特許拒絶査定不服審判
2022-011685
遺伝子操作された細胞および同細胞を作製する方法
- 審判番号
- 2022-011685
- 法域
- 特許
- 審判種別
- 拒絶査定不服審判(拒絶査定不服の審決)
- 出願番号
- 特願2018-558288
- 請求日
- 2022年07月28日
- 審決日
- 2023年11月28日
- 公報発行日
- 2024年05月31日
- 結論
- 請求不成立
- 当事者
- 【請求人】ジュノー セラピューティクス インコーポレイテッド
- 【請求人代理人】清水 初志
- 【請求人代理人】山口 裕孝
- 【請求人代理人】刑部 俊
- 【請求人代理人】井上 隆一
- 【請求人代理人】佐藤 利光
- 【請求人代理人】新見 浩一
- 【請求人代理人】小林 智彦
- 【請求人代理人】小寺 秀紀
- 【請求人代理人】大関 雅人
- 【請求人代理人】川本 和弥
- 【請求人】エディタス・メディシン,インコーポレイテッド
- 【請求人代理人】清水 初志
- 【請求人代理人】山口 裕孝
- 【請求人代理人】刑部 俊
- 【請求人代理人】井上 隆一
- 【請求人代理人】佐藤 利光
- 【請求人代理人】新見 浩一
- 【請求人代理人】小林 智彦
- 【請求人代理人】小寺 秀紀
- 【請求人代理人】大関 雅人
- 【請求人代理人】川本 和弥
- 審判長/審判官
- 審判長 長井 啓子
- 審判官 飯室 里美
- 審判官 鶴 剛史
- 分類
- P18 .113-Z (C12N) / P18 .121-Z (C12N)
- 根拠条文(結論部分から自動抽出・参考)
- 特許法29条1項3号特許法29条2項
- 条文(本文から自動抽出・参考)
- 特許法第17条の2第6項、特許法第29条第1項第3号、特許法第17条の2第5項第2号
- データ出所
- 審決公報(XML)
事件の表示
特願2018-558288「遺伝子操作された細胞および同細胞を作製する方法」拒絶査定不服審判事件〔平成29年11月 9日国際公開、WO2017/193107、令和 1年 6月27日国内公表、特表2019-517788〕について、次のとおり審決する。
結論
結 論
本件審判の請求は、成り立たない。
理由
理 由
第1 手続の経緯
本願は、2017年(平成29年)5月6日(パリ条約による優先権主張 2016年5月6日 米国、2016年5月6日 米国)を国際出願日とする出願であって、令和4年3月16日付けで拒絶査定がなされ、同年7月28日に拒絶査定不服審判の請求がなされると同時に手続補正がなされたものである。
第2 令和4年7月28日付け手続補正についての補正却下の決定
[結論]
令和4年7月28日付け手続補正を却下する。
[理由]
1.本件補正
令和4年7月28日に提出された手続補正書による手続補正(以下、「本件補正」という。)は、特許請求の範囲の請求項1に、
(補正前)
「【請求項1】
T細胞を1つまたは複数のCas9分子/gRNA分子複合体と接触させるステップを含んでなる、T細胞を改変する方法であって、前記1つまたは複数のCas9分子/gRNA分子複合体中のgRNA分子が、PDCD1遺伝子由来の標的ドメインと相補的なターゲティングドメインを含み、前記gRNA分子が、前記標的ドメインを少なくとも40%の切断効率で切断するように前記Cas9分子を誘導し、
前記gRNA分子が、配列番号481~507、509~555、563~1516、1517~3748、14657~16670、および16671~21037のいずれかからのターゲティングドメインと同一の、または3ヌクレオチド以下が異なる、ターゲティングドメインを含んでなる、前記方法。」とあったものを、
(補正後)
「【請求項1】
T細胞を1つまたは複数のCas9分子/gRNA分子複合体と接触させるステップを含んでなる、T細胞を改変する方法であって、前記1つまたは複数のCas9分子/gRNA分子複合体中のgRNA分子が、PDCD1遺伝子由来の標的ドメインと相補的なターゲティングドメインを含み、前記gRNA分子が、前記標的ドメインを少なくとも40%の切断効率で切断するように前記Cas9分子を誘導し、
前記gRNA分子が、配列番号510、511、512、514、576、579、581、582、766、および723のいずれかからのターゲティングドメインと同一の、または3ヌクレオチド以下が異なる、ターゲティングドメインを含んでなる、前記方法。」とする補正を含むものである。
なお、下線は補正された部分である。
2.本件補正の目的
本件補正により、補正前の請求項1におけるgRNA分子が、「配列番号481~507、509~555、563~1516、1517~3748、14657~16670、および16671~21037のいずれかからのターゲティングドメインと同一の、または3ヌクレオチド以下が異なる、ターゲティングドメインを含んでなる」ものから、「配列番号510、511、512、514、576、579、581、582、766、および723のいずれかからのターゲティングドメインと同一の、または3ヌクレオチド以下が異なる、ターゲティングドメインを含んでなる」ものに限定された。
そうすると、本件補正は、特許法第17条の2第5項第2号に掲げる特許請求の範囲の限定的減縮を目的とするものを含むと認められる。
そこで、本件補正により補正された特許請求の範囲の請求項1に記載された事項により特定される発明(以下、「補正発明」という。)が、特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるか(特許法第17条の2第6項において準用する同法第126条第7項の規定に適合するか)(以下、「独立特許要件」という。)について、以下で検討する。
3.独立特許要件の検討
(1)引用文献1の記載
拒絶査定において引用文献1として引用された、本願の優先日(2016年5月6日)より前の2015年10月22日に公知となった国際公開第2015/161276号には、次の事項が記載されている。
なお、引用文献1は、英文であるから、引用文献1のパテントファミリーである特表2017-513485号公報の記載事項を翻訳文として使用する。また、下線は当審で付したものである。
ア 「【請求項1】
FAS、BID、CTLA4、PDCD1、CBLB、PTPN6、TRACまたはTRBC遺伝子に由来する標的ドメインと相補的な標的化ドメインを含んでなる、gRNA分子。
・・・
【請求項12】
前記標的化ドメインが、表7A~H、表19A~J、表31または表32のものから選択される、請求項1に記載のgRNA分子。
・・・
【請求項59】
(b)Cas9分子をコードする配列をさらに含んでなる、請求項36~58のいずれか一項に記載の核酸。
・・・
【請求項136】
細胞を
(a)請求項1~35のいずれか一項に記載のgRNA;
(b)請求項59~73のいずれか一項に記載のCas9分子;および
任意選択的に、(c)請求項74~96のいずれか一項に記載の第2のgRNA分子に接触させるステップを含んでなる、細胞を改変する方法。
・・・
【請求項143】
前記細胞がT細胞である、請求項136~142のいずれか一項に記載の方法。
【請求項144】
前記T細胞が、遺伝子操作T細胞である、請求項143に記載の方法。
【請求項145】
前記遺伝子操作T細胞が、遺伝子操作キメラ抗原受容体(CAR)T細胞である、請求項144に記載の方法。」
イ 「【発明が解決しようとする課題】
【0008】
したがって、養子性に移入された遺伝子操作T細胞の抗腫瘍有効性を改善する必要性がある。」
ウ 「【0011】
遺伝子修飾されたT細胞のがん治療薬としての有効性を制限する要因としては、(1)例えば、養子免疫伝達に続くT細胞の限定的増殖などのT細胞増殖;(2)例えば、腫瘍環境内因子によるT細胞アポトーシス誘導などのT細胞生存;および(3)例えば、宿主免疫細胞およびがん細胞によって分泌される阻害因子による、細胞毒性T細胞機能の阻害などのT細胞機能が挙げられる。本明細書に記載される方法および組成物は、T細胞の増殖、生存および/または機能に影響を与える、T細胞発現遺伝子の発現を修飾することで、これらの制限に対処する。」
エ 「【1480】
VI.標的細胞
例えば、Cas9分子/gRNA分子複合体などのCas9分子およびgRNA分子を使用して、例えば、多種多様な細胞内で標的核酸を編集するなど、細胞が操作され得る。」
オ 「【1486】
VII.構成要素の標的細胞への生体外送達
例えば、Cas9分子およびgRNA分子などの構成要素は、多様な送達方法および調合物を使用して、多様な形態で標的細胞内に導入され得て、例えば、表700および800を参照されたい。・・・
【1487】
表700は、構成要素が標的細胞に送達され得る形式の例を提供する。
・・・
[図:0001409602000001.jpg]
」
カ 「【1573】
各gRNAの切断効率は、T7E1タイプアッセイまたは配列決定によって、標的遺伝子座におけるNHEJ誘導インデル形成を測定することで、評価されてもよい。・・・」
キ 「【1579】
実施例3:293個(当審注:「293細胞」の誤訳と認められる。)の細胞内のgRNAのスクリーニング
T細胞受容体β(TRBC)のgRNAのスクリーニング
標的NHEJ効率が最大のgRNAを同定するために、42個のS.ピオゲネス(S.pyogenes)および27個のS.アウレウス(S.aureus)gRNAが選択された(表27)。U6プロモーター、gRNA標的領域、および適切なTRACR配列(S.ピオゲネス(S.pyogenes)またはS.アウレウス(S.aureus))から構成されるDNAテンプレートは、PCR STITCHR反応によって作成された。引き続いて、このDNAテンプレートは、CMVプロモーター下流で、適切なCas9(S.ピオゲネス(S.pyogenes)またはS.アウレウス(S.aureus)をコードするDNAプラスミドと共にリポフェクタミン3000を使用して、293個の細胞(当審注:「293細胞」の誤訳と認められる。)に形質移入された。ゲノムDNAは、形質移入の48~72時間後に細胞から単離された。T細胞受容体β遺伝子(TRBC)における修飾比率を判定するために、表28に列挙されるプライマーによる遺伝子座PCRを使用して、標的領域が増幅された。PCR増幅後、PCR産物上でT7E1アッセイが実施された。簡単に述べると、このアッセイは、PCR産物の融解と、それに続く再アニーリングステップを伴う。遺伝子修飾が起こった場合、挿入または欠失のいくらかの出現頻度のために、完全なマッチではない二本鎖生成物が存在する。これらの二本鎖生成物は、ミスマッチ部位におけるT7エンドヌクレアーゼ1酵素による切断に対して感受性である。したがって、T7E1切断の量を分析することで、Cas9/gRNA複合体による切断効率を判定することが可能である。T7E1切断から%NHEJ測定値を提供するために使用される式は、次のとおりである:(100*(1-((1-(切断割合))^0.5)))。この分析の結果は、図11および図12に示される。
・・・
表27(一部)
[図:0001409602000002.jpg]
図12
[図:0001409602000003.jpg]
」
ク 「【1584】
T細胞受容体α(TRAC)のgRNAのスクリーニング
標的NHEJ効率が最大のgRNAを同定するために、18個のS.ピオゲネス(S.pyogenes)および13個のS.アウレウス(S.aureus)gRNAが選択された(表29)。U6プロモーター、gRNA標的領域、および適切なTRACR配列(S.ピオゲネス(S.pyogenes)またはS.アウレウス(S.aureus))から構成されるDNAテンプレートは、PCR STITCHR反応によって作成された。引き続いて、このDNAテンプレートは、CMVプロモーター下流で、適切なCas9(S.ピオゲネス(S.pyogenes)またはS.アウレウス(S.aureus)をコードするDNAプラスミドと共にリポフェクタミン3000を使用して、293個の細胞(当審注:「293細胞」の誤訳と認められる。)に形質移入された。ゲノムDNAは、形質移入の48~72時間後に細胞から単離された。T細胞受容体α遺伝子(TRAC)における修飾比率を判定するために、表30に列挙されるプライマーによる遺伝子座PCRを使用して、標的領域が増幅された。PCR増幅後、PCR産物上でT7E1アッセイが実施された。簡単に述べると、このアッセイは、PCR産物の融解と、それに続く再アニーリングステップを伴う。遺伝子修飾が起こった場合、挿入または欠失のいくらかの出現頻度のために、完全なマッチではない二本鎖生成物が存在する。これらの二本鎖生成物は、ミスマッチ部位におけるT7エンドヌクレアーゼ1酵素による切断に対して感受性である。したがって、T7E1切断の量を分析することで、Cas9/gRNA複合体による切断効率を判定することが可能である。T7E1切断から%NHEJ測定値を提供するために使用される式は、次のとおりである:(100*(1-((1-(切断割合))^0.5)))。この分析の結果は、図13および図14に示される。
・・・
表29(一部)
[図:0001409602000004.jpg]
[図:0001409602000005.jpg]
図13
[図:0001409602000006.jpg]
図14
[図:0001409602000007.jpg]
」
ケ 「【1587】
PD-1受容体のgRNAのスクリーニング
標的NHEJ効率が最大のRNAを同定するために、48個のS.ピオゲネス(S.pyogenes)および27個のS.アウレウス(S.aureus)gRNAが選択された(表31および32を参照されたい)。U6プロモーター、gRNA標的領域、および適切なTRACR配列(S.ピオゲネス(S.pyogenes)またはS.アウレウス(S.aureus))から構成されるDNAテンプレートは、PCR STITCHR反応によって作成された。引き続いて、このDNAテンプレートは、CMVプロモーター下流で、適切なCas9(S.ピオゲネス(S.pyogenes)またはS.アウレウス(S.aureus))をコードするDNAプラスミドと共にリポフェクタミン3000を使用して、293個の細胞(当審注:「293細胞」の誤訳と認められる。)に形質移入された。ゲノムDNAは、形質移入の48~72時間後に細胞から単離された。PD-1遺伝子(PDCD1)における修飾比率を判定するために、表33に列挙されるプライマーによる遺伝子座PCRを使用して標的領域が増幅された。PCR増幅後、PCR産物上でT7E1アッセイが実施された。簡単に述べると、このアッセイは、PCR産物の融解と、それに続く再アニーリングステップを伴う。遺伝子修飾が起こった場合、挿入または欠失のいくらかの出現頻度のために、完全なマッチではない二本鎖生成物が存在する。これらの二本鎖生成物は、ミスマッチ部位におけるT7エンドヌクレアーゼ1酵素による切断に対して感受性である。したがって、T7E1切断の量を分析することで、Cas9/gRNA複合体による切断効率を判定することが可能である。T7E1切断から%NHEJ測定値を提供するために使用される式は、次のとおりである:(100*(1-((1-(切断割合))^0.5)))。表31に示されるこのgRNAの分析結果は、図15および図16に示される。同様の実験は、表32で示されるものをはじめとする、本明細書に記載される(descrinbed)その他のgRNAで実施され得る。
・・・
表31(一部)
[図:0001409602000008.jpg]
図16
[図:0001409602000009.jpg]
」
コ 「【1593】
実施例4:酵素合成および初代T細胞へのgRNAの送達
RNA分子としてのCas9mRNAおよびgRNAのT細胞への送達
初代CD4+T細胞内のCas9媒介切断を実証するために、TCRβ鎖(TRBC-210(GCGCUGACGAUCUGGGUGAC)(配列番号413))またはTCRα鎖(TRAC-4(GCUGGUACACGGCAGGGUCA)(配列番号453))に対して設計された、S.ピオゲネス(S.pyogenes)Cas9およびgRNAが、(当審注:「S.ピオゲネス(S.pyogenes)Cas9およびTCRβ鎖(TRBC-210(GCGCUGACGAUCUGGGUGAC)(配列番号413))またはTCRα鎖(TRAC-4(GCUGGUACACGGCAGGGUCA)(配列番号453))に対して設計されたgRNAが、」の誤訳であると認められる。)電気穿孔を通じてRNA分子としてT細胞に送達された。この実施形態では、Cas9およびgRNAの双方が、T7ポリメラーゼを使用して生体外転写された。5’ARCAキャップが転写と同時に双方のRNA種に付加された一方で、ポリAテールは、大腸菌(E.coli)ポリAポリメラーゼによって、転写後にRNA種の3’末端に付加された。TRBC1およびTRBC2遺伝子座にCD4+T細胞修飾を生成するために、10μgのCas9mRNAおよび10μgのTRBC-210(GCGCUGACGAUCUGGGUGAC)(配列番号413)gRNAが、電気穿孔によって細胞に導入された。同一実験において、本発明者らはまた、10μgのTRAC-4(GCUGGUACACGGCAGGGUCA)(配列番号453)gRNAと共に、10μgのCas9mRNAを導入することで、TRAC遺伝子を標的化した。AAVS1(GUCCCCUCCACCCCACAGUG)(配列番号51201)ゲノム部位を標的化するgRNAが、実験対照として使用された。電気穿孔に先だって、T細胞は、10%FBSおよび組換え体IL-2が添加されたRPMI 1640中で培養された。細胞は、CD3/CD28ビーズを使用して活性化され、少なくとも3日間増殖された。活性化T細胞へのmRNAの導入に引き続いて、電気穿孔の24、48、および72時間後に、CD3に対して特異的なフルオレセイン(APC)コンジュゲート抗体を使用したフローサイトメトリーによって、細胞上のCD3発現がモニターされた。72時間目に、CD3陰性細胞集団が観察された(図17Aおよび図17B)。CD3陰性細胞の発生が、TRBC遺伝子座におけるゲノム編集の結果であることを確認するために、TゲノムDNAが収集されてT7E1アッセイが実施された。確かに、データは、TRBC2遺伝子座およびTRAC遺伝子座におけるDNA修飾の存在を確認する(図17C)。
【1594】
T細胞へのCas9/gRNA RNPの送達
Jurkat T細胞内のCas9媒介切断を実証するために、TCRα鎖(TRAC-233(GUGAAUAGGCAGACAGACUUGUCA)(配列番号474))に対して設計されたS.アウレウス(S.aureus)Cas9およびgRNAが、(当審注:「S.アウレウス(S.aureus)Cas9およびTCRα鎖に対して設計されたgRNA(TRAC-233(GUGAAUAGGCAGACAGACUUGUCA)(配列番号474))が」の誤訳であると認められる。)電気穿孔によってリボ核酸タンパク質複合体(RNP)として送達された。この実施形態では、Cas9は、大腸菌(E.coli)で発現され精製された。具体的には、Cas9をコードするHJ29プラスミドが、Rosetta(商標)2(DE3)化学コンピテント細胞(EMD Millipore#71400-4)に形質転換され、選択のための適切な抗生物質と共にLBプレート上に播種され、37℃で一晩培養された。適切な抗生物質が添加された脳心臓浸出物ブロス(Teknova#B9993)の10mLのスタータ培養に4つのコロニーが接種されて、220rpmで振盪しながら37°Cで培養された。一晩の培養後、スタータ培養が、補給剤に加えて適切な抗生物質が添加された1LのTerrific Broth Complete(Teknova#T7060)に添加されて、220rpmで振盪しながら37℃で培養された。温度が18℃に徐々に低下されて、OD600が2.0を超えたら、0.5mMのIPTGの添加によって遺伝子の発現が誘導された。誘導は一晩継続され、遠心分離による細胞の収集と、TG300(50mM Tris、pH8.0、300mM NaCl、20%グリセロール、1mM TCEP、プロテアーゼ阻害剤錠剤(Thermo Scientific#88266))中への再懸濁がそれに続き、-80℃で保存された。
【1594】
細胞は冷凍懸濁液の解凍によって溶解され、18000psiに設定されたLM10 Microfluidizer(登録商標)の2回の通過がそれに続いた。抽出物は、遠心分離を通じて清澄化され、4℃でのNi-NTAアガロース樹脂(Qiagen#30230)とのバッチ培養を通じて、可溶性抽出物が捕捉された。スラリーを重力流カラム内に注ぎ入れ、TG300+30mMイミダゾールで洗浄し、次に、TG300+300mMイミダゾールで関心のあるタンパク質が溶出された。Ni溶出剤は、等容積のHG100(50mM HepespH7.5、100mM NaCl、10%グリセロール、0.5mM TCEP)で希釈されて、HiTrap SP HPカラム(GE Healthcare Life Sciences#17-1152-01)上に装入されて、30カラム容積でHG100からHG1000(50mM Hepes pH7.5、1000mM NaCl、10%グリセロール、0.5mM TCEP)への勾配で溶出された。SDS-PAGEゲルでのアッセイ後、適切な画分が貯留され、HG150(10mM Hepes、pH7.5、150mM NaCl、20%グリセロール、1mM TCEP)で平衡化されたSRT10 SEC300カラム(Sepax#225300-21230)上への装入のために濃縮された。画分は、SDS-PAGEによってアッセイされ、適切に貯留され、少なくとも5mg/mlに濃縮された。
【1596】
gRNAは、T7ポリメラーゼを使用した生体外転写によって生成された。5’ ARCAキャップが転写と同時にRNAに付加された一方で、ポリAテールは、大腸菌(E.coli)ポリAポリメラーゼによって、転写後にRNA種の3’末端に付加された。細胞への導入前に、精製Cas9とgRNAを混合して、10分間にわたり複合体を形成させた。RNP溶液は、引き続いて電気穿孔によってJurkat T細胞内に導入された。電気穿孔の前後に、細胞は、10%FBSが添加されたRPMI1640培地中で培養された。細胞上のCD3発現は、CD3に対して特異的なフルオレセインコンジュゲート抗体を使用したフローサイトメトリーによって、電気穿孔の24、48、および72時間後にモニターされた。48および72時間目に、CD3陰性細胞集団が観察された(図18Aおよび図18B)。CD3陰性細胞の発生が、TRAC遺伝子座におけるゲノム編集の結果であることを確認するために、TゲノムDNAが収集されてT7E1アッセイが実施された。確かに、データは、TRAC遺伝子座におけるDNA修飾の存在を確認する(図18C)。
図18B
[図:0001409602000010.jpg]
図18C
[図:0001409602000011.jpg]
」
サ 「【1598】
実施例6:未感作T細胞へのCas9/gRNA RNPの送達
未感作T細胞内のCas9媒介切断を実証するために、TCRα鎖に対して設計された、標的化ドメインGUGAAUAGGCAGACAGACUUGUCA(配列番号474)があるS.アウレウス(S.aureus)Cas9およびgRNAが、(当審注:「S.アウレウス(S.aureus)Cas9および標的化ドメインGUGAAUAGGCAGACAGACUUGUCA(配列番号474)があるTCRα鎖に対して設計されたgRNAが、」の誤訳であると認められる。)電気穿孔によってリボ核酸タンパク質複合体(RNP)として送達された。この実施形態では、Cas9は、大腸菌(E.coli)で発現され精製された。具体的には、Cas9をコードするHJ29プラスミドが、Rosetta(商標)2(DE3)化学コンピテント細胞(EMD Millipore#71400-4)に形質転換され、選択のための適切な抗生物質と共にLBプレート上に播種され、37℃で一晩培養された。適切な抗生物質が添加された脳心臓浸出物ブロス(Teknova#B9993)の10mLのスタータ培養に4つのコロニーが接種されて、220rpmで振盪しながら37℃で培養された。一晩の培養後、スタータ培養が、補給剤に加えて適切な抗生物質が添加された1LのTerrific Broth Complete(Teknova#T7060)に添加されて、220rpmで振盪しながら37℃で培養された。温度が18℃に徐々に低下されて、OD600が2.0を超えたら、0.5mMのIPTGの添加によって遺伝子の発現が誘導された。誘導は一晩継続され、遠心分離による細胞の収集と、TG300(50mM Tris、pH8.0、300mM NaCl、20%グリセロール、1mM TCEP、プロテアーゼ阻害剤錠剤(Thermo Scientific#88266))中への再懸濁がそれに続き、-80℃で保存された。
【1599】
細胞は冷凍懸濁液の解凍によって溶解され、18000psiに設定されたLM10 Microfluidizer(登録商標)の2回の通過がそれに続いた。抽出物は、遠心分離を通じて清澄化され、4℃でのNi-NTAアガロース樹脂(Qiagen#30230)とのバッチ培養を通じて、可溶性抽出物が捕捉された。スラリーを重力流カラム内に注ぎ入れ、TG300+30mMイミダゾールで洗浄し、次にTG300+300mMイミダゾールで関心のあるタンパク質が溶出された。Ni溶出剤は、等容積のHG100(50mM HepespH7.5、100mM NaCl、10%グリセロール、0.5mM TCEP)で希釈されて、HiTrap SP HPカラム(GE Healthcare Life Sciences#17-1152-01)上に装入されて、30カラム容積でHG100からHG1000(50mM Hepes pH7.5、1000mM NaCl、10%グリセロール、0.5mM TCEP)への勾配で溶出された。SDS-PAGEゲルでのアッセイ後、適切な画分が貯留され、HG150(10mM Hepes、pH7.5、150mM NaCl、20%グリセロール、1mM TCEP)で平衡化されたSRT10 SEC300カラム(Sepax#225300-21230)上への装入のために濃縮された。画分は、SDS-PAGEによってアッセイされ、適切に貯留され、少なくとも5mg/mlに濃縮された。
【1600】
標的化ドメインGUGAAUAGGCAGACAGACUUGUCA(配列番号474)があるgRNAは、T7ポリメラーゼを使用した生体外転写によって生成された。5’ARCAキャップが転写と同時にRNAに付加された一方で、ポリAテールは、大腸菌(E.coli)ポリAポリメラーゼによって、転写後にRNA種の3’末端に付加された。この実施形態では、T細胞は、フィコール勾配と、それに続くCD3磁性ビーズを使用した正の選択によって新鮮臍帯血から単離された。細胞は、引き続いて、10%FBS、IL-7(5ng/ml)、およびIL-15(5ng/ml)が添加されたRPMI1640培地中で培養された。単離の24時間後、細胞は、精製Cas9およびgRNAを室温で10分間インキュベートすることで生成された、RNP溶液で電気穿孔された。細胞上のCD3発現は、電気穿孔の96時間後に、CD3に対して特異的なAPCコンジュゲート抗体を使用したフローサイトメトリーによってモニターされた。CD3陰性細胞集団が細胞内で観察され、その中では、gRNAおよび非機能性Cas9が投与された陰性対照と対比して、機能性RNP複合体が提供された(図21Aおよび図21B)。CD3陰性細胞の発生が、TRAC遺伝子座におけるゲノム編集の結果であることを確認するために、TゲノムDNAが収集されてT7E1アッセイが実施された。確かに、データは、TRAC遺伝子座におけるDNA修飾の存在を確認する(図21C)。
図21B
[図:0001409602000012.jpg]
図21C
[図:0001409602000013.jpg]
」
シ 「【1601】
実施例7:RNA分子としてのまたはCas9/gRNA RNPとしてのCas9 mRNAおよびgRNAのJurkat T細胞への送達によってPDCD1遺伝子座を標的化する(当審注:「RNA分子としての、Cas9mRNAとgRNA、または、Cas9/gRNA RNPとしてのJurkat T細胞への送達によってPDCD1遺伝子座を標的化する」の誤訳と認められる。)
RNA分子としてのCas9mRNAおよびgRNAのJurkat T細胞への送達
Jurkat T細胞中のPDCD1遺伝子座におけるCas9媒介切断を実証するために、PDCD1遺伝子座に対して設計された標的化ドメインGUCUGGGCGGUGCUACAACU(配列番号508)があるS.ピオゲネス(S.pyogenes)Cas9およびagRNA(当審注:「PDCD1遺伝子座に対して設計された標的化ドメインGUCUGGGCGGUGCUACAACU(配列番号508)があるgRNAおよびS.ピオゲネス(S.pyogenes)Cas9」の誤訳であると認められる。)が、電気穿孔を通じてRNA分子としてT細胞に送達された。この実施形態では、Cas9およびgRNAの双方が、T7ポリメラーゼを使用して生体外転写された。5’ARCAキャップが転写と同時に双方のRNA種に付加された一方で、ポリAテールは、大腸菌(E.coli)ポリAポリメラーゼによって、転写後にRNA種の3’末端に付加された。PDCD1遺伝子座におけるJurkat T細胞修飾を生成するために、標的化ドメインGUCUGGGCGGUGCUACAACU(配列番号508)がある10μgのCas9mRNAおよび10μgのgRNAが、電気穿孔によって細胞に導入された。電気穿孔に先だって、T細胞は、10%FBSが添加されたRPMI 1640中で培養された。24、48、および72時間目に、ゲノムDNAが単離されて、PDCD1遺伝子座においてT7E1アッセイが実施された。確かに、データは、PDCD1遺伝子座におけるDNA修飾の存在を確認する(図22)。
【1602】
Jurkat T細胞へのCas9/gRNA RNPの送達
Jurkat T細胞内のPDCD1遺伝子座におけるCas9媒介切断を実証するために、標的化ドメインGUCUGGGCGGUGCUACAACU(配列番号508)があるPDCD1遺伝子座に対してS.ピオゲネス(S.pyogenes)Cas9およびgRNAが設計されて、(当審注:「S.ピオゲネス(S.pyogenes)Cas9および標的化ドメインGUCUGGGCGGUGCUACAACU(配列番号508)があるPDCD1遺伝子座に対して設計されたgRNAを、」の誤訳であると認められる。)電気穿孔によってリボ核酸タンパク質複合体(RNP)として送達された。この実施形態では、Cas9は、大腸菌(E.coli)で発現され精製された。具体的には、Cas9をコードするHJ29プラスミドが、Rosetta(商標)2(DE3)化学コンピテント細胞(EMD Millipore#71400-4)に形質転換され、選択のための適切な抗生物質と共にLBプレート上に播種され、37℃で一晩培養された。適切な抗生物質が添加された脳心臓浸出物ブロス(Teknova#B9993)の10mLのスタータ培養に4つのコロニーが接種されて、220rpmで振盪しながら37℃で培養された。一晩の培養後、スタータ培養が、補給剤に加えて適切な抗生物質が添加された1LのTerrific Broth Complete(Teknova#T7060)に添加されて、220rpmで振盪しながら37℃で培養された。温度が18℃に徐々に低下されて、OD600が2.0を超えたら、0.5mMのIPTGの添加によって遺伝子の発現が誘導された。誘導は一晩継続され、遠心分離による細胞の収集と、TG300(50mM Tris、pH8.0、300mM NaCl、20%グリセロール、1mM TCEP、プロテアーゼ阻害剤錠剤(Thermo Scientific#88266))中への再懸濁がそれに続き、-80℃で保存された。
【1603】
細胞は冷凍懸濁液の解凍によって溶解され、18000psiに設定されたLM10 Microfluidizer(登録商標)の2回の通過がそれに続いた。抽出物は、遠心分離を通じて清澄化され、4℃でのNi-NTAアガロース樹脂(Qiagen#30230)とのバッチ培養を通じて、可溶性抽出物が捕捉された。スラリーを重力流カラム内に注ぎ入れ、TG300+30mMイミダゾールで洗浄し、次にTG300+300mMイミダゾールで関心のあるタンパク質が溶出された。Ni溶出剤は、等容積のHG100(50mM HepespH7.5、100mM NaCl、10%グリセロール、0.5mM TCEP)で希釈されて、HiTrap SP HPカラム(GE Healthcare Life Sciences#17-1152-01)上に装入されて、30カラム容積でHG100からHG1000(50mM Hepes pH7.5、1000mM NaCl、10%グリセロール、0.5mM TCEP)への勾配で溶出された。SDS-PAGEゲルでのアッセイ後、適切な画分が貯留され、HG150(10mM Hepes、pH7.5、150mM NaCl、20%グリセロール、1mM TCEP)で平衡化されたSRT10 SEC300カラム(Sepax#225300-21230)上への装入のために濃縮された。画分は、SDS-PAGEによってアッセイされ、適切に貯留され、少なくとも5mg/mlに濃縮された。
【1604】
標的化ドメインGUCUGGGCGGUGCUACAACU(配列番号508)があるgRNAは、T7ポリメラーゼを使用した生体外転写によって生成された。5’ARCAキャップが転写と同時にRNAに付加された一方で、ポリAテールは、大腸菌(E.coli)ポリAポリメラーゼによって、転写後にRNA種の3’末端に付加された。細胞への導入前に、精製Cas9とgRNAを混合して、10分間にわたり複合体を形成させた。RNP溶液は、引き続いて電気穿孔によってJurkat T細胞内に導入された。電気穿孔の前後に、細胞は、10%FBSが添加されたRPMI1640培地中で培養された。24、48、および72時間目に、ゲノムDNAが単離されて、PDCD1遺伝子座においてT7E1アッセイが実施された。確かに、データは、PDCD1遺伝子座におけるDNA修飾の存在を確認する(図22)。
図22
[図:0001409602000014.jpg]
」
(2)引用発明
引用文献1の特許請求の範囲には、細胞を、PDCD1遺伝子に由来する標的ドメインと相補的な標的化ドメインを含んでなるgRNA分子とCas9分子に接触させるステップを含んでなる、細胞を改変する方法が記載されている(上記ア)。
また、実施例3においては、293細胞においてPDCD1のgRNAを評価したことが記載され、gRNAのDNAテンプレートが、Cas9をコードするDNAプラスミドとともにリポフェクタミン3000を使用して293細胞に形質移入され、その後、細胞からゲノムDNAを単離し、標的領域における、NHEJ誘導インデル形成をT7E1アッセイにより測定することで、切断効率を評価したことが記載されており(上記カ、ケ)、表31、図16によれば、PDCD1のgRNAである配列番号510、511又は512の標的化ドメインを含むgRNAを使用した場合に、NHEJを示したことが記載されている(上記ケ)。
ここで、実施例3において、293細胞のゲノムDNAにおいてNHEJが見出されたことは、DNAとして形質移入したCas9及びgRNAが293細胞内で発現し、PDCD1遺伝子由来の標的ドメインと相補的な標的化ドメインを含むgRNAがPDCD1遺伝子由来の標的ドメインにCas9を誘導して、標的ドメインを切断したことを意味し、ゲノムの標的ドメインを切断することは、特許請求の範囲の請求項に記載された「細胞を改変する」ことに他ならないから、引用文献1には、次のとおりの発明(以下、「引用発明」という。)が記載されていると認められる。
「293細胞に、Cas9をコードするDNAプラスミドと、gRNAのDNAテンプレートを形質移入するステップを含んでなる、293細胞を改変する方法であって、293細胞内で発現した前記gRNA分子がPDCD1遺伝子由来の標的ドメインと相補的な標的化ドメインを含み、前記gRNA分子が、前記標的ドメインを切断するように、293細胞内で発現した前記Cas9分子を誘導し、
前記gRNA分子が、配列番号510、511、および512のいずれかからの標的化ドメインを含んでなる、前記方法。」
(3)対比
引用発明における「配列番号510、511、512」(上記ケ)は、それぞれ、補正発明における「配列番号510、511、512」と一致する。
また、引用発明における「標的化ドメイン」は、補正発明における「ターゲティングドメイン」に相当する。
したがって、補正発明と引用発明は、
「細胞にCas9分子及びgRNA分子を作用させるステップを含んでなる、細胞を改変する方法であって、gRNA分子が、PDCD1遺伝子由来の標的ドメインと相補的なターゲティングドメインを含み、前記標的ドメインを切断するように前記Cas9分子を誘導し、
前記gRNA分子が、配列番号510、511、および512のいずれかからのターゲティングドメインと同一のターゲティングドメインを含んでなる、前記方法。」である点で一致し、以下の点で一応相違している。
(相違点)補正発明では、「T細胞を1つまたは複数のCas9分子/gRNA分子複合体と接触させるステップ」を含み、「標的ドメインを少なくとも40%の切断効率で切断する」のに対して、引用発明では、「293細胞に、Cas9をコードするDNAプラスミドと、gRNAのDNAテンプレートを形質移入するステップ」を含み、切断効率は特定されていない点。
(4)判断
引用文献1は、養子移入に使用するT細胞における抗腫瘍有効性を改善するという課題を解決するために、T細胞の増殖、生存および/または機能に影響を与える遺伝子の発現を修飾することを趣旨とする文献である(上記イ、ウ)。
そして、実施例3では、293細胞において、T細胞受容体β(TRBC)のgRNA、T細胞受容体α(TRAC)のgRNA、PD-1受容体(PDCD1)のgRNAをスクリーニングしているが、実施例4、6~7では、293細胞において標的遺伝子の切断を誘導することができたgRNAの一部(TRBC-210(GCGCUGACGAUCUGGGUGAC)(配列番号413)を有するTCRβ鎖に対するgRNA、TRAC-4(GCUGGUACACGGCAGGGUCA)(配列番号453)又はTRAC-233(GUGAAUAGGCAGACAGACUUGUCA)(配列番号474)を有するTCRα鎖に対するgRNA、PDCD1ー108(GUCUGGGCGGUGCUACAACU(配列番号508)を有するPDCD1に対するgRNA)を用いて、初代T細胞において、その標的遺伝子の切断活性を検証している(上記キ~シ)。即ち、実施例3においては、293細胞でgRNAのスクリーニングを行っているが、引用文献1の上記課題及び趣旨に照らすと、結局はT細胞で用いることに向けられたものであるといえる。そうすると、引用発明は、養子移入に使用するT細胞における抗腫瘍有効性を改善することを目的として、Cas9分子とgRNA分子を用いて専らT細胞を改変することを予定しているものであるといえる。
さらに、細胞にCas9分子及びgRNA分子を作用させる方法について、引用文献1には、Cas9分子はタンパク質として提供され、gRNA分子は、転写または合成RNAとして提供されること(上記オ)、Cas9分子/gRNA分子複合体を使用すること(上記エ)も記載されている。また、実施例3で293細胞においてスクリーニングされたgRNAの一部(TRAC-233(GUGAAUAGGCAGACAGACUUGUCA)(配列番号474)を有するTCRα鎖に対するgRNA、PDCD1ー108(GUCUGGGCGGUGCUACAACU)(配列番号508)を有するPDCD1に対するgRNA)を用いて、実施例4、6~7で、初代T細胞において標的遺伝子切断活性を検証するにあたっては、Cas9分子/gRNA分子複合体を初代T細胞に接触させることにより行っていることから(上記キ~シ)、T細胞へのCas9分子及びgRNA分子の作用方法として、「Cas9/gRNA分子複合体と接触させる」ことも、引用文献1に記載されているに等しい事項であるといえる。
そして、引用発明におけるgRNA分子は、補正発明と全く同一のgRNA分子を使用するものであるから、そのようなgRNA分子を、Cas9分子/gRNA分子複合体としてT細胞に接触させれば、自ずと、「標的ドメインを少なくとも40%の切断効率で切断する」ものであるといえる。
(なお、引用文献1は、本願出願人による特許出願の国際公開であって、配列番号510、511、512のgRNA分子を用いた唯一の実施例である実施例3は293細胞を用いたものであり、本願明細書における、配列番号510、511、512のgRNA分子を用いた唯一の実施例である実施例3と同一である。このとおり、引用文献1においても本願明細書においても、T細胞での切断効率は具体的に示されていないことに照らすと、こう判断するよりほかない。)
よって、上記相違点は、実質的な相違点とはいえない。
また、上記相違点が実質的な相違点であったとしても、引用文献1の記載によれば、相違点について、補正発明の発明特定事項に至ることは当業者が容易になし得ることであり、補正発明の発明特定事項により、有利な効果が奏されるとは認められない。
以上のとおり、補正発明は、引用発明、すなわち、引用文献1に記載された発明であるか、引用文献1に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。
4.審判請求人の主張について
審判請求人は、審判請求書において、引用文献1は、実施例7において、「Jurkat T細胞内のPDCD1遺伝子座におけるCas9媒介切断を実証するために、S.ピオゲネス(S.pyogenes)Cas9および標的化ドメインGUCUGGGCGGUGCUACAACU(配列番号508)を有するPDCD1遺伝子座に対して設計されたgRNA」を用いたことを開示するが、本願請求項記載の発明においては、「PDCD1遺伝子由来の標的ドメインと相補的なターゲティングドメインを含み」、かつ、「配列番号510、511、512、514、576、579、581、582、766、および723のいずれかからのターゲティングドメインと同一の、または3ヌクレオチド以下が異なる、ターゲティングドメインを含んでなる」gRNAを用いるものであり、さらに、引用文献1は、「前記標的ドメインを少なくとも40%の切断効率で切断するように前記Cas9分子を誘導」することについて、記載も示唆もないことから、本願請求項記載の発明は、引用文献1記載の発明と大きく異なる発明であると主張している。
しかしながら、引用文献1には、配列番号510、511、512のいずれかのターゲティングドメインと同一のターゲティングドメインを含んでなるgRNAについて、293細胞に、Cas9をコードするDNAプラスミドと、gRNAのDNAテンプレートを形質移入することにより、293細胞においてPDCD1遺伝子が切断されたことが具体的に記載され(上記ケ)、これは、養子移入に使用するT細胞における抗腫瘍有効性を改善することを目的として、T細胞への適用を予定したものであること、さらに、「Cas9/gRNA分子複合体と接触させる」ことも、引用文献1に記載されているに等しい事項であることから、補正発明が引用文献1に記載された発明であるか、引用文献1に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるといえることは、上記第2の3(4)で述べたとおりである。
また、上記第2の3(4)で述べたとおり、配列番号510、511、512のいずれかのターゲティングドメインと同一のターゲティングドメインを含んでなるgRNAについての本願明細書における開示は、引用文献1における開示と同一であるから、「少なくとも40%の切断効率で切断する」点においても、補正発明が引用発明と実質的に相違するものであるとは認められない。
したがって、審判請求人の主張は、理由がない。
5.小活
以上のとおり、本件補正は、特許法第17条の2第6項において準用する同法第126条第7項の規定に適合しないから、同法第159条第1項において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下されるべきものである。
第3 本願発明について
1.本願に係る発明
本件補正は上記のとおり却下されたので、本願の請求項1~15に係る発明は、令和3年12月23日に提出された特許請求の範囲の請求項1~15に記載の事項により特定されるものであると認める。
2.原査定の理由
令和4年3月16日付け拒絶査定は、この出願の請求項1に係る発明は、その優先日前に日本国内又は外国において頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった引用文献1に記載された発明であるから、特許法第29条第1項第3号に該当し、または、引用文献1に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、同法同条第2項の規定により、特許を受けることができない、との理由を含むものである。
3.当審の判断
本願の請求項1に係る発明は、上記第2の1.に(補正前)として記載したものであり、本願の請求項1に係る発明は、上記第2の3(3)において記載した相違点を含むものと認められる。
そうすると、本願の請求項1に係る発明は、補正発明について述べた上記第2の3(4)と同様の理由により、引用文献1に記載された発明であるか、引用文献1に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。
第4 むすび
以上のとおり、本願の請求項1に係る発明は、特許法第29条第1項第3号に該当し、または、同法同条第2項の規定により、特許を受けることができないものであるであるから、他の請求項に係る発明について言及するまでもなく、本願は拒絶すべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
審決本文(J-PlatPat)
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2022-011685