特許訂正審判
2022-390205
医薬組成物
- 審判番号
- 2022-390205
- 法域
- 特許
- 審判種別
- 訂正審判(訂正の審決)
- 出願番号
- 特願2020-501595
- 登録番号
- 7169003
- 請求日
- 2022年11月24日
- 審決日
- 2023年08月23日
- 公報発行日
- 2024年02月22日
- 結論
- 請求不成立
- 当事者
- 【請求人】ジョイデルマ アクチェンゲゼルシャフト
- 【請求人代理人】弁理士法人朝日奈特許事務所
- 審判長/審判官
- 審判長 原田 隆興
- 審判官 岩下 直人
- 審判官 渕野 留香
- 分類
- P141 .851-Z (A61K) / P141 .852-Z (A61K) / P141 .853-Z (A61K) / P141 .854-Z (A61K) / P141 .857-Z (A61K)
- 条文(本文から自動抽出・参考)
- 特許法第126条第1項、特許法第126条第6項
- データ出所
- 審決公報(XML)
事件の表示
特許第7169003号に関する訂正審判事件について、次のとおり審決する。
結論
結 論
本件審判の請求は、成り立たない。
理由
理 由
第1 手続の経緯
本件訂正審判の請求に係る特許第7169003号(以下「本件特許」という。)は、2018年3月23日(パリ条約による優先権主張外国庁受理2017年3月24日 スイス(CH))を国際出願日とする特願2020-501595号の請求項1~16に係る発明について、令和4年11月1日に特許権の設定登録がされたものである。
そして、令和4年11月24日提出の審判請求書により本件訂正審判の請求がされたものである。
これに対して、令和5年1月12日付けで訂正拒絶理由を通知し、期間を指定して意見書を提出する機会を与えたが、指定した期間内に何ら応答がなされなかった。
第2 請求の趣旨、及び訂正の内容
本件訂正審判の請求の趣旨は、「特許第7169003号の特許請求の範囲を本審判請求書に添付した訂正特許請求の範囲のとおり訂正することを認める、との審決を求める。」というものであって、本件訂正審判の請求による訂正(以下「本件訂正」という。)の内容は、以下の訂正事項1~2のとおりである。なお、下線は、訂正特許請求の範囲の記載のとおりである。
訂正事項1:
特許請求の範囲の請求項1に「少なくとも1つのヒアルロン酸またはその誘導体が、4kDa~40kDaの低分子量ヒアルロン酸と最大200,000kDaのより高い分子量ヒアルロン酸との混合物である」と記載されているのを、「少なくとも1つのヒアルロン酸またはその誘導体が、4kDa~50kDaの低分子量ヒアルロン酸と最大200,000kDaのより高い分子量ヒアルロン酸との混合物である」に訂正する(請求項1の記載を直接的または間接的に引用する請求項2~16も同様に訂正する)。
訂正事項2:
特許請求の範囲の請求項14に「請求項1~12のいずれか1項に記載の組成物」と記載されているのを、「請求項1~11のいずれか1項に記載の組成物」に訂正する(請求項14の記載を引用する請求項15および16も同様に訂正する)。
第3 訂正拒絶理由の概要
令和5年1月12日付けで通知した訂正拒絶理由の概要は、訂正事項1は、特許法第126条第1項ただし書第1号~第4号のいずれかに掲げる事項を目的とするものではなく、また、実質上特許請求の範囲を拡張するものであり、特許法第126条第6項の規定に違反するものであるから、本件訂正審判に係る訂正は認められないというものである。
第4 当審の判断
上記訂正拒絶理由の通知に対して応答がなかったところ、あらためて検討しても、上記訂正拒絶理由のとおり訂正は認められないと当審は判断する。その理由は以下のとおりである。
1 訂正の目的について
請求人は、訂正事項1について、審判請求書3ページの6(3)ア(ア)aにおいて、特許法第126条第1項ただし書第2号に規定する「誤記の訂正」を目的とすると主張している。
そこで、「誤記の訂正」を目的とするものであるかについてまず検討する。
ア「誤記の訂正」について
(ア)「誤記の訂正」を目的とした訂正が認められる前提
「誤記の訂正」とは、本来その意であることが本件明細書、特許請求の範囲又は図面の記載などから明らかな内容の字句、語句に正すことをいい、訂正前の記載が当然に訂正後の記載と同一の意味を表示するものと客観的に認められるものをいう。
誤記の訂正が認められるためには、設定登録時(既に確定した訂正がある場合は、その確定時)の明細書、特許請求の範囲又は図面中の記載に誤記が存在することが必要である。
(イ)判断
そこで、上記のことを前提として検討する。
a 請求項1の記載について
本件訂正前の請求項1の記載は、次のとおりである。なお、下線は、特許第7169003号公報の特許請求の範囲に記載のとおりである。
「【請求項1】
脂質ベースのコロイド状キャリアシステムにカプセル化された少なくとも1つのビタミンD3またはその前駆体もしくは誘導体、および少なくとも1つのヒアルロン酸またはその誘導体を含む組成物であって、
少なくとも1つのビタミンD3またはその前駆体もしくは誘導体が、ビタミンD3、7-DHC、25-ヒドロキシビタミンD3、1α,25-ジヒドロキシビタミンD3、および1α-ヒドロキシビタミンD3から選択され、かつ少なくとも1つのヒアルロン酸またはその誘導体が、4kDa~40kDaの低分子量ヒアルロン酸と最大200,000kDaのより高い分子量ヒアルロン酸との混合物である
組成物。」
上記請求項1は、「脂質ベースのコロイド状キャリアシステムにカプセル化された少なくとも1つのビタミンD3またはその前駆体もしくは誘導体、および少なくとも1つのヒアルロン酸またはその誘導体を含む組成物」について記載したものであり、訂正事項1の対象である「少なくとも1つのヒアルロン酸またはその誘導体」のうち「低分子量ヒアルロン酸」の分子量は「4kDa~40kDa」と特定されており、それ自体、技術的に明確であり、誤記の訂正を目的とする訂正において、その前提となる誤記が存在するとはいえない。
b 明細書の記載との関係について
本件明細書において、本件訂正前の「4kDa~40kDaの低分子量ヒアルロン酸」という記載自体が誤記であることを示す記載が含まれているといえるか、本件訂正後の「4kDa~50kDaの低分子量ヒアルロン酸」が本件訂正前の「4kDa~40kDaの低分子量ヒアルロン酸」の本来の意味であることを示す記載が含まれているといえるかについて検討する。
設定登録時の明細書【0022】及び【0071】には、次の記載がある。以下において、下線は当審合議体によって付した。
「【0022】
本明細書において使用される用語「ヒアルロン酸」(ヒアルロナン、ヒアルロン酸塩、またはHAとしても知られる)は、交互にβ-1,4およびベータ-1,3グリコシド結合によって連結されたN-アセチルグルコサミン(GlcNAc)およびグルクロン酸(GlcUA)の二糖単位の繰り返しで構成される非硫酸化グリコサミノグリカンをいう。…(略)…。本発明で使用するためのHAは、好ましくは、最大200,000kDaのより高いMWと組み合わせた、低MW、例えば4kDa~50kDaのものである。典型的には、HAは、0.01~8重量%(または80mg/ml)、好ましくは0.01~5重量%(または50mg/ml)、より好ましくは0.01~4重量%(または40mg/ml)、最も好ましくは0.01~3重量%(または30mg/ml)の濃度で使用される。全HAの最も好ましい濃度は、好ましくは4~5kDaの最低MW HA、40~50kDaの低~中または中分子HA、および50,000~200,000kDaの高MW HA(wt%)の混合物として3重量%である。好ましくは、4~5kDaの最低分子HAと40~50kDaの中分子HAと50,000~200,000kDaの高MW HAの比は、(1~10):(0.1~2):(0.1~2)、好ましくは(2~6):(0.5~1.5):(0.5~1.5)、最も好ましくは約4:約1:約1(または中および高MW HAのほぼ等しい重量%)である。したがって、最も好ましいのは、4~5kDaの最低分子HAが2重量%、40~50kDaの低~中または中分子HAが0.5重量%、および50,000~200,000kDaの高MW HAが0.5重量%のHA混合物として3重量%である。」
「【0071】
HA(2%の純度96.8%の低分子4KDa、0.5wt%の純度97.3%の中分子48.3KDa、…(略)…の混合物)を水相に使用した。」
上記のとおり、設定登録時の明細書には、低MWヒアルロン酸の分子量として「4kDa~50kDa」が記載されるところ、低~中または中分子ヒアルロン酸の分子量として「40kDa~50kDa」が記載され、また、「低分子4KDa」と「中分子48.3KDa」のヒアルロン酸が記載されており、低MWヒアルロン酸のうちの一部が「4kDa~40kDa」という分子量を有することを理解できるように記載されているといえるから、本件訂正前の請求項1の「少なくとも1つのヒアルロン酸またはその誘導体が、4kDa~40kDaの低分子量ヒアルロン酸と最大200,000kDaのより高い分子量ヒアルロン酸との混合物である」との記載が、明細書の記載との関係で誤りであることが、明らかであるとはいえないし、「4kDa~50kDaの低分子量ヒアルロン酸」が「4kDa~40kDaの低分子量ヒアルロン酸」の本来の意味であるともいえない。
また、本件登録前の審査段階において、令和4年5月9日提出の意見書【意見の内容】(2)(2-2)(ハ)において、本件訂正前の請求項1の「少なくとも1つのヒアルロン酸またはその誘導体が、4kDa~40kDaの低分子量ヒアルロン酸と最大200,000kDaのより高い分子量ヒアルロン酸との混合物である」とした補正事項は、明細書【0022】の記載を補正の根拠とすることが説明されていることからみても、「4kDa~40kDa」自体が誤記であるとはいえないし、「4kDa~50kDaの低分子量ヒアルロン酸」が「4kDa~40kDaの低分子量ヒアルロン酸」の本来の意味であるともいえない。
したがって、設定登録時の明細書の記載との関係について検討しても、請求項1の記載に誤記が存在するといえない。
(ウ)小括
以上のとおりであるから、訂正事項1が「誤記の訂正」を目的とした訂正であると認めることはできない。
(エ)請求人の主張について
審判請求書3ページの6(3)ア(ア)aにおいて、請求人は、訂正事項1の訂正の目的について次のように主張している。
「a 訂正の目的について
請求項1における「少なくとも1つのヒアルロン酸またはその誘導体が、4kDa~40kDaの低分子量ヒアルロン酸と最大200,000kDaのより高い分子量ヒアルロン酸との混合物である」との記載は、令和4年5月9日付にて提出した意見書に記載しているように、設定登録時の明細書の段落番号[0022]の「本発明で使用するためのHAは、好ましくは、最大200,000kDaのより高いMWと組み合わせた、低MW、例えば4kDa~50kDaのものである。」との記載に基づき行ったものであるところ、過誤(表示上の錯誤)により4kDa~50kDaとすべきところを4kDa~40kDaと記載してしまったものであり、この4kDa~40kDaとの記載は明細書中のどこにも存在せず、誤りであることは明らかである。
したがって、訂正事項1は、特許法第126条第1項但し書き第2号に規定する誤記の訂正を目的とするものである。」
しかしながら、過誤(表示上の錯誤)があったからといって、「4kDa~40kDa」との記載が、明細書の記載との関係で誤りであることが、明らかであるとはいえないし、また、「4kDa~40kDa」との記載が、明細書中に存在しないとしても、第4 1ア(イ)で検討したとおり、【0022】及び【0071】の記載から、低MWヒアルロン酸のうちの一部が「4kDa~40kDa」という分子量を有することを理解できるといえるから、請求項1の「少なくとも1つのヒアルロン酸またはその誘導体が、4kDa~40kDaの低分子量ヒアルロン酸と最大200,000kDaのより高い分子量ヒアルロン酸との混合物である」との記載が、明細書の記載との関係で誤りであることが、明らかであるとはいえず、請求項1の記載が誤記であるということにはならない。
よって、請求人の主張を検討しても、訂正事項1が「誤記の訂正」を目的とした訂正であると認めることはできない。
イ その他の目的について
訂正事項1が、「特許請求の範囲の減縮」、「明瞭でない記載の釈明」、「請求項間の引用関係の解消(他の請求項の記載を引用する請求項の記載を当該他の請求項の記載を引用しないものとすること)」のいずれを目的とするものでもないことは明らかである。
ウ まとめ
以上のとおり、訂正事項1は、特許法第126条第1項ただし書第1号~第4号のいずれかに掲げる事項を目的とするものではなく、特許法第126条第1項の規定に違反するものである。
2 実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでないかについて
(1)判断
訂正事項1は、特許請求の範囲の請求項1に「少なくとも1つのヒアルロン酸またはその誘導体が、4kDa~40kDaの低分子量ヒアルロン酸と最大200,000kDaのより高い分子量ヒアルロン酸との混合物である」と記載されているのを、「少なくとも1つのヒアルロン酸またはその誘導体が、4kDa~50kDaの低分子量ヒアルロン酸と最大200,000kDaのより高い分子量ヒアルロン酸との混合物である」に訂正するものであって、特許請求の範囲に特定された「4kDa~40kDa」との数値範囲を「4kDa~50kDa」との数値範囲に拡張していることから、実質上特許請求の範囲を拡張するものであるといえる。
(2)請求人の主張について
請求人は、審判請求書3~4ページの6(3)ア(ア)bにおいて、訂正事項1が、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでないことについて次のように主張している。
「b 実質上特許請求の範囲を拡張し、または変更する訂正ではないこと
請求項1における「少なくとも1つのヒアルロン酸またはその誘導体が、4kDa~40kDaの低分子量ヒアルロン酸と最大200,000kDaのより高い分子量ヒアルロン酸との混合物である」との記載が、設定登録時の明細書の段落[0022]の記載との関係で、誤りであることが明らかであり、かつ設定登録時の明細書、特許請求の範囲または図面の記載全体から正しい記載が自明な事項として定まるものであるため、審判便覧38-03Pの3.誤記の訂正に記載されているように、この誤りを正しい記載にする訂正事項1は、実質上特許請求の範囲を拡張し、または変更するものではない。
したがって、訂正事項1は、実質上特許請求の範囲を拡張し、または変更する訂正ではなく、特許法第126条第6項に適合するものである。」
しかしながら、請求人の主張は、訂正事項1が誤記の訂正を目的とするものであることを前提としているところ、上記1で述べたとおり、訂正事項1は誤記の訂正を目的とするものとは認められないから、請求人の主張は前提において採用できない。
(3)まとめ
以上のとおり、訂正事項1は、実質上特許請求の範囲を拡張するものであり、特許法第126条第6項の規定に違反するものである。
第5 むすび
以上のとおり、本件訂正は、訂正事項1が、特許法第126条第1項ただし書第1号~第4号に掲げる何れの事項を目的とするものでもなく、同条第6項の要件を満たすものでもないから、認めることができない。
よって、結論のとおり審決する。
審決本文(J-PlatPat)
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