特許拒絶査定不服審判
2022-020556
有害物質の吸入抑制方法
- 審判番号
- 2022-020556
- 法域
- 特許
- 審判種別
- 拒絶査定不服審判(拒絶査定不服の審決)
- 出願番号
- 特願2018-172131外部サイト(J-PlatPat)へ移動します
- 請求日
- 2022年12月19日
- 審決日
- 2024年12月24日
- 公報発行日
- 2025年04月25日
- 結論
- 請求不成立
- 当事者
- 【請求人】フマキラー株式会社
- 【請求人代理人】弁理士法人前田特許事務所
- 分類
- P18 .121-WZ (A41D)
- 根拠条文(結論部分から自動抽出・参考)
- 特許法29条2項
- 条文(本文から自動抽出・参考)
- 特許法第29条第2項、特許法第29条第1項第3号、特許法第36条第6項第2号
- データ出所
- 審決公報(XML)
事件の表示
特願2018-172131号「有害物質の吸入抑制方法」拒絶査定不服審判事件〔令和2年3月26日出願公開、特開2020-45582号〕について、次のとおり審決する。
結論
結 論
本件審判の請求は、成り立たない。
理由
理 由
第1 手続の経緯
本願は、平成30年9月14日の出願であって、その手続の経緯の概略は次のとおりである。
令和4年 3月24日付け:拒絶理由通知書
令和4年 6月 1日 :意見書、手続補正書の提出
令和4年 9月28日付け:拒絶査定(以下「原査定」という。)
(令和4年10月04日 :原査定の謄本の送達)
令和4年12月19日 :審判請求書の提出
令和6年 8月 7日付け:拒絶理由通知書
令和6年10月16日 :意見書、手続補正書の提出
第2 本願発明
本願の請求項1に係る発明(以下、請求項1に係る発明を「本願発明」という。)は、令和6年10月16日提出の手続補正書によって補正された特許請求の範囲の請求項1に記載された事項により特定されるとおりのものであるところ、請求項1の記載は次のとおりである。
「【請求項1】
有害物質の吸入抑制方法において、
人間の顔に装着されたマスクの周縁部と顔との隙間から空気中の有害物質が吸入されるのを抑制するバリアを形成する吸入抑制剤を前記マスクの外面に噴霧して前記マスクの外面に均一に付着させるマスク処理工程を備え、
前記吸入抑制剤は、陽電荷ポリマーを含んでいることを特徴とする有害物質の吸入抑制方法。」
第3 当審拒絶理由の概要
令和6年8月7日付けで通知した拒絶理由(以下「当審拒絶理由」という。)の概要は、次のとおりのものである。
<引用文献1を主引用例とする拒絶理由>
拒絶理由1(新規性)この出願の請求項1、5に係る発明は、その出願前に日本国内又は外国において、頒布された引用文献1に記載された発明であるから、特許法第29条第1項第3号に該当し、特許を受けることができない。
拒絶理由2(進歩性)この出願の請求項1~5に係る発明は、その出願前に日本国内又は外国において、頒布された引用文献1に記載された発明及び周知技術(引用文献2、3)に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者(以下、「当業者」という。)が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
<引用文献2を主引用例とする拒絶理由>
拒絶理由1(新規性)この出願の請求項1~5に係る発明は、その出願前に日本国内又は外国において、頒布された引用文献2に記載された発明であるから、特許法第29条第1項第3号に該当し、特許を受けることができない。
拒絶理由2(進歩性)この出願の請求項1~5に係る発明は、その出願前に日本国内又は外国において、頒布された引用文献2に記載された発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
<引用文献3を主引用例とする拒絶理由>
拒絶理由1(新規性)この出願の請求項1~5に係る発明は、その出願前に日本国内又は外国において、頒布された引用文献3に記載された発明であるから、特許法第29条第1項第3号に該当し、特許を受けることができない。
拒絶理由2(進歩性)この出願の請求項1~5に係る発明は、その出願前に日本国内又は外国において、頒布された引用文献3に記載された発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
<引用文献4を主引用例とする拒絶理由>
拒絶理由2(進歩性)この出願の請求項1~5に係る発明は、その出願前に日本国内又は外国において、頒布された引用文献4に記載された発明及び周知技術(引用文献5、6)に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
拒絶理由3(明確性)この出願は、特許請求の範囲の記載が、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない。具体的には、請求項1の「マスクの外面に噴霧して付着させるマスク処理剤」について、噴霧箇所の特定がマスク処理剤という「物」に対してどのような意味を持つか不明であり、マスク処理剤を特定できず、並びに請求項1の「空気中の有害物質が吸入されるのを抑制するバリアを前記マスクの周縁部と顔との隙間に形成する吸入抑制剤」及び請求項5の「人間の顔に装着されたマスクの周縁部と顔との隙間から空気中の有害物質が吸入されるのを抑制するバリアを形成する吸入抑制剤」について、「吸入抑制剤」がいかなるものであるのか一義的に特定することができない。
<引用文献等一覧>
1.特開2017-222947号公報
2.特開2006-2147号公報(周知技術を示す文献としても提示している。)
3.特表2012-504974号公報(周知技術を示す文献としても提示している。)
4.特開2014-57724号公報
5.特開2016-84472号公報(周知技術を示す文献)
6.特開2005-336056号公報(周知技術を示す文献)
第4 当審の判断
当審は、以下に示すとおり、令和6年10月16日提出の手続補正書による補正及び意見書(以下「意見書」という。)の内容を考慮しても、上記第3に記載した当審拒絶理由のうち、引用文献1を主引用例とする拒絶理由2(進歩性)は解消していないと判断する。
1 引用文献
(1) 引用文献1について
ア 引用文献1の記載
引用文献1には、以下の記載がある。なお下線は当審が付した。また「・・・」は省略を表す。以下同様である。
「【請求項1】
透光性を有する透光繊維からなる布状体を用いて構成されており、
該透光繊維間に形成された気孔によって該布状体の透光性と通気性が向上されて装着時に口許の輪郭が外部から視認可能な透明度が設定されていると共に、
空中に浮遊する微小異物の透過を抑止する透過抑止剤が該透光繊維に付着されていることを特徴とする透明マスク。
・・・
【請求項3】
前記透過抑止剤が、帯電性の前記微小異物に対して吸着力又は反発力を及ぼす電荷特性を有している請求項1又は2に記載の透明マスク。」
「【0015】
すなわち、上記の如き気孔を設けることで通気性および透明性は向上されるものの、透光繊維が一般に単線構造の合成樹脂製であることも相俟って、充分なフィルタ性能を得難いという、新たな課題を内在することとなる。要するに、通気性および透明性とフィルタ性とは相反するものであり、本出願人は、通気性と透明性とフィルタ性の何れをも高い水準で達成するという従来にはない新しい課題を見出し、本態様によって、かかる課題を解決するに至ったのである。そして、本態様では、上述のように透光繊維に透過抑止剤を付着させることで微小異物の透過を抑止して、十分なフィルタ性を獲得したのであり、透光性を有する繊維から形成されるマスクであっても、通気性、透明性およびフィルタ性の何れもが高い水準で発揮され得るのである。」
「【0035】
先ず、図1~3には、本発明の一実施形態としての透明マスク10が示されている。この透明マスク10は、図4に示されるように、着用者Aが装着することで、着用者Aの鼻孔および口腔を覆って、空中に浮遊する微小異物の鼻孔および口腔内への侵入を防止するようになっている。また、透明性を有することで、マスク10に覆われた着用者Aの口許の輪郭が外部から視認可能とされている。」
「【0050】
ここにおいて、布状体12を構成する透光繊維20には、空中に浮遊する微小異物の、透明マスク10の透過を抑止する透過抑止剤24が付着されている。なお、透過抑止剤24を図2,3中において、黒太線で示す。かかる透過抑止剤24としては、例えば吸着や反発作用により微小異物の透過を抑止するものが採用される。
【0051】
透過抑止剤24の具体例は以下に例示するが、かかる透過抑止剤24は、透光繊維20の表面に対して、部分的に、或いは略全体に亘って付着させることができる。透光繊維20の表面の略全体に亘って透過抑止剤24を付着させる場合には、透過抑止剤24として、可視光線の透過性に優れたものが好適である。透過抑止剤24を付着させることで、透光繊維20の平行光線透過率αが大幅に低下しないことが望ましく、布状体12の平行光線透過率βが上述の好適範囲に設定され得ることが好適である。
【0052】
すなわち、例えば透過抑止剤24が、吸着作用により微小異物の透過を抑止する場合には、透過抑止剤24が、例えばある程度の粘着性を有して、微小異物が透過抑止剤24に対して粘りつくことで、微小異物の透過が抑止されるようになっている。
【0053】
かかる粘着性を有する透過抑止剤24としては、例えば抗ウィルス性や抗菌性または殺菌性を示す薬剤や、天然または合成高分子物質、あるいはそれらに粘着性を付与する添加剤を加えたものなどが挙げられる。透過抑止剤24として抗ウィルス剤や抗菌剤または殺菌剤が採用される場合には、ウィルスや細菌が透過抑止剤24に捕捉されることでウィルスや細菌の活性が失われることから、例えば仮にウィルスや細菌が透過抑止剤24から脱離して着用者Aが吸入したとしても、感染症を引き起こすおそれが低減され得る。具体的には、抗ウィルス性や抗菌性などを示す薬剤としては、例えば特許第4830075号公報に記載のケイ素含有化合物などが好適に採用される。また、高分子物質としては、例えばアクリル樹脂、天然ゴム、スチレン-ブタジエンゴム、スチレン-イソプロピレンゴム、ブチルゴム、ポリイソプレン、シリコーン樹脂などの弾性を示すゴムなどが好適に採用される。
【0054】
また、例えば透過抑止剤24が、微小異物を電気的に吸着するようになっていてもよい。すなわち、透過抑止剤24が正または負の電荷を有する場合には、反対の電荷を有する微小異物を電気的に吸着させることができる。かかる透過抑止剤24としては、例えばプラスイオンやマイナスイオンを有する溶液などが採用され得て、反対の電荷(イオン)を有する微小異物を吸着することができる。あるいは、透過抑止剤24が、例えば人工的な静電気領域を形成する物質であってもよく、例えば特許第4870431号公報に記載の化合物が好適に採用され得る。
【0055】
さらに、透過抑止剤24として、多孔質の活性炭の粉末なども採用され得る。このような多孔質の物質を採用することで、孔内に微小異物を捕捉、吸着させることができる。なお、固体の透過抑止剤は、例えば接着剤や粘着剤を用いて繊維表面に付着され得るし、或いは繊維間に機械的に固着することも可能である。更にまた、透過抑止剤24として、水などの溶媒も採用され得る。これにより、例えば可溶性の微小異物を吸着して、透過抑止剤24内に溶解して捕捉することも可能である。
【0056】
あるいは、透過抑止剤24が、反発作用により微小異物の透過を抑止する場合には、例えば透過抑止剤24としては上記特許第4870431号公報に記載の化合物や、正または負の電荷(プラスイオンまたはマイナスイオンなど)を有する溶液などが挙げられる。これにより、同じ電荷を有する微小異物の透過が抑止される。または、透過抑止剤24として、撥水性を示す疎水性物質などが挙げられる。これにより、液状の微小異物の透過が抑止され得る。かかる疎水性物質としては、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)などが好適に採用され得る。なお、液状の微小異物としては、例えば感染症患者のくしゃみによる飛沫などが挙げられる。」
「【0058】
上記の如き透過抑止剤24は、流動状またはゲル状とされることが好適である。なお、流動状またはゲル状の透過抑止剤24は、例えば軟膏、ペースト、クリームまたはゲルの何れかの状態であることが好ましい。これにより、透光繊維20に透過抑止剤24を刷毛などで塗布することができて、透過抑止剤24を透光繊維20の表面に更に確実に付着させることができる。また、透過抑止剤24が、粘性の低い液体とされる場合には、透光繊維20を透過抑止剤24に浸漬したり、透光繊維20にスプレーで吹き付けたりすることも可能である。なお、透過抑止剤24は、例えば電荷や光触媒の作用のように乾燥状態で機能を発揮する場合に、繊維表面に対して乾燥状態で付着していても良い。」
「【0068】
また、前記実施形態では、透光繊維20に透過抑止剤24を付着させた後、当該透光繊維20を用いてフィルタ部16を形成していたが、かかる態様に限定されるものではない。すなわち、透光繊維を用いて透明なマスクを形成した後、該マスクの表面や裏面から液体状の透過抑止剤をスプレーで吹き付けたり、ゲル状の透過抑止剤を塗布したりして付着させてもよい。このように、マスクを形成した後、透過抑止剤を付着させることで、簡単に付着させることができるだけでなく、透光繊維の表面に加えて、透過抑止剤を気孔の内部に担持させることも可能となる。また、透過抑止剤が必要となるときに、必要な量だけ付着させることができることから、透過抑止剤が過剰に付着されることが回避されて、コストの低下も図られ得る。なお、透過抑止剤を付着させた後に、必要に応じて、例えばエアコンプレッサーなどを用いて圧縮空気を吹き付ける等して過剰の透過抑止剤を除去したり、適宜の量の透過抑止剤に調節設定することも可能であり、透過抑止剤の付着量を調節することで、通気性ひいては装着者の呼吸のし易さ等を調節することも可能である。尤も、予め付着せしめた透過抑止剤に加えて、使用者が好みの量の透過抑止剤を任意の箇所に追加的に付着させるようにすることも可能であり、透過抑止剤を現場で装着前に付着させるようにしても良い。また、装着者の呼吸や吐息に伴う気圧などによって、過剰の透過抑止剤を除去等させるようにすることも可能であり、透過抑止剤で気孔が目詰まり状態で提供されたマスクを、装着によって適切な気孔が発現されるようにすることも可能である。」
イ 引用文献1の記載から認定できる事項
(ア)上記ア【0068】には「透光繊維を用いて透明なマスクを形成した後、該マスクの表面や裏面から液体状の透過抑止剤をスプレーで吹き付けたり、ゲル状の透過抑止剤を塗布したりして付着させてもよい。」と記載されており、引用文献1のものは、マスクの表面や裏面に透過抑止剤24をスプレーで吹き付けてマスクの表面や裏面に付着させるマスク処理工程を有しているといえる。
(イ)上記ア【0068】のマスク処理工程に加え、「この透明マスク10は、図4に示されるように、着用者Aが装着することで、着用者Aの鼻孔および口腔を覆って、空中に浮遊する微小異物の鼻孔および口腔内への侵入を防止するようになっている。」(上記ア【0035】)の記載及び「布状体12を構成する透光繊維20には、空中に浮遊する微小異物の、透明マスク10の透過を抑止する透過抑止剤24が付着されている。」(上記ア【0050】)の記載を踏まえると、引用文献1には、微小異物の吸入抑制方法について記載されているといえる。
(ウ)上記ア【0054】の「透過抑止剤24が、微小異物を電気的に吸着するようになっていてもよい。すなわち、透過抑止剤24が正または負の電荷を有する場合には、反対の電荷を有する微小異物を電気的に吸着させることができる。・・・あるいは、透過抑止剤24が、例えば人工的な静電気領域を形成する物質であってもよく・・・」の記載から、静電気領域が微小異物を電気的に吸着し、微小異物が吸入されることを抑制していることが分かる。
ウ 引用文献1に記載された発明
上記ア及びイを総合的に勘案すると、引用文献1には、以下の発明(以下「引用発明」という。)が記載されているといえる。
「微小異物の吸入抑制方法において、
着用者Aの顔に装着された透明マスク10を透過して空中に浮遊する微小異物が吸収されるのを抑制する静電気領域を形成する透過抑止剤24を透明マスク10の表面や裏面にスプレーで吹き付けて透明マスク10の表面や裏面に付着させるマスク処理工程を備え、
前記透過抑止剤24は、正または負の電荷により静電気領域を形成する物質である、微小異物の吸入抑制方法。」
(2) 周知技術について
ア 引用文献2
(ア)引用文献2に記載された事項
引用文献2には、以下の記載がある。
「【0017】
本発明により、毛髪や衣類等に塗布・噴霧することによって、これら毛髪や衣類等への花粉の吸着を簡便にかつ積極的に防止する花粉吸着防止剤が提供される。」
「【0039】
本発明花粉吸着防止剤には、本発明の効果を損なわない質的、量的範囲内で、必要に応じて、さらに、高級アルコール、酸化防止剤、紫外線吸収剤、金属封鎖剤、保湿剤、香料、防腐剤、界面活性剤、消臭剤(例えばシリカゲル等)、固着剤等や、上記両性イオン基、アニオン基以外のイオン基、すなわち例えばカチオ ン系ポリマー、ノニオン系ポリマーや、シリコン系ポリマー等を配合してもよい。」
「【0040】
本発明花粉吸着防止剤の使用方法としては、例えばスプレーの場合、花粉吸着を防止したい対象物(衣服、毛髪、など)にあらかじめ噴霧しておくことにより、これら対象物への花粉の吸着を積極的に防止することができる。」
「【0042】
噴霧・塗布は花粉に接触しやすい部位(例えば衣服であれば上着等)に塗布・噴霧するのが好ましい。」
「【0046】
[両性イオン基を有するモノマーユニットを構成単位として含むポリマー]
ポリマー1: 2-メタクリロイロキシエチルホスホリルコリン-メタクリル酸ブチルエステル共重合体
ポリマー2: N-メタクリロイルオキシエチルN,N-ジメチルアンモニウム-α-N-カルボキシベタイン・メタクリル酸ヘキシルエステル共重合体」
「【0051】
(実施例1)
ポリマー1の濃度を0.0001、0001、0.01、0.1、1.0、10質量%濃度で配合した溶液(ポリマー溶液)を調製した。
【0052】
それぞれのポリマー溶液100mL中に、それぞれ市販品マスク(不織布使用)を60秒間浸漬した後、該マスクを取り出し、これを室温で一晩放置して乾燥させたものを試料とした。」
「【0063】
(実施例4 エアゾールスプレー)
(配 合 成 分) (質量%)
2-(メタ)アクリロイロキシエチルホスホリルコリン-(メタ)アクリル酸
-(メタ)アクリル酸ブチルエステル共重合体 0.2
ポリオキシエチレン硬化ヒマシ油 0.1
エチルアルコール 50.0
精製水 10.0
香料 適 量
ジメチルエーテル(噴射剤) 残 部」
(イ) 引用文献2の記載から認定できる事項
上記【0051】、【0052】をみるに、実施例として、花粉吸着防止剤を浸漬した市販品マスクを試料としているので、花粉吸着防止剤を塗布・噴霧する対象物としてマスクを想定している。
また、本願明細書【0046】には、「このような陽電荷ポリマーとしては、例えば・・・POLYQUATERNIUM-51・・・等を挙げることができる。」と記載されているところ、「POLYQUATERNIUM-51」は、2-メタクリロイロキシエチルホスホリルコリン-タクリル酸ブチルエステル共重合体である(必要あれば日本化粧品工業連合会の化粧品の成分表示名称リスト等で確認されたい。)から、上記【0046】の「ポリマー1(2-メタクリロイロキシエチルホスホリルコリン-メタクリル酸ブチルエステル共重合体)」は、陽電荷ポリマーである。
イ 引用文献3
(ア)引用文献3に記載された事項
引用文献3には、以下の記載がある。
「【請求項1】
使用者の鼻及び口を覆って着用される、有害汚染物質が実質的に透過しない通気性マスクを作製する方法であって、
a) カチオン性又はアニオン性の特性を有する剤を含む製剤でマスクをコーティングすること、
b) マスクの近傍に静電場を成立させるための剤を用いること、及び
b) 同様に帯電した汚染物質をマスクに寄せ付けず、逆帯電した汚染物質を誘引及び捕捉するための剤を用いること、
を含み、使用者の鼻及び口に到達する当該汚染物質をより少なくする、方法。」
「【請求項4】
マスクのコーティングが使用前の時点で行われる、請求項1の方法。
【請求項5】
製剤が流体粘稠度を有し、当該製剤が液体又は懸濁液のいずれかである、請求項1の方法。
【請求項6】
マスクのコーティングがエアゾールスプレー又はポンプスプレーを用いて達成される、5の方法。」
「【請求項10】
コーティングが、使用前の時点でマスクに適用される、請求項7の通気性マスク。
【請求項11】
コーティングが、
・少なくとも1種の第4級コンディショナー;
・保湿剤;
・保存剤;及び
・殺生物剤
を更に含む製剤を含む、請求項7の通気性マスク。
・・・
【請求項13】
製剤中の少なくとも1種の第4級コンディショナーが
・ポリクオタニウム-6、
・ポリクオタニウム-7、
・ポリクオタニウム-10、
・ポリクオタニウム-22、
・ポリクオタニウム-70、
・マーコート280
・マーコート10
・マーコート5
・ココジモニウムヒドロキシプロピル加水分解ケラチン、
・4級化カラスムギ、加水分解カラスムギタンパク質、及び
・塩化ベンザルコニウム(Benzylkonium)
からなる群から選択される、請求項11の通気性マスク。」
(イ) 引用文献3の記載から認定できる事項
本願明細書【0046】には、「このような陽電荷ポリマーとしては、例えば、POLYQUATERNIUM-10、・・・POLYQUATERNIUM-7等を挙げることができる。」と記載されているから、上記【請求項13】の「ポリクオタニウム-7」及び「ポリクオタニウム-10」は、陽電荷ポリマーである。
ウ 周知技術の認定
上記ア、イに例示されるように、次の技術事項は当業者にとって周知技術であったと認められる。
「有害物質の吸入を抑制するためにマスクに吸入抑制剤を噴霧するものにおいて、マスクに噴霧する吸入抑制剤として、陽電荷ポリマーを含むものを用いること。」
2 進歩性
(1) 対比
本願発明と引用発明とを対比する。
引用発明の「微小異物」は、本願発明の「有害物質」に相当し、引用発明の「微小異物の吸入抑制方法」は、本願発明の「有害物質の吸入抑制方法」に相当する。
本願明細書【0045】における「バリアは、吸入抑制剤が持つ電荷によって形成することができ、電荷によってバリアを形成することで、クーロン力を有害物質に与えて有害物質をマスクに吸引できる。」という記載を踏まえると、引用発明の「静電気領域」は、微小異物を電気的に吸着し、微小異物が吸入されることを抑制しているから(上記1(1)イ(ウ))、本願発明の「空気中の有害物質が吸入されるのを抑制するバリア」に相当する。
引用発明の「着用者Aの顔に装着された透明マスク10を透過して空中に浮遊する微小異物が吸収されるのを抑制する静電気領域を形成する透過抑止剤24」は、本願発明の「人間の顔に装着されたマスクの周縁部と顔との隙間から空気中の有害物質が吸入されるのを抑制するバリアを形成する吸入抑制剤」と、「空気中の有害物質が吸入されるのを抑制するバリアを形成する吸入抑制剤」という限りにおいて一致する。
引用発明の「透過抑止剤24を透明マスク10の表面や裏面にスプレーで吹き付けて透明マスク10の表面や裏面に付着させるマスク処理工程」は、本願発明の「吸入抑制剤を前記マスクの外面に噴霧して前記マスクの外面に均一に付着させるマスク処理工程」と、「吸入抑制剤を前記マスクの外面に噴霧して前記マスクの外面に付着させるマスク処理工程」という限りにおいて一致する。
引用発明の「前記透過抑止剤24は、正または負の電荷により静電気領域を形成する物質である」ことは、本願発明の「前記吸入抑制剤は、陽電荷ポリマーを含んでいる」ことと、「前記吸入抑制剤は、電荷を有した物質を含んでいる」という限りにおいて一致する。
したがって、本願発明と引用発明とは、
「有害物質の吸入抑制方法において、
空気中の有害物質が吸入されるのを抑制するバリアを形成する吸入抑制剤を前記マスクの外面に噴霧して前記マスクの外面に付着させるマスク処理工程を備え、
前記吸入抑制剤は、電荷を有した物質を含んでいる有害物質の吸入抑制方法。」
である点で一致し、以下の点で相違している。
<相違点1>
空気中の有害物質が吸入されるのを抑制するバリアに関して、
本願発明のバリアは、「人間の顔に装着されたマスクの周縁部と顔との隙間から空気中の有害物質が吸入されるのを抑制する」のに対して、
引用発明の静電気領域は、「着用者Aの顔に装着された透明マスク10を透過して空中に浮遊する微小異物が吸収されるのを抑制する」点。
<相違点2>
本願発明は、「吸入抑制剤をマスクの外面に均一に付着させる」のに対して、
引用発明は、「透過抑止剤24を透明マスク10の表面や裏面にスプレーで吹き付けて透明マスク10の表面や裏面に付着させる」ものの、均一に付着させているか否か不明である点。
<相違点3>
吸入抑制剤が電荷を有した物質を含んでいることに関して、
本願発明の吸入抑制剤は、「陽電荷ポリマーを含んでいる」のに対して、
引用発明の透過抑止剤24は、陽電荷ポリマーを含んでいるか否か不明である点。
(2) 判断
ア 相違点1及び相違点3について
相違点1と相違点3は、いずれもバリアに関することであり、相互に関連するものであるから、相違点1及び相違点3はまとめて検討する。
引用文献1には、「布状体12を構成する透光繊維20には、空中に浮遊する微小異物の、透明マスク10の透過を抑止する透過抑止剤24が付着されている。」(上記1(1)ア【0050】)と記載されており、引用発明の透過抑止剤24は、空中に浮遊する微小異物に作用するものである。
また、引用文献1には、「かかる透過抑止剤24としては、例えば吸着や反発作用により微小異物の透過を抑止するものが採用される。」(上記1(1)ア【0050】)、「例えば透過抑止剤24が、微小異物を電気的に吸着するようになっていてもよい。すなわち、透過抑止剤24が正または負の電荷を有する場合には、反対の電荷を有する微小異物を電気的に吸着させることができる。かかる透過抑止剤24としては、例えばプラスイオンやマイナスイオンを有する溶液などが採用され得て、反対の電荷(イオン)を有する微小異物を吸着することができる。あるいは、透過抑止剤24が、例えば人工的な静電気領域を形成する物質であってもよく、例えば特許第4870431号公報に記載の化合物が好適に採用され得る。」(上記1(1)ア【0054】)、「透過抑止剤24が、反発作用により微小異物の透過を抑止する場合には、例えば透過抑止剤24としては上記特許第4870431号公報に記載の化合物や、正または負の電荷(プラスイオンまたはマイナスイオンなど)を有する溶液などが挙げられる。これにより、同じ電荷を有する微小異物の透過が抑止される。」(上記1(1)ア【0056】)と記載されており、引用発明の透過抑止剤24は、吸着作用、反発作用により微小異物の透過を抑止するものであり、マスク近傍の微小異物に対して静電気力を及ぼすものである。
ここで、本願発明の「人間の顔に装着されたマスクの周縁部と顔との隙間」は、通常のマスクであれば、マスクを顔の形に倣って変形させ顔に装着するので隙間はほとんどないものであるが、会話や表情の変化による顔の動きに追従しきれないために、瞬間的に生じ得る微少なものである。
そうすると、引用発明において、マスク近傍の微小異物に対して静電気力を及ぼす透過抑止剤24により、微少な隙間といえる「人間の顔に装着されたマスクの周縁部と顔との隙間」から空気中の有害物質が吸入されるのを抑制することは、当業者であれば容易に想到し得るものである。
引用文献1には、「透過抑止剤24が、微小異物を電気的に吸着するようになっていてもよい。・・・透過抑止剤24が、例えば人工的な静電気領域を形成する物質であってもよく・・・」(上記1(1)ア【0054】)と記載されている。
ここで、有害物質の吸入を抑制するためにマスクに吸入抑制剤を噴霧するものにおいて、マスクに噴霧する吸入抑制剤として、陽電荷ポリマーを含むものを用いることは周知技術である(上記1(2)ウ)。
そうすると、引用発明において、周知技術に記載された陽電荷ポリマーを採用することは、当業者であれば容易になし得るものである。
イ 相違点2について
引用文献1には、「かかる透過抑止剤24は、透光繊維20の表面に対して、部分的に、或いは略全体に亘って付着させることができる。」(上記1(1)ア【0051】)、「透過抑止剤が必要となるときに、必要な量だけ付着させることができることから、・・・。なお、透過抑止剤を付着させた後に、必要に応じて、例えばエアコンプレッサーなどを用いて圧縮空気を吹き付ける等して過剰の透過抑止剤を除去したり、適宜の量の透過抑止剤に調節設定することも可能であり、・・・。尤も、予め付着せしめた透過抑止剤に加えて、使用者が好みの量の透過抑止剤を任意の箇所に追加的に付着させるようにすることも可能であり、・・・。」と記載されており、引用発明のものは、透過抑制剤24をどこかに集中して付着させたり、特定の場所には付着させないことを意図しているものではない。
そうすると、引用発明において、必要に応じて、透明マスク10に透過抑止剤24を均一に付着させることは当業者であれば容易になし得るものである。
(3) 効果について
本願発明の奏する作用効果は、引用発明及び周知技術の奏する作用効果から予測される範囲のものにすぎず、格別顕著なものということはできない。
(4) 請求人の主張について
請求人は、意見書にて、「引用文献1には、「マスクの周縁部と顔との隙間から空気中の有害物質が吸入されるのを抑制するバリアを形成する」ことが示唆すらなされていませんし、バリアを形成するための吸入抑制剤が陽電荷ポリマーを含んでいることについても、何ら開示されていません。」と主張しているが、上記(2)で検討したとおり、引用発明において、透過抑止剤24により、人間の顔に装着されたマスクの周縁部と顔との隙間から空気中の有害物質が吸入されるのを抑制することは、当業者であれば容易に想到し得るものであるし、引用発明において、周知技術を参考にして、透過抑止剤24に陽電荷ポリマーを含むものを採用することは当業者であれば容易になし得るものであるといえるので、上記主張については採用できない。
(5) 小括
よって、本願発明は、引用発明及び周知技術に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものである。
第5 むすび
上記の通り、本願の請求項1に係る発明は、引用文献1に記載された発明及び周知技術に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
よって、結論のとおり審決する。
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2022-020556