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特許拒絶査定不服審判

2023-003841

静電吸着マスク

審判番号
2023-003841
法域
特許
審判種別
拒絶査定不服審判(拒絶査定不服の審決)
出願番号
特願2021-063441外部サイト(J-PlatPat)へ移動します
請求日
2023年03月06日
審決日
2025年05月20日
公報発行日
2025年10月31日
結論
請求不成立
審判長/審判官
分類
P18 .121-WZ (A41D)
根拠条文(結論部分から自動抽出・参考)
特許法29条2項
条文(本文から自動抽出・参考)
特許法第29条第2項
データ出所
審決公報(XML)

事件の表示

特願2021-63441「静電吸着マスク」拒絶査定不服審判事件〔令和4年2月3日出願公開、特開2022-22082〕について、次のとおり審決する。

結論

結 論
本件審判の請求は、成り立たない。

理由

目次 ▾ 14項目
理 由

第1 手続の経緯

折りたたみ中(クリックで表示)

本願は、令和3年4月2日(パリ条約による優先権主張2020年7月23日 中国(CN))の出願であって、その手続の経緯は、概略、以下のとおりである。

令和4年 6月 8日付け:拒絶理由通知
令和4年 9月 9日 :意見書、手続補正書の提出
令和4年11月 8日付け:拒絶査定
令和5年 3月 6日 :審判請求、手続補正書の提出
令和6年10月10日付け:拒絶理由通知
令和7年 1月 9日 :意見書、手続補正書の提出(以下、この手続補正書による手続補正を「本件補正」という。)

第2 本願発明

本件補正によって補正された特許請求の範囲の請求項1(以下「本願発明」という。)は、以下のとおりである。

「【請求項1】
マスク本体及び結び紐を含む静電吸着マスクにおいて、更に濾過層及び小型電源を含み、
前記濾過層は、導電性を有する第一カーボンナノチューブ層、第二カーボンナノチューブ層、及び絶縁の多孔層を含み、
前記絶縁の多孔層は、前記第一カーボンナノチューブ層と前記第二カーボンナノチューブ層との間に設置され、厚さが5マイクロメートル以上、1ミリメートル以下であり、
前記第一カーボンナノチューブ層及び前記第二カーボンナノチューブ層は、前記小型電源とそれぞれ電気的に接続され、
前記小型電源は、前記第一カーボンナノチューブ層と前記第二カーボンナノチューブ層との間に電界を形成し、
前記濾過層は、均一に分布した複数の微孔を含み、該微孔の直径は、2.5マイクロメートルより大きく10マイクロメートル未満であり、
2.5マイクロメートル以下のPM2.5の粒子を吸着するPM2.5のマスクであることを特徴とする静電吸着マスク。」

第3 拒絶の理由

令和6年10月10日に当審において通知した拒絶理由は、以下の理由を含むものである。

本願の請求項1に係る発明は、本願の出願前に頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった以下の引用文献1に記載された発明及び引用文献2に記載された事項に基づいて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者(以下「当業者」という。)が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない、というものである。

<引用文献一覧>

引用文献1:特開平7-24077号公報

引用文献2;米国特許出願公開第2016/0016022号明細書

第4 引用文献の記載及び引用発明

1 引用文献1

(1)引用文献1の記載

引用文献1には以下の記載がある。なお下線は当審において付した。また「・・・」は摘記の省略を表す。

「【0001】
【産業上の利用分野】本発明は、人体の鼻、口等を覆うように使用されるマスクに関し、さらに詳しくは、花粉症及びハウスダスト吸引予防用のマスク、かび及びバクテリヤ吸引予防用のマスク、植物の胞子や肺を害する粒子吸引予防用のマスク、油煙やフライアッシュなどの塵埃吸引予防用マスクとしての使用に適するマスクに関する。」
「【0004】
【発明が解決しようとする課題】従来のマスクは、上記したように微粒子ダストの体内への侵入を完全には阻止できない一方、その効果を高めようとすると呼吸しにくくなるという問題がある。また、従来知られている空気清浄装置をマスクとして応用する場合にも種々の問題がある。そこで本発明は、これらの問題を解決し、小型かつ軽量で、優れた集塵効果を有するマスクを提供することを目的とする。
・・・
【0006】
【作用】呼吸に伴いマスク内に取り込まれた空気中の微粒子ダストは、まず帯電用負極メッシュ部で負に帯電される。この微粒子ダストは次に集塵用正極フィルタ部においてクーロン力により電気的に吸着される。その後、清浄となった空気が鼻、口等から体内に吸入される。」
「【0009】そして、本実施例のマスク1は、かかる外側カバー2と内側カバー3との間に、外側カバー2側から内側カバー3に向かって順に、帯電用負極メッシュ部4、電気的絶縁物5、集塵用正極フィルタ部6が配設されている。・・・
【0010】帯電用負極メッシュ部4は、空気の吸入方向(矢印方向)に対して略垂直となるように配設されており、その一部において、導体8を介して電源である電池9の負極に接続されている。・・・
【0011】帯電用負極メッシュ部4を構成する導電性材料は通気可能なものであれば特に制限されないが、例えば、炭素繊維フェルト、クロス若しくはマット、ステンレス製網、ステンレス綱線フェルト又はナイロンなどの合成繊維性の織布又は不織布に、銅、チタン、ニッケル、鉄、銀などの金属粉を無電解若しくは電解メッキしたもの又は接着剤などにより付着させたり、塗布したものなどを用いることができる。これらは60~500メッシュの範囲のものが好ましいが、不織布などはその範囲外のものであっても何ら差し支えない。またこれらは二以上を適宜組み合わせて用いることもできる。なお、合成繊維性の織布又は不織布を構成する繊維の径は0.1~2μm程度が好ましい。
・・・
【0013】集塵用正極フィルタ部6は、高分子などの軽量の不良導材からなる電気的絶縁物5を介して該帯電用負極メッシュ部4よりも内側、すなわち内側カバー3の前面に配設される。・・・。この集塵用正極フィルタ部6はその一部において、導体8を介して電源である電池9の正極に接続されている。
【0014】集塵用正極フィルタ部6を構成する導電性材料は、上記の帯電用負極メッシュ部4と同じものを用いることができる。すなわち、炭素繊維フェルト、クロス若しくはマット、ステンレス製網、ステンレス綱線フェルト又はナイロンなどの合成繊維性の織布又は不織布に、銅、チタン、ニッケル、鉄、銀などの金属粉を無電解若しくは電解メッキしたもの又は接着剤などにより付着させたり、塗布したものなどを用いることができ、・・・」

「【0017】次に、図1に基づいて、本実施例のマスク1の作用を説明する。微粒子ダスト10などを含む外気は呼吸に伴い、外側カバー2を通過する。その際、綿埃などの大きなダストは除去される。この外気は次に帯電用負極メッシュ部4を通過し、電気的に中性であった微粒子ダスト10はここで負に帯電される。その後、外気は集塵用正極フィルタ部6に到達し、そこで微粒子ダスト10はクーロン力により電気的に吸着され、そのまま保持される。その場合の吸着状態を、銅粉を無電解又は電解メッキで合成繊維に付着させた織布からなる集塵用正極フィルタ部6をもとに説明する。図2に示すとおり、比較的大きな微粒子ダスト10aは図のように繊維6aに吸着され、比較的小さな微粒子ダスト10bは、銅粉6bに吸着される。その結果、清浄となった空気は、内側カバー3を通過して体内に吸引される。・・・」

「【図1】
[図:0001427093000001.jpg]
」
「【図2】
[図:0001427093000002.jpg]
」

(2)引用文献1に記載された発明及び事項

上記(1)の記載を総合すると、引用文献1には次の発明(以下「引用発明」という。)が記載されている。

「人体の鼻、口等を覆うように使用されるマスク1であって、
外側カバー2と内側カバー3との間に、外側カバー2側から内側カバー3に向かって順に、帯電用負極メッシュ部4、電気的絶縁物5、集塵用正極フィルタ部6が配設されており、
帯電用負極メッシュ部4は、導体8を介して電源である電池9の負極に接続されており、
帯電用負極メッシュ部4を構成する導電性材料は、炭素繊維フェルトなどの合成繊維性の織布又は不織布に、銅などの金属粉をメッキ、付着又は塗布したものであり、
集塵用正極フィルタ部6は、高分子などの軽量の不良導材からなる電気的絶縁物5を介して該帯電用負極メッシュ部4よりも内側に配設され、
この集塵用正極フィルタ部6はその一部において、導体8を介して電源である電池9の正極に接続されており、集塵用正極フィルタ部6を構成する導電性材料は、上記の帯電用負極メッシュ部4と同じものを用いている、マスク1。」

また、上記(1)のうち【0014】、【0017】、図1、図2の記載から、引用文献1には次の技術事項(以下「引用文献1記載事項」という。)が記載されているといえる。

「炭素繊維フェルト等の導電性繊維に銅などの金属粉をメッキ、付着又は塗布したものから構成される集塵用正極フィルタ部6は、その目よりも小さな微粒子ダスト10bを電気的に吸着・保持できること。」

2 引用文献2

(1)引用文献2の記載

引用文献2には以下の記載がある。なお、丸括弧内の日本語は当審訳である。

「[0003] The disclosure generally relates to protective masks.」

([0003]本開示は、一般に防護マスクに関する。」)

「[0019] FIG. 1 illustrates one embodiment of a PM 2.5 mask 100 , which includes a mask body 10 , a filter layer 20 , and two ties 30 . The mask body 10 includes an inner layer and an outer layer, a gap is formed between the inner layer and the outer layer. In another embodiment, the mask body 10 is a multilayered structure. The filter layer 20 is located in the gap, and can filter out PM 2.5. Each tie 30 is located on opposite sides of the mask body 10 . The two ties 30 are used to fix the PM 2.5 mask 100 on the ears of a wearer. An opening (not shown) is located on one side of the mask body 10 , and is used to replace the filter layer 20 . Two ends of the opening are connected via a connector.」

([0019]図1は、マスク本体10、フィルタ層20、および2つのタイ30を含むPM2.5マスク100の1つの実施形態を示す。マスク本体10は、内層と外層を含み、内層と外層の間に隙間が形成される。別の実施形態では、マスク本体10は多層構造である。フィルタ層20は、隙間に配置され、PM2.5を濾過することができる。各タイ30は、マスク本体10の反対側に配置されている。2つのタイ30は、着用者の耳にPM2.5マスク100を固定するために使用される。マスク本体10の片側には開口部(図示せず)があり、フィルタ層20の代わりとして使用される。開口部の両端はコネクタを介して接続される。」)

「[0024] Referring to FIGS. 2 and 3 , the filter layer 20 includes a carbon nanotube structure. The carbon nanotube structure includes a plurality of carbon nanotubes without impurities. In one embodiment, the filter layer 20 is a pure carbon nanotube structure and consists of just carbon nanotubes. The carbon nanotube structure includes a plurality of carbon nanotube films stacked and crossed with each other. The carbon nanotube structure includes a plurality of micropores. A diameter of a micropore of the plurality of micropores is larger than 1 micrometer and less than 2.5 micrometers.」

([0024]図2および図3を参照すると、フィルタ層20は、カーボンナノチューブ構造を含む。カーボンナノチューブ構造は、不純物のない複数のカーボンナノチューブを含む。一実施形態では、フィルタ層20は、純粋なカーボンナノチューブ構造であり、カーボンナノチューブのみからなる。カーボンナノチューブ構造は、互いに積み重ねられ交差した複数のカーボンナノチューブフィルムを含む。カーボンナノチューブ構造は、複数の微細孔を含む。複数の微細孔の微細孔の直径は、1マイクロメートルより大きく、2.5マイクロメートル未満である。)

「[0026] FIG. 4 illustrates that the drawn carbon nanotube film includes a number of carbon nanotubes that are arranged substantially parallel to a surface of the drawn carbon nanotube film. A large number of the carbon nanotubes in the drawn carbon nanotube film can be oriented along a preferred direction, meaning that a large number of the carbon nanotubes in the drawn carbon nanotube film are arranged substantially along the same direction. An end of one carbon nanotube is joined to an end of an adjacent carbon nanotube arranged substantially along the same direction by van der Waals force, to form a free-standing film. ・・・」

([0026]図4は、延伸カーボンナノチューブフィルムが、延伸カーボンナノチューブフィルムの表面と実質的に平行に配列された多数のカーボンナノチューブを含むことを示している。延伸カーボンナノチューブフィルム内の多数のカーボンナノチューブは、好ましい方向に沿って配向することができ、これは、延伸カーボンナノチューブフィルム内の多数のカーボンナノチューブが実質的に同じ方向に沿って配列されることを意味する。1つのカーボンナノチューブの端部は、実質的に同じ方向に沿って配列された隣接するカーボンナノチューブの端部にファンデルワールス力によって結合され、自立型フィルムを形成する。・・・)

「[0032] In one embodiment, the carbon nanotube structure consists of four drawn carbon nanotube films stacked and crossed with each other, the angle between the aligned directions of the carbon nanotubes in adjacent drawn carbon nanotube films is about 90 degrees, and the diameter of the micropores is about 1.5 micrometers.」

([0032]一実施形態では、カーボンナノチューブ構造は、互いに交差して積み重ねられた4つの延伸カーボンナノチューブフィルムから成り、隣接する延伸カーボンナノチューブフィルムのカーボンナノチューブの整列方向間の角度は約90度であり、微細孔の直径は約1.5マイクロメートルである。)

「FIG.1
[図:0001427093000003.jpg]
」
「FIG.4
[図:0001427093000004.jpg]
」

(2)引用文献2に記載された事項

上記(1)を参照すると、引用文献2には以下の技術事項(以下「引用文献2記載事項」という。)が記載されている。

「PM2.5マスク100において、
フィルタ層20は、カーボンナノチューブ構造を含み、
カーボンナノチューブ構造は、互いに積み重ねられ交差した複数のカーボンナノチューブフィルムを含み、
カーボンナノチューブ構造は、複数の微細孔を含むこと。」

第5 対比

本願発明と引用発明とを、その機能、構造又は技術的意義を考慮して対比する。

<各構成について>

引用発明の「外側カバー2と内側カバー3」は、本願発明の「マスク本体」に相当する。

人体の鼻、口等を覆うマスクが耳掛け紐を有するという技術常識、及び引用文献1の【0017】の静電吸着作用に関する記載を踏まえると、引用発明の「人体の鼻、口等を覆うように使用されるマスク1」は、本願発明の「マスク本体及び紐を含む静電吸着マスク」に相当する。

引用発明の「電源である電池9」は、本願発明の「小型電源」に相当する。

<濾過層について>

引用発明において、「帯電用負極メッシュ部4を構成する導電性材料は、炭素繊維フェルトなどの合成繊維性の織布又は不織布に、銅などの金属粉をメッキ、付着又は塗布したものであり、」「集塵用正極フィルタ部6を構成する導電性材料は、上記の帯電用負極メッシュ部4と同じものを用いている」ものであるから、引用発明の「帯電用負極メッシュ部4」と、本願発明の「導電性を有する第一カーボンナノチューブ層」は、「導電性外側フィルタ層」である限りで一致し、同様に、引用発明の「集塵用正極フィルタ部6」と、本願発明の「第二カーボンナノチューブ層」は、「導電性内側フィルタ層」である限りで一致する。

引用発明の「電気的絶縁物5」と本願発明の「絶縁の多孔層」は、「絶縁層」である限りで一致する。

引用発明の「帯電用負極メッシュ部4」、「集塵用正極フィルタ部6」及び「電気的絶縁物5」は、本願発明の「濾過層」に相当する。

引用発明の「外側カバー2と内側カバー3との間に、外側カバー2側から内側カバー3に向かって順に、帯電用負極メッシュ部4、電気的絶縁物5、集塵用正極フィルタ部6が配設されて」いる構成と、本願発明の「前記絶縁の多孔層は、前記第一カーボンナノチューブ層と前記第二カーボンナノチューブ層との間に設置され、厚さが5マイクロメートル以上、1ミリメートル以下であ」る構成は、「前記絶縁層は、前記導電性外側フィルタ層と前記導電性内側フィルタ層との間に設置され」る構成の限りで一致する。

<カーボンナノチューブについて>

引用文献1の【0017】の記載を踏まえると、引用発明の帯電用負極メッシュ部4と集塵用正極フィルタ部6との間には電界が形成されているといえるから、引用発明の「帯電用負極メッシュ部4は、導体8を介して電源である電池9の負極に接続されており、」「この集塵用正極フィルタ部6はその一部において、導体8を介して電源である電池9の正極に接続されて」いる構成と、本願発明の「前記第一カーボンナノチューブ層及び前記第二カーボンナノチューブ層は、前記小型電源とそれぞれ電気的に接続され、前記小型電源は、前記第一カーボンナノチューブ層と前記第二カーボンナノチューブ層との間に電界を形成し」ている構成は、「導電性外側フィルタ層及び導電性内側フィルタ層は、前記小型電源とそれぞれ電気的に接続され、前記小型電源は、前記導電性外側フィルタ層と前記導電性内側フィルタ層との間に電界を形成し」ている構成である限りで一致する。

以上を総合すると、本願発明と引用発明との一致点及び相違点は、次のとおりである。

[一致点]

「マスク本体及び結び紐を含む静電吸着マスクにおいて、更に濾過層及び小型電源を含み、
前記濾過層は、導電性外側フィルタ層、導電性内側フィルタ層、及び絶縁層を含み、
前記絶縁層は、前記導電性外側フィルタ層と前記導電性内側フィルタ層との間に設置され、
前記導電性外側フィルタ層及び前記導電性内側フィルタ層は、前記小型電源とそれぞれ電気的に接続され、
前記小型電源は、前記導電性外側フィルタ層と前記導電性内側フィルタ層との間に電界を形成している、静電吸着マスク。」

[相違点1]

導電性外側フィルタ層及び導電性内側フィルタ層について、本願発明では、「導電性を有する第一カーボンナノチューブ層、第二カーボンナノチューブ層」であるのに対し、引用発明では、「炭素繊維フェルトなどの合成繊維性の織布又は不織布に、銅などの金属粉をメッキ、付着又は塗布したものであ」る「導電性材料」から「構成」される「帯電用負極メッシュ部4」及び「集塵用正極フィルタ部6」である点。

[相違点2]

静電吸着マスクの用途について、本願発明では、「2.5マイクロメートル以下のPM2.5の粒子を吸着するPM2.5のマスクである」のに対し、引用発明では、かかる用途が特定されていない点。

[相違点3]

濾過層について、本願発明では、「均一に分布した複数の微孔を含み、該微孔の直径は、2.5マイクロメートルより大きく10マイクロメートル未満であ」るのに対し、引用発明では、かかる構成を有することが特定されていない点。

[相違点4]

絶縁層について、本願発明では、「絶縁の多孔層」であって「厚さが5マイクロメートル以上、1ミリメートル以下であ」るのに対し、引用発明では、電気的絶縁物5がかかる構成を有することが特定されていない点。

第6 判断

1 相違点1~相違点3について

事案に鑑み相違点1~相違点3については総合的に判断する。

引用文献1の【0001】の記載を踏まえると、引用発明と引用文献2記載事項は防塵マスクである点で共通する。そして、防塵マスクの用途に応じて捕集しようとする異物の大きさやフィルタ部の材質は適宜設定されるものである。

そうすると、引用発明において、マスクの用途及び当該用途に沿ったフィルタ部の材質として、引用文献2記載事項を適用することで、相違点1及び相違点2に係る本願発明の構成とすることは、当業者が容易に想到し得たことである。

そして、引用発明のマスクの用途としてPM2.5用とした場合において、引用文献1の「従来のマスクは、上記したように微粒子ダストの体内への侵入を完全には阻止できない一方、その効果を高めようとすると呼吸しにくくなるという問題がある。」(【0004】)との課題に関する記載、及び、引用文献1記載事項を参照することで、「帯電用負極メッシュ部4、電気的絶縁物5、集塵用正極フィルタ部6」(本願発明の「濾過層」に相当。)のメッシュ(細孔)の粗さの下限値を、捕集しようとするPM2.5よりも大きな値としつつ、PM2.5が捕集できる範囲において上限値を適宜定めることで、相違点3に係る本願発明の構成とすることは、当業者が容易に想到し得たことである。

なお、本願明細書の【0020】等を参酌しても、微孔の直径を10マイクロメートル未満とすることについての格別な作用効果は確認できない。

2 相違点4について

引用発明の「電気的絶縁物5」は、図1からみて帯電用負極メッシュ部4と集塵用正極メッシュ部6との間を電気的に絶縁した状態で離間させつつ空気を通過させるものであるから、多孔質構造とすることは、具体化の際に当業者が適宜なし得たことである。

また、引用文献1に電気的絶縁物5の厚さの記載はないものの、引用発明は「人体の鼻、口等を覆うように使用されるマスク1」であるから、濾過性能のほか、装着感等も考慮してマスク1の厚さも設計することは技術常識から明らかであることのほか、引用文献1の【0013】、【0014】にも「マスク1全体の厚みが厚くならず好ましい」旨の記載があることからみて、引用発明のマスク1全体の厚みに寄与する電気的絶縁物5の厚さを適宜設計することは、当業者が通常行うことである。そして、具体的な厚さとして「5マイクロメートル以上、1ミリメートル以下」とすることは、何ら格別なことではないし、本願明細書の【0021】等を参酌しても、その厚さの数値範囲についての作用効果は確認できない。

したがって、引用発明において、相違点4に係る本願発明の構成とすることは、当業者が容易に想到し得たことである。

4 効果について

上記相違点1~4を総合的に勘案しても、本願発明の奏する作用効果は、引用発明、引用文献1記載事項び引用文献2記載事項の奏する作用効果から予測される範囲内のものにすぎず、格別顕著なものということはできない。

5 審判請求人の主張について

審判請求人は概略、以下の点を主張している。

(主張1)「引用文献1において、マスクは、クーロン力により空気中の微粒子ダストを電気的に吸着します。しかし、引用文献2においては、・・・カーボンナノチューブ構造体の複数の微孔の直径が1マイクロメートルより大きく、2.5マイクロメートル未満であり、物理ブロッキングによって汚染物質が人体に侵入するのを防止します。

このように、引用文献1及び引用文献2のマスクがほこりを濾過する原理は、全く異なります。従いまして、当業者は、引用文献2のマスクにおけるフィルタ層としてのカーボンナノチューブ構造体を引用文献1の帯電用負極メッシュ部4及び集塵用正極フィルタ部6を置き換えることに容易に想到することはできないと思料致します。」

(主張2)「引用文献1には、帯電用負極メッシュ部4のメッシュの大きさが開示されず、吸着されることができる微粒子ダストの大きさも開示されないので、2.5マイクロメートル以下のPM2.5の粒子を吸着するかどうかを確定することができません。従いまして、「帯電用負極メッシュ部4、電気的絶縁物5、集塵用正極フィルタ部6」のメッシュの粗さを、捕集しようとするPM2.5よりも大きな値とすること・・・は、当業者が容易に想到しないことであると思料致します。」

上記各主張について検討する。

(主張1)について

上記1で説示したとおり、引用発明と引用文献2記載事項は防塵マスクである点で共通し、防塵マスクの用途に応じてマスクのフィルタ部で捕集しようとする異物の大きさは適宜設定されるものである。さらに、引用文献1の【0014】を参照すると、引用発明の「帯電用負極メッシュ部4」及び「集塵用正極フィルタ6」はいずれも炭素繊維フェルトを用いることもできることを踏まえると、引用文献2記載事項と、フィルタを構成する繊維の材料としてカーボンを用いる点で共通している。

そうすると、引用発明において、マスクの用途及び当該用途に沿ったフィルタ部の材質として、引用文献2記載事項を適用することに困難性があるとはいえない。

したがって、審判請求人の上記(主張1)は採用できない。

(主張2)について

上記1で説示したとおり、引用発明に係るマスクの用途をPM2.5用とした場合において、引用文献1の「従来のマスクは、上記したように微粒子ダストの体内への侵入を完全には阻止できない一方、その効果を高めようとすると呼吸しにくくなるという問題がある。」(【0004】)との課題に関する記載、及び、引用文献1記載事項を参照することで、「帯電用負極メッシュ部4、電気的絶縁物5、集塵用正極フィルタ部6」(本願発明の「濾過層」に相当。)のメッシュ(細孔)の粗さを、PM2.5が捕集できる範囲において、PM2.5よりも大きな値とすることは、当業者が容易に想到し得たことである。

したがって、審判請求人の上記(主張2)は採用できない。

6 小括

以上のとおりであるから、本願発明は、引用発明、引用文献1記載事項及び引用文献2記載事項から、当業者が容易に発明をすることができたものである。

第7 むすび

以上のとおり、本願発明は、引用文献1に記載された発明、引用文献1に記載された事項及び引用文献2に記載された事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、他の請求項に係る発明について検討するまでもなく、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

よって、結論のとおり審決する。

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2023-003841

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    共通の審決分類: 121・A41D
  • 2026-004363拒絶査定不服審判 / 2026-05-26 / 原査定取消(特許/登録すべき)水着の着用方法および水着
    共通の審決分類: 121・A41D
  • 2024-000880拒絶査定不服審判 / 2026-03-24 / 原査定取消(特許/登録すべき)ポリエチレンフィルム
    共通の審決分類: 121・A41D

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