特許異議申立
2022-700341
ベローズの固定構造とベローズバルブ
- 審判番号
- 2022-700341
- 法域
- 特許
- 審判種別
- 異議申立(異議の決定)
- 出願番号
- 特願2017-127727
- 登録番号
- 6959048
- 請求日
- 2022年04月26日
- 審決日
- 2023年03月31日
- 公報発行日
- 2023年07月28日
- 結論
- 訂正認容
- 当事者
- 【権利者】株式会社キッツ
- 【権利者代理人】小林 哲男
- 【異議申立人】鈴木 愛子
- 審判長/審判官
- 審判長 平田 信勝
- 審判官 尾崎 和寛
- 審判官 岡本 健太郎
- 分類
- P1651.121-YAA(F16J) / P1651.537-YAA(F16J) / P1651.574-YAA(F16J)
- 条文(本文から自動抽出・参考)
- 特許法第36条第6項第2号、特許法第120条の5第9項、特許法第120条の5第2項、特許法第126条第6項、特許法第126条第5項、特許法第29条第2項、特許法第36条第6項第1号
- データ出所
- 審決公報(XML)
事件の表示
特許第6959048号発明「ベローズの固定構造とベローズバルブ」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。
結論
結 論
特許第6959048号の明細書、特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正明細書、特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔5〕について訂正することを認める。
特許第6959048号の請求項1~5に係る特許を維持する。
理由
理 由
第1 手続の経緯
特許第6959048号の請求項1~5に係る特許についての出願は、平成29年6月29日に出願され、令和3年10月11日にその特許権の設定登録がされ、令和3年11月2日に特許掲載公報が発行された。その後、その特許について、令和4年4月26日に特許異議申立人鈴木愛子(以下「申立人」という。)により特許異議の申立てがされ、当審は、令和4年7月6日付けで取消理由を通知した。特許権者は、その指定期間内である令和4年9月8日に意見書の提出及び訂正の請求を行い、その訂正の請求に対して、申立人は、令和4年12月26日に意見書を提出した。
第2 訂正の適否についての判断
1.訂正の内容
令和4年9月8日の訂正請求書による訂正請求(以下、「本件訂正請求」といい、本件訂正請求による訂正を「本件訂正」という。)は、次の訂正事項1及び2からなる(下線部は訂正箇所を示す。)。
訂正事項1
訂正前の特許請求の範囲の請求項5に、
「請求項1乃至4の何れか1項に記載のベローズの固定構造を用いて、弁箱内に設けた弁体を弁軸を介して昇降動させて開閉するバルブであり、前記ベローズの上端の前記環状縁部と前記弁箱に位置決めされた状態で取付けられる前記ベローズホルダの内周縁部とを溶接して固定し、かつ前記弁体と前記弁軸と前記ベローズホルダを一体化して弁体ユニットを構成し、この弁体ユニットを前記弁箱とボンネットで位置決めした状態で取付けたベローズバルブ。」
と記載されているのを、
「請求項1乃至4の何れか1項に記載のベローズの固定構造を適用したベローズバルブ。」
に訂正する。
訂正事項2
願書に添付した明細書の段落【0016】に、
「請求項5に係る発明は、ベローズの固定構造を用いて、弁箱内に設けた弁体を弁軸を介して昇降動させて開閉するバルブであり、ベローズの上端の環状縁部と弁箱に位置決めされた状態で取付けられるベローズホルダの内周縁部とを溶接して固定し、かつ弁体と弁軸とベローズホルダを一体化して弁体ユニットを構成し、この弁体ユニットを弁箱とボンネットで位置決めした状態で取付けたベローズバルブである。」
と記載されているのを、
「請求項5に係る発明は、上記のベローズの固定構造を適用したベローズバルブである。」
に訂正する。
2.訂正の目的の適否、特許請求の範囲の拡張・変更の存否、新規事項の有無、独立特許要件
(1)訂正事項1について
ア 訂正の目的の適否
訂正事項1に係る請求項5の訂正は、請求項5が引用する請求項1で、「前記ベローズホルダの溶接領域部側と前記ベローズの環状縁部側とが略均等に溶解した状態で溶接されていると共に、前記ベローズホルダの前記熱容量境界部よりも外径側が装着側に対して位置決め状態で取付けられる」「ベローズの固定構造」と特定しているところ、請求項1のベローズの固定構造を用いる訂正前の請求項5で「前記ベローズの上端の前記環状縁部と前記弁箱に位置決めされた状態で取付けられる前記ベローズホルダの内周縁部とを溶接して固定」されると特定しているため、「溶接」「位置決め」について重畳した記載を省いて不明瞭な記載であったのを明瞭にすることを目的とする訂正である。
したがって、訂正事項1は特許法第120条の5第2項ただし書第3号に規定する明瞭でない記載の釈明を目的とするものである。
イ 特許請求の範囲の拡張・変更の存否
訂正前の請求項5には、「請求項1乃至4の何れか1項に記載のベローズの固定構造を用いて、弁箱内に設けた弁体を弁軸を介して昇降動させて開閉するバルブ」であって「前記弁体と前記弁軸と前記ベローズホルダを一体化」した「弁体ユニットを前記弁箱とボンネット」に「取付けたベローズバルブ」が記載されており、訂正前の請求項5は、「請求項1乃至4の何れか1項に記載のベローズの固定構造」を「適用した」「ベローズバルブ」を特定したものであると理解できる。
しかし、訂正前の請求項5には、「請求項1乃至4の何れか1項に記載のベローズの固定構造を用いて」、更なる「溶接」及び「位置決め」により「弁体ユニット」を構成して取り付けた態様の「ベローズバルブ」を特定したものとも解される記載となっていたため、訂正事項1において、ベローズとベローズホルダの溶接についての重畳した記載を削除することによって、「請求項1乃至4の何れか1項に記載のベローズの固定構造」を「適用した」「ベローズバルブ」であると明確にしたものであるから、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものには該当せず、特許法第120条の5第9項で準用する特許法第126条第6項に適合するものである。
ウ 新規事項の有無
訂正事項1に係る請求項5は、「請求項1乃至4の何れか1項に記載のベローズの固定構造を適用したベローズバルブ」と特定したもので、願書に最初に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面の範囲内の訂正であるから、特許法第120条の5第9項で準用する特許法第126条第5項に適合するものである。
(2)訂正事項2
訂正事項2は、上記訂正事項1の特許請求の範囲の訂正に伴う明細書の訂正である。そうすると、上記訂正事項2は、明瞭でない記載の釈明を目的とする訂正であって、新規事項の追加に該当せず、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもない。
3.小括
以上のとおりであるから、本件訂正請求における訂正事項1及び2に係る訂正は、訂正の要件を満たしている。
したがって、明細書、特許請求の範囲を、訂正請求書に添付された訂正明細書、訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項5について訂正することを認める。
第3 訂正後の本件発明
本件訂正請求により訂正された請求項1~5の特許に係る発明(以下、それぞれ「本件発明1」~「本件発明5」という。)は、訂正特許請求の範囲の請求項1~5に記載された次の事項により特定されるとおりのものである。
「【請求項1】
環状板からなるベローズホルダの内周縁部とベローズの環状縁部とを溶接するベローズの固定構造であって、前記ベローズホルダの内周縁部側近傍の溶接側表面に環状溝よりなる熱容量境界部が形成されてこの熱容量境界部よりも内径側にその深さまでの領域による環状の溶接領域部が設けられ、この溶接領域部が、前記ベローズの環状縁部の肉厚部と同等又はそれ以上の熱容量を有するようにし、前記ベローズホルダの溶接領域部側と前記ベローズの環状縁部側とが略均等に溶解した状態で溶接されていると共に、前記ベローズホルダの前記熱容量境界部よりも外径側が装着側に対して位置決め状態で取付けられることを特徴とするベローズの固定構造。
【請求項2】
前記ベローズホルダと前記ベローズは、同程度の比熱を有する材料で形成すると共に、前記溶接領域部の体積は、この溶接領域部に対向する前記ベローズの溶接部の体積と同等又はそれ以上である請求項1に記載のベローズの固定構造。
【請求項3】
前記熱容量境界部は、切削加工又は放電加工により前記ベローズホルダに形成した請求項1又は2に記載のベローズの固定構造。
【請求項4】
前記環状溝は、断面略V字状又はU字状に形成して前記溶接領域部の根本を厚くして溶接で溶け落ちないようにした請求項3に記載のベローズの固定構造。
【請求項5】
請求項1乃至4の何れか1項に記載のベローズの固定構造を適用したベローズバルブ。」
第4 取消理由通知に記載した取消理由
訂正前の請求項5に係る特許に対して、当審が令和4年7月6日付けで特許権者に通知した取消理由の概要は、次のとおりである。
請求項5に係る発明は、「請求項1乃至4の何れか1項に記載のベローズの固定構造を用いて」、更なる「溶接」及び「位置決め」により「弁体ユニット」を構成して取り付けた態様の「ベローズバルブ」を特定したものであると解されるが、当該態様の「ベローズバルブ」については、本件特許明細書の記載を参酌しても明らかであるとはいえない。
したがって、請求項5の記載では、「ベローズバルブ」の構成を明確に特定することはできないから、請求項5に係る発明は明確でない。
第5 取消理由に対する当審の判断
上記第2の2.(1)アで述べたとおり、請求項5の記載は訂正により明確になった。
よって、当審が令和4年7月6日付けで特許権者に通知した取消理由は解消した。
第6 取消理由通知において採用しなかった特許異議申立理由の概要
申立人は、甲第1号証~甲第8号証を提出し、
1.本件発明1~5は、甲第1号証~甲第8号証に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであり、本件発明1~5に係る特許は特許法第29条第2項の規定に違反してされたものであるから、取り消すべきものである
2.本件発明1~5に係る特許は、特許法第36条第6項第2号の規定に違反してされたものであるから、本件発明1~5に係る特許を取り消すべきものである
3.本件発明1~5に係る特許は、特許法第36条第6項第1号の規定に違反してされたものであるから、本件発明1~5に係る特許を取り消すべきものである
旨主張する。
甲第1号証:特開平11-118067号公報
甲第2号証:特開昭58-107293号公報
甲第3号証:特開平2-41774号公報
甲第4号証:特開昭54-69538号公報
甲第5号証:特開2000-346001号公報
甲第6号証:特開2004-332927号公報
甲第7号証:特開平3-129173号公報
甲第8号証:特開2009-248190号公報
なお、申立人は令和4年12月26日に提出の意見書に新たな証拠(甲第9号証~甲第12号証)を添付して、本件発明1~5は、甲第9~12号証のいずれかに記載された発明であるか、甲第9~12号証に記載された発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたと主張しているが(意見書第5頁5号~第7頁8行)、当該主張は主たる証拠を変更する新たな特許異議申立理由であり、採用しない。
第7 甲各号証の記載
1.甲第1号証に記載された事項及び甲1発明
(1)甲第1号証に記載された事項
甲第1号証には図面とともに次の記載がある。
「【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は、高真空バルブ、高真空チェンバー、高真空配管等のボディーを均一に加熱する装置に関する。」
「【0008】
【発明の実施の形態】図1,図2は本発明のボディーの均一加熱装置の実施の形態を示す。高真空バルブ1のSUS(ステンレス)材製のボディー10には、側部にベローズ側管部11、ベローズ側フランジ12及びベローズ側ポート13が突出して形成され、下部には弁側管部14、弁側フランジ15及び弁側ポート16が突出して形成され、ベローズ側管部11の軸線と弁側管部14の軸線とは略直角をなしている。・・・(中略)・・・
【0009】ボディー10の上端の段差部にSUS材製の上側金属リング37が載置され、熱伝導率の高いアルミ材製のボンネット32の下端の段付の環状平面が上側金属リング37の上面に接触している。ボディー10の上端の外周部とボンネット32の下端の外周部とが密着され、ボディー10とボンネット32とが連結され、ボディー10とボンネット32とによって上側金属リング37が挟持されている。ボンネット32の底部の隔壁33の中央孔34に中空主弁軸21が摺動自在かつ気密状態に挿通され、ボンネット32の主シリンダ孔35に摺動自在に嵌合された主ピストン38に中空主弁軸21の上端が連結されている。主弁体19の上側の段部(連通路25よりも上方)にSUS材製の下側金属リング41及びスプリング受42が固定され、スプリング受42と隔壁33との間に2個のスプリング43、44が装着されている。中空主弁軸21・スプリング43、44を覆うSUS材製のベローズ45が配設され、ベローズ45の下端は下側金属リング41の外周に溶接され、ベローズ45の上端は上側金属リング37の内周部に溶接されている。」
「【0020】
【発明の効果】請求項1又は2記載のボディーの均一加熱装置を、高真空バルブ、高真空チェンバー、高真空配管等のボディーに適用したとき、ボディーに強度と耐蝕性に優れたステンレスを用いることができ、そしてヒーターからの熱が熱伝導率の高い金属製の熱伝導板を通してボディーに広範囲に熱伝導により伝熱され、またカバーとボディーとの間の密閉空間で自然対流が発生し、自然対流熱伝達によりボディーの広範囲に伝熱される。従って、ボディーの温度をボディーにアルミを用いた場合と同程度の均一な値にすることができる。」
(2)甲第1号証に記載された発明
上記(1)の摘記事項から、次の事項が認められる。
ア 段落【0009】及び図1から、「ベローズ45の上端は上側金属リング37の内周部に溶接され」ており、「上側金属リング37」は「ベローズ45」を溶接、固定するリング状の板であり、ベローズ45の固定構造を構成していると認められる。
イ 段落【0009】及び図1から、「ベローズ45の上端は上側金属リング37の内周部に溶接され」ており、リング状の板である上側金属リング37と溶接される「ベローズ45」の上端も環状であると認められる。そして、「上側金属リング37の内周部に溶接され」る「ベローズ45の上端」は、縁部であるといえる。
ウ 段落【0009】及び図1から、「ボディー10の上端の段差部にSUS材製の上側金属リング37」の外径側が「載置され」ているといえる。
上記(1)の摘記事項及び(2)の認定事項から、甲第1号証には、次の発明(以下、「甲1発明」という。)が記載されているといえる。
[甲1発明]
「ベローズ45が配設され、
ベローズ45の環状の縁部はリング状の板である上側金属リング37の内周部に溶接され、
ボディー10の上端の段差部にSUS材製の上側金属リング37の外径側が載置され、
ボディー10とボンネット32とによって上側金属リング37が挟持されている、
ベローズ45の固定構造。」
2.甲第2号証に記載された事項
甲第2号証には図面とともに次の記載がある。
「この発明は、アルミ合金または銅合金等の熱伝導が良い金属材料からなる薄肉パイプまたは薄肉ベローズ等の薄肉管状体と厚肉のフランジ等の厚肉部材との溶接方法に関するものである。
従来、パイプまたはベローズ等の管状体と厚肉のフランジとを溶接する場合、管状体の肉厚が1mmより厚いときは、第1図に示すようにフランジ2の孔に管状体5の端部を嵌合して隅肉盛溶接6により結合している。
しかし、肉厚が1mm以下の薄肉管状体の場合は隅肉盛溶接が困難であるので、第2図に示すようにフランジ2の内周に予め薄肉管状体1とほぼ同一厚さの薄肉開先3を設け、その薄肉開先3と薄肉管状体1とを電子ビームにより共付溶接するのが一般的であった。」(第1頁左下欄第12行~右上欄第6行)
3.甲第3号証に記載された事項
甲第3号証には図面とともに次の記載がある。
「第6図は本発明における実施例を示したものである。これは、管板1の表面に、管板1に穿設された孔1aと同心で、伝熱管2の肉厚とほぼ等しい厚さを有する突部1cを形成するように溝部1dを設ける。ここで、伝熱管2の端部が上記突部1cに一端と一致する位置に設置し、加熱器(図示せず)によって、管板1および伝熱管2を予熱した後、溶接トーチ(図示せず)によって熱処理を行なうようにしたものである。」(第4頁右下欄第5~13行)
「本発明は上述のように、管板に伝熱管の肉厚とほぼ等しい肉厚の突起部若しくは突部を設けたことによって、伝熱管と突起部若しくは突部の熱容量をほぼ等しくすることができるので、溶接前の予熱時および溶接後の熱処理時の、伝熱管と突起部若しくは突部の加熱過程における温度上昇速度および冷却過程における温度下降速度をほぼ同等にすることができ、かつ保持温度もまたほぼ同等に維持することができる。また、このように伝熱管と突起部若しくは突部の温度上昇速度、温度下降速度および保持温度をほぼ同等にすることができるので、良好な溶接および熱処理を行なうことができ、ひいては適切な品質の溶接部を得ることができる等の効果を奏する。」(第5頁左上欄第11行~右上欄第4行)
4.甲第4号証に記載された事項
甲第4号証には図面とともに次の記載がある。
「管板(10)は孔(11)を有し、そして孔(11)の周囲で水室(12)側の管板面(10a)に、管(13)の肉厚(t)に対して1~2倍の肉厚(T)からなる環状継手部(10A)を残すべく環状溝(14)を形成している。この環状溝(14)は管肉厚(t)の1~2倍の半径(R)をして形成される。そして第4図に示すように、孔(11)に管(13)を挿入したのち、管先端(13a)と前記環状継手部(10A)とを溶接(15)している。」(第1頁右下欄第15行~第2頁左上欄第2行)
「実施例で述べた本発明によると、管板に形成した孔の周囲で水室側の管板面に、管肉厚の1~2倍の内厚からなる環状継手部を残すべく環状溝を形成し、孔に挿入した管の先端と前記環状継手部とを溶接するから、その溶接は、管と環状継手部とが均一な溶け込み状態で行なうことができ、したがつて高価な薄い肉厚の管や、熱伝導の非常に大きな管であつたとしても、管のみ溶融して管内面に溶け落ちが生じるようなことなく、良好にして満足できる溶接を可能にできる。」(第2頁左上欄第8~17行)
5.甲第5号証に記載された事項
甲第5号証には図面とともに次の記載がある。
「可動プレート4の外周縁41の肉厚tは、金属ベローズ3の自由端32の肉厚をTとすると、T≦t≦3Tとなるように設定されている。これは、可動プレート4の外周縁41の熱容量を小さくして、溶接Wlを行う際に金属ベローズ3のみが溶融するのを防止するためのもので、例えば、金属ベローズ3の肉厚Tが約0.15mmであるのに対して、tは0.15~0.30mmとする。」(段落【0014】)
6.甲第6号証に記載された事項
甲第6号証には図面とともに次の記載がある。
「図10(a)は、TIG溶接前の状態を示しており、口金3の合わせ目側の端面3aと、ベローズ管1の端面1aとが互いに合わせられた状態となっている。同図の口金3には、端面3aから離れた位置に該口金の胴体外周を一周巡る溝3bが形成されている。溝3bを形成したことによって、溝3bと端面3aとの間の部分は、稜線部3cとなって、溝3bの底面3dに対して相対的に凸状を呈し、胴体外周を一周巡っている。また、溶接前における稜線部3cの外径d1は、ベローズ管の外径D2よりも大きい値とされている。図10(a)の例では、ロ金は直管であって、全体が均一な外径d1となっているが、少なくとも稜線部3cがベローズ管よりも大きい外径であればよい。
このように溝3bを形成することで得られる稜線部3cは、溶接前には、図10(a)に示すように、その頂部がベローズ管1の端面1aよりも外側に張り出して突起し、局所的に溶加材の役目をはたす。従って、溶加材を別途用意することなく、好ましいTIG溶接が可能となる。図10(b)は、溶接後の状態を示す図であって、稜線部の頂部が符号3eで示すように全周にわたって溶けて、ロ金とベローズ管との接合部を覆い、機械的強度が大きく、隙間の無い、好ましい接合状態となっている。
前記態様に対して、口金に溝を形成することなく単純な直管の状態(ただし管の外径はベローズ管の外径よりも大きくする)でTIG溶接を行ってもよいが、その場合には、口金溶接部の熱容量がベローズ溶接部の熱容量よりも大きくなるので、ベローズ側の溶け込みの方が大きくなり過ぎる。そのため、好ましい溶融状態を達成させるためには、非常に高度な溶接技能が必要となってしまい、生産性が低下する。」(段落【0043】)
7.甲第7号証に記載された事項
甲第7号証には図面とともに次の記載がある。
「本実施例のベローズベース31は、V状凹部36(開先部)を設けることによって端末外周部45の厚さL2をベローズボディ30の端末重合部41の厚さt1に近付けてある。このため、溶接時に折曲げ外周縁42と端末外周部45の熱容量が互いにバランスすることにより、溶接を良好に行うことができる。
なお、ベローズベース31自体の厚さが端末重合部41の厚みt2に近い場合には、V状凹部36を設けずに折曲げ外周縁42と端末外周部45とを互いに溶接してもよい。」(第4頁右下欄第5~15行)
8.甲第8号証に記載された事項
甲第8号証には図面とともに次の記載がある。
「排気管の端部にフランジを溶接固定してなる溶接継手の製造方法として、フランジ内の環状段部と管端部との間に溶接部を形成することが一般的である。例えば、特許文献1には、図6に示すように、フランジ101の貫通孔の内周面に段部102を形成し、段部102と管103の端面104とを同一面にして溶接トーチ105を端面104に沿って回動し、貫通孔と管を全周溶着することが開示されている。このような溶接には、溶接棒(ワイヤ)をアーク熱で溶融させるMIG溶接が一般的に使われる。」(段落【0003】
「しかしながら、特許文献1に開示される溶接継手の製造方法にTIG溶接を適用する場合、TIG溶接トーチ105の電極105aを段部102と端面104の中間に指向させてTIG溶接すると、端面104の肉厚がフランジ101の肉厚に対しはるかに小さい、すなわち、端面104の熱容量がフランジ101の熱容量よりも小さいため、端面104に溶け落ち部106が発生するおそれがある。そこで、図7に示すように、電極105aを熱容量の大きいフランジ101側(図の左方向)にずらして指向させると、端面104の溶け落ちの問題は解消されるものの、フランジ101に対する入熱量が増加するため、フランジ101が熱によって歪んでしまい、フランジ締結面107の平面度が悪化し、フランジ同士の締結性(シール性)が損なわれるおそれがある。また、フランジ101にクレータ108が生じるおそれがあり、溶接品質を十分に満足することができないおそれがある。」(段落【0004】)
第8 特許異議申立理由に対する当審の判断
1.進歩性について
(1)本件発明1
ア 対比
本件発明1と甲1発明とを対比する。
甲1発明の「ベローズ45」は、本件発明1の「ベローズ」に相当する。
甲1発明の「リング状の板である上側金属リング37」は、本件発明1の「環状板からなるベローズホルダ」に相当し、甲1発明の「ベローズ45の環状の縁部」は、本件発明1の「ベローズの環状縁部」に相当する。
したがって、甲1発明の「ベローズ45の環状の縁部はリング状の板である上側金属リング37の内周部に溶接され」る「ベローズ45の固定構造」は、本件発明1の「環状板からなるベローズホルダの内周縁部とベローズの環状縁部とを溶接するベローズの固定構造」と、「環状板からなるベローズホルダの内周部とベローズの環状縁部とを溶接するベローズの固定構造」という限度で一致する。
甲1発明の「ボディー10の上端の段差部にSUS材製の上側金属リング37の外径側が載置され」ることは、上側金属リング37の外径側が段差部に位置決めされていることといえる。
また、甲1発明の「上側金属リング37の外径側が載置され」る「ボディー10の上端の段差部」は、本件発明1の「ベローズホルダ」の「装着側」に相当する。
そうすると、甲1発明の「ボディー10の上端の段差部にSUS材製の上側金属リング37の外径側が載置され、ボディー10とボンネット32とによって上側金属リング37が挟持されている」ことは、本件発明1の「前記ベローズホルダの前記熱容量境界部よりも外径側が装着側に対して位置決め状態で取付けられる」ことと、「前記ベローズホルダの外径側が装着側に対して位置決め状態で取付けられる」という限度で一致する。
甲1発明の「ベローズ45の固定構造」は、本件発明1の「ベローズの固定構造」に相当する。
そうすると、本件発明1と甲1発明とは、次の一致点で一致し、相違点で相違する。
<一致点>
「環状板からなるベローズホルダの内周部とベローズの環状縁部とを溶接するベローズの固定構造であって、
前記ベローズホルダの外径側が装着側に対して位置決め状態で取付けられる
ベローズの固定構造。」
<相違点1>
「環状板からなるベローズホルダの内周部とベローズの環状縁部とを溶接する」ことに関して、ベローズの環状縁部と溶接する箇所が、本件発明1では、「ベローズホルダの内周縁部」であるのに対し、甲1発明では「上側金属リング37の内周部」である点。
<相違点2>
ベローズホルダとベローズの溶接に関し、本件発明1では、「前記ベローズホルダの内周縁部側近傍の溶接側表面に環状溝よりなる熱容量境界部が形成されてこの熱容量境界部よりも内径側にその深さまでの領域による環状の溶接領域部が設けられ、この溶接領域部が、前記ベローズの環状縁部の肉厚部と同等又はそれ以上の熱容量を有するようにし、前記ベローズホルダの溶接領域部側と前記ベローズの環状縁部側とが略均等に溶解した状態で溶接されている」のに対し、甲1発明では、熱容量境界部も溶接領域部も有していない点。
<相違点3>
装着側に対して位置決め状態で取付けられるベローズホルダの位置に関し、本件発明1では、「前記熱容量境界部よりも外径側」であるのに対し、甲1発明では「外径側」であり、熱容量境界部との関係で位置が特定されていない点。
イ 判断
相違点1及び2について検討する。
(ア)甲1発明の「ベローズ45の環状の縁部はリング状の板である上側金属リング37の内周部に溶接され」る構成について、甲第1号証の記載を参照しても、ベローズ45の環状の縁部と、上側金属リング37の内周部のどの部位をどのように溶接するのかは特定されていない。
(イ)甲第2、5~7号証には、ベローズの端部の溶接について記載されている。
甲第2号証には、フランジ2の孔に管状体5の端部を嵌合して隅肉盛溶接6によって結合することの困難さから、フランジ2の孔の内周に薄肉開先3を設け、薄肉管状体1の先端と薄肉開先3とを共付溶接することが記載されている。
甲1発明に甲第2号証に記載された上記事項を適用すると、上側金属リング37の内周面に薄肉開先を形成しベローズ45の環状の縁部を溶接する構成となり、相違点1の「ベローズホルダの内周縁部」に溶接する構成、及び、相違点2の「ベローズホルダの内周縁部側近傍の溶接側表面に環状溝よりなる熱容量境界部が形成され」る構成とはならない。
また、甲第5~7号証には、ベローズを被溶接箇所の外周ではあるが縁に沿って溶接することが記載されているものの、ベローズの端部を板状体における内周の縁部に溶接することを示唆するものではないし、被溶接箇所にベローズの熱容量と同等又はそれ以上となるように「環状溝よりなる熱容量境界部」を形成することは記載されていない。
(ウ)甲第3、4、8号証には、管と管板(または板状のフランジ)との溶接について、管の端部を管板に形成した孔を貫通した箇所で溶接するか、孔内で溶接する場合に、熱容量を考慮した技術的事項が記載されている。
しかしながら、上記(ア)で述べたとおり、甲1発明においては、ベローズ45の環状の縁部が上側金属リング37を貫通して溶接されるとは特定されていないことから、甲第3、4、8号証に記載の事項を適用する動機づけはないといえる。
(エ)以上のとおりであるから、甲1発明を、相違点1及び2に係る本件発明1の構成とすることは、甲第2~8号証に記載の事項から当業者が容易に想到し得たこととはいえない。
(オ)申立人は、特許異議申立書及び意見書において、次のとおり主張している。
・甲第5~甲第8号証に記載されているように、ベローズなどの薄肉管体の自由端を溶接するにあたり、溶接を良好に行うために、薄肉管体の自由端の熱容量と、溶接の相手側部分の熱容量とをバランスさせる必要のあることは、薄肉管体の溶接手法として、本件出願前に広く知られていることである。
そして、上記した、熱容量のバランスの必要性を考慮して、管と管板とを溶接するにあたっては、甲第2~第4号証に記載されているように、管板の内周縁部近傍の溶接側表面に環状溝からなる熱容量境界部を設けること、境界部よりも内径側にその深さまでの領域による環状の溶接領域部が設けられること、この溶接領域部が、管の環状縁部の肉厚部と同等又はそれ以上の熱容量を有するようにすること、これにより、管板の溶接領域部側と管の環状縁部側とが略均等に溶解した状態で溶接されることが、広く知られており、管と管板とを溶接するにあたり、熱容量をバランスさせる必要性から、管板に、環状溝からなる熱容量境界部を設けることは、本件出願前、周知のこと(以下、周知技術1という。)である。
甲1発明において、ベローズ45の環状上端と環状板からなる上側金属リング37の内周部とは、両者の材質が同じであり、また、図1に示される、両者の形状(厚み)および接合箇所からして、溶接部位において、両者の熱容量が異なることは、当業者に明らかである。また、ベローズ45は、デポジット(反応生成物の付着)防止のために設けられるので、ベローズ45の環状上端と環状板からなる上側金属リング37の内周部との溶接を良好に行う必要があり、両者の熱容量が異なると、良好な溶接に至らないであろうことも、当業者が容易に予測し得る。
そうであれば、管と管板との溶接の一種に他ならない、甲1発明における、ベローズ45の環状上端と、環状板からなる上側金属リング37の内周部との溶接において、両者の熱容量をバランスさせるために、周知技術1を用いることは、当業者が容易に想到し得ることである。(特許異議申立書第16頁第22行~第17頁第25行)
・甲1発明において、環状板からなる上側金属リング37の内周部に熱容量境界部を設けることは、当業者が容易に想到し得ることであり、その結果として、環状板からなる上側金属リング37が装着側に対して位置決め状態で取付けられる箇所は、「熱容量境界部よりも外径側」となることは明らかであり、当業者が容易に想到し得ることである。(特許異議申立書第17頁第26~第31行)
・溶接技術の分野において、「熱容量境界部」を形成し、「環状の溶接領域部」を画定することは、周知(甲第2号証~甲第8号証)のことであり、「熱容量境界部」の形成が、溶接する部分同士の熱容量をバランスさせることを目的としていることも周知(甲第5号証~甲第8号証)のことである。(意見書第4頁第15行~第5頁第4行)
しかしながら、上述のとおり、甲1発明に甲第2号証に記載の事項を適用しても、相違点1及び2に係る本件発明1の構成とすることはできないし、甲第3、4号証に記載の事項を適用する動機付けはない。
そして、本件発明1は、上記相違点1及び2に係る本件発明1の構成によって、「この熱量両境界部を跨いだベローズホルダ外径側への伝熱を抑え、熱容量境界部により設定される溶接領域部の熱容量をベローズの溶接部分である環状縁部の肉厚部と同等又はそれ以上とすることにより、溶接時にベローズホルダ側とベローズ側とに加わる熱分布を略均等に近づけてベローズが先に溶け出すことを防いで溶接箇所全体に渡ってこれらを略均等に溶接でき、溶接時の歪みを防いで高精度かつ強固にベローズとベローズホルダとを固着できる。環状の溶接領域部と環状縁部とによる被溶接部に沿って溶接することで作業性が向上すると共に、周囲へのはみ出しを防ぎつつ略均等な肉盛部を施して全体の溶接強度を均一化でき、熱容量境界部、溶接領域部を有するベローズホルダを、高精度のプレス加工やその他の複雑な加工を用いることなく、容易にかつ正確に溶接が容易な薄板状に形成でき、ベローズホルダとベローズとを溶接で固定することで、あらたな部品点数の増加や作業工数の増加も抑えている。」(本件特許明細書の段落【0017】)という効果を奏するものである。
したがって、相違点3について検討するまでもなく、本件発明1は、甲1発明及び甲第2~8号証に記載された事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものではない。
以上のとおりであるから、申立人の上記主張には理由がない。
(2)本件発明2~5について
本件発明2~5は、本件発明1の全ての発明特定事項を含み、さらに限定を付加するものである。
そうすると、上記(1)に示した理由と同様の理由により、本件発明2~5は、上記甲1発明及び甲第2~8号証記載事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものではない。
2.本件発明1~5の明確性要件違反について
(1)本件発明1について
ア 申立人は、特許異議申立書において、
(ア)請求項1には、「環状板からなるベローズホルダの内周縁部とベローズの環状縁部とを溶接するベローズの固定構造」と記載されている一方で、「前記ベローズホルダの前記熱容量境界部よりも外径側が装着側に対して位置決め状態で取付けられることを特徴とするベローズの固定構造」と記載されている。
前者の記載からは、環状板からなるベローズホルダの内周縁部とベローズの環状縁部とを溶接することが、ベローズの固定と解される一方で、後者の記載からは、ベローズホルダの熱容量境界部よりも外径側が装着側に対して位置決め状態で取付けられることが、ベローズの固定と解される。
仮に、環状板からなるベローズホルダの内周縁部とベローズの環状縁部とを溶接することが、ベローズの固定であるとすると、ベローズホルダの熱容量境界部よりも外径側が装着側に対して位置決め状態で取付けられることは、溶接時におけるベローズホルダの位置決めとも解されるところ、装着側が特定されていないため、溶接時におけるベローズホルダの位置決めが、いかなる状態のものであり、どのような技術的意義を有するものなのかが不明である。
また、仮に、ベローズホルダの熱容量境界部よりも外径側が装着側に対して位置決め状態で取付けられることが、ベローズの固定であるとすると、環状板からなるベローズホルダの内周縁部とベローズの環状縁部とを溶接したものが、装着側に対して位置決め状態で取付けられることになると解されるところ、装着側が特定されていないため、位置決め状態での取付けが、いかなる状態を意味するのか不明瞭である。(特許異議申立書第20頁第34行~第21頁第21行)
(イ)請求項1には、「前記ベローズホルダの溶接領域部側と前記ベローズの環状縁部側とが略均等に溶解した状態で溶接されている」と記載されている。
この記載において、「略均等に溶解した状態」とは、溶接工程における溶解状態を指していると解されるが、「略均等に溶解した状態」で溶接された結果、ベローズホルダの溶接領域部側とベローズの環状縁部側とが、溶接後、いかなる構造になるのかが不明である。
しかも、上記記載は、製造方法を記載したもの、いわゆる、プロダクトバイプロセスクレームに該当するため、そもそも、請求項1に係る発明は不明確である。なお、出願時において当該物をその構造又は特性により直接特定することが不可能であるか、又はおよそ実際的でないという事情、すなわち、「不可能 非実際的事情」の存在は認められないため、上記記載は、溶接後の構造を規定し得るものではない。(特許異議申立書第21頁第22行~第22頁第2行)
したがって、本件発明1は明確でなく、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない
旨主張している。
イ 申立人は、意見書において、
(ア)請求項1には「この溶接領域部が、前記ベローズの環状縁部の肉厚部と同等又はそれ以上の熱容量を有する」、「前記ベローズホルダの溶接領域部側と前記ベローズの環状縁部側とが略均等に溶解した状態で溶接されている」と記載されているが、「溶接領域部側」が、「ベローズの環状縁部側」と、「略均等に溶解した状態」で「溶接」されるのであれば、「溶接」後の「ベローズの固定構造」において、「溶接領域部」と「ベローズの環状縁部の肉厚部」とを区別できないことになる。
そうであれば、「溶接」後の「ベローズの固定構造」において、「溶接領域部」と「ベローズの環状縁部の肉厚部」の、それぞれの「熱容量」は定まらないため、「この溶接領域部が、前記ベローズの環状縁部の肉厚部と同等又はそれ以上の熱容量を有する」ことを、「溶接」後に確認することはできない。したがって、「この溶接領域部が、前記ベローズの環状縁部の肉厚部と同等又はそれ以上の熱容量を有する」との発明特定事項は、本件発明5を不明確にするものである(意見書第2頁第5行~16行)
(イ)仮に、「この溶接領域部が、前記ベローズの環状縁部の肉厚部と同等又はそれ以上の熱容量を有する」という規定が、溶接前の「溶接領域部」と「ベローズの環状縁部の肉厚部」の状態を示すものであるとするなら、「前記ベローズホルダの溶接領域部側と前記ベローズの環状縁部側とが略均等に溶解した状態で溶接されている」という規定は、溶接後の「溶接領域部側」と「ベローズの環状縁部側」の状態を示していることが明白である。そうすると、請求項5の記載は、溶接前の状態と溶接後の状態の規定を併存させるものであり、溶接前の状態(「溶接領域部」と「ベローズの環状縁部の肉厚部」の状態)から溶接後の状態(「溶接領域部側」と「ベローズの環状縁部側」の状態)へと、状態が変容しており、製造方法を記載したに等しいものというべきである。したがって訂正後の請求項5の記載は、プロダクトバイプロセスクレームの記載となっている(意見書第2頁第17行~27行)
(ウ)さらに、請求項1には「前記ベローズホルダの溶接領域部側と前記ベローズの環状縁部側とが略均等に溶解した状態で溶接されている」と記載されているが、「溶接領域部」は、「熱容量境界部よりも内径側にその深さまでの領域による環状の溶接領域部」と定義されているところ、「溶接領域部側」については、定義がされておらず、溶接箇所が明確ではない(意見書第3頁第1行~5行)
(エ)また、「ベローズの環状縁部の肉厚部」は、「溶接領域部」と「熱容量」を比較すべき部分として記載されているが、「ベローズの環状縁部の肉厚部」とは、「ベローズの環状縁部」に設けられた「肉厚部」であるのか、「ベローズの環状縁部」そのものであるのかが明確でなく、「ベローズの環状縁部の肉厚部」を特定することはできない。また、「ベローズの環状縁部の肉厚部」が特定できない以上、「ベローズの環状縁部側」も特定できない(意見書第3頁第6行~13行)
(オ)請求項1に「この溶接領域部が、前記ベローズの環状縁部の肉厚部と同等又はそれ以上の熱容量を有する」と記載されているが、「同等」が意味するところが不明瞭であり、したがって、「同等又はそれ以上」が、どの範囲を意味するのかが明確ではない(意見書第3頁第15~22行)
(カ)請求項1に「前記ベローズホルダの溶接領域部側と前記ベローズの環状縁部側とが略均等に溶解した状態で溶接されている」と記載されているが、「均等に溶解」とは、どのような状態を指すのかが明確ではなく、「略」が意味するところも明確ではない(意見書第3頁第15~22行)
(キ)請求項1に「前記ベローズホルダの前記熱容量境界部よりも外径側が装着側に対して位置決め状態で取付けられる」と記載されているが、「装着側」について、ベローズホルダのどの部分をいうのかが不明瞭である。もっとも「装着側」とは、上記ベローズの固定構造が装着される、上記ベローズの固定構造とは異なる部材を指すと解する余地はあるが、そのように解したとしても、この部材がいかなる構造のものであるかは不明であるため、位置決め状態で取付けられ得るかどうかについても、どのように位置決めされるかも不明というほかない(意見書第3頁第23行~第4頁第7行)
と主張している。
ウ 当審の判断
a 上記ア(ア)及びイ(キ)について
本件発明1において、「環状板からなるベローズホルダの内周縁部とベローズの環状縁部とを溶接する」ことは、ベローズの固定を意味し、「ベローズホルダの熱容量境界部よりも外径側が装着側に対して位置決め状態で取付けられる」ことは、ベローズホルダの位置決めを意味することは明らかである。
そして、本件発明1の「前記ベローズホルダの前記熱容量境界部よりも外径側が装着側に対して位置決め状態で取付けられる」との記載は「前記ベローズホルダの前記熱容量境界部よりも外径側が」、「装着側に対して」、「位置決め状態で取付けられる」ものであって、「装着側」とは、ベローズホルダ自体ではなく、ベローズホルダを装着する側を意味している。
そうすると、この「装着側」の構造が具体的に特定されないからといって、「位置決め状態で取付けられる」こと自体が不明確であるとはいえない。
b 上記ア(イ)、イ(ア)及びイ(イ)について
本件発明1に「この溶接領域部が、前記ベローズの環状縁部の肉厚部と同等又はそれ以上の熱容量を有する」、「前記ベローズホルダの溶接領域部側と前記ベローズの環状縁部側とが略均等に溶解した状態で溶接されている」と記載されているが、当該記載は「ベローズホルダの溶接領域部側」と「ベローズの環状縁部側」の熱容量を同等にすることによって、両者の溶融部が略均等となるようにしたことを規定しており、両者の溶融部の熱容量が同等であれば、両者が溶融後に略均等に溶解した状態で溶接されていることは明らかであるから、溶接後の状態を規定する発明特定事項として何ら不明確なものではない。
そして、上記記載は、製造方法を記載したものではないから、いわゆる、プロダクトバイプロセスクレームに該当しない。
c 上記イ(ウ)について
本件発明1の記載から、「ベローズホルダの内周縁部近傍の溶接側表面」「よりも内径側にその深さまでの領域による環状の溶接領域部」が設けられ、この「溶接領域部」と「ベローズの環状縁部」とが溶接されていることが理解でき、「溶接領域部側」とは、この「ベローズホルダの内周縁部近傍の溶接側表面よりも内径側にその深さまでの領域による環状の溶接領域部」の「前記ベローズの環状縁部」側を意味することは明らかであるから、溶接箇所が明確でないとはいえない。
d 上記イ(エ)について
本件発明1の「ベローズの環状縁部の肉厚部」とは、「ベローズの環状縁部」における「肉厚部」であることを意味することは明らかであり、「ベローズの環状縁部の肉厚部」が不明確であるとはいえない。
e 上記イ(オ)及びイ(カ)について
「同等の熱容量を有する」こと及び「均等に溶解」することとは、ベローズホルダの溶接領域部及びベローズの環状縁部に溶接による熱が加わる際に、両者の熱分布が略均等となることを意味するものであって、当業者にとって明確であるといえる。同様に、「同等又はそれ以上の熱容量を有すること」についても、明確であるといえる。
また、「均等に溶解」することも当業者であればどのような状態で溶解しているか明確であり、「略」が意味するところも同様に、明確であるといえる。
(2)本件発明2~5の明確性要件違反について
申立人は、特許異議申立書及び意見書において、本件特許発明1は明確でなく、本件特許発明1を引用する本件特許発明2~5も明確でないから、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない、
旨主張するが、上記で述べたとおり、本件発明1は明確であり、本件発明1を引用する本件発明2~5も明確である。
3.本件発明1~5のサポート要件違反について
申立人は、特許異議申立書において、
明細書の段落【0017】、【0038】、【0047】、【0049】の記載から、ベローズホルダの溶接領域部側とベローズの環状縁部側とが略均等に溶解した状態で溶接されるには、ベローズホルダの溶接領域部側とベローズの環状縁部側とによる被溶接部に沿って溶接し、全体の溶接強度を均一化するには、ベローズホルダの溶接領域部とベローズの環状縁部の円周上に沿って略均等な肉盛部の幅により溶接することが必要であり、これによって、本件発明1~5の課題である「ベローズホルダとベローズとの溶接時の熱容量を均等に近づけてこれらを高精度かつ強固に溶接できる」(段落【0011】)という課題を解決できるものと解される。しかしながら、請求項1には、「前記ベローズホルダの溶接領域部側と前記ベローズの環状縁部側とが略均等に溶解した状態で溶接されている」と記載されているのみであり、ベローズホルダの溶接領域部側とベローズの環状縁部側とによる被溶接部に沿って溶接されることも、ベローズホルダの溶接 領域部とベローズの環状縁部の円周上に沿って略均等な肉盛部の幅により溶接することも記載されていないため、当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるとはいえない。したがって、本件発明1はサポート要件を満たしていない。 同様に、本件発明1を引用する本件発明2~5もサポート要件を満たしていない
と主張している(特許異議申立書第23頁第10行~第24頁第34行)。
しかしながら、「ベローズホルダとベローズとの溶接時の熱容量を均等に近づけてこれらを高精度かつ強固に溶接できる」(段落【0011】)という課題を解決するためには、ベローズホルダに環状の熱容量境界部を設け、ベローズホルダの溶接領域部がベローズの環状縁部の肉厚部と同等又はそれ以上の熱容量を有するようにし、溶接領域部と環状縁部とを略均等に溶解するようにすることで足りる。
上記構成要件は、本件発明1が備えており、本件発明1はサポート要件を満たしているといえる。同様に、本件発明1を引用する本件発明2~5もサポート要件を満たしているといえる。
第9 むすび
以上のとおりであるから、取消理由通知に記載した取消理由及び特許異議申立書に記載した特許異議申立理由によっては、請求項1~5に係る特許を取り消すことはできない。
また、他に請求項1~5に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
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2022-700341