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特許拒絶査定不服審判

2023-015566

認知症治療薬

審判番号
2023-015566
法域
特許
審判種別
拒絶査定不服審判(拒絶査定不服の審決)
出願番号
特願2020-219697外部サイト(J-PlatPat)へ移動します
請求日
2023年09月14日
審決日
2025年10月21日
公報発行日
2026年01月30日
結論
請求不成立
当事者
審判長/審判官
分類
P18 .113-WZ (A61K)
根拠条文(結論部分から自動抽出・参考)
特許法29条1項3号
条文(本文から自動抽出・参考)
特許法第29条第1項第3号
データ出所
審決公報(XML)

事件の表示

特願2020-219697「認知症治療薬」拒絶査定不服審判事件〔令和 4年 7月 8日出願公開、特開2022-104448〕について、次のとおり審決する。

結論

結 論
本件審判の請求は、成り立たない。

理由

目次 ▾ 10項目
理 由

第1 手続の経緯

折りたたみ中(クリックで表示)

本願は、令和2年12月28日を出願日とする出願であって、その手続の経緯は次のとおりである。

令和4年12月27日付け:拒絶理由通知
令和5年 4月13日 :意見書の提出

同年 4月13日 :手続補正書の提出

同年 6月 6日付け:拒絶査定

同年 9月14日 :審判請求書の提出

令和7年 6月24日付け:拒絶理由通知

同年 8月25日 :意見書の提出

同年 8月25日 :手続補正書の提出

同年 9月30日付け:審理終結通知

同年10月10日 :審理再開申立書の提出

第2 本願発明

本願の請求項1に係る発明(以下「本願発明1」という。)は、令和7年8月25日提出の手続補正書によって補正された特許請求の範囲の請求項1に記載された次のとおりのものである。なお、下線は補正された箇所を示す。

「8-アルギニン-バゾプレシン(AVP)、AVP(4-8)、AVP(4-9)、AVP(5-8)、AVP(5-9)、NC1900、AVPメタボライト及びV1aRアゴニストからなる群から選択されたものを有効成分として含有し、且つ、経鼻投与、髄液注入及び脳室内注入からなる群から選択された薬物送達ルートに適した投与形態の製剤調製物であり、且つ、グリンパティック・システムの活性化を誘導し、脳老廃物の排泄・浄化を促進して、認知機能の改善を達成する活性を有することを特徴とする認知症治療薬。」

第3 拒絶の理由の概要

当審が、令和7年6月24日付けで通知した拒絶の理由のうち、理由1は、概略、次のとおりのものである。

(新規性)本願の請求項1に係る発明は、本願の出願前に日本国内又は外国において、頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった引用文献5又は6に記載された発明であるから、特許法第29条第1項第3号に該当し、特許を受けることができない。

<引用文献等一覧>

5.Zhang X et al., AVP(4-8) Improves Cognitive Behaviors and Hippocampal Synaptic Plasticity in the APP/PS1 Mouse Model of Alzheimer's Disease, Neurosci Bull, 2020 Mar, 36(3), p.254-262

6.Pan Y F et al., Arginine vasopressin prevents against Aβ(25-35)-induced impairment of spatial learning and memory in rats, Horm Behav, 2010, 57(4-5), p.448-54

第4 当審の判断

1 引用文献5に記載された事項及び引用発明5

(1)引用文献5(Neurosci Bull, 2020 Mar, 36(3), p.254-262)に記載された事項

当審の拒絶の理由で引用され、本願優先日前に発行された引用文献5には、次の事項が記載されている(引用文献5は英文のため、当審合議体による訳で記載する。下線は当審で付した。以下同様。)。

ア 記載事項5-1(表題)

「AVP(4-8)は、アルツハイマー病のAPP/PS1マウスモデルにおいて、認知行動及び海馬のシナプス可塑性を改善する。」

イ 記載事項5-2(要約)

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「加齢に伴う記憶障害は、脳内の神経変性、特にアルツハイマー病(AD)患者の脳内でのアルギニンバソプレシン(AVP)の減少と関連する。AVP(4-8)は、その前駆体であるAVPとは異なり、中枢神経系で記憶を強化する役割を果たし、末梢の副作用を伴わない。しかし、AVP(4-8)がADのAPP/PS1マウスモデルにおいて認知行動及びシナプス可塑性を改善できるかどうかは不明である。本研究では、APP/PS1-ADマウスの記憶行動及び長期増強におけるAVP(4-8)の神経保護効果を初めて調査した。結果は次に示す:(1) APP/PS1-ADマウスはY字迷路での自発的交替が野生型(WT)マウスより低く、AVP(4-8)によって有意に逆転された。;(2) モリス水迷路におけるAPP/PS1-ADマウスの逃避潜時の延長がAVP(4-8)によって有意に減少し、標的象限での泳ぐ時間の減少がAVP(4-8)処理後に有意に回復した。;(3) 高頻度刺激によって誘発される生体内海馬長期増強はADマウスで有意な障害を示すが、AVP(4-8)によって部分的に回復した。;(4) AVP(4-8)はADマウスの海馬におけるシナプス後密度95(PSD95)及び神経成長因子(NGF)の発現レベルを有意に上昇させた。これらの結果は、APP/PS1-ADマウスにおけるAVP(4-8)の有益な効果を明らかにし、AVP(4-8)の経鼻投与がAPP/PS1-ADマウスの作業記憶及び長期空間記憶を効果的に改善し、脳内のPSD95及びNGFレベルの上昇及び海馬シナプス可塑性の維持と関連している可能性があることを示す。」

ウ 記載事項5-3(255頁右欄3行~10行)

「薬物投与
行動テストの前に、バソプレシン代謝産物ニューロペプチド[pGlu4,Cystine6]-AVP(4-8)(2 μg/kg、フェニックスファーマシューティカルズ社、米国)又は同等量の生理食塩水を、1日3回、4週間にわたり経鼻投与した。AVP(4-8)又は生理食塩水の投与は、行動テスト期間中も継続された。・・・」

エ 記載事項5-4(257頁左欄11行~右欄下から6行)

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「結果
AVP(4-8)はY字迷路テストでWT及びAPP/PS1マウスの作業記憶を改善する。
4つのグループ間で総腕進入数に有意な差は見られず(P > 0.05)、遺伝子型及びAVP(4-8)が運動活動及び運動機能に影響を与えないことが示された(図2A)。対照的に、APP/PS1+生理食塩水グループ(59.67% ± 4.98%)は、WT+生理食塩水グループよりも自発的交替が有意に少なかった(76.56% ± 2.01%、P < 0.001)。AVP(4-8)の処理は、WT+AVP(4-8)(81.44% ± 1.16%、P < 0.05)及びAPP/PS1+AVP(4-8)グループ(71.78% ± 1.14%、P < 0.001)で、それぞれの生理食塩水対照グループよりも有意に多くの自発的交替を引き起こした(図2B;二元ANOVA:遺伝子型:F(1,32) = 74.449, P < 0.001;AVP(4-8):F(1.32) = 30.510, P < 0.001;遺伝子型×AVP(4-8):F(1.32) = 5.507, P < 0.05)。これにより、AVP(4-8)が正常なマウスの作業記憶を強化し、APP/PS1マウスの障害を改善することが示された。・・・
[図:0001430419000001.jpg]
図2 AVP(4-8)は、Y字迷路テストにおいてAPP/PS1マウスの作業記憶を改善した。A 8分間の総腕進入数、グループ間に有意差はない(n = 9/グループ)。B 正しい自発的交替の割合、APP/PS1マウスはコントロールと比較して有意に減少、AVP(4-8)処理後に有意な逆転(*P<0.05、***P<0.001)。
AVP(4-8)はMWMにおけるAPP/PS1マウスの空間学習及び参照記憶障害を回復する。
MWMテストは、マウスの空間学習及び記憶を評価するために使用された。・・・
さらに、APP/PS1+生理食塩水グループは、3日目から5日目にかけて、WT+生理食塩水グループよりも隠されたプラットフォームを見つけるのに多くの時間を費やした(P < 0.001)一方、AVP(4-8)の処置は、4日目から5日目にかけてAPP/PS1+AVP(4-8)グループの逃避潜時を減少させた(P < 0.05)。ナビゲーショントレーニング5日目のマウスの代表的な泳ぎの軌跡が図3Bに示されている。この結果は、APP/PS1マウスにおける空間学習障害がAVP(4-8)の処置によって部分的に回復されたことを示す。プローブテスト(図3C、D)において、APP/PS1+生理食塩水グループでは参照記憶の障害が発生し、ターゲット象限での泳ぎ時間の割合がWT対照よりも低かった(P < 0.001)。AVP(4-8)の処置後、APP/PS1+AVP(4-8)グループは、APP/PS1+生理食塩水グループよりも有意に高い泳ぎ時間の割合を示した(・・・)。・・・
[図:0001430419000002.jpg]
図3 AVP(4-8)は、MWMテストにおいてAPP/PS1マウスの空間学習及び記憶を回復させた。A 5日間の訓練中の場所ナビゲーションテストにおけるマウスの平均逃避潜時(***P < 0.001はWT+生理食塩水マウスと比較、#P<0.05はAPP/PS1+生理食塩水マウスと比較)。B ナビゲーショントレーニング5日目のマウスの代表的な泳ぎの軌跡。C 空間プローブテストにおけるターゲット象限での泳ぎ時間の割合(*P < 0.05、***P < 0.001)。D プローブテストにおける代表的な泳ぎの軌跡。E、F プローブテストにおける平均泳ぎ速度(E)及び可視プラットフォームまでの泳ぎ時間(F)(n = 9)。」

(2)引用文献5に記載された発明

引用文献5には、「加齢に伴う記憶障害は、脳内の神経変性、特にアルツハイマー病(AD)患者の脳内でのアルギニンバソプレシン(AVP)の減少と関連する」ものの、「AVP(4-8)がADのAPP/PS1マウスモデルにおいて認知行動及びシナプス可塑性を改善できるかどうかは不明である」から、「APP/PS1-ADマウスの記憶行動及び長期増強におけるAVP(4-8)の神経保護効果を初めて調査した」ところ、「AVP(4-8)の経鼻投与がAPP/PS1-ADマウスの作業記憶及び長期空間記憶を効果的に改善」することが記載されている(記載事項5-2、5-3、及び5-4)。

また、引用文献5では、AVP(4-8)の経鼻投与が、アルツハイマー病のマウスにおける作業記憶及び長期空間記憶を改善することから、AVP(4-8)は、それを有効成分として含有し、経鼻投与である薬物送達ルートに適した投与形態の製剤調製物であることを特徴とする薬として投与されたといえる。

そうすると、引用文献5には、次の発明が記載されていると認める。

「AVP(4-8)を有効成分として含有し、且つ、経鼻投与である薬物送達ルートに適した投与形態の製剤調製物であることを特徴とする、アルツハイマー病の作業記憶及び長期空間記憶を改善する薬」(以下「引用発明5」という。)

2 引用文献6に記載された事項及び引用発明6

(1)引用文献6(Horm Behav, 2010, 57(4-5), p.448-54)に記載された事項

当審の拒絶の理由で引用され、本願優先日前に発行された引用文献6には、次の事項が記載されている(引用文献6は英文のため、当審合議体による訳で記載する。)。

ア 記載事項6-1(表題)

「アルギニンバソプレシンは、ラットにおけるAβ25-35誘発の空間学習及び記憶障害を防止する」

イ 記載事項6-2(要約)

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「アミロイドβタンパク質(Aβ)は、アルツハイマー病(AD)における記憶喪失の原因と考えられている。AD患者の脳及び血漿中で[Arg8]-バソプレシン(AVP)の顕著な減少が観察されるが、AVPの減少がAβによる空間認知障害に関与しているかどうか、またAVPがAβによる認知機能障害を防ぐことができるかどうかは不明である。本研究は、モリス水迷路(MWM)テストにおける空間学習及び記憶障害に対する脳室内(i.c.v.)注入されたAVPの影響を試験し、Aβによる空間認識障害に対するAVPの潜在的な保護機能を調査した。結果は次に示す:(1) 25 nmolのAβ25-35の脳室内注入は、空間学習及び記憶の有意な低下を引き起こした。;(2) 1nmol及び10 nmolのAVP注入は、学習及び記憶を著しく改善したが、0.1 nmolの注入では改善しなかった。;(3) Aβ25-35による空間認知障害を誘発する前に1 nmol及び10 nmolのAVPで前処置を行うと、空間学習及び記憶の障害が効果的に逆転したが、0.1 nmolの注入では逆転しなかった。;(4) Aβ25-35及び異なる濃度のAVPを含むいずれの薬物も、ラットの視覚又は泳ぐ速度に影響を与えなかった。これらの結果は、Aβ25-35がラットの空間学習及び記憶を著しく障害する可能性があることを示し、AVPの中枢前処置が空間学習を強化し、神経毒性Aβ25-35による行動障害を効果的に防ぐことができることを示す。したがって、本研究は、Aβが空間学習及び記憶を障害するメカニズムに関するさらなる洞察を提供し、中枢AVPの上方調節がADの予防及び治療に有益である可能性を示唆する。」

ウ 記載事項6-3(450頁左欄下から19行~右欄下から6行)

折りたたみ中(クリックで表示)
「AVP注入は空間学習及び記憶を改善した。
図3は、異なる濃度のAVPがラットの空間学習及び記憶に与える効果を示し、隠されたプラットフォームテストでは、0.1 nmolのAVP(●, n=12)の投与が学習行動をわずかに改善し、訓練日1、2、3、4及び5で潜時(図3A)及び距離(図3B)がわずかに短くなった。しかし、コントロールグループ(○, n=15, P>0.05)と比較して有意な差は見られなかった。興味深いことに、1 nmolのAVP(▼, n=10)及び10 nmolのAVP(△, n=10)は、ラットの空間学習及び記憶を明らかに改善した。逃避潜時及び距離は、コントロール及び0.1 nmol AVPグループよりも有意に短くなった(P<0.01)。プラットフォームを取り除いた後、ターゲット象限での経過時間及び泳いだ距離の割合(図2)も1 nmol AVPグループ及び10 nmol AVPグループで有意に増加した。ラットの典型的な泳ぎの軌跡は、隠されたプラットフォームを探す際の距離が徐々に減少し、異なる濃度のAVP処置後のプローブ試行でターゲット象限での距離の割合が徐々に増加することを示した。
[図:0001430419000003.jpg]
図2. Aβ25-35の注入は、プローブ試行においてラットの空間記憶の有意な低下をもたらした。以前のターゲット象限での総時間(秒、A)及び総距離(センチメートル、B)の割合が示される。各列は、各グループのラットごとに2回の試行の平均±SEMを表す。**P<0.01はコントロールグループと比較した場合、##P<0.01はAβ25-35グループと比較した場合を示す。
続きを表示(全12行)
[図:0001430419000004.jpg]
図3. AVP単独(1 nmol又は10 nmol)は、モリス水迷路の隠されたプラットフォームテストにおいてラットの空間学習を改善した。5日間連続した訓練日における隠されたプラットフォームを見つけるまでの潜時(秒、A)及び距離(センチメートル、B)が、コントロールグループ(n=16)及び異なるAVPの投与量(0.1nmol、1 nmol、10 nmol、各グループn=10)について示される。各ポイントは、1日あたり4回の試行の平均±SEMを表す。**P<0.01はコントロールグループと比較した場合を示す。
AVPは用量依存的にAβ25-35による空間学習及び記憶障害を効果的に保護する。
異なる濃度のAVPがAβ25-35によるラットの空間学習及び記憶障害に与える影響を調査した。結果は、AVP(0.1-10 nmol)の前処置が、Aβ25-35(25 nmol)による障害から空間学習及び記憶を用量依存的に保護することを示した。図4に示すように、0.1 nmol AVPとAβ25-35の併用グループ(図4A及びB, ●, n=10)では、Aβ25-35単独グループと比較して学習の障害が有意に改善されなかった(P>0.05)。プローブ試行では、ターゲット象限での経過時間及び泳いだ距離の割合は、0.1 nmol AVPとAβ25-35の併用グループで有意に改善されなかった(図2)。しかし、1 nmolまたは10 nmolのAVPの前処置は、Aβ25-35による空間学習及び記憶障害を逆転させた(P<0.01)。Aβ25-35グループと比較して、1 nmol AVPとAβ25-35の併用グループ(図4, ▼, n=10)及び10 nmol AVPとAβ25-35の併用グループ(図4, △, n=10)では、隠された水中プラットフォームを探す際の平均逃避潜時(図4A)及び平均逃避距離(図4B)が有意に減少した(P<0.01)。対照的に、プラットフォームを取り除いた後のターゲット象限での経過時間(図2A)及び泳いだ距離(図2B)の割合は、Aβ25-35単独グループと比較して、AVPの高濃度グループの両方で有意に増加した(P<0.05)。図5は、4日目の訓練日及びプローブ試行で隠されたプラットフォームを探す際のAβ25-35単独またはAVPとAβ25-35の併用で前処置されたラットの典型的な軌跡を示している。Aβ25-35単独で前処置されたラットの周辺戦略及び低い距離の割合と比較して(図5A及びE)、AVPの濃度が増加するにつれて前処置されたラットは、隠されたプラットフォームを探す際により良い線形戦略を持ち(図5B、C及びD)、ターゲット象限での距離の割合が増加した(図5F、G、及びH)。全体として、これらの結果は、AVPが用量依存的にAβ25-35による空間学習及び記憶障害を保護することを示す。
[図:0001430419000005.jpg]
図4. AVPは、Aβ25-35によって誘発された障害に対して、用量依存的に空間学習を保護した。5日間連続した訓練日における隠されたプラットフォームを見つけるまでの潜時(秒、A)及び距離(センチメートル、B)が、Aβ25-35単独グループ(n=10)及び異なるAVPの投与量(0.1 nmol、1 nmol、10 nmol、各グループn=10)とAβ25-35の併用グループについて示される。各ポイントは、1日あたり4回の試行の平均±SEMを表す。##P<0.01はAβ25-35単独グループと比較した場合。
[図:0001430419000006.jpg]
図5. 隠されたプラットフォームを探す際の4日目の訓練日(A-D)及びプローブ試行(E-H)における、Aβ25-35単独及びAVPとAβ25-35を併用したラットの代表的な泳ぎの軌跡。A、E: 25 nmol Aβ25-35単独グループ(コントロールとして);B、F: 0.1 nmol AVP+25 nmol Aβ25-35;C、G: 1 nmol AVP+25 nmol Aβ25-35;D、H: 10 nmol AVP+25 nmol Aβ25-35。大きな円は水迷路のプールを表し、小さな円はプラットフォームを表し、黒い点はラットが置かれた位置を表す。」

(2)引用文献6に記載された発明

引用文献6には、「アミロイドβタンパク質(Aβ)は、アルツハイマー病(AD)における記憶喪失の原因と考えられて」おり、「AD患者の脳及び血漿中で[Arg8]-バソプレシン(AVP)の顕著な減少が観察される」が、「AVPの減少がAβによる空間認知障害に関与しているかどうか、またAVPがAβによる認知機能障害を防ぐことができるかどうかは不明である」から、「モリス水迷路(MWM)テストにおける空間学習及び記憶障害に対する脳室内(i.c.v.)注入されたAVPの影響を試験し、Aβによる空間認識障害に対するAVPの潜在的な保護機能を調査した」ところ、「Aβ25-35がラットの空間学習及び記憶を著しく障害する可能性があることを示し」、AVPは、「ラットにおけるAβ25-35誘発の空間学習及び記憶障害を防止する」ことが記載されている(記載事項6-1、6-2、及び6-3)。

また、引用文献6では、アルツハイマー病(AD)における記憶喪失の原因と考えられているAβ25-35がラットの空間学習及び記憶を著しく障害する可能性があることを示し、脳室内注入されたAVPが、ラットにおけるAβ25-35誘発の空間学習及び記憶障害を防止することから、AVPは、それを有効成分として含有し、脳室内注入である薬物送達ルートに適した投与形態の製剤調製物であることを特徴とする薬として投与されたといえる。

そうすると、引用文献6には、次の発明が記載されていると認める。

「AVPを有効成分として含有し、且つ、脳室内注入である薬物送達ルートに適した投与形態の製剤調製物であることを特徴とする、Aβ25-35誘発の空間学習及び記憶障害を防止する薬」(以下「引用発明6」という。)

3 引用文献5を主引用例とした場合の新規性の判断

(1)対比

本願発明1と引用発明5を対比する。

引用発明5の「AVP(4-8)を有効成分として含有」することは、本願発明1の「8-アルギニン-バゾプレシン(AVP)、AVP(4-8)、AVP(4-9)、AVP(5-8)、AVP(5-9)、NC1900、AVPメタボライト及びV1aRアゴニストからなる群から選択されたものを有効成分として含有」することに相当する。

また、引用発明5の「経鼻投与である薬物送達ルートに適した投与形態の製剤調製物」であることは、本願発明1の「経鼻投与、髄液注入及び脳室内注入からなる群から選択された薬物送達ルートに適した投与形態の製剤調製物」であることに相当する。

そして、本願明細書には、「アルツハイマー型認知症(AD病)」と記載されていることからみて(【0018】)、アルツハイマー病は認知症の一種である。さらに、本願明細書には、「本発明の認知症治療薬の投与についての適切性を決定することを助けることができるような診断手法としては、哺乳動物における学習・記憶機能のレベルの分析、およびMRIなどを使用して評価された脳内のアミロイドβ、タウ蛋白、その他の傷害を誘導するとされる老廃物のレベルの比較などが挙げられる。」(【0033】)(下線は当審で付した。)と記載されていることから、学習・記憶機能のレベルの分析は、認知症治療薬の投与についての適切性、すなわち、認知症治療薬の投与による効果を決定する診断手法である。くわえて、「本発明の活性成分を含有する薬物は、第一に、認知機能に好ましい影響を及ぼす、例えば、学習・記憶に関して好ましい影響を及ぼすという作用や効果を発揮し、第二に、脳内洗浄・排泄作用、例えば、脳内老廃物洗浄・排泄作用を示すことにより、記憶・学習機能改善薬、認知症の予防/治療剤などとして有用である。」(【0018】)と記載されていることから、学習・記憶機能のレベルの改善は、認知機能の改善を達成することである。そうすると、アルツハイマー病の作業記憶及び長期空間記憶を改善することは、認知機能の改善を達成し、認知症を治療することである。

そうすると、引用発明5の「アルツハイマー病の作業記憶及び長期空間記憶を改善する薬」は、本願発明1の「認知機能の改善を達成する活性を有することを特徴とする認知症治療薬」に相当する。

したがって、本願発明1と引用発明5の一致点及び一応の相違点は次のとおりである。

<一致点>

8-アルギニン-バゾプレシン(AVP)、AVP(4-8)、AVP(4-9)、AVP(5-8)、AVP(5-9)、NC1900、AVPメタボライト及びV1aRアゴニストからなる群から選択されたものを有効成分として含有し、且つ、経鼻投与、髄液注入及び脳室内注入からなる群から選択された薬物送達ルートに適した投与形態の製剤調製物であり、且つ、認知機能の改善を達成する活性を有することを特徴とする認知症治療薬。

<一応の相違点>

認知機能の改善が、本願発明1では、「グリンパティック・システムの活性化を誘導し、脳老廃物の排泄・浄化を促進して」達成されることが特定されているのに対し、引用発明5はそのような特定がない点。

(2)判断

ア 一般に、用途発明とは、ある物の未知の属性を発見し、この属性により、当該物が新たな用途への使用に適することを見出したことに基づく発明であるから、発見された未知の属性に基づき、その物について従来公知の用途とは区別し得る新たな用途を提供したといえる場合には、用途発明として新規性を有し得るものといえる。

そこで、上記一応の相違点について検討する。

イ 本願明細書には、次の事項が記載されている。

「本発明の活性成分を含有する薬物の示す第二の機能は、老廃物(例えば、Aβを含めたアミロイド、タウ蛋白、αシヌクレイン、TCD-43など)の脳内蓄積を予防する脳内排泄・洗浄作用を利用するものである。
脳には、脳にある血管周囲腔を介する脳の老廃物の処理システムがあり、それはグリンパティック・システム(Glymphatic System: GLS)として知られている。本GLSにおいて、水輸送を担う水チャンネルであるアクアポリン-4(AQP4)は、血管を囲うアストロサイトの足突起(endfeets)にあるといった、血管周囲あるいは脳血液関門(Blood Brain Barrier: BBB)近傍に局在するもの(高度の局在性を持つもの)で、脊髄液(Cerebrospinal Fluid: CSF)といった水移動を促進し、脳組織の細胞外環境を清掃する役割を担っている、すなわち、脳での対流輸送に重要な役割を担っている。・・・
AQP4チャンネルを介して水分子と老廃物が脳静脈周囲腔→脳外リンパ系に帰って行くが、この老廃物にはAβやタウなどの物質が含まれるのである。このGLSは、種々の神経疾患との関係でその研究が進められている。アルツハイマー病や特発性正常圧水頭症でもGLSの障害が強く示唆されている。
こうした状況下、そのAQP4と関連しているのがV1aRであり、AVPであることを見出した。
かくして、本発明に従えば、AVPが、V1aRを介して、AQP4発現を誘導し、それによりGLSの活性化を誘導し、脳内の水の流れを促進し、更に、脳組織の細胞外空隙を広げることと相俟って、脳内老廃物の排泄・浄化作用を達成できる。・・・本発明では、AVPはAQP4の発現を促し、GLSの水の流れ(water flow)を促進して、老廃物の洗浄作用を促進する。かくして、Aβやタウなどの老廃物の洗浄に役立つ。投与AVPではそのBBB透過性が亢進しないおそれがあるが、血管内投与より、経鼻投与が有用であり、さらに、髄液中への投与も有望である。・・・それ故、脳に代謝物や老廃物を排泄洗浄するシステムの存在を想定するのはキーポイントである。
本発明の活性成分(または有効成分)であるバゾプレシン及びそのアナログからなる群から選択されたものは、睡眠改善作用を有し、GLS活性化を示し、脳内老廃物洗浄作用を促進するし、細胞外空隙や組織間空隙を広げてGLSの流れを良くする。
かくして、脳内老廃物であるAβなどのAD病関連毒物の脳内濃度低下に有用である。
こうして脳機能の低下を防ぎ、AD病などの認知症の予防や治療、認知機能の改善が可能となる。」(【0019】~【0021】)

すなわち、本願明細書には、AVP又はそのアナログが、グリンパティック・システムの活性化を誘導し、脳老廃物の排泄・浄化を促進するという作用機序(属性)を有することを発見し、当該作用機序(属性)に基づいて認知機能の改善を達成し、認知症の治療のために使用できることが一般的に記載されている。

そして、上記一応の相違点に係る「グリンパティック・システムの活性化を誘導し、脳老廃物の排泄・浄化を促進して」という特定は、上記作用機序(属性)を発見したことに基づいて、本願発明1の「認知症治療薬」が有する「認知機能の改善」の作用機序を特定したものである。

ウ 上記(1)で検討したように、本願発明1と引用発明5は、認知症治療薬の唯一の有効成分が「AVP(4-8)」である点で同一であり、投与形態も「経鼻投与」である点で同一であり、また、認知症治療薬の適用対象も「認知症」患者である点で同一であり、認知症治療薬が有する活性も「認知機能の改善を達成する活性」である点で同一である。

このように、同一の活性を有する認知症治療薬における唯一の有効成分が同一である以上、その成分を、薬剤の適用対象を同じくする「認知症」患者に対して、同じ投与経路で投与した場合、同一の作用機序により活性を発揮することは明らかである。

そうすると、本願明細書において、たとえ、AVPやそのアナログについて作用機序を見い出し、本願発明1において、認知症における認知機能の改善における作用機序を特定しても、引用発明5の薬剤の用途とは異なる、新たな用途を提供するものとは認められない。

エ したがって、上記一応の相違点は実質的な相違点ではないから、本願発明1は、引用文献5に記載された発明である。

オ 審判請求人の主張について

(ア)審判請求人の主張

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審判請求人は、令和7年8月25日提出の意見書及び令和5年4月13日提出の意見書において、新規性欠如の拒絶理由に関して、おおむね次のとおり主張する。

a 引用文献5には、「認知症治療」や「認知機能の改善」に必須である「脳老廃物の浄化・排泄をグリンパティック・システム(GLS)を活性化して促進する」との発想は記載されていないから、本願発明1と引用発明5は、その根拠とする概念、着想、技術思想、課題の認識の点で、互いに異なるものであり、発明特定事項も異なっており、その結果、その解決手段の点でも異なっている(令和7年8月25日提出の意見書17頁16行~23行)。

b 引用文献5には、本願発明1の発明特定事項である「グリンパティック・システムの活性化を誘導し、脳老廃物の排泄・浄化を促進して、認知機能の改善を達成する活性を有する」ことにより、優れた「認知機能の改善」効果、すなわち、「認知症治療」効果を奏する点については開示がない(令和7年8月25日提出の意見書15頁2行~16行)。

c 本願発明1は、「AVPやそのアナログを脳内老廃物洗浄排泄機能の維持・改善の目的に使用する」ことで「認知症治療技術を提供する」ものであり、本願発明1の効果は、本願明細書の【0012】に示されるように、「脳のアストロサイトで水チャンネルであるAQP4の発現を促して、脳脊髄液-脳組織間液における水の流れを良くして、脳内老廃物の排泄洗浄を促進する働きを示し、医薬品として、その効果が優れるばかりでなく、安全性が高いという利点が期待できる。」というものであり、本願発明1の核心は、AVPのAQP4発現作用、及びAVPのグリンパティックシステム(GLS)の脳内老廃物洗浄排泄作用についての認識であり、この認識を基礎に認知症の根本原因とされる脳内老廃物(例えば、Aβを含めたアミロイド、タウ蛋白、αシヌクレイン、TCD-43など)の脳内蓄積を解消に導いたり、予防したりできるということである(令和7年8月25日提出の意見書13頁下から7行~14頁13行)。

そして、本願発明1は、参考資料1の「研究報告書 AVP4-9 fragment analogueの効果について」に示すように、

(i) Aβ 蓄積の統計的有意な減少、

(ii) ADAS-Cog 等による認知機能改善、

(iii) V1a 選択的フラグメントによる昇圧作用の回避

という、予測困難で、顕著な作用効果を奏するものである(令和7年8月25日提出の意見書17頁7行~15行)。

また、本願発明者が得ている臨床試験結果では、くも膜下出血後に認知機能の低下した患者22名に対してAVPを髄腔内投与すると、実際に、14名(64%)に長谷川式認知症スコアが改善し、その状態が維持されるという特徴を示している(令和5年4月13日提出の意見書10頁23行~11頁6行)。

(イ)審判請求人の主張に対する当審の判断

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a 主張aについて

本願発明者が、「認知症治療」や「認知機能の改善」には「脳老廃物の浄化・排泄をグリンパティック・システム(GLS)を活性化して促進する」ことが必須であるという発想のもと、AVPが、グリンパティック・システムの活性化を誘導し、脳老廃物の排泄・浄化を促進するという作用機序を有することを発見し、当該作用機序に基づいて認知機能の改善を達成し、認知症の治療のために使用できることを見出したのだとしても、本願発明1の「グリンパティック・システムの活性化を誘導し、脳老廃物の排泄・浄化を促進し」という発明特定事項は、「認知症治療薬」による「認知機能の改善」の作用機序を特定したに過ぎず、引用発明1の用途とは異なる新たな用途を提供するものではない。

また、本願発明1と引用発明5は、認知症治療薬の唯一の有効成分が「AVP(4-8)」である点で同一であり、投与形態も「経鼻投与」である点で同一であるから、両者の解決手段が異なるものでもない。

よって、審判請求人の当該主張は採用できない。

b 主張b及び主張cについて

(a)上記1(2)で述べたとおり、引用文献5には、「認知機能の改善を達成する活性を有することを特徴とする認知症治療薬」が記載されている。そして、当審において指摘している上記拒絶理由は、本願発明1の引用発明5に対する新規性であるから、本願発明1の構成により奏される効果は、上記新規性についての判断に影響を与えるものではない。

なお、下記(b)で述べるように、本願明細書には、上記一応の相違点である、認知の改善が「グリンパティック・システムの活性化を誘導し、脳老廃物の排泄・浄化を促進して」達成されることが、具体的な裏付けをもって記載されていないのであるから、なおのこと、本願発明1は新たな用途を提供したとは認められない。

(b)念のため、審判請求人は、AVPがグリンパティック・システムの活性化を誘導し、認知症の原因である脳老廃物の排泄・浄化を促進して、認知症を治療するものであることを主張するので検討しておく。

本願明細書には、一般的な記載として、AVPがグリンパティック・システムの活性化を誘導し、認知症の原因である脳老廃物の排泄・浄化を促進して、認知症を治療することが記載されているが(【0019】~【0021】)、それを裏付ける薬理試験データは記載されていないのであるから、審判請求人の主張する事項は本願明細書の記載から具体的に確認できない。

次に、審判請求人は、令和7年8月25日提出の意見書において、「研究報告書 AVP4-9 fragment analogueの効果について」と題する参考資料1に示すような結果を得ていると主張し、また令和5年4月13日提出の意見書において、具体的な臨床試験結果を得ている旨主張するが、当該参考資料1及び当該臨床試験結果を記載した証拠は提出されていないため、請求人の主張は具体的な根拠に欠けるものである。

したがって、審判請求人の主張を踏まえても、本願明細書には、AVPが、グリンパティック・システムの活性化を誘導し、脳老廃物の排泄・浄化を促進して、認知機能の改善を達成することが、具体的な裏付けをもって記載されていない。

(c)以上のとおりであるから、審判請求人の当該主張は採用できない。

(3)小括

したがって、本願発明1は、引用文献5に記載された発明であるから、特許法第29条第1項第3号に該当し、特許を受けることができない。

4 引用文献6を主引用例とした場合の新規性の判断

(1)対比

本願発明1と引用発明6を対比する。

引用文献6には、「[Arg8]-バソプレシン(AVP)」と記載されており(記載事項6-2)、上記記載は、8位がアルギニンであるアルギニンバソプレシン、すなわち「8-アルギニン-バゾプレシン(AVP)」を意味することは明らかである。

そうすると、引用発明6の「AVPを有効成分として含有」することは、本願発明1の「8-アルギニン-バゾプレシン(AVP)、AVP(4-8)、AVP(4-9)、AVP(5-8)、AVP(5-9)、NC1900、AVPメタボライト及びV1aRアゴニストからなる群から選択されたものを有効成分として含有」することに相当する。

引用発明6の「脳室内注入である薬物送達ルートに適した投与形態の製剤調製物」であることは、本願発明1の「経鼻投与、髄液注入及び脳室内注入からなる群から選択された薬物送達ルートに適した投与形態の製剤調製物」であることに相当する。

上記3(1)で説示した理由と同様に、アルツハイマー病は認知症の一種であり、学習・記憶機能のレベルの分析は、認知症治療薬の投与の効果を決定する診断手法であり、その改善は、認知機能の改善を達成することであるといえる。

そして、アミロイドβタンパク質(Aβ)は、アルツハイマー病(AD)における記憶喪失の原因と考えられているから、Aβ25-35誘発の空間学習及び記憶障害を防止することは、認知症の一種であるアルツハイマー病の認知機能の改善を達成することであり、それは認知症を治療することであるといえる。

そうすると、引用発明6の「Aβ25-35誘発の空間学習及び記憶障害を防止する薬」は、本願発明1の「認知機能の改善を達成する活性を有することを特徴とする認知症治療薬」に相当する。

そうすると、本願発明1と引用発明6の一致点及び一応の相違点は次のとおりである。

<一致点>

「8-アルギニン-バゾプレシン(AVP)、AVP(4-8)、AVP(4-9)、AVP(5-8)、AVP(5-9)、NC1900、AVPメタボライト及びV1aRアゴニストからなる群から選択されたものを有効成分として含有し、且つ、経鼻投与、髄液注入及び脳室内注入からなる群から選択された薬物送達ルートに適した投与形態の製剤調製物であり、且つ、認知機能の改善を達成する活性を有することを特徴とする認知症治療薬。」

<一応の相違点>

認知機能の改善が、本願発明1では、「グリンパティック・システムの活性化を誘導し、脳老廃物の排泄・浄化を促進して」達成されるものであるのに対し、引用発明6はそのような特定がされていない点。

(2)判断

上記3(2)ア~エで説示した理由と同様に、上記一応の相違点は、実質的な相違点ではない。

また、審判請求人は、引用文献6を主引用例とした新規性の場合も、上記3(2)オ(ア)と同様の主張をしているが、上記3(2)オ(イ)で説示したように審判請求人の主張は採用できない。

(3)小括

したがって、本願発明1は、引用文献6に記載された発明であるから、特許法第29条第1項第3号に該当し、特許を受けることができない。

第5 付記

審判請求人は、令和7年10月10日に提出した審理再開申立書において、おおむね(1)審理終結通知の送達前に技術説明のための面接を申し込んだこと、及び(2)面接において、本願発明1の実験データ及び本願発明1と引用発明との技術思想の根本的相違点(課題設定、作用機序、構成要件間の機能的関係等)について説明する準備があることを理由として、審理を再開して面接を実施するよう申し立てる。

しかしながら、当審は、令和7年6月24日付けで拒絶理由を通知し、審判請求人に意見を述べる機会を与えており、審判請求人はその指定期間内である令和7年8月25日に提出された意見書において、本願発明1の実験データについて説明し、本願発明1は予測困難で顕著な効果を奏するものであること、及び本願発明1と引用発明の技術思想が異なることを主張しており、これらの主張は上記(2)と趣旨を同じくするものである。そして、当審は、それらの主張を踏まえて審理をした上で、事件が審決をするのに熟したと判断し、令和7年9月30日付けで審理の終結を通知した。

したがって、審理再開申立書に記載された申立ての理由をみても、審理再開の必要性を認めない。

なお、審判請求人が面接において説明するとする上記(2)について、令和7年8月25日提出の意見書において、趣旨を同じくする主張がされているが、本願発明1の効果は新規性の判断に影響を与えるものではないこと、及び本願発明1における作用機序の特定は、引用発明5又は6の用途とは異なる新たな用途を提供するものではないことから、それらの主張は採用できないことは、上記第4の3(2)オ(イ)及び4(2)で説示したとおりである。

第6 むすび

以上のとおり、本願の請求項1に係る発明は、特許法第29条第1項第3号に該当し、特許を受けることができないものであるから、本願は拒絶すべきものである。

よって、結論のとおり審決する。

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2023-015566

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