特許拒絶査定不服審判
2022-015929
ポリマー組成物
- 審判番号
- 2022-015929
- 法域
- 特許
- 審判種別
- 拒絶査定不服審判(拒絶査定不服の審決)
- 出願番号
- 特願2019-542112外部サイト(J-PlatPat)へ移動します
- 請求日
- 2022年10月06日
- 審決日
- 2024年06月10日
- 公報発行日
- 2024年11月29日
- 結論
- 請求不成立
- 当事者
- 【請求人】ミツビシ ケミカル ユーケー リミテッド
- 【請求人代理人】恩田 誠
- 【請求人代理人】恩田 博宣
- 【請求人代理人】本田 淳
- 【請求人代理人】中村 美樹
- 分類
- P18 .113-Z (C08L)
- 根拠条文(結論部分から自動抽出・参考)
- 特許法29条1項3号
- 条文(本文から自動抽出・参考)
- 特許法第29条第1項第3号
- データ出所
- 審決公報(XML)
事件の表示
特願2019-542112「ポリマー組成物」拒絶査定不服審判事件〔平成30年 8月 9日国際公開、WO2018/142164、令和 2年 3月26日国内公表、特表2020-509102〕について、次のとおり審決する。
結論
結 論
本件審判の請求は、成り立たない。
理由
理 由
第1 手続の経緯
この出願(以下、「本願」という。)は、2018年(平成30年)2月5日(パリ条約による優先権主張 外国庁受理 2017年(平成29年)2月3日 英国(GB))を国際出願日とする出願であって、その手続の経緯は以下のとおりである。
令和3年11月16日付け:拒絶理由通知
令和4年 2月24日提出:意見書、手続補正書
同年 6月 1日付け:拒絶査定(以下、「原査定」という。)
同年10月 6日提出:拒絶査定不服審判の請求書
同年 同月14日提出:手続補正書(代理権を証明する書面の追加)
同年 同月18日付け:手続補正指令書(方式)
同年11月16日提出:手続補正書(審判請求書)
第2 本願の特許請求の範囲に記載された発明
令和4年2月24日に提出された手続補正書により補正された特許請求の範囲の請求項1に係る発明(以下、「本願発明」という。)は、以下のとおりである。
「 組成物であって、
(a)アクリル(コ)ポリマー、および
(b)脂肪酸アミド
を含み、
前記アクリル(コ)ポリマー残基の少なくとも30重量%は、アルクアクリル酸またはエステルモノマーの残基であり、0~70重量%は、1種もしくは複数種の他のビニルコモノマーの残基であり、前記組成物は、エチレンアルファオレフィンコポリマーゴムまたはエチレンアルファオレフィン非共役ジエンコポリマーゴムであるコポリマー以外の、エチレンおよび少なくとも1タイプのビニルモノマーのコポリマーを非含有であり、
前記脂肪酸アミドは前記組成物に対して1重量%を超え、かつ10重量%未満の分量で存在する、組成物。」
第3 拒絶の理由
原査定の拒絶の理由のうち、本願発明についての理由1の概要は、次のとおりである。
・理由1(新規性欠如)
本願発明は、本願の出願前に日本国内又は外国において、頒布された引用文献2に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明であるから、特許法第29条第1項第3号に該当し、特許を受けることができない。
記
引用文献2:特開平10-128921号公報
第4 引用文献2に記載された事項及び引用文献2に記載された発明
1 引用文献2に記載された事項
引用文献2には、以下の事項が記載されている(当審注:下線は当審で付与した。)。
「【請求項1】 装飾処理を施したアクリル系樹脂シートよりなる装飾シートにおいて、シート中に少なくとも脂肪酸系滑剤又は脂肪酸アミド系滑剤のいずれか片方又は両方を含有する、装飾シート。
【請求項2】 請求項1に記載の装飾シートが表面に積層されている装飾樹脂成形品。
【請求項3】 (A)請求項1に記載の装飾シートを用意して、(B)該装飾シートを、シート表側がキャビティ面側を向き、シート裏側が射出樹脂側となる様に、成形型内に挿入し、(C)成形型を係合、合体させて型締めし、型内に形成されたキャビティ内に流動状態の樹脂を射出・充填して固化せしめ、装飾シートと固化樹脂とを接着させ、(D)成形型を開き、表面に装飾シートが積層された成形品を得る、装飾樹脂成形品の製造方法。」
「【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は、表面に積層して使用する装飾シート、及び該装飾シートを表面に貼着した装飾樹脂成形品、該装飾樹脂成形品の製造方法に関する。特に、耐擦傷性に優れたシート及び成形品、またその成形品の製造方法に関する。」
「【0003】
【発明が解決しようとする課題】ところが、射出成形同時ラミネート法に用いる装飾シートは、上記特公昭50-19132号公報、或いは特公昭45-1758号公報等に開示されているが、以下に述べる如く、得られる装飾樹脂成形品の表面物性、特に耐擦傷性に優れたものを得ることが難しかった。
(1)例えば、ポリメチルメタクリレート(MMA)等からなるアクリル系樹脂シートを基材シートとした装飾シートがある。装飾シートの構成は、耐擦傷性の点から、印刷等で装飾層を設ける場合は、装飾層は基材シートの裏側に設け、基材シートは透明シートとして、装飾樹脂成形品の最表層は基材シートとなるのが通常だが、基材シートの材料がアクリル系樹脂では、耐擦傷性が低く、表面が傷付き白化が発生する。アクリル系樹脂シートは三次元形状へラミネートする際の成形性、形状追従性には優れているが、このように耐擦傷性が弱い点が問題であった。
・・・
【0004】(4)或いは、上記(1)~(3)の装飾シートの表側面に、多官能(メタ)アクリル酸エステルのモノマー又はプレポリマーからなる塗料を塗布して、紫外線や電子線で架橋・硬化させたり、或いは熱硬化型樹脂の硬化物等で、三次元架橋高分子からなる硬質塗膜(ハードコート)を更に形成する形態もある(特公昭59-45502号公報、特公平1-47284号公報)。しかし、これら硬質塗膜による装飾シートは、耐擦傷性は良好だが、硬質塗膜が固くて脆い為、三次元形状に対する成形性が不充分で、又、無理に成形させると硬質塗膜の亀裂や破断が生じるという問題があった。
(5)また、上記(1)~(3)の装飾シートの表側面に、界面活性剤を塗布する形態もあるが、経時的に界面活性剤が漏出して減少し、やがて効果が低下するという問題があった。(当審注:(1)等は○中に1等の数字が入る丸数字を意味する。以下、同様。)」
「【0005】
【課題を解決するための手段】そこで上記課題を解決する為に本発明の装飾シートは、装飾処理を施したアクリル系樹脂シートよりなる装飾シートにおいて、シート中に少なくとも脂肪酸系滑剤又は脂肪酸アミド系滑剤のいずれか片方又は両方を含有させた構成として、三次元形状に対する成形性、形状追従性に優れていたが耐擦傷性に乏しかったアクリル系樹脂シートによる装飾シートを、成形性、形状追従性を保持したまま、耐擦傷性を向上させ、また耐擦傷性の経時的持続性を確保した。また、本発明の装飾樹脂成形品は、この装飾シートが表面に積層されている構成として、高耐擦傷性を得た。そして、本発明の装飾樹脂成形品の製造方法としては、(A)上記装飾シートを用意して、(B)該装飾シートを、シート表側がキャビティ面側を向き、シート裏側が射出樹脂側となる様に、成形型内に挿入し、(C)成形型を係合、合体させて型締めし、型内に形成されたキャビティ内に流動状態の樹脂を射出・充填して固化せしめ、装飾シートと固化樹脂とを接着させ、(D)成形型を開き、表面に装飾シートが積層された成形品を得る方法として、効率良く高耐擦傷性のある装飾樹脂成形品を得られる様にした。
【0006】以下、図面を参照しながら、本発明の装飾シート、装飾樹脂成形品及び装飾樹脂成形品の製造方法について詳述する。
【0007】先ず、図1は本発明の装飾シートの形態を例示する断面図であり、図1(A)の装飾シートSは基材シート1の内部に装飾処理が施された基材シート単体からなる形態、図1(B)の装飾シートSは、透明な基材シート1の裏側に装飾層2が形成されることで装飾処理が施された形態を示す。そして、本発明の装飾シートでは、装飾シートの最表面側にくるアクリル系樹脂の層(図1では基材シート1)に、脂肪酸系滑剤や脂肪酸アミド系滑剤を含有させる。なお、図1(B)の形態では、装飾層2の裏面側に更に接着剤層を設けてある。次に図2~図6は、射出成形同時ラミネート装置100を用いた射出成形同時ラミネート法による場合の、装飾シートから装飾樹脂成形品を製造する方法の工程を概念的に説明する説明図である。図2は装飾シートSを型内に供給している状態を示し、図3は装飾シートを加熱軟化させている状態、図4は装飾シートを成形型を利用して真空圧空成形した状態、図5は型締め後に樹脂を射出している状態、図6は冷却、型開き後に、装飾樹脂成形品200が取り出される状態を示す。
【0008】以下、本発明の装飾シートを構成する各層について説明し、次いで、この装飾シートを用いて装飾樹脂成形品を得る製造方法を説明する。
【0009】先ず、基材シート1の樹脂材料としては、本発明ではアクリル系樹脂を用いる。アクリル系樹脂とは、例えば、ポリ(メタ)アクリル酸メチル、ポリ(メタ)アクリル酸エチル、ポリ(メタ)アクリル酸ブチル、(メタ)アクリル酸メチル-(メタ)アクリル酸ブチル共重合体、(メタ)アクリル酸メチル-(メタ)アクリル酸エチル共重合体、(メタ)アクリル酸エチル-(メタ)アクリル酸ブチル共重合体、(メタ)アクリル酸エステル-スチレン共重合体等の(メタ)アクリル酸エステルの単独又は共重合体からなる樹脂である。なお、(メタ)アクリル酸とは、アクリル酸又はメタクリル酸の意味である。この様な、アクリル系樹脂を基材シートの樹脂材料として用いることで、装飾シートの成形性、形状追従性を確保でき、装飾シートがラミネートされる装飾面が三次元形状でも可能となり、特に装飾樹脂成形品を得る場合にその真価を発揮する。もちろん、本発明の装飾シートは平面の装飾面へも適用できる。またアクリル系樹脂による基材シートは、透明性にも優れる為に、図1(B)の構成の如く、透明保護層としても用いることができる。しかも、アクリル系樹脂であるので、塩化ビニル系樹脂の廃棄時の塩酸ガス発生の問題も無い。基材シートの厚みは、用途により適宜選択するが、樹脂成形と同時に成形品表面にラミネートする場合は、20~500μm程度であるが、特にその成形適性などの点から50~200μmが好ましい。薄過ぎると装飾シートが樹脂成形と同時に成形されて伸ばされた時に破れや皺等を生じ易く、厚過ぎると装飾シートの成形性が低下し型形状への形状追従性が低下する。装飾シートをラミネートする面が平面或いは平面的であれば、成形性、形状追従性というよりは、最終製品としての見栄え、装飾感、或いは材料コスト等の点から厚みは適宜選定する。また、アクリル系樹脂の基材シートは単層でも良いし、或いは2層以上の同種又は異種のシートの積層体であっても良い。積層体の場合は、後述の滑剤は少なくとも最表面のシート中に添加すれば足りる。
・・・
【0011】次に、基材シート1に施される装飾処理としては、顔料又は染料の練込による基材シート自身の着色、或いは絵柄や金属層からなる装飾層の形成、凹凸模様形成等がある。
【0012】顔料等の基材シートへの練込による装飾では、基材シートを着色透明又は着色不透明、或いは無色不透明又は着色不透明等とする装飾処理が施される。顔料としては、チタン白、カーボンブラック、群青、弁柄、黄鉛等の無機顔料、キナクリドン、イソインドリノン、フタロシアニンブルー、アニリンブラック等の有機顔料乃至は染料等が用いられる。この他、必要に応じ、炭酸カルシウム、シリカ(二酸化ケイ素)アルミナ(酸化アルミニウム)、硫酸バリウムの様な体質顔料(充填剤)を添加しても良い。
【0013】絵柄印刷による装飾層形成の印刷法としては、グラビア印刷、オフセット印刷、凸版印刷、シルクスクリーン印刷等のような通常の印刷手段を用いることができるが、描絵でも差し支えない。また、離型性シート上にインキ層、更に必要に応じて接着剤層が形成された転写シートを予め準備しておき、転写シートに形成されたインキ層を加圧、又は加圧と加熱により装飾層(インキ層)を形成する面に転写させる、所謂転写印刷法を用いることもできる。絵柄の模様は例えば木目模様、石目模様、文字や図形等の幾何学模様等と任意である。なお、絵柄印刷による装飾層(インク層)は通常は基材シート裏面側に形成し、基材シートを保護層的に使用する。
・・・
【0017】また、装飾シートの裏面には、成形品となる樹脂との接着性向上のため、シート面にコロナ放電処理、公知の各種プライマー塗工等の易接着処理や感熱型の接着剤層の形成を行うこともできる。このような接着剤層には、熱可塑性樹脂、熱硬化性樹脂、アイオノマー等の樹脂が用いられる。樹脂の具体例としては、エチルセルロース、硝酸セルロース、酢酸セルロース、エチルヒドロキシエチルセルロース、セルロースアセテートプロピオネート等のセルロース誘導体、ポリスチレン、ポリα-メチルスレチン等のスチレン樹脂又はスチレン共重合体、ポリ(メタ)アクリル酸メチル、ポリ(メタ)アクリル酸エチル、ポリ(メタ)アクリル酸ブチル等のアクリル樹脂、ポリ塩化ビニル、ポリ酢酸ビニル、塩化ビニル-酢酸ビニル共重合体、エチレン-ビニルアルコール共重合体、ポリビニルブチラール等のビニル重合体、ロジン、ロジン変性マレイン酸樹脂、ロジン変性フェノール樹脂、重合ロジン等のロジンエステル樹脂、ポリイソプレンゴム、ポリイソブチルゴム、スチレンブタジエンゴム、ブタジエンアクリロニトリルゴム等のゴム系樹脂、クマロン樹脂、ビニルトルエン樹脂、ポリアミド樹脂、ポリ塩素化オレフィン等の、天然又は合成樹脂、各種アイオノマー等の一種又は二種以上の混合物が用いられる。
【0018】そして、本発明の装飾シートでは、シート表側面の層に、少なくとも脂肪酸系滑剤又は脂肪酸アミド系滑剤のいずれか片方又は両方を含有させる。シート表側面の層とは、例えば図1(A)や図1(B)の層構成の装飾シートSでは、基材シート1である。すなわち、最終製品として装飾シートが使用される状態で表面となる層に含有させる。もしも、図1(B)のように基材シート1上に装飾層2を積層した構成で、装飾層2は基材シート1の裏側面ではなく表側面に積層た構成ならば、装飾層がインク層ならば、インク層中に上記滑剤を含有させる。また、基材シートが積層体ならば、最表面にくるアクリル系樹脂シート中に下記滑剤を含有させる。滑剤は、脂肪酸系滑剤、脂肪酸アミド系滑剤の中から選んだ1種以上の滑剤を含有させることが好ましい。また、脂肪酸系滑剤と脂肪酸アミド系滑剤の両方を用いても良い。脂肪酸系滑剤としては、主としてステアリン酸、ラウリン酸等の高級脂肪酸を用いることが好ましい。また、脂肪酸アミド系滑剤としては、主として、ステアリン酸アミド、パルミチン酸アミド、メチレンビスステアロアミド、エチレンビスステアロアミド等の高級脂肪酸アミドを用いることが好ましい。なお、これら滑剤の添加量は、添加される層全体に対し、0.1~10重量%程度添加する。これよりも少ないと、耐擦傷性の効果が得られず、逆に多すぎると表面に滑剤がブリードしたり、シート自体の物性に悪影響が生じて好ましくない。また、特にアクリル系樹脂シートに透明性を要求する場合は、0.1~0.5重量%が好ましい。これ以上添加すると透明性が低下する。
【0019】次に、上述の様な本発明の装飾シートを用いた、本発明の装飾樹脂成形品の製造方法について説明する。
【0020】本発明の装飾樹脂成形品の製造方法は、樹脂成形品の成形と同時に装飾シートを成形品表面にラミネートする製造方法である。適用できる樹脂成形方法としては、熱溶融した熱可塑性樹脂を用いる射出成形は代表的な成形方法であるが、この他、未硬化液状の樹脂(原料を)射出後、化学反応で硬化させて樹脂成形品とする反応性射出成形(RIM成形)などの成形で可能である。
【0021】また、装飾シートを成形品形状に良好に追従させる為には、射出成形に先立って装飾シートを射出成形用雌型の内部形状であるキャビティ形状と同形状となるように、真空成形法或いは真空圧空成形法により予備成形を行うことが望ましい。予備成形法としては、予め別の成形型で予備成形された装飾シートを射出成形用雌型内に装着する方法、あるいは射出成形用雌型にて直接装飾シートを予備成形する方法があるが、通常は後者の方法が多用される。もちろん、成形品(型)形状の絞りが浅く凹凸の段差が小であるか、又は凹凸の曲率が小さい場合、或いは装飾シートの成形性(熱可塑性)が充分大きい場合は、この予備成形工程は省略し、射出樹脂の熱と圧力とによって、装飾シートを射出成形型形状に追従させて成形しても良い。
【0022】装飾シートの予備成形を、射出成形用型にて直接行う形態では、用いる射出成形用雌型は、真空吸引成形に適用可能なように真空吸引孔(或いは溝)などが設けられた構造を有するものであり、後述の雄型と合体させて射出成形により形成される成形品の形状の一部の逆凹凸形状をその型内のキャビティ面に有する。上記予備成形を行うにあたっては、ダイプレート(可動盤又は固定盤、通常は可動盤)に装着した射出成形用雌型のキャビティ側に装飾シートを供給設置して、ヒータ(熱盤)などを用いて装飾シートを加熱軟化させた後、雌型の真空吸引孔を通して装飾シートを雌型内のキャビティ面に吸引密着させる。しかる後、該装飾シートを冷却させることで装飾シートの予備形成が完了する。熱盤としては、装飾シートと密着して接触し、熱伝導にて加熱する接触加熱方式のものでも、又装飾シートから離れた位置からの赤外線ヒータ等からの輻射熱、又は誘電加熱にて加熱する非接触式のものでも、いずれでも良い。
【0023】なお、装飾シートの予備成形を別途真空成形法又は真空圧空成形法により予め行う場合は、射出成形用雌型と同形状の成形型を用いて、装飾シートを上記した接触式の熱盤、非接触式の輻射熱や誘電加熱にて加熱軟化させた上で、真空又は真空圧空成形にて該成形型の内部形状に成形させた後、離型し、成形された装飾シートを、射出成形用雌型の所定箇所に装着させることにより、予備成形工程が完了する。また、以上の様な、射出成形型又は別の型で行う装飾シートの予備成形工程は、工程(B) の該装飾シートを、シート表側がキャビティ面側を向き、シート裏側が射出樹脂側となる様に、成形型内に挿入する工程に含まれる。
【0024】次いで前記の予備成形により装飾シートが密着したままの雌型に射出成形用雄型を係合、合体させて型締めした後、両型によって型内に形成されるキャビティに溶融させた成形品形成用の樹脂を雄型の湯口(ゲート)を通して充填させて、射出成形を行う。そして、樹脂が冷却や化学反応で固化した後、成形型を開いて、成形品を型内から取り出せば、装飾シートが表面にラミネートされた装飾樹脂成形品が得られる。
【0025】以下、図2~図6に参照しながら、熱可塑性樹脂を用いた射出成形同時ラミネート法による製造方法を、詳述する。図2は装飾シートSを型内に供給している状態を示す説明図であり、そして、図3は装飾シートを加熱軟化させている状態、図4は装飾シートを成形型を利用して真空圧空成形した状態、図5は型締め後に樹脂を射出している状態、図6は冷却、型開き後に、装飾樹脂成形品200が取り出される状態を示す説明図である。以下に例示する製造方法は、(A) 前述の装飾シートを用意して、(B) 該装飾シートを、射出成形同時ラミネート装置の雌型と雄型との間に、シート表側がキャビティ面側を向き、シート裏側が射出樹脂側となる様に、挿入し、(C) 雌雄両型を係合、合体させて型締めし、雌雄両型間に形成されたキャビティ内に、雄型のゲートから流動状態の樹脂を射出・充填して、固化せしめ、装飾シートと固化樹脂とを接着させ、(D) 雌雄両型を開放して、樹脂成形品の表面に装飾シートが積層された成形品を得る工程による、装飾樹脂成形品の製造方法である。
【0026】先ず、図2で、射出成形同時ラミネート法に用いる射出成形同時ラミネート装置100を概説する。雌型(キャビティ型)70の凹形状のキャビィティ面60には、装飾シートSの成形用の通気孔74が多数穿孔され、通気孔74は図示しない真空ポンプに連結し、装飾シート形成時は真空引きできる様になっている。この雌型70は移動可能なダイプレートである可動盤76に固定される。可動盤76は背面の油圧等による流体圧シリンダ90で図面左右方向に可動するピストン(ラム)92に連結され、型締め時は、可動盤76と摺動自在のタイバー20で案内されて図面右方向に移動し、雌型70を雄型80に係合、合体させる。また、型開き時は図2の待機位置に雌型70を移動させる。一方、雄型(コア型)80は凸形状のコア面82を有し、コア面82には樹脂充填用のゲート84が開口している。またゲート84の背面には射出ノズルが位置する。雄型80は固定的なダイプレートである固定盤86に固定される。シート搬送用可動グリップ50は、図面上下方向に移動可能で、図示しない供給ロール等から供給される連続帯状の装飾シートSを、雌型70と雄型80との間の型内に挿入する。装飾シートSは、その裏側面を図面右側を向く様にして雌雄型間の空間に最初は挿入される。
【0027】また、図面左右方向に移動可能な額縁状のシートクランプ40は、雌型70のパーティング面に沿って設けられており、シート搬送用可動グリップ50で型内に挿入された装飾シートSを、キャビティ面60の外側四方で、雌型70のパーティング面に押圧し固定する。なお、このシートクランプ40は、雌型70で装飾シートSを予備成形する際の装飾シート固定用である。また、雄型80が有するパーティング面には、シートクランプ50に対応する位置に、凹形状のクランプ受溝88が型締め時の逃所として設けてある。このシートクランプ50は、雌型70内に摺動自在に挿入された駆動ロッドに連結し、これによって雌型パーティング面に接近したり、離れたりして、装飾シートSの固定、開放を行う。また、熱盤30が、図3に図示の如く、型開き時は雌型70と雄型80間の移動し、型締め時は型外(図面上方)に退避すべく、油圧シリンダのラム32により図面上下方向に移動可能に、また型間に移動した後は、図示しない油圧シリンダ等の可動手段により図面左右方向に移動可能に設けられている。熱盤30は、装飾シートの予備成形の為に、シートクランプ40で雌型70のパーティング面に押圧固定された装飾シートSに間隙を開けて接近して、装飾シートSを輻射熱による非接触加熱する。熱盤30と装飾シートSと接近距離は、シートクランプ40を間に挟むことによって一定に維持される。また、シートカッタ34が、熱盤30の上方に設けられており、熱盤30が図面左方へ移動して装飾シートSを押圧する際に熱盤30と共に移動し、型内の所定位置まで挿入された連続帯状の装飾シートSを、成形一回分の大きさに切断し、シート供給側(上流側)と分離させ、予備成形時、及び射出成形時のシートに加える熱や応力が、上流側へ波及する事を防ぐ。なお、シートカッタ34としては刃物又は加熱線条を用いる。
【0028】そして、上述の様な装置による射出成形同時ラミネート法により、装飾樹脂成形品を以下の様にして製造する。先ず、前述の装飾シートを用意し、次いで、装飾シートSを図2に示す如く型内に供給する。連続帯状の装飾シートSを、その先端を上下動するシート搬送用可動グリップ50で挟持して図面下側に搬送して行き、型開きした雌型70と雄型80との間に出来た型内の空間に挿入する。なお、装飾シートSはシート表側を雌型70のキャビティ面60側に向け、シート裏側をゲート84にある雄型80側の樹脂側を向けて挿入する。そして、所定位置まで装飾シートSを搬送したら、装飾シートSを、シートクランプ40によって、雌型70のパーティング面にキャビティ面60の外側周囲で押圧し固定する。
【0029】そして、図3に示す如く、装飾シートSを雌型70に固定したら、シート搬送用可動グリップ50を開放し、図面上方の待機位置に退避させる。次いで、ラム32で上下動作する熱盤30を、退避位置から雌雄型間に移動させ、次に雌型方向に移動させて、装飾シートSに近接させて装飾シートSを加熱して軟化させる。又、熱盤30を装飾シートSに接近させる際に、シートカッタ34で連続帯状の装飾シートSを成形一回分の大きさに切断する。そして、シートカッタ34で切断した装飾シートSの送り出し側先端の切断端部を、シート搬送用可動グリップ50で再び把持して装飾シートSを少し上流側へ引き上げて、次回の待機位置とする。
【0030】次に、図4に示す如く、雌型70に設けられた通気孔74から、キャビティ面60と装飾シートS間に形成された空間内の空気を吸気することで、装飾シートSの表裏に空気圧差を与えて、雌型70のキャビティ面60の形状に追従密着させる様に、装飾シートSを予備成形する。なお、予備成形は雌型70側の通気孔74から吸気して真空成形するか、熱盤30の熱盤面にも通気孔を設けておけば、熱盤30の圧搾空気の吹出しを併用して真空圧空成形する。なお、ここまでは、熱盤30及びシートクランプ40は、雌型70のパーティング面を押圧したままである。以上で、装飾シートSの型内への挿入、すなわちここで例示する方法では、雌型70のキャビティ面60に接する位置への挿入が完了する。
【0031】そして、図5に示す如く、熱盤30を図面上方の型外に退避させる。なお、シートクランプ40は装飾シートSを押圧したままである。次いで、流体圧シリンダ90によりピストン(ラム)92を図面右方向に動かし、雌型70を雄型80に係合、合体させて型締めを行う。そして、雌型70及び雄型80間に形成されるキャビティ(成形窩)内に、ゲートから溶融樹脂PL を射出、充填して、射出成形を行う。
【0032】次は、図6に示す如く、樹脂が冷却して固化した後、雌型70を図面左方向に移動して雄型から離して型開きを行い、装飾シートSが固化樹脂PS に接着積層した装飾樹脂成形品200を型内から取出す。また、装飾樹脂成形品200の外周部分に残った装飾シートSの残余は、雌型70と雄型80とが型締めされた時に、パーティング面の成形品外形形状に沿って雌雄両型により切断する。型開き後にシートクランプ40を開放すると、装飾シートSの残余は自重で落下する。
・・・
【0034】なお、樹脂成形で用いる樹脂としては、射出成形であれば、公知の射出成形用樹脂が使用でき、例えば、ポリ塩化ビニル、ポリスチレン、アクリロニトリル-スチレン共重合体、ABS樹脂、アクリル樹脂、ポリカーボネート、ポリエチレン、ポリプロピレン等の熱可塑性樹脂を使用できる・・・
【0035】
【実施例】以下、本発明を射出成形同時ラミネート法を一具体例として、実施例及び比較例により更に説明する。
【0036】(実施例1~4)実施例1~4の装飾シートは、メチルメタクリレートとブチルメタクリレートとのモル比1:1の共重合体からなる樹脂に滑剤として、各々、ステアリン酸、ラウリン酸、ステアリン酸アミド、パルミチン酸アミドを樹脂全量に対して3重量%添加して、厚さ200μmに成膜した基材シートに、グラビア印刷によりアクリル系樹脂をバインダーとするインキにて木目模様を印刷して、実施例1~4の各装飾シートを得た。
【0037】上記各装飾シートを、図2~図6に示す様な装置、工程による予備成形有りの射出成形同時ラミネート法により、印刷形成した装飾層が、雄型のゲート方向を向く様に雌雄両型間に挿入して、射出成形と同時に射出成形品表面に接着した。射出樹脂はABS樹脂を用い、ゲート部射出温度210℃、金型温度50℃の成形条件で成形した。
【0038】(比較例)実施例において、基材シート中に滑剤を全く添加しないものを用いた装飾シートを用い、装飾樹脂成形品を作った。その他の条件は、実施例と同様である。
【0039】上記実施例及び比較例で得られた装飾樹脂成形品について、その性能評価結果を表1に示す。表1の如く、本発明による実施例では優れた耐擦傷性が得られた。なお、耐擦傷性能は学振型摩耗試験器で評価した。該試験機にテスター産業株式会社製の学振型摩耗堅牢度試験器を用いた。試験条件は、往復速度は約30回/毎分、往復距離は約120mm、摩耗子白綿布接触面積は約1cm2、モータは15Wで、荷重200gで往復500回と、荷重500gで往復200回との2通りで、アクリル樹脂の基材シート表面を摩耗させて、両方で評価した。その結果、各実施例は両方の条件ともに目視で傷を認めず良好であったが、比較例では両方の条件ともに目視で著しい傷を認めた。
【0040】
【表1】
[図:0001415689000001.jpg]
【0041】
【発明の効果】本発明の装飾シートによれば、樹脂成形品の表面ラミネート用として、特に三次元形状の装飾用として、従来のアクリル系樹脂単体のシートによる装飾シートの三次元形状に対する成形性、形状追従性に優れていたが耐擦傷性に乏しかった点が改良され、成形性、形状追従性を保持したまま、耐擦傷性を向上させた。しかも、従来、耐擦傷性向上の為に界面活性剤を塗布した装飾シートでは、界面活性剤の塗布工程が装飾シート製造に必要となるが、塗布工程が不要な装飾シートであり、又、本発明の装飾シートでは界面活性剤の様に経時的に流出して効果が低下することも無い。また、装飾シート表面に硬質塗膜を形成した場合の様に、三次元形状への成形性、形状追従性が低下したり、装飾シートが成形される時にシート、特に硬質塗膜に亀裂や破断を生じる事も無い。そして、本発明の装飾樹脂成形品は、上記装飾シートの性能による、耐擦傷性、及び耐擦傷性の経時的持続性に優れ、また装飾面が三次元形状のものも可能である。そして、本発明の装飾樹脂成形品の製造方法によれば、このような装飾樹脂成形品が、表面装飾と樹脂成形とが同時で効率良く得られる。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明の装飾シートの形態を示す断面図。(A)は基材シート単体からなる構成、(B)は基材シート裏面に装飾層等が形成された形態を示す断面図。
【図2】本発明の装飾樹脂成形品の製造方法の一形態として、射出成形同時ラミネート法の一実施例の概念図:装飾シートを型内に供給している状態。
【図3】同:装飾シートを加熱軟化させている状態。
【図4】同:装飾シートを成形型を利用して真空成形した状態。
【図5】同:型締め後に、樹脂を射出している状態。
【図6】同:冷却、型開き後に、装飾樹脂成形品が取り出される状態。
【符号の説明】
1 樹脂シート
2 装飾層(印刷層、金属層等)
3 接着剤層
20 タイバー
30 熱盤
32 ラム
34 シートカッタ
40 シートクランプ
50 シート搬送用可動グリップ
60 キャビティ面
70 雌型
74 通気孔
76 可動盤
80 雄型
82 コア面
84 ゲート
86 固定盤
88 クランプ受溝
90 流体圧シリンダ
92 ピストン(ラム)
100 射出成形同時ラミネート装置
200 装飾樹脂成形品
PL 溶融樹脂
PS 固化樹脂
S 装飾シート
[図:0001415689000002.jpg]
[図:0001415689000003.jpg]
」
2 引用文献2に記載された発明
引用文献2の請求項1には、「装飾処理を施したアクリル系樹脂シートよりなる装飾シートにおいて、シート中に少なくとも脂肪酸系滑剤又は脂肪酸アミド系滑剤のいずれか片方又は両方を含有する、装飾シート。」が記載されており、該請求項1における「装飾シート」は、図1(A)の装飾シートSで、基材シート1の内部に装飾処理が施された基材シート単体からなる形態を含み、装飾シートの最表面側にくるアクリル系樹脂の層(図1では基材シート1)に脂肪酸系滑剤や脂肪酸アミド系滑剤を含有するものである(【0007】)。そして、実施例には、「(実施例1~4)実施例1~4の装飾シートは、メチルメタクリレートとブチルメタクリレートとのモル比1:1の共重合体からなる樹脂に滑剤として、各々、ステアリン酸、ラウリン酸、ステアリン酸アミド、パルミチン酸アミドを樹脂全量に対して3重量%添加して、厚さ200μmに成膜した基材シートに、グラビア印刷によりアクリル系樹脂をバインダーとするインキにて木目模様を印刷して、実施例1~4の各装飾シートを得た。」が記載されている(【0036】)。ここで、実施例3では、アクリル系樹脂にステアリン酸アミドを含有する基材シートが、アクリル系樹脂にステアリン酸アミドを添加した材料を成膜してシート形状とするものであるところ、その成膜の前後で組成が変化するものではないから、上記基材シートの材料を、アクリル系樹脂にステアリン酸アミドを含有する「組成物」とみなすことができる。
そうすると、引用文献2には次の発明が記載されていると認める。
「メチルメタクリレートとブチルメタクリレートとのモル比1:1の共重合体からなる樹脂に滑剤として、ステアリン酸アミドを樹脂全量に対して3重量%を含有する組成物。」(以下、「引用発明2」という。)
第5 当審の判断
当審は原査定の理由1により本願発明は拒絶されるべきものと判断する。その理由は以下のとおりである。
1 対比・判断
本願発明において、「アルクアクリル酸またはエステルモノマーの残基」との発明特定事項がある。
この点について、本願明細書には、「(C1~C10)アルクアクリル酸またはエステルモノマー残基の(C1~10)アルク基の例は、メチル、エチル、n-プロピル、イソ-プロピル、n-ブチル、イソ-ブチル、tert-ブチル、ペンチル、ヘキシル、シクロヘキシル、2-エチルヘキシル、ヘプチル、オクチル、ノニル、デシルおよびこれらの異性体を含む。アルク基は、直鎖または分岐鎖であり得る。好ましくは、(C1~C10)アルク基は、上記に定義されているような(C1~C6)アルク基、より好ましくは、上記に定義されているような(C1~C4)アルク基、さらにより好ましくは、メチル基を表す。」(【0034】)、「アルクアクリル酸またはエステルモノマー残基は、(C1~C4)メタクリル酸アルキルの残基、最も好ましくは、(C1~C3)メタクリル酸アルキルの残基である。好ましくは、アルクアクリル酸またはエステルモノマー残基は、メタクリル酸メチル、メタクリル酸エチル、メタクリル酸n-プロピル、イソ-プロピルメタクリレート、メタクリル酸n-ブチル、メタクリル酸イソブチル、メタクリル酸tert-ブチルの残基から選択される。好ましくは、アルクアクリル酸またはエステルモノマー残基は、メタクリル酸メチル、メタクリル酸エチル、メタクリル酸n-プロピル、およびイソ-プロピルメタクリレート、最も好ましくは、メタクリル酸メチルの残基から選択される。」(【0036】)と記載されていることから、上記「アルクアクリル酸またはエステルモノマーの残基」は、「アルキルアクリル酸またはエステルモノマーの残基」を意味するものと解して、以下、本願発明と引用発明2とを対比する。
ア 引用発明2の「メチルメタクリレートとブチルメタクリレートとのモル比1:1の共重合体」は、本願発明の「(a)アクリル(コ)ポリマー」に相当するから、引用発明2の「メチルメタクリレート」と「ブチルメタクリレート」の残基は、本願発明の「アクリル(コ)ポリマーの残基」に相当する。
そして、引用発明2の「メチルメタクリレート」及び「ブチルメタクリレート」は「アルキルアクリル酸またはエステルモノマー」であるから、その残基は、本願発明の「アルクアクリル酸またはエステルモノマーの残基」に相当する。
そうすると、引用発明2の「メチルメタクリレートとブチルメタクリレートとのモル比1:1の共重合体」は、全て、すなわち100重量%が「アルクアクリル酸またはエステルモノマーの残基」からなり、本願発明の「アクリル(コ)ポリマー残基の少なくとも30重量%は、アルクアクリル酸またはエステルモノマーの残基であり、0~70重量%は、1種もしくは複数種の他のビニルコモノマーの残基であ」ることに相当する。
イ 引用発明2の「ステアリン酸アミド」は、本願発明の「(b)脂肪酸アミド」に相当する。そして、引用発明2の「ステアリン酸アミド」は、樹脂全量に対して3重量%含有するものであるから、樹脂100重量部に対して3重量部の量で含有されるものであり、組成物に対して約2.9重量%(=(3/103)×100)含有されるものである。
してみると、引用発明2の「メチルメタクリレートとブチルメタクリレートとのモル比1:1の共重合体からなる樹脂に滑剤として、ステアリン酸アミドを樹脂全量に対して3重量%を含有」することは、本願発明の「前記脂肪酸アミドは前記組成物に対して1重量%を超え、かつ10重量%未満の分量で存在する」ことに相当する。
ウ 引用発明2の「組成物」は、本願発明の「エチレンアルファオレフィンコポリマーゴムまたはエチレンアルファオレフィン非共役ジエンコポリマーゴムであるコポリマー以外の、エチレンおよび少なくとも1タイプのビニルモノマーのコポリマーを非含有であ」ることを満たす。
エ 引用発明2の「組成物」は、本願発明の「組成物」に相当する。
以上から、本願発明と引用発明2とは、
「 組成物であって、
(a)アクリル(コ)ポリマー、および
(b)脂肪酸アミド
を含み、
前記アクリル(コ)ポリマー残基の少なくとも30重量%は、アルクアクリル酸またはエステルモノマーの残基であり、0~70重量%は、1種もしくは複数種の他のビニルコモノマーの残基であり、前記組成物は、エチレンアルファオレフィンコポリマーゴムまたはエチレンアルファオレフィン非共役ジエンコポリマーゴムであるコポリマー以外の、エチレンおよび少なくとも1タイプのビニルモノマーのコポリマーを非含有であり、
前記脂肪酸アミドは前記組成物に対して1重量%を超え、かつ10重量%未満の分量で存在する、組成物。」
である点で一致し、両者は相違しない。
してみると、本願発明は、引用発明2、すなわち引用文献2に記載された発明である。
よって、本願発明は、引用文献2に記載された発明であるから、特許法第29条第1項第3号に該当し、特許を受けることができない。
2 審判請求人の主張について
審判請求人は、令和4年11月16日提出の手続補正書(審判請求書)において、以下a~fの根拠に基づいて、gに示す主張をしている。
a 原査定では、引用文献2の脂肪酸アミドを内部滑剤と認定しているところ、引用文献2では脂肪酸アミドが成分として組成物中に添加されていることを直接示す記載がなく、成形品の扱いを容易にするために表面に添加されている、つまり潤滑剤として表面上に存在するものに過ぎない。
b 原査定では、潤滑剤がアクリル組成物の成分であることの間接的な証拠として、潤滑剤が「ブリード」しうることを挙げているが、これは引用文献2の教示とは矛盾している。
c 引用文献2には、成形時にシート表側がキャビティ面側を向くこと(【0005】)が記載されており、引用発明2におけるシートの表裏の配向は、高耐擦傷性のある装飾樹脂成形品を得るために不可欠な事項であることを示し、さらに、装飾シートの最表面側にくるアクリル系樹脂の層(図1では基材シート1)に滑剤を含有させること(【0007】)及び装飾シートのシート表側面の層に少なくとも滑剤を含有させ、最終製品として装飾シートが使用される状態で表面となる層に含有させること(【0018】)が記載されており、潤滑剤の層がシート表面に配置されるべきであるから、シートの配向が重要になっており、このように、潤滑剤がシートの表面、特に最表面側に存在することを明確にしているだけでなく、潤滑剤がシート表面に配置されるべき理由が、潤滑剤により離型を支援するためにシート表面の潤滑剤がキャビティ面側に面していなければならないことを明確に教示している。
d 原査定では、引用文献2における「添加」を、後知恵で「一緒に混合される」との意味に誤認しているところ、引用文献2を読んだ当業者であれば、潤滑剤はシートに添加されさえすればよい、すなわち、シートはすでに形成されており、その上に潤滑剤が添加されると理解するものであり、引用文献2にはアクリル組成物に潤滑剤を添加した後にそれをシート状に成形する必要があるとの記載はない。
e 引用文献2には、積層体の装飾シートの場合、装飾層がインク層ならば、インク層中に滑剤を含有させること(【0018】)が記載されているから、引用文献2では、脂肪酸アミドを表面上のインクに含有されるのであって、シートに含有されるものではなく、上記【0018】の開示は、明細書全体を通して理解すれば、脂肪酸アミドがアクリル(コ)ポリマーと混合されることについて開示されていない。
f 上記bの「ブリード」は、樹脂組成物中に含まれる一部の成分が成形品の表面に移行することを意味するとの証拠が存在せず、アクリル(コ)ポリマーと混合された潤滑剤の結果としてのみ生じるというのは単なる仮定にすぎず、引用文献2の開示内容を全体としてみれば、「ブリード」は型内でのシート裏面への潤滑剤の移行、または潤滑剤が多すぎてそれが適用される面からブリードすることを指している。
g 以上から、引用文献2には、潤滑剤はシートの表面上に存在し、すなわち、表面潤滑剤であり、アクリル(コ)ポリマーと混合されていないことは明らかであり、アクリル(コ)ポリマーを含む組成物に脂肪酸アミドを含有させることについては示唆も開示もされておらず、外部潤滑剤としての脂肪酸アミドの使用について言及しているに過ぎず、脂肪酸アミドを組成物中に含有させて、耐引っかき性や耐摩耗性を高めることができるという教示は一切示していない。
そこで、上記a~fの根拠及びそれらに基づく上記gの結論について検討する。
ここでは、引用文献2及び審判請求書で用いられた「滑剤」、「潤滑剤」に代えて「脂肪酸アミド」又は「ステアリン酸アミド」と表現する場合もある。
・aについて
引用文献2の段落【0036】には、「実施例1~4の装飾シートは、メチルメタクリレートとブチルメタクリレートとのモル比1:1の共重合体からなる樹脂に滑剤として、各々、ステアリン酸、ラウリン酸、ステアリン酸アミド、パルミチン酸アミドを樹脂全量に対して3重量%添加して、厚さ200μmに成膜した基材シートに、・・・」と記載されていることから、基材シートは、滑剤であるステアリン酸アミド等を添加した後に成膜されたシートであり、これにより段落【0039】及び表1に示された、優れた耐擦傷性が得られることが理解できる。
そして、上記記載のほか、引用文献2の請求項1には、「装飾処理を施したアクリル系樹脂シートよりなる装飾シートにおいて、シート中に少なくとも脂肪酸系滑剤又は脂肪酸アミド系滑剤のいずれか片方又は両方含有する、装飾シート。」との記載、同【0005】には、「装飾処理を施したアクリル系樹脂シートよりなる装飾シートにおいて、シート中に少なくとも脂肪酸系滑剤又は脂肪酸アミド系滑剤のいずれか片方又は両方を含有させた」との記載、同【0007】には、「装飾シートの最表面側にくるアクリル系樹脂の層(図1では基材シート1)に、脂肪酸系滑剤や脂肪酸アミド系滑剤を含有させる」との記載、同【0009】には、「アクリル系樹脂の基材シートは単層でも良いし、或いは2層以上の同種又は異種のシートの積層体であっても良い。積層体の場合は、後述の滑剤は少なくとも最表面のシート中に添加すれば足りる。」との記載、同【0018】には、「基材シートが積層体ならば、最表面にくるアクリル系樹脂シート中に下記滑剤を含有させる。」との記載がある。このように、引用発明2は、シート表面側の層に脂肪酸アミド系滑剤を含有させることにより、耐擦傷性を有するものであり、脂肪酸アミド系滑剤が表面上に存在するのではなく、樹脂中に含有されていると解するのが相当である。
なお、アクリル樹脂に脂肪酸アミド系滑剤を添加してシート状に成膜する際に、溶融混練して樹脂中に含有させることは技術常識である(必要であれば、前審の引用文献1(特開2006-205478号公報)【0012】、実施例2、同引用文献3(特開2015-131948号公報)【0029】、実施例2-1-1~2-1-8参照。)。
してみると、原査定の解釈に誤りはなく、当該主張は妥当でない。
・b及びfについて
引用文献2の段落【0018】には、滑剤の添加量について、多すぎると表面に滑剤がブリードすることが記載されている。ここで、「ブリード」とは、樹脂との相溶性に欠ける添加剤を配合しているときに、添加剤がしみ出すことをいう一般的な技術用語である(実用プラスチック用語辞典、1989年9月10日改訂第3版、永井進監修、第594頁「ブルーミング」の項、第280頁「しみ出し」の項参照。)ところ、「ブリード」するということは、シート中に脂肪酸アミド系滑剤が含有されていることを裏付けるものである。そうすると、原査定の解釈に誤りはなく、当該主張は妥当でない。
・cについて
引用文献2の段落【0005】には、装飾処理を施したアクリル系樹脂シートよりなる装飾シートにおいて、シート表側がキャビティ面側を向くことが記載されているところ、これはシート裏側が射出樹脂側となって、表面に装飾シートが積層された成形品が最終的に得られることが記載されたに過ぎないものであって、結局のところ、滑剤を含有するシートが最表面に位置することで、射出成形品が耐擦傷性を有することになる。そして、引用発明2の段落【0018】に、図1A(単層)、図1B(積層)のどちらの場合でも、シート表面側の層は「基材シート1である」と記載されているように、滑剤を含有する基材シートが最表面側に存在することが重要なのであって、審判請求人が主張するような、基材シート表側に潤滑剤を有する層があるために、その面がキャビティ面側を向くように配置するといったことは、引用文献2には記載も示唆もされていない。
そして、上記シートの最表面に潤滑剤を存在させることや、潤滑剤を外部潤滑剤として用いることについても、引用文献2には何ら記載されていない。この点については、下記dも参照のこと。
よって、当該主張は妥当でない。
・dについて
広辞苑第五版によれば、「添加」とは、「ある物に何かを付け加えること。そえ加えること。」を意味するから、これを踏まえて、引用文献2の段落【0036】を見ると、基材シートが、メチルメタクリレートとブチルメタクリレートとのモル比1:1の共重合体からなる樹脂に滑剤としてのステアリン酸アミド等を加えたもの、すなわち樹脂にステアリン酸アミドを含有しているものといえる。
また、引用文献2の段落【0012】には、顔料等の基材シートへの練込による装飾では、基材シートを着色透明又は着色不透明、或いは無色不透明又は着色不透明等とする装飾処理が施されること、必要に応じ、炭酸カルシウム、シリカ(二酸化ケイ素)、アルミナ(酸化アルミニウム)、硫酸バリウムの様な体質顔料(充填材)を添加しても良いことが記載されており、このような練込や添加は、上記aに示したような溶融混練で行われることは技術常識である。
ついで、引用文献2には、シートは既に形成されており、その上に潤滑剤が添加されることを直接的に示す記載はない。そして、引用文献2の段落【0009】には、「アクリル系樹脂の基材シートは単層でも良いし、或いは2層以上の同種又は異種のシートの積層体であってよい。積層体の場合は、後述の滑剤は少なくとも最表面のシート中に添加すれば足りる。」と記載されていることから、予め形成された多層の最表面のシート中に滑剤を添加することが把握できるものの、形成されたシート上に、シートとしてではなく、潤滑剤を含む層として潤滑剤が添加されることまでは読み取れない。
さらに、引用文献2には、「(5)また、上記(1)~(3)の装飾シートの表側面に、界面活性剤を塗布する形態もあるが、経時的に界面活性剤が漏出して減少し、やがて効果が低下するという問題があった。」(【0004】)、「従来、耐擦傷性向上の為に界面活性剤を塗布した装飾シートでは、界面活性剤の塗布工程が装飾シート製造に必要となるが、塗布工程が不要な装飾シートであり、又、本発明の装飾シートでは界面活性剤の様に経時的に流出して効果が低下することも無い。」(【0041】)と記載されており、形成されたシートに後から界面活性剤を塗布(添加)することは、製造工程から見ても、経時的な効果の低下から見ても好ましくなく、この点を引用文献2に記載された発明では解消したものといえるから、すでに形成されたシート上に界面活性剤が「添加」されるという、審判請求人の主張とは整合しない。
したがって、原査定の解釈に誤りはなく、当該主張は妥当でない。
・eについて
引用発明2の段落【0018】には、シート表側面の層に少なくとも滑剤を含有させること、シート表側面の層とは、例えば図1(A)や図1(B)の層構成の修飾シートSでは、基材シート1のことであり、最終製品として装飾シートが使用される状態で表面となる層であること、図1(B)のように基材シート1上に装飾層2を積層した構成で、装飾層2が基材シート1の裏側面ではなく表側面に積層した構成ならば、装飾層がインク層であるとき、インク層中に滑剤を含有させることが記載されている。
この記載によると、装飾シートが単層であっても積層体であっても、さらに最表面層が基材シートであるかインク層であるかにかかわらず、引用文献2の段落【0009】に記載されたとおり、最表面層に滑剤を含有させることで、耐擦傷性を向上させることを理解できるから、最表面層がインク層の場合には、基材シートに滑剤を含有しない場合のあることを記載しているに過ぎないものであって、常に基材シートに含有しないことを意味しているわけではない。
以上のとおりであるから、上記a~fに係る根拠は、いずれも引用文献2及び周知技術に基づかないものであり、上記gに係る結論は妥当でない。
したがって、審判請求人の当該主張は採用できない。
第6 むすび
以上のとおり、本願発明は、特許法第29条第1項第3号に該当し、特許を受けることができないから、他の請求項に係る発明について検討するまでもなく、本願は拒絶されるべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
審決本文(J-PlatPat)
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2022-015929