特許異議申立
2022-700644
フルオレン骨格を有するジヒドロキシ化合物の精製方法
- 審判番号
- 2022-700644
- 法域
- 特許
- 審判種別
- 異議申立(異議の決定)
- 出願番号
- 特願2016-252335
- 登録番号
- 6994299
- 請求日
- 2022年07月14日
- 審決日
- 2022年10月17日
- 公報発行日
- 2022年11月25日
- 結論
- 維持
- 当事者
- 【権利者】田岡化学工業株式会社
- 【異議申立人】宮下 絹子
- 審判長/審判官
- 審判長 阪野 誠司
- 審判官 木村 敏康
- 審判官 冨永 保
- 分類
- P1651.55 -Y (C07C) / P1651.113-Y (C07C) / P1651.121-Y (C07C) / P1651.161-Y (C07C) / P1651.537-Y (C07C)
- 条文(本文から自動抽出・参考)
- 特許法第36条第6項第1号、特許法第17条の2第3項、特許法第29条の2、特許法第29条第1項第3号、特許法第29条第2項
- データ出所
- 審決公報(XML)
事件の表示
特許第6994299号発明「フルオレン骨格を有するジヒドロキシ化合物の精製方法」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。
結論
結 論
特許第6994299号の請求項1に係る特許を維持する。
理由
理 由
第1 手続の経緯
特許第6994299号の請求項1に係る特許についての出願は、平成28年12月27日を出願日とするものであって、令和3年12月15日にその特許権の設定登録がされ、令和4年1月14日にその特許掲載公報が発行され、その後、令和4年7月14日に宮下絹子(以下「特許異議申立人」という。)により請求項1に係る特許について特許異議の申立てがされたものである。
第2 本件発明
本件特許の請求項1に係る発明(以下「本件発明」ということがある。)は、願書に添付した特許請求の範囲の請求項1に記載された事項により特定される次のとおりのものである。
「【請求項1】
下記式(1)で表されるジヒドロキシ化合物をホスト分子とする包接体の結晶と、メタノールとを混合した後、ろ過することなくメタノールを気化させながら除去する工程を含む、下記式(1)で表されるジヒドロキシ化合物の結晶の精製方法。
[図:0001390608000001.jpg]
」
第3 特許異議申立人が申し立てた理由の概要
1 特許異議申立人が申し立てた理由の概要
[申立理由1]令和2年10月8日付け及び令和3年7月12日付け手続補正書でした補正は、願書に最初に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内においてしたものでないから、特許法第17条の2第3項に規定する要件を満たしていない。
したがって、請求項1に係る特許は、特許法第17条の2第3項に規定する要件を満たしていない補正をした特許出願に対してされたものであり、同法113条第1号の規定により取り消されるべきものである。
申立理由1の具体的な理由の概要は次のとおりである。
令和2年10月8日付提出の手続補正書により、請求項1の「下記式(1)で表されるジヒドロキシ化合物をホスト分子とする包接体の結晶と、メタノールとを接触させる工程」との記載が「下記式(1)で表されるジヒドロキシ化合物をホスト分子とする包接体の結晶と、メタノールとを接触させた後、ろ過することなくメタノールを気化させながら除去する工程」と補正され、令和3年7月12日付提出の手続補正書により、上記記載がさらに「下記式(1)で表されるジヒドロキシ化合物をホスト分子とする包接体の結晶と、メタノールとを混合した後、ろ過することなくメタノールを気化させながら除去する工程」と補正されたが、当該補正は新規事項の追加に該当する。
[申立理由2]本件の請求項1に係る発明は、本件特許出願前に日本国内又は外国において、頒布された刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明である、下記甲第1号証に記載された発明である。
したがって、請求項1に係る特許は、特許法第29条第1項第3号の規定に違反してされたものであり、同法第113条第2号の規定により取り消されるべきものである。
[申立理由3]本件の請求項1に係る発明は、本件特許出願前に日本国内又は外国において、頒布された刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明である、下記甲第1~4、6号証に記載された発明に基いて、本件特許出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものである。
したがって、請求項1に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものであり、同法第113条第2号の規定により取り消されるべきものである。
[申立理由4]本件の請求項1に係る発明は、その出願の日前の特許出願であって、その出願後に特許掲載公報の発行又は出願公開がされた下記甲第7号証に係る特許出願の願書に最初に添付された明細書、特許請求の範囲又は図面に記載された発明と同一であり、しかも、この出願の発明者がその出願前の特許出願に係る上記の発明をした者と同一ではなく、またこの出願の時において、その出願人が上記特許出願の出願人と同一でもないので、特許法第29条の2の規定により、特許を受けることができない。
したがって、請求項1に係る特許は、特許法第29条の2の規定に違反してされたものであり、同法第113条第2号の規定により取り消されるべきものである。
[申立理由5]本件の請求項1に係る特許は、特許請求の範囲の記載が特許法第36条第6項第1号に適合しない。
よって、請求項1に係る特許は、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであり、同法第113条第4号の規定により取り消されるべきものである。
申立理由5の具体的な理由の概要は次のとおりである。
本件発明の解決すべき課題は、本件明細書の【0011】に記載の通り、式(1)で表されるジヒドロキシ化合物をホスト分子とする包接体の結晶から、包接された化合物(ゲスト分子)を除去又は低減させる方法を提供することであり、本件発明がサポート要件を充足するためには、本件発明が、本件実施例の結果として示されているゲスト分子の含量を有する結晶である必要がある。
まず、本件発明では、メタノール除去工程の前処理として、包接体の結晶とメタノールとを「混合」したことが特定されているが、本件実施例6では、包接体の結晶10gの上からメタノール5gを振りかけたことが記載されているだけであり、結晶の上からメタノールを振りかけただけの操作は、「混合」という操作ではない。
また、包接体の結晶とメタノールとの混合に関し、本件発明では、結晶とメタノールとの質量比は特定されていないが、固体である結晶に対して液体である微量のメタノールを振りかけるだけで、混合の目的である均質化を達成できないことは明らかである。
次に、本件発明では、メタノールの除去方法として、ろ過することなくメタノールを気化させながら除去することが特定されている一方、温度、圧力、撹拌条件、時間のいずれも特定されていないが、実施例6では、温度90℃、内圧1.1kPa、すなわち、高温、減圧の特殊な条件で1時間撹拌することによりメタノールを除去している。例えば、常温、常圧で静置(放置)された条件において、メタノールの沸点がトルエンの沸点よりも著しく低いことを考慮すると、メタノールを気化しながら除去する方法が、本件実施例6と同等の効果を奏するとは当業者であれば到底考えない。しかも、少量のメタノールを振りかけて、常温、常圧で放置する方法が、多量のメタノールを振りかけて、高温、減圧の特殊な条件で1時間撹拌する方法と同等の効果を奏するはずがない。
最後に、本件発明において、唯一の実施例である実施例6では、ゲスト分子としてのトルエン含量が0.01%であったことが記載されているが、本件発明の発明特定事項としては、ゲスト分子は特定されていない。本件発明は、メタノールという特定の化合物を用いて、ゲスト分子を除去又は低減する発明であるため、除去又は低減できるゲスト分子の構造は、メタノールと特定の相互作用を有する化合物であることは自明であるため、ゲスト分子がトルエンのみである実施例に対して、ゲスト分子について何ら特定されていない本件発明の技術的範囲は、本件発明の効果を奏しない範囲を含んでいる。
本件明細書では、メタノール除去工程におけるゲスト分子が除去されるメカニズムの詳細は明確ではないので、当業者であっても、ゲスト分子の詳細、結晶とメタノールとの質量比、気化条件などが特定されていない本件発明に包含される全ての範囲において、実施例6と同等の効果を奏するとは到底想定できない。
特許異議申立人が提示した証拠方法は下記のとおりである。
記
甲第1号証:中国特許出願公開第106242955号明細書(以下「甲1」ともいう。他の甲各号証についても同様。)
甲第2号証:玉虫文一ら編、岩波 理化学辞典 第3版増補版、株式会社 岩波書店、1986年2月20日 第6刷発行、487頁、「再結晶」の項、表紙、奥付
甲第3号証:特許第5847567号公報
甲第4号証:特表2013-531027号公報
甲第5号証:国際公開第2010/029938号
甲第6号証:特開2009-234998号公報
甲第7号証:特開2017-141182号公報(特願2016-23042号)
甲第8号証:化学大辞典編集委員会編、化学大辞典3、共立出版株式会社、1989年8月15日 縮刷版第32刷発行、747頁、「混合」の項、表紙、奥付
第4 当審合議体の判断
当審合議体は、本件発明に係る特許は、特許異議申立人が申し立てた理由及び証拠方法によっては、取り消すことができないと判断する。
理由は以下のとおりである。
1 申立理由1について
(1)出願当初の明細書等の記載
本件の願書に最初に添付した明細書又は特許請求の範囲には以下の記載がある。
本a)「【請求項1】
下記式(1)で表されるジヒドロキシ化合物をホスト分子とする包接体の結晶と、メタノールとを接触させる工程を含む、下記式(1)で表されるジヒドロキシ化合物の結晶の精製方法。
(式略)
【請求項2】
接触後、上記式(1)で表されるジヒドロキシ化合物の結晶とメタノールとを分離する工程を含む、請求項1に記載のジヒドロキシ化合物の結晶の精製方法。」
本b)「【0018】
本発明における、「上記式(1)で表されるジヒドロキシ化合物をホスト分子とする包接体の結晶とメタノールとを接触させる」操作とは、包接体の結晶と、液体、または気体のメタノールとが接触することを言い、具体的に例えば、包接体の結晶と、メタノールとを容器に入れ、メタノール中で包接体の結晶を撹拌混合させる操作や、包接体の結晶にメタノールを混合した後乾燥機に入れ、メタノールを気化させながら除去する操作等が挙げられる。」
本c)「【0022】
前述した本発明の精製方法を実施した後、上記式(1)で表されるジヒドロキシ化合物の結晶とメタノールとを分離しても良い。分離する方法として例えば、ろ過等の固液分離操作や、上記式(1)で表されるジヒドロキシ化合物の結晶とメタノールとの混合物を、メタノールの沸点以上の温度とすることで、上記式(1)で表されるジヒドロキシ化合物の結晶からメタノールを除去する方法等が挙げられる。」
本d)「【0042】
<実施例6>
製造例1で得られた、包接体の結晶10gの上からメタノール5gを振りかけた後、攪拌器、加熱冷却器、減圧器を備えたガラス製反応器に該包接体を入れ、加熱冷却器温度を90℃、内圧1.1kPaとして1時間撹拌しながらメタノールを系外へ除去した。その後、得られた結晶を上述した分析法により分析を行った。結果を以下に示す。 トルエン(ゲスト分子)含量:0.01% メタノール含量:検出されず」
(2)判断
上記摘示本aから、願書に最初に添付した特許請求の範囲の請求項2には、「下記式(1)で表されるジヒドロキシ化合物をホスト分子とする包接体の結晶と、メタノールとを接触させた後、下記式(1)で表されるジヒドロキシ化合物の結晶とメタノールとを分離する工程を含む、下記式(1)で表されるジヒドロキシ化合物の結晶の精製方法。(式(1)略)」が記載されているといえる。
ここで、「包接体の結晶と、メタノールとを接触」させることについて、願書に最初に添付した明細書には、「「上記式(1)で表されるジヒドロキシ化合物をホスト分子とする包接体の結晶とメタノールとを接触させる」操作とは、包接体の結晶と、液体、または気体のメタノールとが接触することを言い、具体的に例えば、包接体の結晶と、メタノールとを容器に入れ、メタノール中で包接体の結晶を撹拌混合させる操作や、包接体の結晶にメタノールを混合した後乾燥機に入れ、・・・」との記載があるから(摘示本b、下線は当審合議体が付与。)、願書に最初に添付した明細書及び特許請求の範囲には「包接体の結晶と、メタノールとを混合」することが記載されているといえる。
また、「ジヒドロキシ化合物の結晶とメタノールとを分離する工程」について、願書に最初に添付した明細書には、「包接体の結晶にメタノールを混合した後乾燥機に入れ、メタノールを気化させながら除去する操作等が挙げられる」及び「上記式(1)で表されるジヒドロキシ化合物の結晶とメタノールとを分離しても良い。分離する方法として例えば、ろ過等の固液分離操作や、上記式(1)で表されるジヒドロキシ化合物の結晶とメタノールとの混合物を、メタノールの沸点以上の温度とすることで、上記式(1)で表されるジヒドロキシ化合物の結晶からメタノールを除去する方法等が挙げられる。」との記載があるから(摘示本b及びc、下線は当審合議体が付与。)、ジヒドロキシ化合物の結晶とメタノールとの分離について、「メタノールを気化させながら除去する」ことが記載されているといえる(なお、沸点以上の温度として除去する際に、メタノールが気化することは明らかである。)。また、分離する方法の選択肢として「ろ過」が記載されているから、当該方法を用いないとすることも願書に最初に添付した明細書に記載されているといえる。
したがって、願書に最初に添付した明細書及び特許請求の範囲には、「ろ過することなくメタノールを気化させながら除去する工程」が記載されているといえる。
以上のとおりであるから、請求項1の「下記式(1)で表されるジヒドロキシ化合物をホスト分子とする包接体の結晶と、メタノールとを接触させる工程」を「下記式(1)で表されるジヒドロキシ化合物をホスト分子とする包接体の結晶と、メタノールとを接触させた後、ろ過することなくメタノールを気化させながら除去する工程」と補正し、上記記載をさらに「下記式(1)で表されるジヒドロキシ化合物をホスト分子とする包接体の結晶と、メタノールとを混合した後、ろ過することなくメタノールを気化させながら除去する工程」とする補正は、新規事項を追加するものではない。
(3)まとめ
よって、申立理由1は理由がない。
2 申立理由2について
(1)甲1~4、6の記載事項
甲1(訳文で示す。):
1a)「(57)要約
本発明では9-フルオレノンと2-[(2-フェニル)フェノキシ]エタノールを原料とし,硫酸を触媒とし,3-メルカプトプロピオン酸を助触媒とし,ベンゼン溶媒中で合成して嵩密度の高い9,9-ビス[3-フェニル-4-(2-ヒドロキシエトキシ)フェニル]フルオレンの結晶を製造する。得られた結晶は純度(HPLC分析測定)が98%より大きく,嵩密度が0.4g/cm3より大きく,流動性が良好である。この結晶の融解吸熱ピークは142-180℃の範囲にある。X線粉末回折(XRPD)分析の特性2θ値:7.6°(47),15.6°(57),16.4°(55),17.2°(48),18.7°(49),19.0°(67),20.6°(100),21.5°(38),23.7(40)。」(1頁、要約)
1b)「[0008] 結晶多形体Bはメタノールから再結晶化することにより得た。BのX線粉末回折(XRPD)スペクトルは図2に示す形態を有しかつ2θ値は7.1(43),8.1°(96),15.4°(70),16.3°(57),17.1°(46),18.0°(69),20.3°(57),21.1°(100),22. 3°(82),22.6°(79)である特徴的な回折ピークを有する。Bの融解吸熱ピークは73.6-100℃及び135-145℃の範囲にあった。嵩密度は0.25g/cm3未満であり,流動性は乏しい。」
1c)「[0025] 実施例 (1)(結晶多形体Aの調製)
反応フラスコに9-フルオレノン(18 g、0.1 mol),2-[(2-フェニル)フェノキシ]エタノール(53.5 g、0.25 mol),3-メルカプトプロピオン酸(1 g),トルエン60 mLを加え,9-フルオレノン,2-[(2-フェニル)フェノキシ]エタノールが溶解するまで撹拌した後98%の硫酸25mLを徐々に滴下した。65℃で6時間反応物を撹拌した。HPLC分析により9-フルオレノン含有量が0. 5%以下になった時点で反応が停止したことを確認した。水酸化ナトリウム溶液を添加して中和し、さらに水を加えて中性になるまで洗浄し、有機相を徐冷した。濾過することにより9,9-ビス[3-フェニル-4-(2-ヒドロキシエトキシ)フェニル]フルオレン粗生成物が得られた。」
1d)「[0027]
対照実施例
上記の実施例に従って9,9-ビス[3-フェニル-4-(2-ヒドロキシエトキシ)フェニル]フルオレン粗生成物を調製した。前記粗生成物をメタノールで再結晶化して9,9-ビス[3-フェニル-4-(2-ヒドロキシエトキシ)フェニル]フルオレンを白色固体として得た。さらに80℃で20時間真空乾燥し50gの9,9-ビス[3-フェニル-4-(2-ヒドロキシエトキシ)フェニル]フルオレンを得た。収率は84.7%であり,高速液体クロマトグラフィー(HPLC)分析による純度は98.1 %であった。核磁気共鳴スペクトルは実施例と同様であった。嵩密度は0.25g/cm3未満であった。X線粉末回折パターンは2θ角として7.1 (43),8.1°(96),15.4°(70),16.3°(57),17.1°(46),18.0°(69),20.3°(57),21.1°(100),22.3°(82),22.6°(79)に特徴的な回折ピークが示された。」
甲2:
2a)「再結晶[英 recrystallization・・・]
【1】結晶性物質を溶媒に溶解し,適当な方法でふたたび結晶として析出させる操作をいう.精製の方法としてしばしば使われる.結晶を析出させるためには,温度による溶解度の相違を利用して高温の飽和溶液を冷却するとか,溶媒を蒸発して濃縮するとか,溶液に他の適当な溶媒を加えて溶解度を減少させるなどの方法が取られる.共存する不純物は多くの場合その大部分が溶液中に残るので精製の目的が達せられる.」(487頁左欄、28~37行、「再結晶」の項)
甲3:
3a)「【請求項18】
請求項7に記載の結晶形態のシロドシンを製造する方法における中間体としての、請求項1から5のいずれか一項に記載の結晶形態のシロドシンの使用であって、以下のステップを含む、使用、
a)結晶形態である、請求項1から5のいずれか一項に記載のシロドシンδを、メタノール水溶液中でスラリー化するステップ、
b)請求項7に記載のε型のシロドシンを単離するステップ、及び
c)ε型のシロドシンを乾燥するステップ。」(当審注:下線の摘示は省略。)
3b)「【0032】
本発明は、ε型を調製する方法も提供する。ε型のシロドシンは、
a)メタノール水溶液中でδ型をスラリー化するステップ、
b)ε型を単離するステップ、および
c)ε型を乾燥するするステップ
を含む方法により、上述の結晶形態δから調製され得る。
【0033】
ε型のみがメタノール水溶液中でδ型をスラリー化することにより得られるので、δ型が出発材料として適用される。ε型を、メタノール水溶液中でEP1541554のα型、β型またはγ型をスラリー化することにより得ることはできない。
【0034】
その方法のために用いられるメタノール水溶液の濃度は、約10-90%(v:v)、好ましくは約20-80%(v:v)、より好ましくは約30-70%(v:v)、最も好ましくは約40-60%(v:v)の範囲である。
【0035】
結晶形態δのε型への転移は、通常、急速に現れる。例えば0.5時間後に、水性メタノール懸濁液からの試料が取り出され、XRPDによりε型と同定された。それにもかかわらず、堅牢な工程を適切にするために、その懸濁液は、好ましくは、約1-72時間、より好ましくは約6-48時間、最も好ましくは約12-24時間、撹拌される。
【0036】
単離のステップのために、濾過、遠心分離、または溶媒の蒸発等の任意の従来的な方法が適用され得る。」
3c)「【実施例4】
【0061】
シロドシンδ型からのシロドシンε型の調製
シロドシンδ型1.060g(例えば実施例1または2の方法により得られる)を、室温で50%メタノール水溶液(v:v)10mL中に懸濁させた。0.5時間後に、試料をその懸濁液から取り出し、XRPDによりシロドシンε型と同定した。MeOH50%(v:v)5mLを添加し、この混合物をさらに68時間撹拌した。最後に、固体を濾別し、真空下において40℃で乾燥して、結晶形態εを得た。」
甲4:
4a)「【請求項1】
N-[2-[[(2,3-ジフルオロフェニル)メチル]チオ]-6-{[(1R,2S)-2,3-ジヒドロキシ-1-メチルプロピル]オキシ}-4-ピリミジニル]-1-アゼチジンスルホンアミド(“化合物I”とも言う)の結晶形態であって、21.0、28.8および/または29.1の2θ値(度)を有する結晶ピークを少なくとも1つ含む、波長1.5418ÅのX線を用いて測定される粉末X線回折パターンによって特徴づけられる結晶形態。」
4b)「【0014】
化合物Iの2種の好ましい無水物結晶形態は、下記の約2θ値(度)を有する特徴的な結晶ピークおよび括弧内のピークの相対強度の表示を含む、波長1.5418ÅのX線を用いるX線粉末回折パターンによって特徴づけられ得る。ここで、約25~100%の相対強度パーセントを“vs”とし、約10~25%を“s”とし、約3~10%を“m”とし、約1~3%を“w”とする。
形態A:14.8、17.8および/または24.1付近(すなわち約またはほぼ)の2θ値(度)を有する特徴的な結晶ピークを少なくとも1つ含む。・・・
【0016】
形態D:12.9, 18.0および/または21.0付近(すなわち約またはほぼ)の2θ値(度)を有する特徴的な結晶ピークを少なくとも1つ含む。」
4c)「【0049】
本発明の化合物は、当業者に周知の方法、例えば傾斜、濾過および/または遠心分離を用いて単離され得る。」
4d)「【0123】
実施例2:化合物I無水物の形態D
例えば上記の実施例1に記載された方法によって得られる化合物Iの形態Aを、形態Dに変換した。
化合物Iの形態Aを、メタノール中、50℃で6週間スラリー化し、D形態を得た。 また、国際公開第2006/024823号の実施例47の生成物を、メタノール中、50℃で6週間スラリー化することによって、D形態を得ることができる。」
甲6:
6a)「【請求項1】
9,9-ビスアリールフルオレン骨格を少なくとも含有するフルオレン含有化合物をホスト化合物とする包接化合物。
【請求項2】
ホスト化合物が、下記式(1)
【化1】
[図:0001390608000002.jpg]
(式中、Z1及びZ2は同一又は異なって芳香族炭化水素環を示す。R1a及びR1bは同一又は異なってアルキレン基を示し、R2a及びR2bは同一又は異なって、炭化水素基、アルコキシ基、シクロアルコキシ基、アリールオキシ基、アラルキルオキシ基、アシル基、アルコキシカルボニル基、ハロゲン原子、ニトロ基、シアノ基又は置換アミノ基を示し、R3a及びR3bは同一又は異なって炭化水素基、アルコキシ基、ハロゲン原子、ニトロ基、シアノ基又は置換アミノ基を示す。m及びnは同一又は異なって0又は1以上の整数であり、p及びqは同一又は異なって1以上の整数である。h1及びh2は同一又は異なって0~4の整数であり、j1及びj2は同一又は異なって0~4の整数である)で表される化合物である請求項1記載の包接化合物。」
6b)「【0027】
前記9,9-ビス(ヒドロキシアリール)フルオレン類には、前記式(1)において、Z1及びZ2がベンゼン環であり、p及びqが1である9,9-ビス(ヒドロキシフェニル)フルオレン類;Z1及びZ2がナフタレン環であり、p及びqが1である9,9-ビス(ヒドロキシナフチル)フルオレン類;Z1及びZ2がベンゼン環であり、p及びqが2以上である9,9-ビス(ポリヒドロキシフェニル)フルオレン類などが含まれる。
【0028】
具体的には、9,9-ビス(ヒドロキシフェニル)フルオレン類は、R2a及びR2bが炭化水素基であり、h1及びh2が0又は1である化合物が好適に使用される。9,9 -ビス(ヒドロキシフェニル)フルオレン類としては、例えば、・・・9,9-ビス(4-ヒドロキシ-3-フェニルフェニル)フルオレンなどの9,9-ビス(アリールヒドロキシフェニル)フルオレン[例えば、9,9-ビス(C6-10アリールヒドロキシフェニル)フルオレンなど]などが挙げられる。
・・・
【0031】
なお、前記9,9-ビス(ヒドロキシアリール)フルオレン類には、例えば、前記フルオレン類[すなわち、9,9-ビス(ヒドロキシフェニル)フルオレン類、・・・]において、m及びnが1以上である化合物(又は前記フルオレン類のアルキレンオキシド付加体)、例えば、9,9-ビス(4-ヒドロキシエトキシフェニル)フルオレン(ビスフェノキシエタノールフルオレン,BPEF)などの9,9-ビス[4-(ヒドロキシC2-3アルコキシ)フェニル]フルオレン、9,9-ビス(4-ヒドロキシエトキシ-3-メチルフェニル)フルオレン(ビスクレゾールエタノールフルオレン,BCEF)などの9,9-ビス(アルキルヒドロキシC2-3アルコキシフェニル)フルオレンなども含まれる。」
6c)「【0043】
(ゲスト化合物)
ゲスト化合物は、前記ホスト化合物と包接可能である限り、特に制限されない。前記ゲスト化合物には、例えば、アルコール類、エーテル類、ケトン類(例えば、アセトン、メチルエチルケトン(MEK)、メチルイソブチルケトン(MIBK)、ジエチルケトンなど)、エステル類(例えば、酢酸エチル、酢酸ブチル、酢酸イソアミルなど)、・・・炭化水素類[例えば、ペンタン、ヘキサンなどの脂肪族炭化水素類、シクロヘキサン、メチルシクロヘキサンなどの脂環族炭化水素類、芳香族炭化水素類(例えば、ベンゼン、ナフタレンなどの無置換芳香族炭化水素類、トルエン、キシレン、エチルベンゼンなどの置換基(例えば、アルキル基など)を有する芳香族炭化水素類など)、・・・など]などが含まれる。」
6d)「【0052】
[包接化合物の製造方法]
本発明の包接化合物は、前記ホスト化合物と前記ゲスト化合物とを混合して製造することができる。詳細には、前記包接化合物は、前記ホスト化合物と前記ゲスト化合物とを混合することにより、結晶を析出させて(又は晶析により)製造することができる。」
(2)引用発明
甲1には、9,9-ビス[3-フェニル-4-(2-ヒドロキシエトキシ)フェニル]フルオレンの結晶の製造についての記載があるところ(摘示1a~1d)、対照実施例として、9,9-ビス[3-フェニル-4-(2-ヒドロキシエトキシ)フェニル]フルオレン粗生成物をメタノールで再結晶化して9,9-ビス[3-フェニル-4-(2-ヒドロキシエトキシ)フェニル]フルオレンを白色固体として得たことが記載されており(摘示1d)、一般に再結晶化は精製方法の一種であるから、甲1には、以下の発明が記載されていると認める。
「9,9-ビス[3-フェニル-4-(2-ヒドロキシエトキシ)フェニル]フルオレン粗生成物をメタノールで再結晶化して9,9-ビス[3-フェニル-4-(2-ヒドロキシエトキシ)フェニル]フルオレンを白色固体として得る、前記フルオレンの精製方法。」(以下「甲1発明」という。)
(3)対比・判断
本件発明と甲1発明を対比する。
甲1発明の「9,9-ビス[3-フェニル-4-(2-ヒドロキシエトキシ)フェニル]フルオレン」は、本件発明の「式(1)で表されるジヒドロキシ化合物」、
「
[図:0001390608000003.jpg]
」に相当する。
甲1発明は「メタノールで再結晶化」するものであるところ、メタノールで再結晶化する際に、メタノールを混合することは明らかであり、再結晶化は「結晶性物質を溶媒に溶解し,適当な方法でふたたび結晶として析出させる操作をいう」(摘示2a)から、本件発明の「結晶と、メタノールとを混合」する点で共通する。
甲1発明は「メタノールで再結晶化して」、前記フルオレンを「白色固体として得る」ものであるところ、再結晶化した後に白色固体を得ること、メタノールを除去する工程が存在することは明らかであり、本件発明の、混合した「後、・・・メタノールを・・・除去する工程を含む」点で共通する。
甲1発明は、再結晶化による前記フルオレンの精製方法であるといえるから、本件発明の「式(1)で表されるジヒドロキシ化合物の結晶の精製方法」に相当する。
したがって、本件発明と甲1発明とは、
「下記式(1)で表されるジヒドロキシ化合物の結晶と、メタノールとを混合した後、メタノールを除去する工程を含む、下記式(1)で表されるジヒドロキシ化合物の結晶の精製方法。
[図:0001390608000004.jpg]
」である点で一致し、以下の点で相違する。
<相違点1>
出発物質である式(1)で表されるジヒドロキシ化合物の結晶について、本件発明は当該化合物「をホスト分子とする包接体の結晶」と特定しているのに対して、甲1発明は「粗生成物」とされ、包接体の結晶であることが特定されていない点。
<相違点2>
メタノールを除去する工程について、本件発明は「ろ過することなく」、「気化させながら」除去すると特定しているのに対して、甲1発明はどのように除去しているか不明である点。
上記各相違点について検討する。
相違点1について、甲1には、粗生成物が、前記フルオレンをホスト分子とする包接体の結晶であることは記載も示唆もされていない。甲6には、甲1発明のフルオレンを形式上包含する一般式(1)で表されるフルオレン含有化合物をホスト化合物とする包接化合物が記載されているが(摘示6a~6d)、甲1発明のフルオレンは具体的に記載されておらず、甲6の記載を参酌しても、甲1発明の出発物質であるフルオレン粗生成物が、当該フルオレンをホスト分子とする包接体の結晶であるとはいえない。
相違点2について、甲1には、再結晶化後、白色固体を得るに際し、「ろ過することなく」、「気化させながら」メタノールを除去することは記載も示唆もされていない。
甲2に、再結晶における析出方法として、高温の飽和溶液の冷却、溶媒の蒸発・濃縮、溶液に他の適当な溶媒を加えることによる溶解度の減少が(摘示2a)、甲3に、結晶形態の単離ステップとして濾過、遠心分離、溶媒の蒸発が(摘示3b、【0036】)、甲4に、化合物の単離方法として傾斜、濾過、遠心分離が(摘示4c)、それぞれ記載されているが、気化させることに相当する、「溶媒の蒸発・濃縮」は結晶析出方法の一例として記載されているにすぎず、これら記載を考慮しても、甲1発明が当該方法を採用しているとはいえない。
してみると、本件発明は、甲1発明と相違点1及び2のいずれについても実質的に相違するから、甲1に記載された発明であるとはいえない。
(4)まとめ
よって、申立理由2は理由がない。
3 申立理由3について
(1)対比・判断
本件発明と甲1発明との一致点・相違点は前記2(3)に示したとおりである。
上記各相違点について検討する。
甲1には、「本発明」として「9-フルオレノンと2-[(2-フェニル)フェノキシ]エタノールを原料とし,硫酸を触媒とし,3-メルカプトプロピオン酸を助触媒とし,ベンゼン溶媒中で合成して嵩密度の高い9,9-ビス[3-フェニル-4-(2-ヒドロキシエトキシ)フェニル]フルオレンの結晶を製造する」こと、「得られた結晶は純度(HPLC分析測定)が98%より大きく,嵩密度が0.4g/cm3より大きく,流動性が良好である」ことが記載され(摘示1a)、甲1発明の根拠とした例は「対照実施例」として記載されたものであるところ、対照実施例の嵩密度の値等からみて、当業者は、「対照実施例」とは、甲1が目的とする発明の例ではない、すなわち「比較例」に相当するものであると認識するといえる。
そして、比較例として記載されたものは、「本発明」に相当するものと比較して効果等の点において劣ることは明らかである(甲1の対照実施例では、嵩密度が所定の範囲にない。)から、当業者がわざわざ比較例に相当する例を選択して、それに変更を加えて新たな発明とする動機付けがないといわざるを得ない。
したがって、甲1発明において、相違点1及び2に係る本件発明の技術的事項を採用することが当業者が容易になし得た事項であるとはいえない。
仮に、甲1発明に何らかの変更を加えて新たな発明とする動機付けがあるといえる場合について検討すると、以下のとおりである。
相違点1について、甲1には、粗生成物が、前記フルオレンをホスト分子とする包接体の結晶であることは記載も示唆もされていない。甲6には、甲1発明のフルオレンを形式上包含する一般式(1)で表されるフルオレン含有化合物をホスト化合物とする包接化合物が記載されているが(摘示6a~6d)、甲1発明のフルオレンは具体的に記載されていない。甲6に記載の一般式(1)は多様な化合物を包含する式であるところ、甲6において、包接化合物を形成することが具体的に記載されているのは、BCF(9,9--ビス(4-ヒドロキシ-3-メチルフェニル)フルオレン)のみである一方、包接化合物を形成するか否かはホスト化合物の化学構造に大きく影響されることは明らかであるから、BCFとは化学構造が大きく異なる前記フルオレンをホスト分子とする包接体の結晶とすることが当業者が容易に想到し得た事項であるとはいえない。
そして、本件発明は、式(1)で表されるジヒドロキシ化合物をホスト分子とする包接体の結晶からゲスト分子を除去又は低減させることが可能となる等の効果を奏するものであるところ(【0015】)、甲1~4、6のいずれにもかかる事項は記載も示唆もされていないから、本件発明は当業者が予測し得る範囲を超える顕著な効果を奏するものであるといえる。
したがって、相違点2について検討するまでもなく、本件発明は甲1~4、6に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。
(2)まとめ
よって、申立理由3は理由がない。
4 申立理由4について
(1)甲7の記載事項
7a)「【請求項1】
9,9-ビス[4-(2-ヒドロキシエトキシ)-3-フェニルフェニル]フルオレンの結晶多形体であって、粉末X線回折パターンにおいて、回折角度2θ=7.1±0.2°、14.3±0.2°、17.0±0.2°、22.3±0.2°に回折ピークを有する結晶多形体A。」
7b)「【0002】
9,9-ビス(ヒドロキシアリール)フルオレン類などのフルオレン骨格を有する化合物は、高屈折率、高耐熱性などの優れた特性を有していることが知られている。例えば、特開2009-256342号公報(特許文献1)には、9,9-ビス[4-(2-ヒドロキシエトキシ)-3-フェニルフェニル]フルオレン(以下、単にフルオレン化合物という場合がある)が開示され、キシレンを溶媒とし、β-メルカプトプロピオン酸及び硫酸の存在下、9-フルオレノンと、o-フェニルフェノール(2-ヒドロキシエチル)エーテルとを反応させ、反応混合物を水酸化ナトリウム水溶液で中和して蒸留水で洗浄し、冷却することにより結晶を析出させ、濾過して乾燥し、乾燥した結晶を得たこと、アセトンに10重量%の濃度で結晶を溶解した溶液の色相(APHA)が26であり、極めて着色が少ないことが記載されている。また、キシレンに代えてトルエンを用いても着色の少ない結晶が得られたこと、中和した後、抽出溶媒としてメチルイソブチルケトンを添加し、水相のpHが7になるまで水で洗浄した後、冷却しても、着色の少ない結晶が得られたことが記載されている。
【0003】
これらのフルオレン化合物の結晶は、比較的着色が小さく、樹脂の添加剤、樹脂の原料などとして利用でき、ビフェニル単位を有するため、樹脂の耐熱性及び屈折率を向上させるのに有用である。
・・・
【0005】
さらに、前記フルオレン化合物の純度を高めることも要望されているとともに、前記フルオレン化合物が溶媒との包接化合物を形成するためか、1~6重量%程度の溶媒を含有しており、減圧乾燥しても溶媒を除去することが困難である。そのため、安全性、残存溶媒の観点からも用途が制約される。」
7c)「【発明が解決しようとする課題】
【0007】
従って、本発明の目的は、保存安定性の高い9,9-ビス[4-(2-ヒドロキシエトキシ)-3-フェニルフェニル]フルオレンの新規な多形体(結晶多形体、非晶質多形体)及びその製造方法を提供することにある。
【0008】
本発明の他の目的は、純度が高く、溶媒の残存量が少ない9,9-ビス[4-(2-ヒドロキシエトキシ)-3-フェニルフェニル]フルオレンの新規な多形体及びその製造方法を提供することにある。」
7d)「【0013】
・・・さらに、結晶多形体Aの純度は99%以上であってもよく、結晶多形体Aは、溶媒との包接化合物を形成しないためか、溶媒の含有量(残存溶媒量)が極めて少なく、例えば、0.2重量%以下であってもよい。
【0014】
このような結晶多形体Aは、例えば、水溶性ケトン及び水溶性アルコールの混合溶媒から9,9-ビス[4-(2-ヒドロキシエトキシ)-3-フェニルフェニル]フルオレンを晶析させることにより調製できる。
・・・
【発明の効果】
【0018】
本発明の結晶多形体Aは、保存安定性、特に熱安定性(例えば、高温での保存安定性)が高く、加熱下で保存しても、着色を著しく抑制できる。例えば、溶融温度又は融点以上の温度であっても、着色を有効に抑制できる。そのため、長期間にわたり保存しても、純度が低下することもない。さらに、結晶多形体A及び非晶質多形体Bは、いずれも、純度が高く、溶媒の残存量が少ない。従って、結晶多形体A及び非晶質多形体Bは、安全性も高く、工業製品、有機化合物、樹脂の原料、樹脂の硬化剤などとして広い範囲に使用できる。
・・・
【0032】
前記結晶多形体Aは、水溶性ケトン及び水溶性アルコールの混合溶媒(晶析溶媒)から9,9-ビス[4-(2-ヒドロキシエトキシ)-3-フェニルフェニル]フルオレン(フルオレン化合物)を晶析させることにより調製できる。前記混合溶媒の水溶性ケトンとしては、アセトンなどが例示でき、水溶性アルコールとしては、メタノール、エタノール、プロパノール、イソプロパノールなどが例示できる。好ましい水溶性アルコールは、メタノール及びエタノールであり、通常、メタノールを使用する場合が多い。
・・・
【0038】
生成した結晶は、通常、濾過、遠心分離などの分離手段により濾別し、乾燥することにより、残存溶媒の少ない結晶多形体Aを得ることができる。」
7e)「【0052】
比較例1
1000mLのセパラブルフラスコに、9-フルオレノン36重量部(0.2モル、大阪ガスケミカル(株)製)、o-フェニルフェノール(2-ヒドロキシエチル)エーテル128.6重量部(0.6モル、明成化学(株)製)、3-メルカプトプロピオン酸1重量部および溶媒としてキシレン104重量部を投入し、60℃まで加温して完全に溶解させた。その後、42重量部の硫酸を徐々に添加し、60℃で維持して6時間攪拌した。得られた反応混合液に、48%水酸化ナトリウム水溶液を添加して中和した後、蒸留水にて数回洗浄した。洗浄後、冷却することで結晶を析出させた。さらに、ろ過して120℃で乾燥させたところ、103重量部(収率87%)の結晶C(白色)が得られた。得られた結晶Cの1H-NMRを測定した結果、目的とする9,9-ビス[4-(2-ヒドロキシエトキシ)-3-フェニルフェニル]フルオレンであることを確認した。
・・・
【0056】
比較例2
比較例1において、キシレンに代えてトルエンを用いる以外、比較例1と同様にして、110重量部(収率93%)の結晶D(白色)が得られた。得られた結晶Dの粉末X線回折パターンを図3に示す。
・・・
【0058】
得られた結晶Dの融点は148℃、純度は98.3%であり、加熱溶融後の試料(黄色)の色相(APHA)は500以上であり、残存する溶媒トルエンの量は5.5重量%であった。
【0059】
実施例1
比較例2において、反応混合液を、48%水酸化ナトリウム水溶液で中和し、蒸留水で洗浄した後、トルエンを減圧留去し、残渣を600重量部の混合溶媒(アセトン/メタノール=40/60(重量比))に60℃で加熱して溶解して、冷却することにより結晶を析出させ、生成した結晶をろ過し、120℃にて乾燥させたところ、97重量部(収率82%)の結晶(白色の結晶多形体A)が得られた。得られた結晶は、図4に示すように、針状結晶であった。
・・・
【0062】
得られた結晶の融点は145℃、純度は99.4%であり、加熱溶融後の試料(無色透明)の色相(APHA)は100であり、残存する溶媒量は、0.1重量%以下であった。
【0063】
実施例2
比較例2で得られた結晶100重量部を、実施例1で用いたアセトン/メタノール混合溶媒600重量部に60℃で加熱して溶解して、冷却することにより結晶を析出させる以外、実施例1と同様にして、結晶(白色の結晶多形体A)を得た。
【0064】
得られた結晶も図4に示すのと同様に、針状結晶であった。得られた結晶の粉末X線回折パターンを図6に示す。
【0065】
得られた結晶の融点は146℃、純度は99.7%であり、加熱溶融後の試料(無色透明)の色相(APHA)は40であり、残存する溶媒量は、0.1重量%以下であった。」
(2)引用発明
甲7には、粉末X線回折パターンにおいて、所定の回折ピークを有する9,9-ビス[4-(2-ヒドロキシエトキシ)-3-フェニルフェニル]フルオレンの結晶多形体Aについての記載があるところ(摘示7a~7e)、実施例1及び2として、前記結晶多形体Aの具体的な製造例が記載されているから(摘示7e)、甲7に係る特許出願の願書に最初に添付された明細書、特許請求の範囲又は図面には、以下の発明が記載されていると認める。
「1000mLのセパラブルフラスコに、9-フルオレノン36重量部(0.2モル、大阪ガスケミカル(株)製)、o-フェニルフェノール(2-ヒドロキシエチル)エーテル128.6重量部(0.6モル、明成化学(株)製)、3-メルカプトプロピオン酸1重量部および溶媒としてトルエン104重量部を投入し、60℃まで加温して完全に溶解させ、その後、42重量部の硫酸を徐々に添加し、60℃で維持して6時間攪拌して得られた反応混合液を、48%水酸化ナトリウム水溶液で中和し、蒸留水で洗浄した後、トルエンを減圧留去し、残渣を600重量部の混合溶媒(アセトン/メタノール=40/60(重量比))に60℃で加熱して溶解して、冷却することにより結晶を析出させ、生成した結晶をろ過し、120℃にて乾燥させる、9,9-ビス[4-(2-ヒドロキシエトキシ)-3-フェニルフェニル]フルオレンの結晶多形体Aの製造方法。」(以下「甲7-1発明」という。)
「1000mLのセパラブルフラスコに、9-フルオレノン36重量部(0.2モル、大阪ガスケミカル(株)製)、o-フェニルフェノール(2-ヒドロキシエチル)エーテル128.6重量部(0.6モル、明成化学(株)製)、3-メルカプトプロピオン酸1重量部および溶媒としてトルエン104重量部を投入し、60℃まで加温して完全に溶解させ、その後、42重量部の硫酸を徐々に添加し、60℃で維持して6時間攪拌して得られた反応混合液を、48%水酸化ナトリウム水溶液を添加して中和した後、蒸留水にて数回洗浄し、その後、冷却することで結晶を析出させ、さらに、ろ過して120℃で乾燥して得られた結晶100重量部を、アセトン/メタノール混合溶媒(アセトン/メタノール=40/60(重量比))600重量部に60℃で加熱して溶解して、冷却することにより結晶を析出させ、生成した結晶をろ過し、120℃にて乾燥させる、9,9-ビス[4-(2-ヒドロキシエトキシ)-3-フェニルフェニル]フルオレンの結晶多形体Aの製造方法。」(以下「甲7-2発明」という。)
(3)対比・判断
ア 甲7-1発明について
本件発明と甲7-1発明を対比する。
甲7-1発明の「9,9-ビス[4-(2-ヒドロキシエトキシ)-3-フェニルフェニル]フルオレン」は、本件発明の「式(1)で表されるジヒドロキシ化合物」、
「
[図:0001390608000005.jpg]
」に相当する。
甲7-1発明は、反応混合液のトルエンを減圧留去した後の残渣を混合溶媒(アセトン/メタノール=40/60(重量比))に溶解するものであるところ、前記残渣には、前記フルオレンが存在するから、本件発明と、「式(1)で表されるジヒドロキシ化合物と、メタノールとを混合」する点で共通する。
甲7-1発明は、残渣を混合溶媒(アセトン/メタノール=40/60(重量比))に溶解して、冷却することにより結晶を析出させ、生成した結晶をろ過するものであるところ、当該ろ過によりメタノールが除去されるといえるから、本件発明と、混合した「後、・・・メタノールを・・・除去する工程を含む」点で共通する。
甲7-1発明は「9,9-ビス[4-(2-ヒドロキシエトキシ)-3-フェニルフェニル]フルオレンの結晶多形体Aの製造方法」に関するものであるところ、一般に結晶の製造方法は精製方法の一種であるから、本件発明と、「式(1)で表されるジヒドロキシ化合物の精製方法」である点で共通する。
したがって、本件発明と甲7-1発明とは、
「下記式(1)で表されるジヒドロキシ化合物と、メタノールとを混合した後、メタノールを除去する工程を含む、下記式(1)で表されるジヒドロキシ化合物の精製方法。
[図:0001390608000006.jpg]
」である点で一致し、以下の点で相違する。
<相違点3>
出発物質である式(1)で表されるジヒドロキシ化合物について、本件発明は当該化合物「をホスト分子とする包接体の結晶」と特定しているのに対して、甲7-1発明は「残渣」とされ、包接体の結晶であることが特定されていない点。
<相違点4>
メタノールを除去する工程について、本件発明は「ろ過することなくメタノールを気化させながら」除去すると特定しているのに対し、甲7-1発明は「結晶をろ過し、120℃にて乾燥させる」とされている点。
<相違点5>
本件発明は精製方法の対象が、式(1)で表されるジヒドロキシ化合物の「結晶」と特定しているのに対し、甲7-1発明は、結晶であることが特定されていない点。
上記相違点について検討する。
事案に鑑み、相違点3、5について併せて検討するに、甲7には、「残渣」において前記フルオレンが、それをホスト分子とする包接体の結晶として存在することは記載されておらず、そのような結晶であるといえる本件出願時の技術常識もない。また、当該相違点が課題解決のための具体化手段における微差(周知技術、慣用技術の付加、 削除、転換等であって、新たな効果を奏するものではないもの)ということもできない。
相違点4について、甲7-1発明は「ろ過」するものであるところ、甲7には、「生成した結晶は、通常、濾過、遠心分離などの分離手段により濾別し、乾燥することにより、残存溶媒の少ない結晶多形体Aを得ることができる」すると記載されており(摘示7d、【0038】)、濾別しない方法について具体的には一切記載・示唆がない。したがって、たとえ結晶単離の方法として溶媒を蒸発することが周知の技術的事項であったとしても、「ろ過することなくメタノールを気化させながら」除去することが、課題解決のための具体化手段における微差(周知技術、慣用技術の付加、 削除、転換等であって、新たな効果を奏するものではないもの)ということはできない。
以上のとおりであるから、本件発明は甲7-1発明と実質的に同一であるとはいえない。
イ 甲7-2発明について
甲7-2発明の「9,9-ビス[4-(2-ヒドロキシエトキシ)-3-フェニルフェニル]フルオレン」は、本件発明の「式(1)で表されるジヒドロキシ化合物」、
「
[図:0001390608000007.jpg]
」に相当する。
甲7-2発明において、最初に反応混合液を中和・洗浄・冷却することにより析出させ、ろ過・乾燥して得られた結晶は、9,9-ビス[4-(2-ヒドロキシエトキシ)-3-フェニルフェニル]フルオレンの結晶であることは明らかであるところ、当該結晶は、本件発明の「式(1)で表されるジヒドロキシ化合物・・・の結晶」である点で共通する。
甲7-2発明は、前記結晶を、アセトン/メタノール混合溶媒(アセトン/メタノール=40/60(重量比))に溶解するものであるところ、本件発明と、「結晶と、メタノールとを混合」する点で共通する。
甲7-2発明は、前記結晶をアセトン/メタノール混合溶媒(アセトン/メタノール=40/60(重量比))に溶解して、冷却することにより結晶を析出させ、生成した結晶をろ過するものであるところ、当該ろ過によりメタノールが除去されるといえるから、本件発明と、結晶と、メタノールとを混合した「後、・・・メタノールを・・・除去する工程を含む」点で共通する。
甲7-2発明は「9,9-ビス[4-(2-ヒドロキシエトキシ)-3-フェニルフェニル]フルオレンの結晶多形体Aの製造方法」に関するものであり、析出した結晶を再度結晶化するものであるところ、一般に結晶化を繰り返す方法は精製方法の一種であるから、本件発明と、「式(1)で表されるジヒドロキシ化合物の結晶の精製方法」である点で共通する。
したがって、本件発明と甲7-2発明とは、
「下記式(1)で表されるジヒドロキシ化合物の結晶と、メタノールとを混合した後、メタノールを除去する工程を含む、下記式(1)で表されるジヒドロキシ化合物の結晶の精製方法。
[図:0001390608000008.jpg]
」である点で一致し、以下の点で相違する。
<相違点6>
出発物質である式(1)で表されるジヒドロキシ化合物の結晶について、本件発明は当該化合物「をホスト分子とする包接体」と特定しているのに対して、甲7-2発明は包接体の結晶であることが特定されていない点。
<相違点7>
メタノールを除去する工程について、本件発明は「ろ過することなくメタノールを気化させながら」除去すると特定しているのに対し、甲7-2発明は「結晶をろ過し、120℃にて乾燥させる」とされている点。
上記相違点について検討する。
相違点6について、甲7には、甲7-2発明において最初に析出した結晶が、前記フルオレンをホスト分子とする包接体の結晶であることは記載されておらず、そのような結晶であるといえる本件出願時の技術常識もない。また、当該相違点が課題解決のための具体化手段における微差(周知技術、慣用技術の付加、 削除、転換等であって、新たな効果を奏するものではないもの)ということもできない。
相違点7は前記アで示した相違点4と同様であるから、その判断についても前記アで述べたのと同様である。
以上のとおりであるから、本件発明は甲7-2発明と実質的に同一であるとはいえない。
ウ まとめ
よって、本件発明は、甲7に係る特許出願の願書に最初に添付された明細書、特許請求の範囲又は図面に記載された発明と同一であるとはいえず、申立理由4は理由がない。
5 申立理由5について
(1)前提
以下の観点に立って判断する。
特許請求の範囲の記載が特許法第36条第6項第1号に規定する要件(いわゆる「明細書のサポート要件」)に適合するか否かは、特許請求の範囲の記載と発明の詳細な説明の記載とを対比し、特許請求の範囲に記載された発明が、発明の詳細な説明に記載された発明で、発明の詳細な説明の記載又はその示唆により当業者が当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否か、また、その記載や示唆がなくとも当業者が出願時の技術常識に照らし当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否かを検討して判断すべきものである。
(2)発明の詳細な説明の記載
願書に添付した明細書の発明の詳細な説明には以下の記載がある。
a)「【技術分野】
【0001】
本発明は、光学レンズや光学フィルムに代表される光学部材を構成する樹脂(光学樹脂)を形成するモノマーとして好適で、加工性、生産性に優れた新規なフルオレン骨格を有するジヒドロキシ化合物の精製方法に関する。
・・・
【0009】
また、本願発明者らが上記特許文献2~4に記載される方法を追試したところ、特許文献3記載の方法では反応が進行しないか、あるいは反応が進行したとしても、上記式(1)で表されるジヒドロキシ化合物を含むオイル状物が得られるのみで、結晶状の上記式(1)で表されるジヒドロキシ化合物は得られなかった。また、特許文献2及び4の追試では、得られる上記式(1)で表されるジヒドロキシ化合物の結晶は、反応や反応後の取り出し操作(晶析操作)で使用した溶媒(芳香族炭化水素類)を取り込み、包接体となることが判明した。
・・・
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明の目的は、上記式(1)で表されるジヒドロキシ化合物をホスト分子とする包接体の結晶から、包接された化合物(ゲスト分子)を除去又は低減させる方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明者らは、前記の課題を解決すべく鋭意研究を重ねた結果、上記式(1)で表されるジヒドロキシ化合物をホスト分子とする包接体の結晶と、メタノールとを接触させることによって、包接された化合物(ゲスト分子)を除去又は低減させることが可能であることを見出した。具体的には以下の発明を含む。
・・・
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、上記式(1)で表されるジヒドロキシ化合物をホスト分子とする包接体の結晶からゲスト分子を除去又は低減させることが可能となる。上記式(1)で表されるジヒドロキシ化合物をホスト分子とする包接体の結晶を樹脂原料として使用すると、該結晶の溶融中に包接されていたゲスト分子が放出されるため、放出されたゲスト分子を安全に系外へと除去する必要があったり、包接されているゲスト分子の影響で、得られる樹脂の品質が一定とならない等の問題を引き起こすことがある。更には、上記式(1)で表されるジヒドロキシ化合物をホスト分子とする包接体の結晶を保管や輸送する際、ゲスト分子に起因する引火可能性等を考慮する必要があり、より厳密な防災上の対策も必要となる。」
b)「【発明を実施するための形態】
【0016】
本発明の精製方法に供することができる、上記式(1)で表されるジヒドロキシ化合物をホスト分子とする包接体の結晶(以下、包接体の結晶と称することがある)は、包接可能な化合物をゲスト分子として有していても良い。ゲスト分子になり得る化合物として例えば、芳香族炭化水素類(具体的に例えばトルエン、キシレン、クロロベンゼン、ジクロロベンゼン等)、環状ケトン類(具体的に例えばシクロヘキサノン、シクロペンタノン、シクロオクタノン等)、エステル類(具体的に例えば酢酸エチル、酢酸ブチル、酢酸イソブチル等)が挙げられる。
【0017】
結晶が包接体であるか否かは、例えば、TG-DTA(熱重量・示差熱同時測定)分析、X線回折、NMR分析といった方法の他、得られた結晶を、ゲスト分子の沸点以上となる条件で重量変化がない程度に十分に乾燥させた後、得られた結晶を溶媒に溶解させ、ガスクロマトグラフィーや高速液体クロマトグラフィーを用いて分析し、ゲスト分子に相当するピークが残存するか否かで判断することができる。また、前記TG-DTA分析を用いる方法では、測定サンプルを一定の速度で昇温した際の重量変化と、それに伴う吸熱・発熱挙動を測定でき、重量変化と吸熱(又は発熱)とが同時に観測された時点で、ゲスト分子が放出されたことを判断することもできる。
【0018】
本発明における、「上記式(1)で表されるジヒドロキシ化合物をホスト分子とする包接体の結晶とメタノールとを接触させる」操作とは、包接体の結晶と、液体、または気体のメタノールとが接触することを言い、具体的に例えば、包接体の結晶と、メタノールとを容器に入れ、メタノール中で包接体の結晶を撹拌混合させる操作や、包接体の結晶にメタノールを混合した後乾燥機に入れ、メタノールを気化させながら除去する操作等が挙げられる。
【0019】
本発明の精製方法に供されるメタノールにはメタノール以外の有機化合物を含んでいてもよい。他の有機化合物を含む場合、全有機化合物(メタノール+他の有機化合物)中のメタノール濃度は通常60重量%以上、好ましくは70重量%以上、更に好ましくは80重量%以上である。他の有機化合物を用いる場合、本発明の精製方法を実施する際、他の有機化合物とメタノールとを予め混合したものを包接体の結晶と接触させてもよく、また、包接体の結晶と他の有機化合物とを含む混合液や懸濁体にメタノールを添加することで、包接体の結晶とメタノールとを接触させてもよい。
【0020】
なお、本発明の精製方法を実施する際、メタノール中に(他の有機化合物を含む場合、メタノール+他の有機化合物の合計量に対し)水分が10重量%より多く含まれていると、包接体でない上記式(1)で表されるジヒドロキシ化合物を得るために長時間を要する場合があることから、効率よく本発明の精製工程を実施するためには、メタノール中の水分を好ましくは10重量%以下、より好ましくは5重量%以下とする。
【0021】
本発明におけるメタノールの使用量は、包接体の結晶がメタノールと接触することが可能であれば良く、具体的に例えば、包接体の結晶1重量部に対し0.2重量部以上、好ましくは0.5重量部以上、更に好ましくは1重量部以上であり、また上限量は上記式(1)で表されるジヒドロキシ化合物の前記有機化合物に対する溶解度によっても異なるが、通常30重量部以下、好ましくは20重量部以下、更に好ましくは10重量部以下である。
【0022】
前述した本発明の精製方法を実施した後、上記式(1)で表されるジヒドロキシ化合物の結晶とメタノールとを分離しても良い。分離する方法として例えば、ろ過等の固液分離操作や、上記式(1)で表されるジヒドロキシ化合物の結晶とメタノールとの混合物を、メタノールの沸点以上の温度とすることで、上記式(1)で表されるジヒドロキシ化合物の結晶からメタノールを除去する方法等が挙げられる。
【0023】
上記式(1)で表されるジヒドロキシ化合物の結晶とメタノールとを分離した後、上記式(1)で表されるジヒドロキシ化合物の結晶にメタノールが付着している場合、得られた結晶を更に乾燥しても良い。具体的に例えば、分離して得られた上記式(1)で表されるジヒドロキシ化合物の結晶を風乾したり、該結晶をメタノールの沸点以上の温度で一定時間乾燥させる方法が挙げられる。」
c)「【実施例】
【0026】
以下に実施例等を挙げて本発明を具体的に説明するが、本発明はこれに何ら限定されるものではない。例中、各種測定は下記の方法で実施した。
【0027】
(1)HPLC純度
・・・
【0028】
(2)ゲスト分子の含量及びメタノール(又は他の有機化合物)含量の分析
・・・
【0029】
<製造例1>
攪拌器、加熱冷却器、および温度計を備えたガラス製反応器に、9,9’-ビス(4-ヒドロキシ-3-フェニルフェニル)フルオレン120.0g(0.240mol)、エチレンカーボネート48.3g(0.549mol)、炭酸カリウム2.4g(0.018mol)およびトルエン120.0gを仕込み、110℃で11時間撹拌し反応液を得た。
得られた反応液を85℃まで冷却した後、水204gを加え、80~85℃で30分撹拌し、静置後、水層を分離した。同じ操作を3回繰り返した後、得られた有機溶媒層をディーンスターク装置を用いて還流下で脱水することで晶析溶液を得た。
得られた晶析溶液を冷却した所、65℃で結晶が析出し、結晶析出後、同温度で2時間撹拌した。更に26℃まで冷却した後、濾過し、結晶を得た。得られた結晶を、12時間、内圧1.1kPaの減圧下、110℃~112℃で乾燥した。
【0030】
乾燥後、得られた結晶を上述した方法により分析した所、上記式(1)で表されるジヒドロキシ化合物をホスト分子とし、トルエンをゲスト分子とする包接体(包接体の結晶)であることを確認した。以下に分析結果を示す。
得られた結晶の重さ:118.2g
HPLC純度:97.2%
トルエン(ゲスト分子)含量:4.83%
【0031】
<製造例2>
攪拌器、加熱冷却器、および温度計を備えたガラス製反応器に、9,9’-ビス(4-ヒドロキシ-3-フェニルフェニル)フルオレン90.0g(0.180mol)、エチレンカーボネート36.0g(0.408mol)、炭酸カリウム2.1g(0.015mol)、およびシクロヘキサノン90.0gを仕込み、140℃で7時間撹拌し反応液を得た。
得られた反応液を90℃まで冷却した後、シクロヘキサノン69g、ノルマルヘプタン81gを加え、有機溶媒層を90℃に保ちながら洗浄水が中性となるまで水洗を行った。水洗後、得られた有機溶媒層をディーンスターク装置を用いて還流下で脱水することで、晶析溶液を得た。
その後、得られた晶析溶液を70℃まで冷却し、70℃で1時間保温することで結晶を析出させた後、同温度で2時間撹拌した。撹拌後、更に19℃まで冷却した後、濾過し、結晶を得た。得られた結晶を内圧1.1kPaの減圧下、90℃で3時間乾燥した。
【0032】
得られた結晶を上述した方法により分析した所、上記式(1)で表されるジヒドロキシ化合物をホスト分子とし、シクロヘキサノンをゲスト分子とする包接体(包接体の結晶)であることを確認した。以下に分析結果を示す。
得られた結晶の重さ:99.6g
HPLC純度:97.5%
シクロヘキサノン(ゲスト分子)含量:15.3%
【0033】
<実施例1>
攪拌器、加熱冷却器、および温度計を備えたガラス製反応器に、製造例1で得られた包接体の結晶10g、メタノール70gを仕込んだ後、25℃で1時間撹拌を行った。撹拌中、結晶は完全に溶解していなかった。
撹拌後、25℃でろ過し、結晶を得た。得られた結晶を内圧1.3kPaの減圧下、
90℃で3時間乾燥し、上記式(1)で表されるジヒドロキシ化合物の結晶を得た。
【0034】
得られた上記式(1)で表されるジヒドロキシ化合物の結晶の各分析値は以下の通り。得られた結晶の重さ:9.2g
トルエン(ゲスト分子)含量:0.01%
メタノール(精製で用いた有機化合物)含量:0.10%
【0035】
<比較例1>
メタノールをエタノールに変え、実施例1と同様に実施して上記式(1)で表されるジヒドロキシ化合物の結晶を得た。得られた上記式(1)で表されるジヒドロキシ化合物の結晶の各分析値は以下の通り。
得られた結晶の重さ:7.2g
トルエン(ゲスト分子)含量:3.41%
エタノール(精製で用いた有機化合物)含量:0.15%
【0036】
<比較例2>
製造例1で得られた包接体の結晶1g、ジイソブチルケトン5gを撹拌子を入れた試験管に入れ、25℃で1時間撹拌を行った。撹拌後、結晶をろ別し、乾燥した後、得られた結晶を上述した分析法により分析を行った。結果を表1に示す。
<比較例3~7>
撹拌温度、撹拌時間及び包接体の結晶と共に使用する有機化合物(又は水)を表1に示すものに変更した以外は比較例2と同様の方法にて実施した後、得られた結晶を上述した分析法により分析を行った。結果を表1に示す。
【0037】
【表1】
[図:0001390608000009.jpg]
【0038】
<実施例2>
比較例7で得られた、上記式(1)で表されるジヒドロキシ化合物をホスト分子とし、トルエン及び酢酸イソブチルをゲスト分子とする結晶0.9g、メタノール4.5gを、撹拌子を入れた試験管に入れ、25℃で1時間撹拌を行った。撹拌後、結晶をろ別し、乾燥した後、得られた結晶を上述した分析法により分析を行った。結果を以下に示す。
トルエン(ゲスト分子)含量:0.19%
酢酸イソブチル(ゲスト分子)含量:0.05%
メタノール含量:0.21%
【0039】
<実施例3>
製造例1で得られた、包接体の結晶1g、トルエン0.4g、メタノール1.6gを、撹拌子を入れた試験管に入れ、25℃で3時間撹拌を行った。撹拌中、結晶は完全に溶解していなかった。
撹拌後、結晶をろ別し、乾燥し、得られた結晶を上述した分析法により分析を行った。結果を以下に示す。
トルエン(ゲスト分子)含量:0.11%
メタノール含量:0.27%
【0040】
<実施例4>
製造例1で得られた、包接体の結晶1g、メタノール4.4g、水0.6を、撹拌子を入れた試験管に入れ、25℃で12時間撹拌を行った。撹拌後、結晶をろ別し、乾燥した後、得られた結晶を上述した分析法により分析を行った。結果を以下に示す。
トルエン(ゲスト分子)含量:2.43%
メタノール含量:0.12%
上記結晶0.9g、メタノール3.96g、水0.54gを、撹拌子を入れた試験管に入れ、25℃で48時間撹拌を行った。撹拌後、結晶をろ別し、乾燥した後、得られた結晶を上述した分析法により分析を行った。結果を以下に示す。
トルエン(ゲスト分子)含量:0.12%
メタノール含量:0.12%
【0041】
<実施例5>
製造例1で得られた、包接体の結晶1g、メタノール4.6g、水0.4gを、撹拌子を入れた試験管に入れ、25℃で8時間撹拌を行った。撹拌後、結晶をろ別し、乾燥した後、得られた結晶を上述した分析法により分析を行った。結果を以下に示す。
トルエン(ゲスト分子)含量:0.11%
メタノール含量:0.13%
【0042】
<実施例6>
製造例1で得られた、包接体の結晶10gの上からメタノール5gを振りかけた後、攪拌器、加熱冷却器、減圧器を備えたガラス製反応器に該包接体を入れ、加熱冷却器温度を90℃、内圧1.1kPaとして1時間撹拌しながらメタノールを系外へ除去した。その後、得られた結晶を上述した分析法により分析を行った。結果を以下に示す。
トルエン(ゲスト分子)含量:0.01%
メタノール含量:検出されず
【0043】
<比較例8~10>
製造例1で得られた、包接体の結晶に振りかけた有機化合物を表2に示すものに変更した以外は実施例6と同様の方法にて実施し、得られた結晶を上述した分析法により分析を行った。結果を表2に示す。
【0044】
【表2】
[図:0001390608000010.jpg]
【0045】
<実施例7>
攪拌器、加熱冷却器、および温度計を備えたガラス製反応器に、製造例2で得られた、包接体の結晶10g、メタノール50gを仕込んだ後、25℃で3時間撹拌を行った。
撹拌後、25℃でろ過し、結晶を得た。得られた結晶を内圧1.1kPaの減圧下、90℃で3時間乾燥し、上記式(1)で表されるジヒドロキシ化合物の結晶を得た。
【0046】
得られた上記式(1)で表されるジヒドロキシ化合物の結晶の各分析値は以下の通り。得られた結晶の重さ:8.1g
シクロヘキサノン(ゲスト分子)含量:1.56重量%
メタノール含量:0.10重量%
【0047】
<実施例8>
撹拌温度を70℃とする以外は実施例7と同様に実施し、上記式(1)で表されるジヒドロキシ化合物の結晶を得た。得られた上記式(1)で表されるジヒドロキシ化合物の結晶の各分析値は以下の通り。
得られた結晶の重さ:8.0g
シクロヘキサノン(ゲスト分子)含量:0.21%
メタノール含量:0.15%
【0048】
<比較例11>
メタノールをエタノールに変更する以外は実施例7と同様に実施し、上記式(1)で表されるジヒドロキシ化合物の結晶を得た。得られた上記式(1)で表されるジヒドロキシ化合物の結晶の各分析値は以下の通り。
得られた結晶の重さ:6.4g
シクロヘキサノン(ゲスト分子)含量:13.3%
エタノール含量:0.15%
【0049】
<比較例12>
製造例2で得られた、包接体の結晶1g、ジイソブチルケトン5gを撹拌子を入れた試験管に入れ、25℃で1時間撹拌を行った。撹拌後、結晶をろ別し、乾燥した後、得られた結晶を上述した分析法により分析を行った。結果を表3に示す。
<比較例13~14>
包接体の結晶と共に使用する有機化合物を表3に示すものに変更した以外は比較例12と同様の方法にて実施した後、得られた結晶を上述した分析法により分析を行った。結果を表3に示す。
【0050】
【表3】
[図:0001390608000011.jpg]
【0051】
<参考例1>
スケールを10分の1とする以外は特開2001-206863号の実施例6に記載されている方法で仕込・反応を行い、65℃で1時間撹拌した段階で反応液を高速液体クロマトグラフィーで分析したが、上記式(1)で表されジヒドロキシ化合物は殆ど生成しておらず、原料の9-フルオレノンが98%残存していた。そこで更に同温度で7時間撹拌を継続し、反応液を高速液体クロマトグラフィーで分析したが、やはり反応は殆ど進行しておらず、原料の9-フルオレノンが97%残存していた。
そこで特開2001-206863号〔0019〕の記載に基づき、反応温度を65℃から100℃へと変更し同温度で撹拌を継続したところ、原料である9-フルオレノンの消失までに73時間必要であった。
該文献記載に基づく後処理を実施するため、得られた反応液を2分割し、一方にメタノール10g、もう一方にイソプロピルアルコール10gを加え60℃まで加温し、1時間撹拌を継続した後、それぞれ純水30gを加え、30℃まで冷却したが、いずれも結晶は析出せず、それぞれ水と分離したタール状の液体が得られた。」
(3)判断
願書に添付した明細書の記載からみて、本件発明の解決しようとする課題は「式(1)で表されるジヒドロキシ化合物をホスト分子とする包接体の結晶から、包接された化合物(ゲスト分子)を除去又は低減させる方法を提供すること」であると認める。
本件発明の精製方法に供される「式(1)で表されるジヒドロキシ化合物をホスト分子とする包接体の結晶」について、発明の詳細な説明には、所定の方法で得られる式(1)で表されるジヒドロキシ化合物の結晶は、反応や反応後の取り出し操作(晶析操作)で使用した溶媒(芳香族炭化水素類)を取り込み、包接体となることが判明したこと(【0009】)、ゲスト分子となり得る化合物(【0016】)、結晶が包接体であるか否かの判断手法(【0017】)が記載され、さらに、具体例である製造例1及び2として、それぞれ式(1)で表されるジヒドロキシ化合物をホスト分子とし、トルエンをゲスト分子とする包接体の結晶及び式(1)で表されるジヒドロキシ化合物をホスト分子とし、シクロヘキサノンをゲスト分子とする包接体の結晶が具体的に記載されている。
本件発明の精製方法が「包接体の結晶と、メタノールとを混合した後、ろ過することなくメタノールを気化させながら除去する工程を含む」ことについて、発明の詳細な説明には、包接体の結晶と、メタノールとを容器に入れ、メタノール中で包接体の結晶を撹拌混合させる操作、包接体の結晶にメタノールを混合した後乾燥機に入れ、メタノールを気化させながら除去する操作(【0018】)、メタノールに関する事項(【0019】~【0021】)、式(1)で表されるジヒドロキシ化合物の結晶とメタノールとを分離する方法として例えば、ろ過等の固液分離操作や、式(1)で表されるジヒドロキシ化合物の結晶とメタノールとの混合物を、メタノールの沸点以上の温度とすることで、式(1)で表されるジヒドロキシ化合物の結晶からメタノールを除去する方法等が挙げられること(【0022】)が記載されている。また、具体例である実施例6に、「包接体の結晶10gの上からメタノール5gを振りかけた後、攪拌器、加熱冷却器、減圧器を備えたガラス製反応器に該包接体を入れ、加熱冷却器温度を90℃、内圧1.1kPaとして1時間撹拌しながらメタノールを系外へ除去した」ことが記載されているところ(【0042】)、包接体の結晶の上からメタノールを振りかけることは、「包接体の結晶と、メタノールとを混合」することに相当し、その後の加熱冷却器温度を90℃、内圧1.1kPaとして1時間撹拌しながらメタノールを系外へ除去することは、「ろ過することなくメタノールを気化させながら除去する」ことに相当する。
また、発明の詳細な説明には、「式(1)で表されるジヒドロキシ化合物をホスト分子とする包接体の結晶からゲスト分子を除去又は低減させることが可能となる」ことが記載され(【0015】)、具体例である前記実施例6において、製造例1で得られたトルエン(ゲスト分子)含量:4.83%の包接体の結晶が、トルエン(ゲスト分子)含量:0.01%の結晶となったことが示されている(【0042】)。
してみると、本件発明が、発明の詳細な説明に記載された発明で、発明の詳細な説明の記載又はその示唆により当業者が当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであり、また、その記載や示唆がなくとも当業者が出願時の技術常識に照らし当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるといえる。
(4)特許異議申立人の主張について
ア 混合、結晶とメタノールとの質量比について
発明の詳細な説明には、「包接体の結晶にメタノールを混合」することが記載されている(【0018】)。
また、実施例6の「包接体の結晶10gの上からメタノール5gを振りかけ」ることも、包接体の結晶とメタノールと合わせてある程度均質化しているといえるから、混合に当たると認められる。甲8に「二つ以上の不均質な成分の集合体に,適当な操作を加えて均質化することをいう」との記載があるが(747頁左欄、28~43行)、甲8には均質化に関してバラツキが避けられないことも記載されており、均質化の程度が定まっているわけでもないから、前記実施例6の振りかける操作が、混合に当たらないとはいえない。仮に実施例6の前記した操作が混合に当たらないとしても、混合を行うことで前記課題を解決できなくなるという技術的理由はない。
さらに、「結晶とメタノールとの質量比」について、発明の詳細な説明には、包接体の結晶に対するメタノールの使用量について「包接体の結晶がメタノールと接触することが可能であれば良く」との記載があることから(【0021】)、当業者は、包接体の結晶とメタノールの質量比を特定せずとも、両者が接触することができれば前記課題を解決できると認識できるといえる。
イ 気化条件について
発明の詳細な説明には、メタノールを分離する方法として、例えば、結晶とメタノールとの混合物を、メタノールの沸点以上の温度とすることが記載される(【0022】)他、具体例である実施例6として、所定の温度、内圧、撹拌時間でメタノールを除去したことが記載されている(【0042】)。
特許異議申立人は、常温、常圧で静置(放置)された条件において、メタノールの沸点がトルエンの沸点よりも著しく低いことを考慮すると、メタノールを気化しながら除去する方法が、実施例6と同等の効果を奏するとはいえない旨主張するが、そのような沸点の違いによってトルエンを除去又は低減することができないという具体的な根拠は示されておらず、通常、液体は沸点に達していなくても常温・常圧で蒸発することがあることを考慮すれば、この点を理由として、前記課題を解決できないということはできない。
また、温度、圧力、撹拌時間等の気化条件を特定しなければ前記課題を解決できないという技術的な理由はみあたらない。
甲5に所定の化合物について所定の温度で固相転移することが記載されている(甲5の請求項1、2、14、16、17参照。)ものの、本件発明に係る化合物は甲5に係る化合物とは異なるし、本件明細書の記載をみても、本件発明の精製方法について、固相転移が関与しているという理由はないから、甲5の記載は上記判断を左右しない。
したがって、メタノールを気化させながら除去すれば、前記課題を解決できると認識できるといえる。
ウ ゲスト分子について
本件発明の「包接体の結晶」のゲスト分子について、発明の詳細な説明には、「ゲスト分子になり得る化合物として例えば、芳香族炭化水素類(具体的に例えばトルエン、キシレン、クロロベンゼン、ジクロロベンゼン等)、環状ケトン類(具体的に例えばシクロヘキサノン、シクロペンタノン、シクロオクタノン等)、エステル類(具体的に例えば酢酸エチル、酢酸ブチル、酢酸イソブチル等)が挙げられる」との記載がある(【0016】)ところ、具体例である実施例6で芳香族炭化水素類に当たるトルエン含量が低減したことが示されている。
また、ろ過を行っている点で本件発明の実施例には当たらないものの、実施例2には、エステル類に当たる酢酸イソブチル含量が、実施例7、8には、環状ケトン類に当たるシクロヘキサノン含量がそれぞれ低減したことが示されている。これらの例はいずれも包接体の結晶と、メタノールとを混合した後、メタノールを除去するものであり、実施例2,7、8がメタノールの除去方法としてろ過を選択したことによってゲスト分子を低減することができたものであるとする理由もない。
そして、上記各実施例で低減されたゲスト分子は、上記【0016】に記載された芳香族炭化水素類、環状ケトン類、エステル類に相当するものであり、異なる化合物群に属するものであり、これらに共通する何らかのメタノールとの相互作用を見出すこともできない。
したがって、これらの記載を考慮すれば、当業者は、包接体の結晶と、メタノールとを混合した後、メタノールを除去することを含み、さらに、メタノールの除去を、ろ過することなく、メタノールを気化させながら行うことで、包接体の結晶からゲスト分子を除去又は低減できることを認識できるといえる。
エ まとめ
以上のとおりであるから、特許異議申立人の主張を採用することはできない。
(5)まとめ
よって、申立理由5は理由がない。
第6 むすび
以上のとおりであるから、請求項1に係る特許は、特許異議申立書に記載された特許異議申立理由及び証拠方法によっては、取り消すことができない。
また、ほかに請求項1に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
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2022-700644