特許拒絶査定不服審判
2022-010019
ヘッドモジュール、インクジェット記録装置及びインクジェットヘッドの位置調整方法
- 審判番号
- 2022-010019
- 法域
- 特許
- 審判種別
- 拒絶査定不服審判(拒絶査定不服の審決)
- 出願番号
- 特願2018-050209
- 請求日
- 2022年06月29日
- 審決日
- 2023年07月24日
- 公報発行日
- 2023年08月25日
- 結論
- 原査定取消(特許/登録すべき)
- 当事者
- 【請求人】コニカミノルタ株式会社
- 【請求人代理人】丸山 英一
- 審判長/審判官
- 審判長 古屋野 浩志
- 審判官 藤本 義仁
- 審判官 佐藤 海
- 分類
- P18 .113-WYF(B41J) / P18 .121-WYF(B41J) / P18 .55 -WYF(B41J)
- 根拠条文(結論部分から自動抽出・参考)
- 特許法17条の2第3項特許法53条1項特許法159条1項
- 条文(本文から自動抽出・参考)
- 特許法第17条の2第3項
- データ出所
- 審決公報(XML)
事件の表示
特願2018- 50209「ヘッドモジュール、インクジェット記録装置及びインクジェットヘッドの位置調整方法」拒絶査定不服審判事件〔令和 1年 9月19日出願公開、特開2019-155880、請求項の数(11)〕について、次のとおり審決する。
結論
結 論
原査定を取り消す。
本願の発明は、特許すべきものとする。
理由
理 由
第1 手続の経緯
本願は、平成30年3月16日に出願された特許出願であって、令和3年11月29日付けで拒絶理由通知がされ、令和4年2月4日に意見書及び手続補正書が提出され、同年3月23日付けで拒絶査定(原査定)がされ、これに対し、同年6月29日に拒絶査定に対する不服審判請求がなされると同時に手続補正書が提出されたものである。
第2 令和4年6月29日に提出された手続補正書による補正(以下「本件補正」という。)についての補正却下の決定
[補正却下の決定の結論]
本件補正を却下する。
[理由]
1 補正の内容
本件補正は、特許請求の範囲を全文にわたって補正をするものであり、特許請求の範囲について、下記(1)に示す本件補正前の(すなわち、令和4年2月4日に提出された手続補正書により補正された)特許請求の範囲の請求項1乃至11を、下記(2)に示す本件補正後の特許請求の範囲の請求項1乃至9へと補正するものである。(下線は審決で付した。以下同じ。)
(1)本件補正前の特許請求の範囲
「【請求項1】
インクを吐出するインクジェットヘッドと、
前記インクジェットヘッドが取り付けられる取付部材とを備え、
前記インクジェットヘッドは、前記取付部材に対して押圧手段により押し付けられて該取付部材に取付けられており、前記押圧手段による押圧力を緩めることなく、前記押圧手段の押圧方向に交差する方向に位置調整機構により前記取付部材への取付け位置の調整が可能であって、前記押圧手段による押圧力を増大させることなく、インクジェット記録装置における使用において、前記取付部材への取付け位置が保持されることを特徴とするヘッドモジュール。
【請求項2】
前記押圧手段は、弾性体により構成され、該弾性体の反力により前記インクジェットヘッドを前記取付部材に対して一定の押し付け力で押し付けることを特徴とする請求項1記載のヘッドモジュール。
【請求項3】
前記押圧手段による前記インクジェットヘッドの前記取付部材への押し付け力は、前記位置調整機構による前記インクジェットヘッドの位置調整を阻害しない範囲の力であることを特徴とする請求項1又は2記載のヘッドモジュール。
【請求項4】
前記位置調整機構は、調整ネジを有し、該調整ネジが回されることによる軸方向への進退移動によって前記インクジェットヘッドの位置調整を行うことを特徴とする請求項1、2又は3記載のヘッドモジュール。
【請求項5】
前記インクジェットヘッドに、前記取付部材に向けて立設された基準ピンと、
前記取付部材に設けられ、前記基準ピンの側面部に接触することにより該基準ピンの位置決めを行う基準面と、
前記基準面に対し、前記基準ピンの側面部を押し当てる弾性部材とを備え、
前記位置調整機構は、前記基準ピンの軸回りの回転方向に前記インクジェットヘッドの位置を調整することを特徴とする請求項1~4の何れかに記載のヘッドモジュール。
【請求項6】
前記インクジェットヘッドは、加熱されたインクを吐出するインクジェットヘッドであって、
前記基準ピンを構成する材料の熱膨張率は、前記基準面を構成する材料の熱膨張率以上であることを特徴とする請求項5記載のヘッドモジュール。
【請求項7】
請求項1~6の何れかに記載のヘッドモジュールを備えたことを特徴とするインクジェット記録装置。
【請求項8】
清掃部材を前記インクジェットヘッドのインク吐出面に押圧させて該インク吐出面を清掃するヘッド清掃手段を備え、
前記清掃部材が前記インク吐出面を押圧する力は、前記押圧手段による前記インクジェットヘッドの前記取付部材への押し付け力よりも小さいことを特徴とする請求項7記載のインクジェット記録装置。
【請求項9】
インクを吐出するインクジェットヘッドを取付部材に載置し、
前記インクジェットヘッドを、前記取付部材に対して押圧手段により押し付け、
前記押圧手段による押圧力を緩めることなく、前記インクジェットヘッドに外力をかけて、前記押圧手段による押圧方向に交差する方向に該インクジェットヘッドを移動させ、該インクジェットヘッドの前記取付部材への取付け位置を調整し、この調整の後に前記押圧手段による押圧力を増大させることなく、位置調整完了とすることを特徴とするインクジェットヘッドの位置調整方法。
【請求項10】
前記外力は、前記取付部材に設けた調整ネジを回すことによる軸方向への進退移動によってかけることを特徴とする請求項9記載のインクジェットヘッドの位置調整方法。
【請求項11】
前記インクジェットヘッドの前記取付部材への取付け位置の調整は、前記調整ネジを所定の一方向に回転させた後に停止させることにより完了することを特徴とする請求項10の何れかに記載のインクジェットヘッドの位置調整方法。」
(2)本件補正後の特許請求の範囲
「【請求項1】
インクを吐出するインクジェットヘッドと、
弾性体により構成され、該弾性体の反力により前記インクジェットヘッドを取付部材に対して一定の押し付け力で押し付けて取り付ける押圧手段と、
前記インクジェットヘッドに前記押圧手段による押圧方向に交差する方向の外力をかけて前記インクジェットヘッドの位置を調整する位置調整機構とを備え、
前記押圧手段による押し付け力によって前記インクジェットヘッドに発生する最大静止摩擦力は、前記位置調整機構により前記インクジェットヘッドを前記押圧手段による押圧方向に交差する方向へ移動させる外力未満であって、前記インクジェットヘッドを備えたインクジェット記録装置の使用において発生する前記押圧方向に交差する方向の前記インクジェットヘッドの慣性力以上であることを特徴とするヘッドモジュール。
【請求項2】
前記位置調整機構は、調整ネジを有し、該調整ネジが回されることによる軸方向への進退移動によって前記インクジェットヘッドの位置調整を行うことを特徴とする請求項1記載のヘッドモジュール。
【請求項3】
前記インクジェットヘッドに、前記取付部材に向けて立設された基準ピンと、
前記取付部材に設けられ、前記基準ピンの側面部に接触することにより該基準ピンの位置決めを行う基準面と、
前記基準面に対し、前記基準ピンの側面部を押し当てる弾性部材とを備え、
前記位置調整機構は、前記基準ピンの軸回りの回転方向に前記インクジェットヘッドの位置を調整することを特徴とする請求項1又は2記載のヘッドモジュール。
【請求項4】
前記インクジェットヘッドは、加熱されたインクを吐出するインクジェットヘッドであって、
前記基準ピンを構成する材料の熱膨張率は、前記基準面を構成する材料の熱膨張率以上であることを特徴とする請求項3記載のヘッドモジュール。
【請求項5】
請求項1~4の何れかに記載のヘッドモジュールを備えたことを特徴とするインクジェット記録装置。
【請求項6】
清掃部材を前記インクジェットヘッドのインク吐出面に押圧させて該インク吐出面を清掃するヘッド清掃手段を備え、
前記清掃部材が前記インク吐出面を押圧する力は、前記押圧手段による前記インクジェットヘッドの前記取付部材への押し付け力よりも小さいことを特徴とする請求項6記載のインクジェット記録装置。
【請求項7】
インクを吐出するインクジェットヘッドを取付部材に載置し、
前記インクジェットヘッドを、前記取付部材に対して、弾性体の反力により一定の押し付け力で押し付ける押圧手段により押し付け、前記押圧手段による押し付け力によって前記インクジェットヘッドに発生する最大静止摩擦力を、前記インクジェットヘッドの前記取付部材への取付け位置の調整のために前記インクジェットヘッドにかける前記押圧手段による押圧方向に交差する方向の外力未満であって、前記インクジェットヘッドを備えたインクジェット記録装置の使用において発生する前記押圧方向に交差する方向の前記インクジェットヘッドの慣性力以上とし、
前記押圧手段による押し付け力を減少させることなく、位置調整機構により前記インクジェットヘッドに外力をかけて、前記押圧手段による押圧方向に交差する方向に該インクジェットヘッドを移動させ、該インクジェットヘッドの前記取付部材への取付け位置を調整し、この調整の後に前記押圧手段による押し付け力を増大させることなく、位置調整完了とすることを特徴とするインクジェットヘッドの位置調整方法。
【請求項8】
前記外力は、前記取付部材に設けた調整ネジを回すことによる軸方向への進退移動によってかけることを特徴とする請求項7記載のインクジェットヘッドの位置調整方法。
【請求項9】
前記インクジェットヘッドの前記取付部材への取付け位置の調整は、前記調整ネジを所定の一方向に回転させた後に停止させることにより完了することを特徴とする請求項8記載のインクジェットヘッドの位置調整方法。」(下線部は補正箇所であり、審決で付した。)
2 補正の適否(新規事項の追加について)
(1)補正事項
本件補正は、補正前の請求項1に記載された発明特定事項である「前記押圧手段による押圧力を緩めることなく、前記押圧手段の押圧方向に交差する方向に位置調整機構により前記取付部材への取付け位置の調整が可能であって、」との記載を、「前記押圧手段による押し付け力によって前記インクジェットヘッドに発生する最大静止摩擦力は、前記位置調整機構により前記インクジェットヘッドを前記押圧手段による押圧方向に交差する方向へ移動させる外力未満であって」へと補正すること(以下「補正事項1」という。)、及び、「前記押圧手段による押圧力を増大させることなく、インクジェット記録装置における使用において、前記取付部材への取付け位置が保持されること」との記載を、「前記インクジェットヘッドを備えたインクジェット記録装置の使用において発生する前記押圧方向に交差する方向の前記インクジェットヘッドの慣性力以上であること」へと補正すること(以下「補正事項2」という。)を含むものである。
(2)補正事項1について
ア 上記補正事項1に関連して、本願の願書に最初に添付された明細書、特許請求の範囲又は図面(以下、「当初明細書等」という。)には、以下の記載がある。
「【0046】
このヘッドモジュールにおいては、コイルバネ10を押さえる軸ネジ10a緩めることなく、インクジェットヘッド1の位置調整ができるので、ネジの締め込みによってインクジェットヘッド1を固定する従来の構成とは違い、ネジの座がインクジェットヘッド1に接触することによりネジの回転力が伝わってインクジェットヘッド1を回転(位置ずれ)させてしまう虞がない。また、このような回転(位置ずれ)を想定して、インクジェットヘッド1の位置を目標位置とは異なる位置に調整しておいて、ネジ締め後に目標位置となるように配慮する必要もない。そのため、このヘッドモジュールにおいては、インクジェットヘッド1の位置調整完了後に再調整する必要がなく、また、目標位置とは異なる位置に調整する必要もなく、インクジェットヘッド1の位置を容易かつ確実に安定に保つことができる。このようなインクジェットヘッド1の位置調整は、ヘッドモジュールの工場出荷前のみならず、ヘッドモジュールの使用中にインクジェットヘッド1が位置ずれした場合にも、前述した手順によって容易かつ確実に行うことができる。」
「【0051】
このように構成されたヘッドモジュールを用いて、インクジェット記録装置を構成することができる。インクジェット記録装置は、図14に示すように、インクジェットヘッド1を制御する制御装置30を備えている。制御装置30はまた、インクジェットヘッド1による印画位置に記録媒体を送る媒体送り機構33を制御する。記録媒体は、紙や合成樹脂、布帛等である。媒体送り機構33により送られた記録媒体は、印画位置を経て、媒体収納部34に収納される。」
イ 上記アより、当初明細書等には、「最大静止摩擦力」が、「前記位置調整機構により前記インクジェットヘッドを前記押圧手段による押圧方向に交差する方向へ移動させる外力未満」であることはもとより、「最大静止摩擦力」との記載もない。
ウ ここで、摩擦力とは、固体表面が互いに接しているとき、それらの間の相対運動を妨げる力であって、最大静止摩擦力Fは、F=μ(静止している物体と接している面との間の静止摩擦係数)*N(静止している物体が接している面を押す力と、反対向きに生じる垂直抗力)で算出できる。
エ そして、上記補正事項の「押圧手段」が、「弾性体により構成され、該弾性体の反力によりインクジェットヘッドを取付部材に対して一定の押し付け力で押し付けて取り付ける」ものであることから、「押圧手段による押し付け力によって前記インクジェットヘッドに発生する最大静止摩擦力」とは、インクジェットヘッドと取付部材との接触面において相互に働く力である。
オ そうすると、補正事項1における「最大静止摩擦力」とは、インクジェットヘッドと取付部材との間の静止摩擦係数と押圧手段による押し付け力により算出できるものであることからすると、「インクジェットヘッドを押圧手段による押圧方向に交差する方向へ移動させる外力」は、「最大静止摩擦力」に抗するように作用する力と理解できる。
カ そして、インクジェットヘッドを押圧方向に交差する方向への力であるところの外力が、最大静止摩擦力より大きければ、当然インクジェットヘッドは移動するし、外力が、最大静止摩擦係数より小さければ、移動しないことは、力学の知識を持ってすれば、容易に理解できることである。
キ ここで、上記補正事項1において、「最大静止摩擦力」を、「前記位置調整機構により前記インクジェットヘッドを前記押圧手段による押圧方向に交差する方向へ移動させる外力未満」との、「外力」を基準とした特定では、押圧手段による押し付け力が十分に発揮されない場合を含み得ることとなり、そのような「押圧手段による押し付け力」の場合は、当初明細書等には記載されていないし、自明の事項といえる理由もない。
ク 審判請求人は、「押圧手段による押し付け力を減少させることなく、インクジェットヘッドの位置調整ができる」ということである本件補正前の請求項3の「押圧手段による押し付け力が、位置調整機構によるインクジェットヘッドの位置調整を阻害しない」との記載及び段落【0046】の記載から、上記補正事項は、当業者には自明の事項である、と主張する。
ケ しかし、「押圧手段による押し付け力が十分に発揮されない場合」の「最大摩擦力」など観念できるものではない。
コ そして、当初明細書等には、「押圧手段による押し付け力が十分に発揮されない場合」につき、「最大摩擦係数」を特定することは記載も示唆もされていないし、自明の事項といえる理由もない。
サ そうすると、上記補正事項1は、当初明細書等から自明な事項や技術常識から導かれる事項でもないため、当初明細書等のすべての記載を総合することにより導かれる技術的事項との関係において、新たな技術的事項を導入するものである。
(3)補正事項2について
ア 上記補正事項2に関連して、当初明細書等には、以下の記載がある。
「【0025】
インクジェットヘッド1の取付部材2に対する位置調整は、図2、図5及び図6(a)に示すように、インクジェットヘッド1のインク吐出面3側に設けた2本の基準ピン(位置決めピン)5、6を、取付部材2に設けた2個の基準穴(位置決め穴)7、8に挿入することによって行う。2本の基準ピン5、6は、インク吐出面3の長手方向(吐出ノズルの配列方向)の両端側に1本ずつ設けられている。2個の基準穴7、8は、2本の基準ピンに対応する位置に設けられている。一方の基準穴7は丸穴であり、他方の基準穴8は、インク吐出面の長手方向が長軸となっている長穴である。
【0026】
一方の基準ピン5が一方の基準穴(丸穴)7に挿入され、この基準ピン5の側面部が、基準面となる基準穴7の所定方向の内周面に、図5及び図6中矢印Aで示す所定方向に押圧されることにより、この基準ピン5の、取付面内における位置は決定される。
【0027】
したがって、一方の基準穴7は、丸穴に限定されず、基準ピン5の側面が押接されることにより基準ピン5の軸の位置が決定される形状であればよく、図6(b)に示すように、押圧される基準ピン5の側面の2箇所に当接することになるV溝又は多角形穴などであってもよい。
【0028】
なお、インクジェットヘッド1が、加熱されたインクを吐出するインクジェットヘッドである場合には、基準ピン5を構成する材料の熱膨張率は、基準面を構成する取付部材2の材料の熱膨張率以上であることが好ましい。インクの加熱により基準ピン5及び基準面も加熱されたとき(使用状態)に、これら基準ピン5及び基準面間に隙間が生ずることを防止するためである。
【0029】
これら一方の基準ピン5及び一方の基準穴(丸穴)7によっては、図6中矢印θで示す基準ピン5の軸回りの回転方向の位置決めはなされない。一方の基準ピン5の軸回りの回転方向については、他方の基準ピン6が他方の基準穴(長穴)8に挿入されることによって位置決めされる。他方の基準ピン6の側面部が他方の基準穴(長穴)8の内周面に、図5及び図6中矢印Bで示す所定方向に押圧されることにより、一方の基準ピン5の軸回りの回転方向についての位置が決定される。
【0030】
図7は、前記取付部材(キャリッジ)の要部の斜視図である。
【0031】
取付部材2には、図7に示すように、基準面である基準穴7の所定方向の内周面に対し、一方の基準ピン5の側面部を押し当てる弾性部材となる板バネ9、9を設けることが好ましい。これら板バネ9、9は、取付部材2の所定位置に取付けられたインクジェットヘッド1の側面部を押圧して、一方の基準ピン5の側面部を基準面となる一方の基準穴7の所定方向の内周面に、図7中矢印Aで示す所定方向に押圧させ、また、他方の基準ピン6の側面部を他方の基準穴(長穴)8の内周面に、図7中矢印Bで示す所定方向に押圧させる。」
イ 上記アの記載によると、当初明細書等には、一方の基準ピン5は、一方の基準穴(丸穴)7に挿入されることにより、取付面内における位置は決定され、一方の基準ピン5の軸回りの回転方向については、他方の基準ピン6が他方の基準穴(長穴)8に挿入されることによって位置決めされ、他方の基準ピン6の側面部が他方の基準穴(長穴)8の内周面に、押圧されることにより、一方の基準ピン5の軸回りの回転方向についての位置が決定される、こと、すなわち、基準穴(丸穴)7及び他方の基準穴(長穴)8により、インクジェットヘッド1のインク吐出面3側に設けた基準ピン(位置決めピン)5の取付面内における位置及び軸周りの回転方向が決定され、他方の基準ピン6の一方の基準ピン5の軸回りの回転方向についての位置が決定されることが記載されている。
ウ そうすると、一方の基準ピン5及び他方の基準ピン6の位置が上記(イ)のとおり決定されるのであるから、一方の基準ピン5及び他方の基準ピン6の位置に伴ってインクジェットヘッドの押圧方向に交差する方向である移動方向への位置も位置決めされることとなる。
エ してみると、装置の使用においてインクジェットヘッドが取付部材から動かないのは、押圧手段による押し付け力によってインクジェットヘッドに発生する最大静止摩擦力のみならず、基準ピンと基準穴とを含む位置調整機構も寄与していることが理解できる。
オ しかし、上記のとおり、本願発明の「最大静止摩擦力」は「慣性力以上」であると、「慣性力」のみでしか特定されておらず、上記(ア)の実施例に記載された基準ピンと基準穴とを含む位置調整機構をもたないインクジェットヘッドモジュールを包含することとなる。
カ また、本願発明は、基準ピンと基準穴とを含む位置調整機構を持たないため、「位置調整機構」は、上記(ア)の実施例に記載された調整する対象である「基準ピンと基準穴とを含む位置調整機構」を排除したものとなる。
キ そして、当初明細書等には、基準ピンと基準穴とを含まない位置調整機構は記載も示唆もされていないし、自明の事項といえる理由もない。
ク そうすると、上記補正事項2は、当初明細書等から自明な事項や技術常識から導かれる事項でもないため、当初明細書等のすべての記載を総合することにより導かれる技術的事項との関係において、新たな技術的事項を導入するものである。
3 まとめ
以上のとおり、本件補正は、特許法第17条の2第3項に違反するものであるから、本件補正は、同法第159条第1項で読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下されるべきものである。
よって、上記補正却下の決定の結論のとおり決定する。
第3 本願発明について
本件補正は、上記第2のとおり却下されたので、本願の請求項1乃至11に係る発明は、令和4年2月4日の手続補正書の特許請求の範囲の請求項1乃至11に記載された事項により特定される、上記第2[理由]1(1)の【請求項1】乃至【請求項11】に記載のとおりのものである。
そして、本願については、原査定の拒絶理由を検討してもその理由によって拒絶すべきものとすることはできない。
また、他に本願を拒絶すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり審決する。
審決本文(J-PlatPat)
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2022-010019