特許拒絶査定不服審判
2022-012073
鏡像異性体的に濃縮された、または鏡像異性体的に純粋なブプロピオンの組成物
- 審判番号
- 2022-012073
- 法域
- 特許
- 審判種別
- 拒絶査定不服審判(拒絶査定不服の審決)
- 出願番号
- 特願2020-544420外部サイト(J-PlatPat)へ移動します
- 請求日
- 2022年08月04日
- 審決日
- 2024年05月22日
- 公報発行日
- 2024年11月29日
- 結論
- 請求不成立
- 当事者
- 【請求人】アクスサム セラピューティクス インコーポレイテッド
- 【請求人代理人】木村 満
- 【請求人代理人】森川 泰司
- 【請求人代理人】桜田 圭
- 【請求人代理人】美恵 英樹
- 分類
- P18 .113-WZ (A61K)
- 根拠条文(結論部分から自動抽出・参考)
- 特許法29条1項3号
- 条文(本文から自動抽出・参考)
- 特許法第29条第1項第3号
- データ出所
- 審決公報(XML)
事件の表示
特願2020-544420「鏡像異性体的に濃縮された、または鏡像異性体的に純粋なブプロピオンの組成物」拒絶査定不服審判事件〔令和 1年 8月29日国際公開、WO2019/165379、令和 3年 6月 3日国内公表、特表2021-513998〕について、次のとおり審決する。
結論
結 論
本件審判の請求は、成り立たない。
理由
理 由
第1 手続の経緯
本願は、2019年(平成31年)2月25日(パリ条約による優先権主張外国庁受理2018年2月23日、2019年1月18日、2019年2月22日、いずれも(US)アメリカ合衆国)を国際出願日とする出願であって、その主な手続の経緯は、次のとおりである。
令和3年 8月12日付け 拒絶理由の通知
同年11月18日 意見書の提出
令和4年 3月29日付け 拒絶査定
同年 8月 4日 審判請求書の提出
令和5年 9月14日付け 当審による拒絶理由の通知
令和6年 3月15日 意見書、手続補正書の提出
第2 本願発明
本願の請求項1に係る発明(以下「本願発明」という。)は、令和6年3月15日提出の手続補正書によってなされた補正(以下「本件補正」という。)後の特許請求の範囲の請求項1に記載された以下のとおりのものである。なお、下線は補正された箇所を示す。
「【請求項1】
少なくとも95%鏡像異性体的に純粋な(S)-ブプロピオンを含有する組成物。」
第3 当審拒絶理由
当審が、令和5年9月14日付けで通知した拒絶の理由(以下「当審拒絶理由」という。)のうち、本件補正前の請求項1に係る発明(以下「補正前発明」という。)に対する拒絶理由の概要は、補正前発明は、引用文献5に記載された発明であるから、特許法第29条第1項第3号に該当し、特許を受けることができないというものである。
引用文献5:メキシコ特許公開第2013014166号公報
第4 引用文献
(1)引用文献5の記載事項
当審による拒絶理由において引用された、本願優先日前に公開された引用文献5には以下の事項が記載されている。なお、引用文献5は外国語の文献であるため、合議体による翻訳文で記す。また下線は合議体によって付したものである。
ア「本発明の目的は、類似のラセミ体医薬品と比較し、肥満の治療に重要な利点をもたらす、3つの新薬S(+)-フェンプロポレックス、S(+)-ジエチルプロピオン、S(+)-ブプロピオンとそれらの塩の開発である。利点の一つは、本発明で開発された薬剤は、半量で、ラセミ体有効成分と同じドーパミン作動能を達成することである。薬の用量を減らすことで、重度の心血管障害などの副作用が軽減される。さらに、異なる活性を持ち、場合によっては重篤な副作用を伴うエナンチオマーを除去することで、ラセミ体有効成分を含む薬剤を用いた治療より、質の高い肥満治療を行うことができる。」(第1頁 要約)
イ「3.以下の塩酸塩の特性を特徴とする、S(+)-ブプロピオンという一般名の薬剤S(+)-2-テルブチルアミノプロピオフェノン及びその塩。
a)1.39 ppm (s, 9H)、1.61 ppm (d, 3H)、5.39 ppm (t, 1H)、7.69 ppm (t, 1H)、7.86 ppm (m, 1H)、8.24 ppm (m, 1H)、8.30 ppm (t, 1H)、8.68 ppm(ブロードバンド、1H)、10.13 ppm(ブロードバンド、1H)にシフトがある1H-NMRスペクトル
b)17.96 ppm、25.98 ppm、52.95 ppm、58.12 ppm、127.74 ppm、128.51 ppm、131.20 ppm、134.15 ppm、134.24 ppm、134.54 ppm、195.40 ppmにシフトがある13C-NMRスペクトル
c)主な吸収が3358 cm-1、1691 cm-1、1135 cm-1、740 cm-1にあるFT-IRスペクトル
d)240の分子イオン(M + 1)によるXXX法によって決定された質量スペクトル
e)243.06℃に吸熱がある示差走査熱量分析
・・・
6.請求項3に基づく、薬剤S(+)-ブプロピオン又はその薬学的に許容される塩を有効成分として使用する、即時放出医薬組成物及び徐放性医薬組成物。」(請求項3及び6)
ウ「希望するエナンチオマーを得るために、所定のラセミ混合物から結晶化によって分取規模でそれらを分離した。使用した分割剤は、(-)-ジ-p-トルイル-d-酒石酸と(+)-ジ-p-トルイル酒石酸、L-ジ-(O-ベンゾイル)酒石酸であった。適切な溶媒は、メタノール、イソプロピルアルコール、アセトニトリル、ジクロロメタン、アセトンなどである。溶液中で2つのジアステレオマー塩が形成される。一方の塩は他方よりも溶解性が低い。溶解性がより低い方の塩は沈殿し、もう一方の塩から濾過により分離される。もう一方の塩は溶液中に残る。分離された結晶性塩の再結晶化を繰り返すことにより、希望する程度までさらに精製することができる。必要なジアステレオマーが濃縮されたら、鉱酸による塩の酸性化、濾過及び再結晶によってエナンチオマーを回収する。沈殿物を乾燥させて分析すると、97%から99%の純度が得られる。この同じ手順をS(+)-フェンプロポレックス、S(+)-ジエチルプロピオン、S(+)-ブプロピオンの場合にも使用し、3つの場合において同様の純度を獲得した。」(第12頁第1段落)
エ「例2. S(+)-ブプロピオン塩酸塩37.5mg(ミリグラム)及びS(+)-ブプロピオン塩酸塩50mgの即時放出錠剤
処方
[図:0001415652000001.jpg]
」(第13頁34行~第14頁5行)
オ「例3. S(+)-ブプロピオン塩酸塩75mg及びS(+)-ブプロピオン塩酸塩150mgの徐放性錠剤
処方
[図:0001415652000002.jpg]
」(第15頁5~10行)
(2)引用発明
上記(1)の記載事項に基づけば、引用文献5には、「ラセミ体医薬品と比較し、肥満の治療に重要な利点をもたらす」「S(+)-ブプロピオンとそれらの塩の開発」を目的とし、「半量で、ラセミ体有効成分と同じドーパミン作動能を達成」し、「薬の用量を減らすことで、」「副作用が軽減される」ようにするため(上記(1)ア)、「希望するエナンチオマーを得るために、所定のラセミ混合物から結晶化によって」「それらを分離し」、「分離された結晶性塩の再結晶化を繰り返すことにより、希望する程度までさらに精製」し、「97%から99%の純度が得られる」こと、「S(+)-ブプロピオンの場合にも」、「同様の純度を獲得したこと」が記載され(上記(1)ウ)、そして、分離された「S(+)-ブプロピオン塩酸塩又はその薬学的に許容される塩を有効成分として使用する、即時放出医薬組成物及び徐放性医薬組成物」も記載されている(上記(1)イ、エ及びオ)。
そうすると、引用文献5には以下の発明(以下「引用発明」という。)が記載されているものと認める。
「97~99%の純度を有するS(+)-ブプロピオンを有効成分として使用する、即時放出医薬組成物及び徐放性医薬組成物。」
第5 判断
(1)対比・判断
ア 本願発明と引用発明とを対比する。
引用発明における「S(+)-ブプロピオンを有効成分として使用する」及び「即時放出医薬組成物及び徐放性医薬組成物」は、本願発明における「(S)-ブプロピオンを含有する」及び「組成物」にそれぞれ相当する。
また、引用発明における「97~99%の純度」は、上記第4(1)ウに記載されるように、「希望するエナンチオマーを得るために、所定のラセミ混合物から結晶化によって」「それらを分離し」、「分離された結晶性塩の再結晶化を繰り返すことにより、希望する程度までさらに精製」して得られる純度であるから、当然、希望するエナンチオマー、すなわち、鏡像異性体の純度であり、本願発明における「少なくとも95%鏡像異性体的に純粋な」ものであることに相当する。
そうすると、本願発明と引用発明とに相違点はない。
(2)審判請求人の主張について
審判請求人は、令和6年3月15日提出の意見書(3-2.理由2及び3(新規性及び進歩性))において、本願発明の新規性に関して、以下の点を主張している。
ア 引用文献5の第12頁第1段落(上記第4(1)ウ)に記載される「97%から99%の純度」がいかなる種類の純度を指すのか、例えば、鏡像異性体的な純度なのか、化学的純度なのかは定かではない。
イ 引用文献5の第12頁第1段落における、「habiendose alcanzado rendimientos similares en los tres casas」は、「3つの場合において同様の純度を獲得した。」ではなく、「3つの場合において同様の戻り値を獲得した。」と訳すべきである。当該段落中の「97%から99%の純度」はS(+)-ブプロピオンの純度のことを直に指すわけではなく、S(+)-ブプロピオンについて「同様の戻り値」を獲得するとはいかなる意味であるかは当業者にとっても定かではなく、当該記載が鏡像異性体的な純度を意味すると読み取れず、本願発明の「少なくとも95%鏡像異性体的に純粋な(S)-ブプロピオンを含有する」という特徴的な構成が導けたともいえない。
ウ 引用文献5は、所望の効果を得るためには特定の鏡像異性体的な純度が必要であることを開示も示唆もしておらず、本願発明で特定したものを含む特定の鏡像異性体的な純度の(S)-ブプロピオンの使用を当業者が試みる基礎となる動機付けがない。
エ 上記主張について検討する。
(ア)上記ア及びイの主張について
「ラセミ体医薬品と比較し、肥満の治療に重要な利点をもたらす」「S(+)-ブプロピオンとそれらの塩」を開発する(上記第4(1)ア)という引用文献5に記載された技術思想に照らし、引用文献5の第12頁第1段落(上記第4(1)ウ)の記載を当業者が読めば、段落全体を通して、「ラセミ混合物」(当審注:右と左の鏡像異性体がそれぞれ単独の結晶をつくり、両結晶の混合物となっている状態。丸善株式会社、第2版標準化学用語辞典、平成17年3月31日発行、712頁、ラセミ混合物の項)から「希望するエナンチオマー」、すなわち必要な鏡像異性体を分取、精製することが説明されているのであるから、その文脈から見て、「97%から99%の純度」が「鏡像異性体的な純度」を説明していることは明らかである。
また、「habiendose alcanzado rendimientos similares en los tres casas」の記載についても、「rendimientos」には「収量」という意味があり、「同様(similares)」の「rendimientos」は、直前の「97%から99%の純度」と同様の意であると理解するのが自然であるから、当審による「3つの場合において同様の純度を獲得した。」という翻訳(上記第4(1)ウ)に誤りはない。
なお、「rendimientos」について、審判請求人が翻訳した「戻り値」は、プログラム中で呼び出された関数などが処理を終了する際に、呼び出し元に対して渡す値(IT用語辞典e-Words、戻り値、https://e-words.jp/w/%E6%88%BB%E3%82%8A%E5%80%A4.html)であり、訳語として適切でない。
そして、引用文献5の第12頁第1段落(上記第4(1)ウ)に記載される「結晶性塩の再結晶化を繰り返す」手法では、「少なくとも95%鏡像異性体的に純粋な(S)-ブプロピオン」を取得することはできないといえる理由は、本願明細書に記載されておらず、当該理由が、本願優先日当時に存在していたともいえない。
以上のとおり、「97%から99%の純度」は「鏡像異性体的な純度」を説明する記載であり、審判請求人の「「3つの場合において同様の戻り値を獲得した。」と訳すべきである」という主張は採用できない。
なお、本願明細書の発明の詳細な説明には、本願発明の「少なくとも95%鏡像異性体的に純粋な(S)-ブプロピオン」の製造方法について説明する記載はなく、上記(S)-ブプロピオンを実際に製造した実施例の記載もない。
(イ)上記ウの主張について
引用文献5(上記第4(1)ア)における「ラセミ体医薬品と比較し、肥満の治療に重要な利点をもたらす」「S(+)-ブプロピオンとそれらの塩の開発」、「薬剤は、半量で、ラセミ体有効成分と同じドーパミン作動能を達成する」、「薬の用量を減らす」という記載は、R(+)-ブプロピオンとの混合物ではなく、S(+)-ブプロピオンのみを高い純度で精製し、医薬組成物とすることを動機づける記載であるから、審判請求人の主張は失当である。
(3)小括
したがって、審判請求人の主張はいずれも採用することはできず、本願発明は引用文献5に記載された発明である。
第6 むすび
以上のとおり、本願の請求項1に係る発明は、引用文献5に記載された発明であり、特許法第29条第1項第3号に該当し、特許を受けることができない。
したがって、他の請求項について検討するまでもなく、本願は拒絶すべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
審決本文(J-PlatPat)
J-PlatPatの審決検索トップを開きます。番号入力で「審判番号」を選び、下の番号を貼り付けて検索してください。
J-PlatPat 審決検索を開く
2022-012073