2022-009640
脳卒中および関係する凝固性障害の処置のためのトロンビン阻害剤
- 審判番号
- 2022-009640
- 法域
- 特許
- 審判種別
- 拒絶査定不服審判(拒絶査定不服の審決)
- 出願番号
- 特願2019-531876外部サイト(J-PlatPat)へ移動します
- 請求日
- 2022年06月22日
- 審決日
- 2023年11月14日
- 公報発行日
- 2024年04月26日
- 結論
- 請求不成立
- 当事者
- 【請求人】ザ・ユニバーシティ・オブ・シドニー
- 【請求人代理人】弁理士法人三枝国際特許事務所
- 【請求人】ザ ハート リサーチ インスティテュート リミテッド
- 【請求人代理人】弁理士法人三枝国際特許事務所
- 【請求人】アイビーエムシー ― インスティテュート デ バイオロジア モレキュラー エ セルラー
- 【請求人代理人】弁理士法人三枝国際特許事務所
- 分類
- P18 .537-Z (C12N) / P18 .574-Z (C12N)
- 根拠条文(結論部分から自動抽出・参考)
- 特許法36条6項1号
- 条文(本文から自動抽出・参考)
- 特許法第36条第6項第1号、特許法第17条の2第5項、特許法第17条の2第5項第4号、特許法第17条の2第5項第2号、特許法第17条の2第5項第1号、特許法第17条の2第5項第3号
- データ出所
- 審決公報(XML)
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結論
理由
目次 ▾ 11項目
第1 手続の経緯
本願は、平成29年12月15日(パリ条約による優先権主張 平成28年12月16日(AU)オーストラリア)を国際出願日とする出願であって、その手続の経緯は以下のとおりである。
第2 令和4年6月22日にされた手続補正についての補正の却下の決定
[補正の却下の決定の結論]
令和4年6月22日にされた手続補正を却下する。
[理由]
1.本件補正について(補正の内容)
本件補正は、補正前(令和3年2月4日の手続補正書)の特許請求の範囲の請求項1の
「【請求項1】配列番号1bにおいて示されるアミノ酸配列ZXZYZXYZXXXを含むペプチドであって、Zは、D、E、Q、S及びPから選択されるアミノ酸であり、Xは任意のアミノ酸であり、少なくとも1つの残基は、硫酸化チロシン残基であり、トロンビンのエキソサイトIIに結合し、配列番号15において示されるアミノ酸配列DADYDDYDEEG又は配列番号13において示されるアミノ酸配列DGDYDEYDNDEを含むか、配列番号15において示されるアミノ酸配列DADYDDYDEEG又は配列番号13において示されるアミノ酸配列DGDYDEYDNDEのみからなる、ペプチド。」
から「トロンビンのエキソサイトIIに結合し、」という記載を削除し、
「【請求項1】配列番号1bにおいて示されるアミノ酸配列ZXZYZXYZXXXを含むペプチドであって、Zは、D、E、Q、S及びPから選択されるアミノ酸であり、Xは任意のアミノ酸であり、少なくとも1つの残基は、硫酸化チロシン残基であり、配列番号15において示されるアミノ酸配列DADYDDYDEEG又は配列番号13において示されるアミノ酸配列DGDYDEYDNDEを含むか、配列番号15において示されるアミノ酸配列DADYDDYDEEG又は配列番号13において示されるアミノ酸配列DGDYDEYDNDEのみからなる、ペプチド。」(下線部は補正箇所である。)
とする補正(以下、「補正事項1」という。)を含むものである。
2.補正の適否
まず、補正事項1の目的について検討する。
(1)「明瞭でない記載の釈明」について
補正事項1について、請求人は、令和4年6月22日に提出された審判請求書において「補正前の請求項1における「トロンビンのエキソサイトIIに結合し」との記載を削除しました。当該補正は、記載要件に基づき、不明瞭な記載の釈明をするためのものです。」と主張している。
しかし、本件補正前の特許請求の範囲の請求項1における「トロンビンのエキソサイトIIに結合し」という記載について、それ自体記載内容が明らかでないとも、同請求項の他の記載との関係において不合理を生じているともいえないし、「トロンビンのエキソサイトIIに結合し」との記載を削除することにより、請求項1に特定されるペプチドの本来の意味が明らかになったということもできない。
また、これまでの審査経緯において、「トロンビンのエキソサイトIIに結合」という記載が明りょうでないことを指摘した拒絶理由は通知されていない。なお、令和2年7月27日付けで通知した拒絶理由の理由2(特許法第36条第6項第1号)、理由3(同条第4項第1号)は、特許請求の範囲に記載された「トロンビンのエキソサイトIIに結合」することについて、実施例がなく、発明の詳細な説明の記載が不足していることに基づいてサポート要件及び実施可能要件が満たされないことを指摘したものであって、明りょうでないことを指摘したものではない。
したがって、請求人の上記主張は採用できず、当該補正が「明りょうでない記載の釈明(拒絶理由通知に係る拒絶の理由に示す事項についてするものに限る。)」(特許法第17条の2第5項第4号)を目的とするものとは認められない。
(2)「特許請求の範囲の減縮」について
補正事項1は補正前の「トロンビンのエキソサイトIIに結合し」という発明特定事項を削除するものであるから、補正事項1は「特許請求の範囲の減縮」(特許法第17条の2第5項第2号)を目的とするものに該当しない。
(3)「請求項の削除」あるいは「誤記の訂正」について
補正事項1が「請求項の削除」(特許法第17条の2第5項第1号)あるいは「誤記の訂正」(特許法第17条の2第5項第3号)を目的とするものに該当しないことは明らかである。
(4)小括
上記(1)~(3)のとおり、補正事項1は、特許法第17条の2第5項に掲げるいずれの事項を目的とするものとも認められない。
3.むすび
以上のとおりであるから、本件補正は、特許法第17条の2第5項に規定する要件に違反するものであり、同法第159条第1項で読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下されるべきものである。
第3 特許請求の範囲の記載について
令和4年6月22日にされた手続補正は上記のとおり、却下されたので、本願の特許請求の範囲は、令和3年2月4日付け手続補正書の特許請求の範囲であり、このうちの請求項1は、以下のとおりのものである。
「【請求項1】配列番号1bにおいて示されるアミノ酸配列ZXZYZXYZXXXを含むペプチドであって、Zは、D、E、Q、S及びPから選択されるアミノ酸であり、Xは任意のアミノ酸であり、少なくとも1つの残基は、硫酸化チロシン残基であり、トロンビンのエキソサイトIIに結合し、配列番号15において示されるアミノ酸配列DADYDDYDEEG又は配列番号13において示されるアミノ酸配列DGDYDEYDNDEを含むか、配列番号15において示されるアミノ酸配列DADYDDYDEEG又は配列番号13において示されるアミノ酸配列DGDYDEYDNDEのみからなる、ペプチド。」
第4 原査定における拒絶の理由
令和4年2月9日付けの拒絶査定は、請求項1において構造が特定されたペプチドが、請求項1に記載された「トロンビンのエキソサイトIIに結合し」という機能、性質を有することについて、発明の詳細な説明には、実施例等の記載がなく、本願出願時の技術常識を考慮しても、当業者が理解できる程度に記載されていないから、本願は特許法第36条第6項第1号に規定する要件(サポート要件)を満たしていない、という理由(理由2(あ))を含むものである。
第5 当審の判断
1.発明の詳細な説明の記載事項
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本願の発明の詳細な説明には、次の事項が記載されている。
(1) 背景技術
「【0003】虚血性脳卒中は、脳循環内での血餅または塞栓の発生によって引き起こされ、世界的には3番目に多い死因である(World Health Organization,2014)。脳卒中イベントは、さらに、世界中で、能力障害になってしまう主な原因になっており、時間がかかり、多資源投入型で、かつ費用のかかるリハビリテーションプログラムに関連する(World Health Organization,2014)。【0004】現在、虚血性の脳の迅速な再灌流を促進し、それによって脳卒中イベントを最小限にする脳卒中のための唯一の承認されている薬理学的療法は、血栓溶解剤である組換え組織プラスミノーゲン活性化因子(tPA)の静脈内(i.v.)送達である。tPAは、プラスミノーゲンを活性化してプラスミンにし、プラスミンは、続いて、フィブリンおよび他の血餅関連タンパク質を分解し、それによって、冒された血管を通る血流を改善する(Wardlaw JM,et al.,2012)。続きを表示(全14行)【0005】臨床での使用が広く普及しているにもかかわらず、tPAベースの療法は、効能および適用の両方において多くの限界を有する。tPA療法後に動脈が完全に再疎通する患者は、わずか20~30%であり、これらの患者のうちの20~30%は、再閉塞を経験するであろうということが特に懸念されている(Alexandrov AV,Grotta JC.,2002;Rubiera M,et al.,2005)。この問題は、tPAによって誘導されるプラスミンが血餅中のフィブリンを分解するものの、フィブリノーゲンのフィブリンへの切断のための活性を保持する血餅関連トロンビンから生じると考えられる。【0006】さらなる懸念は、tPA療法に関連する頭蓋内出血(ICH)の発生率の増加が観察されていることであり、これは、血栓溶解療法のために与えられるtPAの用量を事実上制限する(Molina CA,Saver JL.,2005)。【0007】tPA療法の深刻な限界は、改善された血栓溶解療法の開発への新たな関心の引き金となった。【0008】トロンビンは、主に不溶性のフィブリンの産生を介した血餅形成において中心的な役割を果たす。そのため、トロンビン阻害剤は、tPAと共に補助療法として使用するための有望な候補として現れた。【0009】現在までに、間接トロンビン阻害剤であるヘパリン(Von Kummer R 2004;Jang I-K 1999)ならびに直接トロンビン阻害剤(DTI)であるヒルジン(Karabiyikoglu M 2004)およびアルガトロバン(Barreto AD 2012)が調査された。血管再疎通における全体的な改善が観察された一方、出血および徴候的なICHの危険性が、これらの共同療法により増加した。」
(2) 発明が解決しようとする課題
「【0010】虚血性脳卒中の予後を改善するために使用することができるトロンビン阻害剤が必要とされる。【0011】虚血性脳卒中の予後を改善するためにtPAと共に使用することができるトロンビン阻害剤もまた、必要とされる。【0012】他の血栓形成性疾患または凝固性障害を改善するために使用することができるトロンビン阻害剤もまた、必要とされる。」
(3) 発明を実施するための形態
「【0042】本発明は、特に、凝固カスケードの内因性構成成分のトロンビンのエキソサイトIIへの結合の阻害に関する。トロンビンエキソサイトIIに結合し、かつこれらの構成成分のうちのいくつかを競合的に阻害するペプチドが、本明細書において開示される。【0043】これらのペプチド阻害剤は、血餅関連トロンビンによるフィブリン形成を阻害するために利用されてもよく、それによって、tPA療法に関連する再疎通に関する問題のうちのいくつかを扱うことが提唱される。ペプチド阻害剤はまた、トロンビン活性部位またはトロンビンエキソサイトIに結合し、かつその機能をブロックする他のペプチドの結合親和性および/または機能を修飾するために使用されてもよい。続きを表示(全103行)【0044】A.定義「トロンビン」は、フィブリノーゲンのフィブリンへの変換を通して止血において中心的な役割を有するセリンプロテアーゼである。・・・【0046】「トロンビンエキソサイトII」(「ヘパリン結合エキソサイト」としても知られている)は、基質および補因子、特にフィブリノーゲン、Gp1bα、およびヘパリンの結合に影響を及ぼす、正に荷電している認識表面である。トロンビンエキソサイトIIは、残基R93、R101、R126、K236、K240、およびR233を含んでいてもよい。・・・【0054】B.エキソサイトII阻害剤一実施形態では、配列番号1aにおいて示されるアミノ酸配列PXYXXXZZPXYZZZを含むまたはそれからなるペプチドであって、Zは、DまたはEであり、Xは、任意のアミノ酸である、ペプチドが提供される。【0055】ペプチドは、配列番号2(PBYXXGZZPXYZZZ ZはD/Eであり、BはK/R/Hであり、Xは任意のアミノ酸である。)配列番号3(PQYJXGZZPOYZZZ ZはD/Eであり、JはA/T/SまたはGであり、OはSまたはTであり、Xは任意のアミノ酸である。)配列番号4(PQYAXGZZPOYZZZ ZはD/Eであり、OはS/Tであり、Xは任意のアミノ酸である。)配列番号5(PQYAXGZZPOYZZZXXXXZXX ZはD/Eであり、OはS/Tであり、Xは任意のアミノ酸である。)配列番号6(PQYAXGZZPOYZZZ(D/T)(D/G/F)(D/A)(S/D/E)(D/E)(K/P/S)(L/V) ZはD/Eであり、OはS/Tであり、Xは任意のアミノ酸である。)配列番号7(PQYAXGZZPOYZZZDDDDD(K/P/S)(L/V) ZはD/Eであり、OはS/Tであり、Xは任意のアミノ酸である。)配列番号8(PQYAXGZZPOYZZZDDDEE(K/P/S)(L/V) ZはD/Eであり、OはS/Tであり、Xは任意のアミノ酸である。)配列番号8a(PQYAPGDEPSYDED)配列番号8b(PQYAPGEEPSYDED)配列番号8c(PQYTHGEEPEYDED)配列番号8d(PQYAQGEEPTYDED)配列番号8e(PQYARGDVPTYDEE)において示される配列を有していてもよい。【0056】別の実施形態では、配列番号1bにおいて示されるアミノ酸配列ZXZYZXYZXXXを含むまたはそれからなるペプチドであって、Zは、D、E、Q、S、またはPであり、Xは、任意のアミノ酸である、ペプチドが提供される。【0057】ペプチドは、配列番号12(DADYDEYEEDG)配列番号13(DGDYDEYDNDE)配列番号14(QGDYDEYDQDE)配列番号15(DADYDDYDEEG)配列番号16(DVSYDEYEDNG)配列番号17(QDDYDEYDADE)配列番号18(ETDYDEYEENE)配列番号19(ESDYDTYPDDN)配列番号20(DDEYDMYESDG)配列番号21(ETSYEEYPDDS)配列番号22(ESDYDTYPDDN)配列番号23(ERDDEDYDNSN)配列番号24(ZXZYZZYZZZZ ZはD/Eであり、XはT/M/E/S/D/G/N/Pである)配列番号25 ZSZYZTYPDDN ZはD/Eである)配列番号26 ZDZYZMYESDG ZはD/Eである)配列番号27 ZTSYZEYPDDS ZはD/Eである)配列番号28 ZSZYZTYPDDN ZはD/Eである)において示される配列を有していてもよい。・・・【0060】ペプチドは、血餅関連フィブリン、好ましくはフィブリノーゲンγ’のトロンビンのエキソサイトIIへの結合を競合的に阻害してもよい。ペプチドは、フィブリノーゲンγ’よりトロンビンのエキソサイトIIに対して高い親和性を有していてもよい。これは、ペプチドが、tPA血栓溶解療法の対象において、血餅から血餅関連トロンビンを表面に(ostensibly)溶出させ、それによって、そうでなければtPA療法に関連する再疎通の低下の発生率を最小限にするのを可能にすると思われる。・・・【0073】上記に記載されるように、虚血性脳卒中のためのtPA療法を受ける患者の少なくとも20~30%は、tPA療法後に動脈が完全に再疎通し、これらのうち、20~30%は、再閉塞を経験するであろう。これは、tPA療法により、エキソサイトIIを介して血餅に結合していると理解されている、血餅に閉じ込められたトロンビンが現れる場合に生じ、トロンビンの活性部位がフィブリノーゲンおよびフィブリノペプチドを切断して、血餅を増幅し、構築するのを可能にすると考える人もいる。本明細書において記載されるエキソサイトII阻害剤は、フィブリン血餅からの血餅関連トロンビンの溶出を可能にし、それによって、そうでなければフィブリン産生および血餅拡大を引き起こすと思われる血餅のトロンビンの量を最小限にするために、tPA療法を受けている個人に対して提供される。・・・【0077】C.トロンビン阻害剤さらなる実施形態では、本発明は、トロンビン活性の新規な阻害剤、特に、トロンビンによるフィブリノーゲンまたはフィブリノペプチドの切断を予防するまたは少なくとも最小限にする阻害剤の設計、修飾、および/または産生のための、本明細書において開示されるエキソサイトII結合ペプチドの利用に関する。これらのエキソサイトII結合ペプチドは、トロンビン活性部位へのおよび/またはエキソサイトIへの結合について改善された親和性を有する阻害剤を提供してもよい。【0078】トロンビン阻害剤は、式1:A-Bによって説明されてもよく、Aは、配列番号1aまたは配列番号1bにおいて示され、上記に概論的に記載される配列を有するエキソサイトII結合ペプチドであり;Bは、トロンビン活性部位がフィブリノーゲンを切断してフィブリンを形成するのを予防するためにトロンビン活性部位に結合するための配列番号10a~10jの1つにおいて示される配列を有するペプチドであり;AおよびBは、Bがトロンビン活性部位に結合した場合に、AがトロンビンのエキソサイトIIに結合するのを可能にするように連結されている。・・・【0080】さらなる実施形態では、トロンビン阻害剤は、式2:A-B-Cによって説明されてもよく、Aは、配列番号1aまたは配列番号1bにおいて示され、上記に概論的に記載される配列を有するエキソサイトII結合性ペプチドであり;Bは、トロンビン活性部位がフィブリノーゲンを切断してフィブリンを形成するのを予防するためにトロンビン活性部位に結合するための配列番号10a~10jの1つにおいて示される配列を有するペプチドであり;Cは、トロンビンのエキソサイトIに結合するための配列番号11a~11cの1つにおいて示される配列を有するペプチドであり;A、B、およびCは、Bがトロンビン活性部位に結合し、CがトロンビンのエキソサイトIに結合した場合に、AがトロンビンのエキソサイトIIに結合するのを可能にするように連結されている。・・・【0082】さらなる実施形態では、トロンビン阻害剤は、式3:A-C-Bによって説明されてもよく、Aは、配列番号1aまたは配列番号1bにおいて示され、上記に概論的に記載される配列を有するエキソサイトII結合ペプチドであり;Bは、トロンビン活性部位がフィブリノーゲンを切断してフィブリンを形成するのを予防するためにトロンビン活性部位に結合するための配列番号10a~10jの1つにおいて示される配列を有するペプチドであり;Cは、トロンビンのエキソサイトIに結合するための配列番号11a~11cの1つにおいて示される配列を有するペプチドであり;A、B、およびCは、Bがトロンビン活性部位に結合し、CがトロンビンのエキソサイトIに結合した場合に、AがトロンビンのエキソサイトIIに結合するのを可能にするように連結されている。・・・【0084】さらなる実施形態では、トロンビン阻害剤は、式4:B-A-Cによって説明されてもよく、Aは、配列番号1aまたは配列番号1bにおいて示され、上記に概論的に記載される配列を有するエキソサイトII結合ペプチドであり;Bは、トロンビン活性部位がフィブリノーゲンを切断してフィブリンを形成するのを予防するためにトロンビン活性部位に結合するための配列番号10a~10jの1つにおいて示される配列を有するペプチドであり;Cは、トロンビンのエキソサイトIに結合するための配列番号11a~11cの1つにおいて示される配列を有するペプチドであり;A、B、およびCは、Bがトロンビン活性部位に結合し、CがトロンビンのエキソサイトIに結合した場合に、AがトロンビンのエキソサイトIIに結合するのを可能にするように連結されている。」
(4) 実施例
「【0107】実施例2-式2のトロンビン阻害剤(AAa)の合成・・・【0110】続きを表示(全15行)二硫酸AAaのワンポット合成についての一般的な手順【化5】[図:0001408337000001.jpg]【0112】実施例3-ヒルジンと比較したAAaの凝固時間および出血時間本発明者らは、インビトロ活性化部分トロンボプラスチン時間(APTT)アッセイにおける凝固時間を延長する実施例2(AAa)の阻害剤の能力を調査した(図1A)。これらの研究は、ヒルジンが、2μg/mLを上回る濃度で凝固時間において8倍の増加を示した一方、AAa(5.7倍)は、より安全な凝固時間の範囲内にとどまったことを実証した。【0113】本発明者らは、そのうえ、AAaが、インビボ針損傷モデルにおいてヒルジンと非常に類似する抗血栓活性を持つ一方(図1B)、AAaは、尾出血インビボモデルにおいて3倍少ない出血を示す(図1C)ことを示した。AAaが、血栓からフィブリンを除去することにおいてヒルジンと同様に有効である一方(図1D)、AAaは、血小板を除去することにおいてそれほど有効でないように思われる(ヒルジンおよびAAaの共焦点画像についての図1Eを参照)。フィブリンおよび血小板に対するこの効果の差は、予想外であり、AAaで観察された出血における著しい減少について部分的に説明するものかもしれない。【0114】実施例4-AAaの硫酸化形態によるトロンビンの阻害本発明者らは、図2aにおいて示されるように、硫酸化されたペプチドが、約6pM未満、たとえば3.0pM未満のKiでトロンビンを阻害することを実証する。さらに、これらのペプチドおよびタンパク質の二重に硫酸化された変異体は、硫酸化されていない対応物より、インビトロにおけるヒトトロンビンの阻害剤として、2桁超、強力である。」
2.判断
(1)本願発明が解決しようとする課題
本願の発明の詳細な説明の「発明が解決しようとする課題」に記載されているように、本願発明が解決しようとする課題は「虚血性脳卒中の予後等を改善するために使用することができるトロンビン阻害剤」を提供すること(上記1(2)【0010】)であると認められる。
ここで、本願の発明の詳細な説明には、「背景技術」として虚血性脳卒中に対してtPAベースの療法を用いた際、tPAによって誘導されるプラスミンが血餅中のフィブリンを分解するものの、フィブリノーゲンのフィブリンへの切断のための活性を保持する血餅関連トロンビンから生じると考えられる再閉塞の問題があること、トロンビンは主に不溶性のフィブリンの産生を介した血餅形成において中心的な役割を果たし、トロンビン阻害剤がtPAと共に補助療法として使用するための有望な候補であること(上記1(1)【0005】、【0008】)が記載され、「発明を実施する形態」には、まず、本発明が凝固カスケードの内因性構成成分のトロンビンのエキソサイトIIへの結合に関するものであること(上記1(3)【0042】)が記載され、「トロンビンエキソサイトII」がヘパリン結合サイトとしても知られるフィブリノーゲン、GpIbα、ヘパリン等の基質および補因子の結合に影響を与える正に荷電している認識表面であること(上記1(3)【0046】)が定義され、「エキソサイトII阻害剤」の欄には、エキソサイトII阻害剤であるペプチドがtPA血栓溶解療法の対象において、血餅から血餅関連トロンビンを表面に溶出させ、tPA療法に関連する再疎通の低下の発生率を最小限にするのを可能にすること(上記1(3)【0060】、【0073】)が記載されている。
そうすると、本願発明のペプチドが「虚血性脳卒中の予後等を改善するために使用することができるトロンビン阻害剤」たり得るためには、当該ペプチドが「トロンビンのエキソサイトIIに結合」する「エキソサイトII阻害剤」であることにより、トロンビンのエキソサイトIIへのフィブリノーゲン等の結合に影響を与えることが前提になっているものと認められる。
(2)サポート要件の判断
特許請求の範囲の請求項1の記載は、上記第3のとおりのものであるところ、ペプチドの構造に関する発明特定事項を整理すると、「配列番号15において示されるアミノ酸配列DADYDDYDEEG」及び「配列番号13において示されるアミノ酸配列DGDYDEYDNDE」は、いずれも、「配列番号1bにおいて示されるアミノ酸配列ZXZYZXYZXXXを含むペプチドであって、Zは、D、E、Q、S及びPから選択されるアミノ酸であり、Xは任意のアミノ酸であり」を満たすものである。よって、請求項1に記載された「ペプチド」は「配列番号15において示されるアミノ酸配列DADYDDYDEEG又は配列番号13において示されるアミノ酸配列DGDYDEYDNDE」を必須の構造とするものである。
このような請求項1の記載と、上記(1)で認定した課題とを併せみれば、請求項1に記載された発明が、サポート要件を満たすためには、「少なくとも1つの残基は、硫酸化チロシン残基であり」、「配列番号15において示されるアミノ酸配列DADYDDYDEEG又は配列番号13において示されるアミノ酸配列DGDYDEYDNDE」からなる「ペプチド」(以下、単に「請求項1記載の構造のペプチド」という。)が、「トロンビンのエキソサイトIIに結合し」という発明特定事項を満たし、その結果、トロンビンを阻害することを、当業者が、発明の詳細な説明の記載及び本願出願時の技術常識に基づいて認識できることが必要である。
以下、この観点から検討する。
本願の発明の詳細な説明には「エキソサイトII阻害剤」として、配列番号1aにおいて示されるアミノ酸配列が挙げられること、他の実施形態として配列番号1bにおいて示されるアミノ酸配列や配列番号13、15が挙げられることが一応記載されている(上記1(3)【0054】~【0057】)。
しかしながら、発明の詳細な説明の当該記載は、実施例等具体的データを伴うものではなく、配列中のどの構造がトロンビンのエキソサイトIIに結合するのかなど、その機序について説明されていない。そして、配列番号1a、1bや配列番号13、15がどのような根拠に基づいてエキソサイトIIに結合するものと同定されたのかについても一切説明がされていない。ペプチドの配列からその機能や作用を予想することは困難であることが本願出願時の当業者にとって技術常識であったことを考慮すると、発明の詳細な説明に記載された配列の情報から配列番号1a、1bや配列番号13、15のペプチドがエキソサイトIIに結合することを当業者が認識することができたものとは認められない。
また、本願の実施例に記載されたペプチドは配列番号1aに包含される配列番号8aを含む化合物AAaのみであり(上記1(4)実施例2~4)、配列番号1bに包含される請求項1記載の構造のペプチドがエキソサイトIIに結合することについて実験による確認は行われていない。
そして、配列番号1aと1bでは、アミノ酸配列が異なっており、共通のモチーフ等も見いだせないうえ、明細書の記載から配列番号1aと1bの構造や機能の類似性について当業者は把握することができないから、実施例に記載された配列番号1aに包含されるペプチドを用いた場合の実験結果と同様の結果が配列番号1bに包含される請求項1記載の構造のペプチドを用いる場合でも得られるものと類推できる合理的理由は認められない。
なお、本願優先日後に公開された出願人による学術論文である参考文献A(Thompsom R.E. et al, Tyrosine sulfation modulates activity of tick-derived thrombin inhibitors, NATURE CHEMISTRY, 2017, Vol.9, pp.909-917)のFig.6cには、本願の実施例で配列番号1aに包含されるペプチドとして記載されたAAa(アノフェリン)(参考文献AのFig.6cの(iii))と、配列番号1bに包含される配列を有するマダニン-1(参考文献AのFig.6cの(i))ではトロンビンとの結合様式が異なることが記載されており、このことも上記判断と矛盾しないものである。
したがって、請求項1記載の構造のペプチドが、「トロンビンのエキソサイトIIに結合し」という発明特定事項を満たし、その結果、トロンビンを阻害することを、当業者が、発明の詳細な説明の記載及び本願出願時の技術常識に基づいて認識できるとは認められない。
(3)審判請求人の主張について
審判請求人は、令和4年6月22日付け審判請求書において次のア及びイのデータを示して、これらは明細書に記載されたペプチドの結合特性を示す証拠データであるから、本願はサポート要件を満たす旨主張する。
ア 配列番号15(MadL1 30~61)または13(MadL2 32~60)のアミノ酸配列を有する例示的なペプチドのエキソサイトII結合特性
[図:0001408337000002.jpg]
イ Y32およびY35で硫酸化された合成マダニン-1(残基22-54)フラグメント(配列番号15に由来するアミノ酸配列)がエキソサイトIIに結合することを示す構造X線結晶学由来のデータ
[図:0001408337000003.jpg]
しかしながら、上記(2)のとおり、本願の発明の詳細な説明には、請求項1記載の構造のペプチドがトロンビンのエキソサイトIIに結合することが実質的には開示されていないから、審判請求書で提示された上記データは発明の詳細な説明の記載に基づくものとは認められず、参酌することはできない。
また、仮に当該データを参酌するとした場合であっても、審判請求書で示された上記データは上記アについてはMadL1、MadL2という特定のペプチドに関するもののみであり、上記イについてはY32およびY35で硫酸化された合成マダニン-1(残基22-54)フラグメントに関するもののみであって、それら少数のデータが、広範な構造を包含する請求項1記載の構造のペプチドの全体の結合特性や立体構造を裏付けるものと認めることはできない。
さらに、念のためにデータの内容を検討すると、上記アについては、MadL1及びMadL2のうち請求項1記載の構造のペプチド部分はわずか6分の1程度に過ぎず(それぞれ、61アミノ酸長のうちの30~40位、60アミノ酸長のうちの29~39位が請求項1記載の構造のペプチドである。)、しかも、MadL1及びMadL2は請求項1記載の構造のペプチド以外の部分が一定程度の類似性を有するものである。このような構造のMadL1及びMadL2がトロンビンのエキソサイトII結合性を示すとしても、当該結合性には、請求項1記載の構造のペプチド以外の部分が関与している可能性が高く、何らの実証や合理的な説明がされていないアからは、当該結合性が請求項1記載の構造のペプチド部分が示す機能であると認めることはできない。
また、参考文献AのFig.1a、Fig.5a、5cには上記イのデータと全く同じ図面が記載されており、参考文献AのFig.6aに記載された配列の上から1番目から7番目の配列の29位~39位の配列は本願発明における配列番号12~18に対応している。上記イのデータの[b]、[c]に対応する参考文献AのFig.5a、5cについて、Fig.5のキャプションにはMadanin-1がヒトα-トロンビンのエキソサイトIIに結合する様子を示したものであることが記載されており、Fig.5cに緑色で付されたアミノ酸配列の番号は31位がD、32位がY、33位がD、35位がY、36位がE、39位がGとなっているから、Fig.6aの配列と照らし合わせると、Fig.5cにおいてヒト-α-トロンビンのエキソサイトIIに結合している配列はFig.6aの最も上に記載されたMadanin-1の配列であることが読み取れる。
そうすると、上記イのデータは本願発明における配列番号12を含むMadanin-1がヒト-αトロンビンのエキソサイトIIに結合する様子を示したものであると理解され、請求人が主張するように配列番号15を含むアミノ酸配列がヒト-αトロンビンのエキソサイトIIに結合することが上記イのデータに示されているものとは認められない。そして、配列番号12と配列番号15とは、11アミノ酸中3アミノ酸もが異なるものであるのだから、上記イのデータが配列番号15を包含するアミノ酸配列のペプチドの立体構造を示すに等しいということもできない。
したがって、審判請求書で提示された上記ア、イのデータを参酌するとした場合であっても、請求項1記載の構造のペプチドがトロンビンのエキソサイトIIに対して結合することが本願の発明の詳細な説明の記載によりサポートされているとはいえない。
以上のことから、審判請求人の上記主張は採用できない。
(4)小括
このとおり、請求項1記載の構造のペプチドが「トロンビンのエキソサイトIIに結合し」という発明特定事項を満たし、その結果、トロンビンを阻害することを、当業者が、発明の詳細な説明の記載及び本願出願時の技術常識に基づいて認識できるということはできないのであるから、本願請求項1に記載された発明はその課題を解決することが発明の詳細な説明に記載されたものとはいえず、本願は特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない。
第6 むすび
以上のとおり、本願は、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていないから、拒絶すべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
審決本文(J-PlatPat)
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2022-009640