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特許拒絶査定不服審判

2022-018742

ジアザビシクロオクタン誘導体の結晶型及びその生産プロセス

審判番号
2022-018742
法域
特許
審判種別
拒絶査定不服審判(拒絶査定不服の審決)
出願番号
特願2020-518688
請求日
2022年11月22日
審決日
2024年08月19日
公報発行日
2024年11月29日
結論
請求不成立
当事者
  • 【請求人】Meiji Seikaファルマ株式会社
  • 【請求人代理人】弁理士法人 津国
審判長/審判官
  • 審判長 井上 典之
  • 審判官 木村 敏康
  • 審判官 野田 定文
分類
P18 .121-WZ (C07D)
根拠条文(結論部分から自動抽出・参考)
特許法29条2項
条文(本文から自動抽出・参考)
特許法第29条第2項
データ出所
審決公報(XML)

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特願2020-518688「ジアザビシクロオクタン誘導体の結晶型及びその生産プロセス」拒絶査定不服審判事件〔平成31年 4月 4日国際公開、WO2019/064071、令和 2年12月 3日国内公表、特表2020-535212〕について、次のとおり審決する。

結論

結 論 本件審判の請求は、成り立たない。

理由

理 由 第1 手続の経緯 本願は、2018年9月25日〔パリ条約による優先権主張 外国庁受理 2017年9月27日 (US)米国〕を国際出願日とする出願であって、令和4年2月24日付け拒絶理由通知に対して、同年4月26日付けで意見書及び手続補正書が提出され、同年8月16日付け拒絶査定に対して、同年11月22日(受付日)に審判請求がされると同時に手続補正書が提出され、同年12月22日付けで手続補正書(方式)が提出され、令和5年5月19日付けで上申書が提出され、令和6年4月2日付けの当審合議体による拒絶理由通知に対して、同年6月7日付けで意見書及び手続補正書が提出されたものである。 第2 本願発明 本願の請求項1~3に係る発明は、令和6年6月7日付けで提出された手続補正書により補正された特許請求の範囲の請求項1~3に記載された事項により特定されるとおりのものであり、その請求項1に係る発明(以下「本1発明」ともいう。)は、次のとおりのものである。 「【請求項1】 7.4;15.7;17.1;18.8;20.2;22.5;23.1;24.3;25.4;29.7及び30.5±0.2°(2θ)の値で表される特徴的なピークを有する粉末X線回折パターンを有する、化合物(I): 【化1】 [図:0001415728000001.jpg] によって表される化合物の結晶型Vの結晶。」 第3 当審合議体が通知した拒絶理由の概要 令和6年4月2日付けで当審合議体が通知した拒絶理由は、「理由2」として次の拒絶理由を含むものである。 「理由2(進歩性):この出願の下記の請求項に係る発明は、その出願前に日本国内又は外国において、頒布された刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明に基づいて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。」 そして、その「記」において、次の指摘がされている。なお、「…」は摘記の省略を示す(以下同様。)。 「3.…理由2(進歩性)について ・請求項1~12 (1)引用例1~6… 引用例1:国際公開第2015/053297号 (原審の文献1に同じ。) 引用例2:国際公開第2016/120752号 (原審の文献2に同じ。) 引用例3:平山令明,有機化合物結晶作製ハンドブック,2008年,p.17-23,37-40,45-51,57-84 (原審の文献3に対応。) 引用例4:生活工学研究 2002,v.4,n.2,p.310-317 https://teapot.lib.ocha.ac.jp/records/40151 (当審において新たに引用する技術常識を示す文献) 引用例5:薬剤学,2008,68(5),p.344-349 https://www.jstage.jst.go.jp/article/jpstj/68/5/68_344/_pdf/-char/en (当審において新たに引用する技術常識を示す文献) 引用例6:特表2005-517020号公報 (当審において新たに引用する技術常識を示す文献) 」 第4 当審の判断 1 引用例1~6の記載事項 (1)引用例1の記載事項 引用例1には、次の事項が記載されている。 摘記1a:請求項17及び請求項20 「[請求項17] 粉末X線回析図形において面間隔(d)9.46、5.62、5.23、5.10、5.00、4.91、4.67、4.45、4.29、3.96、3.78、3.71、3.52、3.24、3.18、3.10、3.02、2.88、2.81、2.77、2.67、2.50、及び2.45Åに特徴的なピークを有する式(VII-1): [化103] [図:0001415728000002.jpg] で示される化合物のII形結晶。」 「[請求項20] 場合によっては医学的に許容される担体を含んでなる医薬組成物製造のための、請求項17記載のII形結晶の使用。」 摘記1b:段落0203~0205 「[0203]実施例6 (2S,5R)-N-(2-アミノエトキシ)-7-オキソ-6-(スルホオキシ)-1,6-ジアザビシクロ[3.2.1]オクタン-2-カルボキサミド (VII-1)のII形結晶 … …。DSC吸熱ピーク 92℃。… [0204] また、標題化合物は粉末X線回析図形において下記表5と図2に示すような特徴的なピークパターンを示した。… [0205] [表5] [図:0001415728000003.jpg] 」 摘記1c:図2 「[図2] [図:0001415728000004.jpg] 」 (2)引用例2の記載事項 引用例2には、和訳にして、次の事項が記載されている。 摘記2a:第10頁第3~5行及び第16頁第7行~第17頁第9行 「いくつかの実施態様において、図1に示されるものと実質的に同様なX線粉末回折パターンを有する結晶形の化学式(I)の化合物を含む医薬組成物が提供される。…」 「工程4: (2S,5R)-N-(2-アミノエトキシ)-6-(スルホオキシ)-7-オキソ-1,6-ジアザ-ビシクロ[3.2.1]オクタン-2-カルボキサミド(I)の調製: [図:0001415728000005.jpg] …。残留固体を45℃で減圧乾燥して表題化合物の粗体7.3gを得た。得られた固体を、更に、水(7.3ml)に溶解し、この溶液に、撹拌しながら、塩基性樹脂(アンバーリストA260Hイオン交換樹脂、4.4g)を添加した。0.5時間後、樹脂を濾過し、濾液にイソプロパノール(51ml)を25℃でゆっくりと添加した。溶液をさらに12時間撹拌した。分離した固体を濾過し、イソプロパノール(7.5ml)を追加して、減圧下で乾燥させて、オフホワイトの固体として(2S,5R)-N-(2-アミノエトキシ)-6-(スルホオキシ)-7-オキソ-1,6-ジアザ-ビシクロ[3.2.1]オクタン-2-カルボキサミド4.3gを収率52%で得た。 分析: 質量:323.1(M-1);… … X線粉末回折パターン(2シータ値):8.78(±0.2),9.48(±0.2),10.65(±0.2),12.04(±0.2),14.81(±0.2),15.63(±0.2),16.09(±0.2),16.68(±0.2),17.17(±0.2),17.48(±0.2),17.66(±0.2),18.33(±0.2),19.03(±0.2),20.38(±0.2),21.16(±0.2),21.91(±0.2),22.51(±0.2),26.01(±0.2),26.55(±0.2),29.45(±0.2)及び29.84(±0.2)」 摘記2b:図1 「 [図:0001415728000006.jpg] 」 (3)引用例3の記載事項 引用例3には、次の事項が記載されている。 摘記3a:第59頁第2~4行、第63頁第21~27行及び第63頁末行~第65頁下から第14行 「4.2.1 結晶多形の検索 複数の結晶層が存在する結晶多形は,医薬品においてもしばしば認められる現象である.…」 「一方,創薬段階においてはコンビナトリアル合成が導入され,膨大な数の化合物から“薬”としての候補品を短時間で効率的にスクリーニングするハイスループット・スクリーニングが一般的となっている.薬効を中心としたスクリーニングがなされた後,治験段階に用いられる原薬の基本形を選択するにあたっても,多くの候補品につき安定性や溶解度などを改善することを目指した結晶多形,塩,あるいは共結晶(co-crystal;・・・)の可能性をロボットシステムを用いて探索する報告がなされている11).…」 「従来のマニュアル操作では見逃していた結晶多形や有用な塩を臨床試験に入る前に探索することにより,開発途中で新規結晶多形の出現による開発の遅れなどのリスク回避やジェネリック品の参入を防御するための特許対策など,その有用性が注目されている.」 摘記3b:第78第15行~第79頁第9行 「4.5.1 一般的な結晶化条件 医薬品を開発するうえで,初期段階においては種々の条件下における結晶多形の検索を行い,製剤化検討の結果なども考慮して開発の基本形となる結晶形を選択する.その後,工業化に向けたスケールアップの検討を行い,工場での生産が安定に行えるように準備する必要がある.したがって,開発初期段階における結晶多形の有無などを含めた結晶状態の検討は,医薬品の開発を効率的に進めるうえで非常に重要である.晶析条件に関する文献も多いが35),ここでは,医薬品を結晶化する一般的な条件を示し,さらに医薬品の結晶化の実例を記述する. 一般に使用される晶析溶媒としては,水,メタノール,エタノール,1-プロパノール,2-プロパノール,1-ブタノール,2-ブタノール,1-ペンタノール,酢酸エチル,アセトン,メチルエチルケトン,トルエン,シクロヘキサン,シクロヘキサノン,ジメチルホルムアミドなどである. 結晶化はおおよそ以下のような方法を用いる. (1)試料を水浴上で加温した溶媒に加え,飽和溶液を調製する.熱時濾過し,残留試料を除いた後,室温付近まで徐々に冷却する. (2)試料を水浴上で加温した溶媒に加え,飽和溶液を調製する.熱時濾過し,残留試料を除いた後,氷などにより急冷する. (3)試料を適当な溶媒に溶かした液に,試料が溶けにくい溶媒を滴下する. (4)試料を適当な溶媒に溶かした液をエバポレーターなどを用いて脱溶媒する. (5)試料を適当な溶媒(引火しないもの)に溶かした液を噴霧する. (6)試料をホットステージなどを用いて融解し,室温付近まで徐々にあるいは急激に冷却する.」 (合議体注:上記下線の「濾」は、原文では「さんずい」に「戸」の表記である。) (4)引用例4の記載事項 引用例4には、次の事項が記載されている。 摘記4a:第310頁右欄第4行~第312頁左欄第4行 「2.医薬品開発とその物性 … 近年,日本の製薬会社では,新薬の製造販売の許可を日本よりも先にまづ米国のFDA(Food and Drug Administration)に申請することが多い.申請の際には,狭義の薬効だけでなく,原薬の結晶形crystal form(結晶多形を含む)や粒子径particle size等の固体物性に関しても言及することになっている.これは,消化管からの薬効成分の吸収特性を左右する因子としてこれらの物性が重要であることに配慮したものである1). … 米国FDAのガイドライン3)では,主薬のすべての結晶形の種類を記載し,それぞれの結晶形の単離・同定を行ない,その特徴を明確にすることを規定している.さらに,主薬の結晶形が一つしかないと主張する場合には,その根拠を明確にすることが求められている. 市販されている薬物にどのくらい結晶多形が存在するかをTable 1に示す4).常用Steroid剤やBarbiturate鎮痛剤の半数以上が結晶多形を有し,Sulfonamide感染症治療薬でもその4割が結晶多形を有している.各医薬品は普通,2~5種類の結晶多形を有している.従って,製薬会社は主薬の薬効のみならず,結晶多形等の固体物性にも大きな配慮をせざるを得ないのである. … 3.結晶多形 … 抗生物質であるChloramphenicol PalmitateはA形,B形,C形の3つの結晶形を有する7).この中で,安定形はA形であり,主に見られる準安定形はB形である.B形の融点が86℃であるのに対しA形は91℃,A形の溶解度はB形の28%に過ぎない.この抗生物質は懸濁シロップ剤として経口投与されるが,その際の粒子径は5μmに調整されている.しかしながら,A形製剤を投与した場合はB形に比べ血中濃度は1/5にしかならない.従って,A形では期待した薬効が得られないことになり得るのでB形での開発が必要になる.」 (5)引用例5の記載事項 引用例5には、次の事項が記載されている。 摘記5a:第345頁左欄第36行~第346頁左欄第18行 「4.企業における塩・結晶多形の選択 結晶形選択の重要性は多くの製薬企業で認識されており,ほぼ共通したプロセスの概念(Fig.1)を持っていると思われる.しかし,実際には短期間かつ低コストを可能とする効率的な結晶形の選択方法及び物性評価方法については十分体系的に議論されておらず,多くの製薬企業では結晶形の選択及び物性評価は各社のノウハウに依存した独自のプロセスで行われ,時には非効率的な場合も見受けられる.… 実際には塩・結晶多形の選択に費やすコスト,期間や検討に用いる原薬量を考慮した上,スケジュールを調整し,開発可能な結晶形の選択を効率良く実施する.… 塩・結晶多形の選択は一般に,物性評価,結晶化スクリーニング,塩スクリーニング,安定性結晶スクリーニング等の組合せから構成される.これら全てのスクリーニングについて,より早期での実施が可能な手法が開発されており,受託研究企業数社から,それぞれ特徴を有したスクリーニングが供給されている.」 摘記5b:第346頁右欄第7行~第347頁右欄第7行 「5.塩・結晶多形スクリーニング法の開発 医薬品候補化合物の塩や結晶多形の中から開発に適した結晶形を効率的に選択するためには,塩や結晶多形を含めた全ての結晶形について短期間で把握する必要がある.複数の塩それぞれについての結晶多形の存在を考えると,その数は膨大であり,そのため実施されるのが塩・結晶多形のスクリーニングである.スクリーニング方法として,計算化学による予測とスクリーニング実験による手法に分けられるが,現時点での医薬品開発に取り入れられているのは実験による塩や結晶多形の探索である.… … …。多塩基酸や多酸塩基から構成される塩は複数の組合せが可能であり,組合せの異なる塩は物性のプロファイルが異なることから,従来の塩及び結晶多形選択の過程では全てを合成し評価する必要がある.」 摘記5c:第348頁左欄第4~25行 「6.新規な固体物性評価法の開発 効率的な結晶形の選択には,スクリーニング法だけでなく物性評価方法にも効率化が求められる.… 分析機器のスクリーニング技術の進歩,さらには医薬品開発における結晶形選択の重要性が認識され,結晶形の選択は化合物量が少量の早期の段階で実施される傾向にある.結晶形選択は溶解性,安定性,製造性等の複数の観点から実施される.」 (6)引用例6の記載事項 引用例6には、次の事項が記載されている。 摘記6a:請求項3及び5 「【請求項3】 すり潰したスズカケノキの皮層を、2~5倍量のメタノール中で0.5~5時間、加熱して沸騰させながら抽出を行い、得られた抽出物を40~60℃の温度で濾過し30~70%の体積になるまでエバポレートし、-10℃~+10℃の温度で結晶化させることを特徴とする、請求項1又は2のいずれかに記載の方法。」 「【請求項5】 上記の手順(ii)において、遠心分離により残渣を希釈剤から分離することを特徴とする、請求項2~4のいずれか1項に記載の方法。」 2 引用例1に記載された発明 摘記1a~1cの記載からみて、引用例1には、 『粉末X線回析図形において下記図2に示すような特徴的なピークパターンを示した(2S,5R)-N-(2-アミノエトキシ)-7-オキソ-6-(スルホオキシ)-1,6-ジアザビシクロ[3.2.1]オクタン-2-カルボキサミド(VII-1): [図:0001415728000007.jpg] のII形結晶。 [図2] [図:0001415728000008.jpg] 』 についての発明(以下「引1発明」という。)が記載されているといえる。 3 対比 本1発明と引1発明とを対比する。 引1発明の「(2S,5R)-N-(2-アミノエトキシ)-7-オキソ-6-(スルホオキシ)-1,6-ジアザビシクロ[3.2.1]オクタン-2-カルボキサミド(VII-1): [図:0001415728000009.jpg] 」は、本1発明の「化合物(I): [図:0001415728000010.jpg] によって表される化合物」に相当する。 引1発明の「図2」の「II形結晶の粉末X線結晶回折」のスペクトル図のパターンに含まれる複数の特徴的なピークは、摘記1bの「表5」の記載を参酌するに、少なくとも9.34;15.76;16.94;17.38;17.74;18.04;18.98;19.92;20.68;22.42;23.52;23.94;25.30;27.50;28.06;28.74;29.54;31.08(2θ)の値で表されるピークとして観察されており、 本1発明の「7.4;15.7;17.1;18.8;20.2;22.5;23.1;24.3;25.4;29.7及び30.5±0.2°(2θ)の値で表される特徴的なピーク」との対比において、 引1発明の15.76は、本1発明の15.6±0.2°(15.4°~15.8°)に相当し、 引1発明の18.98は、本1発明の18.8±0.2°(18.6°~19.0°)に相当し、 引1発明の22.42は、本1発明の22.5±0.2°(22.3°~22.7°)に相当し、 引1発明の23.94は、本1発明の24.1±0.2°(23.9°~24.3°)に相当し、 引1発明の25.30は、本1発明の25.4±0.2°(25.2°~25.6°)に相当し、 引1発明の29.54は、本1発明の29.7±0.2°(29.5°~29.9°)に相当する。 してみると、本1発明と引1発明は、 「15.7;18.8;22.5;24.3;25.4及び29.7±0.2°(2θ)の値で表される特徴的なピークを有する粉末X線回折パターンを有する、化合物(I): [図:0001415728000011.jpg] によって表される化合物の結晶。」 という点において一致し、次の(α)の点において相違する。 (α)本1発明は、「7.4±0.2°」、「17.1±0.2°」、「20.2±0.2°」、「23.1±0.2°」及び「30.5±0.2°」の位置に更に粉末X線回折パターンの特徴的なピークを有する「結晶型V」の結晶であるのに対し、引1発明は、本1発明の対応するピークの近傍の「9.34」、「17.38」、「19.92」、「23.52」及び「31.08」の位置に更に明示的なピークを有する「II形」の結晶である点 4 相違点についての判断 上記(α)の相違点について検討する。 (1)医薬化合物であることについて 引用例1の請求項20(摘記1a)の「場合によっては医学的に許容される担体を含んでなる医薬組成物製造のための、請求項17記載のII形結晶の使用。」との記載にあるように、引1発明の式(VII-1)で示される化合物は、医薬用途のための結晶性の化合物であり、医薬化合物であると認められる。 (2)医薬化合物における結晶多形の探索の動機付けについて 引用例2(摘記2a)には、引1発明の式(VII-1)に合致する化学式の結晶形の化合物を含む医薬組成物を提供する旨の記載があり、 引用例3(摘記3a)には、創薬段階において膨大な数の化合物から薬としての候補品を短時間で効率的にスクリーニングするのが一般的となっており、治験段階に用いられる原薬の基本形を選択するにあたって多くの候補品につき安定性や溶解度などを改善することを目指した結晶多形の可能性を機械的に探索する旨の記載があり、 引用例4(摘記4a)には、米国FDAのガイドラインで、主薬のすべての結晶形の種類を記載し、それぞれの結晶形の単離・同定を行ない、その特徴を明確にすることが規定されているため、製薬会社は主薬の薬効のみならず結晶多形等の固体物性にも大きな配慮をせざるを得ない旨の記載があり、 引用例5(摘記5b及び5c)には、医薬品候補化合物の塩や結晶多形の中から開発に適した結晶形を効率的に選択するためには、塩や結晶多形を含めた全ての結晶形について短期間で把握する必要があり、その数は膨大であるが、塩及び結晶多形選択の過程では全てを合成し評価する必要がある旨や、医薬品開発における結晶形選択の重要性が認識されているため、結晶形の選択は化合物量が少量の早期の段階で実施され、溶解性、安定性、製造性等の複数の観点から実施される旨の記載がある。 してみると、医薬用途のための結晶性の化合物であり、医薬化合物である、引1発明の化合物について、その「安定性」や「溶解度」などの有用性の観点から、その「結晶多形」を探索することには、当業者において強い動機付けがあるといえる。 (3)結晶化の手法について 本願明細書の段落0074の「化合物(I)の結晶型Vを、記載したとおりの数工程を通して得た。密閉バイアルに、22℃で水(1.0mL)に溶解した多形結晶型IV(300mg)を投入した。溶液を25℃で22時間撹拌した。次いで、溶液を遠心によって濾過して、微粒子を除去した。澄明な濾液を分離し、溶媒を、N2の連続流下、40℃で2.5時間、エバポレーションするにまかせた。固体を、5mbar未満にて22℃で20時間乾燥させて、化合物(I)の結晶型Vを与えた(表1及び表2を参照のこと)。」との記載、及び同段落0075の「代替法では、密閉バイアルに、化合物(I)の結晶型IV(200mg)と水/エタノール溶液(54:46 w/w)(1.0mL)の混合物を投入した。混合物を、撹拌下、40℃で22時間、平衡化した。平衡化後、遠心濾過によって懸濁液を分離した。懸濁液から回収された澄明な濾液を分離し、溶媒を、N2の連続流下、40℃で3.5時間、エバポレーションするにまかせて、湿った固体を生成した。湿った固体を、5mbar未満にて22℃で20時間乾燥させて、結晶型Vを与えた。」との記載、並びに審判請求書の第2頁の『本願請求項1で特定されたV型結晶を得るためには、本願請求項3の工程(d)で規定された「40℃」の液温が重要な条件であり、40℃でエバポレーションを行うことにより、本願発明ではV型結晶を選択的に入手することが可能となった。』との主張を参酌するに、本1発明の化合物の「結晶型Vの結晶」は、晶析溶媒として「水」又は「水/エタノール溶液」を用い、結晶化を「40℃でエバポレーションを行う」ことにより得られるものと認められる。 しかしながら、引用例3(摘記3b)の「一般に使用される晶析溶媒としては,水,…エタノール,…などである。結晶化はおおよそ以下のような方法を用いる。…(4)試料を適当な溶媒に溶かした液をエバポレーターなどを用いて脱溶媒する。」との記載や、引用例6(摘記6a)の「抽出物を40~60℃の温度で濾過し30~70%の体積になるまでエバポレートし、…結晶化させる」との記載にあるように、試料を溶媒(水など)に溶解して、40℃程度の温度でエバポレーターを用いて脱溶媒することで、結晶化を行う手法は普通に知られているといえるから、晶析溶媒として「水」や「水/エタノール溶液」を使用し、結晶化を「40℃でエバポレーションを行う」という手法は、当業者にとって一般的ではない特殊な結晶化の手法であると認められない。 そうすると、当業者は、通常なし得る試行錯誤の範囲内で、引1発明の化合物について「結晶多形」の探索を行って、上記(α)の相違点に係る構成を備えた結晶型の結晶を得ることができ、その結晶型の特徴を粉末X線回折のピークの2θ値により特定することができたものといえる。 (4)本1発明の結晶型Vの有用性(効果)について 本願明細書の段落【0006】には「どの結晶型が好ましいかを決定する際に、結晶型の多数の性質を比較しなければならず、多くの物理的性質の変動に基づいて好ましい結晶型が選択されなければならない。調製の容易さ、安定性などの一定の態様が重要であると見なされる一定の環境において、ある特定の結晶型が好ましい場合がある。他の状況では、より大きな溶解度及び/又は優れた薬物動態学に関して、異なる結晶型が好ましい場合がある。」との記載がある。 しかしながら、本願明細書の発明の詳細な説明には、同段落【0004】に記載の公知の4種類の結晶型(結晶型I~IV)と、本1発明の結晶型Vの「結晶型の多数の性質の比較」がされておらず、本1発明の結晶型Vに、いかなる有用性(効果)があるのか、何ら確認され、明らかにされていないので、本1発明に格別の効果があると認められない。 (5)審判請求人の主張について 審判請求人は、令和6年6月7日付けの意見書の第8頁で『医薬化合物の場合、疑似結晶多形を含む全ての有用な結晶形について短期間で把握する必要があるものの、その数は膨大であることから、医薬品開発の早期段階だけでは、全てを合成し評価することは難しいものです。そのため、開発を進めている段階においても、継続的に有用な結晶形の可能性を探索し続けることが実情です。特に、生産段階でスケールアップを行う段階において、ハンドリングのトラブルが発生することが多く、工程中の改良を余儀なくされることが多くあります。そのため、繰り返し製造工程で使用してみないと、どの結晶形が最も有用であるのかを判断することは困難です。したがって、できるだけ多くの有用な結晶形を得ることが重要なことになりますが、上述しましたとおり、医薬品開発の早期段階だけで全てを合成し評価することは困難ですので、新しい有用な結晶形を得ることは、当業者にとって容易になし得ることであるとは言えません。よって、本願請求項1~3に係る発明は、引用例1~6に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものではありません。』と主張する。 しかしながら、本願明細書に記載された化合物(I)の結晶型I~VIの6種類という数が「膨大である」とはいえず、例えば、引用例5(摘記5a)の「塩・結晶多形の選択…のスクリーニングについて,より早期での実施が可能な手法が開発され…供給されている」との記載や、引用例3(摘記3a)の「多くの候補品につき安定性や溶解度などを改善することを目指した結晶多形…の可能性をロボットシステムを用いて探索する」との記載にあるように、結晶型の探索は当業者が普通に行うことである。また、上記エに指摘したように、本願明細書には、本1発明の結晶型Vの有用性(効果)が、何ら確認され、明らかにされておらず、本1発明の結晶型Vが「有用な結晶形」であると解すべき理由や根拠が何ら見当たらない。 このため、審判請求人の上記意見書の主張は採用できない。 5 当審の判断のまとめ したがって、本1発明は、引用例1に記載された発明及び周知技術に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。 第5 むすび 以上のとおり、本願の請求項1に係る発明である本1発明は、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、他の請求項に係る発明について検討するまでもなく、本願は拒絶すべきものである。 よって、結論のとおり審決する。

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2022-018742

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