特許異議申立
2022-700377
固体電解コンデンサおよび固体電解コンデンサの製造方法
- 審判番号
- 2022-700377
- 法域
- 特許
- 審判種別
- 異議申立(異議の決定)
- 出願番号
- 特願2020-125042
- 登録番号
- 6965970
- 請求日
- 2022年04月28日
- 審決日
- 2023年04月26日
- 公報発行日
- 2023年07月28日
- 結論
- 訂正認容
- 当事者
- 【権利者】日本ケミコン株式会社
- 【権利者代理人】木内 光春
- 【権利者代理人】木内 加奈子
- 【権利者代理人】大熊 考一
- 【権利者代理人】片桐 貞典
- 【異議申立人】ニチコン 株式会社
- 【異議申立人代理人】弁理士法人みのり特許事務所
- 審判長/審判官
- 審判長 篠原 功一
- 審判官 山田 正文
- 審判官 畑中 博幸
- 分類
- P1651.113-YAA(H01G) / P1651.121-YAA(H01G)
- 条文(本文から自動抽出・参考)
- 特許法第29条第1項、特許法第29条第1項第3号、特許法第120条の5第2項、特許法第120条の5第9項、特許法第29条第2項、特許法第36条第6項第1号、特許法第120条の5第7項、特許法第120条の5第4項
- データ出所
- 審決公報(XML)
事件の表示
特許第6965970号発明「固体電解コンデンサおよび固体電解コンデンサの製造方法」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。
結論
結 論
特許第6965970号の明細書、特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正明細書、特許請求の範囲のとおり訂正後の請求項〔1-4〕、5、6について訂正することを認める。
特許第6965970号の請求項1-6に係る特許を維持する。
理由
理 由
第1 手続の経緯
特許第6965970号の請求項1ないし5に係る発明についての出願は、平成27年8月12日の出願である特願2015-159562号の一部を令和2年7月22日に新たな特許出願としたものであって、令和3年10月25日にその特許権が設定登録され、令和3年11月10日に特許掲載公報が発行された。
その特許についての本件特許異議の申立ての経緯は、次のとおりである。
令和4年 4月28日 :特許異議申立人ニチコン株式会社(以下、「申立人」という。)により請求項1-5に係る特許に対する特許異議の申立て
令和4年 7月12日付け:取消理由通知
令和4年 9月20日 :特許権者による意見書及び訂正請求書の提出
令和4年10月24日 :申立人による意見書の提出
令和4年11月 7日付け:取消理由通知(決定の予告)
令和5年 1月16日 :特許権者による意見書及び訂正請求書の提出
令和5年 3月14日 :申立人による意見書の提出
なお、令和5年1月16日に訂正の請求がなされたので、特許法第120条の5第7項の規定により、令和4年9月20日にされた訂正の請求は取り下げられたものとみなす。
第2 訂正の適否
1 訂正の内容
令和5年1月16日付けの訂正請求の趣旨は、特許第6965970号の明細書、特許請求の範囲を、訂正請求書に添付した訂正明細書、訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項1-6に訂正することを求めるものであり、その訂正(以下、「本件訂正」という。)の内容は次のとおりである(下線は、訂正箇所を示す。)。
(1)訂正事項1
特許請求の範囲の請求項1に「陽極箔と陰極箔と、がセパレータを介して巻回されたコンデンサ素子を有し、前記コンデンサ素子は、導電性高分子を含む固体電解質層を有し、前記コンデンサ素子内の空隙部には、電解液が充填され、前記電解液は、溶質として脂肪族カルボン酸のアンモニウム塩と、溶媒として多価アルコールと、を含み、前記溶媒に対する前記溶質の酸の添加量が0.6mol/kg以下であり、前記電解液が、前記溶媒として水を添加しない電解液であることを特徴とする固体電解コンデンサ。」と記載されているのを、「陽極箔と陰極箔と、がセパレータを介して巻回されたコンデンサ素子を有し、前記コンデンサ素子は、導電性高分子を含む固体電解質層を有し、前記コンデンサ素子内の空隙部には、電解液が充填され、前記電解液は、溶質として少なくとも脂肪族カルボン酸のアンモニウム塩と、溶媒として少なくとも多価アルコールと、を含み、前記溶媒に対する前記溶質の酸の添加量が0.37mol/kg以下であり、前記電解液が、前記溶媒として水を添加しない電解液であることを特徴とする固体電解コンデンサ。」に訂正する。
請求項1を直接又は間接的に引用する請求項2-4も同様に訂正する。
(2)訂正事項2
ア 訂正事項2-1
特許請求の範囲の請求項4に「前記固体電解コンデンサに含まれる水分量を3wt%以下としたことを特徴とする請求項1乃至3いずれか一項記載の固体電解コンデンサ。」と記載されているのを、「前記固体電解コンデンサに含まれる水分量を3wt%以下としたことを特徴とする請求項2又は請求項3に記載の固体電解コンデンサ。」と訂正する。
イ 訂正事項2-2
特許請求の範囲の請求項4に「前記固体電解コンデンサに含まれる水分量を3wt%以下としたことを特徴とする請求項1乃至3いずれか一項記載の固体電解コンデンサ。」と記載されているうち請求項1を引用するものについて、独立形式に改めるとともに「前記電解液は、溶質として少なくとも脂肪族カルボン酸のアンモニウム塩と、溶媒として少なくとも多価アルコールと、を含み、前記溶媒に対する前記溶質の酸の添加量が0.26mol/kg以下」とし、また、「前記溶媒に対する前記溶質のアンモニウムイオンの添加量が0.26mol/kg以下である」との構成を付加して、「陽極箔と陰極箔と、がセパレータを介して巻回されたコンデンサ素子を有し、前記コンデンサ素子は、導電性高分子を含む固体電解質層を有し、前記コンデンサ素子内の空隙部には、電解液が充填され、前記電解液は、溶質として少なくとも脂肪族カルボン酸のアンモニウム塩と、溶媒として少なくとも多価アルコールと、を含み、前記溶媒に対する前記溶質の酸の添加量が0.26mol/kg以下であり、前記電解液が、前記溶媒として水を添加しない電解液であり、前記固体電解コンデンサに含まれる水分量を3wt%以下とし、前記溶媒に対する前記溶質のアンモニウムイオンの添加量が0.26mol/kg以下であることを特徴とする固体電解コンデンサ。」と記載し、新たな請求項6とする。
(3)訂正事項3
願書に添付した明細書の段落【0009】に「すなわち、本発明の固体電解コンデンサは、陽極箔と陰極箔と、がセパレータを介して巻回されたコンデンサ素子を有し、前記コンデンサ素子は、導電性高分子を含む固体電解質層を有し、前記コンデンサ素子内の空隙部には、電解液が充填され、前記電解液は、溶質として脂肪族カルボン酸のアンモニウム塩と、溶媒として多価アルコールと、を含み、前記溶媒に対する前記溶質の酸の添加量が0.6mol/kg以下であり、前記電解液が、前記溶媒として水を添加しない電解液であることを特徴とする。」とあるのを、「すなわち、本発明の固体電解コンデンサは、陽極箔と陰極箔と、がセパレータを介して巻回されたコンデンサ素子を有し、前記コンデンサ素子は、導電性高分子を含む固体電解質層を有し、前記コンデンサ素子内の空隙部には、電解液が充填され、前記電解液は、溶質として少なくとも脂肪族カルボン酸のアンモニウム塩と、溶媒として少なくとも多価アルコールと、を含み、前記溶媒に対する前記溶質の酸の添加量が0.37mol/kg以下であり、前記電解液が、前記溶媒として水を添加しない電解液であることを特徴とする。」と訂正する。
(4)訂正事項4
特許請求の範囲の請求項5に「陽極箔と陰極箔と、をセパレータを介して巻回したコンデンサ素子を形成する工程と、前記コンデンサ素子を、導電性高分子の分散体に浸漬後、乾燥させ、導電性高分子を含む固体電解質層を形成する工程と、前記固体電解質層が形成されたコンデンサ素子を、脂肪族カルボン酸のアンモニウム塩と、溶媒として多価アルコールと、を含み、溶媒として水を添加しない電解液に浸漬し、前記コンデンサ素子内の空隙部に電解液を充填する工程と、を含み、前記溶媒に対する前記溶質の酸の添加量が0.6mol/kg以下であることを特徴とする固体電解コンデンサの製造方法。」と記載されているのを、「陽極箔と陰極箔と、をセパレータを介して巻回したコンデンサ素子を形成する工程と、前記コンデンサ素子を、導電性高分子の分散体に浸漬後、乾燥させ、導電性高分子を含む固体電解質層を形成する工程と、前記固体電解質層が形成されたコンデンサ素子を、溶質として少なくとも脂肪族カルボン酸のアンモニウム塩と、溶媒として少なくとも多価アルコールと、を含み、溶媒として水を添加しない電解液に浸漬し、前記コンデンサ素子内の空隙部に電解液を充填する工程と、を含み、前記溶媒に対する前記溶質の酸の添加量が0.37mol/kg以下であることを特徴とする固体電解コンデンサの製造方法。」に訂正する。
(5)別の訂正単位とする求め
訂正後の請求項6については、当該請求項についての訂正が認められる場合には、一群の請求項の他の請求項とは別途訂正することを求めている。
2 訂正要件についての判断
(1)一群の請求項について
上記訂正事項1ないし3に係る本件訂正前の請求項1ないし4について、請求項2ないし4は請求項1を直接又は間接的に引用しているから、本件訂正前の請求項1ないし4に対応する本件訂正の請求項〔1-4,6〕は、特許法第120条の5第4項に規定する関係を有する一群の請求項である。
(2)訂正の目的の適否、新規事項の有無、特許請求の範囲の拡張・変更の存否、独立特許要件
ア 訂正事項1について
(ア)訂正の目的
訂正事項1は、訂正前の請求項1に記載されていた「前記電解液は、溶質として脂肪族カルボン酸のアンモニウム塩と、溶媒として多価アルコールと、を含み、前記溶媒に対する前記溶質の酸の添加量が0.6mol/kg以下」との構成について、「前記電解液は、溶質として少なくとも脂肪族カルボン酸のアンモニウム塩と、溶媒として少なくとも多価アルコールと、を含み、前記溶媒に対する前記溶質の酸の添加量が0.37mol/kg以下」と限定するものである。
よって、訂正事項1は、請求項1について、特許請求の範囲を減縮するものである。
また、請求項1を直接又は間接的に引用する請求項2ないし4も同様に、特許請求の範囲を減縮するものである。
したがって、訂正事項1は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に掲げる特許請求の範囲の減縮を目的とする訂正である。
(イ)新規事項の有無及び特許請求の範囲の拡張又は変更の存否
明細書の段落【0052】には、「アゼライン酸アンモニウム塩の添加量の内訳を、アゼライン酸を0.37mol/kg、アンモニウムイオンを0.37mol/kgとしたこと以外は、実施例1と同様に作製した。」と記載されると共に、【表1】の実施例3には電解液アゼライン酸、添加量(mol/kg)0.37と記載されている。
よって、訂正事項1は、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の訂正であり、また、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。
したがって、訂正事項1は、特許法第120条の5第9項で準用する同法第126条第5項及び第6項の規定に適合する。
イ 訂正事項2について
(ア)訂正事項2-1について
a 訂正の目的
訂正事項2-1は、訂正前の請求項4に記載されていた「請求項1乃至3いずれか一項記載の固体電解コンデンサ」との記載を「請求項2又は請求項3に記載の固体電解コンデンサ」と請求項4が引用する請求項を減らすものである。
よって、訂正事項2-1は、請求項4について、特許請求の範囲を減縮するものである。
したがって、訂正事項2-1は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に掲げる特許請求の範囲の減縮を目的とする訂正である。
b 新規事項の有無及び特許請求の範囲の拡張又は変更の存否
訂正事項2-1は、上記aで述べたとおり、請求項4が引用する請求項を減らすものであるから、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の訂正であり、また、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。
したがって、訂正事項2-1は、特許法第120条の5第9項で準用する同法第126条第5項及び第6項の規定に適合する。
(イ)訂正事項2-2について
a 訂正の目的
訂正事項2-2に係る訂正は、訂正前の請求項4のうち請求項1を引用するものについて、請求項間の引用関係を解消して独立形式に改めると共に、訂正前の請求項1にあった「電解液」について「前記電解液は、溶質として少なくとも脂肪族カルボン酸のアンモニウム塩と、溶媒として少なくとも多価アルコールと、を含み、前記溶媒に対する前記溶質の酸の添加量が0.26mol/kg以下であり」、「前記溶媒に対する前記溶質のアンモニウムイオンの添加量が0.26mol/kg以下である」と限定する訂正であるから、請求項間の引用関係の解消、及び、特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。
したがって、訂正事項2-2は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に掲げる特許請求の範囲の減縮を目的とする訂正、及び、第4号に掲げる他の請求項の記載を引用する請求項の記載を当該他の請求項の記載を引用しないものとすることを目的とする訂正である。
b 新規事項の有無及び特許請求の範囲の拡張又は変更の存否
訂正事項2-2は、上記aで述べたとおり、請求項間の引用関係の解消、及び、「電解液」について限定するものであるところ、「電解液」の「溶質」を限定する構成については、明細書の段落【0051】に「アゼライン酸アンモニウム塩の添加量の内訳を、アゼライン酸を0.26mol/kg、アンモニウムイオンを0.26mol/kgとしたこと以外は、実施例1と同様に作製した。」と記載されると共に、【表1】の実施例2には電解液アゼライン酸、添加量(mol/kg)0.26、電解液アンモニウムイオン、添加量(mol/kg)0.26と記載されている。
よって、訂正事項2-2は、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の訂正であり、また、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。
したがって、訂正事項2-2は、特許法第120条の5第9項で準用する同法第126条第5項及び第6項の規定に適合する。
ウ 訂正事項3について
(ア)訂正の目的
訂正事項3は、訂正事項1の訂正に伴い特許請求の範囲の記載と明細書の記載との整合を図るための訂正であるから、特許法第120条の5第2項ただし書き第3号に掲げる明りょうでない記載の釈明を目的とするものである。
(イ)新規事項の有無及び特許請求の範囲の拡張又は変更の存否
訂正事項3は、上記(ア)で述べたとおり、明りょうでない記載の釈明であるから、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の訂正であり、また、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。
したがって、訂正事項3は、特許法第120条の5第9項で準用する同法第126条第5項及び第6項の規定に適合する。
エ 訂正事項4について
(ア)訂正の目的
訂正事項4は、訂正前の請求項5に記載されていた「脂肪族カルボン酸のアンモニウム塩と、溶媒として多価アルコールと、を含み、溶媒として水を添加しない電解液に浸漬し、前記コンデンサ素子内の空隙部に電解液を充填する工程と、を含み、前記溶媒に対する前記溶質の酸の添加量が0.6mol/kg以下」との構成について、「溶質として少なくとも脂肪族カルボン酸のアンモニウム塩と、溶媒として少なくとも多価アルコールと、を含み、溶媒として水を添加しない電解液に浸漬し、前記コンデンサ素子内の空隙部に電解液を充填する工程と、を含み、前記溶媒に対する前記溶質の酸の添加量が0.37mol/kg以下」と限定するものである。
よって、訂正事項4は、請求項5について、特許請求の範囲の減縮するものである。
したがって、訂正事項4は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に掲げる特許請求の範囲の減縮を目的とする訂正である。
(イ)新規事項の有無及び特許請求の範囲の拡張又は変更の存否
明細書の段落【0052】には、「アゼライン酸アンモニウム塩の添加量の内訳を、アゼライン酸を0.37mol/kg、アンモニウムイオンを0.37mol/kgとしたこと以外は、実施例1と同様に作製した。」と記載されると共に、【表1】の実施例3には電解液アゼライン酸、添加量(mol/kg)0.37と記載されている。
よって、訂正事項4は、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の訂正であり、また、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。
したがって、訂正事項4は、特許法第120条の5第9項で準用する同法第126条第5項及び第6項の規定に適合する。
オ 独立特許要件について
訂正事項1、2、4は、上記ア、イ、エに示したとおり、「特許請求の範囲の減縮」を目的とするところ、本件においては、訂正前の請求項1ないし5について特許異議の申立てがされているから、対応する訂正後の請求項1ないし6に係る発明について、特許法120条の5第9項で読み替えて準用する同法第126条第7項の独立特許要件は課されない。
3 小括
以上のとおり、本件訂正は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号、第3号及び第4号に掲げる事項を目的とするものであり、かつ、同条第9項で準用する同法第126条第5項及び第6項の規定に適合する。
そして、特許権者から、訂正後の請求項6については、当該請求項についての訂正が認められる場合には、一群の請求項の他の請求項とは別途訂正する求めがあったことから、特許請求の範囲を、訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1-4〕、5、6について訂正することを認める。
第3 本件発明
上記第2のとおり本件訂正は認められるので、本件特許の請求項1ないし6に係る発明(以下、「本件発明1」ないし「本件発明6」という。)は、その訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲の請求項1ないし6に記載された次の事項により特定されるものである。なお、下線は、訂正箇所を示す。
「【請求項1】
陽極箔と陰極箔と、がセパレータを介して巻回されたコンデンサ素子を有し、
前記コンデンサ素子は、導電性高分子を含む固体電解質層を有し、
前記コンデンサ素子内の空隙部には、電解液が充填され、
前記電解液は、溶質として少なくとも脂肪族カルボン酸のアンモニウム塩と、溶媒として少なくとも多価アルコールと、を含み、
前記溶媒に対する前記溶質の酸の添加量が0.37mol/kg以下であり、
前記電解液が、前記溶媒として水を添加しない電解液であることを特徴とする固体電解コンデンサ。
【請求項2】
前記多価アルコールが、エチレングリコールであることを特徴とする請求項1記載の固体電解コンデンサ。
【請求項3】
前記電解液が、ホウ酸およびマンニットをさらに含むことを特徴とする請求項1又は2記載の固体電解コンデンサ。
【請求項4】
前記固体電解コンデンサに含まれる水分量を3wt%以下としたことを特徴とする請求項2又は請求項3に記載の固体電解コンデンサ。
【請求項5】
陽極箔と陰極箔と、をセパレータを介して巻回したコンデンサ素子を形成する工程と、
前記コンデンサ素子を、導電性高分子の分散体に浸漬後、乾燥させ、導電性高分子を含む固体電解質層を形成する工程と、
前記固体電解質層が形成されたコンデンサ素子を、溶質として少なくとも脂肪族カルボン酸のアンモニウム塩と、溶媒として少なくとも多価アルコールと、を含み、溶媒として水を添加しない電解液に浸漬し、前記コンデンサ素子内の空隙部に電解液を充填する工程と、
を含み、
前記溶媒に対する前記溶質の酸の添加量が0.37mol/kg以下であることを特徴とする固体電解コンデンサの製造方法。
【請求項6】
陽極箔と陰極箔と、がセパレータを介して巻回されたコンデンサ素子を有し、
前記コンデンサ素子は、導電性高分子を含む固体電解質層を有し、
前記コンデンサ素子内の空隙部には、電解液が充填され、
前記電解液は、溶質として少なくとも脂肪族カルボン酸のアンモニウム塩と、溶媒として少なくとも多価アルコールと、を含み、
前記溶媒に対する前記溶質の酸の添加量が0.26mol/kg以下であり、
前記電解液が、前記溶媒として水を添加しない電解液であり、
前記固体電解コンデンサに含まれる水分量を3wt%以下とし、
前記溶媒に対する前記溶質のアンモニウムイオンの添加量が0.26mol/kg以下であることを特徴とする固体電解コンデンサ。」
第4 取消理由通知に記載した取消理由について
1 取消理由の概要
令和4年11月7日付けの取消理由通知(決定の予告)に記載した取消理由の概要は、次のとおりである。
1)下記の請求項に係る発明は、本件特許出願前に日本国内又は外国において、頒布された下記の刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明であって、特許法第29条第1項第3号に該当するから、下記の請求項に係る特許は、特許法第29条第1項の規定に違反してされたものである。
2)下記の請求項に係る発明は、本件特許出願前に日本国内又は外国において、頒布された下記の刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明に基いて、本件特許出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、下記の請求項に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものである。
3)(新たな)請求項6に係る発明は、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない。
記
・理由1)(新規性)について
・請求項1-4について引用文献2
・理由2)(進歩性)について
・請求項5について引用文献2、3
・理由3)(サポート要件)について
本件発明6には「前記溶媒に対する前記溶質の酸の添加量が0.6mol/kg以下」と記載されると共に「前記溶媒に対する前記溶質のアンモニウムイオンの添加量が0.26mol/kg以下」であると記載されている。
してみると、本件発明6は、酸の添加量が0.6ないし0.26mol/kgでアンモニウムイオンの添加量が0.26mol/kg以下の溶質等、酸の添加量とアンモニウムイオンの添加量が異なる溶質を含む。
これに対し、発明の詳細な説明の【0006】ないし【0008】等の記載によれば、本件発明が解決しようとする課題は、80WVを超える高圧において、ESR特性が良好な固体電解コンデンサを提供することである。そして、発明の詳細な説明には、【0046】ないし【0060】及び表1に、添加量0.6mol/kg以下で酸の添加量と同量のアンモニウムイオンが添加された実施例1ないし11が記載されると共に、【0038】等に酸の添加量を0.6mol/kg以下とすることで80WV以上の高圧において静電容量やESRの変化を抑制することができる旨の記載のあるものの、酸の添加量とアンモニウムイオンの添加量をそれぞれ異なるようにすること、及びアンモニウムイオンの添加量を0.26mol/kg以下とすることによる作用効果の記載や示唆は無い。
よって、本件発明6は、発明の詳細な説明において「発明の課題が解決できることを当業者が認識できるように記載された範囲」を超えたものを含んでおり、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない。
〈引用文献等〉
引用文献2:特開平11-283874号公報(甲第2号証)
引用文献3:特開2014-195116号公報(甲第4号証)
2 当審の判断
(1)理由1)(新規性)について
ア 引用文献の記載事項・引用発明
上記引用文献2の【0012】、【0036】、【0042】、【0048】、【0051】、【0078】の記載により、引用文献2には、実施の形態4のアルミニウム電解コンデンサに添加剤を混合したコンデンサとして以下の発明(以下、「引用発明2」という。)が記載されているといえる。
「陽極アルミニウム箔と陰極アルミニウム箔との間にマニラ麻繊維を含有する電解紙を介在させて巻回した後、導電性高分子である化学重合ポリエチレンジオキシチオフェンよりなる電解質としての固体有機導電材層を電極箔上ならびに電極箔間に形成したコンデンサ素子(【0012】、【0048】、【0078】)、
このコンデンサ素子に電解液を含浸させ、コンデンサ素子を金属ケースに封入したアルミニウム電解コンデンサにおいて(【0048】)、
電解液は、重量部で、γ-ブチロラクトン(50部)、エチレングリコール(50部)、マレイン酸トリメチルアンモニウム(5部)[注釈:pH=9.5]、フタル酸水素トリエチルアミン(5部)[注釈:pH=9.5]、アジピン酸ジアンモニウム(3部)[注釈:pH=9.1]、硼酸(0.5部)、p-ニトロ安息香酸(1部)、リン酸(0.5部)、以上の化合物を混合、溶解したものであり(【0039】、【0042】、【0051】)、
電解液には、添加剤としてホウ酸と多糖類(マンニット、ソルビットなど)との錯化合物を混合した(【0036】)、
アルミニウム電解コンデンサ。」
また、上記引用文献2には、実施の形態4のアルミニウム電解コンデンサに添加剤を混合したコンデンサの製造方法として以下の発明(以下、「引用発明2’」という。)が記載されているといえる。
「陽極アルミニウム箔と陰極アルミニウム箔との間にマニラ麻繊維を含有する電解紙を介在させて巻回してコンデンサ素子を形成し(【0048】)、
このコンデンサ素子をエチレンジオキシチオフェンと硫酸第2鉄を含む水-エタノール溶液に浸漬-引き上げ-乾燥重合する工程を繰り返し、導電性高分子である化学重合ポリエチレンジオキシチオフェンよりなる電解質としての固体有機導電材層を電極箔上ならびに電極箔間に形成し(【0012】、【0048】、【0078】)、
その後、このコンデンサ素子に電解液を含浸させ(【0048】)、
このコンデンサ素子を金属ケースに封入する、アルミニウム電解コンデンサの製造方法において(【0048】)、
電解液は、重量部で、γ-ブチロラクトン(50部)、エチレングリコール(50部)、マレイン酸トリメチルアンモニウム(5部)[注釈:pH=9.5]、フタル酸水素トリエチルアミン(5部)[注釈:pH=9.5]、アジピン酸ジアンモニウム(3部)[注釈:pH=9.1]、硼酸(0.5部)、p-ニトロ安息香酸(1部)、リン酸(0.5部)、以上の化合物を混合、溶解したものであり(【0039】、【0042】、【0051】)、
電解液には、添加剤としてホウ酸と多糖類(マンニット、ソルビットなど)との錯化合物を混合した(【0036】)、
アルミニウム電解コンデンサの製造方法。」
イ 対比及び判断
(ア)本件発明1について
本件発明1と引用発明2とを対比する。
a 引用発明2の「陽極アルミニウム箔」、「陰極アルミニウム箔」はそれぞれ、本件発明1の「陽極箔」、「陰極箔」に相当する。また、引用発明2の「マニラ麻繊維を含有する電解紙」は「陽極アルミニウム箔と陰極アルミニウム箔との間に」介在させるものであるから、本件発明1の「セパレータ」に相当する。
そして、引用発明2の「陽極アルミニウム箔と陰極アルミニウム箔との間にマニラ麻繊維を含有する電解紙を介在させて巻回し」た「コンデンサ素子」は本件発明1の「陽極箔と陰極箔と、がセパレータを介して巻回されたコンデンサ素子」に相当する。
b 引用発明2の「導電性高分子である化学重合ポリエチレンジオキシチオフェンよりなる電解質としての固体有機導電材層」は本件発明1でいう「導電性高分子を含む固体電解質層」であり、引用発明2の「コンデンサ素子」が「導電性高分子である化学重合ポリエチレンジオキシチオフェンよりなる電解質としての固体有機導電材層を電極箔上ならびに電極箔間に形成した」ものであることは、本件発明1の「前記コンデンサ素子は、導電性高分子を含む固体電解質層を有」することに相当する。
c 引用発明2の「コンデンサ素子に電解液を含浸させ」たことは、含浸させた電解液がコンデンサ素子内の空隙部に充填されるのは明らかであるから、本件発明1の「前記コンデンサ素子内の空隙部には、電解液が充填され」ることに相当する。
d 引用発明2は「電解液は、γ-ブチロラクトン(50部)、エチレングリコール(50部)、マレイン酸トリメチルアンモニウム(5部)[注釈:pH=9.5]、フタル酸水素トリエチルアミン(5部)[注釈:pH=9.5]、アジピン酸ジアンモニウム(3部)[注釈:pH=9.1]、硼酸(0.5部)、p-ニトロ安息香酸(1部)、リン酸(0.5部)、以上の化合物を混合、溶解したもの」であるところ、エチレングリコールが多価アルコールの溶媒であることは明らかであり、また、アジピン酸アンモニウムが脂肪族カルボン酸のアンモニウム塩の溶質であることは明らかである。
してみると、引用発明2の「電解液」は本件発明1の「前記電解液は、溶質として少なくとも脂肪族カルボン酸のアンモニウム塩と、溶媒として少なくとも多価アルコールと、を含」むことに相当する構成を有する。
e 引用発明2の「溶媒に対する溶質の酸の添加量」について検討する。
引用発明2は溶媒である「γ-ブチロラクトン(50部)、エチレングリコール(50部)」に少なくとも「マレイン酸トリメチルアンモニウム(5部)」、「フタル酸水素トリエチルアミン(5部)」、「アジピン酸ジアンモニウム(3部)」を混合、溶解しているから、溶媒1kg当たりマレイン酸トリメチルアンモニウムは50g、フタル酸水素トリエチルアミンは50g、アジピン酸アンモニウムは30g添加される。
ここで、マレイン酸トリメチルアンモニウムの分子量は232、フタル酸水素トリエチルアミンの分子量は267.32、アジピン酸アンモニウムの分子量は180.21であるから、引用発明2における溶媒に対するマレイン酸トリメチルアンモニウムの添加量は、(50/232)=0.22mol/kg、フタル酸水素トリエチルアミンの添加量は、(50/267.32)=0.19mol/kg、アジピン酸アンモニウムの添加量は、(30/180.21)=0.17mol/kgである。
してみると、引用発明2は、溶媒に対するマレイン酸の添加量は0.22mol/kg、フタル酸の添加量は0.19mol/kg、アジピン酸の添加量は0.17mol/kgといえるから、溶媒に対する酸の添加量は(0.22+0.19+0.17)=0.58mol/kgである。
したがって、引用発明2においてマレイン酸トリメチルアンモニウム、フタル酸水素トリエチルアミン、アジピン酸アンモニウムのみが溶質であるとすれば、引用発明2の溶媒に対する溶質の酸の添加量は0.58mol/kgである。
以上のことより、本件発明1は「前記溶媒に対する前記溶質の酸の添加量が0.37mol/kg以下」であるのに対して、引用発明2は溶媒に対する溶質の酸の添加量は0.58mol/kg以上である点で相違する。
f 引用発明2の電解液は「γ-ブチロラクトン(50部)、エチレングリコール(50部)、マレイン酸トリメチルアンモニウム(5部)[注釈:pH=9.5]、フタル酸水素トリエチルアミン(5部)[注釈:pH=9.5]、アジピン酸ジアンモニウム(3部)[注釈:pH=9.1]、硼酸(0.5部)、p-ニトロ安息香酸(1部)、リン酸(0.5部)、以上の化合物を混合、溶解したもの」であるから水は添加されておらず、本件発明1の「前記電解液が、前記溶媒として水を添加しない電解液」に相当する。
g 引用発明2は「導電性高分子である化学重合ポリエチレンジオキシチオフェンよりなる電解質としての固体有機導電材層」を有するから、引用発明2の「アルミニウム電解コンデンサ」は本件発明1の「固体電解コンデンサ」に相当する。
h してみると、本件発明1と引用発明2とは、次の一致点及び相違点を有する。
〈一致点〉
「陽極箔と陰極箔と、がセパレータを介して巻回されたコンデンサ素子を有し、
前記コンデンサ素子は、導電性高分子を含む固体電解質層を有し、
前記コンデンサ素子内の空隙部には、電解液が充填され、
前記電解液は、溶質として少なくとも脂肪族カルボン酸のアンモニウム塩と、溶媒として少なくとも多価アルコールと、を含み、
前記電解液が、前記溶媒として水を添加しない電解液であることを特徴とする固体電解コンデンサ。」
〈相違点1〉
本件発明1は「前記溶媒に対する前記溶質の酸の添加量が0.37mol/kg以下」であるのに対して、引用発明2は溶媒に対する溶質の酸の添加量は0.58mol/kg以上である点。
i 以上のように、本件発明1は引用発明2とは上記相違点1を有するので、本件の請求項1に係る発明は引用文献2に記載された発明ではない。
したがって、本件の請求項1に係る特許は、特許法第29条第1項第3号に該当せず、特許法第29条第1項の規定に違反してされたものでない。
(イ)本件発明2ないし4について
本件発明2ないし4は本件発明1の上記相違点1に係る構成を備えたものであるから、本件発明1と同じ理由により、本件の請求項2ないし4に係る発明は引用文献2に記載された発明ではない。
したがって、本件の請求項2ないし4に係る発明は、特許法第29条第1項第3号に該当せず、特許法第29条第1項の規定に違反してされたものでない。
(ウ)本件発明6について
本件発明6は、訂正前の請求項4のうち請求項1を引用するものについて独立形式に改めると共に訂正前の請求項1にあった「電解液」について限定したものであるから、引用文献2に基づく新規性について検討する。
本件発明6は「前記溶媒に対する前記溶質の酸の添加量が0.26mol/kg以下」との構成を有するものである。
これに対して、上記「(ア)e」で検討したように引用発明2は溶媒に対する溶質の酸の添加量は0.58mol/kg以上である。
してみると、本件発明6は「前記溶媒に対する前記溶質の酸の添加量が0.26mol/kg以下」であるのに対して、引用発明2は溶媒に対する溶質の酸の添加量は0.58mol/kg以上である点で相違する。
よって、本件発明6は引用発明2とは上記の点で相違するので、本件の請求項6に係る発明は引用文献2に記載された発明ではない。
したがって、本件の請求項6に係る特許は、特許法第29条第1項第3号に該当せず、特許法第29条第1項の規定に違反してされたものでない。
(2)理由2)(進歩性)について
本件発明5と引用発明2’とを対比する。
ア 引用発明2’の「陽極アルミニウム箔」、「陰極アルミニウム箔」、「陽極アルミニウム箔と陰極アルミニウム箔との間に」介在させる「マニラ麻繊維を含有する電解紙」はそれぞれ、本件発明5の「陽極箔」、「陰極箔」、「セパレータ」に相当する。
そして、引用発明2’の「コンデンサ素子」は「陽極アルミニウム箔と陰極アルミニウム箔との間にマニラ麻繊維を含有する電解紙を介在させて巻回した」ものであるから、引用発明2’は本件発明5の「陽極箔と陰極箔と、をセパレータを介して巻回したコンデンサ素子を形成する工程」に相当する構成を有する。
イ 引用発明2’の「導電性高分子である化学重合ポリエチレンジオキシチオフェンよりなる電解質としての固体有機導電材層」は本件発明5でいう「導電性高分子を含む固体電解質層」であり、引用発明2’の「コンデンサ素子をエチレンジオキシチオフェンと硫酸第2鉄を含む水-エタノール溶液に浸漬-引き上げ-乾燥重合する工程を繰り返し、導電性高分子である化学重合ポリエチレンジオキシチオフェンよりなる電解質としての固体有機導電材層を電極箔上ならびに電極箔間に形成」することは、本件発明5と「前記コンデンサ素子」に「導電性高分子を含む固体電解質層を形成する工程」である点で共通する。
ただし、固体電解質層を形成する工程が、本件発明5は「コンデンサ素子を、導電性高分子の分散体に浸漬後、乾燥させ」るのに対し、引用発明2’は導電性高分子の分散体を用いるものではない点で相違する。
ウ 引用発明2’は、コンデンサ素子に固体有機導電体層を形成した後「このコンデンサ素子に電解液を含浸させ」るところ、含浸させた電解液がコンデンサ素子内の空隙部に充填されるのは明らかであるから、本件発明5の「前記固体電解質層が形成されたコンデンサ素子を」「電解液に浸漬し、前記コンデンサ素子内の空隙部に電解液を充填する工程」に相当する。
また、引用発明2’の「電解液は、γ-ブチロラクトン(50部)、エチレングリコール(50部)、マレイン酸トリメチルアンモニウム(5部)[注釈:pH=9.5]、フタル酸水素トリエチルアミン(5部)[注釈:pH=9.5]、アジピン酸ジアンモニウム(3部)[注釈:pH=9.1]、硼酸(0.5部)、p-ニトロ安息香酸(1部)、リン酸(0.5部)、以上の化合物を混合、溶解したもの」であるところ、エチレングリコールが多価アルコールの溶媒であること、アジピン酸アンモニウムが脂肪族カルボン酸のアンモニウム塩の溶質であることは明らかである。また、引用発明2’では電解液には水は添加されていない。してみると、引用発明2’の「電解液は、γ-ブチロラクトン(50部)、エチレングリコール(50部)、マレイン酸トリメチルアンモニウム(5部)[注釈:pH=9.5]、フタル酸水素トリエチルアミン(5部)[注釈:pH=9.5]、アジピン酸ジアンモニウム(3部)[注釈:pH=9.1]、硼酸(0.5部)、p-ニトロ安息香酸(1部)、リン酸(0.5部)、以上の化合物を混合、溶解したもの」であることは、本件発明5の「溶質として少なくとも脂肪族カルボン酸のアンモニウム塩と、溶媒として少なくとも多価アルコールと、を含み、溶媒として水を添加しない電解液」に相当する。
以上のことより、引用発明2’は、本件発明5の「前記固体電解質層が形成されたコンデンサ素子を、溶質として少なくとも脂肪族カルボン酸のアンモニウム塩と、溶媒として少なくとも多価アルコールと、を含み、溶媒として水を添加しない電解液に浸漬し、前記コンデンサ素子内の空隙部に電解液を充填する工程」に相当する構成を有する。
エ 上記「(1)イ(ア)e」で検討したのと同様に、引用発明2’の溶媒に対する溶質の酸の添加量は0.58mol/kg以上である。
してみると、本件発明5は「前記溶媒に対する前記溶質の酸の添加量が0.37mol/kg以下」であるのに対して、引用発明2’は溶媒に対する溶質の酸の添加量は0.58mol/kg以上である点で相違する。
オ 上記イのように、引用発明2’は「導電性高分子である化学重合ポリエチレンジオキシチオフェンよりなる電解質としての固体有機導電材層」を有するから、引用発明2’の「アルミニウム電解コンデンサの製造方法」は本件発明5の「固体電解コンデンサの製造方法」に相当する。
カ してみると、本件発明5と引用発明2’とは、次の一致点及び相違点を有する。
〈一致点〉
「陽極箔と陰極箔と、をセパレータを介して巻回したコンデンサ素子を形成する工程と、
前記コンデンサ素子に導電性高分子を含む固体電解質層を形成する工程と、
前記固体電解質層が形成されたコンデンサ素子を、溶質として少なくとも脂肪族カルボン酸のアンモニウム塩と、溶媒として少なくとも多価アルコールと、を含み、溶媒として水を添加しない電解液に浸漬し、前記コンデンサ素子内の空隙部に電解液を充填する工程と、
を含む固体電解コンデンサの製造方法。」
〈相違点2〉
固体電解質層を形成する工程が、本件発明5は「コンデンサ素子を、導電性高分子の分散体に浸漬後、乾燥させ」るのに対し、引用発明2’は導電性高分子の分散体を用いるものではない点。
〈相違点3〉
本件発明5は「前記溶媒に対する前記溶質の酸の添加量が0.37mol/kg以下」であるのに対して、引用発明2’は溶媒に対する溶質の酸の添加量は0.58mol/kg以上である点。
キ 事案に鑑み相違点3について検討する。
引用文献2には、溶媒に対する溶質の酸の添加量を所定値以下に調整することは記載も示唆もされていない。
また、引用文献3の【0046】には、「コンデンサ素子の陽極箔と陰極箔の間に成形する個体誘電体層にPEDOT(ポリ3,4エチレンジオキシチオフェン)を用いる場合、PEDOTを分散させた分散体溶液にコンデンサ素子を浸漬した後、引き上げ、乾燥させることによって形成する」技術(以下、「引用文献3記載の技術」という。)が記載されているものの、溶媒に対する溶質の酸の添加量を0.37mol/kg以下とすることは記載も示唆もされていない。
したがって、上記相違点3に係る構成を得ることは、引用発明2’及び引用文献3に記載された技術に基づいて、当業者が容易になし得たこととはいえない。
そして、本件明細書段落【0038】、【表1】及び【表3】の記載を考慮すれば、本件発明5は溶媒に対する溶質の酸の添加量を0.37mol/kg以下に特定することにより、80WV以上の高圧において、静電容量やESRの変化を抑制することができるものである。
したがって、その他の相違点について検討するまでもなく、本件発明5は引用発明2’および引用文献3に記載の技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではない。
よって、本件の請求項5に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものでない。
(3)理由3)(サポート要件)について
本件訂正による本件発明6は「前記溶媒に対する前記溶質の酸の添加量が0.26mol/kg以下であり」「前記溶媒に対する前記溶質のアンモニウムイオンの添加量が0.26mol/kg以下」との構成を有するものであり、酸の添加量が0.6ないし0.26mol/kgでアンモニウムイオンの添加量が0.26mol/kg以下の溶質は含まれないものとなった。
そして、本件の発明の詳細な説明には、実施例1、2として「前記溶媒に対する前記溶質の酸の添加量が0.26mol/kg以下であり」「前記溶媒に対する前記溶質のアンモニウムイオンの添加量が0.26mol/kg以下」の電解液が記載されている。
よって、本件の請求項6に係る発明は、発明の詳細な説明に記載されており、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしている。
第5 取消理由通知(決定の予告)において採用しなかった特許異議申立理由について
1 申立人の主張
申立人は特許異議申立書において、概略次のように主張している。
(1)請求項1、2、4及び5に係る発明は甲第1号証に記載された発明であり、特許法第29条第1項第3号に該当するから、請求項1、2、4及び5に係る特許は、特許法第29条第1項の規定に違反してされたものである。
(2)請求項3に係る発明は甲第1号証に記載された発明及び甲第2号証に記載された発明から当業者が容易に発明をすることができたものであり、請求項4に係る発明は甲第1号証に記載された発明及び甲第3号証に記載された発明から当業者が容易に発明をすることができたものであるから、請求項3及び4に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものである。
甲第1号証:特開2015-2274号公報
甲第2号証:特開平11-283874号公報
甲第3号証:特開2011-82314号公報
2 当審の判断
(1)特許法第29条第1項の規定違反について
ア 甲第1号証の記載事項等
上記甲第1号証の【0011】の「導電率(電気伝導度)が通常の電解液(通常、導電率が3mS/cm以上)」との記載を考慮すれば、甲第1号証の【0149】―【0150】に記載された導電率3.3mS/cmの「調製例15(比較例用)」の電解液は、電解コンデンサに通常用いられる電解液であるものと認められる。
そして、甲第1号証の【0075】、【0149】、【0163】―【0166】の記載により、甲第1号証には、調製例15の電解液を用いた巻回型アルミニウム電解コンデンサとして以下の発明(以下、「甲1発明」という。)が記載されているといえる。
「アルミニウム箔の表面をエッチング処理した後、化成処理を行ってアルミニウムの酸化被膜からなる誘電体層を形成した陽極にリード端子を取り付け、また、アルミニウム箔からなる陰極にリード端子を取り付け、それらのリード端子付き陽極と陰極とをセパレータを介して巻回した、コンデンサ素子と(【0163】)、
上記コンデンサ素子を導電性高分子の分散液に浸漬し、5分後に取り出し、150℃で30分間乾燥してコンデンサ素子の誘電体層上に設けた導電性高分子からなる電解質とを有し(【0075】、【0164】)、
導電性高分子を設けたコンデンサ素子を電解液に浸漬し、コンデンサ素子に電解液を含浸させた巻回型アルミニウム電解コンデンサにおいて(【0165】、【0166】)、
電解液はエチレングリコール500gに50gのアジピン酸アンモニウムを添加したものである(【0149】)、
巻回型アルミニウム電解コンデンサ。」
また、甲第1号証には、調製例15の電解液を用いた巻回型アルミニウム電解コンデンサの製造方法として以下の発明(以下、「甲1’発明」という。)が記載されているといえる。
「アルミニウム箔の表面をエッチング処理した後、化成処理を行ってアルミニウムの酸化被膜からなる誘電体層を形成した陽極にリード端子を取り付け、また、アルミニウム箔からなる陰極にリード端子を取り付け、それらのリード端子付き陽極と陰極とをセパレータを介して巻回して、コンデンサ素子を作製し(【0163】)、
上記コンデンサ素子を導電性高分子の分散液に浸漬し、5分後に取り出し、150℃で30分間乾燥してコンデンサ素子の誘電体層上に導電性高分子からなる電解質を設け(【0075】、【0164】)、
次に、導電性高分子を設けたコンデンサ素子を電解液に浸漬し、コンデンサ素子に電解液を含浸させ、5分後に取り出し、これを外装材で外装する、巻回型アルミニウム電解コンデンサの製造方法において(【0165】、【0166】)、
電解液はエチレングリコール500gに50gのアジピン酸アンモニウムを添加したものとする(【0149】)、
巻回型アルミニウム電解コンデンサの製造方法。」
イ 対比及び判断
(ア)本件発明1について
本件発明1と甲1発明とを対比する。
a 甲1発明の「アルミニウム箔の表面をエッチング処理した後、化成処理を行ってアルミニウムの酸化被膜からなる誘電体層を形成した陽極」、「アルミニウム箔からなる陰極」、「セパレータ」はそれぞれ、本件発明1の「陽極箔」、「陰極箔」、「セパレータ」に相当する。そして、甲1発明の「陽極と陰極とをセパレータを介して巻回した、コンデンサ素子」は本件発明1の「陽極箔と陰極箔と、がセパレータを介して巻回されたコンデンサ素子」に相当する。
b 本件明細書の【0019】の「固体電解質層は、コンデンサ素子10を、導電性高分子分散体に浸漬後、乾燥させることにより形成することができる。」との記載を考慮すれば、甲1発明の「コンデンサ素子を導電性高分子の分散液に浸漬し、5分後に取り出し、150℃で30分間乾燥してコンデンサ素子の誘電体層上に設けた導電性高分子からなる電解質とを有」することは、本件発明1の「前記コンデンサ素子は、導電性高分子を含む固体電解質層を有し」に相当する。
c 甲1発明の「導電性高分子を設けたコンデンサ素子を電解液に浸漬し、コンデンサ素子に電解液を含浸させ」たことは、含浸させた電解液がコンデンサ素子内の空隙部に充填されるのは明らかであるから、本件発明1の「前記コンデンサ素子内の空隙部には、電解液が充填され」ることに相当する。
d 甲1発明は「電解液はエチレングリコール500gに50gのアジピン酸アンモニウムを添加したものである」ところ、エチレングリコールが多価アルコールの溶媒であることは明らかであり、また、アジピン酸アンモニウムが脂肪族カルボン酸のアンモニウム塩の溶質であることは明らかである。
してみると、甲1発明の「電解液」は本件発明1の「前記電解液は、溶質として少なくとも脂肪族カルボン酸のアンモニウム塩と、溶媒として少なくとも多価アルコールと、を含み」に相当する構成を有する。
e 甲1発明は「エチレングリコール500gに50gのアジピン酸アンモニウムを添加」しているから、エチレングリコール1kg当たりアジピン酸アンモニウムは100g添加される。ここで、アジピン酸アンモニウムの分子量は180.21であるから、甲1発明におけるエチレングリコール(溶媒)に対するアジピン酸アンモニウム(溶質)の添加量は、(100/180.21)=0.55mol/kgである。
してみると、甲1発明は、溶媒に対する溶質の酸であるアジピン酸の添加量は0.55mol/kgである。
したがって、本件発明1は「前記溶媒に対する前記溶質の酸の添加量が0.37mol/kg以下」であるのに対して、甲1発明は溶媒に対する溶質の酸の添加量は0.55mol/kgである点で相違する。
f 甲1発明の「電解液はエチレングリコール500gに50gのアジピン酸アンモニウムを添加したもの」であり甲第1号証の記載を参照しても水を添加する旨の記載は認められないから、甲1発明の「電解液」は本件発明1の「前記電解液が、前記溶媒として水を添加しない電解液である」に相当する。
g 上記bのように、甲1発明は、本件発明1でいう「導電性高分子を含む固体電解質層」である「導電性高分子からなる電解質」を有するから、甲1発明の「巻回型アルミニウム電解コンデンサ」は本件発明1の「固体電解コンデンサ」に相当する。
h してみると、本件発明1と甲1発明とは、次の一致点及び相違点を有する。
〈一致点〉
「陽極箔と陰極箔と、がセパレータを介して巻回されたコンデンサ素子を有し、
前記コンデンサ素子は、導電性高分子を含む固体電解質層を有し、
前記コンデンサ素子内の空隙部には、電解液が充填され、
前記電解液は、溶質として少なくとも脂肪族カルボン酸のアンモニウム塩と、溶媒として少なくとも多価アルコールと、を含み、
前記電解液が、前記溶媒として水を添加しない電解液であることを特徴とする固体電解コンデンサ。」
〈相違点4〉
本件発明1は「前記溶媒に対する前記溶質の酸の添加量が0.37mol/kg以下」であるのに対して、甲1発明は溶媒に対する溶質の酸の添加量は0.55mol/kgである点。
i 以上のように、本件発明1は甲1発明とは上記相違点4を有するので、本件の請求項1に係る発明は甲第1号証に記載された発明ではない。
したがって、本件の請求項1に係る特許は、特許法第29条第1項第3号に該当せず、特許法第29条第1項の規定に違反してされたものでない。
(イ)本件発明2及び4について
本件発明2及び4は本件発明1の上記相違点4に係る構成を備えたものであるから、本件発明1と同じ理由により、本件の請求項2及び4に係る発明は甲第1号証に記載された発明ではない。
したがって、本件の請求項2及び4に係る発明は、特許法第29条第1項第3号に該当せず、特許法第29条第1項の規定に違反してされたものでない。
(ウ)本件発明5について
本件発明5と甲1’発明とを対比する。
a 甲1’発明の「アルミニウム箔の表面をエッチング処理した後、化成処理を行ってアルミニウムの酸化被膜からなる誘電体層を形成した陽極」、「アルミニウム箔からなる陰極」、「セパレータ」はそれぞれ、本件発明5の「陽極箔」、「陰極箔」、「セパレータ」に相当する。そして、甲1’発明の「陽極と陰極とをセパレータを介して巻回して、コンデンサ素子を作製」することは本件発明5の「陽極箔と陰極箔と、をセパレータを介して巻回したコンデンサ素子を形成する工程」に相当する。
b 本件明細書の【0019】の「固体電解質層は、コンデンサ素子10を、導電性高分子分散体に浸漬後、乾燥させることにより形成することができる。」との記載を考慮すれば、甲1’発明の「コンデンサ素子を導電性高分子の分散液に浸漬し、5分後に取り出し、150℃で30分間乾燥してコンデンサ素子の誘電体層上に導電性高分子からなる電解質を設け」ることは、本件発明5の「前記コンデンサ素子を、導電性高分子の分散体に浸漬後、乾燥させ、導電性高分子を含む固体電解質層を形成する工程」に相当する。
c 甲1’発明の「導電性高分子を設けたコンデンサ素子を電解液に浸漬し、コンデンサ素子に電解液を含浸させ」ることは、含浸させた電解液がコンデンサ素子内の空隙部に充填されるのは明らかであるから、本件発明5の「前記固体電解質層が形成されたコンデンサ素子を」「電解液に浸漬し、前記コンデンサ素子内の空隙部に電解液を充填する工程」に相当する。
また、甲1’発明の「電解液はエチレングリコール500gに50gのアジピン酸アンモニウムを添加したものである」ところ、エチレングリコールが多価アルコールの溶媒であることは明らかであり、アジピン酸アンモニウムが脂肪族カルボン酸のアンモニウム塩の溶質であることは明らかである。また、甲第1号証の記載を参照しても、水を添加する旨の記載は認められないから、甲1’発明の電解液には水は添加されていない。してみると、甲1’発明の「電解液」は、本件発明5の「脂肪族カルボン酸のアンモニウム塩と、溶媒として多価アルコールと、を含み、溶媒として水を添加しない電解液」に相当する。
以上のことより、甲1’発明は、本件発明5の「前記固体電解質層が形成されたコンデンサ素子を、溶質として少なくとも脂肪族カルボン酸のアンモニウム塩と、溶媒として少なくとも多価アルコールと、を含み、溶媒として水を添加しない電解液に浸漬し、前記コンデンサ素子内の空隙部に電解液を充填する工程」に相当する構成を有する。
d 上記「(ア)e」で検討したのと同様に、甲1’発明は溶媒に対する溶質の酸であるアジピン酸の添加量は0.55mol/kgである。
したがって、本件発明5は「前記溶媒に対する前記溶質の酸の添加量が0.37mol/kg以下」であるのに対して、甲1’発明は溶媒に対する溶質の酸の添加量は0.55mol/kgである点で相違する。
e 甲1’発明は、本件発明5でいう「導電性高分子を含む固体電解質層」である「導電性高分子からなる電解質」を有するから、甲1’発明の「巻回型アルミニウム電解コンデンサの製造方法」は本件発明5の「固体電解コンデンサの製造方法」に相当する。
f してみると、本件発明5と甲1’発明とは、次の一致点及び相違点を有する。
〈一致点〉
「陽極箔と陰極箔と、をセパレータを介して巻回したコンデンサ素子を形成する工程と、
前記コンデンサ素子を、導電性高分子の分散体に浸漬後、乾燥させ、導電性高分子を含む固体電解質層を形成する工程と、
前記固体電解質層が形成されたコンデンサ素子を、溶質として少なくとも脂肪族カルボン酸のアンモニウム塩と、溶媒として少なくとも多価アルコールと、を含み、溶媒として水を添加しない電解液に浸漬し、前記コンデンサ素子内の空隙部に電解液を充填する工程と、
を含む固体電解コンデンサの製造方法。」
〈相違点5〉
本件発明5は「前記溶媒に対する前記溶質の酸の添加量が0.37mol/kg以下」であるのに対して、甲1’発明は溶媒に対する溶質の酸の添加量は0.55mol/kgである点。
g 以上のように、本件発明5は甲1’発明とは上記相違点5を有するので、本件の請求項5に係る発明は甲第1号証に記載された発明ではない。
したがって、本件の請求項5に係る特許は、特許法第29条第1項第3号に該当せず、特許法第29条第1項の規定に違反してされたものでない。
(エ)本件発明6について
本件発明6は、訂正前の請求項4のうち請求項1を引用するものについて独立形式に改めると共に訂正前の請求項1にあった「電解液」について限定したものであるから、甲第1号証に基づく新規性について検討する。
本件発明6は「前記溶媒に対する前記溶質の酸の添加量が0.26mol/kg以下」との構成を有するものである。
これに対して、上記「(ア)e」で検討したように甲1発明は溶媒に対する溶質の酸の添加量は0.55mol/kgである。
してみると、本件発明6は「前記溶媒に対する前記溶質の酸の添加量が0.26mol/kg以下」であるのに対して、甲1発明は溶媒に対する溶質の酸の添加量は0.55mol/kgである点で相違する。
よって、本件発明6は甲1発明とは上記の点で相違するので、本件の請求項6に係る発明は甲第1号証に記載された発明ではない。
したがって、本件の請求項6に係る特許は、特許法第29条第1項第3号に該当せず、特許法第29条第1項の規定に違反してされたものでない。
(2)特許法第29条第2項の規定違反について
本件発明3及び4は本件発明1を引用したものであるから、本件発明1の上記相違点4に係る構成を備えたものである。
甲第1号証には、溶媒に対する溶質の酸の添加量を所定値以下に調整することは記載も示唆もされていない。
また、甲第2号証の【0036】には、「電解コンデンサの電解液に、添加剤としてホウ酸と多糖類(マンニット)との錯化合物を混合し、アルミニウム電解コンデンサにおいてアルミ酸化皮膜の修復性を改善する」技術が、甲第3号証の【0125】には、「水分量が0.1~7質量%の範囲であれば、静電容量とESRが両立する」ことが記載されているものの、溶媒に対する溶質の酸の添加量を0.37mol/kg以下とすることは記載も示唆もされていない。
したがって、上記相違点4に係る構成を得ることは、甲1発明、甲第2号証に記載された技術及び甲第3号証に記載された技術に基づいて、当業者が容易になし得たこととはいえない。
そして、本件明細書段落【0038】、【表1】及び【表3】の記載を考慮すれば、本件発明3及び4は溶媒に対する溶質の酸の添加量を0.37mol/kg以下に特定することにより、80WV以上の高圧において、静電容量やESRの変化を抑制することができるものである。
したがって、本件発明3は甲1発明および甲第2号証に記載の技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではない。また、本件発明4は甲1発明および甲第3号証に記載の技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではない。
よって、本件の請求項3及び4に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものでない。
第6 むすび
以上のとおりであるから、取消理由通知(決定の予告)に記載した取消理由及び特許異議申立書に記載した異議申立理由によっては、請求項1ないし6に係る特許を取り消すことはできない。さらに、ほかに請求項1ないし6に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
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2022-700377