特許異議申立
2022-700133
複合粒子および複合粒子の製造方法
- 審判番号
- 2022-700133
- 法域
- 特許
- 審判種別
- 異議申立(異議の決定)
- 出願番号
- 特願2019-560957
- 登録番号
- 7014816
- 請求日
- 2022年02月17日
- 審決日
- 2023年04月25日
- 公報発行日
- 2023年08月25日
- 結論
- 訂正認容
- 当事者
- 【権利者】日清エンジニアリング株式会社
- 【権利者代理人】伊東 秀明
- 【異議申立人】鳥巣 実
- 審判長/審判官
- 審判長 三崎 仁
- 審判官 原 賢一
- 審判官 金 公彦
- 分類
- P1651.536-YAA(C01B) / P1651.537-YAA(C01B)
- 根拠条文(結論部分から自動抽出・参考)
- 特許法36条4項1号特許法36条6項1号特許法36条6項2号特許法120条の8第1項特許法135条
- 条文(本文から自動抽出・参考)
- 特許法第36条第6項第1号、特許法第36条第4項第1号、特許法第36条、特許法第120条の5第4項、特許法第120条の5第2項、特許法第36条第6項第2号、特許法第120条の8第1項
- データ出所
- 審決公報(XML)
事件の表示
特許第7014816号発明「複合粒子および複合粒子の製造方法」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。
結論
結 論
特許第7014816号の特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔2-5〕について訂正することを認める。
特許第7014816号の請求項1、2、4、5に係る特許を維持する。
特許第7014816号の請求項3に係る特許についての特許異議の申立を却下する。
理由
理 由
第1 手続の経緯
特許第7014816号の請求項1~5に係る特許についての出願は、2018年(平成30年)12月6日(優先権主張 平成29年12月19日)を国際出願日とする出願であり、令和4年1月24日にその特許権の設定登録がされ、同年2月1日に特許掲載公報が発行され、その後、同年同月17日に、その請求項1~5に係る特許を対象として特許異議申立人鳥巣実(以下、「異議申立人」という。)により、特許異議の申立てがなされ、同年9月29日付けで取消理由が通知され、その指定期間内である同年12月2日に特許権者より意見書及び訂正請求書の提出がなされ、訂正請求書に対し手続補正指令(方式)がなされ、令和5年1月16日に特許権者より手続補正書(方式)の提出がなされ、これに対し、同年3月2日に異議申立人より、意見書の提出がなされたものである。
第2 訂正の適否
1 訂正事項
上記令和4年12月2日にされた訂正の請求(以下、その訂正を「本件訂正」という。)は、特許請求の範囲を、訂正請求書に添付した訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項2~5について訂正することを求めるものであって、その具体的な訂正事項は次のとおりである。
(1)訂正事項1
特許請求の範囲の請求項2に「気相法」とあるのを、「熱プラズマ法」に訂正する。
(請求項2を直接または間接的に引用する請求項4、5についても同様に訂正する。)
(2)訂正事項2
特許請求の範囲の請求項2に「ZrNと、Alとが単一粒子内で複合化された複合粒子を製造する」とあるのを、「ZrNと、Alとが単一粒子内で複合化され、前記Alの含有量が0.1~6.1質量%である複合粒子を製造する」に訂正する。
(請求項2を直接または間接的に引用する請求項4、5についても同様に訂正する。)
(3)訂正事項3
特許請求の範囲の請求項3を削除する。
(4)訂正事項4
特許請求の範囲の請求項4に「請求項3に記載の複合粒子の製造方法」とあるのを、「請求項2に記載の複合粒子の製造方法」に訂正する。
(請求項4を引用する請求項5についても同様に訂正する。)
2 訂正の目的の適否、新規事項の有無及び特許請求の範囲の拡張・変更の存否
(1)訂正事項1について
ア 訂正事項1は、訂正前の請求項2の複合粒子の製造方法として特定されていた「気相法」をその下位概念の「熱プラズマ法」に限定するものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。
イ 訂正事項1は、本件明細書の【0009】の「気相法は、熱プラズマ法、火炎法、アークプラズマ法、マイクロ波加熱法またはパルスワイヤ法であることが好ましい。」との記載に基づくものであるから、願書に添付した明細書又は特許請求の範囲に記載した事項の範囲内の訂正である。
ウ 訂正事項1は、上記アで述べたとおり、訂正前の請求項1の「気相法」をその下位概念の「熱プラズマ法」に限定するものであるから、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。
(2)訂正事項2について
ア 訂正事項2は、訂正前の請求項2の「ZrNと、Alとが単一粒子内で複合化された複合粒子」中のAlの含有量を「0.1~6.1質量%」の範囲に限定するものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。
イ 訂正事項2は、請求項1の「ZrNと、Alとが単一粒子内で複合化され、前記Alの含有量は0.1~6.1質量%であることを特徴とする複合粒子。」との記載に基づくものであるから、願書に添付した明細書又は特許請求の範囲に記載した事項の範囲内の訂正である。
ウ 訂正事項2は、訂正前の請求項2の「ZrNと、Alとが単一粒子内で複合化された複合粒子」中のAlの含有量を「0.1~6.1質量%」の範囲に限定するものであるから、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。
(3)訂正事項3について
訂正事項3は、請求項を削除するものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものであり、願書に添付した明細書又は特許請求の範囲に記載した事項の範囲内の訂正であり、かつ実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。
(4)訂正事項4について
訂正前の請求項4が、訂正前の請求項2を引用する請求項3を引用していたところ、上記(3)の訂正事項3により請求項3が削除されたため、訂正事項4は、これに整合させるため引用する請求項を請求項2としたものであるから、明瞭でない記載の釈明を目的とするものである。
また、もともと、訂正前の請求項4は、間接的に訂正前の請求項2を引用し請求項2の記載の範囲内のものであったところ、上記(1)及び(2)の訂正事項1及び2により、訂正後の請求項2は、訂正前の請求項2に対しその範囲が減縮されたものとなっているから、訂正後の請求項2を引用する請求項4は、この訂正前の請求項2の範囲内のものである。
そうすると、訂正事項4は、願書に添付した明細書又は特許請求の範囲に記載した事項の範囲内の訂正であり、かつ実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。
3 小括
本件訂正は、特許法第120条の5第4項の規定に従い、一群の請求項を構成する請求項〔2ないし5〕について訂正することを求めるものであるところ、上記2のとおり、本件訂正は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号及び第3号に掲げる事項を目的とするものに該当し、かつ、同条第9項において準用する同法第126条第5項及び第6項の規定に適合するものであるから、訂正後の請求項〔2ないし5〕について訂正することを認める。
第3 本件発明
上記第2のとおり、本件訂正は認容し得るものであるから、本件訂正後の請求項1ないし5に係る発明(以下、各請求項に係る発明及び特許を項番に対応させて「本件発明1」、「本件特許1」などといい、併せて「本件発明」、「本件特許」ということがある。)は、次のとおりである。
「【請求項1】
ZrNと、Alとが単一粒子内で複合化され、前記Alの含有量は0.1~6.1質量%であることを特徴とする複合粒子。
【請求項2】
ZrNと、Alとが単一粒子内で複合化された複合粒子の製造方法であって、
ZrNの粉末と、Alの粉末とを原料粉末として、熱プラズマ法を用いて、ZrNと、Alとが単一粒子内で複合化され、前記Alの含有量が0.1~6.1質量%である複合粒子を製造することを特徴とする複合粒子の製造方法。
【請求項3】
(削除)
【請求項4】
前記熱プラズマ法は、前記原料粉末が分散されたキャリアガスを熱プラズマ炎中に供給する工程と、前記熱プラズマ炎の終端部に、冷却用ガスを供給して、複合粒子を生成する工程とを有する請求項2に記載の複合粒子の製造方法。
【請求項5】
前記熱プラズマ炎は、アルゴンガスおよび窒素ガスのうち少なくとも一方に由来するものである請求項4に記載の複合粒子の製造方法。」
第4 令和4年9月29日付けで通知した取消理由及びこの取消理由において採用しなかった異議申立人による特許異議の申立理由の概要
1 令和4年9月29日付けで通知した取消理由の概要
・特許法第36条第6項第1号所定の規定違反(サポート要件違反)(以下、「取消理由」という。)
本件訂正前の請求項2~5に係る特許は、特許請求の範囲の記載が不備のため、特許法第36条6項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものである。
2 取消理由において採用しなかった異議申立人による特許異議の申立理由の概要
(1)特許法第36条第4項第1号所定の規定違反(実施可能要件違反)(以下、「申立理由1」という。)
本件請求項1に係る特許は、明細書(発明の詳細な説明)の記載が後記第5の2(1)の点で不備のため、特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものである。
(2)特許法第36条第6項第1号所定の規定違反(サポート要件違反)(以下、「申立理由2」という。)
本件請求項1に係る特許は、特許請求の範囲の記載が不備のため、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものである。
(3)特許法第36条第6項第2号所定の規定違反(明確性要件違反)(以下、「申立理由3」という。)
本件請求項1及び訂正前の請求項2~5に係る特許は、特許請求の範囲の記載が後記第5の3(1)の点で不備のため、特許法第36条6項第2号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものである。
第5 当審の判断
当審は、上記取消理由及び申立理由1~3のいずれにも理由がないと判断する。
以下、その理由について詳述する。
1 取消理由及び申立理由2(サポート要件違反)について
取消理由及び申立理由2は、共にサポート要件違反に関するものであるので、まとめて判断する。
(1)本件発明1(申立理由2)、2、4、5(取消理由)がサポート要件を満たしているか否かの判断
ア サポート要件判断の規範と本件発明の課題
特許請求の範囲の記載が明細書のサポート要件に適合するか否かは、特許請求の範囲の記載と発明の詳細な説明の記載とを対比し、特許請求の範囲に記載された発明が、発明の詳細な説明に記載された発明で、発明の詳細な説明の記載又はその示唆により当業者が当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否か、また、その記載や示唆がなくとも当業者が出願時の技術常識に照らし当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否かを検討して判断すべきところ、本件明細書の【発明が解決しようとする課題】の記載に続く、本件明細書の【0006】及び【0007】の記載によれば、本件発明の発明の課題は、「窒化ジルコニウム単相に比べて、可視光領域において透過率がより低い、すなわち、可視光領域において遮光性がより高い光学特性を有する複合粒子及び複合粒子の製造方法を提供する」ことであるといえる。
イ 本件明細書に記載の内容
まず、複合粒子について、本件明細書の【0013】には、「複合粒子は、ZrNと、AlおよびTiのうち少なくとも1つとが複合化された粒子のことである。複合化された粒子とは、ZrN、TiN、AlN等の化合物のようにそれぞれの単独粒子の窒化物の粒子が混在して存在するのではなく、ZrNと、AlおよびTiのうち少なくとも1つとが単一粒子内に含まれる窒化物粒子のことである。」、同【0014】には、「複合粒子では、ZrNと、Alとが複合化された場合、Alの含有量は0.1~9質量%であることが好ましい。Alの含有量が上述の範囲であれば、後述のように可視光領域における透過率が更に低くなり、可視光領域において更に高い遮光性を有する。」と記載され、同【0015】~【0039】には、熱プラズマ法及びそれを実施する製造装置に関する説明があり、同【0020】には、「熱プラズマ炎24の温度は、原料粉末の沸点よりも高い必要がある。一方、熱プラズマ炎24の温度が高いほど、容易に原料粉末が気相状態となるので好ましいが、特に温度は限定されるものではない。例えば、熱プラズマ炎24の温度を6000℃とすることもできるし、理論上は10000℃程度に達するものと考えられる。」との記載があり、熱プラズマ装置における気体の供給について、同【0026】には、「気体供給装置28は、チャンバ16内に冷却ガスと、窒化ガスとを供給するものである・・・例えば、気体供給源28aにアルゴンガスおよび窒素ガスのうち、少なくとも一方のガスが貯蔵されている。冷却ガスはアルゴンガスおよび窒素ガスのうち、少なくとも一方のガスであり、窒化ガスは窒素ガスである。」との記載があり、原料粉末の窒化に関し、同【0036】には、「供給された原料粉末は、熱プラズマ炎24中で蒸発して気相状態となり、窒素と反応して窒化され、かつ冷却ガス(冷却用ガス)により急冷されことにより、窒化ジルコニウムの複合粒子の1次微粒子15が得られる。さらに、窒化ガスにより1次微粒子15に十分な窒素が供給され、窒化が安定し、窒化ジルコニウムの複合粒子を安定して得ることができる。」との記載があり、同【0038】には、「このように、窒化ジルコニウム(ZrN)の複合粒子は、窒化ジルコニウム(ZrN)の粉末と、AlおよびTiのうち少なくとも1つの粉末とをプラズマ処理するだけで容易かつ確実に得ることができる。」との記載があり、同【0040】、【0041】には、「熱プラズマ炎を用いた、熱プラズマ法により複合粒子の1次微粒子を形成しているが、気相法を用いて複合粒子の1次微粒子を形成することができる。このため、気相法であれば、熱プラズマ炎を用いた、熱プラズマ法に限定されるものではなく、火炎法、アークプラズマ法、マイクロ波加熱法またはパルスワイヤ法により、複合粒子の1次微粒子を形成する製造方法でもよい。・・・気相の状態の原料粉末とは、例えば、上述のキャリアガスに原料粉末が分散した状態のことをいう。液相の状態の原料粉末とは、原料粉末が溶媒に分散した状態のことをいう。」との記載がある。
そして、同【0045】には、アルミニウムの含有量が6.1質量%である窒化ジルコニウムとアルミニウムとの複合粒子に関し、その吸光度は、図2に示す測定線60で示されることが記載され、同【0046】には、「測定線60で示される窒化ジルコニウムとアルミニウムとの複合粒子・・・は、測定線50に示される窒化ジルコニウムの微粒子よりも、可視光領域における吸光度が高く、すなわち、可視光領域における透過率が更に低い光学特性を有し、可視光領域において、更に高い遮光性を有する。」ことが記載されている。
一方、【0047】及び図3には、ZrNにAlを複合化させるとZrN単体となる、すなわちZrNとAlとが単一粒子内で複合化されていることが、同【0048】には、「アルミニウムの含有量が19.7質量%の複合粒子」が記載され、図4には、上述のアルミニウムの含有量が19.7質量%の複合粒子、窒化ジルコニウムの微粒子(ZrN微粒子)等の吸光度が記載され、同【0050】には、「上述の図2および図4に示すように、i線付近(紫外光領域)の吸光度を小さくでき、かつ可視光領域における透過率が更に低くなり、可視光領域において更に高い遮光性が得られることからZrNにAlが複合化された場合、Alの含有量は9質量%以下であることが好ましく、Alの含有量は0.1~9質量%であることが好ましい。」と記載されている。
ウ 複合粒子について
上記【0013】には、「複合粒子は、ZrNと、AlおよびTiのうち少なくとも1つとが複合化された粒子のことである。複合化された粒子とは、ZrN、TiN、AlN等の化合物のようにそれぞれの単独粒子の窒化物の粒子が混在して存在するのではなく、ZrNと、AlおよびTiのうち少なくとも1つとが単一粒子内に含まれる窒化物粒子のことである。」との記載、上記【0014】には、「複合粒子では、ZrNと、Alとが複合化された場合、Alの含有量は0.1~9質量%であることが好ましい。Alの含有量が上述の範囲であれば、後述のように可視光領域における透過率が更に低くなり、可視光領域において更に高い遮光性を有する。」との記載、及び上記【0050】には、「Alの含有量は9質量%以下であることが好ましく、Alの含有量は0.1~9質量%であることが好ましい。」との記載があり、具体例として、アルミニウムの含有量が6.1質量%である窒化ジルコニウムとアルミニウムとの複合粒子の可視光領域における吸光度が、窒化ジルコニウムの微粒子の吸光度よりも高いことが図2に示されている。ここで、可視光領域における吸光度の向上は複合粒子に対するAlの添加により、ZrNとAlとが単一粒子内で複合化されることによるものであり、かつAlの含有量が6.1質量%に至るまでに可視光領域における吸光度が一旦低下するなどの事実は認められないのであるから、可視光領域における吸光度の向上には、ZrNとAlとが単一粒子内で複合化されると共に所定量のAlの添加が必要であり、Alの含有量が、少なくとも0.1質量%あれば、上記アの発明の課題を解決することが理解できる。
一方、上記図4には、アルミニウムの含有量が19.7質量%の複合粒子では、可視光領域における吸光度が、窒化ジルコニウムの微粒子の吸光度よりも低くなることが示されていることから、アルミニウムの含有量が6.1質量%を超えて増加していくと、複合粒子の吸光度が、ある含有量から窒化ジルコニウムの微粒子の吸光度よりも低くなるであろうことが理解できる。そして、アルミニウムの含有量が6.1質量%を超えてどの程度の含有量まで、ZrNとAlとが単一粒子内で複合化され、可視光領域における吸光度が、窒化ジルコニウムの微粒子の吸光度よりも高い状態であるのか、実施例等の具体的な根拠が示されていないことも考慮すると、複合粒子におけるアルミニウムの含有量が少なくとも6.1質量%を超えなければ、複合粒子の吸光度は、窒化ジルコニウムの微粒子の吸光度よりも高い状態である、すなわち、上記アの発明の課題を解決することが理解できる。
そうすると、複合粒子においては、「ZrNと、Alとが単一粒子内で複合化され、前記Alの含有量は0.1~6.1質量%」であれば、上記アの発明の課題を解決することができるといえる。
エ 複合粒子の製造方法について
上記イの本件明細書の記載では、複合粒子の製造方法として、専ら熱プラズマ法が記載されている。そして、熱プラズマ法については、上記【0020】に、原料粉末の蒸発温度を6000℃や、理論上は10000℃程度にすることができること、上記【0026】に、冷却ガスに窒素ガスを使うことも、窒素ガスを窒化ガスとして供給できることが記載されている。そして、上記【0036】の「供給された原料粉末は、熱プラズマ炎24中で蒸発して気相状態となり、窒素と反応して窒化され、かつ冷却ガス(冷却用ガス)により急冷されることにより、窒化ジルコニウムの複合粒子の1次微粒子15が得られる。さらに、窒化ガスにより1次微粒子15に十分な窒素が供給され、窒化が安定し、窒化ジルコニウムの複合粒子を安定して得ることができる。」との記載、及び上記【0038】の「このように、窒化ジルコニウム(ZrN)の複合粒子は、窒化ジルコニウム(ZrN)の粉末と、AlおよびTiのうち少なくとも1つの粉末とをプラズマ処理するだけで容易かつ確実に得ることができる。」との記載によれば、上記【0020】及び【0026】に記載の事項は、熱プラズマ法における技術的な利点であり、これらの技術的な利点を有する熱プラズマ法を用いれば、上記【0013】に記載される、ZrNと、Alとが単一粒子内に含まれる窒化物粒子であり、上記【0045】に具体例として示される、アルミニウムの含有量が6.1質量%であり、吸光度が窒化ジルコニウムより高い窒化ジルコニウムとアルミニウムとの複合粒子を製造することができ、ひいては上記アの発明の課題を解決することができるといえる。
一方、上記【0040】、【0041】には、気相法であれば、熱プラズマ炎を用いた、熱プラズマ法に限定されるものではなく、火炎法、アークプラズマ法、マイクロ波加熱法またはパルスワイヤ法であっても良いことが記載されているが、これらの方法が、蒸発や窒化において、熱プラズマ炎と同様の機能を発揮すると共に、製造される複合粒子が、熱プラズマ法によるものと同等に、ZrNとAlとが単一粒子内で複合化された複合粒子となり、可視光領域における吸光度を有するものとなることについて、本件明細書には何らの記載もないし、またこのことが技術常識であるともいえない。
そうすると、複合粒子の製造方法においては、複合粒子の製造に「熱プラズマ法」を用いた場合に、上記アの発明の課題を解決することができるといえる。
オ 特許請求の範囲の記載と本件明細書の発明の詳細な説明の記載との対比
上記ウ及びエで述べたように、本件明細書の発明の詳細な説明の記載に照らすと、上記アで述べた発明の課題を解決するには、複合粒子は、「ZrNと、Alとが単一粒子内で複合化され、前記Alの含有量は0.1~6.1質量%」である複合粒子であること、また、複合粒子の製造方法においては、製造される複合粒子が、「ZrNと、Alとが単一粒子内で複合化され、前記Alの含有量は0.1~6.1質量%」である複合粒子であることに加え、複合粒子の製造に「熱プラズマ法」を用いることが肝要であるといえる。
これに対し、複合粒子に関する発明である本件発明1は、「ZrNと、Alとが単一粒子内で複合化され、前記Alの含有量は0.1~6.1質量%」であることが特定されているから、上記アで述べた発明の課題を解決するものであるといえる。
また、複合粒子の製造方法に関する発明である、本件発明2、4、5は、複合粒子が、「ZrNと、Alとが単一粒子内で複合化され」たものであることに加え、さらに、本件訂正により、複合粒子における「Alの含有量が0.1~6.1質量%である」こと、及び複合粒子の製造に「熱プラズマ法」を用いることが特定されたので、上記アで述べた本件発明の課題を解決できると認識できる範囲のものとなったということができる。
そうすると、本件発明1、2、4、5は、サポート要件を満たしているといえる。
(2)異議申立人の特許異議申立書及び令和5年3月2日提出の意見書における主張について
ア 異議申立人の主張について
(ア)異議申立人は、特許異議申立書4頁12行~7頁4行において、要は以下の主張をしている。
本件発明の課題が、窒化ジルコニウム単相の有する光学特性に比して、紫外線光領域における高い透過性を維持したまま、可視光領域においてより低い透過率を達成することにあるのであれば、Alの含有量の下限値である0.1質量%は極めて重要な数値である。
本件明細書の【0042】~【0050】及び図2~図4には、窒化ジルコニウムの複合粒子についての説明がなされているが、この説明において、窒化ジルコニウムとアルミニウムとの複合粒子に関して、Alの含有量が0.1質量%のとき及び0.1質量%未満のときの吸光度曲線がそれぞれ図2及び図4に示されておらず、また0.1質量%のとき及び0.1質量%未満のときの複合粒子のXRDスペクトルがそれぞれ図3に示されていない。即ち下限値0.1質量%であれば本件発明の課題を解決し、その一方、下限値0.1質量%未満では、本件発明の課題を解決しないことが発明の詳細な説明に記載されていない。その一方、Alの含有量が6.1質量%よりも少なく、ZrNとAlとが複合化できれば、ZrN単体よりも吸光度の特性が良く、本件発明の課題を解決できることが意見書に記載されていて、この記載は下限値0.1質量%の臨界的意義を喪失させている。
このため、出願時の技術常識に照らしても、本件発明1の下限値0.1質量%の範囲まで、発明の詳細な説明に開示された内容を拡張ないし一般化できるとはいえず、また下限値0.1質量%の臨界的意義が明確に記載されておらず、意見書及び手続補正書によってもサポート要件は満たされていない。
(イ)さらに、異議申立人は、令和5年3月2日提出の意見書において、要は以下の主張をしている。
審査基準第II部第2章第2節サポート要件の項に「例6:請求項には、数式又は数値を用いて規定された物・・・の発明が記載されているのに対し、発明の詳細な説明には、課題を解決するためにその数式又は数値の範囲を定めたことが記載されている。しかし、出願時の技術常識に照らしても、その数式又は数値の範囲内であれば課題を解決できると当業者が認識できる程度に具体例又は説明が記載されていないため、請求項に係る発明の範囲まで、発明の詳細な説明において開示された内容を拡張ないし一般化できるとはいえない場合
なお、数値範囲に特徴がある場合ではなく、単に望ましい数値範囲を請求項に記載したにすぎない場合には、発明の詳細な説明にその数値範囲を満たす具体例が記載されていなくても、類型(3)には該当しない。」旨が記載されているとし(6頁6~23行)、この記載から、「数値範囲に特徴がある場合であって、単に望ましい数値範囲を請求項に記載したにすぎない場合でないときには、発明の詳細な説明にその数値範囲を満たす具体例が記載されていない場合に該当し、サポート要件を満たさ」ないと解釈できる(9頁15~18行)。
これに対し、本件発明において、「下限値0.1質量%を特定する数値範囲は、上述した審査基準における数値範囲に特徴がある場合に該当するにもかかわらず、この下限値0.1質量%についての具体例が記載されていない。このため、上記解釈から、本件発明は依然としてサポート要件を満たしていない(10頁4~15行)。
イ 検討
まず、本件発明1、2、4、5がサポート要件を満たすことは、上記(1)で述べたとおりであるから、異議申立人の上記アにおける主張は、採用することができない。
さらに、個々の主張を検討するに、上記ア(ア)における異議申立人の主張は、本件発明がサポート要件を満たすには、「下限値0.1質量%であれば本件発明の課題を解決し、その一方、下限値0.1質量%未満では、本件発明の課題を解決しないこと」ことが必要であることを前提としている。しかしながら、本件発明がサポート要件を満たすのに、Alの含有量が0.1~6.1質量%の範囲で、本件発明の課題を解決することは必要であるものの、「下限値0.1質量%未満では、本件発明の課題を解決しないこと」や、「下限値0.1質量%の臨界的意義」の有無は、本件発明におけるサポート要件の判断を左右するものではないから、上記ア(ア)における主張は、前提において誤りがある。
上記ア(イ)における異議申立人の主張は、本件発明におけるサポート要件の判断を、審査基準における個別の例に基づいて判断すること、本件発明は、審査基準における数値範囲に特徴がある場合に該当し、この場合下限値0.1質量%についての具体例を記載しなければサポート要件を満たさないことを前提としている。
しかしながら、サポート要件の判断は、上記(1)アで述べたとおり、特許請求の範囲の記載と発明の詳細な説明の記載とを対比し、特許請求の範囲に記載された発明が、発明の詳細な説明に記載された発明で、発明の詳細な説明の記載又はその示唆により当業者が当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否か、また、その記載や示唆がなくとも当業者が出願時の技術常識に照らし当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否かを検討して判断するのであって、審査基準における個別の例に基づいて判断するものではない。
また、本件発明が、審査基準における数値範囲に特徴がある場合に該当する根拠が不明であるし、数値範囲に特徴がある発明において、必ず下限値についての具体例を記載しなければサポート要件を満たさないということもないから、上記ア(イ)における主張も、前提において誤りがある。
以上のとおりであるから、個々の主張を検討したとしても、異議申立人の主張は、採用することができない。
(3)小括
以上のとおり、本件発明1、2、4、5に対応する特許請求の範囲の記載について、取消理由及び申立理由2には理由がない。
2 申立理由1(実施可能要件違反)について
(1)申立理由1の内容
本件発明1は「ZrNと、Alとが単一粒子内で複合化され、前記Alの含有量は0.1~6.1質量%であることを特徴とする複合粒子。」であり、Alの含有量の範囲は広い。しかるに、この範囲における具体例は、6.1質量%のみである。即ち、本件発明1の広さ(0.1~6.1質量%)に合わせた具体例の数が少な過ぎ、窒化ジルコニウム粉末とアルミニウム粉末とからどのようにして、Alを0.1~6.1質量%の割合で含有する複合粒子が得られるのか、当業者が請求項に係る発明を実施することができる程度に、発明の詳細な説明に必要な事項が明確にかつ十分に記載されていないため、本件発明1は、実施可能要件を満たしていない(特許異議申立書4頁2~11行)。
(2)申立理由1に対する判断
本件明細書の【0015】~【0039】には、本件発明1の複合粒子の製造に関し、熱プラズマ法及びそれを実施する製造装置に関する説明があり、同【0020】には、「熱プラズマ炎24の温度は、原料粉末の沸点よりも高い必要がある。一方、熱プラズマ炎24の温度が高いほど、容易に原料粉末が気相状態となるので好ましいが、特に温度は限定されるものではない。例えば、熱プラズマ炎24の温度を6000℃とすることもできるし、理論上は10000℃程度に達するものと考えられる。また、プラズマトーチ12内における圧力雰囲気は、大気圧以下であることが好ましい。ここで、大気圧以下の雰囲気については、特に限定されないが、例えば、0.5~100kPaである。また、プラズマガスには、例えば、アルゴンガスおよび窒素ガスのうち、少なくとも一方のガスを用いたが、これに限定されるものではなく、アルゴンガスおよび窒素ガスのうち、少なくとも一方のガスとヘリウムガスとの組合せ、アルゴンガスおよび窒素ガスのうち、少なくとも一方のガスと水素ガスとの組合せでもよい。」との記載があり、熱プラズマ法で複合粒子を作成することができること、さらに熱プラズマ法で複合粒子を製造する際の温度、圧力、プラズマガスの種類等の実験条件が記載されている。ここで、【0015】~【0039】の記載をみれば、複合粒子を製造するにおいて、特に特別な製造工程、又は製造装置が採用されているとは認めることができず、通常の熱プラズマ法における条件設定操作の延長で当業者であれば、窒化ジルコニウムとアルミニウムとの複合化を意図して適宜その製造条件を設定することができると認めることができる。
そして、実際、同【0045】及び【図2】には、アルミニウムの含有量が6.1質量%である窒化ジルコニウムとアルミニウムとの複合粒子が、製造できたことが記載されているが、複合粒子におけるアルミニウムの含有量が減少すれば、窒化ジルコニウムとアルミニウムとの複合化は、より容易になると理解するのが自然であるから、アルミニウムの含有量が6.1質量%である窒化ジルコニウムとアルミニウムとの複合粒子が得られているのであれば、【0015】~【0039】の記載、及び技術常識等を参照しながら、それよりも、アルミニウムの含有量が小さな範囲の複合粒子も得ることができるといえる。
そうすると、本件明細書の記載及び技術常識等を考慮すれば、Alを0.1~6.1質量%の割合で含有する複合粒子が得ることができるといえるから、本件発明1に対応する本件明細書の発明の詳細な説明の記載は、実施可能要件を満たしているといえる。
(3)小括
以上のとおりであるから、本件発明1について、申立理由1には、理由がない。
3 申立理由3(明確性要件違反)について
(1)申立理由3の内容
本件発明1には、複合粒子の粒径についての記載がない。いかなる粒径であっても、本件発明1の課題を解決するとは考えられず、複合粒子として不明確である。
また、本件発明2が、「ZrNの粉末と、Alの粉末とを原料粉末として、気相法を用いて」具体的にどのようにして「ZrNと、Alとが単一粒子内で複合化された複合粒子を製造する」のか、すなわち、ZrN粉末の融点とAl粉末の融点とは異なるため、両粉末をどのようにして複合化するのか、具体的な原料粉末の平均粒径、原料投入時のZrNとAlの質量比、反応時の温度、時間、反応圧力、雰囲気等の製造条件が何ら特定されていない。また製造された複合粒子の平均粒径が特定されていない。更に製造された複合粒子の吸光度測定方法が特定されていない。そのため、本件発明2は製造方法として不明確である。よって、本件発明2及びこれを引用している本件発明3~5の複合粒子の製造方法は明確でない(特許異議申立書7頁4~21行)。
(2)申立理由3に対する判断
特許を受けようとする発明が明確であるか否かは、特許請求の範囲の記載のみならず、願書に添付した明細書の記載及び図面を考慮し、また、当業者の出願時における技術常識を基礎として、特許請求の範囲の記載が、第三者に不測の不利益を及ぼすほどに不明確であるか否かという観点から判断されるべきであるところ、請求項1、2、4、5の記載に不明確なところはなく、また上記(1)の内容も、請求項1、2、4、5の記載における不明確な点を述べるものではないから、請求項1、2、4、5の記載を明確ではないとすることはできない。
そうすると、上記(1)の内容は、請求応1、2、4、5の記載の明確性の判断を左右するものではないが、異議申立人の主張する理由を以下、一応検討する。
まず、本件発明1、2、4、5が発明の課題を解決することは、上記1(1)で述べたとおりであり、請求項1、2に複合粒子の粒径についての記載がないことは、本件発明の課題を解決できるか否かの判断を左右するものではない。
また、請求項に係る発明が製造方法の発明だからといって、その製造方法の詳細な条件を全て記載しなければ発明が明確でないということはない。発明の明確性の判断を左右するものではないが、上記2(2)で述べたように、本件発明1の複合粒子(本件発明2、4、5の複合粒子についても同様。)は、熱プラズマ法を用いて製造できるものであり、その製造条件自体は、通常の熱プラズマ法における条件設定操作の延長で当業者であれば窒化ジルコニウムとアルミニウムの複合化を意図して適宜その製造条件を設定することができるものと認めることができる。さらに、製造された複合粒子の吸光度測定方法も一般的に行われている吸光度測定方法を用いればよいだけである。
そうすると、上記(1)の理由は採用することができない。
(3)小括
以上のとおりであるから、本件発明1、2、4、5について、申立理由3には理由がない。
第6 むすび
上記第5で検討したとおり、本件特許1、2、4、5は、特許法第36条第4項第1号並びに同条第6項第1号及び第2号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものではないから、上記取消理由及び上記申立理由1~3では、本件特許1、2、4、5を取り消すことはできない。
また、他に本件特許1、2、4、5を取り消すべき理由を発見しない。
そして、本件特許3は、本件訂正により削除され、本件特許3に対する特許異議の申立ては、申立ての対象が存在しないものとなったため、特許法第120条の8第1項で準用する同法第135条の規定により却下する。
よって、結論のとおり決定する。
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2022-700133