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特許拒絶査定不服審判

2022-021291

修飾型ペプチド

審判番号
2022-021291
法域
特許
審判種別
拒絶査定不服審判(拒絶査定不服の審決)
出願番号
特願2019-529989外部サイト(J-PlatPat)へ移動します
請求日
2022年12月28日
審決日
2024年08月27日
公報発行日
2025年02月28日
結論
請求不成立
当事者
審判長/審判官
分類
P18 .121-Z (C12N)
根拠条文(結論部分から自動抽出・参考)
特許法29条2項
条文(本文から自動抽出・参考)
特許法第29条第2項
データ出所
審決公報(XML)

事件の表示

特願2019-529989「修飾型ペプチド」拒絶査定不服審判事件〔平成30年 6月 7日国際公開、WO2018/100516、令和 2年 1月16日国内公表、特表2020-500535〕について、次のとおり審決する。

結論

結 論
本件審判の請求は、成り立たない。

理由

目次 ▾ 7項目
理 由

第1 手続の経緯

折りたたみ中(クリックで表示)

本願は、平成29年11月30日(パリ条約における優先権主張 2016年11月30日(IB)国際事務局)を国際出願日とする出願であって、その主な手続の経緯は以下のとおりである。

令和 3年12月 6日付け:拒絶理由通知書
令和 4年 5月12日 :意見書、手続補正書の提出
令和 4年 8月22日付け:拒絶査定
令和 4年12月28日 :審判請求書の提出
令和 5年 2月21日 :手続補正書(請求の理由)の提出

第2 本願発明

本願の請求項1に係る発明は、令和4年5月12日付け手続補正書により補正された特許請求の範囲の請求項1に記載された事項により特定される、次のとおりのものである。

「【請求項1】
(a)ペプチドグリカン加水分解酵素の配列、および
(b)ペプチドグリカン加水分解酵素に対して異種のペプチド配列
を含む融合タンパク質であって、
続きを表示(全20行)
該異種ペプチド配列が配列モチーフを含み、
(i)配列モチーフが、16アミノ酸長、17アミノ酸長、18アミノ酸長、19アミノ酸長、または20アミノ酸長であり;
(ii)配列モチーフが、リジン、アルギニン、およびヒスチジンからなるアミノ酸の第1の群より選択されるアミノ酸を、少なくとも40%かつ多くとも60%含み、
各アミノ酸が第1の群より独立に選択され、
この第1の群より選択される各アミノ酸が、単独で、第1の群より選択されるさらなるアミノ酸との対で、または第1の群より選択される2個のさらなるアミノ酸とのブロックでのいずれかで、配列モチーフ内に配置されるが、第1の群より選択される3個以上のアミノ酸とのブロックでは生じず、第1の群より選択されるアミノ酸の対が、少なくとも2個、配列モチーフ内に存在し、連続する第1の群より選択されるアミノ酸のうちの3個を含むブロックは、多くとも1個、配列モチーフ内に存在し、但しさらなる条件として、第1の群の3個のアミノ酸を含むそのようなブロックが配列モチーフ内に存在する場合、3アミノ酸ブロックの最初のアミノ酸に対して-12位、-11位、-8位、-5位、-4位、+6位、+7位、+10位、+13位、および+14位のアミノ酸は、それぞれの位置が配列モチーフ内に見出され得るならば、第1の群より選択されず、
(iii)配列モチーフが、アラニン、グリシン、イソロイシン、ロイシン、フェニルアラニン、セリン、トレオニン、トリプトファン、チロシン、およびバリンからなるアミノ酸の第2の群より選択されるアミノ酸を、少なくとも40%かつ多くとも60%含み、
各アミノ酸が第2の群より独立に選択され、
第1の群より選択されるアミノ酸および第2の群より選択されるアミノ酸の合計が配列モチーフの100%となる場合、少なくとも3個の異なるアミノ酸がこの第2の群より選択され、
配列モチーフが少なくとも2個の単一の非隣接フェニルアラニン残基を含有しており、かつこれらのフェニルアラニン残基のうちの少なくとも1個の直前にリジン残基が存在する場合、配列モチーフが配列AFVを含まず、
配列モチーフが少なくとも3個の単一の非隣接ヒスチジン残基を含有する場合、配列モチーフが配列AALTH(SEQ ID NO:2)を含まず、
(iv)配列モチーフの残りのアミノ酸が、モチーフ内に存在する場合、アスパラギン、アスパラギン酸、グルタミン、グルタミン酸、メチオニン、またはシステインからなる第3の群より選択され、各アミノ酸が第3の群より独立に選択され、グルタミンが1回のみ選択され得、選択がグルタミンおよびグルタミン酸の組み合わせをさらに含み得ず、
(c)該融合タンパク質がSEQ ID NO:1の配列を含まず、かつ
該配列モチーフが、以下の表:
[図:0001418517000001.jpg]
に示された配列モチーフのうちの1種に適合し、ここで、「X」が、配列モチーフが第1の群より選択されるアミノ酸をそれぞれの位置において示さないことを表す、
前記融合タンパク質。」(以下、「本願発明」という。)

第3 原査定における拒絶の理由の概要

令和4年8月22日付け拒絶査定は、この出願の請求項1に係る発明は、本願の優先権主張の日(以下、「本願優先日」という。)前に日本国内又は外国において頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった下記の引用文献9、1に記載された発明に基いて、その優先日前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない、との理由を含むものである。

記

引用文献9: 特表2012-530509号公報
引用文献1: FEBS Letters ,1994年,Vol. 339,P. 108-112

第4 当審の判断

1 引用文献の記載事項

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(1)引用文献9(特表2012-530509号公報)

原査定の拒絶の理由で引用された、本願優先日前に頒布された刊行物である引用文献9には、次の事項が記載されている。下線は当審にて付記したものである。

ア 発明の名称

「抗微生物剤」

イ 特許請求の範囲

「【請求項1】
グラム陰性細菌の細胞壁を分解する活性を有する酵素、および、該酵素のN末端もしくはC末端、または両方の末端において融合されるペプチドストレッチから構成される融合タンパク質であって、該ペプチドストレッチが、両親媒性ペプチド、スシ(sushi)ペプチド、デフェンシン、疎水性ペプチド、または抗微生物ペプチドである、融合タンパク質。」
「【請求項7】
酵素が、エンドリシン、オートリシン、またはバクテリオシンである、請求項1記載の融合タンパク質。」

ウ 技術分野

「【0001】
本発明は、グラム陰性細菌に対する抗微生物剤、とりわけ、グラム陰性細菌の細胞壁を分解する活性を有する酵素、および該酵素のN末端またはC末端において融合される追加的なペプチドストレッチから構成される融合タンパク質に関連する。さらに、本発明は、融合タンパク質をコードする核酸分子、該核酸分子を含むベクター、および該核酸分子または該ベクターのいずれかを含む宿主細胞に関連する。加えて、本発明は、医用薬剤としての、とりわけグラム陰性細菌感染症の処置もしくは予防のための、診断手段としての、または美容用物質としての、使用のための融合タンパク質に関連する。本発明はまた、食材の、食品加工器具の、食品加工設備の、食材と接触する表面の、医療装置の、病院および手術室における表面の、グラム陰性細菌汚染の処置または予防にも関連する。さらに、本発明は、融合タンパク質を含む薬学的または美容用組成物に関連する。」

エ 背景技術

「【0003】
殺細菌または静細菌活性を有する種々のタイプの剤、例えば、抗生物質、エンドリシン、抗微生物ペプチド、およびデフェンシンが公知である。しかしながら、抗生物質に対する微生物の抵抗性が増加することによって、細菌によって引き起こされるますます多くの感染症を処置することが困難になっている。シュードモナス・エルギノーサ(Pseudomonas aeruginosa)および腸内細菌科(Enterobacteriaceae)のようなグラム陰性細菌によって引き起こされる感染症で特に困難が生じる。
【0004】
エンドリシンは、バクテリオファージ(または細菌ウイルス)によってコードされるペプチドグリカンヒドロラーゼである。それらは、ファージ増殖の溶菌サイクルにおいて後期遺伝子発現の間に合成され、かつ細菌ペプチドグリカンの分解を通して感染した細胞からの子孫ウイルス粒子の放出を媒介する。・・・多くの刊行物によって、特にグラム陽性細菌による細菌感染症を制御するための魅力的かつ相補的な代替法としてのエンドリシンが確立されている。続いて、・・・様々なエンドリシンが、エンザイビオティクスとしてのそれらの効力を証明してきた。外膜がペプチドグリカンへのエンドリシンの接近を遮蔽するため、現今、エンドリシン療法の最も重要な課題は、エンドリシンの外来性作用に対するグラム陰性細菌の非感受性にある。このことが現在、重要なグラム陰性病原体に対して有効なエンドリシンの範囲の拡大を妨げている。
【0005】
抗微生物ペプチド(AMP)は、実質的にあらゆる生物において見出され得る、広範な、短く、カチオン性で、遺伝子にコードされたペプチド抗生物質を意味する。様々なAMPが様々な特性を示し、かつこのクラスの多くのペプチドは、抗生物質としてだけでなく、細胞貫通ペプチドのための鋳型としても集中的に研究されている。数個の共通の特徴(例えば、カチオン性、両親媒性、および短いサイズ)を共有するにもかかわらず、AMP配列は大きく変動し、かつ少なくとも4つの構造群(αへリックス、βシート、伸長型、およびループ型)が、観察されるAMP立体配座の多様性に対応するために提唱されている。同様に、抗生物質としての作用のいくつかの様式が提唱されており、例えば、これらのペプチドの多くの主要な標的は細胞膜であるが、他のペプチドについては主要な標的が細胞質侵入およびコアの代謝機能の破壊であることが示された。AMPは十分濃縮され得、特異的な標的結合が欠如しているにもかかわらず、例えば、大抵のAMPについてそうであるように、膜において孔を形成することによって、協同的活性を示す。・・・」

オ 発明を実施するための形態

「【0013】
本明細書において使用される「ペプチドストレッチ」という用語は、酵素などのタンパク質に連結される任意の種類のペプチドを指す。
【0014】
本明細書において使用される「ペプチド」という用語は、1つのアミノ酸残基のアミノ基が、ペプチド結合によって別のアミノ酸残基のカルボキシル基に連結されている、約2~約100個のアミノ酸残基、より好ましくは約4~約50個のアミノ酸残基、より好ましくは約5~30個のアミノ酸残基からなる短いポリペプチドを指す。ペプチドは特定の機能を有してもよい。ペプチドは、天然に存在するペプチド、または合成的に設計されかつ産生されるペプチドであり得る。・・・天然に存在するペプチドの例は、抗微生物ペプチド、デフェンシン、スシ(sushi)ペプチドである。合成的に産生されるペプチドの例は、ポリカチオン性、両親媒性、または疎水性ペプチドである。本発明の意味におけるペプチドは、タンパク質を精製または配置するために使用されるHis-タグ、Strep-タグ、チオレドキシン、またはマルトース結合タンパク質(MBP)などを指さない。
【0015】
本明細書において使用される「エンドリシン」という用語は、細菌の細胞壁を加水分解するのに適している酵素を指す。「エンドリシン」は、以下の活性の少なくとも1つを有する少なくとも1つの「酵素学的活性ドメイン」(EAD)を含む:エンドペプチダーゼ、キチナーゼ、T4様ムラミニダーゼ、λ様ムラミニダーゼ、N-アセチル-ムラモイル-L-アラニン-アミダーゼ(アミダーゼ)、ムラモイル-L-アラニン-アミダーゼ、ムラミダーゼ、溶解性トランスグリコシラーゼ(C)、溶解性トランスグリコシラーゼ(M)、N-アセチル-ムラミダーゼ、N-アセチル-グルコサミニダーゼ(リゾチーム)、または、例えばKZ144およびEL188などのトランスグリコシラーゼ。加えて、エンドリシンはまた、酵素学的に不活性であり、かつ宿主細菌の細胞壁に結合する領域である、いわゆるCBD(細胞壁結合ドメイン)を含有してもよい。
【0016】
本明細書において使用される「EAD」という用語は、エンドリシンの酵素学的活性ドメインを指す。EADは、細菌のペプチドグリカンを加水分解することを担当する。それは、エンドリシンの少なくとも1つの酵素活性を呈する。EADはまた、1つより多い酵素学的活性モジュールから構成され得る。」
「【0046】
本発明の1つの局面において、融合されるペプチドストレッチは両親媒性ペプチドであり、1つまたは複数の、バリン、イソロイシン、ロイシン、メチオニン、フェニルアラニン、トリプトファン、システイン、アラニン、チロシン、ヒスチジン、スレオニン、セリン、プロリン、および/またはグリシンの疎水性アミノ酸残基に結合した、1つまたは複数の、リジン、アルギニン、および/またはヒスチジンの正に荷電したアミノ酸残基を含む。アミノ酸残基の側鎖は、好ましくは、カチオン性および疎水性表面がペプチドの反対側でクラスター形成するように配向される。好ましくは、ペプチドにおける約30、40、50、60、または70%より多いアミノ酸残基が、正に荷電したアミノ酸である。好ましくは、ペプチドにおける約30、40、50、60、または70%より多いアミノ酸残基が、疎水性アミノ酸残基である。有利に、両親媒性ペプチドが、細胞壁分解活性を有する酵素のN末端側および/またはC末端側終端に融合され、それによって後者のタンパク質の両親媒性を増強する。
・・・
【0049】
続きを表示(全11行)
本発明のさらなる局面において、融合されるペプチドストレッチは抗微生物ペプチドであり、正味の正電荷および約50%の疎水性アミノ酸を含む。抗微生物ペプチドは、約12~約50個のアミノ酸残基の長さで、両親媒性である。
【0050】
本発明による抗微生物ペプチドの具体例を以下の表に列挙する。
【0051】
(表2)
[図:0001418517000002.jpg]
」

カ 実施例

「【0094】
実施例1.両親媒性ペプチドで改変されたgp144およびgp188のクローニング、発現、および精製
原理の証明として、外膜を通してgp144およびgp188を導く両親媒性ペプチドのLPS破壊活性、ならびに結果として生じるグラム陰性細菌に対する抗細菌活性の可能性を示す。gp144およびgp188は、N末端ペプチドグリカン結合ドメインおよびC末端触媒ドメインを有する、シュードモナス・エルギノーサファージΦKZおよびELに由来するモジュラーエンドリシンである(Briers et al., 2007)。
・・・」
「【0103】
実施例2.疎水性ペプチドで改変されたgp144およびgp188のクローニング、発現、および精製
原理の証明として、外膜を通してgp144およびgp188を導く疎水性ペンタペプチドのLPS破壊活性、ならびに結果として生じるグラム陰性細菌に対する抗細菌活性の可能性を示す。gp144およびgp188は、N末端ペプチドグリカン結合ドメインおよびC末端触媒ドメインを有する、シュードモナス・エルギノーサファージΦKZおよびELに由来するモジュラーエンドリシンである(Briers et al., 2007)。
・・・」
「【0112】
実施例3:エンドリシンのN末端を種々のペプチドストレッチで改変されたKZ144およびSTM0016のクローニング、発現、および精製
SEQ ID NO: 25記載のKZ144は、N末端ペプチドグリカン結合ドメインおよびC末端触媒ドメインを有する、シュードモナス・エルギノーサのファージΦKZに由来するモジュラーエンドリシンである(Briers et al., 2007)。エンドリシンKZ144は、SEQ ID NO: 64記載の核酸分子によってコードされる。SEQ ID NO: 64記載の核酸分子を、核酸分子の5'端にBamH I (5'-GGA TCC-3')制限部位を、および核酸分子の3'端にXho I (5'-CTC GAG-3')制限部位を伴って合成的に産生した。
・・・」
「【0128】
実施例4:N末端を種々のペプチドストレッチで改変されたエンドリシンKZ144の抗微生物活性
KZ144およびペプチドストレッチα4ヘリックスからなる融合タンパク質を、実施例1において記載したように構築した。KZ144およびそれぞれのペプチドストレッチからなる他の融合タンパク質を、実施例3において記載したように構築した。
・・・
【0130】
これらの融合タンパク質の抗微生物活性を以下の表に示す。
【0131】
(表11)種々のペプチドストレッチで改変されたKZ144のグラム陰性細菌に対する抗微生物活性
[図:0001418517000003.jpg]
略語:±<1 log;+:1 log;++:2~3 log;+++:4またはそれ以上のlog;n.d.は、この株をそれぞれの融合タンパク質で試験しなかったことを意味する。」
「【0132】
実施例5:N末端を種々のペプチドストレッチで改変されたエンドリシンSTM0016の抗微生物活性
STM0016およびペプチドストレッチザルコトキシンIAまたはSMAP-29からなる融合タンパク質を、実施例3において記載したように構築した。
・・・
【0134】
(表12)
[図:0001418517000004.jpg]
略語:+:1 log;n.d.は、この株をそれぞれの融合タンパク質で試験しなかったことを意味する。」
「【0135】
実施例6:N末端をペプチドストレッチで改変されたエンドリシンN4gp61の抗微生物活性
N4gp61およびペプチドストレッチSMAP-29からなる融合タンパク質を、実施例3において記載したように構築した。
【0137】
(表13)
・・・
[図:0001418517000005.jpg]
略語:+:1 log;n.d.は、この株をそれぞれの融合タンパク質で試験しなかったことを意味する。」
「【0138】
実施例7:N末端をペプチドストレッチで改変されたエンドリシンgp188の抗微生物活性
エンドリシンgp188およびペプチドストレッチα4ヘリックス、SMAP-29、またはザルコトキシンIAからなる融合タンパク質を、実施例1において記載したように構築した。大腸菌DSMZ 11753、アシネトバクター・バウマニDSMZ 30007、およびシュードモナス・エルギノーサPAO1p細胞(熱傷創傷単離株、Queen Astrid Hospital, Brussels; Pirnay JP et al. (2003), J Clin Microbiol., 41(3):1192-1202)を、試験株として使用した。エンドリシンgp188およびそれぞれのペプチドストレッチからなる融合タンパク質の抗微生物活性を、実施例4において記載したように検討した。これらの融合タンパク質の抗微生物活性を以下の表に示す。
【0139】
(表14)
[図:0001418517000006.jpg]
略語:±<1 log;+:1 log;++:2~3 log;n.d.は、この株をそれぞれの融合タンパク質で試験しなかったことを意味する。」
「【0140】
実施例8:N末端をペプチドストレッチSMAP-29で改変されたサルモネラ属エンドリシンの抗微生物活性
SEQ ID NO: 3記載のアミノ酸配列を有するサルモネラ属エンドリシンおよびペプチドストレッチSMAP-29からなる融合タンパク質を、実施例3と同様に構築した。大腸菌DSMZ 11753およびサルモネラ・チフィムリウムDSMZ 17058を、試験株として使用した。融合タンパク質の抗微生物活性を、実施例4において記載したように検討した。この融合タンパク質の抗微生物活性を以下の表に示す。
【0141】
(表15)
[図:0001418517000007.jpg]
略語:+:1 log;」
「【0142】
実施例9:N末端を種々のペプチドストレッチで改変されたアシネトバクター・バウマニエンドリシンの抗微生物活性
SEQ ID NO: 5記載のアミノ酸配列を有するアシネトバクター・バウマニ エンドリシン、ならびにペプチドストレッチSMAP-29、シュージン1、およびスシ1からなる融合タンパク質を、実施例3と同様に構築した。アシネトバクター・バウマニDSMZ 30007およびシュードモナス・エルギノーサPAO1p細胞(熱傷創傷単離株、Queen Astrid Hospital, Brussels; Pirnay JP et al. (2003), J Clin Microbiol., 41(3):1192-1202)を、試験株として使用した。融合タンパク質の抗微生物活性を、実施例4において記載したように検討した。これらの融合タンパク質の抗微生物活性を以下の表に示す。
【0143】
(表16)
[図:0001418517000008.jpg]
略語:±<1 log;+:1 log;++:2~3 log;n.d.は、この株をそれぞれの融合タンパク質で試験しなかったことを意味する。」

(2)引用文献1(FEBS Letters ,1994年,Vol. 339,P. 108-112)

原査定の拒絶の理由で引用された、本願優先日前に頒布された刊行物である引用文献1には、次の事項が記載されている。なお、英語で記載されているので、当審による翻訳文で示す。下線は当審にて付記したものである。

ア 「ウサギ白血球由来リポ多糖結合タンパク質CAP18における主要な抗菌性ドメインの同定と特徴づけ」(第108頁表題)

イ 「宿主防御に関与する多くの抗菌性ポリペプチドが、様々な動物種から単離されている。一般に、これらのポリペプチドはカチオン性が強く、標的微生物の膜を撹乱ことによって作用する。この撹乱は、セクロピン、マガイニン、ディフェンシンで観察されるような両親媒性コンフォメーションの採用に依存している可能性が非常に高い。哺乳類では、多形核白血球の細胞質顆粒が防御ポリペプチドの主要な貯蔵場所であり、これらは多様な一次構造と多様な抗菌活性スペクトルを示す。
最近、ウシの好中球から構造的に無関係な3種類の抗菌ペプチドをクローニングし、それらのプロフォームが高度に保存されたプロ領域を共有していることが示された。この領域は、以前ブタの白血球から単離されたカテプシンL阻害剤であるカテリンと驚くほど相同性が高く、タンパク質分解で除去して、不活性型プロフォームを成熟抗菌ペプチドに変換する必要がある。カテリン様領域の存在は、ウサギ好中球由来の18kDaのカチオン性抗菌タンパク質CAP18と15kDaのタンパク質p15でも同定された。CAP18はリポ多糖(LPS)と結合することが報告されているが、我々の知る限りでは、その名称にも関わらず、その抗菌活性はまだ報告されていない。
カテリン様ドメインのC末端に位置するウシの抗菌ペプチドとの類似性から、我々はCAP18のC末端領域に抗菌ペプチドに典型的な特徴があるかどうかを調べた。残基106-125に相当するカチオン性の高い配列が同定され、両親媒性のαヘリックス構造を取ることが予測された。これらの収束的な示唆から、我々は対応するペプチドを合成し、その抗菌活性をテストすることにした。
本論文では、C18と名付けられたこの合成ペプチドが、グラム陰性およびグラム陽性の微生物に対して強力な殺菌活性を示すこと、また大腸菌の内膜に対して顕著な透過効果を示すことを示す。また、C18の構造的特徴、電荷、及び個々の残基が生物学的活性にどのように影響するかを調べるために設計された、C18の5つの合成アナログの生物学的活性についても報告する。」(第108頁左欄第1行~右欄第16行)
ウ 「cDNAから推定されたCAP18の塩基配列を調べたところ、106残基と125残基の間にカチオン性の高い領域があり(表l)、20残基中11残基がカチオン性であった。二次構造予測では、この領域がらせん状のコンフォメーションをとる可能性が高いことが示され、らせん状の輪の投影において両親媒性の性質を明らかに示した(図1)。・・・
既知の抗菌ペプチドとの類似性,この配列のカチオン性,カテリン様ドメインの後のその配置、そして予想されるαヘリックスで両親媒性の性質から,対応するペプチドが抗菌活性を持つ可能性が強く示唆された。
・・・
[図:0001418517000009.jpg]
[図:0001418517000010.jpg]
」(第109頁左欄下から第3行~第110頁左欄表1)
エ 「Cl8の構造がその生物学的活性にどのように影響するかを調べるために、5つのアナログ(表1)を合成し、精製し、親ペプチドと同様の方法で分析した。電荷と両親媒性を変化させるため、または活性に対する個々の残基の重要性を調べるために、適切なアミノ酸置換を導入した。
アナログC18P(Phe-9とIle-13をプロリンに変更、表1参照)は、電荷に影響を与えることなくαヘリックス形成の傾向を大幅に減少させるように設計された。C18K(Leu-6とIle-13をリジン残基に置換)は、両親媒性を減少させる一方でカチオン性を増加させるように設計された。C18AAでは、Arg-5とLys-16をアラニンに置換することにより、逆の効果が得られた。C18Q(Glu-15をグルタミンに置換)およびCl8A(Phe-9をアラニンに置換)は、それぞれC18に存在する単一のアニオン性残基および芳香族残基の役割を試験するために設計された。」(第110頁左欄下から第7行~右欄第11行)
オ 「表2に報告されているように、C18AAは親ペプチドに対して2倍から4倍の抗菌活性を示したが、緑膿菌に対する抗菌活性は例外としてわずかに効果が低かった。C18AAはCl8よりも速い速度論で大腸菌ML-35を透過させたが(定常状態での反応速度は超音波処理した菌の約80%、図3)、50μM濃度までは溶血活性を示さなかった。
・・・
[図:0001418517000011.jpg]
」(第110頁右欄下から第2行~第111頁左欄第6行、第111頁左欄末尾の表2)

カ 「膜透過実験の結果、Cl8は大腸菌ML-35株の内膜を急速に透過させることがわかった。膜の損傷は比較的大きな酵素の漏出を可能にするのに十分であることから、この損傷が細菌を死滅させる主要なイベントであると考えられる。C18の抗菌活性と膜透過活性におけるαヘリックス構造の重要性は、この構造が破壊されるか大きく低減した類似体(C18PとC18K)が無効であることによって示される。アナログC18AAは、より大きな抗菌活性とより速い透過動態を示すので、電荷を犠牲にして両親媒性を適度に増加させることで、親ペプチドの活性を増強することができる。」(第111頁右欄下から第7行~第112頁左欄第7行)

2 判断

(1)引用発明の認定

引用文献9は「抗微生物剤」の発明を開示する公報であって(上記1(1)ア)、その特許請求の範囲には、「グラム陰性細菌の細胞壁を分解する活性を有する酵素、および、該酵素のN末端もしくはC末端、または両方の末端において融合されるペプチドストレッチから構成される融合タンパク質であって、該ペプチドストレッチが、両親媒性ペプチド、スシ(sushi)ペプチド、デフェンシン、疎水性ペプチド、または抗微生物ペプチドである、融合タンパク質。」が記載されている(上記1(1)イ【請求項1】)。

さらに、同文献の発明の詳細な説明においては、前記「グラム陰性細菌の細胞壁を分解する活性を有する酵素」の筆頭にエンドリシンが挙げられる(上記1(1)イ【請求項7】)とともに、実施例では、専らエンドリシンに各種ペプチドストレッチを融合させた融合タンパク質を作製して試験したことが記載されている(上記1(1)カ)から、同文献には、前記「グラム陰性細菌の細胞壁を分解する活性を有する酵素」の代表例としてエンドリシンが開示されていると認められる。

そして、同文献には、前記「ペプチドストレッチ」について、「本発明のさらなる局面において、融合されるペプチドストレッチは抗微生物ペプチドであり、正味の正電荷および約50%の疎水性アミノ酸を含む。抗微生物ペプチドは、約12~約50個のアミノ酸残基の長さで、両親媒性である。本発明による抗微生物ペプチドの具体例を以下の表に列挙する。」(上記1(1)オ【0049】~【0050】)と記載され、表2に各種の抗微生物ペプチドが、そのアミノ酸配列とともに列挙され(上記(1)オ【0051】)、実施例では、「ペプチドストレッチ」として専ら表2に示される抗微生物ペプチドをエンドリシンと融合させたタンパク質を作製して試験したことが記載されている(上記1(1)カ)。

そうすると、引用文献9には、次のとおりの発明が記載されていると認められる。

「グラム陰性細菌の細胞壁を分解する活性を有する酵素、および、該酵素のN末端もしくはC末端、または両方の末端において融合されるペプチドストレッチから構成される融合タンパク質であって、該酵素がエンドリシンであり、該ペプチドストレッチが抗微生物ペプチドである、融合タンパク質」(以下、「引用発明」という。)

(2)対比

本願発明と引用発明とを対比する。

引用発明の「エンドリシン」は、引用文献9において、「本明細書において使用される「エンドリシン」という用語は、細菌の細胞壁を加水分解するのに適している酵素を指す。「エンドリシン」は、以下の活性の少なくとも1つを有する少なくとも1つの「酵素学的活性ドメイン」(EAD)を含む・・・本明細書において使用される「EAD」という用語は、エンドリシンの酵素学的活性ドメインを指す。EADは、細菌のペプチドグリカンを加水分解することを担当する。」(上記1(1)オ【0015】~【0016】)と説明されているから、細菌のペプチドグリカンを加水分解する活性を有するものであり、本願発明の「ペプチドグリカン加水分解酵素」に相当する。

また、引用発明の「ペプチドストレッチ」は、「グラム陰性細菌の細胞壁を分解する活性を有する酵素」とは異なるペプチドであり、「グラム陰性細菌の細胞壁を分解する活性を有する酵素」と人工的に融合されるものであるから、そのアミノ酸配列は、本願発明の「ペプチドグリカン加水分解酵素に対して異種のペプチド配列」に相当する。

そうすると、本願発明と引用発明とを対比した場合、両者の一致点及び相違点は、以下のとおりである。

<一致点>

いずれも「(a)ペプチドグリカン加水分解酵素の配列、および(b)ペプチドグリカン加水分解酵素に対して異種のペプチド配列を含む融合タンパク質」である点。

<相違点>

本願発明は、「異種のペプチド配列」について、「該異種ペプチド配列が配列モチーフを含み、

(i)配列モチーフが、16アミノ酸長、17アミノ酸長、18アミノ酸長、19アミノ酸長、または20アミノ酸長であり;

(ii)配列モチーフが、リジン、アルギニン、およびヒスチジンからなるアミノ酸の第1の群より選択されるアミノ酸を、少なくとも40%かつ多くとも60%含み、

各アミノ酸が第1の群より独立に選択され、

この第1の群より選択される各アミノ酸が、単独で、第1の群より選択されるさらなるアミノ酸との対で、または第1の群より選択される2個のさらなるアミノ酸とのブロックでのいずれかで、配列モチーフ内に配置されるが、第1の群より選択される3個以上のアミノ酸とのブロックでは生じず、第1の群より選択されるアミノ酸の対が、少なくとも2個、配列モチーフ内に存在し、連続する第1の群より選択されるアミノ酸のうちの3個を含むブロックは、多くとも1個、配列モチーフ内に存在し、但しさらなる条件として、第1の群の3個のアミノ酸を含むそのようなブロックが配列モチーフ内に存在する場合、3アミノ酸ブロックの最初のアミノ酸に対して-12位、-11位、-8位、-5位、-4位、+6位、+7位、+10位、+13位、および+14位のアミノ酸は、それぞれの位置が配列モチーフ内に見出され得るならば、第1の群より選択されず、

(iii)配列モチーフが、アラニン、グリシン、イソロイシン、ロイシン、フェニルアラニン、セリン、トレオニン、トリプトファン、チロシン、およびバリンからなるアミノ酸の第2の群より選択されるアミノ酸を、少なくとも40%かつ多くとも60%含み、

各アミノ酸が第2の群より独立に選択され、

第1の群より選択されるアミノ酸および第2の群より選択されるアミノ酸の合計が配列モチーフの100%となる場合、少なくとも3個の異なるアミノ酸がこの第2の群より選択され、

配列モチーフが少なくとも2個の単一の非隣接フェニルアラニン残基を含有しており、かつこれらのフェニルアラニン残基のうちの少なくとも1個の直前にリジン残基が存在する場合、配列モチーフが配列AFVを含まず、

配列モチーフが少なくとも3個の単一の非隣接ヒスチジン残基を含有する場合、配列モチーフが配列AALTH(SEQ ID NO:2)を含まず、

(iv)配列モチーフの残りのアミノ酸が、モチーフ内に存在する場合、アスパラギン、アスパラギン酸、グルタミン、グルタミン酸、メチオニン、またはシステインからなる第3の群より選択され、各アミノ酸が第3の群より独立に選択され、グルタミンが1回のみ選択され得、選択がグルタミンおよびグルタミン酸の組み合わせをさらに含み得ず、

(c)該融合タンパク質がSEQ ID NO:1の配列を含まず、かつ

該配列モチーフが、以下の表:

[図:0001418517000012.jpg]

に示された配列モチーフのうちの1種に適合し、ここで、「X」が、配列モチーフが第1の群より選択されるアミノ酸をそれぞれの位置において示さないことを表す」と特定されているのに対し、引用発明は、当該特定がない点。

(3)相違点についての判断

上記(2)で示した相違点について検討する。

引用文献9には、グラム陰性細菌の細胞壁を分解する活性を有する酵素に追加的なペプチドストレッチを融合させたタンパク質をグラム陰性細菌感染症の処置もしくは予防等の用途で使用することが記載されており(上記1(1)ウ)、当該ペプチドストレッチに用いる抗微生物ペプチドについては、「抗微生物ペプチド(AMP)は、実質的にあらゆる生物において見出され得る、広範な、短く、カチオン性で、遺伝子にコードされたペプチド抗生物質を意味する。・・・数個の共通の特徴(例えば、カチオン性、両親媒性、および短いサイズ)を共有するにもかかわらず、AMP配列は大きく変動し、かつ少なくとも4つの構造群(αへリックス、βシート、伸長型、およびループ型)が、観察されるAMP立体配座の多様性に対応するために提唱されている。」(上記1(1)エ【0005】)と記載され、カチオン性、両親媒性等の性質、αヘリックス、βシート等の構造的特徴が、例示的に挙げられるものの、「実質的にあらゆる生物において見出され得る、広範な、短く、カチオン性で、遺伝子にコードされたペプチド抗生物質」に該当する任意のペプチドを包含するものと理解できるように説明されている。

一方、抗菌性ペプチドに関する文献である引用文献1には、カチオン性の高い配列を有し、両親媒性のαヘリックス構造を取ることが予測された、ウサギ白血球由来リポ多糖結合タンパク質CAP18のC末端領域(残基106~125)に対応するC18と名付けられた合成ペプチドが、グラム陰性及びグラム陽性の微生物に対して強力な殺菌活性を示し、大腸菌の内膜に対して顕著な透過効果を示すこと(上記1(2)ア~ウ)、C18に対して両親媒性を減少させカチオン性を増加させるようにArg-5とLys-16をアラニン置換したC18AAは、C18の2~4倍の抗菌活性を示したこと(上記1(2)エ、オ)、C18AAは、C18や他のアナログに比べて、緑膿菌に対する活性を除いて、試験したペプチドの中で最も抗菌活性が高いこと(上記1(2)オ 表2)が記載されている。このとおり、引用文献1には、カチオン性が高く、両親媒性のαヘリックス構造を取ることが予測される、20アミノ酸からなるC18ペプチドのアミノ酸置換変異体のうち最高レベルに殺菌活性の高いものとしてC18AAペプチドが開示されている。

以上のとおり、引用文献9、1は、カチオン性のアミノ酸配列を有する短い抗微生物ペプチドに係る技術を開示する点で共通するものであり、さらに引用文献1に記載のC18AAペプチドは、引用文献9に記載の抗微生物ペプチドの一つの構造的特徴であるαヘリックス構造を取ることが予測されるC18ペプチドを改良した最高レベルに殺菌活性の高い変異体である。そうすると、両文献の記載に接した当業者であれば、グラム陰性細菌感染症の処置もしくは予防等の用途で使用する目的で、引用発明における「抗微生物ペプチド」として、引用文献1に記載のC18AAペプチドを適用することは、当業者が容易に想到し得たことである。

そして、引用文献1に記載のC18AAペプチドは、GLRKALRKFRNKIKEALKKIというアミノ酸配列からなるものであり(上記1(2)ウ 表1)、同ペプチドは、20アミノ酸長であり、本願発明における「第1の群より選択されるアミノ酸」を45%(9アミノ酸/20アミノ酸×100)有し、本願発明における「第2の群より選択されるアミノ酸」を45%(9アミノ酸/20アミノ酸×100)有し、同「第2の群より選択されるアミノ酸」として、グリシン、ロイシン、アラニン、フェニルアラニン、及びイソロイシンが用いられ、その他のアミノ酸としては、本願発明における「第3の群」より選択されるアミノ酸であるアスパラギン及びグルタミン酸が用いられている。さらに同ペプチドは、本願発明の表における配列モチーフ9に該当するものであることに加え、本願発明における「第1の群の3個のアミノ酸を含むそのようなブロックが配列モチーフ内に存在する場合」、「第1の群より選択されるアミノ酸および第2の群より選択されるアミノ酸の合計が配列モチーフの100%となる場合」、「配列モチーフが少なくとも2個の単一の非隣接フェニルアラニン残基を含有しており、かつこれらのフェニルアラニン残基のうちの少なくとも1個の直前にリジン残基が存在する場合」には該当せず、C18AAペプチドを用いた場合の融合タンパク質は、「融合タンパク質がSEQ ID NO:1の配列を含まない」という特定にも適合する。

したがって、引用発明において、「抗微生物ペプチド」に引用文献1に記載のC18AAペプチドを適用して得られる融合タンパク質は、本願発明に包含されるものである。

(4)本願発明の効果について

本願の実施例においては、本願明細書に記載された「ペプチドグリカン加水分解酵素と抗微生物ペプチドとのランダムな組み合わせと比較して改善された結果を提供する、新しい抗微生物剤を提供する」(本願明細書【0005】)という目的に従って、エンドリシンと公知の抗微生物ペプチドとを融合させたタンパク質について、いくつかのエンドリシンといくつかの公知の抗微生物ペプチドの組合せを採用して、本願発明の範囲に含まれるように抗微生物ペプチドを変異させた場合に、変異させない場合と比べて、抗微生物活性が向上したことが具体的に示されてはいる。

しかしながら、本願発明は、「異種のペプチド配列」が有する「配列モチーフ」について、アミノ酸長、特定のアミノ酸群から選択されるアミノ酸の構成割合、表で示されるアミノ酸の位置要件等で特定されるに過ぎず、当該「配列モチーフ」は、莫大な数のアミノ酸配列を包含するものである。そして、本願明細書には、本願発明の「(i)」で特定されるアミノ酸長、「(ii)」~「(iv)」で特定されるアミノ酸の選択、及び表で特定されるアミノ酸の位置、それぞれの技術的意義やそれらを兼ね備えることと抗微生物活性との関連性や技術的意義について何ら記載されていないので、当業者といえども、実施例で示された効果が、本願発明で特定される任意の「配列モチーフ」を用いた場合にも同様に奏されると認識することはできないというべきである。

さらに、引用文献9には、実施例において、「抗微生物ペプチド」としてSMAP-29、ザルコトキシンIA、プレウロシジンを用いた場合の抗微生物活性が示されており(上記1(1)カ【0131】(表11)、【0134】(表12)、【0135】(表13)、【0138】(表14)、【0141】(表15)、【0143】(表16))、これらペプチドの配列は、本願発明において「・・・を含まず」又は「・・・を含み得ず」という特定がなければ、本願発明の「配列モチーフ」を含む「異種ペプチド配列」に含まれるものであるから、本願発明の「(i)」で特定されるアミノ酸長、「(ii)」~「(iv)」で特定されるアミノ酸の選択、及び表で特定されるアミノ酸の位置、それぞれの技術的意義やそれらを兼ね備えることと抗微生物活性との関連性や技術的意義は不明であり、本願発明に規定される融合タンパク質が、引用文献9の実施例で示される程度の抗微生物活性を有し得ることは、当業者が十分に予測できるといえる。

そうすると、本願発明の効果について、引用文献9、1から予測される範囲を超えた格別顕著なものと認めるに足りる根拠はない。

(5)請求人の主張について

ア 請求人の主張

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請求人は、令和5年2月21日提出の手続補正書(請求の理由)において、引用文献9、1に基づく容易想到性に係る点について、要するに以下の旨、主張している。

(ア)引用文献9、1のいずれの文献にも、本願発明に規定される配列モチーフを含む異種ペプチド配列、そして当該配列がペプチドの抗微生物活性を最適化するために重要な構造であること、及び本願発明に規定される配列モチーフを含むペプチドが、ペプチドグリカン加水分解酵素の融合パートナーとして特に適していることについて、記載も示唆されていない。さらに、引用文献9には、【0056】において「本発明による融合タンパク質のペプチドストレッチは、アミノ酸配列の改変および/または変更を含む。」との一般的な記載があるにとどまり、【0049】、【0046】~【0047】においても、より優れた性質を有するペプチドを選択するための方法は記載されていない。以上より、本願発明に規定される配列モチーフを含むペプチドをペプチドグリカン加水分解酵素と組み合わせて、本願発明に係る融合タンパク質を作製することは、当業者にとって動機がなく、不可能又は著しく困難である。

(イ)本願発明に規定される配列モチーフを含むペプチドがペプチドグリカン加水分解酵素の優れた融合パートナーであって、当該ペプチドを含む融合タンパク質が顕著な効果を奏することは、本願明細書の記載から明らかである。具体的には、本願実施例において、本願発明に規定される配列モチーフを含む20種以上もの本願発明に係る融合タンパク質が作製され、本願発明に規定される配列モチーフを含まない融合タンパク質と比べて高い抗菌活性を有することが実証されている。以上より、本願明細書の記載に触れた当業者は、本願発明に規定される配列モチーフを含む本願発明に係る融合タンパク質が、本願実施例に具体的に記載されたものと同様に優れた効果を奏する蓋然性が高いことを理解する。

イ 判断

主張(ア)について、引用文献9、1において、本願発明に規定される配列モチーフが開示されていないとしても、両文献を組み合わせて本願発明に容易に到達できることは、上記(3)で述べたとおりであり、主張(イ)について、本願実施例において、本願発明に包含される特定の場合に優れた効果を奏することが示されているとしても、本願発明全体にわたって同等の効果を奏するとはいえないことは、上記(4)で述べたとおりであるから、請求人の主張は採用できない。

(6)小括

上記(1)~(5)の次第であるから、本願発明は、引用文献9及び1に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。

第5 むすび

以上のとおり、本願発明は、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、その余について検討するまでもなく、本願は拒絶すべきものである。

よって、結論のとおり審決する。

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2022-021291

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