特許異議申立
2016-700534
キャリア芯材並びにこれを用いた電子写真現像用キャリア及び電子写真用現像剤
- 審判番号
- 2016-700534
- 法域
- 特許
- 審判種別
- 異議申立(異議の決定)
- 出願番号
- 特願2014-197659
- 登録番号
- 特許第5828569号(P5828569)
- 請求日
- 2016年06月09日
- 審決日
- 2017年11月02日
- 公報発行日
- 2018年03月30日
- 結論
- 請求成立(取消)
- 当事者
- 【権利者】DOWAエレクトロニクス株式会社
- 【権利者代理人】山田 茂樹
- 【権利者】DOWA IPクリエイション株式会社
- 【権利者代理人】山田 茂樹
- 【異議申立人】長利 憲
- 審判長/審判官
- 審判長 鉄 豊郎
- 審判官 樋口 信宏
- 審判官 中田 誠
- 分類
- P1651.536-ZDA(G03G) / P1651.537-ZDA(G03G) / P1651.121-ZDA(G03G)
- 条文(本文から自動抽出・参考)
- 特許法第36条、特許法第29条、特許法第120条の5第2項
- データ出所
- 審決公報(SGML)
事件の表示
特許第5828569号発明「キャリア芯材並びにこれを用いた電子写真現像用キャリア及び電子写真用現像剤」の特許異議申立事件について,次のとおり決定する。
結論
【結 論】
特許第5828569号の明細書,特許請求の範囲及び図面を訂正請求書に添付された訂正明細書,特許請求の範囲及び図面のとおり,訂正後の請求項〔1-5〕について訂正することを認める。
特許第5828569号の請求項1,請求項2,請求項4及び請求項5に係る特許を取り消す。
特許第5828569号の請求項3に係る特許についての特許異議の申立を却下する。
理由
【理 由】
第1 手続の経緯
特許第5828569号の請求項1-請求項5に係る特許(以下,それぞれ「本件特許1」-「本件特許5」という。)についての特許出願は,特願2014-197659号として平成26年9月27日に特許出願され,平成27年10月30日に特許権の設定の登録がされたものである。
本件特許1-本件特許5について,平成27年12月9日に特許掲載公報が発行されたところ,発行の日から6月以内である平成28年6月9日に,特許異議申立人 長利憲から特許異議の申立がされた(異議2016-700534号)。
その後の手続の経緯の概要は,以下のとおりである。
平成28年 7月13日差出:上申書(特許異議申立人)
平成28年 9月 7日付け:取消理由通知書
平成28年11月14日差出:意見書(特許権者)
平成28年11月14日差出:訂正請求書
(この訂正請求書による訂正の請求を「本件訂正請求」という。)
平成28年12月22日差出:意見書(特許異議申立人)
平成29年 3月27日付け:取消理由通知書(決定の予告)
平成29年 5月26日差出:意見書(特許権者)
(この意見書を「特許権者意見書」という。)
平成29年 9月14日差出:上申書(特許異議申立人)
第2 本件訂正について
1 訂正の内容
本件訂正請求による訂正(以下「本件訂正」という。)の内容は,以下のとおりである。なお,下線は当合議体が付したものであり,訂正箇所を示す。
(1) 訂正事項1
特許請求の範囲の請求項1に「 球形粒子が2個~5個の結合した結合粒子が5個数%~20個数%含まれ,
前記結合粒子以外の通常粒子は球形で,
前記結合粒子は,粒径の最も大きい母粒子と,前記母粒子よりも粒径の小さい1個~4個の子粒子とが結合した粒子であり,
前記子粒子の粒径はすべて,前記母粒子の粒径の1/2以下である
ことを特徴とするフェライト粒子からなるキャリア芯材。」と記載されているのを,「 球形粒子が2個~5個の結合した結合粒子の下記方法で測定される含有率が5個数%~20個数%であり,
前記結合粒子以外の通常粒子は球形で,
前記結合粒子は,粒径の最も大きい母粒子と,前記母粒子よりも粒径の小さい1個~4個の子粒子とが結合した粒子であり,
前記子粒子の粒径はすべて,前記母粒子の粒径の1/2以下である
ことを特徴とする体積平均粒径が30μm~110μmの範囲であるフェライト粒子からなるキャリア芯材。
(結合粒子の含有率測定)
走査電子顕微鏡を用いて倍率200倍で撮影した画像より任意の200粒子を選択し,その中で結合粒子の数をカウントし,上記200粒子中に含まれる結合粒子の個数割合を結合粒子の含有率とする。」に訂正する(請求項1の記載を引用する請求項2及び請求項4,並びに,請求項4の記載を引用する請求項5も同様に訂正する。)。
(2) 訂正事項2
特許請求の範囲の請求項3を削除する。
(3) 訂正事項3
特許請求の範囲の請求項4に「請求項1~3のいずれかに記載のキャリア芯材の表面を樹脂で被覆したことを特徴とする電子写真現像用キャリア。」と記載されているのを,「請求項1又は2に記載のキャリア芯材の表面を樹脂で被覆したことを特徴とする電子写真現像用キャリア。」に訂正する(請求項4の記載を引用する請求項5も同様に訂正する。)。
(4) 訂正事項4
明細書の段落【0011】に「 本発明によれば,球形粒子が2個~5個の結合した結合粒子が5個数%~20個数%含まれ,前記結合粒子以外の通常粒子は球形で,前記結合粒子は,粒径の最も大きい母粒子と,前記母粒子よりも粒径の小さい1個~4個の子粒子とが結合した粒子であり,前記子粒子の粒径はすべて,前記母粒子の粒径の1/2以下であることを特徴とするフェライト粒子からなるキャリア芯材が提供される。なお,結合粒子では母粒子と子粒子とが結合部分を共有した形態で存在しているので,本明細書における母粒子及び子粒子の粒径は,キャリア芯材の形状を走査電子顕微鏡(日本電子社製:JSM-6510LA)を用いて倍率200倍で撮影した画像において,結合粒子の結合部分を除いた領域から粒子を球形近似することによりそれぞれ算出した。」と記載されているのを,「 本発明によれば,球形粒子が2個~5個の結合した結合粒子の下記方法で測定される含有率が5個数%~20個数%であり,前記結合粒子以外の通常粒子は球形で,前記結合粒子は,粒径の最も大きい母粒子と,前記母粒子よりも粒径の小さい1個~4個の子粒子とが結合した粒子であり,前記子粒子の粒径はすべて,前記母粒子の粒径の1/2以下であることを特徴とする体積平均粒径(以下,単に「平均粒径」と記すことがある)が30μm~100μmの範囲であるフェライト粒子からなるキャリア芯材が提供される。なお,結合粒子では母粒子と子粒子とが結合部分を共有した形態で存在しているので,本明細書における母粒子及び子粒子の粒径は,キャリア芯材の形状を走査電子顕微鏡(日本電子社製:JSM-6510LA)を用いて倍率200倍で撮影した画像において,結合粒子の結合部分を除いた領域から粒子を球形近似することによりそれぞれ算出した。
(結合粒子の含有率測定)
走査電子顕微鏡を用いて倍率200倍で撮影した画像より任意の200粒子を選択し,その中で結合粒子の数をカウントし,上記200粒子中に含まれる結合粒子の個数割合を結合粒子の含有率とする。」に訂正する。
(5) 訂正事項5
明細書の段落【0013】を削除する。
(6) 訂正事項6
明細書の段落【0056】に「この混合スラリーをスプレードライヤーにて約130℃の熱風中に噴霧し,粒径10μm~100μmの乾燥造粒物を得た。」と記載されているのを,「この混合スラリーをスプレードライヤーにて約130℃の熱風中に噴霧し,乾燥造粒物を得た。」に訂正する。
(7) 訂正事項7
図3-図6を削除する。
(8) 訂正事項8
明細書の段落【0017】の図3-図6の図面の簡単な説明を削除する。
2 訂正の適否
以下,願書に添付した明細書を「訂正前明細書」といい,願書に添付した明細書,特許請求の範囲又は図面を「訂正前明細書等」という。
(1) 訂正事項1
訂正事項1のうち,結合粒子の含有率測定方法に関する訂正は,訂正前明細書の段落【0067】に記載した事項の範囲内でした,明瞭でない記載の釈明を目的とする訂正である。訂正事項1のうち,キャリア芯材の体積平均粒径に関する訂正は,訂正前明細書の段落【0024】に記載した事項の範囲内でした,特許請求の範囲の減縮を目的とする訂正である。
また,訂正事項1による訂正は,実質上特許請求の範囲を拡張し,又は変更するものでない。
(2) 訂正事項2
訂正事項2による訂正は,訂正前明細書等に記載した事項の範囲内でした,特許請求の範囲の減縮を目的とする訂正である。
また,訂正事項2による訂正は,実質上特許請求の範囲を拡張し,又は変更するものでない。
(3) 訂正事項3-訂正事項8
訂正事項3-訂正事項8による訂正は,訂正前明細書等に記載した事項の範囲内でした,明瞭でない記載の釈明を目的とする訂正である。
また,訂正事項3-訂正事項8による訂正は,実質上特許請求の範囲を拡張し,又は変更するものでない。
3 本件訂正請求についてのまとめ
本件訂正は,特許法120条の5第2項ただし書1号及び3号に掲げる事項を目的とするものであり,また,同法同条9項で準用する同法126条5項及び6項の規定に適合する。また,同法120条の5第4項の規定により,訂正は一群の請求項ごとに請求しなければならないところ,本件訂正請求は,これに適合するとともに,同法同条9項で準用する126条4項の規定にも適合する。
よって,結論のとおり訂正を認める。
第3 本件特許発明及び取消の理由の概要
1 本件特許発明について
前記「第2」のとおり,本件訂正は認められることとなったので,特許請求の範囲の請求項1,請求項2,請求項4及び請求項5に係る発明(以下,それぞれ「本件特許発明1」,「本件特許発明2」,「本件特許発明4」及び「本件特許発明5」といい,総称して「本件特許発明」という。)は,本件訂正後の特許請求の範囲の請求項1,請求項2,請求項4及び請求項5に記載されたとおりの,以下のものである。
「【請求項1】
球形粒子が2個~5個の結合した結合粒子の下記方法で測定される含有率が5個数%~20個数%であり,
前記結合粒子以外の通常粒子は球形で,
前記結合粒子は,粒径の最も大きい母粒子と,前記母粒子よりも粒径の小さい1個~4個の子粒子とが結合した粒子であり,
前記子粒子の粒径はすべて,前記母粒子の粒径の1/2以下である
ことを特徴とする体積平均粒径が30μm~110μmの範囲であるフェライト粒子からなるキャリア芯材。
(結合粒子の含有率測定)
走査電子顕微鏡を用いて倍率200倍で撮影した画像より任意の200粒子を選択し,その中で結合粒子の数をカウントし,上記200粒子中に含まれる結合粒子の個数割合を結合粒子の含有率とする。
【請求項2】
流動度が1.35sec/cm3以上である請求項1記載のキャリア芯材。
【請求項4】
請求項1又は2に記載のキャリア芯材の表面を樹脂で被覆したことを特徴とする電子写真現像用キャリア。
【請求項5】
請求項4記載の電子写真現像用キャリアとトナーとを含む電子写真用現像剤。」
2 取消の理由について
平成29年3月27日付け取消理由通知書で通知した取消の理由は,概略,以下のとおりである。
(1) 取消理由1
結合粒子及び通常粒子に関して,本件特許1,本件特許2,本件特許4及び本件特許5(以下「本件特許」という。)は,特許法36条6項1号及び2号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであり,同法113条4号に該当すると認められるから,同法114条2項の規定により,取り消すべき旨の決定をすべきものである。
(2) 取消理由2
キャリア芯材の製造に関して,本件特許は,特許法36条4項1号,6項1号及び2号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであり,同法113条4号に該当すると認められるから,同法114条2項の規定により,取り消すべき旨の決定をすべきものである。
(3) 取消理由3
本件特許発明1,本件特許発明2,本件特許発明4及び本件特許発明5は,いずれも,甲1-甲7に記載された発明であるか,又は当業者が甲1-甲7に基づいて容易に発明できたものである。したがって,本件特許は,特許法29条1項3号及び同法同条2項の規定に違反してされたものであり,同法113条2号に該当すると認められるから,同法114条2項の規定により,取り消すべき旨の決定をすべきものである。
甲1:特開2012-208446号公報
甲2:特開2006-337828号公報
甲3:特開2009-122133号公報
甲4:特開2008-250225号公報
甲5:竹内学他「最新トナー技術と応用展開」,117-126頁,株式会社シーエムシー出版,2009年6月12日
甲6:「関東電化工業六十年史」,第9章185-186頁,日付不明(編集後記の日付からみて,平成12年2月刊行と推認される。)
甲7:特開2004-240321号公報
第4 当合議体の判断
1 取消理由1(36条6項)
(1) 結合粒子について
ア 特許請求の範囲の請求項1には,「球形粒子が2個~5個の結合した結合粒子」と記載されている。
しかしながら,このような特許請求の範囲に記載からは,どのような粒子が「結合粒子」であるか否かが一義的に決まらない。
すなわち,粒子が「球形粒子が2個~5個の結合した結合粒子」であるか否かを判断する方法に関して,特許請求の範囲の請求項1には,「走査電子顕微鏡を用いて倍率200倍で撮影した画像より任意の200粒子を選択し,その中で結合粒子の数をカウントし」と記載されている。しかしながら,このような判断方法では,「走査電子顕微鏡を用いて倍率200倍で撮影した画像」の大きさ及び解像度,並びに,カウントする者の判断基準によって,粒子が,「球形粒子」であると判断されたり,されなかったりする。
例えば,カウントする者が視る画像が大きい(拡大表示されている)場合には,母粒子に結合する子粒子がより多く視認できるから,結合粒子と判断される粒子は多くなると考えられる。逆に,カウントする者が視る画像が小さい(拡大表示されていない)場合には,母粒子に結合する子粒子が視認できなくなるから,結合粒子と判断される粒子は少なくなると考えられる。また,画像の解像度が低い場合には,ぼけて球形に見える粒子が多くなる一方,小さな粒子は見えなくなるから,結合粒子と判断される粒子が多くなるか小さくなるかは状況次第と考えられる。
加えて,子粒子と母粒子が紙面奥行き方向に重なっているだけにも見える粒子を「結合粒子」と観るか否か,イボのような凸部を有する粒子を「結合粒子」と観るか否か,手前に見えて立体形状が推定困難な構造を「子粒子」と観るか否か,子粒子が母粒子に隠れた粒子を「結合粒子」と推定するか否か,そもそも粒子の形状を「球形」と観るか否か等は,カウントする者の判断基準によってばらつくと考えられる。
その結果,同一のキャリア芯材であっても,「結合粒子」の含有率が,多めに算出されたり,少なめに算出されたりする。
さらにすすんで検討する。
特許請求の範囲の請求項1の記載によると,結合粒子の含有率が5個数%-20個数%であるか否かは,200粒子中に含まれる結合粒子の個数割合に基づいて判定される。
しかしながら,結合粒子の含有率を測定するサンプル数が200粒子では,測定結果に大きな統計誤差を含むこととなる。例えば,200粒子の5個数%は10粒子であるから,統計誤差を単純に√10で見積もると,測定結果に3粒子程度の誤差が含まれる。あるいは,統計学でいう信頼水準を,一般的な値である95%に設定すると,下限値である「5個数%」は「5±3個数%」ということになる(当合議体注:(1.96^2/200×0.05×(1-0.05))^0.5=0.03である。)。
すなわち,本件特許発明1は,信頼度の高い測定方法に基づいて発明が特定されていない。
以上のとおりであるから,「球形粒子が2個~5個の結合した結合粒子」及びその含有率に関して,本件特許発明1は明確であるということができない。
本件特許発明2,本件特許発明4及び本件特許発明5についても,同様である。
したがって,本件特許1,本件特許2,本件特許4及び本件特許5(以下「本件特許」という。)は,特許法36条6項2号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものである。
イ 特許権者の意見について
特許権者は意見書において,SEM画像撮影用試料の作製手順を説明するとともに,走査電子顕微鏡を用いて撮影したSEM画像が200倍となるようにSEM画像の大きさを拡大又は縮小により調整した上で,試料ステージを傾斜及び回転させることにより結合粒子の数をカウントすると主張する(3頁下から19行-6頁下から4行)。
しかしながら,本件特許発明の結合粒子の子粒子の粒径は,その下限値が規定されていない。
したがって,仮に,特許権者が主張する事項が当業者における技術常識であったとしても,粒径が視認できるかできないか微妙な程度に小さな子粒子については,カウントする者によって子粒子とみるか否かの判断がばらつくと考えられる。
なお,特許請求の範囲には,走査電子顕微鏡を用いて撮影した画像が200倍であることは記載されているが,カウント時の画像が200倍となるように拡大又は縮小により調整したものであることは記載されていない。また,乙3の1葉には「倍率 ×5~×300,000(画像サイズ128mm×96mmにて)」と記載されているから,本件特許発明における「走査電子顕微鏡を用いて倍率200倍で撮影した画像」とは,観察範囲が128mm×96mmの1/200である(640μm×480μmである)ことを意味すると解するのが相当である。加えて,特許権者はSEM画像の大きさは拡大又は縮小可能であることを認めているところ,観察者が視認困難な子粒子に気付いた場合においてもなお拡大せずにカウント作業を行うとは考えがたい(このような作業方法が,本件特許の発明の詳細な説明に記載されていたともいえない。)。
統計誤差に関して,特許権者は,結合粒子の含有率が5個数%~20個数%の範囲である実施例1-6のキャリア芯材では画像濃度が1.4超と高い値を示し,結合粒子の含有率が5個数%未満である比較例1-5のキャリア芯材では画像濃度が1.2以下と低い値を示しており,本件特許発明はかかる実験結果に基づいており何ら不明確な点はないと主張する(6頁下から3行-7頁6行)。
しかしながら,すでに述べたとおり,統計誤差を単純に√10で見積もると,3粒子程度の誤差となる。また,信頼水準95%では,「5個数%」は「5±3個数%」と計算される。あるいは,シミュレーションによっても,本件特許発明の方法により測定される結合粒子の含有率が,実際の含有率を表すとはいえない(詳細は,決定の末尾の「付記:統計誤差の見積もりについて」を参照。)。
したがって,特許権者の主張は採用できない。
(2) 通常粒子及び球形について
ア 特許請求の範囲の請求項1には,「前記結合粒子以外の通常粒子は球形で」と記載されている。
ここで,「球形」とは,通常,「まりのようなまるい形。球状。」(広辞苑6版)を意味する。しかしながら,キャリア芯材には,「球形」であるか否か判断に迷う(主観により判断がばらつく)形状の粒子が多く含まれている。そこで,当業者においては,例えば,コア粒子が「球形」であるか否かを形状係数により定義する等,客観的な判定基準の明確化が図られている(必要ならば,特開平8-328316号公報(甲20)の段落【0021】-【0022】を参照。)。
ところが,本件特許の場合,特許請求の範囲の請求項1には,単に「球形」と記載され,「球形」であるか否かの基準に関する記載がない。また,発明の詳細な説明においても,「球形」の定義が明確であるとはいえない。
当業者の技術常識を踏まえると,「球形」に関して,本件特許発明1は明確であるということができない。
特許請求の範囲の請求項1には,「前記子粒子の粒径はすべて,前記母粒子の粒径の1/2以下である」と記載されている。すなわち,請求項1には,子粒子の粒径の下限が記載されていない。
しかしながら,子粒子の粒径が極めて小さく形状係数(SF-1)が100(球の場合)に近いものも「結合粒子」とするのならば,ますます「結合粒子」であるか否かの判断が曖昧になり,「通常粒子」との区別がつかなくなる。また,子粒子の粒径が極めて小さい(形状係数が100に近い)結合粒子では,トナーが取り込まれる空間が小さくなるから,発明が解決しようとする課題(段落【0009】)を解決することができない。例えば,実施例1及び実施例2により製造される結合粒子は,母粒子に対しごく小さな子粒子のみが付着した結合粒子であり(図1及び図2),このような結合粒子により発明が解決しようとする課題が解決できるのか疑問である。逆に,実施例3-実施例6では,子粒子の粒径が母粒子の粒径の1/2以上である結合粒子により,発明が解決しようとする課題が解決されているように解される。
(当合議体注:本件訂正により図3-図6が削除されたが,削除されたからといって,実施例3-実施例6により製造されるキャリア芯材が,本件訂正前の図3-図6から看取されるものであるという事実は変わらない。)
本件特許発明1の課題を解決することができるか判らない,又は本件特許発明1の課題解決手段と対応していない数値等の限定は,技術的にみて正しくないか,技術的意味が理解できない。すなわち,技術常識を考慮すると,発明特定事項が不足していることが明らかであるから,本件特許発明1は明確であるということができない。あるいは,本件特許発明1は,発明が解決しようとする課題を解決できることを当業者が認識できるように記載された範囲を超えるものである。
発明の詳細な説明の段落【0060】,【0061】,【0064】及び【0065】には,実施例3-実施例6が記載されている。また,実施例3-実施例6のキャリア芯材には,子粒子の粒径が母粒子の粒径の1/2超である粒子や,粒子形状が球形とはいえない(例:楕円形の)粒子が含まれている(以下「その他粒子」という。)。
ここで,「その他粒子」は,本件特許発明1でいう「結合粒子」に該当しない。また,「その他粒子」の形状は,「球形」ではないから,「通常粒子」にも該当しない。そうしてみると,実施例3-実施例6は,本件特許発明1の発明に含まれないものと解される。しかしながら,実施例3-実施例6は,明細書の記載上は,本件特許発明1の実施例である。
したがって,本件特許発明1に含まれる範囲が不明確である。
さらにすすんで検討する。
発明の詳細な説明の段落【0019】には,「通常の球形粒子」と記載されている。また,この記載は,文章上,「球形粒子」が「通常の粒子」であることを意味する。
そうしてみると,特許請求の範囲の請求項1の「結合粒子以外の通常粒子は球形で」という記載は,「結合粒子以外の通常の粒子は球形」であることを意味すると解するのが相当である(当合議体注:なお,手続の経緯からみても明らかである。)。
しかしながら,発明の詳細な説明には,実施例3-実施例6として,粒子形状が球形とはいえない「その他粒子」を含むキャリア芯材が開示されている。また,実施例1(実施例2)と実施例3(-実施例6)について,段落【0076】の表1に記載された形状係数(SF-1>140である個数%)を比較すると,実施例1(実施例2)のキャリア芯材についても,粒子形状が球形とはいえない「その他粒子」が多く含まれるといえる。そうしてみると,「前記結合粒子以外の通常粒子は球形で」という記載は,「前記結合粒子以外の粒子のうち通常粒子は,球形で」という意味,すなわち,「結合粒子」以外の粒子としては「通常粒子」と「その他粒子」があり,「通常粒子」は「球形」であることを意味するとも解される。
したがって,本件特許発明1は明確であるということができない。
なお,仮に,本件特許発明1のキャリア芯材が,「結合粒子」,「通常粒子」及び「その他粒子」からなるとした場合,本件特許発明1のキャリア芯材には,表面を凹凸形状とした粒子等が含まれて良いこととなる。しかしながら,このようなキャリア芯材は,発明が解決しようとする課題(段落【0008】)を解決することができない。したがって,本件特許発明1は,発明が解決しようとする課題を解決できることを当業者が認識できるように記載された範囲を超えるものである。
また,仮に,本件特許発明1のキャリア芯材が,「結合粒子」,「通常粒子」及び「その他粒子」からなるとした場合,本件特許発明1のキャリア芯材には,子粒子の粒径が母粒子の粒径の1/2超である粒子や,楕円形状の粒子が含まれて良いこととなる。しかしながら,本件特許の発明の詳細な説明には,このようなキャリア芯材によっても,発明が解決しようとする課題(段落【0009】)を解決できることは記載されていない。したがって,本件特許発明1は,発明が解決しようとする課題を解決できることを当業者が認識できるように記載された範囲を超えるものである。
あるいは,実施例3-実施例6のキャリア芯材は,比較的多い量の「その他粒子」を含んでいる。仮に,これら粒子を「不可避不純物」と定義するならば,本件特許発明1のキャリア芯材には,比較的多い量の「不可避不純物」が含まれて良いこととなる。しかしながら,本件特許の発明の詳細な説明には,このようなキャリア芯材によっても,発明が解決しようとする課題(段落【0008】及び【0009】)を解決できることは記載されていない。
そうしてみると,本件特許発明1は,発明が解決しようとする課題を解決できることを当業者が認識できるように記載された範囲を超えるものである。あるいは,本件特許発明1は,「不可避不純物」の分量に関して,発明特定事項が不足していることが明らかであり,本件特許発明1は明確であるということができない。
本件訂正により,特許権者は,図3-図6を削除したが,削除したからといって,実施例3-実施例6により製造されるキャリア芯材が,本件特許発明1の要件を満たすキャリア芯材(「結合粒子」及び「通常粒子」からなり,「その他粒子」を含まないキャリア芯材)に変わるわけではない。そうしてみると,体積平均粒径が100μmを下回る,キャリア芯材の本件特許発明1の実施例が,発明の詳細な説明に記載されているとはいえない。
したがって,体積平均粒径が30μm-100μmの範囲であるキャリア芯材が除かれていない本件特許発明1は,発明の詳細な説明に記載したものであるということができない。
以上のとおりであるから,本件特許発明1は明確であるということができず,また,発明の詳細な説明に記載したものであるともいえない。本件特許発明2,本件特許発明4及び本件特許発明5についても,同様である。
よって,本件特許は,特許法36条6項1号及び2号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものである。
イ 特許権者の意見について
特許権者は意見書において,「球形」とは倍率200倍のSEM画像において視認できる真球形状のみならず,真球形状からある程度逸脱した形状をも含む,また,異常粒子の含有量は微量である等と主張する(7頁7行-8頁18行)。
しかしながら,粒径が視認できるかできないか微妙な程度に小さな子粒子については,観察者によって判断がばらつくと考えられる。また,実施例3-実施例6のキャリア芯材には,「その他粒子」が比較的多く含まれる。したがって,本件特許発明は明確であるということができず,また,発明の詳細な説明に記載したものであるともいえない。
したがって,特許権者の主張は採用できない。
2 取消理由2(36条4項1号及び同条6項)
(1) 前記「1」(2)アで述べたとおり,特許請求の範囲の請求項1の「結合粒子以外の通常粒子は球形で」という記載は,「結合粒子以外の通常の粒子は球形」であることを意味すると解するのが相当である。
しかしながら,発明の詳細な説明を参照しても,このようなキャリア芯材を製造する方法が開示されているとはいえない。
例えば,実施例1(段落【0056】)では,[1]目開き103μmのステンレス篩上に排出された造粒物と,[2]目開き74μmのステンレス篩下に通過した造粒物からキャリア芯材を製造している。したがって,[1]の造粒物には,粒径103μm以上の造粒物が含まれ,また,[2]の造粒物には,粒径74μm以下の造粒物が含まれる。また,結合粒子は,[1]の造粒物どうしの結合,[2]の造粒物どうしの結合,[1]の造粒物と[2]の造粒物の結合により製造され得る。そして,これらいずれの組み合わせで考えてみても,子粒子の粒径が母粒子の粒径の1/2超である結合粒子が一定の割合で製造される。したがって,実施例1のキャリア芯材は,本件特許発明1の,「前記子粒子の粒径はすべて,前記母粒子の粒径の1/2以下である」要件を満たすものとはいえない。実施例2-実施例6についても,同様である。
結局,発明の詳細な説明を参照しても,本件特許発明1のキャリア芯材を製造する方法が開示されていない。かえって,発明の詳細な説明には,実施例1のように,本件特許発明1のキャリア芯材を製造できないと思われる製造方法が開示されている。
したがって,発明の詳細な説明の記載は,当業者が本件特許発明1の実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載したものであるということができない。また,本件特許発明1は,発明の詳細な説明に記載したものであるということができない。加えて,実施例1を含むような本件特許発明1は,明確であるということができない。
発明の詳細な説明には,解粒時に一定割合で発生する,角部を有する粒子を取り除く方法が開示されていない。したがって,発明の詳細な説明の記載は,当業者が本件特許発明1の実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載したものであるということができない。また,本件特許発明1は,発明の詳細な説明に記載したものであるといことができない。加えて,実施例1を含むような本件特許発明1は,明確であるということができない。
発明の詳細な説明には,粒子形状が球形とはいえない「その他粒子」を取り除く方法が開示されていない。したがって,発明の詳細な説明の記載は,当業者が本件特許発明1の実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載したものであるということができない。また,本件特許発明1は,発明の詳細な説明に記載したものであるといことができない。加えて,実施例1を含むような本件特許発明1は,明確であるということができない。
本件訂正により,本件特許発明1のキャリア芯材は,「体積平均粒径が30μm~110μmの範囲である」とされた。
しかしながら,発明の詳細な説明には,体積平均粒径が30μm-100μmである,本件特許発明1の要件を満たすキャリア芯材(「結合粒子以外の通常の粒子は球形」であるキャリア芯材)を製造する方法が開示されていない。かえって,実施例3-実施例6を考慮すると,体積平均粒径が30μm-100μmの範囲では,本件特許発明1の要件を満たすキャリア芯材(「結合粒子以外の通常の粒子は球形」であるキャリア芯材)を製造できないといえる。したがって,発明の詳細な説明の記載は,当業者が本件特許発明1の実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載したものであるということができない。また,本件特許発明1は,発明の詳細な説明に記載したものであるといことができない。加えて,実施例1を含むような本件特許発明1は,明確であるということができない。
したがって,発明の詳細な説明の記載は,当業者が本件特許発明1の実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載したものであるということができない。また,本件特許発明1は,発明の詳細な説明に記載したものであるといことができない。加えて,実施例1を含むような本件特許発明1は,明確であるということができない。
以上のとおりであるから,本件出願の発明の詳細な説明の記載は,当業者が本件特許発明1の実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載したものであるということができない。あるいは,本件特許発明1は,発明の詳細な説明に記載したものであるといことができない。また,実施例1を含むような本件特許発明1は,明確であるということができない。
本件特許発明2,本件特許発明4及び本件特許発明5との関係においても,同様である。
よって,本件特許は,特許法36条4項1号,6項1号及び2号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものである。
(2) 特許権者の意見について
特許権者は,特許権者意見書において,本件特許の明細書に記載された実施例の製造方法によれば,結合粒子が多く製造される等と主張する(8頁19行-9頁27行)。
しかしながら,本件特許の明細書に記載された実施例1~実施例6では,キャリア芯材の体積平均粒径が107.2μm~35.0μmまで変化する(段落【0076】の表1)にもかかわらず,その焼成時間は,「1150℃で3時間」で一律である(段落【0056】,【0060】及び【0064】)。結合粒子が適切に製造される製造条件が開示されているとまではいえない。例えば,実施例1は体積平均粒径が124μmの母粒子と体積平均粒径が55μmの子粒子により結合粒子が製造されることを企図した実施例と解される。しかしながら,図1からは,母粒子に対しごく小さな子粒子のみが付着した結合粒子のみが看取される(粒径124μm程度の母粒子と粒径55μm程度の子粒子が結合した結合粒子が看取されない。)。このような結合粒子で,発明が解決しようとする課題(段落【0009】)を解決できるものなのか疑問である。換言すると,発明の詳細な説明には,篩分けの段階で企図していたはずの結合粒子を,企図のとおりに製造する方法が開示されていない。
また,実施例3-実施例6では,明らかに大量の「その他粒子」を含むキャリア芯材が製造されている。
したがって,特許権者の主張は採用できない。
3 取消理由3(29条1項3号,29条2項)
(1) 甲1に基づく取消理由
ア 請求項1について
(ア) 甲1の記載
本件出願前に頒布された刊行物である甲1には,以下の記載がある。
a 「【技術分野】
【0001】本発明は,複写機,プリンター等に用いられる二成分系電子写真現像剤に使用される電子写真現像剤用フェライトキャリア芯材及び該フェライトキャリア芯材の表面に樹脂を被覆して得られるフェライトキャリア,並びに該フェライトキャリアを用いた電子写真現像剤に関する。」
b 「【比較例】
【0104】[比較例1]
MnOが47mol%,MgOが3mol%,Fe2O3が50mol%になるようにMnO,MgO及びFe2O3を秤量し,さらにこれらの金属酸化物100重量部に対して,3重量部のBi2O3及び3重量部のZrO2を秤量して添加した。
【0105】この混合物を湿式ボールミルで5時間混合,粉砕後,ロータリーキルンを用いて,950℃で1時間保持し,仮焼成を行った。こうして得られた仮焼成物を,湿式ボールミルで7時間粉砕し,平均粒径を0.8μmとした。
【0106】上記のようにして得られたスラリーに分散剤及びバインダーを適量添加し,次いでスプレードライヤーにより造粒,乾燥した後,この造粒物を,電気炉で温度1140℃,酸素濃度0.1%の条件で6時間保持し,本焼成を行った。得られた焼成物を,解砕後,分級して粒度調整を行い,フェライト粒子(フェライトキャリア芯材)を得た。
【0107】実施例1及び比較例1で得られたフェライトキャリア芯材の体積平均粒径,飽和磁化,1000エルステッド印加時の磁化,見掛け密度,流動度,粒子表面の不均一さ,現像剤の偏り及び現像率を評価して結果を表1に示す。また,実施例1及び比較例1により得られたフェライト粒子の表面状態を示す電子顕微鏡写真(×450)を図1及び図2にそれぞれ示す。」
c 「【0113】
【表1】
」
d 「【図2】
」
(イ) 甲1発明
甲1の図2からは,以下の事項が看取される。
すなわち,図2からは,全体の形状が判る粒子が,26個看取される。
そのうち,3個は,「球形粒子が2個~5個の結合した結合粒子」の要件を満たす結合粒子である。
前記3個の粒子は,いずれも,「粒径の最も大きい母粒子と,前記母粒子よりも粒径の小さい1個~4個の子粒子とが結合した粒子」の要件を満たし,かつ,「前記子粒子の粒径はすべて,前記母粒子の粒径の1/2以下である」。
(当合議体注:当合議体が結合粒子と判断した粒子は,以下の3個である。)
【図2:参考図】
そして,3個以外の通常の粒子は球形である。
さらに,比較例1のフェライト粒子の体積平均粒径は,34.8μmである(段落【0113】の【表1】)。加えて,比較例1のフェライト粒子の用途は,キャリア芯材である(段落【0001】)。
そうしてみると,甲1の図2には,比較例1のフェライト粒子として,以下の発明が記載されている(以下「甲1発明」という。)。
「 球形粒子が2個~5個の結合した結合粒子が,電子顕微鏡写真から26個中3個看取され,
前記結合粒子以外の通常粒子は球形で,
前記結合粒子は,粒径の最も大きい母粒子と,前記母粒子よりも粒径の小さい1個~4個の子粒子とが結合した粒子であり,
前記子粒子の粒径はすべて,前記母粒子の粒径の1/2以下である,
体積平均粒径が30μm~110μmの範囲であるフェライト粒子からなるキャリア芯材。」
本件特許発明1と甲1発明を対比すると,両者は以下の点で一応,相違し,その余の点では一致する。
(一応の相違点)
本件特許発明1の「キャリア芯材」の「結合粒子」は,「走査電子顕微鏡を用いて倍率200倍で撮影した画像より任意の200粒子を選択し,その中で結合粒子の数をカウントし,上記200粒子中に含まれる結合粒子の個数割合を結合粒子の含有率とする」「結合粒子の含有率測定」「方法で測定される含有率が5個数%~20個数%であ」るのに対して,甲1発明の「キャリア芯材」の結合粒子の含有率は,「電子顕微鏡写真から26個中3個看取され」る程度である点。
一応の相違点について検討する。
まず,本件特許発明1の結合粒子の含有率測定方法は,「走査電子顕微鏡を用いて倍率200倍で撮影した画像より任意の200粒子を選択し,その中で結合粒子の数をカウントし,上記200粒子中に含まれる結合粒子の個数割合を結合粒子の含有率とする」というものである。したがって,本件特許発明1においては,測定を何度も繰り返し行い含有率測定の精度を高めるということは予定されていない。換言すると,測定を1回行って,5個数%-20個数%の範囲内の測定結果が得られたならば,本件特許発明1の結合粒子の含有率の要件を満たすといえる。
これに対して,甲1発明の「キャリア芯材」は,結合粒子を「電子顕微鏡写真から26個中3個看取され」る程度,含有するものである。すなわち,甲1発明の「キャリア芯材」の結合粒子の含有率は,単純計算によると,3÷26=11.5%と考えられる。したがって,甲1発明の「キャリア芯材」について,走査電子顕微鏡を用いて倍率200倍で撮影した画像より任意の200粒子を選択し,その中で結合粒子の数をカウントし,上記200粒子中に含まれる結合粒子の個数割合を測定すると,5個数%-20個数%の範囲内の測定結果が得られる場合があるといえる。
5個数%-20個数%の範囲内の測定結果が得られた甲1発明と,本件特許発明1とは,同一である。
あるいは,当業者ならば,甲1発明の「キャリア芯材」を,何回でも製造し,都度,検証することができる。その結果,本件特許発明1の測定方法により測定して5個数%-20個数%の範囲内の測定結果となった「キャリア芯材」を得ることができる。したがって,本件特許発明1は,甲1発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。
念のため,請求項1の「5個数%~20個数%」という記載が,正確なものであり「4.5個数%以上20.5個数%未満」を意味すると解した場合についても検討する。
当業者ならば,甲1の段落【0104】-【0106】に開示された製造方法にしたがう範囲内で,甲1発明の「キャリア芯材」を何回でも製造することができる。他方,結合粒子の含有率は,造粒,焼成,解砕,分級等において当業者が随意に選択した条件に応じて,様々な値を取ると考えられる。また,スプレードライヤーによる造粒後に微粒を除くことは周知慣用技術であるところ,微粉の除き加減は,当業者が適宜なし得る事項である。したがって,当業者は,「電子顕微鏡写真から26個中3個看取され」る程度の結合粒子を含有する,種々の含有率のキャリア芯材を得ることができる。
そうしてみると,結合粒子の含有率が「5個数%~20個数%」である,本件特許発明1のキャリア芯材を得ることは,当業者が容易に発明をすることができたものである。
イ 請求項2について
甲1発明の流動度は34.1sec/50gであり,見掛け密度は2.16g/cm3である(段落【0113】の【表1】)。したがって,流動度をsec/cm3に換算すると,1.47sec/cm3となり,請求項2記載の要件を満たす。
あるいは,本件特許発明2は,望ましい流動度の範囲として,周知の範囲を含むものである。
その余は請求項1と同様である。
ウ 請求項4について
甲1の段落【0001】に記載されている。
あるいは,キャリア芯材の表面を樹脂で被覆して電子写真現像用キャリアとすることは,例示するまでもない周知慣用技術である。
エ 請求項5について
請求項4と同様である。
(2) 甲2に基づく取消理由
甲1発明に替えて,甲2の図1に記載されたフェライトキャリア芯材の発明(以下「甲2発明」という。)について検討しても,甲1発明の場合と同様である。
(3) 甲3-甲7に基づく取消理由
甲3の図1の実施例3,図2の比較例1及び比較例2のキャリア芯材について検討しても,同様である。
甲4の図5-図7のフェライトキャリアコア材について検討しても,同様である。
甲5の図4のフェライトキャリアについて検討しても,同様である。
甲6の186頁下のマグネタイト系キャリヤーについて検討しても,同様である。
甲7の比較例1のキャリア芯材について検討しても,同様である。
(4) 特許権者の意見について
特許権者は,特許権者意見書において,甲1発明のキャリア芯材を倍率200倍で観察した場合には,結合粒子は1個しか視認できず,その場合の結合粒子の含有率は3.8個数%である等と主張する(9頁下から11行-14頁15行)。
しかしながら,甲1発明のキャリア芯材を倍率200倍で観察したとしても,結合粒子は3個,あるいは少なくとも2個看取される。
(5) 小括
本件特許は,特許法29条1項3号及び同法同条2項の規定に違反してされたものである。
第5 付記:統計誤差の見積もりについて
統計誤差については,シミュレーションにより見積もることができる。
具体的には,「結合粒子の含有率が5個数%であるキャリア芯材より任意の200粒子を選択し,その中で結合粒子の数をカウントしたときの,200粒子中に含まれる結合粒子の個数割合」は,「0以上1未満の乱数を200回発生させ,その中で0.05未満の乱数の個数をカウントしたときの,200回中に含まれる0.05未満の乱数の個数割合」によりシミュレーションすることができる。
そこで,上記シミュレーションを以下のようなプログラムにより100万回行ったところ,個数割合が5個数%となった回数は,約26万回であった。
Sub Simulation()
'i0は100万回繰り返すためのカウンタ
'i1は200回繰り返すためのカウンタ
'k1は0.05未満の乱数の数を累計するための変数
'k2は個数割合が5個数%であった場合を累計するための変数
Dim i0, i1, k1, k2
'シミュレーションを100万回行う
For i0 = 1 To 1000000
'乱数を200回発生させ0.05未満の乱数の数をカウントする
k2 = 0
For i1 = 1 To 200
If Rnd < 0.05 Then
k2 = k2 + 1
End If
Next
'0.05未満の乱数の個数割合が5個数%である場合はK1を+1する
If 0.045 <= k2 / 200 And k2 / 200 < 0.055 Then
k1 = k1 + 1
End If
Next
'結果を表示する
MsgBox ("回数=" & k1)
End Sub
同様に,「0以上1未満の乱数を200回発生させ,その中で0.04未満の乱数の個数をカウントしたときの,200回中に含まれる0.04未満の乱数の個数割合」を100万回計算したところ,個数割合が5個数%-20個数%となった回数は,約41万回であった。
以上からみて,結合粒子の含有率が正確に5個数%であるキャリア芯材を請求項1に記載された方法で測定したときに,含有率が5個数%であると言い当てられる確率は,26%にとどまることが分かる。また,結合粒子の含有率が正確に4個数%であるキャリア芯材であっても,請求項1に記載された方法で測定すると,41%の確率で,含有率が5個数%~20個数%であると誤って判定されることが判る。
第6 まとめ
本件特許は,特許法36条4項1号,6項1号及び2号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであり,同法113条4号に該当すると認められる。また,本件特許は,特許法29条1項3号及び同法同条2項の規定に違反してされたものであり,同法113条2号に該当すると認められる。
したがって,本件特許(本件特許1,本件特許2,本件特許4及び本件特許5)は,取り消されるべきものである。
特許異議申立人は,本件特許3に対しても特許異議の申立をしたが,本件訂正により請求項3は削除されたため,特許異議の申立の対象が存在しなくなった。
よって,結論のとおり決定する。
審決本文(J-PlatPat)
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2016-700534