特許異議申立
2022-700048
光学フィルムおよび表示体
- 審判番号
- 2022-700048
- 法域
- 特許
- 審判種別
- 異議申立(異議の決定)
- 出願番号
- 特願2018-520922
- 登録番号
- 6908037
- 請求日
- 2022年01月20日
- 審決日
- 2023年06月09日
- 公報発行日
- 2023年09月29日
- 結論
- 訂正認容
- 当事者
- 【権利者】凸版印刷株式会社
- 【権利者代理人】弁理士法人鈴榮特許綜合事務所
- 【権利者代理人】蔵田 昌俊
- 【権利者代理人】峰 隆司
- 【権利者代理人】井上 正
- 【権利者代理人】矢頭 尚之
- 【権利者代理人】飯野 茂
- 【異議申立人】遠藤 楓実
- 審判長/審判官
- 審判長 松波 由美子
- 審判官 井口 猶二
- 審判官 関根 洋之
- 分類
- P1651.113-YAA(G03H) / P1651.121-YAA(G03H) / P1651.537-YAA(G03H)
- 条文(本文から自動抽出・参考)
- 特許法第120条の5第2項、特許法第36条、特許法第29条、特許法第120条の5第7項、特許法第120条の8第1項
- データ出所
- 審決公報(XML)
事件の表示
特許第6908037号発明「光学フィルムおよび表示体」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。
結論
結 論
特許第6908037号の明細書及び特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正明細書及び特許請求の範囲のとおり、訂正後の明細書及び請求項〔1~22〕について訂正することを認める。
特許第6908037号の請求項1、5ないし22に係る特許を維持する。
特許第6908037号の請求項2ないし4に係る特許に対する特許異議の申立てを却下する。
理由
理 由
第1 手続の経緯
特許第6908037号(以下「本件特許」という。)の請求項1~22に係る特許についての出願(特願2018-520922号)は、2017年(平成29年)5月30日の出願(先の出願に基づく優先権主張 2016年(平成28年)6月3日)であって、令和3年7月5日にその特許権の設定登録がされ、令和3年7月21日に特許掲載公報が発行された。
本件特許について、特許掲載公報発行の日から6月以内である令和4年1月20日に特許異議申立人 遠藤楓実(以下「特許異議申立人」という。)から全請求項に対して特許異議の申立てがされた。その後の手続等の経緯の概要は、以下のとおりである。
令和4年 5月23日付け:取消理由通知書
令和4年 7月26日 :意見書の提出(特許権者)
令和4年 7月26日 :訂正請求書の提出
令和4年 9月21日 :意見書の提出(特許異議申立人)
令和4年12月21日付け:取消理由通知書
令和5年 2月21日 :意見書の提出(特許権者)
令和5年 2月21日 :訂正請求書の提出(この訂正請求書による訂正の請求を、以下「本件訂正請求」という。)
令和5年 4月19日 :意見書の提出(特許異議申立人)
なお、 令和4年7月26日に提出された訂正請求書による訂正請求は、特許法120条の5第7項の規定により、取り下げられたものとみなす。
第2 本件訂正請求について
1 訂正の趣旨及び訂正の内容
(1)訂正の趣旨
本件訂正請求の趣旨は、特許第6908037号の明細書及び特許請求の範囲を、本訂正請求書に添付した訂正明細書及び訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の明細書及び請求項1~22について訂正することを求める、というものである。
(2)訂正の内容
本件訂正請求において特許権者が求める訂正の内容は、以下のとおりである。
なお、下線は当合議体が付したものであり、訂正箇所を示す。
ア 訂正事項1
特許請求の範囲の請求項1に、
「 記録面を備えた光学フィルムであって、
前記記録面は、
再生像の各再生点からの光の位相成分が計算される、各再生点に1対1で対応する計算要素区画と、
前記位相成分に基づいて計算された位相角が記録される位相角記録領域と、
前記位相角が記録されない位相角非記録領域とを有し、
前記計算要素区画と前記位相角記録領域とが重なる重複領域に、前記位相成分に基づいて計算された位相角を記録することを特徴とする、光学フィルム。」とあるのを、
「 記録面を備えた光学フィルムであって、
前記記録面は、
再生像の各再生点からの光の位相成分が計算され、前記各再生点からの視野角によって規定され、前記各再生点と1対1で対応する計算要素区画と、
前記位相成分に基づいて計算された位相角が記録される位相角記録領域と、
前記位相角が記録されない位相角非記録領域とを有し、
ここにおいて前記計算要素区画は前記位相角記録領域と前記位相角非記録領域からなり、前記位相角記録領域及び前記位相角非記録領域は単位ブロックを含み、前記計算要素区画は、下記式に示す視野角θによって規定され、
θ<(A/m)、
ここで、(λ/2d)≦1である場合、A=asin(λ/2d)であり、λは前記光の波長dは前記単位ブロックの視野角方向における配列間隔、mは3以上の実数である、
前記計算要素区画と前記位相角記録領域とが重なる重複領域に含まれる前記単位ブロックを対象として前記各再生点からの光の位相成分を前記単位ブロック毎に計算し、ここにおいて、再生点が複数存在し、前記各再生点の前記計算要素区画が重なり合う場合は、前記各再生点からの光の位相成分は前記複数の再生点の各位相成分の和であり、前記位相成分に基づいて計算された位相角の数値情報を前記重複領域に記録することを特徴とする、光学フィルム。」に訂正する(請求項1の記載を引用して記載された、請求項2~22についても、同様に訂正する。)。
イ 訂正事項2
明細書の【0011】に、
「請求項1の発明は、記録面を備えた光学フィルムにおいて、記録面は、再生像の各再生点からの光の位相成分が計算される、各再生点に1対1で対応する計算要素区画と、位相成分に基づいて計算された位相角が記録される位相角記録領域と、位相角が記録されない位相角非記録領域とを有し、計算要素区画と位相角記録領域とが重なる重複領域に、位相成分に基づいて計算された位相角を記録する。」とあるのを、
「請求項1の発明は、記録面を備えた光学フィルムであって、前記記録面は、再生像の各再生点からの光の位相成分が計算され、前記各再生点からの視野角によって規定され、前記各再生点と1対1で対応する計算要素区画と、位相成分に基づいて計算された位相角が記録される位相角記録領域と、位相角が記録されない位相角非記録領域とを有し、ここにおいて前記計算要素区画は前記位相角記録領域と前記位相角非記録領域からなり、前記位相角記録領域及び前記位相角非記録領域は単位ブロックを含み、前記計算要素区画は、下記式に示す視野角θによって規定され、
θ<(A/m)、
ここで、(λ/2d)≦1である場合、A=asin(λ/2d)であり、λは前記光の波長dは前記単位ブロックの視野角方向における配列間隔、mは3以上の実数である、
前記計算要素区画と前記位相角記録領域とが重なる重複領域に含まれる前記単位ブロックを対象として前記各再生点からの光の位相成分を前記単位ブロック毎に計算し、ここにおいて、再生点が複数存在し、前記各再生点の前記計算要素区画が重なり合う場合は、前記各再生点からの光の位相成分は前記複数の再生点の各位相成分の和であり、前記位相成分に基づいて計算された位相角の数値情報を前記重複領域に記録する。」に訂正する。
ウ 訂正事項3
特許請求の範囲の請求項2を削除する。
エ 訂正事項4
特許請求の範囲の請求項3を削除する。
オ 訂正事項5
特許請求の範囲の請求項4を削除する。
カ 訂正事項6
特許請求の範囲の請求項16における「前記記録面の単位ブロックの高さとして」とあるのを、「前記記録面の前記単位ブロックの高さとして」に訂正する(請求項16の記載を引用して記載された、請求項18~22についても、同様に訂正する。)。
キ 訂正事項7
特許請求の範囲の請求項17における「前記重複領域における対応する単位ブロックに埋め込むことによって」とあるのを、「前記重複領域における対応する前記単位ブロックに埋め込むことによって」に訂正する(請求項17の記載を引用して記載された、請求項18~22についても、同様に訂正する。)。
ク 訂正事項8
明細書の【0012】~【0015】及び【0039】~【0041】を削除する。
ケ 訂正事項9
特許請求の範囲の請求項5に、「請求項1乃至4のうち何れか1項の記載の光学フィルム」とあるのを、「請求項1に記載の光学フィルム」に訂正する(請求項5の記載を引用して記載された、請求項6~22についても、同様に訂正する。)。
コ 訂正事項10
明細書の【0016】に、「請求項5の発明は、請求項1乃至4のうち何れか1項の発明の光学フィルムにおいて、位相角記録領域に、機械読取可能なコードを記録する。」とあるのを、「請求項5の発明は、請求項1の発明の光学フィルムにおいて、位相角記録領域に、機械読取可能なコードを記録する。」に訂正する。
(3)本件訂正請求は、一群の請求項〔1~22〕に対して請求されたものである。
2 訂正の適否
(1)訂正事項1について
ア 訂正の目的の適否
訂正事項1による訂正は、特許請求の範囲の請求項1に記載された、「再生像の各再生点からの光の位相成分が計算される、各再生点に1対1で対応する計算要素区画」を、「再生像の各再生点からの光の位相成分が計算され、前記各再生点からの視野角によって規定され、前記各再生点と1対1で対応する計算要素区画」に限定し、「前記位相角が記録されない位相角非記録領域とを有し、」を、「前記位相角が記録されない位相角非記録領域とを有し、
ここにおいて前記計算要素区画は前記位相角記録領域と前記位相角非記録領域からなり、前記位相角記録領域及び前記位相角非記録領域は単位ブロックを含み、前記計算要素区画は、下記式に示す視野角θによって規定され、
θ<(A/m)、
ここで、(λ/2d)≦1である場合、A=asin(λ/2d)であり、λは前記光の波長dは前記単位ブロックの視野角方向における配列間隔、mは3以上の実数である、」に限定し、「前記計算要素区画と前記位相角記録領域とが重なる重複領域に、前記位相成分に基づいて計算された位相角を記録する」を、「前記計算要素区画と前記位相角記録領域とが重なる重複領域に含まれる前記単位ブロックを対象として前記各再生点からの光の位相成分を前記単位ブロック毎に計算し、ここにおいて、再生点が複数存在し、前記各再生点の前記計算要素区画が重なり合う場合は、前記各再生点からの光の位相成分は前記複数の再生点の各位相成分の和であり、前記位相成分に基づいて計算された位相角の数値情報を前記重複領域に記録する」に限定する訂正である。
したがって、訂正事項1による訂正は、特許法120条の5第2項ただし書1号に掲げる「特許請求の範囲の減縮」を目的とするものに該当する。
イ 新規事項の有無
(ア)「単位ブロック」について、本件特許の願書に添付した訂正前の特許請求の範囲の請求項2及び3には、それぞれ、「前記各再生点からの光の位相成分を単位ブロック毎に計算し、前記位相成分に基づいて計算された位相角を、前記位相角記録領域に前記単位ブロック毎に記録すること」及び「前記計算要素区画は、下記式に示す視野角θによって規定され、θ<(A/m)、ここで、(λ/2d)≦1である場合、A=asin(λ/2d)であり、λは前記光の波長dは前記単位ブロックの視野角方向における配列間隔、mは3以上の実数であること」が記載されている。
また、本件特許の願書に添付した図1及び3~5には、単位ブロックが図示されており、本件特許の願書に添付した明細書において、【0069】に記録面の右側をX方向、左側をY方向としたユークリッド座標のX座標軸、Y座標軸が、同【0070】には、「単位ブロック12の配列間隔d」が、それぞれ記載されている。
(イ)「位相角」について、本件特許の願書に添付した明細書の【0084】~【0088】には、それぞれ、「1つの再生点22(#a)によって規定される計算要素区画16(#A)と、位相角記録領域18(#1)とが重なる領域である重複領域19(#1)、および、計算要素区画16(#A)と、位相角記録領域18(#2)の一部とが重なる領域である重複領域19(#2-1)に含まれる単位ブロック12を対象として、再生点22(#a)からの光の位相成分W(x,y)を計算する。」、「再生点22は、1つまたは複数存在する。したがって、計算要素区画16は、1つまたは複数の再生点22の各々に1対1で対応して、1つまたは複数の再生点22と同数存在する。」、「再生点22が、複数存在する場合・・・別の再生点22(#b)によって決定される計算要素区画16(#B)と、位相角記録領域18(#2)とが重なる領域である重複領域19(#2)に含まれる単位ブロック12を対象として、再生点22(#b)からの光の位相成分W(x,y)を計算する。」、「2つの計算要素区画16(#A)、16(#B)が重なり合う場合は、位相成分W(x,y)の和を計算する。」、「計算機はさらに、計算された位相成分W(x,y)に基づいて、位相角φを計算し、計算された位相角φの数値情報を、対応する重複領域19に記録する。」と記載されている。
(ウ)「計算要素区画」について、本件特許の願書に添付した明細書の【0065】、【0066】及び【0085】には、それぞれ、「記録面14上には、再生像が再生される各再生点22からの視野角θに応じて、計算要素区画16がそれぞれ規定される。このように、計算要素区画16は、位相角記録領域18および位相角非記録領域20とは独立して規定されるので、通常は、位相角記録領域18および位相角非記録領域20と個々に重なり合う。」、「再生点22は、複数存在する。したがって、計算要素区画16は、複数の再生点22の各々に対応して、再生点22と同数存在する。」及び「再生点22は、1つまたは複数存在する。したがって、計算要素区画16は、1つまたは複数の再生点22の各々に1対1で対応して、1つまたは複数の再生点22と同数存在する。」と記載されている。
(エ)上記(ア)から(ウ)を総合すると、訂正事項1は、当業者によって、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面のすべての記載を総合することにより導かれる技術的事項との関係において、新たな技術的事項を導入しないものである。
したがって、訂正事項1による訂正は、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内においてしたものである。
請求項2~22についてみても、同じである。
ウ 特許請求の範囲の拡張、変更の存否
訂正事項1は、上記アのとおり、特許請求の範囲の減縮を目的とする訂正であり、これらの訂正が、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものに該当しないことが明らかである。
請求項2~22についてみても、同じである。
(2)訂正事項2について
訂正事項2は、上記訂正事項1に係る訂正に伴い特許請求の範囲の記載と明細書の記載との整合を図るための訂正である。したがって、訂正事項2は、特許法第120条の5第2項ただし書第3号に掲げる「明瞭でない記載の釈明」を目的とするものである。
また、訂正事項2による訂正が、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内においてしたものであり、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでないことは明らかである。
(3)訂正事項3について
訂正事項3は、請求項2を削除するものであるから、特許法120条の5第2項ただし書第1号が掲げる「特許請求の範囲の減縮」を目的とするものである。
また、訂正事項3による訂正が、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内においてしたものであり、実質上特許請求の範囲を 拡張し、又は変更するものでないことは明らかである。
(4)訂正事項4について
訂正事項4は、請求項3を削除する訂正であるから、特許法120条の5第2項ただし書第1号が掲げる「特許請求の範囲の減縮」を目的とするものである。
また、訂正事項4による訂正が、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内においてしたものであり、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでないことは明らかである。
(5)訂正事項5について
訂正事項5は、請求項4を削除する訂正であるから、特許法120条の5第2項ただし書第1号が掲げる「特許請求の範囲の減縮」を目的とするものである。
また、訂正事項5による訂正が、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内においてしたものであり、実質上特許請求の範囲を 拡張し、又は変更するものでないことは明らかである。
(6)訂正事項6について
訂正事項6による訂正は、訂正前の特許請求の範囲の請求項16に記載された「単位ブロック」が初出であるために「単位ブロック」と記載されていたのを、請求項16が引用する請求項1に「単位ブロック」が記載されたことに基づき、「前記単位ブロック」とする訂正である。
したがって、訂正事項6による訂正は、特許法120条の5第2項ただし書3号に掲げる「明瞭でない記載の釈明」を目的とする訂正に該当する。
また、訂正事項6による訂正は、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内においてしたものであり、かつ、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものに該当しないものである。
(7)訂正事項7について
訂正事項7による訂正は、訂正前の特許請求の範囲の請求項17に記載された「単位ブロック」が初出であるために「単位ブロック」と記載されていたのを、請求項17が引用する請求項1に「単位ブロック」が記載されたことに基づき、「前記単位ブロック」とする訂正である。
したがって、訂正事項7による訂正は、特許法120条の5第2項ただし書3号に掲げる「明瞭でない記載の釈明」を目的とする訂正に該当する。
また、訂正事項7による訂正は、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内においてしたものであり、かつ、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものに該当しないものである。
(8)訂正事項8について
訂正事項8は、上記訂正事項3~5に係る訂正にともない特許請求の範囲の記載と明細書の記載との整合を図るための訂正である。したがって、訂正事項8は、特許法第120条の5第2項ただし書第3号に掲げる「明瞭でない記載の釈明」を目的とするものである。
また、訂正事項8による訂正が、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内においてしたものであり、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでないことは明らかである。
(9)訂正事項9について
訂正事項9は、上記訂正事項3~5に係る訂正により特許請求の範囲の請求項2~4が削除されたことにともない、訂正前の請求項5が引用する請求項2~4を削除する訂正である。したがって、訂正事項9は、特許法第120条の5第2項ただし書第3号に掲げる「明瞭でない記載の釈明」を目的とするものである。
また、訂正事項9による訂正が、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内においてしたものであり、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでないことは明らかである。
(10)訂正事項10
訂正事項10は、上記訂正事項9に係る訂正にともない特許請求の範囲の記載と明細書の記載との整合を図るための訂正である。したがって、訂正事項10は、特許法第120条の5第2項ただし書第3号に掲げる「明瞭でない記載の釈明」を目的とするものである。
また、訂正事項10による訂正が、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内においてしたものであり、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでないことは明らかである。
(11)むすび
以上のとおりであるから、本件訂正請求による訂正は、特許法120条の5第2項ただし書、同法同条9項において準用する同法126条5項及び6項の規定に適合するので、訂正請求書に添付された訂正明細書及び訂正特許請求の範囲のとおり訂正後の請求項〔1~22〕について訂正することを認める。
第3 本件特許発明
上記「第2」のとおり、本件訂正請求による訂正は認められた。
したがって、本件特許の特許請求の範囲の請求項1及び5~22に係る発明(以下、それぞれ、「本件特許発明1」などといい、これらの発明を総称して「本件特許発明」という。)は、本件訂正請求による訂正後の特許請求の範囲の請求項1及び5~22に記載された事項により特定される、次のものである。
「【請求項1】
記録面を備えた光学フィルムであって、
前記記録面は、
再生像の各再生点からの光の位相成分が計算され、前記各再生点からの視野角によって規定され、前記各再生点と1対1で対応する計算要素区画と、
前記位相成分に基づいて計算された位相角が記録される位相角記録領域と、
前記位相角が記録されない位相角非記録領域とを有し、
ここにおいて前記計算要素区画は前記位相角記録領域と前記位相角非記録領域からなり、前記位相角記録領域及び前記位相角非記録領域は単位ブロックを含み、前記計算要素区画は、下記式に示す視野角θによって規定され、
θ<(A/m)、
ここで、(λ/2d)≦1である場合、A=asin(λ/2d)であり、λは前記光の波長dは前記単位ブロックの視野角方向における配列間隔、mは3以上の実数である、
前記計算要素区画と前記位相角記録領域とが重なる重複領域に含まれる前記単位ブロックを対象として前記各再生点からの光の位相成分を前記単位ブロック毎に計算し、ここにおいて、再生点が複数存在し、前記各再生点の前記計算要素区画が重なり合う場合は、前記各再生点からの光の位相成分は前記複数の再生点の各位相成分の和であり、前記位相成分に基づいて計算された位相角の数値情報を前記重複領域に記録することを特徴とする、光学フィルム。
【請求項5】
前記位相角記録領域に、機械読取可能なコードを記録したことを特徴とする、請求項1に記載の光学フィルム。
【請求項6】
前記位相角非記録領域が、鏡面であることを特徴とする、請求項1乃至5のうち何れか1項に記載の光学フィルム。
【請求項7】
前記位相角非記録領域に、前記位相角以外の情報を記録することを特徴とする、請求項1乃至6のうち何れか1項に記載の光学フィルム。
【請求項8】
前記位相角以外の情報が、光の散乱、反射、および回折特性のうちの少なくとも何れかを含む情報であることを特徴とする、請求項7に記載の光学フィルム。
【請求項9】
短冊形状をなす複数の前記位相角記録領域によってストライプ形状が形成されるように、前記短冊形状をなす複数の位相角記録領域を、前記記録面上に周期的に配置したことを特徴とする、請求項1乃至8のうち何れか1項に記載の光学フィルム。
【請求項10】
矩形形状をなす複数の前記位相角記録領域によって格子形状が形成されるように、前記矩形形状をなす複数の位相角記録領域を、2次元状に周期的に配置したことを特徴とする、請求項1乃至8のうち何れか1項に記載の光学フィルム。
【請求項11】
前記位相角記録領域が、文字や絵柄を表す図形の形状であることを特徴とする、請求項1乃至8のうち何れか1項に記載の光学フィルム。
【請求項12】
前記図形を、個人認証情報として利用することを特徴とする、請求項11に記載の光学フィルム。
【請求項13】
複数の前記計算要素区画が、前記位相角記録領域内で重ならないことを特徴とする、請求項1乃至12のうち何れか1項に記載の光学フィルム。
【請求項14】
複数の前記再生点が、前記記録面と平行な同一平面上に存在することを特徴とする、請求項1乃至13のうち何れか1項に記載の光学フィルム。
【請求項15】
前記重ならない複数の計算要素区画の各々を、異なる色を用いて着色したことを特徴とする、請求項13に記載の光学フィルム。
【請求項16】
前記位相角を、前記記録面の単位ブロックの高さとして、前記重複領域に記録したことを特徴とする、請求項1乃至15のうち何れか1項に記載の光学フィルム。
【請求項17】
前記位相角に応じて、前記記録面のボイド量を変調させたボイドを、前記重複領域における対応する単位ブロックに埋め込むことによって、前記位相角を前記重複領域に記録したことを特徴とする、請求項1乃至15のうち何れか1項に記載の光学フィルム。
【請求項18】
請求項1乃至17のうち何れか1項に記載の光学フィルムが、対象物に貼り付けられてなることを特徴とする、表示体。
【請求項19】
前記光学フィルムの記録面上に、透明な反射層を有することを特徴とする、請求項18に記載の表示体。
【請求項20】
前記対象物が機能層を有することを特徴とする、請求項18または19に記載の表示体。
【請求項21】
前記機能層が印刷層であることを特徴とする、請求項20に記載の表示体。
【請求項22】
前記機能層に、機械読取可能なコードを記録したことを特徴とする、請求項20または21に記載の表示体。」
第4 取消しの理由の概要
1 令和4年5月23日付け取消理由通知書により特許権者に通知した取消しの理由は、概略、以下のとおりである。
理由1:(サポート要件)本件特許は、特許請求の範囲の記載が、特許法36条6項1号に規定する要件を満たしていない。
理由2:(明確性要件)本件特許は、特許請求の範囲の記載が、特許法36条6項2号に規定する要件を満たしていない。
理由3:(新規性)本件特許の請求項1~3、16~18、20~21に係る発明は、先の出願前に日本国内又は外国において頒布された刊行物に記載された発明であるから、特許法29条1項3号の規定に該当し、特許を受けることができない。
理由4:(進歩性)本件特許の請求項1~22に係る発明は、先の出願前に日本国内又は外国において、頒布された刊行物に記載された発明又は電気通信回線通じて公衆に利用可能となった発明に基づいて、先の出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者(以下「当業者」という。)が容易に発明をすることができたものであるから、特許法29条2項の規定により特許を受けることができない。
2 令和4年12月21日付け取消理由通知書により特許権者に通知した取消しの理由は、概略、以下のとおりである。
理由1:(明確性要件)本件特許は、特許請求の範囲の請求項1~3及び5~22の記載が、特許法36条6項2号に規定する要件を満たしていない。
理由2:(進歩性)本件特許の請求項1~2及び5~22に係る発明は、先の出願前に日本国内又は外国において、頒布された刊行物に記載された発明又は電気通信回線通じて公衆に利用可能となった発明に基づいて、先の出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者(以下「当業者」という。)が容易に発明をすることができたものであるから、特許法29条2項の規定により特許を受けることができない。
3 特許異議申立人が提示した証拠
甲1号証:特開2003-186376号公報(甲1)
甲2号証:特開2001-109362号公報(甲2)
甲3号証:特開2007-248716号公報(甲3)
甲4号証:特開平6-51124号公報(甲4)
甲5号証:特開2011-35899号公報(甲5)
甲6号証:粟辻安浩,外8名,”並列位相シフトディジタルホログラフィを用いた高速透明物体の動画像定量可視化”,公益社団法人精密工学会,精密工学会誌,2013年,Vol.79,No.7,2013,p.622-625(甲6)
甲7号証:特開2010-152339号公報(甲7)
甲8号証:特開2008-191540号公報(甲8)
甲9号証:特開2012-66544号公報(甲9)
甲10号証:高木康博,”科学研究費助成事業(学術研究助成基金助成金)研究成果報告書”,[online],平成25年6月6日,独立行政法人日本学術振興会,[令和4年1月20日検索],インターネット,https://kaken.nii.ac.jp/ja/report/KAKENHI-PROJECT-23656234/23656234seika/(甲10)
甲11号証:特開2004-309709号公報(甲11)
甲12号証:特開平5-201197号公報(甲12)
甲13号証:特開2010-256678号公報(甲13)
甲14号証:特開2015-166761号公報(甲14)
(当合議体注:甲1~2は主引用例であり、甲3~14は副引用又は周知技術を示す資料である。)
第5 当合議体の判断
1 甲2を主引例とした場合の新規性及び進歩性について
(1)甲2の記載
取消理由で引用された甲2には、以下の事項が記載されている。なお、下線は、「§1.ホログラムの基本原理」等の項目を除いて当合議体が付した。
ア 「【発明の詳細な説明】
【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は、ホログラム記録媒体およびその製造方法に関し、特に、視点位置を変えることにより全く別な原画像が観察されるホログラム記録媒体およびその製造方法に関する。
【0002】
【従来の技術】金券やクレジットカードについての偽造防止の用途として、ホログラムが広く利用されるに至っている。通常は、偽造防止対策を施す対象となる媒体上の一部に、ホログラムを記録する領域を設け、この領域内に立体像などをホログラムの形で記録することが行われている。
・・・省略・・・
【0006】
【発明が解決しようとする課題】ホログラム記録媒体では、原画像を立体的に記録することが可能であり、視点位置を変えることにより、原画像を異なった角度から観察することができる。このように、平面上に立体画像を記録することができる点が、ホログラム記録媒体の大きな特徴である。ところが、最近では、異なった角度から観察すると、全く別の原画像が再生されるという、更なる特徴をもったホログラム記録媒体の試作も行われている。このように、1枚の媒体上に複数の原画像を重ねて記録する方法として、多重露光を行う方法が知られている。たとえば、第1の物体についての干渉縞を感光面に露光させた後、第2の物体についての干渉縞を同一感光面に重ねて露光させれば、2つの物体についての干渉縞を重ねて記録することができる。しかしながら、このような多重露光による方法では、先に記録した干渉縞の情報の一部が、後に記録した干渉縞の影響によって失われることになり、鮮明な再生像を得ることができないという問題がある。この問題は、多重露光の回数が増えれば増えるほど顕著になる。
【0007】そこで本発明は、視点位置を変えることにより全く別な原画像を鮮明に再生させることができるホログラム記録媒体およびその製造方法を提供することを目的とする。
【0008】
【課題を解決するための手段】(1) 本発明の第1の態様は、ホログラム記録媒体において、記録面上に複数の記録領域を設け、各記録領域をN通りのグループ(N≧2)のいずれかに所属させ、第n番目(1≦n≦N)のグループに所属する記録領域内には、N通りのうちの第n番目の原画像からの物体光と、N通りのうちの第n番目の参照光との干渉縞を記録し、この記録時におけるN通りの参照光の記録面に対する各入射方向を互いに異なるように設定し、N通りの視点位置から観察したときに、それぞれ異なる原画像が再生されるように構成したものである。
・・・省略・・・
【0029】
【発明の実施の形態】§1.ホログラムの基本原理
図1は、一般的なホログラムの作成方法を示す原理図であり、原画像10を記録媒体20上に干渉縞として記録する方法が示されている。ここでは、説明の便宜上、図示のとおりXYZ三次元座標系を定義し、記録媒体20(説明の便宜上、厚みをもたない媒体、すなわち、記録面自体と考えることにする)がXY平面上に置かれているものとする。光学的な手法を採る場合、原画像10として何らかの物体が用意され、記録媒体20として感光板が用意されることになる。そして、レーザ光のようなコヒーレント光を用意し、その一部を原画像10を構成する物体に照射し、別な一部を記録媒体20を構成する感光板に照射する。物体に照射された光は物体光Oとして記録媒体20へと向かうことになり、記録媒体20へ直接照射された光は参照光Rとして機能する。記録媒体20には、この物体光Oと参照光Rとの干渉縞が記録される。ここで、原画像10上の任意の1点Pを考えると、この任意の1点Pから発せられた物体光Oは、図示のとおり、記録媒体20の全面に向けて進行し、参照光Rとの干渉縞として記録媒体20上に記録されることになる。結局、原画像10上のすべての点が、同様にして、記録媒体20上に干渉縞として記録される。
【0030】以上が、光学的な方法によるホログラム記録媒体の作成原理であるが、記録媒体20の位置に計算機ホログラムを作成するには、原画像10、記録媒体20、参照光Rを、コンピュータ上にデータとしてそれぞれ定義し、記録媒体20上の各位置における干渉波強度を演算すればよい。具体的には、たとえば図2に示すように、原画像10をI個の点光源P1,P2,P3,…,Pi,…,PIの集合として取り扱い、各点光源からの物体光O1,O2,O3,…,Oi,…,OIが、それぞれ演算点Q(x,y)へと進行するとともに、参照光Rが演算点Q(x,y)に向けて照射されたものとし、これらI本の物体光O1~OIと参照光Rとの干渉によって生じる干渉波の演算点Q(x,y)の位置における振幅強度を求める演算を行えばよい。物体光および参照光は、通常、単色光として演算が行われる。記録媒体20上には、必要な解像度に応じた多数の演算点を定義するようにし、これら各演算点のそれぞれについて、振幅強度を求める演算を行えば、記録媒体20上には干渉波の強度分布が得られることになる。
【0031】このようにして、記録媒体20上に定義された個々の演算点について、それぞれ干渉波の強度値が演算できたら、個々の演算点位置に、干渉波の強度値に応じた画素値を有する画素を定義すれば、これら画素の集合からなる干渉波画像を記録媒体20上に作成することができる。この干渉波画像は、記録媒体上に得られた干渉波の強度分布を示す画像ということになる。そこで、この干渉波画像に基づいて、実際の媒体上に物理的な濃淡パターンやエンボスパターンを形成すれば、原画像10を干渉縞として記録したホログラム記録媒体が作成できる。媒体上に高解像度の干渉縞を形成する手法としては、電子線描画装置を用いた描画が適している。電子線描画装置は、半導体集積回路のマスクパターンを描画する用途などに広く利用されており、電子線を高精度で走査する機能を有している。そこで、演算によって求めた干渉波の振幅の強度分布を示す画像データを電子線描画装置に与えて電子線を走査すれば、この振幅強度分布に応じた干渉縞パターンを描画することができる。
・・・省略・・・
【0034】§2.本発明の基本原理
続いて、本発明に係るホログラム記録媒体の基本原理を説明する。本発明の目的は、視点位置を変えることにより全く別な原画像を鮮明に再生させることができるホログラム記録媒体を提供することにある。そこで、ここでは、図3に示すような原画像Fa,Fb,Fcという全く別な3通りの原画像を、1枚の記録媒体上に重ねて記録し、視点位置を変えることにより特定の原画像を選択的に再生できるようにする原理を説明する。
【0035】まず、図4に示すように、記録媒体20の記録面上に複数の記録領域を定義する。ここでは、記録面がXY平面上にあるものとし、個々の記録領域を、X軸方向に細長い矩形からなる領域として定義している。すなわち、図4の例では、9つの記録領域A1,B1,C1,A2,B2,C2,A3,B3,C3が定義されており、いずれもX軸方向に細長く、Y軸方向に幅hをもった同一の矩形領域によって構成されている。本発明では、記録対象となる原画像の数に応じて、複数のグループを定義し、各記録領域をいずれかのグループに所属させることになる。ここに示す実施例では、図3に示すように、3通りの原画像を重ねて記録するため、3通りのグループGa,Gb,Gcが定義され、各記録領域は、この3通りのグループのいずれかに所属することになる。図4の例では、記録領域A1,A2,A3がグループGaに所属し、記録領域B1,B2,B3がグループGbに所属し、記録領域C1,C2,C3がグループGcに所属することが示されている。ここでは、各記録領域の所属グループをかっこ書きで示すことにする。
【0036】このように、各記録領域をグループに分けたら、特定の原画像に関する情報を特定のグループに所属する記録領域に記録する。たとえば、図3に示すように、原画像Fa,Fb,Fcという3通りの原画像を記録する場合、原画像FaをグループGaに所属する記録領域A1,A2,A3に記録し、原画像FbをグループGbに所属する記録領域B1,B2,B3に記録し、原画像FcをグループGcに所属する記録領域C1,C2,C3に記録する。ここで重要な点は、各グループごとに、記録媒体20の記録面に対する参照光の入射方向が異なるような設定を行って記録を行う点である。この記録方法を、図5~図7を参照しながら具体的に説明しよう。
【0037】まず、図5に示すように、第1の原画像Faを、グループGaに所属する記録領域A1,A2,A3に記録する。このとき、記録面に対して第1の方向から参照光Raを照射するようにし、原画像Faからの物体光Oaと参照光Raとの干渉縞が、各記録領域A1,A2,A3に記録されるようにする。図にハッチングを施した領域が、干渉縞の記録が完了した領域であり、この時点では、まだ、記録領域B1,B2,B3,C1,C2,C3には何も記録されていない。続いて、図6に示すように、第2の原画像Fbを、グループGbに所属する記録領域B1,B2,B3に記録する。このとき、記録面に対して第2の方向から参照光Rbを照射するようにし、原画像Fbからの物体光Obと参照光Rbとの干渉縞が、各記録領域B1,B2,B3に記録されるようにする。最後に、図7に示すように、第3の原画像Fcを、グループGcに所属する記録領域C1,C2,C3に記録する。このとき、記録面に対して第3の方向から参照光Rcを照射するようにし、原画像Fcからの物体光Ocと参照光Rcとの干渉縞が、各記録領域C1,C2,C3に記録されるようにする。かくして、記録媒体20上の記録面全面に干渉縞の記録が行われることになる。
・・・省略・・・
【0048】以上、本発明に係るホログラム記録媒体の基本原理を説明したが、このようなホログラム記録媒体は、光学的な手法により製造することも可能であるし、コンピュータを用いた計算機ホログラムの手法を用いて製造することも可能である。光学的な手法により製造するのであれば、同一グループに所属する記録領域のみが露出するように、記録面を構成する感光板の表面を遮光マスクで覆い、露出した記録領域に1つの原画像を光学的に記録する工程を、グループの数だけ繰り返し実行すればよい。たとえば、図5に示すように、第1の原画像Faを記録する際には、グループGaに所属する記録領域A1~A3のみが露出するような遮光マスクを用いて、感光板を構成する記録媒体20を覆うようにし、原画像Faを構成する物体からの物体光Oaと参照光Raとの干渉縞を、露出した記録領域A1~A3に対してのみ記録するようにすればよい。同様に、図6に示す工程を行う際には、グループGbに所属する記録領域B1~B3のみが露出するような遮光マスクを用い、図7に示す工程を行う際には、グループGcに所属する記録領域C1~C3のみが露出するような遮光マスクを用いればよい。
【0049】もっとも、上述した光学的な手法による製造方法は、マスクの位置合わせ工程などにかなりの労力が必要となる。このため、本発明に係るホログラム記録媒体は、計算機ホログラムの手法を用いて作成するのが好ましい。計算機ホログラムの手法を利用すれば、各記録領域ごとに、その所属グループを考慮して、記録すべき干渉縞に対応する画像データをコンピュータを用いた演算により求めることができる。たとえば、図5に示すように、第1の原画像Faを記録する際には、グループGaに所属する記録領域A1~A3内のみを演算対象として、これらの領域内の演算点についてのみ干渉波の強度値を求めるようにすればよい。全記録面について干渉波強度値を得られたら、これを二値画像データとして電子線描画装置などに与え、物理的な媒体の表面上に凹凸構造を形成すれば、ホログラム記録媒体を作成することができる。
【0050】§3.物体光の広がり角の制限
図1に示すように、ホログラムの基本原理は、原画像10上の任意の1点Pからの物体光Oと参照光Rとの干渉縞を、記録媒体20の全面に記録することにあり、1点Pの情報は、記録面の全面に記録されることになる。別言すれば、1点Pからの物体光Oは、記録面全面に広がることになる。このような考え方は、本発明に係るホログラム記録媒体の場合であっても、基本的には同じである。したがって、たとえば、図11に示すように、原画像Fcの情報を、グループGcに所属する記録領域C1~C3に記録する作業を行う場合、原画像Fc上の任意の点Pの情報は、記録領域C1~C3のすべてに記録されることになる。このように、原画像上の任意の1点の情報が、記録面の全面に渡って記録される点がホログラムの特徴であり、この特徴により立体再生像が得られることになる。
【0051】しかしながら、上述したホログラムの基本原理は、もともと記録時に用いた単色光と同一波長の単色光を用いて再生を行うことを前提としたものであり、白色光を用いた再生を行った場合、厳密には本来の立体再生像を得ることはできない。ところが、現実的には、クレジットカード用の偽造防止シールなどに利用されるホログラム記録媒体の場合、白色光を用いた再生が行われるのが一般的である。再生時に白色の照明光を用いた場合、記録媒体の各部から種々の波長をもった再生光が様々な方向に放出されることになり(再生光の放出方向は、その波長に依存する)、白濁した不鮮明な再生像が観察されることになる。そこで、白色照明光を用いて再生した場合でも、鮮明な再生像が得られるようにする工夫として、記録時に物体光の広がり角を制限する手法が、前掲のいくつかの公報において提案されている。この手法は、光学的にホログラムを作成する工程に適用することは困難であるため、実用上は計算機ホログラムを前提とした手法となる。
【0052】たとえば、図12に示すように、原画像Fc上に単位線分L1~L3を定義する。ここでは、XZ平面に平行な3枚の切断面を定義し、この切断面で原画像Fcを切断したときの切り口に現れる線分(曲線分)として、3本の単位線分L1~L3を定義している。また、3枚の切断面の間隔は、グループGcに所属する記録領域C1,C2,C3の配置間隔(3h)に等しく設定してある。図示の例では、原画像Fcが球体をしたサッカーボールであるため、各単位線分L1~L3は、この球体上の円として定義される。続いて、各単位線分L1~L3上に所定間隔をおいて多数の点光源を定義する。図示の例では、単位線分L1上には、点光源P11,P12,P13,…が定義され、単位線分L2上には、点光源P21,P22,P23,…が定義され、単位線分L3上には、点光源P31,P32,P33,…が定義されている。
【0053】こうして、多数の点光源を定義したら、これらの点光源を原画像Fcを代表するサンプル光源として干渉縞の記録を行うことになる。すなわち、各点光源から放出される物体光と所定の参照光との干渉縞を、記録領域C1,C2,C3に記録することになる。ただし、記録領域C1内には単位線分L1上の点光源P11,P12,P13,…からの物体光に基く干渉縞のみを記録し、記録領域C2内には単位線分L2上の点光源P21,P22,P23,…からの物体光に基く干渉縞のみを記録し、記録領域C3内には単位線分L3上の点光源P31,P32,P33,…からの物体光に基く干渉縞のみを記録するようにする。このような記録方法は、別な見方をすれば、点光源から放出される物体光の広がり角を制限した記録方法と言うことができる。すなわち、図13に示すような一般的なモデルを考えると、原画像上に定義された第i番目の単位線分Li上に並んでいる第j番目の点光源Pijの情報を、記録媒体20上に定義されたY軸方向の幅hをもった矩形の記録領域Ci(図にハッチングを施して示す)内にのみ記録するということは、点光源Pijから放出された物体光のY軸方向に関する広がり角を所定角ξに制限した上で、この物体光と参照光R(図示の例では、YZ平面に平行な方向に進む平面波)とによって生じる干渉縞を記録することと等価になる。
【0054】このように、物体光のY軸方向の広がり角を所定角ξに制限した記録を行うと、図示の例のように、YZ平面に平行な方向に進む参照光Rと同じ方向(もしくは、記録面に対してこれと面対称となる方向)から白色照明光を照射して観察した場合、点光源Pijに関する情報をもった再生光は、いずれの波長成分の光であっても、この広がり角ξに準じた方向にしか進まなくなるので、白濁した不鮮明な再生像が観察されるという現象を抑制することができる。
【0055】図14に示す例は、更に、物体光のX軸方向の広がり角を所定角Ψに制限した例である。この場合、点光源Pijから放出された物体光は、記録媒体20上の領域S(図にハッチングを施して示す)内にのみ到達することになり、点光源Pijの情報は、この領域S内にのみ記録されることになる。この方法には、再生像の輝度むらを抑制できるというメリットがある。
・・・省略・・・
【0058】§4.種々のバリエーション
これまで、本発明に係るホログラム記録媒体の基本原理を述べてきたが、ここでは、このホログラム記録媒体についての種々の変形例を述べる。
【0059】<<<4.1 記録領域の配置に関する変形例>>>図4に示す実施例では、Y軸方向の幅hをもった全く同じ大きさの矩形からなる記録領域が定義されているが、各記録領域の大きさは、各グループごとに変えることも可能である。たとえば、図15に示す例では、グループGaに所属する記録領域A1~A3およびグループGcに所属する記録領域C1~C3は、いずれもY軸方向の幅hをもった全く同じ大きさの矩形からなる記録領域であるが、グループGbに所属する記録領域B1~B3は、Y軸方向の幅2hをもった矩形からなる記録領域となっている。結局、グループGbに所属する記録領域の全面積は、グループGaに所属する記録領域の全面積あるいはグループGcに所属する記録領域の全面積に比べて2倍の面積となっている。この記録領域の面積は、再生像の明るさに影響を与える要因となる。すなわち、図15に示すような各記録領域の定義がなされている記録面に対して、図3に示す3通りの原画像Fa,Fb,Fcを記録すると、グループGbに記録される原画像Fbの再生像の明るさは、グループGaに記録される原画像Faの再生像の明るさ、あるいはグループGcに記録される原画像Fcの再生像の明るさに比べて2倍になる。図3に示す例では、原画像Fa,Fcが一般的な絵柄からなる画像であるのに対し、原画像Fbは「PAT」なる文字からなる画像である。このように、記録対象となる複数N通りの原画像の中に文字からなる原画像が含まれており、再生時に、この文字からなる原画像がより顕著に再生されるようにしたい、という要望がある場合には、図15に示す例のように、文字からなる原画像Fbについての記録領域の面積が多くなるような設定を行うと有効である。
・・・省略・・・
【0081】§5.回折格子パターンとの組み合わせ
これまで述べてきた実施例は、複数の原画像をそれぞれ異なる記録領域内に干渉縞として記録し、視点位置に応じてそれぞれ観察される原画像を切り換えることができるようにするものであったが、ここでは、干渉縞として記録した原画像と、回折格子パターンとして記録した原画像とを、観察時に切り換えることができる形態を述べる。はじめに、原画像を回折格子パターンとして記録する手法を簡単に説明しておく。この手法は、たとえば、特開平6-337622号公報、特開平8-21909号公報、特開平8-75912号公報などに種々の実施例が開示されているので、詳細については、これらの公報を参照されたい。
・・・省略・・・
【0094】図35は、図30に示す立体原画像Faと平面原画像Fbとを、同一記録媒体上に重ねて記録する場合の各記録領域の構成を示す平面図であり、2通りの原画像Fa,Fbにそれぞれ対応する2通りのグループGa,Gbに所属する各記録領域が示されている。すなわち、この例では、干渉縞記録グループGaに所属する記録領域A1~A6と、回折格子記録グループGbに所属する記録領域B1~B5とが、交互に配置されている。図36は、図35に示すように各記録領域を定義した媒体上に、干渉縞あるいは回折格子パターンを実際に記録した状態を示す平面図である。この例では、各記録領域A1~A6およびB1~B5の縦方向の幅(具体的には50μm)が、原画像Fbを構成する画素の1画素分の縦幅に相当するように設定されているため、各記録領域B1~B5には、それぞれ1行分の画素配列に相当する回折格子パターンが割り付けられている。もちろん、各記録領域B1~B5の縦方向の幅を、1画素分の縦幅のW倍に設定し、各記録領域B1~B5内に、それぞれW行分の画素配列に相当する回折格子パターンを割り付けるようにしてもかまわない。なお、各記録領域A1~A6には、原画像Faからの物体光と所定の参照光との干渉縞が記録されることになる。
【0095】この図36に示すような実施例においても、記録領域A1~A6内に干渉縞を記録する際の参照光の記録面に対する入射方向と、記録領域B1~B5内に回折格子パターンを記録する際の格子線の配置方向と、の関係を調節すれば、ある視点位置においては原画像Faのみが観察され、別な視点位置においては原画像Fbのみが観察されるような設定が可能である。
・・・省略・・・
【0101】
【発明の効果】以上のとおり本発明に係るホログラム記録媒体によれば、視点位置を変えることにより全く別な原画像を鮮明に再生させることが可能になる。」
イ 図1
[図:0001401596000001.jpg]
ウ 図2
[図:0001401596000002.jpg]
エ 図3
[図:0001401596000003.jpg]
オ 図4
[図:0001401596000004.jpg]
カ 図5
[図:0001401596000005.jpg]
キ 図6
[図:0001401596000006.jpg]
ク 図7
[図:0001401596000007.jpg]
ケ 図12
[図:0001401596000008.jpg]
コ 図13
[図:0001401596000009.jpg]
サ 図14
[図:0001401596000010.jpg]
シ 図15
[図:0001401596000011.jpg]
ス 図30
[図:0001401596000012.jpg]
セ 図35
[図:0001401596000013.jpg]
ソ 図36
[図:0001401596000014.jpg]
(2)甲2発明
甲2において、【0094】に記載された記録媒体の各記録領域A1~A6に記録される立体原画像Faからの物体光と所定の参照光との干渉縞は、【0030】~【0031】に記載された計算機ホログラムによって演算された干渉波の強度分布を記録媒体に記録されたものであることが読み取れる。
そうしてみると、甲2には、【0094】に記載された「記録媒体」として、次の発明(以下「甲2発明」という。)が記載されている。
なお、「原画像10」及び「原画像Fa」を「立体原画像」に、干渉縞が記録された「記録媒体」を「ホログラム記録媒体」に、「記録領域」を「記録領域A1~A6」に、それぞれ、用語を統一して用いた。
「 立体原画像と平面原画像とを、同一記録媒体上に重ねて記録する各記録領域の構成であり、
干渉縞記録グループGaに所属する記録領域A1~A6と、回折格子記録グループGbに所属する記録領域B1~B5とが、交互に配置され、
各記録領域A1~A6には、立体原画像からの物体光と所定の参照光との干渉縞が記録されるホログラム記録媒体であって、
記録媒体の各記録領域A1~A6に計算機ホログラムを作成するには、立体原画像、記録媒体、参照光を、コンピュータ上にデータとしてそれぞれ定義し、記録媒体上の各位置における干渉波強度を演算するものであり、
立体原画像を点光源の集合として取り扱い、各点光源からの物体光が、それぞれ演算点へと進行するとともに、参照光が演算点に向けて照射されたものとし、これらの物体光と参照光との干渉によって生じる干渉波の演算点の位置における振幅強度を求める演算を行い、これら各演算点のそれぞれについて、振幅強度を求める演算を行い、記録媒体上には干渉波の強度分布が得られ、
個々の演算点位置に、干渉波の強度値に応じた画素値を有する画素を定義し、これら画素の集合からなる干渉波画像を記録媒体上に作成し、この干渉波画像は、記録媒体上に得られた干渉波の強度分布を示す画像ということになり、
この干渉波画像に基づいて、実際の媒体上に物理的な濃淡パターンやエンボスパターンを形成して、立体原画像を干渉縞として記録したホログラム記録媒体。」
(3)本件特許発明1について
ア 対比
本件特許発明1と甲2発明とを対比する。
(ア)光学フィルム、記録面
甲2発明は、「立体原画像と平面原画像とを、同一記録媒体上に重ねて記録する各記録領域の構成であり、干渉縞記録グループGaに所属する記録領域A1~A6と、回折格子記録グループGbに所属する記録領域B1~B5とが、交互に配置され、各記録領域A1~A6には、立体原画像からの物体光と所定の参照光との干渉縞が記録されるホログラム記録媒体であって」、「実際の媒体上に物理的な濃淡パターンやエンボスパターンを形成して、立体原画像を干渉縞として記録した」ものである。
上記構成からみて、甲2発明は、光学記録媒体であるといえる。これに対して、本件特許発明1も、「記録面を備えた光学フィルム」であるから、光学記録媒体であるといえる。そうしてみると、甲2発明の「ホログラム記録媒体」は、本件特許発明1の「光学フィルム」と、「光学記録媒体」の点で共通する。
また、上記構成からみて、甲2発明は、立体原画像からの物体光と所定の参照光との干渉縞が記録されるので、記録面を備えたものといえる。そうしてみると、甲2発明の「ホログラム記録媒体」は、本件特許発明1の「光学フィルム」の「記録面を備えた」との要件を満たす。
(イ)再生像、再生点
甲2発明は、「立体原画像を点光源の集合として取り扱い、各点光源からの物体光が、それぞれ演算点へと進行するとともに、参照光が演算点に向けて照射されたものとし、これらの物体光と参照光との干渉によって生じる干渉波の演算点の位置における振幅強度を求める演算を行い、これら各演算点のそれぞれについて、振幅強度を求める演算を行」い、「記録媒体上には干渉波の強度分布が得られ、個々の演算点位置に、干渉波の強度値に応じた画素値を有する画素を定義し、これら画素の集合からなる干渉波画像を記録媒体上に作成し、この干渉波画像は、記録媒体上に得られた干渉波の強度分布を示す画像ということになり、この干渉波画像に基づいて、実際の媒体上に物理的な濃淡パターンやエンボスパターンを形成して、立体原画像を干渉縞として記録した」ものである。
上記構成からみて、甲2発明の「立体原画像」及び「点光源」は、それぞれ、本件特許発明1の「再生像」及び「再生点」に相当する。
(ウ)位相角記録領域、位相角非記録領域
上記(ア)及び(イ)の構成からみて、甲2発明の「干渉縞記録グループGaに所属する記録領域A1~A6」は、光の成分に基づいて計算された光の情報が記録されるといえる。これに対して、本件特許発明1の「位相角記録領域」は、「前記位相成分に基づいて計算された位相が記録される」ものであるから、光の成分に基づいて計算された光の情報が記録されるといえる。
そうしてみると、甲2発明の「干渉縞記録グループGaに所属する記録領域A1~A6」は、本件特許発明1の「位相角記録領域」と、前記光の「成分に基づいて計算された」光の情報「が記録される記録領域」の点で共通する。
また、上記(ア)及び(イ)の構成からみて、甲2発明の「回折格子記録グループGbに所属する記録領域B1~B5」は、位相角が記録されないことは明らかである。
そうしてみると、甲2発明の「回折格子記録グループGbに所属する記録領域B1~B5」は、本件特許発明1の「位相角非記録領域」に相当する。
上記(ア)~(ウ)を総合すると、甲2発明は、本件特許発明1と、「前記記録面は、再生像の各再生点からの光の」「成分が計算され、前記光の」「成分に基づいて計算された光の」「情報が記録される記録領域と、前記位相角が記録されない位相角非記録領域とを有」する点で共通する。
イ 一致点
上記アによると、本件特許発明1と甲2発明は次の点で一致する。
「 記録面を備えた光学記録媒体であって、
前記記録面は、
再生像の各再生点からの光の成分が計算され、
前記光の成分に基づいて計算された光の情報が記録される記録領域と、
前記位相角が記録されない位相角非記録領域とを有する、光学記録媒体。」
ウ 相違点
本件特許発明1と甲2発明は次の点で相違する。
<相違点1>
「光学記録媒体」について、本件特許発明1は、「光学フィルム」であるのに対して、甲2発明の「ホログラム記録媒体」である点。
<相違点2>
「記録領域」、「光の成分」及び「光の情報」について、本件特許発明1は、それぞれ、「位相角記録領域」、「光の位相成分」及び「位相角」であって、「位相角記録領域」は、「位相成分に基づいて計算された位相角」が「記録」されるのに対して、甲2発明の「干渉縞記録グループGaに所属する記録領域A1~A6」は、「立体原画像からの物体光と所定の参照光との干渉縞が記録される」のであって、光の位相成分に基づいて位相角を記録するものではない点。
<相違点3>
本件特許発明1は、「前記各再生点からの視野角によって規定され、前記各再生点と1対1で対応する計算要素区画と」、
「ここにおいて前記計算要素区画は前記位相角記録領域と前記位相角非記録領域からなり、前記位相角記録領域及び前記位相角非記録領域は単位ブロックを含み、前記計算要素区画は、下記式に示す視野角θによって規定され、
θ<(A/m)、
ここで、(λ/2d)≦1である場合、A=asin(λ/2d)であり、λは前記光の波長dは前記単位ブロックの視野角方向における配列間隔、mは3以上の実数である、
前記計算要素区画と前記位相角記録領域とが重なる重複領域に含まれる前記単位ブロックを対象として前記各再生点からの光の位相成分を前記単位ブロック毎に計算し、ここにおいて、再生点が複数存在し、前記各再生点の前記計算要素区画が重なり合う場合は、前記各再生点からの光の位相成分は前記複数の再生点の各位相成分の和であり」、「前記光の成分に基づいて計算された光の成分情報を前記重複領域に記録する」のに対して、甲2発明は、このように特定されていない点。
エ 判断
(ア)新規性について
上記のとおりであるから、本件特許発明1は、甲2発明と同一であるとはいえない。
(イ)進歩性について
上記相違点について検討する。
事案に鑑み、上記相違点3について検討する。
本件特許発明1は、各再生点からの視野角θが規定され、各再生点と、それぞれ、1対1で対応する計算要素区画が、位相角記録領域と重複する領域における単位ブロックに対して、位相成分W(x,y)から位相角φが計算されることにより、視野角θの上限が規定されるとともに、位相角φが計算される領域も重複領域に限定されるので、計算時間が短縮される点に技術的意義を有するものである。
他方、甲2には、甲2の【0055】には、図14に関し、「図14に示す例は、更に、物体光のX軸方向の広がり角を所定角Ψに制限した例である。この場合、点光源Pijから放出された物体光は、記録媒体20上の領域S(図にハッチングを施して示す)内にのみ到達することになり、点光源Pijの情報は、この領域S内にのみ記録されることになる。この方法には、再生像の輝度むらを抑制できるというメリットがある。」と記載されている。しかしながら、当該記載は、単に、物体光の広がり角を制限したことを開示するにとどまり、甲2発明における「干渉縞記録グループGaに所属する記録領域A1~A6と、回折格子記録グループGbに所属する記録領域B1~B5とが、交互に配置され」た領域は、「各点光源からの物体光」と1対1で対応するものではない。
すなわち、甲2には、複数存在する再生点に対し、計算要素区画が、再生点と同数存在し、それぞれが、1対1に対応することについても、それぞれの計算要素区画と、位相角記録領域と、位相角非記録領域が独立して規定され、計算要素区画と位相角記録領域とが重複する領域における単位ブロックに対して、位相角が計算されることについても、何ら開示も示唆もない。また、かかる技術思想は、他の甲号証にも記載されておらず、このことが周知技術であるともいえない。
そうしてみると、たとえ当業者といえども、上記相違点3に係る本件特許発明1の構成とすることが容易に想到し得たとはいえない。
オ 小括
したがって、他の相違点について検討するまでもなく、たとえ当業者といえども、本件特許発明1は、甲2発明に基づいて容易に発明をすることができたとはいえない。
(4)本件特許発明5~22
本件特許発明5~22は、本件特許発明1の構成を全て備えるものであるから、本件特許発明5~22も、本件特許発明1と同じ理由により、甲2に記載された発明であるとはいえず、また、当業者であっても、甲2に記載された発明に基づいて容易に発明をすることができたとはいえない。
2 甲1を主引例とした場合の新規性及び進歩性について
甲1を主引例とした場合であっても、甲2を主引例とした場合と同様に、本件特許発明1と甲1に記載された発明は、少なくとも上記1(3)ウの相違点3において相違する。そうしてみると、上記1(3)エで示したのと同様の理由により、本件特許発明1及び5~22は、甲1に記載された発明であるとはいえず、また、当業者であっても、甲1に記載された発明に基づいて容易に発明をすることができたとはいえない。
3 まとめ
本件特許発明1及び5~22は、甲1又は甲2に記載された発明とはいえず、また、当業者であっても、甲1又は甲2に記載された発明に基づいて容易に発明をすることができたとはいえない。
4 サポート要件について
本件訂正によりサポート要件違反は解消された。
5 明確性要件違反について
本件訂正により明確性要件違反は解消された。
6 特許異議申立人の主張について
(1)進歩性について
特許異議申立人は、令和5年4月19日に提出された意見書において、「本件特許発明1は、甲2発明及び周知技術に基づいて、出願前に当業者が容易に発明をすることができたものである。」及び「本件特許発明1は、甲1発明及び周知技術に基づいて、出願前に当業者が容易に発明をすることができたものである。」と主張している。
しかしながら、上記1~3で述べたとおりであるから、上記主張は採用できない。
(2)明確性要件について
ア 特許異議申立人は、令和5年4月19日に提出された意見書において、「本件特許発明1は「光学フィルム」という物の発明であり、光学フィルムに接した当業者は、その光学フィルムに計算要素区画の境界が示されるのではないので、どこが計算要素区画であり、どこが計算要素区画であるのか区別できない」(以下「主張1」という。)、「本件特許発明1は「光学フィルム」という物の発明であり、光学フィルムに接した当業者は、その光学フィルムに記録された位相角がどのように計算され、どのように記録されているのか判別できない」(以下「主張2」という。)及び「訂正後の請求項17に係る発明は、「前記位相角に応じて、前記記録面のボイド量を変調させたボイドを、前記重複領域における対応する前記単位ブロックに埋め込むことによって、前記位相角を前記重複領域に記録したことを特徴とする」と規定するところ、この規定からは、単位ブロックに埋め込まれたボイドと位相角の記録の関係が不明である」(以下「主張3」という。)と主張している。
イ 当合議体の判断
(ア)主張1及び2について
本件特許の特許請求の範囲には、「記録面」が、「再生像の各再生点からの光の位相成分が計算され、前記各再生点からの視野角によって規定され、前記各再生点と1対1で対応する計算要素区画」を有すること、「計算要素区画は前記位相角記録領域と前記位相角非記録領域からな」ること、「位相角記録領域及び前記位相角非記録領域は単位ブロックを含み、前記計算要素区画は、下記式に示す視野角θによって規定され、θ<(A/m)、ここで、(λ/2d)≦1である場合、A=asin(λ/2d)であり、λは前記光の波長dは前記単位ブロックの視野角方向における配列間隔、mは3以上の実数」であって、「計算要素区画と前記位相角記録領域とが重なる重複領域に含まれる前記単位ブロックを対象として前記各再生点からの光の位相成分を前記単位ブロック毎に計算」され、「位相成分に基づいて計算された位相角の数値情報が前記重複領域に記録」されることが記載されており、本件特許明細書、及び、当業者の技術常識を参照すれば、物の発明である「光学フィルム」において、位相角が記録されている領域は、再生像に存在する複数の再生点から視野角θによって規定される計算要素区画と、当該区画内の位相角記録領域が重複する領域に、位相角が単位ブロックに位相角に対応する凹凸を形成する等により記録された構造を有することは明確に把握できる。
したがって、特許請求の範囲、明細書の記載及び技術常識に照らせば、物の発明である光学フィルムを、明確に把握でき、上記主張1及び2は採用できない。
(イ)主張3について
本件特許明細書の【0158】には、「本実施形態に係る光学フィルム10では、位相角φの数値情報を記録する代わりに、計算機が、位相角φの変化を、記録面14の屈折率からの変化量に変換する。さらに、計算機が、その屈折率の変化量を実現するボイドに変換する。そして、このボイド23を、例えば、図25に示すように、重複領域の単位ブロック12の場所に相当する基材11に埋め込むことによって、位相角φを重複領域19の単位ブロック12に記録する。」と記載されている。また、「ボイド」とは「空隙」であって、空隙が存在すれば屈折率が変化することは、当業者の技術常識である。そうすると、「位相成分に基づいて計算された位相角の数値情報」を、凹凸構造を形成して記録することに代えて、ボイドにより記録することは、明細書の記載に接した当業者であれば当然に理解し得る。
したがって、特許請求の範囲、明細書の記載及び技術常識に照らせば、単位ブロックに埋め込まれたボイドと位相角の記録の関係を、明確に把握でき、上記主張3は採用できない。
(3)まとめ
特許異議申立人の主張は、いずれも採用することができない。
第6 むすび
本件特許1及び5~22は、取消理由通知書に記載した取消しの理由及び特許異議申立書に記載された特許異議の申立ての理由によっては、取り消すことができない。
また、他に本件特許1及び5~22を取り消すべき理由を発見しない。
そして、本件訂正請求により、請求項2~4は削除されたから、本件特許2~4についての特許異議の申立ての対象は存在しないこととなった。
したがって、本件特許2~4についての特許異議の申立ては、特許法120条の8第1項で準用する同法135条の規定により却下する。
よって、結論のとおり決定する。
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2022-700048