特許異議申立
2022-701166
変位計測方法および変位計測システム
- 審判番号
- 2022-701166
- 法域
- 特許
- 審判種別
- 異議申立(異議の決定)
- 出願番号
- 特願2017-079210
- 登録番号
- 7075572
- 請求日
- 2022年11月25日
- 審決日
- 2024年01月17日
- 公報発行日
- 2024年04月26日
- 結論
- 請求成立(取消)
- 当事者
- 【権利者】清水建設株式会社
- 【権利者代理人】弁理士法人酒井国際特許事務所
- 【権利者】国立大学法人東京海洋大学
- 【権利者代理人】弁理士法人酒井国際特許事務所
- 【異議申立人】渡邉 規雄
- 審判長/審判官
- 審判長 岡田 吉美
- 審判官 濱本 禎広
- 審判官 濱野 隆
- 分類
- P1652.55 -ZB (G01S) / P1652.536-ZB (G01S) / P1652.537-ZB (G01S)
- 条文(本文から自動抽出・参考)
- 特許法第36条、特許法第113条、特許法第120条の5第2項、特許法第17条の2第3項
- データ出所
- 審決公報(XML)
事件の表示
特許第7075572号発明「変位計測方法および変位計測システム」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。
結論
結 論
特許第7075572号の請求項1、4に係る特許を取り消す。
理由
理 由
第1 手続の経緯
特許第7075572号(以下「本件特許」という。)の請求項1~6に係る特許についての出願は、平成29年4月12日の出願であって、令和4年5月18日にその特許権の設定登録がされ、同月26日に特許掲載公報が発行された。
本件特許異議の申立ての経緯は、次のとおりである。
令和4年11月25日 : 特許異議申立人渡邉規雄による請求項1、4に係る特許に対する特許異議の申立て
令和5年 2月27日付け: 取消理由通知書
同年 5月 2日 : 意見書及び訂正請求書の提出(特許権者)
同月29日付け: 訂正拒絶理由通知書
同年 7月 3日 : 意見書及び手続補正書の提出(特許権者)
同月27日付け: 審尋
同年 8月29日 : 回答書の提出(特許権者)
同年 9月28日付け: 取消理由通知書(決定の予告)
なお、令和5年9月28日付けで取消理由通知(決定の予告)を通知し、期間を指定して意見書を提出する機会を与えたが、特許権者は応答しなかった。
以下、令和5年5月2日に提出された訂正請求書を「本件訂正請求書」といい、本件訂正請求書による訂正を「本件訂正」という。
第2 訂正請求に対する補正の適否
1 本件訂正前の特許請求の範囲の記載
本件訂正前の特許請求の範囲の請求項1~6の記載は、以下のとおりである。
「【請求項1】
複数の測位衛星からの衛星信号を受信する衛星信号受信機を用いて、上空視野の限られた構造物等を含めた比較的安定した物体の変位を計測する方法であって、
構造物等を含めた比較的安定した物体の外面の1点に設置した衛星信号受信機、もしくは、外面の互いに異なる位置に複数設置した衛星信号受信機により構成される観測点と、構造物等を含めた比較的安定した物体の外面または地盤上を含む外面以外の位置に設置した衛星信号受信機により構成される固定点と、の間の時間経過に伴う変位を、相対測位により取得する相対測位ステップを備え、
相対測位ステップは、複数の測位衛星のうち相対測位に利用する所定の測位衛星を選択し、選択した測位衛星からの衛星信号を用いて前記変位の相対測位を行うステップと、あらかじめ保持している前記固定点の位置情報を初期位置として、衛星信号の搬送波位相のアンビギュイティを決定し、前記相対測位の結果から前記観測点の前記変位を特定するステップと、を有することを特徴とする変位計測方法。
【請求項2】
相対測位ステップは、前記固定点と前記観測点における衛星信号の受信強度を測定して、各衛星信号について前記固定点における受信強度と前記観測点における受信強度を比較し、前記固定点における受信強度と前記観測点における受信強度の差が所定の閾値以上である衛星信号について前記観測点の搬送波位相を算出するステップと、搬送波位相の算出中に測位衛星からの衛星信号を連続して受信できない場合はマルチパスとして検出し、算出した搬送波位相が所定の閾値以上である場合は、この衛星信号を測位用衛星信号から除くステップと、測位用衛星信号を用いて前記観測点の位置を算出するステップと、算出した前記観測点の位置を位置補正用データによって補正するステップを有し、補正した前記観測点の位置に基づいて前記変位を取得することを特徴とする請求項1に記載の変位計測方法。
【請求項3】
相対測位ステップは、衛星信号の搬送波位相のアンビギュイティを保持するステップと、衛星信号受信機が出力する搬送波位相のサイクルスリップ情報に基づいて相対測位を行うステップの少なくとも一つを有することを特徴とする請求項1または2に記載の変位計測方法。
【請求項4】
複数の測位衛星からの衛星信号を受信する衛星信号受信機を用いて、上空視野の限られた構造物等を含めた比較的安定した物体の変位を計測するシステムであって、
構造物等を含めた比較的安定した物体の外面の1点に設置した衛星信号受信機、もしくは、外面の互いに異なる位置に複数設置した衛星信号受信機により構成される観測点と、構造物等を含めた比較的安定した物体の外面または地盤上を含む外面以外の位置に設置した衛星信号受信機により構成される固定点との間の時間経過に伴う変位を、相対測位により取得する相対測位手段を備え、
相対測位手段は、複数の測位衛星のうち相対測位に利用する所定の測位衛星を選択し、選択した測位衛星からの衛星信号を用いて前記変位の相対測位を行う手段と、あらかじめ保持している前記固定点の位置情報を初期位置として、衛星信号の搬送波位相のアンビギュイティを決定し、前記相対測位の結果から前記観測点の前記変位を特定する手段を有することを特徴とする変位計測システム。
【請求項5】
相対測位手段は、前記固定点と前記観測点における衛星信号の受信強度を測定して、各衛星信号について前記固定点における受信強度と前記観測点における受信強度を比較し、前記固定点における受信強度と前記観測点における受信強度の差が所定の閾値以上である衛星信号について前記観測点の搬送波位相を算出する手段と、搬送波位相の算出中に測位衛星からの衛星信号を連続して受信できない場合はマルチパスとして検出し、算出した搬送波位相が所定の閾値以上である場合は、この衛星信号を測位用衛星信号から除く手段と、測位用衛星信号を用いて前記観測点の位置を算出する手段と、算出した前記観測点の位置を位置補正用データによって補正する手段を有し、補正した前記観測点の位置に基づいて前記変位を取得することを特徴とする請求項4に記載の変位計測システム。
【請求項6】
相対測位手段は、衛星信号の搬送波位相のアンビギュイティを保持する手段と、衛星信号受信機が出力する搬送波位相のサイクルスリップ情報に基づいて相対測位を行う手段の少なくとも一つを有することを特徴とする請求項4または5に記載の変位計測システム。」
2 補正の内容
令和5年7月3日にされた手続補正(以下「本件補正」という。)は、前記第1において示したとおり、当審において通知した訂正拒絶理由を受けて、訂正請求書及び訂正特許請求の範囲についてした補正であり、本件補正により、次の(1)に示す本件補正前の訂正特許請求の範囲の記載及び訂正事項が、後記の(2)に示す本件補正後の訂正特許請求の範囲の記載及び訂正事項に補正された。
(1) 本件補正前
ア 本件補正前の訂正特許請求の範囲の記載
本件補正前の訂正特許請求の範囲の請求項1~6の記載は、次のとおりである。下線は、訂正箇所を示す。
「【請求項1】
複数の測位衛星からの衛星信号を受信する衛星信号受信機を用いて、上空視野の限られた構造物等を含めた比較的安定した物体の変位を計測する方法であって、
構造物等を含めた比較的安定した物体の外面の1点に設置した衛星信号受信機、もしくは、外面の互いに異なる位置に複数設置した衛星信号受信機により構成される観測点と、構造物等を含めた比較的安定した物体の外面または地盤上を含む外面以外の位置に設置した衛星信号受信機により構成される固定点と、の間の時間経過に伴う変位を、相対測位により取得する相対測位ステップを備え、
相対測位ステップは、複数の測位衛星のうち相対測位に利用する所定の測位衛星を選択し、選択した測位衛星からの衛星信号を用いて前記変位の相対測位を行うステップと、あらかじめ保持している前記観測点の位置情報を前記観測点の初期位置として、衛星信号の搬送波位相のアンビギュイティを決定し、前記相対測位の結果から前記観測点の前記変位を特定するステップと、を有することを特徴とする変位計測方法。
【請求項2】
相対測位ステップは、前記固定点と前記観測点における衛星信号の受信強度を測定して、各衛星信号について前記固定点における受信強度と前記観測点における受信強度を比較し、前記固定点における受信強度と前記観測点における受信強度の差が所定の閾値以上である衛星信号について前記観測点の搬送波位相を算出するステップと、搬送波位相の算出中に測位衛星からの衛星信号を連続して受信できない場合はマルチパスとして検出し、算出した搬送波位相が所定の閾値以上である場合は、この衛星信号を測位用衛星信号から除くステップと、測位用衛星信号を用いて前記観測点の位置を算出するステップと、算出した前記観測点の位置を位置補正用データによって補正するステップを有し、補正した前記観測点の位置に基づいて前記変位を取得することを特徴とする請求項1に記載の変位計測方法。
【請求項3】
相対測位ステップは、衛星信号の搬送波位相のアンビギュイティを保持するステップと、衛星信号受信機が出力する搬送波位相のサイクルスリップ情報に基づいて相対測位を行うステップの少なくとも一つを有することを特徴とする請求項1または2に記載の変位計測方法。
【請求項4】
複数の測位衛星からの衛星信号を受信する衛星信号受信機を用いて、上空視野の限られた構造物等を含めた比較的安定した物体の変位を計測するシステムであって、
構造物等を含めた比較的安定した物体の外面の1点に設置した衛星信号受信機、もしくは、外面の互いに異なる位置に複数設置した衛星信号受信機により構成される観測点と、構造物等を含めた比較的安定した物体の外面または地盤上を含む外面以外の位置に設置した衛星信号受信機により構成される固定点との間の時間経過に伴う変位を、相対測位により取得する相対測位手段を備え、
相対測位手段は、複数の測位衛星のうち相対測位に利用する所定の測位衛星を選択し、選択した測位衛星からの衛星信号を用いて前記変位の相対測位を行う手段と、あらかじめ保持している前記観測点の位置情報を前記観測点の初期位置として、衛星信号の搬送波位相のアンビギュイティを決定し、前記相対測位の結果から前記観測点の前記変位を特定する手段を有することを特徴とする変位計測システム。
【請求項5】
相対測位手段は、前記固定点と前記観測点における衛星信号の受信強度を測定して、各衛星信号について前記固定点における受信強度と前記観測点における受信強度を比較し、前記固定点における受信強度と前記観測点における受信強度の差が所定の閾値以上である衛星信号について前記観測点の搬送波位相を算出する手段と、搬送波位相の算出中に測位衛星からの衛星信号を連続して受信できない場合はマルチパスとして検出し、算出した搬送波位相が所定の閾値以上である場合は、この衛星信号を測位用衛星信号から除く手段と、測位用衛星信号を用いて前記観測点の位置を算出する手段と、算出した前記観測点の位置を位置補正用データによって補正する手段を有し、補正した前記観測点の位置に基づいて前記変位を取得することを特徴とする請求項4に記載の変位計測システム。
【請求項6】
相対測位手段は、衛星信号の搬送波位相のアンビギュイティを保持する手段と、衛星信号受信機が出力する搬送波位相のサイクルスリップ情報に基づいて相対測位を行う手段の少なくとも一つを有することを特徴とする請求項4または5に記載の変位計測システム。」
イ 本件補正前の訂正事項
本件補正前の訂正事項は、以下の訂正事項1及び訂正事項2からなる。
(ア) 訂正事項1
特許請求の範囲の請求項1に「あらかじめ保持している前記固定点の位置情報を初期位置として、衛星信号の搬送波位相のアンビギュイティを決定し」と記載されているのを、「あらかじめ保持している前記観測点の位置情報を前記観測点の初期位置として、衛星信号の搬送波位相のアンビギュイティを決定し」に訂正する(請求項1の記載を引用する請求項2、3も同様に訂正する)。
(イ) 訂正事項2
特許請求の範囲の請求項4に「あらかじめ保持している前記固定点の位置情報を初期位置として、衛星信号の搬送波位相のアンビギュイティを決定し」と記載されているのを、「あらかじめ保持している前記観測点の位置情報を前記観測点の初期位置として、衛星信号の搬送波位相のアンビギュイティを決定し」に訂正する(請求項4の記載を引用する請求項5、6も同様に訂正する)。
(2) 本件補正後
ア 本件補正後の訂正特許請求の範囲の記載
本件補正後の訂正特許請求の範囲の請求項1~6の記載は、次のとおりである。下線は、訂正箇所を示す。
「【請求項1】(削除)
【請求項2】
複数の測位衛星からの衛星信号を受信する衛星信号受信機を用いて、上空視野の限られた構造物等を含めた比較的安定した物体の変位を計測する方法であって、
構造物等を含めた比較的安定した物体の外面の1点に設置した衛星信号受信機、もしくは、外面の互いに異なる位置に複数設置した衛星信号受信機により構成される観測点と、構造物等を含めた比較的安定した物体の外面または地盤上を含む外面以外の位置に設置した衛星信号受信機により構成される固定点と、の間の時間経過に伴う変位を、相対測位により取得する相対測位ステップを備え、
相対測位ステップは、複数の測位衛星のうち相対測位に利用する所定の測位衛星を選択し、選択した測位衛星からの衛星信号を用いて前記変位の相対測位を行うステップと、あらかじめ保持している前記固定点および前記観測点の位置情報を初期位置として、衛星信号の搬送波位相のアンビギュイティを決定し、前記相対測位の結果から前記観測点の前記変位を特定するステップと、前記固定点と前記観測点における衛星信号の受信強度を測定して、各衛星信号について前記固定点における受信強度と前記観測点における受信強度を比較し、前記固定点における受信強度と前記観測点における受信強度の差が所定の閾値以上である衛星信号について前記観測点の搬送波位相を算出するステップと、搬送波位相の算出中に測位衛星からの衛星信号を連続して受信できない場合はマルチパスとして検出し、算出した搬送波位相が所定の閾値以上である場合は、この衛星信号を測位用衛星信号から除くステップと、測位用衛星信号を用いて前記観測点の位置を算出するステップと、算出した前記観測点の位置を位置補正用データによって補正するステップを有し、補正した前記観測点の位置に基づいて前記変位を取得することを特徴とする変位計測方法。
【請求項3】
相対測位ステップは、衛星信号の搬送波位相のアンビギュイティを保持するステップと、衛星信号受信機が出力する搬送波位相のサイクルスリップ情報に基づいて相対測位を行うステップの少なくとも一つを有することを特徴とする請求項2に記載の変位計測方法。
【請求項4】(削除)
【請求項5】
複数の測位衛星からの衛星信号を受信する衛星信号受信機を用いて、上空視野の限られた構造物等を含めた比較的安定した物体の変位を計測するシステムであって、
構造物等を含めた比較的安定した物体の外面の1点に設置した衛星信号受信機、もしくは、外面の互いに異なる位置に複数設置した衛星信号受信機により構成される観測点と、構造物等を含めた比較的安定した物体の外面または地盤上を含む外面以外の位置に設置した衛星信号受信機により構成される固定点との間の時間経過に伴う変位を、相対測位により取得する相対測位手段を備え、
相対測位手段は、複数の測位衛星のうち相対測位に利用する所定の測位衛星を選択し、選択した測位衛星からの衛星信号を用いて前記変位の相対測位を行う手段と、あらかじめ保持している前記固定点および前記観測点の位置情報を初期位置として、衛星信号の搬送波位相のアンビギュイティを決定し、前記相対測位の結果から前記観測点の前記変位を特定する手段と、前記固定点と前記観測点における衛星信号の受信強度を測定して、各衛星信号について前記固定点における受信強度と前記観測点における受信強度を比較し、前記固定点における受信強度と前記観測点における受信強度の差が所定の閾値以上である衛星信号について前記観測点の搬送波位相を算出する手段と、搬送波位相の算出中に測位衛星からの衛星信号を連続して受信できない場合はマルチパスとして検出し、算出した搬送波位相が所定の閾値以上である場合は、この衛星信号を測位用衛星信号から除く手段と、測位用衛星信号を用いて前記観測点の位置を算出する手段と、算出した前記観測点の位置を位置補正用データによって補正する手段を有し、補正した前記観測点の位置に基づいて前記変位を取得することを特徴とする変位計測システム。
【請求項6】
相対測位手段は、衛星信号の搬送波位相のアンビギュイティを保持する手段と、衛星信号受信機が出力する搬送波位相のサイクルスリップ情報に基づいて相対測位を行う手段の少なくとも一つを有することを特徴とする請求項5に記載の変位計測システム。」
イ 本件補正後の訂正事項
本件補正後の訂正事項は、以下の補正後訂正事項1から補正後訂正事項6からなる。
(ア) 補正後訂正事項1
特許請求の範囲の請求項1を削除する。
(イ) 補正後訂正事項2
特許請求の範囲の請求項4を削除する。
(ウ) 補正後訂正事項3
特許請求の範囲の請求項2における次のaに示す記載を後記bに示す記載に訂正する(請求項2の記載を引用する請求項3も同様に訂正する)。
a 「相対測位ステップは、前記固定点と前記観測点における衛星信号の受信強度を測定して、各衛星信号について前記固定点における受信強度と前記観測点における受信強度を比較し、前記固定点における受信強度と前記観測点における受信強度の差が所定の閾値以上である衛星信号について前記観測点の搬送波位相を算出するステップと、搬送波位相の算出中に測位衛星からの衛星信号を連続して受信できない場合はマルチパスとして検出し、算出した搬送波位相が所定の閾値以上である場合は、この衛星信号を測位用衛星信号から除くステップと、測位用衛星信号を用いて前記観測点の位置を算出するステップと、算出した前記観測点の位置を位置補正用データによって補正するステップを有し、補正した前記観測点の位置に基づいて前記変位を取得することを特徴とする請求項1に記載の変位計測方法。」
b 「複数の測位衛星からの衛星信号を受信する衛星信号受信機を用いて、上空視野の限られた構造物等を含めた比較的安定した物体の変位を計測する方法であって、構造物等を含めた比較的安定した物体の外面の1点に設置した衛星信号受信機、もしくは、外面の互いに異なる位置に複数設置した衛星信号受信機により構成される観測点と、構造物等を含めた比較的安定した物体の外面または地盤上を含む外面以外の位置に設置した衛星信号受信機により構成される固定点と、の間の時間経過に伴う変位を、相対測位により取得する相対測位ステップを備え、相対測位ステップは、複数の測位衛星のうち相対測位に利用する所定の測位衛星を選択し、選択した測位衛星からの衛星信号を用いて前記変位の相対測位を行うステップと、あらかじめ保持している前記固定点および前記観測点の位置情報を初期位置として、衛星信号の搬送波位相のアンビギュイティを決定し、前記相対測位の結果から前記観測点の前記変位を特定するステップと、前記固定点と前記観測点における衛星信号の受信強度を測定して、各衛星信号について前記固定点における受信強度と前記観測点における受信強度を比較し、前記固定点における受信強度と前記観測点における受信強度の差が所定の閾値以上である衛星信号について前記観測点の搬送波位相を算出するステップと、搬送波位相の算出中に測位衛星からの衛星信号を連続して受信できない場合はマルチパスとして検出し、算出した搬送波位相が所定の閾値以上である場合は、この衛星信号を測位用衛星信号から除くステップと、測位用衛星信号を用いて前記観測点の位置を算出するステップと、算出した前記観測点の位置を位置補正用データによって補正するステップを有し、補正した前記観測点の位置に基づいて前記変位を取得することを特徴とする変位計測方法。」
(エ) 補正後訂正事項4
特許請求の範囲の請求項3における「請求項1または2に記載の」との記載を「請求項2に記載の」に訂正する。
(オ) 補正後訂正事項5
特許請求の範囲の請求項5における次のaに示す記載を後記bに示す記載に訂正する(請求項5の記載を引用する請求項6も同様に訂正する)。
a 「相対測位手段は、前記固定点と前記観測点における衛星信号の受信強度を測定して、各衛星信号について前記固定点における受信強度と前記観測点における受信強度を比較し、前記固定点における受信強度と前記観測点における受信強度の差が所定の閾値以上である衛星信号について前記観測点の搬送波位相を算出する手段と、搬送波位相の算出中に測位衛星からの衛星信号を連続して受信できない場合はマルチパスとして検出し、算出した搬送波位相が所定の閾値以上である場合は、この衛星信号を測位用衛星信号から除く手段と、測位用衛星信号を用いて前記観測点の位置を算出する手段と、算出した前記観測点の位置を位置補正用データによって補正する手段を有し、補正した前記観測点の位置に基づいて前記変位を取得することを特徴とする請求項4に記載の変位計測システム。」
b 「複数の測位衛星からの衛星信号を受信する衛星信号受信機を用いて、上空視野の限られた構造物等を含めた比較的安定した物体の変位を計測するシステムであって、構造物等を含めた比較的安定した物体の外面の1点に設置した衛星信号受信機、もしくは、外面の互いに異なる位置に複数設置した衛星信号受信機により構成される観測点と、構造物等を含めた比較的安定した物体の外面または地盤上を含む外面以外の位置に設置した衛星信号受信機により構成される固定点との間の時間経過に伴う変位を、相対測位により取得する相対測位手段を備え、相対測位手段は、複数の測位衛星のうち相対測位に利用する所定の測位衛星を選択し、選択した測位衛星からの衛星信号を用いて前記変位の相対測位を行う手段と、あらかじめ保持している前記固定点および前記観測点の位置情報を初期位置として、衛星信号の搬送波位相のアンビギュイティを決定し、前記相対測位の結果から前記観測点の前記変位を特定する手段と、前記固定点と前記観測点における衛星信号の受信強度を測定して、各衛星信号について前記固定点における受信強度と前記観測点における受信強度を比較し、前記固定点における受信強度と前記観測点における受信強度の差が所定の閾値以上である衛星信号について前記観測点の搬送波位相を算出する手段と、搬送波位相の算出中に測位衛星からの衛星信号を連続して受信できない場合はマルチパスとして検出し、算出した搬送波位相が所定の閾値以上である場合は、この衛星信号を測位用衛星信号から除く手段と、測位用衛星信号を用いて前記観測点の位置を算出する手段と、算出した前記観測点の位置を位置補正用データによって補正する手段を有し、補正した前記観測点の位置に基づいて前記変位を取得することを特徴とする変位計測システム。」
(カ) 補正後訂正事項6
特許請求の範囲の請求項6における「請求項4または5に記載の」との記載を「請求項5に記載の」に訂正する。
3 補正の適否についての当審の判断
(1) 請求項2についての訂正について、本件補正前後で訂正請求書の要旨が変更されたかについて、以下検討する。
(2)ア 本件補正前の請求項2についての訂正は、本件訂正前の請求項2が引用する請求項1の「あらかじめ保持している前記固定点の位置情報を初期位置として、衛星信号の搬送波位相のアンビギュイティを決定し」という記載を、「あらかじめ保持している前記観測点の位置情報を前記観測点の初期位置として、衛星信号の搬送波位相のアンビギュイティを決定し」に変更するものである(訂正事項1は、請求項1の記載を引用する請求項2も同様に訂正するとしていることを参照)。
イ そして、本件補正前の訂正により訂正された「あらかじめ保持している前記観測点の位置情報を前記観測点の初期位置として、衛星信号の搬送波位相のアンビギュイティを決定し」という記載の意味が、「観測点の初期位置」を「あらかじめ保持している前記観測点の位置情報」にして、「衛星信号の搬送波位相のアンビギュイティを決定[する]」という意味であることは、技術的に明確であるといえる。
(3)ア これに対して、本件補正後の請求項2についての訂正は、本件訂正前の請求項2の「あらかじめ保持している前記固定点の位置情報を初期位置として、衛星信号の搬送波位相のアンビギュイティを決定し」という記載を、「あらかじめ保持している前記固定点および前記観測点の位置情報を初期位置として、衛星信号の搬送波位相のアンビギュイティを決定し」に変更するものである。
イ しかしながら、本件補正後の訂正により訂正された「あらかじめ保持している前記固定点および前記観測点の位置情報を初期位置として、衛星信号の搬送波位相のアンビギュイティを決定し」という記載の意味は、技術的に明確であるとはいえない。すなわち、後記第5の3(1)イに示すとおり、前記記載における「初期位置」は、アンビギュイティの決定が観測点の測位のために行われるものであるから、「観測点の初期位置」と解するのが相当であり、「観測点の初期位置」というからには、一つであると理解されるところ、この「観測点の初期位置」が、相異なる、「あらかじめ保持している観測点の位置情報」であり、かつ、「あらかじめ保持している固定点の位置情報」でもあるとは、どういうことを意味しているのか不明である。
(4) よって、本件補正によって、請求項2についての訂正の内容が、技術的に明確なものから、技術的に明確であるとは認められないものに変更されたのであるから、訂正請求書の要旨が変更されていることは明らかである。
(5) 請求項3、5及び6についての訂正の補正についても、同様である。
4 審尋に対する特許権者の回答について
(1) 前記3(3)イに示したとおり、本件補正後の請求項2についての訂正の内容は、技術的に明確であるとは認められないことから、当審において、令和5年7月27日付けで審尋を行い、本件補正後の訂正により訂正しようとする記載の意味、すなわち、「あらかじめ保持している前記固定点および前記観測点の位置情報を初期位置として、衛星信号の搬送波位相のアンビギュイティを決定し」という記載の技術的な意味について、特許権者に回答を求めた。
(2) 前記審尋に対して、特許権者は、令和5年8月29日付け回答書において、次のとおり回答した。
「あらかじめ保持している前記固定点および前記観測点の位置情報を初期位置として、衛星信号の搬送波位相のアンビギュイティを決定」することとは、あらかじめ保持している固定点の位置情報(座標)に対応する位置を固定点の初期位置として扱うとともに、あらかじめ保持している観測点の位置情報(座標)に対応する位置を観測点の初期位置として扱って、この固定点の初期位置に対応する位置情報(座標)と、この観測点の初期位置に対応する位置情報(座標)とをRTK測位(相対測位)におけるアンビギュイティを決定する際の初期値に設定し、設定した初期値を使用して衛星信号の搬送波位相のアンビギュイティを決定するということを意味する。
(3) 特許権者の前記回答を踏まえると、本件補正後の請求項2についての訂正は、本件訂正前の請求項2の「あらかじめ保持している前記固定点の位置情報を初期位置として、衛星信号の搬送波位相のアンビギュイティを決定し」という記載を、「あらかじめ保持している前記固定点の位置情報を前記固定点の初期位置とし、あらかじめ保持している前記観測点の位置情報を前記観測点の初期位置として、衛星信号の搬送波位相のアンビギュイティを決定し」に訂正するものと理解される。
(4) 一方、本件補正前の請求項2についての訂正は、前記3(2)アに示したとおり、「あらかじめ保持している前記固定点の位置情報を初期位置として、衛星信号の搬送波位相のアンビギュイティを決定し」という記載を、「あらかじめ保持している前記観測点の位置情報を前記観測点の初期位置として、衛星信号の搬送波位相のアンビギュイティを決定し」に変更するものである。
(5) よって、前記(3)及び(4)に示された、本件補正前後の請求項2についての訂正を比べると、本件補正により、本件補正前の請求項2についての訂正事項について、「あらかじめ保持している前記固定点の位置情報を前記固定点の初期位置とし」という記載が追加されたことになる。
(6) したがって、前記回答書の内容を踏まえても、本件補正により、訂正事項に新たな記載が追加されていると認められるから、訂正請求書の要旨が変更されていることは明らかである。
(7) 請求項3、5及び6についての訂正の補正についても、同様である。
5 補正の適否についてのまとめ
よって、前記補正は、訂正事項の削除又は訂正請求書の要旨を変更しない範囲での軽微な瑕疵の補正に該当せず、訂正請求書の要旨を変更するものであるから認められない。
第3 本件訂正について
1 本件訂正の請求の趣旨
本件訂正の請求の趣旨は、本件特許の特許請求の範囲を、本件訂正請求書に添付した訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項1~6について訂正することを求める、というものである。
2 本件訂正前の特許請求の範囲の記載
本件訂正前の特許請求の範囲の請求項1~6の記載は、前記第2の1に示したとおりのものである。
3 本件訂正後の特許請求の範囲の記載及び本件訂正の内容
前記第2に示したとおり、令和5年7月3日にされた手続補正は認められないから、本件訂正後の特許請求の範囲の記載は、前記第2の2(1)アに示したとおりのものであり、本件訂正の内容は、一群の請求項〔1~3〕及び〔4~6〕について、前記第2の2(1)イに示した訂正事項1及び訂正事項2の訂正をすることからなる。
4 本件訂正の適否についての当審の判断
(1) 訂正事項1
ア 訂正の目的について
(ア)a まず、訂正事項1の訂正が、特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当するか検討する。
b 当該訂正は、訂正前の請求項1に係る発明の「衛星信号の搬送波位相のアンビギュイティを決定」するために用いられる「あらかじめ保持している」「初期位置」について、「前記固定点の位置情報」としていたことを「前記観測点の位置情報」とすることに変更するものであるから、当該訂正は、請求項1の発明特定事項を限定するものではなく、特許請求の範囲の減縮に該当しないことは明らかである。
c よって、前記訂正事項1に係る訂正は、特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当しない。
(イ)a 次に、訂正事項1に係る訂正が、明瞭でない記載の釈明を目的とするものに該当するか検討する。
「明瞭でない記載の釈明」とは、設定登録時の明細書、特許請求の範囲又は図面中のそれ自体意味の不明瞭な記載、又は、設定登録時の明細書、特許請求の範囲又は図面中の他の記載との関係で不合理を生じているために不明瞭となっている記載等、明細書、特許請求の範囲又は図面に生じている記載上の不備を訂正し、その本来の意を明らかにすることをいう(審判便覧38-03を参照)。
b 本件訂正前の請求項1の「あらかじめ保持している前記固定点の位置情報を初期位置として、衛星信号の搬送波位相のアンビギュイティを決定し」という記載は、それ自体は、意味が明瞭であり、「それ自体意味が不明瞭な記載」ではない。
c(a) 本件訂正前の請求項1の「あらかじめ保持している前記固定点の位置情報を初期位置として、衛星信号の搬送波位相のアンビギュイティを決定し」という記載は、令和4年1月25日にされた手続補正(拒絶査定不服審判請求時の補正)によって補正された事項であり、当該補正前の記載においては「あらかじめ把握されている固定点または観測点の衛星信号受信機の設置位置に基づいて、衛星信号の搬送波位相のアンビギュイティを決定する」とされていた。
(b) このような補正の経緯の事情を考慮すると、請求人は、少なくとも拒絶査定不服審判請求の時点において、「衛星信号の搬送波位相のアンビギュイティを決定する」ために「あらかじめ把握されている」「衛星信号受信機の設置位置」として、「固定点」と「観測点」のいずれの場合も検討し、その結果、当該記載から「観測点」である場合を意識的に除外して「固定点」だけに限定したものと認められる。
(c) 本件特許の審査経過における上記補正の経緯を踏まえると、技術的にみれば、「あらかじめ保持している固定点の位置情報を初期位置として」という記載が誤りであって、正しくは、「あらかじめ保持している観測点の位置情報を初期位置として」という記載にすべきであり、その結果、特許請求の範囲の当該記載内容が明細書等の他の記載との関係において不合理を生じているのだとしても、特許権者の客観的かつ外形的な意思として、「固定点」と記載したのであるから、特許請求の範囲における「あらかじめ保持している固定点の位置情報を初期位置として」という記載が本来の意であり、「あらかじめ保持している観測点の位置情報を初期位置として」という記載に訂正することは、「その本来の意を明らかにすること」を目的とするものであるとはいえない。
d よって、前記a~cにおいて検討した事項を考慮すると、前記訂正事項1の訂正は、明瞭でない記載の釈明を目的とするものに該当するものとはいえない。
(ウ) 前記(イ)cの本件特許の審査経過の経緯も踏まえると、前記訂正事項1の訂正が誤記又は誤訳の訂正を目的とするものに該当しないことも、明らかである。
(エ) そして、前記訂正事項1の訂正が、他の請求項の記載を引用する請求項の記載を当該他の請求項の記載を引用しないものとすることを目的とするものに該当しないことは明らかである。
(オ) 上記(ア)~(エ)において検討したとおりであるから、訂正事項1の訂正は、特許法120条の5第2項ただし書に掲げるいずれの事項を目的とするものにも該当しない。
イ 特許請求の範囲の拡張・変更の存否について
前記訂正事項1の訂正は、衛星信号の搬送波位相のアンビギュイティを、あらかじめ保持している固定点の位置情報を初期位置として決定するものから、あらかじめ保持している観測点の位置情報を観測点の初期位置として決定するものに変更するものであるから、前記訂正事項1の訂正は、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものに該当する。
そして、請求項1の記載を引用する請求項2、3に係る発明の訂正についても、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものに該当する。
ウ 小括
よって、前記訂正事項1の訂正は、上述したとおり、特許法120条の5第2項ただし書に掲げるいずれの事項を目的とするものにも該当せず、また同条9項で準用する同法126条6項の規定に適合しない。
(2) 訂正事項2
訂正事項2の訂正は、前記訂正事項1の訂正と同一の内容の訂正であるから、前記1において検討した理由と同様の理由により、特許法120条の5第2項ただし書に掲げるいずれの事項を目的とするものにも該当せず、また同条9項で準用する同法126条6項の規定に適合しない。
5 本件訂正の適否についてのまとめ
以上のとおり、本件訂正は、特許法120条の5第2項ただし書に掲げるいずれの事項を目的とするものにも該当せず、また同条9項で準用する同法126条6項の規定にも適合しない。
よって、本件訂正は認められない。
第4 先の取消理由の概要
本件特許について、令和5年9月28日付けで通知した取消理由(決定の予告)の概要は、次のとおりである。以下、この取消理由(決定の予告)を「先の取消理由」という。
1 取消理由1(新規事項)
令和4年1月25日付け手続補正書でした補正は、下記の点で、願書に最初に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面(以下「当初明細書等」という。)に記載した事項の範囲内においてしたものでないから、請求項1及び4に係る特許は、特許法17条の2第3項に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものである。
2 取消理由2(サポート要件)
本件特許は、特許請求の範囲の記載が下記の点で不備のため、請求項1及び4に係る特許は、特許法36条6項1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものである。
3 取消理由3(委任省令要件)
本件特許は、発明の詳細な説明が下記の点において、請求項1及び4に係る発明について、経済産業省令で定めるところにより、当業者がその実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載されたものではないから、請求項1及び4に係る特許は、特許法36条4項1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものである。
第5 先の取消理由についての当審の判断
1 当審における判断の概要
前記第1で示したとおり、先の取消理由を通知し、期間を指定して意見書を提出する機会を与えたが、特許権者は応答しなかった。そして、前記第4に示した先の取消理由の取消理由1から取消理由3はいずれも、以下の2から5において検討するとおり、妥当なものであると認められるから、本件発明1、4に係る特許は、取消理由1から取消理由3によって取り消すべきものである。
2 本件発明について
前記第3で説示したとおり、本件訂正は認められないから、本件特許の請求項1、4に係る発明(以下、請求項の番号に従って「本件発明1」及び「本件発明4」という。)は、本件訂正前の願書に添付した特許請求の範囲の請求項1、4に記載された事項により特定されるとおりのものと認める(前記第2の1の請求項1及び請求項4を参照)。
3 取消理由1(新規事項)について
(1) 論点となる技術事項
ア 令和4年1月25日付け手続補正書により補正されたものであるところの請求項1及び4には、「あらかじめ保持している前記固定点の位置情報を初期位置として、衛星信号の搬送波位相のアンビギュイティを決定[する]」との技術事項が記載されている。
イ ここで、当該記載における「初期位置」について検討すると、アンビギュイティの決定は観測点の測位のために行われるものであるから、当該「初期位置」は「観測点の初期位置」と解するのが相当である。
ウ 当該技術事項が、当初明細書等に記載した事項の範囲内のものであるか否かについて、以下検討する。
(2) 特許権者が示した補正の根拠
特許権者は、当該記載の根拠として、令和4年1月25日に提出された審判請求書において、段落【0041】、【0042】、【0045】等の記載を挙げているところ、本願明細書には、以下の記載がある。なお、下線は合議体が付した。
「【0041】
b)RTKの要となるアンビギュイティを高い信頼度で決定する機能
構造物1の外壁面2の測位は、1日またはもっと長い期間(1年)で数cm等のずれを検知することが主目的であり、あらかじめアンビギュイティの候補となる位置を事前に入力する機能を追加することで、継続したFIX解が得られる。
【0042】
換言すると、構造物1の外壁面2のGNSS測位機器A~Eの設置位置についてはあらかじめ正しい精密位置がわかっているため、搬送波位相のアンビギュイティを決める際の初期値をその値に設定する。これは既存のソフトウェアでは対応していない。初期値を正しく入力すると、搬送波位相測定値が正しく出力される限り、正しいFIX解を得ることができ、精度も1cm程度となる。逆にミスFIX解(誤った搬送波位相のアンビギュイティ)の削減、除外も可能となる。
【0043】
この機能を新たに取り入れることで、従来のRTKの汎用ソフトウェアと比較して格段に利便性(例えば24時間のRTK測位で何%の時間、RTKが可能であるかを示すもの)が向上することを本発明者は確認済みである。
【0044】
ここで、RTK測位(相対測位)における搬送波はL1帯で波長19cm、L2帯で波長24cmの無変調で無限に続くサイン波であるため、GNSS測位機器で信号を受信し始めた時の位相の整数部分(整数値バイアス)はわからない。このため、通常の相対測位では何らかの方法でこの整数値バイアスを解く必要がある。
【0045】
なお、上記の方法の一般的なRTK測位と異なる点は以下のとおりである。すなわち通常のRTK測位の場合、固定点の位置情報を入力した後に、測位のモノサシとしてGNSS衛星の送信電波を用い干渉測位解析を行うが、上記の方法はアルゴリズム中に設定する新たな方法であり、従来のRTK測位とは異なる。」
(3) 検討
ア まず、段落【0042】には、「構造物1の外壁面2のGNSS測位機器A~Eの設置位置についてはあらかじめ正しい精密位置がわかっているため、搬送波位相のアンビギュイティを決める際の初期値をその値に設定する。」と記載されているが、「GNSS測位機器A~Eの設置位置」は、段落【0031】の「5つの観測点にGNSS測位機器A~Eを設置する(ステップS1)。」との記載のとおり、固定点ではなく、観測点であるから、段落【0042】の前記記載は、「あらかじめ保持している前記固定点の位置情報を初期位置として、衛星信号の搬送波位相のアンビギュイティを決定[する]」ことを意味する記載ではない。
イ 次に、段落【0045】には、「すなわち通常のRTK測位の場合、固定点の位置情報を入力した後に、測位のモノサシとしてGNSS衛星の送信電波を用い干渉測位解析を行うが、上記の方法はアルゴリズム中に設定する新たな方法であり、従来のRTK測位とは異なる。」と記載されているが、当該記載は、通常のRTK測位に関する記載であり、本件発明の固定点の位置情報を観測点の初期位置とすることに関する記載ではない。
ウ また、前記箇所以外の当初明細書等の記載のいずれにおいても、「あらかじめ保持している前記固定点の位置情報を初期位置として、衛星信号の搬送波位相のアンビギュイティを決定[する]」ことは記載されていない。
エ 以上検討のとおり、令和4年1月25日付け手続補正書により補正されたものであるところの請求項1及び4に記載された技術事項は、当初明細書等の全ての記載を総合することにより導かれる技術的事項との関係において、新たな技術的事項を導入するものであるから、当該技術事項は、当初明細書等に記載した事項の範囲内のものではない。
(4) 結論
したがって、令和4年1月25日付け手続補正書によりした補正は、当初明細書等に記載した事項の範囲内においてしたものではなく、本件発明1、4に係る特許は、特許法17条の2第3項に規定する要件を満たしていない補正をした特許出願に対してされたものであるから、本件発明1、4に係る特許は、特許法113条1号に該当し、取り消されるべきものである。
4 取消理由2(サポート要件)について
請求項1及び4に記載された「あらかじめ保持している前記固定点の位置情報を初期位置として、衛星信号の搬送波位相のアンビギュイティを決定[する]」ことは、前記取消理由1(新規事項)において検討したのと同様の理由により、明細書の発明の詳細な説明に記載されたものでもない。
よって、本件発明1、4に係る特許は、特許法36条6項1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであるから、本件発明1、4に係る特許は、特許法113条4号に該当し、取り消されるべきものである。
5 取消理由3(委任省令要件)について
(1)ア 請求項1及び4に係る発明は、観測点と固定点の間の時間経過に伴う変位を、相対測位により取得するものにおいて、あらかじめ保持している前記固定点の位置情報を初期位置として、衛星信号の搬送波位相のアンビギュイティを決定するものである。
イ ここで、当該記載における「初期位置」について検討すると、アンビギュイティの決定は観測点の測位のために行われるものであるから、当該「初期位置」は「観測点の初期位置」と解するのが相当である。
(2)ア 観測点と固定点の間の変位を求めるには、観測点で検出した搬送波位相と、固定点で検出した搬送波位相との位相差の整数部分を求めることが必要であるから、当該整数部分の正しい初期値を求めるためには、固定点の位置情報のみならず、観測点の位置情報も必要である。
イ 明細書の段落【0042】に記載されているように、あらかじめ正しい精密位置が分かっているGNSS測位器A~Eの設置位置、すなわちあらかじめ分かっている観測点の位置情報を観測点の初期位置とすることにより、正しいFIX解が早く得られることは理解できるものの、これとは異なり、観測点の初期位置として固定点の位置情報を用いても正しいFIX解が得られないことは出願時の技術常識からみて明らかである。
ウ したがって、請求項1及び4の「あらかじめ保持している前記固定点の位置情報を初期位置として、衛星信号の搬送波位相のアンビギュイティを決定[する]」との発明特定事項の技術上の意義が、発明の詳細な説明及び出願時の技術常識を考慮しても理解できない。
(3) 以上検討のとおりであるから、本件特許の発明の詳細な説明は、請求項1、4に係る発明について、経済産業省令で定めるところにより、当業者が実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載されたものではない。
よって、本件発明1、4に係る特許は、特許法36条4項1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであるから、本件発明1、4に係る特許は、特許法113条4号に該当し、取り消されるべきものである。
第6 むすび
以上検討のとおり、本件発明1、4に係る特許は、特許法17条の2第3項に規定する要件を満たしていない補正をした特許出願に対してされたものであるから、本件発明1、4に係る特許は、特許法113条1号に該当し、取り消されるべきものである。
また、本件発明1、4に係る特許は、特許法36条6項1号又は同条4項1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであるから、本件発明1、4に係る特許は、特許法113条4号に該当し、取り消されるべきものである。
よって、結論のとおり決定する。
審決本文(J-PlatPat)
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2022-701166