 審査基準」特許庁、第II部 第2章 2.5(1)○2
乙8:「特許・実用新案 審査基準」特許庁、第I部 第1章 2.2.1.2(3)
乙9:安田耕作他2名著「油脂製品の知識 第3版」株式会社幸書房、p.100-103、180-185、昭和56年2月25日発行
乙10:新村出編「広辞苑 第6版」、岩波書店、p.2097の「生」の項、2013年2月12日発行
乙11:特開2012-110353号公報
乙12:「特許・実用新案 審査基準」特許庁、第III部 第1節2.及び3.
乙13:「特許・実用新案 審査基準」特許庁、第II部 第4章 5.1
乙14:「特許・実用新案 審査基準」特許庁、第V部 第1章 第1節2.2(2)
乙15:本件特許の分割出願である特願2014-129618号の平成27年8月7日付(発送8月18日)拒絶理由通知書
参考資料1:新村出編「広辞苑第6版」岩波書店、p.650の「乾麺」の項、2013年2月12日発行
第6 無効理由について
1 無効理由1について
1-1 甲各号証の記載事項
本件特許の出願前に頒布された刊行物である甲1~4並びに甲1~4に記載された実施例の再現実験を行った実験成績証明書である甲25、甲25の2及び甲25の3には、以下の事項が記載されている。
(1) 甲1[特公昭54-44731号公報]
(1a)「本発明は、中華麺、うどん、そうめん、日本そばをはじめ(ビーフン、はるさめ)スパゲティー、マカロニ等の麺類を高温気流の急速乾燥処理によつて麺の外観及び復元性を改良し、しかも喫食する際には、各麺類本来の「生の食感」を再現できる高温気流乾燥麺の製造法に関する。」(1頁1欄24~29行)
(1b)「(1) 乾麺……(生麺線を20~120℃で20分~20時間通風乾燥する。)
(2) α化乾燥麺……(生麺線を数分蒸煮後70℃~120℃で20~90分間通風乾燥する。)
(3)油揚げ乾燥麺……(生麺線を蒸煮後120℃~160℃の食用油で数分間処理することにより脱水乾燥する。)
・・・
等が研究されている。
しかしながら、(1)の乾麺は食感にすぐれているが、乾燥に2~20時間の長時間を要し、製品自体もこわれやすく、復元時間も10~20分を要する。
(2)のα化乾燥麺は、比較的短時間で復元するが粉くささが残り湯にごりが著しく湯のびしやすい。
(3)の油揚げ乾燥麺は2~3分で早く復元するが、湯のびしやすく、かなりの油を含んでいるため長期間保存すると、酸化して品質が劣化してくる等一長一短があり保存性、生産、復元、食感等の総合的見地からはまだ多くの問題点を投げかけており」(1頁1欄30行~同頁2欄21行)
(1c)「特公昭48-5027号公報には、上述の乾燥麺製造より一歩進歩した製造法が開示されているが、その内容は次のとおりである。
すなわち製造した生麺線を横送りして、すみやかに約60~120℃低湿度の熱風を送風せしめた乾燥室内に送り、該乾燥室において数分乃至約20分間、約60~120℃、低湿度の熱風に暴露し、次いで乾燥凝固せしめることによって麺線を急速に乾燥することを特徴としている。
しかし、上記麺類の急速乾燥法は、乾燥時間が数分~約20分間とかなり短縮されているが、この熱風乾燥処理後に送風冷却により麺線を乾燥凝固する工程が不可欠であってこの工程を経て初めて所期の乾燥麺が得られるものであるので全体としては、かなりの時間(明細書中より判断するに最高で40分)かかるもので、生産性は必ずしも満足できるものとはいえないものである。また、乾燥麺はα化が充分行われていないので非常にもろく、取扱い過程において破損しやすいものである。」(1頁2欄21~2頁3欄3行)
(1d)「次に生産性を向上させるためとして、熱風乾燥処理時間を短縮すると、生麺中に微細多孔が余り形成されないので、次の送風冷却による乾燥凝固の工程での乾燥化が困難になることが考えられ、又、熱風乾燥の処理温度で120℃以上にすると、乾燥時間は短縮されると考えられるが、麺がよじれ、曲り等を呈すると共に弾力性も半減し、製品としての価値を失うので使用することが困難である。」(2頁3欄4~12行)
(1e)「本発明は、上述の特に特公昭48-5027号公報かかる発明における問題点に鑑み、通常、数分~約20分間を要していた熱風乾燥処理時間を大幅に短縮し、かつ次の送風冷却による乾燥凝固工程を削除することを可能とし単に高温気流処理に付することによつてほとんど瞬間的に脱水乾燥でき、しかも艶のある外観を呈し復元が容易でかつ喫食するに際して麺本来の「生の食感」を再現できる高温気流乾燥麺類の製造法を提供することを目的とする。
即ち、本発明の構成の骨子とするところを述べると常法により製造した麺線の水分に約120℃~250℃、約3~5m/秒の高温気流を約5~90秒接触させて均質多孔性の乾燥麺を製造することを特徴とする高温気流乾燥麺の製造法である。」(2頁3欄13~28行)
(1f)「常法により製造した生麺線の水分は、麺の種類によつて多少異るが通常約25~40%である。
これをそのまま高温気流処理することにより連続的に生産する場合には麺線表面に凹凸や気泡が生じたり、麺線芯部の脱水が不完全となる等の問題点が生じやすいので生麺線の水分をあらかじめ短時間で均一乾燥できるように水分を約8~25%に調整しておくことが望ましい。」(2頁3欄30~37行)
(1g)「次に水分調整した生麺線あるいは蒸煮麺線を高温気流処理工程に付する。・・・本発明において使用出来る高温気流温度は120~250℃であるが、生産性および品質からみれば140~180℃であることが望ましい。又、高温気流処理時間は5~90秒ぐらい範囲であればよく、処理温度との相関関係から言えば、一般に温度が高い程、短時間でよく、温度が低い程長時を要するが、処理時間が5秒以下の短時間になると麺が均一に多孔質化せず、復元時間も長くなり、食感も悪化し、逆に処理時間が90秒以上の長時間になると、麺には光沢がなくなり、褐変し、焦げを生じ復元時間も長くなり、食感も歯切れがわるく、なめらかさに欠ける。またうどん、中華麺などの切出麺あるいはスパゲティ、マカロニなどの押出麺等麺の種類により麺線の形状や太さ密度異なるのでその麺に適した条件を設定する必要がある。」(2頁4欄4~27行)
(1h)「上記のように短時間で高温気流処理された麺線は通常の乾燥麺に比し麺線の表面に光沢を生じ、かつ麺線内部は微細な均一多孔質体の組織となっている。特に蒸煮麺を高温気流処理した場合α化度及びグルテン変成の促進により麺線の外観は非常に艶々した様相を呈し麺線がより強靱になるとともにα化乾燥麺特有の粉臭さが全くなくなる。これは均一に水分調整された麺線が120℃~250℃に加熱された気流に急激に接触すると、麺線内部の水分が瞬間的に加熱され、外部へ放出される際に麺表面のでん粉が糊化し、ただちに麺線表面において乾燥されるためにオブラート状の非常に薄いつやのある被膜を形成する。一方麺線内部にはグルテンの急激な変性をともなつた均一微細な多孔質体からなる麺線組織を形成するものと考えられる。このため調理した場合熱湯の麺線内部への浸透が非常にすみやかに行われるが、一定量以上の吸水と成分溶出が抑制され、湯のびがしにくく、しかも麺本来の活性化されたいわゆる「生の食感」が得られるものである。」(2頁4欄30行~3頁5欄5行)
(1i)「また保存面においても油を全く使用しないので、酸化のおそれがなく長期保存に耐えられ、かつ工業的にも生産し易くコスト的にも安くできあがる等の利点がある。」(3頁5欄6~9行)
(1j)「
」(3頁)
(1k)「実施例II
常法により角18番の切刃を使用して製造したひやむぎ(水分約30%)を60℃の熱風で水分17%に調整した後、190℃6m/秒の高温気流で10秒間処理する。」(3頁5欄最終行~6欄下から3行)
(2) 甲2[特公昭48-5027号公報]
(2a)「本発明は、製造した先麺線を、横送りして、すみやかに約60~120℃低湿度の熱風を送風せしめた乾燥室内に送り、該乾燥室において数分乃至約20分間約60~120℃低湿度の熱風に暴露し、次いで乾燥凝固せしめることによつて麺線を急速に乾燥する方法である。」(1頁2欄14~19行)
(2b)「本発明では、押出麺、切出麺を平面移行式、平面段層移行式等のそれぞれの方式により麺線の大小に応じた60~120℃の均一な高温熱風室を作り(この熱風室は毎秒6~8mの速さで湿度の全くない熱風が循環するように制御している)この中に麺線群を連続自動的に送入することにより一気に高速乾燥をなし連続して送風冷却室に移行せしめ20分間以内で自動的に完全乾燥をなす麺類高速乾燥方法である。この方法では湿度の全くない高温熱風(60~120℃)を高速に循環させて使用することにより麺の表面が乾燥する前に中心部まですばやく高熱が伝わり麺の水分は中心から表面に向って急激に拡散し、中心部の水分拡散作用も表面の水分発散作用もほとんど同時に近い状態で行われる。このため本乾燥方法による麺線は断面拡大写真に示すように中心部より表面までが微多孔状にポーラス化していて水分が一気に拡散し発散した状態を如実に表わしている。このため麺は吸水性にもすぐれ調理時間も短縮され食味性は一段と向上するものである。」(1頁2欄20行~2頁3欄2行)
(2c)「一般に麺類はJIS規格によつてその太さが6番手から40番手まできめられている。・・・22番手の棒ラーメン、・・・
これら麺線は、それぞれ番手によって太さが異なるため、各番手によって処理温度及び時間が相違する。・・・22番麺線を例にとれば乾燥室内の温度120℃の下では4分30秒、110℃の下では6分30秒間、100℃の下では10分30秒間、・・・なお120℃以上の温度の下で乾燥させると麺によじれ、曲り等を呈すると共に弾力性も半減し製品としての価値を失うので使用することは困難であるからこの表から除外している。」(2頁3欄3~23行)
(2d)「風速は、麺線の番手に応じて多少異なるが、普通、毎秒6m~8mで、風量は毎分70m3~85m3が適当である。」(2頁3欄36~38行)
(2e)「本発明の方法によれば、製麺直後の生麺が乾燥室内で約60~120℃低湿度の熱風に暴露されたとき、同生麺内部の水分が急激に加熱されて気泡となつて外部に放出され、麺体が強靱でしかも多孔質に近い状態となるので、水分はこの多孔を通してすみやかに蒸散し乾燥が迅速に完了する。」(2頁3欄39~44行)
(2f)「2図における断面図1は本発明により乾燥した麺の拡大断面図であるが、図面に示すように麺全体に平均して多数の孔Aがあき、多孔状にポーラス化現象を呈している。これは高熱高速乾燥をするために表面、内部を問わず全体に熱が一気に伝わり内部水分が急激に外部に拡散すぬ際起こつたものであり、本乾燥における種は生麺の際の麺線の大きさよりやや太めに乾燥されている。・・・従来の乾麺類乾燥方法による麺線は断面IIに示すように緻密な組織体を形成している。これは乾燥温度(40℃前後)乾燥時間(2~3時間)という緩慢な乾燥により、まず表面が徐々に乾燥凝固しながら内部の水分を表面に向つてゆるやかに吸収し、麺表面から発散させているためである。・・・本発明の生麺乾燥方法は従来の生麺乾燥においてひび割れの原因として禁忌されていた低湿度高温熱風処理を行う点で全く理論的に異なつた生麺乾燥方法ということができる。」(2頁4欄1~23行)
(2g)「1 常法によつて製造した生麺線を連続的に水平移動するコンベアにより、すみやかに乾燥室に移送して約60~120℃極低湿度の熱風で数分~約20分間処理して、麺線を可及的急速に乾燥させ、次いで送風冷却室に移送して麺線をその水分が14%以下になるまで乾燥凝固せしめることを特徴とする麺類の高速連続乾燥方法。」(3頁6欄、特許請求の範囲)
(3) 甲3[特開昭52-128251号公報]
(3a)「2.特許請求の範囲
麺類等を、膨化可能な高温熱風により焦げない程度の短時間加熱してポーラス状とした後、通常の熱風乾燥を施して製品化することを特徴とした麺類等の乾燥方法。」(1頁左欄3~7行)
(3b)「又通常の熱風乾燥ではβ澱粉のα化が充分に行われないから、味が悪いだけでなく麺が固く締って吸水しにくゝなるため湯等に戻す場合の復元性も悪いので、一般に普及するには至らなかった。
然るに、本発明に係る方法は、生麺等に之を膨化させるに必要な120~300℃の高温熱風を2.5~10m/secの流速で供給し、麺類を焦を生じない10~60秒の間高温熱風に連続的か、又は断続的にさらして変色や焦げを生じさせない様に膨化させると共に、β澱粉を完全にα化させた後、多少の変色や焦げをいとはない物品はそのまゝ、又変色や焦げを嫌う物品は風速2~6m/secの常温空気に当てゝ冷却し、・・・温度60~100℃の熱風により10~20分乾燥すれば、物品は水分5%程度の乾燥製品となるもので、然もこの製品は高温加熱により澱粉が完全にα化されるため風味が良好であるばかりでなく、膨化により吸水し易くなっているため加水による復元性が良好であり、然もこの方法による製品は油を使わないから、食味がいや味のないさっぱりとしたもので、且、油の酸敗による変質をも生じないから、半年以上の長期保存が可能となり、・・・油揚げの麺類に代る優良品を安価に製造する方法として最適なものである。尚この方法は上記の即席麺、中華めん以外の日本そば、うどん、マカロニ、スパゲティ等の類似品・・・に広く利用して同様の効果を期待することが出来るものである。」(1頁右欄7行~2頁右上欄7行)
(3c)「次に本発明に係る方法の一実施例を即席ラーメンに付いて説明すれば下記の通りである。
常法により製造した水分33%の生ラーメンを、コンベヤーにより移送しながら之に240℃の熱風をノズル又はダクトにより6m/secの風速で平均に吹付けて30秒間加熱を続けた。すると、生ラーメンはポーラス状となって容積増加を示すと共に、β澱粉が完全にα化するから、このラーメンを引き続きコンベヤー移送しながら風速4m/secの常温空気に30秒間さらして品温を下げ、変色や焦げを生じない様にして公知のバンド乾燥機へ送り、温度100℃、風速1m/secに調整した熱風により15分間乾燥すると物品は水分5%の乾燥ラーメンとなった。・・・
この乾燥ラーメンを注湯に戻して試食したところ、膨化により吸水性が向上しているため復元性が非常に良く、又澱粉が完全にα化していて、然も油を使わないから、味はくどさのないさっぱりとしたものであった。」(2頁右上欄8行~左下欄13行)
(4) 甲4[特開昭59-63152号公報]
(4a)「2.〔特許請求の範囲〕
(1)乾めん、即席めん等のめん類を製造するにあたり、原料粉に、常温で固型状をなしている食品用乳化剤および/または常温で固型状をなしている食品用油脂類を添加し、混合することを特徴とする早もどりめん類の製造方法。」(1頁左欄4~9行)
(4b)「本発明は乾めん、即席めん、マカロニ、茹でめん、皮類等のめん類の製造に際して常温で固型状をなしている食品用乳化剤および/または常温で固型状をなしている油脂類を添加、混合する製造法に係り、その目的とするところは、めんの食味を低下することなく、喫食時のめんのほぐれをよくし、復元性を極めて早く改善することにある。」(1頁左欄18行~右欄4行)
(4c)「本発明は、このような欠点を解消し消費者のニーズに適したものを研究、開発中に製めん原料に常温で固型状をなしている乳化剤および/または常温で固型状をなしている油脂を添加、混合して常法により製めんし、蒸煮後、熱風乾燥又は油揚乾燥して得られた即席めんのめん線に無数の微小孔が生じ、同時にめん線同志の付着が極めて少なく、喫食時にお湯を注ぐとほぐれが早く、復元時間が従来の1/2~1/3に短縮され、その食味も従来のものに比べ弾力性、滑らかさに富み、スープとの調和した商品価値の高いものが得られることを発見した。」(2頁右上欄10行~左下欄1行)
(4d)「本発明の方法を実施する上で使用できる常温で固型状の食品用乳化剤は例えば、脂肪酸モノグリセライド、ショ糖脂肪酸エステル、ソルビタン脂肪酸エステル等である。
本発明の方法を実施する上で使用できる常温で固型状の食品用油脂は例えば、極度硬化牛脂または水添固型牛脂のような動物性油脂および極度硬化パーム油、水添固型大豆油または水添固型綿実油のような植物性油脂である。」(2頁左下欄17行~右下欄5行)
(4e)「本発明で使用する食品用乳化剤および油脂は熱溶融性であり、粉末または粒状であることが好ましい。融点は40℃以上、好ましくは50℃以上であり、粒径は10メッシュ、好ましくは20メッシュであることが好ましい。融点を40℃以上としたのは製めん時の摩擦熱で溶融しないことが必要なためである。また、粒径が10メッシュより大きくなると短いめん線の場合、切れるおそれがある。
乳化剤の添加量が0.2%未満だとほぐれの効果が少なく、また3%より高いと乳化剤の油臭が残り食味をそこなう。また、油脂の場合、0.2%未満だと乳化剤と同様であるが、15%より高いとめん線のつながりが悪くなるので好ましくない。」(2頁右下欄6~19行)
(4f)「得られた製めん生地を切刃等でめん線とし、0.5~2kg/cm2の圧力の蒸気で1~4分間蒸煮する。この蒸煮工程は復元性の基本であるでん粉質の糊化及び使用した固型状をなしている乳化剤および/または油脂の熱溶融化を行ない、更にでん粉質と乳化剤および/または油脂の結着を促進する。蒸煮後のめん線は必要なら調味した後、個々に切断し、熱風乾燥もしくは油揚乾燥を行なう。」(2頁右下欄最終行~3頁左上欄7行)
(4g)「常温で固型状をなす食品用乳化剤および/または油脂は製めん工程でめんの表面及び内部に無数に点在するが、続く蒸煮工程に於てその部分が蒸気温度により溶融、液化し、めんの表面及び内部に無数の微小孔を生じ乾燥工程後もこれが残り多孔質のめんとなる。このようにして得ためんにお湯を注ぐと、多孔質のため復元性は極めて早い。即ち、めんの復元性は前記のようにめんの太さ(厚み)に関係するが、それはめんの表面から中心までの距離に関係するものであつて微小孔が無数にあいているということはそれだけ中心までの距離が事実上短いという構造によるものである。本発明によるめんの多孔質は従来からある膨化処理によるものではなく、又、混合工程を少なくしグルテン形成をおさえた形の多孔質ではなく、充分練り上げてあるため、めんの組織がしつかり形成されたものであり、めん本来の弾力性を主とする食味を保つたものである。」(3頁左上欄17行~右上欄14行)
(4h)「以上、即席めんを中心に詳述したが、本発明の方法は即席めんだけに限らず、乾めん、マカロニ、茹めん、皮類等のめん類及び、かやく類についても広く利用できるものである。」(3頁左下欄14~17行)
(4i)「実施例 1.
・・・常法で製めんし、・・・めん線とした後、・・・蒸気で2分間蒸煮し、次いで150℃のラードで2分間油揚げ乾燥しめん製品を得た。
実施例 2.
・・・常法で製めんし・・・めん線とした後、・・・蒸気で2分間蒸煮し、型枠に入れ80℃の熱風で40分間乾燥し、めん製品を得た。」(3頁左下欄19行~右下欄15行)
(4j)「実施例 3.
小麦粉1kgに固型状脂肪酸モノグリセライド30gを添加し、均一に混合した後、水350mlに食塩30gを加えた混合液を加え、充分練り上げた後、常法により製めんしロールにより1.4m/mに圧延し、#10角でめん線とした後乾燥し、乾めんを得た。」(3頁右下欄16行~4頁左上欄2行)
(4k)表(4頁右下欄)には、実施例1~3のめん製品の評価が、「めんのほぐれ具合」、「復元性」、「スープとの調和性」、「めんの食味」、「総合評価」の項目のいずれも「5…非常によい」であることが記載されている。
(5) 甲25
(5a)日清ホールディングス株式会社吉沼俊男が2014年12月10日付けで作成した実験成績証明書であり、甲1~4に記載された実施例等の再現実験を行ったものである。
(5b)実験は、甲1~4に記載された乾麺が、本件発明1の「空隙率」、「単位空隙率」及び「糊化度」を持つ多孔質構造であることを確認することを目的としている。
(5c)「試験A-1」は、甲1の「実施例IIに記載の製法に従って乾麺を製造した」ものであり、「中力小麦粉1kgに、水300mlに食塩30gを加えた混合液を加え、15分間充分に練り上げた後、常法により製麺しロールにより1.2mmに圧延し、18番角の切刃で麺線とした生麺体を作製し」、「得られた生麺体を、温度60℃、風速4m/sの熱風で水分が17%になるまで予備乾燥を行い、温度190℃、風速6m/sの熱風で10秒間乾燥して乾麺を製造した」ものである。
(5d)「試験A-2」は、甲2の「特許請求の範囲1に記載の製法に従って乾麺を製造した」ものであり、「中力小麦粉1kgに、水300ml、かん水5g及び食塩20gを加えた混合液を加え、15分間充分に練り上げた後、常法により製麺しロールにより1.1mmに圧延し、22番角の切刃で麺線とした生麺体を作製し」、「得られた生麺体を、温度100℃、風速7m/sの熱風で10分30秒乾燥し、ついで、室温で、送風冷却して水分を14%以下にして、乾麺を製造した」ものである。
(5e)「試験A-3」は、熱風乾燥を「温度120℃で4分30秒」とした他は、試験A-2と同様にして乾麺を製造したものである。
(5f)「試験A-4」は、甲3の「特許請求の範囲1記載の製法に従って乾麺を製造した」ものであり、「中力小麦粉1kgに、水300ml、かん水5g及び食塩20gを加えた混合液を加え、15分間十分に練り上げた後、常法により製麺しロールにより1.2mmに圧延し、20番角の切刃で麺線とした生麺体を作製し」、「得られた生麺体を、温度120℃、風速6m/sの熱風で1分間乾燥し、ついで、温度100℃、風速1m/sの熱風で15分間乾燥して、乾麺を製造した」ものである。
(5g)「試験B-1」は、甲4の「実施例3に記載の製法に従って乾めんを製造した」ものであり、「小麦粉1kgに粉末の固形状脂肪酸モノグリセライド30gを添加し、均一に混合した後、水350mlに食塩30gを加えた混合液を加え、充分練り上げた後、常法により製めんしロールにより1.4mmに圧延し、10番角でめん線とし」、「得られた麺線を、蒸煮工程なしで、100℃の熱風(7m/s)で28分処理して、乾めんを得た」ものである。
(5h)「試験B-2」は、乾燥条件を「120℃の熱風(6m/s)で14分処理」にした他は、試験B-1と同様にして乾めんを得たものである。
(5i)「空隙率」の定義は「本件特許明細書の段落0009に記載された定義によるもの」とし、「単位空隙率」の定義は「本件特許明細書の段落0010に記載された定義によるもの」としている。
(5j)試験A及び試験Bにより得られた各乾麺についての「空隙率」及び「単位空隙率」は、「得られた各乾麺について、麺塊中の麺線から無作為に選んだ3個所を薄刃の剃刃で切断してスライドグラスに載せ」、「CCDカメラを装着したニコン製ユニバーサルズーム顕微鏡で3つの断面を撮影し、パソコンに撮影データを取り込んで断面画像を得」て、「画像処理ソフト「NIS-Elements BR」を用いて画像の断面並びに空隙部の輪郭をフリーハンドにて指定し」、「指定した領域の面積を自動的に計算させて、空隙率及び単位空隙率を算出」したものである。
(5k)試験A及び試験Bにより得られた各乾麺の「糊化度」は、「本件特許明細書の段落0015に記載のグルコアミラーゼ法・ムタローゼ・GOD法により測定した」ものである。
(5l)試験A及び試験Bにより得られた各乾麺の評価結果(表1)は以下のとおりである。
(6) 甲25の2
試験A-1~A-4並びにB-1及びB-2により得られた各乾麺について、空隙率及び単位空隙率を算出するために撮影され、断面及び空隙部の輪郭をフリーハンドにて指定を施した断面画像であり、試験A-1~A-4並びにB-1及びB-2に対応してそれぞれ3枚の画像が示されており、いずれの断面画像からも麺線断面が多孔質構造であることが看取される。
(7) 甲25の3
(7a)試験A及びBの甲25の2の各断面図に対応した空隙率及び単位空隙率
(7b)甲25の試験A~Dに係る糊化度の試験結果
1-2 当審の判断
1-2-1 本件発明1について
(1) 本件発明1と甲1発明との対比・判断
ア 甲1発明
上記「1-1(1a)~(1k)」の記載を総合すると、常法により製造した生麺線の水分を約8~25%に調整した上で、120~250℃の高温気流で5~90秒の処理をする高温気流乾燥麺の製造法は、均一に水分調整された麺線が加熱された気流に急激に接触することで麺線内部の水分が瞬間的に加熱され、外部へ放出される際に麺表面のでん粉が糊化し、ただちに麺線表面において乾燥されるためにオブラート状の非常に薄いつやのある被膜を形成し、一方、麺線内部にはグルテンの急激な変性をともなった均一微細な多孔質体からなる麺線組織を形成することから、糊化により通常の乾燥麺に比し麺線の表面に光沢を生じ、かつ麺線内部は微細な均一多孔質体の組織となることが理解される。
そこで、上記高温気流乾燥麺の製造法の条件に合致する実施例IIの方法により製造された「ひやむぎ」についてみると、当該「ひやむぎ」は、その製法条件からみて、表中のBの乾燥麺に該当し、処理後の外観が「やや光沢あり」、麺塊の強度が「ややもろい」、復元時間が「6~7分」、食感が「やや歯切れわるいがなめらかである」、湯濁りが「少ない」、粉くささが「弱い」という評価(「特公昭48-5027号で記載の発明」に比し改善された効果)も参酌すると、麺には糊化が生じており、麺線内部は微細な均一多孔質体の組織となっているものと認められる。
したがって、甲1記載の実施例IIに着目すると、甲1には、
「常法により角18番の切刃を使用して製造した生麺線(水分約30%)を60℃の熱風で水分17%に調整した後、190℃6m/秒の高温気流で10秒間処理して、麺線内部が微細な均一多孔質体の組織となり、糊化が生じている、乾燥ひやむぎ。」
の発明(以下「甲1発明」という。)が記載されている。
イ 対比
本件発明1と甲1発明とを対比すると、甲1発明の「乾燥ひやむぎ」は、本件発明1の「乾麺」に相当し、甲1発明の「麺線内部が微細な均一多孔質体の組織」は、本件発明1の「多孔質構造」に相当する。そして、甲1発明の「麺線内部が微細な均一多孔質体の組織」は、その組織の構造上、麺線の断面には空隙を有していることは明らかであるから、本件発明1の「麺の断面積の空隙率が0.1%以上15%以下であり、麺の断面積の単位空隙率が0.01%以上1%以下」である「多孔質構造」とは、「麺の断面に空隙を有する多孔質構造」という限りにおいて一致する。
また、本件発明1において、「30%~75%の糊化度」であることは、本件発明1の乾麺には糊化が生じていることを意味するから、甲1発明の「糊化が生じている」ことと本件発明1の「30%~75%の糊化度」とは、「糊化が生じている」という限りにおいて一致する。
よって、本件発明1と甲1発明とは、「麺の断面に空隙を有し、糊化が生じている、多孔質構造の乾麺」である点で一致し、以下の点で一応相違する。
(相違点)
乾麺の多孔質構造及び糊化の程度の物性値が、本件発明1は、麺の断面積の空隙率が0.1%以上15%以下であり、麺の断面積の単位空隙率が0.01%以上1%以下であり、30%~75%の糊化度であるのに対して、甲1発明は、空隙率、単位空隙率及び糊化度がいかなる値であるかは明らかでない点。
ウ 判断
上記一応の相違点について、まず「空隙率」及び「単位空隙率」について検討する。
本件発明1の「空隙率」は、その特許請求の範囲に具体的な定義がされていないため本件特許明細書を参照すると、「麺を長手方向と直交する方向で切断したときの断面積に占める全空隙面積の割合」であって、「1本の麺の1つの断面における面積、即ち、断面積」に対する、「前記1つの断面に存在する全ての空隙の面積を足し合わせた面積」の割合とされ、次の式として定義されている(【0009】【数1】)。
空隙率(P)=全空隙面積(mm2)/断面積(mm2)×100
同様に、「単位空隙率」は、「麺を長手方向と直交する方向で切断したときの断面積に占める1つの空隙の面積の割合」であって、「1本の麺の1つの断面における面積、即ち、断面積」に対する、最小単位としての「1つの空隙の面積」の割合であるとされ、次の式として定義されている(【0010】【数2】)。
単位空隙率(M)=(全空隙面積(mm2)/空隙個数)/断面積(mm2)×100
そして、本件発明1は、空隙率(P)及び単位空隙率(M)について、空隙率(P)が0.1≦P≦15%、単位空隙率(M)が0.01≦M≦1%という、それぞれ広範な数値範囲を満たせばよいものであるところ、本件特許明細書には、「そのような条件の当該乾麺は、上記の空隙率および単位空隙率により表される通り、当該乾麺における多孔質構造は、麺を何れの位置で切断した場合であっても、上述したように大きな空洞を有せず、切断面全体に亘り多孔を有する構造であればよい」ことが示されている(【0011】)。
そうすると、「麺線内部が微細な均一多孔質体の組織」の乾麺である甲1発明は、当該組織の構造上、麺線を何れの位置で切断した場合であっても、大きな空洞を有せず、その断面全体に亘り多孔を有する構造であることが明らかであり、また、本件発明1の空隙率(P)及び単位空隙率(M)の数値範囲が広範囲であることも考慮すれば、甲1発明は、空隙率(P)が0.1≦P≦15%、単位空隙率(M)が0.01≦M≦1%を満たすものである蓋然性が高い。
そして、甲1発明の「空隙率」及び「単位空隙率」が上記範囲にある蓋然性が高いことは、甲25の「試験A-1」の結果が「空隙率5.89%」及び「単位空隙率0.30%」であることからも裏づけられるものである(上記「1-1(5l)、(7a)」参照)。
次に、「糊化度」について検討する。
甲11には、ドウ(「生麺体」に相当。)を65.6~149℃(約150~300°F)で約5~120分間空気で乾燥すると部分的に糊化することが記載され、それにより糊化の程度を約10~75%にし得ることが記載されているから(2頁3欄27行~4欄13行、4頁8欄29行~5頁9欄2行)、生麺体を高温空気で乾燥することにより部分糊化を生じさせ得ることは、当業者の技術常識であったといえる。
一方、本件特許明細書記載の比較例8の糊化度が28.2%(【0067】、【0075】【表2】参照)であることや、乙1で試験された市販の乾麺の糊化度が16.9~28.9%(試験E(表4)参照)であることから、常法により製造された一般的な市販の乾麺の糊化度が30%を下回る程度のものであることが把握される。
ここで、甲1に従来例として記載されている特公昭48-5027号公報(甲2)記載の製造法は、一般的な乾麺の製造法(生麺線を20~120℃で20分~20時間通風乾燥する。)を一歩進歩させたものであって、生麺線を乾燥室において数分乃至約20分間、約60~120℃、低湿度の熱風に暴露するものであることから、上記の技術常識を参酌すると、特公昭48-5027号公報(甲2)記載の製造法により製造された乾麺は、部分糊化が生じて、一般的な乾麺より糊化が進んだものと認められる。そして、甲1発明の190℃6m/秒の高温気流で10秒間処理するという熱風乾燥工程も、生麺体を高温空気で乾燥するものであるから、上記の技術常識を参酌すると、甲1発明も、部分糊化が生じて、一般的な乾麺より糊化が進んだものと認められる。
なお、甲1発明及び特公昭48-5027号公報記載の製造法により製造された乾麺は、甲1記載の表中の実施例C及びDの蒸煮麺についての評価との比較からみて、完全に糊化したものではないことも把握される。
そうすると、上述のとおり、常法により製造された一般的な市販の乾麺の糊化度が30%を下回る程度のものであることに照らすと、特公昭48-5027号公報記載の製造法により製造された乾麺及び甲1発明は、常法により製造された一般的な市販の乾麺よりも糊化が進んだものであって、完全には糊化していないものであるといえるから、その糊化度は30%~75%の範囲にある蓋然性が高い。
そして、甲1発明の「糊化度」が上記範囲にある蓋然性が高いことは、甲25の「試験A-1」の結果が「糊化度50.8%」であることからも裏づけられるものである(上記「1-1(5l)、(7b)」参照)。
なお、甲25の「試験A-1」(上記「1-1(5c)」参照)における、「中力小麦粉1kgに、水300mlに食塩30gを加えた混合液を加え、15分間充分に練り上げた後、常法により製麺しロールにより1.2mmに圧延し、18番角の切刃で麺線とした生麺体を作製」する工程は、ひやむぎの製法として一般的に行われている範囲のものであって(甲39~甲42参照)、甲1記載の実施例IIの製法における「常法により角18番の切刃を使用して製造したひやむぎ(水分約30%)」に対応するものである。また、「得られた生麺体を、温度60℃、風速4m/sの熱風で水分が17%になるまで予備乾燥を行い、温度190℃、風速6m/sの熱風で10秒間乾燥」する工程は、「風速4m/s」が予備乾燥の風速として一般的な範囲であると認められるところ(甲19参照)、甲1記載の実施例IIの製法の「ひやむぎ(水分約30%)を60℃の熱風で水分17%に調整した後、190℃6m/秒の高温気流で10秒間処理する」工程に従ったものといえる。
よって、甲25の「試験A-1」は、甲1記載の「実施例II」の製造方法にしたがってなされた再現実験として適切なものと認められる。そして、試験A-1により得られた乾麺の物性値の算出方法についても、本件特許明細書に定義されたとおりに行っている(上記「1-1(5i)、(5j)、(5k)」参照)。
したがって、上記一応の相違点は、実質的な相違点ではなく、本件発明1は、甲1発明である。
エ 被請求人の主張について
被請求人は、甲25の試験A-1を追試実験した乙1を示して、甲25の試験A-1を追試実験した乙1が「空隙率0.00%」、「単位空隙率0.00%」及び「糊化度33.3%」であって、多孔質構造とはならない乾麺となったことから、甲25の試験A-1では、本件発明1の乾麺を得ることはできないし、また、その実験条件は甲1の再現実験としては不適切であり、甲1に、本件発明1の乾麺が記載されているとはいえない旨主張する。また、甲25の実験条件は、空隙率及び単位空隙率を乾麺の麺線の3つの断面の断面画像に基づいて算出していて、本件特許明細書の実施例における算出法よりも得られる結果のばらつきが大きく信頼性の低いものであり、適切な算出法とはいえないから、甲1の再現実験として的確なものではないと主張する(平成27年4月27日付け答弁書2~4頁)。
そこで、乙1の追試実験についてみると、甲25の試験A-1が、甲1記載の実施例IIを再現しようとした実験であって、実施例IIに示された方法に従って行われ、甲1記載のとおりの「麺線内部が微細な均一多孔質体の組織」の乾麺を製造したものであるところ、乙1の追試実験が甲25の試験A-1を追試実験したものであるというためには、乙1の追試実験は、少なくとも、甲1記載のとおりの「麺線内部が微細な均一多孔質体の組織」の乾麺が製造されるようなものでなくてはならない。
しかしながら、乙1の追試結果は、「空隙率0.00%」及び「単位空隙率0.00%」である多孔質構造ではない乾麺が製造されているから、乙1の追試実験は、甲25の試験A-1の追試実験として適切であるとはいえず、また、甲1発明を再現しようとしたものでもない。よって、乙1の追試結果に基づく被請求人の主張は、採用することはできない。
また、「空隙率」及び「単位空隙率」は、本件特許明細書の記載によれば、麺を何れの位置で切断した場合でもよいことが理解されるところ(【0009】~【0011】)、甲1発明は「麺線内部が微細な均一多孔質体の組織」であって、その切断面は何れの位置においても同じような形状となることは容易に理解できるから、甲1発明の再現実験である甲25の試験A-1が麺線の3つの断面に基づいて算出していることのみをもって、適切な算出法とはいえないとする被請求人の主張は、当を得たものとはいえない。
オ 小括
以上のとおり、本件発明1は、甲1発明であるから、特許法29条1項3号に掲げる発明に該当し、特許を受けることができないものである。
(2) 本件発明1と甲2発明との対比・判断
ア 甲2発明
上記「1-1(2a)~(2g)」の記載を総合すると、常法によって製造した生麺線をすみやかに乾燥室に移送して約60~120℃極低湿度の熱風(毎秒6m~8mで、風量は毎分70m3~85m3)で数分~約20分間処理して、麺線を可及的急速に乾燥させ、次いで送風冷却室に移送して麺線をその水分が14%以下になるまで乾燥凝固せしめる麺類の高速連続乾燥方法によって、製麺直後の生麺が熱風に暴露されたとき、麺の表面が乾燥する前に中心部まですばやく高熱が伝わり麺の水分は中心から表面に向って急激に拡散し、中心部の水分拡散作用も表面の水分発散作用もほとんど同時に近い状態で行われ、生麺内部の水分が急激に加熱されて気泡となって外部に放出され、麺体が強靱でしかも中心部より表面までが微多孔状にポーラス化した多孔質に近い状態となって、乾燥が迅速に完了することが理解される。
よって、上記麺類の高速連続乾燥方法として例示された、乾燥室内の温度120℃の下で4分30秒間処理された22番麺線(22番手の棒ラーメン)及び100℃の下で10分30秒間処理された22番麺線(22番手の棒ラーメン)は、当該乾燥方法によって、麺体が強靱でしかも中心部より表面までが微多孔状にポーラス化した多孔質に近い状態となった乾燥麺となっているものと認められる。
したがって、甲2記載の22番麺線(22番手の棒ラーメン)に着目すると、甲2には、
「常法によって製造した生麺線をすみやかに乾燥室に移送して、100℃極低湿度の熱風(毎秒6m~8mで、風量は毎分70m3~85m3)で10分30秒間処理して、又は、120℃極低湿度の熱風(毎秒6m~8mで、風量は毎分70m3~85m3)で4分30秒間処理して、麺線を可及的急速に乾燥させ、次いで送風冷却室に移送して麺線をその水分が14%以下になるまで乾燥凝固せしめた、麺体が強靱でしかも中心部より表面までが微多孔状にポーラス化した多孔質に近い状態である、22番手の乾燥棒ラーメン。」
の発明(以下「甲2発明」という。)が記載されている。
イ 対比
本件発明1と甲2発明とを対比すると、甲2発明の「乾燥棒ラーメン」は、本件発明1の「乾麺」に相当し、甲2発明の「麺体が」「中心部より表面までが微多孔状にポーラス化した多孔質に近い状態」は、本件発明1の「多孔質構造」に相当する。
そして、甲2発明の「麺体が」「中心部より表面までが微多孔状にポーラス化した多孔質に近い状態」であることは、その構造上、麺線の断面には空隙を有していることは明らかであるから、本件発明1の「麺の断面積の空隙率が0.1%以上15%以下であり、麺の断面積の単位空隙率が0.01%以上1%以下」である「多孔質構造」とは、「麺の断面に空隙を有する多孔質構造」という限りにおいて一致する。
また、上述のとおり、生麺体を高温空気で乾燥すると部分糊化を生じさせ得ることが当業者の技術常識であることを踏まえると、甲2発明の「生麺線」を「100℃極低湿度の熱風(毎秒6m~8mで、風量は毎分70m3~85m3)で10分30秒間処理」する工程又は「120℃極低湿度の熱風(毎秒6m~8mで、風量は毎分70m3~85m3)で4分30秒間処理」する工程により、製造された乾燥棒ラーメンには部分糊化が生じていることが明らかであるから、甲2発明と本件発明1とは「糊化が生じている乾麺」という限りにおいて一致する。
よって、本件発明1と甲2発明とは、「麺の断面に空隙を有し、糊化が生じている、多孔質構造の乾麺」である点で一致し、以下の点で一応相違する。
(相違点)
乾麺の多孔質構造及び糊化の程度の物性値が、本件発明1は、麺の断面積の空隙率が0.1%以上15%以下であり、麺の断面積の単位空隙率が0.01%以上1%以下であり、30%~75%の糊化度であるのに対して、甲2発明は、空隙率、単位空隙率及び糊化度がいかなる値であるかは明らかでない点。
ウ 判断
上記一応の相違点について、まず「空隙率」及び「単位空隙率」については、上記「(1)ウ」で検討したとおりであるから、甲2発明についても、空隙率(P)が0.1≦P≦15%、単位空隙率(M)が0.01≦M≦1%を満たすものである蓋然性が高い。
次に、「糊化度」については、甲1記載の従来例である特公昭48-5027号公報は甲2であるから、上記「(1)ウ」で検討したとおり、甲2発明の糊化度は30%~75%の範囲にある蓋然性が高い。
そして、甲2発明の「空隙率」、「単位空隙率」及び「糊化度」が上記範囲にある蓋然性が高いことは、甲25の「試験A-2」の結果が「空隙率6.69%」、「単位空隙率0.33%」及び「糊化度32.7%」であること、及び甲25の「試験A-3」の結果が「空隙率6.36%」、「単位空隙率0.43%」及び「糊化度46.4%」であることからも裏づけられるものである(上記「1-1(5l)、(7a)、(7b)」参照)。
なお、甲25の「試験A-2」(上記「1-1(5d)」参照)における、「中力小麦粉1kgに、水300ml、かん水5g及び食塩20gを加えた混合液を加え、15分間充分に練り上げた後、常法により製麺しロールにより1.1mmに圧延し、22番角の切刃で麺線とした生麺体を作製」する工程は、ラーメンの製法として一般的に行われている範囲のものであって(甲45、甲39、甲22:即席めん(スープ別添棒状乾めん等参照))、甲2記載の「22番手の棒ラーメン」に対応するものである。また、「得られた生麺体を、温度100℃、風速7m/sの熱風で10分30秒乾燥し、ついで、室温で、送風冷却して水分を14%以下にして、乾麺を製造」する工程は、甲2記載の「特許請求の範囲1」又はその実施例の記載の工程にしたがったものといえる。甲25の「試験A-3」(上記「1-1(5e)」参照)についても同様である。
よって、甲25の「試験A-2」及び「試験A-3」は、甲2記載の「特許請求の範囲1」又はその実施例の記載の工程にしたがってなされた再現実験として適切なものと認められる。そして、試験A-2及び試験A-3により得られた乾麺の物性値の算出方法についても、本件特許明細書に定義されたとおりに行っている(上記「1-1(5i)、(5j)、(5k)」参照)。
したがって、上記一応の相違点は、実質的な相違点ではなく、本件発明1は、甲2発明である。
エ 被請求人の主張について
被請求人は、甲25の試験A-2及び試験A-3を追試実験した乙1を示して、単位空隙率についての試験A-2及び試験A-3の追試結果は、それぞれ「3.17」、「2.09」となり、本件発明1の範囲外のものとなったことから、甲25の試験A-2及び試験A-3では、本件発明1の乾麺を得ることはできないし、また、その実験条件は甲2の再現実験としては不適切であり、甲2に、本件発明1の乾麺が記載されているとはいえない旨主張する(平成27年4月27日付け答弁書2~4頁)。
しかしながら、乙1の試験A-2及び試験A-3の追試結果の乾麺断面画像を参照すると、当該乾麺のいずれの断面も「多孔質構造」といえるものとはなっていない(乙1別紙「1.(2)、(3)」参照)。
よって、乙1の追試実験では、多孔質構造を有しない乾麺が製造されているところ、乙1の追試実験は、甲25の試験A-1の追試実験として適切であるとはいえず、また、甲1発明を再現しようとしたものでもない。よって、乙1の追試結果に基づく被請求人の主張は、採用することはできない。
オ 小括
以上のとおり、本件発明1は、甲2発明であるから、特許法29条1項3号に掲げる発明に該当し、特許を受けることができないものである。
(3) 本件発明1と甲3発明との対比
ア 甲3発明
上記「1-1(3a)~(3c)」の記載を総合すると、甲3には、
「常法により製造した水分33%の生ラーメンを、コンベヤーにより移送しながら240℃の熱風をノズル又はダクトにより6m/secの風速で平均に吹付けて30秒間加熱を続け、引き続きコンベヤー移送しながら風速4m/secの常温空気に30秒間さらして品温を下げ、変色や焦げを生じない様にして公知のバンド乾燥機へ送り、温度100℃、風速1m/secに調整した熱風により15分間乾燥させた、水分5%であって、ポーラス状となって容積増加した、β澱粉を完全にα化させた乾燥ラーメン。」
の発明(以下「甲3発明」という。)が記載されている。
イ 対比・判断
本件発明1と甲3発明とを対比すると、β澱粉を完全にα化させたものは、糊化度100%相当のものであるといえるから、両者は少なくとも以下の点において相違する。
(相違点)
乾麺の糊化の程度に関して、本件発明1は、30%~75%の糊化度であるのに対して、甲3発明は、β澱粉を完全にα化させたものである点。
よって、本件発明1は、甲3発明であるとはいえない。
ウ 請求人の主張について
請求人は、甲3の再現実験として甲25の試験A-4を行い、その結果が本件発明1の範囲内のものであることを示し、本件発明1が甲3記載のものであると主張する。しかしながら、上記のとおり、甲3発明は、少なくとも糊化度において本件発明1とは異なるものである。また、甲25の試験A-4による再現実験は、甲3発明のようにβ澱粉を完全にα化させたものを再現していない以上、適切なものとはいえない。よって、請求人の上記主張は、失当である。
エ 小括
以上のとおり、本件発明1は、甲3発明であるとはいえず、特許法29条1項3号に掲げる発明に該当しない。
(4) 本件発明1と甲4発明との対比
ア 甲4発明
上記「1-1(4a)~(4k)」の記載を総合しつつ、甲4記載の実施例3に着目すると、甲4には、
「小麦粉1kgに固型状脂肪酸モノグリセライド30gを添加し、均一に混合した後、水350mlに食塩30gを加えた混合液を加え、充分練り上げた後、常法により製めんしロールにより1.4m/mに圧延し、#10角でめん線とした後乾燥した、乾めん。」
の発明(以下「甲4発明」という。)が記載されている。
ここで、甲4の「本発明は乾めん、即席めん、マカロニ、茹でめん、皮類等のめん類の製造に際して・・・」という記載(「1-1(4b)」)、「本発明は、・・・常法により製めんし、蒸煮後、熱風乾燥又は油揚乾燥して得られた即席めん・・・」という記載(「1-1(4c)」)及び「以上、即席めんを中心に詳述したが、本発明の方法は即席めんだけに限らず、乾めん、マカロニ、茹でめん、皮類等のめん類及び、かやく類についても広く利用できるものである。」(「1-1(4h)」)という記載を参酌すると、甲4記載の「乾めん」は、蒸煮工程を有する「即席めん」とは区別され、その製造に際して蒸煮されることなく得られた乾燥麺であるといえる。そして、甲4記載の実施例1及び2が、原料にかん水を含み蒸煮工程が規定されていることから、得られためん製品は「即席めん」であると理解できるのに対して、実施例3は、得られたものが原料にかん水を含まない「乾めん」であることから、製造工程には蒸煮工程を有しないものとして、蒸煮工程の記載がないことは当然であると理解できる。
一方、甲4において、「多孔質のめん」が製造されるのは、「常温で固型状をなす食品用乳化剤および/または油脂」を「製めん工程でめんの表面及び内部に無数に点在」させること及びそれに続く「蒸煮工程」によるものであることが理解されるところ(「1-1(4g)」)、「即席めんを中心に詳述したが、本発明の方法は即席めんだけに限らず、乾めん、マカロニ、茹でめん、皮類等のめん類及び、かやく類についても広く利用できるものである。」(「1-1(4h)」)という記載はあるものの、蒸煮工程を有さない「乾めん」について、上記「本発明の方法」を利用するとどのような構造の乾燥麺になるのかは明らかにされていない。そして、甲4記載の実施例3からは、乾燥前のめん線には、固型状脂肪酸モノグリセライドが均一に混合されていることは理解できるものの、その後の乾燥工程の方法・条件等が何ら特定されていないために、得られた乾めんがどのような構造・物性のものであるかは明らかではない。甲4記載の表には、実施例3のめん製品の評価が、実施例1及び2のめん製品と同等の「5…非常によい」という評価がされているものの(「1-1(4k)」)、そのことから直ちに、実施例3で得られた乾めんの構造・物性が、実施例1及び2で得られためん製品と同じであるとは必ずしもいえない。
そうすると、上記のとおり、甲4記載の実施例3に着目して甲4発明を認定することはできるものの、当該甲4発明の「乾めん」がどのような構造・物性であるかは、甲4からは特定できない。
イ 対比・判断
上記を踏まえて本件発明1と甲4発明とを対比すると、両者は少なくとも以下の点において相違する。
(相違点)
乾麺の構造及び物性値について、本件発明1の乾麺は、「麺の断面積の空隙率が0.1%以上15%以下であり、麺の断面積の単位空隙率が0.01%以上1%以下であり、30%~75%の糊化度」という特定がされているのに対して、甲4発明の乾めんは、その具体的な構造・物性値は特定できない点。
よって、本件発明1は、甲4発明であるとはいえない。
ウ 請求人の主張について
請求人は、甲4の再現実験として甲25の試験B-1及びB-2を行い、その結果が本件発明1の範囲内のものであることを示し、本件発明1が甲4記載のものであると主張する。
しかしながら、甲4発明の「乾めん」は、甲4記載の表における評価が得られる範囲のものであるということができるのみで、その具体的な構造・物性値は特定できないものである一方、本件発明1は構造・物性値を特定した発明であるから、本件発明1が甲4発明とはいえないことは明らかである。
なお、甲25の試験B-1及びB-2による再現実験は、甲4において何ら特定されていない条件を、本件発明2の製造条件に基づいたものとしているが、そのようにすることは、甲4に何らの記載や示唆もないし、甲4に記載された事項から本件特許出願時の技術常識を参酌することにより当業者が導き出せる事項ともいえない。よって、甲25の試験B-1及びB-2による再現実験は、妥当性を欠くものである。
よって、請求人の上記主張は、失当である。
エ 小括
以上のとおり、本件発明1は、甲4発明であるとはいえず、特許法29条1項3号に掲げる発明に該当しない。
1-2-2 本件発明7について
(1) 本件発明7と甲1~4発明との対比
ア 本件発明7について
本件発明7は「請求項2~6の何れか1項に記載の製造方法により得られた乾麺。」であって、請求項3~6は請求項2を引用する請求項であることから、本件発明7は、請求項2記載の「主原料と、前記主原料の総重量に対して0.5重量%よりも大きく6重量%未満の100%油由来の粉末油脂とを含む麺生地から形成した生麺体を90℃~150℃で発泡化および乾燥することを具備し、最終糊化度が30%~75%の糊化度を有する乾麺の製造方法」という発明特定事項を含み、当該発明特定事項により得られた「乾麺」の発明であると解される。そして、上記発明特定事項によれば、本件発明7の「乾麺」には、「主原料」と「100%油由来」の「油脂」とが成分に含まれていることは明らかである。
イ 対比・判断
甲1発明(1-2-1(1)ア)、甲2発明(1-2-1(2)ア)、甲3発明(1-2-1(3)ア)及び甲4発明(1-2-1(4)ア)は、いずれもその原料に「100%油由来の粉末油脂」を含んでいないことから、最終的に得られた麺にも「100%油由来」の「油脂」は含まれていないことは明らかである。
したがって、本件発明7は、少なくとも「100%油由来」の「油脂」を含んでいる点において、甲1発明~甲4発明とは相違しているものと認められる。
よって、本件発明7は、甲1発明~甲4発明のいずれでもない。
ウ 請求人の主張について
請求人は、本件発明7は、本件発明1と同一の発明である旨主張するが、上記のとおり、本件発明7は、少なくとも「100%油由来」の「油脂」を含んでいる点において、本件発明1とは相違している。よって、請求人の上記主張は、当を得たものとはいえない。
エ 小括
以上のとおり、本件発明7は、甲1発明~甲4発明のいずれでもなく、特許法29条1項3号に掲げる発明に該当しない。
1-3 まとめ
以上のとおり、
(1)本件発明1は、甲1発明又は甲2発明であり、特許法29条1項3号に掲げる発明に該当し、特許を受けることができないものであるから、その特許は同法123条1項2号に該当し、無効とすべきものである。
よって、本件発明1についての特許は、無効理由1により無効とすべきものである。
(2)本件発明7は、甲1発明~甲4発明のいずれでもなく、特許法29条1項3号に掲げる発明に該当しない。
よって、本件発明7についての特許は、無効理由1により無効とすることはできない。
2 無効理由2について
2-1 本件発明1について
2-1-1 無効理由2-ア-1について
(1) 甲各号証に記載された事項
ア 甲10
(ア)「【特許請求の範囲】
(1)非油煤の油を含まないインスタント加熱乾燥ヌードル製品の製造方法において、
(a)ヌードルドウを部分糊化し、
(b)部分糊化ヌードルドウを所望形の個々のドウ片に成形し、
(c)必要の場合、ドウ片を表面乾燥してその水分含量をドウ片の重量規準で約23重量%より少ない量に減少させ、そして
(d)残留水分を急激に気化させてドウ片の内部部分を膨脹させ、多孔性構造をつくることを特徴とする、上記方法。
(2)ヌードルドウはロールがけによりシートに形成後、蒸気処理により部分糊化する、特許請求の範囲第1項記載の方法。
・・・
(6)急激な気化は約300~500°Fの温度の熱ガス中で約40~2秒間ドウ片を流動化させることにより達成する、特許請求の範囲第1項記載の方法。」(1頁左欄4行~右欄12行)
(イ)「上記方法により製造されるインスタントヌードル製品は非常に高い細孔容積を有する。この多孔性はパーティクルの湿潤表面からはるか内部に急速に再水和でき、こうしてα-変換がたとえ約80%より少なくても望ましい官能性を有するインスタントヌードル製品を製造できる。」(7頁右下欄6~11行)
(ウ)「例 1
246部の水、40部の乾燥全卵および29部の塩の液体混合物を混合タンクで調製した。685部の特別ツアンシーデューラムパテント粉をFood Equipment会社製造のドウミキサーに入れた。ミキサーは10分間駆動するようにミキサーのタイマーをセットした。その間液体混合物はゆっくりミキサーに計量添加した。生成ドウは均一コンシステンシイを有した。ドウはPasta World ドウシート製造機に移した。シート製造機により製造されたドウシートは厚さ3/8インチ、巾91/2インチで、その後の使用に対し木製の打柄上に巻いた。
巻いたドウシートはToresani二重ロール積層機に移し、シートの厚さを0.035インチに減縮した。シートはコンベヤベルト上に供給し、このベルトはドウシートを蒸気処理室を通して運搬した。シートは2分間水浴上で蒸気処理した。シートが蒸気室を出るとき31%の糊化及び約32%の水分含量であった。
次に蒸気処理したドウは一連の赤外加熱器を通し、次に冷却し、さらに蒸気処理ドウ周辺に空気を循環することにより表面乾燥した。これは水分含量を約28%に減少させ、糊化を約35%に増加させた。表面乾燥物は2.5mm巾のストランドにスリッターで切断した。ストランドは約7/8~11/8インチの長さを有する個々のヌードルヒースに切断した。
次に個々の片は流動層乾燥機に運搬し、2分間125゜Fの流動空気に個々の片を暴露することにより乾燥ヌードルの重量基準で約20重量%の水分含量まで乾燥した。流動循環空気は熱流動層に片を移動するために利用した。細孔構造は約16秒450°Fの空気にヌードルを暴露することにより割送り流動層で発現した。内部膨化ヌードル片は環境空気中で再び流動化させ、微冷却した。
内部膨化ヌードル片は上記方法の完了後約10%の水分含量を有した。ヌードル片は30分150゜Fの温度で空気を循環することによりWyssmont乾燥機でさらに乾燥した。このように処理したヌードルの水分含量は5%であった。
最終ヌードルは6オンスの沸騰水に12gのヌードルを再水和することにより試験した。これらの再水和ヌードルは約3分以内で官能的に満足できるものであった。試料はチキンフレーバスープベースおよびチキン肉とヌードルを混合することにより調製し、この媒体に満足できる再水和を確保した。」(8頁左上欄10行~左下欄16行)
イ 甲11
(ア)「乾燥製品は、すみやかに水で加熱調理することができる。」(2頁3欄25~26行)
(イ)「このように、本発明方法によるすみやかに加熱調理しうるペースト組成物の代表的例は、・・・次に、成形ペースト製品が最終的に5乃至約12%の水分含有率になるように、空気で乾燥することによりつくられる。この成形したドウの乾燥は常法に従い室温乃至149℃(300°F)で行うことができる。65.6~149℃(約150~300°F)で約5~120分間乾燥しても良く、この場合には同時にこのペースト製品中の殿粉が少なくとも部分的に糊化する。高温乾燥のための別の方法として、この製品中の殿粉の糊化を水蒸気または水による加熱調理、または加熱ジャケット付き押出機の使用によるなどのような押出し処理前、その間、またはその後に実施することができ、またはこの製品配合物に使用されるとうもろこし粉を予めあるいはドウ形成工程中に部分的に糊化することもできる。」(2頁3欄35行~4欄13行)
(ウ)「本発明によりつくられるパスタ製品は容易にかつすみやかに、加熱調理して食べることができる。」(3頁5欄16~17行)
(エ)「この組成物中の澱粉のすべてを糊化することもできるが、最良の結果はこの組成物中の澱粉の約10~75%を糊化する程度に限定する場合に得られる。」(4頁8欄38行~41行)
(オ)「糊化の程度を制御するのに用いる方法は周知であり、これは本発明の一部をも構成するものではない。」(5頁9欄9~11行)
ウ 甲12
(ア)「特許請求の範囲
1.原料小麦に対し粉末かん水0.1~0.4重量部及び通常のラーメン材料が添加されていて、麺水分20~40%であり、α化度30~60%で、比容積75cc以下とし、麺線は、通常の生ラーメンの太さであって、茄で時間が2分以内で可食状態となることを特徴とする茄でこぼしを必要としない生ラーメン。」(1頁左欄4行~12行)
(イ)「通常生ラーメンとは、小麦粉に水、塩、かん水等を加え混練して麺生地を造り、これを麺帯にして順次薄くした上、適宜の太さの麺線にして出来たものを乾燥させたり、茹でたり、蒸したり、油揚げしないもののことであり、これを従来は調理するとき、麺を茹でる湯と、スープに用いる湯を別々に仕度しなければならず、繁雑であるばかりでなく、燃料その他に不経済でもあった。」(1頁右欄7~14行)
(ウ)「そこで、本発明者は茹で湯をそのままスープ用に用いても美味しく食することのできる生ラーメンの製造方法につき鋭意研究した結果、本発明を完成したものである。
即ち生ラーメンの製造工程において、麺生地もしくは、麺帯を膨張させることなく、麺生地もしくは麺帯中の澱粉の一部を糊化膨潤せしめ、麺帯中に含まれている空気を外部に除去せしめ、麺の密度を高めることにより、調理の際茹で溶けの少ない麺、すなわち茹で湯をそのままスープに用いることのできる生ラーメンが得られるという知見を得て本発明に到達したのである。」(1頁右欄18行~2頁左上欄9行)
(エ)「また澱粉の一部はα化されているので調理に際し茹で時間が短くてすむので茄で湯への麺からの溶出量が少なく、食味が良好である。」(4頁右上欄2~5行)
エ 甲13
(ア)「特許請求の範囲
1 小麦粉を主体とし、水分含有率が25~35重量%の混和物を予備蒸煮し、次いで該蒸煮混和物を適宜な形状に成型した後、必要に応じて該成型物の表面に水を付着し更に蒸煮した後乾燥する事を特徴とする即席マカロニ類の製造法。
・・・
3 予備蒸煮は前記混和物のα化度を60~80%になるまで行なう特許請求の範囲第1項記載の製造法。
・・・
5 蒸煮は前記成型物のα化度を少なくとも93%になるまで行なう特許請求の範囲第1項記載の製造法。」(1頁1欄18~34行)
(イ)「発明の詳細な説明
本発明は麺相互間の結着、膠着並びに型くずれがなく、均一な多孔質構造を有し、しかも喫食時に熱水による復元が容易にして良好の食感、風味を呈し、更に長期保存性を有する即席マカロニ類の製造法に関するものである。」(1頁2欄2~7行)
(ウ)「予備蒸煮し、該混和物のα化度を60~80%にする事により混和物中に含有する蛋白質の熱変性に伴なうグルテンの網目構造の固定化が起り、糊化された澱粉の溶出が阻止される」(2頁3欄17~21行)
(エ)「更に蒸煮して成形物のα化度を少なくとも93%、好ましくは95~98%になるまでα化した後乾燥する事によって製品を得る。」(3頁5欄25~27行)
(オ)「この様に即席性を向上させるために再度蒸煮しても蒸煮時に糊化された澱粉の溶出が再起されないので成型物相互間の結着、膠着もなく、又型くずれも生起せずに均一にα化され、その後乾燥する事により均一な形状を有する多孔質構造の即席マカロニ類を得る事が出来る。又乾燥条件は・・・又乾燥時麺線を膨化させる必要がある場合には通常115~150℃の温度で実施する事が望ましい。更に乾燥時間は特に限定されないが通常1.5~5分間程度である。乾燥方法は熱風加熱、赤外線加熱、マイクロ波加熱等を単独又は組合せて実施すればよい。」(3頁6欄7~22行)
オ 甲14
(ア)「通常の製法で製造された手延べうどん・・・のゆで試験を行い、ゆで麺の水分含量の変化を経時的に測定した。」(32頁右欄15行~33頁2行)
(イ)「麺のゆであがり時間を支配するのは、原料及び麺の製造工程によって形成される麺の微細構造とその変化であると考えられる。」(33頁17~19行)
(ウ)「ゆでる前の手延べうどんの断面(写真1-1)はグルテンの編み目構造と球状の澱粉粒子が複雑に絡み合った構造をとっているが、そのあちこちにトンネル状の空隙が観察された。」(33頁25~29行)
(エ)「よって、麺のゆで時には水は麺の表面だけでなく、麺内部の空隙からも浸透するのではないかと考えられた。
澱粉粒子の糊化には、熱だけでなく水が浸透することが必要であるので、麺内部の空隙の制御、例えば空隙の表面積を大きくすることが麺のゆであがり時間の短縮につながるのではないかと考えられた。」(33頁41行~34頁4行)
カ 甲15
(ア)「手延べ法により製造された稲庭うどん14種類・・・を使用した。」(91頁左欄19~22行)
(イ)「稲庭うどんその他の乾めんを折り、横断面を日立走査型電子顕微鏡S-2460N型により観察した(加速電圧20kV、倍率40-100)。得られた画像から空隙の直径を測定し、直径とその出現頻度から、稲庭うどんの断面1mm2当たりの空隙率(%)を算出した。」(91頁右欄23行~92頁左欄1行)
(ウ)「2.SEMによる稲庭うどんの断面観察
・・・タンパク質含量の異なる3種類の稲庭うどん(乾めん)の空隙の長径を測定し、その分布を調べた結果をFig.5に示す。タンパク質含量が10.3%の稲庭うどん(熊谷麺業)の断面1mm2当たりには43個の空隙が観察され、平均長径は27μmであった(Fig.5A)。・・・タンパク質含量が9.6%の製品では空隙数は46個であったが、平均長径が36μmと大きくなった(Fig.5B)。佐藤養助商店の製品は、空隙の平均長径が36μmであり、空隙数は90個と多く認められた(Fig.5C)。」(92頁左欄22~33行)
(エ)「ナンバーワン素麺、竿灯の横断面には空隙が認められなかった。11種類の稲庭うどんには程度の差はあれ空隙が認められた」(92頁左欄40~42行)
(オ)「茄で麺を噛む場合、先ず麺の表面の硬さ(H1)を認識し、麺を切る段階で全体の硬さ(H2)を認識するので、それらの比(H2/H1)は麺の「こし」を表現していると著者らは考えている。」(92頁右欄1~4行)
(カ)「これらの硬さの差異を説明するために、稲庭うどんには空隙が存在しその空隙がゴムまりのように作用している、と推定した。」(94頁左欄24~26行)
(キ)「空隙率が大きくなると、H1とH2の差やその比(H2/H1)も次第に大きくなる(Fig.6)。しかし空隙率が約10%を超えるとH2/H1が幾分低下するという傾向が見られた(Fig. 6)。」(94頁右欄5~8行)
(ク)Table1には、NDを除き、稲庭うどんの空隙率の測定結果が1.37~11.38%であることが示されている。
キ 甲16
(ア)「「稲庭うどん」・・・このうどんの特徴は、茹で上がりが早く、煮崩れせず、乳白色のつるつるした光沢を持つこと等である。」(547頁左欄31~36行)
(イ)「乾めんを折り、断面を実体顕微鏡(オリンパス、SZH-10)で観察した。・・・稲庭うどんの横断面には、様々な穴があり、穴の大きさに製造会社の違いが認められた。横断面にある穴(Fig.1A)は、縦方向に伸びている様子が観察された(Fig.1B)。しかし、揖保の糸、三輪素麺、白石そうめん、及びナンバーワンうどんには、これらの気泡が観察されなかった。」(547頁右欄17行~548頁左欄8行)
(ウ)「手延べ素麺(揖保の糸、三輪素麺)と稲庭うどんの製造工程での相違は、油使用の有無、生地の熟成温度と時間、乾燥場所(室内と屋外)、麺線の太さである。稲庭うどんの場合、熟成した太めの麺線を、室内で、時間を掛けて乾燥させると、大きい気泡が形成される傾向があった。このことから、気泡形成は微生物活動によるものと推察される。」(548頁左欄9行~右欄5行)
ク 甲17
(ア)「稲庭うどんの横断面には、数は少ないが大きな(100μm前後)空隙と40μm前後の小さな空隙が混在していた(写真、図1)。稲庭素麺にも15μm程度の空隙があった。10μm以下の微細な穴は、白石温麺(図2)、三輪素麺、ナンバーワン素麺にも認められた。100μm前後の大きな空隙は、稲庭うどんにしか存在せず、稲庭うどんの特徴と考えられた。」(58頁13~17行)
ケ 甲18
(ア)「【0005】
本発明者等は、上記目的を達成すべく種々検討した結果、βグルカン含有麺線生地において、気泡の数と大きさを一定範囲に調整することで、食感を改善できることを知見した。
本発明は、上記知見に基づいてなされたもので、横断面において、外周が20μm以上500μm以下の空隙を10~200個/mm2含有し、且つ、該空隙面積の合計が、横断面積の0.5~3.5%であることを特徴とするβグルカン含有麺線生地を提供するものである。」
(イ)「【0014】
本発明の麺線生地は、横断面において、外周が20μm以上500μm以下の空隙を10~200個/mm2、好ましくは20~100個/mm2、より好ましくは30~50個/mm2含有するものである。ここで、外周が20μm以上500μm以下の空隙が10個/mm2未満であると、得られる麺類食品の食感が硬くなってしまい、200個/mm2を超えると、得られる麺類食品の歯切れ感が強くなり、コシとノド越しが共に良好である食感とならない。
【0015】
また、本発明の麺線生地は、上記空隙面積の合計が、横断面積の0.5~3.5%、好ましくは0.8~3.0%、より好ましくは1.0~2.5%である。上記空隙面積の合計が、横断面積の0.5%未満であると、得られる麺類食品の食感が硬くなってしまい、3.5%を超えると、得られる麺類食品の歯切れ感が強くなり、コシとノド越しが共に良好である食感とならない。
なお、横断面とは、麺線生地の長さ方向に対して直角に切断した際の断面のことを指す。
【0016】
また、本発明の麺線生地は、外周が20μm未満の空隙や、外周が500μmを超える空隙を含有するものであってもよいが、外周が20μm未満の空隙を多く含有すると、麺類食品にするために加熱する際に澱粉の糊化が十分おこなわれず、コシのある食感とならないおそれがあるため、外周が20μm未満の空隙は、200個/mm2未満であることが好ましく、また、外周が500μmを超える空隙を多く含有すると、割れやすい麺線生地となってしまうおそれがあるため、5個/mm2未満とすることが好ましい。」
(ウ)「【0026】
また、本発明の麺線生地の形態としては、生麺、半生麺、乾麺、揚げ麺、即席麺のどの形態であってもよいが、上記空隙が安定して生成し、且つ、固定することができる点で、水分含量が7~20質量%であることが好ましく、良好なノド越しの麺類食品を得ることができる点で水分含量が7~20質量%である半生麺または乾麺であることが好ましい。」
(エ)「【0029】
なお、より良好なコシとノド越しを有する麺類食品を得るためには、上記麺線生地を得るための工程中に、好ましくは10~60℃、より好ましくは20~40℃で、好ましくは10~40時間、より好ましくは15~30時間の熟成工程を1回または2回以上行なうことが好ましい。
なお、乾麺や半生麺の形態とする場合においては、よりノド越しの良好な食感の麺類食品を得るためには、該熟成工程に加え、その乾燥工程においても、麺線生地の表面と内部の水分含量をできるだけ均一に仕上げるために、好ましくは10~50℃、より好ましくは20~40℃で、好ましくは10~50時間、より好ましくは15~40時間の乾燥工程を1回または2回以上行なうことが好ましい。」
(オ)「【0031】
次に本発明の麺類食品について述べる。
本発明の麺類食品は、上記の本発明の麺線生地を、茹でる、蒸す、揚げるなどの方法によりその麺線生地中の穀粉類を糊化させることによって得られるものであり、コシがあり、且つ、ノド越しが良好であるという特徴を有するものである。その麺類食品の種類としては特に限定されず、うどん、そうめん、冷麦、中華麺、そば、パスタ、沖縄そばなど一般的な麺類食品を挙げることができる。得られた麺類食品は再び乾燥工程を通して、即席麺としてもよいし、また、冷凍して冷凍麺としてもよい。」
(カ)「【0034】
〔実施例1〕
市販の小麦粉(日本製粉製:中力粉 粗蛋白質含量10%)1kg、上記サンプルAのβグルカン10g、食塩55g、水580gを加えて混合して麺類生地を作り、この麺類生地をさらに引き伸ばして厚さ3mmの麺帯生地とする工程中に、20℃1時間の熟成工程を3回おこなった。次いでこの麺帯生地を更に引き伸ばし、乾燥させて、麺線生地とする工程中に、20℃2時間の熟成工程を2回おこなった。なお、乾燥工程については、20℃36時間の乾燥工程を行った後、40℃2時間の乾燥工程をおこなった。得られた本発明の麺線生地は、水分含量が12%の乾麺の形態であり、βグルカンを穀粉類100質量部に対し0.7質量部含有し、横断面の断面積は2.0mm2、幅2mm、厚さ1mmの方形であった。
得られた本発明の麺線生地の横断面を顕微鏡で観察したところ、外周が20μm以上500μm以下の空隙を50個/mm2含有し、且つ、上記空隙面積の合計が、横断面積の0.8%であった。なお、外周が20μm未満の空隙の個数は200個/mm2未満であり、また、外周が500μmを超える空隙の個数は12個/mm2であった。
この麺線生地を100℃の湯で4分間茹で上げてうどんを作ったところ、コシ、ノド越しが共に極めて優れていた。
【0035】
〔実施例2〕
実施例1における麺線生地とする工程中の熟成工程を、20℃2時間の熟成工程を2回と20℃20時間の熟成工程を1回に変更した以外は、上記実施例1と同様の配合・製法で麺線生地を製造した。その横断面を顕微鏡で観察したところ、外周が20μm以上500μm以下の空隙を50個/mm2含有し、且つ、上記空隙面積の合計が、横断面積の2%であった。なお、外周が20μm未満の空隙の個数は200個/mm2未満であり、また、外周が500μmを超える空隙の個数は3個/mm2であった。
この麺線生地を100℃の湯で4分間茹で上げてうどんを作ったところ、実施例1のうどんに比べ更にコシ、ノド越しが良好であった。
【0036】
〔比較例1〕
上記サンプルAのβグルカンを配合しない以外は、上記実施例1と同様の配合・製法で麺線生地を製造した。その横断面を顕微鏡で観察したところ、外周が20μm以上500μm以下の空隙を5個/mm2含有し、且つ、上記空隙面積の合計が、横断面積の0.3%であった。なお、外周が20μm未満の空隙の個数は200個/mm2未満であり、また、外周が500μmを超える空隙は10個/mm2であった。
この麺線生地を100℃の湯で4分間茹で上げてうどんを作ったところ、実施例1のうどんに比べコシが明らかに弱く、ノド越しも劣るものであった。」
(2) 甲10~13に記載された発明について
請求人は、甲10~甲13から、本件発明1の糊化度30~75%かつ多孔質構造を有する乾麺及びその効果(澱粉の溶出の抑制(ぬめりの抑制、のど越しがよい食感))が周知であると主張する(審判請求書92頁末行~94頁4行の「○2周知技術の単なる寄せ集め」の項)。
しかしながら、甲10及び甲13は蒸煮工程を有する乾燥麺についてのものであり、甲12は生ラーメンについてのものであるから、これらのものは、本件発明の「(蒸煮工程を有しない)乾麺」に関する周知の事項の基礎とすることはできないし、また、前提となる技術が相違していることから、本件発明1は、甲10、甲12又は甲13に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものとすることはできない。
一方、甲11は、多孔質構造であるかは明らかでないが、蒸煮工程を有しない乾麺である。
そうすると、甲10~甲13のうち、本件発明1の「乾麺」に関する技術的事項が記載されているのは甲11のみであり、甲11には、「ドウを65.6~149℃の高温空気で約5~120分間乾燥すると部分糊化が生じて、糊化度を約10~75%にでき、すみやかに水で加熱調理して食べることができるパスタ製品。」の発明(以下「甲11発明」という。)が記載されている。
(3) 本件発明1と甲11発明との対比・判断
ア 対比
本件発明1と甲11発明とを対比すると、甲11発明の「パスタ製品」は、ドウを乾燥させて得られたものであるところ、本件発明1の「乾麺」に相当する。そして、甲11発明は、パスタ製品の製造過程において、部分糊化を生じさせたものであるところ、甲11発明の「部分糊化が生じて」「糊化度を約10~75%にでき」る「パスタ製品」と本件発明1の「30%~75%の糊化度」「を有した乾麺」とは、「糊化が生じている乾麺」という限りにおいて一致する。
よって、本件発明1と甲11発明とは、「糊化が生じている乾麺」である点で一致し、以下の点で一応相違する。
(相違点1)
糊化が生じている程度について、本件発明1は、30%~75%の糊化度であるのに対して、甲11発明は、糊化度を約10~75%にできるとしている点。
(相違点2)
麺の断面の構造について、本件発明1は、麺の断面積の空隙率が0.1%以上15%以下であり、麺の断面積の単位空隙率が0.01%以上1%以下であるのに対して、甲11発明は、その点の構造は明らかでない点。
イ 判断
まず、上記相違点1について検討すると、甲11発明の糊化度「10~75%」は、本件発明1の糊化度「30%~75%」とは、糊化度30%以上の範囲において重複する。
ここで、麺を水で加熱調理する(ゆでる)こととは、麺中の澱粉を(完全に)糊化させる工程であって、糊化度の高い麺ほど、水による加熱調理時間(ゆで時間)が短くて済むことは当業者の技術常識である。
よって、甲11発明が「すみやかに水で加熱調理して食べることができるパスタ製品」であることを踏まえると、甲11発明において調整し得る糊化度の範囲のうち、「すみやかに水で加熱調理して食べることができる」、すなわち、調理時間が短くて済む、高めの糊化度に調整すべく、具体的に30%~75%の範囲に調整しようとする程度のことは、当業者であれば容易になし得ることである。
次に、上記相違点2について検討する。
甲14~甲18には、本件発明1と同様、いずれも蒸煮工程を有しない多孔質構造の乾麺が示されているところ、その断面形状は、甲14~甲17の断面写真、甲15、甲17の空隙分布図及び甲18の実施例2を参照すると、本件特許明細書の【図1】(b)のような大きな空洞を有せず、切断面全体に亘り多孔を有するものと認められる。よって、甲14~甲18には、いずれも「大きな空洞を有せず、切断面全体に亘り多孔を有する多孔質構造の乾麺。」の発明(以下「甲14~18発明」という。)が記載されており、上記「1-2-1(1)ウ」で検討したとおり、大きな空洞を有せず、切断面全体に亘り多孔を有する多孔質構造の乾麺である甲14~18発明は、本件発明1の空隙率(P)及び単位空隙率(M)の数値範囲が広範囲であることも考慮すれば、空隙率(P)が0.1≦P≦15%、単位空隙率(M)が0.01≦M≦1%を満たすものである蓋然性が高い。そして、甲14の「麺内部の空隙の制御、例えば空隙の表面積を大きくすることが麺のゆであがり時間の短縮につながる」という記載や、同様の断面形状を有する多孔質構造の乾麺である甲1発明、甲2発明の効果を参照すると、甲14~18発明は、麺としての食感を維持しつつ、調理時間(復元時間、ゆで上がり時間)の短縮するという効果を奏するものであることが把握される。
そうすると、甲11発明と甲14~18発明とは、いずれも「蒸煮工程を有しない乾麺について調理時間を短縮する」技術である点で軌を一にするものであるから、当業者にとって、蒸煮工程を有しない乾麺を製造するにあたり、甲11発明に甲14~18発明を適用しようとする動機は存在する。
そして、甲11発明において糊化度を高めるために行われる高温空気による乾燥処理工程は、例えば甲2(上記「1-1(2)」参照)に示されるように生麺を微細多孔質構造とし得る乾燥処理工程と同程度の条件でなされており、高温空気による乾燥処理工程を行うことで、麺の糊化とともに多孔質構造が形成されることも例えば甲1(上記「1-1(1h)」参照)にみられるように周知の技術的事項であることを踏まえれば、高温空気による乾燥処理工程の温度や時間などを適宜に設定することで、甲11発明の「糊化度」を達成しつつ甲14~18発明の「多孔質構造」も実現し得ることは当業者であれば容易に理解し得るものであるし、その作用効果も当業者の予測し得る範囲のものである。
よって、本件発明1は、甲11発明及び甲14~18発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものである。
2-1-2 無効理由2-ア-2について
(1) 甲1発明、甲2発明及び甲3発明並びに甲11記載の周知技術について
甲1発明、甲2発明及び甲3発明は、それぞれ上記「1-2-1(1)ア」及び「1-2-1(2)ア」、上記「1-2-1(3)ア」に示したとおりのものである。
また、上記「1-2-1(1)ウ」に示したとおり、甲11の記載から、生麺体を高温空気で乾燥することにより部分糊化を生じさせる得ることは当業者の技術常識であったといえる。
(2) 判断
本件発明1と甲1発明及び甲2発明との対比・判断は、それぞれ上記「1-2-1(1)イ及びウ」及び「1-2-1(2)イ及びウ」に記載したとおりであって、本件発明1と甲1発明及び甲2発明との一応の相違点である具体的な糊化度に関する判断については甲11記載の上記周知技術を参酌している。
上記「1-2-1(1)イ及びウ」及び「1-2-1(2)イ及びウ」において、上記一応の相違点は、実質的な相違点ではないとしたが、糊化度についての一応の相違点が実質的な相違点であるとしても、糊化度の具体的な調整は甲11記載の上記周知技術を参酌し、乾燥処理温度や時間を適宜に設定することで、当業者が容易になし得ることである。
また、空隙率(P)及び単位空隙率(M)についての一応の相違点も、甲1発明及び甲2発明における空隙率(P)及び単位空隙率(M)は当該数値範囲を満たす蓋然性が高いとし、実質的な相違点ではないとしたが、空隙率(P)及び単位空隙率(M)についての一応の相違点が、実質的な相違点であるとしても、本件発明1の空隙率(P)及び単位空隙率(M)の数値範囲が広範囲であることも考慮すれば、甲1発明及び甲2発明において、麺としての食感を維持しつつ、調理時間(復元時間)を短縮するという効果を奏するような微細な多孔質構造を形成するにあたり、当業者が容易に調整し得る範囲のものであるといえる。このことは、甲1発明及び甲2発明の再現実験である甲25の「試験A-1」及び「試験A-2」の「空隙率」及び「単位空隙率」の評価結果が、いずれも本件発明1の数値範囲にあることからも裏づけられる(上記「1-1(5l)、(7a)」参照)。
そうすると、本件発明1は、甲11記載の上記周知技術を参酌して、甲1発明又は甲2発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものということができる。
一方、甲3発明はβ澱粉を完全にα化させたものであるから、少なくとも糊化度の点で本件発明1とは相違する。そして、甲3発明においてβ澱粉を完全にα化することが甲3における課題の解決手段であるところ、甲3発明においてβ澱粉を完全にα化させないこと、すなわち本件発明1程度の糊化度とすることは、甲3が解決しようとする課題に反することであるから、そのようにする動機づけは存在しない。
よって、本件発明1は、甲11記載の上記周知技術を参酌しても、甲3発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものとすることはできない。
2-1-3 まとめ
以上のとおり、本件発明1は、甲11発明及び甲14~18発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、又は、甲11記載の上記周知技術を参酌して、甲1発明若しくは甲2発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法29条2項の規定により特許を受けることができないものであり、その特許は同法123条1項2号に該当し、無効とすべきである。
2-2 本件発明2について
2-2-1 無効理由2-イ-1について
(1) 甲1’発明
上記「1-1(1a)~(1k)」の記載及び上記「1-2-1(1)ア」を参照すると、甲1には、
「常法により角18番の切刃を使用して製造した生麺線(水分約30%)を60℃の熱風で水分17%に調整した後、190℃6m/秒の高温気流で10秒間処理して、麺線内部を微細な均一多孔質体の組織とし、糊化が生じるようにした、油を全く使用しない、乾燥ひやむぎを製造する方法。」
の発明(以下「甲1’発明」という。)が記載されている。
(2) 本件発明2と甲1’発明との対比・判断
本件発明2と甲1’発明とを対比すると、甲1’発明の「乾燥ひやむぎ」は、本件発明2の「乾麺」に相当し、甲1’発明の「常法により角18番の切刃を使用して製造した生麺線」は、主原料を含んだ麺生地から形成していることが明らかであるから、本件発明2の「主原料」「を含む麺生地から形成した生麺体」に相当する。
また、甲1’発明の「190℃6m/秒の高温気流で10秒間処理して、麺線内部を微細な均一多孔質体の組織とな」ることと、本件発明2の「90℃~150℃で発泡化」とは、「高温気流で発泡化」する点において共通する。
また、甲1’発明の「糊化が生じるようにした」「乾燥ひやむぎ」と、本件発明2の「最終糊化度が30%~75%の糊化度を有する乾麺」とは、「糊化が生じるようにした乾麺」である点において共通する。
よって、本件発明2と甲1’発明とは、「主原料を含む麺生地から形成した生麺体を高温気流で発泡化および乾燥することを具備し、糊化が生じるようにした乾麺の製造方法。」である点で一致し、以下の点で相違する。
(相違点1)
本件発明2は、麺生地に主原料の総重量に対して0.5重量%よりも大きく6重量%未満の100%油由来の粉末油脂を含むのに対して、甲1’発明は、油を全く使用しないものである点。
(相違点2)
高温気流の条件に関して、本件発明2は、90℃~150℃としているのに対して、甲1’発明は、190℃6m/秒で、10秒間としている点。
(相違点3)
本件発明2は、最終糊化度が30%~75%の糊化度を有するようにしているのに対して、甲1’発明は、具体的な糊化度をどのようにしているかは明らかでない点。
そこで、まず、上記相違点3について検討すると、上記「1-2-1(1)ウ」に示したとおり、甲1’発明の乾燥ひやむぎの糊化度は30%~75%の範囲にある蓋然性が高いといえるから、実質的な相違点とはならない。
次に、上記相違点2について検討すると、高温気流の具体的な温度条件は、高温気流により麺生地を発泡化させて、麺線内部が微細な均一多孔質体の組織となる範囲において当業者が適宜に選択し得るものであるから、甲1’発明の190℃と同等の発泡化を生じさせ、多孔質構造の乾麺が得られる温度条件である90℃~150℃とする程度のことは、当業者が容易に採用し得た設計的事項である。
そして、上記相違点1について検討する。
甲1’発明は、「(3)の油揚げ乾燥麺は2~3分で早く復元するが、湯のびしやすく、かなりの油を含んでいるため長時間保存すると、酸化して品質が劣化してくる」(上記「1-1(1b)」)という問題の解決を1つの課題として、油を全く使用しないものとし、「保存面においても油を全く使用しないので、酸化のおそれがなく長期保存に耐えられ、かつ工業的にも生産し易くコスト的にも安くできあがる等の利点がある。」(上記「1-1(1i)」)という効果を奏するものである。そうすると、甲1’発明において「麺生地に主原料の総重量に対して0.5重量%よりも大きく6重量%未満の100%油由来の粉末油脂を含む」ようにすることは、上記課題に反することであり、そのようにする動機づけを見出すことはできない。また、たとえ甲4記載のように粉末油脂を麺に添加することが乾燥麺製造の技術分野における周知技術であったとしても、当該周知技術の適用には阻害事由がある。
よって、上記相違点1は、甲4記載の周知技術に基いて、当業者が容易に想到し得るものではない。
よって、本件発明2は、甲1’発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものとすることはできない。
2-2-2 無効理由2-イ-2について
(1) 甲4’発明
上記「1-1(4a)~(4k)」の記載及び上記「1-2-1(4)ア」を参照すると、甲4には、
「小麦粉1kgに固型状脂肪酸モノグリセライド30gを添加し、均一に混合した後、水350mlに食塩30gを加えた混合液を加え、充分練り上げた後、常法により製めんしロールにより1.4m/mに圧延し、#10角でめん線とした後乾燥する、乾めんの製造方法。」
の発明(以下「甲4’発明」という。)が記載されている。
(2) 本件発明2と甲4’発明との対比・判断
本件発明2と甲4’発明とを対比すると、甲4’発明の「乾めん」は、本件発明2の「乾麺」に相当し、甲4’発明の「小麦粉1kgに固型状脂肪酸モノグリセライド30gを添加し、均一に混合した後、水350mlに食塩30gを加えた混合液を加え、充分練り上げた後、常法により製めんしロールにより1.4m/mに圧延し、#10角でめん線とした」工程は、本件発明2の「主原料」「を含む麺生地から」「生麺体」を「形成した」工程に相当する。
よって、本件発明2と甲4’発明とは、「主原料を含む麺生地から形成した生麺体を乾燥することを具備した乾麺の製造方法。」である点で一致し、以下の点で相違する。
(相違点1)
本件発明2は、麺生地に主原料の総重量に対して0.5重量%よりも大きく6重量%未満の100%油由来の粉末油脂を含むのに対して、甲4’発明は、そのような油脂を含むものではない点。
(相違点2)
本件発明2は、生麺体を90℃~150℃で発泡化しているのに対して、甲4’発明は、その点については明らかでない点。
(相違点3)
本件発明2は、最終糊化度が30%~75%の糊化度を有するようにしているのに対して、甲4’発明は、具体的な糊化度がどのようになっているかは明らかでない点。
そこで、まず、上記相違点1について検討すると、甲4には、固型状脂肪酸モノグリセライド等の食品用乳化剤と同等の材料として、固型状の食品用油脂(本件発明2の「100%油由来」の「油脂」)を用い得ることが記載されており、当該固型状の食品用油脂は粉末または粒状であることが好ましいこと、添加量を0.2%~15%とすることも記載されている(上記「1-1(4d)及び(4e)」参照)。そうすると、甲4’発明の固型状脂肪酸モノグリセライドに代えて、固型状の粉末状の食品用油脂を用いること、及びその添加量を0.2%~15%とすることは当業者が容易になし得ることといえる。よって、上記相違点1において本件発明2のようにすることに格段の困難性は認められない。
次に、上記相違点2について検討する。
甲4’発明において、「めん線」をどのように乾燥させているかは甲4には何ら示されていないために、当該「めん線」が発泡化しているのかどうか分からず、得られた「乾めん」の具体的な構造・物性値についても特定できるような記載もない。
一方、甲1~甲3から、生麺体を高温熱風で乾燥することにより多孔質構造の乾麺が得られることは周知技術であるといえるが、甲1~甲3記載の上記周知技術は、いずれも生麺体に粉末油脂等を含まない生麺体に対してのものであるから、甲4’発明において、固型状脂肪酸モノグリセライドに代えて粉末油脂を用いることができたとしても、粉末油脂が添加された生麺体から乾めんを製造するにあたり適用し得る周知技術であるとはいえない(むろん、固型状脂肪酸モノグリセライドが添加された生麺体から乾めんを製造するにあたって適用し得る周知技術であるともいえない。)。
よって、上記相違点2は、甲1~甲3記載の上記周知技術に基いて、当業者が容易に想到し得るものではない。
そして、上記相違点3について検討する。
甲4’発明の「乾めん」は、上記のとおり、甲4に具体的な構造・物性値が特定できるような記載はなく、したがって、その具体的な糊化度も不明である。
一方、甲11には、生麺体を高温空気で乾燥すると部分糊化を生じさせ得るという周知技術が記載されているものの、甲1~甲3の上記周知技術と同様、生麺体に粉末油脂等を含まない生麺体に対してのものであるから、甲4’発明に適用し得る周知技術であるとはいえない。また、甲10及び甲13は蒸煮工程を有する乾燥麺についてのものであり、甲12は生ラーメンについてのものであるから、これらのものも甲4’発明に適用することはできない。
よって、上記相違点3は、甲10~甲13記載の周知技術に基いて、当業者が容易に想到し得るものではない。
よって、本件発明2は、甲4’発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものとすることはできない。
2-2-3 無効理由2-イ-3について
(1) 甲19発明
本件特許の出願前に頒布された刊行物である甲19には以下の事項が記載されている。
ア 「【特許請求の範囲】
・・・
【請求項3】
主原料と、粒子径0.15mm以上の油脂又は/および乳化剤とを少なくとも含む麺原料と、水を混捏して得た混合物から麺線を作成し、該麺線を蒸煮し、次いで、熱風により膨化乾燥することを特徴とする即席麺の製造方法。
・・・
【請求項5】
前記主原料が小麦粉である請求項3または4に記載の即席麺の製造方法。
・・・
【請求項9】
前記粉末粒状の油脂または乳化剤の添加量が、小麦粉に対して、0.5~5%である請求項3~8のいずれかに記載の即席麺の製造方法。
・・・
【請求項11】
前記即席麺が、熱風の温度50℃~160℃、風速1~25m/sの範囲の熱風を単独もしくは組み合わせることにより乾燥される請求項3~10のいずれかに記載の即席麺の製造方法。」
イ 「【0018】
本発明の他の目的は、麺線の太さにかかわらず高温熱風乾燥の問題点であった「麺線の割れ」を解決できる即席麺、およびその製造方法を提供することにある。
【0019】
本発明の更に他の目的は、調理時の熱量の少ないスナック麺においても、「生麺のごとき粘弾性」を容易に実現できる即席麺、およびその製造方法を提供することにある。」
ウ 「【0023】
本発明者の知見によれば、上記構成を有する本発明においては、麺原料に球状又は/および粒状の、油脂又は/および乳化剤を添加することで、蒸し工程において、麺線内部の粉末粒状油脂または粉末粒状乳化剤が溶けることにより麺線内部および麺線表面に(適度なサイズの)穴を形成することにより、続く高温熱風乾燥工程において麺線内部の水分をスムーズに蒸発させて、麺線を乾燥することが出来るために、麺線の急激な発泡を防止することが可能となると推定される。この結果、麺線の割れ防止と、湯戻し後の良好な食感の両立(更には、生産性および経済性の両立)が可能となるものと推定される。
【発明の効果】
【0024】
上記構成を有する本発明によれば、麺線の太さにかかわらず、従来の高温熱風乾燥の問題点であった「麺線の割れ」を効果的に防止しつつ、湯戻し後の食感を良好にすることができる。」
エ 「【0030】
(高温熱風乾燥麺)
本発明の即席麺は、湯戻りの点からは、高温熱風乾燥麺であることが好ましい。ここに、「高温熱風乾燥麺」とは、その種類および製品形態に特に限定されない。本発明における「種類および製品形態」としては、例えば、中華麺、うどん、そば、パスタ等の煮込みタイプ、熱湯を注加して調理するタイプが好適に使用可能である。本発明は、調理時の熱量の少ないスナック麺タイプのうどん等の、麺線が著しく太いタイプである即席高温熱風乾燥麺において、特に製造適性および食感改良が有効である。」
オ 「【0041】
上記した油脂の種類としては、例えば、ラード、パーム油、大豆油、ヤシ油、ひまわり油、綿実油、コーン油、米ぬか油、菜種油、ごま油等を挙げることができる。それぞれ常法にしたがって水素添加を行うこと等により、油脂の融点を適宜コントロールすることが出来る。」
カ 「【0046】
(麺の製法)
本発明においては、上記した即席麺の製造方法は特に制限されない。例えば、主原料(例えば、小麦粉)と、粒子径0.15mm以上の球状又は/および粒状の、油脂又は/および乳化剤を少なくとも含む麺原料と、水とを混捏してドウを作成し、該ドウを製麺して麺線とし、該麺線を蒸煮した後、熱風により膨化乾燥することにより、即席麺を製造することが好ましい。
【0047】
(製造方法の一態様)
本発明の一態様においては、即席高温熱風乾燥麺は、主原料である小麦粉に配合し、必要により澱粉、食塩、かんすい、増粘多糖類の副原料を添加し、混捏して複合製麺した後、切刃にて麺線を切りだして生麺線とする。この生麺線を連続的に蒸しゃ又は茹で処理を行った後、乾燥用バスケットに一食ずつ成形充填し、その後、高温熱風乾燥処理することにより麺線を膨化乾燥し目的とする麺線を得ることができる。
・・・
【0053】
(本乾燥段階)
本発明においては、好ましくは温度110~145℃(更に好ましくは115~135℃)、好ましくは風速5~25m/s(更に好ましくは8~20m/s)に調整された熱風により麺線を乾燥させることが好ましい。本乾燥段階の所要時間としては、2~4分間乾燥させ、麺中の水分を7~14%にしながら麺線を発泡乾燥することが好ましい。
【0054】
この乾燥工程は、高温、高速の熱風により一気に麺中の水分を蒸発する工程である。その急激な蒸発により、麺の発泡状態を形成させる。ここで、温度が110℃未満であると発泡が起こり難くなる。他方、温度が145℃を越えると部分的に麺線に焦げを生じて商品価値を損なう傾向がある。風速が5m/s未満であると乾燥効率が悪くなる傾向がある。他方、風速が25m/sを越えると、工業的観点からエネルギー消費が増大する傾向がある。」
キ 上記ア~カの記載を総合すると、甲19には、
「主原料と、粒子径0.15mm以上の粉末粒状の油脂とを少なくとも含む麺原料と、水を混捏して得た混合物から麺線を作成し、該麺線を蒸煮し、次いで、熱風により膨化乾燥する、即席麺の製造方法であって、
前記主原料が小麦粉であり、
前記粉末粒状の油脂の添加量が、小麦粉に対して0.5~5%であり、
温度110℃~145℃、風速5~25m/sの範囲の熱風により乾燥する、
即席麺の製造方法。」
の発明(以下「甲19発明」という。)が記載されている。
(2) 本件発明2と甲19発明との対比・判断
本件発明2と甲19発明とを対比すると、甲19発明の「主原料」と「粉末粒状の油脂とを少なくとも含む麺原料と、水を混捏して得た混合物から」「作成」された「麺線」は、粉末粒状の油脂として100%油由来のものを用い得るから(上記「(1)エ」)、本件発明2の「主原料」と「100%油由来の粉末油脂とを含む麺生地から形成した生麺体」に相当する。
また、甲19発明の「前記粉末粒状の油脂の添加量が、小麦粉に対して0.5~5%であ」ることは、本件発明2の「前記主原料の総重量に対して0.5重量%よりも大きく6重量%未満の」「粉末油脂」を含むことに相当する。
また、甲19発明の「温度110℃~145℃」の「熱風により膨化乾燥する」ことは、本件発明2の「90℃~150℃で発泡化および乾燥する」ことに相当する。
そして、甲19発明の「麺線を蒸煮し、次いで」「乾燥する」「即席麺」と、本件発明2の「生麺体」を「乾燥する」「乾麺」とは、「乾燥麺」であるという限りにおいて一致する。
よって、本件発明2と甲19発明とは、「主原料と、前記主原料の総重量に対して0.5重量%よりも大きく6重量%未満の100%油由来の粉末油脂とを含む麺生地から形成した生麺体を90℃~150℃で発泡化および乾燥することを具備する、乾燥麺の製造方法。」である点で一致し、少なくとも以下の点において相違する。
(相違点)
本件発明2は、生麺体を(蒸煮工程なしに)乾燥する「乾麺」であるのに対して、甲19発明は、生麺体を蒸煮した上で乾燥する「即席麺」である点。
そこで、上記相違点について検討する。
甲19発明は、高温熱風乾燥の問題点であった「麺線の割れ」を解決すること、及び「生麺のごとき粘弾性」を容易に実現できる即席麺の製造方法を提供することを目的とするところ(上記「(1)イ」)、甲19には、粉末粒状の油脂が添加された麺原料に対して蒸し工程を行うことで、麺線内部の粉末粒状油脂が溶けることにより麺線内部および麺線表面に(適度なサイズの)穴が形成され、それに続く高温熱風乾燥工程において麺線内部の水分をスムーズに蒸発させて、麺線を乾燥することができるために、麺線の急激な発泡を防止することが可能となり、その結果、麺線の割れ防止と、湯戻し後の良好な食感の両立(更には、生産性および経済性の両立)が可能となるという効果が奏されることが示されているから(上記「(1)ウ」参照)、甲19発明において、粉末粒状の油脂が添加された生麺体に対して蒸煮した上で高温熱風乾燥を行う工程とすることには格別な技術的意義があり、甲19発明の課題を解決する手段として必要不可欠な技術的事項であるといえる。
そうすると、甲19発明に接した当業者にとって、粉末粒状の油脂が添加された生麺体の乾燥に際し、蒸煮工程を行わずに高温熱風乾燥を行うようにすることは、甲19発明の課題に反することであるから、そのようにする動機づけを見出すことはできない。また、甲1、甲22及び甲23にみられるように、たとえ乾燥麺製造の技術分野において生麺及び蒸し麺のいずれに対しても高温熱風乾燥を施すことが周知技術であったとしても、当該周知技術の適用には阻害事由がある。
よって、上記相違点は、上記周知技術に基いて、当業者が容易に想到し得るものではない。
よって、本件発明2は、甲19発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものとすることはできない。
2-2-4 まとめ
以上のとおり、本件発明2は、特許法29条2項の規定により特許を受けることができないものとすることはできず、その特許は同法123条1項2号に該当しない。
よって、本件発明2についての特許は、無効理由2により無効とすることはできない。
2-3 本件発明3~本件発明6並びに本件発明8~本件発明10について
本件発明3~本件発明6並びに本件発明8~本件発明10についての無効理由は、本件発明2の甲1、甲4又は甲19を主引例とした場合と同様の理由により無効とすべきとされるところ、上記「2-2」で述べたとおり、本件発明2は、甲1、甲4及び甲19のいずれを主引例としても無効とすることはできないものである。
よって、本件発明3~本件発明6並びに本件発明8~本件発明10は、特許法29条2項の規定により特許を受けることができないものとすることはできず、その特許は同法123条1項2号に該当しない。
よって、本件発明3~本件発明6並びに本件発明8~本件発明10についての特許は、無効理由2により無効とすることはできない。
2-4 本件発明7について
本件発明7についての無効理由は、本件発明1の乾麺は本件発明2の方法により製造できることから、本件発明7は、本件発明1と同様の理由により無効とすべきであるというものである。
しかしながら、本件発明7の「乾麺」には、本件発明2の製造法により、「主原料」と「100%油由来」の「油脂」とが成分に含まれていることは明らかであるから、本件発明7は、本件発明1とは、少なくとも「100%油由来」の「油脂」を含んでいる点において相違するものである。
そして、本件発明1に対する無効理由は、本件発明1が「油を含まない」ものであることを前提に判断されたものであるところ、「100%油由来」の「油脂」を含む点は、本件発明1に対する無効理由の根拠である、多孔質構造の制御に係る常套手段(甲1~甲9、甲19、甲23、甲24)、糊化度に係る甲10~甲13に記載された各発明、空隙率及び単位空隙率に係る甲14~甲18に記載された各発明、及び生麺を高温熱風乾燥する(油を含まない)甲1~甲3に記載された各発明から、当業者が容易に想到し得るものとはいえない。
よって、「100%油由来」の「油脂」を含む本件発明7は、本件発明1と同様の理由により無効とすることはできない。
よって、本件発明7は、特許法29条2項の規定により特許を受けることができないものとすることはできず、その特許は同法123条1項2号に該当しない。
よって、本件発明7についての特許は、無効理由2により無効とすることはできない。
3 無効理由3について
3-1 本件発明1及び本件発明7について
(1) 本件発明1及び本件発明7が、発明の詳細な説明に記載された発明で、発明の詳細な説明の記載により当業者が本件発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否かを検討する。
まず、本件発明1は、その特許請求の範囲に記載されるとおり「麺の断面積の空隙率が0.1%以上15%以下であり、麺の断面積の単位空隙率が0.01%以上1%以下であり、30%~75%の糊化度と多孔質構造とを有した乾麺」という、「物」の発明であり、そのような構造・物性を備えた乾麺は、本件特許明細書の【表1】記載の実施例(実施例12)及び【表2】記載の実施例(実施例1、実施例2-1-1、実施例2-2、実施例2-3)として記載されている。
そして、本件発明が解決しようとする課題は、「本発明の態様に従うと、簡単且つ短時間で良好に調理可能な乾麺・・が提供される。」(【0005】)であるところ、本件特許明細書に、
「【0039】
また、本発明の態様に従う乾麺は、多孔質構造を有しているので、茹で時間が短く、復元性と弾性に優れている。
【0040】
更に、従来の乾麺と異なり、本発明の態様に従う乾麺は、茹で戻し時のぬめりが抑制され、調理時に必ずしも麺を混ぜたり、水洗したりする必要はない。これは、乾燥時の熱で澱粉の糊化度が30%~75%となり、ぬめりの原因である澱粉の溶出が抑制されるためである。そして、ぬめりが抑制されているため、麺を水洗せずに湯をそのままスープとして使用可能である。」、
「【0110】
図3に示す通り、本発明に従う乾麺は、従来の何れの麺でも達成できなかった特徴を達成できた。即ち、従来の乾麺の特徴を持ちながら、即席麺(即ち、従来のノンフライ麺、従来のフライ麺)のような湯戻りの早さとしなやかな弾力を併せ持っていた。」
と記載されるように、本件発明1が備える構造・物性により上記課題が解決されることが理解できる。
したがって、本件発明1は、発明の詳細な説明に記載された発明で、発明の詳細な説明の記載により当業者が本件発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるといえる。
次に、本件発明7は、その特許請求の範囲に記載されるとおり「請求項2~6の何れか1項に記載の製造方法により得られた乾麺」の発明であって、「物」の発明であると解される。そして、本件特許明細書には、本件発明7に相当する、本件発明2に従って製造された乾麺の実施例が記載され(【0042】~【0060】)、当該実施例により、上記本件発明の課題が解決されることが記載されている(【0039】~【0040】、【0110】)。
したがって、本件発明7は、発明の詳細な説明に記載された発明で、発明の詳細な説明の記載により当業者が本件発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるといえる。
(2) 請求人は、本件発明1及び本件発明7は、独自のパラメ-タを規定することによって本件発明2によって得られるものを表現したにすぎず、本件発明2以外の方法で本件発明1及び本件発明7が得られると記載する文献はないが、甲25で示すように甲1~甲4の公知技術によっても得られるものであり、公知技術ならびに公知技術によって当然得られうるものまでも技術的範囲とする点で、本件特許明細書の記載の範囲を超えたものであると主張する。
しかし、本件特許明細書によれば、本件発明1は、本件発明2を使用することにより製造することができるものであることが理解できるが、上記のとおり、本件発明1の備える構造・物性により上記課題が解決されることが理解できる以上、その構造・物性がいかなる製造方法によるものであるかは本件発明1とは関係がなく、特許法36条6項1号のいわゆるサポート要件についての判断を左右するものではない。
また、仮に、本件発明1及び本件発明7が、公知技術ならびに公知技術によって当然得られうるものまでも技術的範囲とするものであるとしても、それは特許法29条の趣旨に照らして判断することはできても、サポート要件についての判断を左右するものではない。
よって、請求人の上記主張は、失当である。
(3) 以上のとおり、本件発明1及び本件発明7は、特許法36条6項1号に規定する要件を満たしているから、特許法123条1項4号に該当しない。
よって、本件発明1及び本件発明7についての特許は、無効理由3により無効とすることはできない。
3-2 本件発明2~本件発明6並びに本件発明8~本件発明10について
(1) 本件発明2~本件発明6並びに本件発明8~本件発明10は、いずれも本件発明2の「主原料と、前記主原料の総重量に対して0.5重量%よりも大きく6重量%未満の100%油由来の粉末油脂とを含む麺生地から形成した生麺体を90℃~150℃で発泡化および乾燥することを具備し」、「30%~75%の糊化度を有する」という発明特定事項を含む「乾麺の製造方法」の発明である点で共通するものであって、解決しようとする課題は、「本発明の態様に従うと、簡単且つ短時間で良好に調理可能な乾麺・・・の製造方法が提供される。」(【0005】)ことにある。
そして、本件特許明細書には、本件発明2~本件発明6並びに本件発明8~本件発明10に従って製造された乾麺の実施例が記載され(【0042】~【0060】)、当該実施例により、上記課題が解決されることが記載されている(【0039】~【0040】、【0110】)。
したがって、本件発明2~本件発明6並びに本件発明8~本件発明10は、発明の詳細な説明に記載された発明で、発明の詳細な説明の記載により当業者が本件発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるといえる。
(2) 請求人は、本件発明2、本件発明4~本件発明6、及び本件発明8~本件発明10は、比較例15~比較例20の記載からすると効果のない比較例をも技術的範囲に含む点で、本件特許明細書の範囲の記載を超えたものであり、また、本件発明2~本件発明6、及び本件発明8~本件発明10は、甲29及び本件特許明細書の記載態様に基づくと、本件特許明細書においては蒸煮工程を除外している一方で、本件特許の孫特許にあたる甲27の記載によれば、「生麺体」が文言上蒸煮工程を含む点で、本件特許明細書の範囲の記載を超えたものである、と主張する。
そこで、比較例15~比較例20についてみると、これら比較例15~比較例20は、本件発明2の技術的範囲に含まれるにもかかわらず、比較例とされているものであるが、それは、「白三角印(多孔質構造は形成されるが、外観に焦げが生じた条件)」又は「黒三角印(多孔質構造は形成されるが、外観に焦げがあり、更に過乾燥となった条件)」(【0106】)と評価されたものであって、外観に焦げが生じたことが「好ましくない」と判断されたからである(【0088】、【0091】、【0095】、【0098】)。
しかし、これら比較例15~比較例20は、その構造に着目すれば、いずれも多孔質構造が形成されるものであることから、「多孔質構造を有しているので、茹で時間が短く、復元性と弾性に優れている」(【0039】)ものであることは窺える。そうすると、これら比較例15~比較例20についても、「丸印(良好な多孔質構造が形成され、且つ品質良好である条件)」又は「X印→丸印(第1の処理後の観察では、多孔質構造が形成されないが、その後の50℃~120℃の温度条件で第2の処理を行うことにより多孔質構造が形成され、且つ品質良好である条件)」と評価された本件発明の実施例に比して程度の差こそあれ、本件発明の課題を解決し、効果を奏し得るものということができる。
また、本件発明2の「生麺体」は、その特許請求の範囲の記載から、「主原料と、前記主原料の総重量に対して0.5重量%よりも大きく6重量%未満の100%油由来の粉末油脂とを含む麺生地から形成した」ものであって「90℃~150℃で発泡化および乾燥」させる前のものであることが理解できる。そして、本件特許明細書の記載全体を参照すると、「生麺体」は、原材料を混練して調整された麺生地を最終製品の形状に形成したものであって、生麺体の形成にあたり蒸煮工程は行われていないものであることが理解できる(【0020】、【0032】、【0042】~【0043】等参照。なお、生麺体に蒸煮を行うものは比較例とされている(【0065】「比較例5」)。)。
さらに、請求人は、本件特許の分割出願(甲27)の記載を根拠に、本件発明2の「生麺体」には蒸煮工程を経たものが含まれると主張するが、上記のとおり、本件発明2の「生麺体」は、その特許請求の範囲の記載及び本件特許明細書の記載全体からみて、蒸煮工程が行われていないものであることが明らかである。そして、他の出願の明細書にどのような記載がされているかは、本件発明のサポート要件についての判断を左右するものではない。
よって、請求人の上記主張は、失当である。
(3) 以上のとおり、本件発明2~本件発明6並びに本件発明8~本件発明10は、特許法36条6項1号に規定する要件を満たしているから、特許法123条1項4号に該当しない。
よって、本件発明2~本件発明6並びに本件発明8~本件発明10についての特許は、無効理由3により無効とすることはできない。
4 無効理由4について
(1) 先願発明
甲30の請求項1には、次の発明(以下「甲30発明」という。)が記載されている。
「【請求項1】
主原料と、油脂又は/および乳化剤とを少なくとも含む麺原料と、水を混捏して得た混合物から麺線を作成し、
熱風により、110℃以上の温度で膨化乾燥する煮込みタイプまたは熱湯注加調理タイプの熱風乾燥即席麺の製造方法であって;且つ、
前記主原料が、小麦粉、デュラム粉、そば粉、大麦粉および澱粉からなる群から選ばれ、且つ、
前記粉末粒状の油脂または乳化剤の添加量が、主原料に対して、0.5~5%であることを特徴とする即席麺の製造方法。」
(2) 本件発明2と甲30発明との対比・判断
(2-1) 本件発明2と甲30発明とを対比する。
甲30発明の「小麦粉、デュラム粉、そば粉、大麦粉および澱粉からなる群から選ばれ」た「主原料」は、本件発明2の「主原料」に相当し、甲30発明の「麺線」は、本件発明2の「生麺体」に相当し、甲30発明の「粒子径0.15mm以上の」「粉末粒状の油脂」は、本件発明2の「粉末油脂」に相当し、甲30発明の「主原料と」、「麺原料と、水を混捏して得た混合物」は、本件発明2の「主原料と」、「麺生地」に相当する。そして、甲30発明の「粉末粒状の油脂または乳化剤の添加量が、主原料に対して、0.5~5%である」ことと、本件発明2の「主原料の総重量に対して0.5重量%よりも大きく6重量%未満の」「粉末油脂」を「含む」こととは、「粉末油脂が主原料の総重量に対して0.5重量%よりも大きく5重量%以下」の範囲で一致する。
また、甲30発明の「膨化乾燥する」ことは、本件発明2の「発泡化および乾燥する」ことに相当し、甲30発明の「膨化乾燥」を「熱風により、110℃以上の温度」で行うことと、本件発明2の「発泡化および乾燥」を「90℃~150℃で」行うこととは、「発泡化および乾燥する温度が110℃~150℃」の範囲で一致する。
また、甲30発明の「煮込みタイプまたは熱湯注加調理タイプの熱風乾燥即席麺」と本件発明2の「乾麺」とは、「乾燥麺」であるという限りにおいて一致する。
よって、本件発明2と甲30発明とは、「主原料と、前記主原料の総重量に対して0.5重量%よりも大きく5重量%以下の粉末油脂とを含む麺生地から形成した生麺体を110℃~150℃で発泡化および乾燥することを具備する、乾燥麺の製造方法。」である点で一致し、以下の点で相違する。
(相違点1)
麺生地に含めるものが、本件発明2は、100%油由来の粉末油脂であるのに対して、甲30発明は、油脂又は/および乳化剤である点。
(相違点2)
発泡化および乾燥する温度が、本件発明2は、90℃~150℃で行うのに対して、甲30発明は、110℃以上の温度で行う点。
(相違点3)
乾燥麺の種類が、本件発明2は、乾麺であるのに対して、甲30発明は、即席麺である点。
(相違点4)
本件発明2は、最終糊化度が30%~75%の糊化度を有するものとするのに対して、甲30発明は、そのような特定をしていない点。
(2-2) 判断
上記各相違点について検討する。
ア まず、上記相違点1について検討する。
甲30発明は、「油脂又は/および乳化剤」という特定、すなわち、乳化剤を含み得ることを発明特定事項とするものであるが、本件発明2は、「100%油由来の粉末油脂」とのみ特定するものであって、「乳化剤」は含まない。
よって、本件発明2と甲30発明とは、上記相違点1において相違する。
イ 次に、上記相違点2について検討する。
甲30発明と本件発明2の温度は、「110℃~150℃」の範囲で一致するものの、甲30発明は、温度範囲の上限を特定していない。一方、本件発明2は、温度範囲の上限を「150℃」に特定するものであって、150℃を超える温度範囲は含まない。
よって、本件発明2と甲30発明とは、上記相違点2において相違する。
ウ 次に、上記相違点3について検討する。
甲30発明の「即席麺」は、甲22及び甲31の「即席めん」を参照すると、蒸煮工程を有する乾燥麺(甲22及び甲31の図5-1記載の「即席めん[味付け油揚げめん]」、「即席めん[スープ別添油揚げめん]」、「即席めん[スープ別添ノンフライめん]」、甲31の表5-2の「アルファー化」めん)及び蒸煮工程を有しない乾燥麺(甲22及び甲31の図5-1記載の「即席めん[スープ別添棒状乾燥めん]」、甲31の表5-2の「非アルファー化」めん)を含むものと解し得る。
一方、本件発明2は、蒸煮工程を有しない「乾麺」と特定するものであるから、「蒸煮工程を有する乾燥麺」は含まない。
よって、本件発明2と甲30発明とは、上記相違点3において相違する。
なお、甲30の明細書及び図面を参照すると、甲30の乾燥麺の製造方法は、実質上、蒸煮工程を有するものしか開示されていない。よって、甲30の実質的な開示を踏まえたとしても、本件発明2と甲30発明とは、上記相違点3において相違する。
エ 上記相違点4について検討する。
甲30発明は、「熱風により、110℃以上の温度で膨化乾燥する」工程を有することにより、「麺の外観は乾燥により発泡した状態となり、麺の構造は油揚げ麺と同様なポーラスなもの」(上記「イ(ウ)」参照)とすることは理解できるものの、甲30には、当該工程により、得られた乾燥麺の最終糊化度が30%~75%の糊化度を有するものとする技術思想が示されているとはいえず、また、得られた乾燥麺の最終糊化度が30%~75%の糊化度を有するものとなるかも記載されていない。
ところで、生麺体を高温熱風乾燥すると、麺に糊化を生じさせて糊化度が増加することは、甲1、甲3及び甲11にみられるように本件特許出願前の周知技術であるといえるが、当該周知技術はいずれも蒸煮工程なしに膨化乾燥される乾燥麺に対するものであるところ、上記「ウ」で述べたとおり、蒸煮工程を有する乾燥麺を含む甲30発明に対して、直ちに付加されるような単なる周知技術とはいえない。仮に、単なる周知技術であるとしても、当該周知技術による糊化度の調整は、約10~75%とするものや(甲11)、完全にα化(糊化度100%)とするものなどがあり(甲3)、当該周知技術を適用したとしても最終糊化度が必ず30%~75%の糊化度を有するものとなるわけでもない。
よって、本件発明2と甲30発明とは、上記相違点4において相違する。
オ 小括
よって、本件発明2は、甲30発明と同一の発明ではない。
(3) 本件発明8と甲30発明との対比・判断
本件発明8は、本件発明2の発明特定事項をすべて含むものであるところ、本件発明8と甲30発明とは、上記「(2-1)~(2-2)」に示したとおり、少なくとも本件発明2と甲30発明との上記相違点1~相違点4において相違する。
よって、本件発明8は、甲30発明と同一の発明ではない。
(4) まとめ
以上のとおり、本件発明2及び本件発明8は、甲30発明と同一の発明ではないから、特許法39条1項の規定に違反して特許されたものではなく、その特許は同法123条1項2号に該当しない。
よって、本件発明2及び本件発明8についての特許は、無効理由4により無効とすることはできない。
第7 むすび
以上のとおり、本件発明1は、甲1発明又は甲2発明であるから、特許法29条1項3号に掲げる発明に該当し、特許を受けることができないものである。また、本件発明1は、甲11発明及び甲14~18発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、又は、甲11記載の周知技術を参酌して、甲1発明若しくは甲2発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法29条2項の規定により特許を受けることができないものである。よって、本件発明1についての特許は、特許法123条1項2号に該当し、無効とすべきものである。
一方、請求人の主張及び証拠方法によっては本件発明2~本件発明10についての特許を無効とすることはできない。
審判に関する費用については、特許法169条2項の規定で準用する民事訴訟法64条の規定により、その10分の9を請求人の負担とし、10分の1を被請求人の負担とすべきものとする。
よって、結論のとおり審決する。
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2015-800005