2022-009533
表示装置形成用基板、表示装置および表示装置の製造方法
- 審判番号
- 2022-009533
- 法域
- 特許
- 審判種別
- 拒絶査定不服審判(拒絶査定不服の審決)
- 出願番号
- 特願2017-068385外部サイト(J-PlatPat)へ移動します
- 請求日
- 2022年06月21日
- 審決日
- 2023年06月07日
- 公報発行日
- 2023年08月25日
- 結論
- 請求不成立
- 分類
- P18 .575-Z (G09F) / P18 .121-Z (G09F)
- 条文(本文から自動抽出・参考)
- 特許法第17条の2第5項、特許法第29条、特許法第17条の2第6項
- データ出所
- 審決公報(XML)
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結論
理由
目次 ▾ 11項目
第1 手続の経緯
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本願は、平成29年(2017年)3月30日の特許出願であって、その手続の経緯の概略は、次のとおりである。
同年 4月19日 :意見書、手続補正書の提出
同年 9月14日付け:拒絶理由通知書(最後)
(同月29日 :原査定の謄本の送達)
同年 6月21日 :審判請求書、手続補正書の提出
第2 令和4年6月21日にされた手続補正についての補正の却下の決定
[補正の却下の決定の結論]
令和4年6月21日にされた手続補正を却下する。
[補正の却下の決定の理由]
1 本件補正の内容
令和4年6月21日にされた特許請求の範囲についての補正(以下「本件補正」という。)は、次の(1)に示す本件補正前の特許請求の範囲の記載を、後記の(2)に示す本件補正後の特許請求の範囲の記載に補正することを含むものである。下線は補正箇所を示す。
(1) 本件補正前の特許請求の範囲
「【請求項1】表示装置を形成するための表示装置形成用基板であって、ガラス基材と、前記ガラス基材上に積層され、レーザー光を吸収することにより分解される剥離層と、続きを表示(全63行)前記剥離層上に積層され、前記剥離層を透過した前記レーザー光を反射可能な金属層とを備え、前記金属層は、応力緩和機能を有し、前記金属層は、クロム合金、ニッケル合金、モリブデン合金、チタン合金、アルミニウム合金、銀合金、パラジウム合金、銅合金およびタングステン合金のうち少なくとも1つの合金を含み、前記表示装置形成用基板の反り量が0.3mm以下であることを特徴とする表示装置形成用基板。【請求項2】前記金属層は、ガスバリア機能を有し、前記金属層は、水蒸気透過率が、40℃、100%Rhの条件において、1.0×10-4cc/m2/day/atm以上1.0cc/m2/day/atm以下であることを特徴とする請求項1に記載の表示装置形成用基板。【請求項3】前記金属層は、電磁波遮蔽機能を有し、前記金属層は、面抵抗率が1Ω/□以上3000Ω/□以下であることを特徴とする請求項1または2に記載の表示装置形成用基板。【請求項4】前記金属層は、放熱機能を有し、前記金属層は、熱伝導率が200W/m・K以上であることを特徴とする請求項1乃至3のいずれか一項に記載の表示装置形成用基板。【請求項5】前記金属層の厚みは、10nm以上1000nm以下であることを特徴とする請求項1乃至4のいずれか一項に記載の表示装置形成用基板。【請求項6】支持基材と、前記支持基材上に積層された金属層と、前記金属層上に配置された樹脂基材と、前記樹脂基材上に配置された薄膜トランジスタと、前記樹脂基材上に配置され、前記薄膜トランジスタに電気的に接続された有機EL素子と、前記有機EL素子上に配置され、前記有機EL素子を封止する封止樹脂とを備え、前記金属層は、応力緩和機能を有し、前記金属層は、クロム合金、ニッケル合金、モリブデン合金、チタン合金、アルミニウム合金、銀合金、パラジウム合金、銅合金およびタングステン合金のうち少なくとも1つの合金を含み、前記金属層は、ガスバリア機能を有し、前記金属層は、水蒸気透過率が、40℃、100%Rhの条件において、1.0×10-4cc/m2/day/atm以上1.0cc/m2/day/atm以下であることを特徴とする表示装置。【請求項7】支持基材と、前記支持基材上に積層された金属層と、前記金属層上に配置された樹脂基材と、前記樹脂基材上に配置された薄膜トランジスタと、前記樹脂基材上に配置され、前記薄膜トランジスタに電気的に接続された有機EL素子と、前記有機EL素子上に配置され、前記有機EL素子を封止する封止樹脂とを備え、前記金属層は、応力緩和機能を有し、前記金属層は、クロム合金、ニッケル合金、モリブデン合金、チタン合金、アルミニウム合金、銀合金、パラジウム合金、銅合金およびタングステン合金のうち少なくとも1つの合金を含み、前記金属層は、電磁波遮蔽機能を有し、前記金属層は、面抵抗率が1Ω/□以上3000Ω/□以下であることを特徴とする表示装置。【請求項8】支持基材と、前記支持基材上に積層された金属層と、前記金属層上に配置された樹脂基材と、前記樹脂基材上に配置された薄膜トランジスタと、前記樹脂基材上に配置され、前記薄膜トランジスタに電気的に接続された有機EL素子と、前記有機EL素子上に配置され、前記有機EL素子を封止する封止樹脂とを備え、前記金属層は、応力緩和機能を有し、前記金属層は、クロム合金、ニッケル合金、モリブデン合金、チタン合金、アルミニウム合金、銀合金、パラジウム合金、銅合金およびタングステン合金のうち少なくとも1つの合金を含み、前記金属層は、放熱機能を有し、前記金属層は、熱伝導率が200W/m・K以上であることを特徴とする表示装置。【請求項9】表示装置の製造方法であって、請求項1乃至5のいずれか一項に記載の表示装置形成用基板を準備する工程と、前記表示装置形成用基板の前記金属層上に樹脂基材を配置する工程と、前記樹脂基材上に薄膜トランジスタを配置する工程と、前記樹脂基材上に、前記薄膜トランジスタに電気的に接続される有機EL素子を配置する工程と、前記有機EL素子を封止樹脂によって封止する工程と、前記封止樹脂上に、前記表示装置を仮支持する仮支持基材を配置する工程と、前記ガラス基材側から前記剥離層に向けてレーザー光を照射することにより前記ガラス基材を前記金属層から剥離する工程と、前記ガラス基材が剥離された前記金属層上に、前記表示装置を支持する支持基材を配置する工程と、前記仮支持基材を前記封止樹脂から剥離する工程とを備えたことを特徴とする表示装置の製造方法。」
(2) 本件補正後の特許請求の範囲
「【請求項1】表示装置を形成するための表示装置形成用基板であって、ガラス基材と、前記ガラス基材上に積層され、レーザー光を吸収することにより分解される剥離層と、続きを表示(全31行)前記剥離層上に積層され、前記剥離層を透過した前記レーザー光を反射可能な金属層とを備え、前記金属層は、応力緩和機能を有し、前記金属層は、クロム合金、ニッケル合金、モリブデン合金、チタン合金、アルミニウム合金、銀合金、パラジウム合金、銅合金およびタングステン合金のうち少なくとも1つの合金を含み、前記表示装置形成用基板の反り量が0.3mm以下であり、前記剥離層の周縁部および前記金属層の周縁部は、前記ガラス基材の周縁部よりも内側に引っ込んでいることを特徴とする表示装置形成用基板。【請求項2】前記金属層は、ガスバリア機能を有し、前記金属層は、水蒸気透過率が、40℃、100%Rhの条件において、1.0×10-4cc/m2/day/atm以上1.0cc/m2/day/atm以下であることを特徴とする請求項1に記載の表示装置形成用基板。【請求項3】前記金属層は、電磁波遮蔽機能を有し、前記金属層は、面抵抗率が1Ω/□以上3000Ω/□以下であることを特徴とする請求項1または2に記載の表示装置形成用基板。【請求項4】前記金属層は、放熱機能を有し、前記金属層は、熱伝導率が200W/m・K以上であることを特徴とする請求項1乃至3のいずれか一項に記載の表示装置形成用基板。【請求項5】前記金属層の厚みは、10nm以上1000nm以下であることを特徴とする請求項1乃至4のいずれか一項に記載の表示装置形成用基板。【請求項6】表示装置の製造方法であって、請求項1乃至5のいずれか一項に記載の表示装置形成用基板を準備する工程と、前記表示装置形成用基板の前記金属層上に樹脂基材を配置する工程と、前記樹脂基材上に薄膜トランジスタを配置する工程と、前記樹脂基材上に、前記薄膜トランジスタに電気的に接続される有機EL素子を配置する工程と、前記有機EL素子を封止樹脂によって封止する工程と、前記封止樹脂上に、前記表示装置を仮支持する仮支持基材を配置する工程と、前記ガラス基材側から前記剥離層に向けてレーザー光を照射することにより前記ガラス基材を前記金属層から剥離する工程と、前記ガラス基材が剥離された前記金属層上に、前記表示装置を支持する支持基材を配置する工程と、前記仮支持基材を前記封止樹脂から剥離する工程とを備えたことを特徴とする表示装置の製造方法。」
2 本件補正の目的
(1) 本件補正は、本件補正前の請求項6~8を削除しており、本件補正のうち当該補正事項は、特許法17条の2第5項1号に規定する請求項の削除を目的とするものに該当する。
(2) 本件補正は、さらに本件補正前の請求項1~5、9の発明特定事項である「剥離層」及び「金属層」について、「前記剥離層の周縁部および前記金属層の周縁部は、前記ガラス基材の周縁部よりも内側に引っ込んでいること」を限定する補正を含んでいる。
そして、本件補正前の請求項1~5、9に記載された発明と、本件補正後の請求項1~6に記載される発明は、それぞれ産業上の利用分野及び解決しようとする課題が同一である。
よって、本件補正は、特許法17条の2第5項2号に規定する特許請求の範囲の減縮を目的とするものも含んでいる。
3 独立特許要件についての当審の判断
本件補正のうち請求項1及び請求項3についての補正は、特許法17条の2第5項2号に規定する特許請求の範囲の減縮を目的とするものにも該当するから、本件補正後における請求項1に記載されている事項により特定される発明(以下「本件補正発明1」という。)及び本件補正後における請求項1の記載を直接引用する請求項3に記載されている事項により特定される発明(以下「本件補正発明3」という。)が、特許法17条の2第6項において準用する同法126条7項の規定に適合するか、すなわち、特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるか否かについて、以下検討を行う。
(1) 本件補正発明1、3
本件補正発明1及び本件補正発明3は、それぞれ前記1(2)に摘記した本件補正後の請求項1及び請求項3に記載された事項により特定されるとおりのものである。
(2) 引用文献に記載された事項及び引用発明等の認定
ア 引用文献2に記載された事項及び引用発明の認定
(ア) 引用文献2に記載された事項
原査定の拒絶の理由において引用された文献である特表2010-516021号公報(以下「引用文献2」という。)には、次の事項が記載されている。下線は合議体が付した。以下同様である。
a 段落【0001】、【0025】~【0030】、【図1】
「【技術分野】【0001】本発明は、フレキシブル素子の製造方法及びフレキシブル表示装置の製造方法に関し、更に詳しくは、安定したガラス基板工程技術を用いられるフレキシブル素子の製造方法及びフレキシブル表示装置の製造方法に関する。」
「【0025】<第1実施の形態>図1は、本発明の第1実施の形態によるフレキシブル電気素子の断面図である。【0026】続きを表示(全13行)図1を参照すると、前記フレキシブル電気素子は、補助基板である金属膜310上に形成された絶縁層320及び半導体素子層330を含み、前記半導体素子層330の表面に取り付けられたフレキシブル基板340を更に含む。【0027】半導体素子層330には、半導体薄膜を含む少なくとも一つの半導体素子、例えば、有機発光ダイオード、又は有機電界効果トランジスターなどが形成される。本実施の形態の半導体素子層330には、有機発光ダイオードがマトリックス(matrix)状に形成され、三原色の中で少なくとも一つの色を固有に発する単位画素(pixel)の役目をする。この時、有機発光ダイオードは、複数の単位画素に対応して複数に形成することが望ましいが、図1では、便宜上、一つの有機発光ダイオードのみを示す。【0028】前記の有機発光ダイオード330は、下から順に形成された陰極(cathode)331、電子輸送層(electron transport layer)332、発光層(emisson layer)333、正孔輸送層(hole transport layer)334及び陽極(anode)336を含み、正孔輸送層334と陽極336との間に形成された正孔注入層335を更に含むことができる。このような有機発光ダイオードの二つの電極を通じて外部電流を印加すると、電子輸送層332から注入された電子(electron)と、正孔輸送層334から注入された正孔(hole)とが、発光層333で再結合しながら励起子(exiton)が生成される。この励起子が拡散しながら発光層333のエネルギーバンドギャップに該当する光が放出される。ここで、発光層333は、有機発光材料を含む井戸層(well layer)と障壁層(barrier layer)を相互に積層し、単一又は多重量子井戸(multiple quantum well)構造を持つ多層の半導体薄膜として形成可能である。この発光層333は、含まれた有機発光材料によって、出力される光の波長が変化されるので、目標とする出力波長によって、適切な有機発光材料を選択するのが望ましい。(当審注:「発光層(emisson layer)333」の「emisson」は、「emission」の明らかな誤記であると認められる。)【0029】一方、本実施の形態の有機発光ダイオード330は、三原色の中で一つの光を出力して天然色を表示するが、これとは別の方式、例えば、白色光を出力する有機発光ダイオードの前面に、三原色カラーフィルターを配置して天然色を表示することもできる。また、本実施の形態の有機発光ダイオード330は、光が上部に出射されるトップエミッティング方式(top emitting type)に構成されるので、陽極336及びフレキシブル基板340を含む発光層333の上部構造物は、投光性物質で形成し、陰極331及び金属膜310を含む発光層333の下部構造物の少なくとも一つの層は、反射漠の役目をするように形成することが望ましい。勿論、前記の有機発光ダイオード330は、光が下部に出射されるボトムエミッティング方式(bottom emitting)でも構成可能である。この場合、陰極331及び金属膜310を含む発光層333の下部構造物は、投光性物質で形成し、陽極336及びフレキシブル基板340を含む発光層333の上部構造物の少なくとも一つの層は、反射漠の役目をするように形成することが望ましい。【0030】このようなフレキシブル電気素子は、母体基板であるガラス基板(図示せず)上に剥離層(図示せず)、金属膜310、絶縁層320、半導体素子層330を含む多層の薄膜層を形成した後、多層の薄膜層上にフレキシブル基板340を取り付けて、剥離層と金属膜310との間の界面分離を行い、母体基板を取り除いて形成する。勿論、前記フレキシブル基板340は、母体基板の除去後に形成することもできる。」
「【図1】[図:0001400115000001.jpg]」
b 段落【0031】~【0032】、【図2】
「【0031】このように構成された本発明の第1実施の形態によるフレキシブル有機素子の製造工程について、図2ないし図6を参照して説明する。ここで、図2ないし図6は、本発明の第1実施の形態によるフレキシブル電気素子の製造工程を表す断面図である。【0032】図2を参照すると、用意された母体基板100上に剥離層200を形成する。前記母体基板100は、半導体工程技術が安定化されたガラス基板を使うのが望ましく、前記剥離層は、表面エネルギーが小さな物質、例えば、MgO、MnO、Mn3O4、MoOy、SnO2、SeOx、SiOx、GaOx、InO、TixOy、VxOy、ZrOy、WOy、Al2O3、SrO、TexOy、TeO2、ZnO、ITO、IZO、SiN、TiN、TaN、AlN、BN、MO2N、VN、ZrN、NbN、CrN、Gaの中で少なくとも一つを含んで形成するのが望ましい。このような剥離層200は1nm以上の厚さで形成するのが望ましい。もし、剥離層200が薄すぎると、母体基板100とその上部に形成される金属膜との間の結合力が強くなり、母体基板100の分離が難しくなるおそれがある。」
「【図2】[図:0001400115000002.jpg]」
c 段落【0033】、【図3】
「【0033】図3を参照すると、剥離層200が形成された全体構造の上に金属膜310及び絶縁層320を順に積層形成する。前記金属膜310は、Ag、Au、Cu、Cr、W、Al、Mo、Zn、Ni、Pt、Pd、Co、In、Mn、Si、Ta、Ti、Sn、Zn、Pb、V、Ru、Ir、Zr、Rhの中で少なくとも一つを含んで形成可能であり、多様な金属蒸着法、例えば、電子線蒸着法、熱線蒸着法、スパッタ蒸着法、又は電気メッキ法を使うことができる。このような金属膜310は、母体基板100の分離除去の時、その上部に残存する薄膜構造物を支持する補助基板として使われるので、約1μm以上の厚さで形成するのが望ましい。もし、金属膜310が薄すぎると、外部力による母体基板100の分離除去の時に、破れるおそれがある。また、前記絶縁層320は、絶縁性及び付着性が優秀な酸化シリコーン(SiO2)、窒化シリコーン(SiNx)などの絶縁体をMOCVD法などで蒸着させて形成することが可能であり、工程時間の短縮のためにフォトレジスト(photoresist)やポリイミド(polyimide)などの絶縁体をスピンコーティング(spin coating)法などで塗布して形成することも可能である。このような絶縁層320は、その上部に形成される半導体素子層の複数の電気素子を電気的に分離させて、相互干渉を防止する役目をする。」
「【図3】[図:0001400115000003.jpg]」
d 段落【0034】、【図4】
「【0034】図4を参照すると、絶縁層320が形成された全体構造の上に半導体素子層330を形成する。例えば、本実施の形態の半導体素子層330は、下からAl陰極331、Alq3電子輸送層332、発光層333、α-NPD正孔輸送層334、CuPc正孔注入層335及びAu陽極336を順に積層して、約520nmの波長帯域を出力する緑光の有機発光ダイオードを形成する。勿論、前記発光層333に含まれた有機発光材料によって、出力される光の波長が変化されるので、目標とする出力波長によって、適切な有機発光材料を選択するのが望ましい。」
「【図4】[図:0001400115000004.jpg]」
e 段落【0035】、【図5】
「【0035】図5を参照すると、半導体素子層330が形成された全体構造の上にフレキシブル基板340を接合する。この時、フレキシブル基板340としては、物理的/化学的安全性が優秀で、単価が低く、柔軟性の良いプラスチックを使うのが望ましい。」
「【図5】[図:0001400115000005.jpg]」
f 段落【0036】、【図6】
「【0036】図6を参照すると、母体基板100の上部に、剥離層200、金属膜310、絶縁層320、半導体素子層330及びフレキシブル基板340を含む上部構造物が形成されると、剥離層200と金属膜310との界面分離を行い、母体基板100を分離する。つまり、母体基板100と上部構造物310、320、330、340に、それぞれ反対方向に外力、即ち、せん断応力(shear stress)を加えると、剥離層200と金属膜310との間の界面で分離が起こる。この時、界面分離が容易でない場合には、母体基板100の下部で、剥離層200にエキシマレーザーを一定時間照射するレーザーリフトオフ工程(laser lift off process)を更に行うこともできる。以後、分離された母体基板100をとり除くと、金属膜310、絶縁層320、半導体素子層330及びフレキシブル基板340を含む上部構造物だけが残るので、この方法を利用すれば柔軟性を持つ多様なフレキシブル電気素子を製造することができる。」
「【図6】[図:0001400115000006.jpg]」
(イ) 引用発明の認定
前記(ア)において摘記した事項を総合すると、引用文献2には次の発明(以下「引用発明」という。)が記載されていると認められる。
[引用発明]
「母体基板であるガラス基板上に剥離層、金属膜310、絶縁層320、半導体素子層330を含む多層の薄膜層を形成した後、多層の薄膜層上にフレキシブル基板340を取り付けて、剥離層と金属膜310との間の界面分離を行い、母体基板を取り除いて形成するフレキシブル電気素子を備えたフレキシブル表示装置の製造方法において、(【0001】、【0030】)用意された母体基板100は、ガラス基板が使われ、母体基板100上に形成された剥離層200は、例えば、MgO、MnO、Mn3O4、MoOy、SnO2、SeOx、SiOx、GaOx、InO、TixOy、VxOy、ZrOy、WOy、Al2O3、SrO、TexOy、TeO2、ZnO、ITO、IZO、SiN、TiN、TaN、AlN、BN、MO2N、VN、ZrN、NbN、CrN、Gaの中で少なくとも一つを含んでおり、(【0032】)剥離層200が形成された全体構造の上に金属膜310及び絶縁層320が順に積層形成され、前記金属膜310は、Ag、Au、Cu、Cr、W、Al、Mo、Zn、Ni、Pt、Pd、Co、In、Mn、Si、Ta、Ti、Sn、Zn、Pb、V、Ru、Ir、Zr、Rhの中で少なくとも一つを含んでおり、(【0033】)絶縁層320が形成された全体構造の上に半導体素子層330が形成され、(【0034】)半導体素子層330が形成された全体構造の上にフレキシブル基板340を接合し、(【0035】)母体基板100の上部に、剥離層200、金属膜310、絶縁層320、半導体素子層330及びフレキシブル基板340を含む上部構造物が形成されると、剥離層200と金属膜310との界面分離を行い、母体基板100を分離するものであり、この時、界面分離が容易でない場合には、母体基板100の下部で、剥離層200にエキシマレーザーを一定時間照射するレーザーリフトオフ工程を更に行うこともできる、(【0036】)フレキシブル表示装置の製造方法。」
イ 引用文献5に記載された事項と周知技術1、技術常識1の認定
(ア) 引用文献5に記載された事項
原査定の拒絶の理由において引用された文献である特開2017-58509号公報(以下「引用文献5」という。)には、次の事項が記載されている。
a 段落【0022】~【0026】、【図3A】、【図3B】
「【0022】図3Aは、本実施形態の有機EL表示装置1の、プロセス用の支持基板(ガラス基板)SB1,SB2から基材樹脂層B1,B2を剥離する前の状態の断面の様子を示す模式図であり、図3Bは、支持基板SB1,SB2から基材樹脂層B1,B2を剥離後、最終的なフレキシブルディスプレイとなった状態を示す断面模式図である。【0023】フレキシブルディスプレイにおいては、画素回路PXがマトリクス状に形成された基材樹脂層B1や、カラーフィルタ層CFが形成された基材樹脂層B2の剛性が小さいことから、ガラス等の材料で形成された支持基板SB1,SB2を土台として、これらの樹脂層上に機能層を形成する工程が実施される。【0024】本実施形態においては、図3Aで示されるように、第1の支持基板SB1上に、第1の犠牲樹脂層SC1と、第1の金属層M1と、第1の透明金属酸化物層TR1と、画素回路PXがマトリクス状に形成された第1の基材樹脂層B1が形成されて、第2の支持基板SB2上に、第2の犠牲樹脂層SC2と、第2の金属層M2と、第2の透明金属酸化物層TR2と、カラーフィルタ層CFやブラックマトリクスBMが形成された第2の基材樹脂層B2が形成され、これらが互いに貼り合わされる。また貼り合わされる際には、カラーフィルタ層CFが形成された第2の支持基板SB2側には、露出領域EXを設けるための切り欠き(溝)が予め形成された状態となっている。【0025】カラーフィルタ層CFが形成された第2の基材樹脂層B2や、複数の画素回路PXを有する画素回路構成層CLが形成された第1の基材樹脂層B1の表面には、第1の保護層PR1と第2の保護層PR2がそれぞれ形成されており、2つの樹脂層がシール材SLおよび充填材FLを介して貼り合わされるようになっている。なお図3Aの段階では、第2の基材樹脂層B2から露出される、第1の基材樹脂層B1の一部となる露出領域EXにおいて、透明導電膜TRが表面に形成された端子TEが第1の保護層PR1に覆われた状態で配置される。【0026】また、第1の基材樹脂層B1、第2の基材樹脂層B2、第1の犠牲樹脂層SC1、第2の犠牲樹脂層SC2のそれぞれは、ポリイミドを材料とする樹脂層となっている。また第1の金属層M1、第2の金属層M2は、融点が高いTi、Mo、W(チタニウム、モリブデン、タングステン)といった金属で構成される。フレキシブルディスプレイの基材層となる第1の基材樹脂層B1、第2の基材樹脂層B2は、10μm程度の厚み(具体的には5μm以上20μm以下の厚み)で構成され、第1の金属層M1、M2は、後述のフラッシュランプによる閃光の機能層への透過を防止するべく、少なくとも100nm程度の厚み(具体的には、75nm以上200nm以下の厚み)を有して構成される。また第1の透明金属酸化物層TR1、第2の透明金属酸化物層TR2は、第1の金属層M1と第1の基材樹脂層B1の密着性を向上させるための層であって、5nm程度の厚み(具体的には3nm以上20nm以下の厚み)にて、例えば、ITO(Indium Tin Oxide)で形成される。また、第1の犠牲樹脂層SC1、第2の犠牲樹脂層SC2は、1μm程度の厚みにて形成される。」
「【図3A】[図:0001400115000007.jpg]」
「【図3B】[図:0001400115000008.jpg]」
b 段落【0028】~【0031】、【図4】
「【0028】以下においては、図4~図7を用いて、本実施形態におけるフレキシブルディスプレイの基材層となる樹脂層を、支持基板から剥離する方法をさらに詳細に説明をする。【0029】まず図4は、本実施形態における有機EL表示装置1の製造工程を説明するための図であり、支持基板SB1,SB2と、犠牲樹脂層SC1,SC2と、金属層M1,M2と、透明金属酸化物層TR1,TR2と、基材樹脂層B1,B2と、機能層(カラーフィルタ層CFまたは画素回路構成層CL)を有した構造体を用意する工程の様子を説明するための図となっている。【0030】具体的には図4(a)で示されるように、まず第1の支持基板SB1上に、第1の犠牲樹脂層SC1を積層した後、当該第1の犠牲樹脂層SC1の表面にプラズマ処理を施して改質をする。その後図4(b)で示されるように、プラズマ処理をされた第1の犠牲樹脂層SC1上に第1の金属層M1を形成し、さらに図4(c)で示されるように、第1の透明金属酸化物層TR1、第1の基材樹脂層B1、保護膜PR1で覆われた画素回路構成層CLを順番に形成して、画素回路構成層を有する画素回路構造体を形成する。【0031】図4(a)においてプラズマ処理が施されることで、ポリイミドを材料とする第1の犠牲樹脂層SC1と第1の金属層M1との密着性が向上し、その後の製造工程を支障なくすすめることができるようになる。なお、機能層としてカラーフィルタ層CFを備えた構造体についても同様に、第2の犠牲樹脂層SC2の表面にプラズマ処理を施して第2の金属層M2との密着性を向上させるため、その説明は省略する。」
「【図4】[図:0001400115000009.jpg]」
c 段落【0034】~【0036】、【図6】
「【0034】ここで特に、図6は、カラーフィルタ層CF側の、第2の支持基板SB2を第2の基材樹脂層B2から剥離する工程の様子を説明するための図である。【0035】図6(a)で示されるように、まず、ポリイミドを材料とする第2の基材樹脂層B2から第2の支持基板SB2を剥離する工程では、まず、第2の支持基板SB2側から波長200~1100nmのキセノンフラッシュランプのパルス光が照射される。このキセノンフラッシュランプの照射時間としては、1μs~数ms程度であり、強度としては数mJ/cm2~数十mJ/cm2とされる。この際、露出領域EXに対してフラッシュランプが照射されないようにするべく遮光マスクSHが配置される。【0036】その後、図6(b)で示されるように、フラッシュランプによるパルス光が、第2の支持基材SB2と第2の犠牲樹脂層SC2を介して第2の金属層M2に到達するように照射されると、第2の金属層M2に吸収されて発熱が生じる。このパルス光による発熱は、第2の金属層M2から第2の犠牲樹脂層SC2に瞬間的に伝熱して、図6(c)で示されるように、第2の犠牲樹脂層SC2の界面のポリイミドに熱分解が生じ、第2の支持基板SB2と第2の犠牲樹脂層SC2が剥がされることになる。フラッシュランプの照射時間や強度は、第2の犠牲樹脂層SC2のポリイミドが熱分解される温度(600~1200℃程度)に熱せられるように調整される。」
「【図6】[図:0001400115000010.jpg]」
d 段落【0040】~【0042】、【図7】
「【0040】図7(a)で示されるように、まず、ポリイミドを材料とする第1の基材樹脂層B1から第1の支持基板SB1を剥離する工程では、図6(a)の場合と同様に、キセノンフラッシュランプが照射されて、その後、図7(b)及び図7(c)で示されるように、第1の金属層M1から第1の犠牲樹脂層SC1に瞬間的に伝熱して界面のポリイミドが熱分解され、第1の支持基板SB1と第1の犠牲樹脂層SC1が剥がされることになる。【0041】そして図7(c)の工程の後、図7(d)で示されるように、保護フィルムPT1が第1の金属層M1の裏面に貼り付けられることとなる。【0042】図7(d)および図3Bで示されるように、画素回路構成層を備えた第1の基材樹脂層B1の裏側にて第1の金属層M1が残存することで、画素回路PXを備えた機能層に影響を与えうる電磁波を遮断することができる。またこの第1の金属層M1と第1の基材樹脂層B1の間には、第1の透明金属酸化物層TR1が配置されており、ポリイミドによって形成された第1の基材樹脂層B1と第1の金属層M1との密着性を向上させている。このように第1の透明金属酸化物層TR1が形成されることで、基材樹脂層にて機能層が形成されるフレキシブルディスプレイにおいても、電磁波を遮断する構造を基材樹脂層上に安定的に形成することができるようになる。」
「【図7】[図:0001400115000011.jpg]」
(イ) 周知技術1の認定
前記(ア)に摘記した事項(特に【0022】~【0024】、【0026】、【0035】~【0036】、【0040】)に例示されるように、次の事項は当業者にとって周知技術であったと認められる(以下「周知技術1」という)。
[周知技術1]
「フレキシブルディスプレイの製造において、ガラスの支持基板上にポリイミドの犠牲樹脂層と金属層を形成し、支持基板と犠牲樹脂層を介して金属層に到達するように支持基板側から光を照射することにより、犠牲樹脂層の界面のポリイミドに熱分解が生じて、支持基板と犠牲樹脂層が剥離すること。」
(ウ) 技術常識1の認定
前記(ア)に摘記した事項(特に【0042】を参照)に例示されるように、次の事項は当業者にとって技術常識であったと認められる(以下「技術常識1」という)。
[技術常識1]
「金属層が電磁波遮蔽機能を有すること。」
ウ 引用文献6、11に記載された事項と周知技術2、技術常識2の認定 (ア) 引用文献6に記載された事項
原査定の拒絶の理由において引用された文献である特開2004-55365号公報(以下「引用文献6」という。)には、次の事項が記載されている。
「【0009】【発明の実施の形態】次に、本発明の実施形態について図面を参照しながら詳細に説明する。まず、図1を参照して本発明の基本原理について説明する。【0010】続きを表示(全20行)図1(a)は、従来の構造体であり、封止ガラス基板1の表面に設けられたポケット部の底面に、直接乾燥剤層2が塗布形成されている。この構造体の温度を一旦上昇させ、下降させる。すると、封止ガラス基板1、乾燥剤層2には熱収縮が起こる。一般に、乾燥剤層2の熱膨張率α2は、封止ガラス基板1の熱膨張率α1はより大きいので、この差により、乾燥剤層2の接着面に応力が加わる。この応力が乾燥剤層2と封止ガラス基板1との接着力より大きければ、乾燥剤層2は、封止ガラス基板1から剥離してしまう。【0011】そこで、本発明は、図1(b)に示すように、乾燥剤層2と封止ガラス基板1との間に応力緩和層3を挿入した。この応力緩和層3の熱膨張率α3は、封止ガラス基板1の熱膨張率α1より大きく、乾燥剤層2の熱膨張率α2より小さいことが好ましい(α1<α3<α2)。【0012】このような条件下では、乾燥剤層2と応力緩和層3との間で、熱膨張率の差が小さくなる。その結果、従来よりも乾燥剤層2に加わる応力が小さくなる。これにより、乾燥剤層2は応力緩和層3から剥離しにくくなる。また、同様に、応力緩和層3と封止ガラス基板1の熱膨張率の差も小さくなるので、応力緩和層3も封止ガラス基板1から剥がれにくい。以上により、乾燥剤層2の剥離等を防止した封止構造を得ることができる。【0013】次に、本発明の実施形態に係る表示装置ついて図2を参照しながら説明する。デバイスガラス基板100は、その表面に多数の有機EL素子101が形成された表示領域を有している。デバイスガラス基板100の厚みは、0.7mm程度である。また、有機EL素子101の構造については後述する。【0014】このデバイスガラス基板101は、エポキシ樹脂等から成るシール樹脂102を用いてデバイス封止用の封止ガラス基板200と貼り合わされている。封止ガラス基板200には、上記表示領域に対応した領域に凹部、すなわちポケット部201がエッチングによって形成されている。このポケット部201の底部に、応力緩和層として、約4000Åの厚さのアルミニウム層202が例えば蒸着法によって形成されている。そして、このアルミニウム層202上に水分等の湿気を吸収するための乾燥剤層203が塗布形成されている。【0015】乾燥剤層203は、例えば、粉末状の酸化カルシウムや酸化バリウム等、及び接着剤として樹脂を溶剤に溶かした状態にして、アルミニウム層202上に塗布し、更にUV照射や加熱処理を行うことで硬化させることで接着される。乾燥剤層203の厚さは、例えば100μmである。【0016】ここで、封止ガラス基板200の熱膨張率α1は10×10-6以下、乾燥剤層203の熱膨張率α2は100×10-6程度、アルミニウム層202の熱膨張率α3は、30×10-6程度であり、α1<α3<α2の関係を満たしている。また、アルミニウム層202は、封止ガラス基板200、乾燥剤層203との密着性に優れている。したがって、上述した本発明の原理により、乾燥剤層203の剥離等が防止される。【0017】本実施形態では、応力緩和層としてアルミニウム層202を用いたが、これに限らず、8-トリス-ヒドロキシキノリン-アルミニウム(Alq3:8-tris-hydroxyquinoline aluminum)を用いても良い。また、α1<α3<α2の関係を満たしていれば、アルミニウム系に限らず、他の金属を用いても良い。」
(イ) 引用文献11に記載された事項
当審において新たに引用される文献である特開2009-272445号公報(以下「引用文献11」という。)には、次の事項が記載されている。
「【0021】1.電子部品装置の構造本発明の実施の形態に係る電子部品装置の構造の例として、図8に、ボール・グリッド・アレイ(BGA:Ball Grid Array)型半導体装置の支持基板が、半田バンプを介して配線回路基板上に実装された構造を示す。【0022】続きを表示(全23行)図8に示すように、上面に半導体素子51が実装され、電子部品として機能する支持基板(パッケージ基板)60が、半田バンプ75を介して、配線回路基板(マザーボード)70上に実装されている。【0023】支持基板60は、ガラスエポキシ樹脂等の絶縁性樹脂を基材とし、その表面に銅(Cu)等からなる導電層が選択的に配設された配線用基板を複数積層して形成されている。支持基板60の上面には、半導体素子51が実装されている。【0024】また、支持基板60のうち、半導体素子51が実装される主面と反対側の主面上には、例えば銅(Cu)層がフォトリソグラフィー法等により形成され、当該銅(Cu)層上には、例えばニッケル(Ni)層及び金(Au)層がめっき法により積層されており、これにより電極部52が形成されている。【0025】電極部52の上面には、塑性体材料65が、応力に対して塑性変形を示す導電性材料を含む応力緩和層として、導電性接着剤又は半田ペースト等の導電性接着部材53を介して設けられている。【0026】塑性体材料65は、例えば基本組成がTi-25at%(Ta+Nb+V)-(Zr+Hf)+Oと表示されるβ系チタン(Ti)合金(α-β型合金及びβ型合金の何れも含む)を含む材料等の、塑性金属材料である。塑性体材料65として、例えば、シート状のチタン(Ti)合金系である豊通マテリアル製のゴムメタルを用いることができる。β系チタン(Ti)合金は、約20乃至60GPaという極めて小さい縦弾性係数(ヤング率)を有する。【0027】ここで、図9及び図10を参照して、塑性体材料65としてのβ系チタン(Ti)合金の特質について詳述する。図9及び図10に示すグラフおいて、縦軸は、応力を示し、横軸は伸び(ひずみ)を示す。【0028】図10に示すように、塑性体材料65としてのβ系チタン(Ti)合金は、弾性変形能が約2.5%という超弾性的性質を有する。更に、歪みが約2.5%以上になると、15%まで破断伸びを有する塑性的性質を示す。【0029】図9に示すように、塑性体材料65としてのβ系チタン(Ti)合金は、弾性変形域において応力―歪み線図が直線とはならず、上に凸な曲線(A’-B)となり、除荷すると同曲線A-A’に沿って伸びが0(ゼロ)に戻ったり、曲線B-B’に沿って極僅かな約0.2%の永久伸びを生じたりする。【0030】このように、β系チタン(Ti)合金において、弾性変形域(A’-A)においても、応力と歪みとは直線的な関係になく、応力が増加すれば、急激に歪みが増加する。また、除荷した場合も同様であり、応力と歪みとは直線的な関係になく、応力が減少すれば、急激に歪みが減少する。即ち、β系チタン(Ti)合金は、高弾性変形能と高塑性変形能を有するものである。【0031】また、β系チタン(Ti)合金は、室温において、約120μΩ・cmの電気抵抗率を有する。塑性体材料65の形成厚さは、半田バンプ75の機能や大きさ等に基づき様々に設定することができるが、例えば、下限として約1乃至3μmに、上限として約20乃至50μmに設定してもよい。また、半田バンプ75にダミーバンプ等の構造的機能をもたせる場合には、上限として、約200乃至500μmに設定してもよい。」
「【図8】[図:0001400115000012.jpg]」
(ウ) 周知技術2の認定
前記(ア)及び(イ)に摘記した事項に例示されるように、次の事項は当業者にとって周知技術であったと認められる(以下「周知技術2」という)。
[周知技術2]
「応力緩和層を金属材料から構成すること。」
(エ) 技術常識2の認定
前記(イ)に摘記した事項(特に【0026】、【0031】を参照)に例示されるように、次の事項は当業者にとって技術常識であったと認められる(以下「技術常識2」という)。
[技術常識2]
「β系チタン(Ti)合金は、約20乃至60GPaという極めて小さい縦弾性係数(ヤング率)を有し、室温において、約120μΩ・cmの電気抵抗率を有すること。」
エ 引用文献12~14に記載された事項と周知技術3の認定
(ア) 引用文献12に記載された事項
当審において新たに引用する文献である特開2013-175285号公報(以下「引用文献12」という。)には、次の事項が記載されている。
a 段落【0048】~【0111】、【図1】
「【0048】<作製方法例>以下では、本実施の形態で例示する発光装置の作製方法の一例について、図面を参照して説明する。本作製方法例では、発光素子が形成される基板表面側に発光を取り出す上面発光型の発光装置の作製方法について説明する。【0049】続きを表示(全57行)図1(A)~(E)は、発光装置の作製工程中のそれぞれの段階における上面概略図と、上面概略図中に示す切断線A-Bで切断した断面概略図である。【0050】まず、第1の基板101を準備する。第1の基板101には、可とう性を有する材料を用い、少なくとも被形成面が平坦な基板を用いる。(中略)【0055】続いて、第1の基板101の被形成面上に平坦化層113を形成する。(中略)【0060】続いて、平坦化層113上に、第1の電極層103、及び配線111を形成する。(中略)【0063】続いて、第1の電極層103及び配線111の端部を覆い、且つ、第1の電極層103及び配線111の一部を露出させる開口部を備える絶縁層115を形成する。(中略)【0066】この段階における上面概略図及び断面概略図が、図1(A)に相当する。【0067】続いて、あらかじめ有機物層123が形成された支持基板121に、第1の基板101を貼り付ける。【0068】支持基板121は、支持する面が平坦であり、且つ、第1の基板101よりも剛性の高い材料を用いる。支持基板121は少なくとも後の工程で、第1の基板101が接着された状態でフェイスダウン方式を用いてEL層105や第2の電極層107を形成する際に、支持基板121がたわんで第1の基板101の被形成面が成膜装置の一部と接触することがない程度の剛性を有する基板を用いる。(中略)【0072】本実施の形態では、支持基板121として厚さ0.7mmのガラス基板を用いる。【0073】支持基板121の被接着面に設ける有機物層123は、支持基板121と第1の基板101とを接着する接着層として機能する。ここで有機物層123としては、室温において固体で、且つ加熱することにより溶融する材料を用いる。(中略)【0077】このようにして支持基板121上に形成した有機物層123を融点以上に加熱して溶融させた状態で、第1の基板101を、有機物層123と第1の基板101の被形成面とは反対側の面(裏面)が接するように配置する(図1(B)参照)。(中略)【0082】このようにして、溶融状態の有機物層123に接して第1の基板101を配置した後、有機物層123を冷却して固化させ、有機物層123により支持基板121と第1の基板101とを接着する。(中略)【0088】続いて、フェイスダウン方式の成膜方法を用いて、第1の電極層103上にEL層105を形成する。EL層105は真空蒸着法により形成する。真空蒸着法を用いることにより、第1の基板101として大型の基板を用いても均一な厚さに形成することができる。(中略)【0090】続いて、フェイスダウン方式の成膜装置を用いて、EL層105上、及び配線111の露出した領域上に第2の電極層107を形成する。第2の電極層107は、EL層105を形成した後、大気に触れさせることなく連続して形成することが好ましい。(中略)【0095】以上の工程により、第1の電極層103、EL層105、及び第2の電極層107が積層された発光素子120が形成される。この段階における上面概略図及び断面概略図が図1(C)に相当する。なお、図1(C)中の有機物層123は固化した状態であるため、図1(B)で示した溶融状態である有機物層123とはハッチングを異ならせている。(中略)【0097】続いて、第1の基板101と第2の基板102とを封止層119を用いて貼り合わせる(図1(D)参照)。(中略)【0099】第2の基板102は、少なくとも発光素子120からの発光に対して透光性を有する材料を用い、且つ、可とう性を有する材料を用いる。例えば、有機樹脂や可とう性を有する程度の厚さのガラス材料などを用いることができる。(中略)【0104】この段階における上面概略図及び断面概略図が、図1(D)に相当する。【0105】続いて、有機物層123を加熱して溶融した状態で、第1の基板101を支持基板121から剥離する(図1(E)参照)。(中略)【0111】以上の工程により、第1の基板101上に発光素子120が形成された、発光装置100を作製することができる。」
「【図1】[図:0001400115000013.jpg]」
b 段落【0112】~【0119】、【図2】
「【0112】[有機物層123の形成について]ここで、第1の基板101と支持基板121とを接着する有機物層123は、少なくともEL層105及び第2の電極層107を形成する際に第1の基板101が支持基板121から剥離しないように設ければよく、様々な形態をとりうる。【0113】続きを表示(全17行)図2(A)、図2(B)、及び図2(C)はそれぞれ、支持基板121上に形成された有機物層123の上面概略図である。また、各々の図において、第1の基板101が配置される領域を破線で示している。【0114】図2(A)では、第1の基板101が設けられる領域と完全に重なるように、有機物層123が設けられている。このように、第1の基板101の裏面の全面が有機物層123によって支持基板121と接着される構成とすることで、第1の基板101と支持基板121との接着強度を十分に高めることができる。【0115】また、第1の基板101の端部も有機物層123によって接着する構成とすることにより、当該端部をきっかけとして剥離してしまうことを抑制することができる。【0116】図2(B)では、有機物層123は一定の間隔をあけて帯状(ストライプ状)に設けられている。【0117】ここで例えば、支持基板121に対して第1の基板101の線熱膨張係数が異なる場合、処理中の温度の変化によって第1の基板101が伸縮することにより、支持基板121が大きくたわんでしまう恐れがある。【0118】そこで、図2(B)に示すように、第1の基板101と支持基板121との接着部を、間隔をあけて複数設けることにより、上述した第1の基板101の伸縮に起因して支持基板121にかかる応力は、少なくとも帯状の有機物層123の短辺方向で緩和され、その結果、支持基板121のたわみ量を低減することができる。【0119】また、図2(C)に示すように、有機物層123を一定の間隔をあけて島状(ドット状)に設けてもよい。このような構成とすることにより、第1の基板101の伸縮に起因する支持基板121にかかる応力を2次元的に緩和することができるため、その結果、より支持基板121のたわみ量を低減することができる。」
「【図2】[図:0001400115000014.jpg]」
(イ) 引用文献13に記載された事項
当審において新たに引用する文献である特開2016-224430号公報(以下「引用文献13」という。)には、次の事項が記載されている。
「【0004】可撓性基板を用いた装置の作製方法としては、ガラス基板や石英基板などの作製基板上に薄膜トランジスタや有機エレクトロルミネッセンス(Electroluminescence、以下ELとも記す)素子などの機能素子を作製したのち、可撓性基板に該機能素子を転置する技術が開発されている。この方法では、作製基板から機能素子を含む被剥離層を剥離する工程(剥離工程とも記す)が必要である。」
「【0257】≪積層体の作製方法≫以下に、積層体の作製装置1000Aを用いて、加工部材80から積層体81を作製する方法について、図11及び図12を参照しながら説明する。【0258】加工部材80は、第1の基板11、第1の基板11上の第1の剥離層12、第1の剥離層12と一方の面が接する第1の被剥離層13、第1の被剥離層13の他方の面と一方の面が接する接合層30、及び接合層30の他方の面が接する基材25を備える(図12(A))。なお、本実施の形態では、剥離の起点13sがあらかじめ接合層30の端部近傍に形成された加工部材80を用いる場合について説明する(図12(B))。(中略)【0260】<第2のステップ>第1の分離ユニット300が、加工部材80の一方の表層80bを剥離する。具体的には、接合層30の端部近傍に形成された剥離の起点13sから、第1の基板11を第1の剥離層12と共に第1の被剥離層13から分離する(図12(C))。」
「【図12】[図:0001400115000015.jpg]」
(ウ) 引用文献14に記載された事項
当審において新たに引用する文献である特開2015-223823号公報(以下「引用文献14」という。)には、次の事項が記載されている。
「【0035】<積層体の製造方法>次に本発明の積層体の製造方法について説明するが、これに制限されるわけではない。支持基板であるガラス基板上に、少なくとも光熱変換物質、および/または、熱分解性物質と、マトリックス材、溶媒からなる犠牲層形成用組成物を、所定の厚みになるように塗布する。塗布方法としては、バーコーター、ロールコーター、ナイフコーター、スリットダイコーター、スピンコーター、インクジェット印刷、スクリーン印刷などを用いる方法が挙げられる。塗布後は80~200℃で乾燥し、溶媒を除去する。乾燥時間は適宜選択され、10秒~1時間である。」
「【0040】剥離方法の詳細について説明する。本発明においては、ガラス基板である支持基板側から光照射をして耐熱性樹脂層の剥離を行い、フレキシブルデバイスを得ることができる。光照射としては、UV照射、レーザー照射が挙げられるが、本発明においてはレーザー照射による剥離が好ましい。」
「【符号の説明】【0126】110 支持基板210 犠牲層310 耐熱性樹脂層211 マトリックス材212 光熱変換物質213 熱分解性物質」
「【図1】[図:0001400115000016.jpg]」
(エ) 周知技術3の認定
前記(ア)~(ウ)に摘記した事項(特に、引用文献12の【図2】、引用文献13の【図12】、引用文献14の【図1】を参照)に例示されるように、次の事項は当業者にとって周知技術であったと認められる(以下「周知技術3」という)。
[周知技術3]
「可撓性基板に有機EL素子などの機能素子を転置するために用いられる、剥離層を有するガラス基板などの作製基板において、剥離層の周縁部が、作製基板の周縁部よりも内側に引っ込んでいること。」
(3) 本件補正発明1についての対比・判断
ア 対比
(ア) 対比分析
本件補正発明1と引用発明を対比する。
a(a) 引用発明は、「母体基板であるガラス基板上に剥離層、金属膜310、絶縁層320、半導体素子層330を含む多層の薄膜層を形成した後、多層の薄膜層上にフレキシブル基板340を取り付けて、剥離層と金属膜310との間の界面分離を行い、母体基板を取り除いて形成するフレキシブル電気素子を備えたフレキシブル表示装置の製造方法」の発明である。
(b) ここで、引用発明においては、「フレキシブル電気素子」が形成される前段階として、「剥離層200と金属膜310との界面分離」が行われて「母体基板100を分離」しているから、「界面分離」を行う前の「母体基板100」、「剥離層200」及び「金属膜310」について着目すると、これらは、「フレキシブル電気素子を備えたフレキシブル表示装置」の製造工程において用いられる一体化された補助部材であると考えることができる。
(c) そうすると、引用発明の「母体基板100」、「剥離層200」及び「金属膜310」は、これらを一体化された補助部材としてみたときは、「フレキシブル表示装置」を形成するための表示装置形成用基板であるといえるから、引用発明は、「フレキシブル表示装置」を形成するための表示装置形成用基板の発明を自明の前提として含むものである。
(d) したがって、本件補正発明1と引用発明は、「表示装置を形成するための表示装置形成用基板」の発明である点で一致する。
b(a) 引用発明の「母体基板100」は、「ガラス基板が使われ」ているから、本件補正発明1の「ガラス基材」に相当する。
(b) 引用発明の「母体基板100上に形成された剥離層200」は、本件補正発明1の「前記ガラス基材上に積層され」る「剥離層」に相当する。 (c) 引用発明の「剥離層200が形成された全体構造の上に」「形成」される「金属膜310」は、本件補正発明1の「前記剥離層上に積層され」る「金属層」に相当する。
(d) したがって、本件補正発明1と引用発明は、
「ガラス基材と、前記ガラス基材上に積層される剥離層と、前記剥離層上に積層される金属層とを備え[る]」点で共通する。
(イ) 一致点及び相違点の認定
前記(ア)の対比分析の検討結果をまとめると、本件補正発明1と引用発明は、次の一致点において一致し、以下の相違点において相違する。
a 一致点
「表示装置を形成するための表示装置形成用基板であって、ガラス基材と、前記ガラス基材上に積層される剥離層と、前記剥離層上に積層される金属層とを備える、表示装置形成用基板。」である点。
b 相違点
(a) 相違点1
本件補正発明1においては、
「前記ガラス基材上に積層される剥離層」が「レーザー光を吸収することにより分解される」ものであり、「前記剥離層上に積層される金属層」が「前記剥離層を透過した前記レーザー光を反射可能な」ものであるのに対して、
引用発明においては、
「剥離層200は、例えば、MgO、MnO、Mn3O4、MoOy、SnO2、SeOx、SiOx、GaOx、InO、TixOy、VxOy、ZrOy、WOy、Al2O3、SrO、TexOy、TeO2、ZnO、ITO、IZO、SiN、TiN、TaN、AlN、BN、MO2N、VN、ZrN、NbN、CrN、Gaの中で少なくとも一つを含んでおり」、レーザー光を吸収することにより分解されるものであるとはいえず、また、「金属膜310」については、剥離層200を透過したレーザー光を反射可能なものであることは明示されていない点。
(b) 相違点2
本件補正発明1においては、
「前記金属層は、応力緩和機能を有し、前記金属層は、クロム合金、ニッケル合金、モリブデン合金、チタン合金、アルミニウム合金、銀合金、パラジウム合金、銅合金およびタングステン合金のうち少なくとも1つの合金を含み、前記表示装置形成用基板の反り量が0.3mm以下であ[る]」のに対して、
引用発明においては、
「金属膜310」が応力緩和機能を有することは明示されておらず、合金ではなく、「剥離層200」及び「金属膜310」が形成された「母体基板100」の反り量についても限定されていない点。
(c) 相違点3
本件補正発明1においては、
「前記剥離層の周縁部および前記金属層の周縁部は、前記ガラス基材の周縁部よりも内側に引っ込んでいる」のに対して、
引用発明においては、そのような構成を備えていない点。
イ 判断
前記相違点について検討する。
(ア) 相違点1について
a 「フレキシブルディスプレイの製造において、ガラスの支持基板上にポリイミドの犠牲樹脂層と金属層を形成し、支持基板と犠牲樹脂層を介して金属層に到達するように支持基板側から光を照射することにより、犠牲樹脂層の界面のポリイミドに熱分解が生じて、支持基板と犠牲樹脂層が剥離すること」は、当業者にとって周知技術であるから(前記周知技術1を参照)、引用発明の「剥離層200」をポリイミドの犠牲樹脂層として構成し、「ガラス基板100」と「剥離層200」(犠牲樹脂層)を介して「金属膜310」に到達するように「ガラス基板100」側から光を照射することにより、「剥離層200」(犠牲樹脂層)の界面のポリイミドに熱分解が生じて、「ガラス基板100」と「剥離層200」(犠牲樹脂層)が剥離するようにすることは、当業者にとって格別の困難性はない。
b その際、照射する光について、ポリイミドが吸収する波長帯のレーザー光を採用することは、当業者が適宜選択し得た設計事項にすぎない。
c また、引用発明の「金属膜310」の膜厚を適宜設定することにより、「剥離層200」(犠牲樹脂層)を透過した光を反射可能にできることは、当業者にとって自明である。
(イ) 相違点2について
a 引用発明は、「母体基板であるガラス基板上に剥離層、金属膜310、絶縁層320、半導体素子層330を含む多層の薄膜層を形成した後、多層の薄膜層上にフレキシブル基板340を取り付けて、剥離層と金属膜310との間の界面分離を行い、母体基板を取り除いて形成するフレキシブル電気素子を備えたフレキシブル表示装置の製造方法」であるから、「母体基板であるガラス基板」に反りがあると、その上に形成される「多層の薄膜層」や「フレキシブル基板340」の平坦性が失われ、最終製品である「フレキシブル電気素子」の特性に好ましくない影響を与えてしまうことは明らかであるから、引用発明の「母体基板100」についても、できる限り反りが発生しないようにすべきことは当然の要請である。
したがって、引用発明においても、「剥離層200」及び「金属膜310」が形成された「母体基板100」の反り量が0.3mm以下であるように構成することは、当業者ならば当然の設計事項であるというべきであって、前記相違点2に係る「前記表示装置形成用基板の反り量が0.3mm以下であ[る]」という構成は、格別のものではない。
b(a) 一般に、多層膜から構成されるものにおいて、熱過程における膨張や応力に起因する反りの点を考慮すべきことは、自明の設計指針にすぎず、また、例えば、引用文献12の段落【0116】~【0119】の記載(前記(2)エ(ア)b参照)からも裏付けられるように、引用発明の「母体基板100」上に形成された「剥離層、金属膜310、絶縁層320、半導体素子層330を含む多層の薄膜層」からの応力が主要な原因となって引用発明の「母体基板100」に反りが生じるおそれがあり、これを防止すべきことは、当業者には自明の課題ないし自明の設計指針である。
(b) そして、「応力緩和層を金属材料から構成すること」は、当業者にとって周知技術である(前記周知技術2を参照)。
(c) したがって、引用発明の「金属膜310」に応力緩和の機能を持たせることにより、引用発明の「母体基板100」に反りが生じてしまうことのないように「金属膜310」の材料を選択することは、当業者にとっては、適宜なすべき設計上の事項にすぎない。
c その際、「β系チタン(Ti)合金は、約20乃至60GPaという極めて小さい縦弾性係数(ヤング率)を有すること」は、当業者にとって技術常識であるから(前記技術常識2を参照)、応力緩和機能を発揮させるための材料として好適なものである。
d よって、引用発明において、「金属膜310」の材料を「チタン合金」として、応力緩和機能を有するように構成することは、技術常識2をわきまえた当業者にとってみれば、自明な材料選択にすぎない。
(ウ) 相違点3について
「可撓性基板に有機EL素子などの機能素子を転置するために用いられる、剥離層を有するガラス基板などの作製基板において、剥離層の周縁部が、作製基板の周縁部よりも内側に引っ込んでいること」は、当業者にとって周知の構造であるから(前記周知技術3を参照)、引用発明の「母体基板100上に形成された剥離層200」について、前記周知技術3を適用することにより、「剥離層200」の周縁部が「母体基板100」の周縁部よりも内側に引っ込んでいるように構成することは、当業者が適宜選択し得る設計事項にすぎない。
その際、「剥離層200が形成された全体構造の上に」「形成」される「金属膜310」の周縁部についても、「剥離層200」の周縁部と同様に、「母体基板100」の周縁部よりも内側に引っ込んでいるように構成することは、ごく自然なことであり、当業者にとって自明のことにすぎない。
(エ) 総合評価
前記(ア)から(ウ)までの前記相違点1~3に係る検討を総合してみても、引用発明において、前記相違点1~3に係る本件補正発明1の構成を備えるようにすることは、当業者が容易に想到し得たことである。
また、本件補正発明1の奏する効果としては、当該構成のものとして当業者が予測困難であり、かつ、格別顕著な効果を認めることはできない。
したがって、本件補正発明1は、引用発明、周知技術1~3及び技術常識1、2に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。
(4) 本件補正発明3についての対比・判断
ア 対比
前記(3)において検討した、本件補正発明1と引用発明の対比結果を踏まえて、本件補正発明3と引用発明を対比すると、本件補正発明3と引用発明は、前記相違点1~3に加えて、次の相違点4において相違し、その余の点において一致する。
<相違点4>
本件補正発明3においては、
「前記金属層は、電磁波遮蔽機能を有し、前記金属層は、面抵抗率が1Ω/□以上3000Ω/□以下である」のに対して、
引用発明においては、
「金属膜310」が、電磁波遮蔽機能を有することは明示されておらず、面抵抗率についても限定されていない点。
イ 判断
前記相違点1~3については、前記(3)において検討したとおりである。 次に、相違点4について検討する。
(ア) 「金属層が電磁波遮蔽機能を有すること」は、当業者にとって、技術常識であるから(前記技術常識1を参照)、引用発明において、前記相違点2に係る「金属膜310」の材料として「チタン合金」(β系チタン(Ti)合金)を選択した場合、「チタン合金」(β系チタン(Ti)合金)が、応力緩和機能のみならず、電磁波遮蔽機能を有することは、当業者にとって自明である。
(イ) ここで、「β系チタン(Ti)合金は、室温において、約120μΩ・cmの電気抵抗率を有すること」は、当業者にとって技術常識であるから(前記技術常識2を参照)、引用発明の「金属膜310」の厚みを1μmとすると(引用文献1の【0033】を参照)、「金属膜310」の面抵抗率は約120μΩ・cm/1μm=約1.2Ω/□となるから、本件補正発明3の「前記金属層は、面抵抗率が1Ω/□以上3000Ω/□以下である」との要件も満たされることになる。
(ウ) そして、前記相違点1~4に係る検討を総合してみても、引用発明において、前記相違点1~4に係る本件補正発明3の構成を備えるようにすることは、当業者が容易に想到し得たことである。
また、本件補正発明3の奏する効果としては、当該構成のものとして当業者が予測困難であり、かつ、格別顕著な効果を認めることはできない。
したがって、本件補正発明3は、引用発明、周知技術1~3及び技術常識1、2に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。
(5) 請求人の主張について
ア 審判請求書の主張内容
請求人の主張は、概略次のとおりである。
本件補正発明1は、とりわけ主要な構成として、
「剥離層の周縁部および金属層の周縁部が、ガラス基材の周縁部よりも内側に引っ込んでいること」を特徴とするものであるが、引用文献2、5、6にはかかる構成が開示されていない。
前記特徴により、剥離層の平面形状及び金属層の平面形状が、全周にわたってガラス基材の平面形状より小さくなる(段落[0039]参照)。言い換えると、ガラス基材上に、剥離層および金属層が積層されていない部分が存在するようになる。
このように、ガラス基材上に剥離層及び金属層が積層されていない部分が存在するようになるため、ガラス基材の全面に剥離層及び金属層が積層されている場合と比較して、金属層からガラス基材を剥離しやすくできる。
また、前記特徴により、表示装置の製造工程中(図4(a)-(e))、各層間に薬液が浸透したり各層が熱収縮したりすることにより、ガラス基材から剥離層または金属層が剥離するきっかけとなる部分が生じたとしても、この部分が中間体の周縁部に露出しないようにすることができ、これにより、剥離層または金属層がガラス基材から不用意に剥離してしまうことを抑制することができる。
イ 請求人の主張に対する当審の判断
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請求人の主張は、前記相違点3に係る構成についてのものであるところ、前記(3)イ(ウ)において説示したとおり、「可撓性基板に有機EL素子などの機能素子を転置するために用いられる、剥離層を有するガラス基板などの作製基板において、剥離層の周縁部が、作製基板の周縁部よりも内側に引っ込んでいること」は、当業者にとって周知の構造であるから(前記周知技術3を参照)、引用発明において、「剥離層200」の周縁部が「母体基板100」の周縁部よりも内側に引っ込んでいるように構成することは、当業者にとっては格別困難なものではなく、適宜選択できる設計事項にすぎず、また、その際、「金属膜310」の周縁部についても、「母体基板100」の周縁部よりも内側に引っ込んでいるように構成することは、ごく自然のことであり、当業者にとって自明のことにすぎない。
また、請求人の主張する効果について検討しても、当該構成のものとして当業者が予測困難であり、かつ、格別顕著な効果を認めることはできない。
(6) 小括
以上検討のとおり、本件補正発明1及び本件補正発明3は、いずれも特許法29条2項の規定により特許出願の際独立して特許を受けることができない。
よって、本件補正は、同法17条の2第6項において準用する同法126条7項の規定に違反するから、同法159条1項において読み替えて準用する同法53条1項の規定により却下すべきものである。
したがって、前記補正の却下の決定の結論のとおり決定する。
第3 本願発明について
1 本願発明について
本件補正は、前記第2のとおり却下されたので、本願の請求項1~9に係る発明は、令和3年11月15日に提出された手続補正書により補正された特許請求の範囲の請求項1~9に記載された事項により特定されるとおりのものであると認められるところ、そのうち、請求項1及び請求項3に係る発明(以下、それぞれ「本願発明1」及び「本願発明3」という。)は前記第2の1(1)に摘記した事項により特定されるとおりである。
2 拒絶の理由の概要
原査定の拒絶の理由のうち、本願発明1及び本願発明3についての進歩性欠如の理由は、次のとおりである。
本願発明1、3は、下記の引用文献2に記載された発明及び周知技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法29条2項の規定により特許を受けることができない。
記
3 引用文献に記載された事項
前記引用文献2には、第2の3(2)ア(イ)において認定したとおりの引用発明が記載されていると認められる。
また、周知技術1~3は、前記第2の3(2)イ(イ)、ウ(ウ)、エ(エ)において認定したとおりである。
さらに、技術常識1、2は、前記第2の3(2)イ(ウ)、ウ(エ)において認定したとおりである。
4 対比・判断
(1) 本願発明1は、本件補正発明1における「前記剥離層の周縁部および前記金属層の周縁部は、前記ガラス基材の周縁部よりも内側に引っ込んでいること」の限定を省いたものである(前記第2の2(1)参照)。
本願発明3についても、本件補正発明3における上記限定を省いたものである。
(2) そうすると、本願発明1の発明特定事項を全て含み、さらに他の事項を付加したものに相当する本件補正発明1が、前記第2の3(3)に示したとおり、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、本願発明1も、引用発明、周知技術1、2及び技術常識1、2に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。
本願発明3についても、同様である。
第4 むすび
以上検討のとおりであるから、本願発明1及び本願発明3は、いずれも特許法29条2項の規定により、特許を受けることができない。
したがって、他の請求項に係る発明について検討するまでもなく、本願は拒絶すべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
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2022-009533