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特許拒絶査定不服審判

2022-004246

バイオプロセシングのための音響分離

審判番号
2022-004246
法域
特許
審判種別
拒絶査定不服審判(拒絶査定不服の審決)
出願番号
特願2018-564946
請求日
2022年03月22日
審決日
2024年05月28日
公報発行日
2024年11月29日
結論
請求不成立
当事者
  • 【請求人】ザ・チャールズ・スターク・ドレイパ・ラボラトリー・インコーポレイテッド
  • 【請求人代理人】高岡 亮一
審判長/審判官
  • 審判長 上條 肇
  • 審判官 荒木 英則
  • 審判官 天野 貴子
分類
P18 .113-WZ (C12N) / P18 .121-WZ (C12N)
根拠条文(結論部分から自動抽出・参考)
特許法29条1項3号特許法29条2項
条文(本文から自動抽出・参考)
特許法第29条第1項第3号、特許法第29条第2項
データ出所
審決公報(XML)

事件の表示

特願2018-564946「バイオプロセシングのための音響分離」拒絶査定不服審判事件〔平成30年 2月 1日国際公開、WO2018/022158、令和 1年10月 3日国内公表、特表2019-527536〕について、次のとおり審決する。

結論

結 論 本件審判の請求は、成り立たない。

理由

理 由 第1 手続の経緯 本願は、2017年4月28日(パリ条約による優先権主張2016年7月28日 (US)アメリカ合衆国)を国際出願日とする出願であって、令和3年11月19日付けで拒絶査定がなされ、令和4年3月22日に拒絶査定不服審判が請求されるとともに手続補正書が提出され、令和5年8月1日付け拒絶理由通知書に応答して、令和6年1月5日付けで意見書及び手続補正書が提出されたものである。 第2 本願発明 本願請求項1~27に係る発明は、令和6年1月5日付け手続補正書の特許請求の範囲1~27に記載された事項により特定されたものであるところ、そのうち請求項1に係る発明(以下、「本願発明」という。)は、以下のとおりである(下線は補正箇所である。)。 「【請求項1】 混合細胞を含む生物流体において標的細胞を非標的細胞から分離するインビトロの方法であって、 前記生物流体、前記標的細胞、または前記非標的細胞の少なくとも1つの特性を調整するために選択される少なくとも1つの添加剤の所定容量を前記生物流体に導入して前処理した生物流体を生成することにより、前記標的細胞のサイズ、前記非標的細胞のサイズ、前記標的細胞の凝集能、および前記非標的細胞の凝集能の少なくとも1つを変化させることと、 前記前処理した生物流体をマイクロ流体分離チャンネルの流入口に流入させることと、 前記標的細胞が前記分離チャンネルに沿った少なくとも1つの主流内に蓄積し、前記非標的細胞が前記分離チャンネルに沿った少なくとも1つの副流内に蓄積するように前記マイクロ流体分離チャンネル内の前記前処理した生物流体に音響エネルギーを加えて前記標的細胞を前記非標的細胞から分離することと、 前記標的細胞を含む前記少なくとも1つの主流、および前記非標的細胞を含む前記少なくとも1つの副流を収集すること、 前記添加剤を、細胞凝集剤、脱イオン水、デタージェント、界面活性剤、前記生物流体の塩分を調節する溶液、前記生物流体の張度を調節する溶液、前記生物流体の粘度を調節する溶液、前記生物流体のモル浸透圧濃度を調節する溶液、前記生物流体のイオン濃度を調節する溶液、およびこれらの組み合わせからなる群から選択すること を含む、方法。」 第3 当審が通知した拒絶の理由 当審が補正前の請求項1に関して令和5年8月1日付けで通知した拒絶の理由のうち、拒絶理由2及び3は、それぞれ以下のとおりである。 拒絶理由2:補正前の請求項1に係る発明は、その出願前に日本国内又は外国において、頒布された下記の引用文献1に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明であるから、特許法第29条第1項第3号に該当し、特許を受けることができない。 拒絶理由3:補正前の請求項1に係る発明は、その出願前に日本国内又は外国において、頒布された下記の引用文献1に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。 引用文献1:特表2004-535912号公報 第4 当審の判断 上記拒絶理由通知に対し、請求人は令和6年1月5日付けで手続補正書を提出して、請求項1の記載を上記「第2」で示したとおり補正した。本願発明に関し、上記拒絶理由2及び3が解消したか否かを、以下検討する。 1 刊行物の記載 本願優先日前に頒布された刊行物である、上記引用文献1には、次の事項が記載されている。なお、下線は当審で付した。 (1) 「【請求項26】 超音波、層流、及び定常波効果を使用して粒子を流体から分離する方法であって: -流体を第1の事実上の層流へと強制するチャネルユニットに、前記流体を供給する工程と; -流れを、ある距離を通り過ぎるその流れの最中に超音波の定常波場にさらし、それによって、粒子の不均一分配を有する第2の事実上の層流を形成する工程と; -粒子の濃度は第2の分離された流れにおけるよりも第1の分離された流れにおいて高くなるような様式で、第2の層流を前記第1及び第2の分離された流れに分離させる工程と; を含む方法。」 (2) 「【請求項29】 定常波の超音波場は、前記第1の事実上の層流の流れの方向に対して直角を成すことを特徴とする、請求項26に記載の方法。」 (3) 「【請求項40】 粒子を含む前記流体は、血液であることを特徴とする、請求項26に記載の方法。」 (4) 「【請求項47】 「最初の流体の密度を変更する目的で、該最初の流体の異なる密度を有する溶液を前記最初の流体に加える工程をさらに含み、粒子は前記流体から分離させる予定である、請求項26に記載の方法。」 (5) 「【0011】 本発明は、板の表面部分に形成されかつ一体化分岐点または分岐フォークを有する微細技術チャネルと前記板の反対側の表面に密接して配置された超音波発生源とを含む、超音波、層流、及び定常波効果を使用して粒子を流体から分離するための装置及び方法を提供する。」 (6) 「【0019】 粒子の密度/音響インピーダンス、サイズ及び重量に依存して、粒子の蓄積の特定のパターンが形成されよう。これは、特定の重量及び/またはサイズを有する粒子を、様々な密度/音響インピーダンスを有するある範囲の粒子を含む媒質から分離して取り出す場合に、利益となる。一般に、周囲の流体の密度よりも高い密度を有する粒子は節において蓄積し、粒子を有しない流体よりも低い密度を有する粒子は腹において蓄積する。図1、6または8に示すように、2つの側方分岐またはアーム及び1つの中央分岐またはアーム140を有する分岐フォークを提供することで、前記粒子を分離して取り出すことが可能である。分岐点後のアームまたはチャネルを、好ましくは、波長、すなわち、波長の約3/8の中心-中心間距離に適合させた間隔をあけて配置する。 【0020】 共鳴条件に依存して(図7を与える)、上記の点の様々な結果が得られよう。単一節条件の場合、上記の点の結果は、基部ステム110の壁付近の流体の層は、流体が該ステム110に沿って分岐点175に向かって流れるにつれて濃度の減少する高密度粒子を含もうということである。前記分岐点175において、ステム110内の流体流れの中央部分から主として発する流体は、層流が理由となって、直進して移動を続け、中央アーム140に入ろう。ステム110の壁付近に現れる流体流れから発する流体は、(左の壁から)左アーム120へ及び(右の壁から)右アームへとそれよう。低濃度の高密度粒子を含む流体のフラクションを次に、左出口170及び右出口180で捕集することができる。高濃度の高密度粒子を含む流体のフラクションを、最上部出口190で捕集することができる。図9に、いかにして、多数の高密度粒子(周囲の流体よりも高い密度)が、中央出口91を有する中央区域またはチャネルにおいて蓄積するが、低濃度または濃度ゼロの前記粒子を有する流体は、横方向区域及び出口92から流出するかを示す。……」 (7) 「【0044】 本発明の具体例を使用して、栓球及び白血球を赤血球から分離することができ、というのはこれらは、表1で分かるように異なる密度を有するからである。血液は、血漿及び血液有形成分からなる。 【0045】 【表1】 [図:0001415618000001.jpg] 相対密度.出典:ガイギーの科学表(Geigy Scientific Table) 【0046】 他の解決法が可能であり、これは例えばヨウ素制御剤(iodine control agent)である。表1で分かるように、異なる成分は異なる密度を有する。密度の変動は、表の記載の場合には非常に小さい。通常の血液を分離すると、チャネルユニットは全ての血液有形成分を同じように分離しよう。というのはこれらの密度はこれらが懸濁している媒質、すなわち血漿よりも高いからである。 【0047】 他の具体例として、媒質を修正し(すなわち血漿を修正し)、それによってその密度を変更し、様々な血液細胞を分離する可能性を与える。これは、ある量のより高密度の液体を血漿に加え、それによって血漿をより低濃度に希釈するが、より高密度にすることで実現される。 【実施例】 【0048】 ヘマトクリット40%を有する100mlの血液を採取する。これによって、血液の60%(=60ml)が血漿であることになる。血漿は、密度1.0269を有する。式: 【0049】 【数1】 [図:0001415618000002.jpg] [式中、v1は第1の流体の体積であり; d1は第1の流体の密度であり; v2は第2の流体の体積であり; d2は第2の流体の密度であり; dtotは混合物の密度である。] に従って、本願発明者らが得た30mlの50%グルコース溶液を加えることで、混合媒質の密度は1.0746になる。 【0050】 この混合物が具体例中に入ると、栓球及び赤血球が別々の分岐に指向されるような分離が実現し、というのは今や栓球は媒質よりも軽いからである。 これはもちろん単なる1例である。また、白血球は赤血球及び栓球のうちの1つとは異なる比重量を有するので、白血球を分離して取り出すことが可能である。またこの方法を用いて、細菌及びウイルスを分離して取り出すことが可能なはずである。この方法は、溶液の密度を操作することが不可能かまたはさもなければ不適切な溶液以外の全ての溶液に使用できる。また細菌及び幹細胞をその培養物から分離して取り出し、適切な溶液中に懸濁させることが可能である。」 (8) 「図9 [図:0001415618000003.jpg] 」 2 引用文献1記載の発明の認定 上記1で示した引用文献1の記載をみると、チャネルユニットに流体を供給し、流れの最中に超音波の定常波場にさらして、粒子の不均一分配を有する層流を形成し、第1及び第2の分離された流れに分離させる工程を含む、超音波、層流、及び定常波効果を使用して粒子を流体から分離する方法(1の(1))において、粒子を含む流体として血液が挙げられること(1の(3))が記載されるとともに、具体的な適用例として、採取された血液に50%グルコース溶液を加えることで、媒質である血漿の密度を上昇させた流体の流れ(1の(7))を入口に供給して超音波の定常波場にさらした場合、図9に示されるように多数の高密度粒子が中央区域において蓄積し、低濃度または濃度ゼロの前記粒子を有する流体は、横方向区域及び出口から流出すること(1の(6)、(8))、また、栓球の密度は媒質よりも軽くなることから、栓球及び赤血球が別々の分岐に指向されるような分離が実現することが記載されている(1の(7))。 したがって、引用文献1には、次の発明(以下、「引用発明」という。)が記載されているものと認められる。 「血液中の栓球を赤血球から分離する方法であって、 採取された血液に、50%グルコース溶液を加えることで血漿を高密度の流体とすること、 チャネルユニットに前記流体を供給し、 前記流体の流れの最中に超音波の定常波場にさらし、それにより、赤血球が中央区域に蓄積し、栓球が横方向区域に蓄積し、栓球及び赤血球を別々の分岐に指向させて分離すること を含む方法。」 3 対比 (1) 本願発明と引用発明を対比する。 ア 引用発明の「血液」は、本願発明の「混合細胞を含む生物流体」に相当し、引用発明の「栓球」、「赤血球」は、いずれか一方が本願発明の「標的細胞」に相当し、他方が「非標的細胞」に相当する。また、引用発明の「分離」は本願発明の「収集」に相当する。 イ 引用発明(上記1の(7)のうち、特に段落0048、0049参照)の血液は採取後に50%グルコース溶液を加えられており、引用発明の方法がインビトロで行われるものであることも明らかであるから、引用発明における「血液中の栓球を赤血球から分離する方法」は、本願発明における「混合細胞を含む生物流体において標的細胞を非標的細胞から分離するインビトロの方法」に相当する。 ウ 引用発明の「50%グルコース溶液」は、高張液としてよく知られたものであり、高張液を用いた場合に細胞は水分が減り小さくなることも技術的に明らかである。そうすると、引用発明において媒質の密度を変更する「50%グルコース溶液」は、本願発明における「生物流体の張度を調節する溶液」である「添加剤」にも相当し、引用発明の「50%グルコース溶液を加えること」は、本願発明における「標的細胞のサイズ」又は「非標的細胞のサイズ」「を変化させること」に相当する。 エ 引用発明は血液中の栓球を赤血球から分離する方法に関し、かつ、引用文献1の【0036】に「チャネルのステム部分は幅700μmを有する。」と記載されるから、引用発明のチャネルユニットはマイクロスケールであることが理解できる。よって、引用発明における「チャネルユニット」は、本願発明における「マイクロ流体分離チャンネル」に相当し、引用発明における「チャネルユニットに前記流体を供給すること」は、本願発明における「前記前処理した生物流体をマイクロ流体分離チャンネルの流入口に流入させること」に相当する。 オ 引用発明における「中央区域」、「横方向区域」は、一方が本願発明において標的細胞が蓄積される「主流」、他方が本願発明において非標的細胞が蓄積される「副流」にあたるものといえる。 (2) そうすると、引用発明における「前記流体の流れの最中に超音波の定常波場にさらし、それにより、赤血球が中央区域に蓄積し、栓球が横方向区域に蓄積し、栓球及び赤血球を別々の分岐に指向させて分離すること」は、本願発明における「前記標的細胞が前記分離チャンネルに沿った少なくとも1つの主流内に蓄積し、前記非標的細胞が前記分離チャンネルに沿った少なくとも1つの副流内に蓄積するように前記マイクロ流体分離チャンネル内の前記前処理した生物流体に音響エネルギーを加えて前記標的細胞を前記非標的細胞から分離すること」に相当する。 4 結論 (1) 上記3で検討したように、本願発明と引用発明とは 「混合細胞を含む生物流体において標的細胞を非標的細胞から分離するインビトロの方法であって、 前記生物流体、前記標的細胞、または前記非標的細胞の少なくとも1つの特性を調整するために選択される少なくとも1つの添加剤の所定容量を前記生物流体に導入して前処理した生物流体を生成することにより、前記標的細胞のサイズ及び前記非標的細胞のサイズの少なくとも1つを変化させることと、 前記前処理した生物流体をマイクロ流体分離チャンネルの流入口に流入させることと、 前記標的細胞が前記分離チャンネルに沿った少なくとも1つの主流内に蓄積し、前記非標的細胞が前記分離チャンネルに沿った少なくとも1つの副流内に蓄積するように前記マイクロ流体分離チャンネル内の前記前処理した生物流体に音響エネルギーを加えて前記標的細胞を前記非標的細胞から分離することと、 前記標的細胞を含む前記少なくとも1つの主流、および前記非標的細胞を含む前記少なくとも1つの副流を収集すること、 前記添加剤を、前記生物流体の張度を調節する溶液から選択すること を含む、方法。」 である点で一致したものといえる。 以上述べたとおり、請求項1に係る発明は、引用文献1に記載された発明であるから、特許法第29条第1項第3号に該当し、特許を受けることができない。 (2) 仮に、上記3の(1)アで検討した「栓球」と「赤血球」の点について、「標的細胞」及び「非標的細胞」が一意に特定されていない点が相違点にあたると解した場合でも、相違点は「栓球」が「標的細胞」、「赤血球」が「非標的細胞」であるか、「栓球」が「非標的細胞」、「赤血球」が「標的細胞」であるかという選択肢が存在するという部分に過ぎないから、引用文献1に接した当業者であれば、必要とする細胞の種類に応じて、いずれか一方を「標的細胞」、もう一方を「非標的細胞」とすることは、適宜選択し得る程度のものといえる。 そして、上記3の(1)オで検討した「中央区域」と「横方向区域」についても、「標的細胞」と「非標的細胞」が決定されることで、「標的細胞」の流路にあたる部分が「主流」、「非標的細胞」の流路にあたる部分が「副流」に相当することが明らかである。 上述のとおり相違点があると解した場合であっても、請求項1に係る発明は、引用文献1に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。 5 請求人の主張について 請求人は、令和6年1月5日付け意見書において当審が通知した拒絶の理由に対して主張を行っている。本願発明に対する主張内容と、それに対する合議体の判断は次のとおりである。 (1) 請求人の主張 請求項1は、補正前の請求項2~3を組み込むことで、「前記標的細胞を含む前記少なくとも1つの主流、および前記非標的細胞を含む前記少なくとも1つの副流を収集すること」を規定した。また、引用文献1には、要約に「極めて薄い分割体は、流れを分離することができ、それによって本装置の有効性を高める」ことが記載され、分割体は開示しているものの、「標的細胞を含む1つの主流、および非標的細胞を含む少なくとも1つの副流」については言及しておらず、標的細胞および非標的細胞について言及していないため、補正後の請求項1の上記記載を教示することはできない。 (2) 主張に対する判断 請求人が主張する点に関し、引用発明における「中央区域」、「横方向区域」は、一方が本願発明において標的細胞が蓄積される「主流」、他方が本願発明において非標的細胞が蓄積される「副流」にあたるものといえるから(3の(1)オ)、採用することができない。 第5 むすび 以上のとおり、本願発明は特許法第29条第1項第3号に該当し、又は、同法第29条第2項の規定により特許を受けることができないから、本願は拒絶すべきものである。 よって、結論のとおり審決する。

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2022-004246

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