特許異議申立
2022-700249
磁気探査システムおよび磁気探査方法
- 審判番号
- 2022-700249
- 法域
- 特許
- 審判種別
- 異議申立(異議の決定)
- 出願番号
- 特願2021-110084
- 登録番号
- 6940911
- 請求日
- 2022年03月25日
- 審決日
- 2023年03月29日
- 公報発行日
- 2023年08月25日
- 結論
- 訂正認容
- 当事者
- 【権利者】株式会社沖縄計測
- 【権利者代理人】西原 広徳
- 【異議申立人】中石 幸明
- 【異議申立人】仲本 久美子
- 審判長/審判官
- 審判長 石井 哲
- 審判官 福島 浩司
- 審判官 ▲高▼見 重雄
- 分類
- P1651.121-YAA(G01V) / P1651.536-YAA(G01V) / P1651.537-YAA(G01V)
- 根拠条文(結論部分から自動抽出・参考)
- 特許法120条の8第1項特許法135条
- 条文(本文から自動抽出・参考)
- 特許法第29条第2項、特許法第2条第1項、特許法第120条の5第2項、特許法第120条の5第9項、特許法第36条第6項第1号、特許法第29条第1項、特許法第120条の8第1項
- データ出所
- 審決公報(XML)
事件の表示
特許第6940911号発明「磁気探査システムおよび磁気探査方法」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。
結論
結 論
特許第6940911号の特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1-3〕について訂正することを認める。
特許第6940911号の請求項1に係る特許についての特許異議の申立てを却下する。
特許第6940911号の請求項2、3に係る特許を維持する。
理由
理 由
第1 手続の経緯
特許6940911号の請求項1~3に係る特許についての出願は、令和3年7月1日に出願され、同年9月7日にその特許権の設定登録がされ、同年9月29日に特許掲載公報が発行された。その後、その特許について、令和4年3月25日に特許異議申立人中石 幸明(以下「中石申立人」という。)及び特許異議申立人仲本 久美子(以下「仲本申立人」という。)により、特許異議の申立てがされ、当審は、同年9月27日付けで取消理由を通知した。特許権者は、その指定期間内である同年12月2日に意見書の提出及び訂正の請求(以下、当該訂正の請求を「本件訂正請求」という。)を行い、その訂正の請求に対して、仲本申立人は、令和5年2月3日に意見書を提出した。なお、中石申立人のその訂正の請求に対する意見書の提出はなかった。
第2 訂正の適否
1 訂正の内容(下線は、訂正箇所を示す。)
(1)訂正事項1
特許請求の範囲の請求項1を削除する。
(2)訂正事項2
特許請求の範囲の請求項2に「請求項1記載の磁気探査システムにおいて、地中の磁性物体を探査するための磁気探査方法であって、」と記載されているのを、「第1コイル、および、前記第1コイルの軸線方向に離間して配置され、前記第1コイルとは巻き方向が逆向きの第2コイルを有する磁気センサと、前記第1コイルに接続され、前記第1コイルに流れる誘導電流から第1個別波形を生成する第1個別波形生成部と、前記第2コイルに接続され、前記第2コイルに流れる誘導電流から第2個別波形を生成する第2個別波形生成部と、前記第1個別波形および前記第2個別波形を合成した合成波形を生成する合成波形生成部と、前記第1個別波形、前記第2個別波形、および前記合成波形を、関連付けて記録する記録部を備えた磁気探査システムにおいて、地中の磁性物体を探査するための磁気探査方法であって、」に訂正する。
(3)訂正事項3
特許請求の範囲の請求項3に「請求項1記載の磁気探査システムにおいて、地中の磁性物体を探査するための磁気探査方法であって、」と記載されているのを、「第1コイル、および、前記第1コイルの軸線方向に離間して配置され、前記第1コイルとは巻き方向が逆向きの第2コイルを有する磁気センサと、前記第1コイルに接続され、前記第1コイルに流れる誘導電流から第1個別波形を生成する第1個別波形生成部と、前記第2コイルに接続され、前記第2コイルに流れる誘導電流から第2個別波形を生成する第2個別波形生成部と、前記第1個別波形および前記第2個別波形を合成した合成波形を生成する合成波形生成部と、前記第1個別波形、前記第2個別波形、および前記合成波形を、関連付けて記録する記録部を備えた磁気探査システムにおいて、地中の磁性物体を探査するための磁気探査方法であって、」に訂正する。
なお、訂正前の請求項1~3は、請求項2及び3が訂正の対象である請求項1を引用するものであるから、訂正前において一群の請求項に該当するものである。
2 訂正の目的の適否、新規事項の有無、及び特許請求の範囲の拡張・変更の存否
(1)訂正事項1について
訂正事項1は、特許請求の範囲の請求項1を削除するものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。そして、この訂正が、新規事項の追加に該当せず,実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではないことは明らかである。
(2)訂正事項2及び3について
訂正事項2及び3は、訂正前の請求項2及び3が、いずれも請求項1の記載を引用する記載であったものを、請求項1の記載を引用しないものとするために、独立形式の請求項へ改めたものである。
また、訂正事項2及び3は、訂正前の請求項1に「前記第2コイルに接続され、前記第2コイルに流れる誘導電流から第2個別波形を生成する第1個別波形生成部」と記載されているものを「前記第2コイルに接続され、前記第2コイルに流れる誘導電流から第2個別波形を生成する第2個別波形生成部」と訂正するものであるが、訂正前の請求項1では、「第1個別波形生成部」は、「前記第1コイルに接続され、前記第1コイルに流れる誘導電流から第1個別波形を生成する」ものであって、「前記第2コイルに接続され、前記第2コイルに流れる誘導電流から第2個別波形を生成する」ものである旨特定されているが、「前記第1コイルに接続され、前記第1コイルに流れる誘導電流から第1個別波形を生成する」ものであって、「前記第2コイルに接続され、前記第2コイルに流れる誘導電流から第2個別波形を生成する」「第1個別波形生成部」とは、どのようなものか不明である。
また、願書に最初に添付された明細書の発明の詳細な説明の段落【0007】には、
「【0007】
この発明は、・・・前記第2コイルに接続され、前記第2コイルに流れる誘導電流から第2個別波形を生成する第2個別波形生成部と、・・・を備えた、磁気探査システムおよび磁気探査方法であることを特徴とする。」
と記載されている。
そうすると、訂正前の請求項1に記載された「前記第2コイルに接続され、前記第2コイルに流れる誘導電流から第2個別波形を生成する第1個別波形生成部」の「第1個別波形生成部」は、「第2個別波形生成部」の誤記であることは明らかであるから、該訂正は、誤記の訂正を目的とするものである。
そして、上記独立形式の請求項に改める訂正は、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内においてされたものであって、誤記の訂正を目的とする訂正は、願書に最初に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内においてされているものであるから、これら訂正が、新規事項の追加に該当せず,実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではないことは明らかである。
3 小括
以上のとおりであるから、本件訂正請求による訂正は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号、第2号及び第4号に掲げる事項を目的とするものであり、かつ、同条第9項において準用する同法第126条第5項及び第6項の規定に適合する。
なお、中石申立人より、本件特許請求の範囲の全ての請求項について、特許異議申立がされていることから、特許法第120条の5第9項で読み替えて準用する同法第126条第7項は検討を要しない。
したがって、特許請求の範囲を、訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1-3〕について訂正することを認める。
第3 訂正後の本件発明
本件訂正請求により訂正された請求項1~3に係る発明(以下「本件特許発明1~3」という。)は、訂正特許請求の範囲の請求項1~3に記載された次の事項により特定されるとおりのものである。
「【請求項1】
(削除)
【請求項2】
第1コイル、および、前記第1コイルの軸線方向に離間して配置され、前記第1コイルとは巻き方向が逆向きの第2コイルを有する磁気センサと、前記第1コイルに接続され、前記第1コイルに流れる誘導電流から第1個別波形を生成する第1個別波形生成部と、前記第2コイルに接続され、前記第2コイルに流れる誘導電流から第2個別波形を生成する第2個別波形生成部と、前記第1個別波形および前記第2個別波形を合成した合成波形を生成する合成波形生成部と、前記第1個別波形、前記第2個別波形、および前記合成波形を、関連付けて記録する記録部を備えた磁気探査システムにおいて、地中の磁性物体を探査するための磁気探査方法であって、
前記磁気センサを用いて磁気探査を行い、
前記磁気探査において得られた前記合成波形を参照し、当該合成波形から磁性物体の存在が検出された場合であって、当該合成波形からは当該磁性物体の個数が不明である場合に、前記第1個別波形および前記第2個別波形を参照し、当該磁性物体の個数を判別する
磁気探査方法。
【請求項3】
第1コイル、および、前記第1コイルの軸線方向に離間して配置され、前記第1コイルとは巻き方向が逆向きの第2コイルを有する磁気センサと、前記第1コイルに接続され、前記第1コイルに流れる誘導電流から第1個別波形を生成する第1個別波形生成部と、前記第2コイルに接続され、前記第2コイルに流れる誘導電流から第2個別波形を生成する第2個別波形生成部と、前記第1個別波形および前記第2個別波形を合成した合成波形を生成する合成波形生成部と、前記第1個別波形、前記第2個別波形、および前記合成波形を、関連付けて記録する記録部を備えた磁気探査システムにおいて、地中の磁性物体を探査するための磁気探査方法であって、
前記磁気センサを用いて磁気探査を行い、
前記磁気探査において得られた前記第1個別波形および前記第2個別波形を参照し、当該第1個別波形および当該第2個別波形から磁性物体の存在が検出された場合であって、当該第1個別波形および当該第2個別波形からは当該磁性物体の個数が不明である場合に、前記合成波形を参照し、当該磁性物体の個数を判別する
磁気探査方法。」
第4 取消理由通知に記載した取消理由について
1 取消理由の概要
訂正前の請求項1~3に係る特許に対して、当審が令和4年9月27日に特許権者に通知した取消理由の要旨は、次のとおりである。
(1)訂正前の請求項1に係る特許は、「前記第2コイルに接続され、前記第2コイルに流れる誘導電流から第2個別波形を生成する第1個別波形生成部」が、明瞭ではなく、また、発明の詳細な説明に記載されているものであるとはいえないから、特許法第36条第6項第1号及び第2号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであり、取り消されるべきものである。
(2)訂正前の請求項1に係る発明は、引用文献1及び3に記載された発明に基いて、又は、引用文献2及び3に記載された発明に基づいて、当業者が容易に想到することができたものである。よって、請求項1に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものであり、取り消されるべきものである。
引用文献1:「新版物理探査適用の手引き-土木物理探査マニュアル2008-」, 社団法人物理探査学会,p.352-355,平成20年10月21日(中石申立人提出の甲1号証)
引用文献2:登録実用新案第3201949号公報(中石申立人提出の甲2号証)
引用文献3:特開平9-101373号公報(中石申立人提出の甲3号証)
2 引用文献の記載
(1)引用文献1について
ア 引用文献1に記載された事項
引用文献1には、以下の事項が記載されている。
(引1a)「(解説)
(1) 鉛直磁気探査では通常、磁気センサを孔口~孔底間で等速度で移動させ、磁気記録を連続測定する。測定中はモニター等で測定記録を監視し、探査装置が正常に動作していることを確認する。信号源・ノイズ源が明らかな場合は、磁気データと対応付けて記録する。測定記録をデジタルデータとして保存する場合は、測定終了後に保存データを確認する。
(2) 測定中の磁気センサの深度に対応し測定記録にマーキングすることにより、深度と測定記録とを対応付ける。
(3) 不発爆弾などの危険物探査の場合、探査孔を削孔中に危険物に当たる可能性がある。また埋設管探査等で埋設管の平面位置が不明確な場合、探査孔が埋設管に当たる可能性がある。ウォータージェットボーリング等の衝撃が少ない削孔方法の場合は探査孔位置をずらし再度削孔すればよいが、ロータリーボーリング孔で削孔する場合は危険である。これを避けるために、探査孔を削孔する際に適時磁気センサを探査孔に挿入し、孔底下に鉄類が無いことを確認する。このときも鉄製のロッドやケーシングがあると測定ができないので、抜き取って裸孔で測定を行うか、または削孔に非磁性のロッドを用いる。
孔底下の確認探査を実施する間隔は、探査対象物の大きさや埋設管の想定される径等によって適切に定めるが、最大1.0m 間隔以下に設定するのが一般的である。
(補足)
1)鉛直磁気探査では、探査孔の径が細く孔内に水が存在する場合、測定中の磁気センサのプレが少ないことから、解析時の資料とするために、差分記録(両コイル記録)だけでなく1つのコイルによる記録(単コイル記録)も同時に測定する場合がある。」
(引1b)「
[図:0001400433000001.jpg]
」
(引1c)「(注意事項)
1)磁気異常記録の強さ(振幅)は鉄類からの距離の2乗~3乗に反比例するので、振幅値だけから解析・判断することはできない。
2) 危険物探査では、磁気量等の値が重要な解析結果となる。
(解説)
(1) 危険物探査で磁気異常が検出された場合、解析により深度、磁気異常点の探査孔からの距離および磁気景を求める。単独の探査孔記録からは通常、磁気異常点位置の探査孔からの方位は判定できないので、磁気異常点位置を詳細に求めたい場合は、磁気異常点の近くに複数の探査孔を配置し、それぞれの記録を総合的に解析する。
(2) 埋設管調査の場合は、埋設管の深度および探査孔からの距離を求める。
(3)鋼矢板・H型銅等の根入れ深度調査の場合は、鋼矢板等の下端深度および探査孔からの距離を求める。」
(引1d)「(解説)
(1)解析結果としての金属埋設物の平面位置と深度のほか、測定記録における磁気異常の大きさ・広がりや既存資料による情報などを総合的に考察し、探査対象物が何であるかを明確にして探査結果を判断する。複数の金属埋設物による信号が重なる等により、探査対象物を特定することが困難な場合、無理・強引な解釈はせず、可能性を示すことに留める場合もある。
(2) 危険物探査の場合、不発爆弾の種類によっては、種々の実験とこれまでの実績により不発爆弾が持ち得る磁気量等の範囲が想定されているので、解析により磁気量値等を求めれば、検出された磁気異常点の判別すなわち対象となる不発爆弾の可能性の有無の判定が可能となる。
(3)使用した探査機器、探査手法、調査地の条件等による特性を十分に考慮した解釈を行う。
(4)他の物理探査による調査等が実施されている場合は、その結果も参照し、整合性のある解釈を行う必要がある。」
イ 引用文献1に記載された発明
(ア)上記(引1b)より、「鉛直磁気探査」に使われる「両コイル型磁気傾斜計」による測定記録には、「両コイルの差分記録」と「磁気センサの先端側にあるコイルによる記録」が記録されている点が見て取れる。
(イ)(ア)を踏まえると、上記(引1a)及び(引1d)より、引用文献1には以下の発明(以下「引用発明1」という。)が記載されている。
「磁気センサを孔口~孔底間で等速度で移動させ、
磁気記録を連続測定し、
測定中はモニター等で測定記録を監視し、
探査装置が正常に動作していることを確認し、
信号源・ノイズ源が明らかな場合は、
磁気データと対応付けて記録し、測定記録をデジタルデータとして保存する
両コイル型磁気傾斜計からなる探査装置において、
解析時の資料とするために、差分記録(両コイル記録)だけでなく1つのコイルによる記録(単コイル記録)も同時に測定し、
両コイルの差分記録と磁気センサの先端側にあるコイルによる記録が記録され、
解析・判断するための磁気異常記録の振幅は鉄類からの距離の2乗~3乗に反比例し、
解析結果としての金属埋設物の平面位置と深度のほか、測定記録における磁気異常の大きさ・広がりや既存資料による情報などを総合的に考察し、探査対象物が何であるかを明確にして探査結果を判断する
探査装置。」
(2)引用文献2について
ア 引用文献2に記載された発明
引用文献2には以下の事項が記載されている。
(引2a)「【0015】
強磁性体としてH型鋼や矢板などの鋼材が有る場合の本考案の実施の形態を添付図を参照して説明する。図1は、本考案による磁気センサーAの実施形態を示す概略図であり、白抜きの矢印はセンサーの移動方向である。一軸差動方式の磁気センサーAは、S1,S2,S3の3個のコイルが同一線上に設置された状態で、非磁性の支持体4に支持されている。個々の磁気データは、接続ケーブルにて増幅制御装置(管制装置)Bへ送り、Bにて差動データを作成し、A/D変換機Dに送られてデジタル信号化される。さらに、このデジタル信号をPCE上で解析処理システムを利用し、磁気記録を作成する。磁気記録作成後、波形の振幅、周期、形状等を処理する事で、目的とする磁性体例えば不発弾の大きさ、位置(深度)を判定(解析)する。」
(引2b)「【0017】
図3は差動検知部1の差動データである。図4は差動検知部2の差動データ記録、図5は差動検知部3の差動データである。図6、図7については、H型鋼5の上端付近に磁性物(砲弾、爆弾等)6を設置した状態での磁気データと差動検知部3のデータである。」
(引2c)「【0022】
以上のように、非磁性の単一の支持体に一端コイルと他端コイルとを離して設け、前記両コイルの間に中間コイルを非対称に設けてなる磁気センサーを用いて、最多で各コイル及び各コイル間の多成分の磁気データを検出可能とし、処理することで、強磁性体の付近(端部を含む)でも爆弾・砲弾等の弱磁性体の探査を容易に可能とする。」
(引2d)「
[図:0001400433000002.jpg]
」
イ 引用文献2に記載された発明
(ア)上記(引2d)より、「多成分差動センサー」は、「磁気センサーA」、「増幅制御装置(管制装置)B」、「A/D変換機D」及び「PCE」から構成されている点及び「S1,S2,S3の3個のコイル」において、「差動検知部1」は、コイルS1とS3からなり、「差動検知部2」は、コイルS2とS3からなり、そして「差動検知部3」は、コイルS1とS2からなる点が見て取れる。
(イ)(ア)を踏まえると、上記(引2a)~(引2c)より、引用文献2には以下の発明(以下「引用発明2」という。)が記載されている。
「磁気センサーA、増幅制御装置(管制装置)B、A/D変換機D及びPCEから構成された多成分差動センサーにおいて、
磁気センサーAは、S1,S2,S3の3個のコイルが同一線上に設置された状態で、非磁性の支持体4に支持された一軸差動方式のセンサーであり、
磁気センサーAの個々の磁気データは、接続ケーブルにて増幅制御装置(管制装置)Bへ送られ、
Bにて差動データを作成し、
A/D変換機Dに送られてデジタル信号化され、
このデジタル信号は、PCE上で解析処理システムを利用し、磁気記録を作成され、
磁気記録作成後、波形の振幅、周期、形状等を処理する事で、目的とする磁性体例えば不発弾の大きさ、位置(深度)を判定(解析)する多成分差動センサーであって、
差動データは、コイルS1とS3からなる差動検知部1、コイルS2とS3からなる差動検知部2及びコイルS1とS2からなる差動検出部3のデータであって、
非磁性の単一の支持体に一端コイルと他端コイルとを離して設け、前記両コイルの間に中間コイルを非対称に設けてなる磁気センサーを用いて、最多で各コイル及び各コイル間の多成分の磁気データを検出可能とし、処理することで、爆弾・砲弾等の弱磁性体の探査をする
多成分差動センサー。」
(3)引用文献3について
引用文献3には、以下の事項が記載されている。
(引3a)「【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は電磁誘導を利用した埋設物の探査技術に関するものであり、地中に埋設された電話ケーブル、電力ケーブル、ガス管水道管等の導体(以下単にケーブルと云う)の探査に利用する電磁誘導方式の埋設物探査方法の改良に関するものである。」
(引3b)「【0014】今ここで、検出コイルC3 と検出コイルC2 との差動電圧V3 -V2 及び検出コイルC2 と検出コイルC1 との差動電圧V2 -V1 を、差動回路を用いたり、或いは検出コイルC2 の巻線方向を検出コイルC1 、C3 と逆巻きとすることによって検出すると、V3 -V2 及びV2 -V1 の値は、発振器からの直接磁界Hに比例する電圧成分が打ち消されたものとなり、電流Iによる磁界H1 、H2 、H3 に比例した電圧成分のみとなる。」
3 当審の判断
(1)明確性及びサポート要件について
本件訂正により「前記第2コイルに接続され、前記第2コイルに流れる誘導電流から第2個別波形を生成する第1個別波形生成部」は、「前記第2コイルに接続され、前記第2コイルに流れる誘導電流から第2個別波形を生成する第2個別波形生成部」に訂正されたことにより、明確性及びサポート要件についての取消理由は解消した。
(2)進歩性について
ア 本件特許発明2について
(ア)対比
本件特許発明2と引用発明1とを対比する。
a 引用発明1の「両コイル型磁気傾斜計からなる探査装置」は、本件特許発明2の「磁気探査システム」に相当する。そして、引用発明1の「金属埋設物」は、本件特許発明2の「地中の磁性物体」に相当し、引用発明1は、「金属埋設物」を「両コイル型磁気傾斜計からなる探査装置」で探査するものであるから、引用発明1には、「両コイル型磁気傾斜計からなる探査装置」において、「金属埋設物」を探査する方法が記載されているといえる。
そうすると、引用発明1の「両コイル型磁気傾斜計からなる探査装置」において、「金属埋設物」を探査する方法は、本件特許発明2の「磁気探査システムにおいて、地中の磁性物体を探査するための磁気探査方法」に相当する。
b 引用発明1の「磁気センサ」は、本件特許発明1の「磁気センサ」に相当する。そして、引用発明1の「磁気センサ」は、「両コイル型磁気傾斜計」のものであるから、軸方向に離間して配置された2つのコイルからなることは明らかである。
そうすると、引用発明1の離間して配置された2つのコイルは、本件特許発明2の「第1コイル、および、前記第1コイルの軸線方向に離間して配置され」た「第2コイル」に相当する。
c 引用発明1の「解析・判断するための磁気異常記録の振幅は鉄類からの距離の2乗~3乗に反比例」するものであるから記録される「差分記録(両コイル記録)」及び「1つのコイルによる記録(単コイル記録)」は、波形であるといえる。そして、「両コイル型磁気傾斜計」のそれぞれのコイルの「単コイル記録」は、軸方向に離間して配置された2つのコイルのそれぞれのコイルに接続され、それぞれのコイルに流れる誘導電流から生成されるものであるから、引用発明1の「探査装置」は、「両コイル型磁気傾斜計」の2つのコイルにおける波形からなる「単コイル記録」を、それぞれのコイルに流れる誘導電流である「連続測定」された「磁気記録」から生成する手段を有しているといえる。そして、引用発明1の「両コイル記録」は、「両コイル型磁気傾斜計」の「両コイルの差分記録」であるから、「両コイル型磁気傾斜計」の「両コイル」の差分から合成波形を生成する手段を有しているといえる。
そうすると、引用発明1の「両コイル型磁気傾斜計」の2つのコイルにおける波形からなる「単コイル記録」のうち、一方のコイルにおける「単コイル記録」及び他方のコイルにおける「単コイル記録」は、それぞれ本件特許発明2の「第1個別波形」及び「第2個別波形」に相当し、引用発明1の波形からなる「両コイル記録」は、本件特許発明2の「合成波形」に相当する。そして、引用発明1の一方のコイルに流れる誘導電流である一方のコイルにおける「連続測定」された「磁気記録」から一方のコイルにおける「単コイル記録」生成する手段及び他方のコイルに流れる誘導電流である他方のコイルにおける「連続測定」された「磁気記録」から他方のコイルにおける「単コイル記録」生成する手段は、それぞれ、本件特許発明2の「前記第1コイルに接続され、前記第1コイルに流れる誘導電流から第1個別波形を生成する第1個別波形生成部」及び「前記第2コイルに接続され、前記第2コイルに流れる誘導電流から第2個別波形を生成する第2個別波形生成部」に相当し、引用発明1の「両コイル型磁気傾斜計」の「両コイル」の差分から合成波形を生成する手段は、本件特許発明2の「前記第1個別波形および前記第2個別波形を合成した合成波形を生成する合成波形生成部」に相当する。
d 引用発明1の「両コイル記録」及び「単コイル記録」などの「測定記録」は、「デジタルデータとして保存」されるものであるから、引用発明1の「探査装置」は、「両コイル記録」及び「単コイル記録」などの「測定記録」を「デジタルデータとして保存」する手段を有しているといえる。そして、引用発明1において「信号源・ノイズ源が明らかな場合は、磁気データと対応付けて記録」されていることから、「信号源・ノイズ源」と「両コイル記録」及び「単コイル記録」からなる「磁気データ」とを関連付けられて記録するためには、「両コイル記録」と「単コイル記録」とが、関連付けて記録されていることは明らかである。
そうすると、引用発明1の「探査装置」は、「両コイル記録」及び「単コイル記録」を関連付けて「デジタルデータとして保存」する手段は、本件特許発明2の「前記第1個別波形、前記第2個別波形、および前記合成波形を、関連付けて記録する記録部」に相当する。
e 以上a~dより、本件特許発明2と引用発明1とを対比すると、両者には以下の一致点及び相違点がある。
(一致点)「第1コイル、および、前記第1コイルの軸線方向に離間して配置された第2コイルを有する磁気センサと、
前記第1コイルに接続され、前記第1コイルに流れる誘導電流から第1個別波形を生成する第1個別波形生成部と、
前記第2コイルに接続され、前記第2コイルに流れる誘導電流から第2個別波形を生成する第2個別波形生成部と、
前記第1個別波形および前記第2個別波形を合成した合成波形を生成する合成波形生成部と、
前記第1個別波形、前記第2個別波形、および前記合成波形を、関連付けて記録する記録部を備えた磁気探査システムにおいて、地中の磁性物体を探査するための磁気探査方法。」
(相違点1)第2コイルが、本件特許発明2は、「前記第1コイルとは巻き方向が逆向き」であるのに対し、引用発明1は、そのような特定がない点。
(相違点2)磁気探査システムにおいて、地中の磁性物体を探査するための磁気探査方法が、本件特許発明2は、「前記磁気センサを用いて磁気探査を行い、前記磁気探査において得られた前記合成波形を参照し、当該合成波形から磁性物体の存在が検出された場合であって、当該合成波形からは当該磁性物体の個数が不明である場合に、前記第1個別波形および前記第2個別波形を参照し、当該磁性物体の個数を判別する」方法であるのに対し、引用発明1は、そのような特定がない点。
(イ)判断
事案に鑑み、相違点2について検討する。
上記相違点2に係る「前記磁気センサを用いて磁気探査を行い、前記磁気探査において得られた前記合成波形を参照し、当該合成波形から磁性物体の存在が検出された場合であって、当該合成波形からは当該磁性物体の個数が不明である場合に、前記第1個別波形および前記第2個別波形を参照し、当該磁性物体の個数を判別する」方法は、引用発明2は有していないし、引用文献1~3に記載された事項から、当業者が容易に想到できるものでもない。
イ 本件特許発明3について
本件特許発明3は、本件特許発明2と同じ磁気探査システムにおいて、地中の磁性物体を探査するための磁気探査方法であって、「前記磁気センサを用いて磁気探査を行い、前記磁気探査において得られた前記第1個別波形および前記第2個別波形を参照し、当該第1個別波形および当該第2個別波形から磁性物体の存在が検出された場合であって、当該第1個別波形および当該第2個別波形からは当該磁性物体の個数が不明である場合に、前記合成波形を参照し、当該磁性物体の個数を判別する磁気探査方法。」であるから、本件特許発明3と引用発明1とを対比すると、本件特許発明2と同じ点で一致し、上記相違点1に加えて下記相違点3で相違する。
(相違点3)磁気探査システムにおいて、地中の磁性物体を探査するための磁気探査方法が、本件特許発明3は、「前記磁気センサを用いて磁気探査を行い、前記磁気探査において得られた前記第1個別波形および前記第2個別波形を参照し、当該第1個別波形および当該第2個別波形から磁性物体の存在が検出された場合であって、当該第1個別波形および当該第2個別波形からは当該磁性物体の個数が不明である場合に、前記合成波形を参照し、当該磁性物体の個数を判別する」のに対し、引用発明1は、そのような特定がない点。
上記相違点3について検討すると、上記相違点3に係る「前記磁気センサを用いて磁気探査を行い、前記磁気探査において得られた前記第1個別波形および前記第2個別波形を参照し、当該第1個別波形および当該第2個別波形から磁性物体の存在が検出された場合であって、当該第1個別波形および当該第2個別波形からは当該磁性物体の個数が不明である場合に、前記合成波形を参照し、当該磁性物体の個数を判別する」方法は、引用発明2は有していないし、引用文献1~3に記載された事項から、当業者が容易に想到できるものでもない。
ウ 特許異議申立人の意見について
仲本申立人は令和5年2月3日に提出した意見書において、上記相違点2及び3に係る構成は、仲本申立人が提出した甲2及び3号証に基づいて当業者が容易に想到できたものである旨主張する。
しかしながら、これら甲号証には、どのような場合にどのような信号を参照して探査するかについて記載されていないから、本件特許発明2及び3は、これら甲号証から容易に想到できたものであるとはいえない。
したがって、仲本申立人のこの主張は採用されない。
エ 小括
以上の通り、本件特許発明2及び3は、引用発明1、2及び引用文献1~3に記載された技術事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものではない。
第5 取消理由通知において採用しなかった特許異議申立理由について
1 進歩性について
(1)特許異議申立人の主張について
中石申立人は、特許異議申立書において、訂正前の請求項1~3に係る発明は、中石申立人が提出した甲1及び2号証に記載された発明及び中石申立人が提出した甲1号証~甲5号証に記載された技術事項に基づいて当業者が容易に想到できたものであるから、請求項1~3に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものであり、取り消されるべきものである旨主張している。
また、仲本申立人は、特許異議申立書において、訂正前の請求項1~3に係る発明は、仲本申立人が提出した甲1号証~甲3号証に記載された発明に基づいて、当業者が容易に想到できたものであるから、請求項1~3に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものであり、取り消されるべきものである旨主張している。
(2)甲号証の記載について
ア 中石申立人が提出した甲号証について
(ア)甲1~3号証について
中石申立人が提出した甲1~3号証は、当審が令和4年9月27日に特許権者に通知した取消理由の引用文献1~3であるから、これらの記載事項は上記第4の2の通りのものである。
(イ)甲4号証について
中石申立人が提出した甲4号証は特開2004-347533号公報であって、磁気センサを用いた「磁気探査方法及びその装置」について記載されている。(【0012】、【0029】、【0034】、図3参照。)
(ウ)甲5号証について
中石申立人が提出した甲5号証は特開2011-007665号公報であって、磁気測定装置、非破壊検査装置および磁気センサの検出コイルの配置方法が記載されている。(【0016】、【0018】参照。)
イ 仲本申立人が提出した甲号証について
仲本申立人が提出した甲1~3号証は、以下の通りものもであって、いずれにも磁気センサを使用した磁気探査装置について記載されている。
甲第1号証:磁気探査実施要領の解説(案)、沖縄総合事務局開発建設部、平成8年6月、23頁、75頁
甲第2号証:那覇浄化センター水処理施設磁気探査業務(その20)報告書平成29年10月
甲第3号証:安謝川磁気探査業務委託(H28・3)報告書平成29年2月
(3)当審の判断
上記第4(1)及び(2)で検討したとおり、上記相違点2及び3に係る構成は、取消理由通知で引用した引用文献1~3である、甲1~3号証には記載されていなし、甲1~3号証に記載された技術事項から当業者が容易に想到できたものであるともいえない。そして、中石申立人が提出した甲4及び5号証や、仲本申立人が提出した甲1~3号証にも、これら構成は記載されていないし、これら甲号証の記載に基づいて当業者が容易に想到できたものであるともいえない。
そうすると、中石申立人及び仲本申立人の進歩性に関するかかる主張は採用されない。
2 明確性、サポート要件、実施可能要件について
中石申立人は、特許異議申立書において、訂正前の請求項2及び3に係る発明は、それぞれの「磁気探査方法」を行う主体が特定されていないから不明瞭であって、発明の詳細な説明には、人が主体である場合しか記載されていないから、これら発明は発明の詳細な説明に記載されたものではなく、これら発明を当業者が実施できる程度に明確かつ十分に記載されたものでない旨主張している。
しかしながら、当該技術分野の技術常識を参酌すれば、本件特許発明2及び3に係る探査方法を、人が主体でない場合においても実施できることは明らかであるから、本件特許発明2及び3は発明の詳細な説明に記載されたものではないとまでいえず、そして、これら発明を当業者が実施できる程度に明確かつ十分に記載されたものでないとまではいえない。
したがって、中石申立人の明確性、サポート要件、実施可能要件についての主張は採用されない。
3 特許法第29条第1項柱書について
中石申立人は、特許異議申立書において、訂正前の請求項2及び3に係る発明は、各工程をそれぞれ行う主体が特定されていないため、各工程を行う主体が、人である場合と、磁気探査システムである場合とを包含するものであって、各工程を行う主体が人である場合は、人が行う行為を単に取り決めたものに過ぎず、自然法則を利用したものではないから、訂正前の請求項2及び3に係る発明は、特許法第2条第1項にいう「発明」に該当しない旨、主張している。
しかしながら、本件特許発明2及び3を行う主体が人であったとしても、本件特許発明2及び3が、磁気による磁性体の探査という自然法則を利用した方法で、磁気探査を行っているものであって、特許法第2条第1項にいう「発明」に該当することは明らかであるから、中石申立人の上記主張は採用されない。
第6 むすび
以上のとおりであるから、取消理由通知に記載した取消理由及び特許異議申立書に記載した特許異議申立理由によっては、本件請求項2及び3に係る特許を取り消すことはできない。さらに、他に本件請求項2及び3に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
また、請求項1に係る特許は、上記のとおり、訂正により削除された。これにより、申立人による特許異議の申立てについて、請求項1に係る申立ては、申立ての対象が存在しないものとなったため、特許法第120条の8第1項で準用する同法第135条の規定により却下する。
よって、結論のとおり決定する。
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2022-700249