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特許拒絶査定不服審判

2022-016787

グルコピラノシル置換ベンジル-ベンゼン誘導体を調製するための方法

審判番号
2022-016787
法域
特許
審判種別
拒絶査定不服審判(拒絶査定不服の審決)
出願番号
特願2019-520146
請求日
2022年10月20日
審決日
2024年10月29日
公報発行日
2025年04月25日
結論
請求不成立
当事者
  • 【請求人】ベーリンガー インゲルハイム インターナショナル ゲゼルシャフト ミット ベシュレンクテル ハフツング
  • 【請求人代理人】田中 伸一郎
  • 【請求人代理人】須田 洋之
  • 【請求人代理人】山崎 一夫
  • 【請求人代理人】市川 さつき
  • 【請求人代理人】服部 博信
  • 【請求人代理人】松田 七重
審判長/審判官
  • 審判長 木村 敏康
  • 審判官 野田 定文
  • 審判官 関 美祝
分類
P18 .113-Z (C07H) / P18 .121-Z (C07H)
根拠条文(結論部分から自動抽出・参考)
特許法29条1項3号特許法29条2項
条文(本文から自動抽出・参考)
特許法第29条第1項第3号、特許法第29条第2項
データ出所
審決公報(XML)

事件の表示

特願2019-520146「グルコピラノシル置換ベンジル-ベンゼン誘導体を調製するための方法」拒絶査定不服審判事件〔平成30年4月19日国際公開、WO2018/069243、令和元年10月24日国内公表、特表2019-530722〕について、次のとおり審決する。

結論

結 論 本件審判の請求は、成り立たない。

理由

理 由 第1 手続の経緯 本願は、2017年10月9日(パリ条約による優先権主張外国庁受理 2016年10月13日 欧州特許庁(EP))を国際出願日とする出願であって、出願後の主な手続の経緯は次のとおりである。 令和3年11月19日付け:拒絶理由通知 令和4年 2月24日 :意見書、手続補正書の提出 同年 6月14日付け:拒絶査定(以下「原査定」という。) 同年10月20日 :審判請求書、手続補正書の提出 令和5年 7月25日 :上申書の提出 令和6年 2月27日付け:拒絶理由通知(当審) 同年 8月27日 :意見書、手続補正書の提出 第2 本願発明 令和6年8月27日提出の手続補正書によって補正された本願の特許請求の範囲の請求項1~11のうち、請求項1の記載は次のとおりであり、請求項1に係る発明は、請求項1に記載された事項によって特定されるとおりのものである(以下「本願発明1」という。)。 「【請求項1】 一般式III、 【化1】 [図:0001420640000001.jpg] [式中、R1は、(R)-テトラヒドロフラン-3-イルまたは(S)-テトラヒドロフラン-3-イルを示し; R2は、互いに独立に、水素、(C1-8-アルキル)カルボニル、(C1-8-アルキル)オキシカルボニル、フェニルカルボニル、フェニル-(C1-3-アルキル)-カルボニル、フェニル-C1-3-アルキル、アリル、RaRbRcSi、CRaRbORcを示し、ここで、隣接する2つのR2基は、互いに連結して、架橋基SiRaRb、CRaRb、またはCRaORb-CRaORb (式中、Ra、Rb、Rcは、互いに独立に、C1-4-アルキル、フェニル、またはフェニル-C1-3-アルキルを示し、アルキル基は、ハロゲンによって一置換または多置換されていてもよく; 上記基の定義で述べたフェニル基は、L1で一置換または多置換されていてもよく、ここで、L1は、互いに独立に、フッ素、塩素、臭素、C1-3-アルキル、C1-4-アルコキシ、およびニトロの中から選択される)を形成してもよく; R’は、水素、メチル、またはエチルを示す] の化合物を調製するための方法であって、 以下のステップ(S1)、(S2)、および(S3): (S1):一般式I 【化2】 [図:0001420640000002.jpg] (式中、R1は、上記定義の通りであり、Xは、Br、I、またはトリフレートを示す)の化合物をC1-4-アルキル-マグネシウムクロリドまたはブロミドと反応させるステップであって、 臭化リチウムおよび/または塩化リチウムが使用されてもよいステップ、ならびに (S2):ステップ(S1)で得られた有機金属化合物を、一般式II 【化3】 [図:0001420640000003.jpg] (式中、R2は、上記定義の通りである) の化合物と反応させるステップであって、 臭化リチウムおよび/または塩化リチウムが使用されてもよく、 水素ではないR2が、(S2)の間または終了時に切断されてもよいステップ、ならびに (S3):ステップ(S2)で得られた付加物を、1種または複数の酸の存在下で、化合物R’-OHまたは化合物R’-OHの混合物(式中、R’は、上記定義の通りである)と反応させるステップ を含み、 ステップ(S1)およびステップ(S2)の反応混合物中の鉄イオンの、ステップ(S1)に用いられる化合物Iに対するモル比が、20ppmを超えないことを特徴とする、 方法。」 第3 原査定の理由及び当審合議体による拒絶理由での指摘の概要 1 原査定の理由 原査定は、「この出願については、令和 3年11月19日付け拒絶理由通知書に記載した理由1,2によって、拒絶をすべきものです。」というものであり、その理由1及び理由2の概要は、 「1.(新規性)この出願の下記の請求項に係る発明は、その出願前に日本国内又は外国において、頒布された下記の刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明であるから、特許法第29条第1項第3号に該当し、特許を受けることができない。 2.(進歩性)この出願の下記の請求項に係る発明は、その出願前に日本国内又は外国において、頒布された下記の刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。」 というものである。そして、その記には、<引用文献等一覧>として、 「1.特表2013-505975号公報 2.WANG, Xiao-jun et al.,Efficient Synthesis of Empagliflozin, an Inhibitor of SGLT-2, Utilizing an AlCl3-Promoted Silane Reduction of a β-Glycopyranoside,Organic Letters,2014年,16(16),pp. 4090-4093, S1-S7,DOI: 10.1021/ol501755h」 が提示され、さらに 「●理由1(新規性)、理由2(進歩性)について ・請求項 1-11 ・引用文献等 1,2 ・備考 引用文献1,2には、それぞれ、(i) 3-(4-(2-クロロ-5-ヨードベンジル)フェノキシ)テトラヒドロフランを、ターボグリニャール溶液と反応させる工程、(ii) 得られた有機金属化合物を、グルコノラクトンと反応させる工程、(iii) 得られたグリコピラノシドを、酸の存在下でメタノールと反応させる工程を含む、メチルグリコピラノシドを調製する方法、さらに、(iv) 該メチルグリコピラノシドを還元剤と反応させる工程等を含む、グルコピラノシル置換ベンジルベンゼン誘導体を合成する方法が記載されている(引用文献1:特許請求の範囲、段落[0025]-[0036]、スキーム1,2、段落[0048]、実施例5a, 5b、引用文献2:・・・)。 一方、本願明細書段落[0034]-[0038]等には、グリニャール溶液に鉄塩を添加しない方法とグリニャール溶液に鉄塩を添加した方法を比較した実験例が記載されており、前者のグリニャール溶液には鉄イオンは含まれず、Iのオリゴマーの形成も抑制されることが示されている。そして、これらの実験例では、実験室等で通常使用されるグレードの試薬・溶媒及び反応器具が用いられたと解される。 そうすると、引用文献1,2には、上記工程(i)及び/又は工程(ii)の反応混合物中の鉄イオンの濃度は規定されていないものの、上記反応工程では、実験室等で通常使用されるグレードの試薬・溶媒及び反応器具が用いられたと解されるから、本願請求項1で規定される鉄イオンの濃度を満たす蓋然性が高い。 また、実験室等では、通常、ガラス製反応器具が用いられるとともに、金属製反応器具を用いる場合は、耐腐食性に優れた材質のものを選ぶことは当業者に自明である。さらに、引用文献1,2の記載に基づいて、用いる試薬、反応条件や保護基を改変することは当業者が容易になし得ることである。 したがって、請求項1-11に係る発明は、引用文献1又は2に記載された発明であるか、引用文献1又は2の記載及び出願時の技術常識に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。」 との指摘がなされている(なお、「・・・」は記載の省略を表す。また、下線は当審合議体による。以下同様。)。 さらに、令和4年6月14日付けの拒絶査定の備考では、次の点が指摘されている。 「●理由1(特許法第29条第1項第3号)、理由2(特許法第29条第2項)について ・請求項 1-11 ・引用文献等 1-3 出願人は、令和4年2月24日付け意見書において、以下の点を挙げて本願発明は引用文献1又は2に対して新規性及び進歩性を有する旨主張している。 (1) 引用文献1及び2には、式Iのグリニヤール反応における鉄イオンの存在により生じる式Iの化合物のオリゴマーの形成あるいは式Iの化合物の未反応により式IIIの化合物が形成しないという問題点(発明の課題)が記載も示唆もされておらず、それに対する解決方法についても記載されていない点 (2) 引用文献1と引用文献2は、双方とも大規模な製造プロセスに関連して記載されたものであるから、実験室のグレードのものを使用しているとはいえない点 (3) 大規模生産プロセスにおいて用いられる設備の材料について、参考資料(ChemicalEngineering Design by Gavin Towler, Ray Sinnott, (2008))を提出し、エンジニアリング材料としてステンレス鋼あるいは低炭素鋼は一般的に使用される材料であり、当業者は引用文献1及び2の方法に対して、ガラス容器ではなくステンレス鋼製の機器を選択する可能性が高い点 しかしながら、引用文献1の実施例5b、引用文献2のSupportingInformation S4-S7には、それぞれ、原料である3-(4-(2-クロロ-5-ヨードベンジル)フェノキシ)テトラヒドロフラン30g又は208.8gを用いた本願式Iのグリニヤール反応の工程が記載されており、これらの工程はいずれも大規模生産プロセスではなく、実験室スケールに相当する。 そして、引用文献1及び2は、グルコピラノシル置換ベンジルベンゼン誘導体の有利な又は効率的な製造方法に関するものであり、製造プロセスの開発では、実験室スケール、ベンチスケール、パイロットスケールを経て、大規模生産プロセスへスケールアップすることを考慮すると、引用文献1又は2に記載の上記工程は、実験室グレードのガラス製反応器具を用いたと解するのが自然であり、ステンレス鋼製の機器を選択する可能性は低いといえる。 また、大規模生産プロセスにおいてステンレス鋼製の機器が選択されるとしても、引用文献3に記載されるように、大部分の多目的反応器は金属そのものよりもより不活性なグラスライニング鋼で作られているから(第10頁参照)、引用文献1又は2に記載のグリニヤール反応において、反応工程に影響を与えるほどの遊離鉄イオンが含まれる可能性は低いと考えられる。 そうすると、本願請求項1-11に係る発明と引用文献1又は2に記載のグルコピラノシル置換ベンジルベンゼン誘導体を合成する方法は同一である蓋然性が依然として高い。また、引用文献1又は2に記載の上記反応工程において、実験室等で通常使用されるグレードの器具及び試薬等を用いることは当業者が通常行うことであるから、引用文献1又は2の記載及び出願時の技術常識に基づいて、本願請求項1-11に係る発明に至ることは当業者が容易になし得ることであるといえる。 ・・・ <引用文献等一覧> ・・・ 3.村瀬徳晃,プロセス化学 第2版 -医薬品合成から製造まで,丸善株式会社,2014年,pp. 10-12(周知技術を示す文献;新たに引用された文献)」 2 当審合議体による拒絶理由での指摘の概要 令和6年2月27日付けの当審における拒絶理由では、本願発明は不明確であるから、原査定の理由1及び理由2の判断を保留する旨の指摘とともに、次の点が補足されている。 「なお、例えば、特開2008-285585号公報(参考例A)の【0040】~【0041】の「一般に商業的に用いられるSUS316などのステンレス鋼を材質とする反応器中で反応を行った場合、・・・ステンレス鋼の主元素である鉄元素が溶出し、・・・不純物として混入する。・・・そのため、・・・鉄元素の量は・・・特に好ましくは0.1ppm以下である。・・・反応器内面をガラスやフッ素樹脂などの耐食性材料でライニングして反応器内面を耐食材質とする」との記載にあるように、化学反応に用いる反応器の内面は、鉄元素が不純物として混入しないように、ライニングされているのが普通であるから、引用文献1及び2の反応系において、鉄イオンの量が20ppmを超える量にある蓋然性は低いものと思料する。」 第4 各引用文献及び本願明細書の記載事項 1 引用文献1の記載事項 摘記(1a)「【請求項1】 下記一般式III 【化1】 [図:0001420640000004.jpg] (式中、R1は、C1-3-アルキル、シクロブチル、シクロペンチル、シクロヘキシル、(R)-テトラヒドロフラン-3-イル、(S)-テトラヒドロフラン-3-イルまたはテトラヒドロピラン-4-イルを示し; R2は、各々独立して、水素、(C1-8-アルキル)カルボニル、(C1-8-アルキル)オキシカルボニル、フェニルカルボニル、フェニル-(C1-3-アルキル)カルボニル、フェニル-C1-3-アルキル、アリル、RaRbRcSi、CRaRbORcを示し、ここで、2つの隣接する基R2は、相互に結合して、架橋基SiRaRb、CRaRbまたはCRaORb-CRaORbを形成してもよく; R'は、水素またはC1-6-アルキルを示し; Ra、Rb、Rcは、各々独立して、C1-4-アルキル、フェニルまたはフェニル-C1-3-アルキルを示すが、アルキル基は、ハロゲンによって一置換または多置換されていてもよく; L1は、各々独立して、フッ素、塩素、臭素、C1-3-アルキル、C1-4-アルコキシおよびニトロより選ばれ; 上記基の定義に挙げられたフェニル基は、L1によって一置換または多置換されていてもよい) のグルコピラノシル置換ベンジルベンゼン誘導体を調製する方法であって、 工程(S2)、(S3)および(S4): (S2): 下記式VI 【化2】 [図:0001420640000005.jpg] (式中、R1は、上文のように定義され、Mは、Li、MgまたはMgQを示し、ここで、Qは、Cl、Br、Iまたは有機部分を示す) の有機金属化合物と下記一般式IV 【化3】 [図:0001420640000006.jpg] (式中、R2は、上文で定義された通りである) のグルコノラクトンとを有機溶媒または2つ以上の有機溶媒の混合物中で反応させる工程; (S3): 1つ以上の酸を含む水溶液を添加して、反応混合物が水相と有機相を形成し、それによって、有機相が約0~7の範囲にあるpHを有する工程; (S4): 工程(S2)で得られた付加物を含む有機相を水相から分離する工程; および (S5): 得られた付加物と水またはアルコールR'-OH(ここで、R'は、C1-6-アルキルを示す)、またはその混合物とを1つ以上の酸の存在下に反応させる工程 を含む、前記方法。 【請求項2】 工程(S1): (S1): 式V 【化4】 [図:0001420640000007.jpg] (式中、R1は、請求項1に記載のように定義され、Xは、Br、Iまたはトリフレートを示す)の化合物とマグネシウム、リチウム、マグネシウムグリニャール試薬またはリチウム有機化合物とを有機溶媒または2つ以上の有機溶媒の混合物中で反応させて、式VI 【化5】 [図:0001420640000008.jpg] (式中、R1は、上文のように定義され、Mは、Li、MgまたはMgQを示し、ここで、Qは、Cl、Br、Iまたは有機部分を示す) の有機金属化合物を得る工程 をさらに含む、請求項1に記載の方法。」 摘記(1b)「【0025】 ・・・ 以下において、本発明の方法を詳述する。 式IIIのグルコピラノシル置換ベンジルベンゼン誘導体は、D-グルコノラクトンまたはその誘導体から所望のベンジルベンゼン化合物を式VIの有機金属化合物の形で反応させることによって合成することができる(スキーム1)。 スキーム1: 有機金属化合物のグルコノラクトンへの付加 【0026】 【化11】 [図:0001420640000009.jpg] 【0027】 工程(S1)において、式VIの有機金属化合物は、式Vの化合物とマグネシウム、リチウム、マグネシウムグリニャール試薬またはリチウム有機化合物とを有機溶媒または2つ以上の有機溶媒の混合物中で反応させることによって調製される。反応は、いわゆるハロゲン-金属交換反応または炭素-ハロゲン結合への金属の挿入である。基Xは、好ましくはヨウ素を示す。反応は、元素のマグネシウムまたはリチウムによって行われ得る。自然反応が起こらない場合には、ヨウ素、テトラクロロメタンまたはヨードメタンのようなプロモーターが添加され得る。あるいは、反応は、リチウム有機化合物、例えばC1-6-アルキルリチウム、好ましくはn-、sec-またはtert-ブチルリチウムによって行われ得る。好ましくは、反応は、C3-4-アルキル-またはアリール-マグネシウムクロリドまたはブロミド、例えば、イソプロピルまたはsec-ブチルマグネシウムクロリドまたはブロミド、tert-ブチルマグネシウムクロリドまたはブロミド、フェニルマグネシウムクロリドまたはブロミドのようなマグネシウムグリニャール試薬で行われる。このようにして得られたマグネシウムまたはリチウム誘導体化された化合物は、必要により、金属塩、例えば、三塩化セリウム、塩化亜鉛、臭化亜鉛、塩化インジウム、臭化インジウム、臭化銅、または塩化銅でトランスメタル化して、付加に適している別の有機金属化合物(VI)を形成してもよい。プロモーターとして、臭化リチウムおよび/または塩化リチウムのような付加塩を、工程(S1)の始めに、その間にまたはその終りに添加することができる。あるいは、このようなプロモーターを、工程(S2)の始めにまたはその間に添加することができる。最も好ましくは、式Vの化合物を、塩化イソプロピルマグネシウムと塩化リチウムの混合物と反応させる。グリニャール試薬、特にC3-4-アルキルマグネシウムクロリドまたはブロミド、例えば、iPrMgClと、臭化リチウムおよび/または塩化リチウム、特にLiClのモル比は、好ましくは1 : 10~10 : 1、最も好ましくは約1 : 1の範囲にある。iPrMgCl:LiClの1:1の混合物は、例えば、テトラヒドロフラン中約12~16% w/wの濃度で市販され、“ターボグリニャール溶液”とも呼ばれる。式Vの化合物に対するマグネシウム、リチウム、マグネシウムグリニャール試薬またはリチウム有機化合物の好適な量は、約0.5~2モルの範囲にあり、最も好ましくは等モルである。約1モルより少ない量が結果として収量の減少につながり、約1モルより多い量が結果として望まれていない副生成物の形成につながることがわかった。反応は、有機溶媒または2つ以上の有機溶媒の混合物中で行われる。好適な溶媒は、テトラヒドロフラン、2-メチルテトラヒドロフラン、tert-ブチルメチルエーテル(TBME)、ジエチルエーテル、ヘプタン、トルエン、ベンゼン、ジオキサン、メチルシクロヘキサン、ヘキサン、ジメチルスルホキシド、ジクロロメタンおよびクロロホルムからなる群より選ばれる。最も好適な溶媒は、テトラヒドロフランまたは2-メチルテトラヒドロフランである。反応は、-100~+50℃、好ましくは-70~10℃、最も好ましくは-40~-10℃の温度範囲において行われ得る。反応は、例えば、HPLC-、NIR-、IR-技術によってモニタされ得る。好適な作用時間は、10分と600分の間にある。式VIの反応生成物を分離することができるが、このような分離は必要でない。上記の反応は、好ましくは不活性ガス雰囲気下で行われる。アルゴンや窒素が好適な不活性ガスである。 【0028】 工程(S2)において、式IVのグルコノラクトンが、式VIの化合物に有機溶媒または2つ以上の有機溶媒の混合物中で添加される。好適な溶媒は、前の工程(S1)に関して記載されているものである。好ましくは、工程(S1)で得られた反応混合物にグルコノラクトンが添加される。置換基R2は、好ましくはトリメチルシリル、トリエチルシリル、トリイソプロピル、トリブチルシリル、tert-ブチルジメチルシリル、tert-ブチルジフェニルシリル、アセチル、ベンジル、ベンゾイル、アリル、メトキシメチル、テトラヒドロピラニルを示す。最も好ましくは、R2は、トリメチルシリルを示す。式VIの有機金属化合物に対するグルコノラクトンの好適な量は、約0.8~3モル、より好ましくは約1~2モルの範囲にあり、最も好ましくは約1.06モルである。反応は、-100~+50℃、好ましくは-70~10℃、最も好ましくは-20~-5℃の温度範囲において行われ得る。反応は、例えば、HPLC-、NMR、GC-、NIR-またはIR-技術によってモニタされ得る。好適な作用時間は、15分と600分の間にある。式VIの反応生成物は、分離され得る。上記の反応は、好ましくは、不活性ガス雰囲気下で行われる。アルゴンや窒素が好適な不活性ガスである。 工程(S3)において、1つ以上の酸を含む水溶液を工程(S2)において得られた反応混合物に添加して、反応混合物が水相と有機相を形成し、それによって、有機相は、約0~7の範囲にあるpHを有する。原則として、全ての無機酸または有機酸を用いて、所望のpH範囲を得ることができる。好適な酸は、有機酸、例えば、クエン酸、酒石酸、シュウ酸、コハク酸、酢酸、クロロ酢酸、ジクロロ酢酸またはトリフルオロ酢酸、または無機酸、例えば、塩酸、硫酸または硝酸である。酸は、アンモニウム塩、例えば塩化アンモニウムでもよい。酸は、酢酸/酢酸塩(例えば、酢酸、酢酸ナトリウム)、2水素リン酸塩/水素リン酸塩(例えば、KH2PO4/Na2HPO4)、TRIS(トリス(ヒドロキシメチル)アミノメタン)またはHEPES(2-(4-(2-ヒドロキシエチル)-1-ピペラジニル)エタンスルホン酸)のような緩衝系の一部でもよい。より好適な酸は、クエン酸および酢酸、特にクエン酸である。水溶液は、さらに、上述した酸の混合物またはさらに塩、例えば、塩化ナトリウム、塩化カリウム、臭化ナトリウム、臭化カリウム、塩化リチウム、臭化リチウムまたはこれらの混合物を含むことができる。水溶液中の1つ以上の酸の量は、好ましくは、反応混合物が水相と有機相を形成するような量であり、それによって、有機相は約0~7の範囲にあるpHを有する。より好適なpH範囲は、約1~6、より好ましくは約1~4、最も好ましくは約2~3である。上記の好適なpH範囲のpHが水相と有機相の良好な分離を可能にすることがわかった。いかなる理論にも縛られることなく、好適範囲のpH値で、中間生成物の安定性が最も高いことが仮定される。好適なものより低いpH値で、3相の発生が観察された。また、いかなる理論にも縛られることなく、低pH値で、グルコピラノシル環の保護基が切断され得るので、脱保護された中間生成物が追加相を形成することになると思われる。好適なものより高いpH値で、相分離が、エマルジョンの形成のため困難であるかまたは不可能であることがわかった。 【0029】 pH値は、計測記録用紙や試験スティックを含む、pH電極やpH指示薬のような化学者に周知の方法を使って有機相において測定することができる。pH値は、好ましくは有機相の所定の温度で、より好ましくは約0℃と40℃の間、さらにより好ましくは約10℃と30℃の間の温度で、例えば室温(約20~25℃)で測定される。pH値は、相分離後、例えば、分離の直後または数時間に、有機相において測定することができる。 水溶液中1つ以上の酸、例えばクエン酸、の好適な濃度は、約2~30質量%、より好ましくは約5~20質量%の範囲にあり、最も好ましくは10質量%である。工程(S2)で得られた反応混合物の容積に対する水溶液の容積は、好ましくは約0.1~5、より好ましくは約0.2~2、さらにより好ましくは約0.2~1、最も好ましくは約0.3~0.6の範囲にあり、例えば約0.4である。水溶液は、反応混合物に、好ましくは約-50~40℃、さらにより好ましくは約-10~25℃の範囲にある温度で添加され得る。水溶液の添加は、好ましくは少なくとも15分以内に、より好ましくは60分以内に行われ得る。 水相と有機相のより改善された分離を達成するために、この反応工程においてまたは前の反応工程(S1)または(S2)の間に1つ以上の追加の有機溶媒を反応混合物に添加することが有利であり得る。好適な追加の有機溶媒は、2-メチルテトラフラン、トルエン、酢酸イソプロピル、酢酸エチル、酢酸n-ブチル、tert-ブチルメチルエーテル、n-ヘプタン、アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、ジオキサン、テトラヒドロフラン、メチルシクロヘキサンおよびヘキサンからなる群より選ばれ得る。最も好適な追加の有機溶媒は、2-メチルテトラヒドロフランである。反応混合物の有機相の全量に対する追加の有機溶媒の量は、好ましくは約2質量%~60質量%、より好ましくは約5質量%~50質量%、さらにより好ましくは約10質量%~40質量%、最も好ましくは約15~35質量%の範囲にある。 【0030】 追加の有機溶媒の添加の前に、反応混合物の蒸留によって、好ましくは減圧下で有機相の容積を減少させてもよい。蒸留は、好ましくは約35℃以下の温度で行われる。工程(S3)の性能の後に得られる反応混合物は、水相と有機相を示し、それによって、工程(S2)の反応の生成物は、主に有機相に見られる。 工程(S4)において、工程(S2)で得られた付加物を含む有機相を水相から分離する。液相の分離方法は、当業者にとって周知である。相の分離は、好ましくは約-20~50℃、より好ましくは約0~30℃の範囲にある温度で行われる。得られた有機相は、工程(S2)で得られた大部分の付加物を含む。水相を有機溶媒または有機溶媒の混合物で1回以上洗浄してもよく、有機相を合わせてもよい。好適な有機溶媒は、工程(S1)、(S2)および(S3)に関して上で記載されている。次の反応工程を行う前に、好ましくは、部分容積または全容積の1つ以上の有機溶媒が、好ましくは減圧下で、留去される。蒸留は、好ましくは35℃以下の温度で行われる。 【0031】 工程(S5)において、工程(S4)で得られた付加物を、1つ以上の酸の存在下に水またはアルコールR'-OH(ここで、R'は、C1-6-アルキルを示す)またはその混合物と反応させる。アルコールR'-OHは、好ましくは、メタノール、エタノール、1-プロパノール、2-プロパノール、n-ブタノール、tert-ブタノールまたはこれらの混合物からなる群より選ばれる。好適なアルコールは、メタノールである。アルコールは、好ましくは、等モル量を超える量で使われて、溶媒としても使用する。原則として、反応工程に全ての無機酸または有機酸を用いることができる。1つ以上の酸の添加によって、好ましくは約7より低いpHが得られるべきである。好適なpH範囲は、約0~7、より好ましくは約0~4、さらにより好ましくは約1~2である。酸は、好ましくは、塩酸、硫酸、硝酸、酢酸、トリフルオロ酢酸、クエン酸、酒石酸、シュウ酸およびコハク酸からなる群より選ばれる。より好適な酸は、例えば、エタノール中の塩酸、プロパノール中の塩酸、ジオキサン中のHClの溶液として使うことができる塩酸である。あるいは、HClガスを用いることができる。好適な反応温度は、約-50~50℃、より好ましくは約0~30℃、最も好ましくは約15~25℃の範囲にある。式IIIの生成物への完全な変換は、有利には、後続の蒸留によって、好ましくは減圧で、好ましくは約35℃以下の温度で、達成される。蒸留の間、アルコールR'-OHの後続の量が反応混合物に添加されるときに、完全な変換を改善することがわかった。反応は、好ましくは120分以内に完了する。反応は、例えばHPLCによってモニタされ得る。反応の完了後、反応混合物に残存する酸は、好ましくは、1つ以上の塩基の添加によって部分的にまたは全体に中和される。塩基の添加後に好適なpHは、好ましくは約5~6の範囲にある。好適な塩基は、例えば、トリエチルアミン、アンモニア、トリメチルアミン、n-アルキルアミン(例えば、メチルアミン、エチルアミン)、ジイソプロピルエチルアミン(DIPEA)、炭酸ナトリウム、炭酸水素ナトリウム、炭酸カリウム、エタノールアミン、1,4-ジアザビシクロ[2.2.2]オクタン(DABCO)、1,8-ジアザビシクロ[5.4.0]ウンデカ-7-エン(DBU)である。トリエチルアミンが最も好適な塩基である。溶媒の一部分または全量が、好ましくは減圧で、好ましくは留去される。再び、溶媒または溶媒の混合物が、有利には添加され、少なくとも部分的に留去される。反応混合物の含水量を減少するために、後続の蒸留によって溶媒の添加が1回以上反復され得る。溶媒は、好ましくは、アセトニトリル、プロピオニトリル、テトラヒドロフランおよびジオキサンからなる群より選ばれる。最後に、他の溶媒または溶媒の混合物が添加されてもよい。好適な溶媒は、塩化メチレン、酢酸エチル、酢酸イソプロピル、クロロホルム、1,2-ジクロロエタン、ジメトキシエタン、N,N'-ジメチルホルムアミド、N-メチルピロリドン、ジメチルスルホキシド、テトラヒドロフラン、2-メチルテトラヒドロフラン、ジオキサン、ジエチルエーテルおよびtert-ブチルメチルエーテルからなる群より選ばれる。好適な溶媒は、ジクロロメタンである。有利には、得られた反応混合物の含水量は、例えばカールフィッシャー滴定、GC、NMR、IRまたはNIRによって定量される。得られた反応混合物の含水量は、好ましくは5000ppmより少なく、より好ましくは2000ppmより少ない。」 摘記(1c)「実験手順: 【0048】 【化17】 [図:0001420640000010.jpg] 」 摘記(1d)「【0049】 実施例1: フッ化物VIII.1の合成 塩化オキサリル(176kg; 1386モル; 1,14当量)を2-クロロ-5-ヨード安息香酸(343kg; 1214モル)(化合物IX.1)、フルオロベンゼン(858kg)およびN,N-ジメチルホルムアミド(2kg)の混合物に約25~30℃の範囲にある温度で3時間以内に添加する(ガス発生)。添加の終了後、反応混合物を、約25~30℃の温度でさらに2時間を撹拌する。溶媒(291kg)を40と45℃の間の温度(p=200mbar)で留去する。次に、反応溶液(911kg)を、塩化アルミニウムAlCl3(181kg)およびフルオロベンゼン(192kg)に約25と30℃の間の温度で2時間以内に添加する。反応溶液を同一温度でさらに1時間撹拌する。次に、反応混合物を570kgの量の水に約20と30℃の間の温度で約2時間以内に添加し、さらに1時間撹拌する。相分離の後、有機相(1200kg)を二等分(それぞれ600kg)に分ける。有機相の第1の半分から溶媒(172kg)を約40~50℃の温度(p=200mbar)で留去する。次に、2-プロパノール(640kg)を添加する。溶液を約50℃に加熱し、次に木炭カルトゥーシュでろ過する(透明なろ過)。カルトゥーシュをろ過の間に交換し、ろ過後にフルオロベンゼン/2-プロパノール混合物(1:4;40kg)で洗浄してもよい。溶媒(721kg)を約40~50℃の温度、p=200mbarで留去する。次に、2-プロパノール(240kg)を約40と50℃の間の範囲にある温度で添加する。フルオロベンゼンの含量がGCによって定量される1%より多い場合には、他の140kgの溶媒を留去し、2-プロパノール(140kg)を添加する。次に、この溶液を約50℃から40℃に1時間以内に冷却し、種結晶(50g)を添加する。この溶液を、約40℃から20℃に2時間以内でさらに冷却する。水(450kg)を約20℃で1時間以内に添加し、懸濁液を約20℃でさらに1時間撹拌した後、懸濁液をろ過する。ろ過ケークを2-プロパノール/水(1:1; 800kg)で洗浄する。<0.06%w/wの水分レベルが得られるまで生成物を乾燥する。有機相の第2の半分を同様に処理する。白色からオフホワイトの結晶の外見を有する生成物の合計410kg(収率94%)を得る。生成物の同一性は、赤外分光光度法によって求める。 【0050】 実施例2: ケトンVII.1の合成 フッ化物VIII.1(208kg)、テトラヒドロフラン(407kg)および(S)-3-ヒドロキシテトラヒドロフラン(56kg)の溶液にテトラヒドロフラン(388kg)中のカリウム-tert-ブタノレート溶液(20%)を16~25℃の温度で3時間以内に添加する。添加の終了後、この混合物を20℃の温度で60分間撹拌する。次に、変換をHPLC分析によって求める。水(355kg)を21℃の温度で20分以内に添加する(水中急冷)。反応混合物を30分間撹拌する(温度: 20℃)。スターラーのスイッチを切り、この混合物を60分間放置する(温度: 20℃)。相を分離し、溶媒を減圧下に19~45℃の温度で有機相から留去する。残留物に2-プロパノール(703kg)を40~46℃の温度で添加し、溶媒を減圧下に41~50℃の温度で留去する。残留物に2-プロパノール(162kg)を47℃の温度で添加し、溶媒を減圧下に40~47℃の温度で留去する。次に、この混合物を0℃に1時間55分以内に冷却する。生成物を遠心機により集め、2-プロパノール(158kg)の混合物で、引き続きtert-ブチルメチルエーテル(88kg)で洗浄し、減圧下に19~43℃で乾燥する。227kg(91.8%)の生成物を無色の固形物として得る。生成物の同一性を赤外分光光度法によって求める。 【0051】 実施例3: ヨウ化物V.1の合成 トルエン(366.8kg)中のケトンVII.1(217.4kg)および塩化アルミニウム(AlCl3; 81.5kg)の溶液に1,1,3,3-テトラメチルジシロキサン(TMDS、82.5kg)を1時間30分以内に添加する(温度: 18-26℃)。添加の終了後、この混合物を24℃の温度でさらに1時間撹拌する。次に、変換をHPLC分析によって求める。引き続き、反応混合物をアセトン(15.0kg)で処理し、27℃の温度で1時間5分間撹拌し、残留TMDS含量をGCによって分析する。次に、反応混合物に水(573kg)と濃塩酸(34kg)の混合物を20~51℃の温度で添加する(水中急冷)。反応混合物を30分間撹拌する(温度:51℃)。スターラーのスイッチを切り、この混合物を20分間放置する(温度: 52℃)。相を分離し、有機相から溶媒を減圧下に53-73℃の温度で留去する。残留物にトルエン(52.8kg)とエタノール(435.7kg)を61~70℃の温度で添加する。反応混合物を36℃の温度に冷却し、種結晶(0.25kg)を添加する。この温度で35分間撹拌を続ける。次に、この混合物を0~5℃に冷却し、さらに30分間撹拌する。生成物を遠心機により集め、エタノール(157kg)で洗浄し、減圧下に15~37℃で乾燥する。181kg(82.6%)の生成物を無色の固形物として得る。生成物の同一性をHPLC保持時間によって求める。 【0052】 実施例4: ラクトンIV.1の合成 D-(+) -グルコン酸-デルタ-ラクトンIVa.1(42.0kg)、テトラヒドロフラン(277.2kg)、4-メチルモルホリン(NMM; 152.4kg)および4-ジメチルアミノピリジン(DMAP; 1.44kg)の懸濁液をクロロトリメチルシラン(TMSCl; 130.8kg)で13~19℃において50分以内に処理する。添加の終了後、20~22℃で1時間30分間撹拌を続け、変換をHPLC分析によって求める。次に、n-ヘプタン(216.4kg)を添加し、この混合物を5℃に冷却する。水(143kg)を3~5℃で15分以内に添加する。添加の終了後、この混合物を15℃に加熱し、15分間撹拌する。スターラーのスイッチを切り、この混合物を15分間放置する。次に、相を分離し、有機層を水で2回連続して洗浄する(それぞれ143kg)。次に、溶媒を減圧下に38℃で留去し、残留物にn-ヘプタン(130kg)を添加する。得られた溶液をろ過し、フィルターをn-ヘプタン(63kg)ですすぐ(フィルター溶液と生成物溶液を合わせる)。次に、溶媒を減圧下に39~40℃で留去する。残留物の含水量をカール-フィッシャー分析によって求める(結果: 0.0%)。112.4kgの生成物を油状物として得る(残留n-ヘプタンを含有し、このことにより収率>100%が説明される)。生成物の同一性を赤外分光光度法によって求める。」 摘記(1e)「【0055】 実施例5b: グルコシドII.1の合成 テトラヒドロフラン(55mL)中のヨウ化物V.1(30g)の溶液にターボグリニャール溶液(イソプロピルマグネシウムクロリド/塩化リチウム溶液、14質量%のiPrMgCl/THF、LiCl:iPrMgClモル比 = 0.9-1.1モル/モル)(53g)を-14~-13℃の温度で35分以内に添加する。添加の終了後、変換をHPLC分析によって求める。ヨウ化物V.1に対応するピークの領域が双方のピーク、ヨウ化物V.1とヨウ化物V.1の対応するデスヨード化合物の全面積の5.0%より小さいときに、反応が完了したとみなされる。反応が完了しない場合には、基準が満たされるまでさらにターボグリニャール溶液を添加する。この具体的な場合、結果は0.35%である。次に、ラクトンIV.1(36g)を-15~-6℃の温度で15分以内に添加する。得られた混合物を-6~-7℃でさらに1時間撹拌する。添加の終了後、変換をHPLC分析によって求める(情報のために)。終了時に、水中のクエン酸の溶液(105mL;濃度: 10質量%)を反応混合物に15~10℃で30分以内に添加する。反応混合物(残留量: 200mL)から溶媒を減圧下に20~30℃で部分的に留去し、2-メチルテトラヒドロフラン(71mL)を添加する。次に、この混合物を30℃で25分間撹拌する。次に、スターラーのスイッチを切り、相を30℃で分離する。相分離の後、有機相のpH値を、pH電極(Mettler Toledo MT HA 405 DPA SC)あるいはpH試験紙(例えばpH-Fix 0-14、Macherey and Nagel)で測定する。測定したpH値は、3である。次に、有機相から溶媒を減圧下に35℃で留去し、メタノール(126mL)を添加し、続いてメタノール(10.1mL)中の1.25NHClの溶液を25℃(pH = 1-2)で添加する。引き続き減圧下に35℃で蒸留し、メタノール(47mL)を添加することによって、アセタールIII.1へ完全な変換が達成される。 【0056】 2つの基準が満たされるときに反応の完了が得られる: 1)中間体III.1のアルファ形+ベータ形のHPLC-領域の合計と中間体IIIa.1の領域との比が96.0%以上 : 4.0%である。この具体的な場合、比は、99.6% : 0.43%である。 2)中間体III.1のアルファ形のHPLC-領域とIII.1のベータ形との比が97.0%以上 : 3.0%である。この具体的な場合、比は、98.7% : 1.3%である。トリエチルアミン(2.1mL)を添加し(pH = 9)、溶媒を減圧下に35℃で留去し、アセトニトリル(120mL)を添加し、減圧下に30~35℃でさらに蒸留する。この手順を反復し(アセトニトリルの添加: 102mL)、得られた混合物に塩化メチレン(55mL)を添加して、アセトニトリルと塩化メチレン中のアセタールIII.1の混合物を得る。カールフィッシャー滴定によって混合物の含水量を求める(結果: 0.04%)。次に、反応混合物を、AlCl3(19.8g)、塩化メチレン(49mL)、アセトニトリル(51mL)およびトリエチルシラン(23g)の予め形成された混合物に20℃で1時間5分以内に添加する。得られた混合物を20~30℃で60分間撹拌する。反応の完了後、水(156mL)を20℃で25分以内に添加し、この混合物を大気圧下55℃で部分的に蒸留し、相を33℃で分離する。この混合物を43℃に加熱し、トルエン(90mL)を有機相に添加し、溶媒を減圧下に41~43℃で留去する。次に、アセトニトリル(10mL)を41℃で添加し、アセトニトリルのパーセントをGC測定によって求める。この具体的な場合、アセトニトリルパーセントは、27%質量である。次に、種結晶(0.1g)を44℃で添加することによって生成物を結晶化し、この混合物を44℃で15分間さらに撹拌する。次に、この混合物を20℃に60分以内に冷却し、水(142mL)を20℃で30分間添加する。反応混合物を0~5℃に60分以内に冷却し、3℃で16時間撹拌する。最後に、生成物をフィルターにより無色の結晶固形物として集め、トルエン(80mL)で洗浄し、20~70℃で乾燥する。20.4kg(62.6%)の生成物を得る。生成物の同一性をHPLC保持時間によって求める。」 2 引用文献3(周知技術を示す文献)の記載事項 摘記(3a)「1.2 スケールアップ時に設備に関して考慮すべきことがら スケールアップ時に用いられる設備を操作するときの,実験室における操作との基本的な違いというものは,装置がガラスのような視認性の良い材質でできておらず,また,移動することができないという点,そして,内容物にたやすく触れることができないという点に集約される.大部分の多目的反応器(multi-purpose reactors)(図1.4)は金属そのものよりもより不活性なグラスライニング鋼でつくられている.」(10ページ1~6行) 摘記(3b)「 [図:0001420640000011.jpg] 図1.4 円筒形1000ガロン(約3800L)多目的グラスライニング反応器の断面図 冷却や加熱を目的として,ジャケット内に熱媒体を循環させることができる.撹拌機は交換できる.[De Dietrich Process Systems 社提供]」(10ページ、図1.4) 3 参考例A(周知技術を示す文献)の記載事項 摘記(Aa)「【課題を解決するための手段】 【0006】 本発明者らは、前記課題を解決するために鋭意検討を重ねた結果、 ・有機重合体(I)から除去および/または失活可能な特定の構造を有する触媒の存在下、メトキシ基以外の加水分解性基を少なくとも1つ含んだ3つの加水分解性基が結合した珪素原子を末端に有する有機重合体(II)とメタノールを反応させることにより、取扱いが厄介で、入手が困難なトリメトキシシランを原料に使用せずにトリメトキシシリル基を末端に有する有機重合体を得ることが可能なこと。 ・前記製造方法を採用することで少量の触媒量でも短時間でメトキシ基への交換反応が進行し、かつ、メトキシ基交換反応中の副反応による増粘が少ないこと。 ・トリメトキシシリル基を末端に有する有機重合体が貯蔵中に粘度上昇を引き起こす原因として、重合触媒由来や中和剤由来、反応機の腐食等により混入した金属不純物の影響が大きいこと、また金属不純物の悪影響を抑止するため、アスコルビン酸および/またはその誘導体等の金属配位性化合物の添加が有効であること。 ・金属配位性化合物は、製造工程の任意のタイミングで添加しても、その効果が発現すること。 等を見出し、本発明を完成するに至った。」 摘記(Ab)「【0040】 本発明においては、触媒として酸を用いることができるが、酸は反応器の腐食をもたらすことがある。反応器が腐食した場合、腐食によって生成した金属不純物が有機重合体(I)中に混入し、この金属不純物によって貯蔵中に有機重合体(I)が増粘することがあることが分かった。一般に商業的に用いられるSUS316などのステンレス鋼を材質とする反応器中で反応を行った場合、触媒種および/または濃度や反応温度および/または時間などの条件によっては反応器の腐食が進行し、ステンレス鋼の主元素である鉄元素が溶出し、トリメトキシシリル基を末端に有する有機重合体(I)中に不純物として混入する。その後、金属不純物となって混入した鉄化合物が硬化触媒として機能し、貯蔵中に増粘を引き起こすと考えられる。そのため、トリメトキシシリル基を末端に有する有機重合体(I)中に含まれる鉄元素の量は6ppm以下であることが好ましく、より好ましくは3ppm以下であり、さらに好ましくは1ppm以下であり、特に好ましくは0.1ppm以下である。 【0041】 従って、ステンレス鋼などを材質とする反応器を腐食させるような環境下でトリメトキシシリル基末端有機重合体(I)を製造する場合、本発明においては反応器内面が耐食性材質である反応容器中でトリメトキシシリル基を末端に有する有機重合体(I)を製造することが好ましい。耐食性材質としては、ニッケル、チタン、モリブデン、クロム、タンタルなどの酸に対して耐食性を有する純金属または、これら金属元素を含む各種合金などが好ましい。なかでも、ハステロイC276などのニッケル-クロム-モリブデン系合金、ハステロイBなどのニッケル-モリブデン系合金が耐食性、耐久性、熱伝導率の点で好ましい。また、反応器内面をガラスやフッ素樹脂などの耐食性材料でライニングして反応器内面を耐食材質とすることも可能であり、この場合、特にコストの点で有利である。また、これら材質を組み合わせて使用することも可能である。」 4 本願明細書の記載事項 摘記(α)「【0034】 実験手順の説明および結果: 実験A グリニャール溶液の前処理(GriS;THF中i-PrMgCl/LiCl): ガラス製フラスコ内で、1.3mol/Lのi-PrMgCl/LiClのTHF(100mL)中溶液に、鉄塩(FeI2およびFeCl3)をそれぞれスパイクし、得られた混合物を室温で7日間、アルゴン雰囲気下で撹拌した。次いで、試料を採取し、鉄イオン含有量について分析法Aを用いて分析した。 【0035】 実験の説明: ガラス製フラスコ内で、化合物I(式中、XはIを示し、R1は(S)-テトラ-ヒドロフラン-3-イルを示す)(0.072mol)のTHF(54mL)中溶液を、アルゴン雰囲気下で-15℃~-40℃に冷却した。55mLの前処理済みグリニャール溶液(1.0当量)を、-15℃~-40℃で60~65分以内に添加した。試料を採取し、化合物Iおよびオリゴマーについて、それぞれ分析法BおよびCを用いて分析した。この溶液に、化合物II(式中、R2はトリメチルシリルを示す)(1.1当量)を-5℃~-25℃で添加した。添加を完了した後、得られた混合物を-5℃~-15℃でさらに60~120分間撹拌した。試料を採取し、式III(R’=H)のヘミアセタール中間体について分析法Dを用いて分析した。 【表1】 [図:0001420640000012.jpg] 1参照実験 2グリニャール溶液中の質量分率w(Fe)から算出(分析法Aを参照されたい) 【0036】 実験B 金属試験片の前処理: それぞれの金属試験片を、5M塩酸水溶液の雰囲気下で4週間、デシケーター内に保管した。 グリニャール溶液の前処理(GriS;THF中i-PrMgCl/LiCl): ガラス製フラスコ内で、1.3mol/Lのi-PrMgCl/LiClのTHF(100mL)中溶液に、それぞれの前処理済み金属試験片を添加し、得られた混合物を室温で7日間、アルゴン雰囲気下で撹拌した。次いで、試料を採取し、鉄イオン含有量について分析法Aを用いて分析した。 【0037】 実験の説明: ガラス製フラスコ内で、化合物I(式中、XはIを示し、R1は(S)-テトラ-ヒドロフラン-3-イルを示す)(0.072mol)のTHF(54mL)中溶液をアルゴン雰囲気下で-15℃~-40℃まで冷却した。55mLの前処理済みグリニャール溶液(1.0当量)を、-15℃~-40℃で60~65分以内に添加した。試料を採取し、化合物Iおよびオリゴマーについて、それぞれ分析法BおよびCを用いて分析した。この溶液に、化合物II(式中、R2はトリメチルシリルを示す)(1.1当量)を-5℃~-25℃で添加した。添加を完了した後、得られた混合物を-5℃~-15℃でさらに60~120分間撹拌した。試料を採取し、式III(R’=H)のヘミアセタール中間体について分析法Dを用いて分析した。 【0038】 【表2】 [図:0001420640000013.jpg] 1参照実験 2グリニャール溶液中の質量分率w(Fe)から算出(分析法Aを参照されたい) 【0039】 分析法の説明: 分析法A 鉄イオン濃度を定量するために、ICP-MS(例えば、Perkin Elmer Nexion 300)を使用する定量分析法を使用した。メンブレンフィルター(例えば、Pall Acrodisc Premium 25mm Syringe Filter 0.45μm GHP Membrane)を使用して試料をろ過し、硝酸および塩酸の添加後に、マイクロ波(例えば、Anton Paar Multiwave 3000)を使用して消化した。溶液中の鉄イオンの量は、質量分率w(Fe)、すなわち、鉄イオンの質量を溶液の質量で割ったものとして決定され、本文書ではppmとして、すなわち、μg(Fe)/g(溶液)として示される。 【0040】 グリニャール溶液中の鉄イオンの質量分率(w(Fe))は、次式: 【数1】 [図:0001420640000014.jpg] (式中、ρ(GriS)はグリニャール溶液の密度(980g/L)、c(Mg)はグリニャール溶液のモル濃度(1.3mol/L)、M(Fe)は鉄のモル質量(55.845g/mol)を意味する)を用いて、有機マグネシウム種に対する鉄イオンのモル比(r(Fe/Mg)すなわち、鉄イオンのモル量を有機マグネシウム種のモル量で割ったもの)に変換してもよい。モル比は、ppmで、すなわちμmol(Fe)/mol(Mg)で示される。 【0041】 分析法B 反応のモニタリング方法:グラジエントHPLC装置;溶出液A:1.0LのHPLC水に溶解した1.0mLのトリフルオロ酢酸;溶出液B:1.0Lのグラジエントグレードのアセトニトリルに溶解した1.0mLのトリフルオロ酢酸;HPLCカラム:Agilent、Zorbax Eclipse XDB-C8、4.6*150mm、粒子径5μm;カラム温度:25℃;流量:2.0mL/分;グラジエントプロファイル:0分、30%溶出液A、70%溶出液B;5分、20%溶出液A、80%溶出液B;平衡5分;試料調製:0.1mLの反応混合物を10mLのメタノールで直接反応停止;注入量:1.0μL;UV-検出:230nm;データ評価:面積%の算出に、化合物I(X=I、R1=(S)-テトラヒドロフラン-3-イル;保持時間およそ3.2分)および反応停止した中間体(化合物I(X=H、R1=(S)-テトラヒドロフラン-3-イル);保持時間およそ2.2分)のピークのみを考慮に入れる。 【0042】 分析法C オリゴマーのモニタリング方法:グラジエントHPLC装置;溶出液A:1.0LのHPLC水に溶解した1.0mLの過塩素酸;溶出液B:グラジエントグレードのアセトニトリル;カラム:AMT Halo C8、4.6*150mm、粒子径2.7μm;カラム温度:35℃;流量:1.5mL/分;グラジエントプロファイル:0分、60%溶出液A、40%溶出液B;20分、10%溶出液A、90%溶出液B;25分、0%溶出液A、100%溶出液B;35分、0%溶出液A、100%溶出液B;平衡5分;試料調製:0.1mLの反応混合物を10mLのメタノールで直接反応停止;500μLの反応停止済み溶液を500μLのTHFで希釈;注入量:1.0μL;UV-検出:224nm;データ評価:面積%の算出にクロマトグラムのすべてのピークを考慮に入れ、化合物I(X=I、R1=(S)-テトラヒドロフラン-3-イル;保持時間およそ11.4分)より後に溶出したピークを集計し、「化合物Iのオリゴマー」として報告する。 【0043】 分析法D 反応のモニタリング方法:グラジエントHPLC装置;溶出液A:1.0LのHPLC水に溶解した1.0mLのトリフルオロ酢酸;溶出液B:1.0Lのグラジエントグレードのアセトニトリルに溶解した1.0mLのトリフルオロ酢酸;HPLCカラム:Agilent、Zorbax Eclipse XDB-C8、4.6*150mm、粒子径5μm;カラム温度:25℃;流量:1.2mL/分;グラジエントプロファイル:0分、70%溶出液A、30%溶出液B;7分、60%溶出液A、40%溶出液B;15分、5%溶出液A、95%溶出液B;30分、5%溶出液A、95%溶出液B;平衡7分;試料調製:0.1mLの反応混合物を5mLの1N塩酸で直接反応停止し、5mLのアセトニトリルで希釈;注入量:1.0μL;UV-検出:230nm;データ評価:面積%の算出にすべてのピークを積分する;保持時間およそ3.9分のものをヘミアセタール中間体(式IIIの化合物、式中、R’=H、R1=(S)-テトラヒドロフラン-3-イル、R2=トリメチルシリル)と報告。」 第5 当審における判断 1 理由1(新規性)について (1)引用文献1に記載された発明 引用文献1には、請求項1を引用する請求項2の工程(S1)~(S5)を含む「グルコピラノシル置換ベンジルベンゼン誘導体を調製する方法」について(摘記(1a))、その原料及び反応条件の一般的な説明があり(摘記(1b))、具体的に置換基が特定された化合物の「実験手順」について(摘記(1c))、実施例1~4だけでなく(摘記(1d))、実施例5bとして具体的な合成例が記載されている(摘記(1e))ことから、以下に示す引用発明1が記載されているといえる。 <引用発明1> 「下記一般式III.1 [図:0001420640000015.jpg] のグルコピラノシル置換ベンジルベンゼン誘導体を調製する方法であって、 以下の工程(S1)、(S2)、(S3)、(S4)および(S5)を順次行う方法。 (S1): 式V.1 [図:0001420640000016.jpg] の化合物(30g)とターボグリニャール溶液(イソプロピルマグネシウムクロリド/塩化リチウム溶液、14質量%のiPrMgCl/THF、LiCl:iPrMgClモル比 = 0.9-1.1モル/モル)(53g)とをテトラヒドロフラン(55mL)中で反応させて、有機金属化合物を得る工程; (S2): 前記有機金属化合物と下記一般式IV.1 【化3】 [図:0001420640000017.jpg] のグルコノラクトン(36g)とをテトラヒドロフラン中で反応させる工程; (S3): 水中のクエン酸の溶液(濃度: 10質量%)を添加して、反応混合物が水相と有機相を形成し、それによって有機相がpH3を有する工程; (S4): 工程(S2)で得られた付加物を含む有機相を水相から分離する工程; (S5): 得られた有機相から溶媒を留去し、メタノールを添加し、続いてメタノール(10.1mL)中の1.25NHClの溶液を(pH = 1-2)で添加し反応させる工程」 (2)対比・判断 ア 本願発明1と引用発明1とを対比する(以下、一般式の分子構造の表記を略す場合がある。)。 引用発明1における「一般式III.1のグルコピラノシル置換ベンジルベンゼン誘導体」は、本願発明1の「一般式IIIの化合物」において、「R1」が「(S)-テトラヒドロフラン-3-イル」、「R2」が「水素」、及び「R’」が「水素」であるから、本願発明1の「一般式IIIの化合物」に相当し、引用発明1における「式V.1の化合物」は、本願発明1の「一般式Iの化合物」において、「R1」が「(S)-テトラヒドロフラン-3-イル」、及び「X」が「I」であるから、本願発明1の「一般式Iの化合物」に相当する。 また、引用発明1における「一般式IV.1のグルコノラクトン」は、本願発明1の「一般式IIの化合物」において、「R2」が「RaRbRcSi」であり、かつ、「Ra、Rb、及びRc」が全て「C1-4-アルキル」の「C1-アルキル」である「TMS」(トリメチルシラン)であるから、本願発明1の「一般式IIの化合物」に相当する。 そして、引用発明1の「イソプロピルマグネシウムクロリド」は、本願発明1の「C1-4-アルキル-マグネシウムクロリドまたはブロミド」に相当する。 ここで、引用発明1の「ターボグリニャール溶液(イソプロピルマグネシウムクロリド/塩化リチウム溶液)」において「塩化リチウム」が使用されている工程は、本願発明1における「(S1)」の「臭化リチウムおよび/または塩化リチウムが使用されてもよいステップ」に該当し、引用発明1の工程(S3)の「クエン酸の溶液」を添加する工程は「TMS」が「水素」に置換される工程であって、本願発明1の(S2)において「水素ではないR2が、(S2)の間または終了時に切断されてもよいステップ」に該当し、引用発明1の工程(S5)の「メタノール中のHClの溶液」を添加し反応させるとは、「HCl」が酸で、「メタノール」が「化合物R’-OH」の「R’」が「メチル」であることから、本願発明1のステップ(S3)に該当する。 また、引用発明1の「工程(S4)」は、本願明細書の【0020】~【0022】に説明されているステップ(S2c)に相当するものであるし、本願発明1は、「ステップ(S1)、(S2)、および(S3):・・・を含」むことを発明特定事項としているから、工程(S4)のようなステップの有無は本願発明1に対して相違点となるものでもない。 以上から、引用発明1の「工程(S1)」、「工程(S2)」および「工程(S5)」は、それぞれ、本願発明1の「(S1)」、「(S2)」及び「(S3)」のステップといえ、引用発明1の「工程(S3)及び(S4)」は、本願発明1の「(S2)」のステップの一部又は任意ステップといえる。 したがって、本願発明1と引用発明1とは、 「 一般式III、 【化1】 [図:0001420640000018.jpg] [式中、R1は、(R)-テトラヒドロフラン-3-イルまたは(S)-テトラヒドロフラン-3-イルを示し; R2は、互いに独立に、水素、(C1-8-アルキル)カルボニル、(C1-8-アルキル)オキシカルボニル、フェニルカルボニル、フェニル-(C1-3-アルキル)-カルボニル、フェニル-C1-3-アルキル、アリル、RaRbRcSi、CRaRbORcを示し、ここで、隣接する2つのR2基は、互いに連結して、架橋基SiRaRb、CRaRb、またはCRaORb-CRaORb (式中、Ra、Rb、Rcは、互いに独立に、C1-4-アルキル、フェニル、またはフェニル-C1-3-アルキルを示し、アルキル基は、ハロゲンによって一置換または多置換されていてもよく; 上記基の定義で述べたフェニル基は、L1で一置換または多置換されていてもよく、ここで、L1は、互いに独立に、フッ素、塩素、臭素、C1-3-アルキル、C1-4-アルコキシ、およびニトロの中から選択される)を形成してもよく; R’は、水素、メチル、またはエチルを示す] の化合物を調製するための方法であって、 以下のステップ(S1)、(S2)、および(S3): (S1):一般式I 【化2】 [図:0001420640000019.jpg] (式中、R1は、上記定義の通りであり、Xは、Br、I、またはトリフレートを示す)の化合物をC1-4-アルキル-マグネシウムクロリドまたはブロミドと反応させるステップであって、 臭化リチウムおよび/または塩化リチウムが使用されてもよいステップ、ならびに (S2):ステップ(S1)で得られた有機金属化合物を、一般式II 【化3】 [図:0001420640000020.jpg] (式中、R2は、上記定義の通りである) の化合物と反応させるステップであって、 臭化リチウムおよび/または塩化リチウムが使用されてもよく、 水素ではないR2が、(S2)の間または終了時に切断されてもよいステップ、ならびに (S3):ステップ(S2)で得られた付加物を、1種または複数の酸の存在下で、化合物R’-OHまたは化合物R’-OHの混合物(式中、R’は、上記定義の通りである)と反応させるステップ を含む方法。」 である点で一致し、以下の点でのみ一応相違する。 <相違点> 「ステップ(S1)およびステップ(S2)の反応混合物中の鉄イオンの、ステップ(S1)に用いられる化合物Iに対するモル比」が、本願発明1は「20ppmを超えない」のに対して、引用発明1は不明である点 イ 上記相違点について検討する。 (ア)本願明細書の【0034】の「実験A」では「鉄塩(FeI2およびFeCl3)をそれぞれスパイク」した場合に、【0035】の「表1:実験Aの結果」に示されるように、グリニャール溶液(化合物Iに対して1.0当量)中の質量分率w(Fe)から算出される「モル比r(Fe/Mg)」が、FeI2をスパイクした場合に54ppm、FeCl3をスパイクした場合に135ppmになり、スパイクした鉄塩がない場合に、その「モル比r(Fe/Mg)」が「該当なし」になり、その「ヘミアセタールIIIの量」は、鉄塩をスパイクした場合に「1.8面積%」又は「検出せず」となり、スパイクなしの場合に82.0面積%になることが示されている(摘記(α))。 これに対して、引用発明1においては、その反応工程において「鉄塩」をスパイクする工程が存在せず、引用発明1の反応混合物に「鉄イオン」が混入する原因を生じる反応試薬や反応装置の存在も見当たらず、アセタールIII.1への完全な変換が達成されたとされているので、副生物が大量に生成していると解すべき事情も見当たらない。 そうすると、引用発明1の工程(S1)で使用される式V.1の化合物(本願発明1の「ステップ(S1)で用いられる化合物I」に相当する化合物)に対するモル比は、実質的に「ゼロ」になるものと解さざるを得ず、上記<相違点>の「ステップ(S1)およびステップ(S2)の反応混合物中の鉄イオンの、ステップ(S1)に用いられる化合物Iに対するモル比が、20ppmを超えないこと」という点に、実質的な差異があるとは認められない。 (イ)加えて、引用発明1は、その工程(S1)及び(S2)が、溶媒である「テトラヒドロフラン」55mL中の工程であって、原料である「式V.1の化合物」、「ターボグリニャール溶液」及び「一般式IV.1のグルコノラクトン」は、それぞれ、「30g」、「53g」及び「36g」であることから、これらの工程は実験室レベルの少量スケールであるものといえるところ、このような少量スケールでは、反応装置としてガラス製の反応器を用い、反応試薬や反応溶媒として実験室の研究レベルで通常使用されるグレードの試薬や溶媒を用いるのが普通であって、本願明細書の「実験A」及び「実験B」の具体例においても、反応装置として「ガラス製フラスコ」が用いられ、反応試薬として用いられる「グリニャール溶液」自体に含まれる鉄イオンも、検出限界以下の含有量(摘記(α)の「該当なし」)である。 そうすると、引用発明1は、鉄を溶出しない「ガラス製反応器」が使用されるスケールであって、「グリニャール溶液」を始めとする各原料に「鉄」が混入しているとは認められないことから、引用発明1の「工程(S1)」及び「工程(S2)~(S4)」における「反応混合物中の鉄イオン」の含有量は、検出限界以下であるものといえ、結果として、引用発明1のこれらの工程における「鉄イオン」の「工程(S1)に用いられる式V.1の化合物に対するモル比」は、「20ppmを超えない」ものと解さざるを得ない。 (ウ)さらに、本願明細書に記載の「実験A」及び「実験B」では(摘記(α))、「鉄塩」又は「金属試験片」の添加により、上記「鉄イオン」の「ステップ(S1)に用いられる化合物Iに対するモル比」が「20ppm」を超える場合、副生成物である「化合物Iのオリゴマー」の量が多く、一般式IIIの化合物に対応する「ヘミアセタールIII」中間体の生成量は非常に低いことが示されているから、「20ppm」を超える「鉄イオン」の存在が「一般式IIIの化合物」以外の生成物を主生成物にする反応機構が認められる。 一方、摘記(1e)によると、引用文献1の実施例5bにおいては、中間体となるアセタールIII.1へ完全な変換が達成された後に、更なる反応を経て、目的物のグルコシドII.1を62.6%の収率で得ているので、中間体となるアセタールIII.1の収率は62.6%よりも低い値になることはあり得ない。 そうすると、引用発明1では、上記「鉄イオン」の「20ppm」を超える存在によって、「一般式IIIの化合物」である「一般式III.1のグルコピラノシル置換ベンジルベンゼン誘導体」以外を主生成物にする反応機構が生じていないものといえる。 そして、当該反応機構が生じていないという結果が、「鉄イオン」の「工程(S1)に用いられる式V.1の化合物に対するモル比」が、「工程(S1)~(S4)」において「20ppmを超えない」という原因を必ず意味するものでないとしても、引用発明1の反応系と本願明細書に記載の「実験A」の「スパイクなし」の反応系が濃度比も含めて非常に類似していることに鑑みれば、引用発明1において、「工程(S1)」及び「工程(S2)~(S4)」における「反応混合物中の鉄イオン」の含有量が「20ppm」を超える場合、「一般式III.1のグルコピラノシル置換ベンジルベンゼン誘導体」の収率が著しく減少し、数%以下となることが妥当といえるから、結果として、引用発明1の「工程(S1)」及び「工程(S2)~(S4)」における「反応混合物中の鉄イオン」の含有量は「20ppm」を超えるとは認められない。 そうすると、引用発明1の収率の点からも、引用発明1の「工程(S1)」及び「工程(S2)~(S4)」における「鉄イオン」の「工程(S1)に用いられる式V.1の化合物に対するモル比」は、「20ppmを超えない」ものといえる。 (エ)したがって、上記相違点は実質的なものではなく、本願発明1と引用発明1には差異はない。 よって、本願発明1は引用文献1に記載された発明である。 (3)小括 以上のとおり、本願発明1は引用文献1に記載された発明であるから、特許法第29条第1項第3号に該当し、特許を受けることができない。 2 理由2(進歩性)について 引用発明1における鉄イオン含有量が、本願発明1の含有量の範囲に含まれなかった場合、すなわち、上記1(2)アの相違点が実質的な相違点であるとした場合について、以下検討する。 (1)反応器としてガラス製器具を用いた場合については、上記1(2)イに述べたとおりであるから、以下、金属製反応器を用いる場合について、上記相違点を検討する。 引用文献3によれば、大部分の多目的反応器は、金属そのものよりもより不活性なグラスライニング鋼でつくられているのであって(摘記(3a)及び(3b))、スケールアップによって、ガラス容器との反応条件の違いを抑制することが好ましいことは技術常識といえる。そして、引用文献3以外にも、反応機の腐食等により金属不純物が混入(摘記(Aa))するのを抑制するために、反応器内面をガラスやフッ素樹脂などの耐食性材料でライニングして反応器内面を耐食材質とすること(摘記(Ab))が、参考例Aにも記載されている。 そうすると、引用発明1をスケールアップし、ステンレス鋼製の反応器が使用されるとしても、不活性なグラスライニング鋼の反応器を採用することは、当業者が容易に想到することであり、結果として、引用発明1の「工程(S1)」及び「工程(S2)~(S4)」において、鉄イオンが反応器から溶出するとはいえず、これらのステップにおける「反応混合物中の鉄イオン」の「工程(S1)に用いられる式V.1の化合物に対するモル比」は、「20ppmを超えない」ものといえる。 そして、金属イオンなどの不純物が抑制されることで、予期せぬ副反応が回避できることは、当業者が想定できる通常の効果にすぎず、本願発明1のオリゴマーの生成が抑制されるという効果は、引用文献1に記載の発明の効果及び技術常識から、当業者が予測できる程度のものである。 したがって、引用発明1において、本願出願前における周知慣用の不活性なグラスライニング鋼の反応器を採用し、結果として、相違点に係る本願発明1の構成とすることは、当業者が容易になし得たことである。 (2)小括 以上のとおり、本願発明1は、引用文献1に記載された発明及び周知慣用技術に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。 3 請求人の主張について (1)審判請求書における請求人の主張A~主張Cについて (主張A)副反応の課題と反応容器の材質について 引用文献1は、各反応の収率や副反応を抑制することについて一般的なことを記載しているのみであり、化合物Iのオリゴマーが生成してしまう副反応を抑制するという具体的な課題は全く開示していないので、当然ながら当該課題への解決方法、特に反応容器の材質などについて直接的な記載は全くなく、「実験室スケール」で行い、かつ、「実験室グレードのガラス製反応器具」を用いたとすることは、単なる推測あるいは仮定でしかない。 しかしながら、引用発明1は、本願明細書の実験Aなどのように、鉄塩をスパイクするものでなく、オリゴマーの大量生成も生じていないところ、請求人の主張は、鉄塩をスパイクするという特殊な前提を仮定した場合の特殊な主張であって、採用できない。そして、引用発明1(実施例5b)のような少量スケールにおいて、ガラス製の反応器具以外のものを用いることが普通であるとすべき技術常識の存在は見当たらないから、請求人の主張Aは採用できない。 (主張B)工業規模の生産とステンレス鋼の容器の使用について 引用文献1の段落0009には、この文献に記載の方法が、「工業規模で生成物の製造を可能にする確固たる方法を見出す」ことが目的であり、「商業的に実行可能な方法」に関するものであることが記載されているので、引用文献1の記載や目的から考えると、引用文献1に接した当業者は、工業的な生産を試みようとするはずであり、その際、大規模生産プロセスにおいて一般的に用いられるステンレス鋼あるいは低炭素鋼を設備材料として用いようとすることはこの文献に鑑みれば当然である。 しかしながら、引用文献1に工業規模での応用が示唆されているとしても、実施例5bは、工業規模での実験例ではないから、請求人の主張は、実施例5bに基づく引用発明1との対比・判断の当否に関係がなく、上記1(2)イ(イ)に示した理由のとおり、本願発明1に新規性ないし進歩性は認められず、請求人の主張Bは採用できない。 (主張C)鉄の混入について ステンレス鋼素材を用いることがなくとも、工業規模での生産において、様々な器具等から鉄イオンの極めて僅かな混入が生じることは十分に起こりうることであり、引用文献1にはそのような鉄の混入(しかも極めて少量)により起こる課題について全く認識されていない。 しかしながら、引用発明1の反応器はガラス器具であると解することが自然であって、工業規模の金属製反応器の使用を前提にした主張は、その前提が誤りであるし、かつ、引用文献3及び参考例Aに記載されているとおり、通常、反応器内面がライニング処理などされているから、鉄イオンの混入が生じるとすることはできず、請求人の主張Cは採用できない。 (2)令和5年7月25日提出の上申書における請求人の主張Dについて (主張D)異なる実験条件の収率について 引用文献1における「収率」は、本願明細書の実施例と異なる実験条件で行って得られた収率が記載されているため、本願明細書の実験と直接比較することはできず、そこから鉄イオン量を推測することはできない。すなわち、引用文献1の収率は、グリニヤール試薬の使用量が異なっており、本願明細書の実験と同じ反応条件下で実施されたものではないため、本願明細書の実験の収率と引用文献1における収率とを単純に比較することはできず、引用文献1の実施例5bが請求項1の範囲に含まれるか否かは収率の比較からは判断することができないはずである。 しかしながら、本願明細書の実験Aにおいて、56ppmで、1.8%の収率になることに照らせば、引用発明1は、56ppmもの鉄イオンが存在しないことは明らかであり、そもそも鉄が混入すべき原因は、引用発明1において皆無であることは上述のとおりであるから、収率の比較以前に、本願発明1と引用発明1とに実質的に差異がないことは明らかであって、請求人の収率に基づく主張によって、上記判断が左右されるとはいえず、請求人の主張Dは採用できない。 (3)令和6年8月27日提出の意見書における請求人の主張Eについて (主張E)試薬への鉄イオン混入のシナリオについて 本願発明は医薬品の工業的な製造方法に関する発明であり、工業的規模では、ターボグリニャールはスチールドラムで購入される。この点は、例えば本書に添付する資料1からも明らかである。資料1は、本願請求項1のステップ(S1)の「C1-4-アルキル-マグネシウムクロリドまたはブロミド」(グリニャール試薬)に相当する、本願明細書の実施例においても記載されているi-PrMgCl/LiClのTHF溶液の市販品のテクニカルデータシートであり、第3頁に、7.4L以上はスチールボトルに入れられた製品であることがわかる。したがって、本願明細書の実験における金属試験片の「前処理」は、例えば、このような工業的規模における医薬品の生産で起こりうるグリニャール試薬への鉄イオンの混入のシナリオを示し、シミュレートするものである。 しかしながら、引用文献1に記載の実施例5bは、工業規模でのものではないから、請求人の主張は前提において誤りがあり、請求人の主張Eは採用できない。 すなわち、請求人が令和6年8月27日提出の意見書において新たに提示した資料1によると、1000mlまではガラス製ボトルで「グリニャール試薬」が提供されているから、慣用されている原料の容器はガラスであると認められ、原料に対して容器から鉄イオンが溶出するものではない。 なお、スチールボトルやスチールドラムを容器として、原料である「ターボグリニャール」が市販・提供されていたとしても、内面に鉄が露出した容器を医薬化合物原料の容器とすることが技術常識として確認できないし、むしろ、金属の溶出を防ぐために高分子又は無機材料コーティングが容器内面に施された金属製容器を使用すること(たとえば、特開平4-101838号公報には、容器の素材である「金属が溶解し、種々の問題となっていることは周知のとおりである。」と「従来の技術」に記載され、各種試薬又は薬品の容器として、「容器の内壁層が含フッ素樹脂系フイルムからなり、外壁層が金属板からなる容器」が示されている。)が技術常識といえる。 第6 むすび 以上のとおり、本願の請求項1に係る発明は、引用文献1に記載された発明であるから、特許法第29条第1項第3号に該当し、特許を受けることができないか、引用文献1に記載された発明及び技術常識に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。 したがって、ほかの請求項について検討するまでもなく、本願は拒絶すべきものである。 よって、結論のとおり審決する。

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2022-016787

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